(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
F15B 11/02 20060101AFI20221209BHJP
F15B 11/16 20060101ALI20221209BHJP
F15B 11/08 20060101ALI20221209BHJP
F15B 11/028 20060101ALI20221209BHJP
F15B 11/05 20060101ALI20221209BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
F15B11/02 C
F15B11/16 Z
F15B11/08 A
F15B11/028 G
F15B11/05 A
E02F9/22 R
E02F9/22 E
(21)【出願番号】P 2019025233
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】金澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】森木 秀一
(72)【発明者】
【氏名】千葉 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】井村 進也
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-25146(JP,A)
【文献】特開2013-249886(JP,A)
【文献】特表2019-503455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/02
F15B 11/16
F15B 11/08
F15B 11/028
F15B 11/05
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプの吐出流量を調整するレギュレータと、
複数の油圧アクチュエータと、
前記油圧ポンプから吐出され、前記複数の油圧アクチュエータに分配される圧油の流量を調整する複数の方向制御弁と、
前記複数の油圧アクチュエータを操作するための操作装置と、
前記操作装置から入力される操作信号に基づいて、前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれの流入流量の目標値である目標流量を決定し、前記複数の油圧アクチュエータの各目標流量に応じて、前記レギュレータおよび前記複数の方向制御弁を制御するコントローラとを備えた建設機械において、
前記複数の油圧アクチュエータの各動作速度を検出する速度検出器を備え、
前記コントローラは、
前記速度検出器で検出した前記複数の油圧アクチュエータの各動作速度に基づいて前記複数の油圧アクチュエータの各流入流量を演算し、
前記操作装置から入力される操作信号に基づいて、前記複数の油圧アクチュエータのうち2つ以上の油圧アクチュエータが同時に操作される複合動作中か否かを判定し、
前記複合動作中と判定した場合、前記油圧ポンプの吐出流量が前記複数の油圧アクチュエータの合計目標流量よりも大きくなるように前記レギュレータを制御するとともに、前記複数の油圧アクチュエータの各目標流量と前記速度検出器で検出した前記複数の油圧アクチュエータの各流入流量との差分が小さくなるように前記複数の方向制御弁の各開口量をそれぞれ制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記油圧ポンプが吐出した圧油の余剰分を排出するためのブリードオフ弁を、前記複数の方向制御弁と独立して駆動するように備え、
前記コントローラは、前記複合動作中であると判定した場合、前記ブリードオフ弁を開き、前記複合動作中でないと判定した場合、前記ブリードオフ弁を閉じるように制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記速度検出器の代わりに、前記複数の方向制御弁の上流にそれぞれ配置された複数の流量センサを備えた
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1に記載の建設機械において、
前記油圧ポンプと前記複数の方向制御弁を繋ぐ各油路に配置された第1圧力センサと、
前記複数の方向制御弁と前記複数の油圧アクチュエータを繋ぐ各油路に配置された第2圧力センサとを更に備え、
前記コントローラは、前記第1圧力センサおよび前記第2圧力センサで検出した前記複数の方向制御弁の前後差圧に応じて、前記複数の方向制御弁を制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1に記載の建設機械において、
前記複数の方向制御弁の上流と下流の圧力差を一定に保つための圧力補償弁を、前記複数の方向制御弁の各上流にそれぞれ備えた
ことを特徴とする建設機械。
【請求項6】
請求項2に記載の建設機械において、
前記油圧ポンプの下流に配置された圧力センサを更に備え、
前記コントローラは、前記圧力センサが検出した前記油圧ポンプの下流側の圧力に応じて、前記ブリードオフ弁の開口量を補正する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マシンコントロール機能を備える建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化施工への対応に伴い、油圧ショベル等の建設機械には、ブーム、アーム、バケットなどの作業機構の位置や姿勢を目標施工面に沿って動くように制御するマシンコントロール機能を有するものがある。その代表的なものとして、バケット先端が目標施工面に近づくと、それ以上バケット先端が目標施工面方向に進まないように、作業機構の動作に制限をかけるものが知られている。
【0003】
土木工事施工管理基準において、目標施工面に対する高さ方向の許容精度の規格値が定められている。施工面の出来形の精度が許容値を超える場合は、施工のやり直しが発生することで作業効率が低下する。したがって、マシンコントロール機能は、出来形の許容精度を満たすために必要な制御精度を有することが求められている。
【0004】
マシンコントロール機能の普及に伴い、目標施工面に対してバケット角度やチルト角度を保持あるいは補正する機能の開発が進んでいる。これにより、バケット角度やチルト角度を保持あるいは補正する必要がある場合には、従来の単にアーム・ブームの複合動作を行うマシンコントロール機能に比べて、マシンコントロール機能によって同時に制御する必要のある油圧アクチュエータ数が増加し、複数の油圧アクチュエータを同時かつ正確に制御することが求められるようになる。
【0005】
油圧アクチュエータの制御精度を向上させるための一般的な手法の一つとして、油圧アクチュエータへ流入した流量を推定し、目標流入流量との誤差を補正するフィードバック制御を用いたものがある。しかし、これらの制御手法は単独の油圧アクチュエータへ流入した流量の制御を想定したものが多く、複数の油圧アクチュエータへ分流して流入された流量の制御を想定したものは少ない。
【0006】
複数の油圧アクチュエータへの分流を想定し、推定した流入流量に基づいて油圧ポンプを電子制御する技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1に示される油圧ショベルの制御システムは、油圧アクチュエータの分流制御時において、負荷が大きい高負荷側の油圧アクチュエータは油圧ポンプによって流入流量を制御し、負荷が小さい低負荷側の油圧アクチュエータは圧力補償弁とメータイン弁によって流入流量を制御している。この時、推定した流入流量に基づいて油圧ポンプの目標吐出流量が補正されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の制御システムは、流入流量の推定結果を油圧ポンプの吐出流量の制御に反映している。しかし、アクチュエータセクションごとに流入流量の漏れや圧縮による流量損失の影響やメータイン弁の特性が異なるため、アクチュエータセクションごとに異なる流量誤差が生じる。そのため、油圧回路の最上流にある油圧ポンプの吐出流量を補正するだけでは、すべてのアクチュエータセクションの流量誤差を補正することができない。したがって、分流時にも流量制御精度を向上させるためには、動作する油圧アクチュエータのメータイン弁の開口量を個別に直接補正する必要がある。
【0009】
推定した流入流量を基にメータイン弁の開口量を直接補正する場合、油圧ポンプの吐出流量制御との干渉を回避する必要がある。推定した流入流量を基に、メータイン弁の開口量と油圧ポンプの吐出流量の両方を補正した場合、補正度合いが大きい場合には開口量と吐出流量の制御が干渉を起こし、流入流量がハンチングする恐れがある。一方で、補正度合いが小さい場合には、油圧アクチュエータへの実際の流入流量が目標流入流量に収束するのが遅れるため、過渡的な目標流入流量への追従性が低下する。
【0010】
また、推定した流入流量を基にメータイン弁の開口量を直接補正する際に、油圧ポンプからの吐出流量が目標流入流量に対して不足すると、目標流入流量と実際の流入流量との間に誤差が生じてしまう。その場合、すべてのメータイン弁の開口量が目標値よりも大きくなるため、流入流量の分配制御が困難になる。したがって、油圧ポンプからの吐出流量が不足するような状況を回避しながら、メータイン弁の開口量のみを補正することが望ましい。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、油圧ポンプから吐出される圧油を分流して複数の油圧アクチュエータに供給する複合動作中に、各油圧アクチュエータをオペレータの操作に応じて正確に動作させることができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、油圧ポンプと、前記油圧ポンプの吐出流量を調整するレギュレータと、複数の油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから吐出され、前記複数の油圧アクチュエータに分配される圧油の流量を調整する複数の方向制御弁と、前記複数の油圧アクチュエータを操作するための操作装置と、前記操作装置から入力される操作信号に基づいて、前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれの流入流量の目標値である目標流量を決定し、前記複数の油圧アクチュエータの各目標流量に応じて、前記レギュレータおよび前記複数の方向制御弁を制御するコントローラとを備えた建設機械において、前記複数の油圧アクチュエータの各動作速度を検出する速度検出器を備え、前記コントローラは、前記速度検出器で検出した前記複数の油圧アクチュエータの各動作速度に基づいて前記複数の油圧アクチュエータの各流入流量を演算し、前記操作装置から入力される操作信号に基づいて、前記複数の油圧アクチュエータのうち2つ以上の油圧アクチュエータが同時に操作される複合動作中か否かを判定し、前記複合動作中と判定した場合、前記油圧ポンプの吐出流量が前記複数の油圧アクチュエータの合計目標流量よりも大きくなるように前記レギュレータを制御するとともに、前記複数の油圧アクチュエータの各目標流量と前記速度検出器で検出した前記複数の油圧アクチュエータの各流入流量との差分が小さくなるように前記複数の方向制御弁の各開口量をそれぞれ制御するものとする。
【0013】
以上のように構成した本発明によれば、複合動作中と判定された場合、油圧ポンプの吐出流量を複数の油圧アクチュエータの合計目標流量よりも増加させると共に、複数の油圧アクチュエータの各流入流量と各目標流量の差分を複数の方向制御弁の各開口量の制御にのみ反映させることにより、油圧ポンプの吐出流量が不足する状況を回避しつつ、油圧ポンプの吐出流量制御と複数の方向制御弁の開口制御の間の干渉を防止することができる。これにより、複数の油圧アクチュエータに正確に流量を分配することができるため、複数の油圧アクチュエータをオペレータの操作に応じて正確に動作させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る建設機械によれば、油圧ポンプの圧油を分流して複数の油圧アクチュエータに供給する複合動作中に、各油圧アクチュエータをオペレータの操作に応じて正確に動作させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施例に係る油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す油圧ショベルに搭載される油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【
図3】
図2に示すコントローラの処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【
図4】
図3に示すポンプ吐出流量制御部の演算機能およびブリードオフ開口制御部の演算機能の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図5】
図3に示す目標流量決定部、複合動作判定部、ポンプ吐出流量制御部における演算結果の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施例による油圧アクチュエータへの目標流量と推定流量の誤差が補正される効果を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施例に係るコントローラの処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【
図8】本発明の第2の実施例に係るブリードオフ開口制御部の演算機能の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図9】本発明の第2の実施例に係るブリードオフ弁からタンクへの排出流量の変化を示す図である。
【
図10】本発明の第3の実施例に係る油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施例に係るコントローラの処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【
図12】本発明の第4の実施例に係る油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【
図13】本発明の第4の実施例に係るコントローラの処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【
図14】本発明の第5の実施例に係るブリードオフ開口制御部の演算機能の詳細を表す制御ブロック図である。
【
図15】本発明の第6の実施例に係る油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械として油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の第1の実施例に係る油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
【0018】
図1において、油圧ショベル100は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム4、アーム5、バケット(作業具)6)を連結して構成された多関節型のフロント装置(フロント作業機)1と、車体を構成する上部旋回体2および下部走行体3とを備え、上部旋回体2は下部走行体3に対して旋回可能に設けられている。また、フロント装置1のブーム4の基端は上部旋回体2の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム5の一端はブーム4の基端とは異なる端部(先端)に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム5の他端にはバケット6が垂直方向に回動可能に支持されている。ブーム4、アーム5、バケット6、上部旋回体2および下部走行体3は、油圧アクチュエータであるブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6a、旋回モータ2a、および左右の走行モータ3a(一方の走行モータのみ図示)によりそれぞれ駆動される。
【0019】
ブーム4、アーム5およびバケット6は、単一の平面(以下、動作平面)上で動作する。動作平面は、ブーム4、アーム5およびバケット6の回動軸に直交する平面であり、ブーム4、アーム5およびバケット6の幅方向の中心を通るように設定することができる。
【0020】
オペレータが搭乗する運転室9には、油圧アクチュエータ2a、4a~6aを操作するための操作信号を出力する操作レバー装置(操作装置)9aと、走行モータ3aを駆動するための操作信号を出力する操作レバー装置(操作装置)9bが設けられている。操作レバー装置9aは前後左右に傾倒可能な2本の操作レバー、操作レバー装置9bは前後方向に傾倒可能な2本の操作レバーであり、操作レバーの傾倒量(レバー操作量)に相当する操作信号を電気的に検出する検出装置とを含む。この検出装置が検出したレバー操作量を制御装置であるコントローラ10(
図2に示す)に電気配線を介して出力する。
【0021】
ブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6a、旋回モータ2aおよび左右の走行モータ3aの動作制御は、原動機40によって駆動される油圧ポンプ7から各油圧アクチュエータ2a~6aに供給される作動油の方向および流量をコントロールバルブ8で制御することにより行う。コントロールバルブ8の制御は、後述するパイロットポンプ70から後述する電磁比例減圧弁を介して出力される駆動信号(パイロット圧)により行われる。操作レバー装置9a、9bからの操作信号に基づいてコントローラ10で電磁比例減圧弁を制御することにより、各油圧アクチュエータ2a~6aの動作が制御される。
【0022】
なお、操作レバー装置9a、9bは上記と異なる油圧パイロット方式であってもよく、それぞれオペレータにより操作される操作レバーの操作方向および操作量に応じたパイロット圧を、コントロールバルブ8に駆動信号として供給するように構成しても良い。その場合、操作量に応じたパイロット圧を圧力センサによって検出し、検出した圧力を電気信号としてコントローラ10に出力し、後述する電磁比例減圧弁によって各油圧アクチュエータ2a~6aを駆動するように構成しても良い。
【0023】
慣性計測装置12~14は、角速度および加速度を計測するものである。ブーム慣性計測装置12、アーム慣性計測装置13、バケット慣性計測装置14は、計測した角速度と加速度を基にして、ブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6aそれぞれの動作速度を検出する、ブームシリンダ速度検出器12、アームシリンダ速度検出器13、バケットシリンダ速度検出器14を構成する。
【0024】
なお、シリンダ速度検出器は慣性計測装置に限られるものではなく、例えばブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6aにそれぞれストロークセンサを配置し、ストローク変化量を数値微分することで、ブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6aの動作速度を算出するように構成しても良い。
【0025】
図2は、油圧ショベル100に搭載される油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。説明の簡略化のため、発明の説明に必要な要素のみを記載している。なお、説明を簡略化するため、
図2においては、ブーム4、アーム5、バケット6が接続されたポンプセクションのみを記載して説明する。
【0026】
油圧アクチュエータ制御システムは、各油圧アクチュエータ2a~6aを駆動するコントロールバルブ8、コントロールバルブ8へ圧油を供給する油圧ポンプ7、コントロールバルブ8の駆動信号となるパイロット圧を供給するパイロットポンプ70、および油圧ポンプ7を駆動するための原動機40から構成される。本実施例においては、油圧ポンプ7は可変容量式とし、コントローラ10からの電流指令に基づいて可変容量ポンプ用電磁比例減圧弁7aが動作することによって油圧ポンプ7の容量が調整され、油圧ポンプ7の吐出流量が制御されるものとする。なお、油圧ポンプ7を固定容量式とし、コントローラ10からの制御指令によって原動機40の回転数を調整し、油圧ポンプ7の吐出流量を制御する構成としてもよい。
【0027】
油圧ポンプ7が吐出した圧油は、ブーム方向制御弁8a1、アーム方向制御弁8a3、バケット方向制御弁8a5によって、それぞれの油圧アクチュエータに分配される。ブーム方向制御弁8a1は、ブームシリンダ4aのボトム側油室4a1またはロッド側油室4a2の一方が、油圧ポンプ7と繋がる油路と連通する開口(メータイン開口)となり、もう一方がタンク41へと繋がる油路に連通する開口(メータアウト開口)となる。コントローラ10から指令された電流指令に基づいてブーム方向制御弁用電磁比例減圧弁8a2が動作することによってパイロット圧が調整され、ブーム方向制御弁8a1がボトム側油室4a1またはロッド側油室4a2に連通する際の開口量が制御される。電磁比例減圧弁8a2aを駆動すると、ボトム側油室4a1からロッド側油室4a2へ圧油が流れる。一方で、電磁比例減圧弁8a2bを駆動すると、ロッド側油室4a2からボトム側油室4a1へ圧油が流れる。アーム方向制御弁8a3についても同様に、アームシリンダ5aのボトム側油室5a1およびロッド側油室5a2と連通し、その開口量はアーム方向制御弁用電磁比例減圧弁8a4によって制御され、バケット方向制御弁8a5は、バケットシリンダ6aのボトム側油室6a1およびロッド側油室6a2と連通し、その開口量はバケット方向制御弁用電磁比例減圧弁8a6によって制御される。
【0028】
油圧ポンプ7から吐出した圧油の一部は、ブリードオフ弁8b1がタンク41への油路を連通させることにより、タンク41へと排出される。ブリードオフ弁8b1は、コントローラ10から指令された電流指令に基づいてブリードオフ弁用電磁比例減圧弁8b2が動作することによってパイロット圧が調整され、タンク41へと排出される流量が制御される。なお、ブリードオフ弁8b1を設置する代わりに、方向制御弁8a1,8a3,8a5を3方向制御が可能なオープンセンタ型の方向制御弁として、メータイン開口およびメータアウト開口と連動してブリードオフ開口が調整される構成としてもよい。
【0029】
図3は、コントローラ10の処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。なお、
図3において、
図2と同様に本発明に直接関わらない機能は省略して説明する。
【0030】
図3において、コントローラ10は、目標流量決定部10a、複合動作判定部10b、ポンプ吐出流量制御部10c、ブームシリンダ流量推定部10d1、アームシリンダ流量推定部10d2、バケットシリンダ流量推定部10d3、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1、アームシリンダメータイン開口制御部10e2、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3、ブリードオフ開口制御部10fを有している。
【0031】
目標流量決定部10aは、各油圧アクチュエータへ流入する目標流量Qa1,Qa2,Qa3を決定し、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1、アームシリンダメータイン開口制御部10e2、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3へと、それぞれの油圧アクチュエータ4a~6aの目標流量が出力される。
【0032】
本実施例においては、操作レバー装置9aから入力された操作量に基づいて、各油圧アクチュエータ4a~6aへ流入する目標流量Qa1,Qa2,Qa3を決定するものとする。なお、操作レバー装置9aから入力された操作量以外にも、油圧ショベル100のフロント装置1の姿勢や、フロント装置1の作業具6と目標施工面の相対位置関係に基づいて、目標流量Qa1,Qa2,Qa3を決定する構成としてもよい。
【0033】
複合動作判定部10bは、2つ以上の油圧アクチュエータが同時に動作している状態、すなわち複合動作状態であるかどうかを判定する。複合動作状態であるかどうかを示す2値信号である判定フラグが、ポンプ吐出流量制御部10cへと出力される。
【0034】
本実施例においては、目標流量決定部10aから入力された目標流量Qa1,Qa2,Qa3に基づいて、複合動作状態であるかどうかを判定するものとする。なお、操作レバー装置9aから入力された操作量に基づいて、複合動作状態であるかどうかを判定してもよい。
【0035】
ポンプ吐出流量制御部10cは、目標流量決定部10aが算出した各油圧アクチュエータ4a~6aへの目標流量の合計値Q
pと、複合動作判定部10bから入力された複合動作判定フラグとに基づいて、油圧ポンプ7の目標吐出流量を決定する。複合動作中であると判定された場合には、目標流量の合計値Q
pに
図4で後述するオフセット流量を加えた流量が油圧ポンプ7の目標吐出流量として設定され、それに対応する容量に調整するための電流指令I
p,refが可変容量ポンプ用電磁比例減圧弁7aへと出力される。
【0036】
ブームシリンダ流量推定部10d1、アームシリンダ流量推定部10d2、バケットシリンダ流量推定部10d3は、ブームシリンダ速度検出器12、アームシリンダ速度検出器13、バケットシリンダ速度検出器14が検出したシリンダ速度Ve1、Ve2、Ve3を基に、ブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6aへ流入していると推定される推定流量Qe1,Qe2,Qe3を算出する。ブームシリンダ流量推定部10d1において、ブームシリンダ4aの推定流量Qe1は以下の式(1)から算出される。
【0037】
【0038】
ここで、Sa1はブームシリンダ4aの断面積である。圧油がボトム側油室4a1から流入していればブームシリンダ4aのボトム側の断面積をSa1とし、圧油がロッド側油室4a2から流入していればブームシリンダ4aのロッド側の断面積をSa1とする。アームシリンダ流量推定部10d2、バケットシリンダ流量推定部10d3についても、式(1)を用いた同様の演算によって推定流量Qe2,Qe3が算出されるため、詳細な説明を省略する。推定流量Qe1,Qe2,Qe3は、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1、アームシリンダメータイン開口制御部10e2、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3へとそれぞれ出力される。
【0039】
ブームシリンダメータイン開口制御部10e1、アームシリンダメータイン開口制御部10e2、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3は、ブームシリンダ流量推定部10d1が推定したブームシリンダへの流入流量Qe1、アームシリンダ流量推定部10d2が推定したアームシリンダへの流入流量Qe2、バケットシリンダ流量推定部10d3が推定したバケットシリンダへの流入流量Qe3と、目標流量決定部10aが算出したそれぞれの油圧アクチュエータへの目標流量Qa1,Qa2,Qa3に基づいて、目標流量と推定流量の誤差を補正するようにメータイン弁8a1,8a3,8a5の開口量を決定する。決定した開口量に調整するための電流指令Ia1,ref,Ia2,ref,Ia3,refが、ブーム方向制御弁用電磁比例減圧弁8a2、アーム方向制御弁用電磁比例減圧弁8a4、バケット方向制御弁用電磁比例減圧弁8a6へと出力される。
【0040】
ブームシリンダメータイン開口制御部10e1において、ブーム方向制御弁用電磁比例減圧弁8a2への電流指令Ia1,refは、以下の式(2)、(3)、(4)で計算される。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
ここで、Qa1,newは推定流量Qe1に基づいて算出される補正量を加えたブームシリンダ4aへの目標流量、Aa1はブームメータイン弁8a1の目標開口量、KIは積分制御のフィードバックゲインである。f1は補正後目標流量Qa1,newから目標開口量Aa1への変換テーブル、g1は目標開口量Aa1から電流指令Ia1,refへの変換テーブルである。式(2)では、目標流量Qa1をそのまま指令するフィードフォワード量と、目標流量Qa1と推定流量Qe1の誤差を補正するフィードバック量を足し合わせる。目標流量Qa1と推定流量Qe1の誤差を補正することで、油温等の影響による油圧システムの動特性変動へのロバスト化を図る。また、目標流量Qa1と推定流量Qe1の誤差を積分して補正量とすることで、流量係数の誤差や圧油の流量損失に起因して発生する定常的な流量誤差を解消する。
【0045】
アームシリンダメータイン開口制御部10e2およびバケットシリンダメータイン開口制御部10e3においても、式(2)~(4)を利用した同様の演算によって電流指令Ia2,ref,Ia3,refが算出されるため、詳細な説明を省略する。
【0046】
ブリードオフ開口制御部10fは、ブリードオフ用電磁比例減圧弁8b2への電流指令Ib,refを演算して出力する。一例として、本実施例におけるブリードオフ弁8b1は、操作レバー9a、9bの操作量にかかわらず、常に一定の開口を開いた状態になるように制御される。なお、方向制御弁8a1,8a3,8a5の開口量に従属するように、ブリードオフ弁8b1の開口量を調整する構成としてもよい。
【0047】
図4は、ポンプ吐出流量制御部10cの演算機能およびブリードオフ開口制御部10fの演算機能の詳細を表す制御ブロック図である。
【0048】
ポンプ吐出流量制御部10cにおいては、複合動作判定部10bから入力された判定フラグに基づいて、複合動作時であれば一定流量Qconst、複合動作時でなければ零流量Q0=0がセレクタSLT1によって選択される。選択された流量がオフセット指令Qoffsetとして伝達され、目標流量Qpと足し合わせられて補正後目標流量Qp,newとなる。最終的に、変換テーブルTBL1によって補正後目標流量Qp,newから電流指令Ip,refへと変換されて、可変容量ポンプ用電磁比例減圧弁7aへと出力される。
【0049】
複合動作中であることを判定して、油圧ポンプ7の吐出流量を目標流量Qpに対して増加させることで、目標流量Qpに対して油圧ポンプ7の吐出流量が不足する状況を確実に回避することができる。
ブリードオフ開口制御部10fにおいては、事前に設定された一定開口量Aconstが目標開口量Abとして与えられ、変換テーブルTBL2によって目標開口量Abから電流指令Ib,refへと変換されて、ブリードオフ用電磁比例減圧弁8b2へと出力される。
【0050】
ブリードオフ弁8b1を一定開口量Aconstだけ常に開いておくことで、オフセット指令Qoffsetによって余剰となった分の油圧ポンプ7の吐出流量を、ブリードオフ弁8b1から排出し、油圧アクチュエータ4a~6aへ余剰な圧油が流入する状況を回避することができる。
【0051】
図5は、目標流量決定部10a、複合動作判定部10b、ポンプ吐出流量制御部10cにおける演算結果の一例を示す図である。
【0052】
図5(a)は、操作レバー装置9aから入力される操作量に基づいて、目標流量決定部10aによって決定された目標流量を示している。本実施例では、まずブームシリンダメータイン開口制御部10e1に目標流量Q
a1が入力され、時刻t
1にアームシリンダメータイン開口制御部10e2に目標流量Q
a2が入力された場合を一例として取り上げる。この場合、時刻t
1以降では、目標流量決定部10aから目標流量Q
a1,Q
a2が同時に出力されることになる。
【0053】
図5(b)は、目標流量決定部10aから入力される目標流量に基づいて、複合動作判定部10bによって判断される判定フラグを示している。時刻t
1以前では、目標流量決定部10aからブームシリンダ4aへの目標流量Q
a1のみが与えられているため、複合動作判定部10bは複合動作中でないと判断して、判定フラグをFalseとして出力する。時刻t
1以降では、目標流量決定部10aからブームシリンダ4aへの目標流量Q
a1とアームシリンダ5aのへの目標流量Q
a2が与えられているため、複合動作判定部10bは複合動作中であると判断して、判定フラグをTrueとして出力する。
【0054】
図5(c)は、目標流量決定部10aから入力される目標流量と、複合動作判定部10bから入力される判定フラグに基づいて、ポンプ吐出流量制御部10dによって決定された補正後目標流量Q
p,newを示している。時刻t
1以前では、目標流量決定部10aが目標流量Q
a1のみを出力しており、複合動作判定部10bが複合動作中ではないと判定しているため、補正後目標流量Q
p,new=Q
a1となっている。時刻t
1以降では、目標流量決定部10aが目標流量Q
a1とQ
a2を出力しており、複合動作判定部10bが複合動作中であると判定しているため、補正後目標流量Q
p,new=Q
a1+Q
a2+Q
offsetとなっている。
【0055】
図6は、本実施例による油圧アクチュエータへの目標流量と推定流量の誤差が補正される効果を示す図である。
図5と同様に、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1に目標流量Q
a1が入力され、アームシリンダメータイン開口制御部10e2に目標流量Q
a2が入力された場合を一例として取り上げる。
【0056】
図6(a)に、本実施例の比較例として、油圧ポンプ7の目標吐出流量のみを補正しメータイン開口を補正しなかった場合の各油圧アクチュエータの流量配分の一例を示す。ブームシリンダ4aとアームシリンダ5aで発生する流量損失、およびブームメータイン弁8a1とアームメータイン弁8a3の特性や流量係数が異なるため、ブームシリンダ4aとアームシリンダ5aへの流入流量の配分比率に誤差が生まれ、目標流量Q
a1と推定流量Q
e1の間、および目標流量Q
a2と推定流量Q
e2の間に定常的な誤差が発生している。
【0057】
図6(b)に、本実施例による各油圧アクチュエータの流量配分の一例を示す。目標流量Q
a1と推定流量Q
e1、および目標流量Q
a2と推定流量Q
e2の誤差に応じて、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1およびアームシリンダメータイン開口制御部10e2が式(2)~(4)に基づいて目標開口量を補正する。これにより、ブームシリンダ4aとアームシリンダ5aへの流入流量の配分比率の誤差が修正され、目標流量Q
a1と推定流量Q
e1の間、および目標流量Q
a2と推定流量Q
e2の間の定常的な誤差が解消されている。また、複合動作状態となる時刻t
1以降において、ポンプ吐出流量制御部10cが油圧ポンプ7の吐出流量を増加させたことにより、アーム推定流量Q
e2の目標流量Q
a2への追従性が向上している。
【0058】
本実施例では、油圧ポンプ7と、油圧ポンプ7の吐出流量を調整するレギュレータ7aと、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aと、油圧ポンプ7から吐出され、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aに分配される圧油の流量を調整する複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5と、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aを操作するための操作装置9aと、操作装置9aから入力される操作信号に基づいて、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aのそれぞれの流入流量の目標値である目標流量を決定し、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各目標流量に応じて、レギュレータ7aおよび複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5を制御するコントローラ10とを備えた建設機械100において、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各動作速度を検出する速度検出器12~14を備え、コントローラ10は、速度検出器12~14で検出した複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各動作速度に基づいて複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各流入流量を演算し、操作装置9aから入力される操作信号に基づいて、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aのうち2つ以上の油圧アクチュエータが同時に操作される複合動作中か否かを判定し、前記複合動作中と判定した場合、油圧ポンプ7の吐出流量が前記複数の油圧アクチュエータの合計目標流量よりも大きくなるようにレギュレータ7aを制御するとともに、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各目標流量と速度検出器12~14で検出した複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各流入流量との差分が小さくなるように複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の各開口量をそれぞれ制御する。
【0059】
以上のように構成した本実施例によれば、複合動作中と判定された場合、油圧ポンプ7の吐出流量を複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの合計目標流量よりも増加させると共に、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aの各流入流量と各目標流量の差分を複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の各開口量の制御にのみ反映させることにより、油圧ポンプ7の吐出流量が不足する状況を回避しつつ、油圧ポンプ7の吐出流量制御と複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の開口制御の間の干渉を防止することができる。これにより、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aに正確に流量を分配することができるため、複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aをオペレータの操作に応じて正確に動作させることが可能となる。
【実施例2】
【0060】
本発明の第2の実施例に係る油圧ショベルについて、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0061】
図7は、第2の実施例に係るコントローラ10の処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【0062】
本実施例においては、ブリードオフ弁8b1を方向制御弁8a1,8a3,8a5に対して独立して駆動するものとする。
図7に示すブリードオフ開口制御部10fは、複合動作判定部10bから入力された複合動作判定フラグに基づいて、ブリードオフ弁8b1の開口量を決定する。複合動作中であると判定された場合は、ブリードオフ弁8b1を開く指令が生成され、電流指令I
b,refがブリードオフ弁用電磁比例減圧弁8b2へと出力される。複合動作中でないと判定された場合は、ブリードオフ弁8b1を全閉する指令が生成され、電流指令I
b,refがブリードオフ弁用電磁比例減圧弁8b2へと出力される。
【0063】
図8は、第2の実施例に係るブリードオフ開口制御部10fの演算機能の詳細を表す制御ブロック図である。
【0064】
ブリードオフ開口制御部10fにおいては、複合動作判定部10bから入力された判定フラグに基づいて、複合動作時であれば一定開口Aconst、複合動作時でなければ零開口A0=0がセレクタSLT2によって選択される。選択された開口量がブリードオフ弁8b1の目標開口Abとして伝達され、変換テーブルTBL2によって目標開口Abから電流指令Ib,refへと変換されて、ブリードオフ弁用電磁比例減圧弁8b2へと出力される。
【0065】
図9は、第2の実施例に係るブリードオフ弁8b1からタンク41への排出流量の変化を示す図である。
【0066】
図9(a)は、操作レバー装置9aから入力される操作量に基づいて、目標流量決定部10aによって決定された目標流量を示している。
図5(a)と同様に、まずブームシリンダメータイン開口制御部10e1に目標流量Q
a1が入力され、時刻t
1にアームシリンダメータイン開口制御部10e2に目標流量Q
a2が入力された場合を一例として取り上げる。
【0067】
図9(b)は、複合動作判定部10bから入力される判定フラグに基づいて、ブリードオフ開口制御部10fによって決定されたブリードオフ弁8b1の目標開口A
bを示している。時刻t
1以前では、複合動作判定部10bが複合動作中ではないと判定しているため、目標開口A
b=0となり、ブリードオフ弁8b1を全閉するように設定している。時刻t
1以降では、複合動作判定部10bが複合動作中であると判定しているため、目標開口A
b=A
constとなっている。
【0068】
図9(c)は、ブリードオフ開口制御部10fから電流指令I
b,refがブリードオフ弁用電磁比例減圧弁8b2に入力されてブリードオフ弁8b1が駆動された時に、ブリードオフ弁8b1からタンク41へ排出されるブリードオフ排出流量Q
bを示している。時刻t
1以前では、ブリードオフ弁8b1が全閉状態となり、ブリードオフ排出流量Q
b=0となっている。時刻t
1以降では、ブリードオフ弁8b1の開口がA
constだけ開いた状態となり、油圧ポンプ7の吐出圧力に応じたブリードオフ排出流量Q
bがタンク41へと排出されている。
【0069】
本実施例に係る建設機械100は、油圧ポンプ7が吐出した圧油の余剰分を排出するためのブリードオフ弁8b1を、複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5と独立して駆動するように備え、コントローラ10は、複合動作中であると判定した場合、ブリードオフ弁8b1を開き、複合動作中でないと判定した場合、ブリードオフ弁8b1を閉じるように制御する。
【0070】
以上のように構成した本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0071】
複合動作中でない場合にブリードオフ弁8b1を全閉することにより、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1、アームシリンダメータイン開口制御部10e2、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3によって複合動作時の流量誤差を補正しながら、ブリードオフ弁8b1からタンク41への無駄な流量排出を抑制することができる。これにより、油圧アクチュエータの制御精度と省エネ性を両立させることが可能となる。
【実施例3】
【0072】
本発明の第3の実施例に係る油圧ショベルについて、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0073】
図10は、第3の実施例に係る油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【0074】
図10に示す油圧アクチュエータ制御システムは、ブームシリンダ流量センサ71をブーム方向制御弁8a1の上流に、アームシリンダ流量センサ72をアーム方向制御弁8a3の上流に、バケットシリンダ流量センサ73をバケット方向制御弁8a5の上流に設置している。流量センサ71~73によって、ブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6aへ流入する流量を直接推定する。流量センサ71~73はコントローラ10に電気配線を介して接続され、流量検出結果をコントローラ10に出力する。
【0075】
図11は、第3の実施例に係るコントローラ10の処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【0076】
ブームシリンダ流量センサ71、アームシリンダ流量センサ72、バケットシリンダ流量センサ73は、算出した推定流量Qe1,Qe2,Qe3を、ブームシリンダメータイン開口制御部10e1、アームシリンダメータイン開口制御部10e2、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3へと出力する。
【0077】
本実施例に係る建設機械100は、速度検出器12~14の代わりに、複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の上流にそれぞれ配置された複数の流量センサ71~73を備える。
【0078】
以上のように構成した本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0079】
ブームシリンダ流量センサ71、アームシリンダ流量センサ72、バケットシリンダ流量センサ73で各油圧アクチュエータ4a~6aへの流入流量を直接検出することで、油圧アクチュエータ動作時の摩擦や振動の影響による推定流量Qe1,Qe2,Qe3の推定誤差を除去することが可能となり、推定流量Qe1,Qe2,Qe3をより正確に算出することが可能となる。加えて、より正確な推定流量Qe1,Qe2,Qe3を用いて方向制御弁8a1,8a3,8a5の各開口量を制御することで、油圧アクチュエータ4a,5a,6aへの流入流量をより正確に分配することが可能となる。
【実施例4】
【0080】
本発明の第4の実施例に係る油圧ショベルについて、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0081】
図12は、第4の実施例に係る油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【0082】
図12に示す油圧アクチュエータ制御システムは、油圧ポンプ7の吐出圧力を計測するためのポンプ吐出圧力センサ51、ブームメータイン弁8a1下流のブーム負荷圧力を計測するためのブーム負荷圧力センサ52,55、アームメータイン弁8a3下流のアーム負荷圧力を計測するためのアーム負荷圧力センサ53,56、バケットメータイン弁8a5下流のバケット負荷圧力を計測するためのバケット負荷圧力センサ54,57を設置している。圧力センサ51~57はコントローラ10に電気配線を介して接続され、圧力検出結果をコントローラ10に出力する。
【0083】
図13は、第4の実施例に係るコントローラ10の処理機能の詳細を表す機能ブロック図である。
【0084】
ブームシリンダメータイン開口制御部10e1には、目標流量決定部10aが算出した目標流量Qa1、ブームシリンダ流量推定部10f1が推定した推定流量Qe1に加えて、ポンプ吐出圧力センサ51が検出したポンプ吐出圧力Pd、ブーム負荷圧力センサ52,55が検出したブーム負荷圧力Pa1が入力される。ブームシリンダメータイン開口制御部10e1は、以下の式(5)によって、式(2)によって算出された補正後目標流量Qa1,newを目標開口量Aa1へと変換する。
【0085】
【0086】
ここで、kは流量係数や圧油の密度等の影響を加味した正の定数値である。式(5)の右辺分母に示すように、ブームメータイン弁8a1の上流側の圧力(ポンプ吐出圧力Pd)と下流側の圧力(ブーム負荷圧力Pa1)の差圧を考慮してブームメータイン弁8a1の目標開口量Aa1を決定することで、差圧の影響によるブームメータイン弁8a1の通過流量の変化を補償することができる。式(2)、(4)、(5)を利用して、ブーム方向制御弁用電磁比例減圧弁8a2への電流指令Ia1,refを算出する。
【0087】
アームシリンダメータイン開口制御部10e2は、目標流量Qa2、推定流量Qe2、ポンプ吐出圧力Pd、アーム負荷圧力Pa2を利用して、バケットシリンダメータイン開口制御部10e3は、目標流量Qa3、推定流量Qe3、ポンプ吐出圧力Pd、バケット負荷圧力Pa3を利用して、式(2)、(4)、(5)から電流指令Ia2,ref,Ia3,refをそれぞれ算出する。
【0088】
本実施例に係る建設機械100は、油圧ポンプ7と複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5を繋ぐ各油路に配置された第1圧力センサ51と、複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5と複数の油圧アクチュエータ4a,5a,6aを繋ぐ各油路に配置された第2圧力センサ52~57とを更に備え、コントローラ10は、第1圧力センサ51および第2圧力センサ52~57で検出した複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の前後差圧に応じて、複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5を制御する。
【0089】
以上のように構成した本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0090】
メータイン弁8a1,8a3,8a5の上流側の圧力(ポンプ吐出圧力Pd)と下流側の圧力(負荷圧力Pa1)の差圧を考慮してメータイン弁8a1,8a3,8a5の目標開口量Aa1を決定することで、差圧の影響によるメータイン弁の通過流量の変化を補償することができる。これにより、負荷圧力の変動に対する油圧アクチュエータ4a~6aの速度応答性を向上することができる。
【実施例5】
【0091】
本発明の第5の実施例に係る油圧ショベルについて、第4の実施例との相違点を中心に説明する。
【0092】
図14は、第5の実施例に係るブリードオフ開口制御部10fの演算機能の詳細を表す制御ブロック図である。
【0093】
ブリードオフ開口制御部10fは、複合動作判定部10bから入力される判定フラグに加えて、ポンプ吐出圧力センサ51から入力されるポンプ吐出圧力Pdに基づいて、ブリードオフ弁用電磁比例減圧弁8b2への電流指令Ib,refを算出する。
【0094】
油圧アクチュエータに負荷が加わる場合、ポンプ吐出圧力Pdが増加して、ブリードオフ弁8b1からタンク41に排出される排出流量が増加する。排出流量が増加すると、油圧アクチュエータへ流入する流量が減少し、目標流量と推定流量の誤差が増大することが予想される。
【0095】
油圧アクチュエータに負荷が加わった場合の流量誤差の増大を防ぐために、例えば
図14に示す一定開口A
constを、ポンプ吐出圧力P
dに応じて以下の式(6)から算出する。
【0096】
【0097】
ここで、Qb,constはブリードオフ弁8b1から排出する目標一定排出流量である。ポンプ吐出圧力センサ51が検出したポンプ吐出圧力Pdを入力として、式(6)の演算を行うTBL3によって一定開口Aconstを算出する。
【0098】
TBL3により、ポンプ吐出圧力Pdの変動にかかわらず、一定の流量Qb,constを排出するようにブリードオフ弁8b1の開口量を調整する。
【0099】
本実施例に係る建設機械は、油圧ポンプ7の下流に配置された圧力センサ51を更に備え、コントローラ10は、圧力センサ51が検出した油圧ポンプ7の下流側の圧力に応じて、ブリードオフ弁8b1の開口量を補正する。
【0100】
以上のように構成した本実施例によれば、第4の実施例と同様の効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0101】
油圧アクチュエータ4a,5a,6aの負荷の増大に応じてブリードオフ弁8b1の開口が閉じる方向に制御し、タンク41への排出流量を減らすことにより、油圧アクチュエータ4a,5a,6aへ流入する流量の減少を防ぐことができる。
【実施例6】
【0102】
本発明の第6の実施例に係る油圧ショベルについて、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0103】
図15は、第6の実施例に係る油圧アクチュエータ制御システムを概略的に示す図である。
【0104】
図15に示す油圧アクチュエータ制御システムは、ブーム圧力補償弁61をブーム方向制御弁8a1の上流に、アーム圧力補償弁62をアーム方向制御弁8a3の上流に、バケット圧力補償弁63をバケット方向制御弁8a5の上流に設置している。圧力補償弁61~63は、圧力補償弁61~63と方向制御弁8a1,8a3,8a5の間の油路の圧力と、方向制御弁8a1,8a3,8a5と油圧アクチュエータ4a,5a,6aの間の油路の圧力を導く受圧部を有し、方向制御弁8a1,8a3,8a5の上流と下流の圧力を一定に保つように開口を調整する。
【0105】
本実施例に係る建設機械100は、複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の上流と下流の圧力差を一定に保つための圧力補償弁61~63を、複数の方向制御弁8a1,8a3,8a5の各上流にそれぞれ備える。
【0106】
以上のように構成した本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果に加えて、以下の効果が得られる。
【0107】
圧力補償弁61~63がメータイン弁8a1,8a3,8a5の前後差圧を一定に調整することにより、
図12に示す圧力センサ51~57を設置することなく、メータイン弁8a1,8a3,8a5の前後差圧の影響によるメータイン弁通過流量の変化を補償することができる。これにより、圧力センサの設置コストを抑え、コントローラ10の電子制御ロジックを簡略化することができる。
【0108】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0109】
1…フロント装置、2…上部旋回体、2a…旋回モータ(油圧アクチュエータ)、3…下部走行体、3a…走行モータ、4…ブーム、4a…ブームシリンダ、5…アーム、5a…アームシリンダ、5a1…ボトム側油室、5a2…ロッド側油室、6…バケット、6a…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、6a1…ボトム側油室、6a2…ロッド側油室、7…油圧ポンプ、7a…可変容量ポンプ用電磁比例減圧弁(レギュレータ)、8…コントロールバルブ、8a1…ブーム方向制御弁(ブームメータイン弁)、8a2…ブーム方向制御弁用電磁比例減圧弁、8a3…アーム方向制御弁(アームメータイン弁)、8a4…アーム方向制御弁用電磁比例減圧弁、8a5…バケット方向制御弁(バケットメータイン弁)、8a6…バケット方向制御弁用電磁比例減圧弁、8b1…ブリードオフ弁、8b2…ブリードオフ弁用電磁比例減圧弁、9…運転室、10…コントローラ、10a…目標流量決定部、10b…複合動作判定部、10c…ポンプ吐出流量制御部、10d1…ブームシリンダ流量推定部、10d2…アームシリンダ流量推定部、10d3…バケットシリンダ流量推定部、10e1…ブームシリンダメータイン開口制御部、10e2…アームシリンダメータイン開口制御部、10e3…バケットシリンダメータイン開口制御部、10f…ブリードオフ開口制御部、12…ブーム慣性計測装置(ブームシリンダ速度検出器)、13…アーム慣性計測装置(アームシリンダ速度検出器)、14…バケット慣性計測装置(バケットシリンダ速度検出器)、40…原動機、41…タンク、51…ポンプ吐出圧力センサ(第1圧力センサ)、52…ブーム負荷圧力センサ(第2圧力センサ)、53…アーム負荷圧力センサ(第2圧力センサ)、54…バケット負荷圧力センサ(第2圧力センサ)、55…ブーム負荷圧力センサ(第2圧力センサ)、56…アーム負荷圧力センサ(第2圧力センサ)、57…バケット負荷圧力センサ(第2圧力センサ)、61…ブーム圧力補償弁、62…アーム圧力補償弁、63…バケット圧力補償弁、71…ブームシリンダ流量センサ、72…アームシリンダ流量センサ、73…バケットシリンダ流量センサ、100…油圧ショベル(建設機械)。