(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】帯域阻止フィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/075 20060101AFI20221209BHJP
H03H 7/06 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
H03H7/075 Z
H03H7/06
(21)【出願番号】P 2019020789
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】394025094
【氏名又は名称】三菱電機特機システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 春樹
(72)【発明者】
【氏名】清野 清春
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-165947(JP,A)
【文献】特開2005-045547(JP,A)
【文献】特表2017-524299(JP,A)
【文献】特開2015-173380(JP,A)
【文献】特開2002-151993(JP,A)
【文献】特開平02-034013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 5/00- 7/13
H03H 7/24- 7/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と出力端子との間に直列接続された2つの第1の抵抗と第1の共振回路との並列回路と、
上記2つの第1の抵抗の接続部に一端が接続された第2の抵抗と上記第2の抵抗の他端に一端が接続され他端が接地された第2の共振回路との直列回路と
を備えた帯域阻止フィルタであって、
不要波帯の周波数では、
上記並列回路は、第1の抵抗のみとみなすことができ、
上記直列回路は、第2の抵抗のみとみなすことができ、
所望波帯の周波数では、
上記第1の抵抗は、第1の共振回路により短絡され、
上記第2の抵抗の他端は、第2の共振回路により開放となり、
上記第1の共振回路は、インダクタとキャパシタとの並列回路と、上記インダクタとキャパシタとの並列回路に直列接続されたキャパシタとを有し、
上記第2の共振回路は、インダクタとキャパシタとの直列回路と、上記インダクタとキャパシタとの直列回路に並列接続されたインダクタとを有する帯域阻止フィルタ。
【請求項2】
入力端子と出力端子との間に接続された第1の抵抗と第1の共振回路との並列回路と、
上記並列回路の両端に一端が接続された2つの第2の抵抗と上記第2の抵抗の他端に一端が接続され他端が接地された第2の共振回路との直列回路と
を備えた帯域阻止フィルタであって、
不要波帯の周波数では、
上記並列回路は、第1の抵抗のみとみなすことができ、
上記直列回路は、第2の抵抗のみとみなすことができ、
所望波帯の周波数では、
上記第1の抵抗は、第1の共振回路により短絡され、
上記第2の抵抗の他端は、第2の共振回路により開放となり、
上記第1の共振回路は、インダクタとキャパシタとの並列回路と、上記インダクタとキャパシタとの並列回路に直列接続されたキャパシタとを有し、
上記第2の共振回路は、インダクタとキャパシタとの直列回路と、上記インダクタとキャパシタとの直列回路に並列接続されたインダクタとを有する帯域阻止フィルタ。
【請求項3】
入力端子と出力端子との間に直列接続された2つの第1の抵抗と第1の共振回路との並列回路と、
上記2つの第1の抵抗の接続部に一端が接続された第2の抵抗と上記第2の抵抗の他端に一端が接続され他端が接地された第2の共振回路との直列回路と
を備えた帯域阻止フィルタであって、
不要波帯の周波数では、
上記並列回路は、第1の抵抗のみとみなすことができ、
上記直列回路は、第2の抵抗のみとみなすことができ、
所望波帯の周波数では、
上記第1の抵抗は、第1の共振回路により短絡され、
上記第2の抵抗の他端は、第2の共振回路により開放となり、
上記第1の共振回路は、インダクタとキャパシタとの並列回路と、上記インダクタとキャパシタとの並列回路に直列接続されたインダクタとを有し、
上記第2の共振回路は、インダクタとキャパシタとの直列回路と、上記インダクタとキャパシタとの直列回路に並列接続されたキャパシタとを有する帯域阻止フィルタ。
【請求項4】
入力端子と出力端子との間に接続された第1の抵抗と第1の共振回路との並列回路と、
上記並列回路の両端に一端が接続された2つの第2の抵抗と上記第2の抵抗の他端に一端が接続され他端が接地された第2の共振回路との直列回路と
を備えた帯域阻止フィルタであって、
不要波帯の周波数では、
上記並列回路は、第1の抵抗のみとみなすことができ、
上記直列回路は、第2の抵抗のみとみなすことができ、
所望波帯の周波数では、
上記第1の抵抗は、第1の共振回路により短絡され、
上記第2の抵抗の他端は、第2の共振回路により開放となり、
上記第1の共振回路は、インダクタとキャパシタとの並列回路と、上記インダクタとキャパシタとの並列回路に直列接続されたインダクタとを有し、
上記第2の共振回路は、インダクタとキャパシタとの直列回路と、上記インダクタとキャパシタとの直列回路に並列接続されたキャパシタとを有する帯域阻止フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は帯域内の所望波を減衰させることなく通過させ、帯域外の不要波を著しく抑圧するとともに、広帯域にわたって良好な反射特性を有する帯域阻止フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ機器、通信機器、観測機器等のRF(Radio Frequency)機器では所望波以外の帯域外の不要波の進入を防いだり、あるいは、これらの機器の内部で発生した高調波又は混変調歪成分等の不要波が機器外部へ漏洩するのを防ぐために帯域阻止フィルタが用いられる。
このような帯域阻止フィルタとしてインダクタとキャパシタとの集中定数素子からなるものがあり、帯域内の所望波帯では良好な反射特性を維持し、帯域外の不要波帯ではほぼ全反射となるよう設計される。このため、帯域内の所望波は減衰させること無く通過し、帯域外の不要波は著しく抑圧される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような帯域阻止フィルタをRF機器に適用するには、帯域阻止フィルタの入出力部にFET(Field Effect Transistor),HEMT(High ElectronMobility Transistor)等のアクティブデバイスを用いたモジュールが接続される場合がある。通常、モジュールは帯域内では良好な反射特性となるよう設計されるが、帯域外では必ずしも良好な反射特性とは限らず、全反射に近い場合が多い。
【0005】
このような場合、不要波帯で帯域阻止フィルタとモジュール間で大きな多重反射が生じ、モジュールが発振、あるいは、不安定動作する課題があった。また、不要波帯における帯域阻止フィルタの減衰特性も著しく劣化し、レベルの高い不要波がRF機器に進入することによるRF機器の劣化、あるいは、RF機器内で発生した不要波がRF機器外へ漏洩する課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の帯域阻止フィルタは、
入力端子と出力端子との間に直列接続された2つの第1の抵抗と第1の共振回路との並列回路と、
上記2つの第1の抵抗の接続部に一端が接続された第2の抵抗と上記第2の抵抗の他端に一端が接続され他端が接地された第2の共振回路との直列回路と
を備えた帯域阻止フィルタであって、
不要波帯の周波数では、
上記並列回路は、第1の抵抗のみとみなすことができ、
上記直列回路は、第2の抵抗のみとみなすことができ、
所望波帯の周波数では、
上記第1の抵抗は、第1の共振回路により短絡され、
上記第2の抵抗の他端は、第2の共振回路により開放となる。
【発明の効果】
【0007】
この発明の帯域阻止フィルタによれば、不要波帯の周波数では、第1の抵抗と第2の抵抗からなるT形減衰器が入力端子と出力端子との間に接続されたものとみなすことができる。このため、所望波帯では低損失、不要波帯ではT形減衰器で決まる大きな減衰特性を維持しつつ、所望波帯から不要波帯に至る広帯域に渡って良好な反射特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明の実施の形態1による帯域阻止フィルタの構成を示す図である。
【
図2】この発明の実施の形態1による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路を示す図である。
【
図3】この発明の実施の形態1による帯域阻止フィルタの設計例を示す図である。
【
図4】この発明の実施の形態1による帯域阻止フィルタの他の設計例を示す図である。
【
図5】この発明の実施の形態1による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
【
図6】この発明の実施の形態2による帯域阻止フィルタの構成を示す図である。
【
図7】この発明の実施の形態2による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路を示す図である。
【
図8】この発明の実施の形態2による帯域阻止フィルタの設計例を示す図である。
【
図9】この発明の実施の形態2による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
【
図10】この発明の実施の形態3による帯域阻止フィルタの構成を示す図である。
【
図11】この発明の実施の形態3による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路を示す図である。
【
図12】この発明の実施の形態3による帯域阻止フィルタの設計例を示す図である。
【
図13】この発明の実施の形態3による帯域阻止フィルタの計算例を示す図である。
【
図14】この発明の実施の形態3による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
【
図15】この発明の実施の形態4による帯域阻止フィルタの構成を示す図である。
【
図16】この発明の実施の形態4による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路を示す図である。
【
図17】この発明の実施の形態4による帯域阻止フィルタの設計例を示す図である。
【
図18】この発明の実施の形態4による帯域阻止フィルタの計算例を示す図である。
【
図19】この発明の実施の形態4による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
***用語の定義***
不要波帯=不要波の周波数帯域。帯域阻止フィルタで阻止したい帯域。
所望波帯=所望波の周波数帯域。帯域阻止フィルタで阻止したくない帯域。
R1、R2=抵抗値
L1、L2、L3、L4=インダクタンス
C1、C2、C3、C4=キャパシタンス
【0010】
実施の形態1.
以下、図を用いてこの実施の形態に係る実施の形態1について説明する。
図1は実施の形態1による帯域阻止フィルタの構成を示す図である。
この帯域阻止フィルタは入力端子10と出力端子11間に、直列接続された2つの第1の抵抗1に並列接続された第1の共振回路6との並列回路20を装荷し、2つの第1の抵抗1の接続部には第2の抵抗2の一端を接続するとともに、第2の抵抗2の他端を第2の共振回路9で接地したものである。第2の抵抗2と第2の共振回路9とで直列回路30が形成されている。
第1の共振回路6は第1のインダクタ4と第1のキャパシタ5との並列回路で構成され、また、第2の共振回路9は第2のインダクタ7と第2のキャパシタ8との直列回路で構成さている。さらに、2つの第1の抵抗1と1つの第2の抵抗2とでT形減衰器3が形成されている。
ここで、第1の抵抗1および第2の抵抗2はそれぞれR1、R2に選ばれ、また、第1のインダクタ4、第1のキャパシタ5、第2のインダクタ7および第2のキャパシタ8はそれぞれL1、C1、L2、C2に選ばれている。
【0011】
図2は実施の形態1による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路である。
第1の共振回路6の並列共振周波数を不要波帯の周波数Frに選んだ場合、Frでは第1の抵抗1と第1の共振回路6との並列回路20は第1の抵抗1のみと見なすことができる。
同様に、第2の共振回路9の直列共振周波数を不要波帯の周波数Frに選んだ場合、Frでは第2の抵抗2と第2の共振回路9との直列回路30は第2の抵抗2のみと見なすことができる。このため、入力端子10と出力端子11間にT形減衰器3が装荷されたものと見なすことができる。
一方、不要波帯から十分離れた所望波帯の周波数F0ではF0<FrかF0>Frかに係らず第1の共振回路6は低インピーダンスとなり、第1の抵抗1は短絡される。また、第2の共振回路9は高インピーダンスとなるため、第2の抵抗2の他端は開放となる。従って、F0では入力端子10と出力端子11間はスルーと見なすことができる。
以下、R1、R2、L1、C1、L2およびC2の算出法について示す。
【0012】
ここでT形減衰器3を構成するR1、R2と減衰量Kとの関係は数式1で求めることができる。
【0013】
[数式1]
R1=Z0*(K-1)/(K+1)
R2=2*K*Z0/(K*K-1)
【0014】
この式においてZ0は電源インピーダンスあるいは負荷インピーダンスで、通常、50Ωである。
このようにR1、R2を選ぶことにより、周波数に関係なく、広帯域にわたって減衰量Kを有し、良好な反射特性のT形減衰器が得られる。
【0015】
また、第1の共振回路6のL1、C1、第2の共振回路9のL2、C2との関係は数式2で求まる。ここでωrは角周波数で、ωr=2πFrの関係になる。
【0016】
[数式2]
ωr*ωr*L1*C1=1
ωr*ωr*L2*C2=1
【0017】
このように、第1の共振回路6と第2の共振回路9との共振周波数を不要波帯に選ぶことにより、不要波帯から十分離れた所望波帯では低損失、不要波帯ではT形減衰器で決まる大きな減衰量Kが得られ、しかも所望波帯から不要波帯にわたって反射特性の良好な帯域阻止フィルタが得られる。
【0018】
図3は実施の形態1による帯域阻止フィルタの設計例である。ここでは第1の共振回路6は不要波帯の周波数Fr=300MHzで並列共振するように、L1=5.2nH、C1=54pFに選び、また、第2の共振回路9は300MHzで直列共振するように、L2=170nH、C2=1.65pFに選び、さらに、減衰量が30dBとなるように、R1=47Ω、R2=3.2Ωに選んだ場合である。
【0019】
図3に示すように、この実施の形態の帯域阻止フィルタはFrよりも十分低い所望波帯F0=100MHzにおける減衰量はほぼ0dB、不要波帯の300MHzではT形減衰器3の減衰量と同じ約30dBの減衰量が得られ、しかも周波数0~600MHzの広帯域にわたって約25dB以上の良好な反射特性(リターンロス特性)が得られる。
また、所望波帯をFrよりも十分高い、例えばF0=500MHzに選んでも減衰量はほぼ0dBとなる。
【0020】
***他の設計例***
図4は実施の形態1による帯域阻止フィルタの他の設計例である。
ここでは
図3に示した帯域阻止フィルタに、Fr=400MHzを有する他の帯域阻止フィルタを縦続接続した場合である。縦続接続した帯域阻止フィルタは不要波帯の周波数Fr=400MHzで並列共振するように、L1=3.2nH、C1=41pFに選び、また、第2の共振回路9は400MHzで直列共振するように、L2=128nH、C2=1.24pFに選び、さらに、減衰量が30dBとなるように、R1=47Ω、R2=3.2Ωに選んだ場合である。
図4に示すように、この実施の形態の帯域阻止フィルタはFrよりも十分低い所望波帯F0=100MHzにおける減衰量はほぼ0dB、不要波帯の300MHzおよび400MHzではそれぞれ30dBの減衰量が得られ、しかも周波数0~600MHzの広帯域にわたって約24dB以上の良好な反射特性が得られる。
このように、この帯域阻止フィルタを複数個縦続接続した場合であっても、個々の帯域阻止フィルタの反射特性が良好であるため、個々の帯域阻止フィルタの減衰特性が維持され、所望波帯に影響を与えること無く、複数の不要波を同時に抑圧することができる。
【0021】
***他の実施例***
図5は実施の形態1による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは個々の第1の抵抗1にそれぞれ第1の共振回路6を並列接続したものである。このように構成した場合であっても、所望波帯および不要波帯での等価回路は
図2のものと同じになる。このため、この帯域阻止フィルタでも所望波帯で低損失化を図ることができ、不要波帯では大きな減衰量が得られるとともに、広帯域にわたって良好な反射特性が得られる。
【0022】
***実施の形態1の特徴***
この実施の形態の帯域阻止フィルタは入力端子と出力端子間に、直列接続された2つの第1の抵抗を装荷し、それぞれの第1の抵抗あるいは直列接続された2つの第1の抵抗には第1の共振回路を並列接続する。また、2つの第1の抵抗の接続部には第2の抵抗の一端を接続するとともに、第2の抵抗の他端を第2の共振回路で接地する。第1の共振回路は第1のインダクタと第1のキャパシタとの並列回路、また、第2の共振回路は第2のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路から成り、第1の共振回路は不要波帯で並列共振、第2の共振回路は不要波帯で直列共振する。
【0023】
***実施の形態1の効果***
この実施の形態の帯域阻止フィルタによれば所望波帯が不要波帯と十分離れている場合、所望波帯では第1の共振回路は短絡に近い低インピーダンスに、また、第2の共振回路は開放に近い高インピーダンスになるため、入力端子と出力端子間は近似的にスルーと見なすことができる。
一方、不要波帯では第1の共振回路は高インピーダンスに、また、第2の共振回路は低インピーダンスになるため、第1の抵抗と第2の抵抗とからなるT形減衰器が入力端子と出力端子間に装荷されたものと見なすことができる。
このため、所望波帯では低損失、不要波帯ではT形減衰器で決まる大きな減衰特性を維持しつつ、所望波帯から不要波帯に至る広帯域に渡って良好な反射特性を得ることができる。
このような帯域阻止フィルタをRF機器に適用した場合、不要波帯での帯域阻止フィルタとモジュール間で発生する大きな多重反射を著しく抑圧することができ、モジュールの不安定動作、帯域阻止フィルタの減衰量の劣化を防ぐことができる。
従って、帯域外の不要波帯における高レベルな不要波の進入によるRF機器の特性劣化、あるいは、RF機器内で発生した不要波のRF機器外への漏洩を防ぐことができる効果がある。
【0024】
実施の形態2.
実施の形態2では、前述した実施の形態と異なる点について説明する。
図6は実施の形態2による帯域阻止フィルタの構成を示す図である。
なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは入力端子10と出力端子11間に、第1の抵抗1と第1の共振回路6との並列回路20を装荷し、第1の共振回路6の両端には第2の抵抗2の一端をそれぞれ接続するとともに、それぞれの第2の抵抗2の他端をまとめて1つの第2の共振回路9で接地したものである。第2の抵抗2と第2の共振回路9とで直列回路30が形成されている。
この実施の形態の帯域阻止フィルタは
図1に示したT形減衰器3の代わりにπ形減衰器12を用いているもので、第1の共振回路6および第2の共振回路9は
図1に示す実施の形態1のものと同じである。
【0025】
図7は実施の形態2による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路である。
実施の形態1と同様に、第1の共振回路6の並列共振周波数を不要波帯の周波数Frに選んだ場合、Frでは第1の抵抗1と第1の共振回路6との並列回路20は第1の抵抗1のみと見なすことができる。また、第2の共振回路9の直列共振周波数を不要波帯の周波数Frに選んだ場合、Frでは第2の抵抗2と第2の共振回路9との直列回路30は第2の抵抗2のみと見なすことができる。このため、入力端子10と出力端子11間にはπ形減衰器12が装荷されたものと見なすことができる。
一方、Frから十分離れた所望波帯の周波数F0では第1の共振回路6は低インピーダンスとなるため、第1の抵抗1は短絡される。また、第2の共振回路9は高インピーダンスとなるため、第2の抵抗2の他端は開放となる。従って、F0では入力端子10と出力端子11間はスルーと見なすことができる。
【0026】
ここでπ形減衰器を構成するR1、R2と減衰量Kとの関係は数式3で求めることができる。
【0027】
[数式3]
R1=2*Z0*Z0*R2/((R2*R2)-(Z0*Z0))
R2=Z0*(K+1)/(K-1)
【0028】
この式においても数式1と同様に、Z0は電源インピーダンスあるいは負荷インピーダンスで、通常、50Ωである。このようにR1、R2を選ぶことにより、周波数に関係なく広帯域にわたって減衰量Kを有し、かつ、良好な反射特性のπ形減衰器が得られる。
【0029】
図8は実施の形態2による帯域通過フィルタの設計例である。ここでは実施の形態1と同様に、第1の共振回路6および第2の共振回路9の共振周波数がそれぞれ300MHzとなるようにL1=5.2nH、C1=54pF、L2=170nH、C2=1.65pFに選び、また、減衰量が30dBとなるように、R1=782Ω、R2=53.3Ωに選んである。
この図に示すように、この実施の形態の帯域阻止フィルタはFrよりも十分低い所望波帯F0=100MHzにおける減衰量はほぼ0dB、不要波帯の300MHzではπ形減衰器12の減衰量と同じ約30dBの減衰量が得られ、しかも周波数0~600MHzの広帯域にわたって約25dB以上の良好な反射特性(リターンロス特性)が得られる。これらの特性は
図3に示した実施の形態1のものと同じである。
【0030】
この実施の形態の帯域阻止フィルタに用いるπ形減衰器12と実施の形態1のT形減衰器3を比較すると、同じ30dBの減衰量を得るためには第1の抵抗1は47Ω→782Ω、第2の抵抗2は3.2Ω→53.3Ωと、T形減衰器3を用いるよりはπ形減衰器12を用いる方が10倍以上の高抵抗で実現できる。
従って、これらを選択して帯域阻止フィルタを構成することにより、設計の自由度が増える利点がある。
【0031】
***他の実施例***
図9は実施の形態2による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは個々の第2の抵抗2の他端にそれぞれ第2の共振回路9を直列接続したものである。このように構成した場合であっても、所望波帯および不要波帯での等価回路は
図7のものと同じになる。このため、この帯域阻止フィルタでも所望波帯で低損失化を図ることができ、不要波帯では大きな減衰量が得られるとともに、広帯域にわたって良好な反射特性が得られる。
【0032】
***実施の形態2の特徴***
この実施の形態の帯域阻止フィルタは入力端子と出力端子間に、第1の抵抗と第1の共振回路との並列回路20を装荷し、この第1の共振回路の両端にはそれぞれ第2の抵抗の一端を接続するとともに、第2の抵抗の他端をそれぞれ第2の共振回路で接地するか、あるいは、まとめて1つの第2の共振回路で接地する。第1の共振回路は第1のインダクタと第1のキャパシタとの並列回路、第2の共振回路は第2のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路からそれぞれ成り、第1の共振回路は不要波帯で並列共振するとともに、第2の共振回路は不要波帯で直列共振する。
【0033】
***実施の形態2の効果***
この実施の形態の帯域阻止フィルタによれば所望波帯が不要波帯と十分離れている場合、所望波帯では第1の共振回路で短絡に近い低インピーダンスに、また、第2の共振回路は開放に近い高インピーダンスに保たれる。このため、所望波帯では入力端子と出力端子間は近似的にスルーと見なすことができる。
一方、不要波帯では第1の共振回路は高インピーダンス、逆に第2の共振回路は低インピーダンスとなるため、第1の抵抗と第2の抵抗とからなるπ形減衰器が入力端子と出力端子間に装荷されたものと見なすことができる。
このため、所望波では低損失、不要波帯ではπ形減衰器で決まる大きな減衰特性を維持しつつ、所望波帯から不要波帯に至る広帯域に渡って良好な反射特性を得ることができる。
このような帯域阻止フィルタをRF機器に適用した場合、不要波で発生する大きな多重反射を著しく抑圧することができ、不要波帯でのモジュールの不安定動作、帯域阻止フィルタの減衰量の劣化を防ぐことができる。
また、不要波帯で同一減衰量を得るための第1の抵抗および第2の抵抗の値はT形減衰器を構成する第1の抵抗および第2の抵抗の値に比べ約10倍となり、これらを選択して帯域阻止フィルタを構成することにより、設計の自由度が増える効果もある。
【0034】
実施の形態3.
実施の形態3では、前述した実施の形態と異なる点について説明する。
【0035】
実施の形態1と実施の形態2では第1の共振回路6および第2の共振回路9の影響が無視できる所望波帯と不要波帯とが十分離れている場合に有効である。しかし、実際のRF機器では所望波帯と不要波帯が近い場合がある。このような場合、第1の共振回路6および第2の共振回路9の影響が無視できなくなり所望波帯の損失が増加してしまう。
以下、所望波帯と不要波帯が近い場合においても所望波帯の損失の増加を抑圧し、良好な特性が得られる帯域阻止フィルタについて示す。
【0036】
図10は実施の形態3による帯域阻止フィルタの実施例の構成を示す図である。
なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは直列接続された2つの第1の抵抗1の両端に1つの第1の共振回路6を並列接続し、また、これらの第1の抵抗1の接続部に第2の抵抗2の一端を接続するとともに、2つの第2の抵抗2の他端をまとめて1つの第2の共振回路9で終端する構成のものである。
第1の共振回路6は第1のインダクタ4と第1のキャパシタ5との並列回路に、直列接続された第3のキャパシタ13で構成され、また、第2の共振回路9は第2のインダクタ7と第2のキャパシタ8との直列回路に並列接続された第3のインダクタ14で構成されている。
ここで、第3のキャパシタ13および第3のインダクタ14はそれぞれC3、L3に選ばれている。
【0037】
ここで、所望波帯の角周波数をω0(=2πF0)、不要波帯の角周波数をωr(=2πFr)とし、ω0<ωrで、かつ、第1の共振回路6がω0で直列共振、ωrで並列共振、また、第2の共振回路9がω0で並列共振、ωrで直列共振するためのC3とL1との関係、L3とC2との関係は数式4で求めることができる。
【0038】
[数式4]
C3={1-(ω0/ωr)*(ω0/ωr)}/((ω0*ω0)*L1)
L3={1-(ω0/ωr)*(ω0/ωr)}/((ω0*ω0)*C2)
【0039】
なお、ωrとC1、L1との関係およびωrとC2、L2との関係は数式2で示してある。
【0040】
図11は実施の形態3による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路である。実施の形態1と同様に、第1の共振回路6の共振周波数をF0で直列共振、Frで並列共振に選んだ場合、第1の抵抗1はF0で短絡、Frで第1の抵抗1が装荷されているものと見なすことができ、また、第2の抵抗2の他端はF0で開放、Frでは第2の抵抗2が装荷されているものと見なすことができる。
このため、入力端子F0では入力端子10と出力端子11間はスルー、FrではT形減衰器3が装荷されたものと見なすことができる。
【0041】
図12は実施の形態3による帯域通過フィルタの特性の設計例である。
図13は実施の形態3による帯域阻止フィルタの計算例である。
ここではF0=200MHz、Fr=300MHzとなるように、第1の共振回路6の回路定数をL1=5.2nH、C1=54pF、C3=67.7pFに、また、第2の共振回路9の回路定数をL2=170nH、C2=1.65pF、L3=213nHに選び、また、減衰量が30dBとなるように、R1=47Ω、R2=3.2Ωに選んだ場合である。
図12に示すように、この実施の形態の帯域阻止フィルタは所望波帯の200MHzにおける減衰量はほぼ0dB、不要波帯の300MHzではT形減衰器の減衰量と同じ約30dBの減衰量が得られ、しかも周波数0~600MHzの広帯域にわたって約25dB以上の良好な反射特性(リターンロス特性)が得られる。
【0042】
このように、所望波帯と不要波帯が近く、かつ、所望波帯が不要波帯よりも低い場合であっても所望波を減衰されること無く通過させ、不要波を著しく抑圧するとともに、広帯域にわたって良好な反射特性を有する帯域阻止フィルタを実現できる。このため、帯域外の高レベルの不要波の進入によるRF機器の特性劣化およびRF機器内で発生した不要波のRF機器外への漏洩を防ぐことができる効果がある。
【0043】
***他の実施例***
図14は実施の形態3による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。
なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは
図10に示したT形減衰器3の代わりに、π形減衰器12を用いた場合である。このようにπ形減衰器12を用いた場合であっても、実施の形態2で説明したように
図10のものと同じ特性が得られる。
【0044】
***実施の形態3の特徴***
この実施の形態の帯域阻止フィルタは第1の共振回路を第1のインダクタと第1のキャパシタとの並列回路と、この並列回路に直列接続された第3のキャパシタとで構成する。第2の共振回路を第2のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路と、この直列回路に並列接続された第3のインダクタとで構成する。
第1の共振回路は所望波帯で直列共振、不要波帯で並列共振、第2の共振回路は所望波帯で並列共振、不要波帯で直列共振する。
【0045】
***実施の形態3の効果***
この実施の形態の帯域阻止フィルタによれば所望波帯が不要波帯に近く、かつ、所望波帯が不要波帯よりも低い場合、所望波では第1の共振回路は短絡に近い低インピーダンスに、不要波帯では開放に近い高インピーダンスとなる。逆に、第2の共振回路は所望波帯では開放に近い高インピーダンスに、不要波帯では短絡に近い低インピーダンスとなる。
このため、所望波帯では入力端子と出力端子間は近似的にスルーと見なすことができる。一方、不要波帯では第1の抵抗と第2の抵抗からなるT形減衰器あるいはπ形減衰器が入力端子と出力端子間に装荷されたものと見なすことができる。
このため、所望波では低損失、不要波帯ではT形減衰器あるいはπ形減衰器で決まる大きな減衰特性を維持しつつ、所望波帯から不要波帯に至る広帯域に渡って良好な反射特性を得ることができる。
このような帯域阻止フィルタをRF機器に適用した場合、不要波で発生する大きな多重反射を著しく抑圧することができ、不要波帯でのモジュールの不安定動作、帯域阻止フィルタの減衰量の劣化を防ぐことができる。
【0046】
実施の形態4.
実施の形態4では、前述した実施の形態と異なる点について説明する。
図15は実施の形態4による帯域阻止フィルタの実施例の構成を示す図である。
なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは直列接続された2つの第1の抵抗1の両端に1つの第1の共振回路6を並列接続し、また、これらの第1の抵抗1の接続部に第2の抵抗2の一端を接続するとともに、第2の抵抗2の他端を第2の共振回路9で接地する構成のものである。
第1の共振回路6は第1のインダクタ4と第1のキャパシタ5との並列回路と、この並列回路に直列接続された第4のインダクタ15とで構成され、また、第2の共振回路9は第2のインダクタ7と第2のキャパシタ8との直列回路と、この直列回路に並列接続された第4のキャパシタ16とで構成されている。
ここで、第4のインダクタ15および第4のキャパシタ16はそれぞれL4、C4に選ばれている。
【0047】
ここで、所望波帯の角周波数をω0(=2πF0)、不要波帯の角周波数をωr(=2πFr)とし、ω0>ωrで、かつ、第1の共振回路6がω0で直列共振、ωrで並列共振、また、第2の共振回路9がω0で並列共振、ωrで直列共振するためのL4とL1との関係、C4とC2との関係は数式5で求めることができる。
【0048】
[数式5]
L4=L1/{(ω0/ωr)*(ω0/ωr)-1}
C4=C2/{(ω0/ωr)*(ω0/ωr)-1}
【0049】
なお、同様にωrとC1、L1との関係およびωrとC2、L2との関係は数式2で示してある。
【0050】
図16は実施の形態4による帯域阻止フィルタの簡易的な等価回路である。実施の形態3と同様に、第1の共振回路6の共振周波数をF0で直列共振、Frで並列共振に選んだ場合、第1の抵抗1はF0で短絡、Frで第1の抵抗1が装荷されているものと見なすことができる。また、第2の抵抗2の他端はF0で開放、Frでは第2の抵抗2が装荷されているものと見なすことができる。
このため、入力端子F0では入力端子10と出力端子11間はスルー、FrではT形減衰器3が装荷されたものと見なすことができる。即ち、
図11のものと等しくなる。
【0051】
図17は実施の形態4による帯域通過フィルタの特性の設計例である。
図18は実施の形態4による帯域阻止フィルタの計算例である。
ここではF0=400MHz、Fr=300MHzとなるように、第1の共振回路6の回路定数をL1=5.2nH、C1=54pF、L4=6.7nHに、また、第2の共振回路9の回路定数をL2=170nH、C2=1.65pF、C4=2.1pFに選び、また、減衰量が30dBとなるように、R1=47Ω、R2=3.2Ωに選んである。
図17に示すように、この実施の形態の帯域阻止フィルタは所望波帯の400MHzにおける減衰量はほぼ0dB、不要波帯の300MHzではT形減衰器の減衰量と同じ約30dBの減衰量が得られ、しかも周波数0~600MHzの広帯域にわたって約25dB以上の良好な反射特性(リターンロス特性)が得られる。
【0052】
このように、所望波帯と不要波帯が近く、かつ、所望波帯が不要波帯よりも高い場合であっても所望波を減衰されること無く通過させ、不要波を著しく抑圧するとともに、広帯域にわたって良好な反射特性を有する帯域阻止フィルタを実現できる。このため、帯域外の高レベルの不要波の進入によるRF機器の特性劣化およびRF機器内で発生した不要波のRF機器外への漏洩を防ぐことができる効果がある。
【0053】
***他の実施例***
図19は実施の形態4による帯域阻止フィルタの他の実施例の構成を示す図である。なお、同一あるいは相当部分には同一符号を付してある。
この帯域阻止フィルタは
図15に示したT形減衰器3の代わりに、π形減衰器12を用いた場合である。このようにπ形減衰器12を用いた場合であっても、
図17のものと同じ特性が得られる。
【0054】
***実施の形態4の特徴***
この実施の形態の帯域阻止フィルタは第1の共振回路を第1のインダクタと第1のキャパシタとの並列回路と、この並列回路に直列接続された第4のインダクタとで構成し、第2の共振回路を第2のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路に、並列接続された第4のキャパシタとで構成する。
第1の共振回路は所望波帯で直列共振、不要波帯で並列共振、第2の共振回路は所望波帯で並列共振、不要波帯で直列共振する。
【0055】
***実施の形態4の効果***
この実施の形態の帯域阻止フィルタによれば所望波帯が不要波帯に近く、かつ、所望波帯が不要波帯よりも高い場合、所望波では第1の共振回路は短絡に近い低インピーダンスに、不要波帯では開放に近い高インピーダンスとなる。逆に、第2の共振回路は所望波帯では開放に近い高インピーダンスに、不要波帯では短絡に近い低インピーダンスとなる。
このため、所望波帯では入力端子と出力端子間は近似的にスルーと見なすことができる。一方、不要波帯では第1の抵抗と第2の抵抗からなるT形減衰器あるいはπ形減衰器が入力端子と出力端子間に装荷されたものと見なすことができる。
このため、所望波では低損失、不要波帯ではT形減衰器あるいはπ形減衰器で決まる大きな減衰特性を維持しつつ、所望波帯から不要波帯に至る広帯域に渡って良好な反射特性を得ることができる。
このような帯域阻止フィルタをRF機器に適用した場合、不要波で発生する大きな多重反射を著しく抑圧することができ、不要波帯でのモジュールの不安定動作、帯域阻止フィルタの減衰量の劣化を防ぐことができる。
【0056】
***他の実施の形態***
前述した実施の形態の全部又は一部を他の実施の形態と組み合わせてもよい。
前述した実施の形態の帯域通過フィルタをレーダ機器、通信機器、観測機器等に適用してもよいし、テレメトリ送信機、ビーコン送信機等のマイクロ波機器にも適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 第1の抵抗、2 第2の抵抗、3 T形減衰器、4 第1のインダクタ、5 第1のキャパシタ、6 第1の共振回路、7 第2のインダクタ、8 第2のキャパシタ、9 第2の共振回路、10 入力端子、11 出力端子、12 π形減衰器、13 第3のキャパシタ、14 第3のインダクタ、15 第4のインダクタ、16 第4のキャパシタ、20 並列回路、30 直列回路。