(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】下着
(51)【国際特許分類】
A41B 9/02 20060101AFI20221209BHJP
A41D 27/00 20060101ALI20221209BHJP
A41H 43/04 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
A41B9/02 M
A41B9/02 J
A41B9/02 K
A41B9/02 Q
A41D27/00 A
A41H43/04
(21)【出願番号】P 2021522626
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002991
(87)【国際公開番号】W WO2020240919
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019102071
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000138554
【氏名又は名称】株式会社ユタックス
(74)【代理人】
【識別番号】100123021
【氏名又は名称】渥美 元幸
(72)【発明者】
【氏名】北野 優子
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 慎也
(72)【発明者】
【氏名】宇▲高▼ 大介
【審査官】津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204813(JP,A)
【文献】特開2009-084768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/02
A41D 27/00
A41H 43/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性生地を身頃に使用したボクサータイプや、ローレグタイプのショーツ等の下着であって、
ウエスト部や足繰り部にゴム紐を使用しておらず、平置きにした状態で、両脇部と前身頃の上辺とが、W字を逆にした形状を成してお
り、
前記前身頃の上辺が、略V字状に凹んでおり、
前記前身頃の上辺の略V字状に開く角度が鋭角である
ことを特徴とする下着。
【請求項2】
前記下着のウエスト部や足繰り部などの開口部の生地がヘム処理などがされておらず、切りっぱなしである
ことを特徴とする請求項1記載の下着。
【請求項3】
前記下着を構成する生地片を接着のみにより構成している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の下着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトム衣類に関し、特にボクサータイプやローレグタイプの下着に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の大腿部の付け根の部分の形状は、円形ではなく、大腿部の内股前方は角張っており、そこに、長内転筋があるため、ボクサータイプ等の下着においては、下着が長内転筋を圧迫し、痛みを発生させるなどの不快感を生じさせていた。そのため、大腿部内股の角張っている部分においては、生地をつぎはぎし、立体縫製されていた。
【0003】
立体縫製は、加工が難しく、接続箇所が多くなるため、生産性が悪い。また立体縫製された下着を着用すると縫製箇所の縫糸などで、別の圧迫感を皮膚に与えることがあった。近年では、皮膚への刺激を減らそうという傾向が高まっており、ウエスト部や足繰り部にゴム紐を使用せず、さらに、縫製糸も無くして、接着剤を用いて接着した下着が販売され需要を得ている。この他にも、裾端部のズレ上がりがなく、各部にフィットする男性下半身衣類が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接着による生産方法には、立体的に接着する工程に手間がかかるため、立体的な接着を用いた下着の量産は難しいという問題がある。そのため、接着だけで構成されている下着では、女性用のショーツが大半を占めており、ボクサータイプの下着では、一部縫製を使用した商品が販売されるに留まっている。
【0006】
また、ゴム紐を使用していない下着では、ウエスト部での位置固定力が弱く、着用時に前身頃上辺部がずり下がりやすいという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、足繰り部において、圧迫感を軽減し、前身頃の上辺がずり下がりにくい、着心地の良いボトム衣類を提供することを目的とする。より詳しくは部品を極力抑え、かつ、生産が簡略で、大腿部の圧迫感を軽減し、ゴム紐を使用せずとも、前身頃部上辺がずり下がり難いボクサータイプやローレグタイプの下着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る下着は、伸縮性生地を身頃に使用したボクサータイプや、ローレグタイプのショーツ等の下着であって、ウエスト部や足繰り部にゴム紐を使用しておらず、平置きにした状態で、両脇部と前身頃の上辺とが、W字を逆にした形状を成していることを特徴とする。
【0009】
また、前記下着のウエスト部や足繰り部などの開口部の生地がヘム処理などがされておらず、切りっぱなしであることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記下着を構成する生地片を接着のみにより構成していることを特徴とする。
【0011】
これによれば、下着を着用したときに、両脇部が地面に対して垂直方向に起き上がり、前身頃の略V字状の凹み部が鋭角から鈍角になって上昇し、下着の背中側の上辺の位置と釣り合う位置で安定する。前身頃の略V字状の凹み部が上昇することにより、V字の最下点の下方にある大腿部付け根の内股前部には、上へ引張る力が掛かる。人体の腹部は大腿部付け根より、前方向に離れるように膨らんでいるため、上へ引張る力は、若干斜め前方上方向にかかるようになり、大腿部付け根の内股前部にある長内転筋を圧迫する力を軽減させることができる。また、前身頃部上辺が略V字状になっていることにより、従来の前身頃上辺が直線のものよりも、前身頃を上へ引張る力が働くようになるため、前身頃上辺がずり下がることも防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明に係る下着によれば、大腿部の圧迫感を軽減し、ゴム紐を使用せずとも、前身頃部上辺がずり下がり難いボクサータイプやローレグタイプの下着が実現可能となる。
【0013】
また、ゴムが使用されていない下着においては、前身頃の上辺が、腹部の形状によりカールしてしまうことがある。しかし、前身頃上辺をV字状にした本発明に係る下着によれば、V字の最下点においてカールする方向が変わるため、カールする部分が前身頃上辺の全巾にいたらず、V字状になっていないものよりも、カールする度合いを抑えることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1の女性用下着の展開図である。
【
図2】本発明の実施形態1の女性用下着の組み立て後正面図である。
【
図3】本発明の実施形態1の女性用下着の着用時の正面図である。
【
図4】本発明の実施形態1の女性用下着の着用時の側面図である。
【
図5】
図4のB-B線から見た女性用下着着用時の図である。
【
図6】
図3のA-A線から見た女性用下着着用時の図である。
【
図8】本発明の実施形態1の女性用下着を平置きした状態の正面図である。
【
図9】本発明の実施形態2の男性用下着の展開図である。
【
図10】本発明の実施形態2の男性用下着の組み立て後正面図である。
【
図11】
図4のB-B線と同様の位置から見た男性用下着着用時の図である。
【
図12】
図3のA-A線と同様の位置から見た男性用下着着用時の図である。
【
図13】P2’にかかる力のベクトルを示す図である。
【
図14】本発明の実施形態3の男性用下着の組み立て後正面図である。
【
図15】本発明の実施形態3の男性用下着着用時の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る下着について、実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
以下に説明する実施形態では、経方向と緯方向の両方向に伸縮性を有する2ウェイ生地を前後身頃の生地に使用している。生地の組成としては、ナイロン、ポリウレタンが一般的であるが、ナイロンの代わりにポリエステルを使用しても良いし、綿や再生繊維を挿入したものや編み込んだものであっても良い。身頃に使用する生地は、切りっぱなしで使用してもほつれにくい、縁始末不要の生地を使用する。前身頃と後身頃とは、ウレタン系のホットメルト接着剤を使用して接着されているが、PUR(Poly Urethane Reactive)など、その他の接着剤を使用して接着されていてもよい。
【0017】
まず、実施の形態1として、ボクサータイプの女性用下着について説明する。
【0018】
図1は、実施形態1の女性用下着の展開図である。
図2は、女性用下着の組み立て後正面図である。
【0019】
本実施形態1の女性用下着1は、身頃生地11と、マチ生地12とで構成されている。身頃生地11は、ナイロン糸とポリウレタン糸で編まれた経方向および緯方向の両方向に伸縮する2ウェイ生地を使用し、マチ生地12は綿のみで構成された生地を使用している。身頃生地11に、マチ生地12がポリウレタン系のホットメルト樹脂で接着されている。
【0020】
身頃生地11は、前身頃13と後身頃14とで構成されている。前身頃13の上辺である前身頃上辺10は略V字状に凹んでいる。前身頃13および後身頃14は、それぞれの両側端に、互いを接続するための接続部15,16,17,18を備えている。前身頃13の接続部15と後身頃14の接続部17とを合わせて、ホットメルト樹脂で接着し、同様に前身頃13の接続部16と後身頃14の接続部18とを合わせて、ホットメルト樹脂で接着することで、女性用下着1が完成する。
【0021】
図2の組み立て完成後の正面図に示すように、女性用下着1は、女性用下着1を組み立てた後の平置き時の脇部である両脇部19,20と略V字状の前身頃上辺10とがWの字を反転させた形を構成するようになっている。なお、略V字状に構成された前身頃上辺10は、
図2に示す通り鋭角となっている。
【0022】
ここで、両脇部19,20と前身頃上辺10とにより構成される形をM字ではなく、Wの字を反転させた形、つまり、逆W字と表現していることには理由がある。
【0023】
図3に示すように、人体は、足の付け根である大転子の少し上付近が最も広がっており、ウエスト部へ向かうほど狭くなっているからである。もし、両側辺の両脇部19,20がマチ部の底辺に対して、ほぼ垂直となるM字を構成するとした場合、ウエスト部である前身頃上辺10は、左右へ伸ばされる距離が小さくなり、必然的に前身頃上辺10を左右へ引張る力も弱くなるため、P1が上方へ上がらなくなってしまう。P1が上方へ上がらなければ、足繰り部の前部を引き上げる力も当然弱くなるため、長内転筋を圧迫する力を弱めたり、ずり下がり難いという本願発明の効果を発揮することができなくなってしまう。
【0024】
前身頃上辺10がV字に開く角度についても同様のことがあてはまり、前身頃上辺10のV字に開く角度が140度前後の鈍角であった場合、前身頃上辺10を引っ張る力が大きくても、P1が上方へ上がる距離が少ないため、足繰り部の前部を引き上げる力も弱くなり、本願発明の効果をあまり発揮することができなくなってしまう。
【0025】
より良く効果を発揮するためには、V字に開く角度を90度以下の鋭角にするのが望ましい。伸びにくい生地であれば、120度前後の鈍角でもある程度の効果は得られるので、使用する生地によって適宜、適切な角度を選定することになる。
【0026】
両脇部19,20と前身頃上辺10とにより構成される形をM字とするならば、非常に伸縮性の大きい生地を使用して下着を小さく作成し、ウエスト部では伸縮性を抑えるために樹脂を塗布したり、生地を貼ったり、編み組織等を変更したりすることで実現することはできるかもしれない。しかしながら、編み組織に複雑な生地を使用したり、工程が増えたりするうえ、下着そのものがしっかりとした着用感になってしまうため、着用者の肌にストレスを与えることになり、本発明の趣旨から逸脱することになる。
【0027】
組み立て完成後の女性用下着1は、
図2のとおり、真っ平であり、立体構造にはなっていない。また、ウエスト部や足繰り部の開口部にはゴム紐を使用しておらず、生地端のヘム処理もしていない。すなわち、加工が容易であることを示している。
【0028】
また、
図2において、女性用下着の組み立て後の背中側に位置する後身頃14の後身頃上辺22の長さは、想定する着用者のウエスト長さの1/2よりも小さくしてある。そうすることにより、女性用下着1を着用すると、着用者のウエストにより、前身頃上辺10が左右に引っ張られることになり、前身頃上辺10の略V字状部の最下点P1が、上方向に引き上げられる。前身頃上辺10が引き上げられることにより、マチ生地12がある股部や、股部周辺の足繰り部にも、上方向へ引張る力が伝わる。
【0029】
通常、足繰り部の生地には、大腿部の外形に沿った力が働くため、その合成された力は大腿部の中心方向へ向かって働くことになる。この大腿部の中心へ向かう力が、長内転筋を圧迫し、痛みの感覚を与え着用時の不快感となっている。
【0030】
しかし、この女性用下着1では、前身頃上辺10が引き上げられることにより、股部の足繰り部にも、前方向斜め上方向の力が加わることになるので、大腿部の中心方向への力が緩和され、長内転筋の圧迫を軽減し、痛みをやわらげ、着用時の不快感を軽減するようになっている。
【0031】
この大腿部の中心方向への力が緩和される仕組みについて、詳しく説明する。
【0032】
図3は実施形態1の女性用下着が着用された状態を示す正面図であり、
図4はその側面図である。
図5は、
図4のB-B線の若干前方から見上げた図であり、
図6は、
図3のA-A線の断面を表示している図である。
図7は、P2にかかる力のベクトルを示す図である。
【0033】
長内転筋30がある内股前部のポイントP2は、
図5に示すように、円弧状というよりは角になっている。女性用下着1の足繰り部には、大腿部の外形に沿った力が働く。働く力をベクトルであらわすと、ポイントP2では、その外形に沿って、ベクトル50とベクトル51が働く。そしてベクトル50とベクトル51の合成ベクトルであるベクトル52が生成され、大腿部の中心方向に力が掛かる。このとき、ポイントP2では、他の大腿部よりも、角に近いため、大腿部中心へ向かう力が他よりも大きく、ポイントP2にある長内転筋30を圧迫し、痛みや不快感をもたらしている。
【0034】
しかし、実施形態1の女性用下着1では、前身頃13には、上へ引張られる力が働いているため、内股前部のP2にも
図6に示すベクトル53のような力が働く。したがって、最終的な力は、ベクトル52とベクトル53の合成ベクトルとなる。
【0035】
図7では、これらのベクトルを斜め後ろ上方から見たところを示している。
【0036】
ベクトル50およびベクトル51の合成ベクトルであるベクトル52と、前身頃13を斜め前上方向に引っ張る力のベクトル53との合成ベクトルであるベクトル54は、着用時に、P2にかかる力である。したがって、P2において、大腿部中心へ向かう力、すなわち、長内転筋30を圧迫する力は、ベクトル54からベクトル52に垂線をおろしたベクトル52上の点までの力となる。すなわち、通常の下着よりも、線分61/(線分60+線分61)の分だけ長内転筋30を圧迫する力が弱まっている。
【0037】
以上のことより、複雑な立体構造を使用しなくても、大腿部内股の不快感を発生させない女性用下着1が完成する。
【0038】
図8は、実施形態1の女性用下着1を平置きした状態の正面図であり、P1の部分を後身頃14の後身頃上辺22付近まで引き上げたときの状態を示している。この
図8によれば、P1が上方へ上がるにつれて、足繰り部31が前面において大きく口をあけ、P2に相当する箇所も前中心上方へ上がることが分かる。そして、P2付近の足繰り部31は、内股前部へ出っ張る形になるので、生地のたるみを生じさせる。すなわち、長内転筋30が存在する部分にゆとりを発生させることになるので、締め付け感を緩和させることができる。
【0039】
前身頃13が着用時常に上へ引張る力が働いているため、前身頃13がずり下がり難くなっている。
【0040】
図示した各ベクトルの大きさは、使用する生地の物性により変化するが、それぞれのベクトルの向きは、おおよそ同じであるため、作用は同じとなる。
【0041】
弱い力でもよく伸びる生地の場合は、次に紹介する実施形態2のように前身頃13に前当てを貼り、伸びを調整するとよい。
【0042】
次に、実施形態2を説明する。実施形態2は、男性用のボクサータイプの下着である。
【0043】
図9は、実施形態2の男性用下着の展開図である。
図10は、男性用下着の組み立て後正面図である。
【0044】
本実施形態2の男性用下着100は、前身頃101、後身頃102、および、前当て103で構成されている。実施形態1と同じく、前身頃101の上辺である前身頃上辺110は略V字状に凹んでいる。前当て103は、前身頃101の表側中心にウレタン系ホットメルトで接着されている。
【0045】
前身頃101および後身頃102は、それぞれの両側端と股部に、互いを接続するための接続部104,105,106,107,108,109を備えている。前身頃101の接続部104と後身頃102の接続部107とを合わせ、前身頃101の接続部105と後身頃102の接続部108とを合わせて、それぞれウレタン系のホットメルト樹脂で接着し、同様に前身頃101の接続部106と後身頃102の接続部109とを合わせて、ウレタン系のホットメルト樹脂で接着することで、男性用下着100が完成する。また、実施形態1と同じく、ウエスト部や足繰り部の開口部にはゴム紐を使用しておらず、生地端のヘム処理もしていない。
【0046】
その組み立て完成後の正面図が、
図10である。なお、この男性用下着100の前身頃101にはモールド成型は行っていない。
【0047】
実施形態1と同様に、完成した男性用下着100を平置きした状態で、男性用下着を組み立てた後の平置き時の脇部である両脇部111,112と略V字状の前身頃上辺110とが、Wの字を逆さにした形を構成するようになっている。
【0048】
完成した男性用下着100を平置きした状態で、男性用下着100の組み立て後の背中側に位置する後身頃102の後身頃上辺113の長さは、想定着用者のウエスト寸法の1/2よりも小さくなっている。これにより、着用時に前身頃101の前身頃上辺110は、左右に引っ張られ、前身頃上辺110の最下点P1’は、上方向に引っ張られることになる。
【0049】
図11は、実施形態1における
図5に対応するものである。
図12は、実施形態1における
図6に対応するものである。
図13は、実施形態1における
図7に対応するもので、P2’にかかる力のベクトルを示す図である。
【0050】
長内転筋近傍のポイントP2’における大腿部中心へのベクトルの向きは、実施形態1とほぼ同じである。これに、
図12に示すように男性用下着100の特徴である前身頃101を上向きに引っ張る力153が加わることになる。男性の場合は、男性性器120があるため、斜め前方下方向に向かう力154が更に加わる。
【0051】
これらポイントP2’にかかる力をベクトルで表し、合成ベクトルを作成すると
図13のようになる。
【0052】
実施形態1と同様に、
図13では、これらのベクトルを斜め後ろ上方から見たところを示している。
【0053】
ベクトルは3次元構造になっているが、2次元で表すと分かりにくい。補足すると、ベクトル150,151,152は同一平面状にあり、ベクトル152,154,155が上記の平面とほぼ直交する同一平面上にあり、ベクトル153,155,156が、ベクトル154を含む平面と若干ずれた同一平面上にある。
【0054】
大腿部の外形に沿ってかかる力がベクトル150とベクトル151であり、大腿部の中心へ向かう力が、ベクトル150とベクトル151の合成ベクトルであるベクトル152である。これが、前身頃の前身頃上辺がV字状に形成されていない従来品の力の大きさである。
【0055】
これに、男性性器120により、斜め前下方向に引っ張る力がベクトル154のように働き、上記の合成ベクトルであるベクトル152と合成され、ポイントP2’には、新たな合成ベクトルとしてベクトル155が生成される。
【0056】
そして、前身頃101を上へ引張る力が、ベクトル153のように働くので、最終的な力は、合成ベクトル155とベクトル153の合成ベクトルであるベクトル156のようになる。
【0057】
ベクトル156は、大腿部中心へ向かうベクトル152とほぼ同一平面で反対方向に向かう力となっている。よって、大腿部中心へ向かう力は、ベクトル152からベクトル156を引いた力となり、長内転筋30を圧迫する力は弱くなっている。
【0058】
前身頃上辺110が上方向に常時引っ張られているため、男性性器120の重みによるずり下がりも、最小限に抑えられる。
【0059】
以上により、着用時に、前身頃上辺110がずり下がることがなく、また、内股部を圧迫し不快感を与えることがない、着用感に優れたゴムを使用しない男性用下着100が形成される。
【0060】
実施形態2では、男性性器120の重みによる前身頃101の下方向への引張りを抑えるために、前当て103を貼っているが、前身頃101に使用する生地が、伸長力が大きいものである場合は、前当て103を省いてもよい。また、実施形態2では、前身頃101の男性性器120の位置にモールド成型をしていない。
【0061】
モールド成型をしていないことにより、男性性器120の形状により前身頃101が引っ張られ、ポイントP2’において、斜め前下方向へ力が発生し、より長内転筋30を圧迫する力が弱まることになる。ただ、仮にモールド成型をし、前身頃101が引っ張られず、ポイントP2’における斜め前下方向への力が、ほぼ無くなったとしても、前身頃101を上へ引張る力があるため、実施形態1のように長内転筋30を圧迫する力は従来品よりも弱まることになる。
【0062】
続いて、実施形態3について説明する。実施形態3は、実施形態2と同様に男性用のボクサータイプの下着であり、前当て部分にモールド成型を施した点が実施形態2と異なる。以下、異なる点を中心に説明する。
【0063】
図14は、実施形態3の男性用下着の組み立て後正面図である。
図15は、足繰り部の一方を上方向へめくりあげた状態の男性用下着の側面図である。
【0064】
モールド成型を施す場合には、
図15のようにモールド140の最下辺が、男性用下着の前身頃の中心と、後身頃の中心とを両端にして折り畳み、片方の足繰り部を上に上げたときにできるクロッチライン141の上に位置するように構成している。これにより、男性性器の陰嚢部が自然とモールド140の下辺部を下げさせ、下向きの力を生むしくみとなっている。
【0065】
また、モールド140の形は円形ではなく、上に行くほど幅が狭まる略瓢箪の形状に構成している。これは、男性性器の陰茎の形状に近づけて無駄な空間を作らないようにするためと、最下点P1'にかかる力を、できる限り前身頃の下方まで均等に伝えるようにするためである。
【0066】
着用時に前身頃の前身頃上辺110が最下点P1'を上方向へ引張り上げる。最下点P1'は、最下点P1'を起点として放射状に下辺部を引き上げるような力を生む。このとき、モールド140の上辺が幅広であった場合は、モールド140はいわば、生地が弛んでいるわけなので、引張上げる力が吸収されてしまい、下部まで伝わらない。できる限り、下部まで力を伝えるために、モールド140の上部は、幅を狭めた形にするのが良い。そして、弛み部を少なくするために、モールド140の形状は男性性器の陰茎に近い形にすることが良い。
【0067】
このように、本発明に係る下着は、前後身頃生地に、経緯ともに伸縮する生地を使用して、前身頃にあたるところの上辺を略V字状に凹ませ、前身頃と後身頃とを接続して下着を作成し、平置きにした状態で、下着の両脇部と前身頃の上辺とがWの字を逆さにした形状を成すように、パターンを作成する。
【0068】
このように構成された下着を着用すると、両脇部は地面に対して垂直方向に起き上がり、前身頃の略V字状の凹み部は鋭角から鈍角になって上昇し、下着の背中側の上辺の位置と釣り合う位置で安定する。
【0069】
前身頃の略V字状部が上昇することにより、V字の下点部付近の下方にある大腿骨部付け根の内股前部には、上へ引張る力が掛かる。人体の腹部は大腿部付け根より、前方向に離れるように膨らんでいるため、上へ引張る力は、若干斜め前方上方向にかかり、大腿部の内股前部にある長内転筋を圧迫する力を軽減させることができる。
【0070】
また、前身頃部上辺が略V字状になっていることにより、従来の前身頃上辺が直線のものよりも、前身頃を上へ引張る力が働いているため、前身頃上辺がずり下がることも防ぐことができる。
【0071】
以上、本発明に係る下着について、実施形態に基づいて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0072】
例えば、上記各実施形態では、縫製を一切使用していないが、前身頃と後身頃とを縫製により接続してもよく、これによっても、本発明の効果を発揮することはできる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る下着は、ボトム衣類として有用であり、男女を問わずボクサータイプやローレグタイプのボトム衣類として好適である。
【符号の説明】
【0074】
1 女性用下着
10,110 前身頃上辺
11 身頃生地
12 マチ生地
13,101 前身頃
14,102 後身頃
15,16,17,18,104,105,106,107,108,109 接続部
19,20,111,112 両脇部
22,113 後身頃上辺
P1,P1’ 前身頃上辺の最下点
P2,P2’ 長内転筋のポイント
30 長内転筋
31 足繰り部
50,51,52,53,54,150,151,152,153,154,155,156 ベクトル
60,61 線分
100 男性用下着
103 前当て
120 男性性器
140 モールド
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