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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020086629
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181897
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 由行
(72)【発明者】
【氏名】名越 泰彦
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6601854(JP,B1)
【文献】特開2000-065765(JP,A)
【文献】特開2012-007928(JP,A)
【文献】特開2010-078592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定位置に載置された試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率を求める走査型蛍光X線分析装置であって、
複数の試料の連続測定に対しては前記測定位置に載置される1つの試料を交換するのに要する時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料の当該走査型蛍光X線分析装置外から前記測定位置までの投入および前記測定位置から当該走査型蛍光X線分析装置外までの排出に要する時間が、試料移動時間とされ、
前記測定位置に載置された1つの試料について、強度を測定すべき蛍光X線である測定線のそれぞれに対応させて測定条件を変更するのに要する時間の合計が合計測定条件変更時間とされ、
前記測定位置に載置された1つの試料について、各測定線の計数時間の合計が合計計数時間とされ、
前記試料移動時間と前記合計測定条件変更時間との和が合計非計数時間とされ、
前記合計計数時間と前記合計非計数時間との和がトータル分析時間とされるところ、
そのトータル分析時間を表示器に出力するトータル分析時間表示手段を備え、
そのトータル分析時間表示手段が、
分析対象の試料の品種ごとに、成分の含有率が標準値として既知である標準試料を測定して、成分に対応する測定線ごとに測定強度を求め、
成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、指定された分析精度が得られる計数時間を計算するとともに、各成分の計数時間の合計として合計計数時間を計算し、
その合計計数時間と前記合計非計数時間との和としてトータル分析時間を計算し、計算したトータル分析時間および計算した各成分の計数時間を出力する、走査型蛍光X線分析装置。
【請求項2】
測定位置に載置された試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率を求める走査型蛍光X線分析装置であって、
複数の試料の連続測定に対しては前記測定位置に載置される1つの試料を交換するのに要する時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料の当該走査型蛍光X線分析装置外から前記測定位置までの投入および前記測定位置から当該走査型蛍光X線分析装置外までの排出に要する時間が、試料移動時間とされ、
前記測定位置に載置された1つの試料について、強度を測定すべき蛍光X線である測定線のそれぞれに対応させて測定条件を変更するのに要する時間の合計が合計測定条件変更時間とされ、
前記測定位置に載置された1つの試料について、各測定線の計数時間の合計が合計計数時間とされ、
前記試料移動時間と前記合計測定条件変更時間との和が合計非計数時間とされ、
前記合計計数時間と前記合計非計数時間との和がトータル分析時間とされるところ、
そのトータル分析時間を表示器に出力するトータル分析時間表示手段を備え、
そのトータル分析時間表示手段が、
分析対象の試料の品種ごとに、成分の含有率が標準値として既知である標準試料を測定して、成分に対応する測定線ごとに測定強度を求め、
成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、指定された計数時間で得られる分析精度を計算するとともに、各成分の指定された計数時間の合計として合計計数時間を計算し、
その合計計数時間と前記合計非計数時間との和としてトータル分析時間を計算し、計算したトータル分析時間および計算した各成分の分析精度を出力する、走査型蛍光X線分析装置。
【請求項3】
測定位置に載置された試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率を求める走査型蛍光X線分析装置であって、
複数の試料の連続測定に対しては前記測定位置に載置される1つの試料を交換するのに要する時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料の当該走査型蛍光X線分析装置外から前記測定位置までの投入および前記測定位置から当該走査型蛍光X線分析装置外までの排出に要する時間が、試料移動時間とされ、
前記測定位置に載置された1つの試料について、強度を測定すべき蛍光X線である測定線のそれぞれに対応させて測定条件を変更するのに要する時間の合計が合計測定条件変更時間とされ、
前記測定位置に載置された1つの試料について、各測定線の計数時間の合計が合計計数時間とされ、
前記試料移動時間と前記合計測定条件変更時間との和が合計非計数時間とされ、
前記合計計数時間と前記合計非計数時間との和がトータル分析時間とされるところ、
そのトータル分析時間を表示器に出力するトータル分析時間表示手段を備え、
そのトータル分析時間表示手段が、
分析対象の試料の品種ごとに、成分の含有率が標準値として既知である標準試料を測定して、成分に対応する測定線ごとに測定強度を求め、
指定されたトータル分析時間から前記合計非計数時間を差し引いて合計計数時間を計算するとともに、その合計計数時間および予め設定された計数時間比を用いて、各成分の計数時間を計算し、
成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、計算した計数時間で得られる分析精度を計算し、
指定されたトータル分析時間および計算した各成分の分析精度を出力する、走査型蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の走査型蛍光X線分析装置において、
複数の成分を含む任意の試料について、前記試料移動時間および前記合計測定条件変更時間が計測されるとともに、1成分あたりの平均測定条件変更時間が求められており、
前記トータル分析時間表示手段が、計測された前記試料移動時間および求められた前記1成分あたりの平均測定条件変更時間を記憶しており、その記憶した前記試料移動時間および前記1成分あたりの平均測定条件変更時間ならびに分析対象の試料の成分数に基づいて、前記合計非計数時間を求める、走査型蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の走査型蛍光X線分析装置において、
試料の品種ごとに、任意の試料について、各成分について仮の計数時間が設定されて測定されるとともに、複数の試料の連続測定に対しては1つの試料が前記測定位置に載置されてから次の試料が前記測定位置に載置されるまでの時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料が当該走査型蛍光X線分析装置外から投入されてから当該走査型蛍光X線分析装置外へ排出されるまでの時間が、トータル分析時間として計測され、その計測されたトータル分析時間から、各成分の仮の計数時間の合計としての合計計数時間が差し引かれることにより、前記合計非計数時間が求められており、
前記トータル分析時間表示手段が、求められた前記合計非計数時間を記憶している、走査型蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定し、各種試料の定量分析を行う走査型蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型蛍光X線分析装置における定量分析においては、分析成分に対応する分析元素ごとにゴニオメータを動作させて、指定された2θ角度で、X線強度を計数して、得られたX線強度から、例えば検量線法により定量演算を行う。各成分のX線強度の測定精度は、X線強度と計数時間に依存する。X線強度の測定精度については、X線強度の数え落としの影響が無視できる場合、X線強度の計数値を積算強度(カウント数c)で表したとき、積算強度の精度は、積算強度の平方根である。この現象を統計変動と呼ぶ。X線強度の精度が統計変動に従うとした場合、X線強度Iの単位をkcps、計数時間Tの単位を秒とすると、X線強度の精度σ(kcps)は次式(1)で計算できる。
【0003】
σ=(I/(T×1000))1/2 …(1)
【0004】
また、式(1)を変換し、次式(2)で、指定したX線強度の精度が得られる計数時間Tを求めることができる。
【0005】
T=I/(σ ×1000) …(2)
【0006】
これを利用して、計数時間を決定するために、X線強度の相対精度と分析値の相対精度(濃度の相対精度)が一致するとの前提で、X線強度の相対精度つまり分析値の相対精度が、指定された値になるように計数時間の計算を行う装置がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-074857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来は、1つの試料の分析全体に要するトータル分析時間の推定に、計数時間のみを計算に使用していた。しかしながら、実際の分析では、試料を装置外の外部試料交換機から装置内に搬送し、分析成分ごとにゴニオメータを駆動させて全ての指定成分の測定を完了し、外部試料交換機に排出するまでが、各試料のトータル分析時間となる。1成分あたり長い計数時間(例えば、40秒程度)で多数の成分を分析する場合、全分析成分の計数時間の合計がトータル分析時間に近くなるが、セメントなどの分析では、1成分の計数時間を短時間(例えば、数秒以内)にする場合が多く、合計計数時間はトータル分析時間よりも大幅に短い。
【0009】
また、多数の試料を連続測定するときの1時間あたりの分析可能試料数等のスループットを考慮する場合のみならず、炉前分析など、1試料だけ迅速に分析する場合にもトータル分析時間の情報が重要である。しかしながら、従来のように計数時間のみを計算し出力した場合、合計計数時間がトータル分析時間とかけ離れることがあるので、必要とする分析精度を得るための適切な計数時間の決定が行えなかった。
【0010】
本発明は、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能な蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の走査型蛍光X線分析装置は、測定位置に載置された試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率を求める。複数の試料の連続測定に対しては前記測定位置に載置される1つの試料を交換するのに要する時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料の当該走査型蛍光X線分析装置外から前記測定位置までの投入および前記測定位置から当該走査型蛍光X線分析装置外までの排出に要する時間が、試料移動時間とされる。前記測定位置に載置された1つの試料について、強度を測定すべき蛍光X線である測定線のそれぞれに対応させて測定条件を変更するのに要する時間の合計が合計測定条件変更時間とされる。前記測定位置に載置された1つの試料について、各測定線の計数時間の合計が合計計数時間とされる。前記試料移動時間と前記合計測定条件変更時間との和が合計非計数時間とされる。前記合計計数時間と前記合計非計数時間との和がトータル分析時間とされる。
【0012】
この走査型蛍光X線分析装置は、このトータル分析時間を表示器に出力するトータル分析時間表示手段を備えている。トータル分析時間表示手段は、分析対象の試料の品種ごとに、成分の含有率が標準値として既知である標準試料を測定して、成分に対応する測定線ごとに測定強度を求める。
【0013】
本発明の第1構成に係る走査型蛍光X線分析装置では、トータル分析時間表示手段は、さらに、成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、指定された分析精度が得られる計数時間を計算するとともに、各成分の計数時間の合計として合計計数時間を計算する。トータル分析時間表示手段は、その合計計数時間と前記合計非計数時間との和としてトータル分析時間を計算し、計算したトータル分析時間および計算した各成分の計数時間を出力する。
【0014】
第1構成によれば、表示器に表示されたトータル分析時間および各成分の計数時間を見ながら、必要な分析精度を設定することができる。これにより、適切な計数時間の決定が可能となる。このように、第1構成によれば、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能である。
【0015】
本発明の第2構成に係る走査型蛍光X線分析装置では、トータル分析時間表示手段は、さらに、成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、指定された計数時間で得られる分析精度を計算するとともに、各成分の指定された計数時間の合計として合計計数時間を計算する。トータル分析時間表示手段は、その合計計数時間と前記合計非計数時間との和としてトータル分析時間を計算し、計算したトータル分析時間および計算した各成分の分析精度を出力する。
【0016】
第2構成によれば、特定成分の計数時間を変更して分析精度の計算を行い、表示器に表示されたトータル分析時間を参照しながら、各成分の計数時間を決定することができる。このように、第2構成によれば、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能である。
【0017】
本発明の第3構成に係る走査型蛍光X線分析装置では、トータル分析時間表示手段は、さらに、指定されたトータル分析時間から前記合計非計数時間を差し引いて合計計数時間を計算するとともに、その合計計数時間および予め設定された計数時間比を用いて各成分の計数時間を計算する。トータル分析時間表示手段は、成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、計算した計数時間で得られる分析精度を計算し、指定されたトータル分析時間および計算した各成分の分析精度を出力する。
【0018】
第3構成によれば、例えば、トータル分析時間を短く設定して各成分の分析精度を確認しながら、トータル分析時間を適切に設定することで必要な分析精度を得る各成分の計数時間を決定することができる。このように、第3構成によれば、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能である。
【0019】
本発明において、複数の成分を含む任意の試料について、前記試料移動時間および前記合計測定条件変更時間が計測されるとともに、1成分あたりの平均測定条件変更時間が求められていてもよく、前記トータル分析時間表示手段が、計測された前記試料移動時間および求められた前記1成分あたりの平均測定条件変更時間を記憶しており、その記憶した前記試料移動時間および前記1成分あたりの平均測定条件変更時間ならびに分析対象の試料の成分数に基づいて、前記合計非計数時間を求めてもよい。
【0020】
また、これに代えて、試料の品種ごとに、任意の試料について、各成分について仮の計数時間が設定されて測定されるとともに、複数の試料の連続測定に対しては1つの試料が前記測定位置に載置されてから次の試料が前記測定位置に載置されるまでの時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料が当該走査型蛍光X線分析装置外から投入されてから当該走査型蛍光X線分析装置外へ排出されるまでの時間が、トータル分析時間として計測され、その計測されたトータル分析時間から、各成分の仮の計数時間の合計としての合計計数時間が差し引かれることにより、前記合計非計数時間が求められていてもよく、前記トータル分析時間表示手段が、求められた前記合計非計数時間を記憶していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
図2A】同蛍光X線分析装置の分析タイムチャートの例を示す図である。
図2B】同蛍光X線分析装置の分析タイムチャートの別の例を示す図である。
図3】同蛍光X線分析装置の操作画面の一例を示す図である。
図4】同蛍光X線分析装置の操作画面の別の例を示す図である。
図5】同蛍光X線分析装置の操作画面のさらに別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、この装置は、測定位置に載置された試料1,14,24(分析対象の試料(いわゆる未知試料)1、標準試料14、複数の成分を含む任意の試料24を含む)に1次X線3を照射し、発生する2次X線5の測定強度に基づいて試料1中の成分の含有率の定量値(分析値)および/または試料1の厚さの定量値を求める走査型の蛍光X線分析装置である。この蛍光X線分析装置は、試料1,14,24が載置される試料台2と、試料1,14,24に1次X線3を照射するX線管などのX線源4と、試料1,14,24から発生する蛍光X線などの2次X線5を分光する分光素子6と、その分光素子6で分光された2次X線7が入射され、その強度を検出する検出器8とを備えている。検出器8の出力は、図示しない増幅器、波高分析器、計数手段などを経て、装置全体を制御するコンピュータなどの制御手段11に入力される。
【0023】
この装置は、波長分散型でかつ走査型の蛍光X線分析装置であり、検出器8に入射する2次X線7の波長が変化するように、分光素子6と検出器8を連動させる連動手段10、すなわちいわゆるゴニオメータを備えている。2次X線5がある入射角θで分光素子6へ入射すると、その2次X線5の延長線9と分光素子6で分光(回折)された2次X線7は入射角θの2倍の分光角2θをなす。連動手段10は、分光角2θを変化させて分光される2次X線7の波長を変化させつつ、その分光された2次X線7が検出器8に入射するように、分光素子6を、その表面の中心を通る紙面に垂直な軸Oを中心に回転させ、その回転角の2倍だけ、検出器8を、軸Oを中心に円12に沿って回転させる。分光角2θの値(2θ角度)は、連動手段10から制御手段11に入力される。
【0024】
制御手段11は、強度を測定すべき2次X線5である測定線のそれぞれについて、対応する分光角2θで連動手段10を決められた計数時間だけ停止させ、測定強度を得る。この実施形態の装置は、制御手段11に搭載されるプログラムとして、後述するトータル分析時間を表示器15に出力するトータル分析時間表示手段13を備えている。表示器15は、例えば、ディスプレイ、モニター等である。なお、各測定線について、ピークのみを測定したグロス強度を測定強度としてもよいし、ピークとバックグラウンドを測定してバックグラウンド除去を行ったネット強度を測定強度としてもよい。また、X線強度の相対精度と分析値の相対精度が一致しない場合でも、X線強度の変動に対する各成分の分析値の変動の割合を求めて分析精度の計算や計数時間の計算を行ってもよい。
【0025】
ここで、複数の試料の連続測定に対しては測定位置に載置される1つの試料1,14,24を交換するのに要する時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料1,14,24の当該走査型蛍光X線分析装置外から測定位置までの投入および測定位置から当該走査型蛍光X線分析装置外までの排出に要する時間を、「試料移動時間」とする。また、測定位置に載置された1つの試料1,14,24について、強度を測定すべき蛍光X線である測定線のそれぞれに対応させて測定条件を変更するのに要する時間の合計を「合計測定条件変更時間」とする。さらに、測定位置に載置された1つの試料1,14,24について、各測定線の計数時間の合計を「合計計数時間」とする。試料移動時間と合計測定条件変更時間との和を「合計非計数時間」とする。これら合計計数時間と合計非計数時間との和を「トータル分析時間」とする。
【0026】
なお、走査型蛍光X線分析装置において、試料を移動させる機構に関しては、2つのタイプがある。第1のタイプでは、試料が走査型蛍光X線分析装置外の外部試料交換機から測定位置まで投入され、測定完了後にその試料が測定位置から外部試料交換機まで排出されてから、次の試料が外部試料交換機から測定位置まで投入される。第2のタイプでは、走査型蛍光X線分析装置内に、予備排気室と、予備排気室にある試料と測定位置にある試料を交換する内部試料交換機構とが備えられており、試料が、外部試料交換機、予備排気室、測定位置、予備排気室、外部試料交換機の順に移動される。このタイプでは、測定位置にある試料の測定中に、次の試料を予備排気室で待機させておき、測定位置にある試料の測定完了後に、予備排気室の試料と測定位置の試料が交換される(例えば、特開2005-98906号公報参照)。
【0027】
第1のタイプの場合、複数の試料の連続測定に対する試料移動時間と、1つの試料のみの測定に対する試料移動時間とは同じであるが、第2のタイプの場合、複数の試料の連続測定に対する試料移動時間は、1つの試料のみの測定に対する試料移動時間よりも大幅に短縮されて、予備排気室の試料と測定位置の試料との交換に要する時間のみとなる。
【0028】
合計非計数時間を求めるには、例えば、以下の2通りの方法がある。
[第1の方法]
複数の成分(例えば10成分)を含む任意の試料について、試料移動時間および合計測定条件変更時間を計測するとともに、1成分あたりの平均測定条件変更時間を求めておく。試料移動時間は、当該走査型蛍光X線分析装置外から測定位置までの投入時間と、測定位置から当該走査型蛍光X線分析装置外までの排出時間とに分けて計測される場合には、投入時間と排出時間との和として計測される。
【0029】
1成分あたりの平均測定条件変更時間とは、複数の成分について仮の計数時間等の測定条件を設定して任意の試料を測定した際の、最初の成分の測定開始から最後の成分の測定終了までの時間(測定時間)から、全成分の合計計数時間を差し引いて計測された合計測定条件変更時間を、その任意の試料の成分数(測定した成分数)で除した時間である。つまり、1成分を測定するときの、X線管の管電圧と管電流の変更、ゴニオメータの駆動、分光素子の変更などを含めた平均的な測定条件変更時間である。第1の方法において計測された試料移動時間および求められた1成分あたりの平均測定条件変更時間は、試料の品種に関係なく適用可能であるが、試料移動時間は、測定雰囲気ごとに計測しておくことが望ましい。
【0030】
そして、トータル分析時間表示手段に、計測された試料移動時間および求められた1成分あたりの平均測定条件変更時間を記憶させておく。試料移動時間については、上述の場合、投入時間と排出時間とに分けて記憶させておいてもよい。トータル分析時間表示手段は、記憶した試料移動時間および1成分あたりの平均測定条件変更時間ならびに分析対象の試料の成分数(測定対象の成分数)に基づいて、合計非計数時間を求める。具体的には、試料移動時間に、1成分あたりの平均測定条件変更時間に分析対象の試料の成分数を乗じた時間を加えることにより、合計非計数時間を求める。
【0031】
[第2の方法]
試料の品種ごとに、任意の試料について、各成分について仮の計数時間を設定して測定するとともに、複数の試料の連続測定に対しては1つの試料が測定位置に載置されてから次の試料が測定位置に載置されるまでの時間、1つの試料のみの測定に対してはその試料が当該走査型蛍光X線分析装置外から投入されてから当該走査型蛍光X線分析装置外へ排出されるまでの時間を、トータル分析時間として計測し、その計測したトータル分析時間から、各成分の仮の計数時間の合計としての合計計数時間を差し引くことにより、合計非計数時間を求めておく。第2の方法における合計非計数時間は、試料の品種ごとに求められ、同じ品種の試料に適用可能である。
【0032】
そして、トータル分析時間表示手段に、求められた合計非計数時間を記憶させておく。なお、複数の試料の連続測定において、1つの試料が測定位置に載置されてから次の試料が測定位置に載置されるまでの時間は、1つの試料の測定開始から次の試料の測定開始までの時間、1つの試料の測定終了から次の試料の測定終了までの時間と、同じである。
【0033】
以下、合計非計数時間の求め方について具体的な例を挙げて説明する。図2Aは、前記第2のタイプの走査型蛍光X線分析装置で、セメントの試料について、1つの試料のみを測定し、各所要時間を計測して得られた分析のタイムチャートの例を示す。この場合、前記第1の方法では、試料移動時間が48秒(25秒+23秒)と計測され、合計測定条件変更時間が44秒(70秒-26秒)と計測されるとともに、1成分あたりの平均測定条件変更時間が4秒(44秒/11)と求められる。そして、試料移動時間48秒に、1成分あたりの平均測定条件変更時間4秒に分析対象の試料の成分数(例えば11)を乗じた時間44秒を加えることにより、合計非計数時間が92秒と求められる。
【0034】
同じ場合、前記第2の方法では、トータル分析時間が118秒と計測され、その計測されたトータル分析時間118秒から、各成分の仮の計数時間の合計としての合計計数時間26秒を差し引くことにより、合計非計数時間が92秒と求められる。
【0035】
図2Bは、前記第2のタイプの走査型蛍光X線分析装置で、セメントの試料について、複数の試料を連続測定し、各所要時間を計測して得られた分析のタイムチャートの例を示す。この場合、2ケ目の試料に着目し、前記第1の方法では、試料移動時間が13秒と計測され、合計測定条件変更時間が44秒(70秒-26秒)と計測されるとともに、1成分あたりの平均測定条件変更時間が4秒(44秒/11)と求められる。そして、試料移動時間13秒に、1成分あたりの平均測定条件変更時間4秒に分析対象の試料の成分数(例えば11)を乗じた時間44秒を加えることにより、合計非計数時間が57秒と求められる。
【0036】
同じ場合、前記第2の方法では、トータル分析時間が83秒と計測され、その計測されたトータル分析時間83秒から、各成分の仮の計数時間の合計としての合計計数時間26秒を差し引くことにより、合計非計数時間が57秒と求められる。なお、前記第2のタイプの走査型蛍光X線分析装置で複数の試料を連続測定する場合、最初の試料と最後の試料については、他の試料と比べて試料移動時間が異なる(長くなる)が、計数時間以外の分析に要する時間の概略値として合計非計数時間を求める本願発明においては、この試料移動時間の差異は、無視しても問題はない。また、前記第1のタイプの走査型蛍光X線分析装置では、複数の試料を連続測定する場合の分析のタイムチャートは、単に、1つの試料のみを測定する場合の分析のタイムチャートの繰り返しになり、上述したように、複数の試料の連続測定に対する試料移動時間と、1つの試料のみの測定に対する試料移動時間とは同じになる。
【0037】
つぎに、トータル分析時間表示手段13の動作について説明する。トータル分析時間表示手段13は、分析対象の試料の品種ごとに、例えば成分数3の分析対象の試料1の品種について、成分の含有率が標準値として既知である標準試料14を測定して、成分に対応する測定線ごとに測定強度を求める。具体的には、Fe、Al、SiOの3成分を分析するとして、各成分に対応する測定線は、Fe-Kα線、Al-Kα線、Si-Kα線である。なお、図3~5では、Fe-Kα線、Al-Kα線、Si-Kα線をそれぞれFe-KA線、Al-KA線、Si-KA線と表記し、合計非計数時間を合計駆動時間と表記している。
【0038】
また、トータル分析時間表示手段13は、例えば図2Aを用いて説明した前記第1の方法により、記憶した試料移動時間48秒(1つの試料のみを測定する場合)および1成分あたりの平均測定条件変更時間4秒ならびに分析対象の試料の成分数3に基づいて、合計非計数時間を求める。具体的には、試料移動時間48秒に、1成分あたりの平均測定条件変更時間4秒に分析対象の試料の成分数3を乗じた時間12秒を加えることにより、合計非計数時間60秒を求める。なお、図2Bを用いて説明したように、複数の試料を連続測定する場合には試料移動時間は13秒になるが、いずれの試料移動時間を使用するかについて、後述する操作画面において図示しないオプションボタンで選択してもよい。
【0039】
分析精度が指定された場合には、トータル分析時間表示手段13は、成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、指定された分析精度が得られる計数時間を計算するとともに、各成分の計数時間の合計として合計計数時間を計算し、その合計計数時間と上述のように求めた合計非計数時間との和としてトータル分析時間を計算し、計算したトータル分析時間および計算した各成分の計数時間を出力する。以下に詳述する。
【0040】
図3は、分析精度が指定された場合の操作画面の例である。以下の説明において、画面の右、左とは、画面を見るユーザから見た右、左をいう。最初に、画面左上のオプションボタン20から“計数時間計算”を選択する。つづいて、指定精度のテキストボックス25(太枠)に、3つの成分の分析精度を入力する。分析精度の入力は、例えば、キーボード、テンキー、タッチパネル等で行う。
【0041】
分析精度が入力され、図示しない計算開始ボタンが押されると、トータル分析時間表示手段13は、まず、分析値(ここでは含有率)の相対精度が、対応する測定線のX線強度の相対精度と一致すると仮定し、以下の式(3)により、指定された分析精度σに必要なX線強度の精度σを求める。
【0042】
σ=I×(σ/W) …(3)
W:含有率(標準値)
I:X線強度(測定強度)
【0043】
つぎに、トータル分析時間表示手段13は、このX線強度の精度σが得られる計数時間を、上述の式(2)で求める。計数時間については、実際の蛍光X線分析装置では、最小単位が決められており、ここでは、最小単位を1秒とし、計数時間は切り上げまたは四捨五入により最小単位に丸めた時間とする。
【0044】
トータル分析時間表示手段13は、さらに、各成分の(丸めた)計数時間から合計計数時間を計算し、合計計数時間と上述のように求めた合計非計数時間との和をトータル分析時間とする。図3の例では、画面の右上に、トータル分析時間、合計非計数時間(合計駆動時間)と合計計数時間を表示している。
【0045】
また、念のため、得られた各成分の計数時間Tから、以下の式(4)により分析精度σを計算して表示してもよい。図3の例では、計算された分析精度が、画面の右下に、推定精度として表示されている。なお、この例では、分析値の相対精度とX線強度の相対精度が一致すると仮定して計算している。
【0046】
σ=W×(σ/I)=W/(T×I×1000)1/2 …(4)
【0047】
図3の例によれば、表示器15に表示されたトータル分析時間および各成分の計数時間を見ながら、必要な分析精度を設定することができる。これにより、適切な計数時間の決定が可能となる。このように、図3の例によれば、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能である。
【0048】
計数時間が指定された場合には、トータル分析時間表示手段13は、成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、指定された計数時間で得られる分析精度を計算するとともに、各成分の指定された計数時間の合計として合計計数時間を計算し、その合計計数時間と上述のように求めた合計非計数時間との和としてトータル分析時間を計算し、計算したトータル分析時間および計算した各成分の分析精度を出力する。以下に詳述する。
【0049】
図4は、計数時間が指定された場合の操作画面の例である。最初に、画面左上のオプションボタン20から“精度計算”を選択する。つづいて、計数時間のテキストボックス30(太枠)に、3つの成分の計数時間を入力する。
【0050】
計数時間が入力され、図示しない計算開始ボタンが押されると、トータル分析時間表示手段13は、上述の式(1)により、X線強度の精度を求める。つぎに、トータル分析時間表示手段13は、このX線強度の精度を用いて、上述の式(4)により分析精度を求めて推定精度として表示する(画面右下の破線の枠内)。また、設定した各成分の計数時間から合計計数時間とトータル分析時間(合計計数時間と上述のように求めた合計非計数時間との和として計算される)の表示を更新する(画面右上の破線の枠内)。合計計数時間とトータル分析時間については、計数時間の入力直後に更新してもよい。
【0051】
図4の例によれば、特定成分の計数時間を変更して精度計算を行い、表示器15に表示されたトータル分析時間を参照しながら、各成分の計数時間を決定することができる。このように、図4の例によれば、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能である。
【0052】
トータル分析時間が指定された場合には、トータル分析時間表示手段13は、指定されたトータル分析時間から上述のように求めた合計非計数時間を差し引いて合計計数時間を計算するとともに、その合計計数時間および予め設定された計数時間比を用いて、各成分の計数時間を計算し、成分ごとに、標準値および測定強度を用いて、計算した計数時間で得られる分析精度を計算し、指定されたトータル分析時間および計算した各成分の分析精度を出力する。以下に詳述する。
【0053】
図5は、トータル分析時間が指定された場合の操作画面の例である。最初に、画面左上のオプションボタン20から“トータル分析時間指定”を選択する。つづいて、画面右上のトータル分析時間のテキストボックス35(太枠)に、トータル分析時間を入力する。
【0054】
トータル分析時間が入力され、図示しない計算開始ボタンが押されると、トータル分析時間表示手段13は、指定されたトータル分析時間から上述のように求めた合計非計数時間(合計駆動時間)を差し引き、合計計数時間を求める。
【0055】
つづいて、トータル分析時間表示手段13は、予め設定されている計数時間比(図5の例では、図4の計数時間比を使用している)と、ここで求めた合計計数時間(この場合、30秒)から、各計数時間を計算する。トータル分析時間表示手段13は、さらに、この個々の計数時間から、計数時間が指定された場合と同様に、式(1)と式(4)により各成分の分析精度を求め、表示器15に推定精度として表示する(画面右下の破線の枠内)。
【0056】
図5の例によれば、例えば、トータル分析時間を短く設定して各成分の分析精度を確認しながら、トータル分析時間を適切に設定することで必要な分析精度を得る各成分の計数時間を決定することができる。このように、図5の例によれば、トータル分析時間を容易に把握でき、必要とする分析精度が得られる計数時間の決定が可能である。
【0057】
上述の図3~5の例においては、ピークのみを測定するとし、X線強度の相対精度と分析値の相対精度が一致するとして計算したが、バックグラウンドも測定してネット強度を求める場合にも、本発明を適用できる。また、X線強度の相対精度と分析値の相対精度が一致しない場合でも、X線強度の変動に対する各成分の分析値の変動の割合を求めて分析精度の計算や計数時間の計算を行ってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1,14,24 試料
1 分析対象の試料
3 1次X線
5 2次X線(蛍光X線)
13 トータル分析時間表示手段
14 標準試料
15 表示器
24 複数の成分を含む任意の試料
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5