IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セーレン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】消臭性布帛および衣料
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20221209BHJP
   D06M 11/44 20060101ALI20221209BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20221209BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M11/44
D06M11/79
D06M101:06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018128967
(22)【出願日】2018-07-06
(65)【公開番号】P2020007661
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西東 祐樹
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-171449(JP,A)
【文献】特開2014-136848(JP,A)
【文献】特開2001-254263(JP,A)
【文献】特開2002-069839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む繊維からなる消臭性布帛であって、
繊維の表面に、消臭剤、皮膜形成型シリコーンおよび皮膜非形成型シリコーンが付着され、
前記消臭剤の固形分付着量(A)および前記皮膜形成型シリコーンの固形分付着量(B)の関係が、A/B=0.5~15であり、
前記皮膜形成型シリコーンの固形分付着量(B)および前記皮膜非形成型シリコーンの固形分付着量(C)の関係が、B/C=10~50の範囲である消臭性布帛。
【請求項2】
前記セルロース繊維の前記消臭性布帛に対する含有量が、50g/m以上である請求項1に記載の消臭性布帛。
【請求項3】
前記消臭性布帛の消臭性能が、アンモニアの20秒後の消臭率が50%以上、酢酸の20秒後の消臭率が50%以上である請求項1または2に記載の消臭性布帛。
【請求項4】
前記消臭性布帛の洗濯50回後の消臭性能が、アンモニアの20秒後の消臭率が50%以上、酢酸の20秒後の消臭率が50%以上である請求項3に記載の消臭性布帛。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の消臭性布帛からなる衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性布帛および衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、社会環境や生活スタイル、ユーザー意識などの変化に伴い、様々な生活の場で消臭、脱臭への要望が高まっており、それに伴って多種多様な消臭製品が開発、販売されている。その中でも人間の発汗により汗中のアンモニア、酢酸、イソ吉草酸の濃度が上昇し、汗が乾燥する際に強い悪臭を感じることが多く、衣料品や生活資材用途の関心は特に高くなっている。そのため、悪臭の原因である汗臭を消臭すること、なかでも汗臭の主原因であるアンモニア、酢酸を速やかに消臭することが求められている。
【0003】
例えば、本出願人は、速効性に優れた消臭性繊維布帛として、特許文献1を提案している。特に汗臭の主原因であるアンモニアに対しての速効性に優れた消臭効果、および吸水速乾効果を併せ持ち、さらには繰り返し洗濯しても優れた消臭効果と吸水速乾効果とを維持できるように、複合被膜層の内層が親水性樹脂からなり、複合被膜層の外層が二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物を含むバインダー樹脂からなる複合被膜層を有する消臭性布帛を提案している。しかしながら、衣料品は消費者が着用する際、週2回の着用を想定すると半年で40~50回程洗濯が行われており、実使用を想定した洗濯の後の消臭性が不足していた。また、上述の消臭試験方法は2時間後の消臭性能評価であり、さらなる速効性のある消臭性の実現を求められている。
【0004】
ところで、アンダーウェア等の衣料品や寝具には、綿や麻、リヨセル、キュプラ、レーヨン、ジアセテート、トリアセテート等のセルロース繊維が多く使用されている。このような衣料品は、洗濯して繰り返し使用されることが多く、洗濯後の消臭性を求められることが多い。そこで、本出願人は、セルロース系繊維を用いた、速い消臭速度と高い消臭率を有し、消臭率に対する優れた洗濯耐久性を有する消臭性繊維製品として、特許文献2を提案している。セルロース系繊維の表面および内部に無機多孔結晶および消臭物質が担持されてなる消臭性繊維製品である。しかしながら、洗濯後の消臭性を有するものの、加工後の生地が疎水性となるため吸水性が不足し、同時に親油性となるため、皮脂汚れを吸着しやすいという欠点があった。また、さらなる消臭速効性、洗濯後の消臭性が求められていた。
【0005】
また、特許文献3では、洗濯後の消臭性を向上するセルロース繊維自体に消臭加工を施す技術が提案されている。しかしながら、特許文献3では、エステル結合部が親油性を持つため、皮脂汚れを吸着しやすいという欠点があり、さらに繊維の消臭加工にかかる時間が長かった。また、消臭性の速効性、洗濯後のさらなる消臭性が求められていた。
このように、現状において、汗臭の主要成分であるアンモニア、酢酸に対して速効性のある消臭性を示し、洗濯後の消臭性に優れ、さらに吸水性、汚れ吸着抑制に優れた消臭性布帛はまだ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-034366号公報
【文献】国際公開WO2010/074311号
【文献】特開2012-251265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、速効性に優れた消臭性を示し、洗濯後の消臭性に優れ、さらに吸水性、汚れ吸着抑制性能に優れた消臭性布帛および衣料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の消臭性布帛は、セルロース繊維を含む繊維からなる消臭性布帛であって、繊維の表面に、消臭剤、皮膜形成型シリコーンおよび皮膜非形成型シリコーンが付着され、前記消臭剤の固形分付着量(A)および前記皮膜形成型シリコーンの固形分付着量(B)の関係が、A/B=0.5~15であり、前記皮膜形成型シリコーンの固形分付着量(B)および前記皮膜非形成型シリコーンの固形分付着量(C)の関係が、B/C=10~50の範囲である消臭性布帛である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、速効性に優れた消臭性を示し、洗濯後の消臭性に優れ、さらに吸水性、汚れ吸着抑制性能に優れた消臭性布帛および衣料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の消臭性布帛について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0011】
本発明の消臭性布帛は、セルロース繊維を含む繊維からなる消臭性布帛であって、繊維の表面に、消臭剤、皮膜形成型シリコーンおよび皮膜非形成型シリコーンが付着され、これらの付着量を特定の比率にした消臭性布帛である。本発明の消臭性布帛は、消臭剤、皮膜形成型シリコーンおよび皮膜非形成型のシリコーンが適切な比率で存在することで、速効性に優れた消臭性、洗濯後の消臭性、吸水性および汚れ吸着抑制性能を両立する。
【0012】
前記消臭剤の付着量(A)および前記皮膜形成型シリコーンの付着量(B)の関係が、固形分において、A/B=0.5~15である。A/Bが0.5以上であれば、速効性に優れた消臭性および汚れ吸着抑制性能に優れ、好ましくは、1.2以上であり、より好ましくは、1.5以上である。A/Bが15以下であれば、洗濯後の消臭性に優れ、好ましくは、5.0以下であり、より好ましくは、4.0以下である。A/Bが0.5未満であると、皮膜形成型シリコーンの付着量が相対的に多くなり、消臭成分が皮膜形成型シリコーン内部に埋没し、目的とする消臭効果を得ることができない。併せて、皮膜形成型シリコーンが多くの皮脂などの汚れを吸着してしまい、汚れ吸着抑制性能が劣る。また、A/Bが15を超えると、皮膜形成型シリコーンの付着量が相対的に少なくなり、目的とする洗濯後の消臭性が十分に得られない。
【0013】
前記皮膜形成型シリコーンの付着量(B)および前記皮膜非形成型シリコーンの付着量(C)の関係が、固形分において、B/C=1.0~50である。B/Cが1.0以上であれば、洗濯後の消臭性に優れ、好ましくは、10以上であり、より好ましくは、25以上である。B/Cが50以下であれば、吸水性に優れ、好ましくは、25以下であり、より好ましくは、23以下である。B/Cが1.0未満であると、皮膜非形成型シリコーンの付着量が相対的に多くなり、吸水性能が過剰となることで目的とする洗濯後の消臭性を得ることができない。また、B/Cが50を超えると、皮膜非形成型シリコーンの付着量が相対的に少なくなり、吸水性が十分に得られない。
【0014】
本発明に使用されるセルロース繊維としては、特に限定するものではなく、パルプ、ケナフ、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、セルローススポンジ等の再生セルロース繊維、ジアセテート、トリアセテート等の半合成セルロース繊維が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
なお、セルロース繊維には、動物性繊維や合成繊維を1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。動物性繊維の代表的な繊維として、ウール、シルク、カシミヤ等が挙げられるが、特に限定されない。合成繊維の代表的な繊維として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリウレタン系繊維等が挙げられるが、特に限定されない。混紡、混織、交撚、交織、交編等で混用される。
【0016】
セルロース繊維は、消臭性布帛中に50g/m以上含まれることが好ましく、60g/m以上含まれることが、より好ましい。セルロース繊維が50g/m以上含まれていれば、速効性に優れた消臭性、洗濯後の消臭性および吸水性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明において用いられる布帛の形態としては、特に限定されるものでなく、例えば、織物、編物、不織布が挙げられる。なお、布帛は、必要に応じて、染料や顔料により着色されたものであってもよい。
【0018】
ここで、本発明において用いられる消臭剤としては、銀、銅、鉄、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウムといった金属元素を含む金属系化合物、二酸化ケイ素、ケイ酸塩、炭化ケイ素といったケイ素系化合物、ツバキ科の植物から抽出されたカテキンやカキノキ科、ネムノキ亜科、セリ科、マツ科、バラ科、ブナ科などの植物から抽出されたタンニン等のポリフェノール類、活性炭が挙げられる。これらの中から1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、金属系化合物ならびにケイ素系化合物は洗濯後の消臭性に優れる点で好ましく、防臭性に関わる抗菌性や抗カビ性の効果を発揮する点で銀および亜鉛がより好ましく、経時変化での着色が生じない点で亜鉛がさらに好ましい。亜鉛を含む消臭剤としては、例えば、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との無定形複合物を挙げることができる。かかる無定形複合物は、例えば、ケイ酸ナトリウムの水溶液と、塩化亜鉛や硫酸亜鉛などの水溶性亜鉛化合物の水溶液とを混合して反応させて、ゲル状の二酸化ケイ素と酸化亜鉛との無定形複合物スラリーを調製し、乾燥させることにより得られる。亜鉛化合物を用いることで、アンモニア、酢酸等の悪臭成分が、亜鉛との配位結合により化学吸着され、消臭効果が発揮される。また、消臭性能を有する亜鉛を酸化物とし、二酸化ケイ素との複合物にすることで、消臭成分を活性な状態で安定化させ、消臭効果の持続性を高めることができる。さらに、吸着した悪臭成分の再放出もほとんどない。
【0019】
消臭剤の付着量としては、消臭性布帛に対して0.05~15g/m(固形分)であることが好ましい。消臭剤の付着量が0.05g/m以上であると、速効性に優れた消臭性能を得やすく、より好ましくは0.25g/m以上、さらに好ましくは0.35g/m以上である。また、消臭剤の付着量が15g/m以下であると、コストが高くなりすぎず、吸水性や風合いを保つことができ、より好ましくは12g/m以下である。
【0020】
本発明では、皮膜形成型シリコーンと皮膜非形成型シリコーンとを併用する。なお、本発明において、シリコーン成分が皮膜形成型か皮膜非形成型かを判断する方法は、以下の通りである。分散液10gをシャーレ上にとり、80℃で2時間乾燥させた後に常温とした際に、皮膜(フィルム状またはシート状)になっている場合は皮膜形成型シリコーンと判断し、それ以外は皮膜非形成型シリコーンと判断する。
【0021】
皮膜形成型シリコーンとは、乾燥させることで皮膜を形成するシリコーン分散体のことであり、例えば、反応性を有するシリコーンが挙げられるが、これに限定されるものではない。皮膜形成型シリコーンは繊維上に塗布された後に、乾燥工程によって皮膜化し、他固形物を繊維に留めるバインダーとして機能する。皮膜形成型シリコーンの付着量としては、消臭性布帛に対して0.05~12g/m(固形分)であることが好ましく、さらに好ましくは0.1~10g/mである。皮膜形成型シリコーンの付着量が0.05/m未満であると、洗濯後の消臭性が十分に得られないおそれがある。また、皮膜形成型シリコーンの付着量が12g/mを超えると、洗濯後の消臭性は十分であるが、コストが高くなりすぎるとともに、吸水性が低下するおそれや風合いが硬くなるおそれがある。
【0022】
皮膜非形成型シリコーンとは、溶液を乾燥させた後も皮膜等の固体ではなく、オイル状やゲル状となるシリコーン分散体のことであり、例えば非反応性の各種変性シリコーンやシリコーンオイルが挙げられるが、これに限定されるものではない。なかでも、吸水性が優れる面でアミノ変性シリコーンが好ましい。皮膜非形成型シリコーンは、繊維上に塗布された後、乾燥されることによって皮膜形成型シリコーンの表面および内部に取り込まれることで、吸水性、汚れ吸着抑制性能を発揮する。皮膜非形成型シリコーンの付着量としては、消臭性布帛に対して0.0015~4.5g/m(固形分)であることが好ましく、さらに好ましくは0.01~4.0g/mである。皮膜非形成型シリコーンの付着量が0.0015g/m未満であると、吸水性、汚れ吸着抑制性能が十分に得られないおそれがある。また、皮膜非形成型シリコーンの付着量が4.5g/mを超えると、吸水性能が過剰となり、洗濯後の消臭性が十分に得られないおそれがある。
【0023】
消臭剤と皮膜形成型シリコーン、皮膜非形成型シリコーンを布帛に付与し、消臭剤とシリコーンの複合物を布帛に付着させる際には、繊維加工において一般的に行われている方法を用いればよく、例えば、(1)処理液に布帛を浸漬し、80~150℃の浴中で吸尽処理する方法、(2)処理液に布帛を浸漬、またはスプレーもしくは塗布することにより、処理液を繊維布帛に含浸させた後、必要に応じて圧搾や遠心脱水等で余剰液を除去し、次いで80~180℃で熱処理して乾燥する方法を挙げることができる。なかでも、消臭剤とバインダーの複合物を繊維表面に均一に導入することが可能で、加工時間が短く、洗濯後の消臭性を有した布帛を容易に得ることができることから、(2)の方法が好ましい。
【0024】
なお、処理液は、必要に応じて紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、制電剤、抗菌抗カビ剤、防虫剤、難燃剤、pH調整剤等、他の成分を含んでいてもよく、特に限定されない。
【0025】
さらに、処理液で加工した後、消臭性以外の機能性付与を目的とした追加加工を行ってもよい。例えば、制電性や抗菌抗カビ性、難燃性、速乾性、冷温感性、風合い改良、pH調整等の機能性付与を目的とした、前記加工方法(1)(2)やタンブラー乾燥機によるリラックス加工、樹脂・金属ロールによるカレンダー加工、研磨機によるバフ加工、樹脂コーティング加工、フィルム接着加工、生地ボンディング加工等が挙げられる。
【0026】
本発明の消臭性布帛は、消臭性および洗濯後の消臭性に優れており、具体的には、消臭性布帛の洗濯前と洗濯50回後の消臭率は、アンモニアの20秒後の消臭率が50%以上、30秒後の消臭率が70%以上であり、酢酸の20秒後の消臭率が50%以上、30秒後の消臭率が70%以上である。上記範囲であれば、本発明の消臭性布帛を用いた製品を着用した際、汗臭に対する速効性に優れた消臭効果を体感することが出来る。また、アンモニアの消臭率が70%以上に到達するまでに要する時間が30秒以内であれば、着用直後より消臭効果を感じることが出来る。
【0027】
本発明の消臭性布帛は、吸水性に優れており、具体的には、JIS L1907 A法 水滴滴下法における吸水速度が40秒以内であり、20秒以内であると好ましい。40秒以内であれば、着用発汗時、吸汗までの時間が短くなり、べとつき感を低減できる。
【0028】
本発明の消臭性布帛は、汚れ吸着抑制性能があり、具体的には、後述する汚れ吸着抑制評価において汚れ吸着率10%以下である。汚れ吸着率が10%以下であると、着用で付着した皮脂等の汚れを洗濯で洗浄することができ、着用を繰り返しても製品全体が黒色等に変色することを抑制できる。
【0029】
本発明の消臭性布帛は、皮膜形成型シリコーンと非形成型シリコーンを適度な比率で存在させることで、洗濯後の消臭性、吸水性に優れ、さらに汚れ付着抑制性能にも優れる。
【実施例
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例にて得られた消臭性布帛に対する評価方法は次の通りである。
【0031】
[初期消臭性]
アンモニア、酢酸に対する消臭性を評価した。なお、一般社団法人繊維評価技術協議会によるSEKマーク繊維製品認証基準の検知管法による消臭性試験方法を参考にして測定した。
【0032】
(1)アンモニアに対する消臭性
容量500mlのガラス容器に、10cm×10cmにカットした試料を入れ、窒素ガスを用いて、アンモニア100ppmの濃度に調整したガスを注入する。アンモニアを含有するガスを注入してから20秒後および30秒後に、それぞれの容器内の残留アンモニア濃度を、気体検知管(No.3La、株式会社ガステック製)を用いて測定し、下記式により消臭率(%)を算出した。
消臭率(%)=(D-E)/D×100
D:空試験の測定値
E:試料の測定値
なお、消臭率が20秒後に50%以上、30秒後に70%以上であれば、速効性に優れた消臭性があると判断できる。
【0033】
(2)酢酸に対する消臭性
容量500mlのガラス容器に、10cm×10cmにカットした試料を入れ、窒素ガスを用いて、酢酸50ppmの濃度に調整したガスを注入する。酢酸を含有するガスを注入してから20秒後および30秒後に、それぞれの容器内の残留酢酸濃度を、気体検知管(No.81、No.6、ともに株式会社ガステック製)を用いて測定し、アンモニアに対する消臭率の算出と同様にして、消臭率を算出した。
なお、消臭率が20秒後に50%以上、30秒後に70%以上であれば速効性に優れた消臭性があると判断できる。
【0034】
[洗濯50回後の消臭性]
各試料に対して次の洗濯処理を50回実施した後、前記消臭性評価試験(1)(2)を行い、アンモニアおよび酢酸に対して洗濯後の消臭性を求めた。
なお、消臭率が20秒後に50%以上、30秒後に70%以上であれば速効性に優れた消臭性があると判断できる。
(洗濯処理)
JIS-L0217の付表1、洗い方103に規定される家庭電気洗濯機を使用し、液温40℃の水30リットルに対しJAFET標準配合洗剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを配合)40mlを溶解して洗濯液とした。この洗濯液に、布:洗濯液の浴比が1:30になるよう試料および必要に応じて負荷布を投入した。次いで、5分間洗濯した後、脱水し、常温の新しい水で2分間すすぎ洗いを行い、再度脱水、常温の新しい水で2分間すすぎ洗いし、脱水を行った。この工程を洗濯1回とした。例えば洗濯10回とはこの一連の操作を10回繰り返すことを示し、洗濯50回とはこの一連の操作を50回繰り返すことを示す。繰返し洗濯が完了した後、直射日光の影響を受けない状態でつり干しし、よく乾燥させた後に評価に用いた。
【0035】
[吸水性]
JIS L1907 A法 水滴滴下法に準拠して、測定した。
測定した吸水速度をもとに下記基準で評価した。
○:吸水速度が20秒未満
△:吸水速度が20秒以上40秒以内
×:吸水速度が40秒を超える
【0036】
[汚れ吸着抑制評価]
下準備として、10cm×10cmにカットした試料にスクアランを300μl滴下し、1時間放置した後に、先述の洗濯処理を1回実施し、80℃乾燥機で24時間乾燥させる。本試験として、ラウンドメーター(L-20、株式会社大栄科学精器製作所製)付属のステンレスポット300mlに水道水100mlと前記下準備を行った試料、5cm×5cmにカットした汚染布(No.EMPA101、EMPA社製)、直径6mmスチールボール20個、濃度0.033%の合成洗剤(花王株式会社、アタック高活性バイオEX)水溶液1gを入れ、ラウンドメーターを25℃、120分の条件で運転する。運転終了後、試料を取り出し、5分間流水ですすぎ、室内日陰で吊干しまたは平干しでよく乾燥させる。評価方法として、試料の550nm光の反射率を測色機(Color i5、X-Rite社製)で測定し、下記式により汚れ吸着率(%)を算出する。
汚れ吸着率(%)=(F-G)/F×100
F:汚れ吸着前の試料の測定値
G:汚れ吸着後の試料の測定値
測定した汚れ吸着率をもとに下記基準で評価した。
○:汚れ吸着率が10%以下
×:汚れ吸着率が10%を超える
【0037】
[使用布帛]
[布帛(1)]
117dtex/80フィラメントのキュプラ・ナイロン混繊糸と、40番手の綿糸、22dtexのポリウレタン糸を用いて、目付130g/mのベア天竺組織の丸編地を作製し、布帛(1)とした。なお、布帛(1)にはキュプラと綿との合計で、全重量の77%のセルロース繊維が含まれており、得られた編地のセルロース繊維含有量は100g/mであった。
【0038】
[布帛(2)]
40番手の綿糸、11dtexのポリウレタン糸を用いて、目付140g/mのベア天竺組織の丸編地を作製し、布帛(2)とした。なお、布帛(2)には綿が全重量の97%含まれており、得られた編地のセルロース繊維含有量は136g/mであった。
【0039】
[布帛(3)]
60番手の綿糸を用いて、目付150g/mの天竺組織の丸編地を作製し、布帛(3)とした。なお、布帛(3)は綿100%であり、得られた編地のセルロース繊維含有量は150g/mであった。
【0040】
[布帛(4)]
89dtex/81フィラメントのキュプラ・ポリエステル混繊糸と、40番手の綿糸、22dtexのポリウレタン糸を用いて、目付140g/mのベア天竺組織の丸編地を作製し、布帛(4)とした。なお、布帛(4)にはキュプラと綿との合計で、全重量の39%含まれており、得られた編地のセルロース繊維含有量は55g/mであった。
【0041】
[布帛(5)]
89dtex/81フィラメントのキュプラ・ポリエステル混繊糸と、60番手の綿糸、22dtexのポリウレタン糸を用いて、目付120g/mのベア天竺組織の丸編地を作製したものを、布帛(5)とした。なお、布帛(5)にはキュプラと綿との合計で、全重量の38%含まれており、得られた編地のセルロース繊維含有量は46g/mであった。
【0042】
[実施例1]
消臭剤(A)として、(商品名「ザオバタックNANO20」二酸化ケイ素・酸化亜鉛無定形複合物含有水分散体:平均粒径:0.5μm、大和化学工業株式会社製)と、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)として、(商品名「ネオステッカーSI」日華化学株式会社製)、皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)として、(商品名「シリコーランANS-30」ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を混合した処理液に、布帛(1)を浸漬後、圧搾率が布帛重量に対して100重量%となるように圧搾機にて圧搾し、次いで120℃で2分間熱処理して乾燥した。かくして、繊維表面に消臭剤(A)、皮脂形成型シリコーン(B)、皮脂非形成型シリコーン(C)の混合物を付着させた布帛を作製した。このとき、消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=2.0の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=18の割合になるよう設定した。なお、消臭剤(A)の付着量としては、布帛全体に対して0.68g/mであった。かくして、実施例1の消臭性布帛を得た。
【0043】
[実施例2]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=1.2の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=10の割合に設定し、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.50g/mであった以外は、実施例1と同様に布帛を処理し、実施例2の消臭性布帛を得た。
【0044】
[実施例3]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=5.0の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=25の割合に設定し、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.44g/mであった以外は、実施例1と同様に布帛を処理し、実施例3の消臭性布帛を得た。
【0045】
[参考例4]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=1.0の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=5.0の割合に設定し、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.53g/mであった以外は、実施例1と同様に布帛を処理し、参考例4の消臭性布帛を得た。
【0046】
[実施例5]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=7.5の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=32の割合に設定し、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.65g/mであった以外は、実施例1と同様に布帛を処理し、実施例5の消臭性布帛を得た。
【0047】
[実施例6]
消臭剤(A)として、(商品名「ゼオミックWSZH10NS-30」銀含有ゼオライト水分散体、平均粒径:2.0μm、株式会社シナネンゼオミック製)と、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)として、(商品名「TF-3500」北広ケミカル株式会社製)、皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)として、商品名「ソフトシリコン150」第一工業製薬株式会社製)を混合した処理液に、布帛(2)を浸漬後、圧搾率が布帛重量に対して100重量%となるように圧搾機にて圧搾し、次いで120℃で2分間熱処理して乾燥した。かくして、繊維表面に消臭剤(A)、皮脂形成型シリコーン(B)、皮脂非形成型シリコーン(C)を付着させた布帛を作製した。このとき、消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=1.5の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=14の割合になるよう設定した。なお、消臭剤(A)の付着量としては、布帛全体に対して0.74g/mであった。かくして、実施例6の消臭性布帛を得た。
【0048】
[実施例7]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=1.8の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=15の割合に設定し、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.83g/mであり、布帛(3)を使用した以外は、実施例6と同様に処理し、実施例7の消臭性布帛を得た。
【0049】
[参考例8]
消臭剤(A)として、(商品名「ザオバタックNANO20」二酸化ケイ素・酸化亜鉛無定形複合物含有水分散体:平均粒径:0.5μm、大和化学工業株式会社製)と、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)として、(商品名「TF-3500」北広ケミカル株式会社製)、皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)として、(商品名「ソフトシリコン150」第一工業製薬株式会社製)を混合した処理液に、布帛(4)を浸漬後、圧搾率が布帛重量に対して100重量%となるように圧搾機にて圧搾し、次いで120℃で2分間熱処理して乾燥した。かくして、繊維表面に消臭剤(A)、皮脂形成型シリコーン(B)、皮脂非形成型シリコーン(C)を付着させた布帛を作製した。このとき、消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン
樹脂(B)をA/B=3.0の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=9.0の割合になるよう設定した。なお、消臭剤(A)の付着量としては、布帛全体に対して0.40g/mであった。かくして、参考例8の消臭性布帛を得た。
【0050】
[実施例9]
消臭剤(A)として、(商品名「パンシルFG-60」カキノキ科抽出ポリフェノール水溶液:リリース科学工業株式会社製)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)として、(商品名「TF-3500」北広ケミカル株式会社製)、皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)として、(商品名「ソフトシリコン150」第一工業製薬株式会社製)を混合した処理液に、布帛(5)を浸漬後、圧搾率が布帛重量に対して100重量%となるように圧搾機にて圧搾し、次いで120℃で2分間熱処理して乾燥した。かくして、繊維表面に消臭剤(A)、皮脂形成型シリコーン(B)、皮脂非形成型シリコーン(C)を付着させた布帛を作製した。このとき、消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=2.5の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=16の割合になるよう設定した。なお、消臭剤(A)の付着量としては、布帛全体に対して2.1g/mであった。かくして、実施例9の消臭性布帛を得た。
【0051】
[比較例1]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=18の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=23の割合とし、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.45g/mであった以外は、実施例1と同様に布帛を処理し、比較例1の消臭性布帛を得た。
【0052】
[比較例2]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=0.7の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=0.5の割合とし、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して1.6g/mであり、布帛(4)を使用した以外は、実施例9と同様に布帛を処理し、比較例2の消臭性布帛を得た。
【0053】
[比較例3]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=0.2の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=24の割合とし、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.18g/mであった以外は、参考例8と同様に布帛を処理し、比較例3の消臭性布帛を得た。
【0054】
[比較例4]
消臭剤(A)と皮膜形成型シリコーン樹脂(B)をA/B=4.0の割合、皮膜形成型シリコーン樹脂(B)と皮膜非形成型シリコーン樹脂(C)をB/C=82の割合とし、消臭剤(A)の付着量が、布帛全体に対して0.41g/mであった以外は、参考例8と同様に布帛を処理し、比較例4の消臭性布帛を得た。
【0055】
実施例、参考例および比較例で得られた消臭性布帛について、先述の評価方法で評価した結果を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1~9の消臭性布帛は、各悪臭成分に対する消臭性、洗濯後の消臭性、吸水性、汚れ吸着抑制性能ともに優れていた。なかでも、実施例1~3、6、7の消臭性布帛は、特に速やかな消臭性を発揮した。また、洗濯による消臭性能の低下もなく、速効性が維持されていた。さらに、吸水性と汚れ吸着抑制性能も優れていた。
【0058】
一方、比較例1の消臭性布帛では、皮膜形成型シリコーンが少ないため洗濯後の消臭性が得られず、皮膜非形成型シリコーンが少ないため十分な吸水性が得られなかった。また、比較例2の消臭性布帛では、皮膜非形成型シリコーンが多いため吸水性は有しているが、洗濯後の消臭性は得られなかった。比較例3の消臭性布帛では、皮膜形成型シリコーンが相対的に多いため消臭成分が皮膜形成型シリコーン内部に埋没し、消臭性能を得ることができなかった。さらに皮膜形成型シリコーンが多いことで、汚れ吸着抑制性能も低いものとなった。比較例4の消臭性布帛では、消臭性ならびに洗濯後の消臭性は有していたが、皮膜非形成型シリコーンが少ないため十分な吸水性を得ることはできなかった。