(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】SiC化学気相成長装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20221209BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20221209BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20221209BHJP
C30B 25/14 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/42
C30B29/36 A
C30B25/14
(21)【出願番号】P 2018239879
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】梅田 喜一
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089972(JP,A)
【文献】特開2016-050164(JP,A)
【文献】特開2015-002209(JP,A)
【文献】特開2018-082064(JP,A)
【文献】特開2005-302848(JP,A)
【文献】特開2002-334871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/42
C30B 29/36
C30B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に成長空間を構成する炉体と、
前記成長空間内に位置し、載置面にSiCウェハを載置する載置台と、を有し、
前記炉体は、前記載置面と対向する上部に位置し、前記成長空間内に原料ガスを導入する第1孔と、
前記炉体の側壁に位置し、前記成長空間内にパージガスが流入する第2孔と、
前記炉体の側壁の前記第2孔より下方に位置し、前記成長空間内のガスを排気する第3孔と、を有し、
前記第2孔の下端に、前記成長空間に向かって突出し、前記原料ガスの流れを調整する突出部を備える、SiC化学気相成長装置。
【請求項2】
前記炉体は、上方から第1部分と、第2部分と、第3部分と、を備え、
前記第1部分の内径は、前記第3部分よりも小さく、
前記第2部分は、前記第1部分と、前記第3部分と、を接合し、
前記第1孔は、前記第1部分に位置し、
前記第2孔および前記突出部は、前記第2部分に位置し、
前記第3孔は、前記第3部分に位置する、請求項1に記載のSiC化学気相成長装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記炉体の側壁の全周にわたって円環状に存在する、請求項1または2に記載のSiC化学気相成長装置。
【請求項4】
前記突出部は、前記載置面に対して平行である、請求項1から3のいずれか一項に記載のSiC化学気相成長装置。
【請求項5】
前記突出部は、前記炉体の側壁から前記成長空間に向って、前記載置面に対して斜め上向きである、請求項1から3のいずれか一項に記載のSiC化学気相成長装置。
【請求項6】
前記突出部の前記
成長空間側の第1端は、
前記載置面を平面視した際に、前記載置面に載置されるSiCウェハの外周より外側に位置する、請求項1から5のいずれか一項に記載のSiC化学気相成長装置。
【請求項7】
前記第2孔は、前記炉体の側壁の全周にわたって位置する、請求項1から6のいずれか一項に記載のSiC化学気相成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC化学気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素はこれらの特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiCエピタキシャル膜を形成する基板として昇華法等で作製したSiCのバルク単結晶から加工したSiC単結晶ウェハを用い、通常、この上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によってSiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造する。なお、本明細書において、SiCエピタキシャルウェハとは、SiCエピタキシャル膜を形成後のウェハを意味し、SiCウェハは、SiCエピタキシャル膜を形成前のウェハを意味する。
【0004】
SiC半導体デバイスは、成長するSiCエピタキシャル膜の厚さや組成、添加する不純物の濃度などがばらつくことにより、その性能が変化してしまうため、被処理体上に均一に薄膜を形成することが求められている。
被処理体上に均一に薄膜を形成するためには、被処理体に対して均一に原料ガスを供給すること、および、ウェハに欠陥等の付着物の発生を抑制することが重要である。そのため、様々な検討が進められてきた。
【0005】
例えば、特許文献1は、原料ガスを一度処理室に供給し、シャワー部材を介して炉内に均一に原料ガスを供給する、枚葉炉型のCVD処理装置が記載されている。また、このシャワー部材から炉内へ導入される原料ガスの動圧ムラを小さくするために、処理室への原料ガスの導入口をテーパー形状とすることも記載されている。テーパー形状を有する導入口は、処理室内に供給されるガスの流速を低減し、処理室内の圧力変化を抑制する。特許文献1に記載のCVD処理装置(化学気相成長装置)は、処理室内の圧力変化を抑制することができる。
【0006】
また、特許文献2にも、炉体内へ原料ガスを導入するガス導入管の導入口がテーパー形状を有するSiC化学気相成長装置について記載されている。テーパー形状を有するガス導入管は、ガス導入管の導入口付近に対流が生じることおよびガス拡散によりガス導入管付近に付着物が再付着することを抑制する。導入管に再付着した付着物は、剥離し、ウェハ上に付着すると、パーティクル起因のウェハ表面欠陥の原因となる。このような表面欠陥上に形成されたデバイスは、不良となるため、パーティクル起因のウェハ表面欠陥は、抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-74180号公報
【文献】特開2016―50164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に記載されたSiC化学気相成長装置は、処理室内のガスの対流や動圧ムラを抑制することで、被処理体への原料ガスの供給を均一化している。しかしながら、処理室内のガスの流れがなくなることは無く、SiCウェハに原料ガスを十分に均一に供給することが難しく、処理室内の側壁周辺に向かってガスが広がってしまう等の場合があった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、SiCウェハに原料ガスを均一に供給できるSiC化学気相成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、成長空間を形成する炉体の側壁に突出部があると、SiCエピタキシャル膜へ向かう原料ガスを層流にすることができることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかるSiC化学気相成長装置は、内部に成長空間を構成する炉体と、前記成長空間内に位置し、載置面にSiCウェハを載置する載置台と、を有し、前記炉体は、前記載置面と対向する上方に位置し、前記成長空間内に原料ガスを導入する第1孔と、前記炉体の側壁に位置し、前記成長空間内にパージガスが流入る第2孔と、前記炉体の側壁の前記第2孔より下方に位置し、前記成長空間内のガスを排気する第3孔と、を有し、前記第2孔の下端に、前記成長空間に向かって突出し、前記原料ガスの流れを調整する突出部を備える。
【0012】
(2)上記態様にかかるSiC化学気相成長装置において、前記炉体は、上方から第1部分と、第2部分と、第3部分と、を備え、前記第1部分の内径は、前記第3部分よりも小さく、前記第2部分は、前記第1部分と、前記第3部分と、を接合し、前記第1孔は、前記第1部分に位置し、前記第2孔および前記突出部は、前記第2部分に位置し、前記第3孔は、前記第3部分に位置してもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかるSiC化学気相成長装置において、前記突出部は、前記炉体の側壁の全周にわたって円環状に存在してもよい。
【0014】
(4)上記態様にかかるSiC化学気相成長装置において、前記突出部は、前記載置面に対して平行であってもよい。
【0015】
(5)上記態様にかかるSiC化学気相成長装置において、前記突出部は、前記炉体の側壁から前記成長空間に向って、前記載置面に対して斜め上向きであってもよい。
【0016】
(6)上記態様にかかるSiC化学気相成長装置において、前記突出部の第1端は、前記載置面を平面視した際に、前記載置面に載置されるSiCウェハの外周より外側に位置してもよい。
【0017】
(7)上記態様にかかるSiC化学気相成長装置において、前記第2孔は、前記炉体の側壁の全周にわたって位置してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態にかかるSiC化学気相成長装置によれば、SiCウェハに対して原料ガスを均一に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るSiC化学気相成長装置の一例の断面模式図である。
【
図2】従来のSiC化学気相成長装置の一例の断面模式図である。
【
図3】本実施形態に係るSiC化学気相成長装置の一例の断面模式図である。
【
図4】実施例1と比較例1のSiC化学気相成長装置でのSiCエピタキシャル膜の面内成長速度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用したSiC化学気相成長装置の一例について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくすらために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
<SiC化学気相成長装置>
図1は、本発明の第1実施形態に係るSiC化学気相成長装置1の断面模式図である。本実施形態に係るSiC化学気相成長装置1は、内部に成長空間Rを構成する炉体2と、成長空間R内に位置し、SiCウェハWを載置する載置台3と、を有する。
尚、本実施形態では、炉体2において載置台3が配置される方向を下方向、載置台3に対して後述する第1孔21が位置する方向を上方向という。
【0022】
(載置台)
載置台3は、例えば、サセプタ31と加熱機構32とを有する。サセプタ31は、SiCウェハWの支持体である。サセプタ31の上面には、SiCウェハWを載置できる載置面3Aを有する。サセプタ31は、下方に延びる管状の支持軸を有する。支持軸は、例えば、図示しない回転機構に連結される。サセプタ31は、回転機構によって支持軸を回転することで回転可能となっている。加熱機構32は、SiCウェハWを加熱する。加熱機構32は、例えば、サセプタ31の内部に設けられる。加熱機構32は、例えば、SiCウェハWの載置面と対向する位置になるヒータである。加熱機構32は、支持軸内部を通して外部から通電される。
【0023】
(炉体)
炉体2は、内部に成長空間Rを有する。
図1に示す炉体2は、上部26と側壁25と底部27とを有する。成長空間Rは、上部26と側壁25と底部27とに囲まれた空間である。側壁25は、上部側壁25Aと下部側壁25Bとからなる。
炉体2の材料は、特に限定されるものではないが、例えば、石英、カーボン、SiCコートカーボン等を適宜組み合わせて構成することができる。
【0024】
また、炉体2は、第1孔21と、第2孔22と、第3孔23とを有する。炉体2は、第2孔の下方に突出部24を有する。
【0025】
{第1孔}
第1孔21は、載置台3の載置面3Aと対向する、上方に位置する。第1孔21は、例えば、炉体2の上部26に位置する。第1孔21は、成長空間R内に原料ガスGを導入する原料ガス導入部である。第1孔21から供給された原料ガスGは、載置面3A上に載置されたSiCウェハW上で反応し、SiCウェハW上にSiCエピタキシャル膜を形成する。SiCエピタキシャルウェハ膜は、SiCウェハW上にSiCエピタキシャル膜が形成されることで製造される。原料ガスGは、例えば、公知のSi系ガスと、C系ガスと、が用いられる。
【0026】
Si系ガスは、例えば、シシラン(SiH4)である。Si系ガスは、このほか、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)であってもよい。また、Si系ガスは、例えばシランに対してHClを添加したガスであってもよい。
C系ガスは、例えばプロパン(C3H8)である。
また、SiCウェハW上に積層されるSiCエピタキシャル膜の導電性を制御する場合、不純物ドーピングガスを原料ガスGと同時に供給してもよい。不純物ドーパントガスは、例えば、導電型をn型とする場合にはN2、p型とする場合にはTMA(トリメチルアルミニウム)である。
Si系ガス、C系ガス、不純物ドーピングガスは、それぞれ分離して供給しても混合して供給しても良い。
【0027】
第1孔21から成長空間R内部に供給される原料ガスGの平均流速(流量/第1孔の断面積)は、0.001m/s~100m/sであることが好ましく、0.01m/s~10m/sであることがより好ましい。
【0028】
{第2孔}
第2孔22は、炉体2の側壁25に位置する。
図2に示す第2孔22は、炉体2の側壁25全周にわたってある。第2孔22は、側壁25を上部側壁25Aと下部側壁25Bとに分離する。第2孔22は、成長空間R内にパージガスpを導入する。
【0029】
パージガスpは、SiやCを含まないガスである。パージガスpは、例えば、Ar,Heなどの不活性ガス(希ガス)である。パージガスpは、炉体2の周囲に位置する断熱材及びヒータを保護するために炉体2の周囲に供給されている。パージガスpは、炉体2の周囲から成長空間Rに向って流れ込む。
【0030】
{第3孔}
第3孔23は、炉体2の側壁25に位置する。第3孔23は、炉体2のうち、載置台3における載置面3Aよりも下方に位置する。第3孔23は、成長空間R内のガスを排気する排気口である。第3孔23は、例えば、SiCウェハWを通過した後の未反応ガスおよびパージガスを排気する。第3孔23は、真空吸引をすることができ、炉体2内部の圧力を適宜調整することができる。第3孔23は、炉体2内部のガス流路の対称性を高め、エピタキシャル膜の面内均一性を高めるため、炉体2内部に複数形成されても良い。
【0031】
{突出部}
突出部24は、第2孔22の下端に位置する。突出部24は、側壁25の内面から成長空間Rに向かって突出する。
図1に示す突出部24は、炉体2の側壁25から載置面3Aに対して斜め上向きに突出する。また、
図1に示す突出部24は、側壁25の全周にわたって円環状に位置する。突出部24は、第2孔22から流入するパージガスpの流れを制御する。パージガスpの流れ方向は、主に突出部24に沿った方向であり、上部側壁25Aに沿って上方に流れる成分を含む。パージガスpは、第1孔21から供給される原料ガスGの流れを制御する。
【0032】
また、突出部24は、炉体2の側壁25から成長空間Rに向かって、載置面3Aに対して斜め上向きに突出していなくても良い。例えば、突出部24は、載置面3Aに対して平行であってもよい。
【0033】
突出部24の向きは、鉛直方向からの角度θを30°~150°とすることが好ましい。原料ガスを中心方向に収束させる観点から、θは45°~135°とすることがより好ましい。原料ガスGが対流により、上方側壁25Aに流れることを抑制する観点から、θは90°~135°とすることがさらに好ましい。
【0034】
突出部24の成膜空間R側の第1端24aは、例えば、載置面3Aを平面視した際に、載置面3Aに載置されるSiCウェハWの外周より外側に位置する。突出部24の成膜空間R側の第1端24aは、好ましくは、載置面3Aを平面視した際に、載置面3Aより外側に位置する。原料ガスGは、第1孔21から載置台3に向かって流れる。突出部24の第1端24aがSiCウェハWの外周より内側に突出すると、原料ガスGの流れを乱す原因となりうる。
【0035】
突出部24の大きさは、載置台3に載置するウェハWの大きさに合わせて適宜選択することができる。突出部24の内径は、原料ガスの流路を制御するために、適宜選択される。突出部24の内径が小さいことで、効果的に原料ガスを中央に集めることができる。そのため、(突出部24の内径)÷(ウェハWの直径)を4以下とすることができ、3以下とすることが好ましく、2以下とすることがさらに好ましい。突出部24の内径は、小さい程、ガスを原料ガス中央に集める作用を強めることができるが、突出部24の内径が小さすぎると、中央にガスが集まりすぎ、好ましくない。そのため、(突出部24の内径)÷(ウェハWの直径)を1/2以上とすることができ、3/4以上とすることが好ましく、1以上とすることが更に好ましい。突出部24の内径を当該範囲とすることで、好適に原料ガスの流路を制御することができる。ここでいう、突出部24の内径とは、炉体の内径から、突出部24の径方向の大きさを差し引いたものをいい、
図1の距離Lを指す。
【0036】
図2に示すSiC化学気相成長装置100は、炉体2と、載置台3とを有する。
図2に示すSiC化学気相成長装置100は、第2孔22および突出部24を備えない点で、
図1に示すSiC化学気相成長装置1とは異なる。その他の構成は、
図1に示すSiC化学気相成長装置1と同一であり、同一の符号を付し、説明を省く。
【0037】
図2に示すSiC化学気相成長装置100は、第1孔21から原料ガスGが供給される。原料ガスGは、第1孔21から側壁125周辺に向かって広がる。すなわち、原料ガスGは、SiCウェハWに至る時点では拡散されており、SiCウェハWに効率的に原料ガスGを供給することができない。
【0038】
これに対し、本実施形態に係るSiC化学気相成長装置1は、第2孔22より方向の制御されたパージガスpが成長空間R内に供給される。パージガスpは、
図2に示すSiC化学気相成長装置100で側壁125周辺に広がっていた原料ガスを中心付近に収束する。
【0039】
原料ガスGを成長空間Rの中心付近に収束すると、原料ガスGが鉛直方向に制御される。ここで、SiC化学気相成長装置1は、上部26および底部27が水平に設置される。そのため、鉛直方向は、上部26および底部27に対して垂直な方向である。すなわち、原料ガスGの流れは、層流となる。側壁25に向かって拡散する原料ガスGの成分が少なくなると、SiCウェハWへの原料ガスGの供給が効率的になる。また、SiCウェハWに対して、原料ガスGを均一に供給できる。
【0040】
また、パージガスpは、不活性ガスであるため、炉体2内部で原料ガスGと反応して堆積物を発生しない。そのため、パージガスpが炉体2の側壁25に沿って流れることで、原料ガス起因の堆積物が炉体2の側壁25に発生することが抑制される。
【0041】
一般的に、炉下部にSiCウェハWが位置するSiC化学気相成長装置1,100では、SiCウェハW近傍が最も高温になり、炉体2,102内に熱勾配が存在する。炉体2,102内の熱勾配に起因して、SiCウェハW近傍に一度到達した原料ガスGの対流が発生する。
図2に示すSiC化学気相成長装置100では、SiCエピタキシャル膜の成長に寄与しなかった原料ガスGが対流により、側壁125の上方に流れ、炉体102内の側壁125の上方に付着する。炉体102内部は、原料ガスGの付着により、堆積物を形成する。堆積物は、SiCエピタキシャルウェハにパーティクルを発生する原因の1つである。被処理体の表面に付着したパーティクルは、結晶欠陥の原因となる。
【0042】
突出部24は、原料ガスGが上方へ対流することも抑制する。そのため、炉体2の上部側壁25Aに堆積物が形成することが抑制される。パーティクルの原因となる堆積物が減少すると、SiCエピタキシャルウェハの品質が向上する。
【0043】
成長空間R内に流入するパージガスの平均流速は、(流量/第2孔の断面積)は、例えば、0.1m/s~100m/sである。パージガスpの平均流速は、好ましくは、0.2m/s~50m/sであり、より好ましくは、0.5m/s~30m/sとである。
【0044】
本実施形態に係るSiC化学気相成長装置1は、突出部24により方向を制御された不活性のパージガスpが原料ガスGの流れを制御する。そのため、SiCウェハWへの原料ガスGの供給を効率的に行うことができる。また、パージガスpは、上部側壁25Aに堆積物が付着することも抑制する。
【0045】
以上、第1実施形態について詳述したが、第1実施形態に係るSiC化学気相成長装置は、この例に限らず、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0046】
例えば、第2孔22は、炉体2の側壁25の全周にわたって連続する開口部であってもよく、複数の開口であってもよい。第2孔22が炉体2の側壁25の全周にわたって連続する開口部である場合、例えば、炉体2の上部は、図示しない支持部材により吊るされ、炉体2の下部は、図示しない載置部材に載置され、炉体2の上部と下部とが一定間隔で保たれる構成であっても良い。第2孔22が複数の開口である場合、パージガスpを導入する第2孔22の数は、特に限定されないが、多い方が好ましい。以下、第2孔22が複数の開口である例を記載する。また、第2孔22は、ガス流路の対称性の観点から、互いに等間隔に位置することが好ましい。
【0047】
第2孔22の大きさや形は、特に限定されないが、例えば、長方形、円状、円環状とすることができる。第2孔22の形状が長方形、円状または、円環状であった場合に、第2孔22の高さは、例えば、1mm以上とすることができる。1.5mm以上とすることがより好ましく、2mm以上とすることが更に好ましい。また、第2孔22の高さは、例えば、100mm以下とすることができる。50mm以下とすることが更に好ましく、30mm以下とすることが更に好ましい。第2孔22の形状が円環状であった場合に、円環の幅は、適宜選択することができる。また、第2孔22による円周方向の開口率は、1(100%)であってもよく、1に近い程好ましい。原料ガスGの流れを制御するために、第2孔22による円周方向の開口率は、0.3以上である。ここでいう、第2孔22による円周方向の開口率とは、炉体2の第2孔22の位置する鉛直方向高さにおける炉体2の開口率のことをいう。
第2孔22が位置する高さは、載置面3Aよりも高い位置に位置することが好ましい。
【0048】
突出部24は、側壁25にわたって連続する円環状の部材でなくても良い。突出部24は、第2孔22に対して配置された複数の部材でもよい。突出部24が側壁25の全周にわたって存在すると、炉体2内の周方向のどの位置でも、原料ガスGは炉体2の中心へ向かって収束し、原料ガスGの上部側壁25Aへ巻き上がりを抑制できる。
【0049】
突出部24が複数の部材からなる場合、突出部24の数は、特に限定されないが、多い方が好ましい。
【0050】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態にかかるSiC化学気相成長装置1´の断面模式図である。第2実施形態にかかるSiC化学気相成長装置1´は、炉体4の構造が第1実施形態にかかるSiC化学気相成長装置1と異なる。その他の構成は同一であり、同一の符号を付し、説明を省く。
【0051】
図3に示す化学気相成長装置1´の炉体4は、上方から第1部分4Aと、第2部分4Bと、第3部分4Cと、を有する。第1部分4Aの内径は、第3部分4Cの内径より小さい。ここで、「内径」は、水平方向に炉体4を切断した際に、炉体4の成膜空間R側の内面の径である。第2部分4Bは、第1部分4Aと第3部分4Cとの間をつなぐ部分である。第1部分4Aと第2部分4Bとの接続点、および、第2部分4Bと第3部分4Cとの接続点には、それぞれ角部E1、E2が形成される。成膜空間R内側に向かって突出する角部E1は堆積物が付着しやすい部分である。
【0052】
また、炉体4は、第1孔41と、第2孔42と、第3孔43と、突出部44と、を有する。原料ガスGは、第1孔41から供給され、パージガスpは、第2孔42から供給され、成膜空間R内のガスは、第3孔43から排出される。第1孔41は第1部分4Aに位置し、第2孔42は第2部分4Bに位置し、第3孔43は第3部分4Cに位置する。炉体4の第1部分4Aの内径が第3部分4Cの内径よりも小さいと、原料ガスGは、第1部分周辺に拡散しづらい。そのため、炉体4は、中心付近に原料ガスを収束しやすい。また、炉体4は、対流により上方に原料ガスが流れる量を抑制する。
【0053】
パージガスpは、第2孔42から流入する。パージガスpは、突出部44に方向を制御され、原料ガスGが上方へ対流することを抑制する。上述のように角部E1は、堆積物が付着しやすい部分である。当該部分に付着した堆積物が剥離は、パーティクルの原因である。パーティクルの原因である堆積物が減少すると、SiCエピタキシャルウェハの品質は、向上する。
【0054】
炉体4において、第1孔41、第2孔42、第3孔43および突出部44の具体的な構成については、炉体2の第1孔21、第2孔22、第3孔23および突出部24と同様とすることができる。尚、突出部44の向きについても、突出部24の構成と同様である。すなわち、突出部44の鉛直方向からの角度θが突出部24の鉛直方向からの角度θと同様である。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
図3に示す構成の化学気相成長装置1´をシミュレーションで再現し、SiCエピタキシャル膜の成長速度を求めた。シミュレーションには、ANSYS社製のFluentを用いた。当該シミュレーションは、実際の実験結果と高い相関を有することが確認されている。
【0056】
シミュレーションの具体的な条件は、以下とした。
炉壁2の温度:最高1400℃以上
ウェハWの温度:1600℃程度
パージガスp流量/原料ガスG流量:1.3
原料ガス最大流速:約20m/s
突出部44の突出方向:載置台3の載置面3Aと平行
ウェハWの直径:200mm
突出部44の内径L/ウェハ径:1.4
突出部の内半径/突出部44の載置台3からの鉛直方向高さ:4.2
第2孔22による円周方向の開口率:100%
【0057】
(比較例1)
比較例1は、突出部44を設けない点が、実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0058】
図4は、実施例1および比較例1の条件でSiCエピタキシャルウェハを成長させたときの面内成長速度を表すグラフである。横軸は、測定点のSiCウェハWの中心からの距離であり、縦軸は、測定点におけるSiCエピタキシャル膜の成長速度である。
図4に示すように、比較例1の場合、SiCウェハWの外側で、SiCエピタキシャル膜の成長速度が遅くなっている。これに対して、実施例1は、SiCエピタキシャル膜の成長速度がSiCウェハWの面内で均一になっている。SiCエピタキシャル膜の均一性の指標は、例えば、100×{100―(成長速度の最小値)}÷(成長速度の最大値)の値であり、この数値が低い程SiCエピタキシャル膜の均一性が高いといえる。この値は、半径100mmのウェハに対する計算結果である実施例1と比較例1において、それぞれ17.9(%)と25.5(%)である。この結果から、実施例1の条件は、比較例1の条件よりもSiCエピタキシャル膜の均一性が高くなるといえる。すなわち、突出部44は、SiCエピタキシャル膜のキャリア濃度均一性向上及び効率的なSiCエピタキシャル膜の成長に起因する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明に係るSiC化学気相成長装置は、炉体の側壁にパージガスを供給する孔と、炉体内のガス流路を調整する突出部と、を備えることにより、ウェハ面内キャリア濃度均一性の高い、高品質なSiCエピタキシャルウェハの製造に有用である。
【符号の説明】
【0060】
1,1´,100 SiC化学気相成長装置
2,4,102 炉体
4A 第1部分
4B 第2部分
4C 第3部分
3 載置台
3A 載置面
31 サセプタ
32 加熱機構
21,41 第1孔
22,42 第2孔
23,43 第3孔
24,44 突出部
25,125 側壁
25A 上部側壁
25B 下部側壁
26 上部
27 底部
R 成長空間
W SiCウェハ(ウェハ)
G 原料ガス
p パージガス
E1,E2 角部