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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】黒大豆の加工方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20221209BHJP
【FI】
A23L11/00 E
A23L11/00 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018163890
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020031619
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺井 雅一
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-110851(JP,A)
【文献】特開平02-135066(JP,A)
【文献】特開2006-223138(JP,A)
【文献】特開昭58-020148(JP,A)
【文献】上野山あつこ,煮大豆の物性・嗜好性・咀嚼性に及ぼす酵素と加熱条件の影響,日本調理科学会誌,2015年,Vol. 48 No. 5,pp.359-366
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(a):黒大豆を鉄分を含む浸漬水に浸漬処理する工程、
工程(d):加熱処理により黒大豆に含まれるプロテアーゼインヒビターを失活させる工程、
を順に、または同時に含み、次いで、
工程(b):黒大豆1重量部に対してパパインを5.0重量%(W/W)以下含み、温度50℃以上80℃未満で酵素処理する工程、
工程(c):加熱処理によりパパインの失活および調理、殺菌する工程、
順にみ、
工程(b)におけるパパイン量および処理時間が、下記(A)、(B)のいずれかであることを特徴とする、黒大豆の加工方法
(A)黒大豆1重量部に対してパパインが0.2重量%(W/W)以上、処理時間が4時間以上、
(B)黒大豆1重量部に対してパパインが0.5重量%(W/W)以上、処理時間が2時間以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒大豆の加工方法において、黒大豆が有する黒色色素の溶出を防止し、且つ食感が良好な黒大豆の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒大豆の煮豆は、正月の祝い肴三種の一つであり、おせち料理にはかかせない一品として親しまれている。黒大豆の黒色は、魔除けの色とされており、黒大豆の煮豆で色落ちした製品はその商品価値を大きく損なう。そのため黒大豆の煮豆を製造する場合には、従来より黒大豆を水戻し(水浸漬)するときに鉄分を加え、黒大豆の種皮に含まれる黒色色素と鉄分とを反応させること(以下、「鉄処理」という)によって黒色色素の溶出を防止している。
【0003】
一方、黒大豆の煮豆を製造するときに鉄処理することによって、黒色色素の溶出は防止できるものの、鉄処理していないものと比べると黒大豆の種皮(外皮)が硬くなり、煮豆を軟らかく炊いた場合には、内側の子葉部分はよく軟化するが、種皮部分は軟化し難いため、喫食したときに外皮だけが口の中に残り不快感を生じるという問題があった。特に、高齢者においては、咀嚼能力が低下しているため、従来の製法の黒大豆の煮豆では、口の中に種皮が残りやすく、誤嚥を生じさせる原因にもなり、高齢者を対象とした商品においては、黒大豆の種皮を軟化できないことは重要な問題であった。
【0004】
一方、豆類の種皮を軟化させる技術として、各種の提案がされている。例えば、酵素処理で豆類の種皮を軟化させる方法として、特許文献1では豆類をセルラーゼ、ヘミセルラーゼまたはペクチナーゼのいずれか2種類以上の酵素を含む酵素溶液に浸漬し、次いで加熱処理することにより軟化させる方法が開示されている。また、特許文献2では豆類を酸性溶液の存在下で加熱し、次いでセルラーゼ、ヘミセルラーゼまたはペクチナーゼのいずれか1種類以上の酵素処理することにより、豆類本来の形状を維持しつつ軟化させる豆類の製造方法が開示されている。しかし、これらのセルラーゼなどの繊維を分解する酵素による軟化方法は、鉄処理されていない黒大豆においては有効であり種皮を軟化させることができるが、鉄処理された黒大豆においては当該酵素処理を行っても種皮を軟化させることは困難であった。
【0005】
このように従来開示されている技術では、豆類の種皮の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、ペクチンなどを分解する酵素であるセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼなどを用いた場合であっても、鉄処理された黒大豆の種皮を軟化させることができず、鉄処理された黒大豆の種皮を軟化させる加工方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5272072号
【文献】特開2015-149936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、黒大豆を用いた煮豆などの加工食品において、黒大豆が有する黒色色素の溶出を防止し、且つ鉄処理された黒大豆の種皮を軟化させることを目的とし、喫食時に口の中で皮残りが少なく食感が優れた黒大豆の加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、鉄処理された黒大豆をタンパク分解酵素の一つであるパパインを含む浸漬水に黒大豆を浸漬し酵素処理することによって、鉄処理された黒大豆の種皮を軟化させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の[1]、[2]の黒大豆の加工方法に関する。
[1]工程(a):黒大豆を鉄分を含む浸漬水に浸漬処理する工程、
工程(b):パパインによる酵素処理する工程、を順に、または同時に含み、次いで、
工程(c):加熱処理によりパパインの失活および調理、殺菌する工程、を含むことを特徴とする、黒大豆の加工方法に関する。
[2]工程(d):加熱処理により黒大豆に含まれるプロテアーゼインヒビターを失活させる工程を、前記工程(b)の前、または同時に含むことを特徴とする、[1]記載の黒大豆の加工方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、黒大豆の加工食品の製造において、鉄処理された黒大豆をパパインによる酵素処理することにより黒大豆の種皮を軟化させることができ、本発明の方法によって喫食時に口の中で皮残りが少なく食感が優れた黒大豆の加工食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0012】
本発明においては、収穫後乾燥した黒大豆を原料に用いる。
【0013】
本発明において用いられる黒大豆は、マメ科ダイズ属Glycine max(L.)Merrillに属する短日性の一年生草木の黒い種子(子実)である。黒大豆には、例えば中生光黒、トカチクロ、いわいくろ、玉大黒、丹波黒、信濃黒および雁喰などの品種があるが、黒大豆であればどの品種の種子を使用しても良い。
【0014】
〔工程(a)〕
本発明の方法においては、まず工程(a)において、黒大豆を鉄分を含む浸漬水に浸漬処理する。該浸漬処理は、原料の黒大豆に水分を十分に吸収させ黒大豆を膨潤させること、および黒大豆の種皮に含まれる色素と鉄分とを反応させること(鉄処理)によって黒大豆種皮の色素の溶出を防止することを目的とする。
【0015】
該浸漬処理に用いられる鉄分は、食品添加物として使用できるものであればよく、例えば、塩化第二鉄、クエン酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄などを用いることができる。
【0016】
該浸漬処理において浸漬水に添加する鉄分は、黒大豆1重量部に対して鉄分が0.01~1.0重量%(W/W)となるように調整されることが好ましい。鉄分の添加量が
0.01重量%(W/W)未満であり少ない場合には、黒大豆の種皮に含まれる色素の溶出を防止することができず、一方、鉄分の添加量が1.0重量%(W/W)を超えて多い場合には、最終製品において鉄分の味を感じ、食味が悪くなるため好ましくない。
【0017】
また、該浸漬処理に用いる浸漬水には、鉄分以外の成分として、保存料、pH調整剤、甘味料などの食品添加物、砂糖や醤油などの調味料などを添加することができる。例えば、種皮を含み黒大豆全体の軟化を促進させる目的で、食塩、重曹(重炭酸ナトリウム)、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、有機酸塩などを用いることができる。
【0018】
該浸漬処理に用いる浸漬水のpH範囲は、中性~弱アルカリ性であることが好ましい。黒大豆の種皮に含まれる色素には、ポリフェノール類のアントシアニンおよびプロアントシアニジンなどが含まれ、アントシアニンはpHが中性から弱アルカリ性の範囲では紫色~暗紫色を呈し、弱酸性~酸性の範囲では赤紫色~淡紅色を呈するため、黒大豆の種皮を美しい黒色に仕上げるためには浸漬水に重曹などを加えてpHを7.5~9.0の範囲で調整し、弱アルカリ性にすることが好ましい。
【0019】
該浸漬処理においては、浸漬温度は特に限定されないが、50~100℃で浸漬することが好ましく、より好ましくは70~95℃で行うことが好ましい。浸漬時間は黒大豆が十分に水分を吸収し膨潤することができればよく特に限定されないが、例えば、浸漬温度に応じて1~24時間浸漬することができる。
【0020】
該浸漬処理においては、浸漬温度が高いほど黒大豆の水分吸収を速やかに促進させることができる。浸漬温度が70℃以上である場合には、1~3時間程度の短時間で黒大豆に水分を十分に吸収させ膨潤させることができ、該浸漬処理を短時間で行うことができるため好ましい。但し、該浸漬処理の温度が95℃を超える場合には、浸漬時に黒大豆が熱対流により浸漬水中で舞い踊り、黒大豆の種皮が剥がれ易くなるため好ましくない。
【0021】
一方、該浸漬処理の浸漬温度が50℃より低い場合において、25℃以下の場合には水分吸収に8時間以上かかるため生産性が悪く、25℃以上50℃未満の場合には浸漬処理中に菌が増殖し腐敗するリスクがあるため好ましくない。
【0022】
〔工程(b)〕
次に、工程(b)においては、黒大豆の種皮を軟化させることを目的とし、工程(a)によって鉄処理された黒大豆を、パパインを必須酵素として含む酵素溶液に浸漬して酵素処理する。
【0023】
該酵素処理においては、必須酵素としてパパイヤの実から抽出した植物プロテアーゼであるパパインを使用する。使用するパパインとしては特に制限はなく、例えば、ナガセケムテックス株式会社製「食品用精製パパイン」、三菱ケミカルフーズ株式会社製「精製パパイン」、天野エイザイム株式会社製「パパインW-40」などが商業的に販売製造されており、本発明においてはこれらを使用することができる。
【0024】
また、該酵素処理においては、パパインを使用することが必須であり、工程(a)により得られた黒大豆の種皮をパパイン単独で軟化させることができるが、パパインと併用して他の分解酵素を使用してもよく、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼなどの繊維分解酵素、パパイン以外のタンパク分解酵素およびアミラーゼなどのでん粉分解酵素を併用して使用することができる。
【0025】
該酵素処理におけるパパインの添加量は、最終的に得られる黒大豆の加工食品に適した表皮の硬さ(物性)に応じて適宜決定することができる。例えば、黒大豆を浸漬する酵素溶液のパパイン濃度は、使用するパパイン製剤の種類、力価、メーカーなどにより異なるが、本発明においては黒大豆1重量部に対してパパインが0.1~5.0重量%(W/W)となるように調整される。通常、パパインの添加量が多すぎると、黒大豆の種皮のみならず豆全体が軟らかくなりすぎ、苦味も生じるため味覚的に劣るものになる。一方、パパインの添加量が少なすぎると酵素処理時間が長くなり生産性が低下し好ましくない。
【0026】
該酵素処理における処理温度は、20℃以上80℃未満であることが好ましく、より好ましくは50℃以上75℃以下であることが好ましい。該酵素処理の温度が50℃より低い場合において、保存料、殺菌剤、静菌剤などを添加せずに抗菌対策をしない場合には、該酵素処理中に腐敗するリスクがあるため好ましくない。また、該酵素処理の温度が80℃以上の場合には、パパインは80℃以上では熱耐性が低く、酵素活性が著しく低下し数分間で酵素失活するため黒大豆の種皮を軟化することができない。
【0027】
また、該酵素処理における処理時間は、黒大豆の種皮を軟化できればよく特に限定されないが、パパインの添加量および処理温度に応じて適宜調整すればよく、好ましくは1~24時間で浸漬することが好ましく、浸漬時間が24時間を超える場合には生産性が低下するため好ましくない。
【0028】
ところで通常、黒大豆を含めて豆類の種皮を軟化する場合には、一般的には種皮繊維質の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、ペクチンなどを分解する酵素が使用され、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼなどを用いて酵素処理することによりその種皮を軟化させることができ、鉄処理されていない黒大豆においては、セルラーゼなどを用いて種皮を軟化させることができる。
一方、鉄処理された黒大豆の種皮においては、プロテアーゼインヒビターの存在の有無を問わず、前記インヒビターが失活している場合であっても、セルラーゼなどの繊維分解酵素を用いて酵素処理したときに黒大豆の種皮を軟化させることができない。
また、パパイン以外のタンパク分解酵素を用いて酵素処理した場合、およびアミラーゼなどの糖化酵素を用いて酵素処理した場合についても、繊維分解酵素と同様に黒大豆の種皮を軟化させることができず、理由は明らかではないがパパインのみが特異的に鉄処理された黒大豆の種皮を効果的に軟化することができる。
【0029】
〔工程(d)〕
また、工程(d)は本発明においては必須の工程ではないが、加熱処理により黒大豆に含まれるプロテアーゼインヒビターを失活させることを目的として行われる。
工程(d)を、工程(b)の前、または工程(b)と同時に行うことにより、工程(b)のパパインによる酵素処理は、該インヒビターによる阻害抑制を受けないため、黒大豆の種皮の軟化を効率的に行うことができる。
【0030】
工程(d)における加熱処理は、該インヒビターは加熱温度が60℃未満では失活しないため、60℃以上で加熱処理を行う。該インヒビターは加熱温度が60℃~70℃未満までは失活速度が遅いため、加熱温度は70℃以上とすることが好ましく、90℃以上を超えると速やかに失活させることができるため、90℃以上で加熱処理することがより好ましい。
【0031】
なお、工程(d)の加熱処理による黒大豆に含まれる該インヒビターの失活の程度は、工程(b)のパパインによる酵素処理が大きく阻害されない程度に失活されればよく、全失活できなくてもよい。
【0032】
工程(d)における加熱時間は、該インヒビターを失活できる条件であればよく、特に限定されない。加熱処理は、例えば70℃5時間でもよく、80℃1時間、90℃20分間または100℃5分間でもよく、120℃1分間でもよい。
【0033】
また、工程(d)を行うタイミングは、工程(b)のパパインによる酵素処理が効率的に行われる条件であればよく、工程(b)の前、または工程(b)と同時に行うことができる。
【0034】
なお、工程(d)を工程(b)の前に実施する場合には、工程(a)に次いで工程(d)、または工程(a)と工程(d)とを同時に行うことができる。
【0035】
また、工程(d)を工程(b)と同時に行う場合には、工程(a)に次いで工程(b)と工程(d)とを同時に、または工程(a)と工程(b)と工程(d)とを同時に行うことができる。
【0036】
工程(d)における加熱処理は、水煮処理、蒸煮処理、加圧加熱処理、過熱水蒸気加熱処理などを用いることができる。なお、工程(d)の加熱処理が水煮処理の場合には、工程(a)の該浸漬処理を水煮処理槽内で行うことで、工程(a)と工程(d)とを連続して、または同時に行うことができるため効率的である。
【0037】
また、工程(d)における加熱方法が水煮処理の場合は、本発明においては必須ではないが、種皮を含む黒大豆全体を軟化することを目的として、処理水に食塩、重曹(重炭酸ナトリウム)、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、有機酸塩などを用いることができる。
【0038】
〔工程(c)〕
工程(c)においては、工程(b)によって得られた黒大豆を加熱処理することにより、パパインを失活させることを第一の目的とし、同時に、該加熱処理による調理、調味および/または殺菌による保存性を付与することを第二の目的とする。
【0039】
該加熱処理における第一の目的として、パパインを失活させるため少なくとも80℃以上で該加熱処理を行う。該加熱処理の時間は、特に限定されず少なくともパパインを失活させることができればよく、適宜時間を調整することができる。例えば、該加熱処理におけるパパインの失活条件は、使用するパパイン製剤の種類などにより異なるが、一般的には80℃10分以上の加熱処理が必要になる。
【0040】
また、該加熱処理おける第二の目的として、黒大豆の調理、調味および/または殺菌するために該加熱処理を施すことにより、黒大豆の加工食品として好ましい、調味、風味および保存性を付与することができる。
【0041】
該加熱処理の方法は、煮熟処理、蒸煮処理、加圧加熱処理、包装後の加熱処理または加圧加熱処理のいずれでもよく、特に限定されないが、目的とする黒大豆の加工食品に応じて適宜選択すればよい。また、その加熱条件についても、目的とする黒大豆の加工食品に適した温度および時間で行えばよく、特に限定されない。
【0042】
例えば、該加熱処理において、工程(b)によって得られた黒大豆を調味液と煮熟処理することにより、鉄処理された黒大豆の種皮が軟化された黒大豆の煮豆を得ることができる。
【0043】
また、該加熱処理において、工程(b)によって得られた黒大豆と調味液とをレトルトパウチに充填密封してレトルト殺菌することにより、鉄処理された黒大豆の種皮が軟化された、さらに長期保存性を備えた黒大豆の煮豆を得ることができる。
【0044】
また、該加熱処理において、工程(b)によって得られた黒大豆をレトルトパウチに充填し含気包装してレトルト殺菌することにより、鉄処理された黒大豆の種皮が軟化された、長期保存性を備えた黒大豆の蒸し豆を得ることができる。
【0045】
かくして、本発明の方法によって鉄処理された黒大豆の種皮を軟化させることができ、本発明の方法により得られる黒大豆の加工食品は、鉄処理された黒大豆の種皮が軟化されているため、見栄えがよく、さらに喫食したときに外皮だけが口の中に残る不快感が少なく、特に高齢者を対象とした商品において、官能面で優れた黒大豆の加工食品を提供することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
本発明の実施例、比較例において得られた黒大豆の加工食品は、次の評価方法により評価した。
〔官能評価〕
得られた黒大豆の加工食品を、1粒口の中に含み10回咀嚼することを一人5回繰り返したときの「種皮の食感、軟らかさ」について、表1に示した5段階の基準に従い評価した。
なお、この官能評価は10人で行い、それぞれ10名の評点の平均値を求め、平均値が5に近いほど本願発明による黒大豆の加工食品(煮豆、水煮)として望ましいものとし、評点が4以上であれば本願発明による黒大豆の加工食品として適するものとし、下記基準に従って評価した。
○:平均点4.0以上
△:平均点2.5以上、4.0未満
×:平均点2.5未満
【0048】
【表1】
【0049】
〔工程(a)、工程(d)、工程(b)、工程(c)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例1、比較例1、2: パパイン処理の検討
煮熟槽に70℃の湯11Lを入れ、硫酸第一鉄0.01kg、重曹0.04kgを添加し溶解させ、黒大豆2kgを煮熟槽に投入し70℃3時間で浸漬処理した。浸漬処理後すぐに煮熟槽を加熱し沸騰させ、微沸騰の状態を60分間維持して水煮処理した。
次に、酵素処理槽に50℃の湯10Lを入れ、ナガセケムテックス株式会社製「食品用精製パパイン」を黒大豆1重量部に対して1.0重量%(W/W)添加し、水煮処理した黒大豆を酵素処理槽に浸漬し、50℃2時間酵素処理した。
次に、酵素処理した黒大豆を、Bx35のグラニュ糖液10kgに浸漬し、微沸騰の状態で3時間煮熟処理し、加熱を止めた後さらに3時間浸漬した。糖浸漬後、液切りして得られた黒大豆の煮豆について、段落〔0047〕、〔0048〕に記載の方法で官能評価を実施した。
また、比較例1として浸漬処理で硫酸鉄を添加し酵素処理をしないものを、比較例2として浸漬処理で硫酸鉄を添加せずに酵素処理もしないものをそれぞれ比較対照とし、同様に官能評価を実施した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2の結果から明らかなように、実施例1で得られた黒大豆の煮豆は、パパイン処理により種皮の食感をほとんど感じることなく、種皮の断片が口の中にほとんど残らない状態まで軟化されていたが、比較例1で得られた黒大豆の煮豆は、鉄処理により種皮の食感が硬くなり、種皮の断片が口の中に残る状態であった。
【0052】
〔工程(a)、工程(d)、工程(b)、工程(c)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例2、比較例3~12: 酵素の検討
煮熟槽に70℃の湯110Lを入れ、硫酸第一鉄0.1kg、重曹0.4kgを添加し溶解させ、黒大豆20kgを煮熟槽に投入し70℃3時間で浸漬処理した。浸漬処理後すぐに煮熟槽を加熱し沸騰させ、微沸騰の状態を60分間維持して水煮処理した。
次に、酵素処理槽に50℃の湯5Lを入れ、各酵素を添加し、水煮処理後の黒大豆2kgを酵素処理槽に浸漬し、50℃16時間酵素処理した。なお、各酵素の添加量は、黒大豆1重量部に対して、単体使用の場合は1.0重量%(W/W)、混合使用の場合は各酵素0.5重量%(W/W)となるように調整した。また、上記検討に用いた酵素を表3に示す。
次に、酵素処理後の黒大豆をBx35のグラニュ糖液5kgに浸漬し、微沸騰の状態で3時間煮熟処理し、加熱を止めた後さらに3時間浸漬した。糖浸漬後、液切りして得られた黒大豆の煮豆について、段落〔0047〕、〔0048〕に記載の方法で官能評価を実施した。結果を表4に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
表4の結果から明らかなように、実施例2で得られた黒大豆の煮豆は、パパイン処理により種皮の食感をほとんど感じることなく、種皮の断片が口の中にほとんど残らない状態まで軟化されていた。これに対し、比較例3~12で得られた黒大豆の煮豆は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、パパイン以外のプロテアーゼ、アミラーゼの何れの酵素処理を単独または混合併用で行った場合であっても実施例品と比べて黒大豆の種皮を十分に軟化することができなかった。
【0056】
〔工程(a)、工程(d)、工程(b)、工程(c)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例3~7、比較例13~19: パパイン処理の添加量と時間の検討
煮熟槽に70℃の湯11Lを入れ、硫酸第一鉄0.01kg、重曹0.04kgを添加し溶解させ、黒大豆2kgを煮熟槽に投入し70℃3時間で浸漬処理した。浸漬処理後すぐに煮熟槽を加熱し沸騰させ、微沸騰の状態を60分間維持して水煮処理した。
次に、酵素処理槽に50℃の湯10Lを入れ、ナガセケムテックス株式会社製「食品用精製パパイン」を添加し、水煮処理した黒大豆を酵素処理槽に浸漬し、50℃で酵素処理した。なお、黒大豆1重量部に対するパパインの添加量(重量%(W/W))および酵素処理時間は、表5に示す条件で実施した。
次に、酵素処理した黒大豆を、Bx35のグラニュ糖液10kgに浸漬し、微沸騰の状態で3時間煮熟処理し、加熱を止めた後さらに3時間浸漬した。糖浸漬後、液切りして得られた黒大豆の煮豆について、段落〔0047〕、〔0048〕に記載の方法で官能評価を実施した。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
表5の結果から明らかなように、実施例においてパパイン添加量が1%以上の場合は酵素処理2時間で、添加量が0.2%以上の場合は酵素処理16時間で黒大豆の種皮を十分に軟化させることができ、パパイン添加量と処理時間を適宜調整することで黒大豆の種皮を軟化させることができる。
【0059】
〔工程(a)、工程(d)、工程(b)、工程(c)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例8~20、比較例20~30: プロテアーゼインヒビターを失活させる工程を含む場合におけるパパイン処理の温度と時間の検討
煮熟槽に70℃の湯11Lを入れ、硫酸第一鉄0.01kg、重曹0.04kgを添加し溶解させ、黒大豆2kgを煮熟槽に投入し70℃3時間で浸漬処理した。浸漬処理後すぐに煮熟槽を加熱し沸騰させ、微沸騰の状態を60分間維持して水煮処理した。
次に、酵素処理槽に50℃の湯10Lを入れ、ナガセケムテックス株式会社製「食品用精製パパイン」を黒大豆1重量部に対して1.0重量%(W/W)添加し、水煮処理した黒大豆を酵素処理槽に浸漬し、表6に示す条件で酵素処理した。
次に、酵素処理した黒大豆を、Bx35のグラニュ糖液10kgに浸漬し、微沸騰の状態で3時間煮熟処理し、加熱を止めた後さらに3時間浸漬した。糖浸漬後、液切りして得られた黒大豆の煮豆について、段落〔0047〕、〔0048〕に記載の方法で官能評価を実施した。結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6の結果から明らかなように、実施例のパパインによる酵素処理の温度が30~70℃の範囲では黒大豆の種皮を十分に軟化させることができる。一方、処理温度が80℃以上の場合には、パパインが失活するため黒大豆の種皮を軟化させることができない。
【0062】
〔工程(a)、工程(b)を同時に含み、次いで工程(c)を含む方法に関する実施例〕
実施例21~23、比較例31、32: 浸漬処理とパパイン処理を同時に含む場合の温度および時間の検討
煮熟槽に各温度に設定された湯10Lを入れ、硫酸第一鉄0.01kg、重曹0.04kgを添加し溶解させ、ナガセケムテックス株式会社製「食品用精製パパイン」を黒大豆1重量部に対して1.0重量%(W/W)添加した後、黒大豆2kgを煮熟槽に投入し、表7に示す条件で浸漬処理と酵素処理を同時に行い、次いで100℃20分間水煮処理した。水煮処理後の黒大豆について、段落〔0047〕、〔0048〕に記載の方法で官能評価を実施した。結果を表7に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
表7の結果から明らかなように、工程(a)と工程(b)を同時に行った場合においても、実施例21~23が示すとおり黒大豆の種皮を十分に軟化させることができる。実施例21においては、大豆に含まれるプロテアーゼインヒビターが失活していない条件下であっても、パパイン処理を長時間行うことにより黒大豆の種皮を十分に軟化させることができる。パパイン処理による黒大豆の種皮の軟化は、加熱処理によるプロテアーゼインヒビターの失活を必須とせず黒大豆の種皮を軟化させることができる。一方、比較例31、32においては、プロテアーゼインヒビターが十分に失活しておらず、且つパパイン処理時間が短い場合には、黒大豆の種皮を軟化させることができない。
【0065】
〔工程(a)、工程(d)を同時に含み、次いで工程(b)、工程(c)を順に含む方法に関する実施例〕
実施例24: 黒大豆の浸漬処理とプロテアーゼインヒビターの失活を同時に含む場合の検討
煮熟槽に95℃の湯11Lを入れ、硫酸第一鉄0.01kg、重曹0.04kgを添加し溶解させ、黒大豆2kgを煮熟槽に投入し95℃3時間浸漬して、浸漬処理とプロテアーゼインヒビターの失活を同時に行った。
次に、酵素処理槽に50℃の湯10Lを入れ、ナガセケムテックス株式会社製「食品用精製パパイン」を黒大豆1重量部に対して1.0重量%(W/W)添加し、浸漬処理した黒大豆を酵素処理槽に3時間浸漬して酵素処理した。
次いで、酵素処理した黒大豆を100℃20分間水煮処理した。水煮処理後の黒大豆について、段落〔0047〕、〔0048〕に記載の方法で官能評価を実施した。結果を表8に示す。
【0066】
【表8】
【0067】
表8の結果から明らかなように、工程(a)と工程(d)を同時に行った場合においても、実施例24が示すとおり黒大豆の種皮を十分に軟化させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の方法によれば、黒大豆の加工食品において、黒大豆の黒色色素の溶出を防止し、且つ黒大豆の種皮を軟化させることができるため、黒色が保持され見栄えに優れ、さらに喫食したときに外皮だけが口の中に残る不快感が少なく、特に高齢者を対象とした商品において、官能面で優れた黒大豆の加工食品を提供することができる。