(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】液体処理方法及び液体処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20060101AFI20221209BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20221209BHJP
A61L 2/14 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C02F1/48 B
H05H1/24
A61L2/14
(21)【出願番号】P 2019008571
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 紘実
(72)【発明者】
【氏名】松田 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】北井 崇博
(72)【発明者】
【氏名】三宅 岳
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳生
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-202282(JP,A)
【文献】特開2018-202281(JP,A)
【文献】特開2018-196852(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0230027(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46- 1/48
H05H 1/00- 1/54
A61L 2/00- 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に第1電極が配置され、他端側に第2電極が配置された断面形状が円形である筒状の処理槽に、液体供給部により前記処理槽の接線方向から第1被処理液体を導入することにより前記第1被処理液体を旋回させて前記第1被処理液体の旋回流中に気相を発生させ、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加することにより前記気相中にプラズマを発生させて前記第1被処理液体を処理する液体処理方法において、
前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の電気伝導度を電気伝導度測定部で測定し、 前記電気伝導度測定部で測定した電気伝導度と、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係とに基づいて、前記液体供給部を制御部で制御して、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量を増減させる、液体処理方法。
【請求項2】
予め異なる電気伝導度の第2及び第3被処理液体のそれぞれで、前記第2及び第3被処理液体の流量と単位時間当たりの過酸化水素生成量との関係を求め、単位時間当たりの前記所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量と電気伝導度との前記相関関係を求め、
前記電気伝導度測定部で測定した前記第1被処理液体の電気伝導度と、前記求めた相関関係とに基づいて、前記液体供給部を制御して、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量を増減させる、請求項1に記載の液体処理方法。
【請求項3】
断面形状が円形である筒状の処理槽と、
前記処理槽の一端側に配置される第1電極と、
前記処理槽の他端側に配置される第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源と、
前記処理槽の接線方向から第1被処理液体を導入する液体供給部と、
前記液体供給部により前記処理槽に前記第1被処理液体を導入し、この導入により前記第1被処理液体を旋回させて前記第1被処理液体の旋回流中に気相を発生させる液体導入口とを備える液体処理装置において、
前記液体供給部により前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の電気伝導度を測定する電気伝導度測定部と、
前記電気伝導度測定部で測定した電気伝導度と、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係とに基づいて、前記液体供給部を制御して前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量を増減させる制御部とを備える、液体処理装置。
【請求項4】
予め異なる電気伝導度の第2及び第3被処理液体のそれぞれで、前記第2及び第3被処理液体の流量と単位時間当たりの過酸化水素生成量との関係を求め、単位時間当たりの前記所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量と電気伝導度との前記相関関係を求めて記録する情報記録部をさらに備えて、
前記制御部は、前記情報記録部に記録された前記相関関係と、前記電気伝導度測定部で測定した前記第1被処理液体の電気伝導度とに基づいて、前記液体供給部を制御して、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量を増減させる、請求項
3に記載の液体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を電気化学的に処理する液体処理方法及び液体処理装置に関する。より詳細には、本発明は、液体中でプラズマを発生させ、液体に含まれる汚濁物質又は菌がプラズマに直接触れることによる分解及び殺菌作用と、プラズマ放電により発生する紫外線及びラジカルなどによる分解及び殺菌作用を同時に起こして、液体を処理する液体処理方法及び液体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10に、特許文献1に記載に記載されている従来の液体処理装置の例を示す。液体処理装置100は、装置本体110、液体供給部150、配管151、貯留槽190、及び電源160を備えている。装置本体110は、処理槽112、導入部115、排出部117、第1電極130、及び第2電極131を備えている。
【0003】
図11は、液体処理装置100が動作している状態を示す図である。処理槽112は円筒状になっており、円筒の接線方向に設けられた導入部115から、被処理液体L1を導入することで、旋回流F1を発生させる。旋回流F1によって処理槽112の中心軸X1の近傍の圧力が飽和水蒸気圧以下に低下し、中心軸X1付近において被処理液体L1の一部が気化した水蒸気が発生することで、気相Gが生成される。第1電極130、及び第2電極131の間に高電圧を印加することで、気相Gにプラズマ放電を発生させる。このとき、プラズマが直接触れることで、被処理液体L1中に含まれる汚濁物質等が分解処理される。同時に、例えば、ヒドロキシルラジカル(OHラジカル)又は過酸化水素等の酸化力を持つ成分が生成され、それらの成分が液体中に含まれる汚濁物質等と反応することでも分解処理が進展する。水中にプラズマが発生することにより生成されるラジカルの中でも、特にOHラジカルは高い酸化力を有することが知られており、被処理液体L1中に溶解している難分解性有機化合物を分解処理することが可能である。さらに、排出部117付近の酸化成分を含んだ気相Gは、貯留槽190内の液体の抵抗を受ける事でせん断され、酸化成分を含有した気泡Bを生じる。処理液L2には、OHラジカル又は過酸化水素などの酸化成分だけでなく、気泡Bも含まれるため、より効率的に液体中に含まれる汚濁物質等を分解することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の液体処理装置100では、第1電極130と第2電極131とが気相Gと被処理液体L1を介して電気的に接続される構成であるために、被処理液体L1の電気伝導度によって、液体処理の効果が影響を受けることになる。詳細には、電流経路は、第1電極130から気相Gに発生したプラズマPを通る電流経路r1と、電流経路r1を通った後に排出部117付近から被処理液体L1を通る電流経路r2とがある。被処理液体L1の電気伝導度が変化すれば、電流経路r2の電気抵抗値が変化し、第1電極130と第2電極131との間の電気抵抗値も変化する。そのため、第1電極130と第2電極131との間に電圧を印加し、被処理液体L1を処理する際に、その電気伝導度によって、プラズマPの起こりやすさが変わり、プラズマPによる被処理液体L1の処理効果にばらつきが生じる、という課題が発生する。
【0006】
本発明は、このような点に鑑み、被処理液体の電気伝導度によらず、安定して被処理液体を処理する液体処理方法及び液体処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の1つの態様にかかる液体処理方法は、一端側に第1電極が配置され、他端側に第2電極が配置された断面形状が円形である筒状の処理槽に、液体供給部により前記処理槽の接線方向から第1被処理液体を導入することにより前記第1被処理液体を旋回させて前記第1被処理液体の旋回流中に気相を発生させ、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加することにより前記気相中にプラズマを発生させて前記第1被処理液体を処理する液体処理方法において、
前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の電気伝導度を電気伝導度測定部で測定し、
前記電気伝導度測定部で測定した電気伝導度と、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係とに基づいて、前記液体供給部を制御部で制御して、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量を増減させる。
【0008】
本発明の別の態様にかかる液体処理装置は、断面形状が円形である筒状の処理槽と、
前記処理槽の一端側に配置される第1電極と、
前記処理槽の他端側に配置される第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源と、
前記処理槽の接線方向から第1被処理液体を導入する液体供給部と、
前記液体供給部により前記処理槽に前記第1被処理液体を導入し、この導入により前記第1被処理液体を旋回させて前記第1被処理液体の旋回流中に気相を発生させる液体導入口とを備える液体処理装置において、
前記液体供給部により前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の電気伝導度を測定する電気伝導度測定部と、
前記電気伝導度測定部で測定した電気伝導度と、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係とに基づいて、前記液体供給部を制御して前記処理槽に導入する前記第1被処理液体の流量を増減させる制御部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前記態様にかかる液体処理方法及び液体処理装置によれば、被処理液体の電気伝導度を測定し、測定した電気伝導度と、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係とによって液体供給部を制御して、処理槽に導入する被処理液体の流量を増減させ、プラズマの発生しやすさを変化させることができる。このような構成によって、被処理液体の電気伝導度によらず、安定して被処理液体を処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態にかかる液体処理装置の構成を示す全体図
【
図4】処理槽の内部に旋回流が発生しており、電圧を印加していない状態を示す側面断面図
【
図5】処理槽の内部に旋回流が発生しており、電圧を印加した状態を示す側面断面図
【
図6】異なる電気伝導度の液体で過酸化水素生成量と流量との相関関係を確認する際に作成するグラフの概略図
【
図7】情報記録部に記録する流量と電気伝導度との相関関係のグラフの概略図
【
図8】実施例で、5つの電気伝導度の液体で過酸化水素生成量と流量との相関関係を確認した際のグラフ
【
図9】実施例で、情報記録部に記録した流量と電気伝導度との相関関係のグラフ
【
図11】従来の液体処理装置の処理槽内部に旋回流が発生しており、電極間に電圧を印加した状態を示す側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態にかかる液体処理方法及び液体処理装置を詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、説明を分かり易くするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されていたりする。また、各図に示された構成部在間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0012】
[全体構成]
まず、液体処理装置1の全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる液体処理装置1の構成を示す全体図である。
【0013】
図1に示す液体処理装置1は、貯留槽90に接続されている状態を示している。液体処理装置1と貯留槽90とを合わせて、液体処理システムとすることもできる。液体処理装置1は、被処理液体中で放電することによって被処理液体を処理する。本実施形態では、汚濁物質が溶解した水溶液を処理する場合について説明する。貯留槽90には、液体処理装置1で処理された処理液L2が貯溜される(
図5参照)。
【0014】
液体処理装置1は、少なくとも、処理槽12と、第1電極30と、第2電極31と、電源60とを備えている。より具体的には、液体処理装置1は、装置本体10、液体供給部50、及び、電源60を備えている。
【0015】
装置本体10は、処理槽12、液体導入口の一例として機能する導入部15、排出部17、絶縁体53で被覆された第1電極30、及び第2電極31を備えている。
【0016】
処理槽12は、内部に導入された被処理液体(例えば、水)を処理している部分である。処理槽12の正面断面形状は円形である(
図3参照)。処理槽12は、処理槽12の被処理液体L1の旋回軸(言い換えれば、中心軸)X1沿いの一端側が断面形状が円形である円柱状の処理室を有している。
【0017】
処理槽12の一端には導入部15が配置され、処理槽12の他端には排出部17が配置されている。導入部15は、処理槽12に被処理液体を導入する。導入部15は、第1配管51を介して液体供給部50に連通している。
【0018】
排出部17は、処理槽12で処理された処理液L2を処理槽12から排出させる。排出部17は、貯留槽90の取り入れ口91に接続されており、排出部17から排出された処理液L2は、取り入れ口91を介して貯留槽90に貯溜される。処理槽12の材質は絶縁体でもよいし、導体でもよい。導体の場合には、各電極30,31との間に絶縁体53を介在する必要がある。
【0019】
第1電極30は、棒状である。絶縁体53で部分的に被覆された第1電極30は、処理槽12の内部に配置されている。第1電極30は、処理槽12の排出部17が形成された壁面と対向する壁面側に配置されている。
【0020】
第2電極31は、排出部17の近傍に配置されている。
【0021】
第1電極30は電源60が接続されており、第2電極31は接地されている。第1電極30及び第2電極31には、電源60により高電圧のパルス電圧が印加される。
【0022】
電源60は、後述する制御部73の制御の下に、第1電極30と第2電極31との間に例えば数kVの正もしくは負の高電圧のパルス電圧を印加可能とする。他の例としては、電源60は、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを交互に印加する、いわゆるバイポーラパルス電圧を印加することもできる。
【0023】
液体供給部50は、一例として、処理槽12内に被処理液体(例えば、水)L1を供給するポンプである。液体供給部50は、第1配管51の基端と第2配管52の先端とに接続されている。第1配管51の先端は導入部15に接続されており、第2配管52の基端は液体供給源(例えば、水タンク)79又は貯留槽90の処理液L2を含んだ貯留水すなわち被処理液L3を循環できる形に接続されている(
図1の一点鎖線の循環用配管81などを参照)。
【0024】
液体処理装置1は、さらに、電気伝導度測定部70と、制御部73とを備えている。
【0025】
電気伝導度測定部70は、処理槽12に導入する被処理液体L1の電気伝導度を測定する。
【0026】
制御部73は、電気伝導度測定部70で測定した電気伝導度に基づいて、例えば液体供給部50を制御して、処理槽12に導入する被処理液体L1の流量を増減させる。
【0027】
被処理液体の電気伝導度を測定する電気伝導度測定部70は第2配管52の内部、もしくは液体供給源79の内部に設置されている(
図1の一点鎖線を参照)。電気伝導度測定部70の測定方式は問わない。
【0028】
制御部73は、電気伝導度測定部70と液体供給部50とに配線で接続されている。また、制御部73の内部には、情報記録部72と流量調整部71とを有している。
【0029】
情報記録部72には、予め単位時間当たりに一定量の酸化物質、例えば過酸化水素を生成できる、液体供給部50から処理槽12に導入する被処理液体L1の流量と被処理液体L1の電気伝導度との相関関係の情報を記録する。
【0030】
流量調整部71は、情報記録部72に記録された相関関係の情報を基に、電気伝導度測定部70で測定した電気伝導度により、液体供給部50の図示しない電源からの印加電圧もしくは電流を変化させ、液体供給部50からの被処理液体L1の流量を増減させる。
【0031】
[装置本体]
次に、装置本体10について詳細に説明する。
図2は、装置本体10の側面断面図を示す図である。
【0032】
処理槽12は、第1内壁21、第2内壁22、及び第3内壁23を有している。第1内壁21は、筒状の壁部である。第2内壁22は、第1内壁21の第1端部例えば
図2の図示左端部に設けられている。第3内壁23は、第1内壁21の第2端部例えば
図2の図示右端部に設けられている。第2内壁22及び第3内壁23は、側面視では略円形である。第1内壁21、第2内壁22、及び第3内壁23により、処理槽12の内部には、略円柱状の収容空間83が構成されている。第1内壁21の中心軸、つまり、処理槽12の内部に構成される略円柱状の収容空間83の仮想の中心軸を中心軸X1とする。
【0033】
第2内壁22には、中央に内向きに突出した電極支持筒24が設けられている。電極支持筒24は、筒状であり、第3内壁23側すなわち
図2の右方に延びている。電極支持筒24は、その中心軸が中心軸X1と一致するように配置されている。電極支持筒24の内側には、絶縁体53を介して第1電極30が支持されている。第1電極30は棒状であり、絶縁体53は第1電極30の周囲に配置されている。絶縁体53及び電極支持筒24は、第2内壁22から第3内壁23側すなわち
図2の右方に同じぐらいに突出している。このため、第1電極30は、長手方向の軸が中心軸X1と一致するように配置されている。第1電極30の内側端部は、絶縁体53及び電極支持筒24よりも、さらに第3内壁23側すなわち
図2の右方に突出している。
【0034】
導入部15は、装置本体10を貫通しており、一方の開口端16が第1内壁21に形成されている。導入部15は、側面視では、第2内壁22に隣接した位置に配置されている。また、
図3は、
図2のIII―III線における断面図である。導入部15は、第1内壁21の壁面に配置されている。
【0035】
排出部17は、第3内壁23の例えば中央部を貫通している。排出部17は、その中心軸が中心軸X1と一致するように形成されている。
【0036】
第2電極31は、板状の金属部材であり、中央部に開口部311が形成されている。開口部311は円形であり、その中心が中心軸X1と一致するように形成されている。
【0037】
[動作]
次に、液体処理装置1の動作について説明する。
【0038】
以下では、説明の便宜上、処理槽12の内部に円柱状の気相Gを発生させる状態(
図4)と、電源60から気相Gにパルス電圧を印加してプラズマPを発生させる状態(
図5)とを分けて説明する。
図4は、処理槽12の内部に旋回流F1が発生しており、パルス電圧を印加していない状態を示す側面断面図である。
【0039】
まず、
図4に示すように、導入部15から処理槽12に被処理液体(例えば、水)L1が所定の圧力、すなわち、ポンプの供給圧力又はポンプ無しで水道水などの場合は水道水の供給圧力で導入されると、被処理液体L1は、第1内壁21に沿って旋回流F1を発生させながら導入部15から
図4の右方に向けて移動する。旋回しながら
図4の右方に移動した旋回流F1は、排出部17に向けて移動する。
【0040】
旋回流F1により、第1内壁21の中心軸X1付近の圧力が飽和水蒸気圧以下に低下し、被処理液体L1の一部が気化して気相Gが、第1内壁21の中心軸X1付近に生成される。気相Gは、旋回中心付近、具体的には、中心軸X1と一致して
図4の第1電極30の右端部から第1内壁21の中心軸X1に沿って、第2電極31付近まで発生する。すなわち、気相Gは、円柱形状であり、処理槽12の一方の端部側から、被処理液体L1の旋回流F1の旋回中心X1に沿って、処理槽12の他方の端部側まで発生する。気相Gは、接している旋回流F1により、旋回流F1と同方向に旋回している。旋回している気相Gは、排出部17近傍で貯留槽90内の処理液L2の抵抗を受ける事で、マイクロバブル又はウルトラファインバブル(ナノバブル)にせん断され、排出部17から、排出部17に接続された取り入れ口91を介して貯留槽90に拡散される。
【0041】
図5は、
図4の状態に続いて処理槽12の内部に旋回流F1が発生しており、電源60からパルス電圧を第1電極30と第2電極31との間に印加した状態を示す側面断面図である。
図5に示すように、被処理液体L1が気化した気相Gが第1電極30から第2電極31近傍まで発生している状態で、電源60により、第1電極30と第2電極31との間に高電圧のパルス電圧を印加する。第1電極30と第2電極31とに高電圧のパルス電圧が印加されると、気相G内において、第1電極30の右端から第2電極31までプラズマPが発生し、ラジカル(OHラジカル等)又はイオンを生成する。そのラジカル又はイオンは、気相Gから旋回流F1側へ溶解することで、被処理液体L1中に溶解している汚濁物質を分解処理する。加えて、排出部17付近の気相G内のプラズマPは、貯留槽90内の処理液L2の抵抗を受ける事でOHラジカル等を含有した大量の気泡Bを生じる。この様に、プラズマPにより発生したOHラジカル等により処理され、OHラジカル等を含有した気泡Bを含んだ状態の処理液L2が、排出部17から貯留槽90に向けて排出される。つまり、プラズマPによって生成されたOHラジカル等は、直接もしくは気泡B内から貯留槽90内の処理液L2に溶解する。そして、一定時間が経過すると、貯留槽90内の処理液L2は、比較的安定な過酸化水素に変化する。なお、高電圧のパルス電圧の印加によって生成したプラズマPは、電圧の印加を停止すると消失する。
【0042】
なお、プラズマ放電が発生する際には、同時に紫外線が発生する。発生した紫外線が汚濁物質又は菌に照射されると、分解及び殺菌作用を発揮することができる。また、処理液中に発生した過酸化水素水に紫外線が照射されることで、前記したようにOHラジカルが発生し、これによっても分解及び殺菌作用が発揮される。
【0043】
次に、本発明の実施形態にかかる液体処理装置1における、制御部73の制御による液体供給部50の流量の調節方法を説明する。
【0044】
液体供給部50の流量は、電気伝導度測定部70で測定された電気伝導度より、情報記録部72に記録されたデータを基に制御部73で決定し、制御部73の流量調整部71の出力、つまり、液体供給部50への図示しない電源からの印加電圧もしくは電流を変化させることによって、液体供給部50からの被処理液体L1の流量を増減させる。
【0045】
続いて、情報記録部72に記録するデータの求め方について説明する。
図6は、異なる電気伝導度0μS/cmの液体、AμS/cmの液体、BμS/cmの液体、・・・、ZμS/cmの液体のそれぞれでの単位時間当たりの過酸化水素生成量と流量との相関関係を確認する際に作成するグラフの概略図である。A,B、…、Zは互いに異なりかつ0<A<B<、・・・、<Zの任意の数値である。
図7は、情報記録部72に記録する流量と電気伝導度との相関関係のグラフの概略図である。
【0046】
相関関係を求めるときには、例えば、以下のように処理する。
【0047】
まず、電気伝導度が0μS/cmの被処理液体L1を用意する。そして、被処理液体L1の電気伝導度が0μS/cmのとき、制御部73での制御の下に液体供給部50から処理槽12への被処理液体L1の流量を最大にした際の単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量を取得する。過酸化水素の濃度は吸光光度計(図示せず)にて測定して、制御部73で、測定した過酸化水素の濃度と被処理液体L1の流量とより、単位時間当たりの過酸化水素生成量を取得する。
【0048】
次に、電気伝導度が0μS/cmより大きい別の被処理液体を用意する。そして、この別の被処理液体において、単位時間当たりの前記所定の過酸化水素生成量を満たす別の被処理液体の流量を制御部73で求める。この処理を、電気伝導度が異なる被処理液体毎に計算することにより、前記所定の過酸化水素生成量に対する、被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係を求めることができる。
【0049】
以下に、この相関関係を求める処理を、具体的な例に基づいて詳しく説明する。
【0050】
一例として、
図7のグラフを求めるために、まずは、ステップS1として、
図6のグラフを制御部73で作成する。
図6のグラフ作成には、初めに、電気伝導度が0μS/cmの被処理液体を用意し、液体供給部50への印加電圧もしくは電流を最大、つまり、用意した被処理液体の流量を最大にした際の単位時間当たりの過酸化水素生成量を取得する。なぜならば、電気伝導度が0μS/cmのとき、第1電極30と第2電極31との間の電気抵抗値が最大になるので、放電が一番起こりづらく、単位時間当たりの過酸化水素濃度生成量が小さくなる被処理液体の電気伝導度だからである。この単位時間当たりの過酸化水素生成量S0mg/L/minを、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量と定義する。
【0051】
次に、ステップS2として、電気伝導度が0μS/cmより大きい別の被処理液体を用意し、単位時間当たりの前記所定の過酸化水素生成量S0mg/L/minを満たす前記別の被処理液体の流量を制御部73で求め、情報記録部72に記録する。液体供給部50からの前記別の被処理液体の流量を、気相Gが形成される最小の流量から大きくしていくと、単位時間当たりの過酸化水素生成量は多くなる。これは、一般に、被処理液体の流量を上げると、旋回流F1の流速が大きくなり、円柱状の気相Gの直径が大きくなるので、気相Gの電気抵抗値が小さくなり、放電が起こりやすくなるからである。前記別の被処理液体の流量を徐々に大きくしていくと、やがて単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量S0mg/L/minを満たす前記別の被処理液体の流量がある。その流量を制御部73で情報記録部72に記録する。
【0052】
次いで、ステップS3として、前記別の被処理液体の電気伝導度に対して電気伝導度を大きくした、さらに別の被処理液体を用意する。このさらに別の被処理液体を使用しながら、上記のステップS2を制御部73で繰り返す。すなわち、ステップS3は、ステップS2と同様な処理を、電気伝導度が異なる被処理液体毎に実施する。すると、ある電気伝導度から、電気伝導度による単位時間当たりの過酸化水素生成量への影響が小さくなる。被処理液体に電気が十分に流れやすくなり、放電の起こりやすさが変わらなくなるためである。電気伝導度による過酸化水素生成量への影響が制御部73で確認できなくなったところで、前記のステップS3を終了する。
【0053】
このようなステップS2~S3の前記の流量のプロット作業より、情報記録部72には、流量と電気伝導度との相関関係を示す
図7中のプロット点が記録されている。各プロット点は、各電気伝導度における単位時間当たりに所定の過酸化水素生成量S0mg/L/minの過酸化水素を生成できる流量である。制御部73で各プロット点を滑らかな曲線で繋ぐと、単位時間当たりに一定の過酸化水素生成量に対する流量と電気伝導度との相関関係の情報を示すグラフが制御部73で作成できる。すなわち、情報記録部72には、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、流量と電気伝導度との相関関係の情報が記録されていることになる。
【0054】
被処理液体L1を処理する際は、電気伝導度測定部70で測定した電気伝導度より、情報記録部72の相関関係の情報を基に、液体供給部50から処理槽12への被処理液体L1の流量を制御部73で決定し、流量調整部71により液体供給部50から処理槽12への被処理液体L1の流量を増減させることができる。
【0055】
[実施例]
第1電極30と第2電極31との間の距離が17mm、処理槽12の直径が20mmの条件で実施した例を記載する。
図8は、被処理液体として、異なる5つの電気伝導度の液体で、流量と単位時間当たりの過酸化水素生成量との相関関係を確認したグラフである。ここで、異なる5つの電気伝導度の液体とは、新のミネラルウォータを電気伝導度0μS/cmの超純水で希釈したものを用いている。ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム等、実際の水道水に含まれる無機イオンを含む水では、その無機イオンの含有量が異なっても、電気電導度が同じであれば、同量の過酸化水素を生成できることを確認している。また、
図8より、被処理液体の電気伝導度0μS/cmで、且つ液体供給部50に印加する電圧が最大のときの単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量が1.7mg/L/minであることから、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量1.7mg/L/minを満たす流量をプロットし、滑らかな曲線で結んだグラフを
図9に示す。この
図9のグラフが、流量と電気伝導度との相関関係の情報の例である。
【0056】
実際に、電気伝導度測定部70で測定した液体の電気伝導度から、情報記録部72に記録された
図9のグラフの流量と電気伝導度との相関関係の情報を基に、流量調整部71により液体供給部50の流量を増減すると、単位時間当たりの過酸化水素生成量が一定になる。
【0057】
以上、説明した本実施形態によれば、被処理液体L1の電気伝導度を電気伝導度測定部70で測定し、電気伝導度測定部70で測定した電気伝導度と、単位時間当たりの所定の過酸化水素生成量に対する、前記処理槽に導入する前記被処理液体の流量と電気伝導度との相関関係とによって液体供給部50を制御部73で制御して被処理液体L1の流量を増減させ、プラズマPの発生しやすさを変化させるように構成している。このように構成することによって、処理槽12に導入する被処理液体L1の電気伝導度によらず、単位時間当たりに一定量の過酸化水素生成量を生成することができる。過酸化水素の生成量がばらつく場合、生成量が少ないと、被処理液体の処理の効果が十分に期待できない。また、生成量が多いと、液体処理装置に使用する部材を腐食するという課題が発生するが、本発明にかかる実施形態はその課題を解決するものである。
【0058】
なお、情報記録部72へ予め記録する液体供給部50の流量と被処理液体L1の電気伝導度との相関関係の情報を制御部73で算出するために測定する酸化物質は、上記では過酸化水素で説明したが、過酸化水素に限られるものではなく、プラズマPによって発生する酸化物質であれば、種類は問わない。
【0059】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の液体処理方法及び液体処理装置では、旋回流でプラズマを発生させることにより、被処理液体に含まれる汚濁物質又は菌がプラズマに直接触れることによる分解及び殺菌作用と、プラズマ放電により発生する紫外線及びラジカルなどによる分解及び殺菌作用を同時に起こして、被処理液体を処理することが可能であり、殺菌、脱臭、又は各種の環境改善等に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 液体処理装置
10 装置本体
12 処理槽
15 導入部
16 開口端
17 排出部
21 第1内壁
22 第2内壁
23 第3内壁
24 電極支持筒
30 第1電極
31 第2電極
50 液体供給部
51 第1配管
52 第2配管
53 絶縁体
60 電源
70 電気伝導度測定部
71 流量調整部
72 情報記録部
73 制御部
79 液体供給源
81 循環用配管
83 収容空間
90 貯留槽
91 取り入れ口
311 開口部
L1 被処理液体
L2 処理液
L3 貯留水すなわち被処理液
B 気泡
100 液体処理装置
110 装置本体
112 処理槽
115 導入部
117 排出部
130 第1電極
131 第2電極
150 液体供給部
151 配管
160 電源
190 貯留槽