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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】再生羽毛生産方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 19/00 20060101AFI20221209BHJP
   B68G 3/00 20060101ALI20221209BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
D06M19/00
B68G3/00
D06M11/00 140
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021024433
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126394
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2021-02-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-01
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507119847
【氏名又は名称】東和株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594101466
【氏名又は名称】株式会社シラカワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 幸二
【合議体】
【審判長】藤井 昇
【審判官】大谷 光司
【審判官】出口 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-146258(JP,A)
【文献】特開平8-81811(JP,A)
【文献】特開2001-310098(JP,A)
【文献】特開2014-100245(JP,A)
【文献】実開平5-13380(JP,U)
【文献】特開平10-235074(JP,A)
【文献】平成31年度 戦略的基盤技術高度化・連携支援事業 戦略的基盤技術高度化支援事業 「リサイクル羽毛の生産コストを低減するための分離分別回収システムの技術開発」研究成果等報告書、令和2年7月、[令和4年8月30日検索]、インターネット<URL:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2017/2920710001h.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G1/00-99/00
D06M11/00, 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽毛が収納されたダウンパックと、該ダウンパックを覆う外被とを備え、水溶性の縫合糸で該外被を縫合することにより形成された羽毛製品から該羽毛を回収して再生する再生羽毛生産方法であって、
前記羽毛製品の形状を一定に維持する形状維持具を該羽毛製品に装着する維持具装着工程と、
前記維持具装着工程の後、前記羽毛製品を水分に暴露することにより前記縫合糸を溶解する縫合糸溶解工程と、
前記縫合糸溶解工程の後、前記形状維持具の装着を解除する装着解除工程と、
前記装着解除工程の後、前記外被から前記羽毛が収納されたダウンパックを分離して回収する羽毛回収工程とを備え、
前記ダウンパックは、溶解温度が、前記外被を縫合している縫合糸の第1溶解温度よりも高い第2溶解温度である縫合糸を用いて縫合されており、
前記縫合糸溶解工程で前記羽毛製品に暴露される水分の温度は、前記第1溶解温度よりも高く、かつ前記第2溶解温度よりも低いことを特徴とする再生羽毛生産方法。
【請求項2】
前記維持具装着工程では、前記形状維持具として一対の非可撓性ネットを用い、該一対の非可撓性ネットの間に前記羽毛製品を挟み、該一対の非可撓性ネットの周囲を相互に固定することにより該一対の非可撓性ネットを該羽毛製品に装着することを特徴とする請求項1に記載の再生羽毛生産方法。
【請求項3】
前記維持具装着工程では、前記形状維持具として一対の可撓性ネットを用い、該一対の可撓性ネットの間に前記羽毛製品を挟んでから該一対の可撓性ネットをロール状に巻いて固定することにより該一対のネットを該羽毛製品に装着することを特徴とする請求項1に記載の再生羽毛生産方法。
【請求項4】
前記縫合糸溶解工程は、
前記羽毛製品を溶解槽に満たした温水に浸漬する工程、
前記羽毛製品に温水をシャワーで散布する工程、又は
前記羽毛製品の縫合糸の部分を100°C以上の水蒸気に暴露させる工程のいずれかの工程を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の再生羽毛生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛を覆う外被を水溶性の縫合糸で縫合して形成された羽毛製品から羽毛を回収して再生する再生羽毛生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、羽毛を外被で覆って形成された羽毛製品から羽毛を回収して再生する方法として、羽毛製品から吸引手段によって羽毛を吸引して回収し、加工装置によって羽毛の乾燥及び殺菌処理を行って羽毛を再生加工する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の方法では、吸引手段で吸気されている解体室内で羽毛製品としての羽毛布団に切り込みが設けられ、吸引手段の吸引力によって羽毛布団から羽毛が吸引され、回収される。回収された羽毛は、除塵、加湿、消臭殺菌、乾燥、冷却処理が行われ、再生される。
【0004】
また、羽毛を再生する別の方法として、羽毛製品の外被を相互に交差する一対の方向に切断し、外被内の羽毛を取り出して再生するものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2の方法では、気密カバーで覆われ、外被が切断された羽毛製品から、吸引手段により羽毛が吸引されて回収される。あるいは、外被が切断された羽毛製品から手作業で羽毛が回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-17754号公報
【文献】特開2020-146258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の方法によれば、羽毛製品から羽毛を吸引して取り出す際に吸引手段や解体室を使用する必要がある。また、回収した羽毛に対して除塵や加湿処理を行う必要もある。
【0008】
また、上記特許文献2の方法によれば、羽毛製品の外被を切断する切断手段や羽毛の吸引手段を必要とする。あるいは、羽毛を手作業で回収する場合には、作業に手間がかかり、羽毛が飛散するおそれもある。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、より簡便に羽毛を回収して再生できる再生羽毛生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の再生羽毛生産方法は、
羽毛と、該羽毛を覆う外被とを備え、水溶性の縫合糸で該外被を縫合することにより形成された羽毛製品から該羽毛を回収して再生する再生羽毛生産方法であって、
前記羽毛製品の形状を一定に維持する形状維持具を該羽毛製品に装着する維持具装着工程と、
前記維持具装着工程の後、前記羽毛製品を水分に暴露することにより前記縫合糸を溶解する縫合糸溶解工程と、
前記溶解工程の後、前記形状維持具の装着を解除する装着解除工程と、
前記装着解除工程の後、前記外被から前記羽毛を分離して回収する羽毛回収工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、羽毛製品の形状を形状維持具により維持しながら羽毛製品を水分に暴露するので、回収工程では、形状がさほど崩れていない外被から羽毛を容易に分離して回収することができる。したがって、簡便な方法で羽毛を回収できる再生羽毛生産方法を提供することができる。
【0012】
本発明において、前記羽毛製品は、溶解温度が、前記外被を縫合している縫合糸の第1溶解温度よりも高い第2溶解温度である縫合糸を用いて縫合している部分を備え、前記縫合糸溶解工程で前記羽毛製品に暴露される水分の温度は、前記第1溶解温度よりも高く、かつ前記第2溶解温度よりも低い。
【0013】
これによれば、縫合糸溶解工程では、第1溶解温度よりも高く第2溶解温度よりも低い水分に羽毛製品が暴露されるので、第2溶解温度の縫合糸は溶解することなく、外被を縫合している縫合糸だけが溶解する。これにより、外被は縫合が解除された状態となるが、第2溶解温度の縫合糸で縫合している部分を、縫合された状態のままとして残すことができる。
【0014】
本発明において、前記第2溶解温度の縫合糸を用いて縫合している部分は、前記羽毛を収納しているダウンパックであ。これによれば、羽毛回収工程では、羽毛を、ダウンパックに収納された状態で、容易に外被から分離して回収することができる。
【0016】
あるいは、縫合糸溶解工程において、外側の外被の縫合糸のみが溶解し、内側のダウンパックの縫合糸は溶解に至らないような、溶解温度と同程度又はこれよりも若干高い温度の水分に暴露することにより、外被の縫合糸のみを溶解し、羽毛回収工程では、羽毛を、ダウンパックに収納された状態で、容易に外被から分離して回収することもできる。
【0017】
本発明において、前記維持具装着工程では、前記形状維持具として一対の非可撓性ネットを用い、該一対の非可撓性ネットの間に前記羽毛製品を挟み、該一対の非可撓性ネットの周囲を相互に固定することにより該一対の非可撓性ネットを該羽毛製品に装着してもよい。これによれば、羽毛製品の形状を確実に維持しながら羽毛製品への水分の暴露を行うことができる。
【0018】
また、この代わりに、前記維持具装着工程では、前記形状維持具として一対の可撓性ネットを用い、該一対の可撓性ネットの間に前記羽毛製品を挟んでから該一対の可撓性ネットをロール状に巻いて固定することにより該一対のネットを該羽毛製品に装着してもよい。この場合も、羽毛製品の形状を確実に維持しながら羽毛製品への水分の暴露を行うことができる。
【0019】
本発明において、前記縫合糸溶解工程は、前記羽毛製品を溶解槽に満たした温水に浸漬する工程、前記羽毛製品に温水をシャワーで散布する工程、又は前記羽毛製品の縫合糸の部分を100°C以上の水蒸気に暴露させる工程のいずれかの工程を備えてもよい。これによれば、維持具装着工程において使用する形状維持具の形態に応じ、縫合糸溶解工程において適切な工程を用いて縫合糸を溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る再生羽毛生産方法おいて処理されるダウンジャケットを模式的に示す模式図である。
図2】前記再生羽毛生産方法における羽毛回収処理を示すフローチャートである。
図3】前記羽毛回収処理において使用される形状維持具としての収納袋にダウンジャケットを収納した様子を示す図である。
図4】前記収納袋から外被と羽毛とが混在した混在物を取り出したときの様子を示す図である。
図5】前記形状維持具としての鉄製ネットにダウンジャケットを装着した様子を示す図である。
図6】前記羽毛回収処理においてダウンジャケットが各パーツに分離された様子を示す図である。
図7】前記羽毛回収処理において使用される形状維持具としての一対の可撓性ネットの間にダウンジャケットを挟んだ様子を示す図である。
図8】前記可撓性ネットをダウンジャケットに装着した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る再生羽毛生産方法により羽毛が回収される羽毛製品としてのダウンジャケットを示す。このダウンジャケット1は、内部の羽毛を覆う外被2を備え、水溶性の縫合糸で外被2を縫合して形成されたものである。なお、外被2自体は、非水溶性の繊維により形成されている。
【0023】
外被2を縫合している水溶性の縫合糸は、例えば、特開2000-248424号公報、特開2002-161430号公報、特開2002-275728号公報等に記載されているような水溶性繊維で構成されるものを使用することができる。ただし、溶解の容易性を考慮し、縫合糸の融点は、40°~100°程度が好ましい。なお、外被2は非水溶性の繊維で構成される。
【0024】
図2は、本実施形態の再生羽毛生産方法においてダウンジャケット1から羽毛を回収する羽毛回収処理を示す。同図に示すように、この羽毛回収処理は、羽毛製品の形状を一定に維持する形状維持具をダウンジャケット1に装着する維持具装着工程S1と、その後、ダウンジャケット1を水分に暴露することにより縫合糸を溶解する縫合糸溶解工程S2と、その後、形状維持具の装着を解除する装着解除工程S3と、その後、外被2から羽毛を分離して回収する羽毛回収工程S4とを備える。
【0025】
図3は、維持具装着工程S1において、形状維持具として使用される収納袋3を示す。収納袋3は、網目を有する生地で構成され、ジップロック(登録商標)Zにより開閉できるようになっている。維持具装着工程S1では、収納袋3は、その中にダウンジャケット1を収納することにより、ダウンジャケット1に装着される。これにより、収納袋3は、ダウンジャケット1の形状を維持する形状維持具として機能する。
【0026】
縫合糸溶解工程S2では、ダウンジャケット1を収納した収納袋3が、溶解槽に満たされた例えば95°Cの温水に、例えば30分程度浸漬される。この間、ダウンジャケット1の形状が収納袋3により維持されつつ、ダウンジャケット1の縫合糸が溶解する。これにより、ダウンジャケット1の羽毛と外被2が相互に分離可能な状態となる。
【0027】
装着解除工程S3では、溶解槽から収納袋3が取り出され、図4のように、収納袋3から、外被2と羽毛4とが混在した混在物5が取り出される。なお、この間に、必要な脱水処理が行われる。取り出された混在物5においては、外被2及び羽毛4の形状がさほど崩れることなく維持されている。このため、羽毛回収工程S4では、混在物5から、羽毛4が外被2から容易に分離されて回収される。
【0028】
回収された羽毛は、消臭殺菌、乾燥等の処理が行われ、再利用し得る羽毛として再生される。なお、縫合糸溶解工程S2では、一度に複数のダウンジャケット1をそれぞれ収納した複数の収納袋3を上記溶解槽中の温水に浸漬することにより、効率よく羽毛の再生産が行われる。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、ダウンジャケット1の形状を収納袋3により維持しながらダウンジャケット1を水分に暴露するので、羽毛回収工程S4では、形状がさほど崩れていない外被2から羽毛4を容易に分離して回収することができる。また、一度に複数のダウンジャケット1を収納した収納袋3を温水に浸漬して水分に暴露できるので、効率的に羽毛の再生産を行うことができる。
【0030】
図5は、本発明の第2実施形態に係る再生羽毛生産方法に使用される鉄製ネットを示す。本実施形態においても、図2の手順で羽毛回収処理が行われるが、維持具装着工程S1で用いられる形状維持具としては、図5に示すような一対の非可撓性の鉄製ネット6a及び6bが用いられる。なお、形状維持具としては、鉄製ネット6a及び6bの代わりに、鉄以外の金属や硬化樹脂などの変形し難い材質で形成された網目状で平板状のものを用いてもよい。
【0031】
すなわち、維持具装着工程S1では、図5のように、鉄製ネット6a及び6bの間に羽毛製品としてのダウンジャケット1bを挟み、鉄製ネット6a及び6bの周囲を相互に固定することにより鉄製ネット6a及び6bをダウンジャケット1bに装着する。
【0032】
本実施形態で羽毛回収の対象となるダウンジャケット1bでは、羽毛がダウンパック(ガーゼ状の袋)に収納されている。ダウンパックを縫合している縫合糸の溶解温度は、ダウンジャケット1bの外被2bを縫合している縫合糸の第1溶解温度T1よりも高い第2溶解温度T2である。第1溶解温度T1は、例えば、95℃未満であり、第2溶解温度T2は、例えば、100℃以上である。
【0033】
縫合糸溶解工程S2では、鉄製ネット6a及び6bが装着されたダウンジャケット1bが、第1溶解温度T1より高く第2溶解温度T2より低い95℃の温水に30分程度浸漬される。この温水には溶解促進剤が投入される。溶解促進剤としては、例えば、非イオン系界面活性剤が用いられる。この溶解促進剤は、上記温水に0.01g/l~20g/l程度添加して用いられる。
【0034】
これにより、溶解温度が95℃未満である外被2bの縫合糸は溶解し、溶解温度が100℃以上であるダウンパック7の縫合糸は溶解しない。すなわち、ダウンパック7は、外被2bから容易に分離し得る状態となる。
【0035】
装着解除工程S3では、必要な脱水処理が行われ、鉄製ネット6a及び6bの周囲の固定が解除され、ダウンジャケット1bに対する鉄製ネット6a及び6bの装着が解除される。
【0036】
羽毛回収工程S4では、図6のように、ダウンジャケット1bが外被2bとダウンパック7等に分離される。したがって、羽毛を、ダウンパック7に収納された状態で、容易に回収することができる。
【0037】
なお、ダウンパック7の縫合糸は溶解していないが強度が弱くなっているため、ダウンパック7は容易に分解することができる。したがって、必要に応じてダウンパック7を分解し、羽毛のみを回収することもできる。
【0038】
なお、ダウンパック7の縫合糸の溶解温度が外被2bの縫合糸と同程度かそれ以下である場合には、縫合糸溶解工程S2においてダウンパック7の縫合糸も溶解するので、羽毛回収工程S4では、ダウンパック7から羽毛を回収することができる。
【0039】
以上のように、第2実施形態によれば、ダウンパック7の縫合糸は溶解せず、外被2bの縫合糸だけが溶解するので、羽毛を、ダウンパック7に収納された状態で、容易に回収することができる。また、形状維持具として非可撓性の鉄製ネット6a及び6bを用いているので、ダウンジャケット1bの形状を確実に維持しながら、ダウンジャケット1bへの水分の暴露を行うことができる。
【0040】
図7は、第3実施形態に係る再生羽毛生産方法に使用される一対の可撓性ネットを示す。本実施形態においても、図2の手順で羽毛回収処理が行われるが、維持具装着工程S1で用いられる形状維持具として、図7に示すような一対の可撓性ネット8a及び8bが用いられる。なお、可撓性ネット8a及び8bは、可撓性・耐久性のある樹脂などで形成される網目状で平板状のものを用いることができる。
【0041】
すなわち、維持具装着工程S1では、図7のように、可撓性ネット8a及び8bの間に羽毛製品としてのダウンジャケット1cを挟み、図8のように、可撓性ネット8a及び8bをダウンジャケット1cとともにロール状に巻いてバンド9で固定することにより可撓性ネット8a及び8bをダウンジャケット1cに装着する。
【0042】
縫合糸溶解工程S2では、可撓性ネット8a及び8bが装着されたダウンジャケット1cに対して、温水をシャワーで散布することによりダウンジャケット1cが水分に暴露される。この温水の散布は、例えば、界面活性剤を含む95℃の温水により、60分程度行われる。これにより、ダウンジャケット1cの縫合糸が溶解する。
【0043】
装着解除工程S3では、必要な脱水処理が行われ、可撓性ネット8a及び8bの固定が解除され、ダウンジャケット1cが可撓性ネット8a及び8bから外される。
【0044】
羽毛回収工程S4では、第1実施形態や第2実施形態の場合と同様にして、羽毛を回収することができる。ただし、ダウンジャケット1cにおいて溶解せずに残っている縫合糸があり得る。この場合でも、その残っている縫合糸は強度が失われているので、羽毛4又はダウンパック7を外被から容易に分離して回収することができる。
【0045】
以上のように、第3実施形態によれば、可撓性ネット8a及び8bの間にダウンジャケット1cを挟んでロール状に巻いて固定し、ダウンジャケット1cへの水分の暴露を行うので、ダウンジャケット1cの形状を確実に維持しながらダウンジャケット1cへの水分の暴露を行うことができるとともに、水分の暴露を行うための溶解槽について省スペース化を図ることができる。また、ダウンジャケット1cに散布される温水に界面活性剤が含まれるので、洗浄された羽毛を回収することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明で処理の対象となる羽毛製品は、羽毛を覆う外被を水溶性の縫合糸で縫合したものであれば、ダウンジャケットに限らず、他の布団等の羽毛製品であってもよい。
【0047】
また、縫合糸溶解工程S2において羽毛製品に暴露される水分として、水蒸気を用いてもよい。これによれば、100℃以上の温度の水蒸気に縫合糸の部分を暴露させることにより、溶解温度が100℃以上の縫合糸を溶解させることができる。その際、縫合糸溶解工程S2ではダウンジャケットの上糸側の面を水蒸気に暴露させて上糸側だけを溶解し、羽毛回収工程S4では、下糸を集めることにより、容易に外被から羽毛を分離して回収することができる。また、水分への暴露に際し、溶解槽や脱水を必要とせず、連続作業が可能であるという利点もある。
【0048】
また、縫合糸溶解工程において溶解槽を用いて水分への暴露を行う場合には、縫合糸を溶解できる温度以上であれば、より高い温度を選択して溶解速度を速めてもよい。また、溶解槽内に水流を生じさせて、溶解速度を早めてもよい。また、外被の厚い部分の縫合箇所については、縫合糸が溶解し難いので、より高い温度でより速度の高い水流を当てることにより、溶解を促進させてもよい。
【0049】
また、縫合糸溶解工程は、縫合糸を含む部分に水分を付与する水分付与工程と、該水分付与工程の後、該縫合糸を含む部分に熱を加える加熱工程とを備えてもよい。これによれば、ホースやじょうご(漏斗)を用いて水分付与工程を行った後、アイロン等を用いて加熱工程を行うことにより、水分への暴露に必要とされる溶解槽や、羽毛製品の形状を一定に維持する形状維持具、水分の脱水が不要となるので、維持具装置の簡略化を図ることができる。
【0050】
また、羽毛製品は、溶解温度が、外被を縫合している縫合糸の第1溶解温度よりも高い第2溶解温度である縫合糸を用いて縫合している部分を備え、縫合糸溶解工程で羽毛製品に暴露される水分の温度は、第1溶解温度よりも高く第2溶解温度よりも低くてもよい。
【0051】
これによれば、縫合糸溶解工程では、第1溶解温度よりも高く第2溶解温度よりも低い水分に羽毛製品が暴露されるので、第2溶解温度の縫合糸は溶解することなく、外被を縫合している縫合糸だけが溶解する。これにより、外被は縫合が解除された状態となるが、第2溶解温度の縫合糸で縫合している部分を、縫合された状態のままとして残すことができる。
【0052】
また、羽毛製品が、羽毛4を収納しているダウンパック7を備え、外被2bとダウンパック7は溶解温度が同じ縫合糸で縫合されていてもよい。これによれば、縫合糸溶解工程において、該溶解温度よりも十分温度が高い水分に暴露することにより、外被2bとダウンパック7双方の縫合糸を同時に溶解し、ダウンパック7から直接羽毛を回収することができる。
【0053】
あるいは、縫合糸溶解工程において、外側の外被2bの縫合糸のみが溶解し、内側のダウンパック7の縫合糸は溶解に至らないような、溶解温度と同程度又は若干高い温度の水分に暴露することにより、外被の縫合糸のみを溶解し、羽毛回収工程では、羽毛を、ダウンパック7に収納された状態で、容易に外被2bから分離して回収できるようにしてもよい。
【0054】
なお、本発明における縫合糸溶解工程は、布地や皮革材料等の縫合材料を縫合して形成される縫合製品の縫い直しなどに適用することができる。例えば、縫合製品について上記縫合糸溶解工程を行い、その後、縫合製品を布地や皮革材料に分解して布地や皮革材料を回収する縫合材料回収工程を行う縫合材料再生産方法を実施するために上記縫合糸溶解工程を用いることができる。また、縫合製品について上記縫合糸溶解工程と縫合材料回収工程とを行い、さらにその後、回収した縫合材料について縫合をやり直す再縫合工程を行う縫合やり直し方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1、1b、1c…ダウンジャケット、2、2b…外被、3…収納袋、4…羽毛、5…混在物、6a、6b…鉄製ネット、7…ダウンパック、8a、8b…可撓性ネット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8