(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】酸化物触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 21/06 20060101AFI20221209BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221209BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20221209BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20221209BHJP
H01M 4/90 20060101ALN20221209BHJP
H01M 4/88 20060101ALN20221209BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221209BHJP
【FI】
B01J21/06 M
B01J37/04 102
B01J32/00
B01J37/18
H01M4/90 X
H01M4/88 K
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018153296
(22)【出願日】2018-08-16
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石原 顕光
(72)【発明者】
【氏名】永井 崇昭
(72)【発明者】
【氏名】太田 麻友
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】岸 美保
(72)【発明者】
【氏名】植村 啓宏
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6372586(JP,B1)
【文献】特開2017-202462(JP,A)
【文献】特開2017-043521(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146490(WO,A1)
【文献】特開2011-175772(JP,A)
【文献】特開2005-259557(JP,A)
【文献】特開2019-173130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01G
H01M 4/86 - 4/98
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化チタンを担体とする
電極触媒を製造する方法であって、
該製造方法は、亜酸化チタンと、
ハロゲン化チタンと、溶媒とを混合する工程と、
亜酸化チタンと
ハロゲン化チタンとを含む混合物を還元雰囲気下で焼成する工程とを含む
ことを特徴とする
電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程は、
ハロゲン化チタンの溶液と、亜酸化チタンとを混合する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の
電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程は、400~1100℃で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の
電極触媒の製造方法。
【請求項4】
前記亜酸化チタンは、TiO
n(1.5≦n≦1.9)で表される組成を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の
電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化チタンを担体とする酸化物触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、固体高分子形燃料電池(PEFC)用の電極触媒としてPt担持カーボン触媒が一般に用いられている。高価なPtを材料とするこの触媒は、これまでに触媒当たりのPtの使用量の低減がされてきているものの、Ptの割合は依然として触媒全体の数十重量パーセントを占めており、PEFCの普及拡大において大きな足かせとなっている。このような状況の下、PEFC用のPt担持カーボン触媒に対して、触媒成分であるPtを他の金属酸化物等で代替する試みがなされている(特許文献1)。
【0003】
また、Pt担持カーボン触媒の担体であるカーボンは高電位下で酸化分解して電池特性が低下するため、特に自動車など電力の負荷変動が大きな用途に対しては、高電位を回避するためのシステムを組まなければならず、これもコストアップの要因となっている。そのため、高電位でも分解が起こらない担体物質として、導電性酸化物で代替する試みがなされている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/040059号
【文献】特開2015-129347号公報
【文献】特開2017-16853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、Pt担持カーボン触媒には、Ptの使用による高コスト及びカーボンの高電位下での酸化分解という課題がある。このため、電極触媒としての十分な活性を発揮しつつ、これらの課題を解決することができる材料が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、従来のPt担持カーボン触媒に比べて安価であり、高電位下も含めて電極触媒としての必要な活性を発揮することができる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Pt担持カーボン触媒に比べて安価であり、通常の電位環境に加えて高電位環境下においても電極触媒としての十分な活性を発揮することができる触媒について検討し、亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と、溶媒とを混合した後、亜酸化チタンと周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物とを含む混合物を還元雰囲気下で焼成することにより、燃料電池の電極触媒として必要な電気化学活性を有する触媒が得られることを見出した。またこの触媒はカーボンを原料とせず、カーボンの高電位下での酸化分解の問題もないため、この方法により上記課題を解決した触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、亜酸化チタンを担体とする酸化物触媒を製造する方法であって、該製造方法は、亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と、溶媒とを混合する工程と、亜酸化チタンと周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物とを含む混合物を還元雰囲気下で焼成する工程とを含むことを特徴とする酸化物触媒の製造方法である。
【0009】
上記混合工程は、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物の溶液と、亜酸化チタンとを混合する工程を含むことが好ましい。
【0010】
上記焼成工程は、400~1100℃で行われることが好ましい。
【0011】
上記亜酸化チタンは、TiOn(1.5≦n≦1.9)で表される組成を有することが好ましい。
【0012】
上記周期表第4、5族元素が、Ti、Zr、Nb、Taよりなる群から少なくとも一種の元素であることが好ましい。
【0013】
上記周期表第4、5族元素が、Tiであることが好ましい。
【0014】
上記無機化合物が、ハロゲン化チタンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化物触媒の製造方法は、高価なPtや高電位下で酸化分解するカーボンを使用することなく、燃料電池の電極触媒として必要な電気化学活性を有する触媒を製造することができる製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0017】
本発明の酸化物触媒の製造方法は、亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と、溶媒との混合物を得る混合工程と、亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物とを含む混合物を還元雰囲気下で焼成する工程とを含む。
本発明の酸化物触媒の製造方法では、亜酸化チタンが触媒の担体となり、該担体上に周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物の焼成物が活性種となる触媒が得られ、燃料電池の電極触媒として必要とされる電気化学活性を発揮する。本発明の製造方法では、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物にカーボンを含まないものを用い、還元雰囲気下で焼成することで、担体である亜酸化チタンの導電性を損なわずに、活性種と担体との間に強い相互作用をもたせることができる。これにより、担体と活性種間の電子伝導が可能になり、このような触媒を電極として用いた燃料電池や電解反応セルにおいては、活性種上で電子の移動を伴った酸素還元および水素酸化反応が可能になる。また本発明の酸化物触媒の製造方法で得られる酸化物触媒はカーボンを含まないため、高電位下でのカーボンの分解に起因する不具合の発生もない。
以下に、本発明の酸化物触媒の製造方法の各工程について説明する。
【0018】
<混合工程>
本発明の酸化物触媒の製造方法における混合工程は、亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と、溶媒との混合物を得る工程である。
混合工程においては、亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と、溶媒とが混合されることになる限り、混合の順番は特に制限されず、1種類ずつ順番に混合してもよく、2種以上を同時に混合してもよい。また、これらのうちいくつかの成分の混合物と残りの成分の混合物とを調製した後、混合物同士を混合するようにしてもよい。また、いずれかの成分を分割して添加してもよい。
【0019】
上記混合工程は、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と溶媒とを混合した後、亜酸化チタンと混合する工程を含むことが好ましい。このようにすることで、活性種元素がより細かく亜酸化チタン担体表面に存在せしめることができ、活性種の有効表面積を大きくすることができる。
【0020】
上記混合工程に用いる溶媒としては、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物が十分に溶解すること、当該無機化合物に由来する活性種前駆体に必要な酸素原子を供給するために、酸素元素を含むことが好ましい。
すなわち、分子中に酸素原子を含む、例えばアルコールは単独でも混合工程に用いても良いが、トルエンなどの分子中に酸素原子を含まないものについては、ジイソプロピルエーテル等の酸素原子を含む溶媒と併用することが好ましい。また、酸素原子を含む溶媒であっても、より酸素原子を効率よく供給するため、酸素原子を含む別の溶媒と組み合わせても良い。
具体的には、エタノール、2-プロパノール、ベンジルアルコール、1-ブタノール、トルエン、アセトン、ジイソプロピルエーテル、アセチルアセトン、2,5-ヘキサンジオン、純水のうち1種又は2種以上を用いることができるが、これらの中でも、トルエンとジイソプロピルエーテルの混合溶媒が好ましい。
【0021】
上記混合工程は、適宜撹拌して行うことができ、撹拌する時間は特に制限されないが、1~100時間であることが好ましい。このように撹拌することで、亜酸化チタン担体の表面により均一に周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物に由来する活性種前駆体を溶媒から酸素原子を供給された状態で担持させることができる。撹拌する時間は、より好ましくは、5~20時間である。
【0022】
上記混合工程における温度は、20℃~50℃であることが好ましい。この温度で混合することで、上記亜酸化チタン担体への活性種前駆体の吸着がより強固なものとなる。この温度が高すぎると、活性種前駆体が大きくなり、触媒活性が著しく低下する。また、温度が低すぎると、活性種前駆体の吸着が弱くなってしまう。混合する温度は、より好ましくは、30℃~40℃である。
【0023】
上記混合工程に使用する周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物の量は、酸化物換算で亜酸化チタン100重量部に対して1~30重量部となる量であることが好ましい。該化合物をこのような量で用いることで、亜酸化チタン担体の表面により均一に活性種前駆体を担持することができる。該化合物の量は、より好ましくは、酸化物換算で亜酸化チタン100重量部に対して1~10重量部となる量であり、更に好ましくは、4~10重量部となる量である。
【0024】
上記混合工程において、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物と溶媒とを混合した後に亜酸化チタンと混合する場合、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物の混合液における該化合物の濃度は、該元素の含有量が酸化物換算で5~40重量%となる濃度であることが好ましい。このような濃度であると、亜酸化チタン担体の表面に効率的に周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物に由来する活性種前駆体を担持することができる。上記溶液中の該化合物の含有量は、より好ましくは、酸化物換算で10~40重量%であり、更に好ましくは、10~30重量%である。
【0025】
上記周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物は、上記混合工程において、亜酸化チタン担体の表面に前駆体として担持された後、還元焼成を経て得られる触媒の活性種となる。上記周期表第4、5族元素は、Ti、Zr、Nb、Taよりなる群から少なくとも1種の元素であることが好ましく、さらにTiであることがより好ましい。
また、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物としては、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられるが、中でもハロゲン化物が好ましい。
周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物として好ましくは、ハロゲン化チタンである。さらに好ましくは四塩化チタンである。
【0026】
触媒の担体となる亜酸化チタンとしては、TiOn(1.5≦n≦1.9)で表される組成を有するものが好ましい。このような組成のものであると、担体の導電性を高く保つことができ、電気化学反応が起こりやすくなる。より好ましくは、1.60≦n≦1.90のものであり、更に好ましくは、1.70≦n≦1.85である。
【0027】
上記亜酸化チタンとしては、比表面積が10m2/g以上であるものが好ましい。このような比表面積のものを用いると、還元焼成後、活性種が適切に担持され、電極材料として実用的に好適に使用できる。亜酸化チタンの比表面積は、より好ましくは、13m2/g以上であり、更に好ましくは、16m2/g以上である。
亜酸化チタンの比表面積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
<焼成工程>
上記亜酸化チタンと、周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物に由来する活性種前駆体を還元雰囲気下で焼成する工程における焼成温度は、400~1100℃であることが好ましい。このような温度で焼成することで、活性種前駆体の分解が進行し溶媒から供給された酸素原子と反応して、亜酸化チタン担体との間に強い相互作用を有する化合物となる。焼成温度は、より好ましくは、600~900℃であり、更に好ましくは、600~800℃である。
また焼成工程における焼成時間は、触媒を十分に焼成することと製造の効率とを考えると、5分~24時間であることが好ましい。より好ましくは、5分~10時間である。
【0029】
上記焼成工程を行う還元雰囲気としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガス中に水素等の還元性ガスを0を超え50vol%以下含む雰囲気を用いることができる。還元雰囲気中の水素濃度が50vol%を超えると、活性種である化合物の還元度が高くなり、触媒活性が低くなる。
【0030】
<その他の工程>
本発明の酸化物触媒の製造方法は、上述した混合工程、及び、焼成工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、混合工程で得られた混合物から溶媒を除去する工程等が挙げられる。
【0031】
<溶媒除去工程>
本発明の酸化物触媒の製造方法は、上述した混合工程の後、焼成工程の前に溶媒除去工程を含むことが好ましい。焼成工程の前に混合工程で得られた混合物から溶媒を除去することで焼成工程における雰囲気を安定に保つことが出来る。
溶媒除去工程は、混合工程で得られた混合物に含まれる固形分から溶媒を除去することができるいずれの方法も用いることができ、例えば、ろ過する方法を用いることができる。
【0032】
ろ過する方法を用いる場合、ろ過して得られた固形分を更に減圧環境下に置くこと及び/又は加熱することで溶媒を除去することが好ましい。
ろ過して得られた固形分を加熱して溶媒を除去する場合、加熱温度は60℃以下にすることが好ましい。このような温度にすることで、触媒の担体である亜酸化チタンや周期表第4、5族元素の群からなる少なくとも1種の元素の無機化合物に由来する活性種前駆体に悪影響を与えることなく溶媒を除去することが出来る。溶媒除去工程の温度は、より好ましくは、30~50℃であり、更に好ましくは、20~40℃である。
低温であるために、溶媒を効率的に除去するためには、減圧下で乾燥することが好ましい。
【0033】
溶媒除去工程の時間は、混合物から溶媒が除去される限り特に制限されないが、製造の効率とを考えると、混合工程で得られた溶媒を含む混合物から加熱により溶媒を除去する場合には1~24時間であることが好ましい。また、混合工程で得られた溶媒を含む混合物からろ過して得られた固形分を更に減圧環境下に置くこと及び/又は加熱することで溶媒を除去する場合には、1~12時間であることが好ましい。
【0034】
本発明の酸化物触媒の製造方法で製造される酸化チタン触媒は、高価なPtを含まず、安価でありながら燃料電池の電極触媒としての電気化学活性を有し、高電位下でのカーボンの分解の問題がないため、燃料電池の電極材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0035】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0036】
合成例(亜酸化チタン担体の合成)
ルチル型酸化チタン(堺化学工業株式会社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m2/g)2.0gと金属チタン(和光純薬工業株式会社製、商品名「チタン、粉末」)0.3gを乾式混合した後、水素雰囲気下、700℃まで70分かけて昇温し、700℃で6時間保持した後、室温まで冷却して結晶相がTi4O7で表される亜酸化チタン担体を得た。以下の方法により測定した亜酸化チタンの比表面積は16.5m2/g、亜酸化チタンTiOnのn値は、1.82であった。
【0037】
<結晶相の同定>
試料は、X線回折装置(株式会社リガク社製、RINT-TTR3)を用いて、下記の条件で粉末X線回折パターンを測定し、結晶相の同定を行った。
X線源:Cu-Kα線
光学系:平行ビーム光学系(長尺スリット:PSA200/分解能0.057°)
測定範囲:2θ=10~70°
スキャンスピード:5°/min
サンプリング幅:0.02°
電圧:50kV
電流:300mA
<亜酸化チタンの比表面積測定>
JIS Z8830(2013年)の規定に準じ、試料を窒素雰囲気中、200℃で60分間熱処理した後、比表面積測定装置(マウンテック社製、商品名「Macsorb HM-1220」)を用いて、キャリアガス法により比表面積(BET-SSA)を測定した。
<亜酸化チタンTiOnのn値の算出>
亜酸化チタンの組成TiOnにおけるnの値は、以下に示す手順で熱処理前後の試料の重量変化を測定することにより算出した。
すなわち、乾燥機(例えばヤマト科学株式会社製、送風定温恒温器、DKM600)にて100℃で1時間保持した亜酸化チタンを、電子天秤(株式会社島津製作所製、分析天秤、ATX224)を用いて小数点以下4桁の精度で秤量した後、電気炉(日陶科学株式会社製、卓上型電気炉、NHK-120H-II)を用いて大気雰囲気下、900℃で1時間、熱処理を行うことにより、亜酸化チタンを酸化する。昇温は、300℃/時の速度で行い、900℃で1時間保持した後、直ちに試料をガラス製のデシケーターに移して室温まで放冷したのち、小数点以下4桁の精度で秤量する。
すなわち、熱処理後の重量増分が亜酸化チタンの酸素欠陥量に相当する。
熱処理前の亜酸化チタンの重量をW1(g)、熱処理後の重量をW2(g)、Tiの原子量をMT、Oの原子量をMOとしたとき、
熱処理前のTiOnのモル数=W1/(MT+nMO)
熱処理後のTiO2のモル数=W2/(MT+2MO)
熱処理前後でTiOnとTiO2のモル数は変化しないことから、
W1/(MT+nMO)=W2/(MT+2MO)
従って、nについて解くと、
n=(W1(MT+2MO)-W2MT)/W2MO
により計算することができる。
【0038】
実施例1
四塩化チタン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、純度99.995wt%)0.13gをトルエン(和光純薬工業株式会社製、純度99wt%)25mL中に加え、室温で30分間撹拌し、四塩化チタンのトルエン溶液を調整した。四塩化チタンのトルエン溶液を撹拌しながら、上記で合成した亜酸化チタン0.2gを投入し、30分撹拌後酸素源となる化合物としてジイソプロピルエーテル(和光純薬工業株式会社製、純度98wt%)195μLを添加し、40℃に加熱してから10時間撹拌を続けた。得られたスラリーを室温まで冷却後、濾過、トルエンにて洗浄後、減圧下で80℃、12時間乾燥を実施することにより前駆体を調製した。得られた前駆体を4%H2-96%N2雰囲気下、700℃で10分間保持した後、室温まで冷却して触媒粉末を得た。
【0039】
実施例2
還元焼成温度を800℃にしたこと以外は、実施例1同様に実施した。
【0040】
実施例3
還元焼成温度を600℃にしたこと以外は、実施例1同様に実施した。
【0041】
比較例1
上記の合成例で合成した亜酸化チタンをそのまま触媒とした。
【0042】
比較例2
チタンイソプロポキシド(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、純度99.999wt%)183μLを、トルエン(和光純薬工業株式会社製、純度99wt%)100mL中に加え、室温で30分間撹拌し、チタンイソプロポキシドのトルエン溶液を調製した。チタンイソプロポキシドのトルエン溶液を撹拌しながら、上記の合成例で合成した亜酸化チタン0.2gを投入し、40℃に加熱してから12時間撹拌を続けた。上記スラリーを室温まで冷却後、濾過、トルエン溶媒にて洗浄後、減圧下で80℃、12時間乾燥を実施することにより前駆体を調製した。得られた前駆体を4%H2-96%N2雰囲気下、700℃まで昇温し、700℃で10分間保持した後、室温まで冷却して触媒粉末を得た。
【0043】
<電気化学評価>
本発明の酸化チタン触媒の電気化学活性の評価として、電気二重層容量と酸素還元活性(ORR)を測定した。電気二重層容量は触媒担体と活性種間の導電性に主に起因する。一方、酸素還元活性は、活性種上での電子の移動を伴った酸素還元および水素酸化反応に起因する。以下の手順により、実施例1~3、比較例1~2で得られた各粉体の電気化学評価を行った。
(1)作用極の作製
測定対象のサンプル2mgに、5重量%ナフィオン分散液(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)4.1μL、2-プロパノール(和光純薬工業株式会社製、純度99.9wt%)76μL及びイオン交換水24μLを加え、超音波により分散させてペーストを調製した。ペーストをグラッシーカーボン電極に塗布し、充分に乾燥させ、作用極とした。
(2)電気二重層容量の測定
電気二重層容量は、上記方法で作製された作用極を用い、白金電極を対極に、可逆水素電極(RHE)参照極とした三電極式セルを用いて、Automatic Polarization System(北斗電工株式会社製、商品名「HZ-7000」)にて以下条件でサイクリックボルタグラム法により測定を行なった。
電解液:0.1mol/l 過塩素酸水溶液(アルゴン飽和)
温度:25℃
走査範囲:0.05~1.2V
走査速度:50mV/sec
得られた曲線より電気二重層容量に起因する電流値(電位0.5V時点でのアノード反応の電流値を指標とした)を読み取った。
(3)酸素還元活性(ORR)評価
酸素還元活性(ORR)は、上記方法で作製された作用極を用い、白金電極を対極に、可逆水素電極(RHE)参照極とした三電極式セルを用いて、Automatic Polarization System(北斗電工株式会社製、商品名「HZ-7000」)にて以下条件で測定を行なった。
電解液:0.1mol/l 過塩素酸水溶液(アルゴン飽和)
温度:25℃
走査範囲:0.05~1.2V
走査速度:10mV/sec
その後、酸素ガスを飽和させ、電極に回転電極装置(北斗電工株式会社製、商品名「HR-502」)を接続し、1600rpmで回転させて同様の条件で測定を行った。酸素ガス中で測定を行った結果からアルゴンガス中で測定した結果を差し引き、0.2Vでの電流値を読み取った。
【0044】
上記実施例等で得た各粉体(試料)につき、上述した分析及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
実施例及び比較例の結果より、以下のことを確認した。
実施例1、2、3の0.5Vでの電気二重層の電流値及び0.2Vでの酸素還元電流値の絶対値は実施例1(700℃)が最も大きく、次いで、実施例2(800℃)、実施例3(600℃)の順番であった。一方、亜酸化チタンに対して4%水素、96%窒素雰囲気下、700℃焼成のみを行った比較例1では、0.5Vでの電気二重層の電流値及び0.2Vでの酸素還元電流値の絶対値は実施例1~3と比べて非常に小さかった。このことより、塩化チタンを原料とすることで、触媒担体と活性種間の導電性が高くなり、触媒活性が高くなることが判る。また、活性種原料として四塩化チタンではなく、有機チタン源であるチタンイソプロポキシドを使用した比較例2の場合も、0.5Vでの電気二重層の電流値及び0.2Vでの酸素還元電流値の絶対値は実施例1~3に比べて非常に小さかった。これは、活性種原料に有機チタンを用いることで触媒担体と活性種間の相互作用が弱まったためと考えられ、このことより、活性種原料として塩化チタンが必要であることが判る。
したがって、亜酸化チタン粉体に対して無機チタン源を混合し、還元焼成を加えることにより得た酸化物触媒は、燃料電池用電極材料として必要な電気化学活性を有することが判った。