IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京東方科技集團股▲ふん▼有限公司の特許一覧

特許7190907リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード
<>
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図1
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図2
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図3
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図4
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図5
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図6
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図7
  • 特許-リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオード
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20221209BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/54 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/74 20060101ALI20221209BHJP
   C09K 11/65 20060101ALI20221209BHJP
   H01L 33/04 20100101ALI20221209BHJP
   H01L 33/26 20100101ALI20221209BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20221209BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221209BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20221209BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/88
C09K11/56
C09K11/70
C09K11/66
C09K11/62
C09K11/54
C09K11/61
C09K11/74
C09K11/65
H01L33/04
H01L33/26
B82Y20/00
B82Y40/00
H05B33/14 Z
H05B33/10
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018565061
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 CN2018079221
(87)【国際公開番号】W WO2019015345
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】201710580198.9
(32)【優先日】2017-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510280589
【氏名又は名称】京東方科技集團股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BOE TECHNOLOGY GROUP CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.10 Jiuxianqiao Rd.,Chaoyang District,Beijing 100015,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 振▲キ▼
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0168975(US,A1)
【文献】国際公開第2006/103908(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106009930(CN,A)
【文献】国際公開第2012/161065(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111365(WO,A1)
【文献】特表2012-532953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/04,33/26
B82Y 20/00,40/00
H05B 33/10,33/14
C09D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット及び前記量子ドットの表面に吸着されたリガンド修飾剤を含むリガンド修飾された量子ドット組成物であって、前記リガンド修飾剤の構造式は、セグメントA-セグメントBであり、前記リガンド修飾剤は、セグメントAで量子ドットの表面に吸着され、且つセグメントBは、鎖切断可能な長い分子鎖であり、
前記セグメントBは、一つずつ順次接続されるR1基、R2基及びR3基を含み、R1基はセグメントAにリンクされ、且つ前記R2基は切断可能であり、
前記R2基は、ペルオキシ基、過酸化ジアシル基の少なくともつを含む、リガンド修飾された量子ドット組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記リガンド修飾された量子ドット組成物はインクであり、前記量子ドット組成物の粘度が8~15cPであり、且つ前記リガンド修飾された量子ドット組成物の表面張力が20~40mN/mである。
【請求項3】
請求項1に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記量子ドットは、III-V族の量子ドット、IV族の量子ドット、II-VI族の量子ドット、コア-シェル型の量子ドット、及び合金型の量子ドットのいずれか1つまたは複数の量子ドットを含む。
【請求項4】
請求項3に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記量子ドットは、CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、InP、PbS、CuInS、ZnO、CsPbCl、CsPbBr、CsPhI、CdS/ZnS、CdSe/ZnS、ZnSe、InP/ZnS、PbS/ZnS、InAs、InGaAs、InGaN、GaNk、ZnTe、Si、GeおよびCのいずれか1つまたは複数を含む。
【請求項5】
請求項1に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記セグメントAは、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、ポリアミノ基、ポリスルフヒドリル基、ポリヒドロキシル基、リン、酸化リン、有機リン及びチオエーテルのいずれか1つまたは複数の基を含む。
【請求項6】
請求項1に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記R2は、光分解性又は熱分解性の基を含む。
【請求項7】
請求項6に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記R2基と前記R1基との間の化学結合が加熱または光の照射の下で切断されるように構成された。
【請求項8】
請求項7に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記R2基と前記R3基との間の化学結合が加熱または光の照射の下で切断されるように構成された。
【請求項9】
請求項6に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記R2基自体の化学結合が加熱または光の照射の下で切断されるように構成された。
【請求項10】
請求項1に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記R1基は、芳香族基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、メチルアミノ脂肪鎖、プロピレンオキシド基、シクロヘキシル脂環式化合物のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【請求項11】
請求項1に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記R3基は、芳香族基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、メチルアミノ脂肪鎖、プロピレンオキシド基、シクロヘキシル脂環式化合物のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【請求項12】
請求項10または11に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物において、前記芳香族基は、フェニル基、アルキルフェニル基、チエニル基、ピリミジン基、アニリノ基、ナフタレン、フェノキシ基のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【請求項13】
リガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法であって、
溶媒中に第1のリガンド修飾剤が存在する条件の下で、第1のリガンド修飾された量子ドットを合成するステップと、
上記の第1のリガンド修飾された量子ドットに第2のリガンド修飾剤を添加し、前記第2のリガンド修飾剤の構造式は、セグメントA-セグメントBであり、前記セグメントBは、切断可能な長い分子鎖であり、前記第2のリガンド修飾剤が第1のリガンドと置換することで、第2のリガンド修飾剤のセグメントAが前記量子ドットの表面に吸着して第2のリガンド修飾された量子ドットが得られるステップと、
第2のリガンド修飾された量子ドットを前記第1のリガンドから分離するステップと、を含み、
前記セグメントBは、一つずつ順次接続されるR1基、R2基及びR3基を含み、R1基はセグメントAにリンクされ、且つ前記R2基は切断可能であり、
前記R2基は、ペルオキシ基、過酸化ジアシル基の少なくともつを含む、リガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法。
【請求項14】
請求項13に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法において、前記第1のリガンド修飾剤はオレイン酸を含み、前記溶媒はオクタデセンを含む。
【請求項15】
リガンド修飾された量子ドット層の作製方法であって、
請求項1~12の何れか一項に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物を基板上に形成するステップと、
加熱しまたは光を照射することで、リガンド修飾剤のセグメントBを鎖切断させて、リガンド修飾された量子ドット層を形成するステップと、を含み、
リガンド修飾された量子ドット層を形成するステップは、遊離基捕捉剤を添加するステップをさらに含む、リガンド修飾された量子ドット層の作製方法。
【請求項16】
請求項15に記載のリガンド修飾された量子ドット層の作製方法において、前記遊離基捕捉剤は、アルコール、水、フェノール、チオールのいずれか1つまたは複数の基を含む。
【請求項17】
請求項15に記載のリガンド修飾された量子ドット層の作製方法において、リガンド修飾された量子ドット層を形成するステップの後に、加熱することで、切断された鎖を前記リガンド修飾された量子ドット層から分離するステップをさらに含む。
【請求項18】
請求項1~12の何れか一項に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物を含む、リガンド修飾された量子ドット層。
【請求項19】
請求項1~12の何れか一項に記載のリガンド修飾された量子ドット組成物を含む、量子ドット発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は2017年7月17日に出願された出願番号が201710580198.9である中国特許出願の優先権を主張するものであり、上記の中国特許出願に開示された内容を引用して本願の一部とする。
【0002】
技術分野
本開示は、リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、OLEDは大規模な産業化の段階にあり、徐々にLCDを置き換えて主流のディスプレイ技術になる傾向がある。しかし、OLED発光層は有機材料であり、酸化しやすくて寿命が短く、発光スペクトルが広く、且つ合成が複雑であるという問題がある。近年、量子ドット材料は徐々に出現しており、その発光スペクトルが有機材料よりも狭く、安定性が有機材料よりも高く、合成コストが有機材料よりも低く、且つエレクトロルミネッセンスデバイスに適用されているため、QD-LEDもOLED技術の強い競争相手になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の実施例に、量子ドット及び前記量子ドットの表面に吸着されたリガンド修飾剤を含むリガンド修飾された量子ドット組成物であって、前記リガンド修飾剤の構造式は、セグメントA-セグメントBであり、前記リガンド修飾剤は、セグメントAで量子ドットの表面に吸着され、且つセグメントBは、鎖切断可能な長い分子鎖である、リガンド修飾された量子ドット組成物が提供される。
【0005】
一実施例において、前記リガンド修飾された量子ドット組成物はインクであり、前記量子ドット組成物の粘度が8~15cPであり、且つ前記リガンド修飾された量子ドット組成物の表面張力が20~40mN/mである。ここで、cPは粘度単位センチポアズであり、1センチポアズ(1cP)=1ミルパスカル・秒(1mPa・s)。
【0006】
一実施例において、前記量子ドットは、III-V族の量子ドット、IV族の量子ドット、II-VI族の量子ドット、コア-シェル型の量子ドット、及び合金型の量子ドットのいずれか1つまたは複数の量子ドットを含む。
【0007】
一実施例において、前記量子ドットは、CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、InP、PbS、CuInS、ZnO、CsPbCl、CsPbBr、CsPhI、CdS/ZnS、CdSe/ZnS、ZnSe、InP/ZnS、PbS/ZnS、InAs、InGaAs、InGaN、GaNk、ZnTe、Si、GeおよびCのいずれか1つまたは複数を含む。
【0008】
一実施例において、前記セグメントAは、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、ポリアミノ基、ポリスルフヒドリル基、ポリヒドロキシル基、リン、酸化リン、有機リン及びチオエーテルのいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0009】
一実施例において、前記セグメントBは、一つずつ順次接続されるR1基、R2基及びR3基を含み、R1基はセグメントAにリンクされ、且つ前記R2基は切断可能である。
【0010】
一実施例において、R2は、光分解性又は熱分解性の基を含む。
【0011】
一実施例において、加熱または光の照射の下で、R2基とR1基との間の化学結合が切断される。
【0012】
一実施例において、加熱または光の照射の下で、R2基とR1基との間の化学結合が切断され、且つR2基とR3基との間の化学結合が切断される。
【0013】
一実施例において、加熱または光の照射の下で、R2基自体の化学結合が切断される。
【0014】
一実施例において、R2基は、アゾ基(-N=N-)、ペルオキシ基(-O-O-)、過酸化ジアシル基(
【0015】
【化1】
【0016】
)のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0017】
一実施例において、前記R1基は、芳香族基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、メチルアミノ脂肪鎖、プロピレンオキシド基、シクロヘキシル脂環式化合物のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0018】
一実施例において、前記R3基は、芳香族基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、メチルアミノ脂肪鎖、プロピレンオキシド基、シクロヘキシル脂環式化合物のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0019】
一実施例において、前記芳香族基は、フェニル基、アルキルフェニル基、チエニル基、ピリミジン基、アニリノ基、ナフタレン、フェノキシ基のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0020】
本開示の実施例に、リガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法であって、溶媒中に第1のリガンド修飾剤が存在する条件の下で、第1のリガンド修飾された量子ドットを合成するステップと、上記の第1のリガンド修飾された量子ドットに第2のリガンド修飾剤を添加し、前記第2のリガンド修飾剤の構造式は、セグメントA-セグメントBであり、前記セグメントBは、切断可能な長い分子鎖であり、前記第2のリガンド修飾剤が第1のリガンドと置換することで、第2のリガンド修飾剤のセグメントAが前記量子ドットの表面に吸着して第2のリガンド修飾された量子ドットが得られるステップと、第2のリガンド修飾された量子ドットを前記第1のリガンドから分離するステップと、を含むリガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法が提供される。
【0021】
一実施例において、前記第1のリガンド修飾剤はオレイン酸を含み、前記溶媒はオクタデセンを含む。
【0022】
本開示の実施例に、リガンド修飾された量子ドット層の作製方法であって、上記のリガンド修飾された量子ドット組成物を基板上に形成するステップと、加熱しまたは光を照射することで、リガンド修飾剤のセグメントBを鎖切断させて、リガンド修飾された量子ドット層を形成するステップと、を含むリガンド修飾された量子ドット層の作製方法が提供される。
【0023】
一実施例において、リガンド修飾された量子ドット層を形成するステップは、遊離基捕捉剤を添加するステップをさらに含む。
【0024】
一実施例において、前記遊離基捕捉剤は、アルコール、水、フェノール、チオールのいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0025】
一実施例において、該方法は、リガンド修飾された量子ドット層を形成するステップの後に、加熱することで、切断された鎖を前記リガンド修飾された量子ドット層から分離するステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本開示の一実施例のリガンド修飾された量子ドット組成物の構成の模式図である。
図2図2図3は、本開示の他の実施例のリガンド修飾された量子ドット組成物の構成の模式図である。
図3図2図3は、本開示の他の実施例のリガンド修飾された量子ドット組成物の構成の模式図である。
図4図4図5は、本開示の他の実施例のセグメントBの反応プロセスの模式図である。
図5図4図5は、本開示の他の実施例のセグメントBの反応プロセスの模式図である。
図6図6は、本開示の別の実施例のリガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法のフロー図である。
図7図7は、本開示の更に別の実施例のリガンド修飾された量子ドット層の作製方法のフロー図である。
図8図8は、本開示の別の実施例のアゾ(-N=N-)を含む第2のリガンドの分解模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
当業者が本開示の構成をよりよく理解できるように、以下、本開示について図面および具体的な実施形態を参照してさらに詳細に説明する。
【0028】
図面に現れる符号は、1-量子ドット、2-リガンド修飾剤である。
【0029】
本発明者らは、既存のQD-LEDには、少なくとも以下の問題が存在することを発見した。量子ドット材料は、無機ナノ粒子であり、安定性および溶解性を改善するために外層を有機リガンドにより修飾する必要がある。一般に、短鎖のリガンドを有する量子ドット材料は、発光層フィルムを形成する際により緻密に配列され、キャリアの伝送速度がより速い。しかし、短鎖のリガンドは、溶解性を低下させる一方、量子ドット材料は、短鎖のリガンドにより相互作用が強くなり、凝固しやすくなり、保存できないようになる。したがって、現在の主流の量子ドット材料リガンドは、まだオレイン酸、オレイルアミンなどの長鎖のリガンドとしている。しかしながら、長鎖のリガンドで修飾された量子ドットは、フィルムを形成する際に量子ドットが十分に緻密ではなく、キャリアの伝送効率が低い。
【0030】
本開示において、本発明者らは、既存の短鎖のリガンドを利用すると量子ドット材料の保存が困難になり、長鎖のリガンドで修飾された量子ドットならキャリアの伝送効率が低いという問題に対して、リガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層及びそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオードを提供した。
【0031】
本開示の実施例は、図1に示すように、量子ドット1と、前記量子ドットの表面に吸着されたリガンド修飾剤2とを含むリガンド修飾された量子ドット組成物を提供している。該リガンド修飾剤2は、長い分子鎖の基を含み、且つこの長い分子鎖のうち少なくとも一部の基が、一定の条件で鎖切断可能である。具体的には、前記リガンド修飾剤2の構造式は、セグメントA-セグメントBである。セグメントAは、量子ドットの表面に吸着するためのものであり、セグメントBは、鎖切断可能な長い分子鎖である。
【0032】
本開示の実施例の量子ドット組成物のリガンド修飾剤におけるセグメントBは、鎖切断可能なセグメントであり、すなわちセグメントBは長い分子鎖であることにより、組成物は良好な溶解性および安定性を有するものになるので、リガンド修飾された量子ドット組成物は、溶液やインクなどの形態で存在している。しかし、セグメントB自体はそれほど安定ではなく、一定の条件で鎖切断可能である。特定の用途では、セグメントB中の基は、加熱または光の照射によって切断され、その結果、リガンド修飾剤は短い分子鎖のリガンドとなり、それによって量子ドットが緻密に充填され、キャリアの伝送性能が改善される。
【0033】
例示的な実施例では、リガンド修飾剤に対する量子ドットの質量比は、約5%~300%である。図2および図3に示すように、前記リガンド修飾剤の構造式は、セグメントA-セグメントBである。セグメントAは、量子ドットの表面に吸着するためのものであり、セグメントBは、鎖切断可能な長い分子鎖である。具体的には、前記セグメントBは、一つずつ順次接続されるR1基、R2基及びR3基を含む。R1基はセグメントAにリンクされる。前記R2基は切断可能である。
【0034】
具体的には、R2基の切断に2つの方式がある。第1の方式は図2に示されており、R1基とR2基との間の化学結合が切断される。この場合、一般にR2基とR3基との間の化学結合も同時に切断される。第2の方式は図3に示されており、R2自体の化学結合が切断される。例えば、R2はR2a、R2b、及びR2cに切断され、R2aがR1にリンクされて、R2cがR3にリンクされて、R2bが気体として放出される。
【0035】
例えば、R2は、光分解性又は熱分解性の基を含む。具体的には、アゾ基(-N=N-)、ペルオキシ基(-O-O-)、過酸化ジアシル(
【0036】
【化2】
【0037】
)のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0038】
具体的には、R2基が第1の方式で切断される場合、図4を参照すれば、上から下へ、それぞれ基(-N=N-)、ペルオキシ基(-O-O-)に分ける。
【0039】
R2基が第2の方式で切断される場合、図5を参照すれば、上から下へ、それぞれアゾ基(-N=N-)、ペルオキシ基(-O-O-)、過酸化ジアシル(
【0040】
【化3】
【0041】
)に分ける。
【0042】
すなわち、R1基とR2基との区画方式は、異なる長い分子鎖に応じて選択することができ、その具体的な物質は、必要に応じて変更することができる。本開示の実施例では、上記の3つの具体的な形態が提供されている。他の鎖切断可能な基を有することも可能であることが理解できる。
【0043】
代替の実施形態として、前記量子ドットは、III-V族の量子ドット、IV族の量子ドット、II-VI族の量子ドット、コア-シェル型の量子ドット、及び合金型の量子ドットのいずれか1つまたは複数の量子ドットを含む。具体的に、CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、InP、PbS、CuInS、ZnO、CsPbCl、CsPbBr、CsPhI、CdS/ZnS、CdSe/ZnS、ZnSe、InP/ZnS、PbS/ZnS、InAs、InGaAs、InGaN、GaNk、ZnTe、Si、GeおよびCのいずれか1つまたは複数であってもよい。
【0044】
すなわち、既存の量子ドットは、すべて発光材料として本開示の実施例に利用することができ、単一種の量子ドットであってもよいし、二種類以上の量子ドットの複合物であってもよい。量子ドットに関する特定の選択は、所望の発光色などに応じて選択することができ、ここでは言及しない。
【0045】
例えば、前記セグメントAは、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、ポリアミノ基、ポリスルフヒドリル基、ポリヒドロキシル基、リン、酸化リン、有機リン及びチオエーテルのいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0046】
すなわち、セグメントAは、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、ポリアミノ基、ポリスルフヒドリル基、ポリヒドロキシル基、リン、酸化リン、有機リン、チオエーテルなどのような量子ドットと容易にリンクする基を含む。
【0047】
例えば、R1基は、芳香族基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、メチルアミノ脂肪鎖、プロピレンオキシド基、シクロヘキシル脂環式化合物のいずれか1つまたは複数の基を含む。R3基は、芳香族基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、メトキシ基、メチルアミノ脂肪鎖、プロピレンオキシド基、シクロヘキシル脂環式化合物のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0048】
別の例では、前記芳香族基は、フェニル基、アルキルフェニル基、チエニル基、ピリミジン、アニリノ基、ナフタレン、フェノキシ基のいずれか1つまたは複数の基を含む。
【0049】
例えば、前記リガンド修飾された量子ドット組成物はインクであり、前記量子ドット組成物の粘度は8~15cPであり、前記リガンド修飾された量子ドット組成物の表面張力は20~40mN/mである。
【0050】
本開示の実施例は、リガンド修飾された量子ドット組成物の作製方法を提供する。図6に示すように、この方法は、以下のステップを含む。
【0051】
S1:溶媒中に第1のリガンド修飾剤が存在する条件の下で、第1のリガンド修飾された量子ドットを合成する。
【0052】
S2:上記の第1のリガンド修飾された量子ドットに第2のリガンド修飾剤を添加し、前記第2のリガンド修飾剤が第1のリガンドと置換することで、第2のリガンド修飾剤の基Aが前記量子ドットの表面に吸着して第2のリガンド修飾された量子ドットが得られる。ここで、前記第2のリガンド修飾剤の構造式は、A-Bであり、前記基Bは鎖切断可能な長い分子鎖である。
【0053】
S3:第2のリガンド修飾された量子ドットを前記第1のリガンドから分離する。
【0054】
ここで、長い分子鎖のリガンド(第1のリガンド)を結合物として採用し量子ドットを作製することで、作製方法は簡単になり、プロセスは成熟であると説明する必要がある。既存の長い分子鎖のリガンド(例えば、オレイン酸)と量子ドットとの結合力は比較的弱いため、ステップS2で第1のリガンドを第2のリガンドにより置換する。第2のリガンドと量子ドットとの結合力は、第1のリガンドと量子ドットとの結合力よりも強いことが理解できる。
【0055】
例として、前記第1のリガンド修飾剤はオレイン酸であり、前記溶媒はオクタデセンである。以下に、リガンド修飾された緑色CdSe/ZnS合金量子ドットの作製を例として具体的なステップを説明する。
【0056】
S01:0.6mmolのCdO、12mmolのZnO、および10mLのOA(すなわち第1のリガンドであるオレイン酸)をフラスコに入れる。150℃に加熱する時、溶媒であるオクタデセンをインジェクターで45mL注入する。窒素雰囲気下で310℃に加熱して、透明なCd(OA)およびZn(OA)溶液が得られ、温度を300℃に維持する。0.6mmolのSeおよび12mmolのSを12mLのTOP(トリオクチルホスフィン)に溶解してから上記のシステムに注入する。10分間の反応後、CdSe/ZnS合金量子ドット溶液が得られる。
【0057】
S02:室温で、上記のCdSe/ZnS合金量子ドット溶液の粗生成物を12mLとり、アゾ(-N=N-)を含む第2のリガンド
【0058】
【化4】
【0059】
を5~20mmol添加し、その後12時間撹拌することで、第2のリガンドを第1のリガンドと置換させる。
【0060】
S03:リガンドが置換(または交換)された後の溶液を12,000rpmの回転速度で10分間遠心分離して不溶物を除去する。得られた上澄み液にヘキサン/エタノール(v/v=1/4)をさらに添加し、沈殿させ、遠心分離する。これを3回繰り返した後、純化されたアゾ(-N=N-)を含む第2のリガンド修飾された量子ドット組成物を得る。これを12mLのクロロホルムに溶解し、粘度8~15cP、表面張力20~40mN/mの量子ドットインクが得られる。本実施例において、第2のリガンド修飾された量子ドット組成物の基の切断については、図8を参照する。
【0061】
本開示の実施例は、リガンド修飾された量子ドット層の作製方法を提供する。該方法は、図7に示すように以下のステップを含む。
【0062】
(1)上記のリガンド修飾された量子ドット組成物を基板上に形成する。例えば、ホール注入層(Hole Injection Layer,HIL)およびホール輸送層(Hole Transport Layer,HTL)を有する基板上に、図6に記載された実施例に従って作製されたアゾ(-N=N-)を含む第2のリガンドを含む量子ドットインクを印刷する。
【0063】
(2)50~200℃まで加熱し、または光を照射(照度は、波長200~400nm、露光量50~250mJ/cm、照射時間2~60秒になる)することで、アゾ(-N=N-)の第2のリガンドを含む量子ドットインクにおけるアゾ(-N=N-)を鎖切断させ、5~30nmの厚さを有するリガンド修飾された量子ドット層を形成する。
【0064】
具体的には、加熱中に、アゾ(-N=N-)のリガンドの切断の間に放出される少量の窒素を汲出すように真空を同時に適用してもよい。
【0065】
例えば、ステップ(2)の後、この方法は、加熱することで、切断された鎖を前記リガンド修飾された量子ドット層から分離するステップをさらに含む。すなわち、加熱により温度がさらに上昇するため、長い分子鎖から離れた基が溶媒と共に揮発し、緻密に配列する量子ドットフィルムが残って量子ドット発光層が得られる。
【0066】
例えば、ステップ(2)は、遊離基捕捉剤を添加するステップをさらに含む。例として、前記遊離基捕捉剤は、アルコール、水、フェノール、チオールのいずれか1つまたは複数の基を含む。すなわち、切断後に生成した遊離基が遊離基捕捉剤と反応して、短鎖のリガンドを有する量子ドットが得られる。
【0067】
本開示の実施例は、上記の実施例の方法によって作製されたリガンド修飾された量子ドット組成物を含む量子ドット発光ダイオードを提供する。
【0068】
明らかに、上述の各実施例の具体的な実施形態は、様々な変形が可能である。例えば、リガンド修飾剤の具体的な原料は、必要に応じて選択することができ、リガンド修飾剤の具体的な量は、実際の条件に応じて調整することができる。
【0069】
本開示のリガンド修飾された量子ドット組成物、リガンド修飾された量子ドット層およびそれらの作製方法、量子ドット発光ダイオードは、種々の量子ドット発光ダイオードと表示装置、及びそれらの作製方法に適用できる。前記表示装置は、電子ペーパー、OLEDパネル、携帯電話、タブレット、テレビ、ディスプレイ、ノートブック、デジタルフォトフレーム、ナビゲータなどの表示機能を有する任意の製品または部品であってもよい。
【0070】
本開示のリガンド修飾された量子ドット組成物では、リガンド修飾剤におけるセグメントBは、鎖切断可能なセグメントであり、すなわちセグメントBは長い分子鎖であることにより、材料は良好な溶解性および安定性を有するものになるので、リガンド修飾された量子ドット組成物は、溶液やインクなどの形態で存在している。しかし、セグメントB自体はそれほど安定ではなく、一定の条件で鎖切断可能である。特定の用途では、セグメントB中の基は、加熱または光の照射によって切断され、その結果、リガンド修飾剤は短い分子鎖のリガンドとなり、それによって量子ドットが緻密に充填され、キャリアの伝送性能が改善される。
【0071】
上記の実施形態は、本開示の原理を説明するための例示的な実施形態にすぎず、本開示はこれに限定されるものではないと理解できる。本開示の精神および範囲から逸脱することなく、当業者であれば様々な変更および修正が可能であり、これらの変更および修正も本開示の範囲内にあると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8