(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/062 20140101AFI20221209BHJP
【FI】
B23K26/062
(21)【出願番号】P 2017215395
(22)【出願日】2017-11-08
【審査請求日】2020-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 友之
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-521615(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118829(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射するレーザビームの偏光方向に応じて、入側の光路を出側の2つの光路に分岐させる分岐素子と、
前記分岐素子よりも上流側の光路に配置され、前記分岐素子でレーザビームのパワーが出側の2つの光路に分岐される向きに、レーザビームの偏光方向を変化させる偏光方向調整機構と、
前記分岐素子よりも上流側の光路に配置され、レーザビームから一部分を切り出して前記分岐素子に向かわせる切出機構と
を有し、
前記切出機構は、前記偏光方向調整機構より上流側の光路に配置されている音響光学素子を含み、前記音響光学素子によって切り出されたレーザビームを2つの光路に分岐させて加工を行うレーザ加工装置。
【請求項2】
前記音響光学素子は、入射するレーザビームを回折させることにより一部分を切り出す請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
さらに、前記音響光学素子よりも上流側の光路に配置され、レーザビームのビーム断面の一部を遮光するアパーチャを有する請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記音響光学素子、前記分岐素子、及び前記偏光方向調整機構が共通の光学プレートの上に配置されており、前記音響光学素子の入側及び出側の光路、前記偏光方向調整機構の入側及び出側の光路、及び前記分岐素子の入側の光路が、前記光学プレートに対して平行である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
レーザビームから音響光学素子によって一部分を切り出し、
前記音響光学素子によって切り出されたレーザビームの偏光方向を変化させ、
偏光方向が変化したレーザビームを、偏光方向に応じて分岐させる分岐素子に入射させて2つの光路に分岐させ、
前記分岐素子で分岐された2つのレーザビームで加工を行うレーザ加工方法
であって、
前記レーザビームの偏光方向を変化させるときに、偏光方向が変化したレーザビームが前記分岐素子で2つの光路に分岐するように偏光方向を変化させるレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の効率を高めるために、レーザ発振器から出力されたパルスレーザビームの1つのパルスから2つのパルスを切り出して2本のレーザビームで加工を行う2軸レーザ加工装置が公知である(例えば、下記の特許文献1参照)。特許文献1に開示されたレーザ加工装置においては、パルスレーザビームの1つのパルスが、音響光学素子により時間軸上で2つのパルスに分離され、2つのパルスがそれぞれ異なる光路を伝搬する。音響光学素子は、1つのパルスから加工用のパルスを切り出す機能と、1本の光路を2本の光路に分岐させる機能とを持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音響光学素子により分岐された2本の光路のなす角度は小さい。このため、分岐後の2本の光路に配置すべき光学部品が空間的に干渉しやすくなり、光学部品を配置する位置が制約を受ける。
【0005】
本発明の目的は、レーザビームから加工に用いられる一部分を切り出し、2つの光路に分岐させるとともに、分岐後の光路に配置する光学部品の配置の制約を緩和することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
入射するレーザビームの偏光方向に応じて、入側の光路を出側の2つの光路に分岐させる分岐素子と、
前記分岐素子よりも上流側の光路に配置され、前記分岐素子でレーザビームのパワーが出側の2つの光路に分岐される向きに、レーザビームの偏光方向を変化させる偏光方向調整機構と、
前記分岐素子よりも上流側の光路に配置され、レーザビームから一部分を切り出して前記分岐素子に向かわせる切出機構と
を有し、
前記切出機構は、前記偏光方向調整機構より上流側の光路に配置されている音響光学素子を含み、前記音響光学素子によって切り出されたレーザビームを2つの光路に分岐させて加工を行うレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
切出機構によって、レーザビームから加工に用いられる一部分を切り出すことができる。入射するレーザビームの偏光方向に応じて、入側の光路を2本の出側の光路に分岐させる分岐素子を用いることにより、音響光学素子で分岐させる構成と比べて、分岐後の2本の光路のなす角度を大きくすることができる。その結果、分岐後の光路に配置する光学部品の配置の制約を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例によるレーザ加工装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施例によるレーザ加工装置の水平面内方向に着目した概略図である。
【
図3】
図3は、実施例によるレーザ加工装置の高さ方向に着目した概略図である。
【
図4】
図4は、
他の実施例によるレーザ加工装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1~
図3を参照して、実施例によるレーザ加工装置について説明する。
図1は、実施例によるレーザ加工装置の模式図である。レーザ光源10が直線偏光されたパルスレーザビームを出力する。レーザ光源10として、例えば炭酸ガスレーザ発振器を用いることができる。レーザ光源10から加工対象物30までの光路に、複数の光学素子が配置されている。なお、レーザビームの光路には、
図1に示した光学素子の他にも、必要に応じてリレーレンズ、フィールドレンズ、ベンディングミラー等を配置してもよい。
【0010】
レーザ光源10から出力されたパルスレーザビームが、アパーチャ11を通過して切出機構12に入射する。アパーチャ11は、光路を伝搬するレーザビームのビーム断面の一部(周辺部)を遮光し、残り(中心部)のレーザビームを透過させる。
【0011】
切出機構12は、光路上に配置された音響光学素子13と、音響光学素子13に駆動信号を与えるドライバ14とを含む。音響光学素子13はドライバ14から駆動信号を受けて、音響光学素子13に入射するパルスレーザビームのレーザパルスLP1から一部分を切り出して回折させ、入力側の光路から偏向した出力側の光路に伝搬させる。切り出されたレーザパルスLP2は、音響光学素子13に入射するレーザパルスLP1の時間軸上における一部分に相当する。レーザパルスLP1の残りの部分は音響光学素子13を直進して、ビームダンパに入射する。
【0012】
切出機構12によって切り出されたパルスレーザビームが、偏光方向調整機構15に入射する。偏光方向調整機構15は、光路に沿って伝搬するレーザビームの偏光方向を、予め設定された角度だけ変化させる。偏光方向調整機構15は、例えば複数のミラーにより構成することができる。
【0013】
偏光方向調整機構15により偏光方向が変化されたレーザビームが、分岐素子16に入射する。分岐素子16は、入射するレーザビームの偏光方向に応じて、入側の光路を2本の出側の光路に分岐させる。分岐素子16として、例えば偏光ビームスプリッタを用いることができる。偏光ビームスプリッタは、P偏光成分を透過させ、S偏光成分を反射する。偏光方向調整機構15は、例えばP偏光成分とS偏光成分とのパワー比が等しくなるように、偏光方向を変化させる。そうすると、分岐素子16の出側の2本の光路を伝搬するパルスレーザビームのレーザパルスLP3、LP4の各々の光強度が、分岐前のパルスレーザビームのレーザパルスLP2の光強度の半分になる。
【0014】
分岐後の2本の光路を伝搬するパルスレーザビームが、それぞれビーム走査器17A、17B及び集光レンズ18A、18Bを経由して、ステージ19に保持された加工対象物30に入射する。ビーム走査器17A、17Bは、パルスレーザビームを二次元方向に走査する。ビーム走査器17A、17Bとして、例えば一対のガルバノミラーを含むガルバノスキャナを用いることができる。集光レンズ18A、18Bは、それぞれ走査されたパルスレーザビームを加工対象物30の表面に集光させる。集光レンズ18A、18Bとして、例えばfθレンズを用いることができる。
【0015】
ステージ19は、加工対象物30を、その被加工面に平行な二次元方向に移動させる機能を持つ。加工対象物30は、例えば穴開け加工前のプリント基板である。プリント基板の被加工点にパルスレーザビームを入射させることにより、穴開け加工が行われる。ステージ19として、例えばXYステージを用いることができる。
【0016】
制御装置35が、レーザ光源10、切出機構12、ビーム走査器17A、17B、及びステージ19を制御する。
【0017】
図2は、実施例によるレーザ加工装置の水平面内方向に着目した概略図である。光学プレート20の上面にレーザ光源10、アパーチャ11、音響光学素子13、偏光方向調整機構15、分岐素子16、ビームダンパ21、及びミラー22A、22Bが固定されている。レーザ光源10から出力されるパルスレーザビームの偏光方向PDは、光学プレート20の上面に対して平行である。アパーチャ11を透過し、音響光学素子13を直進したレーザビームがビームダンパ21に入射する。
【0018】
音響光学素子13によって偏向された光路に沿って伝搬するレーザビームが偏光方向調整機構15に入射する。音響光学素子13によって偏向された光路に沿って伝搬するレーザビームの偏光方向PDも、光学プレート20の上面に対して平行である。
【0019】
分岐素子16によって分岐された後の2本の光路に沿って伝搬するレーザビームが、それぞれミラー22A、22Bによって下方に向けて反射される。偏光方向調整機構15を通過した後の光路に沿って伝搬するレーザビームの偏光方向PDは、例えば光学プレート20の上面に対して45度傾いている。分岐素子16を透過したレーザビームの偏光方向PDは、光学プレート20の上面に対して平行である。分岐素子16によって反射されたレーザビームの偏光方向PDは、光学プレート20の上面に対して垂直である。
【0020】
図3は、実施例によるレーザ加工装置の高さ方向に着目した概略図である。光学プレート20の上面に、レーザ光源10、アパーチャ11、音響光学素子13、偏光方向調整機構15、分岐素子16、及びミラー22A、22Bが固定されている。レーザ光源10から偏光方向調整機構15までの光路は、光学プレート20の上面に対して平行である。この光路を伝搬するレーザビームの偏光方向PDは光学プレート20の上面に対して平行である。
【0021】
偏光方向調整機構15の内部で、レーザビームが複数のミラーで反射されることにより、光学プレート20の上面を基準とした光路の高さが変化する。偏光方向調整機構15から分岐素子16までの光路は、光学プレート20の上面に対して平行である。この光路を伝搬するレーザビームの偏光方向PDは光学プレート20の上面に対して45度傾いている。
【0022】
分岐素子16を直進し、ミラー22Aに入射するレーザビームの偏光方向PDは光学プレート20の上面に対して平行である。分岐素子16で反射され、ミラー22Bに入射するレーザビームの偏光方向PD(
図2)は光学プレート20の上面に対して垂直である。
【0023】
ミラー22Aによって下方に向けて反射されたレーザビームは、光学プレート20に設けられた開口を通過し、ビーム走査器17A及び集光レンズ18Aを経由して、ステージ19に保持された加工対象物30に入射する。同様に、ミラー22Bによって下方に向けて反射されたレーザビームは、光学プレート20に設けられた開口を通過し、ビーム走査器17B及び集光レンズ18Bを経由して、ステージ19に保持された加工対象物30に入射する。
【0024】
次に、本実施例によるレーザ加工装置の持つ優れた効果について説明する。
本実施例では、レーザビームの偏光方向に応じて光路を分岐させる分岐素子16、例えば偏光ビームスプリッタを用いる。このため、音響光学素子を用いて光路を分岐させる場合と比べて、分岐後の2本の光路のなす角度を大きく、例えば90度にすることができる。これにより、分岐後の2本の光路に配置する光学部品が空間的に干渉しにくくなり、光学部品を配置する位置の自由度を高めることができる。
【0025】
また、本実施例では、音響光学素子13が偏光方向調整機構15よりも上流側の光路に配置されている。偏光方向調整機構15より上流側の光路を伝搬するレーザビームの偏光方向は、光学プレート20の上面に対して平行である(
図2、
図3)。一般的に、音響光学素子は、入射するレーザビームの偏波面に対して平行となる面に設置して使用される。このとき、回折光は、音響光学素子が設置された面に平行な方向に伝搬する。本実施例においては、音響光学素子が設置される面(光学プレート20の上面)と、音響光学素子に入射するレーザビームの偏波面とが平行になるため、音響光学素子13により回折されたレーザビームの光路も、光学プレート20の上面に対して平行になる(
図3)。このため、複数の光学部品の光軸調整が容易であるという効果が得られる。
【0026】
実施例では、アパーチャ11(
図1)が音響光学素子13より上流側の光路に配置されている。音響光学素子13に入射するレーザビームのパワーがアパーチャ11によって弱められるため、音響光学素子13の過熱による損傷を抑制することができる。
【0027】
また、実施例では、分岐素子16(
図1)によってレーザビームのパワーが2本の光路に分岐される。2本の光路に分岐された後のパルスレーザビームのレーザパルスLP3、LP4(
図1)の波形は同一である。このため、2本の光路を伝搬するパルスレーザビームにより均質なレーザ加工を行うことができる。さらに、レーザ光源10から出力されたレーザパルスLP1(
図1)の波形に応じて、レーザパルスLP1から加工に最適な部分を切出機構12(
図1)で切り出すことができる。
【0028】
次に、
図4を参照して他の実施例によるレーザ加工装置について説明する。以下、
図1~
図3に示した実施例によるレーザ加工装置と共通の構成については説明を省略する。
【0029】
図4は、他の実施例によるレーザ加工装置の模式図である。
図1に示した実施例では、音響光学素子13が偏光方向調整機構15より上流側の光路に配置されていたが、本実施例では、音響光学素子13が偏光方向調整機構15より下流側の光路に配置されている。
【0030】
本実施例においても、
図1に示した実施例と同様に、音響光学素子を用いて光路を分岐させる場合と比べて、分岐後の2本の光路のなす角度を大きくすることができるという効果が得られる。
【0031】
本実施例では、音響光学素子13に入射するレーザビームの偏光方向PDが、光学プレートの上面に対して45度傾いている。このため、音響光学素子13による回折光の光路は、光学プレートの上面に対して斜めになる。従って、音響光学素子13と分岐素子16との間の光路に、光路を光学プレートの上面に対して平行にするためのミラーを配置することが好ましい。
【0032】
次に、
図1~
図4に示した実施例の変形例について説明する。
図1~
図4に示した実施例では、分岐素子16に入射するレーザビームの偏光方向を、分岐素子16の入射面に対して45度傾けることにより、分岐後の2本の光路を伝搬するレーザビームのパワーを等しくした。分岐後の2つのレーザビームのパワーには、レーザ加工の品質に影響を及ぼさない程度のばらつきがあってもよい。例えば、分岐後のレーザビームのパワーに、入射するレーザビームのパワーの1/2に対して3%以下のずれが生じてもよい。分岐素子16に入射するレーザビームの偏光方向の、入射面に対する傾き角は厳密に45度である必要はなく、許容されるパワーのずれに対応する程度の角度のずれが生じてもよい。
【0033】
また、分岐後の2本の光路のレーザビームのパワーを必ずしも等しくさせる必要はない。2本の光路で加工する対象物の材料、加工する深さ等が異なる場合には、加工条件に応じてレーザビームのパワーの分岐比を異ならせてもよい。この場合には、分岐素子16に入射するレーザビームの偏光方向の、入射面に対する傾き角を、パワーの分岐比に応じて設定すればよい。
【0034】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0035】
10 レーザ光源
11 アパーチャ
12 切出機構
13 音響光学素子
14 ドライバ
15 偏光方向調整機構
16 分岐素子
17A、17B ビーム走査器
18A、18B 集光レンズ
19 ステージ
20 光学プレート
21 ビームダンパ
22A、22B ミラー
30 加工対象物
35 制御装置
LP1、LP2、LP3、LP4 レーザパルス