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特許7190851超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラム
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  • 特許-超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラム 図1
  • 特許-超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラム 図2
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  • 特許-超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラム 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
A61B8/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018171843
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020039821
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯖田 知弘
【審査官】最首 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-181363(JP,A)
【文献】特開2013-188236(JP,A)
【文献】特開2003-235845(JP,A)
【文献】特開2006-055672(JP,A)
【文献】特開2007-301181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、前記造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置であって、
所定の音圧で超音波を送信して生成された複数の前記超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する平均輝度値算出部と、
前記所定の音圧を変更して、それぞれの前記所定の音圧において算出された前記平均輝度値の時間変化に基づいて、前記造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する限界値算出部と、
送信する超音波の音圧を前記限界値以下に制限するよう制御する制御部と、
を備えることを特徴とする超音波観測装置。
【請求項2】
前記限界値算出部は、前記時間変化から算出された近似曲線に基づいて、前記限界値を算出することを特徴とする請求項1に記載の超音波観測装置。
【請求項3】
前記所定の領域は、前記超音波画像の中心を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波観測装置。
【請求項4】
前記限界値算出部は、前記所定の音圧を低音圧から高音圧に変更して、前記限界値を算出することを特徴とする請求項1に記載の超音波観測装置。
【請求項5】
前記限界値算出部は、前記時間変化に基づいて算出された特徴量と閾値との関係が所定の条件を満たした場合に、前記条件が満たされた際に送信されていた超音波の音圧の直前に送信されていた超音波の音圧を前記限界値として算出することを特徴とする請求項4に記載の超音波観測装置。
【請求項6】
複数の前記超音波画像は、フレームレートが一定の状態で撮像され、
前記限界値算出部は、前記フレームレートに応じて前記限界値を算出することを特徴とする請求項1に記載の超音波観測装置。
【請求項7】
造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、前記造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置の作動方法であって、
平均輝度値算出部が、所定の音圧で超音波を送信して生成された複数の前記超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する平均輝度値算出ステップと、
限界値算出部が、前記所定の音圧を変更して、それぞれの前記所定の音圧において算出された前記平均輝度値の時間変化に基づいて、前記造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する限界値算出ステップと、
制御部が、送信する超音波の音圧を前記限界値以下に制限するよう制御する制御ステップと、
を含むことを特徴とする超音波観測装置の作動方法。
【請求項8】
造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、前記造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置の作動プログラムであって、
平均輝度値算出部が、所定の音圧で超音波を送信して生成された複数の前記超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する平均輝度値算出ステップと、
限界値算出部が、前記所定の音圧を変更して、それぞれの前記所定の音圧において算出された前記平均輝度値の時間変化に基づいて、前記造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する限界値算出ステップと、
制御部が、送信する超音波の音圧を前記限界値以下に制限するよう制御する制御ステップと、
を超音波観測装置に実行させることを特徴とする超音波観測装置の作動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体に対して超音波を送受信して超音波画像を生成する超音波観測装置が知られている。超音波観測を行う際には、微小気泡の懸濁液である超音波用の造影剤を使用する場合がある(例えば特許文献1参照)。造影剤は、被検体に投与され、被検体内の血流等により移動しながら、超音波により微小気泡が振動、共振又は崩壊を起こすため、超音波画像において造影剤が存在する位置は輝度が高くなる。
【0003】
造影剤を用いる場合、超音波の音圧が小さい状態では、超音波により造影剤が振動又は共振し、超音波の音圧と超音波画像の輝度とが概ね比例関係にある。しかしながら、超音波の音圧が高くなり、造影剤の微小気泡が破壊される破壊音圧を超えると、造影剤の微小気泡が破壊されて減少してしまうため、急激に輝度が小さくなる。そのため、造影剤を用いた超音波観測では、破壊音圧を超えない範囲で、なるべく高い音圧で観測を行うことが好ましい。ただし、造影剤は、被検体内を移動するため、造影剤が存在する位置に応じて適切な音圧の超音波を送信することは非常に困難である。特許文献1には、音圧を時間変化させながら輝度変化曲線を求めると、破壊音圧を検出できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-5755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、音圧を時間変化させているため、造影剤の流入や流出等に起因する輝度の時間変化等の影響により、安定して輝度値を検出することができない。従って、検出した輝度値から破壊音圧を精度よく求めることができない。そのため、特許文献1の技術を用いて超音波の音圧を調整する場合、音圧を高くしすぎて造影剤が破壊されてしまう、又は必要以上に音圧を小さくして輝度が低下してしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、造影剤が破壊されず、かつ高輝度で観察することができる超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る超音波観測装置は、造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、前記造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置であって、一定の音圧で超音波を送信して生成された複数の前記超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する平均輝度値算出部と、前記平均輝度値の変化量に基づいて、前記造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する限界値算出部と、送信する超音波の音圧を前記限界値以下に制限するよう制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置は、前記限界値算出部は、前記平均輝度値の時間変化から算出された近似曲線に基づいて、前記限界値を算出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置は、前記所定の領域は、前記超音波画像の中心を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置は、前記限界値算出部は、送信する超音波の音圧を低音圧から高音圧に変更して、それぞれの音圧において算出された前記平均輝度値の変化量に基づいて、前記限界値を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置は、前記限界値算出部は、前記平均輝度値の変化量に基づいて算出された特徴量と閾値との関係が所定の条件を満たした場合に、前記条件が満たされた際に送信されていた超音波の音圧の直前に送信されていた超音波の音圧を前記限界値として算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置は、複数の前記超音波画像は、フレームレートが一定の状態で撮像され、前記限界値算出部は、前記フレームレートに応じて前記限界値を算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置の作動方法は、造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、前記造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置の作動方法であって、平均輝度値算出部が、一定の音圧で超音波を送信して生成された複数の前記超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する平均輝度値算出ステップと、限界値算出部が、前記平均輝度値の変化量に基づいて、前記造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する限界値算出ステップと、制御部が、送信する超音波の音圧を前記限界値以下に制限するよう制御する制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る超音波観測装置の作動プログラムは、造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、前記造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置の作動プログラムであって、平均輝度値算出部が、一定の音圧で超音波を送信して生成された複数の前記超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する平均輝度値算出ステップと、限界値算出部が、前記平均輝度値の変化量に基づいて、前記造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する限界値算出ステップと、制御部が、送信する超音波の音圧を前記限界値以下に制限するよう制御する制御ステップと、を超音波観測装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、造影剤が破壊されず、かつ高輝度で観察することができる超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置を備えた超音波観測システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置が行う処理の概要を示すフローチャートである。
図3図3は、図2の音圧の限界値を算出する処理の概要を示すフローチャートである。
図4図4は、超音波画像の一例を表す図である。
図5図5は、平均輝度値の算出方法の一例を説明するための図である。
図6図6は、音圧と輝度との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明に係る超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラムの実施の形態を説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。本発明は、造影モードを搭載した超音波観測装置、超音波観測装置の作動方法、及び超音波観測装置の作動プログラム一般に適用することができる。
【0018】
また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置を備えた超音波観測システムの構成を示すブロック図である。超音波観測システム1は、観測対象である被検体へ超音波を送信し、該被検体で反射された超音波を受信する超音波プローブ2と、超音波プローブ2が取得した超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波観測装置3と、超音波観測装置3が生成した超音波画像を表示する表示装置4と、を備える。超音波観測装置3は、超音波の観測モードとして、エコー信号の振幅を輝度に変換して画像を生成するBモード及び、被検体に導入された微小気泡の懸濁液である超音波用の造影剤を強調して表示する画像を生成する造影モードを選択することができる超音波観測装置である。造影剤モードでは、超音波観測装置3は、造影剤を投与した被検体に対して、超音波を送信し、造影剤で反射された超音波信号に基づいて超音波画像を生成する。
【0020】
超音波プローブ2は、その先端部に、超音波観測装置3から受信した電気的なパルス信号を超音波パルス(音響パルス)に変換して被検体へ照射するとともに、被検体で反射された超音波エコーを電圧変化で表現する電気的なエコー信号(超音波信号)に変換して出力する超音波振動子21を有する内視鏡である。超音波振動子21は、コンベックス型、リニア型、ラジアル型等の振動子により実現される。超音波プローブ2は、超音波振動子21をメカ的に走査させるものであってもよいし、超音波振動子21として複数の素子をアレイ状に設け、送受信にかかわる素子を電子的に切り替えたり、各素子の送受信に遅延をかけたりすることで、電子的に走査させるものであってもよい。
【0021】
超音波プローブ2は、通常は撮像光学系及び撮像素子を有しており、被検体の消化管(食道、胃、十二指腸、大腸)、又は呼吸器(気管、気管支)へ挿入され、消化管、呼吸器やその周囲臓器(膵臓、胆嚢、胆管、胆道、リンパ節、縦隔臓器、血管等)を撮像することが可能である。また、超音波プローブ2は、撮像時に被検体へ照射する照明光を導くライトガイドを有する。このライトガイドは、先端部が超音波プローブ2の被検体への挿入部の先端まで達している一方、基端部が照明光を発生する光源装置に接続されている。
【0022】
超音波観測装置3は、送信部31と、受信部32と、信号処理部33と、画像生成部34と、平均輝度値算出部35と、限界値算出部36と、入力部37と、制御部38と、記憶部39と、を備える。
【0023】
送信部31は、超音波プローブ2と電気的に接続され、所定の波形及び送信タイミングに基づいて高電圧パルスからなる送信信号(パルス信号)を超音波振動子21へ送信する。送信部31が送信するパルス信号の周波数帯域は、超音波振動子21におけるパルス信号の超音波パルスへの電気音響変換の線型応答周波数帯域をほぼカバーする広帯域にするとよい。また、送信部31は、制御部38が出力する各種制御信号を超音波プローブ2に対して送信する。
【0024】
受信部32は、超音波振動子21から電気的な受信信号であるエコー信号を受信して、A/D変換することによってデジタルの高周波(RF:Radio Frequency)信号のデータ(以下、RFデータという)を生成、出力する。また、受信部32は、超音波プローブ2から識別用のIDを含む各種情報を受信して制御部38へ送信する機能も有する。
【0025】
信号処理部33は、受信部32から受信したRFデータをもとにデジタルのBモード用受信データを生成する。具体的には、信号処理部33は、RFデータに対してバンドパスフィルタ、包絡線検波、対数変換など公知の処理を施し、デジタルのBモード用受信データを生成する。対数変換では、RFデータを基準電圧Vcで除した量の常用対数をとってデシベル値で表現する。信号処理部33は、生成した1フレーム分のBモード用受信データを、画像生成部34へ出力する。信号処理部33は、CPU(Central Processing Unit)や各種演算回路等を用いて実現される。
【0026】
画像生成部34は、受信部32から受信したRFデータに基づいて画像データを生成する。画像生成部34は、記憶部39に記憶されているBモード用受信データに対して、スキャンコンバーター処理、ゲイン処理、コントラスト処理等の公知の技術を用いた信号処理を行うとともに、表示装置4における画像の表示レンジに応じて定まるデータステップ幅に応じたデータの間引き等を行うことによってBモード画像データを生成する。スキャンコンバーター処理では、Bモード用受信データのスキャン方向を、超音波のスキャン方向から表示装置4の表示方向に変換する。Bモード画像は、色空間としてRGB表色系を採用した場合の変数であるR(赤)、G(緑)、B(青)の値を一致させたグレースケール画像である。
【0027】
画像生成部34は、信号処理部33からのBモード用受信データに走査範囲を空間的に正しく表現できるよう並べ直す座標変換を施した後、Bモード用受信データ間の補間処理を施すことによってBモード用受信データ間の空隙を埋め、Bモード画像データを生成する。
【0028】
平均輝度値算出部35は、一定の音圧で超音波を送信して生成された複数の超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する。なお、一定の音圧とは、超音波プローブ2から被検体に送信する超音波の音圧の指標であるMI(Mechanical Index)値を一定にした状態で超音波を送信することを意味する。
【0029】
限界値算出部36は、平均輝度値の変化量に基づいて、造影剤が破壊されない超音波の音圧の限界値を算出する。具体的には、限界値算出部36は、送信する超音波の音圧を低音圧から高音圧に変更して、それぞれの音圧において算出された平均輝度値の時間変化から導出した近似曲線の傾きが所定の閾値以下であるという条件を満たした場合に、その時点で送信されていた超音波の音圧の直前に送信されていた音圧を限界値として算出する。換言すると、限界値算出部36は、造影剤が破壊され、平均輝度値が急激に減少する破壊音圧より所定値(例えば0.1)小さい音圧を限界値として算出する。
【0030】
入力部37は、キーボード、ボタン、マウス、トラックボール、タッチパネル等のユーザインタフェースへの入力操作に基づく信号を受け付ける。入力部37は、ユーザによる造影モードの開始を指示する指示入力や、造影モードの終了を指示する指示入力を受け付ける。また、入力部37は、限界値算出部36が算出した限界値以下に音圧を制限する指示入力を受け付ける音圧制限ボタンを有する。
【0031】
制御部38は、超音波観測システム1の全体を制御する。また、制御部38は、超音波振動子21から被検体に送信する超音波の音圧を限界値算出部36が算出した限界値以下に制限するよう制御する。制御部38は、演算及び制御機能を有するCPUや各種演算回路等を用いて実現される。制御部38は、記憶部39が記憶、格納する情報を記憶部39から読み出し、超音波観測装置3の作動方法に関連した各種演算処理を実行することによって超音波観測装置3を統括して制御する。なお、制御部38を信号処理部33、画像生成部34、平均輝度値算出部35、及び限界値算出部36と共通のCPU等を用いて構成することも可能である。
【0032】
記憶部39は、超音波観測システム1を動作させるための各種プログラム、及び超音波観測システム1の動作に必要な各種パラメータ等を含むデータなどを記憶する。記憶部39は、例えば、超音波振動子21が観測する深度と超音波振動子21が各音線方向に送信するパルス繰り返し周波数との対応関係を記憶している。また、記憶部39は、予め取得した超音波信号の各音線上のサンプリング点ごとの音圧データである負音圧を記憶している。負音圧は、水中において超音波振動子21を駆動させ、超音波信号の各音線上のサンプリング点の位置に超音波受信機を配置してエコー信号を測定することにより得られる。
【0033】
また、記憶部39は、超音波観測システム1の作動方法を実行するための作動プログラムを含む各種プログラムを記憶する。作動プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。なお、上述した各種プログラムは、通信ネットワークを介してダウンロードすることによって取得することも可能である。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などによって実現されるものであり、有線、無線を問わない。
【0034】
以上の構成を有する記憶部39は、各種プログラム等が予めインストールされたROM(Read Only Memory)、及び各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を用いて実現される。
【0035】
表示装置4は、映像ケーブルを介して超音波観測装置3が生成した超音波画像のデータ信号を受信して表示する。表示装置4は、液晶又は有機EL(Electro Luminescence)等のモニタを用いて構成される。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態に係る超音波観測装置が行う処理の概要を示すフローチャートである。造影モードが開始されると、制御部38は、音圧制限ボタンが押下されたか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、制御部38は、入力部37の音圧制限ボタンが押下され、所定の信号が入力されたか否かを判定する。
【0037】
制御部38が、音圧制限ボタンが押下されていないと判定した場合(ステップS1:No)、超音波プローブ2は、超音波観測装置3による制御のもと、被検体に超音波の送受信を行い、画像生成部34は、制御部38による制御のもと、超音波画像を生成する(ステップS2)。このとき、超音波プローブ2から被検体に送信する超音波のMI値は、ユーザが設定した値であり、任意の値に設定可能である。
【0038】
その後、制御部38は、入力部37に造影モード終了の指示入力があったか否かを判定する(ステップS3)。制御部38が入力部37に造影モード終了の指示入力があったと判定した場合(ステップS3:Yes)、超音波観測装置3は一連の処理を終了する。一方、制御部38が入力部37に造影モード終了の指示入力がなかったと判定した場合(ステップS3:No)、ステップS1に戻る。
【0039】
ステップS1において、制御部38が、音圧制限ボタンが押下されたと判定した場合(ステップS1:Yes)、超音波観測装置3は、音圧の限界値を算出する(ステップS4)。
【0040】
図3は、図2の音圧の限界値を算出する処理の概要を示すフローチャートである。はじめに、制御部38は、MI値を初期値(例えば0.1)に設定する(ステップS11)。ただし、制御部38は、MI値を破壊音圧より十分低い値とすればよく、例えばMI値の初期値をゼロとしてもよい。
【0041】
続いて、超音波プローブ2は、超音波観測装置3による制御のもと、設定された音圧(0.1)で被検体に超音波を送信する(ステップS12)。
【0042】
そして、超音波プローブ2及び超音波観測装置3は、超音波の送信と受信とを繰り返し実行し、所定の枚数(N枚)の超音波画像を取得する(ステップS13)。ただし、所定の枚数は、特に限定されず、複数の超音波画像を取得すればよい。なお、所定の枚数の超音波画像を取得する間、フレームレートは一定とされている。
【0043】
その後、平均輝度値算出部35は、取得した超音波画像のそれぞれに対して、所定の領域内の平均輝度値を算出する(ステップS14)。図4は、超音波画像の一例を表す図である。図4に示すように、平均輝度値算出部35は、例えば超音波画像5の中心Cを含む所定の領域としての領域A内の平均輝度値を算出する。通常、ユーザは、観察対象を超音波画像5の中心C付近に表示させるため、中心Cを含むように所定の領域を設定することが好ましい。なお、図4には、超音波振動子21が画像の上部中央に位置するコンベックス型の超音波振動子21を用いる場合の超音波画像5を例示したが、これに限られない。また、領域Aの形状も特に限定されない。
【0044】
限界値算出部36は、平均輝度値に基づいて、近似曲線を算出する(ステップS15)。図5は、平均輝度値の算出方法の一例を説明するための図である。図5において、横軸は、取得した時系列に並べられた複数(N枚)の超音波画像のフレーム番号である。フレーム番号が小さいほど、時間的に先に撮像された超音波画像に対応する。図5に示すように、限界値算出部36は、各フレーム(F1、F2、・・・FN)の超音波画像5の平均輝度値を撮像された順に配列し、配列された点に基づいた近似曲線を算出する。
【0045】
さらに、限界値算出部36は、算出した近似曲線の傾きが閾値以下であるか否かを判定する(ステップS16)。なお、閾値については後述するが、負の値である。限界値算出部36が、算出した近似曲線の傾きが閾値以下ではないと判定した場合(ステップS16:No)、制御部38は、MI値を所定値(例えば0.02)大きくし、0.12に設定する(ステップS17)。その後、ステップS12に戻り、処理が継続される。なお、限界値算出部36は、近似曲線の傾きの平均値と閾値とを比較してもよいし、近似曲線の傾きの最大値と閾値とを比較してもよい。
【0046】
一方、限界値算出部36が、算出した近似曲線の傾きが閾値以下であると判定した場合(ステップS16:Yes)、限界値算出部36は、現在のMI値の直前のMI値を音圧の限界値として算出する(ステップS18)。具体的には、例えばMI値が0.16に設定されている状態において、限界値算出部36が、算出した近似曲線の傾きが閾値以下であると判定した場合、限界値算出部36は、現在のMI値(0.16)の直前のMI値(0.14)を音圧の限界値として算出する。
【0047】
図6は、音圧と輝度との関係を表す図である。図6は、長時間一定の音圧、一定のフレームレートで超音波画像5を生成し続けた場合の輝度値の時間変化を表している。また、図6では、線L1、線L2、線L3の順に送信する超音波の音圧が低圧から高圧に変更されている。
【0048】
図6に示すように、超音波の音圧が小さい線LI、線L2では、超音波により微小気泡が振動又は共振するため、超音波の音圧と超音波画像5の輝度とが概ね比例関係にあり、MI値が大きいほど、輝度が高い。一方で、超音波の音圧が高い線L3では、超音波の音圧が造影剤の微小気泡が破壊される破壊音圧を超えており、造影剤の微小気泡が破壊されて減少してしまうため、急激に輝度が小さくなる。超音波の音圧が破壊音圧を超えたか否かを判定するには、ごく短時間(例えば数秒程度)一定の音圧、一定のフレームレートで超音波画像5を生成し、平均輝度値が急激に減少するか否かを判定すればよい。換言すると、平均輝度値の時間変化を表す近似曲線の傾きが、負の値である閾値以下であるか(すなわち、輝度が急激に減少しているか)を判定することにより、破壊音圧を超えているかを判定することができる。具体的には、図6において、フレーム番号nまでの線L1、線L2、線L3における傾きA1(図6では線L1と重なっている)、傾きA2、傾きA3が閾値以下であるかを判定すればよい。線L3では、フレーム番号0からnまでの超音波画像を取得する期間に輝度が急激に減少するため、傾きA3が閾値以下であり、音圧が造影剤を破壊する音圧を超えていることがわかる。すなわち、図6においては、フレーム番号0からnまでの超音波画像を取得する期間に対して、造影剤が観察視野内に留まる程度に十分低い速度で移動している。そのため、超音波の音圧が高い線L3は、超音波画像を取得する度に観察視野内の造影剤の微小気泡が破壊され、輝度が減少する曲線となる。
【0049】
図2に戻り、制御部38は、超音波の音圧が限界値以下となるように超音波プローブ2を制御する(ステップS5)。そして、超音波プローブ2は、超音波観測装置3による制御のもと、超音波の音圧が限界値以下に制限された状態で被検体に超音波の送受信を行い、画像生成部34は、制御部38による制御のもと、超音波画像5を生成する(ステップS2)。より具体的には、超音波プローブ2は、超音波の音圧を限界値で送受信する。その結果、ユーザは、造影剤が破壊されず、かつ高輝度で被検体の観察を行うことができる。
【0050】
以上説明したように、実施の形態によれば、実際に超音波の送受信を行って、破壊音圧を判定し、限界値を算出しているため、被検体の特性や観察する臓器等の特性、被検体内における造影剤の位置にかかわらず、造影剤が破壊されず、かつ高輝度で被検体の観察を行うことができる。さらに、実施の形態によれば、送信する超音波の音圧を、徐々に低音圧から高音圧に変更して、各音圧が破壊音圧を超えているかを判定するため、破壊音圧を検出する過程で造影剤が破壊されることが防止されている。また、実施の形態によれば、音圧及びフレームレートを一定とした状態で、その音圧が破壊音圧を超えているかを判定しているため、造影剤の流入や流出等に起因する輝度の時間変化等の影響を受けづらい。
【0051】
なお、音圧制限ボタンが押下され、制御部38が、超音波の音圧が限界値以下となるように超音波プローブ2を制御している状態で、ユーザがフレームレートを変更した場合、限界値算出部36は、フレームレートに応じた限界値を再度算出することが好ましい。
【0052】
また、上述した実施の形態において、限界値算出部36は、近似曲線の傾きを用いて破壊音圧の判定を行ったが、近似曲線の傾きに換えて、平均輝度値の変化量に基づいて算出された他の特徴量を用いてもよい。例えば、限界値算出部36は、フレームF1~F5の平均輝度値の平均をとった値からフレームF(N-5)~FNの平均輝度値の平均をとった値を減算した値と閾値とを比較して破壊音圧を判定してもよい。
【0053】
また、超音波プローブ2は、超音波振動子21を被検体の体内に挿入する内視鏡に限られない。例えば、上述した構成を、被検体内の体表から体内に向けて超音波パルスを送信するとともに被検体の体内で反射された超音波エコーを受信してエコー信号を出力する機能を有する体外型の超音波プローブに対して適用してもよい。
【0054】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、以上のように表わしかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付のクレーム及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 超音波観測システム
2 超音波プローブ
3 超音波観測装置
4 表示装置
5 超音波画像
21 超音波振動子
31 送信部
32 受信部
33 信号処理部
34 画像生成部
35 平均輝度値算出部
36 限界値算出部
37 入力部
38 制御部
39 記憶部
A 領域
C 中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6