(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】アミノ酸定量方法及びアミノ酸定量用キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20221209BHJP
C12Q 1/25 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/25 ZNA
(21)【出願番号】P 2019544509
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2018033156
(87)【国際公開番号】W WO2019065156
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017187385
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510108951
【氏名又は名称】公立大学法人広島市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100216286
【氏名又は名称】篠崎 史典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中柄 朋子
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀之
(72)【発明者】
【氏名】喜田 幹子
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌二
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 章光
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-166709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0164264(US,A1)
【文献】KUGIMIYA, A ET AL.,Flow analysis of amino acids by using a newly developed aminoacyl-tRNA synthetase-immobilized, small reactor column-based assay,APPLIED BIOCHEMISTRY AND BIOTECHNOLOGY,2015年11月10日,vol. 178,924 - 931
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
C12Q 1/25
G01N 33/00-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程I-1)二価イオン又はポリアミンの存在下、試料中のL体及び/又はD体のアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)、該AAに対応するアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)、及び、アデノシン三リン酸(ATP)を反応させて、アミノアシルアデニル酸(アミノアシルAMP)とAARSから成る複合体(アミノアシルAMP-AARS複合体)を形成させる反応(反応1)を含む工程;
(工程I-2)反応1又は反応3で形成されたアミノアシルAMP-AARS複合体にアミノ酸再生試薬が作用して、該複合体からAARS及びアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)が遊離する反応(反応2)を含む工程;
(工程I-3)反応2で遊離されたアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)及び/又はAARSを反応1において再利用することによってアミノアシルAMP-AARS複合体反応を形成させる反応(反応3)を含む工程;及び、
(工程I-4)工程I-2及び工程I-3を繰り返す工程、並びに、
工程(I)で生じた反応産生物の量を測定し、該反応産生物の測定量に基づきL体及び/又はD体のアミノ酸の量を決定することを含む工程(II)を含み、
工程(I)の反応液中のAARS濃度が5.3μM以上であるアミノ酸定量方法であって、
工程(I)の反応液中に
グリセロール、エチレングリコールおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種の極性溶媒を添加することを特徴とするアミノ酸定量方法。
【請求項2】
AARS濃度が5.3μM~70μMの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項3】
工程(I)で用いるアミノ酸再生試薬が、ヌクレオチド及び/又はアルカリ性化合物であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項4】
試料中のアミノ酸の濃度が300μM~1,000μMの範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項5】
工程(I)で生じた反応産生物のモル数が試料中のアミノ酸のモル数より多いことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法を実施するためのアミノ酸定量用キットであって、ATP、ヌクレオチド、二価イオン、該アミノ酸に対応するAARS及び/又は極性溶媒を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸定量方法及びアミノ酸定量用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸(L-AA)は、生体内のタンパク質の構成成分として重要な役割を担っており、その種類は20種類である。L-アミノ酸の機能性に関し多くの研究がなされ、L-アミノ酸は、医薬品、加工食品、健康食品など様々な産業で使用されている。例えば、食品中の遊離のL-アミノ酸は、味、加熱後の香り、保存性、摂取後の生体調節機能等に関係しており、食品科学や栄養科学分野における重要な要素として注目されている。また、近年、疾病により血液中のL-アミノ酸濃度が変化することが見いだされ、血液中のアミノ酸濃度を測定することで、肺がん、胃がん、大腸がんなどのがん診断を可能とするバイオマーカーとしても活用されている。
【0003】
また、アミノ酸には、L-アミノ酸の光学異性体であるD-アミノ酸(D-AA)が存在し、その種類は19種類である。D-アミノ酸は、生体内に存在するも、その生理機能が明確に分かっていなかった。しかし、近年、分析技術の進展により、D-アミノ酸が分析可能となり、例えば、D-セリンが、アルツハイマー患者の脳脊髄中で多くなっている、D-アスパラギン酸が、肌の老化と共に減少する、D-アラニンが、カニ、エビの甘味に関与していることなどが分かり、D-アミノ酸の生理機能が注目されている。その為、L体やD体のアミノ酸定量技術は、アミノ酸を使用する製品開発、品質管理、診断などの様々な分野で必要不可欠な技術となっている。
【0004】
L-アミノ酸のアミノ酸定量技術として、アミノ酸を液体クロマトグラフィーで分離し、ニンヒドリンや蛍光誘導体化剤オルトフタルアルデヒドによる呈色反応で検出する方法が知られている。また、D-アミノ酸のアミノ酸定量技術として、D-アミノ酸を蛍光誘導体化剤オルトフタルアルデヒドとキラル誘導体化剤Nアシル-L-システインを加えてジアステレオマー蛍光誘導化し、液体クロマトグラフィーで分析するジアステレオマー法や2次元液体クロマトグラフィー法が知られている(非特許文献1)。しかし、該方法は、1検体の分析時間が2時間程度必要なため分析時間がかかり、多数の検体を測定するには不向きであるという問題点があった。
【0005】
別のアミノ酸定量技術として、L-アミノ酸やD-アミノ酸に作用する酵素を利用するアミノ酸の測定方法が知られている(特許文献1)。しかし、該方法は目的基質とするアミノ酸に対する選択性が低く、目的以外のアミノ酸にも反応する、また、20種類(D-アミノ酸の場合、19種類)のアミノ酸に対応する酵素がないという問題点があった。
【0006】
アミノアシルtRNA合成酵素(AARS)は、生体内のタンパク質合成に係る酵素であり、以下の反応式1及び2に従って、アミノアシルtRNAを産生する。20種類のL-アミノ酸(L-AA)に対し特異的な20種類のAARSが存在する。その為、標的とするアミノ酸及びtRNAに対する選択性が極めて高い酵素であるとされている。
【化1】
【0007】
当該反応では、ピロリン酸(PPi)が産生されると共に、AARSにアデノシン三リン酸(ATP)、L-アミノ酸(L-AA)が1分子ずつ作用することで、アミノアシルアデニル酸(アミノアシルAMP)-AARS複合体という反応中間体を形成する。該複合体に於いて、アミノアシルAMPは、通常、AARSに強く結合しているため、tRNA又は求核剤(アミン類)を加えて複合体を分解しない限り上記のAARS反応は進まないとされている(特許文献2、非特許文献2~3)。また、当該反応の反応式1において、多量のピロリン酸が産生された場合、反応式1の逆反応であるアミノアシルAMP-AARS複合体がピロリン酸により分解され、アミノ酸、AARS及びATPが産生されるATP-PPi交換反応が生じることが知られている(非特許文献4)。
【0008】
このようなAARSが関与する反応(AARS反応)を利用したL-アミノ酸の定量技術がこれまで開発されてきた。例えば、以下の反応式3で示される反応に基づくアミノ酸の分析方法が特許文献3に記載されている。
【化2】
【0009】
該方法に於いては、AARSがATP及びL-アミノ酸と結合する際に生じるピロリン酸を指標とすることによりL-アミノ酸を分析する。しかしながら、反応式3からも分かるように、当該方法ではAARSが1分子のL-アミノ酸とATPと反応し、1分子のアミノアシルAMPを産生するため、試料中のL-アミノ酸と同量かそれ以下のピロリン酸しか産生されない(非特許文献5、6、7)。
【0010】
更に、反応式3では、AARSが触媒として機能してATP、L-アミノ酸が1分子ずつ反応することでアミノアシルAMPとピロリン酸が産生されるように表記されているが、特許文献3に記載の反応系にはtRNAが含まれていないので反応式2が進行せず、実際には、反応式1によってアミノアシルAMP-AARS複合体が形成されているものと考えられる(特許文献2、段落番号0013~0016)。その結果、1分子のAARSから1分子のピロリン酸しか産生されないと考えられる。従って、ピロリン酸を測定することで試料中に含まれるL-アミノ酸の定量を可能とするには多量のAARSが必要とされることが、特許文献2の上記箇所に加えて、特許文献3の発明者自身によっても認められている(特許文献3の段落番号0046、非特許文献5)。
【0011】
以上の結果、L-アミノ酸に対して産生されるピロリン酸の量が少ないため、該方法のアミノ酸の定量範囲は、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)法では300μM~900μMとアミノ酸の高濃度領域で定量可能であり、また、アミノ酸低濃度領域の測定では、多段階酵素反応を用いた蛍光法による高感度分析を行うことによって、1μM~250μMの範囲での定量が可能となっている(非特許文献6、7、8)。しかしながら、高感度分析はコストがかかる上に、ピロリン酸を多段階の酵素反応により検出しているため、煩雑であるとともに、血中の夾雑物やその他の外部要因により各酵素が影響を受けやすいことが懸念される。
【0012】
更に、反応式1と2のAARS反応に基づくL-アミノ酸の定量方法が上記の特許文献2に記載されている。即ち、前述の通りアミノアシルAMPは、通常、AARSに強く結合してアミノアシルAMP-AARS複合体を形成している。そこで、この方法では、アミノアシルAMP-AARS複合体分解試薬としてヒドロキシルアミンなどのアミン類(求核剤)を添加することで、AARSを再び反応可能な状態とし、その結果、少量のAARSでL-アミノ酸を定量することを特徴とする。該方法のアミノ酸の定量範囲は、5μM~200μMであるとされている。しかしながら、特許文献2に記載の方法は、該複合体分解試薬が複合体のL-アミノ酸と反応して化合物が産生される(例えば、特許文献2の段落番号0037に示されるように、該複合体分解試薬としてヒドロキシルアミンを使用した場合は、「アミノ酸ヒドロキサム酸」が産生される)ため、L-アミノ酸は再利用することが出来ず、その結果、試料中のL-アミノ酸と同等量の産生物であるピロリン酸しか得られない(特許文献2の段落番号0023)。さらに該方法は、AARS反応で生じたピロリン酸を多段階の酵素反応により検出しているため、煩雑であるとともに、血中の夾雑物やその他の外部要因により各酵素が影響を受けやすいことが懸念される。
【0013】
一方、別のAARS反応としては、例えば、以下の反応式4と5の反応が知られている。当該反応では、AARSにATP及びL-アミノ酸が1分子ずつ作用することで、アミノアシルAMP-AARS複合体を形成する。次いで該複合体にATP、GTP等を作用させることによって、医薬品や医薬品原料として期待されているジアデノシン四リン酸(Ap4A)等のジアデノシンポリリン酸(ApnA)及びアデノシングアノシンテトラリン酸(Ap4G)等が合成・製造されている(特許文献4、特許文献5、非特許文献9、非特許文献10)。
【化3】
【0014】
これら公知文献には、AARSの種類によってApnAの合成能は異なり、例えば、Escherichia属のトリプトファンやアルギニンのAARSでは、反応式5の反応が進まずAp4Aが合成されないことが記載されている。また、当該反応の反応式4は、ピロリン酸の存在下では逆反応が促進され、アミノアシルAMP-AARS複合体からアミノ酸、AARS及びATPが産生される。その為、当該反応を進めるためには、逆反応を生じなくさせる必要があり、上記の公知文献に記載の技術では、反応式4で産生されるピロリン酸を分解するため、ピロリン酸を分解する無機ピロホスファターゼが使用されている。更に、これら公知文献に記載された技術は、あくまで、ApnA及びAp4G等の合成・製造に関するものであって、アミノ酸の定量に関する技術的課題を解決することを目的とするものではない。実際に、これら公知文献には、上記の反応式4と5のAARS反応を活用したアミノ酸の定量については何ら言及されておらず、反応式5に於いて生じるアミノ酸及びAARSの再利用に関しても一切触れられていない。
【0015】
AARSは、20種類のL-アミノ酸に対し特異的な20種類のAARSが存在することが知られている。このAARSが、D-アミノ酸に対し作用することは一部のAARSに関し報告されている(非特許文献11)。しかし、該文献は、AARSがD-アミノ酸に作用し、tRNAに受け渡すことに関するものであって、D-アミノ酸の定量に関する技術的課題を解決することを目的とするものではない。実際に、該文献には、上記の反応式4と5のAARS反応を活用したD-アミノ酸の定量については何ら言及されておらず、反応式5に於いて生じるD-アミノ酸及びAARSの再利用に関しても一切触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2013-146264号公報
【文献】特許5305208号明細書
【文献】特開2011-50357号公報
【文献】特開2000-69990号公報
【文献】特許3135649号明細書
【非特許文献】
【0017】
【文献】“化学と生物”、(日本)、2015年、Vol.53、p.192-197
【文献】“ヴォート 生化学(下)”、(日本)、第3版、1024-1029
【文献】J.Biol.Chem., 241, 839-845, 1966
【文献】“日本結晶学会誌”、(日本)、2010年、Vol.52、p.125-132
【文献】“広島市立大学情報科学研究科創造科学専攻 釘宮章光”[online]、 広島市立大ホームページ、[2016/01/13検索]、インターネット(URL:http://rsw.office.hiroshima-cu.ac.jp/Profiles/2/000129/profile.html)
【文献】Analytical Biochem., 443, 22-26, 2013
【文献】Appl. Biochem. Biotechnol., 174, 2527-2536, 2014
【文献】J.Chem.Chem.Eng.6,397-400,2012
【文献】“東京医科大学雑誌”、(日本)、1993年、Vol.51、p.469-480
【文献】Agric. Biol. Chem., 53, 615-623, 1989
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, 1040-1041, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記のL体及びD体のアミノ酸定量法に関する従来技術に於ける様々な問題点を解決し、AARSを用いて、測定対象のL体及び/又はD体のアミノ酸を、選択的且つ簡便、短時間及び高感度で、広範囲なアミノ酸濃度範囲で定量することが出来る方法、及びアミノ酸定量用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らは、種々の検討を行った結果、AARSを用いて試料中のアミノ酸量を定量する方法に於いて、
図1に示すように、一度形成させたアミノアシルAMP-AARS複合体からAARS及びアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)を遊離させ、それらを再度、アミノアシルAMP-AARS複合体の形成に利用することによって、最終的に、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物が、試料中に含まれるアミノ酸より多くのモル数まで産生され得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明は、以下の[1]~[7]の態様に関する。
[1](工程I-1)二価イオン又はポリアミンの存在下、試料中のL体及び/又はD体のアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)、該AAに対応するアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)、及び、アデノシン三リン酸(ATP)を反応させて、アミノアシルアデニル酸(アミノアシルAMP)とAARSから成る複合体(アミノアシルAMP-AARS複合体)を形成させる反応(反応1)を含む工程;
(工程I-2)反応1又は反応3で形成されたアミノアシルAMP-AARS複合体にアミノ酸再生試薬が作用して、該複合体からAARS及びアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)が遊離する反応(反応2)を含む工程;
(工程I-3)反応2で遊離されたアミノ酸(L-AA及び/又はD-AA)及び/又はAARSを反応1において再利用することによってアミノアシルAMP-AARS複合体反応を形成させる反応(反応3)を含む工程;及び、
(工程I-4)工程I-2及び工程I-3を繰り返す工程、並びに、
工程(I)で生じた反応産生物の量を測定し、該反応産生物の測定量に基づきL体及び/又はD体のアミノ酸の量を決定することを含む工程(II)を含む、試料中のアミノ酸定量方法であって、
工程(I)の反応液中のAARS濃度が5.3μM以上であることを特徴とする、前記アミノ酸定量方法。
[2]AARS濃度が5.3μM~70μMの範囲であることを特徴とする、[1]に記載のアミノ酸定量方法。
[3]工程(I)で用いるアミノ酸再生試薬が、ヌクレオチド及び/又はアルカリ性化合物であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のアミノ酸定量方法。
[4]工程(I)の反応液中に極性溶媒を添加することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
[5]試料中のアミノ酸の濃度が300μM~1,000μMの範囲である、[1]~[4]のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
[6]工程(I)で生じた反応産生物のモル数が試料中のアミノ酸のモル数より多いことを特徴とする、[1]~[5]のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載のアミノ酸定量方法を実施するためのアミノ酸定量用キットであって、ATP、ヌクレオチド、二価イオン、該アミノ酸に対応するAARS及び/又は極性溶媒を含む、前記キット。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るアミノ酸定量方法に於いては、形成されたアミノアシルAMP-AARS複合体からAARS及びアミノ酸(L体及び/又はD体のアミノ酸)を遊離させ、それらをアミノアシルAMP-AARS複合体の形成に繰り返し利用することによって、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、試料中に含まれるアミノ酸より多くのモル数まで産生させることができる。その結果、従来技術に比べてより簡便な手段でこれら反応産生物を測定する場合であっても、短時間且つ、従来技術の多段階酵素反応を用いた蛍光法などによる高感度分析のアミノ酸定量法のアミノ酸定量範囲以上の広い範囲での定量が可能となる。
【0022】
従って、本発明によって、AARSを用いた、測定対象のアミノ酸を選択的且つ簡便、短時間、高感度、例えば、300μM~1,000μMのような高濃度の範囲を含む、広範囲なアミノ酸定量範囲を可能とする定量方法及びアミノ酸定量用キットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2-1】本発明とAARS低濃度条件でのL-アミノ酸を用いたAARS反応におけるピロリン酸産生量の比較を示す図である。
【
図3-1】モリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるL-アミノ酸での検量線を示す図である。
【
図4】極性溶媒添加と非添加におけるAARS反応におけるピロリン酸産生量の比較を示す図である。
【
図5】本発明とAARS低濃度条件でのD-アミノ酸を用いたAARS反応におけるピロリン酸産生量の比較を示す図である。
【
図6】モリブデンブルー法によるピロリン酸測定におけるD-アミノ酸での検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明方法の反応1及び反応3では、アミノ酸、該アミノ酸に対応するAARS、及びATPを反応させて、アミノアシルAMP-AARS複合体を形成させる。本発明方法に使用するAARSは、20種類のアミノ酸に対し特異的に作用するAARSを用いる。例えば、ヒスチジン(His)であれば、ヒスチジンに特異的に作用するAARS(HisRS)、セリン(Ser)であれば、セリンに特異的に作用するAARS(SerRS)、トリプトファン(Trp)であれば、トリプトファンに特異的に作用するAARS(TrpRS)などが挙げられる。また、本発明に使用するAARSは、ウシ、ラット、マウスなどの動物由来、Lupin Seed、Phaseolus aurusなどの植物由来、Escherichia属、Thermus属(好熱菌)及びThermotoga属(好熱菌)、Saccharomyces属などの微生物由来など、生物由来のAARSであれば、いずれのAARSでも良く、特に取扱及び生産性の面の観点から、微生物由来のAARSが好ましい。また、組換え型AARSでも良く、合成したAARSでも良い。可溶性酵素が好ましいが、不溶性酵素に界面活性剤を組み合わせても良く、可溶化タンパクとの融合又は膜結合部分の削除等により不溶性酵素を可溶化させた酵素でも良い。AARSの公知のアミノ酸配列を利用でき、組換え型のAARSは、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%以上の同一性を有する配列を有し、AARS活性を有する蛋白質を使用しても良い。
【0025】
本発明に使用するAARSの調製方法としては、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、AARSを含む対象物に加水し、粉砕機、超音波破砕機などで粉砕後、破砕した破砕物を遠心分離、濾過などで固形物を取り除いた抽出物、さらに当該抽出物をカラムクロマトグラフィーなどにより精製、単離したAARSなどを用いることができる。即ち、本発明の主な技術的特徴は、AARSを用いるアミノ酸定量方法に於いて、形成されたアミノアシルAMP-AARS複合体中からAARS及びアミノ酸を遊離させて、それらをアミノアシルAMP-AARS複合体の形成に繰り返し利用することによって、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、試料中に含まれるアミノ酸より多くのモル数まで産生させることであり、AARSの調製方法は何ら限定されるものではない。
【0026】
本発明に使用する試料に特に制限はなく、例えば、血液、生鮮食品、加工食品及び飲料などがあげられる。各試料中のアミノ酸濃度は、各アミノ酸により異なる。例えば、血液中のアミノ酸濃度は、グルタミン酸は、11~44nmol/mL、メチオニンは、19~33nmol/mL、トリプトファンは、41~66nmol/mL、チロシンは、50~83nmol/mL、セリンは、92~162nmol/mL、ヒスチジンは、68~97nmol/mL、リジンは、119~257nmol/mL、グルタミンは、488~733nmol/mL、アラニンは、240~510nmol/mLなどである。生鮮食品中の遊離アミノ酸含量は、例えば、ニンニクでは、リジンは、5mg/100g、アルギニンは、136mg/100g、セリンは、6mg/100gなどである。トマトでは、グルタミンは、94mg/100g、プロリンは、106mg/100gなどである。乾燥シイタケでは、グルタミン酸は、386mg/100g、スレオニンは、268mg/100g、セリンは、46mg/100gなどである。また、果物のL体とD体のアミノ酸含量は、リンゴでは、L体のアスパラギンは、2,071μmoL/L、D体のアスパラギンは、15μmoL/L、L体のアラニンは、105μmoL/L、D体のアラニンは、3μmoL/L、パイナップルでは、L体のアスパラギンは、3,109μmoL/L、D体のアスパラギンは、25μmoL/L、L体のバリンは、202μmoL/L、D体のバリンは、2μmoL/Lなどである。加工食品や飲料中の遊離アミノ酸含量は、例えば、醤油では、リジンは、213mg/100g、ヒスチジンは、104mg/100g、グルタミン酸は、782mg/100gなどである。煎茶では、セリンは、107mg/100g、アルギニンは、314mg/100g、グルタミン酸は、258mg/100gなどである。コーヒー生豆ロブスタ種の完熟では、リジンは、10mg/100g、ヒスチジンは、48mg/100g、セリンは、43mg/100gなどである。これら各試料中の予想されるアミノ酸濃度によって、適宜、希釈調製し、本発明の試料として使用できる。
【0027】
本発明に使用する試料中のアミノ酸には、L体及びD体が混在してもよい。そのような場合には、例えば、本発明方法における前処理として、L体又はD体のアミノ酸の何れか一方を除去するのが好ましい。L体又はD体の何れか一方を除去する方法として、カラムクロマトグラフィー又は適当な酵素によるL体又はD体のアミノ酸の何れか一方を除去する等、当業者に公知の任意の方法が挙げられる。尚、生体試料には、L体及びD体が混在するが、哺乳類体内中の殆どのD体アミノ酸は、L体アミノ酸の0.1~1.0%程度、果物では、D体アミノ酸は、L体アミノ酸の3.0%以下であり、生体試料中のD体アミノ酸含量は、L体アミノ酸の定量に影響を与えるほど含有していない。
【0028】
本発明方法の工程(I)の当該反応に使用される反応液中のAARS濃度は5.3μM以上であることを特徴とし、試料の種類、推定される試料中のアミノ酸濃度、ATP濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば、Escherichia属、Thermus属、Thermotoga属などの微生物由来のAARSの濃度は、好ましくは7.0μM以上、より好ましくは10.0μM以上、さらに好ましくは15.0μM以上、特に好ましくは50.0μM以上、最も好ましくは70.0μM以上とすることができる。本発明方法では、AARSを繰り返し使用されるので、AARS濃度の上限は、経済性なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。従って、反応液中のAARS濃度は、例えば、5.3μM~70μMの範囲とすることが出来る。
【0029】
本発明方法の反応1又は反応3ではAARSと共にATP、二価イオンを用いる。本発明に使用するATPは、ナトリウム塩、リチウム塩などが使用できる。当該反応に使用される反応液中のATPの濃度は、試料の種類、予想される試料中のアミノ酸濃度、AARS濃度、ヌクレオチド濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められるが、予想される試料中のアミノ酸濃度に対して過剰となるように添加するのが好ましい。例えば試料が血液の場合、ATP濃度は、好ましくは25mM以上、より好ましくは50mM以上、更に好ましくは150mM以上、最も好ましくは250mM以上とすることができる。尚、ATP濃度の上限は、経済性及び反応系の平衡条件なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。
【0030】
本発明に使用する二価イオンは、マグネシウム、マンガン、コバルト、カルシウム、亜鉛などが使用できる。二価イオンは、AARSにより要求性が異なるため、使用するAARSに適した二価イオンを適宜使用すれば良いが、AARS共通に要求性のあるマグネシウムの使用がより好ましい。さらには二価イオンと同様な作用をするスペルミン、スペリミジン、プトレッシンなどのポリアミンも使用できる。当該反応に使用される反応液中の二価イオンの濃度は、適宜決められるが、ATP濃度に対して同等以上に添加するのが好ましい。例えば、Escherichia属、Thermus属、Thermotoga属などの微生物由来のAARSにおけるATP濃度:二価イオン濃度の比率は、少なくとも1:1以上、より好ましくは少なくとも1:3以上、さらに好ましくは少なくとも1:5以上、特に好ましくは少なくとも1:7以上、最も好ましくは少なくとも1:10以上とすることができる。
【0031】
続いて、本発明方法の反応2では、反応1及び反応3で形成させたアミノアシルAMP-AARS複合体に対しアミノ酸再生試薬が作用し、該複合体が分解されて該複合体からAARS及びアミノ酸が遊離する。当該反応のアミノ酸再生試薬としては、ATP、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン三リン酸(GTP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)などから任意に選択される一種又はそれらの組み合わせからなるヌクレオチドや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び緩衝剤などの水酸化物イオンを発生するアルカリ性化合物を使用できる。当該反応に使用される反応液中のアミノ酸再生試薬の濃度は、試料の種類、予想される試料中のアミノ酸濃度、AARS濃度、ATP濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められるが、反応1で使用するATPと当該反応に使用するヌクレオチドの総量は試料中のアミノ酸濃度に対して過剰に添加するのが好ましい。例えば試料が血液の場合、ヌクレオチド濃度は、好ましくは25mM以上、より好ましくは50mM以上、更に好ましくは150mM以上、最も好ましくは250mM以上とすることができる。ヌクレオチド濃度の上限は、経済性及び反応系の平衡条件なども考慮して当業者が適宜設定することが出来る。また、アルカリ性化合物は、反応の場(反応系)をpH7以上にできれば良い。例えば、Escherichia属、Thermus属及びThermotoga属のAARSの場合では、好ましくはpH7.0以上、より好ましくはpH7.5以上、さらに好ましくは、pH8.0以上とすることができる。尚、反応pHは、当業者に公知の任意の緩衝剤である、HEPESバッファー、CHESバッファー、CAPSバッファー、TRISバッファー、MOPSバッファーなどを使用して調整することが出来る。従って、本発明方法では、AARSを再び反応可能な状態とさせるために、特許文献2に記載されているようなアミン類等のアミノアシルAMP-AARS複合体分解試薬を添加する必要がなく、更に、遊離したアミノ酸が該試薬と反応することがないので、遊離したアミノ酸をアミノアシルAMP-AARS複合体の形成に再び利用することができる。
【0032】
本発明方法の反応3では、反応2で遊離したアミノ酸及び/又はAARSを反応1において再び使用することによってアミノアシルAMP-AARS複合体反応を形成させる。更に、本発明方法の工程(I)において、当業者に公知の任意の方法によって、反応1又は3で生じたピロリン酸及び反応系中のAMPにホスホエノールピルビン酸とピルビン酸ジキナーゼとを反応させることによって産生されるATPを、アミノアシルAMP-AARS複合体形成及び該複合体からのAARS及びアミノ酸の遊離に再利用すること、及び/又は、反応2でヌクレオチドから生成されるAp4Aに対しAp4Aピロホスホヒドラーゼを作用させることによって産生されるADPを、反応2におけるヌクレオチドとして再利用することもできる。
【0033】
例えば、反応2で作用するヌクレオチドとしてATPを選択し、更に、上記のような反応を利用してATPの再産生をしない場合には、本明細書の実施例に示されるように、工程(I)の反応系全体では、上記に示したATP及びヌクレオチドの夫々の濃度を合計したより高濃度のATPを添加することが好ましい。
【0034】
以上の結果、前述のアミノ酸再生試薬(ATPなどのヌクレオチド及び/又は、アルカリ性化合物)及び該アミノ酸に対応するAARSの組成等の反応条件において、工程(I)に於ける反応の結果、ピロリン酸及び/又は水素イオン等の夫々の反応産生物の各々について、試料中に含まれている測定対象のアミノ酸のモル数より多いモル数の分子が産生され得る。その結果、本発明方法では、簡便な測定方法を用いた場合でも従来技術より高濃度である1mM程度の極めて高いアミノ酸濃度まで定量可能となる。従って、この点は従来技術と比較して本発明の顕著な効果といえる。
【0035】
本発明方法の工程(I)における反応温度は、各反応が生じるような任意の温度で良い。例えば、Escherichia属のAARSの場合、好ましくは10~80℃、より好ましくは20~70℃、最も好ましくは30~60℃とすることが適している。Thermus属及びThermotoga属のAARSの場合では、好ましくは10~100℃、より好ましくは、30~98℃、最も好ましくは、50~95℃とすることが適している。また、当該反応時間も試料中のアミノ酸とAARS反応が生じるような任意の時間で良いが、好ましくは30秒以上、より好ましくは45秒以上、さらに好ましくは、1分以上、特に好ましくは5分以上、最も好ましくは10分以上であることが望ましい。
【0036】
更に、本発明方法の工程(I)の反応系に極性溶媒を添加する(共存させる)ことによって、更に、反応産生物の量を増加させることが出来る。極性溶媒としては、プロトン性極性溶媒であるグリセロール、エチレングリコールなど、非プロトン性極性溶媒であるジメチルスルホキシドなど当業者に公知の化合物が使用できる。当該反応に使用される反応液中の極性溶媒の濃度は、試料の種類、予想される試料中のアミノ酸濃度、AARS濃度、ヌクレオチド濃度、及び、反応時間・温度等の各種反応条件に応じて、当業者が適宜決められる。例えば試料が血液の場合、極性溶媒濃度は、好ましくは1~70重量%、より好ましくは、5~60重量%、最も好ましくは、10~50重量%とすることが適している。
【0037】
本発明方法の工程(I)に含まれる各工程で使用する試薬・酵素等の各反応成分は、AARS反応が生じる添加方法である限り、当業者に公知の任意の手段・手順等で反応系に添加することができる。例えば、各成分を反応開始前に一度に反応系に予め添加するか、又は、AARS又はアミノ酸を最後に添加し反応させても良い。
【0038】
本発明方法の工程(II)では、工程(I)で生じたピロリン酸及び水素イオン等の各反応産生物の夫々の量を測定し、該反応産生物の測定量に基づきアミノ酸の量を決定する。工程(II)は、測定方法等に応じて、工程(I)に於ける試料中のアミノ酸とAARSとの反応を、例えば、トリクロロ酢酸を反応系に添加する等の当業者に公知の任意の方法・手段で停止させた後、あるいは、工程(I)に於ける反応が進行中の任意の段階で適宜、実施することが出来る。
【0039】
本発明の工程(I)で生じたピロリン酸量の測定には、当業者に公知の任意の方法・手段、例えば、モリブデン酸とピロリン酸を反応させ産生した青色の錯体の吸光度を測定するモリブデンブルー法、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、キサンチンオキシダーゼ又はキサンチンデヒドロゲナーゼを組み合わせる方法、ルミノールと無機ピロホスファターゼ、ピルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼを組み合わせ産生物の発光を測定する方法などのピロリン酸を測定できる酵素法などが使用できる。また、酵素反応などで酸化還元反応を起こし、その酸化還元反応に由来する電流値を検出する多電極電位計測計により電位変化を測定する測定方法などを使用することができる。さらに、当該反応で産生された水素イオンの測定には、水素イオンを検出するガラス電極やイオン感応性電界効果トランジスタにより電位変化を測定する測定方法などを使用することができる。本発明の工程(I)で生じたピロリン酸、水素イオンなどは、反応溶液から分離し、測定することができる。反応溶液からのピロリン酸、水素イオンなどの分離方法としては、測定に影響の無い方法であれば特に限定されないが、例えば、酸処理による除タンパク質、ペーパークロマトグラフィー分離、マイクロ流体デバイスでの分離などが挙げられる。本発明の主な技術的特徴は、AARSを用いるアミノ酸定量方法に於いて、形成されたアミノアシルAMP-AARS複合体中からAARS及びアミノ酸を遊離させて、これら化合物を、再度、該複合体の形成に繰り返し利用することにより、測定対象であるピロリン酸等の反応産生物を、試料中に含まれるアミノ酸より多くのモル数まで産生させ、かつ1~1,000μMの低濃度から高濃度の広い範囲のアミノ酸を短時間に定量するものであり、反応産生物の量の測定方法は何ら限定されるものではない。
【0040】
本発明は、上記の本発明方法を実施するための、試料中のアミノ酸定量に必要な前述の各成分を含む、アミノ酸定量用キットを提供する。当該キットは、安定化剤又は緩衝剤等の当業者に公知の他の任意成分を適宜含有させ、前記酵素等試薬成分の安定性を高めても良い。測定に影響の無い成分であれば特に限定されないが、例えば、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン、糖類、糖アルコール類、カルボキシル基含有化合物、酸化防止剤、界面活性剤、又は酵素と作用性のないアミノ酸類等を例示できる。また、当該キットの一例として前述のピロリン酸や水素イオンを測定するためのキットを挙げることが出来る。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(大腸菌由来のAARSの調製)
大腸菌K12由来の変異株(NBRC3992)のAARS配列をもつプラスミド(pET28b)で大腸菌BL21(DE3)pLys株を形質転換し、発現株として用いた。各発現株について、選択マーカーとしてカナマイシン、クロラムフェニコールを含むTB培地で37℃培養し、OD600が約0.6に到達後、IPTGを終濃度1mMとなるように添加し、IPTGを添加して25℃で一晩誘導培養を行った。培養終了後、集菌を行い、得られた菌体を超音波破砕し、無細胞抽出液を調製した。さらに遠心分離を行い、得られた上清の一部を用いて電気泳動法により目的酵素の発現を確認した。次いで残りの上清をHisタグカラム(商品名:TALON superflow、GEヘルスケア製)により夾雑タンパクを除去することにより、TyrRS(配列番号1)、ValRS(配列番号2)、TrpRS(配列番号3)、IleRS(配列番号4)、及びLysRS(配列番号5)を得た。
【実施例2】
【0043】
(好熱菌由来のAARSの調製)
Thermotoga maritima MSB8(NBRC100826、JCM10099、ATCC43589、DSM3109)由来のAARS配列をもつプラスミド(pET28b)で大腸菌BL21(DE3)pLys株を形質転換し、発現株として用いた。各発現株について、選択マーカーとしてカナマイシン、クロラムフェニコールを含むTB培地で37℃培養し、OD600が約0.6に到達後、IPTGを終濃度1mMとなるように添加し、25℃で一晩誘導培養を行った。培養終了後、集菌を行い、得られた菌体を超音波破砕し、無細胞抽出液を調製した。調製した無細胞抽出液を70℃、15分の熱処理を行った後、遠心分離を行った。得られた上清の一部を用いて電気泳動法により目的酵素の発現を確認した。次いで 残りの上清をHisタグカラム(商品名:TALON superflow、GEヘルスケア製)により夾雑タンパクを除去することにより、HisRS(配列番号6)を得た。
【実施例3】
【0044】
(L-アミノ酸を用いたピロリン酸産生量の比較)
50mM CHES-KOH(pH9.5)、530mM ATP、1,060mM MgCl2、100μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5.3μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液、又は、50mM CHES-KOH(pH9.5)、424mM ATP、1,590mM MgCl2、100μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5.3μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品(本発明品)1及び2を調製した。
【0045】
(比較例1)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl2、100μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品1を調製した。
【実施例4】
【0046】
200mM HEPES-KOH(pH8.5)、25mM ATP、50mM CoCl2、100μM L-トリプトファン、70μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品3を調製した。
【0047】
(比較例2)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl2、100μM L-トリプトファン、5μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品2を調製した。
【実施例5】
【0048】
200mM HEPES-KOH(pH8.5)、75mM ATP、375mM MgCl2、100μM L-ヒスチジン、5.3μM HisRS(好熱菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、70℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品4を調製した。
【0049】
(比較例3)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl2、100μM L-ヒスチジン、5μM HisRS(好熱菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、70℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品3を調製した。
【実施例6】
【0050】
200mM HEPES-KOH(pH8)、100mM ATP、100mM CoCl2、100μM L-リジン、10μM LysRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品5を調製した。
【0051】
(比較例4)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、20mM ATP、200mM MgCl2、100μM L-リジン、5μM LysRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品4を調製した。
【実施例7】
【0052】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:ピロリン酸産生量の比較)
実施例3、4、5、6及び比較例1、2、3、4で調製した実施品1~5及び比較品1~4の反応溶液150μLに1Mメルカプトエタノール15μL、発色液(2.5%モリブデン酸アンモニウム/5N硫酸)60μLを混合し、室温で20分間静置した後、580nmの吸光度を測定した。なお、L-アミノ酸の代わりに水を添加したサンプルの吸光値を、ブランクとして各サンプルの吸光値から差し引いた値から、反応溶液中のピロリン酸量を求めた。その結果、
図2に示す通り、実施品1~5では比較品1~4(5μMのAARSを使用)の2倍以上、添加したアミノ酸が全て酵素反応に使用された場合に産生されるピロリン酸量の理論値の5倍以上のピロリン酸が産生されていた。従って、高濃度のAARS、及びそれに応じた高濃度のATP及び/又は二価イオンを使用する本発明の方法によれば、比較例に比べ、ピロリン酸産生量を著しく増幅できることが示された。
【実施例8】
【0053】
(反応時間の比較)
200mM CHES-KOH(pH9.5)、82.5mM ATP、385mM MgCl2、20μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5.5μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、3分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品6を調製した。
【0054】
(比較例5)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl2、20μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、10分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品5を調製した。
【実施例9】
【0055】
200mM HEPES-KOH(pH8.5)、100mM ATP、100mM CoCl2、50μM L-トリプトファン、5.5μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、2.5分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品7を調製した。
【0056】
(比較例6)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl2、50μM L-トリプトファン、5μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、12分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品6を調製した。
【実施例10】
【0057】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:反応時間の比較)
実施例8、9及び比較例5、6で調製した実施品6、7及び比較品5、6のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、表1及び表2に示す通り、実施品6、7は比較品5、6(5μMのAARSを使用)に比べ3分の1以下の短時間で同量のピロリン酸が産生された。従って、高濃度のAARS、及びそれに応じた高濃度のATP濃度及び/又は二価イオンを使用する本発明の方法によれば、比較例に比べ短時間でアミノ酸濃度の測定が可能であることが示された。
【0058】
【0059】
【実施例11】
【0060】
(L-アミノ酸を用いたアミノ酸の測定範囲の比較)
150mM CHES-KOH(pH9.5)、318mM ATP、1,060mM MgCl
2、0μM、100μM、300μM、600μM、800μMまたは1,000μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5.3μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(実施品8)。また、AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl
2、0μM、100μM、300μM、600μM、800μMまたは1,000μM L-チロシン二ナトリウム二水和物、5μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(比較品7)。その結果、
図3に示す通り、5μMのTyrRSしか使用しない比較品7の場合には、アミノ酸を高濃度まで測定すると相関係数Rが0.86に低下したが、5.3μMのTyrRSを使用し、それに応じてATP濃度及び二価イオン濃度を高めた本発明の方法では、広範囲のアミノ酸濃度範囲において、アミノ酸濃度とピロリン酸に相関関係(R=0.96)が認められた。
【実施例12】
【0061】
200mM HEPES-KOH(pH8.5)、25mM ATP、50mM CoCl
2、0μM、100μM、200μM、400μM、600μMまたは800μM L-トリプトファン、70μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(実施品9)。また、AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl
2、0μM、100μM、200μM、400μMまたは600μM L-トリプトファン、5μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(比較品8)。その結果、
図3に示す通り、5μMのTrpRSしか使用しない比較品8の場合には、アミノ酸を高濃度まで測定すると相関係数Rが0.91に低下したが、70μMのTrpRSを使用した本発明の方法は、広範囲のアミノ酸濃度範囲において、アミノ酸濃度とピロリン酸に相関関係(R=0.97)が認められた。
【実施例13】
【0062】
200mM HEPES-KOH(pH8.5)、75mM ATP、375mM MgCl
2、0μM、50μM、100μM、200μM、400μMまたは600μM L-ヒスチジン、15μM HisRS(好熱菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、70℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(実施品10)。また、AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、25mM ATP、250mM MgCl
2、0μM、50μM、100μM、200μM、400μM、または600μM L-ヒスチジン、5μM HisRS(好熱菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、70℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(比較品9)。その結果、
図3に示す通り、5μMのHisRSしか使用しない比較品9の場合には、アミノ酸を高濃度まで測定すると相関係数Rが0.81に低下したが、15μMのHisRSを使用した本発明の方法は、広範囲のアミノ酸濃度範囲において、アミノ酸濃度とピロリン酸に相関関係(R=0.96)が認められた。
【実施例14】
【0063】
200mM HEPES-KOH(pH8)、100mM ATP、100mM CoCl
2、0μM、50μM、100μM、200μM、400μMまたは600μM L-リジン、10μM LysRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(実施品11)。また、AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、20mM ATP、200mM MgCl
2、0μM、50μM、100μM、200μM、400μM、または600μM L-リジン、5μM LysRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した(比較品10)。その結果、
図3に示す通り、5μMのLysRSしか使用しない比較品10の場合には、アミノ酸を高濃度まで測定すると相関係数Rが0.89に低下したが、10μMのLysRSを使用した本発明の方法は、広範囲のアミノ酸濃度範囲において、アミノ酸濃度とピロリン酸に相関関係(R=0.97)が認められた。
【実施例15】
【0064】
(極性溶媒添加の影響)
100mM HEPES-KOH(pH7)、150mM ATP、150mM MgCl2、10mM ZnSO4、100μM L-バリン、10μM ValRS(大腸菌由来)を含む反応溶液(比較品11)、及び、100M HEPES-KOH(pH7)、150mM ATP、150mM MgCl2、10mM ZnSO4、100μM L-バリン、10μM ValRS(大腸菌由来)に更に、50% グリセロール、10% エチレングリコール、又は、10% ジメチルスルホキシドを含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品12~14を調製した。
【実施例16】
【0065】
100mM MOPS-KOH(pH6.5)、40mM ATP、40mM MnCl2、30μM L-イソロイシン、10μM IleRS(大腸菌由来)を含む反応溶液(比較品12)、及び、100mM MOPS-KOH(pH6.5)、40mM ATP、40mM MnCl2、30μM L-イソロイシン、10μM IleRS(大腸菌由来)に更に、60% グリセロール、30% エチレングリコール、又は、30% ジメチルスルホキシドを含む反応溶液を200μL調製し、60℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品15~17を調製した。
【実施例17】
【0066】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:極性溶媒添加の影響)
実施例15、16で調製した実施品12~17及び比較品11、12のピロリン酸を実施例7に記載のモリブデンブルー法により測定した。その結果、
図4に示す通り、極性溶媒を添加しない場合に比べ、極性溶媒を添加した場合、ピロリン酸生産量が増加していた。このことから、極性溶媒が、AARS反応でのピロリン酸産生量を増加させることが示された。
【実施例18】
【0067】
(D-アミノ酸を用いたピロリン酸産生量の比較)
200mM HEPES-KOH(pH8)、75mM ATP、500mM MgCl2、50μM D-チロシン、10μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品18を調製した。
【0068】
(比較例7)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、40mM ATP、40mM MnCl2、50μM D-チロシン、5μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品13を調製した。
【実施例19】
【0069】
200mM CHES-KOH(pH9.5)、50mM ATP、100mM CoCl2、50μM D-トリプトファン、10μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、実施品19を調製した。
【0070】
(比較例8)
AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、20mM ATP、20mM MnCl2、50μM D-トリプトファン、5μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、比較品14を調製した。
【実施例20】
【0071】
(モリブデンブルー法によるピロリン酸の測定:ピロリン酸産生量の比較)
実施例18、19及び比較例7、8で調製した実施品18、19及び比較品13、14の反応溶液150μLに1Mメルカプトエタノール15μL、発色液(2.5%モリブデン酸アンモニウム/5N硫酸)60μLを混合し、室温で20分間静置した後、580nmの吸光度を測定した。なお、D-アミノ酸の代わりに水を添加したサンプルの吸光値を、ブランクとして各サンプルの吸光値から差し引いた値から、反応溶液中のピロリン酸量を求めた。その結果、
図5に示す通り、実施品18、19では比較品13、14(5μMのAARSを使用)の約3倍以上、添加したアミノ酸が全て酵素反応に使用された場合に産生されるピロリン酸量の理論値の5倍以上のピロリン酸が産生されていた。従って、高濃度のAARS、及びそれに応じた高濃度のATP及び/又は二価イオンを使用する本発明の方法によれば、比較例に比べ、ピロリン酸産生量を著しく増幅できることが示された。
【実施例21】
【0072】
(D-アミノ酸を用いたアミノ酸の測定範囲の比較)
200mM HEPES-KOH(pH8)、75mM ATP、500mM MgCl
2、0μM、20μM、50μM、100μMまたは160μM D-チロシン、10μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、50℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例20に記載のモリブデンブルー法により測定した(実施品20)。また、AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、40mM ATP、40mM MnCl
2、0μM、20μM、50μM、100μMまたは160μM D-チロシン、5μM TyrRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例20に記載のモリブデンブルー法により測定した(比較品15)。その結果、
図6に示す通り、5μMのTyrRSしか使用しない比較品15の場合には、アミノ酸を高濃度まで測定すると相関係数Rが0.86に低下したが、10μMのTyrRSを使用し、それに応じてATP濃度及び二価イオン濃度を高めた本発明の方法では、広範囲のアミノ酸濃度範囲において、アミノ酸濃度とピロリン酸に相関関係(R=0.97)が認められた。
【実施例22】
【0073】
200mM CHES-KOH(pH9.5)、50mM ATP、100mM CoCl
2、0μM、50μM、100μM、200μM、400μMまたは600μM D-トリプトファン、10μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例20に記載のモリブデンブルー法により測定した(実施品21)。また、AARS濃度を5μMと低濃度にした反応条件として、200mM HEPES-KOH(pH8)、20mM ATP、20mM MnCl
2、0μM、50μM、100μM、200μMまたは400μM D-トリプトファン、5μM TrpRS(大腸菌由来)を含む反応溶液を200μL調製し、40℃、30分間処理した。反応後、トリクロロ酢酸を終濃度4%となるように40μL添加し、反応を停止した。反応停止後、遠心分離で沈殿を除去し、上清中のピロリン酸を実施例20に記載のモリブデンブルー法により測定した(比較品16)。その結果、
図6に示す通り、5μMのTrpRSしか使用しない比較品16の場合には、アミノ酸を高濃度まで測定すると相関係数Rが0.91に低下したが、10μMのTrpRSを使用し、それに応じてATP濃度及び二価イオン濃度を高めた本発明の方法では、広範囲のアミノ酸濃度範囲において、アミノ酸濃度とピロリン酸に相関関係(R=0.98)が認められた。
【0074】
以上の結果から、実施例3~7、実施例18~20に示されるように、例えば、50μMまたは100μM程度の比較的高濃度のアミノ酸を含有する試料を測定対象とした際に、本発明方法では、L体及びD体のアミノ酸の何れにおいても試料に含まれるアミノ酸のモル数より多いモル数の反応産生物を産生すると共に、低濃度(5μM)AARSを使用した方法と比べ、2倍以上のピロリン酸を産生しており、著しく反応産生物を増幅できることが示された。また、実施例8~10に示されるように、本発明方法におけるAARS反応では、著しくピロリン酸が産生されることから、低濃度(5μM)AARSを使用した方法と同程度のピロリン酸をより短時間で産生させ、短時間でアミノ酸の定量が可能であることが分かった。更に、実施例11~14、実施例21、22に示されるように、本発明方法では、L体及びD体のアミノ酸の何れにおいても各AARSにおいてアミノ酸濃度に依存して直線的にピロリン酸が増加する、即ちアミノ酸濃度とピロリン酸量に相関関係があり、1~1,000μMの低濃度から高濃度の広い範囲でアミノ酸の定量が可能であった。この範囲は従来技術の多段階酵素反応を用いた蛍光法などによる高感度分析のアミノ酸定量法のアミノ酸定量範囲の1~250μMより著しく広範囲でアミノ酸の定量が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
このように、本発明方法に於いて、形成されたアミノアシルAMP-AARS複合体からAARS及びアミノ酸を遊離し、再度それらをアミノアシルAMP-AARS複合体の形成に繰り返し利用することによって、試料中に少ないアミノ酸しか含まれていない場合であっても、多量のピロリン酸や水素イオンを産生させることができるため、多段階酵素反応を用いた蛍光法などによる高感度分析は不必要であることが分かった。従って、本発明によって、AARSを用いて、測定対象のアミノ酸を、選択的且つ簡便、短時間及び高感度で、広範囲なアミノ酸濃度範囲で定量することが出来る方法、及びアミノ酸定量用キットを提供することが可能となった。
【配列表】