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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】接合強度評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20221209BHJP
   B23K 20/10 20060101ALI20221209BHJP
   G01N 25/18 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G01N25/72 E
B23K20/10
G01N25/72 A
G01N25/18 J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018129644
(22)【出願日】2018-07-09
(65)【公開番号】P2020008424
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000136941
【氏名又は名称】株式会社ベテル
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】特許業務法人IP-FOCUS
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】中居 誠也
(72)【発明者】
【氏名】大槻 哲也
(72)【発明者】
【氏名】関根 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 猪一郎
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-078624(JP,A)
【文献】特開平11-094782(JP,A)
【文献】特開2009-264975(JP,A)
【文献】特表2003-524776(JP,A)
【文献】特表2010-531984(JP,A)
【文献】国際公開第2013/085075(WO,A1)
【文献】特開2011-247735(JP,A)
【文献】特開平02-201149(JP,A)
【文献】特開平03-189547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/72
B23K 20/10
G01N 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の接合部材を重ねて接合された接合部の接合強度を評価する接合強度評価装置において、
前記複数の接合部材の接合部の一方面側に配設され前記接合部の少なくとも一部を所定時間加熱する加熱手段と、
前記接合部の他方面側に配設され前記加熱手段による前記接合部の加熱領域に対向する測定位置において前記接合部の温度を前記他方面側から測定する温度センサと、
複数の異なる前記測定位置における前記温度センサによる測定温度に基づき、前記接合部の前記一方面側から前記他方面側への熱伝導、熱拡散、熱放射の少なくともいずれか1つの強弱から前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか判断する判断手段とを備え
前記加熱手段は、時間関数である正弦波関数で強度変調するものであり、
前記判断手段は、
前記複数の異なる測定位置における前記温度センサによる測定温度から、
・前記加熱手段を、時間関数である正弦波関数で強度変調したときの位相に対する前記温度センサによる測定温度の変化の位相の位相遅れ、
・前記温度センサの出力を、その測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わした振幅、
・前記測定位置での温度変化、
・前記測定位置での温度時間変化
を導出する導出手段と、
前記導出手段により導出される前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化が、前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化それぞれについて、前記所望強度であると判断するために予め求めておいたしきい値と比較する比較手段とを備え、
前記比較手段の比較の結果、前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化のいずれか1つが前記しきい値以上であれば前記所望強度に達していると判断することを特徴とする接合強度評価装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記複数の接合部材の接合部が化学変化しない温度まで加熱するものであることを特徴とする請求項1に記載の接合強度評価装置。
【請求項3】
前記加熱手段を、時間関数である方形波、三角波、鋸波、台形波等の関数よって強度変調することを特徴とする請求項1または2に記載の接合強度評価装置。
【請求項4】
前記加熱手段を強度変調する前記方形波、三角波、鋸波、台形波等の時間関数を、デジタル制御により生成する近似関数によって形成することを特徴とする請求項に記載の接合強度評価装置。
【請求項5】
少なくとも前記位相遅れおよび前記振幅から、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記位相遅れの大きさに相関して色分けし2次元画像化して成る位相分布画像、および、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記振幅値に相関して色分けし2次元画像化して成る振幅分布画像を作成する画像処理手段と、
前記画像処理手段により作成された前記位相分布画像および前記振幅分布画像を表示する表示手段とをさらに備え、
前記判断手段は、前記表示手段に表示される前記位相分布画像において所望強度以上の位相遅れの大きさとなるカラーコードの色領域の面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断し、かつ、前記振幅分布画像において所望強度以上の振幅値となるカラーコードの色領域の面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断することにより、前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか評価することを特徴とする請求項に記載の接合強度評価装置。
【請求項6】
複数の接合部材を重ねて接合された接合部の接合強度を評価する接合強度評価装置において、
前記複数の接合部材の接合部の一方面側に配設され前記接合部の少なくとも一部を所定時間加熱する加熱手段と、
前記接合部の他方面側に配設され前記加熱手段による前記接合部の加熱領域に対向する測定位置において前記接合部の温度を前記他方面側から測定する温度センサと、
複数の異なる前記測定位置における前記温度センサによる測定温度に基づき、前記接合部の前記一方面側から前記他方面側への熱伝導、熱拡散、熱放射の少なくともいずれか1つの強弱から前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか判断する判断手段とを備え、
前記加熱手段を強度変調する時間関数である正弦波関数を、パルス幅変調を代表とするデジタル制御により生成するパルス波形から成る正弦波近似関数によって形成するものであり、
前記判断手段は、
前記複数の異なる測定位置における前記温度センサによる測定温度から、
・前記加熱手段を、時間関数であるパルス波形で強度変調したときの位相に対する前記温度センサによる測定温度の変化のパルス位相の位相遅れ、
・前記温度センサの出力を、その測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わしたパルス波高値である振幅、
・前記測定位置での温度変化、
・前記測定位置での温度時間変化
を導出する導出手段と、
前記導出手段により導出される前記パルス位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化が、前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化それぞれについて、前記所望強度であると判断するために予め求めておいたしきい値と比較する比較手段とを備え、
前記比較手段の比較の結果、前記パルス位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化のいずれか1つが前記しきい値以上であれば前記所望強度に達していると判断することを特徴とする接合強度評価装置。
【請求項7】
少なくとも前記パルス位相遅れおよび前記パルス波高値である振幅から、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記位相遅れの大きさに相関して色分けし2次元画像化して成る位相分布画像、および、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記パルス波高値である振幅に相関して色分けし2次元画像化して成る振幅分布画像を作成する画像処理手段と、
前記画像処理手段により作成された前記位相分布画像および前記振幅分布画像を表示する表示手段とをさらに備え、
前記判断手段は、前記表示手段に表示される前記位相分布画像において所望強度以上の位相遅れの大きさとなる色に対応するカラーコードの領域面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断し、かつ、前記振幅分布画像において所望強度以上の振幅値となる色に対応するカラーコードの領域面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断することにより、前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか評価することを特徴とすることを特徴とする請求項に記載の接合強度評価装置。
【請求項8】
前記測定位置を決定する際の基準となる前記複数の接合部材の接合部に位置決めマークが設けられることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の接合強度評価装置。
【請求項9】
前記加熱手段は、レーザにより構成され、
該レーザは、前記複数の接合部材の接合部の一方面側に、反射光が入射側に戻らない照射角度でレーザ光を照射することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の接合強度評価装置。
【請求項10】
前記加熱手段は、レーザにより構成され、
該レーザは、前記複数の接合部材の接合部の一方面側に、反射光が入射側に戻らないように防止する防止手段を介してレーザ光を照射することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の接合強度評価装置。
【請求項11】
前記加熱手段を構成するレーザの照射スポットを、前記温度センサと同期して前記複数の異なる測定位置に移動させる移動手段をさらに備えることを特徴とする請求項または10に記載の接合強度評価装置。
【請求項12】
レーザにより構成される前記加熱手段は、前記複数の接合部材の接合部の表面形状に応じて、レーザ光の照射スポット形状が可変されることを特徴とする請求項ないし11のいずれか1項に記載の接合強度評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の接合部材の接合強度を評価する接合強度評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
接合部材としての金属と金属、樹脂と樹脂、金属と樹脂を重ねて超音波等により溶着あるいは融着して接合し、その接合部の接合強度が所望強度以上であるかどうかを評価する場合、従来の評価手法では、例えば実際の接合方法と同様の方法により接合した種々の試験片を準備し、準備した試験片について剥離試験や引張試験などの破壊試験による強度測定を行って強度評価をすることや(特許文献1参照)、接合済の対象物をサンプリングし、破壊検査によりその強度を測定して強度を評価することなどが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-269634号公報(段落0064-0069など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の従来手法は破壊試験による評価であり、例えば接合された接合部材のなかからいくつかのサンプルを抽出し、抽出した接合部材の接合部に対して破壊試験を行って接合強度を評価するものであるため、接合された接合部材を破壊しなければならず、抽出した節後部材が無駄になり、しかも接合された接合部材の全てに対して評価を行うことができず、信頼性に欠けるという問題がある。
【0005】
一方、従来手法において、抽出数を多くすれば評価の信頼性は向上するが、試験により破壊される接合部材が多くなってコストがかさむという新たな問題が生じる。さらに、破壊検査装置がかなり大掛かりであるために、評価のためのコストが多大になる。
【0006】
この発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、複数の接合部材の接合部の強度評価に対する信頼性を低コストで向上できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明にかかる接合強度評価装置は、複数の接合部材を重ねて接合された接合部の接合強度を評価する接合強度評価装置において、前記複数の接合部材の接合部の一方面側に配設され前記接合部の少なくとも一部を所定時間加熱する加熱手段と、前記接合部の他方面側に配設され前記加熱手段による前記接合部の加熱領域に対向する測定位置において前記接合部の温度を前記他方面側から測定する温度センサと、複数の異なる前記測定位置における前記温度センサによる測定温度に基づき、前記接合部の前記一方面側から前記他方面側への熱伝導、熱拡散、熱放射の少なくともいずれか1つの強弱から前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか判断する判断手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、複数の接合部材の接合部の一方面側から加熱手段により加熱し、複数の異なる測定位置における温度センサによる測定温度に基づき、接合部の一方面側から他方面側への熱伝導、熱拡散、熱放射の少なくともいずれか1つの強弱から接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうかを判断するため、加熱手段と温度センサと判断手段という簡単な構成で接合部材の接合強度を評価することができ、しかも接合された接合部材を破壊することもないことから、評価に要する時間の都合に応じて、評価対象である接合済みの接合部材の数を極力多くすることで評価の信頼性を向上することが可能になり、安価な構成により、複数の接合部材の接合部の強度評価に対する信頼性を向上することができ、しかも接合された接合部材を破壊によって無駄にすることもなく、コストの低減につながる。
【0009】
また、前記加熱手段は、前記複数の接合部材の接合部が化学変化しない温度まで加熱するものであってもよい。この場合の化学変化とは、接合部の酸化、劣化、特性変質、組成変化などであり、このような化学変化が生じない程度に加熱することにより、接合された接合部材の品質に影響が及ぶのを防止しつつ接合強度の評価を行うことができる。
【0010】
また、前記加熱手段を、時間関数である正弦波関数で強度変調するとよい。このとき、前記加熱手段を強度変調する時間関数である正弦波関数を、パルス幅変調を代表とするデジタル制御により生成するパルス波形から成る正弦波近似関数によって形成すればよい。さらに、前記加熱手段を、時間関数である方形波、三角波、鋸波、台形波等の時間関数よって強度変調してもよく、この場合、前記加熱手段を強度変調する前記方形波、三角波、鋸波、台形波等の時間関数を、デジタル制御により生成する近似関数によって形成するとよい。
【0011】
また、前記判断手段は、前記複数の異なる測定位置における前記温度センサによる測定温度から、
・前記加熱手段を、時間関数である正弦波関数で強度変調したときの位相に対する前記温度センサによる測定温度の変化の位相の位相遅れ、
・前記温度センサの出力を、その測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わした振幅、
・前記測定位置での温度変化、
・前記測定位置での温度時間変化
を導出する導出手段と、前記導出手段により導出される前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化が、前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化それぞれについて、前記所望強度であると判断するために予め求めておいたしきい値と比較する比較手段とを備え、前記比較手段の比較の結果、前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化のいずれか1つが前記しきい値以上であれば前記所望強度に達していると判断するとよい。
【0012】
接合部材の接合部の密着性が良好で接合強度が高いと、熱伝導、熱拡散、熱放射のいずれも良いことから、接合強度が高いほど、位相遅れは小さく振幅は大きくなり、温度変化は大きく、温度時間変化については急峻で変化度合いが大きくなる。そこで、接合部材の種類や異なる厚みごとに、所望強度以上となる位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化のそれぞれのしきい値を予め実験で求め記憶手段に記憶するなどしておき、上記したように、導出手段により導出した位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化が、当該接合部材の種類および厚みに対応するこれら位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化それぞれのしきい値を比較手段により記憶手段から読み出して比較し、その比較の結果、位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化のいずれか1つがしきい値以上であれば所望強度に達していると判断することにより、当該接合部材の接合部が所望強度以上の接合強度を有するかどうかの判断を容易に行うことができ、接合された接合部材についてリアルタイムで接合部の強度評価を行うことが可能になる。
【0013】
また、少なくとも前記位相遅れおよび前記振幅から、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記位相遅れの大きさに相関して色分けし2次元画像化して成る位相分布画像、および、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記振幅値に相関して色分けし2次元画像化して成る振幅分布画像を作成する画像処理手段と、前記画像処理手段により作成された前記位相分布画像および前記振幅分布画像を表示する表示手段とをさらに備え、前記判断手段は、前記表示手段に表示される前記位相分布画像において所望強度以上の位相遅れの大きさとなるカラーコードの色領域の面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断し、かつ、前記振幅分布画像において所望強度以上の振幅値となるカラーコードの色領域の面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断することにより、前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか評価するのが望ましい。
【0014】
このような構成において、位相遅れの各大きさおよび振幅の各数値(振幅値)に対して、例えば16進数の6桁などで表わされるカラーコードをそれぞれ割り振り、各々のカラーコードの色により各測定位置での位相遅れの数値および振幅値を色表示することにより、複数の測定位置での位相遅れの大きさに相関して色分けした2次元画像である位相分布画像、および、複数の測定位置での振幅値に相関して色分けした2次元画像である振幅分布画像が画像処理手段により作成されて表示手段に表示される。そして、上記したように、接合強度が高いほど位相遅れは小さく、かつ振幅は大きくなるため、所望強度となる位相遅れのしきい値よりも位相遅れの大きさが小さいカラーコードの色領域の面積が、表示される位相分布画像の全体面積でどれくらいの割合を占めるか(面積比)を判断手段により判断するとともに、所望強度となる振幅値のしきい値よりも振幅値が大きいカラーコードの色領域の面積が、表示される振幅分布画像の全体面積でどれくらいの割合を占めるか(面積比)を判断手段により判断し、判断の結果、所望強度以上と判断できる基準面積比を超えるとなるときに、当該接合部材の接合部が所望強度を有すると判断することができる。このとき、接合部材の種類や異なる厚みごとに、所望強度を有すると判断する基準となる位相分布画像および振幅分布画像における基準面積比を予め実験で求めてマップ化するなどして記憶手段に記憶させておき、判断手段により、当該接合部材の種類および厚みに対応する基準面積比を記憶手段から読み出し、実際に表示手段に表示される位相分布画像および振幅分布画像それぞれの全体面積に占めるに所望強度以上のカラーコードの色領域の面積比が、読み出した基準面積比以上であれば、当該接合部材の接合は所望強度以上の接合強度を有すると判断でき、接合された接合部材を破壊することなく所望強度を有するかどうかを低コストで容易に評価することができる。
【0015】
また、時間関数をパルス波形で加熱手段を強度変調する場合に、前記判断手段は、前記複数の異なる測定位置における前記温度センサによる測定温度から、
・前記加熱手段を、時間関数であるパルス波形で強度変調したときの位相に対する前記温度センサによる測定温度の変化のパルス位相の位相遅れ、
・前記温度センサの出力を、その測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わしたパルス波高値である振幅、
・前記測定位置での温度変化、
・前記測定位置での温度時間変化
を導出する導出手段と、前記導出手段により導出される前記パルス位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化が、前記位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化それぞれについて、前記所望強度であると判断するために予め求めておいたしきい値と比較する比較手段とを備え、前記比較手段の比較の結果、前記パルス位相遅れ、前記振幅、前記温度変化、前記温度時間変化のいずれか1つが前記しきい値以上であれば前記所望強度に達していると判断するようにしてもよい。
【0016】
このとき、少なくとも前記パルス位相遅れおよび前記パルス波高値である振幅から、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記位相遅れの大きさに相関して色分けし2次元画像化して成る位相分布画像、および、前記複数の異なる測定位置を含む所定エリアにおける前記パルス波高値である振幅に相関して色分けし2次元画像化して成る振幅分布画像を作成する画像処理手段と、前記画像処理手段により作成された前記位相分布画像および前記振幅分布画像を表示する表示手段とをさらに備え、前記判断手段は、前記表示手段に表示される前記位相分布画像において所望強度以上の位相遅れの大きさとなる色に対応するカラーコードの領域面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断し、かつ、前記振幅分布画像において所望強度以上の振幅値となる色に対応するカラーコードの領域面積が、前記位相分布画像の全体面積に占める割合を判断することにより、前記接合部の接合強度が所望強度に達しているかどうか評価するようにしてもよい。
【0017】
また、前記測定位置を決定する際の基準となる前記複数の接合部材の接合部に位置決めマークが設けられているとよい。こうすると、複数の測定位置の位置決めを容易に行うことが可能になり、作業時間の短縮を図ることができる。
【0018】
また、前記加熱手段は、レーザにより構成され、該レーザは、前記複数の接合部材の接合部の一方面側に、反射光が入射側に戻らない照射角度でレーザ光を照射するとよい。また、前記加熱手段は、レーザにより構成され、該レーザは、前記複数の接合部材の接合部の一方面側に、反射光が入射側に戻らないように防止する防止手段を介してレーザ光を照射するとよい。
【0019】
この場合、レーザ光の反射光が入射側に戻らないため、レーザを損傷するおそれがなく安全性の向上につながる。
【0020】
また、前記加熱手段を構成するレーザの照射スポットを、前記温度センサと同期して前記複数の異なる測定位置に移動させる移動手段をさらに備えるとよい。こうすると、複数の照射スポットにレーザ光を連続的に照射する場合に、効率よく照射スポットを移動させることができて作業効率の向上を図ることが可能になる。
【0021】
また、レーザにより構成される前記加熱手段は、前記複数の接合部材の接合部の表面形状に応じて、レーザ光の照射スポット形状が可変されるようにしてもよい。こうすることで、接合部材の接合部形状に応じた最適な評価を下すことが可能になる。
【0022】
また、前記温度センサは、非接触式であるとよく、接触式であってもよい。
【0023】
また、前記複数の接合部材は、いずれも金属であっても、あるいは樹脂であってもよく、一部は金属であり、残りは樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、加熱手段と温度センサと判断手段という簡単な構成で接合部材の接合強度を評価することができ、しかも接合された接合部材を破壊することもないため、評価に要する時間の都合に応じて、評価対象である接合済みの接合部材の数を極力多くすることで評価の信頼性を向上することが可能になり、安価な構成により、複数の接合部材の接合部の強度評価に対する信頼性を向上することができ、しかも接合された接合部材を破壊によって無駄にすることもなく、コストの低減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る接合強度評価装置の第1実施形態の概略構成を示す図である。
図2図1における接合手段のホーンの押圧面を示す図である。
図3図1における接合手段の動作を示す図である。
図4図1における評価手段の動作を示す図である。
図5】評価対象の一例を示す図である。
図6】強度評価の説明図である。
図7】強度評価の説明図である。
図8】本発明に係る接合強度評価装置の第2実施形態における強度評価の説明図である。
図9】第2実施形態における強度評価の説明図である。
図10】第2実施形態における強度評価の説明図である。
図11】第2実施形態における強度評価の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
この発明に係る接合強度評価装置の一実施形態について、図1ないし図10を参照して説明する。
【0027】
図1に示すように、超音波振動接合装置1は、超音波振動するホーン11と、ホーン11の下方に配設され複数の重ね合された接合部材を接合するアンビル12とを備え、ホーン11の下面の押圧面およびアンビル12の上面の支持面との間に重ね合された複数の接合部材を挟持し、例えばホーン11を下動してアンビルとの間で加圧した状態で超音波振動を印加し、複数の接合部材を超音波溶着して接合する。このとき、いずれも薄板状若しくは箔状の金属と金属、樹脂と樹脂、金属と樹脂を接合することが可能である。また、接合可能な枚数は、2枚に限らず3枚以上であっても接合可能である。
【0028】
ところで、ホーン11は、接合制御手段(図示省略)により制御されて振動子(図示省略)が生成する超音波振動に共振してその中心軸の方向(図1中の矢印Z方向)に超音波振動するものであって、ブースタ(図示省略)を備え、ブースタの他方端とホーン11の一方端とが、互いの中心軸が同軸になるように無頭ねじにより連結されており、振動子による超音波振動にホーン11が共振することにより接合部材に超音波振動(US)が印加される。なお、本実施形態では、ホーン11は、その共振周波数が約15kHz~約60kHz、その振動振幅(矢印Z方向における伸縮の振幅)が約2μm~約300μmとなるように構成されている。
【0029】
このとき、ブースタは、例えば図1中の矢印Z方向におけるそのほぼ中央の位置と、その両端位置とが最大振幅点となるように、共振周波数の一波長の長さに形成され、矢印Z方向において各最大振幅点から1/4波長離れた2つの位置が、それぞれブースタの第1および第2最小振幅点に相当する。なお、ブースタの一方端に、ブースタの中心軸と同軸になるように振動子が無頭ねじ等により接続されている。
【0030】
また、ホーン11は、全体形状が直方体状に形成され、その下面の押圧面には、図2に示すような綾目状の突起が規則正しく形成されている。さらに、ホーン11は、例えば図1中の矢印Z方向におけるその両端位置が最大振幅点となるように、共振周波数の半波長の長さに形成されている。このとき、矢印Z方向におけるホーン11のほぼ中央の位置が第3最小振幅点に相当する。
【0031】
図1に示すように、複数の接合部材が重ね合われた状態で保持されつつ移動機構13により矢印方向に移動され、超音波振動接合装置1による接合位置において移動が一旦停止され、超音波振動接合装置1のホーン11がホーン用駆動機構(図示省略)により図1中の矢印X,Y,Z,θ方向に駆動されに、アンビル12がアンビル用駆動機構(図示省略)により矢印X,Y方向に駆動されるとともに、接合部材に対するホーン11の下面およびアンビル12の接合位置調整および平面調整が行われる。
【0032】
そして、ホーン11およびアンビル12の位置調整が完了すると、図3に示すように、ホーン11が図中の矢印の如く下動され、重ね合された例えば2枚の接合部材P1,P2が、ホーン11の押圧面およびアンビル12の支持面により挟持されて所定の加圧力で加圧されつつ超音波振動が印加される。このとき、ホーン11またはアンビル12に設けられた圧力センサ(図示省略)により、ホーン11とアンビル12との間に挟持された接合部材P1,P2への加圧力が検出され、接合部材W1,W2に対する加圧力が所定値に制御される。
【0033】
なお、ホーン11およびアンビル12を駆動するホーン用駆動機構およびアンビル用駆動機構は、サーボモータやリニアモータ、ステッピングモータ、エアシリンダ等の周知のアクチュエータにより構成することができる。また、ホーン11およびアンビル12の移動軸は上記した図1中の矢印X,Y等に限られるものではなく、アンビル12が矢印Z,θ方向に駆動されるように構成されてもよく、ホーン11およびアンビル12に矢印X,Y,Z,θ方向の移動軸がどのように組み合わされて設けられていてもよい。
【0034】
このように、超音波振動接合装置1により複数の接合部材が超音波接合されると、図1に示すように、移動機構13により接合部材は移動され、この移動機構13の移動の下流側に設置された接合強度評価装置2により接合部の接合強度の評価がリアルタイムで行われる。
【0035】
この接合強度評価装置2は、図1に示すように、接合された接合部材の接合部に上方からレーザ光を集光して照射する加熱手段としてのレーザ21と、接合された接合部材の接合部に対してレーザ21と反対側に設置され接合部の温度を非接触で測定する温度センサとしての放射温度計22と、レーザ21の出力制御を行うレーザ制御手段23と、レーザ21および放射温度計22の位置を移動させる移動手段24と、放射温度計22の出力信号が入力されて接合された接合部材の温度を測定し測定温度に基づく所定の処理を実行する処理手段25と、処理手段25により処理されて形成される所定の画像を表示する液晶ディスプレイ等の表示手段26を備えており、放射温度計22により測定される接合部材の温度に基づき、処理手段25により、位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化、位相分布画像および振幅分布画像などが導出、形成される。
【0036】
ここで、「位相遅れ」とは、レーザ21を正弦波関数で強度変調したときの位相に対する放射温度計22による測定温度の変化の位相の遅れのことであり、「振幅」とは、放射温度計22の出力を、その測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わしたものであり、「温度変化」とは、放射温度計22による測定位置での温度の変化のことであり、「温度時間変化」とは、放射温度計22による測定位置での温度の時間変化のことである。
【0037】
そして、例えば図4に示すように、レーザ21をレーザ制御手段23(図1参照)により正弦波関数で強度変調したレーザ光を照射するように制御し、レーザ21によるレーザ光を光学系により集光して接合部材Wの所定の測定位置Pに上面側から照射したときに、図中の円弧に示すように接合部材Wの下面側に伝播、拡散あるいは放射する熱による温度を、接合部材Wの測定位置Pの直下に配された放射温度計22により非接触で測定する。
【0038】
なお、レーザ21を強度変調する正弦波関数を、アナログ波形に限らず、パルス幅変調を代表とするデジタル制御により生成するパルス波形から成る正弦波近似関数によって形成してもよい。そのほか、方形波、三角波、鋸波、台形波等の時間関数よってレーザ21を強度変調してもよく、この場合にも、強度変調する方形波、三角波、鋸波、台形波等の時間関数を、デジタル制御により生成する近似関数によって形成してもよい。要するにレーザ制御手段23により、直流的に加熱するのではなく交流的に加熱(交流加熱)できればよい。
【0039】
また、レーザ21により加熱する際に、測定位置Pの温度が、接合部材Wの接合部が酸化、劣化、特性変質、組成変化などの化学変化する温度(例えば、50℃)以上に加熱しないように、処理手段25を介した放射温度計22による測定温度をフィードバックしつつレーザ制御手段23によりレーザ21の出力制御を行うのが望ましい。このとき、レーザ21は、接合部材Wの上面からの反射光が戻らない照射角度でレーザ光を照射するか、或いは、接合部材Wの上面からの反射光がレーザ21直接に戻ることがないように、アイソレータ等の反射防止手段を設けてレーザ光を照射するのが望ましく、こうすることでレーザ21の損傷を防止することができる。
【0040】
そして、接合部材Wの上面側から測定位置Pにレーザ光が照射されて加熱されたときに、接合部材Wの接合部の密着性が高くて接合強度が高ければ、接合部材Wにおける熱伝導、熱拡散、熱放射が良いことから、接合部材Wの下面側で放射温度計22により温度測定して得られる位相遅れは小さくなって振幅は大きくなり、温度変化も大きく温度時間変化も急峻で変化度合いが大きくなる。
【0041】
そこで、処理手段25により、接合された接合部材Wの接合部が所望強度を有するかどうかを判断するのに、放射温度計22による測定温度に基づいて導出される位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化がそれぞれについて予め設定されたしきい値と比較し、各々のしきい値を超えていれば当該接合部材Wの接合部は所望強度を有すると判断することができる。ここで、処理手段25による位相遅れ、振幅等の導出処理が本発明における「導出手段」に相当し、処理手段25による比較処理が本発明における「比較手段」に相当し、処理手段25による判断処理が本発明における「判断手段」に相当する。
【0042】
ところで、上記した位相遅れ、振幅、温度変化、温度時間変化それぞれのしきい値を導出するために、次のような予備実験を行って各々のしきい値を設定する。
【0043】
図2に示すように、下面の押圧面に先端が矩形を成す複数の突起を綾目状に配列したホーン11により複数の接合部材Wを接合すると、綾目状の矩形凹部が接合部材Wに形成されて接合される。いま、例えば図5に示すように、薄い銅板(Cu)を重ねて図2のホーン11により接合して、綾目状の複数の矩形凹部Cが接合部Jに形成された試料Sを予め作成する。その際に、銅板を2枚を重ねて、大きい加圧力を加えてで超音波接合した試料S1のほか、順次加圧力を小さくして超音波接合した試料S2,S3,S4の4個の試料を作成する。なお、以下の説明では、試料S1、試料S2、試料S3、試料S4を、総称して試料Sともいう。
【0044】
そして、これら試料S1~S4について、図4に示すように測定位置Pに対して、レーザ制御手段23によりレーザ21の出力強度を正弦波で強度変調したレーザ光を、試料Sの接合部が化学変化を生じない程度に加熱されるよう、所定の測定位置に対して上面側から集光して照射するとともに、その直下で放射温度計22により下面側から温度を測定し、放射温度計22による測定温度に基づき処理手段25により、レーザ光と測定温度との位相遅れ、および、放射温度計22の出力をその測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わした振幅を導出したところ、位相遅れは図6、振幅は図7に示すようになる。なお、レーザ光を集光するスポット径φは例えば0.2mmであり、望ましくは0.15mm~0.5mmであるとよい。
【0045】
ここで、図6の縦軸は位相遅れ(図6における単位は、radian)であり、ゼロに近いほど位相遅れが小さく、マイナスの数値が大きくなるほど位相遅れが大きいことを示す。また、図7の縦軸は振幅(単位は、V(ボルト))である。
【0046】
図6に示す位相遅れ、および、図7に示す振幅の各測定データから、大きい加圧力を加えつつ超音波接合により接合した試料S1は、加圧力が小さい試料S2~S4に比べて位相遅れが小さく、かつ、振幅が大きいことが分かる。すなわち、大きい加圧力を加えつつ超音波接合した試料S1は密着性が高くて接合強度が高く、逆に小さい加圧力で超音波接合した試料S4は密着性が低くて接合強度が低いことから、図6図7のデータにおいて、仮に加圧力が大きい試料S1および試料S2までが実使用上問題がない所望強度を有すると判断するための基準としたきに、試料S2の位相遅れの大きさ(-1.4radian)および振幅値(0.0006V)をそれぞれ位相遅れおよび振幅のしきい値として設定し、これら位相遅れが-1.4(radian)より小さく、振幅が0.0006(V)より大きければよいと判断できることになる。
【0047】
このように、銅(Cu)以外の金属同士や、異種の金属同士、同種の樹脂同士、異種の樹脂同士、金属と樹脂の多様な組み合わせについて、異なる厚みで異なる加圧力で超音波接合した試料Sについて上記した温度測定を行い、処理手段25により位相遅れの大きさおよび振幅値を導出し、接合部材の種類、厚みごとに位相遅れおよび振幅のしきい値を予め導出しておき、これらをマップ化するなどして記憶手段(図示省略)に記憶させておく。
【0048】
したがって、上記した第1実施形態によれば、超音波振動接合装置1により接合された接合部材Wに対して、上記したように、正弦波関数で強度変調されたレーザ21のレーザ光を、接合部材Wの上面側の測定位置Pに集光して照射し、その直下の下面側から放射温度計22により温度を測定し、処理手段25により位相遅れおよび振幅を導出し、処理手段25により、当該接合部材Wの材質および厚みに対応する位相遅れの大きさおよび振幅値のしきい値を記憶手段から読み出して、導出した位相遅れの大きさおよび振幅値それぞれとしきい値とを比較し、導出した位相遅れの大きさおよび振幅値がともに各々のしきい値を上回るかどうかを判断し、上回っていれば当該接合部材Wの接合部は所望強度を有すると評価でき、接合された接合部材Wを破壊することなく低コストで接合強度を評価することができる。このとき、接合部材Wの上面を黒化する手間が不要になる。
【0049】
なお、上記した実施形態では、主として位相遅れおよび振幅について各々のしきい値より大きいかどうかを判断して、当該接合部材Wが所望強度を有するかどうかを評価する場合について説明したが、上記した温度変化や温度時間変化についても、位相遅れや振幅と同様に、異なる接合部材の種類および厚みごとに各々のしきい値を予め求めておいて比較することにより強度評価を行うようにしてもよい。また、レーザ光を照射して温度測定を行う測定位置は1箇所でもよく、2箇所以上に設定すると、評価精度の向上を図ることができる。
【0050】
<第2実施形態>
続いて、本発明の接合強度評価装置の第2実施形態について、図8ないし図11を参照するとともに、第1実施形態で説明した図1ないし図5も参照して説明する。なお、第2実施形態では、測定温度から得られた位相遅れおよび振幅に基づき、位相分布画像および振幅分布画像を作成し、作成した位相分布画像および振幅分布画像から接合部材Wの接合部が所望強度を有するかどうかを判断する点で、上記した第1実施形態と相違しており、以下では、係る相違点について主として説明する。
【0051】
いま、図2に示すような下面の押圧面に先端が矩形を成す複数の突起を綾目状に配列したホーン11により複数の接合部材Wを接合したときに、図5および図8に示すように、サイコロにおける「5」の目状を成す5個の矩形凹部Cを含む例えば5mm×5mmの正方形状の領域を測定領域D(図5図8中の1点鎖線)として設定し、この測定領域Dにレーザ21によるレーザ光を光学系によって0.2mmのスポット径φに集光して接合部が化学変化を生じる温度以下まで加熱されるように所定時間照射するとともに、放射温度計22により試料Sの下面側の温度を測定する。
【0052】
このとき、図8中に1点鎖線で示す1辺5mmの測定領域Dに対して0.2mmのスポット径φとなるように、図8中の2点鎖線のように25行×25列(25=5mm÷0.2mm)の碁盤の目を順次測定位置として、移動手段24によりレーザ21および放射温度計22を順次移動させつつ、正弦波関数で強度変調されたレーザ光を照射して放射温度計22により温度を測定することを繰り返し、放射温度計22により測定される接合部材Wの各測定位置における測定温度に基づき、処理手段25により、各測定位置ごとの位相遅れの大きさおよび振幅値を導出する。
【0053】
このとき、図9に示すように、レーザ21のレーザ光軸を所定の測定位置Pに精度よく位置合わせするために、ハーフミラーMにより反射される接合部材Wの側方からのレーザ光スポットをCCDカメラCAで接合部材Wの上面側からモニタし、測定位置Pのレーザスポットが位置するように、測定位置Pとレーザスポットとの位置ずれ量を移動手段24にフィーバックし、移動手段24により精度よくレーザ光軸を測定位置Pに位置合わせするのが好ましい。ここで、測定位置Pの絶対位置を表わす位置決めマークを予め接合部材Wの規定位置に形成しておくとよい。この位置決めマークを基準として接合位置を決定するため、位置決めマークに対する接合部の位置すれ量は予め分かっており、まずCCDカメラCAにより位置決めマークを検出して、検出した位置決めマークから既知の距離離れた所定の測定位置をCCDカメラCAが例えば画角の中心で撮影できるまでCCDカメラCAを移動し、CCDカメラCAの画角の中心にレーザスポットが位置するようにレーザ21を移動させることで、レーザ光軸を測定位置Pに精度よく位置合わせすることができる。なお、位置合わせの手法は図9の構成に限るものではない。
【0054】
さらに、処理手段25により、導出した各測定位置ごとの位相遅れおよび振幅に基づき、各測定位置を含む所定エリアである正方形状の測定領域D(図8参照)における位相遅れの大きさに相関して色分けし2次元画像化した位相分布画像を作成するとともに、複数の測定位置を含む所定エリアにおける振幅値に相関して色分けし2次元画像化した振幅分布画像を作成する。
【0055】
すなわち、図8の碁盤目状の各測定位置での位相遅れの大きさのレンジが、例えば図10(a)に示すように、-1.50(radian)~-0.5(radian)であるときに(図10(a)では位相遅れの単位は(radian))、この位相遅れのレンジを所定の間隔で分割し、分割した位相遅れ範囲ごとに、例えば16進数で表わされるカラーコードの色それぞれを割り当てる。なお、図10(a)に示すように、位相遅れはマイナスの数値が大きいほど位相遅れが大きいことを表わす。
【0056】
具体例として、図10(a)に示すように、位相遅れが-1.50~-1.46(radian)の範囲には16進数で表記される“#FF66FF”のカラーコードの色を割り当て、-1.46~-1.41の(radian)の範囲には“#CC66FF”のカラーコードの色を割り当て、以下同様にして、-0.62~-0.54(radian)の範囲には“#FF6600”のカラーコードの色を割り当て、-0.54~-0.5(radian)の範囲には“#FF3366”のカラーコードの色を割り当てることにより、各測定位置における位相遅れの大きさを色分けして2次元画像化した位相分布画像を作成し、表示手段26に表示する。
【0057】
これと同様にして、図10(b)に示すように、0~0.002(V)の振幅値のレンジを複数範囲に分割し、分割した各振幅値範囲ごとに、例えば16進数で表記されるカラーコード“#FF66FF”、“#CC66FF”、“#9966FF”、“#6666FF”、“#3366FF”、“#3300FF”、“#0000FF”、“#00CCFF”、……、“#FF6600”、“#FF3366”の色を順次割り当てることにより、各測定位置における振幅値を色分けして2次元画像化した位相分布画像を作成し、表示手段26に表示する。
【0058】
そして、作成した位相分布画像において、処理手段25により、所望強度となる位相遅れのしきい値よりも位相遅れの大きさが小さくなるカラーコードが割り付けられた色の領域面積が、位相分布画像の全体面積でどれくらいの割合を占めるかという面積比を処理手段25により判断するとともに、作成した振幅分布画像において、所望強度となる振幅値のしきい値よりも振幅値が大きくなるカラーコードが割り付けられた色の領域面積が、表示される振幅分布画像の全体面積でどれくらいの割合を占めるかという面積比を判断する。なお、処理手段25による位相および振幅分布画像の作成処理が本発明における「画像処理手段」に相当する。
【0059】
ところで、位相分布画像および振幅分布画像それぞれの全体面積に対して、所望強度以上の位相遅れの大きさおよび振幅値それぞれのカラーコードによる色領域の面積がどれくらいの割合(面積比)を占めれば当該接合部材Wが所望強度を有すると判断すべきかの基準となる位相分布画像および振幅分布画像それぞれの基準面積比を、接合部材Wの種類や異なる厚みごとに予め実験で求めておき、求めた接合部材Wの種類や異なる厚みごとの位相分布画像および振幅分布画像それぞれの基準面積比をマップ化して記憶手段(図示省略)に記憶させておく。例えば、ある種類のある厚みの接合部材の位相分布画像の基準面積比として70%、振幅分布画像の基準面積比として50%などを記憶させておく。
【0060】
そして、処理手段25により作成されて表示手段26に表示される当該接合部材Wの位相分布画像および振幅分布画像において、所望強度以上の位相遅れの大きさおよび振幅値それぞれのカラーコードによる色領域の面積の全体面積に対する面積比が、記憶手段から読み出した当該接合部材Wの基準面積比以上であるかどうかを処理手段25により判断し、位相分布画像および振幅分布画像それぞれの基準面積比以上であれば、当該接合部材Wは所望強度以上の接合強度を有すると判断し、基準面積比よりも小さければ当該接合部材Wは所望強度以上の接合強度を有しないと判断する。
【0061】
具体的には、当該接合部材Wに対して、図8中の1点鎖線の測定領域Dを25行×25列の碁盤の目を測定位置としてレーザ21および放射温度計22を順次移動させ、レーザ光の照射および温度測定を繰り返すことにより、図11に示すような位相分布画像が作成されたときに、当該接合部材Wの種類および厚みに対応する基準面積比が、例えば70%であるときに、作成された位相分布画像において所望強度以上の位相遅れの大きさのカラーコードによる色領域が図11中にハッチングを施した領域である場合には、正方形状の測定領域Dの全体面積に対するハッチング領域の面積比は基準面積比(70%)を超えていると言える。また、振幅分布画像についても、同様にして、作成された振幅分布画像において所望強度以上の振幅値の大きさのカラーコードによる色領域の面積が測定領域Dの全体面積に対して基準面積比を超えているかどうか判断する。こうして、位相分布画像および振幅分布画像ともに各々の基準面積比を超えていれば、当該接合部材Wの接合部は所望強度を有すると判断できる。
【0062】
したがって、第2実施形態によれば、処理手段25により作成される位相分布画像および振幅分布画像から、当該接合部材Wが所望の接合強度を有するかどうかを容易に評価することができる。
【0063】
また、移動手段24によりレーザ21および放射温度計22を複数の測定位置に順次移動させる際に、図9に示すように、ハーフミラーMおよびCCDカメラCAを用いてレーザ光軸を所定の測定位置Pに位置合わせするため、非常に精度よくレーザ光軸を測定位置Pに位置合わせすることができる。
【0064】
ところで、上記した第2実施形態では、図8に示すように、5mm×5mmの測定領域Dを25行×25列の碁盤目状の各測定位置について温度測定を行い、位相遅れの大きさ意および振幅値を導出して位相分布画像および振幅分布画像を作成するようにしたが、評価のタクトタイムを短くするために、温度測定する測定位置の数を、上記した25行×25列よりも減らしてもよいのは勿論である。
【0065】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
【0066】
例えば、上記した実施形態では、超音波振動接合装置1により複数の接合部材を重ねて超音波接合した接合部を強度評価する場合について説明したが、超音波接合以外の接合手法により接合された接合部についても強度評価を行うことができるのはいうまでもない。
【0067】
また、上記した実施形態では、超音波振動接合装置1のホーン11の下面に、綾目状の複数の突起が配列形成されている場合について説明したが、ホーン11の下面は、図2のような綾目状の突起以外の突起を有するものであってよく、平坦であってもよいのは勿論である。
【0068】
また、時間関数をパルス波形でレーザ21を強度変調する場合には、処理手段25により、複数の異なる測定位置における放射温度計22による測定温度から、「位相遅れ」としてレーザ21を数をパルス波形で強度変調したときの位相に対する放射温度計22による測定温度の変化のパルス位相の遅れを導出し、「振幅」として放射温度計22の出力を、その測定温度の温度変化量に比例した電圧で表わしたパルス波高値を導出するとよい。
【0069】
また、接合部材Wの接合部の表面形状に応じて、レーザ21によるレーザ光の照射スポット形状を可変するようにしてもよい。こうすると、接合部材Wの接合部形状に応じた最適な評価を下すことが可能になる。
【0070】
また、レーザ21に代え、加熱手段をとしてキセノンランプやハロゲンランプなどを使用してもよい。さらに、温度センサは上記した放射温度計22に代えて、赤外線カメラ、赤外線スキャナーなどの非接触式センサを使用してもよく、接触式のものを使用してもよい。
【0071】
また、上記した実施形態では、超音波振動接合装置1により接合された接合部材をリアルタイムで接合強度の評価を行う例について説明したが、必ずしもリアルタイムで強度評価を行う必要はなく、接合作業と評価作業の間に一定以上の時間を空けて行ってもよく、接合場所と異なる場所で強度評価を行うようにしてもよい。
【0072】
また、上記した実施形態では、超音波振動接合装置1により超音波接合した接合部材について接合強度の評価を行う場合について説明したが、評価対象となる接合部材は超音波以外の手法により接合されたものであってもよいのは勿論である。
【0073】
そして、複数の接合部材を重ねて接合された接合部の接合強度を評価する技術分野に、本発明を広く適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 …超音波振動接合装置
11 …ホーン
12 …アンビル
2 …接合強度評価装置
21 …レーザ(加熱手段)
22 …放射温度計(温度センサ)
23 …レーザ制御手段
24 …移動手段
25 …処理手段(判断手段、導出手段、比較手段、画像処理手段)
26 …表示手段
W,W1,W2 …接合部材
J …接合部
P …測定位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11