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特許7190700桟橋の損傷度評価支援装置、評価方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】桟橋の損傷度評価支援装置、評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E01D 15/24 20060101AFI20221209BHJP
   G06Q 10/00 20120101ALI20221209BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
E01D15/24
G06Q10/00 300
E01D22/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019051143
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020153111
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 州彦
(72)【発明者】
【氏名】岩波 光保
【審査官】大塚 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-340590(JP,A)
【文献】特開2006-323741(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047315(WO,A1)
【文献】石原慎太郎ほか,桟橋上部工の劣化度予測手法について,沿岸技術研究センター論文集,日本,沿岸技術研究センター,2007年10月,No.7,pp.63-67
【文献】宇野州彦、岩波光保,劣化度判定結果を活用した残存耐力評価手法の実桟橋への適用,土木学会論文集B3(海洋開発),日本,土木学会,2018年09月12日,Vol.74,No.2,pp.I_55-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
G06Q 10/00-10/10
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G16Z 99/00
G01M 13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
想定される外力が与えられた桟橋上部工における損傷の判定基準を満たす領域の割合を示す構造解析結果を複数保存したデータベースが構築されている状態において、
評価対象とする評価対象桟橋の外観に基づき判定した各梁の劣化度判定結果を取得する判定結果取得手段と、
前記劣化度判定結果を用いて前記評価対象桟橋の上部工劣化度を計算する計算手段と、
前記データベースの中から、前記評価対象桟橋の上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得する結果取得手段と、
取得した前記構造解析結果を出力する出力手段と
を備える桟橋の損傷度評価支援装置。
【請求項2】
前記計算手段は、前記評価対象桟橋の各梁に対して設定された補正係数及び前記劣化度判定結果を用いて計算される数値をそれぞれ積算することにより、前記評価対象桟橋の上部工劣化度を示す点数を計算する
請求項1に記載の桟橋の損傷度評価支援装置。
【請求項3】
前記各梁は、前記評価対象桟橋の法線平行方向の梁配列に応じてグループが形成され、
前記計算手段における前記補正係数は、同一のグループに属する梁に対しては当該グループ固有の値をそれぞれ用いる
請求項2に記載の桟橋の損傷度評価支援装置。
【請求項4】
前記各梁は、前記評価対象桟橋の法線に対する梁向きに応じてグループが形成され、
前記計算手段における前記補正係数は、同一のグループに属する梁に対しては当該グループ固有の値をそれぞれ用いる
請求項2に記載の桟橋の損傷度評価支援装置。
【請求項5】
前記出力手段は、取得した前記構造解析結果から、前記判定基準を満たす前記領域の面積を算出して出力する
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の桟橋の損傷度評価支援装置。
【請求項6】
将来予測の確率モデルを用いて、前記評価対象桟橋の将来の任意時点における上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得する
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の桟橋の損傷度評価支援装置。
【請求項7】
想定される外力が与えられた桟橋上部工における損傷の判定基準を満たす領域の割合を示す構造解析結果を複数保存したデータベースが構築されている状態において、
評価対象とする評価対象桟橋の外観に基づき判定した各梁の劣化度判定結果を取得するステップと、
前記劣化度判定結果を用いて前記評価対象桟橋の上部工劣化度を計算するステップと、
前記データベースの中から、前記評価対象桟橋の上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得するステップと、
取得した前記構造解析結果を出力するステップと
を備える桟橋の評価方法。
【請求項8】
想定される外力が与えられた桟橋上部工における損傷の判定基準を満たす領域の割合を示す構造解析結果を複数保存したデータベースが構築されている状態において、
コンピュータを、
評価対象とする評価対象桟橋の外観に基づき判定した各梁の劣化度判定結果を取得する判定結果取得手段と、
前記劣化度判定結果を用いて前記評価対象桟橋の上部工劣化度を計算する計算手段と、
前記データベースの中から、前記評価対象桟橋の上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得する結果取得手段と、
取得した前記構造解析結果を出力する出力手段
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桟橋の損傷度を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
桟橋は経年劣化していくため、定期的な点検と補修が必要である。例えば非特許文献1には、桟橋の詳細定期点検診断と、詳細定期点検診断より簡易に実施できる一般定期点検診断の各々に関し、点検項目及び判断基準が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】国土交通省港湾局監修、「港湾の施設の維持管理技術マニュアル(改訂版)」一般財団法人沿岸技術研究センター、2018年7月、p.296、p.317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外力に対する桟橋の損傷を評価するには、非特許文献1に記載された詳細定期点検診断を実施し、その結果に基づいた構造解析を行う必要がある。詳細定期点検診断の実施は、点検期間が長期に渡り、またコストもかかるため、外力に対する桟橋の損傷の評価を積極的に実施しにくい状況となっている。
【0005】
上述の背景に鑑み、本発明は、外力が作用したときの桟橋の損傷の程度を簡易に取得可能とする手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、想定される外力が与えられた桟橋上部工における損傷の判定基準を満たす領域の割合を示す構造解析結果を複数保存したデータベースが構築されている状態において、評価対象とする評価対象桟橋の外観に基づき判定した各梁の劣化度判定結果を取得する判定結果取得手段と、前記劣化度判定結果を用いて前記評価対象桟橋の上部工劣化度を計算する計算手段と、前記データベースの中から、前記評価対象桟橋の上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得する結果取得手段と、取得した前記構造解析結果を出力する出力手段とを備える桟橋の損傷度評価支援装置を第1の態様として提供する。
【0007】
第1の態様の評価支援装置によれば、外力が作用したときの桟橋の損傷の程度を簡易に取得することができる。
【0008】
第1の態様の評価支援装置において、前記計算手段は、前記評価対象桟橋の各梁に対して設定された補正係数及び前記劣化度判定結果を用いて計算される数値をそれぞれ積算することにより、前記評価対象桟橋の上部工劣化度を示す点数を計算する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0009】
第2の態様の評価支援装置によれば、劣化について梁の位置による桟橋全体への影響の程度を含めて点数を計算することで、構造解析結果を得ることができる。
【0010】
また、本発明は、第2の態様の評価支援装置において、前記各梁は、前記評価対象桟橋の法線平行方向の梁配列に応じてグループが形成され、前記計算手段における前記補正係数は、同一のグループに属する梁に対しては当該グループ固有の値をそれぞれ用いる、という構成を第3の態様として提供する。
【0011】
第3の態様の評価支援装置によれば、桟橋の法線平行方向の梁の劣化について、梁の配列による桟橋全体への影響の程度を含めて点数を計算することで、構造解析結果を得ることができる。
【0012】
また、本発明は、第2の態様の評価支援装置において、前記各梁は、前記評価対象桟橋の法線に対する梁向きに応じてグループが形成され、前記計算手段における前記補正係数は、同一のグループに属する梁に対しては当該グループ固有の値をそれぞれ用いる、という構成を第4の態様として提供する。
【0013】
第4の態様の評価支援装置によれば、梁の向きによる桟橋全体への影響の程度を含めて点数を計算することで、構造解析結果を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、第1乃至第4のいずれかの態様の評価支援装置において、前記出力手段は、取得した前記構造解析結果から、前記判定基準を満たす前記領域の面積を算出して出力する、という構成を第5の態様として提供する。
【0015】
第5の態様の評価支援装置によれば、損傷の程度を具体的に知ることができる。
【0016】
また、本発明は、第1乃至5のいずれかの態様の評価支援装置において、将来予測の確率モデルを用いて、前記評価対象桟橋の将来の任意時点における上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得する、という構成を第6の態様として提供する。
【0017】
第6の態様の評価支援装置によれば、将来の時点における損傷の程度を取得することができる。
【0018】
また、本発明は、想定される外力が与えられた桟橋上部工における損傷の判定基準を満たす領域の割合を示す構造解析結果を複数保存したデータベースが構築されている状態において、評価対象とする評価対象桟橋の外観に基づき判定した各梁の劣化度判定結果を取得するステップと、前記劣化度判定結果を用いて前記評価対象桟橋の上部工劣化度を計算するステップと、前記データベースの中から、前記評価対象桟橋の上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得するステップと、取得した前記構造解析結果を出力するステップとを備える桟橋の評価方法を第7の態様として提供する。
【0019】
第7の態様の評価支援方法によれば、外力が作用したときの桟橋の損傷の程度を簡易に取得することができる。
【0020】
また、本発明は、想定される外力が与えられた桟橋上部工における損傷の判定基準を満たす領域の割合を示す構造解析結果を複数保存したデータベースが構築されている状態において、コンピュータを、評価対象とする評価対象桟橋の外観に基づき判定した各梁の劣化度判定結果を取得する判定結果取得手段と、前記劣化度判定結果を用いて前記評価対象桟橋の上部工劣化度を計算する計算手段と、前記データベースの中から、前記評価対象桟橋の上部工劣化度に対応する、桟橋上部工の構造解析結果を取得する結果取得手段と、取得した前記構造解析結果を出力する出力手段として機能させるためのプログラムを第8の態様として提供する。
【0021】
第8の態様のプログラムによれば、外力が作用したときの桟橋の損傷の程度を簡易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係るコンピュータ装置10のハードウェア構成を示したブロック図。
図2】データベースDB1の一例を示した図。
図3】コンピュータ装置10の機能ブロック図。
図4】コンピュータ装置10が行う処理の流れを示したフローチャート。
図5】桟橋の梁の劣化度の判定基準の一例を示した図。
図6】桟橋Pの梁の劣化度の判定結果の一例を示した図。
図7】桟橋Pの梁の補正係数を説明するための図。
図8】桟橋Pの梁の補正係数を説明するための図。
図9】変形例に係るコンピュータ装置10が行う処理の流れを示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係るコンピュータ装置10のハードウェア構成を示したブロック図である。コンピュータ装置10は、本発明に係る評価支援装置の一例であり、桟橋に外力が作用したときに生じる損傷に係る情報を出力する機能を有する。本実施形態においては、コンピュータ装置10は、パーソナルコンピュータである。
【0024】
操作部104は、キーボードおよびマウスを有する。オペレータは、操作部104のキーボードやマウスを操作することにより、桟橋の評価に係る各種データを入力する。なお、各種データの入力は、キーボードやマウスを用いる構成に限定されるものではなく、例えば、音声入力や画像認識による入力で行われてもよい。ディスプレイ103は、コンピュータ装置10を操作するためのGUIや、桟橋の評価結果を表示する。
【0025】
記憶部102は、ハードディスク装置を有し、取得したデータに基づいて桟橋の損傷に係る情報を出力するプログラムを記憶する。また、記憶部102は、複数の桟橋について、梁の劣化のパターンを複数設定し、設定したパターンのそれぞれについて外力が作用したときの構造解析の結果を格納したデータベースDB1を記憶する。
【0026】
図2は、記憶部102が記憶するデータベースDB1の一例を示した図である。解析ケースの列には、梁の損傷のパターンを識別する番号が格納される。構造解析結果の列には、桟橋に対して外力が作用したときの損傷の構造解析結果が格納され、例えば、外力として桟橋に接岸する船舶から桟橋が受ける接岸力、レベル1地震動、レベル2地震動が作用したときの損傷の構造解析結果などが格納される。なお、図2に示した外力は一例である。外力は、前述のものに限定されるものではなく、クレーン作業荷重や牽引力などを含めてもよい。構造解析結果の列に格納されるデータは、本発明に係る構造解析結果の一例である。
【0027】
なお、図2に示した例では、構造解析結果として、梁の総面積に対する有害ひび割れ領域の割合(面積率)、梁の総面積に対する降伏領域の割合(面積率)、梁の総面積に対する終局領域の割合(面積率)を示している。有害ひび割れ領域については、港湾の施設の技術上の基準に基づき、予め定められたひび割れ幅の限界値を超える場合を有害ひび割れとし、有害ひび割れ幅が存在する梁の領域を有害ひび割れ領域としている。降伏領域については、弾性範囲を超え、塑性領域に達している梁の領域とし、終局領域については、破断等の終局状態に至る梁の領域としている。なお、構造解析結果は、前述のものに限定されるものではなく、例えば許容応力に達している梁の領域等を含む構成であってもよく、任意の判定基準を満たす領域の割合(面積率)を格納できる。また、構造解析結果として格納される面積率については、前述の面積率に限定されるものではない。例えば、桟橋上部工の総面積に対して、損傷した梁の面積および損傷した梁に隣接する床版において損傷した面積が占める割合を面積率としてもよい。床版において損傷した面積は、例えば、床版を受け持つ梁において損傷した梁の本数に応じて求めてもよく、例えば、床版を受け持つ梁の数が4本であり、そのうちの1本の梁が損傷した場合には、床版面積の1/4が損傷しているとして面積を求めてもよい。
【0028】
損傷度の列には、損傷の構造解析結果から算出した桟橋の損傷度が格納される。損傷度とは、外力に応じた桟橋上部工の構造解析結果を一つの指標で表したものである。桟橋上部工とは、例えば桟橋の梁である。損傷度は、構造解析で得られた有害ひび割れ領域、降伏領域、終局領域の算出結果を予め定められた式に導入することにより算出される。上部工劣化度の列には、梁の損傷のパターンから算出した梁の上部工劣化度が格納される。梁の上部工劣化度の算出方法については後述する。
【0029】
制御部101は、CPUおよびメモリを有し、記憶部102に記憶されているプログラムを実行する。CPUがメモリを使用してプログラムを実行することにより、桟橋の損傷に係る情報を出力する機能が実現する。
【0030】
図3は、制御部101のCPUがプログラムを実行することにより実現する機能ブロックを示した図である。データ取得部1001は、操作部104で入力された梁の劣化度を示す劣化度データを取得する。データ取得部1001は、本発明に係る判定結果取得手段の一例である。計算部1002は、データ取得部1001が取得した劣化度データから上部工劣化度を計算する。計算部1002は、本発明に係る計算手段の一例である。結果取得部1003は、計算部1002が計算した上部工劣化度に対応する桟橋の構造解析結果をデータベースDB1から取得する。結果取得部1003は、本発明に係る結果取得手段の一例である。出力部1004は、結果取得部1003が取得した構造解析結果をディスプレイ103で表示する。出力部1004は、本発明に係る出力手段の一例である。
【0031】
次に本実施形態に係る桟橋の損傷の評価方法について、図4のフローチャートを用いて説明する。オペレータは、損傷を評価する評価対象である実物の桟橋Pについて設計図を参照し、桟橋Pの梁を仮想的に表すモデルを作成する操作を操作部104で行う。桟橋Pは、本発明に係る評価対象桟橋である。コンピュータ装置10は、オペレータが行った操作に応じて桟橋Pのモデルを生成する(ステップS101)。次にオペレータは、生成したモデルに対し、桟橋Pの上部工である複数の梁の各々の劣化度を示す劣化度データを操作部104から入力し、コンピュータ装置10のデータ取得部1001は、入力される劣化度データを取得する(ステップS102)。劣化度データは、本発明に係る梁の劣化度判定結果の一例である。
【0032】
梁の劣化度については、実物の桟橋Pの上部工を構成する複数の梁の各々の劣化度を、所定の判定基準に従って判定する。図5は、劣化度の判定に用いられる判定基準(以下、「判定基準C」という)を例示した図である。判定基準Cは劣化度a、劣化度b、劣化度cおよび劣化度dがある。劣化度は、劣化度aが最も劣化の程度が高く、劣化度bは劣化度aより劣化の程度が低く、劣化度cは劣化度bより劣化の程度が低く、劣化度dは、変状なしというものである。図6に、評価する実物の桟橋Pの梁の劣化度の判定結果の一例を示す。図6に示す岸壁法線Lは、桟橋Pと陸との境界を示し、図6においては、岸壁法線Lに沿った方向を法線平行方向と称し、岸壁法線Lに直角な方向を法線直角方向と称する。
【0033】
オペレータは、劣化度データを入力し終えると、桟橋Pの評価を指示する操作を操作部104において行う。この操作が行われたコンピュータ装置10の計算部1002は、桟橋Pのモデルを構成する梁の劣化度を点数化する(ステップS103)。
【0034】
具体的には、コンピュータ装置10は、次の式(1)を用いて劣化度から劣化度点数を算出する。
劣化度点数=p1×(劣化度aの梁の割合)+p2×(劣化度bの梁の割合)+p3×(劣化度cの梁の割合)+p4×(劣化度dの梁の割合)・・・式(1)
劣化度点数は、本発明に係る上部工劣化度の一例である。
【0035】
p1、p2、p3およびp4は、判定した劣化度に対応した点数であり、p1は劣化度aの点数を示し、p2は劣化度bの点数を示し、p3は劣化度cの点数を示し、p4は劣化度dの点数を示す。p1~p4は、予め定められた値であり、p1~p4の大小関係は、p1>p2>p3>p4となっている。
【0036】
式(1)における梁の割合については、例えば、梁の総本数が100本であり、劣化度aの梁の本数が30本、劣化度bの梁の本数が40本、劣化度cの梁の本数が15本、劣化度dの梁の本数が15本の場合、劣化度aの梁の割合=0.3、劣化度bの梁の割合=0.4、劣化度dの梁の割合=0.15、劣化度dの梁の割合=0.15となる。
【0037】
次にコンピュータ装置10の計算部1002は、桟橋Pが直杭式横桟橋の場合(ステップS104でYES)、桟橋Pのモデルの梁の各々について補正係数を設定する(ステップS105)。海側に配置された梁と陸側に配置された梁では、同じ劣化度であっても桟橋P全体に与える影響が異なる。そこで、梁配列に応じて補正係数を設定する。例えば、法線平行方向に沿った梁について、陸からの位置に応じて補正係数を設定する。法線平行方向に沿った梁が5列ある桟橋Pの場合、図7に示すように、海側から1列目の梁に補正係数a1を設定し、海側から2列目の梁に補正係数a2を設定し、海側から3列目の梁に補正係数a3を設定し、海側から4列目の梁に補正係数a4を設定し、海側から5列目の梁に補正係数a5を設定する。即ち、本発明においては、法線平行方向に沿った梁の列に応じてグループを形成し、同一のグループに属する梁に対しては、グループ固有の補正係数を設定している。
【0038】
また、法線直角方向に沿った梁について、陸からの位置に応じて補正係数を設定する。法線直角方向に沿った梁が4列ある桟橋Pの場合、図7に示すように、海側の梁からそれぞれ補正係数aa1、補正係数aa2、補正係数aa3、補正係数aa4を設定する。即ち、本発明においては、法線直角方向に沿った梁の列に応じてグループを形成し、同一のグループに属する梁に対しては、グループ固有の補正係数を設定している。
【0039】
また、法線平行方向に沿った梁と法線直角方向に沿った梁では、同じ劣化度であっても、その方向によって桟橋P全体に与える影響が異なる。そこで、梁の方向に応じて補正係数を設定する。具体的には、法線平行方向に沿った梁について、陸からの位置に応じて補正係数を設定する。例えば、図8に示すように、法線平行方向に沿った梁のそれぞれについて補正係数b1を設定し、法線直角方向に沿った梁のそれぞれについて補正係数b2を設定する。即ち、本発明においては、梁向きに応じてグループを形成し、同一のグループに属する梁に対しては、グループ固有の補正係数を設定している。
【0040】
コンピュータ装置10の計算部1002は、設定した補正係数を劣化度点数に乗じることにより、桟橋Pの点数である上部工劣化度を算出する(ステップS106)。
【0041】
具体的には、桟橋Pの場合、コンピュータ装置10の計算部1002は、法線平行方向に沿った梁で劣化度aの梁の評価点を式(2)で算出し、法線直角方向に沿った梁で劣化度aの梁の評価点を式(3)で算出し、式(4)により劣化度aの梁の評価点を算出する。
法線平行方向に沿った梁で劣化度aの梁の評価点=(p1×(法線平行方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数a1)+(p1×(法線平行方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数a2)+(p1×(法線平行方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数a3)+(p1×(法線平行方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数a4)+(p1×(法線平行方向に沿った梁で海側から5列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数a5)・・・式(2)
法線直角方向に沿った梁で劣化度aの梁の評価点=(p1×(法線直角方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数aa1)+(p1×(法線直角方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数aa2)+(p1×(法線直角方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数aa3)+(p1×(法線直角方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度aの梁の割合)×補正係数aa4)・・・式(3)
劣化度aの梁の評価点=法線平行方向に沿った梁で劣化度aの梁の評価点+法線直角方向に沿った梁で劣化度aの梁の評価点・・・式(4)
【0042】
また、コンピュータ装置10の計算部1002は、法線平行方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点を式(5)で算出し、法線直角方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点を式(6)で算出し、式(7)により劣化度bの梁の評価点を算出する。
法線平行方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点=(p2×(法線平行方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数a1)+(p2×(法線平行方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数a2)+(p2×(法線平行方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数a3)+(p2×(法線平行方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数a4)+(p2×(法線平行方向に沿った梁で海側から5列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数a5)・・・式(5)
法線直角方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点=(p2×(法線直角方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数aa1)+(p2×(法線直角方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数aa2)+(p2×(法線直角方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数aa3)+(p2×(法線直角方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度bの梁の割合)×補正係数aa4)・・・式(6)
劣化度bの梁の評価点=法線平行方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点+法線直角方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点・・・式(7)
【0043】
また、コンピュータ装置10の計算部1002は、法線平行方向に沿った梁で劣化度cの梁の評価点を式(8)で算出し、法線直角方向に沿った梁で劣化度cの梁の評価点を式(9)で算出し、式(10)により劣化度cの梁の評価点を算出する。
法線平行方向に沿った梁で劣化度cの梁の評価点=(p3×(法線平行方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数a1)+(p3×(法線平行方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数a2)+(p3×(法線平行方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数a3)+(p3×(法線平行方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数a4)+(p3×(法線平行方向に沿った梁で海側から5列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数a5)・・・式(8)
法線直角方向で劣化度cの梁の評価点=(p3×(法線直角方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数aa1)+(p3×(法線直角方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数aa2)+(p3×(法線直角方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数aa3)+(p3×(法線直角方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度cの梁の割合)×補正係数aa4)・・・式(9)
劣化度cの梁の評価点=法線平行方向に沿った梁で劣化度cの梁の評価点+法線直角方向に沿った梁で劣化度cの梁の評価点・・・式(10)
【0044】
また、コンピュータ装置10の計算部1002は、法線平行方向に沿った梁で劣化度dの梁の評価点を式(11)で算出し、法線直角方向に沿った梁で劣化度dの梁の評価点を式(12)で算出し、式(13)により劣化度dの梁の評価点を算出する。
法線平行方向に沿った梁で劣化度dの梁の評価点=(p4×(法線平行方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数a1)+(p4×(法線平行方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数a2)+(p4×(法線平行方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数a3)+(p4×(法線平行方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数a4)+(p4×(法線平行方向に沿った梁で海側から5列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数a5)・・・式(11)
法線直角方向に沿った梁で劣化度dの梁の評価点=(p4×(法線直角方向に沿った梁で海側から1列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数aa1)+(p4×(法線直角方向に沿った梁で海側から2列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数aa2)+(p4×(法線直角方向に沿った梁で海側から3列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数aa3)+(p4×(法線直角方向に沿った梁で海側から4列目の劣化度dの梁の割合)×補正係数aa4)・・・式(12)
劣化度dの梁の評価点=法線平行方向に沿った梁で劣化度bの梁の評価点+法線直角方向に沿った梁で劣化度dの梁の評価点・・・式(13)
【0045】
コンピュータ装置10の計算部1002は、式(14)により、桟橋Pの上部工劣化度を算出する。桟橋Pの上部工劣化度=劣化度aの梁の評価点+劣化度bの梁の評価点+劣化度cの梁の評価点+劣化度dの梁の評価点・・・式(14)
なお、コンピュータ装置10の計算部1002は、桟橋Pが直杭式縦桟橋等のように海底地盤面が傾斜していない場合には(ステップS104でNO)、ステップS103で算出した劣化度点数を桟橋Pの上部工劣化度とする。桟橋Pの上部工劣化度は、本発明に係る上部工劣化度の一例である。即ち、コンピュータ装置10は、劣化度と補正係数とで算出される数値を積算することにより、上部工劣化度を算出している。
【0046】
コンピュータ装置10の結果取得部1003は、算出した上部工劣化度を用いて桟橋Pの構造解析結果を取得する(ステップS107)。具体的には、コンピュータ装置10は、算出した桟橋Pの上部工劣化度を格納したレコードをデータベースDB1において検索する。コンピュータ装置10は、算出した上部工劣化度を格納したレコードを見つけると、算出した上部工劣化度を格納したレコードから、損傷度と、桟橋Pに外力が作用したときの損傷の構造解析結果を取得する。例えば、コンピュータ装置10は、算出した上部工劣化度が35%であった場合、図2のデータベースDB1において、解析ケースが1のレコードから構造解析結果と損傷度を取得する。ここで取得する構造解析結果および損傷度は、いずれも本発明に係る構造解析結果の一例である。
【0047】
次にコンピュータ装置10の出力部1004は、取得した損傷度と構造解析結果をディスプレイ103で出力する(ステップS108)。なお、コンピュータ装置10は、取得した損傷度のみを表示してもよく、また、取得した構造解析結果のみを取得してもよい。
【0048】
本実施形態によれば、オペレータは、桟橋Pの実物の劣化度を入力することにより、桟橋Pの損傷に係る情報を得ることができる。また、本実施形態によれば、計算結果からデータベースDB1を参照して構造解析結果と損傷度を得るため、複雑な計算を行うことなく、損傷に係る情報を得ることができる。また、本実施形態によれば、有害なひび割れ領域の割合、降伏領域の割合、終局領域の割合などが出力されるため、供用可能、供用しながら補修、供用停止、撤去などの判断を行うことができる。
【0049】
[変形例]
上述した実施形態は様々に変形することができる。以下にそれらの変形の例を示す。なお、上述した実施形態及び以下に示す変形例は適宜組み合わされてもよい。
【0050】
(1)本発明においては、桟橋の一部の区域について、ステップS101でモデルを作成し、当該区域の梁の劣化度の判定結果をステップS102で入力することにより、桟橋の一部の区域について損傷の構造解析結果と損傷度を出力してもよい。
【0051】
(2)上述した実施形態においては、データベースDB1において、有害ひび割れ領域の割合、降伏領域の割合、終局領域の割合を構造解析結果として格納し、この割合をディスプレイ103で出力しているが、ステップS101で生成したモデルと、格納されている割合から各領域の面積を算出し、算出した面積を出力してもよい。
【0052】
(3)桟橋の損傷に係る情報の出力については、経年劣化を考慮した将来の時点における桟橋Pに対して外力が加えられた後の損傷に係る情報を出力してもよい。図9は、将来の時点における桟橋Pに対して外力が加えられた後の損傷に係る情報を出力する処理の流れを示したフローチャートである。
【0053】
まず、オペレータは、損傷を評価する実物の桟橋Pについて設計図を参照し、桟橋Pの梁を仮想的に表すモデルを作成する操作を操作部104で行う。コンピュータ装置10は、オペレータが行った操作に応じて桟橋Pのモデルを生成する(ステップS201)。
【0054】
次にオペレータは、時点t0における桟橋Pの複数の梁の各々の劣化度を示す劣化度データを操作部104から入力し、コンピュータ装置10のデータ取得部1001は、入力される劣化度データを取得する(ステップS202)。また、オペレータは、時点t0より後の時点t1における桟橋Pの複数の梁の各々の劣化度を示す劣化度データを操作部104から入力し、コンピュータ装置10のデータ取得部1001は、入力される劣化度データを取得する(ステップS203)。なお、時点t0は例えば桟橋Pの建設時点としてもよい。時点t0を桟橋Pの建設時点とする場合、時点t0における梁の劣化度は全て劣化度dであることが自明のため、仮に時点t1より過去に梁の目視点検等が1度も行われていなくても、本変形例は実施可能である。
【0055】
オペレータは、時点t0から時点t1までの時間を示す時間データおよび時点t1から時点t1より後の任意時点である時点t2までの時間を示す時間データを操作部104から入力し、コンピュータ装置10は、入力された時間データを取得する(ステップS204)。時間データを取得したコンピュータ装置10は、取得した劣化度データと時間データを、予め準備された確率モデルに入力し、時点t2における各梁の劣化度を将来予測の確率モデルにより推定する(ステップS205)。なお、ここで用いられる確率モデルは、過去の状態推移に基づく確率により将来の状態推移を推定するモデルであれば、いずれのモデルであってもよい。そのようなモデルの一例として、マルコフ連鎖モデルが挙げられる。
【0056】
コンピュータ装置10は、上記のように推定した時点t2における劣化度を用いて、ステップS206~ステップS211の処理を行う。ステップS206~ステップS211の処理は、ステップS103~ステップS108の処理と同じであるため、その説明を省略する。本変形例によれば、将来の時点t2において外力が桟橋Pに加えられた後の桟橋Pの損傷に係る情報を得ることができる。
【0057】
なお、本変形例においては、二つの時点の劣化度を入力し、確率モデルにより将来の時点の劣化度を推定しているが、コンピュータ装置10は、梁の劣化速度、損傷を予測する時点t2を取得して確率モデルに入力し、時点t2における梁の損傷度を確率モデルにより推定してもよい。
【0058】
(4)梁の劣化度の判定に用いられる判定基準は図2に示した判定基準Cに限られず、他の様々な判定基準が採用され得る。また、劣化度の区分数は4つに限られず、例えば5以上の区分で劣化度が判定されてもよい。
【0059】
(5)梁の補正係数は、桟橋Pにおいて法線平行方向の端にある梁と、中央にある梁とで補正係数が異なる構成としてもよい。
【0060】
(6)本発明においては、データベースDB1は、記憶部102に記憶される構成に限定されるものではなく、通信ネットワークに接続された外部のストレージ装置に記憶され、外部のストレージ装置に記憶されたデータベースDB1にコンピュータ装置10がアクセスする構成であってもよい。
【0061】
(7)本発明においては、コンピュータ装置10は、クライアントサーバモデルのサーバとして動作してもよい。この変形例の場合、サーバとして機能するコンピュータ装置10は、クライアントである端末装置と通信ネットワークを介して通信を行う。サーバとして機能するコンピュータ装置10は、端末装置にて行われた操作に応じてステップS101の処理を行い、端末装置から劣化度データを取得し、ステップS103からステップS107の処理を行い、桟橋Pの損傷度と構造解析結果をクライアントである端末装置に出力する。
【符号の説明】
【0062】
10…コンピュータ装置、101…制御部、102…記憶部、103…ディスプレイ、104…操作部、1001…データ取得部、1002…計算部、1003…結果取得部、1004…出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9