(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】分離機構を有するインプラント
(51)【国際特許分類】
A61B 17/12 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
A61B17/12
(21)【出願番号】P 2018565668
(86)(22)【出願日】2017-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2017064530
(87)【国際公開番号】W WO2017220400
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-01-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】102016111568.1
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス,ラルフ
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】井上 哲男
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0121752(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0055440(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0296362(US,A1)
【文献】特表2012-501756(JP,A)
【文献】国際公開第02/00139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枝分かれする血管の領域内において、血管中の動脈瘤(A)の閉塞に用いられるインプラントであって、当該インプラント(1)は、前記血管内に埋め込まれる際には拡張状態とされ、前記血管内を移動可能とされる際には収縮状態とされ、また当該インプラント(1)は、血管の壁部に当該インプラント(1)を固定するのに用いることのできる近端側の固定区域(3)と、当該インプラント(1)が拡張状態において前記固定区域(3)と比較して放射方向に拡幅され、かつ前記動脈瘤(A)内または前記動脈瘤(A)の前に配されることを意図された遠端区域(5)と、前記固定区域(3)と前記遠端区域(5)との間に位置する移行区域(4)とを有し、さらに前記固定区域(3)は、第1の分離点(6)を介して分離可能な態様で挿入補助器具(2)に接続されており、
前記移行区域(4)に、前記遠端区域(5)が前記固定区域(3)から分離されることを可能とする単一の第2の分離点(7)が設けられており、
当該インプラント(1)の前記固定区域(3)は、互いに接続されたまたは互いに交差するウェブまたはワイヤにより構成され、
前記固定区域(3)に端を発する複数のウェブまたはワイヤは、前記移行区域(4)内において前記単一の第2の分離点(7)で中心に収束しており、さらに
前記第1の分離点(6)の分離機構と前記第2の分離点(7)の分離機構とが互いに異なり、
第1の分離点(6)と第2の分離点(7)とをそれぞれの分離機構に基づく分離手段により選択的に分離できることを特徴とする、インプラント。
【請求項2】
前記移行区域(4)内
の前記ウェブまたはワイヤ
が、その長さ方向の少なくとも一部において、スリーブ
により取り囲まれていることを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記第2の分離点(7)が、電解的に分離可能とされていることを特徴とする、請求項1または2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記第2の分離点(7)に近接した当該インプラント(1)の一部または全体に、電気絶縁コーティングが施されていることを特徴とする、請求項3に記載のインプラント。
【請求項5】
前記遠端区域(5)が、拡張状態において少なくとも部分的に放射方向外側を向く複数の支柱、ループまたはアーチを含んでいることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項6】
前記支柱、ループまたはアーチが、拡張状態において、当該インプラント(1)の長手方向軸に対して、-45°と+175°との間の範囲の角度を形成し、ここで正の角度値は、放射方向外側を向く支柱、ループまたはアーチを表しており、負の角度値は、放射方向内側を向く支柱、ループまたはアーチを表していることを特徴とする、請求項5に記載のインプラント。
【請求項7】
前記ループもしくはアーチの内部に被膜(8)が設けられている、または、前記支柱同士の間に被膜(8)が張られていることを特徴とする、請求項5または6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記遠端区域(5)が、拡張状態において、球状、キノコ状、アンカー状または楕円体状の形状を形成するように、放射方向に拡幅されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項9】
前記遠端区域(5)の中心部に、1つまたはいくつかの隔離要素が配されており、該隔離要素は、インプラント完了状態において、前記動脈瘤(A)の頸部を少なくとも部分的に閉塞することを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項10】
前記隔離要素が、繊維、糸、ワイヤまたは被膜(8)から形成されていることを特徴とする、請求項9に記載のインプラント。
【請求項11】
拡張状態における前記被膜(8)が、近端方向に延在することを特徴とする、請求項10に記載のインプラント。
【請求項12】
前記被膜(8)が1つまたはいくつかの開口を有するか、穿孔方法を用いて前記被膜(8)内に1つまたはいくつかの開口を形成することが可能であることを特徴とする、請求項10または11に記載のインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枝分かれする血管の領域内において、血管中の動脈瘤、とりわけ分岐部動脈瘤の閉塞に用いられるインプラントであって、当該インプラントは、血管内に埋め込まれる際には拡張状態とされ、血管内を移動可能とされる際には収縮状態とされ、また当該インプラントは、血管の壁部に当該インプラントを固定するのに用いることのできる近端側の固定区域と、拡張状態における当該インプラントが上記の固定区域と比較して放射方向に拡幅され、かつ動脈瘤内または動脈瘤の前に配されることを意図された遠端区域と、それら固定区域と遠端区域との間に位置する移行区域とを有し、上記の固定区域は、第1の分離点を介して分離可能な態様で、挿入補助器具に取り付けられ、上記の移行区域は、上記の遠端区域が分離されることを可能とする第2の分離点を有する、インプラントに関するものである。さらに、本発明は、インプラントを正しい位置に留置する方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
動静脈奇形は、患者の状態を著しく害し得るものであり、命に関わる危険をもたらすことすらある。このことは、とりわけ動脈瘤についていえ、特に脳の領域内に動脈瘤があることが発見された場合に深刻である。通常、この種の奇形については、インプラントによる閉塞が試みられる。ほとんどの場合、かかるインプラントは、カテーテルを用いた血管内手法により留置される。
【0003】
とりわけ脳動脈瘤の処置については、プラチナ製の螺旋要素をインプラントすることの価値が証明されており、かかる螺旋要素は、大なり小なり完全に動脈瘤を満たして血液の流入を大幅に防止し、局所的な血栓または凝血塊の形成を可能とし、かかる局所的な血栓または凝血塊は、動脈瘤を満たし、最終的に動脈瘤を閉鎖する。しかしながら、この手法は、血管系との連絡個所が比較的狭い動脈瘤、いわゆる房状(aciniform)動脈瘤の処置のみに適したものである。血管との連絡個所が広い血管隆起部の場合には、埋め込まれた螺旋要素またはコイルが再び外へと流され得る危険性がある。これらは、血管系の他の領域に到達し得るものであり、かかる他の領域において損傷を生じさせ得る。
【0004】
そのような場合に、既に提案されている処置として、動脈瘤の開口部に「かんぬきをする(bar)」ような種類のステントを適切な位置に配置し、これにより閉塞コイルが外に流されるのを防止する処置がある。そのようなステントは、比較的目の粗いメッシュ壁を有するように設計され、いくつかの形態の動脈瘤の処置に用いられている。
【0005】
枝分かれする血管、とりわけ血管分岐は、極めて頻繁に生じる現象である。血管壁が弱い場合には、動脈内を流れ分岐部の正面壁に作用する血流は、すぐに隆起または膨らみを生じさせ、かかる隆起または膨らみは、短い時間でさらなる膨張を呈する傾向がある。かかる分岐部動脈瘤は、広い頸部を有することが多く、そのことが、閉塞コイルのみを使用した治療の適用を妨げる。
【0006】
血管が枝分かれする領域内において動脈瘤の入口部に上記のように「かんぬきをする」のに適した血管インプラントは、たとえば、特許文献1および特許文献2に開示されている。これらによれば、インプラントが正しい位置に配置された後に挿入された閉塞コイルの結果として、動脈瘤を無害化することができる。また、インプラント自体が、動脈瘤を血流から十分に隔離することも可能である。この目的のため、インプラントは、たとえば、動脈瘤の頸部の領域内または動脈瘤の頸部の前に配置される膜を有するものとされてもよい。有用または得策であると考えられる場合には、典型的には小径のワイヤであるフィラメントのみによっても、閉塞コイルまたは他の閉塞手段の動脈瘤内への追加導入を省くことのできる程度に、動脈瘤への血流を減少させることができる。
【0007】
現行の技術水準において知られているインプラントは、実質的に伝統的なステントの形態で提供され、血管内にインプラントを固定するのに用いられる、近端区域を有する。遠端部または遠端区域が、動脈瘤内または動脈瘤の前に配置されるインプラントの遠端に設けられ、血流から動脈瘤を遮断し、かつ/または動脈瘤内に導入された閉塞手段が動脈瘤から出て血管内に入ることを防止する役割を担う。近端区域と遠端区域との間には中間区域が設けられてもよく、かかる中間区域は、分岐する血管内への血流が妨害されることを回避または最小限に抑制するために、たとえば比較的低いフィラメント密度を有する区域とされてもよい。
【0008】
シャフト状の近端区域は、キャリア血管内にインプラントを固定するのに役立つものであるが、動脈瘤の前、動脈瘤の頸部の領域内、または動脈瘤自体の内部に遠端区域を配置する際に、多くの場合において価値があることが証明されている。しかしながら、遠端区域自体が既に動脈瘤の入口領域において十分良好に係留され得るために、シャフト状の固定区域による遠端区域の追加固定が必要でない場合もある。そのような場合、血管系内における固定区域の保持は、実際には不必要である。一般に、追加のインプラントが留置されることは、そのたびに、さらなる複雑性が生じ得るリスクを包含しているという仮定を、出発点とすることができる。特に、血管の幾何学形状によっては、長すぎる固定区域は、インプラント処置中における複雑さに繋がり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2012/113554号
【文献】国際公開第2014/029835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、特許文献2に記載されているようなインプラントをベースとして、本発明の目的は、関連するインプラントであって、医師にとっては取扱いに関してより高い多様性を可能とし、とりわけ、動脈瘤の前、動脈瘤の頸部内、または動脈瘤内部に、遠端区域のみを配置することも許容するインプラントを、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、この目的は、枝分かれする血管の領域内において、血管中の動脈瘤、とりわけ分岐部動脈瘤の閉塞に用いられるインプラントであって、当該インプラントは、血管内に埋め込まれる際には拡張状態とされ、血管内を移動可能とされる際には収縮状態とされ、また当該インプラントは、血管の壁部に当該インプラントを固定するのに用いることのできる近端側の固定区域と、拡張状態における当該インプラントが上記の固定区域と比較して放射方向に拡幅され、かつ動脈瘤内または動脈瘤の前に配されることを意図された遠端区域と、それら固定区域と遠端区域との間に位置する移行区域とを有し、さらに、上記の固定区域は、第1の分離点を介して分離可能な態様で挿入補助器具に取り付けられ、上記の移行区域は、上記の遠端区域が分離されることを可能とする第2の分離点を有することを特徴とする、インプラントを提供することによって達成される。
【0012】
固定区域と遠端区域との間の移行区域内に第2の分離点を形成することは、その場にいる医師に、追加の可能性を提供する。通常のインプラント留置プロセスの際には、医師は、シャフト状の固定区域が血管系内に残留するように、第1の分離点において分離を行うことを選択することができ、そうすることにより、インプラントを所望の位置に固定することができる。インプラントの遠端区域は、動脈瘤の前または動脈瘤内に配置され、固定区域によってそこで正しい位置に保持される。
【0013】
しかしながら、遠端区域が単独で動脈瘤の頸部または内部または前に十分に固定されており、遠端区域が血流によって流されてしまう危険性がないと、その場にいる医師が判断した場合には、医師は、第2の分離点での分離を選択すると決定することもできる。この場合、遠端区域のみが血管系内に残留し、挿入補助器具は固定区域と共に引き戻され、血管外へと除去される。たとえば血管が極度に回旋している場合や動脈瘤の近傍にさらなる分岐が位置している場合等、長尺の固定区域を留置することが難点を生じさせ得ることが明白な場合にも、遠端区域のみを正しい位置に残留させることが推奨され得る。
【0014】
インプラントは、拡張および血管の内壁との接触がインプラント自体によって自動的に生じるよう、形状記憶材料によって作られた自己拡張型のインプラントであることが好ましい。あるいは、インプラント、とりわけステント状の固定区域は、縮れた状態の固定区域がその上に配されたバルーンの補助によって、またはその他の機械的手段によって、拡張されてもよい。
【0015】
固定区域は、間に開放部が存在するウェブからなる表面が実現されるように、レーザー切断によって作製されたものであってもよい、ステント状の管状構造を有している。加えて、より滑らかかつ角のないウェブとして外傷性を低くするために、電解研磨によってウェブを処理することが得策であると考えられる。このことは、細菌またはその他の不純物がウェブに付着し得る危険性も軽減させる。
【0016】
別の変更例として、上記の管状構造は、メッシュ構造を形成するワイヤ編組材料からなるものとされてもよい。この場合のワイヤは、典型的には、長手方向軸に沿って螺旋状に延在し、反対方向から来て交差するワイヤ同士が、交差点においてそれぞれの上方および下方に延在し、結果としてワイヤ間にハニカム状の開放部が形成されるように構成される。ワイヤの総数は、3から64の範囲であることが好ましい。メッシュ構造を形成するワイヤとしては、金属製の個別のワイヤが採用されてもよいが、撚糸を提供すること、すなわち好ましくは互いに撚り合わされてフィラメントを形成するように配される数本の小径のワイヤを提供することも可能である。
【0017】
拡張状態においては、インプラントの固定区域は、典型的には5から40mmの長さ、好ましくは10から20mmの長さを有する。拡張状態における直径は、通常1から10mmであり、とりわけ3から6mmとされる。そのような直径は、神経血管用途について好適である。拡張状態にあるインプラントの移行区域の長さは、通常、1から15mmの範囲内にあり、好ましくは5から12mmの範囲内にある。
【0018】
固定区域の管状構造中に形成される開放部は、全周において閉状態とされるべき、すなわち中断なしにウェブまたはワイヤによって囲まれた状態とされるべきである(いわゆる「閉細胞型設計」)。これによって、カテーテルを適切に再配置することにより、マイクロカテーテル内への固定区域の挿入が容易とされる。このことは、第2の分離点において分離を実行し、固定区域を引き戻して血管から除去することを医師が決定する場合には、重要なことである。
【0019】
その点に関連して、インプラントは、一般には、その特殊用途および設計によって区別される、ステントまたはステント様物体であると捉えることができる。ステントとの類似性はとりわけ固定区域について当てはまる。一方、遠端区域は、放射方向外側に向かって拡幅され、たとえば、外側を向いたアーチが設けられ得る。
【0020】
ワイヤまたはウェブは、とりわけ金属で作られたものとされる。特に好ましいのは、ニチノールとの名称でも知られるニッケル-チタン合金のような、形状記憶金属を用いることである。三元ニッケル-チタン合金も、採用することができる。形状記憶特性を有する他の合金、ポリマーもしくはその他の材料、または、医療用スチールもしくはコバルト-クロム合金といった伝統的なステント材料を利用することも可能である。形状記憶特性を有する材料を使用することは、解放時においてインプラントが自動的に自己の拡張形状をとるようになることを保障するという点において、有利である。ウェブまたはワイヤに金属を使用するのとは別に、これらをポリマー材料により作られたものとすることもできる。この点に関し、ポリマー材料で作られたフィラメントも、本発明の範囲に含まれるワイヤとして捉えられるべきものである。
【0021】
ウェブ/ワイヤは、円形、長円形、正方形または長方形の断面を有し得る。細いストリップの形態の平坦なウェブ/ワイヤ、とりわけ金属製のストリップも、採用することができる。正方形または長方形の断面の場合には、エッジに丸みをつけることが有利である。
【0022】
第1および第2の分離点については、異なる分離機構を選択することができる。機械的、電解的または熱的な分離機構が、特に適している。この種の分離機構は、基本的には現行の技術水準において知られている。
【0023】
機械的な分離機構は、1つの区域が、機械的手段、とりわけ形状が閉じた接続によって、インプラントの別の区域に接続される機構と解されるべきものである。しかしながら、遠端側に位置するインプラント部分を分離し解放する目的で、接続に対して外部からの影響を加えることが可能でなくてはならない。たとえば、1つの区域に接続要素が設けられ、それらの接続要素が、隣接する区域の適切に適合化された保持要素と相互作用するように構成されてもよい。この点に関し、1つの方法は、接続要素と保持要素とが形状の閉じる態様で互いにインターロックし、それによって接続を形成するように、接続要素と保持要素とが互いに組み合わされる方法である。しかしながら、医師は、形状の閉じた部分が、両要素が分離する結果をもたらすように分かれることを保障するため、特定の対策をとることができる。たとえば、接続要素が保持要素から分離されることを防ぐような包囲体によって、接続要素と保持要素とが包囲されていてもよい。しかしながら、この包囲体が除去された際、とりわけ近端方向に向かって除去された際には、接続要素は、ロック解除されて保持要素から分離し、インプラントの対象区域が解放される結果をもたらすことができる。接続要素と保持要素との間の相互作用は、鍵と鍵穴の原理に類似したものとされてもよい。包囲体は、たとえば、プラスチック材料のホース、プラスチックもしくは金属のスリーブ、金属の螺旋体であってもよいし、あるいはそれらの組合せからなるものであってもよい。第1の分離点に対してこの分離機構が設けられた場合には、たとえばトルクに補助された意図しない位置ずれを排除するために、締付具によって包囲体を挿入補助器具に固定することが可能である。この場合、包囲体は、挿入補助器具全体を覆う必要はなく、保持要素と挿入補助器具の遠端部分とを覆うように包囲体を延設すれば十分である。
【0024】
分離を実現するために、インプラントの留置目的を意図したマイクロカテーテルを利用することも可能である。この場合、マイクロカテーテルが第1の分離点を超えて近端方向へと引き戻された際に、第1の分離点において、固定区域が挿入補助器具から分離される。しかしながら、この場合には、分離が第1の分離点の位置において生じることが真に意図されているときにのみ、マイクロカテーテルが第1の分離点を超えて近端方向へと引き戻されるように、注意が払われなくてはならない。
【0025】
接続要素は、たとえば、球状の形状のものであって、分離が生じない限り、保持要素に設けられた対応の凹部によって球状部が包囲されるような構成のものとされてもよい。接続要素と保持要素とを一体に保持する外部の制約が除去されるとただちに、球状の接続要素が凹部から脱離し、分離が生じる。これに続き、分離点より近端側に配されているインプラント部分、すなわち第1の分離点の場合には挿入補助器具、第2の分離点の場合には挿入補助器具および固定区域を、引き戻すことができる。言うまでもなく、接続要素は球状でなくてもよく、他の種類の幾何学形状、とりわけ形状が閉じた態様で保持要素によってグリップされ得る肉厚部/スラブの形状も、好適である。個々の接続要素それぞれに対して単一の凹部を設けることは必須ではなく、それに代えて、たとえば複数の接続要素が内部に保持される凹部として機能するような、周縁溝が配されてもよい。また、接続要素がより遠端方向側に位置する区域に配され、保持要素が近端方向に隣接した区域に配されるような態様も、たとえば固定区域において挿入補助器具の接続要素が保持要素によって形状が閉じるように包接される等の逆の配置態様と同様に、考えられ得るものである。
【0026】
インプラントの電解的な分離は、たとえば動脈瘤を閉塞する目的で使用される閉塞コイルに関連して、現行の技術水準において実用上よく知られている。関連する分離点については、たとえば国際公開第2011/147567号に記述がある。その原理は、電圧が印加されると、通常、適切な材料(とりわけ金属)で形成された適切な設計の分離点が、少なくとも対応の分離点よりも遠端側に位置するインプラント領域が解放される程度に、陽極酸化によって分解されるという事実に基づいている。分離点は、たとえば、ステンレス鋼、マグネシウム、マグネシウム合金、またはコバルト-クロム合金から作られたものとされてもよい。
【0027】
分離点の分解は、電圧の印加によってもたらされる。電力は、交流であっても直流であってもよく、低い電流強度(<3mA)で十分である。この場合における分離点は、通常、その金属が酸化され分解される陽極として機能する。
【0028】
電解による分断は、電源を用いて所望の分離点に電圧を印加することによって実現される。既に述べたように、この分離点は通常陽極として作用し、陰極は、たとえば体表面上に配されてもよい。分離点は、導電可能な態様で電源と接続されなくてはならず、とりわけ挿入補助器具を介して接続される点を理解されたい。この目的のため、挿入補助器具自体も、導電可能な設計とされなくてはならない。分解を誘発する電流は陰極の表面による影響を受けるという事実のため、陰極の表面は、陽極の表面よりも有意に大きくされるべきである。分離点が分解される速さは、陽極表面との関係において陰極表面を適切なサイズとすることにより、ある程度制御することができる。したがって、本発明は、電源と、適用可能かつ適切な場合において体表面上に配される電極とを含む、装置にも関するものである。
【0029】
第2の電極を体表面上に配するのではなく、両極をインプラント上に直接配することも可能である。その場合、分離点の分解はさらに加速される。
【0030】
電解分離点は、典型的には0.05から0.5mmの範囲の長さ、とりわけ約0.2mmの長さを有し、0.04から0.5mmの範囲の直径、とりわけ約0.1mmの直径を有する。
【0031】
分離点における電流の十分な集中を実現するために、近接した領域に電気絶縁コーティングを施すことが得策であると考えられる。たとえば、第2の分離点が電解的に分離可能であるように設計されている場合には、第2の分離点に近接したインプラントの一部または全体に、電気絶縁コーティングを施すことが推奨される。特に、第1の分離点と第2の分離点との間に、絶縁の手当てをすることが推奨される。たとえばパリレンが、コーティングとして使用され得る。
【0032】
また、電解的手段と機械的手段とによって分離方法が組み合わされるような分離点を提供することも可能である。機械的接続、とりわけ形状の閉じた態様によりもたらされる機械的接続が、接続要素と保持要素との間に確立され、機械的接続を持続させる要素が電解によって分解されるまで、この接続が維持される。1つのバリエーションによれば、形状が閉じる部分を介して保持要素によって正しい位置に保持されるインプラントの一区域に、肉厚部/スラブが配され、保持要素の一部が電解により分解可能なように設計され、それにより、当該一部が電解により分解された際に分離が実現されるよう構成される。たとえば、第1の分離点におけるインプラントの分離は、挿入補助器具上の保持要素の一部を電解により分解することによって、実現され得る。この場合における分解可能な部分は、保持要素内に突出した肉厚部が脱離してしまうことを防止するような態様で構成されている。たとえば、この分解可能な部分としては、肉厚部同士の間に配されたピンであって、保持手段から分離できないようにそれらの肉厚部同士を離間した状態に保つピンが考えられる。電解により分離可能であるように設計された保持要素の部分により制御される形状の閉じた部分を介して、挿入補助器具上の保持要素においてインプラントを固定しておくことは、精確な留置の観点から、さらに場合によってはインプラントの再配置または引戻しの観点から、利点をもたらすものである。
【0033】
さらに別の可能性は、保持要素の分解可能であるように設計された部分が、開口を有するディスクの形態で提供され、接続要素の肉厚部/スラブが、その開口を通って延設され、開口の直径は、ディスクが元の状態のままである限りは肉厚部が開口を通過できないように適合化されているような態様を含む。電圧印加によってディスクが少なくとも部分的に分解された後においてのみ、インプラントの肉厚部は、保持要素から脱離することができる。
【0034】
別のオプションとして、分離点は、熱的に分離される点として設計することもできる。熱的な分離点を用いた場合、分離点を加熱して、分離が実現されるように分離点を軟化または溶解させることによって、インプラントの長手方向に沿って隣接する区域間の接続を断絶することができる。
【0035】
好適には、第1の分離点と第2の分離点とについて、異なる分離機構が選択される。こうすることにより、関係する必要条件に応じて、所望の分離点を処置するために、その目的に合致した異なる方策をとることができる。たとえば、以下のような組合せが可能である。
【表1】
【0036】
第1の分離点が機械的に分離可能であるように設計され、第2の分離点が電解的に分離可能とされるような組合せが、好適である。
【0037】
好ましくは、インプラントは、長手方向に沿って見ると、固定区域に端を発して、移行区域内において密接に収束し、その後、遠端区域内において再度拡幅する。したがって、長手方向に沿ったインプラントの断面は、遠端区域内または固定区域内と比較して、移行区域内においてはかなり小さい。移行区域内においては、1つのみまたは数個のみのウェブまたはワイヤが互いに近接して配され、それにより、インプラントの柔軟性が向上させられる。多くの動脈瘤は、規則的な形状ではなく、たとえば片側に傾いたような形状を有しているため、高い柔軟性は望ましい。柔軟性のある移行区域は、遠端区域が動脈瘤の形状に最適に適合化することを保障するのに役立ち得る。
【0038】
移行区域内のウェブ/ワイヤは、移行区域内においてそれらウェブ/ワイヤを一体に保持するスリーブの中を、少なくともある程度通るように走るものとされてもよい。これに関連して、「ある程度」とは、移行区域内のウェブ/ワイヤがその全長に亘ってスリーブ中を通っていることは必ずしも必要ではなく、移行区域内におけるウェブ/ワイヤの長さの一部がスリーブにより囲まれていれば十分であることを意味する。換言すると、スリーブは、移行区域および移行区域を形成するウェブ/ワイヤよりも、短尺であってもよい。
【0039】
ウェブ/ワイヤが移行区域内においてスリーブによって一体に保持されているという事実によれば、ウェブ/ワイヤは、ある程度は互いに対して相対移動可能なままとされるが、意図する範囲を超えて放射方向に広がることは防止される。このことは、1つまたはいくつかのウェブ/ワイヤが、移行区域内において放射方向に広がってしまうことを防止する。にもかかわらず、このインプラントは、移行区域の領域において柔軟性が非常に高く、そのため、血管および動脈瘤の形状に良好に適合することができる。このことは、非対称性の強い動脈瘤、および片側に傾いた動脈瘤の処置のためには、特に重要である。
【0040】
移行区域の細い設計は、分岐する血管への血流が、全くまたはほとんど損なわれないことも保障する。換言すると、固定区域が、必要な場合にキャリア血管内にインプラントをしっかり固定する結果をもたらし、移行区域が、分岐する血管へのまたは分岐する血管からの妨害されない血流に加えて、十分な柔軟性を提供し、さらに遠端区域が、動脈瘤の閉塞を提供することにより、遠端区域は、動脈瘤内への血流を直接的に最小化するか、動脈瘤内に導入された閉塞手段が動脈瘤内に留まるように保障することができる。
【0041】
動脈瘤の形状およびインプラントの形状に応じて、遠端区域は、動脈瘤自体の内部に配されてもよいし、動脈瘤の前、すなわちキャリア血管の側における動脈瘤頸部の前面に配されてもよい。これに関連して、動脈瘤内部への配置は、動脈瘤の頸部内への配置を包含するとも考えることができ、かかる頸部はそれぞれの動脈瘤の一部を形成する。通常、遠端区域は、動脈瘤の入口領域内に配置される。
【0042】
「スリーブ」との用語は、広義に理解されるべきものである。すなわち、「スリーブ」は、短い管状物の形状で付与されるものであってもよいが、ウェブ/ワイヤが通ることのできる内部キャビティを有するものである限りは、他の形状または構成を用いてもよい。たとえば、スリーブは、カラーの形態で付与されてもよい。とりわけ、スリーブは、内部キャビティを有するワイヤコイルであってもよい。
【0043】
インプラントが収縮させられている際に、スリーブが滑ったり、固定区域または遠端区域の領域内に位置ずれしたりしないことが重要である。この場合、そのようにしないと、スリーブが、解放された後のインプラントの拡張を妨害する事態が生じるおそれがある。インプラントの個々の区域の寸法によってはインプラントが滑ってしまう可能性を排除できない場合には、スリーブの近端側および/または遠端側にストッパーを配置することが、道理に適い推奨されるかもしれない。そのようなストッパーは、スリーブがそのストッパーの位置を超えて滑るまたは変位することを防止する。かかるストッパーは、たとえば、移行区域内における放射方向の延設部の形態で設けられてもよい。
【0044】
スリーブが滑るのを防止する別の方法としては、移行区域内において1つまたはいくつかのウェブ/ワイヤに小穴を設ける方法であって、インプラントの長手方向におけるスリーブの可動性が制限されるように、スリーブが、いかなる場合にも部分的にはその小穴を通って延在するようになす方法が挙げられる。この小穴は、たとえば、移行区域内においてより大きな断面を有する1つまたはいくつかのウェブ/ワイヤと、そのより大きな断面の領域内においてウェブ/ワイヤ内に存在する開口とによって、形成され得る。十分な柔軟性を保障するために長手方向におけるスリーブの動きがある程度は許容されるが、かかる長手方向における動きが小穴の遠端部および近端部によって制限されるように、上記の開口は、典型的には長円形の形状を有する。通常、かかる開口は、インプラントの長手方向軸に対して実質的に直交するように設けられている。通常、小穴がなければウェブ/ワイヤがスリーブによって包囲されるように、それぞれのウェブ/ワイヤ内の小穴は外側に設けられ、スリーブが小穴の中を移動する。しかしながら、小穴がそれぞれのウェブ/ワイヤから移行区域の中心に向かって突出するような、逆の場合も考えられる。この場合も、スリーブは小穴を通るように延在するが、ウェブ/ワイヤの残りの部分は、スリーブの外側に位置することとなる。
【0045】
スリーブが、少なくとも部分的に、放射線不透過性の材料で形成されていると、特に有利である。このことは、典型的にはインプラント上の他の放射線不透過性のマーカーと協働して、可視化を実現すること、したがってインプラントの埋込プロセスの制御を可能とする。この点に関し、スリーブは、プラチナ、プラチナ-イリジウムのようなプラチナ合金、または金から作製されることが好ましい。関連材料からスリーブ(たとえばワイヤ螺旋要素またはコイル)を作製することも可能であるが、コーティング、たとえば金コーティングを行うことも考えられる。
【0046】
ウェブ/ワイヤの互いに対するいくらかの可動性を維持するためには、移行区域内において、ウェブ/ワイヤが互いに対して平行に走っていることが好ましい。ウェブ/ワイヤがわずかに捩れた状態であることも考えられるが、この捩れは、インプラントの適合性を危うくしないため、あまり固い捩れとされるべきではない。
【0047】
インプラントの留置プロセスに関し、「近端側」および「遠端側」との用語は、その場にいる医師側を向くインプラントの部分(近端側)、または、場合によっては、その場にいる医師から離れる方を向く部分(遠端側)を指すものであると理解されたい。したがって、典型的には、インプラントは、カテーテルの助けを借りながら遠端方向に向かって送り出される。「軸方向」との用語は、近端側から遠端側へと延びるインプラントの長手方向軸を指すものであり、一方、「放射方向」との用語は、軸方向と垂直に広がる水準/平面を指すものである。
【0048】
固定区域は、その近端部において、第1の分離点を介して、挿入補助器具に接続される。典型的には、固定区域のウェブ/ワイヤは、第1の分離点の方向において収束する。第1の分離点は、好ましくは周縁部に位置させられ、すなわち、拡張形態における固定区域の外周に亘って偏心した態様で配され、留置が完了してインプラントがその拡張形態に従っている状況下においては、血管壁と接触した状態とさせられる。数個、好ましくは2、3個の結合要素を形成するように、固定区域が近端部において収束するようになすことも可能である。かかる構成によれば、それらの結合要素は、好適にはここでも、固定区域の外周上に偏心した態様で、放射方向のエッジ領域に位置させられる。それらの結合要素は、続いて、第1の分離点を介して挿入補助器具に接続される。いくつかの結合要素を設けることは、インプラントの引戻しの容易性を改善し得るものであり、とりわけ固定区域が比較的短い場合においてはそう言える。挿入補助器具は、とりわけ押込ワイヤとされる。固定区域の近端部における第1の分離点の偏心的な配置は、正しい位置に留置できなかった際に、留置用カテーテル内にインプラントを引き戻すことを容易にする。加えて、偏心的配置とされた分離点は、血流を妨害する度合いがより低く、とりわけ固定区域が血管内に恒久的に残留する場合においてはそう言える。挿入補助器具は、好ましくは、ステンレス鋼、ニチノール、またはコバルト-クロム合金から作られたものとされる。
【0049】
固定区域によって、インプラントは、そのインプラントが埋め込まれる血管の壁部に寄り掛った状態となり、そのようにして固定される。この領域内においては、血管は損傷を受けず、したがってステント壁部と類似の固定区域を支持することができる。形状記憶材料(とりわけ形状記憶金属であり、好ましくはニッケル-チタン合金)で作られた自己拡張型のインプラントの場合、インプラントがカテーテルから解放されると、固定区域は自動的に血管壁と接触状態とされ、一方、正しい位置に配置されバルーンによって拡張されるインプラントは、この領域内において留置用バルーンを介して血管壁に押し付けられる。自己拡張型のインプラントの方が好ましい。しかしながら、固定区域による固定が不要であると判明した場合には、第2の分離点における分離も行うことができ、その場合、遠端区域の留置後において、挿入補助器具と共に固定区域が除去される。
【0050】
固定区域と比較して、さらに移行区域と比較してはよりいっそう、遠端区域は放射方向外側に拡大されている場合がほとんどである。この遠端区域は、動脈瘤自体の内部に、または、動脈瘤への連絡領域内すなわち動脈瘤頸部であって、動脈瘤内に導入された閉塞手段が脱離するのを当該遠端区域が遮断するまたは防止する個所に、配置されるのに役立つ。一番重要なのは、最終的に動脈瘤内で血液の凝固が生じることである。一方、動脈瘤内に導入された閉塞手段が動脈瘤から脱離するのを防ぐため、または、十分な量の材料に起因して高密表面を形成するために、表面のカバー範囲は、十分大きくなくてはならない。また一方、分岐部動脈瘤の領域内への導入を可能とするために、インプラントの十分高い柔軟性は、依然として維持されなくてはならない。
【0051】
拡張状態にある際、遠端区域は、放射方向外側を向いている支柱、ループまたはアーチを有していてもよい。これらは、インプラントを動脈瘤の内部または動脈瘤の前に係留する役割を担う。したがって、遠端側から見ると、インプラントは、遠端区域内において花が開いたような形状を示すことが多い。たとえば、放射方向に拡張された遠端区域は、2から20mmの放射方向直径、好ましくは5から15mmの放射方向直径を有し得る。通常、少なくとも2つの支柱/ループ/アーチ、特に3つ以上の支柱/ループ/アーチが存在する。典型的には、支柱/ループ/アーチの数は1から24の範囲内であり、好ましくは2から8の範囲内である。かかる支柱、ループまたはアーチは、適切に形成されたワイヤ要素から作られたものであってもよいが、インプラントが管状物から切り出されたものである場合には、その管状物が切出後に曝されるレーザー切断法であって、通常はその後に熱処理が続くようなレーザー切断法を採用することによって、それらの支柱、ループまたはアーチが作製されてもよい。それらの支柱、ループまたはアーチは、たとえばレーザー溶接法を採用することにより、取り付けることができる。ループまたはアーチが付与される場合には、それらのループまたはアーチは、移行区域から生じ、その後湾曲部を形成して移行区域に戻るような、複数のワイヤ要素からなるものとされることが好ましいが、それらのループ/アーチは、基本的には、任意選択的に複雑な構成を有するものとされてもよい。これらは特に、ループまたはアーチの形状または構成に依存して、三次元物体とされてもよい。また、ループまたはアーチは、無傷性が高く、動脈瘤の繊細な血管壁部が損傷を受けずに維持されることを保障するものとされるべきである。しかしながら、固定区域および移行区域と比較した遠端区域の放射方向の拡張/拡大を実現できるような、他のフィラメントまたは支柱を採用してもよい。かかる拡張は、たとえば、ラッパ状、バスケット状、もしくは花が開いたような形状のものであってもよく、あるいは編物形態で付与されてもよい。外向きに突出する支柱は、放射方向内側において同心円状に整列させられることが好ましい。同時に、それらの支柱は、遠端方向に突出させられてもよい。たとえば、2つ以上の支柱が、1つの相互接続点からそれぞれ生じていてもよい。
【0052】
留置後において支柱/ループ/アーチがインプラントの長手方向軸に対して形成する角度は、-45°と+175°との間の範囲内であり、ここで正の角度値は、放射方向外側を向く支柱/ループ/アーチを表しており、負の角度値は、放射方向内側を向く支柱/ループ/アーチを表している。比較的規則的な形状の分岐部動脈瘤の場合には、上記の角度は、+45°と+90°との間の範囲内であることが好ましい。一方、不規則な形状、とりわけ非対称性が極めて高い形状の動脈瘤に遭遇することも時折ある。その場合には、大幅に逸脱する角度の支柱/ループ/アーチを提供することが得策であることもある。たとえば、動脈瘤の一領域内の壁部が血液供給血管の方にはみ出すように大きく膨らんでいるような場合には、非常に大きな角度を与えることが有用であるかもしれない。そのような場合には、90°を超える角度が考えられる。他の例では、支柱/ループ/アーチの一部を、内側を向くようになすこと、すなわち動脈瘤の壁部への適合を可能とするために負の角度値を選択することも、有用であるかもしれない。しかしながら、非常に狭い移行区域を有するインプラントの場合には、移行区域の柔軟性のみによって、とりわけ大きなまたは小さな角度値を予め設定することを必要とせずとも、支柱/ループ/アーチが動脈瘤の形状に良好に適合できることが意味される。これらの角度は様々に変化してもよく、たとえば、非対称形状の動脈瘤の場合には、いくつかのループには90°を超える角度を付与する一方、他のループは45°と90°との間の通例の角度を形成するようになすことが、有用で得策であるかもしれない。ここで、これらの角度が、留置が完了した後に形成されることが重要である。しかしながら、インプラントの留置前の状態においては、たとえば外部からの力のためにここに示した角度がまだ形成されていないようなインプラントも、本発明によれば適切である。
【0053】
支柱/ループ/アーチがインプラントの長手方向軸に対して形成する角度は、たとえば、45°と90°との間の範囲、-45°と0°との間の範囲、90°と135°との間の範囲、または135°と175°との間の範囲とされてもよい。
【0054】
遠端区域内の支柱/ループ/アーチは、その余のインプラント構造を形成するウェブ/ワイヤの続きであってもよいが、その余のインプラント構造の遠端領域、すなわち移行区域の遠端部に、たとえばレーザー溶接技術を用いることにより取り付けられた、別個のフィラメントであってもよい。この点に関し、遠端区域の各支柱、各ループまたは各アーチは、1つまたは複数の接続点を介してその余のインプラント構造に接続されてもよく、とりわけ、ループ/支柱/アーチごとに1つまたは2つのみの接続点が設けられ得る。
【0055】
ループまたはアーチを含む遠端区域の設計に代わるものとして、拡張状態における遠端区域は、球状、キノコ状、アンカー状または楕円体状の形状に拡張されてもよい。上記で述べた形状は、放射方向に拡張した遠端区域を形成するのにも採用し得る代替形態であると、捉えられるべきものである。規則的な形状の分岐部動脈瘤は基本的に球状の形態で存在することが多いので、たとえば球状の区域は、動脈瘤の内壁に良好に合致することができる。この点に関し、本発明の範囲内において、球状の形状とは、幾何学定義によるような真球の形状に限定される必要はなく、真球からは逸脱するが丸みのある三次元形状であって、本発明で意味するところにおいて球体であるとみなされる形状を有していてもよい点に、留意されたい。いくつかのケースでは、断面の形状が楕円面に匹敵する場合もあるが、ここでも、本発明で意味するところにおいて楕円体状であるとみなされるためには、必ずしも厳密な回転楕円体でなくてもよい点を理解されたい。さらに、区域がキノコ状またはアンカー状の形状を有するものであってもよく、それらの形状は、不規則形状の動脈瘤の処置、たとえば動脈瘤の壁部が供給血管の方向に顕著な膨らみを呈する場合の処置に、特に適している。キノコ状またはアンカー状の形状の場合、これは、区域の一部の領域が近端方向に延在することにおいて、実現することができる。ここで、キノコ状またはアンカー状の形状の断面も、非対称形状であってよく、たとえば、片側においてのみ近端方向に延在する領域を有するものであってもよい点を理解されたい。遠端区域は、レーザー切断技術により形成されてもよいし、あるいは、好ましくは8から128本のウェブもしくはワイヤが用いられた、編物設計とされてもよい。
【0056】
遠端区域内では、動脈瘤を塞ぐ観点で、すなわち閉塞手段の脱離を防止するかつ/または遠端区域を血流から隔離する観点で、中心領域が設けられてもよい。この目的のために設けられる要素を、隔離要素と呼ぶこととする。一方では、この領域は、導入された繊維、糸、細いワイヤ、被膜、または類似の隔離要素を含むように設計されてもよいが、また一方では、それらの隔離要素が、基本の管状物から切り出され適切に変形させられたものであってもよく、あるいはワイヤを(たとえばループまたは紐の形状に)編んだものとして構成されたものであってもよいという点で、この領域は、インプラントの一体化された一部であってもよい。ループまたは紐の場合には、これらの要素は、少なくともほとんどの部分が外側を向く上記で述べた遠端区域内のループとは異なり、インプラントの管腔内に向かって放射方向内側に向くものとされる。内側を向くように配されたループ/紐が互いに干渉し合わないよう保障するためには、それらのループ/紐を非対称に設計されたものとすることが得策であるかもしれない。数は、インプラントの構造に応じて変化し得る。
【0057】
隔離要素を構成する糸は、ポリマー材料で形成されたものであってもよく、たとえばナイロン(ポリヘキサメチレンアジピン酸アミド)等のポリアミドによって形成されたものであってもよい。また、この目的のために金属を用いることも可能であり、中でも、形状記憶合金、とりわけ、ニチノールのようなニッケル-チタン合金が好ましい。
【0058】
別の可能性としては、血液に対して高い不透性を示すまたは完全不透性である被膜を、隔離要素として付与することが考えられ、これにより、動脈瘤を血流から隔離することが可能となる。動脈瘤を血流からほぼ完全に隔離することができる場合には、動脈瘤内への閉塞手段の導入は、環境が許せば省略することができ、それにより、この場合の隔離要素は、閉塞手段を保持する役割は担わないこととなる。被膜は、支柱/ループ/アーチに固定されてもよいし、かつ/または、糸もしくはワイヤの編物構造の上に張られてもよい。たとえば、糸またはワイヤが、その上方または直上に被膜が張られる構造を形成してもよい。加えて、たとえば交差または十字線を形成するように延在または配置させられたものであってもよい、さらなる糸/ワイヤも考えられる。しかしながら、糸またはワイヤを配置することは必ずしもこの目的のために必須ではなく、遠端区域の中心領域は、追加の糸またはワイヤを用いることなく広げられてもよい。
【0059】
被膜は、インプラントがカテーテル内に配置されている際に、遠端方向または近端方向にコンパクトに折れてまとまり、それにより、拡張状態において不透性の高い隔離要素を有し、かつ収縮状態において狭い血管内を簡単に通過することのできるインプラントを、利用可能とすることができるという点において、隔離要素として被膜を設けることは、有利であると考えられる。この点以外は、隔離要素を含まないインプラントとの比較において、上記で説明したインプラントの構造は、大体の点において同一である。
【0060】
しかしながら、隔離要素として被膜が設けられた場合においても、追加で閉塞手段を動脈瘤内に導入することが、依然として有利であるかもしれない。この理由のため、1つまたはいくつかの切欠きを有する被膜であって、それにより、閉塞手段、とりわけコイルが、それらの切欠きを介して動脈瘤内に配置され得るような被膜を使用することが、得策であるかもしれない。それぞれの閉塞手段の留置がカテーテルを介して行われる場合、上記の切欠きは、同切欠きを介して動脈瘤の領域内にこのカテーテルを挿入することが可能であるように、適切なサイズとされるべきである。一方、動脈瘤の頸部は、閉塞手段が制御されない態様で動脈瘤から脱離することを防止できる程度に、カバーされるべきであり、この場合、被膜の領域に亘って広がる任意の糸/ワイヤが、追加の保持機能を発揮するかもしれない。その場合、言うまでもないことであるが、そこを通過して閉塞手段を導入するカテーテルと干渉しないように、糸またはワイヤは、あまり緊密な間隔とされてはならない。
【0061】
閉塞手段が動脈瘤に導入されるのを可能とするために、被膜は、部分的に穿孔可能なように設計されてもよく、その場合、かかる穿孔効果は、典型的にはマイクロカテーテルまたはガイドワイヤによってもたらされる。そのように形成された開口を介して、その後マイクロカテーテルが挿入され、そのマイクロカテーテルによって、閉塞手段が正しい位置に配置される。被膜は、閉塞手段が再び脱離するのを防止し続けることを保障するため、穿孔された後にも部分的に無傷のままとなるよう設計されるべきである。たとえば、追加の隔離要素として配された糸またはワイヤであって、十字線の形態に構成されたものであってもよい糸またはワイヤは、穿孔された際に被膜の一区画のみが開口を形成し、被膜の他の区画は、被膜の周辺領域が安定化させられ糸/ワイヤにより断裂に対して保護されているという事実により、カバーされたままに維持されるよう、保障し得る。隔離要素として設けられた被膜は、部分的にのみ穿孔される単一の被膜であってもよいし、より小さないくつかの被膜からなっていてもよい。
【0062】
隔離要素として被膜を設ける代わりに、あるいは隔離要素として被膜を設けるのに加えて、遠端区域を形成する(ワイヤ)ループまたはアーチの内側に被膜を設けることが、有用または得策であることもある。被膜は、遠端区域の支柱同士の間に設けられてもよい。また、球状、キノコ状、アンカー状または楕円体状の形状の遠端区域も、被膜で覆われたものとされてもよい。これらの被膜は、動脈瘤の前または動脈瘤の入口領域内に配された際、枝分かれする血管の方向に血流を方向転換させるか、動脈瘤内への血液の流入を防止するために用いることができる。
【0063】
被膜は、ループ/アーチの内側および隔離要素に限定される必要はなく、支柱、ループまたはアーチが被膜を正しい場所に保持する役割を担い得るように、遠端区域の全体に亘って張られてもよい。たとえば、被膜は、支柱、ループまたはアーチ同士の間の中間スペース内に配されてもよい。
【0064】
遠端区域の全部または一部が、ループではないフィラメントにより形成されている場合においてさえも、この位置に被膜を配置することは可能である。たとえば、放射方向外側に向かって突出する複数の支柱によって、1つまたはいくつかの被膜が掲げられ得る。そのような場合は、傘に似た構造となる。すなわち、遠端区域が拡張している際、畳まれた状態から展開される支柱は、それらの間に、1つの連続した被膜またはいくつかの被膜を立ち上げる。複数の支柱と、このように対応の数の支柱端部とを設けることにより、より大きくかつより円形に近い領域を被膜によりカバーすることができ、その結果、中間スペースのサイズは小さくなる。
【0065】
被膜の限界を定め、かつ被膜を強化する目的のために、個々の支柱/ループ/アーチの間にも糸が渡されてもよい。すなわち、支柱/ループ/アーチを互いに接続する役割を担う1つまたはいくつかの糸により、被膜は、それらの側方において少なくとも部分的に限界を定められる。そのように関係する被膜の限界を定めることは、必ずしもあらゆる方向において糸を介して行われる必要はなく、支柱/ループ/アーチ自体さえ、ある程度はこの目的を果たし得る。たとえば、被膜の内縁が支柱/ループ/アーチにより形成される一方、さらに遠端方向に位置することの多い被膜の外縁は、糸により境界を画定されてもよい。こうすることにより、側方において限界を定める構成を有さない被膜と比較して、損傷や割れの回避が可能となるよう、被膜の追加の保護を実現することができる。糸は、ナイロンのようなポリアミドで作られていることが好ましい。
【0066】
被膜(隔離要素として用いられるか、遠端区域の他の領域内に配されるかにかかわらず)は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンまたはポリオレフィンといったような、ポリマー材料から作られたものであってもよい。特に好ましいのは、ポリカーボネートウレタンである。追加の隔離要素として適用可能な個所に糸またはワイヤが付与された、被膜の一体的な接続が提供されることが、特に望ましい。かかる接続は、含浸またはスプレー技術によって、糸/ワイヤをコーティングすることによって実現され得る。
【0067】
好ましくは、被膜は電界紡糸プロセスによって生成される。電流を適用することにより、ポリマー溶液から小線維または繊維が分離され、基体上に堆積させられる。かかる堆積は、小線維を不織布へと凝集させる。通常、小線維は100から3000nmの範囲の直径を有する。電界紡糸によって生成される被膜は、非常に均一性の高いテクスチャを有し、糸またはワイヤからなる基本構造を内部に包含することができる。かかる被膜は強固であり、機械的応力に耐え、穿孔により形成される開口をかかる開口から伝搬する割れへと繋げることなく、機械的に穿孔され得る。小線維の厚みおよび多孔性の度合いは、処理パラメータを適切に選択することにより制御することができる。被膜の作製およびこの目的に適した材料に関しては、特に、国際公開第2008/049386号、独国特許出願公開第2806030号明細書、およびそれらの文献内で言及されている文献を参照されたい。
【0068】
インプラントの内側と接触する被膜を隔離要素として用い、かかる被膜がさらに、遠端区域の個々のループまたはアーチ内を満たす別の外側被膜区域に取外し不能に取り付けられているような構成のインプラントも、有利である。かかる被膜構造は、電界紡糸によって作製することができる。この場合には、内側被膜区域と外側被膜区域とが部分的に接続され、内側被膜区域が外側被膜区域との接続を有さない個所においては、内側被膜区域はナイロン製ストッキングに似たような態様で収縮し、その結果、閉塞手段の導入のための開口が形成される。
【0069】
被膜は、電界紡糸法を用いるのに代えて、含浸プロセスによっても作製することができる。
【0070】
隔離要素としての役割を果たす被膜は、(拡張状態において)いかなる場合においてもインプラントの長手方向軸に対して垂直な平面上になくてはならない訳ではなく、拡張状態において近端方向への整列を有していてもよい。その場合、被膜は、その周縁領域においてはインプラントの外周に固定されるが、被膜の中央領域は、近端方向に延在する。このようにして、円錐/角錐の基部が長手方向軸に対して垂直に配向された円錐状または角錐状の形状が形成され、ここで、被膜は、周縁領域においてはインプラントに取り付けられているが、円錐/角錐の頂点は、ずっと近端側に寄った位置に配されている。こうすることにより、被膜と接触するに至った血流は分流され横方向に流されるので、動脈瘤内への血液の浸入を大幅に防止することができる。
【0071】
隔離要素として付与された被膜が円錐状または角錐状の形状を有している場合においても、被膜に1つまたは複数の切欠きを設けることは可能であり、それにより、インプラントが正しい位置に留置された後に、かかる切欠きを介して動脈瘤内に閉塞手段を導入することが継続可能なよう保障することができる。
【0072】
被膜の円錐状または角錐状の形状を永続的に維持可能とするよう保障するためには、被膜は、糸またはワイヤの枠組構造に固定されるべきであるが、この構造は基本的には、インプラントを形成する構造からたとえばレーザーによって切り出された、紐/ランドからなるものとされてもよい。この場合には、血液による圧力の影響として被膜の向きが変わるまたは被膜が内側にひっくり返る事態を防止するために、糸/ワイヤを十分な剛性のものとするよう、注意しなくてはならない。この点に関し、追加の糸またはワイヤを導入することが必要となる場合もある。
【0073】
別の可能な形態としては、比較的長い2本の個々の糸からなる十字線構造を形成し、その十字線構造に被膜を取り付ける形態が可能であり、このとき、被膜は、個々の糸の長さに起因して、当初は引張状態とはされない。さらに、1つまたはいくつかの糸が、インプラントのさらなる近端側に位置するループに取り付けられてもよく、それにより、インプラントが引延ばし状態とされるや否や、十字線構造したがって被膜が、近端方向に張られる/引っ張られる。しかしながら、十字線構造は、必ずしも2本の糸のみで構成されなくてはならないものではなく、被膜上に構造を付与するタイプの枠組を構築するような、ほとんど無限の構成を含む他の糸の編み方も考えられる点を理解されたい。
【0074】
全般的な話としていえば、隔離要素を伴うものであってもよい遠端区域が、その意図する機能、すなわち、動脈瘤内に導入された閉塞手段(たとえば閉塞コイル)を高い信頼性で保持する機能、またはさらなる閉塞手段が不要となる程度に血流を逸らす機能を果たすことが、本発明にとって重要である。拡張状態のインプラントにおいては、隔離要素はまた、インプラントの長手方向軸に対して垂直に配された少なくとも1つの要素を有する。
【0075】
繊維、糸または細いワイヤの挿入により隔離要素が形成される場合には、交差形状または星型形状のパターンに従って糸を結んで固定することのできる複数の小穴を、遠端区域内に配置することが推奨される。これらの小穴は、繊維材料により適切に作られ得る。糸/繊維は、たとえば、ポリアミド(ナイロン)のような適当なポリマーからなるものであってもよいし、金属繊維から構成されていてもよい。
【0076】
しかしながら、管状材料から切り出され、インプラントの本体内へと湾曲させられたアーチまたは(ワイヤ)ループも、隔離要素として用いることができる。この目的のためには、少なくとも1つのアーチ/ループが必要である。2個から4個のアーチ/ループが用いられれば、これらのアーチ/ループは、動脈瘤内に導入された閉塞手段を高い信頼性で保持する、安定した隔離要素を形成する。
【0077】
インプラントを収縮状態とする際には、ループは典型的には近端方向に伸びており、したがってインプラントの他の要素に寄り掛っているので、インプラントは、問題を生じることなくカテーテルを介して容易に移動させられ得る。ループ同士の間にスロット形状の開口が残されて、かかる開口を介して閉塞手段を動脈瘤内に挿入できるように構成してもよい。しかしながら、かかる態様に代えて、可能な限り不透性の高い隔離要素を実現することを可能とするように、ループおよび/またはループ間のスペースに被膜を設ける態様も、可能である。基本的には、1つまたはいくつかの開口が設けられた被膜も、用いることができる。
【0078】
隔離要素を設計することまたは遠端区域に被膜を付与することに関連する様々な可能性については、特許文献2も参照されたい。この文献の内容も、本発明の開示内容に含まれるものとする。
【0079】
本発明により提供されるインプラントの遠端区域は、特に、無傷性で、柔らかく、柔軟であるように設計される。動脈瘤の壁部はかなり繊細であり、力が加えられると破れかねないので、そのような事態は何としても防がなくてはならない。この目的のため、本発明のインプラントのとりわけ遠端区域は、無傷性であるように設計されるべきである。このことは、たとえば、動脈瘤の壁部との接触個所において同壁部になだらかに順応するような、ループまたはアーチの構成によって実現される。かかるループまたはアーチは、インプラントの他の領域と同様に、管状物からのレーザー切断による切出しによる作製、取り付けられたワイヤによる生成、またはワイヤを均等に編むことによる作製で形成されてもよい。
【0080】
遠端区域においては、動脈瘤壁部を穿孔してしまうことを防止するため、すべてのワイヤ端部も無傷性とされるべきである。
【0081】
本発明に係るインプラントには、通常、可視化および留置部位における配置を容易とするような、放射線不透過性のマーカー要素が設けられる。たとえば、移行区域に付与されるスリーブが、かかるマーカー要素であってもよい。さらに、マーカー要素は、たとえば遠端区域の遠端部の領域内に配されてもよいし、接合されたワイヤの接続点を無傷性となるような形状にしてもよい。そのようなマーカー要素は、ワイヤコイルの形態で、カラーとして、およびスロットを有する管状物切片として提供されてもよく、それらはインプラントに固定される。たとえば、ループを形成している要素を取り囲むマーカーコイルが、マーカー要素として設けられてもよく、かかるマーカーコイルは通常、ループ全体ではなく、たとえばループの半分のみを取り囲む。そのようなマーカー要素には、マーキング目的でおよび閉塞コイルの材料として現行の技術水準に従って頻繁に使用されているような、プラチナおよびプラチナ合金材料(たとえばプラチナとイリジウムとの合金)が特に適している。他の有用な放射線不透過性金属としては、タンタル、金およびタングステンが挙げられる。理想的には、遠端区域、とりわけ遠端区域内のループ/支柱/アーチが、完全にまたは一部放射線不透過性であるように、すなわちX線撮影中において視認可能であるように、提供される。ウェブ/ワイヤを、放射線不透過性材料でコーティングすること、または放射線不透過性材料で充填することも可能である。
【0082】
被膜中においても、放射線不透過性物質を用いることも可能である。これらの物質は、X線技術目的において造影剤として慣用されているような、放射線不透過性粒子であってもよい。そのような放射線不透過性物質は、たとえば、硫酸バリウムまたはヨウ素化合物のような重金属塩である。放射線不透過性の被膜は、インプラントの留置処置中において、および位置特定の目的のために、有利であると認められ、マーカー要素に加えてまたはマーカー要素の代わりに用いることができる。別の代替手段としては、インプラントの領域、たとえばループまたはループの特定の領域内に設けられる、部分的な金コーティングが挙げられる。
【0083】
得策であると考えられる場合には、インプラントの柔軟性を高めるため、インプラントの一部が、より薄い断面の支柱またはワイヤを用いて形成されてもよい。好ましくは、この領域は、固定区域内に位置するものとされ、固定ゾーン内において不規則な血管構成と関連付けられた条件を満たすことが意図されている。
【0084】
インプラントは、それ自体は知られた手法によってコーティングされてもよい。適切なコーティング材料としては、特にステントについて記述されているものが挙げられ、たとえば、抗増殖性、消炎性、抗血栓性の特性、または沈着物の防止ならびに/もしくは内方成長に資する血液適合特性を有する材料が挙げられる。
【0085】
本発明により提案される装置は、とりわけ、神経血管分野において使用され得る。しかしながら、本発明により提案される装置は、心臓血管領域または周縁領域においても採用され得る。
【0086】
本発明はまた、本発明に係るインプラントを、血管系内に導入する方法にも関するものである。これは、実績があり頻繁に採用される技術である、慣用されているマイクロカテーテルの助けを借りて実現することができる。インプラントのみでは動脈瘤の頸部が既に十分に遮断されているといえない場合は、インプラントが正しい位置に留置された後に、動脈瘤内に閉塞手段が導入される。この目的のため、カテーテルの遠端部が動脈瘤内に移動させられ、その後、閉塞手段(とりわけコイル)が導入される。閉塞手段を導入するために、インプラントを通って、とりわけ固定区域の内部を通って、カテーテルが動脈瘤内へと進められてもよく、それにより、固定区域は、カテーテルのある種の案内工程を提供していることとなる。これが完了すると、カテーテルは撤退させられるが、インプラントが、閉塞手段が動脈瘤から脱離することを防止する。コイルのような慣用されている閉塞手段の他にも、他の形状および構成の構造体が動脈瘤を遮断するために採用可能であり、たとえば、編物設計または他の手法で形成された球体を用いることができる。動脈瘤内に追加の閉塞手段が導入されるか否かに関わらず、第1または第2の分離点において分断が最終的に生じ、挿入補助器具は、固定区域を伴った状態または伴わない状態で、血管系の外に撤収させられる。一方、遠端区域と、必要な場合には固定区域とは、血管内に残留する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【
図2a】短い固定区域を有する、本発明に係る1つのインプラントの側面図
【
図2b】長い固定区域を有する、本発明に係る1つのインプラントの側面図
【
図3a】正しい位置に留置されたインプラントの、第1の分離点における分離前の状態を示した図
【
図3b】
図3aのインプラントの、第1の分離点における分離後の状態を示した図
【
図4a】正しい位置に留置されたインプラントの、第2の分離点における分離前の状態を示した図
【
図4b】
図4aのインプラントの、第2の分離点における分離後の状態を示した図
【
図5a】被膜を有する挿入後インプラントの、第2の分離点における分離前の状態を示した図
【
図5b】
図5aのインプラントの、第2の分離点における分離後の状態を示した図
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下、添付の図面を通して、例を用いて本発明をさらに説明する。
【0089】
図1は、分岐部動脈瘤を、血液供給血管Zおよび分岐する2つの血管XならびにYと共に示しており、動脈瘤Aは、分岐部に位置している。長い矢印は、動脈瘤A内へと流れ込む血流を強調したものであり、この血流は、その動脈瘤A内において、動脈瘤の壁に突き当たり、したがって動脈瘤の拡大を生じさせるような外向きの圧力を印加する(小さな矢印)。
【0090】
図2aは、拡張状態にある本発明に係る1つのインプラント1の、側面図を示したものである。インプラント1には、固定区域3と、遠端区域5とが設けられており、遠端区域5は、固定区域3と比較して放射方向に拡幅している。遠端区域5は、その内部において、動脈瘤の内壁にそれら自体を取り付ける数個のループを形成している。
【0091】
固定区域3と遠端区域5との間には、小さな断面を有する移行区域4が存在する。近端側(図中の左側)から遠端側(図中の右側)に向かって見た場合、固定区域3に端を発してインプラント1を形成するように構成されたウェブは、移行区域4において密接に束ねられ、その後、再度拡幅して遠端区域5を形成する。固定区域3は、第1の分離点6を介して挿入補助器具2に接続されており、この挿入補助器具2は、通常はガイドワイヤである。移行区域4は、第2の分離点7を有している。
【0092】
図2bには、本発明に係る1つのインプラント1が図示されており、このインプラント1は、
図2aに図示されたものに多くの部分において対応しているが、より長い固定区域3を有している。
【0093】
図3aは、
図2aに示したインプラント1を、分岐部動脈瘤Aの領域内に留置する様子を図解したものである。動脈瘤Aは、血管Zが血管XおよびYへと分岐する領域に位置している。血管Z内へのインプラントの安全な固定を固定区域3が確保しつつ、遠端区域5が動脈瘤Aの入口領域内に着座することとなるように、インプラント1が配置される。
【0094】
図3bは、第1の分離点6においてインプラント1が分離された後における、対応の状況を示している。すなわち、この場合において、遠端区域5は、固定区域3と共に血管系内に残留する。第2の分離点7は、元の状態のまま残っている。
【0095】
図4aは、
図3aに図示した状況に対応する状況を示しているが、
図4aでは、その場にいる医師は、遠端区域5が単独で十分に動脈瘤A内に固定されている、すなわち固定区域3を介した追加の固定は必要でないと決定する。この場合、
図4bに示すように、分離は第2の分離個所7において生じる。挿入補助部2は、固定区域3と共に血管系から除去され、第1の分離点6は、元の状態のまま残る。
【0096】
図5aおよび5bは、
図4aおよび4bと完全に対応するが、
図5aおよび5bの場合には、遠端区域5が被膜8によって覆われている。この被膜は、血液が動脈瘤A内に浸入することを追加的に防止する。
他の実施形態
1. 枝分かれする血管の領域内において、血管中の動脈瘤(A)、とりわけ分岐部動脈瘤(A)の閉塞に用いられるインプラントであって、当該インプラント(1)は、前記血管内に埋め込まれる際には拡張状態とされ、前記血管内を移動可能とされる際には収縮状態とされ、また当該インプラント(1)は、血管の壁部に当該インプラント(1)を固定するのに用いることのできる近端側の固定区域(3)と、当該インプラント(1)が拡張状態において前記固定区域(3)と比較して放射方向に拡幅され、かつ前記動脈瘤(A)内または前記動脈瘤(A)の前に配されることを意図された遠端区域(5)と、前記固定区域(3)と前記遠端区域(5)との間に位置する移行区域(4)とを有し、さらに前記固定区域(3)は、第1の分離点(6)を介して分離可能な態様で挿入補助器具(2)に接続される、インプラントにおいて、
前記遠端区域(5)が分離されることを可能とする第2の分離点(7)が、前記移行区域(4)に設けられている、
ことを特徴とするインプラント。
2. 当該インプラント(1)の前記固定区域(3)が、互いに接続されたまたは互いに交差するウェブまたはワイヤにより構成されていることを特徴とする、実施形態1に記載のインプラント。
3. 1つまたはいくつかのウェブまたはワイヤが、前記固定区域(3)または前記遠端区域(5)に端を発して、前記移行区域(4)内において中心に収束している/まとまって走っていることを特徴とする、実施形態2に記載のインプラント。
4. 前記移行区域(4)内において、前記ウェブまたはワイヤが、少なくともある程度、スリーブ内を通って延在していることを特徴とする、実施形態3に記載のインプラント。
5. 前記第1の分離点(6)の分離機構と、前記第2の分離点(7)の分離機構とが、互いに異なることを特徴とする、実施形態1から4いずれかに記載のインプラント。
6. 前記第2の分離点(7)が、電解的に分離可能とされていることを特徴とする、実施形態1から5いずれかに記載のインプラント。
7. 前記第2の分離点(7)に近接した当該インプラント(1)の一部または全体に、電気絶縁コーティングが施されていることを特徴とする、実施形態6に記載のインプラント。
8. 前記遠端区域(5)が、拡張状態において少なくとも部分的に放射方向外側を向く複数の支柱、ループまたはアーチを含んでいることを特徴とする、実施形態1から7いずれかに記載のインプラント。
9. 前記支柱、ループまたはアーチが、拡張状態において、当該インプラント(1)の長手方向軸に対して、-45°と+175°との間の範囲の角度、好ましくは+45°と+90°との間の範囲の角度を形成し、ここで正の角度値は、放射方向外側を向く支柱、ループまたはアーチを表しており、負の角度値は、放射方向内側を向く支柱、ループまたはアーチを表していることを特徴とする、実施形態8に記載のインプラント。
10. 前記ループもしくはアーチの内部に被膜(8)が設けられている、または、前記支柱同士の間に被膜(8)が張られていることを特徴とする、実施形態8または9に記載のインプラント。
11. 前記遠端区域(5)が、拡張状態において、球状、キノコ状、アンカー状または楕円体状の形状を形成するように、放射方向に拡幅されることを特徴とする、実施形態1から7いずれかに記載のインプラント。
12. 前記遠端区域(5)の中心部に、1つまたはいくつかの隔離要素が配されており、該隔離要素は、インプラント完了状態において、前記動脈瘤(A)の頸部を少なくとも部分的に閉塞することを特徴とする、実施形態1から11いずれかに記載のインプラント。
13. 前記隔離要素が、繊維、糸、ワイヤまたは被膜(8)から形成されていることを特徴とする、実施形態12に記載のインプラント。
14. 拡張状態における前記被膜(8)が、近端方向に延在し、好ましくは円錐状または角錐状の形状を有することを特徴とする、実施形態13に記載のインプラント。
15. 前記被膜(8)が1つまたはいくつかの開口を有するか、穿孔方法を用いて前記被膜(8)内に1つまたはいくつかの開口を形成することが可能であることを特徴とする、実施形態13または14に記載のインプラント。
【符号の説明】
【0097】
1 インプラント
2 挿入補助器具
3 固定区域
4 移行区域
5 遠端区域
6 第1の分離点
7 第2の分離点
8 被膜
A 動脈瘤
X、Y、Z 血管