(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】半透膜支持体
(51)【国際特許分類】
B01D 69/10 20060101AFI20221209BHJP
D21H 17/33 20060101ALI20221209BHJP
D21H 27/00 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
B01D69/10
D21H17/33
D21H27/00 E
(21)【出願番号】P 2018184233
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野上 由理
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-101213(JP,A)
【文献】特開2016-112792(JP,A)
【文献】特開2016-029221(JP,A)
【文献】特開2013-180236(JP,A)
【文献】特開2013-180294(JP,A)
【文献】国際公開第2013/129141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 69/10
D21H 17/33-59
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主体合成繊維とバインダー合成繊維とを少なくとも含有してなる不織布からなる半透膜支持体において、該半透膜支持体の
下記記載の流れ方向(MD方向)のカールが+
10mm以上+50mm以下であることを特徴とする半透膜支持体。
流れ方向(MD方向)のカール:幅方向20cm×流れ方向20cmのサンプルを4枚採取し、半透膜支持体の塗布面を上にして平らな台の上に置き、半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定した平均値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透膜支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で、半透膜が広く用いられている。半透膜は、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の合成樹脂で構成されている。しかしながら、半透膜単体では機械的強度に劣るため、不織布や織布等の繊維基材からなる半透膜支持体の片面に半透膜が設けられた「濾過膜」の形態で使用されている。また、工業的には、ロール等の長尺状の半透膜支持体に連続的に半透膜が形成される。
【0003】
半透膜形成工程において、半透膜支持体に半透膜液を塗布した際に、幅方向に湾曲し、その後ロール搬送により凝固・洗浄槽で処理する際に不均一な半透膜が製造される問題があった。この解決手段として、抄紙流れ方向と幅方向の引張強度比を2:1~1:1とすることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、半透膜支持体に半透膜液を塗布した後に、半透膜硬化時の収縮によって、濾過膜が幅方向に湾曲し、エレメントへの加工の際に、濾過膜がラインをうまく通過することができない等の不具合が生じる問題があった。この解決手段として、1層構造であり一種類のポリエステル主体繊維からなる不織布の中層部位の有機合成繊維の熱融解の程度を、塗工面部位及び非塗工面部位の有機合成繊維の熱融解の程度より低くすることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
近年は、エレメントに組み込める濾過膜の面積を大きくし、エレメント当たりの透過水量を高めるべく、半透膜支持体の厚みを薄くすることが求められている。特許文献1及び特許文献2の技術は、半透膜支持体の厚みを薄くしていくと、半透膜形成工程で幅方向の湾曲が大きくなる場合があり、エレメント加工時に不具合が生じてしまう場合があった。
【0006】
特許文献3には、半透膜支持体の坪量を軽くして薄くした場合でも、半透膜の収縮による幅方向の湾曲を抑制して、エレメント加工時における不具合を低減する手段として、引張強度の縦横比が異なる複数の不織布シートが積層され、加熱加圧処理された状態において、半透膜との接着面を幅方向に、中央凸に湾曲させてなる半透膜支持体が記載されている。しかし、本発明の発明者が検討したところ、該半透膜支持体は幅方向にカールしているため、ロール搬送の際にロールに掛かるテンションを調整しても、該半透膜支持体の両端の湾曲を抑えることができず、半透膜液を均一に塗布することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5291274号公報
【文献】特許第5203518号公報
【文献】特開2012-135713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、半透膜形成工程やエレメント加工工程において、ロール搬送時の濾過膜の幅方向の湾曲による不具合を解消した半透膜支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、下記発明を見出した。
【0010】
主体合成繊維とバインダー合成繊維とを少なくとも含有してなる不織布からなり、下記記載の流れ方向(MD方向)のカールが+10mm以上+50mm以下であることを特徴とする半透膜支持体。
流れ方向(MD方向)のカール:幅方向20cm×流れ方向20cmのサンプルを4枚採取し、半透膜支持体の塗布面を上にして平らな台の上に置き、半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定した平均値である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半透膜支持体を用いることにより、半透膜形成工程やエレメント加工において、ロール搬送時の幅方向の湾曲による不具合を解消した濾過膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】カールがなくフラットな半透膜支持体の塗布面に半透膜液が塗布され、凝固浴中で硬化、収縮したことにより、濾過膜が幅方向に湾曲し、半透膜を内側にして幅方向(CD方向)に筒状に丸まった写真である。
【
図2】塗布面を内側にして流れ方向に湾曲した半透膜支持体の塗布面に半透膜液が塗布され、凝固浴中で硬化、収縮したことにより、半透膜支持体の流れ方向のカール成分(MD方向カール成分)と半透膜の幅方向のカール成分(CD方向カール成分)のバランスから、濾過膜が半透膜を内側にしてネジレ方向に筒状に丸まった写真である。
【
図3】半透膜支持体のMD方向カールの測定点1(半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部)を示した図である。
【
図4】半透膜支持体のMD方向カールの高さ(半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部の高さ(台との距離))を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の半透膜支持体は、海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で使用することができる。半透膜としては、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等の合成樹脂で構成された半透膜が挙げられる。半透膜支持体の片面(塗布面)に、半透膜の原料となる合成樹脂を溶かした半透膜液が塗布され、凝固浴中でゲル化された後に水洗されて、微多孔膜が形成され、半透膜支持体の塗布面に半透膜が設けられた複合体の形態(濾過膜)となる。なお、半透膜支持体の半透膜が設けられる面を「塗布面」と称し、逆面を「非塗布面」と称する。
【0014】
図1は、カールがなくフラットな半透膜支持体の塗布面に半透膜液が塗布され、凝固浴中で硬化、収縮したことにより、濾過膜が幅方向に湾曲し、半透膜を内側にして幅方向(CD方向)に筒状に丸まった写真である。
【0015】
図1のように幅方向に筒状に丸まってしまうと、ロール搬送でロールに掛かるテンションを調整しても、両端の湾曲を抑えきれず、次工程で不具合が起こりやすい。
【0016】
図2は、塗布面を内側にして流れ方向に湾曲した半透膜支持体の塗布面に半透膜液が塗布され、凝固浴中で硬化、収縮したことにより、半透膜支持体の流れ方向のカール成分(MD方向カール成分)と半透膜の幅方向のカール成分(CD方向カール成分)のバランスから、濾過膜が半透膜を内側にしてネジレ方向に筒状に丸まった写真である。
【0017】
図2のように、濾過膜のカールにMD方向カール成分が入り、濾過膜がネジレカール又はMD方向カールとなることによって、ロール搬送でのテンションコントロールにより、濾過膜の流れ方向の両端の湾曲を抑えることが容易になり、次工程での不具合が解消される。例えば、濾過膜の上に別の膜を塗布する工程で、両端まで均一な膜を塗布することができ、また、エレメント加工工程で濾過膜がラインをスムーズに通過できるため、歩留まりや作業効率が上がる。
【0018】
ロール搬送でテンションコントロールにより、濾過膜の両端の湾曲を抑えることが容易となるのは、濾過膜のカールにMD方向カール成分が入っているためである。半透膜支持体のMD方向カールが+0.5mm以上+50mm以下である該半透膜支持体の塗布面に半透膜を形成することによって、濾過膜のカールにMD方向カール成分を付与することができる。半透膜支持体のMD方向カールは、より好ましくは+5mm以上+50mm以下であり、更に好ましくは+10mm以上+50mm以下である。MD方向カールが+0.5mmより低い場合は、濾過膜のカールにMD方向カール成分が入らないため、ロール搬送でテンションコントロールを行っても、半透膜の両端の湾曲が残ってしまい、半透膜形成工程やエレメント加工工程において不具合が生じてしまう場合がある。逆に、MD方向カールが+50mmを超えた場合は、半透膜支持体の通紙の際に半透膜支持体にシワが入るなどの通紙性に問題が生じる場合や、膜が均一に塗れない場合がある。
【0019】
本発明でいう半透膜支持体の「MD方向カール」とは、幅方向20cm×流れ方向20cmのサンプルを4枚採取し、半透膜支持体の塗布面を上にして平らな台の上に置き、
図3及び
図4に示すように、半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部(測定点1)の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定した平均値である。本測定における平均値の符号は、測定点1が塗布面側に持ち上がった場合をプラス(+)とし、サンプルの中心点が測定点1より高く持ち上がった場合をマイナス(-)とする。なお、サンプルの中心点とは幅方向20cm×流れ方向20cmのサンプルの2つの対角線の交点をいう。また、平均値は、小数点以下第2位を四捨五入し、少数点以下第1位までとする。
【0020】
半透膜支持体のMD方向カールを+0.5mm以上+50mm以下にする方法として、
(I)主体合成繊維とバインダー合成繊維の配合比率の調整
(II)熱ロールによる熱圧加工条件の調整
(III)後処理の実施
等が挙げられる。(II)として、より具体的には、
(II-1)熱ロール、樹脂ロール、コットンロールの組み合わせの最適化
(II-2)熱ロールによる熱圧加工時の熱ロール温度
(II-3)ニップ前の半透膜支持体原紙と熱ロールとの接触長さ
(II-4)熱圧加工時の加工速度
をコントロールすることによって達成できる。
【0021】
本発明において、主体合成繊維は、半透膜支持体の骨格を形成する繊維である。主体合成繊維としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール(polychlal)系、フェノール系等の繊維が挙げられるが、耐熱性の高いポリエステル系の繊維が好ましい。また、半合成繊維のアセテートやトリアセテート等のセルロース誘導体、又はプロミックスや、再生繊維のレーヨン、キュプラ、リヨセル繊維、天然物由来のポリ乳酸、ポリ酪酸、ポリ琥珀酸繊維等は性能を阻害しない範囲で含有しても良い。
【0022】
主体合成繊維の繊維径は、特に限定しないが、好ましくは5~20μmであり、より好ましくは5~15μm、更に好ましくは5~13μmである。5μm未満の場合には、半透膜液が半透膜支持体に浸透し難くなって、半透膜と半透膜支持体の接着性が悪くなる場合や、ピンホールが発生しやすくなる場合がある。主体合成繊維の繊維径が20μmを超えると、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。また、半透膜支持体の表面に、主体合成繊維が立ちやすくなり、半透膜を貫通して半透膜の性能が低下する場合がある。
【0023】
主体合成繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmであり、更に好ましくは4~7mmである。主体合成繊維の断面形状は円形が好ましく、湿式抄造工程における水への分散前の繊維における断面アスペクト比(繊維断面長径/繊維断面短径)は、1.0~1.2未満であることが好ましい。繊維断面アスペクト比が1.2以上になると、繊維分散性が低下する場合や、繊維の絡まりやもつれの発生によって、不織布の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。ただし、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、表面平滑性のために、繊維分散性等の他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0024】
主体合成繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、200~2000であることが好ましく、より好ましくは200~1500であり、更に好ましくは280~1000である。アスペクト比が200未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、抄紙の際に繊維が抄紙ワイヤーから脱落する場合や、抄紙ワイヤーに繊維が刺さってワイヤーからの剥離性が悪化する場合がある。一方、2000を超えた場合、繊維の三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維の絡まりやもつれの発生によって、半透膜支持体の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0025】
本発明の半透膜支持体は、バインダー合成繊維を含有している。バインダー合成繊維の軟化点又は溶融温度(融点)以上まで温度を上げる工程を、半透膜支持体の製造方法に組み入れることで、バインダー合成繊維が半透膜支持体の強度を向上させることができる。この温度を上げる工程において、主体合成繊維は軟化又は溶融しにくく、断面形状が変化することはあるものの、繊維としての形状が損なわれることがなく、主体繊維として、半透膜支持体の骨格を形成する。例えば、不織布を湿式抄造法で製造した後の乾燥工程や熱圧加工の際に、バインダー合成繊維を軟化又は溶融させることができる。
【0026】
バインダー合成繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維等の複合繊維、未延伸繊維等が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、半透膜支持体の空間を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、半透膜支持体の乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。本発明においては、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステルの未延伸繊維を好ましく用いることができる。
【0027】
バインダー合成繊維の繊維径は特に限定されないが、好ましくは5~15μmであり、より好ましくは6~14μmであり、更に好ましくは7~13μmである。5μm未満の場合には、半透膜液が半透膜支持体に浸透し難くなって、半透膜と半透膜支持体の接着性が悪くなる場合や、ピンホールが発生しやすくなる場合がある。バインダー合成繊維の繊維径が15μmを超えると、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。バインダー合成繊維の軟化温度又は溶融温度以上まで温度を上げる工程では、半透膜支持体表面の平滑性を向上させることができ、該工程では加圧が伴っているとより効果的である。
【0028】
バインダー合成繊維の繊維長は、特に限定しないが、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmであり、更に好ましくは4~7mmである。バインダー合成繊維の断面形状は円形が好ましいが、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、塗布面の平滑性、非塗布面同士の接着性のために、他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0029】
バインダー合成繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、200~2000であることが好ましく、より好ましくは200~1500であり、更に好ましくは300~1000である。アスペクト比が200未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、抄紙の際に繊維が抄紙ワイヤーから脱落する恐れや、抄紙ワイヤーに繊維が刺さってワイヤーからの剥離性が悪化する恐れがある。一方、2000を超えた場合、バインダー合成繊維は三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維が絡まる恐れや、もつれの発生によって、不織布の均一性や塗布面の平滑性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0030】
本発明の半透膜支持体に係わる不織布に対するバインダー合成繊維の含有量は、不織布を構成する全繊維に対して、20~40質量%が好ましく、23~37質量%がより好ましく、25~35質量%が更に好ましい。バインダー合成繊維の含有量が20質量%未満の場合、強度不足により破れる恐れがある。また、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。40質量%を超えた場合、熱圧加工時にフィルム化が進み、気泡が半透膜支持体の非塗布面側にスムーズに抜けることができず、ピンホールが発生しやすくなる場合や、通液性が低下する恐れがある。半透膜支持体が2層以上の多層構造の不織布からなる場合は、非塗布面側の層に含有するバインダー合成繊維の比率を塗布面側の層に含有するバインダー合成繊維の比率より高くすることが好ましい。
【0031】
本発明の半透膜支持体の製造方法について説明する。本発明の半透膜支持体は、湿式抄造法によって半透膜支持体原紙が作製された後に、この半透膜支持体原紙が熱ロールによって熱圧加工される。
【0032】
湿式抄造法では、まず、少なくとも主体合成繊維とバインダー合成繊維を均一に水中に分散させ、その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を通り、最終の繊維濃度を0.01~0.50質量%に調製されたスラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。繊維の分散性を均一にするために、工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0033】
抄紙方式としては、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー式等の抄紙方式を用いることができる。これらの抄紙方式の群から選ばれる少なくとも一つの抄紙方式を有する抄紙機、これらの抄紙方式の群から選ばれる同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用することができる。また、2層以上の多層構造の不織布を製造する場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する抄き合わせ法や、一方のシートを形成した後に、該シートの上に繊維を分散したスラリーを流延する方法等を用いることができる。
【0034】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することによって、半透膜支持体原紙を得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押し付けて乾燥させることをいう。熱ロールの表面温度は、100~180℃が好ましく、105~170℃がより好ましく、110~160℃が更に好ましい。湿紙の熱ロールへの押し付け圧力は、300~1000N/cmが好ましく、300~800N/cmがより好ましい。
【0035】
次に、熱ロールによる熱圧加工について説明するが、本発明は下記のものに特定されない。熱圧加工装置(カレンダー装置)のロール間をニップしながら、半透膜支持体原紙を通過させて熱圧加工を行う。
【0036】
ロールの組み合わせとしては、2本の金属ロール、金属ロールと樹脂ロール、金属ロールとコットンロール等が挙げられる。熱ロールによる熱圧加工は2回以上行うことも可能であり、その場合、直列に配置された2組以上の上記のロール組み合わせを使用しても良いし、1組のロール組み合わせを用いて、2回以上加工しても良い。必要に応じて、半透膜支持体原紙の表裏を逆にしても良い。ロールの組み合わせでは、2本の金属ロールの組み合わせと金属ロールとコットンロールの組み合わせが好ましい。
【0037】
ニップ前の半透膜支持体原紙と熱ロールとの接触長さは、好ましくは0~80cmであり、より好ましくは0~70cmである。80cmを超える場合、気泡が半透膜支持体の非塗布面側にスムーズに抜けることができず、ピンホールが発生しやすくなる場合がある。半透膜支持体の製造時に、該半透膜支持体原紙に熱圧加工処理を2回以上行い、1回目に加熱ロールと接する面を塗布面とする場合には、2回目の加熱ロールとの接触長さを1回目の加熱ロールの接触長さより10cm~20cm長くすることが好ましい。
【0038】
熱ロールの表面温度は、好ましくは150~250℃であり、半透膜支持体を構成する繊維の種類によって適宜調整する。水処理膜用途として主に使用されるポリエステル系繊維においては、熱ロールの表面温度は200~250℃が好ましく、205~245℃がより好ましい。150℃未満の場合、不織布の表面に、主体合成繊維が立ちやすくなり、半透膜を貫通して半透膜の性能が低下する場合や、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。250℃を超えた場合、気泡が半透膜支持体の非塗布面側にスムーズに抜けることができずピンホールが発生しやすくなる場合がある。半透膜支持体の製造時に、該半透膜支持体原紙に熱圧加工処理を2回目以上行い、1回目に加熱ロールと接する面を塗布面とする場合には、2回目の加熱ロールの表面温度を1回目の加熱ロールの表面温度より10~20℃高くすることが好ましい。
【0039】
ロールのニップ圧力は、好ましくは500~1200N/cmであり、より好ましくは600~1100N/cmである。500N/cm未満の場合、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。1200N/cmを超えた場合、ピンホールが発生しやすくなる場合がある。
【0040】
加工速度は、好ましくは10~150m/minであり、より好ましくは20~130m/minである。10m/min未満の場合、ピンホールが発生しやすくなる場合がある。150m/minを超えた場合、非塗布面に裏抜けした半透膜液の量が多くなり、膜性能が低下する場合がある。半透膜支持体の製造時に、該半透膜支持体原紙に熱圧加工処理を2回目以上行い、1回目に加熱ロールと接する面を塗布面とする場合には、2回目の加工速度を1回目の加工速度より5~30m/min遅くすることが好ましい。
【0041】
半透膜支持体の坪量は、特に限定しないが、20~150g/m2が好ましく、より好ましくは50~100g/m2である。20g/m2未満の場合は、十分な引張強度が得られない場合がある。また、150g/m2を超えた場合、通液抵抗が高くなる場合や厚みが増してエレメント内に規定量の半透膜を収納できない場合がある。
【0042】
また、半透膜支持体の密度は、0.5~1.0g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.6~0.95g/cm3である。半透膜支持体の密度が0.5g/cm3未満の場合は、厚みが厚くなるため、エレメントに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜の寿命が短くなってしまうことがある。一方、1.0g/cm3を超える場合は、通液性が低くなることがあり、半透膜の寿命が短くなる場合がある。
【0043】
半透膜支持体の厚みは、50~150μmであることが好ましく、60~130μmであることがより好ましく、70~120μmであることが更に好ましい。半透膜支持体の厚みが150μmを超えると、エレメントに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜の寿命が短くなってしまうことがある。一方、50μm未満の場合、十分な引張強度が得られない場合や通液性が低くなって、半透膜の寿命が短くなる場合がある。
【0044】
後処理により半透膜支持体のMD方向カールを+0.5mm以上+50mm以下に調整しても良い。後処理として、デカーラー処理や塗布面を内側にしてMD方向に巻いて巻き癖を付ける方法等が挙げられる。
【0045】
デカーラー装置としては、ブレード方式、ロール方式、小径ロール方式等の機構によるものが知られており、本発明においていずれも使用することができるが、その機構により一長一短があり、状況により選択して用いることが好ましい。ブレード方式は2本のロール間を一定テンションで走行するウェブにブレード状(又は角状)のデカーラーを押し付けるものであり、カール矯正効果は高いが、固定体を押し付けるため、静電気が発生し、摩擦でウェブに損傷を与える恐れや、過剰に作動させるとウェブを破断するおそれがある。ロール方式はブレードの代わりに回転ロール(φ40~80mm)を複数回にわたって押し付けるものであり、ロールが回転体であるため、ブレード方式と比べ傷の発生は激減するが、設置スペースが大きい割にはカール矯正効果が小さいのが現実である。また、小径ロール方式はブレード方式とロール方式の長所wお併せ持つべく開発されたデカーラーであり、極めて小径の回転ロール(φ12~20mm)を押し付け、小径ロールの圧接力と回転支軸ロールのスピードの調整によりカールを矯正するものである。回転ロールは高硬度の回転体であるため、ウェブの損傷は殆ど発生せず、小径ロールは一定ピッチに配置されたバックアップベアリングにて支持され、なおかつ微小なクリアランスで配置された永久磁石にて小径ロールの撓みを防ぐよう工夫されている。本発明において用いられるデカーラー装置としては、前記機構によるものに限られることはないが、デカーラー処理の効果、半透膜支持体の損傷を考慮すると、小径ロール方式を使用することが好ましい。
【0046】
塗布面を内側にしてMD方向に巻いて巻き癖を付ける方法では、半透膜支持体を巻き付ける紙管の外径は、30mm以上200mm以下であることが好ましく、より好ましくは35mm以上105mm以下、更に好ましくは40mm以上70mm以下である。外径が30mm未満の場合には、半透膜支持体のMD方向カールが50mm超となりやすく、半透膜支持体の通紙の際に半透膜支持体にシワが入るなどの通紙性に問題が生じる場合や、膜が均一に塗れない場合がある。紙管の外径が200mmを超えると、MD方向カールを付与できない場合がある。
【0047】
紙管に巻いて保管する時間は、12時間以上が好ましく、より好ましくは48時間以上、更に好ましくは72時間以上である。保管時間の上限は特に設けないが、製造効率の点から、336時間以下が好ましい。保管時間短縮のため、巻取りを30℃以上の雰囲気下で加温しても良い。加温する温度は30℃以上であることが好ましく、より好ましくは45℃以上であり、更に好ましくは55℃以上である。温度が高すぎると半透膜支持体がブロッキングを起こしてしまう場合があることから、70℃以下が好ましい。また、紙管の外径が105mmを超える場合には、巻き癖を付けるために加温が必要な場合がある。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。以下、特にことわりのないかぎり、実施例に記載される部及び比率は質量を基準とする。実施例1~7は参考例である。
【0049】
<延伸PET繊維>
ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径7.4μm、繊維長5mmの延伸ポリエステル繊維を延伸PET繊維とした。
【0050】
<未延伸PET繊維>
ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径11.8μm、繊維長5mmの未延伸ポリエステル繊維(融点:260℃)を未延伸PET繊維とした。
【0051】
実施例1~12及び比較例1~6の半透膜支持体を、以下の条件で製造した。
【0052】
(原紙の製造)
2m3の分散タンクに水を投入後、表1に示す原料配合比率(%)で配合し、分散濃度0.2質量%で5分間分散して、傾斜/円網複合式抄紙機を用い、傾斜ワイヤー上で第一表面層の湿紙を形成し、円網ワイヤー上で第二表面層の湿紙を形成して、両湿紙を乾燥させる前に積層させた後に、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、表1に示す坪量を目標にして、幅1000mmの実施例1~12及び比較例1~6の半透膜支持体原紙を得た。
【0053】
【0054】
(熱圧加工処理1)
実施例1~10及び比較例1~6の半透膜支持体原紙を、第1ステージの加熱金属ロール(JR)と樹脂ロール(弾)の組み合わせのカレンダー装置を用いて、表2に示すニップ前の加熱金属ロールと半透膜支持体原紙の接触長さ(ニップ前JR接触長さ)、加熱金属ロール表面温度(JR温度)、加工速度の条件で熱圧加工し、連続して、半透膜支持体原紙の第1ステージの加熱金属ロールに接した面が第2ステージの樹脂ロールに接するように、第2ステージの樹脂ロールと加熱金属ロールの組み合わせのカレンダー装置を用いて、表2に示すニップ前の加熱金属ロールと半透膜支持体原紙の接触長さ(ニップ前JR接触長さ)、加熱金属ロール表面温度(JR温度)、加工速度の条件で熱圧加工を行い、半透膜支持体を得た。第1ステージの処理で加熱金属ロールに当たった面を塗布面とし、第2ステージの処理で金属ロールに当たった面を非塗布面とし、塗布面の層を表2に示す。熱圧加工処理後の半透膜支持体は、表2に示す外径の紙管に、表2に示す面を内側にして、流れ方向(MD方向)に巻き取った。
【0055】
(熱圧加工処理2)
実施例11の半透膜支持体原紙を、第1ステージの加熱金属ロール(JR)とコットンロール(コットン)の組み合わせのカレンダー装置を用いて、表2に示すニップ前の加熱金属ロールと半透膜支持体原紙の接触長さ(ニップ前JR接触長さ)、加熱金属ロール表面温度(JR温度)、加工速度の条件で熱圧加工し、連続して、半透膜支持体原紙の第1ステージの加熱金属ロールに接した面が第2ステージのコットンロールに接するように、第2ステージのコットンロールと加熱金属ロールの組み合わせのカレンダー装置を用いて、表2に示すニップ前の加熱金属ロールと半透膜支持体原紙の接触長さ(ニップ前JR接触長さ)、加熱金属ロール表面温度(JR温度)、加工速度の条件で熱圧加工を行い、半透膜支持体を得た。なお、第1ステージの処理で加熱金属ロールに当たった面を塗布面とし、第2ステージの処理で金属ロールに当たった面を非塗布面とし、その結果を表2に示す。熱圧加工処理後の半透膜支持体は、表2に示す外径の紙管に、表2に示す面を内側にして、流れ方向(MD方向)に巻き取った。
【0056】
(熱圧加工処理3)
実施例12の半透膜支持体原紙を、第1ステージの加熱金属ロール(JR)と加熱金属ロール(JR)の組み合わせのカレンダー装置を用いて、表2に示すニップ前の加熱金属ロールと半透膜支持体原紙の接触長さ(ニップ前JR接触長さ)、両加熱金属ロール表面温度(JR温度)、加工速度の条件で熱圧加工し、半透膜支持体を得た。なお、第1ステージの処理でニップ前に加熱金属ロールと接触していた面を塗布面、反対面を非塗布面とし、その結果を表2に示した。熱圧加工処理後の半透膜支持体は、表2に示す外径の紙管に、表2に示す面を内側にして、流れ方向(MD方向)に巻き取った。
【0057】
【0058】
(後処理1)
実施例6~9の半透膜支持体を、熱圧加工処理後に得られた巻取りのまま、表3に示す温度雰囲気下で、表3に示す時間、保管した。
【0059】
(後処理2)
実施例10及び比較例6の半透膜支持体を、熱圧加工処理後に得られた巻取りから表3に示す外径の紙管に、塗布面を内側にして流れ方向(MD方向)に巻いて、表3に示す温度雰囲気下で、表3に示す時間、保管した。なお、25℃雰囲気下での後処理は、加温せず室温(r.t.)保管した場合を想定したものである。
【0060】
(後処理3)
比較例5の半透膜支持体を、熱圧加工処理後に得られた巻取りから表3に示す外径の紙管に、非塗布面を内側にして流れ方向(MD方向)に巻いて、表3に示す温度雰囲気下で、表3に示す時間、保管した。なお、25℃雰囲気下での後処理は、加温せず室温保管した場合を想定したものである。
【0061】
【0062】
実施例及び比較例で得られた半透膜支持体に対して、以下の測定及び評価を行い、結果を表4に示した。
【0063】
測定1(半透膜支持体のMD方向カール)
幅方向20cm×流れ方向20cmのサイズにカットした半透膜支持体を、塗布面を上にして平らな台の上に置き、
図3及び
図4に示すように、半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部(測定点1)の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定し、プラス(+)方向の高さとした。半透膜支持体シートは、半透膜支持体の両端5cmを除いて幅方向に均等に4枚採取し、4枚の平均値を「半透膜支持体のMD方向カール」とした。半透膜支持体シートの塗布面を上にして測定した際の半透膜支持体のMD方向カールが0.0mmであった場合は、半透膜支持体シートの非塗布面を上にして平らな台の上に置き、半透膜支持体シートの流れ方向と垂直となる両辺の中央部の高さを0.5mm単位で測定し、マイナス(-)方向の高さとし、4枚の平均値を「半透膜支持体のMD方向カール」とした。なお、平均値は小数点以下第2位を四捨五入し、少数点以下第1位まで記録した。結果を表4に示した。
【0064】
測定2(半透膜支持体のCD方向カール)
測定1で測定した半透膜支持体シートの測定点1を、半透膜支持体の流れ方向と平行な両辺の中央部(測定点2)に変更し、4枚の測定点2の高さの平均値を「半透膜支持体のCD方向カール」とした以外は測定1と同様に測定した。結果を表4に示した。
【0065】
評価1(濾過膜のMD方向カール)
【0066】
(1)半透膜液の調製
ポリスルホン(商品名:コーデル(登録商標) P-3500LCD MB-7、ソルベイ社製)をN,N-ジメチルホルムアミド(純正化学社製、特級)に、140℃で加温しながら濃度16質量%になるように溶解後、温度設定25℃にて半日撹拌して、半透膜液を調製した。
【0067】
(2)濾過膜の作製
定速塗工装置(商品名:Automatic Film Applicator、安田精機社製)上に、台紙をセットし、セットした台紙の上に、塗布幅100mm×塗布長さ180mmとなるようにカットした半透膜支持体を、塗布面を上にしてOPPテープ(3M社製、商品名:BK-24N)で留めた。半透膜液5~6gを、一定のクリアランスに調整できるベーカー式アプリケーター(安田精機社製、塗布幅100mm)を使用して、塗布量(乾燥質量)24±3g/m2となるように、塗布速度250mm/secにて塗布し、塗布開始後15秒後に20℃の水道水に浸漬して凝固した。3時間水洗した後、乾燥して濾過膜を作製した。
【0068】
(3)「濾過膜のMD方向カール」測定用サンプルの作製
作製した濾過膜の中央部を幅方向25mm×流れ方向25mmにカットし、半透膜面を上にして平らな台の上に置き、半透膜支持体の流れ方向と垂直となる両辺の中央部の高さ(台との距離)を0.5mm単位で測定し、プラス(+)方向の高さとした。測定1にて半透膜支持体のMD方向カールを測定した4枚の半透膜支持体シートについて実施し、4枚の平均値を「濾過膜のMD方向カール」とした。なお、平均値は小数点以下第2位を四捨五入し、少数点以下第1位まで記録した。結果を表4に示した。
【0069】
濾過膜のMD方向カール
+0.5mm以上:濾過膜がMD方向カール又はネジレカールとなり、次工程で不具合が生じ難く、実用上使用可能である。
0.0mm以上+0.5mm未満:濾過膜がCD方向カールになりやすく、次工程で不具合が発生して、実用上使用できない場合が多い。
【0070】
【0071】
表4に示すとおり、実施例1~12の半透膜支持体は、半透膜支持体のMD方向カールが+0.5mm以上+50mm以下であるため、該半透膜支持体を使用した濾過膜はMD方向カール又はネジレカールとなり、良好な結果が得られた。
【0072】
第1ステージと第2ステージで同じJR温度で熱圧加工した比較例1の半透膜支持体は、半透膜支持体のMD方向カールは+0.5mm未満であり、第1ステージより第2ステージのJR温度を高くして熱圧加工した実施例1の半透膜支持体と比較して、濾過膜のMD方向カールが小さく、+0.5mm未満であった。
【0073】
塗布面側の層に含有するバインダー合成繊維の比率を非塗布面側の層に比べて高くした比較例2及び比較例3の半透膜支持体は、半透膜支持体のMD方向カールは+0.5mm未満であり、非塗布面側の層に含有するバインダー合成繊維の比率を塗布面側の層に比べて高くした実施例2及び実施例3の半透膜支持体と比較して、濾過膜のMD方向カールが小さく、+0.5mm未満であった。
【0074】
熱圧加工処理後に非塗布面を内側にして半透膜支持体を紙管に巻きつけた比較例4の半透膜支持体は、半透膜支持体のMD方向カールが非塗布面側に持ち上がるようにマイナス方向にカールし、熱圧加工処理後に塗布面を内側にして半透膜支持体を紙管に巻きつけた実施例1~実施例9の半透膜支持体と比較して、濾過膜のMD方向カールが小さく、+0.5mm未満であった。
【0075】
熱圧加工処理後に非塗布面を内側にして半透膜支持体を外径が40mmの小径紙管に巻きつけて72時間室温で保管した比較例5の半透膜支持体は、半透膜支持体のMD方向カールが非塗布面側に持ち上がるようにマイナス方向にカールし、熱圧加工処理後に塗布面を内側にして半透膜支持体を小径紙管に巻きつけて72時間室温で保管した実施例10の半透膜支持体と比較して、濾過膜のMD方向カールが小さく+0.5mm未満であった。
【0076】
熱圧加工処理後に塗布面を内側にして半透膜支持体を外径が20mmの小径紙管に巻きつけて72時間室温で保管した比較例6の半透膜支持体は、半透膜支持体のMD方向カールが+50.0mmを超えてしまったため、評価1の半透膜の作製の際に、半透膜支持体の中央が持ち上がってしまい、その中央部の膜が薄くなってしまったためか、半透膜が不均一になってしまい、濾過膜のMD方向カールを測定することができなかった。
【0077】
比較例2~4の半透膜支持体のCD方向カールは、-1.1~-0.5mmであり、比較例4及び比較例5の半透膜支持体のMD方向カールは、-39.8~-5.3mmであり、半透膜支持体が非塗布面側にカールしていても、濾過膜のMD方向カールが小さく(+0.5mm未満)なる場合があり、本発明のように、半透膜支持体のMD方向カールが+0.5mm~+50mmであることによって、該半透膜支持体を使用した濾過膜はMD方向カールが+0.5mm以上で、カール形状がMD方向カール又はネジレカールとなり、半透膜形成後の次工程での不具合が解消されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の半透膜支持体は、海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で利用することができる。