(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】断面厚を改善した高分解能2D顕微鏡法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/36 20060101AFI20221209BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20221209BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G02B21/36
G01N21/17 610
G02B21/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018155090
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】10 2017 119 531.9
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513072123
【氏名又は名称】カール・ツァイス・マイクロスコピー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Microscopy GmbH
【住所又は居所原語表記】Carl-Zeiss-Promenade 10, 07745 Jena, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】インゴ・クレッペ
(72)【発明者】
【氏名】ヤウヘニ・ノヴィカウ
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-95745(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0228053(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015111702(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
G02B 21/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の高分解能2D走査顕微鏡の方法であって、
前記試料が、照明放射線が前記試料内又は前記試料上で集束して、ポイントにおいて回折限界照明スポットを形成するように照明放射線で照明される試料照明ステップであって、前記試料を照明放射線で照明することは、非対称性を生成するように操作されない照明点広がり関数を用いて行われる、試料照明ステップと、
前記ポイントが、空間分解表面検出器上の回折像に回折限界的に撮像される試料撮像ステップであって、
前記撮像は、光学分解能及び焦点面を含み、
前記回折像は回折構造を含み、
前記
空間分解表面検出器は、前記回折像の前記回折構造を分解する空間分解能を有し、
前記試料を撮像することは、非対称性を生成するように操作されない撮像点広がり関数を用いて行われ、
前記撮像は前記試料において断面厚を定義する、試料撮像ステップと、
前記ポイントが前記試料に相対して異なる走査位置に変位される走査ステップと、
検出データが前記
空間分解表面検出器から読み取られ、そして実際の走査位置に割り当てられる検出器読み取りステップと、
前記焦点面のz位置を固定しながら、複数の走査位置において前記試料が照明され撮像されるように、前記試料照明ステップ、前記試料撮像ステップ、及び前記走査ステップを数回繰り返すステップと、
暫定深さ分解3D像が、前記焦点面の前記固定されたz位置における前記複数の走査位置に割り当てられた前記
空間分解表面検出器の前記
検出データを使用して、三次元逆重畳プロセスにより生成される暫定3D像生成ステップと、
2D像生成ステップであって、
前記試料撮像ステップにおける前記撮像により定義される断面厚未満である所定の低断面厚を利用するまたは低断面厚を指定すること、及び
前記暫定深さ分解3D像において、前記焦点面の前記固定されたz位置の周囲の前記低断面厚に位置する試料部分のみを選択し、前記焦点面の前記固定されたz位置の周囲の前記低断面厚外にある部分を破棄すること
を含む、2D像生成ステップと、
前記検出データ及び前記割り当てられた走査位置又は前記暫定深さ分解3D像のいずれかから直接、前記選択された試料位置の2D像を生成するステップであって、前記2D像は、光学分解能を超えて増大される分解能を有する、生成するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記暫定深さ分解3D像の前記三次元逆重畳
プロセスは、複数の離散した切断面を含むように生成され、選択された部分として、前記焦点面の前記固定されたz位置に割り当てられ、又は最も近い前記切断面が使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記撮像点広がり関数及び前記照明点広がり関数は、光軸に対して対称である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記撮像点広がり関数及び前記照明点広がり関数は、光軸に対して対称である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記試料は前記照明放射線により励起して、蛍光放射線を放射する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料は前記照明放射線により励起して、蛍光放射線を放射する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記試料は前記照明放射線により励起して、蛍光放射線を放射する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記試料は前記照明放射線により励起して、蛍光放射線を放射する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
試料の高分解能2D走査顕微鏡法の顕微鏡であって、
照明放射線で前記試料を照明する照明ビーム路であって、前記照明放射線は、前記試料内又は前記試料上で集束して、ポイントにおいて回折限界照明スポットを形成し、前記照明ビーム路は、照明点広がり関数を操作する要素を有さない、照明ビーム路と、
検出データを提供する空間分解表面検出器上の回折像に前記ポイントを回折限界撮像する撮像ビーム路であって、
前記撮像ビーム路は、撮像点広がり関数を操作する要素を有さず、光学分解能及び断面厚で焦点面から前記試料を撮像し、
前記回折像は回折構造を含み、
前記
空間分解表面検出器は、前記回折像の前記回折構造を分解する空間分解能を有する、撮像ビーム路と、
前記
回折限界照明スポットの直径の半分未満の走査ステップ増分で前記試料に相対して前記ポイントを異なる走査位置に変位させる走査デバイスであって、前記走査デバイスは、前記
回折像の焦点面のz位置を固定したまま、複数の走査位置において前記試料を走査する、走査デバイスと、
前記複数の走査位置における前記検出データを読み出し、前記走査位置を前記検出データに割り当てるように構成される評価デバイスと
を備え、
前記評価デバイスは、
前記検出データ及び前記割り当てられた走査位置の三次元逆重畳を実行して、暫定深さ分解3D像を生成し、
低断面厚を指定し、又は低断面厚は、前記評価デバイスに対して予め決定され、前記低断面厚は、前記断面厚未満であり、
前記暫定深さ分解3D像において、前記焦点面の前記固定されたz位置の周囲の前記低断面厚に位置する試料部分のみを選択し、前記焦点面の前記固定されたz位置の周囲の前記低断面厚外に位置する部分を破棄し、
前記検出データ及び前記割り当てられた走査位置又は前記暫定深さ分解3D像のいずれかから直接、前記選択された試料部分のみの前記試料の2D像を生成し、上記2D像は、前記撮像ビーム路の分解能限界を超えて増大される分解能を有するように構成される、顕微鏡。
【請求項10】
前記評価デバイスは、複数の離散した切断面を含むように前記三次元逆重畳において前記暫定深さ分解3D像を生成し、選択された部分として、前記焦点面の前記固定されたz位置に割り当てられ、又は最も近い前記切断面を使用する、請求項9に記載の顕微鏡。
【請求項11】
前記撮像点広がり関数及び前記照明点広がり関数は、光軸に対して対称である、請求項9に記載の顕微鏡。
【請求項12】
前記撮像点広がり関数及び前記照明点広がり関数は、光軸に対して対称である、請求項10に記載の顕微鏡。
【請求項13】
前記照明放射線は、前記試料を励起させて、蛍光放射線を放射させるように構成される、請求項9に記載の顕微鏡。
【請求項14】
前記照明放射線は、前記試料を励起させて、蛍光放射線を放射させるように構成される、請求項10に記載の顕微鏡。
【請求項15】
前記照明放射線は、前記試料を励起させて、蛍光放射線を放射させるように構成される、請求項11に記載の顕微鏡。
【請求項16】
前記照明放射線は、前記試料を励起させて、蛍光放射線を放射させるように構成される、請求項12に記載の顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の高分解能2D走査顕微鏡の方法及び顕微鏡に関する。
【0002】
試料は、試料内又は試料上で集束して、ポイントにおいて回折限界照明スポット(diffraction-limited illumination spot)を形成するような照明放射線(illumination radiation)で照明される。ポイントは、空間分解表面検出器(spatially resolving surface detector)上の回折像に回折限界的に撮像される。表面検出器は、回折像の回折構造を分解する空間分解能を有し、撮像点広がり関数(imaging point spread function)も照明点広がり関数(illumination point spread function)も、非対称を生成するように操作されない。ポイントは、照明スポットの直径の半分未満の走査ステップ増分で試料に相対して異なる走査位置に変位される。したがって、撮像の焦点面のz位置を固定したまま、複数の走査位置が走査される。表面検出器は読み取られ、試料の2D像が、表面検出器のデータ及び上記データに割り当てられた走査位置から生成される。この2D像は、撮像の分解能限界を超えて増大される分解能を有する。
【背景技術】
【0003】
顕微鏡は、照明放射線で試料を照明する照明ビーム路(illumination beam path)を備え、照明ビーム路は、照明点広がり関数を操作する要素を有さない。空間分解表面検出器上の回折像にポイントを回折限界撮像する撮像ビーム路は、撮像点広がり関数を操作する要素を有さない。表面検出器は、回折像の回折構造を分解する空間分解能を有する。照明スポットの直径の半分未満の増分で試料に相対してポイントを異なる走査位置に変位させる走査デバイスは、像の焦点面のz位置を固定したまま、複数の走査位置を走査する。評価デバイスは、表面検出器のデータ及び上記データに割り当てられた走査位置から試料の2D像を生成する。2D像は、撮像ビーム路の分解能限界を超えて増大される分解能を有する。
【0004】
原理上、LSMを含む光学顕微鏡の光学分解能は、物理法則により回折限界(diffraction-limited)される。本明細書での「高分解能」という用語は、回折限界を超えた分解能に使用される。回折限界の克服は、例えば、欧州特許出願公開第2317362号明細書に記載されるエアリースキャン(Airyscan:登録商標)顕微鏡法として知られているものにより達成される。この文献は、文献の
図5に示され説明される実施形態において、試料の回折限界照明を表面検出器と組み合わせ、走査デバイスは、照明スポットで照明されるポイントの回折像が表面検出器上にあるように構成される。この構成は「デスキャン(de-scanned)」検出器構成と呼ばれる。これは通常、照明デバイスと照明デバイスとの結合点と試料との間のビーム路を偏向させるスキャナを構成することにより達成される。そのようなスキャナは、照明スポット及び照明スポットで照明されるポイントの撮像の両方に作用し、その結果、スキャナ後の撮像方向におけるビーム路は静的である。そのようなスキャナへの代替は、試料を変位させる可動式試料ステージの使用である。その場合、回折像はまた表面検出器上にある。欧州特許出願公開第2317362号明細書の概念では、表面検出器には、撮像スケールを参照して、回折像のオーバーサンプリングを生じさせ、したがって、回折像の構造を分解できるようにする空間分解能が提供される。
【0005】
従来の共焦点顕微鏡法では、深さ分解能は共焦点ピンホールストップ(confocal pinhole stop)のサイズと密接にリンクする。このストップは、焦点外光をフィルタリングし、光学断面を生成する。したがって、限りなく薄い光学断面への経路上で、ストップは光を大きく遮蔽するため、光損失は増大する。非常に小さな共焦点ストップの使用は実際に、非常に薄い光学断面を生成するが、信号対雑音比は非常に不良になる。
【0006】
この問題は、従来の方法(米国特許出願公開第3013467号明細書参照)で使用されるピンホールストップを2Dセンサで置換し、又はストップ平面をそのような検出器上に撮像するエアリースキャン顕微鏡法でも等しく生じる。米国特許第8705172号明細書、独国特許出願公開第102010049627号明細書、米国特許出願第2011/0267688号明細書、及びC. Muellerらによる公開物,Phys.Rev.Lett.,104,198101,2010、A.Yorkら,“Resolution doubling in live, multi-cellular organisms via multifocal Structured Illumination Microscopy”,Nature Methods, Vol.9,2012、De Lucaら,“Re-scan confocal microscopy:scanning twice for better resolution”, Biomedical Optics Express,4(11),pp.2644-2656、S.Roth,“Optical photon reassignment microscopy (OPRA)”,arXiv: 1306.6230、A. Yorkら,Nat.Methods 9,749,2012,I.Gregorら,Proc.SPIE 10071,“Single Molecule Spectroscopy and Superresolution Imaging X” 100710C,24 April 2017,doi:10.1117/12.2255891、A.Jesacherら,“Three-dimensional information from two-dimensional scans:a scanning microscope with postacquistion reforcusing capability”,Optica 2,pp.210-213,2015もこの手法に対処している。後者の公開物はz符号化深さ情報に位相マスクを使用する。
【0007】
エアリースキャン顕微鏡法では、いわゆる像スタック(image stacks)が記録され、すなわち、複数の2D像が異なる焦点面において捕捉される3D像記録が既知である。次に、これらの像スタックを3D逆重畳において使用して、深さ分解像を生成することができる。像スタックは、点広がり関数の標的改変に起因して、普通なら存在する不明確さ、すなわち、デフォーカスポイントが焦点面の上にあるか、それとも下にあるかが事前に分からないことが除去される場合、省くことができる。z改変点広がり関数を用いて、この不明確さはなくなり、3D再構築において、1つの2D像から三次元像を再構築することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、三次元像改善策がある程度、共焦点ストップサイズと光学断面厚とが結びつくという導入部に記載される問題に対処する。したがって、三次元像がまず生成され、次に、所望の切断面が三次元像から選択される。この欠点は、三次元像スタックが上手く機能しなければならないこと又は操作される点広がり関数を使用しなければならないことである。したがって、本発明の目的は、これらの2つの要件のいずれもなく、2Dエアリースキャン顕微鏡法での光学断面厚を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は請求項1~5に定義される。
【0010】
本発明は、エアリースキャン原理に従って試料の高分解能走査顕微鏡法の方法を提供する。試料は照明放射線で照明される。このステップにおいて、照明放射線は、試料内又は試料上のポイントにおいて回折限界照明スポットを形成するように集束される。このポイントは、表面検出器上の回折像に回折限界的に撮像される。表面検出器はピクセルを有し、したがって、回折像の回折構造を分解する空間分解能を有する。このポイントは、試料に相対して異なる走査位置に変位される。連続した走査位置間の増分は、照明スポットの直径未満であり、試料の各点は、異なる位置にある照明スポット及び回折像に数回、含まれる。表面検出器は読み取られる。試料の像が、取得されたデータ及び上記データに割り当てられた走査位置から生成される。像は、撮像の分解能限界を超えて増大したエアリースキャン原理に従った分解能を有する。したがって、回折限界が克服される。純粋な2D走査が実行される。
【0011】
深さ分解能を改善するために、回折像のサイズ(共焦点ストップの直径に対応する)と光学断面厚との従来の相互依存性が再び生じるため、2D像は、表面検出器のデータから直接生成されない。その代わり、複数の走査位置に関する表面検出器のデータからの三次元再構築がまず実行される。純粋な2D走査に起因して、データは焦点面の固定されたz位置から生じる。三次元再構築は既知であるが、従来は、上述した不明確さを回避するために、撮像及び/又は照明ビーム路における操作要素により特定の程度標的されて非対称になる点広がり関数においてのみ使用されてきた。そのような要素は使用されない。このため、1つの焦点面位置が操作なしで使用されたことにより、3D再構築は暫定の深さ分解3D像のみを提供する。不明確さの問題は、照明点広がり関数及び撮像点広がり関数の両方が標的されて操作されず、したがって、光軸に対して実質的に対称である(不完全な構成要素に起因して、不可避の残留非対称性がなお生じ得る。すなわち問題なのは、非標的PSF操作が行われることである)ため、存在する。この不明確さは、意図的に受け入れられる。続けて、低断面厚が指定され、又は低断面厚は予め決定されている。低断面厚は、光学撮像から生じる断面厚よりも低い。暫定深さ分解3D像から、焦点面の固定されたz位置周囲の低断面厚内に位置する部分のみが選択される。低断面厚外に位置する部分は破棄される。これらは、上述した不明確さの問題を受ける部分である。
【0012】
点広がり関数は変更されないため、実質的に対称である。この対称性は一般に、焦点面に対する対称性である。一般に、点広がり関数は、光軸に対しても対称であり、特に、回転対称である。大半の顕微鏡では、点広がり関数は砂時計形に対応し、くびれた部分は焦点面にある。撮像要素の実際の実施に起因して生じるいかなる残留非対称性も、1つの像からの三次元再構築が特異性を有する深さ分解像を生成するように標的される変更に繋がらない。既知の再構築アルゴリズムが、点広がり関数を変更せずに、焦点面の一定位置で得られた像データからの3D再構築に使用される。これらのアルゴリズムは、点広がり関数を標的操作する顕微鏡の深さ分解3D像の生成に向けて開発された。それにより、深さ分解される3D像が生成されるが、不明確さに起因して、この像は完全な3D像ではなく、アーチファクトがない3D像ではない。このため、本明細書では、同じ再構築アルゴリズムが、点広がり関数が標的され、かつ広範囲で操作される場合に提供するアーチファクトのない深さ分解3D像とこの像とを区別するために、この像は暫定深さ分解3D像と呼ばれる。
【0013】
撮像及び照明のビーム路は、例えば、Jesacherらによる公開物において説明されるような既知の深さ分解手法で必要であり使用される点広がり関数を操作し、標的される確定可能な程度の非対称性をもたらす要素を有さない。特に、ビーム路は、点広がり関数を非対称に改変し、標的されて深さに依存する非点収差レンズ又は位相マスクを含まない。
【0014】
実施形態では、三次元再構築は、複数の離散した切断面において3D像を生成する。このため、複数の離散した切断面を含むような暫定深さ分解3D像を生成する改良が好ましい。次に、焦点面の固定されたz位置に対応する切断面が、選択部分として選ばれる。
【0015】
実施形態では、照明放射線は、蛍光放射線(fluorescence radiation)の放射を励起する。これは、信号対雑音比を改善し、全体的にアルゴリズムを補強する。そして特に、低断面厚を非常に薄くすることができる。
【0016】
本方法と同様に提供される顕微鏡は、方法ステップを実行し、方法ステップに適するように実施される評価デバイスを有する。本方法と同様に、対応する顕微鏡が提供され、本顕微鏡は、上記特徴で試料を照明する照明ビーム路と、ピクセルを有する表面検出器上の回折像にポイントの回折限界撮像を行う撮像ビーム路とを備える。既に述べたように、照明ビーム路及び撮像ビーム路は、点広がり関数を非対称にする操作要素を含まず、特に、非点収差レンズ又は位相マスクは提供されない。本明細書では、操作という用語は、特に3D再構築において、焦点面の下にある層と焦点面の上にある層との間での不明確さを回避する非対称性を生み出す点広がり関数の標的影響に関連する。したがって、操作とは、焦点面の下の層が、焦点面の上にある層から明確に異なる点広がり関数を有することを意味する。そのような操作は通常、ビーム路での位相マスク及び/又は非点収差要素の使用を必要とする。
【0017】
以下の文章において、顕微鏡についての方法の態様を説明する場合、上記態様は、対応する方法ステップを実行するように構成される評価デバイスにも等しく関連する。評価デバイスは、対応するソフトウェア又は対応するプログラムコードを用いて実施されるコンピュータであり得る。逆に、顕微鏡及びその動作に基づいて説明される態様は、顕微鏡の方法に等しく関連する。
【0018】
上記特徴及び以下にこれから説明する特徴が、本発明の範囲から逸脱せずに、指定された組み合わせのみならず、他の組み合わせ又はそれら自体でも使用可能なことは言うまでもない。
【0019】
本発明について、本発明にとって重要な特徴を同様に開示する添付図面を参照して例示的な実施形態に基づいて以下により詳細に説明する。これらの例示的な実施形態は単に例示として機能し、限定として解釈されるべきではない。例として、複数の要素又は構成要素を有する例示的な実施形態の説明は、これら全ての要素又は構成要素が実施目的で必要とされる旨で解釈されるべきではない。むしろ、他の例示的な実施形態は、代替の要素及び構成要素、より少数の要素若しくは構成要素、又は追加の要素若しくは構成要素を含むこともできる。異なる例示的な実施形態の要素又は構成要素は、別段のことが示される場合を除き、互いと組み合わせることができる。例示的な実施形態の1つで説明された変更及び発展は、他の例示的な実施形態にも適用し得る。繰り返しを避けるために、様々な図での同じ要素又は対応する要素は、同じ参照符号で示され、何度も説明されない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、高分解能顕微鏡法の顕微鏡の概略図を示す。
【
図2a】
図2aは、
図1の顕微鏡の検出器のピクセルの配置の概略図を示す。
【
図2b】
図2aは、
図1の顕微鏡の検出器のピクセルの配置の概略図を示す。
【
図3】
図3は、顕微鏡法に関する信号伝搬チャートを示す。
【
図4】
図4は、高分解能共焦点顕微鏡のデータ処理の例示的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、例えば、欧州特許出願公開第2317362号明細書から既知のようないわゆるエアリースキャンの原理により、高分解能、すなわち、回折限界を超えて増大された分解能を提供する共焦点顕微鏡20を概略的に示す。共焦点顕微鏡20は、照明スポット14で試料Pを照明する光源6を有する。照明光Bは、ビーム整形手段7、ミラー8を介してビームスプリッタ9に導波される。ビームスプリッタ9は、照明光Bをできるだけ多く反射し、スキャナ10に導波するように実施される。照明光Bは、更なるビーム整形光学ユニット11及び12によりスキャナ10から対物レンズ13に導波される。対物レンズ13は、照明光Bを試料Pの照明スポット14に集束させる。
【0022】
照明スポット14において試料により生成される試料光Dは、対物レンズ13により集光され、照明光Bとは逆の経路でビームスプリッタ9に導波される。ビームスプリッタ9は、試料光Dのできるだけ多くの部分を伝達するように実施される。ビームスプリッタ9により伝達される試料光Dは、更なるフィルタ15及び更なるビーム整形光学ユニット16を介して検出器17に渡される。検出器17は試料光Dを検出し、そこから電気信号を生成し、伝導体23、24、25を介して制御・評価デバイスC、例えば、コンピュータに電気信号を渡す。このようにして、回折構造18aが示すように、回折限界である回折像18が記録される。
【0023】
試料Pの像を得るために、照明スポット14は、スキャナ10により試料Pにわたり段階的に移動する。そうして得られる段階的試料信号から、制御・評価デバイスCは、例えば、モニタを使用して提示することができる3D像を合成する。
【0024】
ここで、スキャナ10は、横方向に、すなわち、対物レンズの光軸に直交する平面に広がる二次元像を記録できるようにする。
【0025】
既に述べたように、照明ビーム路及び撮像ビーム路は、標的されて点広がり関数非対称性を作る操作要素を含まず、特に、非点収差レンズ又は位相マスクは提供されない。本明細書では、操作という用語は、特に3D再構築において、焦点面の下にある層と焦点面の上にある層との間での不明確さを回避する非対称性を生み出す点広がり関数の標的影響に関連する。したがって、標的操作とは、焦点面の下の層が、焦点面の上にある層から明確に異なる点広がり関数を有することを意味する。そのような操作は通常、ビーム路での位相マスク及び/又は非点収差要素の使用を必要とする。
【0026】
図2a及び
図2bは、共焦点顕微鏡の検出器を概略的に示す。
図2aは、1つの感度表面30を有する従来の検出器を示す。高分解能を達成するために、共焦点顕微鏡20の検出器17は、
図2bのように複数の検出要素又はピクセル31を有する。要素は付番され、例での構成は32個のピクセルを有する。
【0027】
ピクセル31のサイズは、検出器17で生成される回折像18よりもはるかに小さいように設計される。同時に、ピクセル31の数、ひいては検出器17の全表面は、回折像18の試料光Dの大部分を検出することができるように設計される。
【0028】
比較のため、
図2aは、典型的な分解能の共焦点顕微鏡で使用されるように、1つのみの要素30を有する検出器を示す。典型的な分解能という用語は、本明細書では、達成される分解能が少なくともアッベ限界(Abbe limit)に対応することを意味するものと理解されるべきである。これとは対照的に、分解能が増大された共焦点顕微鏡20では、照明及び検出は、理論上、2倍の分解能を達成することができるように一緒に機能する。実際には、回折限界に近い構造は非常に不良なコントラストでのみ伝達可能であるため、分解能の増大はいくらか低くなる。現実では、アッベ限界の最高で1.7倍の分解能を達成することができる。
【0029】
各走査点
【数1】
で、高分解能共焦点顕微鏡20の検出器17は、検出器要素31の数に対応する多くの検出信号
【数2】
を捕捉する。
【数3】
は横方向試料位置を示し、zは軸方向試料位置を示し、インデックスhは検出器要素(ピクセル)を示す。以下、説明は32個のピクセルに基づくが、異なる数のピクセルを使用することも可能である。
【0030】
検出器要素31のそれぞれは、試料Pから生の像信号(raw image signal)を捕捉し、信号
【数4】
を生成する。生の像信号は互いと異なり、差異は、各検出器要素により検出される試料領域に相対する照明光スポットの個々の横方向距離に起因する。生の像信号は、「実際」の試料像
【数5】
と各検出要素hの点広がり関数(PSF)
【数6】
との重畳により数学的に記述される。
【数7】
【0031】
評価ユニットCの機能は、試料の原本
【数8】
に可能な限り正確に対応する像
【数9】
の全て
【数10】
から再構築することである。逆重畳(DCV)及びそうして逆重畳された生の像信号の続く結合をこのために使用し、逆重畳及び結合のプロセスは、プロセス技術的に互いと統合することができる。
【0032】
図3は、信号伝搬チャートにおける全てのステップを示す。開始点は
【数11】
及び生の像信号
【数12】
である。光学系の特性から、PSFは既知である。PSFは、システムパラメータから計算することができるか、又は一度計測して記憶することができる。信号は線140、141を介して評価ユニット50に渡され、評価ユニット50は対応して、生の全ての像信号を逆重畳し、一緒に結合し、試料の原本
【数13】
に可能な限り正確に対応する試料の像
【数14】
を出力する。
【0033】
図3及び他の全ての信号伝搬チャートは、矢印140、141、151の厚さにより伝達されるデータ量を示す。32個の生の像信号
【数15】
及び32個のPSF
【数16】
がある。評価中に生成されるのは、試料の像
【数17】
であり、この像のデータ量は、生の全ての像信号のデータ量の1/32である。これは細い矢印151で象徴される。同様に、矢印に示されるのは、1つの像に対するデータ量の係数である。すなわち、生の像信号及びPSFでは//32であり、試料の像では//1である。
【0034】
破線60は、生の像信号のデータを送信しなければならない領域(region)間で共焦点顕微鏡20全体のドメイン(domain)を分ける。ここでは、ドメインLSM(レーザ走査顕微鏡)は、共焦点顕微鏡のハードウェア依存ドメイン、すなわち、ドメインPCへのデータ送信を可能にする光学系、構造、及び電子機器を含む。領域PCは、制御・評価デバイスC、ひいては共焦点顕微鏡20の制御、データの更なる処理及び表現に必要な全てを記述する。このドメインのコアは通常、パーソナルコンピュータCである。具体的な名称では、生の全ての像信号のデータはLSMからPCに送信されなければならない。このために必要なのは、強力なインターフェースであり、換言すれば、データ送信の速度は特定のインターフェースにより制限され得る。
【0035】
図4は、高分解能共焦点顕微鏡20のデータ処理の実施形態を示す。ここで、評価ユニット50aは、例えば、ウィーナーフィルタリング(Wiener filtering)として知られるものを実行する。このフィルタリングでは、空間座標で表現される生の像信号
【数18】
はまず、フーリエ変換を受け、それにより、生の像信号はここで、空間周波数座標
【数19】
で利用可能になる。同じことがPSFでも行われる。フーリエ領域に変換されたPSF
【数20】
は、物体伝達関数OTFと呼ばれる。
【0036】
50aにおける逆重畳式を理解するには、2つの様相が重要である。
(1)生の像信号は、既に上で示したように、PSF系で重畳された試料に対応する。
(2)空間領域での重畳は、フーリエ領域での乗算に対応する。すなわち、生の像信号は、フーリエ領域において試料とOTFとの積として表すことができる。
【数21】
【0037】
【数22】
の式が逆重畳式に挿入される場合、その結果は、
【数23】
であり、
【数24】
は共役複素位相を有するOTFを示し、(元の)OTFとの積は絶対二乗値を生成する。
【0038】
wは正の実数であり、本明細書ではウィーナーパラメータとして示される。ウィーナーパラメータが
【数25】
と比較して小さい場合、分数は略1になり、
【数26】
は試料の原本
【数27】
に略対応する。他方、小さすぎないwは、
【数28】
が小さい場合、位置
【数29】
における分数が発散しないことを保証する。そのような発散は、必然的に存在し、生の像信号
【数30】
において本明細書では示されないノイズを計測できないほど増大させ、生成される像
【数31】
を使用不可能にする。
【0039】
像を提示することができるように、空間周波数座標において利用可能な像
【数32】
は、逆フーリエ変換により空間領域に再び変換しなければならない。
【0040】
検出された信号
【数33】
は、検出PSF
【数34】
で重畳された励起PSF
【数35】
と物体
【数36】
との積としてモデリングすることができる。
【数37】
式中、
【数38】
は励起PSFの位置であり、
【数39】
は検出PSFの位置(カメラピクセル又はファイバ要素)である。
【0041】
2Dのケース(p
z=0,z=0)から得られるのは三次元式:
【数40】
である。
【0042】
p
x及びp
yでの(2)のフーリエ変換は
【数41】
を生成する。
【0043】
(3)における
【数42】
を
【数43】
に代入すると、
【数44】
が与えられる。
【0044】
標記を簡易化するために、x及びyがピクセルiの位置に対応すると仮定する。
【数45】
【0045】
(5)におけるzにわたる積分を離散化すると、
【数46】
が生成される。
【0046】
式(6)は、物体空間におけるz次元を測定データにおけるx-y次元に変換する。変換は全体的に、「共焦点」OTF、
【数47】
により定義される。物体空間におけるz次元は、例えば、フーリエ領域における線形回帰により再構築することができる。
【0047】
操作されないことに起因して、特に対称点広がり関数では、この三次元再構築後でのみ、焦点面に一意の解が利用可能である。したがって、この平面を問題なく選ぶことができる。焦点外平面、すなわち、所定の断面厚外であり、特に焦点面の上及び下にある平面は破棄される。一意に割り当てることがいずれの場合でも可能であるわけではない。しかしながら、本顕微鏡法は2D像を生成することができるため、これは問題ではない。フーリエ領域における線形回帰分析後にこのために選ばれるのは、取得されたzスタックの中心像である。これは以下の式に対応する。
【数48】