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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/14 20060101AFI20221209BHJP
   C08L 71/08 20060101ALI20221209BHJP
   C08G 65/34 20060101ALI20221209BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20221209BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20221209BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C08L83/14
C08L71/08
C08G65/34
C08G73/10
C08G77/50
C08L79/08 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019002975
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2020111662
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】西原 正通
(72)【発明者】
【氏名】ホァン ビョンチャン
(72)【発明者】
【氏名】林 灯
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 隆正
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-68872(JP,A)
【文献】特表2015-518649(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066546(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/156204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L71/、79/、83/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)を含む組成物であり、
電子供与性ポリマー(D)が、式(1a):
*-X1a-O-Y1a-O-Z1a-O-Y’1a-O-* (1a)
[式中、X1aは、式(2a)~式(2c):
【化1】

[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、
1aおよびY’1aは、それぞれ独立に、式(3a)または式(3b):
【化2】

[式中、*は、結合位置を示す。]
で表される2価の基であり、
1aは、式(3c):
【化3】

[式中、R~Rは、それぞれ独立に、C1-3アルキル基であり、
およびRは、それぞれ独立に、C1-3アルキレン基であり、
*は、結合位置を示す。]
で表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する電子供与性ポリマー(D1)を含み、
電子求引性ポリマー(A)が、式(4a):
【化4】

[式中、X2aは、式(5a)~式(5c):
【化5】

[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される4価の基であり、
2aは、式(6a)~式(9a):
【化6】

[式中、n1は、1~4の整数であり、
n2~n10は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
n2およびn3の合計は、1以上の整数であり、
n4~n6の合計は、1以上の整数であり、
n7~n10の合計は、1以上の整数であり、
1a~R10aは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、スルホ基、W1aで置換されていてもよいフェニル基、W1aで置換されていてもよいチエニル基、またはW1aで置換されていてもよいフリル基であり、
1aは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基またはスルホ基であり、
n1~n10が2~4の整数である場合、複数のR1a~R10aは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
n1個のR1aの少なくとも一つは、スルホ基であり、
n2個のR2aおよびn3個のR3aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
n4個のR4a、n5個のR5aおよびn6個のR6aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
n7個のR7a、n8個のR8a、n9個のR9aおよびn10個のR10aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
1a~Z6aは、それぞれ独立に、単結合、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-2アルキレン基、C3-10アルキレン基、スルホニル基、カルボニル基、*-CONH-*、*-NHCO-*、*-C(R11a)(R12a)-*、またはオキシ基であり、
11aおよびR12aは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であるか、またはR11aおよびR12aは互いに結合して、それらが結合する炭素原子と共に、C3-6炭化水素環を形成する、および
*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する電子求引性ポリマー(A1)を含む組成物。
【請求項2】
1aが、式(2a)で表される2価の基である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1aおよびY’1aが、共に式(3a)で表される2価の基である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
電子供与性ポリマー(D1)のガラス転移温度が110℃以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
1a~R10aが、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、スルホ基、W1aで置換されていてもよいフェニル基、W1aで置換されていてもよいチエニル基、またはW1aで置換されていてもよいフリル基であり、およびW1aが、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基またはスルホ基である請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
2aが、式(5a)で表される4価の基である請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
2aが、式(7a)で表される2価の基である請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
式(4a)で表される構成単位が、式(4a-1):
【化7】

[式中、m1およびm2は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位である請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
電子求引性ポリマー(A1)が、式(4a)で表される構成単位として式(4a-1):
【化8】

[式中、m1およびm2は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有し、且つ他の構成単位として式(4b-1):
【化9】

[式中、r1およびr2は、それぞれ独立に、1~4の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)が、電荷移動錯体を形成している請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与性ポリマーおよび電子求引性ポリマーを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷移動錯体を形成する材料は多く報告されている。例えば、非特許文献1には、テトラチアフルバレン・p-クロラニルおよびその誘導体を用いた電荷移動錯体が報告されている。一方、高分子材料の電荷移動錯体としては、例えば、非特許文献2および3には、ポリマーであるポリイミドと、低分子化合物であるジヒドロキシナフタレンとの電荷移動錯体が報告されている。また、非特許文献4には、電子求引性ポリマーおよび電子供与性ポリマーの電荷移動錯体を含むポリマー組成物が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Phys. Rev. B 43 (1991) 8224
【文献】Polymer Journal (2013) 45, 839-844
【文献】JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A POLYMER CHEMISTRY 2014, 52, 2991-2997
【文献】JOURNAL OF MEMBRANE SCIENCE 2018, 548, 223-231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献4で報告されているように、電荷移動錯体を形成することができれば、電子供与性ポリマーおよび電子求引性ポリマーの相分離が抑制され、強度が向上した材料(ポリマー組成物)が得られることが期待される。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、電荷移動錯体を形成することができる電子供与性ポリマーおよび電子求引性ポリマーの組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成し得る本発明は、以下の通りである。
[1] 電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)を含む組成物であり、
電子供与性ポリマー(D)が、式(1a):
*-X1a-O-Y1a-O-Z1a-O-Y’1a-O-* (1a)
[式中、X1aは、式(2a)~式(2c):
【0006】
【化1】
【0007】
[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、
1aおよびY’1aは、それぞれ独立に、式(3a)または式(3b):
【0008】
【化2】
【0009】
[式中、*は、結合位置を示す。]
で表される2価の基であり、
1aは、式(3c):
【0010】
【化3】
【0011】
[式中、R~Rは、それぞれ独立に、C1-3アルキル基であり、
およびRは、それぞれ独立に、C1-3アルキレン基であり、
*は、結合位置を示す。]
で表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する電子供与性ポリマー(D1)を含み、
電子求引性ポリマー(A)が、式(4a):
【0012】
【化4】
【0013】
[式中、X2aは、式(5a)~式(5c):
【0014】
【化5】
【0015】
[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される4価の基であり、
2aは、式(6a)~式(9a):
【0016】
【化6】
【0017】
[式中、n1は、1~4の整数であり、
n2~n10は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
1a~R10aは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、スルホ基、W1aで置換されていてもよいフェニル基、W1aで置換されていてもよいチエニル基、またはW1aで置換されていてもよいフリル基であり、
1aは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基またはスルホ基であり、
n1~n10が2~4の整数である場合、複数のR1a~R10aは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
n1個のR1aの少なくとも一つは、スルホ基であり、
n2個のR2aおよびn3個のR3aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
n4個のR4a、n5個のR5aおよびn6個のR6aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
n7個のR7a、n8個のR8a、n9個のR9aおよびn10個のR10aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
1a~Z6aは、それぞれ独立に、単結合、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-2アルキレン基、C3-10アルキレン基、スルホニル基、カルボニル基、*-CONH-*、*-NHCO-*、*-C(R11a)(R12a)-*、またはオキシ基であり、
11aおよびR12aは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であるか、またはR11aおよびR12aは互いに結合して、それらが結合する炭素原子と共に、C3-6炭化水素環を形成する、および
*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する電子求引性ポリマー(A1)を含む組成物。
【0018】
[2] X1aが、式(2a)で表される2価の基である前記[1]に記載の組成物。
[3] Y1aおよびY’1aが、共に式(3a)で表される2価の基である前記[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 電子供与性ポリマー(D1)のガラス転移温度が110℃以下である前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
【0019】
[5] R1a~R10aが、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、スルホ基、W1aで置換されていてもよいフェニル基、W1aで置換されていてもよいチエニル基、またはW1aで置換されていてもよいフリル基であり、およびW1aが、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基またはスルホ基である前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6] X2aが、式(5a)で表される4価の基である前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7] Y2aが、式(7a)で表される2価の基である前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
【0020】
[8] 式(4a)で表される構成単位が、式(4a-1):
【0021】
【化7】
【0022】
[式中、m1およびm2は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位である前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
【0023】
[9] 電子求引性ポリマー(A1)が、式(4a)で表される構成単位として式(4a-1):
【0024】
【化8】
【0025】
[式中、m1およびm2は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有し、且つ他の構成単位として式(4b-1):
【0026】
【化9】
【0027】
[式中、r1およびr2は、それぞれ独立に、1~4の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
【0028】
[10] 電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)が、電荷移動錯体を形成している前記[1]~[9]のいずれか一つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電荷移動錯体を形成することができる電子供与性ポリマーおよび電子求引性ポリマーの組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】合成例1で得られた電子供与性ポリマー(D1-1)のH NMRのチャートである。
図2】試験例1で測定された、組成物(I)の膜(実施例1)の紫外-可視分光法(UV-vis)による吸収スペクトルである。
図3】試験例3で測定された、組成物(III)の膜(実施例3)の紫外-可視分光法(UV-vis)による吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の組成物は、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)を含む。電子供与性ポリマー(D)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。同様に、電子求引性ポリマー(A)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ここで、「電子供与性」とは、他の分子またはイオンに電子を容易に与え得る分子またはイオンの性質を意味する。また、「電子求引性」とは、他の分子またはイオンから電子を容易に受け取り得る分子またはイオンの性質を意味する。以下、本発明について順に説明する。なお、以下の例示、好ましい記載等は、これらが互いに矛盾しない限り、組み合わせることができる。
【0032】
<化学式中の基>
まず、本明細書に記載する化学式中の基等について説明する。
本明細書中、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0033】
本明細書中、C1-3アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
本明細書中、C1-10アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。
【0034】
本明細書中、C1-10アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基が挙げられる。
【0035】
本明細書中、C1-2アルキレン基とは、メチレン基またはエチレン基である。
本明細書中、C1-3アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、1-メチルエチレン基が挙げられる。
本明細書中、C3-10アルキレン基としては、例えば、トリメチレン基、1-メチルエチレン基、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチルテトラメチレン基、2-メチルテトラメチレン基、1,1-ジメチルトリメチレン基、1,2-ジメチルトリメチレン基、2,2-ジメチルトリメチレン基、1-エチルトリメチレン基、ヘキサメチレン基、1-メチルペンタメチレン基、2-メチルペンタメチレン基、3-メチルペンタメチレン基、1,1-ジメチルテトラメチレン基、1,2-ジメチルテトラメチレン基、2,2-ジメチルテトラメチレン基、1-エチルテトラメチレン基、1,1,2-トリメチルトリメチレン基、1,2,2-トリメチルトリメチレン基、1-エチル-1-メチルトリメチレン基、1-エチル-2-メチルトリメチレン基が挙げられる。
【0036】
本明細書中、C3-6炭化水素環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環が挙げられる。
【0037】
<電子供与性ポリマー(D)>
本発明の一態様において電子供与性ポリマー(D)は、式(1a):
*-X1a-O-Y1a-O-Z1a-O-Y’1a-O-* (1a)
[式中、X1aは、式(2a)~式(2c):
【0038】
【化10】
【0039】
[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、
1aおよびY’1aは、それぞれ独立に、式(3a)または式(3b):
【0040】
【化11】
【0041】
[式中、*は、結合位置を示す。]
で表される2価の基であり、
1aは、式(3c)
【0042】
【化12】
【0043】
[式中、R~Rは、それぞれ独立に、C1-3アルキル基であり、
およびRは、それぞれ独立に、C1-3アルキレン基であり、
*は、結合位置を示す。]
で表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する電子供与性ポリマー(D1)を含む。この態様において、電子供与性ポリマー(D)は、好ましくは電子供与性ポリマー(D1)からなる。
【0044】
上記「式(1a)で表される構成単位」を、以下では「構成単位(1a)」と略称することがある。他の式で表される構成単位および基も同様に略称することがある。酸素原子からX1aへと電子が供与されるため、この構成単位(1a)中の「-X1a-O-」との構造が、電子供与性ポリマー(D1)に電子供与性を付与すると考えられる。
【0045】
電子供与性ポリマー(D1)中のX1aは、2価の基(2a)、2価の基(2b)および2価の基(2c)の少なくとも二つの組合せでもよく、これらの単独でもよい。X1aは、好ましくは2価の基(2a)である。
【0046】
電子供与性ポリマー(D1)中のY1aおよびY’1aは、好ましくは、共に2価の基(3a)である。
【0047】
1a(即ち、2価の基(3c))において、R~Rは、互いに同じものでもよく、異なるものでもよい。R~Rは、好ましくは、互いに同じものである。また、RおよびRは、互いに同じものでもよく、異なるものでもよい。RおよびRは、好ましくは、互いに同じものである。
【0048】
~Rは、それぞれ独立に、好ましくはメチル基、エチル基またはプロピル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基である。R~Rが共にメチル基であることがさらに好ましい。
【0049】
およびRは、それぞれ独立に、好ましくはメチレン基、エチレン基またはトリメチレン基である。RおよびRが共にトリメチレン基であることがより好ましい。
【0050】
構成単位(1a)は、好ましくは、式(1a-1)~式(1a-3):
【0051】
【化13】
【0052】
【化14】
【0053】
【化15】
【0054】
[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される構成単位であり、より好ましくは式(1a-1)で表される構成単位である。
【0055】
電子供与性ポリマー(D1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~50,000、より好ましくは2,000~40,000、さらに好ましくは2,500~35,000である。このMwは、後述の実施例に記載するように、ポリスチレンを標準とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。他のポリマーのMwも同様に測定することができる。
【0056】
本発明の組成物中の電荷移動錯体の形成量の向上、および電荷移動錯体の形成による組成物中でのスルホ基の配向性の向上のために、電子供与性ポリマー(D1)のガラス転移温度(Tg)は、110℃以下であることが好ましい。このTgは、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。このTgは、後述の実施例に記載するように、示差走査熱量計を用いて測定することができる。組成物中でスルホ基の配向性が向上することは、燃料電池材料のプロトン伝導性の向上、およびそれによる燃料電池の発電特性の向上につながる。
【0057】
電子供与性ポリマー(D1)は、出発原料として市販品を使用する公知の反応によって合成することができる。市販品は、例えば、信越化学工業社、東京化成工業社、富士フィルム和光純薬社等から入手できる。例えば、後述の合成例に記載するような、エポキシ基を有する2価の化合物(例えば、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサン)と、ヒドロキシ基を有する2価の化合物(例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン)との反応によって、X1aが2価の基(2a)であり、Y1aおよびY’1aがヒドロキシ基を有する2価の基(3a)であり、Z1aがシロキサン結合を有する2価の基(3c)である電子供与性ポリマー(D1)を製造することができる。
【0058】
電子供与性ポリマー(D1)を製造するためのエポキシ基を有する2価の化合物とヒドロキシ基を有する2価の化合物との反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、ケトン系溶媒が挙げられ、例えば、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。好ましくは、シクロヘキサノン、アセトンが挙げられる。溶媒の量は、エポキシ基を有する2価の化合物1molに対して、好ましくは0.5~50L、より好ましくは1~10Lである。
【0059】
前記反応には、触媒を使用してもよい。触媒としては、例えば、ホスフィン類、イミダゾール類が挙げられる。ホスフィン類としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン等が挙げられる。イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール等が挙げられる。これらの中で、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィンが好ましい。触媒を使用する場合、その量は、エポキシ基を有する2価の化合物1molに対して、好ましくは0.0001~0.1mmol、より好ましくは0.001~0.015mmolである。
【0060】
前記反応の反応温度は、好ましくは50~200℃、より好ましくは100~180℃である。反応温度が、溶媒沸点よりも高い場合は、封管にて反応を実施してもよい。反応時間は、好ましくは20~250時間、より好ましくは30~150時間である。
【0061】
前記反応後、沈殿、ろ取および乾燥等の公知の手段によって、Y1aおよびY’1aがヒドロキシ基を有する2価の基(3a)である電子供与性ポリマー(D1)を得ることができる。
【0062】
また、上述のようにして得られた、Y1aおよびY’1aがヒドロキシ基(-OH)を有する2価の基(3a)である電子供与性ポリマー(D1)を酸化することによって、Y1aおよびY’1aの片方または両方がオキソ基(=O)を有する2価の基(3b)である電子供与性ポリマー(D1)を製造することができる。
【0063】
ヒドロキシ基の酸化は、三酸化硫黄と塩基との付加化合物を使用することによって行うことができる。前記化合物としては、例えば、ピリジン-三酸化硫黄コンプレックス、トリエチルアミン-三酸化硫黄コンプレックス等が挙げられる。ピリジン-三酸化硫黄コンプレックスおよびトリエチルアミン-三酸化硫黄コンプレックスのいずれも、例えば、東京化成工業社から市販されている。前記化合物の量は、Y1aおよびY’1aが2価の基(3a)である電子供与性ポリマー(D1)中のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.5~10mol、より好ましくは1~3molである。
【0064】
ピリジン-三酸化硫黄コンプレックスによるヒドロキシ基の酸化では、トリエチルアミンを使用することが好ましい。トリエチルアミンの量は、Y1aおよびY’1aが2価の基(3a)である電子供与性ポリマー(D1)中のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは2~10mol、より好ましくは4~8molである。
【0065】
前記酸化は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、反応の進行を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタンが好ましい。これら溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
前記酸化の温度は、好ましくは-30℃~80℃、より好ましくは-10℃~50℃であり、その時間は、好ましくは1~24時間、より好ましくは6~18時間である。
【0067】
前記酸化後、沈殿、ろ取および乾燥等の公知の手段によって、Y1aおよびY’1aの片方または両方がオキソ基を有する2価の基(3b)である電子供与性ポリマー(D1)を得ることができる。
【0068】
ヒドロキシ基の酸化は、2-アザアダマンタン-N-オキシル、1-メチル-2-アザアダマンタン-N-オキシルなどの高活性ニトロキシルラジカル型アルコール酸化触媒および酸化剤を使用することによって行うことができる。前記酸化触媒は、例えば、富士フィルム和光純薬社、シグマアルドリッチジャパン社から入手できる。前記酸化触媒の量は、Y1aおよびY’1aが2価の基(3a)である電子供与性ポリマー(D1)中のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは0.001~0.5mol、より好ましくは0.005~0.1molである。
【0069】
高活性ニトロキシルラジカル型アルコール酸化触媒と併用する酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、(ジアセトキシヨード)ベンゼンなどが挙げられる。前記酸化剤は、例えば、東京化成工業社、富士フィルム和光純薬社、シグマアルドリッチジャパン社から入手できる。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、例えば、J. Org. Chem. 1987, 52, 2559 2562.、J. Org. Chem. 1997, 62, 20, 6974-6977.などの公知の反応条件と手段によって、Y1aおよびY’1aの片方または両方がオキソ基を有する2価の基(3b)である電子供与性ポリマー(D1)を得ることができる。
【0070】
本発明の組成物中の電子供与性ポリマー(D)の量は、電子求引性ポリマー(A)100重量部に対して、好ましくは1~10,000重量部、より好ましくは10~1,500重量部、さらに好ましくは20~900重量部、最も好ましくは50~500重量部である。
【0071】
<電子求引性ポリマー(A)>
電子求引性ポリマー(A)は、式(4a):
【0072】
【化16】

[式中、X2aは、式(5a)~式(5c):
【0073】
【化17】
【0074】
[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される4価の基であり、
2aは、式(6a)~式(9a):
【0075】
【化18】
【0076】
[式中、n1は、1~4の整数であり、
n2~n10は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
1a~R10aは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、スルホ基、W1aで置換されていてもよいフェニル基、W1aで置換されていてもよいチエニル基、またはW1aで置換されていてもよいフリル基であり、
1aは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基またはスルホ基であり、
n1~n10が2~4の整数である場合、複数のR1a~R10aは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
n1個のR1aの少なくとも一つは、スルホ基であり、
n2個のR2aおよびn3個のR3aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
n4個のR4a、n5個のR5aおよびn6個のR6aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
n7個のR7a、n8個のR8a、n9個のR9aおよびn10個のR10aからなる群から選ばれる少なくとも一つは、スルホ基であり、
1a~Z6aは、それぞれ独立に、単結合、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-2アルキレン基、C3-10アルキレン基、スルホニル基、カルボニル基、*-CONH-*、*-NHCO-*、*-C(R11a)(R12a)-*、またはオキシ基であり、
11aおよびR12aは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であるか、またはR11aおよびR12aは互いに結合して、それらが結合する炭素原子と共に、C3-6炭化水素環を形成する、および
*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位を有する電子求引性ポリマー(A1)を含む。電子求引性ポリマー(A)は、好ましくは電子求引性ポリマー(A1)からなる。構成単位(4a)中のイミド構造が、ポリマー(A)に電子求引性を付与すると考えられる。
【0077】
本発明の組成物は、電子求引性ポリマー(A)中のスルホ基に起因するイオン交換容量を有する。本発明では上述の電子供与性ポリマー(D)を使用することによって、熱処理しても、組成物のイオン交換容量の低減を抑制することができる。
【0078】
上記式において、n2が0であるとは、R2aが存在しないことを意味する。また、n2が2~4の整数である場合、複数のR2aは、互いに、同じものでもよく、異なるものでもよい。他の基についても同様である。
【0079】
2価の基(7a)において、n2およびn3が、それぞれ独立に、1~4の整数であり、n2個のR2aの少なくとも一つがスルホ基であり、およびn3個のR3aの少なくとも一つがスルホ基であることが好ましい。
【0080】
2価の基(8a)において、n4~n6が、それぞれ独立に、1~4の整数であり、n4個のR4aの少なくとも一つがスルホ基であり、n5個のR5aの少なくとも一つがスルホ基であり、およびn6個のR6aの少なくとも一つがスルホ基であることが好ましい。
【0081】
2価の基(9a)において、n7~n10が、それぞれ独立に、1~4の整数であり、n7個のR7aの少なくとも一つがスルホ基であり、n8個のR8aの少なくとも一つがスルホ基であり、n9個のR9aの少なくとも一つがスルホ基であり、およびn10個のR10aの少なくとも一つがスルホ基であることが好ましい。
【0082】
1a~R10aが、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、スルホ基、W1aで置換されていてもよいフェニル基、W1aで置換されていてもよいチエニル基、またはW1aで置換されていてもよいフリル基であり、およびW1aが、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基またはスルホ基であることが好ましい。
【0083】
2aは、好ましくは4価の基(5a)である。Y2aは、好ましくは2価の基(7a)である。構成単位(4a)は、好ましくは式(4a-1):
【0084】
【化19】
【0085】
[式中、m1およびm2は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位である。
【0086】
m1およびm2は、好ましくは、共に0である。即ち、構成単位(4a-1)は、好ましくは式(4a-11):
【0087】
【化20】
【0088】
[式中、*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位である。
【0089】
電子求引性ポリマー(A1)は、1種の構成単位(4a)からなるポリマーでもよく、2種以上の構成単位(4a)からなるポリマーでもよい。また、電子求引性ポリマー(A1)は、1種またはそれ以上の構成単位(4a)と、1種またはそれ以上の他の構成単位(即ち、構成単位(4a)とは異なる構成単位)からなるポリマーでもよい。
【0090】
他の構成単位としては、例えば、式(4b):
【0091】
【化21】

[式中、X2bは、式(5a)~式(5c):
【0092】
【化22】

[式中、*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される4価の基であり、
2bは、式(6b)~式(9b):
【0093】
【化23】
【0094】
[式中、p1~p10は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
1b~R10bは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、W1bで置換されていてもよいフェニル基、W1bで置換されていてもよいチエニル基、またはW1bで置換されていてもよいフリル基であり、
1bは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基またはシアノ基であり、
p1~p10が2~4の整数である場合、複数のR1b~R10bは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
1b~Z6bは、それぞれ独立に、単結合、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-2アルキレン基、C3-10アルキレン基、スルホニル基、カルボニル基、*-CONH-*、*-NHCO-*、*-C(R11b)(R12b)-*、またはオキシ基であり、
11bおよびR12bは、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であるか、またはR11bおよびR12bは互いに結合して、それらが結合する炭素原子と共に、C3-6炭化水素環を形成する、および
*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基であり、および
*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位が挙げられる。
【0095】
1b~R10bが、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基、シアノ基、W1bで置換されていてもよいフェニル基、W1bで置換されていてもよいチエニル基、またはW1bで置換されていてもよいフリル基であり、およびW1bが、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ホルミル基またはシアノ基であることが好ましい。
【0096】
2bは、好ましくは4価の基(5a)である。Y2bは、好ましくは式(10)~式(15):
【0097】
【化24】
【0098】
[式中、r1~r3は、それぞれ独立に、1~4の整数であり、
k1は、1~4の整数であり、
1cは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、k1が2~4の整数である場合、複数のR1cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
k2~k5は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
2cは、ニトロ基またはトリフルオロメチル基であり、k2が2~4の整数である場合、複数のR2cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
3cおよびR4cは、共に塩素原子であり、
5cは、ニトロ基またはトリフルオロメチル基であり、k5が2~4の整数である場合、複数のR5cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
k6およびk7は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
6cは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、k6が2~4の整数である場合、複数のR6cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
7cは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、k7が2~4の整数である場合、複数のR7cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
k8およびk9は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、
8cは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、k8が2~4の整数である場合、複数のR8cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、
9cは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、k9が2~4の整数である場合、複数のR9cは、互いに、同じまたは異なるものでもよく、および
*は、結合位置を示す。]
のいずれかで表される2価の基である。
【0099】
好ましい構成単位(4b)としては、例えば、以下の式(4b-1)~式(4b-7)のいずれかで表される構成単位が挙げられる(式中の基の定義は上述した通りである)。
【0100】
【化25】
【0101】
【化26】
【0102】
【化27】
【0103】
【化28】
【0104】
【化29】
【0105】
【化30】
【0106】
【化31】
【0107】
上述のものの中でも、構成単位(4b-1)が好ましい。構成単位(4b-1)では、r1およびr2が共に4であることが好ましい。即ち、構成単位(4b-1)は、好ましくは式(4b-11):
【0108】
【化32】
【0109】
[式中、*は、結合位置を示す。]
で表される構成単位である。
【0110】
本発明の一態様において電子求引性ポリマー(A1)中の構成単位(4a)の量は、構成単位(4a)および他の構成単位(例えば構成単位(4b))の合計100モルあたり、80~100モル、より好ましくは90~100モルである。電子求引性ポリマー(A1)は、さらに好ましくは、1種またはそれ以上の構成単位(4a)からなるポリマーである。
【0111】
本発明の一態様において構成単位(4a)は、好ましくは構成単位(4a-1)である。この態様において、構成単位(4a-1)は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。この態様において、構成単位(4a-1)は、1種であることが好ましく、構成単位(4a-11)であることがより好ましい。
【0112】
本発明の一態様において電子求引性ポリマー(A1)は、好ましくは構成単位(4a)として構成単位(4a-1)を有し、且つ他の構成単位として構成単位(4b-1)を有する。この態様において、構成単位(4a-1)および構成単位(4b-1)は、いずれも、1種のみでもよく、2種以上でもよい。この態様において、構成単位(4a-1)は、1種であることが好ましく、構成単位(4a-11)であることがより好ましい。また、この態様において、構成単位(4b-1)は、1種であることが好ましく、構成単位(4b-11)であることがより好ましい。
【0113】
電子求引性ポリマー(A1)が構成単位(4a-1)および構成単位(4b-1)を有する場合、構成単位(4a-1)(好ましくは構成単位(4a-11))の数と構成単位(4b-1)(好ましくは構成単位(4b-11))の数との比(構成単位(4a-1)の数/構成単位(4b-1)の数)は、好ましくは0.1/99.9~99.9/0.1、より好ましくは1/99~99/1、さらに好ましくは30/70~95/5である。
【0114】
電子求引性ポリマー(A1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000~1,000,000、より好ましくは8,000~900,000、さらに好ましくは10,000~150,000である。
【0115】
電子求引性ポリマー(A1)は、出発原料として市販品を使用する公知の反応によって合成することができる。市販品は、例えば、東京化成工業社、和光純薬工業社等から入手できる。例えば、後述の合成例に記載するような、テトラカルボン酸二無水物(例えば、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物)と、ジアミン(例えば、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビフェニルジスルホン酸)との反応によって、電子求引性ポリマー(A1)を製造することができる。また、市販品に公知の反応で置換基を導入した化合物を、出発原料として用いてもよい。
【0116】
上述の電子求引性ポリマーは、例えば、Macromolecules, 2002, 35, 9022-9028、Macromol. Chem. Phys. 2016, 217, 654-663、またはJournal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 41, 3901-3907 (2003) に記載の方法に準じて、合成することができる。
【0117】
前記反応におけるテトラカルボン酸二無水物の量は、ジアミン1molに対して、好ましくは0.98~1.02mol、より好ましくは0.99~1.01molである。
【0118】
電子求引性ポリマー(A1)の製造方法は、溶解工程、重合工程、および必要に応じて改質工程を含む。
【0119】
溶解工程は、ジアミン(0.1mM~5M)と、第三級アミン(0.1mM~20M)と、有機溶媒との混合物を加熱して、ジアミンを有機溶媒に溶解させる工程である。第三級アミンは、酸性基を有するジアミンを有機溶媒に溶解させるために用いる。混合物を加熱する温度としては特に限定しないが、20~160℃程度とすることでジアミンを容易に均一に溶媒中に溶解させることができる。
【0120】
第三級アミンとしては特に限定されず、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N-エチル-N-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン、トリベンジルアミン、ジアザビシクロウンデセン等が挙げられる。なかでも、トリエチルアミンが好ましい。これら第三級アミンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0121】
有機溶媒としては、高沸点および高極性を有するものが好ましく、例えば、フェノール、m-クレゾール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリジノン、N-シクロヘキシル-2-ピロリジノン等が挙げられる。なかでも、m-クレゾール、ジメチルスルホキシドおよびN-メチル-2ピロリジノンが好ましい。これら有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書中、「m-」は「メタ」を表し、「p-」は「パラ」を表す。
【0122】
重合工程は、溶解工程で得られたジアミンの溶液にテトラカルボン酸二無水物(0.1mM~5M)を加え、得られた混合物を、有機酸(0.01mM~20M)の存在下で加熱して、重合させる工程である。有機酸は、重合および閉環反応の触媒として作用し、ポリアミック酸の生成およびこれの閉環によるイミド環形成を促進する。
【0123】
有機酸としては、高沸点であり、かつ上記有機溶媒への溶解性が高い化合物が好ましく、例えば、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、サリチル酸等が挙げられる。なかでも、安息香酸が好ましい。有機酸は、重合工程で存在すればよく、上記溶解工程の段階で添加してもよい。有機酸を添加する量としては特に限定しないが、有機酸として安息香酸を使用する場合、その量は、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、1~6モル程度が好ましい。また、反応混合物を加熱する温度は、少なくとも40℃以上である。この温度を、好ましくは100~190℃、より好ましくは140~180℃とすることで、効率よく重合反応が進行し、高分子量の電子求引性ポリマーであるポリイミドを得ることができる。
【0124】
改質工程は、重合工程で得られたポリイミド中の構造欠陥を是正する工程である。構造欠陥とは、ポリイミド中の未閉環部分(アミック酸)に基づく欠陥である。改質工程では、重合工程後の反応混合物を、重合工程の温度よりもさらに高い温度で加熱することで、脱水反応を行い、未閉環部分をイミド化させる。この温度は、少なくとも150℃以上が好ましく、190~220℃がさらに好ましい。この改質工程で、閉環反応が効率よく進行し、構造欠陥のないポリイミドを得ることができる。
【0125】
前記工程後、沈殿、ろ取、透析および乾燥等の公知の手段によって、電子求引性ポリマー(A1)を得ることができる。
【0126】
<電荷移動錯体>
本発明の組成物において、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)が電荷移動錯体を形成していることが好ましい。その結果、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)が充分に混合し、相分離が抑制された組成物を得ることができる。
【0127】
ここで、「電荷移動錯体」とは、電荷移動力によって2種の中性分子の間にできる分子間化合物を意味する。電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)が電荷移動錯体を形成していることは、Nature, 375(6529), 303-305 (1995) および Polym. J.(2013), 45, 839-844に記載のように、組成物のUV-vis吸収スペクトルが530nm付近のピークまたはショルダーを有することで確認することができる。
【0128】
<本発明の組成物から製造される膜>
本発明の組成物の溶液を調製し、次いでこの溶液から溶媒を留去することによって、膜を製造することができる。本発明の組成物の溶液の調製方法に特に限定はない。例えば、溶媒中に、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)を順次または同時に添加し、適宜加熱することによって、組成物の溶液を調製してもよい。また、電子供与性ポリマー(D)の溶液および電子求引性ポリマー(A)の溶液を別々に調製し、得られた溶液を混合することによって、組成物の溶液を調製してもよい。
【0129】
組成物の溶液を調製するための溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-ブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサン、ベンゼン、ニトロベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、イソオキサゾール、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、スルホラン、1,3-プロパンスルトンが挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサン、ベンゼン、ニトロベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、スルホラン、1,3-プロパンスルトンが好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドがより好ましく、ジメチルスルホキシドがさらに好ましい。
【0130】
電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)を含む溶液中、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)の合計の濃度は、溶液全体を基準に、好ましくは0.1~90重量%、より好ましくは0.5~10重量%である。
【0131】
組成物の溶液から溶媒を留去する方法に特に限定はなく、公知の手段(例えば加熱乾燥、減圧乾燥等)で溶媒を留去すればよい。膜の厚さは、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)の仕込み量と、溶媒を留去する際に使用するシャーレの面積で調整が可能である。本発明の組成物から製造される膜の厚さは、好ましくは0.01~200μm、より好ましくは0.1~100μm、さらに好ましくは0.3~60μmである。
【0132】
本発明の組成物の溶液からの溶媒留去は、大気雰囲気で行ってもよく、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)雰囲気で行ってもよい。また、この溶媒留去は、常圧下で行ってもよく、真空乾燥機または減圧ポンプなどを用いて減圧下で行ってもよい。
【0133】
溶媒留去の温度は、好ましくは-10~200℃、より好ましくは40~160℃、さらに好ましくは50~130℃である。溶媒留去は、一定の温度で行ってもよく、温度を多段階的に変更して行ってもよい。溶媒留去の時間は、好ましくは0.5~300時間、より好ましくは1~160時間、さらに好ましくは2~150時間である。
【0134】
本発明の組成物から膜を製造する際の条件(例えば、上述の溶媒の種類、溶液中のポリマーの濃度、並びに溶媒留去の雰囲気、圧力、温度および時間)は、適宜選択することができる。
【0135】
上述のようにして得られた本発明の組成物の膜を、熱処理することが好ましい。この熱処理によって、膜中の電荷移動錯体の形成量を増加させることができる。熱処理は、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理の温度は、好ましくは40~200℃、より好ましくは60~180℃、さらに好ましくは70~160℃であり、その時間は、好ましくは0.01~200時間、より好ましくは0.5~160時間、さらに好ましくは1~80時間である。
【0136】
本発明の組成物から製造される膜(即ち、本発明の組成物を含む膜)は、様々な用途に使用することができる。本発明の組成物を含む膜の用途としては、例えば、燃料電池の電解質膜、触媒層中の電極触媒上の電解質被覆膜、ガス透過抑制膜等が挙げられる。これらの中で、燃料電池の電解質膜、および電極触媒上の電解質被覆膜が好ましく、燃料電池の電解質膜がより好ましい。本発明の組成物を含む燃料電池の電解質膜の厚さは、好ましくは0.1~200μm、より好ましくは2~50μm、さらに好ましくは5~20μmである。本発明の組成物を含む燃料電池の触媒層中の電極触媒上の電解質被覆膜の厚さは、好ましくは1~100nm、より好ましくは2~50nm、さらに好ましくは5~30nmである。
【実施例
【0137】
以下に、本発明の合成例および実施例を、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。合成例および実施例で用いた分析装置およびその条件は以下のとおりである。
【0138】
H NMR:
ポリマーのプロトン核磁気共鳴(H NMR)の化学シフトの値は、Bruker社製AV-400(400MHz)またはBruker社製AVANCE III(600MHz)を測定機器として用いて、重溶媒としては重ジメチルスルホキシド(DMSO-d)または重クロロホルム(CDCl-d)を使用して、化学シフトはテトラメチルシランを内部標準(0.0ppm)としたときのδ値(ppm)で示した。
NMRスペクトルの記載において、「s」はシングレット、「brs」はブロードシングレット、「d」はダブレット、「t」はトリプレット、「dd」はダブルダブレット、「m」はマルチプレット、「br」はブロード、「J」はカップリング定数、「Hz」はヘルツを意味する。
「DMSO-d」は重ジメチルスルホキシドを意味し、「CDCl-d」は重クロロホルムを意味する。
測定する重溶媒にトリフルオロ酢酸を添加して、NMRのピークを鮮明にする方法を測定するサンプルに応じて実行した。
【0139】
ガラス転移温度:
ポリマーのガラス転移温度は、ネッチ社製の示差走査熱量計NETZSC DSC 204 Fi Phoenixを用いて、10mL/分の窒素フロー下、昇温速度10℃/分および分析範囲:-100~200℃の条件にて測定した。
【0140】
GPC:
ポリマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で、分析条件Aにて測定し、標準ポリスチレンの較正曲線を用いて換算した。
<分析条件A>
カラム:東ソー社製ガードカラム(Tosoh TSK guard column Super AW-H)、東ソー社製カラム(Tosoh TSK gel super AW 3000)およびカラム(Tosoh TSK gel super AW 5000)を、この順に直列に連結して使用した。
カラム温度:40℃
検出器:日本分光社製の示差屈折率検出器RI-2031および紫外可視検出器UV-2075
溶離液:クロロホルム
流量:1.0mL/分
【0141】
UV-vis:
組成物の紫外-可視分光法(UV-vis)の測定は、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-650に、日本分光社製の積分球ユニットISV-722および日本分光社製のサンプルホルダーSSH-506を搭載して行った。
【0142】
イオン交換容量:
理論イオン交換容量(理論IEC)は、ポリマーまたは組成物(1g)あたりに含まれるスルホ基の量(mmol)として算出した。
滴定によるイオン交換容量(IEC)は、次のようにして算出した。まず、1×1cmの大きさに切り出したポリマーまたは組成物の膜を、10mLの塩化ナトリウム水溶液(濃度:15重量%)に1日間浸漬した後、指示薬としてフェノールフタレインと、水酸化ナトリウム水溶液(濃度:0.001mol/L)とを用いて、前記塩化ナトリウム水溶液のpHが7になるまで滴定した。pHが7になるまでに用いた水酸化ナトリウム水溶液の量から下記式:
滴定によるイオン交換容量(IEC)(mmol/g)
=〔pH7になるまでに用いた水酸化ナトリウム水溶液の量(L)〕×〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mol/L)〕×〔1/1000〕/〔膜の乾燥重量(g)〕
によって、滴定によるイオン交換容量(IEC)を算出した。
【0143】
燃料電池の発電試験:
膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下「MEA」と略称する)は、電解質膜、触媒インクおよびガス拡散層より作製した。
触媒インクは、白金担持カーボンの電極触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.2重量%、品名「TEC10E50E」)、エタノール(和光純薬工業社製)、脱イオン水、およびナフィオン分散溶液(和光純薬工業社製、品名「5% Nafion Dispersion Solution DE521 CS type」)を用いて調製した。
ガス拡散層は、疎水性カーボンペーパー(東レ社製、品名「EC-TP1-060T」)を用いた。
【0144】
エスエムテー社製のホモジナイザーUH-600で超音波を触媒インクに30分間照射した後、ノードソン社製のスプレー塗布装置V8Hを用いて、触媒インクを電解質膜の両面に塗布した。この試験では、電子供与性ポリマー(D)および電子求引性ポリマー(A)の組成物から製造した膜を電解質膜として用いた。塗布条件は、電解質膜1cmあたりの白金量を0.3mgとし、ナフィオン割合(重量%)(=[ナフィオン固形分(重量)/〔電極触媒(重量)+ナフィオン固形分(重量)〕]×100)を28重量%とした。
【0145】
次に、触媒インクを塗布した電解質膜である触媒被覆膜(Catalyst Coated Membrane、以下「CCM」と略称する)の両面にガス拡散層(Gas Diffusion Layer、以下「GDL」と略称する)を配置した後、1cmの電極面積を有する単セル(エフシー開発社製、JARI標準セル)を組み、CCMとGDLとを圧着して、MEAを作製した。作製したMEAを、1cmの電極面積を有する単セル(エフシー開発社製、JARI標準セル)に配置した。
【0146】
燃料電池評価システム(東陽テクニカ社製,AutoPEM)にて、温度40℃、相対湿度100%、100mL/分の水素および大気圧の空気ガス流で評価を行い、電流密度と電圧とを測定した。ソーラトロン社製のSI 1287電気化学的インターフェースインピーダンスアナライザーを用いて4端子法にて、セル抵抗値および開回路電圧(以下「OCV」と略称する。)を測定した。なお、OCVは、単セルに電圧または電流を印加していない状態の電位である。
【0147】
合成例1:電子供与性ポリマー(D1-1)の合成
反応容器の内部を窒素で置換した後、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサン)(9.66g、26.64mmol)、2,6-ジヒドロキシナフタレン(4.27g、26.64mmol)、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン(44.2mg、0.10mmol)およびシクロヘキサノン(24mL)を、順次、反応容器に加えた。次に反応混合物を150℃にて96時間撹拌した。反応終了後、反応混合物をメタノールに滴下して、黄色オイル状の粗生成物を得た。この粗生成物をクロロホルムに溶解させた後、この溶液をメタノールに滴下して、粗生成物を洗浄した後、溶媒を減圧乾燥して、式(1a-1):
【0148】
【化33】
【0149】
で表される構成単位を有する電子供与性ポリマー(D1-1)を黄色のオイル状で得た(3.25g、収率23%)。
【0150】
H NMR(600MHz, DMSO-d+CFCOH)
δ:7.66(2H),7.21(2H),7.09(2H),4.02(2H),3.95(4H),3.45(4H),3.34(4H),1.48(4H),0,44(4H),-0.02(12H).
図1に電子供与性ポリマー(D1-1)のH NMRのチャートを示す。
【0151】
GPC:
重量平均分子量(Mw)=2.8×10,000
数平均分子量(Mn)=1.8×10,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.5
ガラス転移温度(℃)=12.5℃
【0152】
合成例2:電子求引性ポリマー(A1-1)の合成
反応容器の内部を窒素で置換した後、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビフェニルジスルホン酸(10.33g、30.0mmol)、m-クレゾール(75mL)、およびトリエチルアミン(7.59g、75.0mmol)を、順次、反応容器に加えた。次に反応混合物を140~145℃で撹拌して、固形物を溶解させた後、その中にナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物(8.21g、30.6mmol)、および安息香酸(7.33g、60.0mmol)を加え、180~185℃にて20時間撹拌して、さらに190~195℃にて5時間撹拌して反応を行った。反応終了後、メタノールおよび濃塩酸の混合溶媒(メタノール:濃塩酸=5:1(体積比))に反応混合物を滴下して、沈殿物を析出させ、沈殿物をろ取した。
【0153】
得られた沈殿物にジメチルスルホキシドを加え、100~110℃に加熱し、得られたジメチルスルホキシド溶液を、メタノールおよび濃塩酸の混合溶媒(メタノール:濃塩酸=5:1(体積比))に滴下して、沈殿物を析出させ、ろ取した。得られた沈殿物へのジメチルスルホキシドの添加、ジメチルスルホキシド溶液の調製、ジメチルスルホキシド溶液の前記混合溶媒への滴下、および析出した沈殿物のろ取の操作を再度行った。
【0154】
得られた沈殿物にジメチルスルホキシドを添加し、100~110℃に加熱し、得られたジメチルスルホキシド溶液を、分画分子量3,500の透析膜(Spectra/Por 7, MWCO(Daltons) 3500, スペクトラムラボラトリー社製)を用いて4日間透析した。透析終了後、溶液を乾燥して、式(4a-11)で表される構成単位:
【0155】
【化34】
【0156】
からなる電子求引性ポリマー(A1-1)を黒茶色の固体として得た(12.5g、収率70%)。
【0157】
H NMR(500MHz, DMSO-d
δ:9.09-8.51(br), 8.04(s), 7.76(brs), 7.62-7.25(m).
GPC:
重量平均分子量(Mw)=1.3×100,000
数平均分子量(Mn)=5.9×1,000
分子量分布(Mw/Mn)=21
イオン交換容量:
理論イオン交換容量(理論IEC)=3.47(mmol/g)
滴定によるイオン交換容量(IEC)=3.47(mmol/g)
【0158】
合成例3:電子求引性ポリマー(A1-2)の合成
反応容器の内部を窒素で置換した後、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビフェニルジスルホン酸(4.14g、12.0mmol)、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル(0.44g、1.3mmol)、m-クレゾール(38g)、およびトリエチルアミン(3.38g、33.4mmol)を、順次、反応容器に加えた。次に反応混合物を140~145℃で撹拌して、固形物を溶解させた後、その中にナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物(3.65g、13.6mmol)、および安息香酸(3.27g、26.8mol)を加えた。次に反応混合物を、170~175℃にて27時間撹拌して、反応を行った。反応終了後、メタノールおよび濃塩酸の混合溶媒(メタノール:濃塩酸=5:1(体積比))に反応混合物を滴下して、沈殿物を析出させた後、沈殿物をろ取して、得られた沈殿物を、ジメチルスルホキシドに添加し、100~110℃に加熱して、溶解させて、ジメチルスルホキシド溶液を得た。
【0159】
次に得られたジメチルスルホキシド溶液を、メタノールおよび濃塩酸の混合溶媒(メタノール:濃塩酸=5:1(体積比))に滴下して、沈殿物を析出させ、ろ取した。沈殿物にジメチルスルホキシドを添加し、100~110℃に加熱して溶解させた後、ジメチルスルホキシド溶液を、メタノールに滴下して、沈殿物を析出させ、ろ取した。沈殿物にジメチルスルホキシドを添加し、100~110℃に加熱して溶解させた後、得られたジメチルスルホキシド溶液を、分画分子量1,000の透析膜(Spectra/Por 6, MWCO(Daltons) 1000, スペクトラムラボラトリー社製)を用いて4日間透析した。透析終了後、溶液を凍結乾燥して、式(4a-11)で表される構成単位および式(4b-11)で表される構成単位:
【0160】
【化35】
【0161】
を有するランダム共重合体である電子求引性ポリマー(A1-2)を黒茶色の固体として得た(5.4g、収率70%)。原料の仕込み量から算出される電子求引性ポリマー(A1-2)中の構成単位(4a-11)の数/構成単位(4b-11)の数は、9/1である。
【0162】
H NMR(400MHz, DMSO-d
δ:8.81(brs), 8.06(s), 7.78(brs), 7.43(brs).
GPC:
重量平均分子量(Mw)=7.5×10,000
数平均分子量(Mn)=1.6×10,000
分子量分布(Mw/Mn)=4.7
IEC:
理論イオン交換容量(IEC)=3.13(meq/g)
【0163】
合成例4:電子供与性ポリマー(D1-2)の合成
原料の2,6-ジヒドロキシナフタレンを1,5-ジヒドロキシナフタレンに変更したこと以外は合成例1と同様にして、式(1a-2):
【0164】
【化36】
【0165】
で表される構成単位を有する電子供与性ポリマー(D1-2)を黄色のオイル状で得た(1.5g、収率11%)。
【0166】
GPC:
重量平均分子量(Mw)=2.3×10,000
数平均分子量(Mn)=1.1×10,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.1
【0167】
合成例5:電子供与性ポリマー(D1-3)の合成
原料の2,6-ジヒドロキシナフタレンを2,3-ジヒドロキシナフタレンに変更したこと以外は合成例1と同様にして、式(1a-3):
【0168】
【化37】
【0169】
で表される構成単位を有する電子供与性ポリマー(D1-3)を合成した。その反応溶液をGPCにて分析することによって、電子供与性ポリマー(D1-3)が得られたことを確認した。
【0170】
GPC:
重量平均分子量(Mw)=7.2×1,000
数平均分子量(Mn)=3.4×1,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.1
【0171】
実施例1:電子供与性ポリマー(D1-1)および電子求引性ポリマー(A1-1)の組成物(I)の膜の製造
電子供与性ポリマー(D1-1)(95.1mg)、電子求引性ポリマー(A1-1)(104.9mg)およびジメチルスルホキシド(3mL)を順次、反応容器に入れ、前記ポリマーをジメチルスルホキシドに溶解させた後、得られた混合物を内径3cmのポリテトラフルオロエチレン製のシャーレに加えた。なお、使用した電子供与性ポリマー(D1-1)中の構成単位(1a-1)の量は182mmolであり、使用した電子求引性ポリマー(A1-1)中の構成単位(4a-11)の量は182mmolであった。
【0172】
次に、混合物が入ったシャーレを真空乾燥器に設置して、50℃にて減圧度500hPaで12時間、次いで65℃にて減圧度0hPaで24時間減圧乾燥することによってジメチルスルホキシドを除去して、電子供与性ポリマー(D1-1)および電子求引性ポリマー(A1-1)の組成物(I)の膜を得た(濃茶色、膜厚:60μm)。
【0173】
実施例2:電子供与性ポリマー(D1-1)および電子求引性ポリマー(A1-2)の組成物(II)の膜の製造
電子供与性ポリマー(D1-1)(49.2mg)、電子求引性ポリマー(A1-2)(107.6mg)およびジメチルスルホキシド(1.6mL)を順次、反応容器に入れ、前記ポリマーをジメチルスルホキシドに溶解させた後、得られた混合物を内径1.7cmのポリテトラフルオロエチレン製のシャーレに加えた。なお、使用した電子供与性ポリマー(D1-1)中の構成単位(1a-1)の量は94.1mmolであり、使用した電子求引性ポリマー(A1-2)中の構成単位(4a-11)と構成単位(4b-11)との合計量は187.2mmolであった。
【0174】
次に、混合物が入ったシャーレを真空乾燥器に設置して、60℃にて減圧度を大気圧から800hPaまで30分間かけて減圧し、次いで60℃にて減圧度を800hPaから0hPaまで800分間かけて減圧し、更に60℃にて減圧度0hPaで24時間減圧乾燥することによってジメチルスルホキシドを除去して、電子供与性ポリマー(D1-1)および電子求引性ポリマー(A1-2)の組成物(II)の膜を得た(濃茶色、膜厚:43μm)。
【0175】
実施例3:電子供与性ポリマー(D1-1)および電子求引性ポリマー(A1-2)の組成物(III)の膜の製造
電子供与性ポリマー(D1-1)(104.4mg)、電子求引性ポリマー(A1-2)(114.8mg)およびジメチルスルホキシド(4mL)を順次、反応容器に入れ、前記ポリマーをジメチルスルホキシドに溶解させた後、得られた混合物を内径1.7cmのポリテトラフルオロエチレン製のシャーレに加えた。なお、使用した電子供与性ポリマー(D1-1)中の構成単位(1a-1)の量は199.7mmolであり、使用した電子求引性ポリマー(A1-2)中の構成単位(4a-11)と構成単位(4b-11)との合計量は199.7mmolであった。
【0176】
次に、混合物が入ったシャーレを真空乾燥器に設置して、温度を25℃から60℃まで昇温しつつ、減圧度を大気圧から800hPaまで30分間かけて減圧し、次いで60℃にて減圧度を800hPaから0hPaまで150分間かけて減圧し、更に60℃にて減圧度0hPaで3時間減圧乾燥し、更に減圧度0hPaにて温度を60℃から100℃まで昇温することによってジメチルスルホキシドを除去して、電子供与性ポリマー(D1-1)および電子求引性ポリマー(A1-2)の組成物(III)の膜を得た(濃茶色、膜厚:25μm)。
【0177】
試験例1:電荷移動錯体の確認
紫外-可視分光法(UV-vis)にて、実施例1で得られた組成物(I)の膜の吸収スペクトルを測定した。この吸収スペクトルを図2に示す。
【0178】
図2に示されるように、組成物(I)の膜の吸収スペクトルは、530nm付近のショルダーを有していた。このショルダーは、電荷移動錯体による吸収である(Nature, 375(6529), 303-305 (1995) および Polym. J. (2013), 45,839-844 参照)。従って、この結果から、組成物(I)の膜は、電荷移動錯体を形成していることが確認された。
【0179】
試験例2:燃料電池の発電試験
実施例1と同様にして製造した組成物(I)の膜(膜厚:60μm)を電解質膜として用いて、燃料電池の発電試験を上述のようにして行った。発電試験での電圧および電流密度の結果を表1に示す。組成物(I)の膜を電解質膜として作製した単セルのOCVは0.562Vであった。
【0180】
【表1】
【0181】
試験例3:電荷移動錯体の確認
紫外-可視分光法(UV-vis)にて、実施例3で得られた組成物(III)の膜の吸収スペクトルを測定した。この吸収スペクトルを図3に示す。
【0182】
図3に示されるように、組成物(III)の膜の吸収スペクトルは、530nm付近のショルダーを有しており、組成物(I)の膜と同様に電荷移動錯体を形成していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の組成物は、例えば、燃料電池の電解質材料(例えば、電解質膜等)として有用である。
図1
図2
図3