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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】粉末油脂とそれを用いた飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
A23D9/007
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018110304
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019208473
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】太田 千晶
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】登坂 友美
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-125703(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104054849(CN,A)
【文献】特開2016-101157(JP,A)
【文献】特開2015-146754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、難消化性糖質、および加工澱粉を含有し、前記油脂の含有量が20質量%以上であり、前記難消化性糖質の含有量が1~75質量%であり、前記油脂に対する前記加工澱粉の質量比(加工澱粉/油脂)が0.1より大きく、前記加工澱粉がオクテニルコハク酸デンプンナトリウムである、噴霧乾燥型の粉末油脂(但し、中鎖グリセロール3エステル油55部、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム15部、ラクチトール5部、キトオリゴ糖7部、乾燥スキムミルク5部、マルトデキストリン5部、ポリグルコース4部、モノビスステアリン酸グリセリルとジアセチル酒石酸モノジグリセロールエステル合わせて1部、シリカ1部を含む高含量中鎖トリグリセリド粉末油脂を除く)。
【請求項2】
前記難消化性糖質が水溶性物質である、請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
前記水溶性物質の50℃における1質量%水溶液の粘度が10mPa・s以下である、
請求項2に記載の粉末油脂。
【請求項4】
前記水溶性物質が食物繊維である、請求項2または3に記載の粉末油脂。
【請求項5】
前記難消化性糖質がデキストリン類である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末
油脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末油脂を配合した、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂とそれを用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
難消化性糖質は、ヒトの消化酵素では消化吸収されにくく、その種類に応じて各種の効果があるとされ、栄養補助食品の材料としても幅広く使用されている。その中でも水溶性食物繊維の機能性が注目されており、例えば、水溶性食物繊維である難消化性デキストリンは、整腸作用、食後血糖値上昇抑制作用、食後中性脂肪上昇抑制作用などがあるとされている。
【0003】
粉末油脂は、糖質や乳タンパク質などで乳化、賦形するが、このように機能性が注目されている水溶性食物繊維などの難消化性糖質を使用するものとして、特許文献1では、食用油脂、難消化性デキストリン、およびカゼイン塩を必須成分として含有してなる粉末油脂組成物が提案されている。粉末油脂の基本的な課題である油脂の染み出し、流動性において、更に満足し得る技術が望まれていた。
【0004】
特許文献2、3の実施例では、粉末化した食品素材に難消化性糖質を配合したものがあるが、例えば特許文献2では加工澱粉を配合してもその量が少ないなど、油脂の染み出し抑制や流動性の点から満足し得る技術は開示されていない。特許文献3では、油性成分の量が少なく、これに対してトリグリセリドである油脂を用いた粉末油脂においては、そのアプリケーションに対する機能などから高油分のものが求められる傾向があるが、油分が多くなると粉末油脂における油脂の染み出しや流動性の低下といった課題が生じ易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/076164号
【文献】特開平7-123919号公報
【文献】特開2008-143843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、難消化性糖質による機能性を有し、かつ油脂の染み出しを抑制することができ、流動性にも優れた粉末油脂とそれを用いた飲食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、難消化性糖質と共に加工澱粉を使用し、油脂に対する加工澱粉の質量比を特定範囲とすることで、油脂の含有量を高めても油脂の染み出しを抑制することができ、流動性にも優れた粉末油脂が得られることを見出し、また乳化や賦形のために従来使用されている乳タンパク質の配合量を低減できるので、アレルギーの懸念も少ない粉末油脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の粉末油脂は、油脂、難消化性糖質、および加工澱粉を含有し、油脂の含有量が20質量%以上であり、油脂に対する加工澱粉の質量比(加工澱粉/油脂)が0.1より大きいことを特徴としている。
【0009】
本発明の飲食品は、前記粉末油脂を配合したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉末油脂は、難消化性糖質による機能性を有し、かつ油脂の染み出しを抑制することができ、かつ流動性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の粉末油脂は、油脂、難消化性糖質、および加工澱粉を含有する。
【0013】
本発明の粉末油脂に使用される油脂は、従来の食用油脂のように、トリグリセリドがほぼ全体を占める組成物を主な対象としている。油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリド(SSS)を含んでいてもよく、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)を含んでいてもよく、1位と2位、または2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位または1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU、USS)を含んでいてもよい。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド(SUU、UUS、USU))を含んでいてもよく、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)を含んでいてもよい。ここで、飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記飽和脂肪酸の括弧内の数値表記は、脂肪酸の炭素数を意味する。不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0014】
本発明の粉末油脂に使用される油脂は、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油、加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)などが挙げられる。これらの油脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、高度不飽和脂肪酸としてα-リノレン酸を含有するシソ油、エゴマ油、アマニ油や、高度不飽和脂肪酸としてEPAやDHAを含有する魚油、海藻油や、高度不飽和脂肪酸としてγ-リノレン酸を含有する月見草油、ボラージ油などの高度不飽和脂肪酸含有油脂を用いることができる。
【0015】
本発明の粉末油脂において、油脂の含有量は、20質量%以上である。油脂の含有量が20質量%以上である粉末油脂では、油脂が粉末表面に染み出し易く、流動性などの物性にも影響する場合がある。またアプリケーションに対する機能、例えば、健康の維持、増進や疾患の予防、改善等のために摂取する高度不飽和脂肪酸の含有量増加や、飲料等の素材として白色の色合いを付与すること、製菓製パンの生地や食感の改良などや、その他、油脂によるコクの付与、摂取カロリーの増強などの観点からは、高油分であることが求められている。このような点を考慮すると、油脂の含有量は、25質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上が更に好ましく、50質量%以上が特に好ましい。油脂の含有量の上限は特に限定されないが、粉末油脂に求められる各種の物性などを考慮すると、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましく、65質量%以下が特に好ましい。
【0016】
本発明の粉末油脂に使用される難消化性糖質は、ヒトの消化酵素では消化吸収されにくい特性などに基づいて、粉末油脂に機能性を付与し得る。
【0017】
難消化性糖質には、水溶性物質と不溶性物質がある。
【0018】
水溶性物質としては、例えば、水溶性食物繊維、糖アルコールなどが挙げられる。水溶性食物繊維は水に溶け易く、生理的効果として、食後の血糖値の上昇を抑えたり、血中コレステロールの上昇を抑制したりする働きがあるとされている。高い粘性を有するものでは、胃から小腸への食物の移動速度が遅くなり、その結果、小腸における栄養素の吸収速度が遅くなるとされている。糖アルコールは、甘味があり、吸収されにくい性質がある。
【0019】
水溶性食物繊維としては、例えば、次のものが挙げられる:
難消化性デキストリン、イソマルトデキストリン(分岐マルトデキストリン)、シクロデキストリン、高分子デキストリンなどのデキストリン類;
イヌリン、イヌリン分解物、アガベイヌリンなどのイヌリン類;
イソマルツロース(パラチノース)、ポリデキストロース、難消化性グルカン、アラビノガラクタン;
ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナンなどのマンナン類;
フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖(4’-ガラクトシルラクトース)、キシロオリゴ糖、ビートオリゴ糖(ラフィノース)、大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース)、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、などのオリゴ糖類;
ペクチン、プルラン、グアーガム、グアーガム分解物、キサンタンガム、アラビアガム、ガティガム、ネイティブジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ローカストビーンガム、タラガム、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、フェヌグリークガム、サイリウムシードガム、スクシノグリカン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、大豆多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、フコイダン、ポルフィラン、ラミナランなどの高分子多糖類。
【0020】
糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、還元イソマルツロース(パラチニット)、マンニトールなどが挙げられる。
【0021】
不溶性物質としては、例えば、不溶性食物繊維などが挙げられる。不溶性食物繊維は水に溶けにくく、消化管内で膨らむ性質があるため、便重量を増加させ、便秘を防ぐ働きがあるとされている。
【0022】
不溶性食物繊維としては、例えば、セルロース、ヘミセルロース、ホロセルロース、セロビオース、マトリックス多糖、小麦ふすま、アップルファイバー等の果実ファイバー、さつまいもファイバー等の穀物ファイバー、リグニン、N-アセチルグルコサミン、キチン、キトサン、レジスタントスターチなどが挙げられる。
【0023】
これらの中でも、油脂の染み出しを抑制することができ、流動性にも優れた粉末油脂が得られる点を考慮すると、難消化性糖質は、水への分散性に優れ、油滴を賦形しやすい水溶性物質が好ましい。その中でも、水溶液を調製した時に低粘度であるものが良く、水溶性物質の50℃における1質量%水溶液の粘度が10mPa・s以下であることが好ましい。ここで粘度は実施例欄に記載の条件で測定した値である。上記に例示したもののうち、難消化性デキストリン、イソマルトデキストリン、イヌリン、アガベイヌリン、イソマルツロース、ポリデキストロースなどが該当する。グルコマンナンは粘度が高くなり、高分子多糖類は粘度が著しく高い傾向がある。
【0024】
本発明の効果を得る点において、難消化性糖質の水溶性物質は、食物繊維が好ましい。
【0025】
粉末油脂における油脂の染み出し抑制、流動性、酸化安定性を考慮すると、難消化性糖質は、デキストリン類、イヌリン類が好ましい。粉末油脂における油脂の染み出し抑制、流動性、酸化安定性、歩留まりの多い生産性を考慮すると、難消化性糖質は、デキストリン類が好ましい。ここでデキストリン類としては難消化性デキストリン、イソマルトデキストリンが好ましく、イヌリン類としてはイヌリン、アガベイヌリンが好ましい。難消化性デキストリンやイソマルトデキストリンは、低粘度の水溶性食物繊維の中でも、高湿度下に静置しても吸湿せず粉状を保っている特徴があり、上記各効果の発現において特に好ましい。
【0026】
本発明の粉末油脂において、難消化性糖質の含有量は、本発明の効果を得る点から、粉末油脂の全量に対して0.1~70質量%が好ましく、0.5~60質量%がより好ましく、1~50質量%が更に好ましい。その中でも、さらに油脂の染み出しを抑制することができ、かつ流動性に優れた粉末油脂を得ることができる点から、粉末油脂の全量に対して20~70質量%が好ましく、25~60質量%がより好ましく、30~50質量%が更に好ましい。
【0027】
本発明の粉末油脂に使用される加工澱粉は、難消化性糖質を用いた相当量の油分を含む粉末油脂における、油脂の染み出しを抑制し、流動性を高めることができる。また乳化や賦形のために従来使用されている乳タンパク質の配合量を低減できるので、アレルギーの懸念も少なく、ノンアレルギーの製品を提供することもできる。
【0028】
加工澱粉は、物理的・化学的あるいは酵素的処理を加えることによって、例えばトウモロコシ、米、小麦、豆類、ジャガイモ、タピオカなどの天然澱粉の特性を改良したものであり、加工澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムが好ましい。
【0029】
本発明の粉末油脂において、加工澱粉の含有量は、本発明の効果を得る点から、粉末油脂の全量に対して3~80質量%が好ましく、5~70質量%がより好ましく、7~60質量%が更に好ましい。その中でも、さらに流動性に優れた粉末油脂を得ることができる点から、粉末油脂の全量に対して3~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、7~20質量%が更に好ましい。
【0030】
本発明の粉末油脂において、油脂に対する加工澱粉の質量比(加工澱粉/油脂)は、0.1より大きい。この範囲であると、油脂の染み出しを抑制することができ、流動性にも優れた粉末油脂が得られる。この点を考慮すると、当該質量比は、0.11以上が好ましく、0.12以上がより好ましく、0.15以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、粉末油脂に求められる各種特性を考慮すると、1.0以下が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。
【0031】
本発明の粉末油脂は、本発明の効果を損なわない範囲内において、油脂、難消化性糖質、加工澱粉以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、難消化性糖質以外の糖質、乳タンパク質などのタンパク質もしくはその分解物、乳化剤、抗酸化剤、着色料、フレーバーなどが挙げられる。
【0032】
難消化性糖質以外の糖質としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロースなどの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、デンプンなどの多糖類などが挙げられる。難消化性糖質以外の糖質の含有量は、油脂、難消化性糖質、および加工澱粉の全量に対して60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0033】
以下に、本発明の粉末油脂の製造方法の一例について説明する。 本発明の粉末油脂は、油脂、難消化性糖質、加工澱粉を含む水中油型乳化物を調製し、その後乾燥粉末化して得ることができる。
【0034】
水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法などを用いることができる。これらの中でも、噴霧乾燥法によって得られる噴霧乾燥型粉末油脂が好ましい。
【0035】
水中油型乳化物は、難消化性糖質および加工澱粉を含む水相と、上記のような油脂を含む油相を混合して調製することができる。例えば、次の乳化工程および均質化工程によって調製することができる。
【0036】
乳化工程では、各原材料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合する。水とその他の原材料の配合比は、特に限定されないが、例えば、油脂、難消化性糖質、加工澱粉、およびその他の原材料を含む水以外の原材料の合計量100質量部に対して水50~200質量部の範囲内にすることができる。各原材料の配合手順は、特に限定されないが、例えば、難消化性糖質、加工澱粉などの水溶性成分を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは当該水溶性成分を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させた後、撹拌槽に設置されたホモミキサーなどの攪拌装置で攪拌しながら、加熱溶解させた油相成分を滴下して乳化することができる。
【0037】
均質化工程では、乳化工程において得られた乳化液を圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~250kgf/cmの程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。なお、乾燥粉末化前において加熱殺菌工程を設けてもよい。
【0038】
次に、噴霧乾燥法によって乾燥粉末化する場合には、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、粉末油脂を製造することができる。
【0039】
このような本発明の粉末油脂は水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。再溶解時の油滴のメディアン径は、例えば0.1~2.5μmであり、好ましくは、0.3~2.0μmであり、より好ましくは、0.5~1.2μmである。
【0040】
本発明の粉末油脂は、製菓製パン、スープ類、ソース類、飲料、フライバッター、スナック惣菜類、水産練り製品、畜肉製品、ミックス粉、経腸栄養剤、ゼリー、ヨーグルトなどの飲食品に配合して用いることができる。
【実施例
【0041】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)粉末油脂の作製
粉末油脂の作製に使用した原料を以下に示す。
(加工澱粉)
・オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム 日本エヌエスシー株式会社「ピュリティーガムBE」
(難消化性糖質)
・難消化性デキストリン 松谷化学工業株式会社「ファイバーソル2」 50℃における1質量%水溶液の粘度7.5mPa・s
・イソマルトデキストリン 株式会社林原「ファイバリクサ」 50℃における1質量%水溶液の粘度4mPa・s
・イヌリン フジ日本精糖株式会社「フジFF」 50℃における1質量%水溶液の粘度2.5mPa・s
・アガベイヌリン 株式会社アルマテラ「有機アガベイヌリン」 50℃における1質量%水溶液の粘度5mPa・s
・イソマルツロース 三井製糖株式会社「パラチノース」 50℃における1質量%水溶液の粘度0mPa・s
・ポリデキストロース 株式会社光洋商会「スターライトIII」 50℃における1質量%水溶液の粘度0mPa・s
・ペクチン 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社「SM-666」 50℃における1質量%水溶液の粘度13mPa・s
(デキストリン)
・松谷化学工業株式会社「パインデックス#100」
(カゼインナトリウム)
・フォンテラジャパン株式会社「SODIUM CASEINATE 180」
【0042】
上記の難消化性糖質は、水溶性物質である。水溶性物質の50℃における1質量%水溶液の粘度は、B型粘度計(東京計器株式会社)を用いて20rpmの回転数で測定した。
【0043】
また、上記の難消化性糖質について吸湿性の評価を行った。粉状の難消化性糖質を堆積した各サンプルを温度25℃、湿度75%の恒温恒湿器内で約6時間放置した。その結果、難消化性デキストリン、イソマルトデキストリンは、粉が結着しているものの、粉の状態を維持していた。これに対して、イヌリン、アガベイヌリン、ポリデキストロース、イソマルツロースは、粉の形状を保っておらず、ゴム状の物性であった。
【0044】
<粉末油脂の作製>
表1に記載の油脂を60℃に加熱し、油相とした。表1に記載の粉末油脂組成に対して等量の水(約20℃)に、表1に記載の加工澱粉と難消化性糖質(比較例1はカゼインナトリウムと難消化性糖質)を添加して60℃に加熱し、水相とした。水相と油相を混合して乳化後、圧力式ホモジナイザーを用いて150kgf/cmの圧力で均質化し、乳化液として水中油型乳化物を得た。得られた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて25ml/minの流量で噴霧乾燥し、水分が約1質量%の粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。
【0045】
(2)評価
上記において得られた粉末油脂について、以下の評価を行った。
[油脂染み出し抑制]
石油エーテル:ジエチルエーテル=1:1の比率に調整した溶剤で粉末油脂より油分を抽出し、その油分量を粉表面に近いところに存在する油脂の染み出しの指標として、以下の基準で油脂の染み出しの抑制度合を評価した。
評価基準
◎:6%未満
○:6%以上7%未満
△:7%以上8%未満
×:8%以上
【0046】
[流動性]
筒井理化学機器社製のABC粉体特性測定器を使用した。直径8cmの円盤に、上部から振動網を通して、一定の間隔でタッピングしながら粉末油脂を落とし、山の高さが最大になった時点(山が崩れる寸前)で落下を停止した。山の斜面と水平面とのなす両端の角度の平均値を安息角として算出し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:安息角49°未満
○:安息角49°以上50°未満
△:安息角50°以上51°未満
×:安息角51°以上
【0047】
上記の評価結果を表1に示す。同表の各評価において、△、○、◎は油脂染み出し抑制、流動性において基準を満たし、○、◎はより望ましい基準として示している。
【0048】
【表1】
【0049】
なお、実施例11のように油脂の含有量が20質量%以上になると、油脂の含有量が20質量%である比較例4において油脂の染み出しが顕著であるように、課題として抑制することが必要になる。比較例2ではカゼインナトリウムを使用し、比較例1ではデキストリンを使用しているが、油脂の含有量が多く、油脂の染み出しが顕著である。これに対して、表には示さないが、エゴマ油15質量%、カゼインナトリウム5質量%、デキストリン80質量%の配合で、実施例と同様の方法で作製した粉末油脂では、油脂の含有量が少なく油脂の染み出しの抑制度合は◎に相当する。
【0050】
[酸化安定性]
メトローム社の892プロフェッショナルランシマットに供して粉末油脂の酸化安定性を評価した。温度を110℃、サンプル量1質量部とし、酸化が活発に起こり始めるまでの経過時間である誘導時間を測定し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:誘導時間6時間以上
○:誘導時間4時間以上6時間未満
△:誘導時間2時間以上4時間未満
×:誘導時間2時間未満
上記の評価結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
[生産性]
表1に記載の原材料の合計量350質量部に対して同量の水を撹拌混合して水中油型乳化物を700質量部調製し、これを噴霧乾燥して粉末油脂を作製した。その際、理論的に得られる量である350質量部に対して、実際に回収できた量の割合を歩留まりとして算出し、生産性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:70%以上
○:60%以上70%未満
△:50%以上60%未満
×:50%未満
【0053】
上記の評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】