(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】微粒子分散樹脂組成物の製造方法、及び微粒子分散樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20221209BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20221209BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221209BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221209BHJP
D01F 6/04 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C08L23/04
C08L33/00
C08K3/22
C08J5/18 CES
D01F6/04 Z
(21)【出願番号】P 2018216536
(22)【出願日】2018-11-19
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】小川 直希
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 遼
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001551(JP,A)
【文献】特開2006-096917(JP,A)
【文献】特開昭61-021160(JP,A)
【文献】特開2012-224497(JP,A)
【文献】特開2004-115624(JP,A)
【文献】特開2004-203982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン系酸化物粒子及びその分散剤を含む複合粒子、相溶化剤、並びにポリエチレンを混練することを含み、
前記複合粒子の分散剤が、
水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂を含み、
前記相溶化剤は、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン、アイオノマー、又はこれらの組み合わせであり、かつ
前記ポリエチレン100質量部に対して、0.01~10質量部の前記複合粒子、及び5~100質量部の前記相溶化剤を含む、
微粒子分散樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
タングステン系酸化物粒子、極性基含有樹脂、相溶化剤、及びポリエチレンを含み、
前記ポリエチレン100質量部に対して、0.01~10質量部の前記極性基含有樹脂、0.01~10質量部の微粒子、及び5~100質量部の前記相溶化剤を含み、
前記極性基含有樹脂が、水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂であり、
前記相溶化剤が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、アイオノマー、又はこれらの組み合わせである、
微粒子分散樹脂組成物。
【請求項3】
請求項
2に記載の微粒子分散樹脂組成物を含む、フィルム。
【請求項4】
請求項
2に記載の微粒子分散樹脂組成物を含む、繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系の微粒子分散樹脂組成物の製造方法、及び微粒子分散樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物には、微粒子が分散されることがあり、微粒子の分散性は、その樹脂組成物の物性に大きな影響を与えることがある。
【0003】
例えば、近赤外線吸収性物質として、タングステン系酸化物が知られており、このタングステン系酸化物を含む樹脂組成物の近赤外吸収特性は、タングステン系酸化物の分散性に大きな影響を受ける。
【0004】
それに対して、特許文献1に記載の発明では、タングステン系酸化物をアクリル系分散剤によって処理をすることで、各種の熱可塑性樹脂におけるタングステン系酸化物の分散性を向上させている。特許文献1は、そのようなアクリル系分散剤によって処理されたタングステン系酸化物を含むフィルム等についても開示している。
【0005】
特許文献2においても、タングステン系酸化物が、各種の熱可塑性樹脂に分散された分散体及びそれを用いたフィルム等を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-1551号公報
【文献】国際公開第2017/104854号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、タングステン系酸化物等のような微粒子の分散性が重要となる樹脂組成物において、樹脂としてポリエチレンを用いた場合に、微粒子を高度に分散させることができる、微粒子分散樹脂組成物の製造方法、及びその方法によって得られうる微粒子分散樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
微粒子及びその分散剤を含む複合粒子、相溶化剤、並びにポリエチレンを混練することを含み、前記複合粒子の分散剤が、極性基含有樹脂を含み、かつ前記相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンである、微粒子分散樹脂組成物の製造方法。
《態様2》
前記ポリエチレン100質量部に対して、0.01~50質量部の前記複合粒子及び1~300質量部の前記相溶化剤を混練する、態様1に記載の製造方法。
《態様3》
0.05質量%~25質量%の前記複合粒子、0.01質量%~75質量%の前記相溶化剤、20~97質量%の前記ポリエチレンを混練する、態様1に記載の製造方法。
《態様4》
前記微粒子が、無機微粒子である、態様1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
《態様5》
前記無機微粒子が、タングステン系酸化物を含む、態様4に記載の製造方法。
《態様6》
前記分散剤の前記極性基含有樹脂が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、及び/又はエポキシ基を有している樹脂である、態様1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
《態様7》
前記分散剤が、水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂である、態様6に記載の製造方法。
《態様8》
前記相溶化剤が、酸変性ポリオレフィン、エチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、又はこれらの組み合わせである、態様1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
《態様9》
前記ポリエチレン100質量部に対して、0.1~10質量部の前記複合粒子、及び5~100質量部の前記相溶化剤を含み、
前記微粒子が、タングステン系酸化物粒子であり、
前記極性基含有樹脂が、水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂であり、
前記相溶化剤が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、アイオノマー、又はこれらの組み合わせである、
態様1に記載の製造方法。
《態様10》
微粒子、極性基含有樹脂、相溶化剤、及びポリエチレンを含み、前記相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンである、微粒子分散樹脂組成物。
《態様11》
前記ポリエチレン100質量部に対して、0.01~10質量部の前記極性基含有樹脂、0.01~10質量部の微粒子、及び5~100質量部の前記相溶化剤を含み、
前記微粒子が、タングステン系酸化物粒子であり、
前記極性基含有樹脂が、水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂であり、
前記相溶化剤が、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、アイオノマー、又はこれらの組み合わせである、
態様10に記載の微粒子分散樹脂組成物。
《態様12》
態様10又は11に記載の微粒子分散樹脂組成物を含む、フィルム。
《態様13》
態様10又は11に記載の微粒子分散樹脂組成物を含む、繊維。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、比較例1及び実施例1~5の透過率スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《微粒子分散樹脂組成物の製造方法》
本発明の微粒子分散樹脂組成物の製造方法は、微粒子及びその分散剤を含む複合粒子、相溶化剤、並びにポリエチレンを混練することを含み、複合粒子の分散剤が、極性基含有樹脂を含み、かつ相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンである。
【0011】
特許文献1においては、その樹脂組成物による成形体を窓等に用いることが想定されているため、タングステン系酸化物を分散させる熱可塑性樹脂として具体的に開示されているものは、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等であった。また、特許文献2においても、タングステン系酸化物を分散させる熱可塑性樹脂として具体的に開示されているものは、ガラスに付着させるためのポリビニルブチラール等であった。
【0012】
特許文献1及び2においては、タングステン系酸化物を分散させる熱可塑性樹脂として、ポリオレフィンを示唆しているものの、本発明者らが検討したところ、特許文献1及び2の記載に基づいても、ポリエチレンにタングステン系酸化物を高度に分散させることができなかった。
【0013】
それに対して、本発明者らは、極性基含有樹脂を含む分散剤で微粒子を処理した上で、さらに極性基含有ポリオレフィンを相溶化剤として用いて混練することによって、その微粒子をポリエチレンに分散できることを見出した。
【0014】
混練は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロールなどのバッチ式混練機、及び二軸押出機、単軸押出機などの連続式混練機などを用いて行うことができる。この際には、使用する材料に応じて、120℃以上、140℃以上、又は150℃以上で、かつ300℃以下、250℃以下、220℃以下、200℃以下、又は180℃以下の温度で混練することができる。
【0015】
〈複合粒子〉
本発明の方法では、微粒子の組成物中への分散性を高める等の目的で、微粒子とその分散剤を含有する複合粒子を用いる。複合粒子において、分散剤は、微粒子の表面をコーティングしていてもよく、分散剤の樹脂中に微粒子が分散されている形態で用いられてもよい。
【0016】
本発明の方法では、ポリエチレン100質量部に対して、0.01質量部以上、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、2.0質量部以上、又は3.0質量部以上、かつ50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は3質量部以下の複合粒子を混練することができる。
【0017】
本発明の方法によって得られる樹脂組成物中において、複合粒子の使用量は、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、2.0質量%以上、又は3.0質量%以上であってもよく、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、又は1.0質量%以下であってもよい。例えば、樹脂組成物中において、複合粒子の含有量は、0.5質量%以上10質量%以下、又は1.0質量%以上5.0質量%以下であってもよい。
【0018】
〈複合粒子-微粒子〉
本発明の方法で用いられる複合粒子中の微粒子としては、特にその種類は限定されないが、分散剤及び相溶化剤を用いない場合に、ポリエチレンへの均一な分散が困難である微粒子が挙げられる。
【0019】
例えば、そのような微粒子としては、有機微粒子又は無機微粒子を挙げることができる。有機微粒子としては、ポリマー微粒子を挙げることができる。無機微粒子としては、無機酸化物粒子、金属粒子等を挙げることができ、無機酸化物粒子としては、例えば酸化チタン粒子、酸化ケイ素粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子等を挙げることができる。
【0020】
特に、無機酸化物粒子として、タングステン系酸化物粒子を挙げることができる。タングステン系酸化物粒子は、その分散性が、赤外線吸収特性に大きな影響を与えることが知られており、タングステン系酸化物粒子を均一に分散できる場合には、高い赤外線吸収特性を与えることができる。例えば、このようなタングステン系酸化物粒子としては、特許文献1及び2に開示されているようなタングステン系酸化物粒子を挙げることができる。
【0021】
例えば、タングステン系酸化物粒子としては、
一般式(1):MxWyOz{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}で表される複合タングステン酸化物の粒子、又は
一般式(2):WyOz{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物の粒子
であってもよい。
【0022】
タングステン系酸化物粒子の製法として、特開2005-187323号公報に説明されている複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法を使用することができる。
【0023】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収し発熱する材料として有効である。
【0024】
特に、光学特性及び耐候性を向上させる観点から、M元素としては、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnのうちの1種類以上とすることができる。
【0025】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物の粒子を、シランカップリング剤で処理することによって、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性を高めてもよい。
【0026】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し近赤外線吸収効果も上昇するが、通常はx/yの値が1程度で飽和する。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であってもよく、1.0以下0.85以下、0.5以下又は0.35以下であってもよい。x/yの値は、特に0.33とすることができる。
【0027】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすようにしてもよい。
【0028】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造からなるとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が大きくなり、かつ近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が大きくなり、近赤外光波長領域の吸収が大きくなる。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0029】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有する場合には、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下とすることができ、0.30以上0.35以下とすることができ、特に0.33とすることができる。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の実質的に全てに配置されると考えられる。
【0030】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。これらの結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いてもよい。
【0031】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、安定性が高く、近赤外光波長領域の吸収特性も高いため、好適に用いられる。
【0032】
そのタングステン系酸化物粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持して応用する場合には、体積平均で2000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2000nm以下であれば、可視光波長領域での透過率(反射率)のピークと近赤外光波長領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する粒子としての効果を発揮できるからである。さらに分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0033】
さらに可視光波長領域の透明性を重視する場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、タングステン系酸化物粒子の体積平均の分散粒子径は800nm以下、500nm以下、又は200nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下、50nm以下、又は30nm以下であることがより好ましい。タングステン系酸化物粒子の分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱が低減し透明性が向上する。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上、3nm以上、5nm以上、又は10nm以上あれば工業的な製造は容易となる傾向にある。ここで、タングステン系酸化物粒子の体積平均の分散粒子径は、ブラウン運動中の微粒子にレーザー光を照射し、そこから得られる光散乱情報から粒子径を求める動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定される。
【0034】
微粒子の体積平均粒径は、1nm以上、5nm以上、10nm以上、30nm以上、50nm以上、100nm以上、300nm以上、又は500nm以上であってもよく、10μm以下、5μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、800nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってもよい。その体積平均粒径は、動的光散乱法のマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製)を用いて測定される。微粒子の体積平均粒径は、例えば1nm~800nm、又は5nm~200nmであってもよい。
【0035】
本発明の方法によって得られる樹脂組成物中において、微粒子の含有量は、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であってもよく、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、又は0.5質量%以下であってもよい。例えば、樹脂組成物中において、微粒子の含有量は、0.01質量%以上3.0質量%以下、又は0.1質量%以上2.0質量%以下であってもよい。
【0036】
〈複合粒子-分散剤〉
微粒子の分散性を高める等の目的で、本発明の方法では、微粒子とその分散剤を含有する複合粒子を用いる。分散剤は、以下で説明される相溶化剤とは異なる物質が用いられるが、相溶化剤の種類に応じて、その物質を選択することができる。
【0037】
具体的には、分散剤は、極性基含有樹脂を含み、その極性基としては、例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を挙げることができる。これらの官能基は、タングステン系酸化物粒子の表面に吸着し、タングステン系酸化物粒子の凝集を防ぐことで、複合粒子中においてタングステン系酸化物粒子を均一に分散させる。樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂等を挙げることができる。
【0038】
また、特開2011-1551号公報に記載のような分散剤を用いてもよく、そのような分散剤として、水酸基及び/又はエポキシ基を有しているアクリル系樹脂を挙げることができる。そのアクリル系樹脂は、TG-DTAで測定される熱分解温度が230℃以上、好ましくは250℃以上あるものを用いることが耐熱性の観点から好ましい。
【0039】
本発明の方法によって得られる樹脂組成物中において、分散剤の含有量は、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、又は2.0質量%以上であってもよく、15質量%以下、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.0質量%以下、又は0.5質量%以下であってもよい。例えば、分散剤の含有量は、0.01質量%以上5.0質量%以下、又は0.1質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
【0040】
微粒子の重量に対する分散剤の重量の比(分散剤の重量/微粒子の重量)は、1.0以上、2.0以上、3.0以上、又は4.0以上であってもよく、10以下、8.0以下、5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.0以下、又は1.0以下であってもよい。例えば、この比は、1.0以上5.0以下、又は2.0以上4.0以下であってもよい。
【0041】
〈相溶化剤〉
本発明の方法では、相溶化剤を用いて微粒子の組成物中への分散性を高める。相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンから選択される。
【0042】
極性基含有ポリオレフィンは、オレフィンと極性基含有モノマーとを共重合したポリオレフィンであってもよく、ポリオレフィンに酸変性等によって極性基を導入したものであってもよい。極性基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基等を挙げることができ、ポリオレフィンとして、低密度ポリエチレン(LDPE)、直線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)ホモポリマー、ランダムポリプロピレン(ランダムPP)、ブロックポリプロピレン(ブロックPP)等を挙げることができる。
【0043】
例えば、極性基含有ポリオレフィンは、酸変性ポリオレフィン、エチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体、エチレン-酢酸ビニル系共重合体等を用いることできる。極性基含有ポリオレフィンは、具体的には、エチレン-アクリレート共重合体(EAA)、エチレン-メタクリレート共重合体(EMAA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、カルボン酸変性ポリエチレン、カルボン酸変性エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、カルボン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物等を挙げることができる。この中でも特に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン及びアイオノマーを挙げることができる。
【0044】
本発明の方法によって得られる樹脂組成物中において、相溶化剤の含有量は、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、3.0質量%以上、4.5質量%以上、5.0質量%以上、又は10質量%以上であってもよく、75質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、8.0質量%以下、又は6.0質量%以下であってもよい。例えば、相溶化剤の含有量は、0.5質量%以上60質量%以下、又は4.5質量%以上50質量%以下であってもよい。
【0045】
本発明の方法では、ポリエチレン100質量部に対して、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、又は10質量部以上、かつ300質量部以下、200質量部以下、150質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は10質量部以下の相溶化剤を混練することができる。例えば、相溶化剤は、ポリエチレン100質量部に対して、3質量部以上200質量部以下、又は5質量部以上100質量部以下混練することができる。
【0046】
〈ポリエチレン〉
本発明の方法によって得られる樹脂組成物には、ポリエチレンが含まれる。ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)を挙げることができる。
【0047】
ポリエチレンは、ポリマーの主鎖にエチレン基の繰返し単位を、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、又は95mol%以上含む樹脂であり、1-ブテン等の他のオレフィンとエチレンとの共重合体であってもよい。ポリエチレンは、上述の分散剤及び相溶化剤とは異なる物質であり、例えば極性基を有していない。
【0048】
本発明の方法によって得られる樹脂組成物中において、ポリエチレンの含有量は、20質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってもよく、97質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、又は50質量%以下であってもよい。例えば、ポリエチレンの含有量は、30質量%以上97質量%以下、又は50質量%以上95質量%以下であってもよい。ポリエチレンの含有量が多い場合には、樹脂組成物の加工性が良好になる傾向にある。
【0049】
《微粒子分散樹脂組成物》
本発明の微粒子分散樹脂組成物は、微粒子、極性基含有樹脂、相溶化剤 、及びポリエチレンを含み、相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンである。
【0050】
本発明の微粒子分散樹脂組成物は、上述の微粒子分散樹脂組成物の製造方法によって得られるような樹脂組成物であってもよく、したがって本発明の樹脂組成物の各構成については、本発明の微粒子分散樹脂組成物の製造方法に関して説明した各構成を参照することができる。ここで、極性基含有樹脂については、上記の複合粒子の分散剤に関する記載を参照することができる。
【0051】
本発明の微粒子分散樹脂組成物は、例えば微粒子が赤外線吸収性を有するタングステン系酸化物である場合、この組成物を、赤外線吸収性フィルムに成形することができる。フィルムの成形法は特に限定されないが、熱プレス法、単層又は多層インフレーション法、Tダイ法等を挙げることができる。
【0052】
《フィルム》
本発明の微粒子分散樹脂組成物を含むフィルムは、上記のようにして得られた樹脂組成物を、フィルム化することによって得られる。フィルムの成形法は特に限定されないが、熱プレス法、単層又は多層インフレーション法、Tダイ法等を挙げることができる。また、本発明のフィルムは、上記の各成分を含むマスターバッチと他の樹脂とを混合して微粒子分散樹脂組成物を得て、これをフィルム化してもよい。
【0053】
すなわち、本発明のフィルムは、上記のような微粒子、極性基含有樹脂、相溶化剤、及びポリエチレンを少なくとも含み、ここで相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンであるであってもよい。この場合において、各要素の種類及び使用量については、上記の本発明の組成物に関する記載を参照することができる。
【0054】
本発明のフィルムが赤外線吸収性の微粒子を含む場合、例えば特開2008-214596号に記載のような農業用のフィルムとして使用することができる。
【0055】
《繊維》
本発明の微粒子分散樹脂組成物を含む繊維は、例えば、上記のようにして得られた樹脂組成物を溶融紡糸することによって得ることができる。溶融紡糸においては、一般的に用いられる溶融紡糸装置を使用することが可能である。また、本発明の繊維は、上記の各成分を含むマスターバッチと他の樹脂とを混合して微粒子分散樹脂組成物を得て、これを溶融紡糸してもよい。
【0056】
本発明の繊維は、上記のような微粒子、極性基含有樹脂、相溶化剤、及びポリエチレンを少なくとも含み、ここで相溶化剤は、極性基含有ポリオレフィンであるであってもよい。この場合において、各要素の種類及び使用量については、上記の本発明の組成物に関する記載を参照することができる。
【0057】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
《製造例》
〈実施例1~5及び比較例1〉
六方晶のセシウム酸化タングステンCs0.33WO3が、水酸基及び/又はエポキシ基を有するアクリル系樹脂でコーティングされている複合粒子(住友金属鉱山株式会社、CWO(商標)YMDS―874)と、相溶化剤である無水マレイン酸変性ポリオレフィン(MA-g-PO)(三井化学株式会社、アドマー(商標)PF508)と、低密度ポリエチレン(東ソー株式会社、ペトロセン(商標)183)とを、表1に記載の配合量で配合し、実施例1~5及び比較例1の微粒子分散樹脂組成物を得た。なお、比較例1では、相溶化剤を使用しなかった。
【0059】
〈実施例6~9〉
相溶化剤を、アイオノマー(IO)(大阪ガスケミカル株式会社、マリコン(商標)J1000MB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(東ソー株式会社、ウルトラセン(商標)631);エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)(住友化学株式会社、アクリフト(商標)WK307);エチレン-メタクリレート共重合体(EMAA)(三井デュポンポリケミカル株式会社、アクリフト(商標)WK307)にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6~9の微粒子分散樹脂組成物を得た。
【0060】
《評価》
〈赤外線吸収性〉
各例の微粒子分散樹脂組成物をミキサー混練機で混練した後、熱プレス機でフィルム化し、50μmの厚さの樹脂フィルムを得た。
【0061】
50μmの樹脂フィルムについて、紫外-可視-近赤外透過スペクトルを分光光度計(日立ハイテクノロジーズ株式会社、UH4150)で測定し、波長領域1700nm付近の近赤外線の最小透過率を評価した。近赤外線の透過率の値が小さいほど、セシウム酸化タングステンの近赤外線吸収性が高い。
【0062】
近赤外線吸収性が顕著に向上している場合には「○」とし、近赤外線吸収性が向上している場合には「△」とし、近赤外線吸収性が低下している場合には「×」とした。
【0063】
〈加工性〉
各例の微粒子分散樹脂組成物を二軸押出機で混練した。そして、微粒子分散樹脂組成物の加工性を二軸押出機の混練トルク(吐出変動)の安定性で評価した。なお、混練時に混練トルクが変動すると、セシウム酸化タングステン濃度にバラつきが生じ、安定した製造ができない。混練トルクが安定している場合に「○」とし、混練トルクが不安定でセシウム酸化タングステン濃度にバラつきが生じている場合に「×」とした。
【0064】
《結果》
結果を表1に示す。また、
図1に、比較例1及び実施例1~5の透過率スペクトルを示す。
【表1】