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<図1>
  • 特許-組織片処理装置 図1
  • 特許-組織片処理装置 図2
  • 特許-組織片処理装置 図3
  • 特許-組織片処理装置 図4
  • 特許-組織片処理装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】組織片処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
G01N1/28 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019003807
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020112451
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000148025
【氏名又は名称】サクラ精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長林 哲
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 隆広
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-139327(JP,A)
【文献】特表2016-507435(JP,A)
【文献】特開昭59-221246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0156701(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105751695(CN,A)
【文献】特開2001-124677(JP,A)
【文献】特開2008-051721(JP,A)
【文献】特開2001-296219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織片が収容される収容容器と、
前記収容容器が収容される処理槽と、を備え、
前記収容容器には、複数の貫通孔が設けられ、
前記処理槽は、水平方向に対して傾斜して本体部に配設されており、
前記収容容器が前記処理槽と同一角度に傾斜して収容される構成であって、
前記貫通孔は、多角形または長円形に形成され、且つ該多角形の場合にはその一の頂部が、該長円形の場合にはその一の端部が、前記収容容器を前記処理槽に収容した状態で傾斜方向の下方となる位置に配置されるように設けられていること
を特徴とする組織片処理装置。
【請求項2】
前記処理槽は、作業者と対面する前記本体部の前面に向かって下降するように傾斜して配設されていること
を特徴とする請求項1記載の組織片処理装置。
【請求項3】
前記処理槽の上部の開口部を開閉する開閉蓋を備え、
前記開閉蓋の内面に、前記開閉蓋を閉じた状態で傾斜方向の下方となる第1端部に第1溝部を有し、傾斜方向の上方となる第2端部に第2溝部を有すること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の組織片処理装置。
【請求項4】
前記処理槽は、一または複数の排出口を有し、
前記排出口は、前記処理槽の傾斜方向の最下部の位置に配設されていること
を特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の組織片処理装置。
【請求項5】
前記処理槽は、水平方向に対して5°~20°傾斜して前記本体部に配設されていること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の組織片処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織片処理装置に関し、さらに詳細には人体をはじめとする生物から採取した組織片の顕微鏡標本を作製するために必要な処理を行う組織片処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生物から採取した組織片(検体)を顕微鏡で観察するための前処理として、固定処理、脱水処理、脱脂処理および浸透処理(包埋処理)をこの順で行う標本作製処理が行われている。当該処理には、これを自動で行う組織片処理装置が広く用いられている(特許文献1:特開2015-1512号公報参照)。
【0003】
上記組織片処理装置を用いた標本作製処理は概ね次の通りに進行する。生物から採取された組織片はカセットと呼ばれる小型容器に一片または数片ずつ収容される。次いで、一または複数のカセットが収容容器(バスケット)に収容される。次いで、当該収容容器が組織片処理装置の処理槽(レトルト)に収容される。ここで、組織片処理装置が起動されて、それぞれの薬液ボトルに貯留された複数種類の薬液が所定の順で処理槽内に給排される。これによって、組織片が複数種類の薬液中に浸漬されて標本作製処理が行われる。なお、処理槽内から排出された薬液は薬液ボトルに戻されて、濃度低下その他の劣化により使用不能と判断されるまで繰返し使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-1512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように組織片処理装置においては、一の処理槽に対して複数種類の薬液が給排される。このため、処理槽から薬液を排出した後に薬液が残存していた場合、これが次に供給される別の薬液に混入することになる。したがって、処理槽から薬液を排出する際の薬液の残存量が多いと、次に供給される薬液は濃度低下により劣化しやすくなる。
【0006】
ここで、従来の組織片処理装置は、処理槽から薬液を排出した後の処理槽の内面、収容容器およびカセットへの薬液の付着が比較的多く、薬液が劣化しやすかった。したがって、薬液を高頻度で交換しなければならないため、薬液の使用量が増加してしまうという問題があった。そこで、処理槽から薬液を排出する際の液切れ(薬液の除去)の改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、処理槽から薬液を排出する際の液切れが良く、薬液の濃度低下による劣化が抑制され、薬液の交換頻度が抑制されて薬液の使用量を減らすことができる組織片処理装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係る組織片処理装置は、組織片が収容される収容容器と、前記収容容器が収容される処理槽と、を備え、前記収容容器には、複数の貫通孔が設けられ、前記処理槽は、水平方向に対して傾斜して本体部に配設されており、前記収容容器が前記処理槽と同一角度に傾斜して収容される構成であって、前記貫通孔は、多角形または長円形に形成され、且つ該多角形の場合にはその一の頂部が、該長円形の場合にはその一の端部が、前記収容容器を前記処理槽に収容した状態で傾斜方向の下方となる位置に配置されるように設けられていることを要件とする。
【0010】
これによれば、処理槽を傾斜させて配設することによって、処理槽に収容される収容容器および組織片(一例として、カセットに収容された状態)を傾斜させて配置することができる。したがって、カセットや収容容器に付着した薬液を、重力の作用で傾斜面(特に収容容器の底面)を下降させて複数の貫通孔からの滴下(収容容器から処理槽の底面への排出)を促進することができる。さらに、処理槽の底面に流れ出た薬液を、重力の作用で傾斜面(処理槽の底面)を下降させて集約させつつ処理槽外に排出させることができる。その結果、従来と比較して処理槽の液切れが良い組織片処理装置を実現することができる。また、薬液を多角形または長円形の孔の内縁に沿って下降させて下端の頂部または端部から滴下させることによって、貫通孔から薬液が滴下する作用を促進することができる。
【0011】
また、前記処理槽は、作業者と対面する前記本体部の前面に向かって下降するように傾斜して配設されていることが好ましい。これによれば、従来の処理槽を傾斜させない組織片処理装置と比較して、処理槽に対して収容容器を出し入れしやすくすることができる。
【0012】
また、前記処理槽の上部の開口部を開閉する開閉蓋を備え、前記開閉蓋の内面に、前記開閉蓋を閉じた状態で傾斜方向の下方となる第1端部に第1溝部を有し、傾斜方向の上方となる第2端部に第2溝部を有することが好ましい。これによれば、開閉蓋が閉じられた状態では開閉蓋の内面に結露した薬液を第1溝部で受け止めることができ、一方、開閉蓋が開けられた状態では開閉蓋の内面に結露した水滴を第2溝部で受け止めることができる。
【0015】
また、前記処理槽は、一または複数の排出口を有し、前記排出口は、前記処理槽の傾斜方向の最下部の位置に配設されていることが好ましい。これによれば、傾斜に沿って下降する薬液を当該傾斜面の最下部の位置に集約して処理槽内に残らないように処理槽外に排出させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、処理槽から薬液を排出する際の液切れが良く、薬液の濃度低下による劣化が抑制され、薬液の交換頻度が抑制されて薬液の使用量を減らすことができる組織片処理装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る組織片処理装置の例を示す概略図(斜視図)である。
図2図1の組織片処理装置における処理槽の例を示す概略図(斜視図)である。
図3図2の処理槽に収容される収容容器および当該収容容器に収容されるカセットの例を示す概略図(斜視図)である。
図4図1の組織片処理装置における図2の処理槽の配置例を示す概略図(側面図)である。
図5図4の処理槽の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明の実施形態に係る組織片処理装置10の例を示す概略図(斜視図)である。また、図2は、図1の組織片処理装置10における処理槽16の例を示す概略図(斜視図)である。また、図3は、図2の処理槽16に収容される収容容器38および当該収容容器38に収容されるカセット36の例を示す概略図(斜視図)である。全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0019】
本実施形態に係る組織片処理装置10は、人体をはじめとする生物から採取した組織片の顕微鏡標本を作製するために必要な処理を自動で行う装置である。当該組織片処理装置10は、図1に示すように、方形の本体部12に任意のキャスター14が取付けられて移動可能に構成されている。本体部12の上面は、一例として設定画面や進行中の処理等が表示されるモニタ(不図示)を備えている。当該モニタ(不図示)には、タッチパネル等の操作部が任意に搭載されている。また、本体部12上面には、本体部12に配設された処理槽16(レトルトともいう)の上部の開口部18が開口し、当該開口部18を開閉する開閉蓋28(レトルト蓋ともいう)が取付けられている。
【0020】
ここで、図2に示す処理槽16は、組織片が複数種類の薬液に浸漬されて標本作製処理が行われる容器である。処理槽16は、一定の容積を有し、本実施形態では一例として直方体状に形成されているがこれに限られない。例えば立法体状、円筒状に形成することも考えられる。また、底部は、本実施形態では一例として平面状に形成されているがこれに限られない。例えば漏斗状、角錐・円錐状に形成することも考えられる。また、処理槽16の内面には、薬液を供給する供給口20が側面に配設され、薬液を排出する排出口22が底面に配設されている。その他、符号24はモータ、符号26はモータ24の駆動により回転可能な回転体を示し、処理槽16外部の回転体26の位置に対応する処理槽16内部の位置に撹拌子(不図示)を備えている。回転体26および撹拌子(不図示)は共に磁石が内蔵された構成を有している。これによって、モータ24の駆動により回転体26を回転させて撹拌子(不図示)を回転させることによって処理槽16内に貯留された液体を撹拌することができる。
【0021】
また、人体等から採取された組織片は、通常、以下のようにして処理槽16内に収容される。すなわち、図3に示すように、先ず、組織片はカセット36と呼ばれる小型容器に一片または数片ずつ収容される。次いで、一または複数のカセット36が収容容器38(バスケットともいう)に収容される。次いで、当該収容容器38が処理槽16内に収容される。この収容容器38は、固定蓋38aを備え、カセット36の大きさに対応した仕切板38bを任意に備えて構成されている。また、固定蓋38aおよび仕切板38bを含めた各部材には複数の貫通孔40が設けられている。収容容器38の形状は限定されないが、本実施形態では一例として平面形状が処理槽16の平面形状に対して相似形となる形状に形成されている。これによって、収容容器38を収容した際の処理槽16内に生ずる隙間を少なくすることができ、処理槽16内の空間を無駄なく使用することができる。本発明の課題を解決するための処理槽16および開閉蓋28、ならびに収容容器38の特徴的な構成については後述する。
【0022】
次に、本体部12内部は、図1に示すように、下部に複数段(本実施形態では二段)のボトルラック30を備えている。当該ボトルラック30には、固定処理を行うホルマリン、脱水処理を行うアルコール、脱脂処理を行うキシレン等を貯留する複数の薬液ボトル32(一部のみ図示)が配設されている。標本作製に係る処理は、同一の処理が複数回にわたって行われるため、ボトルラック30には同一種類の薬液を貯留する薬液ボトル32が複数配設されることになる。また、本体部12内部は、中央部にその内部を一定温度に加温保持することができるオーブン34を備えている。当該オーブン34には、浸透処理(包埋処理)を行うパラフィンを貯留する複数の薬液ボトル(不図示)が配設されている。これによって、室温で固化するパラフィンを溶融状態で保持して処理に供するために待機させることができる。なお、オーブン34の保持温度は一例として60[℃]前後である。また、本体部12内部は、上部に薬液の蒸発したガスの臭気を除去する取替可能なフィルタ(不図示)を備えている。当該フィルタ(不図示)には、一例として活性炭フィルタが用いられる。
【0023】
また、組織片処理装置10は動作に関する以下の構成を内部に備えている。第一に、一方で処理槽16と管路を介して接続され、他方で複数の薬液ボトル32とそれぞれの管路を介して接続された選択バルブ(不図示)を備えている。当該選択バルブ(不図示)は、これらの薬液ボトル32から選択された一の薬液ボトル32と処理槽16とを連通可能とするものである。当該選択バルブ(不図示)には、一例としてロータリーバルブが用いられる。
【0024】
第二に、処理槽16と選択バルブ(不図示)とを接続する管路の中途に切換バルブ(不図示)を備えている。当該切換バルブ(不図示)は、管路を介して選択バルブ(不図示)と接続される他、処理槽16に対してはそれぞれの管路を介して供給口20および排出口22と接続されている。当該切換バルブ(不図示)は、処理槽16へ薬液を供給(移送)する際に、供給口20との管路を開状態且つ排出口22との管路を閉状態として、選択バルブ(不図示)と供給口20とを連通する。また、処理槽16から薬液を排出(移送)する際に、排出口22との管路を開状態且つ供給口20との管路を閉状態として、排出口22と選択バルブ(不図示)とを連通する。また、処理槽16内で薬液中に組織片を浸漬する際に、供給口20および排出口22への両方の管路を閉状態として、処理槽16と選択バルブ(不図示)とを遮断する。
【0025】
第三に、処理槽16と管路を介して接続されるエアポンプ(不図示)を備えている。当該エアポンプ(不図示)は、処理槽16内のガス交換を行う。また、選択された薬液ボトル32から処理槽16へ薬液を移送する(引き込む)際に、処理槽16内を減圧する。また、処理槽16から選択された薬液ボトル32へ薬液を移送する(送り出す)際に、処理槽16内を加圧する。
【0026】
第四に、選択バルブ(不図示)、切換バルブ(不図示)およびエアポンプ(不図示)はそれぞれの配線を介して制御部(不図示)に電気的に接続されている。当該制御部(不図示)は、CPUおよびメモリから構成され、予め動作プログラムが設定されており、前述の操作部等から入力される設定信号に基づいて上記各構成の制御を行う。これによって、選択バルブ(不図示)、切換バルブ(不図示)およびエアポンプ(不図示)を連動させることができる。
【0027】
以上の構成によれば、選択バルブ(不図示)の動作により所望の薬液ボトル32が選択されると共に切換バルブ(不図示)の切換えにより供給口20との管路が開状態とされることによって当該薬液ボトル32から供給口20を介して処理槽16内までの流路が開通する。そして、エアポンプ(不図示)により処理槽16内が減圧されることによって当該薬液ボトル32の薬液を処理槽16内に供給(移送)することができる。次いで、切換バルブ(不図示)の切換えにより供給口20との管路が閉状態とされることによって処理槽16内に薬液を貯留して組織片を浸漬することができる。次いで、選択バルブ(不図示)の動作により所望の薬液ボトル32(薬液が貯留されていたタンクまたはそれ以外のタンク)が選択されると共に切換バルブ(不図示)の切換えにより排出口22との管路が開状態とされることによって処理槽16内から排出口22を介して当該薬液ボトル32までの流路が開通する。そして、エアポンプ(不図示)により処理槽16内が加圧されることによって処理槽16内の薬液を当該薬液ボトル32に排出(移送)することができる。さらに、制御部(不図示)の制御によって、これら一連の動作を複数の薬液ボトル32について順序正しく行うことができる。すなわち、具体的な薬液処理例として、処理槽16内の組織片をホルマリンに浸漬して固定処理を行い、アルコールに浸漬して脱水処理を行い、キシレンに浸漬して脱脂処理を行い、パラフィンに浸漬して浸透処理(包埋処理)を行う標本作製処理を施すことができる。
【0028】
ここで、処理槽16内から薬液ボトル32に排出(移送)された薬液は、濃度低下その他の劣化により使用不能と判断されるまで繰返し使用される。本実施形態に係る組織片処理装置10には、濃度センサ(不図示)が搭載されている。これによって、作業者が運転開始時等に各薬液の濃度を確認して各薬液ボトル32の再使用の可否を確認することが可能になっている。
【0029】
このように、組織片処理装置10は処理槽16内において複数種類の薬液の給排が連続して行われる。このため、薬液を排出した後に処理槽16内(処理槽16の内面、収容容器38、およびカセット36)に付着して残存した薬液は、次に供給される別の薬液に混入することになる。したがって、薬液を排出する際の液切れ(薬液の除去)が悪いと、薬液の濃度低下による劣化が進行しやすい。このことは、異なる種類の薬液間だけでなく、同一種類の薬液間でむしろ問題となる。
【0030】
すなわち、例えばアルコールによる脱水処理では、複数回(本実施形態では7回)にわたる浸漬処理によって組織片から徐々に水分が滲み出していく。通常は、処理回数が少ない程組織片からは多くの水分が滲み出し、処理を繰り返す度に徐々に少なくなって最後の処理では最も少なくなるため、先に処理に供されるアルコール程処理に伴う濃度低下が大きくなる。このため、制御部(不図示)は、濃度センサ(不図示)からそれぞれの薬液ボトル32に貯留されたアルコールの濃度の情報を受けて、最も濃度が低いアルコールから順に処理に供する制御を行うことによって、アルコール全体の劣化を最小限に抑制している。したがって、処理槽16内に残存したアルコールが次に供給されるアルコールに混入すると、濃度の低いアルコールが濃度の高いアルコールに混入することになるため、次に供給されるアルコールの濃度が低下して劣化することとなる。
【0031】
以上の例は、キシレンによる脱脂処理等でも同様に起こる。その結果、薬液を高頻度で交換しなければならず、薬液の使用量が増加してしまう。そこで、本発明は、以下の特徴的な構成によって薬液を排出する際の液切れ(薬液の除去)が良い組織片処理装置10を実現した。
【0032】
図4は、本実施形態における組織片処理装置10の処理槽16の配置例を示す概略図(側面図)である。また、図5は、図4の処理槽16の拡大図(図4中のVで示した部分を拡大した図)である。なお、図5の破線は本体部12の上面を示し、水平方向を示している。
【0033】
先ず、処理槽16は、図4および図5に示すように、水平方向に対して傾斜して本体部12に配設されており、収容容器38が処理槽16と同一角度に傾斜して収容される構成を有している。ここで、「同一」とは、完全同一に限定されず、数度の差がある場合も含むものである。
【0034】
これによれば、処理槽16、収容容器38および当該収容容器38に収容される組織片の入ったカセット36を全て傾斜して本体部12に配設することができる。したがって、重力の作用により、カセット36や収容容器38に付着した薬液を、傾斜した収容容器38の底面(特に内面)を下降させて複数の貫通孔40からの処理槽16の底面への排出を促進することができる。さらに、処理槽16の底面に流れ出た(滞留した)薬液を、傾斜面(処理槽16の底面)を下降させて集約させつつ排出口22から処理槽16外に排出させることができる。その結果、従来と比較して処理槽16の液切れが良い組織片処理装置10を実現することができる。処理槽16の傾斜角度は、基本的には大きく設定する方が液切れが良く、40~50[°]の範囲が好適である。一方、傾斜角度を大きくすることに伴う処理槽16の容積の増加による薬液使用量の増加や本体部12の高さの増加による組織片処理装置10の大型化を考慮した場合には、5~20[°]の範囲が好適である。ただし、傾斜角度がこれらの範囲に限定される訳ではない。なお、本実施形態では、8[°]に構成している。
【0035】
ここで、処理槽16に設けられる排出口22は、本実施形態では一例として処理槽16の傾斜方向の最下部の位置に配設されている。これによれば、傾斜に沿って下降する薬液を当該傾斜の最下部の位置に集約して処理槽16内に残らないように処理槽16外に排出させることができる。このため、上記の処理槽16を傾斜して配設する構成による作用効果を最大に発揮させることが可能になる。ただし、「傾斜方向の最下部の位置」とは、図2図4および図5に示す排出口22の位置に限られず、当該位置の周辺の処理槽16の底面の位置および処理槽16の側面の位置、ならびに傾斜方向の最下部の底面と側面との角部の位置を含む。なお、排出口22の数、形状等は特に限定されない。
【0036】
また、処理槽16は、本実施形態では一例として作業者と対面する本体部12の前面(ボトルラック30およびオーブン34が開口する側の面)に向かって下降するように傾斜して配設されている。これによれば、処理槽16を傾斜させない従来の装置と比較して、処理槽16に対して収容容器38が出し入れしやすいという効果を得ることができる。ただし、処理槽16の傾斜の向きは限定されず、他の例として本体部12の左右の側方に向けて傾斜して配設する構成も考えられる。
【0037】
また、処理槽16が傾斜して本体部12に配設される構成によって、一例として処理槽16の上部に取付けられた開閉蓋28も、開閉蓋28を閉じた状態で処理槽16と同一角度に傾斜する構成を有している(図1および図4参照。図面は開閉蓋28を開いた状態)。ここで、開閉蓋28は、本実施形態では一例として内面に開閉蓋28を閉じた状態で傾斜方向の下方となる第1端部28aに第1溝部42を有し、傾斜方向の上方となる第2端部28bに第2溝部44を有して構成されている。これによれば、標本作製処理が行われている間の開閉蓋28が閉じられた状態では、結露によって開閉蓋28の内面に付着した薬液を、開閉蓋28の傾斜に沿って下降させて傾斜下方に位置する第1溝部42で受け止めることができる。一方、標本作製処理が完了した後に開閉蓋28が開けた状態では、室温に比べて高温の開閉蓋28の内面に結露によって付着した水滴を、開閉蓋28の傾斜に沿って下降させて傾斜下方に位置する第2溝部44で受け止めることができる。したがって、処理槽16内に水分が入ることが防止され、特に開閉蓋28が開けた際に処理槽16内の組織片に水分が付着することを防止することができる。
【0038】
なお、当該開閉蓋28は、本実施形態では一例として本体部12の前面側から後面側に向かって開かれる構成を有し、処理槽16の傾斜に合わせて可動範囲が適宜設定される。これによって、開閉蓋28を開けた際に作業者の視線が開閉蓋28の長手方向に重なって作業者に圧迫感を与えることや開閉蓋28が誤って閉じられやすくなること等を防止することができる。
【0039】
また、処理槽16に収容される収容容器38に設けられた貫通孔40は、図3に示すように、本実施形態では一例として円形に形成されている。この構成は、発明者らによって収容容器38の形態として種々の検討された結果、処理槽16外への薬液の排出に好適な構成の例である。これによれば、先ず収容容器38に孔が配設されることによって当該孔から薬液を処理槽16の底面に滴下させて下方に移動させることができる。さらに、本実施形態では、傾斜して配置される収容容器38において角部および端部を有しない円形の貫通孔40を配置することによって、薬液を円形の孔の内縁に沿って下降させて円弧の下端から滴下させて貫通孔40から薬液が排出する作用を促進することができる。なお、貫通孔40は、本実施形態ではパンチングメタルによる孔として構成されているがこれに限定されず、例えばワイヤーを編み込んで収容容器38を構成した上で孔を形成する等としてもよい。
【0040】
さらに、他の例として貫通孔40を多角形または長円形に形成してもよい。このとき、貫通孔40を多角形に形成した場合にはその一の頂部が、貫通孔40を長円形の場合にはその一の端部が、収容容器38を処理槽16に収容した状態で傾斜方向の下方となる位置に配置されるように設けられる構成(不図示)とすることが好適である。この構成も、発明者らによって収容容器38の形態として種々の検討された結果、処理槽16外への薬液の排出に好適な構成の他の例である。これによれば、収容容器38の傾斜方向の下方となる位置に多角形の頂部または長円形の端部を配置することによって、薬液を多角形または長円形の孔の内縁に沿って下降させて下端の頂部または端部から滴下させて貫通孔40から薬液が滴下する作用を促進することができる。なお、上記の多角形には、三角形、四角形(正方形、長方形、ひし形等)、五角形等を含み、さらにこれらの頂部が丸みを帯びて形成された三角形、四角形(正方形、長方形、ひし形等)、五角形等に準ずる形状も含む。また、上記の長円形には、楕円形から長端部が丸みを帯びて形成された棒状形状までを含む。また、貫通孔40の数、大きさ等は特に限定されず、貫通孔40の形状も上記の二例以外の形状とすることも考えられる。
【0041】
以上の構成によれば、処理槽を傾斜させて配設することによって、処理槽に収容される収容容器および組織片(一例として、カセットに収容された状態)を傾斜させて配置することができる。したがって、カセットや収容容器に付着した薬液を、重力の作用で傾斜面(特に収容容器の底面)を下降させて複数の貫通孔からの滴下(収容容器から処理槽の底面への排出)を促進することができる。さらに、処理槽の底面に流れ出た薬液を、重力の作用で傾斜面(処理槽の底面)を下降させて集約させつつ処理槽外に排出させることができる。その結果、従来と比較して、処理槽の液切れが良く、薬液の濃度低下による劣化が抑制され、薬液の交換頻度が抑制されて薬液の使用量を減らすことができる組織片処理装置を提供することが可能になる。
【0042】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 組織片処理装置
12 本体部
16 処理槽
20 供給口
22 排出口
28 開閉蓋
28a 第1端部
28b 第2端部
36 カセット
38 収容容器
40 貫通孔
42 第1溝部
44 第2溝部
図1
図2
図3
図4
図5