IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7190828制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム
<図1>
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図1
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図2
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図3
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図4
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図5
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図6
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図7
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図8
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図9
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図10
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図11
  • -制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】制御装置、空調システム、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20221209BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20221209BHJP
   F24F 11/76 20180101ALI20221209BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G05B11/36 501C
F24F11/64
F24F11/76
G05B11/36 K
G05B13/02 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018121669
(22)【出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2020003991
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 守
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 潤一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】大津 治夫
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-333704(JP,A)
【文献】特開平5-173605(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026054(WO,A1)
【文献】特開平9-26803(JP,A)
【文献】特開2011-34386(JP,A)
【文献】特開平7-36504(JP,A)
【文献】特開2017-93608(JP,A)
【文献】特開2013-47577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
F24F 11/64
F24F 11/76
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比例ゲインと積分時間と微分時間とを制御パラメータとする比例積分微分制御により制御対象を制御する制御装置であって、
前記制御対象の制御量を取得する制御量取得手段と、
前記制御量の目標値を取得する目標値取得手段と、
前記制御対象の起動運転時における前記制御量のオーバーシュート量を取得するオーバーシュート量取得手段と、
前記制御対象の起動時から前記制御量が前記目標値に到達するまでの到達時間を取得する到達時間取得手段と、
前記制御対象の安定運転時における前記制御量のハンチング量を取得するハンチング量取得手段と、
前記オーバーシュート量が予め定められたオーバーシュート上限値より大きいこと、前記到達時間が予め定められた目標時間より長いこと、及び前記ハンチング量が予め定められたハンチング上限値より大きいこと、の少なくとも1つを満たすとき、制御パラメータをチューニングするチューニング手段と、
前記制御量と前記目標値と前記制御パラメータとに基づいて操作量を決定し、前記操作量に基づいて前記制御対象を制御する制御手段と、
を備え、
前記チューニング手段は、前記ハンチング量が前記ハンチング上限値より大きく、前記安定運転時に前記制御量が前記目標値に到達してから前記制御量と前記目標値との差が前記ハンチング量と等しくなるまでの時間が閾値以下であるとき、比例ゲインを小さくするチューニングを行う、
制御装置。
【請求項2】
前記チューニング手段は、前記オーバーシュート量が前記オーバーシュート上限値より大きく、前記到達時間が前記目標時間以下であり、前記制御量が前記目標値に到達したときの操作量が安定運転時の操作量よりも大きいとき、積分時間を長くするチューニングを行う、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記チューニング手段は、前記オーバーシュート量が前記オーバーシュート上限値より大きく、前記到達時間が前記目標時間以下であり、前記制御量が前記目標値に到達したときの操作量が安定運転時の操作量よりも小さいとき、比例ゲインを小さくするチューニングを行う、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記チューニング手段は、前記到達時間が前記目標時間より長いとき、比例ゲインを大きくするチューニングを行う、
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記チューニング手段は、前記比例ゲインを大きくするチューニングを行ったあとさらに、積分時間を長くするチューニングを行う、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記チューニング手段は、前記比例ゲインを小さくするチューニングを行ったあとさらに、積分時間を短くするチューニングを行う、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記チューニング手段は、前記ハンチング量が前記ハンチング上限値より大きく、前記安定運転時に前記制御量が前記目標値に到達してから前記制御量と前記目標値との差が前記ハンチング量と等しくなるまでの時間が閾値より長いとき、積分時間を長くするチューニングを行う、
請求項1から6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
空調機と、請求項1から7のいずれか1項に記載の制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記空調機を前記制御対象とし、
前記制御量取得手段は、前記空調機の吹き出し空気温度を前記制御量として取得し、
前記制御手段は、前記操作量に基づいて前記空調機のアクチュエータを制御することにより前記空調機を制御する、
空調システム。
【請求項9】
比例ゲインと積分時間と微分時間とを制御パラメータとする比例積分微分制御により制御対象を制御する制御方法であって、
前記制御対象の制御量を取得する制御量取得ステップと、
前記制御量の目標値を取得する目標値取得ステップと、
前記制御対象の起動運転時における前記制御量のオーバーシュート量を取得するオーバーシュート量取得ステップと、
前記制御対象の起動時から前記制御量が前記目標値に到達するまでの到達時間を取得する到達時間取得ステップと、
前記制御対象の安定運転時における前記制御量のハンチング量を取得するハンチング量取得ステップと、
前記オーバーシュート量が予め定められたオーバーシュート上限値より大きいこと、前記到達時間が予め定められた目標時間より長いこと、及び前記ハンチング量が予め定められたハンチング上限値より大きいこと、の少なくとも1つを満たすとき、制御パラメータをチューニングするチューニングステップと、
前記制御量と前記目標値と前記制御パラメータとに基づいて前記制御対象を制御する制御ステップと、
を備え、
前記チューニングステップでは、前記ハンチング量が前記ハンチング上限値より大きく、前記安定運転時に前記制御量が前記目標値に到達してから前記制御量と前記目標値との差が前記ハンチング量と等しくなるまでの時間が閾値以下であるとき、比例ゲインを小さくするチューニングを行う、
制御方法。
【請求項10】
コンピュータに、比例ゲインと積分時間と微分時間とを制御パラメータとする比例積分微分制御により制御対象を制御させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記制御対象の制御量を取得する制御量取得ステップと、
前記制御量の目標値を取得する目標値取得ステップと、
前記制御対象の起動運転時における前記制御量のオーバーシュート量を取得するオーバーシュート量取得ステップと、
前記制御対象の起動時から前記制御量が前記目標値に到達するまでの到達時間を取得する到達時間取得ステップと、
前記制御対象の安定運転時における前記制御量のハンチング量を取得するハンチング量取得ステップと、
前記オーバーシュート量が予め定められたオーバーシュート上限値より大きいこと、前記到達時間が予め定められた目標時間より長いこと、及び前記ハンチング量が予め定められたハンチング上限値より大きいこと、の少なくとも1つを満たすとき、制御パラメータをチューニングするチューニングステップと、
前記制御量と前記目標値と前記制御パラメータとに基づいて前記制御対象を制御する制御ステップと、
を実行させ、
前記チューニングステップでは、前記ハンチング量が前記ハンチング上限値より大きく、前記安定運転時に前記制御量が前記目標値に到達してから前記制御量と前記目標値との差が前記ハンチング量と等しくなるまでの時間が閾値以下であるとき、比例ゲインを小さくするチューニングを行う、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、空調システム、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
PID(Proportional-Integral-Differential: 比例積分微分)制御において、制御パラメータをチューニングして応答性、安定性などの制御性を改善する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、操作量を一定の振幅で振動させる特殊運転を実行し、当該特殊運転中に取得した制御量に基づいて制御パラメータをチューニングする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-151521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、制御パラメータのチューニングのために特殊運転を実行する場合、特殊運転時における制御量が通常運転時における制御量と異なるという問題がある。
【0006】
例えば、空調機をPID制御により制御し、吹き出し温度を制御量とし、設定温度を制御量の目標値とする場合を考える。この場合、特殊運転時における制御量、すなわち吹き出し温度は設定温度と異なるものとなる。そのため、空調対象となる室内にいる者の快適性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、上記の事情に鑑み、特殊運転を行うことなく制御パラメータをチューニングする制御装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る制御装置は、
比例ゲインと積分時間と微分時間とを制御パラメータとする比例積分微分制御により制御対象を制御する制御装置であって、
前記制御対象の制御量を取得する制御量取得手段と、
前記制御量の目標値を取得する目標値取得手段と、
前記制御対象の起動運転時における前記制御量のオーバーシュート量を取得するオーバーシュート量取得手段と、
前記制御対象の起動時から前記制御量が前記目標値に到達するまでの到達時間を取得する到達時間取得手段と、
前記制御対象の安定運転時における前記制御量のハンチング量を取得するハンチング量取得手段と、
前記オーバーシュート量が予め定められたオーバーシュート上限値より大きいこと、前記到達時間が予め定められた目標時間より長いこと、及び前記ハンチング量が予め定められたハンチング上限値より大きいこと、の少なくとも1つを満たすとき、制御パラメータをチューニングするチューニング手段と、
前記制御量と前記目標値と前記制御パラメータとに基づいて操作量を決定し、前記操作量に基づいて前記制御対象を制御する制御手段と、
を備え、
前記チューニング手段は、前記ハンチング量が前記ハンチング上限値より大きく、前記安定運転時に前記制御量が前記目標値に到達してから前記制御量と前記目標値との差が前記ハンチング量と等しくなるまでの時間が閾値以下であるとき、比例ゲインを小さくするチューニングを行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、起動運転時及び安定運転時、つまり通常運転時の情報に基づいて制御パラメータをチューニングするので、特殊運転を行うことなく制御パラメータをチューニングできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る空調システムの構成を示す図
図2】本発明の実施の形態に係る空調機及び空調制御装置の機能的構成を示す図
図3】本発明の実施の形態に係る空調制御装置のハードウェア構成の一例を示す図
図4】本発明の実施の形態に係る空調システムにおける、制御量の変化のパターンを示す図。(a)は、チューニングが不要なパターンと、オーバーシュート量を減少させるチューニングを要するパターンとを比較した図。(b)は、チューニングが不要なパターンと、到達時間を減少させるチューニングを要するパターンとを比較した図。(c)は、チューニングが不要なパターンと、オーバーシュート量及び到達時間を減少させるチューニングを要するパターンとを比較した図
図5】本発明の実施の形態に係る空調システムにおける、目標値到達時の操作量と安定時の操作量とを比較した図。(a)は、目標値到達時の操作量が安定時の操作量より大きい場合を示す図。(b)は、目標値到達時の操作量が安定時の操作量より小さい場合を示す図
図6】本発明の実施の形態に係る空調システムにおける、オーバーシュート量と変化速度との関係を示す図
図7】本発明の実施の形態に係る空調システムにおける、到達時間と変化速度との関係を示す図
図8】本発明の実施の形態に係る空調システムにおける、ハンチング量と変化速度との関係を示す図
図9】本発明の実施の形態に係る空調制御装置における、起動運転のチューニングの動作を示すフローチャート
図10】本発明の実施の形態に係る空調制御装置における、起動運転のチューニングの動作を示すフローチャート
図11】本発明の実施の形態に係る空調制御装置における、起動運転のチューニングの動作を示すフローチャート
図12】本発明の実施の形態に係る空調制御装置における、安定運転のチューニングの動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る空調システムについて説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0012】
(実施の形態)
図1を参照しながら、実施の形態に係る空調システム1について説明する。空調システム1は、水方式を採用した空調システムである。空調システム1は、熱源機2と、一次ポンプ3と、二次ポンプ4と、空調機6と、空調制御装置10と、を備える。また、一次ポンプ3、熱源機2、二次ポンプ4及び空調機6は、水配管5によって接続されている。なお、水配管5に記された矢印は、水流の向きを示している。また、空調制御装置10は、通信線により空調機6と接続されている。
【0013】
熱源機2は、一次ポンプ3及び二次ポンプ4により循環される水から、冷水あるいは温水を生成する。熱源機2は、例えばヒートポンプ式の熱源機である。
【0014】
一次ポンプ3及び二次ポンプ4は、水方式による空調システム1において、水を循環させるために使用される。なお、二次ポンプ4は必須ではない。
【0015】
空調機6は、例えば室内に設置され、当該室内を空調する空調機である。空調機6は、例えばエアハンドリングユニットである。
【0016】
空調制御装置10は、空調機6の吹き出し空気温度を制御する制御装置である。
【0017】
空調システム1は、本発明に係る空調システムの一例である。空調機6は、本発明に係る制御対象の一例である。空調制御装置10は、本発明に係る制御装置の一例である。
【0018】
以下、理解を容易にするため、空調システム1による空調の概要、空調制御装置10による制御の概要及び空調制御装置10による制御パラメータのチューニングの概要について説明する。
【0019】
詳細は後述するが、図2に示すとおり、空調機6は、冷温水コイル61と、バルブ62と、送風機63と、温度センサ64と、を備える。また、二次ポンプ4と冷温水コイル61、冷温水コイル61とバルブ62、及びバルブ62と一次ポンプ3は、それぞれ水配管5により接続されている。
【0020】
空調システム1では、熱源機2により冷水あるいは温水を生成し、一次ポンプ3及び二次ポンプ4により水を循環させ、冷温水コイル61に冷水あるいは温水を流し、送風機63が冷温水コイル61に空気を吹き付け、冷温水コイル61周辺の空気を吹き出すことにより空調を行う。熱源機2により生成される水が冷水であれば冷房となり、熱源機2により生成される水が温水であれば暖房となる。以下、説明の簡略のため、空調は冷房であるものとし、熱源機2が生成する水は冷水であるものとして説明する。
【0021】
温度センサ64は、吹き出された空気の温度である吹き出し空気温度を検出する。空調制御装置10は、バルブ62を制御することにより冷温水コイル61に流れる水量を変化させる。冷温水コイル61に流れる水量が変化すると、冷温水コイル61周辺の空気温度も変化するため、吹き出し空気温度も変化する。吹き出し空気温度には目標値が設定されており、空調制御装置10は、吹き出し空気温度を目標値と等しくするための制御を行う。空調制御装置10は、温度センサ64により検出された吹き出し空気温度を制御量として取得し、PID制御によりバルブ62を制御する。このとき、バルブ62の開度を操作量としてPID制御を行う。
【0022】
PID制御は、比例ゲイン、積分時間及び微分時間の3つの制御パラメータに基づくフィードバック制御である。操作量をu(t)、制御量と目標値との差である偏差をe(t)、比例ゲインをK、積分時間Ti、微分時間Tdとすると、u(t)とe(t)との関係は式(1)で示される。なお、以下の説明において、微分動作は、比例動作及び積分動作に比べて影響が小さいものとする。
【0023】
【数1】
【0024】
空調制御装置10は、式(1)に基づいて、制御量と目標値との偏差から操作量を決定する。上述の通り、制御量は吹き出し空気温度であり、操作量はバルブ62の開度である。
【0025】
一方、上記の制御パラメータは、例えば経験則により定められたものであるため、適切でない場合がある。制御パラメータが適切でない場合、例えば、制御量が大きく振動するため安定性に欠ける、制御量が目標値に到達するまで長時間を要するので応答性が悪い、などの問題が生じる。
【0026】
そこで、空調制御装置10は、上述の制御パラメータをより適切な値に調整するチューニングを行う。空調制御装置10は、チューニングを行うことにより、制御の安定性及び応答性を改善することができる。
【0027】
なお、以下、空調機6の起動時から制御量が目標値に初めて到達するまでの時間を到達時間という。
【0028】
次に、図2を参照しながら、空調機6及び空調制御装置10の機能的構成を説明する。なお、上述のとおり、空調は冷房であるものとし、熱源機2が生成する水は冷水であるものとして説明する。
【0029】
上述のとおり、空調機6は、冷温水コイル61と、バルブ62と、送風機63と、温度センサ64と、を備える。
【0030】
冷温水コイル61には、熱源機2が生成した冷水が流れる。冷温水コイル61に冷水が流れると、冷温水コイル61周辺の空気が冷却される。冷温水コイル61に流れる水量は、バルブ62により調整される。流れる水量が多いほど、冷水が冷温水コイル61周辺の空気から熱を多く奪うので、冷温水コイル61周辺の空気温度は下がりやすくなる。
【0031】
バルブ62は、空調制御装置10の制御により開度を調整される。バルブ62は、例えば、アクチュエータを備え、空調制御装置10から送信される電気信号によりアクチュエータが制御され、開度を調整される。以下、これらの事象を単に「バルブ62は、空調制御装置10により開度を制御される」などと表記することがある。
【0032】
送風機63は、空調機6外の空気を吸入し、冷温水コイル61に吹き付ける。冷温水コイル61に空気が吹き付けられると、冷温水コイル61周辺の空気が、図示しない吹き出し口を通り抜けて空調機6外に吹き出される。冷温水コイル61周辺の空気は冷却されているので、送風機63の送風により冷房をすることができる、といえる。
【0033】
温度センサ64は、吹き出し空気温度を検出する。温度センサ64は、例えば吹き出し口近辺に設けられている。温度センサ64は、検出した吹き出し空気温度を示す温度情報を空調制御装置10に送信する。
【0034】
空調制御装置10は、制御量取得部100と、記憶部110と、チューニング部120と、バルブ制御部130と、を備える。また、チューニング部120は、目標値取得部121と、オーバーシュート量取得部122と、到達時間取得部123と、ハンチング量取得部124と、を備える。
【0035】
制御量取得部100は、空調機6の温度センサ64から吹き出し空気温度を取得する。吹き出し空気温度は、空調制御装置10の制御における制御量であるため、温度センサ64から吹き出し空気温度を取得することは、制御量を取得することである、といえる。以下、温度センサ64から吹き出し空気温度を取得することを、単に「制御量を取得する」などと表記することがある。制御量取得部100は、本発明に係る制御量取得手段の一例である。
【0036】
また、制御量取得部100は、取得した制御量をバルブ制御部130に出力する。バルブ制御部130は、現在の制御量と目標値との偏差に基づいてPID制御を行うので、バルブ制御部130には現在の制御量が必要となる。
【0037】
また、制御量取得部100は、取得した制御量を、取得時刻と紐付けて時系列的に記憶部110に格納する。記憶部110に格納された制御量は、後述のチューニング部120による制御パラメータのチューニングの際に必要となる。
【0038】
記憶部110には、上述のとおり、制御量取得部100が取得した制御量が取得時刻と紐付けられて時系列的に格納される。
【0039】
また、記憶部110には、後述のとおり、バルブ制御部130の操作量が時系列的に格納される。
【0040】
また、記憶部110には、吹き出し空気温度の目標値が格納されている。吹き出し空気温度の目標値は、制御量の目標値であるともいえる。以下、吹き出し空気温度の目標値あるいは制御量の目標値を単に目標値と記載することがある。
【0041】
また、記憶部110には、空調機6の起動時から制御量が目標値に到達するまでの時間の上限を定める目標時間を示す値が格納されている。この目標時間は、例えば、チューニングの必要性を判定するときに用いられる。例えば、起動時から制御量が目標値に到達するまでの時間が目標時間より長いときは、応答性が悪いと判定し、チューニングを行うことが考えられる。
【0042】
また、記憶部110には、オーバーシュート量の上限を定めるオーバーシュート上限値及びハンチング量の上限を定めるハンチング上限値が格納されている。これらの上限値は、例えば、チューニングの必要性を判定するときに用いられる。例えば、オーバーシュート量がオーバーシュート上限値を超えるとき、あるいはハンチング量がハンチング上限値を超えるとき、安定性が悪いと判定し、チューニングを行うことが考えられる。なお、以下、これらの上限値を単に「上限値」と記載することがある。
【0043】
目標値、目標時間、オーバーシュート上限値及びハンチング上限値は、例えば、予め空調制御装置10の出荷時に定められた値であってもよいし、空調システム1の管理者が設定可能なものであってもよい。なお、目標値、目標時間、オーバーシュート上限値及びハンチング上限値を設定するための構成については、説明及び図示を省略する。
【0044】
また、記憶部110には、制御パラメータ、つまり比例ゲインK、積分時間Ti及び微分時間Tdを示す値が格納されている。これらの制御パラメータは、後述のチューニング部120によるチューニングにより更新されうる。チューニングが行われるまでは、例えば、経験則に基づく値が制御パラメータの初期値として記憶部110に格納されている。
【0045】
チューニング部120は、目標値取得部121が取得した目標値と、オーバーシュート量取得部122が取得したオーバーシュート量と、到達時間取得部123が取得した到達時間と、ハンチング量取得部124が取得したハンチング量と、記憶部110に格納された操作量と、に基づいて、記憶部110に格納された制御パラメータのチューニングを行う。チューニング部120は、制御パラメータをチューニングしたら、記憶部110に格納された各パラメータを、チューニング後の値に更新する。チューニングの詳細については後述する。チューニング部120は、本発明に係るチューニング手段の一例である。
【0046】
なお、オーバーシュート量及び到達時間は起動運転における値であるのに対し、ハンチング量は安定運転時における値である。ここで、起動運転とは、空調機6の起動時から安定時までにおける運転である。安定時とは、制御量が変化しない、あるいは制御量が変化するけども変化がおおよそ周期的であるなど、制御量の変化が安定しているときである。安定運転とは、安定時における空調機6の運転である。例えば、起動運転は当然、安定運転とはいえない。また、起動運転ではなくとも、チューニング直後、大きな外乱の発生直後など、制御量の変化が安定していないときの運転も、安定運転とはいえない。
【0047】
目標値取得部121は、記憶部110に格納された目標値を取得する。目標値取得部121は、本発明に係る目標値取得手段の一例である。
【0048】
オーバーシュート量取得部122は、目標値取得部121が取得した目標値及び記憶部110に時系列的に格納された制御量に基づいて、オーバーシュート量を取得する。本実施の形態においては、空調機6の起動後に初めて制御量が目標値に到達した後に、制御量が最大でどのくらい超過したかを示す量がオーバーシュート量となる。オーバーシュート量取得部122は、本発明に係るオーバーシュート量取得手段の一例である。
【0049】
到達時間取得部123は、目標値取得部121が取得した目標値及び記憶部110に時系列的に格納された制御量に基づいて、到達時間を取得する。記憶部110に格納された制御量及び取得時刻から、制御量が目標値に初めて到達したときの時刻がわかるので、当該時刻と空調機6の起動時刻との差が到達時間となる。到達時間取得部123は、本発明に係る到達時間取得手段の一例である。
【0050】
ハンチング量取得部124は、記憶部110に時系列的に格納された制御量に基づいて、空調機6の安定運転時におけるハンチング量を取得する。本実施の形態においては、安定運転時において、制御量が目標値に到達した後に、制御量が最大でどのくらい超過したかを示す量がハンチング量となる。また、ハンチング量取得部124は、安定運転時において、制御量が目標値に到達してから制御量と目標値との差がハンチング量と等しくなるまでの時間も取得する。ハンチング量取得部124は、本発明に係るハンチング量取得手段の一例である。
【0051】
バルブ制御部130は、制御量取得部100が取得した現在の制御量と、記憶部110に格納された目標値と、記憶部110に格納された制御パラメータとに基づいて、バルブ62の開度を操作量としたPID制御を行う。バルブ制御部130は、制御量取得部100から現在の制御量を取得する。バルブ制御部130は、記憶部110から目標値を取得する。バルブ制御部130は、記憶部110から制御パラメータを取得する。バルブ制御部130は、現在の制御量と目標値との偏差e(t)と、制御パラメータである比例ゲインK、積分時間Ti及び微分時間Tdと、に基づいて、式(1)により操作量u(t)を決定する。バルブ制御部130は、操作量u(t)に基づいてバルブ62の開度を調整することにより空調機6を制御対象として制御する。バルブ制御部130は、本発明に係る制御手段の一例である。
【0052】
また、バルブ制御部130は、現在の操作量を現在時刻と紐付けて、時系列的に記憶部110に格納する。
【0053】
次に、空調制御装置10のハードウェア構成の一例について、図3を参照しながら説明する。図3に示す空調制御装置10は、例えばパーソナルコンピュータ、マイクロコントローラなどのコンピュータにより実現される。
【0054】
空調制御装置10は、バス1000を介して互いに接続された、プロセッサ1001と、メモリ1002と、インタフェース1003と、二次記憶装置1004と、を備える。
【0055】
プロセッサ1001は、例えばCPU(Central Processing Unit: 中央演算装置)である。プロセッサ1001が、二次記憶装置1004に記憶された専用プログラムをメモリ1002に読み込んで実行することにより、空調制御装置10の各機能が実現される。
【0056】
メモリ1002は、例えば、RAM(Random Access Memory)により構成される主記憶装置である。メモリ1002は、プロセッサ1001が二次記憶装置1004から読み込んだ専用プログラムを記憶する。また、メモリ1002は、プロセッサ1001が専用プログラムを実行する際のワークメモリとして機能する。
【0057】
インタフェース1003は、例えばシリアルポート、USB(Universal Serial Bus)ポートなどのI/O(Input/Output)ポートである。インタフェース1003に温度センサ64が接続されることにより、制御量取得部100の機能が実現され、インタフェース1003にバルブ62が接続されることによりバルブ制御部130の機能が実現される。
【0058】
二次記憶装置1004は、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)である。二次記憶装置1004は、プロセッサ1001が実行する専用プログラムを記憶する。また、二次記憶装置1004により、記憶部xの機能が実現される。
【0059】
図3に示すハードウェア構成においては、空調制御装置10が二次記憶装置1004を備えている。しかし、これに限らず、二次記憶装置1004を空調制御装置10の外部に設け、インタフェース1003を介して空調制御装置10と二次記憶装置1004とが接続される形態としてもよい。この形態においては、USBフラッシュドライブ、メモリカードなどのリムーバブルメディアも二次記憶装置1004として使用可能である。
【0060】
また、図3に示すハードウェア構成に代えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit: 特定用途向け集積回路)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いた専用回路により空調制御装置10を構成してもよい。また、図3に示すハードウェア構成において、空調制御装置10の機能の一部を、例えばインタフェース1003に接続された専用回路により実現してもよい。例えば、空調制御装置10の機能のうち、チューニング部120の機能及び記憶部110の機能をコンピュータにより実現し、他の機能は専用回路により実現してもよい。
【0061】
次に、図4(a)、図4(b)及び図4(c)を参照しながら、起動運転時の制御量の変化に基づくチューニングについて説明する。図4(a)、図4(b)、図4(c)のいずれも、制御量の時系列的変化を、チューニングが不要な場合とチューニングが必要な場合とで比較した図である。
【0062】
図4(a)、図4(b)、図4(c)のいずれについても、(ア)で示される実線のグラフは、チューニングが不要な場合の制御量の変化を示すものである。以下、この変化を「パターン(ア)」と呼ぶ。また、(イ)(ウ)(エ)で示される点線、一点鎖線、破線で示されるそれぞれのグラフは、チューニングが必要な場合の制御量の変化を示すものである。以下、これらの変化をそれぞれ「パターン(イ)」「パターン(ウ)」「パターン(エ)」と呼ぶ。
【0063】
パターン(ア)においては、到達時間が目標時間t_lim以下であり、かつオーバーシュート量がオーバーシュート上限値Ov_lim以下である。この場合、パターン(ア)における制御は応答性、安定性ともに良好であるといえるため、チューニングが不要である。
【0064】
図4(a)に示すパターン(イ)においては、到達時間は目標時間t_lim以下であるものの、オーバーシュート量が上限値Ov_limより大きい。したがって、安定性に欠けるといえるため、オーバーシュート量を上限値Ov_lim以下にするためのチューニングが必要となる。
【0065】
この場合、図5(a)及び図5(b)に示すとおり、目標値到達時の操作量Mv0と安定時の操作量Mv1との大小関係に応じて、さらに2つの場合に分類される。図5(a)に示す場合、つまりMv0がMv1より大きい場合、積分動作が強すぎるために大きなオーバーシュートが発生していると考えられる。したがって、積分動作を弱める、つまり積分時間を長くするチューニングを行えばよい。
【0066】
具体的な例を挙げる。目標値到達時において操作量がMv1と等しくなれば、そのまま安定し、オーバーシュートがなくなると考えられる。したがって、目標値到達時における操作量がMv1と等しくなるチューニングを行うことが考えられる。
【0067】
初期偏差をe0、到達時間をt0、チューニング前の積分時間Ti0、チューニング後の積分時間Ti1とし、式(1)に目標到達時の各値を代入すると、式(2)及び式(3)が成り立つ。なお、上述のとおり、微分動作の影響は比例動作及び積分動作に比べて小さいため、以下では微分動作が0であるものとして扱っている。
K/Ti0×1/2×e0×t0=Mv0 式(2)
K/Ti1×1/2×e0×t0=Mv1 式(3)
【0068】
そして、式(2)及び式(3)から、式(4)が成り立つ。
Ti1=Mv0/Mv1 式(4)
【0069】
したがって、パターン(イ)において、Mv0がMv1より大きい場合、例えば式(4)に基づいて積分時間Ti1をチューニングすればよい。
【0070】
次に、図5(b)に示す場合、つまりMv0がMv1以下である場合について説明する。この場合、比例動作が強すぎるために大きなオーバーシュートが発生していると考えられる。したがって、この場合、比例動作を弱める、つまり比例ゲインを小さくするチューニングを行う必要がある。ただし、比例ゲインを小さくした場合、積分動作も小さくなるため、比例ゲインをチューニングしたあと、さらに積分時間もチューニングすることが好ましい。
【0071】
具体的な例を、図6を参照しながら説明する。まず、起動時からオーバーシュート量が最大値Ovとなるまでの時間Taまでにおける、偏差の平均的な変化速度aを、式(5)により求める。
a=(e0+Ov)/Ta 式(5)
【0072】
次に、オーバーシュート量がOv_lim以下となる変化速度bを考える。また、オーバーシュート量がOv_limに等しくなる時間であるときの時間をTbとする。図6のグラフにおいて、変化速度aは座標(0,e0)と座標(Ta,-Ov)とを結ぶ線分に対応し、変化速度bは座標(0,e0)と座標(Tb,-Ov_lim)とを結ぶ線分に対応する。これらの線分の長さを等しくするTbを、式(6)に基づいて求める。これは、制御量の変化距離が等しいままチューニングを行うことに相当する。
Ta2+(e0+Ov)2=Tb2+(e0+Ov_lim)2 式(6)
【0073】
そして、式(7)により、変化速度bを求める。
b=(e0+Ov_lim)/Tb 式(7)
【0074】
チューニング前の比例ゲインをK0、チューニング後の比例ゲインをK1とすると、式(8)によりK1を求めることができる。
K1=K0×b/a 式(8)
【0075】
次に、積分時間Tiもチューニングする。Mv0がMv1より大きい場合と同様に、目標値到達時の操作量を安定時の操作量Mv1と等しくするためのチューニングを行う。比例ゲインチューニング前の目標値到達時間をt0、比例ゲインチューニング後の目標値到達時間をt1とすると、式(9)が成り立つことに注意する。
t1=t0×Tb/Ta 式(9)
【0076】
そして、積分時間チューニング後の積分時間Ti1については、式(10)が成り立つ。
K1/Ti1×1/2×e0×t1=Mv1 式(10)
【0077】
式(9)及び式(10)より、Ti1を式(11)にて求めることができる。
Ti1=K1×e0/2×Tb/Ta×t0/Mv1 式(11)
【0078】
したがって、パターン(イ)において、Mv0がMv1以下である場合、例えば式(8)に基づいて比例ゲインK1をチューニングし、式(11)に基づいて積分時間Ti1をチューニングすればよい。
【0079】
次に、図4(b)に示すパターン(ウ)の場合及び図4(c)に示すパターン(エ)の場合について説明する。詳細は後述するが、結論を先に述べると、パターン(ウ)及びパターン(エ)のいずれの場合も、比例ゲインを大きくするチューニングを行い、さらに積分時間を長くするチューニングを行う。
【0080】
パターン(ウ)においては、オーバーシュート量は上限値Ov_lim以下であるものの、到達時間が目標時間t_limより長い。したがって、応答性が悪いといえるため、到達時間をt_lim以下にするためのチューニングが必要になる。
【0081】
パターン(エ)においては、到達時間が目標時間t_limより長く、オーバーシュート量が上限値Ov_limより大きい。したがって、安定性に欠け、応答性が悪いといえるため、到達時間をt_lim以下にし、オーバーシュート量をOv_lim以下にするためのチューニングが必要になる。
【0082】
まず、到達時間をt_lim以下にするためのチューニングについて考える。到達時間がt_limより長くなるのは、比例動作が弱いためと考えられる。そのため、比例ゲインを大きくするチューニングを行う必要がある。ただし、比例ゲインを大きくした場合、積分動作も大きくなるため、比例ゲインをチューニングしたあと、さらに積分時間もチューニングすることが好ましい。
【0083】
比例ゲインのチューニングの具体例について、図7を参照しながら説明する。チューニング前の比例ゲインをK0、チューニング後の比例ゲインをK1、初期偏差をe0、チューニング前の到達時間をt0とする。チューニング後の到達時間がt_limに等しくなるチューニングを考える。チューニング前とチューニング後のそれぞれにおける変化速度a及び変化速度bに着目する。変化速度a及び変化速度bはそれぞれ式(12)及び式(13)に示すものとなる。
a=e0/t0 式(12)
b=e0/t_lim 式(13)
【0084】
変化速度と比例ゲインとの関係については、上記の式(8)が成り立つので、式(14)によりチューニング後の比例ゲインK1を求めることができる。
K1=t0/t_lim 式(14)
【0085】
次に、積分時間をチューニングすることを考える。このチューニングにおいて、例えば、パターン(イ)の場合と同様に目標値到達時における操作量を安定時の操作量Mv0と等しくするチューニングを行うことによって、パターン(エ)の場合においてもオーバーシュート量をOv_lim以下とすることができる。したがって、パターン(ウ)及びパターン(エ)のいずれの場合についても、同様のチューニングを行うことが可能である。
【0086】
具体例については、パターン(イ)における、Mv0がMv1より大きい場合と同様の考え方を採用できる。チューニング前の積分時間をTi0、チューニング後の積分時間をTi0とする。上記の式(3)と同様に、式(15)が成り立つ。そして、式(15)を変形した式(16)によりTi1を求めることができる。
K1/Ti1×1/2×e0×t_lim=Mv1 式(15)
Ti1=K1×e0/2×t_lim/Mv1 式(16)
【0087】
したがって、パターン(ウ)及びパターン(エ)においては、例えば、式(14)に基づいて比例ゲインをチューニングし、式(16)に基づいて積分時間をチューニングすればよい。
【0088】
以上、起動運転時の制御量の変化に基づくチューニングについて説明した。次に、図8を参照しながら、安定運転時の制御量の変化に基づくチューニングについて説明する。安定運転時の制御量の変化に基づくチューニングは、安定運転時に発生しているハンチングを抑えるために行われる。ハンチング量が大きすぎると、吹き出し温度の変化が大きいといえるため、室内にいる者の快適性を損なう。そのため、ハンチング量は、ハンチング上限値Ha_lim以下であることが好ましいといえる。
【0089】
図8は、ハンチング量Haが上限値Ha_limを超えていることを示している。この場合においては、ハンチング量HaをHa_lim以下とするためのチューニングが必要となる。
【0090】
具体例として、チューニング後のハンチング量をHa_limとするためのチューニングの一例を挙げる。目標値到達時から制御量の変化がHaとなるまでの時間をHfとする。また、チューニング後における、目標値到達時から制御量の変化がHa_limとなるまでの時間をHf1とする。
【0091】
チューニング前の場合において、目標値到達時から制御量の変化がHaとなるまでにおける比例動作及び積分動作については、式(17)及び式(18)によって表される。
比例動作=K0×Ha 式(17)
積分動作=K0/Ti0×Ha×Hf/2 式(18)
【0092】
比例動作と積分動作との大小を比較し、大きい方を小さくするチューニングをすればよい。式(17)及び式(18)から、Hfと2Ti0との大小を比較することにより、比例動作と積分動作との大小を比較することができる。Hf<2Ti0であれば比例動作のほうが大きく、Hf>2Ti0であれば積分動作のほうが大きい。
【0093】
まず、比例動作が積分動作より大きい、つまりHf<2Ti0である場合を考える。この場合、まず比例ゲインを小さくするチューニングを行う。そして、その後に積分時間もチューニングすることが好ましい。
【0094】
具体例を挙げる。チューニング前後における変化速度c及び変化速度dに注目する。ここでいう変化速度とは、目標値到達時から制御量の変化がHaあるいはHa_limとなるまでの間における平均的な変化速度である。変化速度c及び変化速度dは、それぞれ式(19)及び式(20)により表される。
c=Ha/Hf 式(19)
d=Ha_lim/Hf1 式(20)
【0095】
そして、図6に示す場合と同様に、変化速度cに対応する線分の長さと変化速度dに対応する線分の長さとを等しくすることを考える。すると、式(21)が成り立つので、式(21)からHf1を求めることができる。そして、式(20)よりdも求めることができる。
Hf2+Ha2=Hf12+Ha_lim2 式(21)
【0096】
そして、チューニング後の比例ゲインK1は、式(22)により求めることができる。
K1=K0×d/c 式(22)
【0097】
そして、比例ゲインのチューニングにより変動した積分動作を元に戻すために、積分時間を式(23)に基づいてチューニングする。
Ti1=K1/K0×Ti0 式(23)
【0098】
したがって、比例動作が積分動作より大きい場合においては、例えば、式(22)に基づいて比例ゲインをチューニングし、式(23)に基づいて積分時間をチューニングすればよい。
【0099】
次に、積分動作が比例動作より大きい場合、つまりHf>2Ti0である場合を考える。この場合、積分時間を長くするチューニングを行う。
【0100】
具体例を挙げる。上記の場合と同様に、チューニング前後における変化速度c及び変化速度dに注目する。なお、c及びdはこの場合、積分動作をd/c倍とすればよいので、式(24)が成り立つ。したがって、式(25)によりチューニング後の積分時間Ti1を求めることができる。
K0/Ti1=K0/Ti0×d/c 式(24)
Ti1=c/d×Ti0 式(25)
【0101】
したがって、積分動作が比例動作より大きい場合においては、例えば、式(25)に基づいて積分時間をチューニングすればよい。
【0102】
以上、安定運転時の制御量の変化に基づくチューニングについて説明した。次に、図9図10及び図11を参照しながら、空調制御装置10による、起動運転のチューニングの動作について説明する。なお、起動運転のチューニングを行うタイミングについては、チューニングに必要な情報がそろっている限り任意に選択しうる。例えば、起動運転中に行ってもよいし、安定運転中に行ってもよいし、運転終了時に行ってもよい。例えば、起動運転中に行う場合は、前回の起動運転時に取得した情報に基づいてチューニングを行うことが考えられる。
【0103】
まず、図9を参照しながら、チューニングの全体的な動作の流れを説明する。空調制御装置10のチューニング部120は、記憶部110に時系列的に格納された、制御量の履歴を取得する(ステップS101)。なお、ここでいう制御量の履歴とは、起動運転時における制御量の履歴である。例えば、起動時から、制御量の変化が安定するまでの間における制御量の履歴が該当する。
【0104】
チューニング部120の目標値取得部121は、記憶部110に格納された目標値を取得する(ステップS102)。オーバーシュート量取得部122は、制御量の履歴及び目標値に基づいて、オーバーシュート量を取得する(ステップS103)。到達時間取得部123は、制御量の履歴及び目標値に基づいて、到達時間を取得する(ステップS104)。
【0105】
チューニング部120は、記憶部110から操作量の履歴を取得し、操作量の履歴、制御量の履歴及び目標値に基づいて、目標値に到達したときの操作量と、安定時の操作量とを取得する(ステップS105)。チューニング部120は、記憶部110から目標時間を取得し、到達時間が目標時間以下であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0106】
到達時間が目標時間より長い場合(ステップS106:No)、上述のパターン(ウ)あるいはパターン(エ)に当てはまるので、チューニング部120は、パターン(ウ)及びパターン(エ)の場合のチューニングを行い(ステップS107)、チューニングの動作を終了する。
【0107】
到達時間が目標時間以下である場合(ステップS106:Yes)、チューニング部120は、記憶部110に格納されたオーバーシュート上限値を取得し、オーバーシュート量が上限値以下であるか否かを判定する(ステップS108)。
【0108】
オーバーシュート量が上限値より大きい場合(ステップS108:No)、上述のパターン(イ)に当てはまるので、チューニング部120は、パターン(イ)の場合のチューニングを行い(ステップS109)、チューニングの動作を終了する。オーバーシュート量が上限値以下である場合(ステップS108:Yes)、上述のパターン(ア)、つまりチューニングが不要な場合に当てはまるので、チューニングすることなく動作を終了する。
【0109】
図10を参照しながら、図9のステップS109における、パターン(イ)の場合のチューニングの動作について説明する。
【0110】
チューニング部120は、目標値到達時の操作量Mv0が、安定時の操作量Mv1以下であるか否かを判定する(ステップS901)。
【0111】
Mv0がMv1より大きい場合(ステップS901:No)、チューニング部120は、積分時間を長くするチューニングを行い(ステップS902)、チューニングの動作を終了する。積分時間のチューニングは、例えば、上述の式(4)に基づいて行う。
【0112】
Mv0がMv1以下である場合(ステップS901:Yes)、チューニング部120は、まず、比例ゲインを小さくするチューニングを行う(ステップS903)。比例ゲインのチューニングは、例えば、上述の式(8)に基づいて行う。続いて、チューニング部120は、積分時間を短くするチューニングを行い(ステップS904)、チューニングの動作を終了する。積分時間のチューニングは、例えば、上述の式(11)に基づいて行う。
【0113】
図11を参照しながら、図9のステップS107における、パターン(ウ)及びパターン(エ)の場合のチューニングの動作について説明する。
【0114】
チューニング部120は、まず、比例ゲインを大きくするチューニングを行う(ステップS701)。比例ゲインのチューニングは、例えば、上述の式(14)に基づいて行う。続いて、チューニング部120は、積分時間を長くするチューニングを行い(ステップS702)、チューニングの動作を終了する。積分時間のチューニングは、例えば、上述の式(16)に基づいて行う。
【0115】
以上、起動運転のチューニングについて説明した。次に、図12を参照しながら、安定運転のチューニングの動作について説明する。なお、安定運転のチューニングを行うタイミングについても、チューニングに必要な情報がそろっている限り任意に選択しうる。ただし、起動運転のチューニングを行うと記憶部110に格納された制御パラメータが更新されるので、起動運転のチューニング後に安定運転となるまで運転をし続け、当該安定運転となってから取得した情報に基づいてチューニングを行うことが好ましい。
【0116】
空調制御装置10のチューニング部120は、記憶部110に格納された制御量の履歴、目標値を取得し、チューニング部120のハンチング量取得部124は、制御量の履歴と目標値とに基づいてハンチング量を取得する(ステップS201)。なお、ここでいう制御量の履歴とは、安定運転時における制御量の履歴である。例えば、制御量の変化が安定してから一定時間経過後までの制御量の履歴が該当する。
【0117】
チューニング部120は、記憶部110に格納されたハンチング上限値を取得し、ハンチング量が上限値より大きいか否かを判定する(ステップS202)。ハンチング量が上限値以下である場合(ステップS202:No)、チューニングが不要であるため、チューニングの動作を終了する。
【0118】
ハンチング量が上限値より大きい場合(ステップS202:Yes)、チューニング部120は、制御量が目標値に到達してから制御量と目標値との偏差がハンチング量と等しくなるまでの時間Hfが閾値以下であるか否かを判定する(ステップS203)。この閾値としては、例えば、上述の式(17)及び式(18)を根拠に、2Ti0を採用する。なお、Ti0は、チューニング前における積分時間である。
【0119】
Hfが閾値より長い場合(ステップS203:No)、チューニング部120は、積分時間を長くするチューニングを行い(ステップS204)、チューニングの動作を終了する。積分時間のチューニングは、例えば、上述の式(25)に基づいて行う。
【0120】
Hfが閾値以下である場合(ステップS203:Yes)、チューニング部120は、まず、比例ゲインを小さくするチューニングを行う(ステップS205)。比例ゲインのチューニングは、例えば、上述の式(22)に基づいて行う。続いて、チューニング部120は、積分時間を短くするチューニングを行い(ステップS206)、チューニングの動作を終了する。積分時間のチューニングは、例えば、上述の式(23)に基づいて行う。
【0121】
以上、実施の形態に係る空調システム1について説明した。空調システム1によれば、特殊運転を行うことなく制御パラメータのチューニングを行うことができる。そのため、例えば、空調対象となる室内にいる者の快適性を損なうことなくチューニングを行うことができる。
【0122】
また、空調システム1によれば、実際の運転時の情報に基づいてチューニングを行うので、シミュレータを別途用意することなく簡易にチューニングを行うことができる。
【0123】
また、空調システム1によれば、起動運転の場合と安定運転の場合の双方を考慮したチューニングを行うので、精度よく制御パラメータのチューニングを行うことができる。
【0124】
(変形例)
上述の実施の形態は、空調制御装置10により、空調機6を制御対象としたPID制御を行うものであった。しかし、制御対象は、空調機に限られない。例えば、エレベータを制御対象とした制御装置についても、本発明が適用可能である。この場合、例えば、エレベータに搭載されたモータの回転数を操作量とし、エレベータの位置を制御量として制御することが考えられる。
【0125】
上述の実施の形態では、微分時間については何らチューニングを行っていない。そのため、上述の実施の形態は、微分時間が0の場合、つまりPI(Proportional-Integral: 比例積分)制御の場合についても適用可能である。したがって、本発明における比例積分微分制御には、比例積分制御も当然に含まれる。
【0126】
上述の実施の形態におけるチューニングはあくまで一例であり、本発明におけるチューニングは、これらに限定されるものではない。例えば、微分時間も考慮したチューニングを行ってもよい。また、実施の形態に記載された全ての場合においてチューニングを必ず行う必要もない。例えば、積分時間を長くするチューニングのみを行う、到達時間は考慮しない、などの形態も採用しうる。
【符号の説明】
【0127】
1 空調システム、2 熱源機、3 一次ポンプ、4 二次ポンプ、5 水配管、6 空調機、10 空調制御装置、61 冷温水コイル、62 バルブ、63 送風機、64 温度センサ、100 制御量取得部、110 記憶部、120 チューニング部、121 目標値取得部、122 オーバーシュート量取得部、123 到達時間取得部、124 ハンチング量取得部、130 バルブ制御部、1000 バス、1001 プロセッサ、1002 メモリ、1003 インタフェース、1004 二次記憶装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12