(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】画像処理装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2019031616
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】下田 亜紗代
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-25212(JP,A)
【文献】特開2005-96481(JP,A)
【文献】特開平10-244692(JP,A)
【文献】特開2010-188703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出部がインクを吐出して次にインクを吐出する際に生じるインク吐出量の変動量を、インク吐出部を駆動するための駆動周波数毎、インク吐出部毎に記憶しておく記憶部と、
印刷ジョブに基づいて、所定の駆動周波数を決定し、前記所定の駆動周波数で前記印刷ジョブの画像データを印刷する所定のインク吐出部を決定する決定部と、
前記所定の駆動周波数及び前記所定のインク吐出部に対応するインク吐出量の変動量を前記記憶部から特定し、当該変動量が閾値以上の場合には当該変動量が生じるインク吐出部に対応する画像領域を前記画像データから特定し、前記画像領域の濃度を補正する補正部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記補正部は、
前記画像領域に所定の大きさ以上のベタ画像があるか否かを判定し、前記ベタ画像がある場合、前記補正を行い、前記ベタ画像がない場合、前記補正を行わないことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記補正部は、
前記画像データを印刷する印刷媒体が所定種類の印刷用紙であるか否かを判定し、前記所定種類の印刷用紙である場合、前記補正を行い、前記所定種類の印刷用紙でない場合、前記補正を行わないことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷対象である画像データを補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置は、一般に、インクジェットヘッドのインク室内にインクを貯留し、インク室内の圧電素子に電圧(駆動電圧)を印加して微振動を与え、インクジェットヘッドの底面に形成された複数のノズルからインクを吐出することにより、印刷対象の画像を印刷媒体に印刷する。
【0003】
このように、インクジェット印刷装置は、駆動電圧の印加によりインクを吐出して印刷するので、インク吐出量が駆動電圧の周波数(駆動周波数)に依存して変動するという課題があった。この課題はインク吐出時の振動やインク吐出後にインク室内に残る残留振動が周囲のインク室や次のインク吐出処理に影響することが要因であり、その影響度は駆動周波数によって変わるため、駆動電圧が同一であるにも関わらず、駆動周波数の変化に応じてインク吐出量が変動することとなる。
【0004】
また、上記インク吐出量の周波数変動特性は、インクジェットヘッド毎の僅かなインク室の構成の違いより、インクジェットヘッド毎に異なる。そのため、例えば、複数のインクジェットヘッドを印刷媒体の搬送方向と直交する印字幅方向に並べたライン方式のインクジェット印刷装置の場合、インクジェットヘッドの位置、大きさ、材料成分量等の違いから、インク吐出量がインクジェットヘッド毎に異なり、印刷媒体の搬送方向にインクジェットヘッド幅単位のインクの濃度ムラが発生する。
【0005】
さらに、上記インク吐出量の周波数変動特性は、駆動電圧の入力制御、つまり、インクジェットヘッドの駆動パターンによっても異なる。例えば、インクの吐出ドロップ数、インクの吐出パターン(例えば、網点印刷を行うためのノズル単駆動/間引き駆動、ベタ印刷を行うためのノズル連続駆動等)によっても異なる。
【0006】
すなわち、従来のインクジェット印刷装置には、インクジェットヘッドの駆動周波数、インクジェットヘッド(筐体)、インクジェットヘッドの駆動パターンの違いにより、インク吐出量が変動するという課題があり、その結果、印刷の画質が低下する可能性があった。そこで、特許文献1では、駆動周波数の変化に応じて駆動電圧を補正することにより、特許文献2では、駆動周波数の変化に応じて駆動電圧の波形を変更することにより、インクジェットヘッドの駆動周波数が変化する場合でも均一なインク吐出量を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-239861号公報
【文献】特開2017-13392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2のようにインクジェットヘッドの駆動電圧又は駆動電圧波形を補正しても、インク吐出時の振動やインク吐出後の残留振動が他のインク室や次のインク吐出処理に影響することに起因するインク吐出量の変動を十分に抑制することは困難であり、インクの吐出ドロップ数や吐出パターンによっては、インク吐出量の過剰又は不足が生じる可能性がある。
【0009】
また、インクジェットヘッドの駆動周波数は、一般に印刷媒体の種類等に応じて印刷処理毎に一意に決定され、複数のインクジェットヘッドに対して同一の処理(制御)が行われるので、特許文献1,2のように駆動周波数の変化に応じてインクジェットヘッドの駆動電圧又は駆動電圧波形を補正しても、インクジェットヘッド毎に生じるインク吐出量のバラツキを解消することは難しい。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、駆動周波数に依存するインク吐出量のバラツキを解消し、印刷画像の品質を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するため、本発明に係る画像処理装置は、インク吐出部がインクを吐出して次にインクを吐出する際に生じるインク吐出量の変動量を、インク吐出部を駆動するための駆動周波数毎、インク吐出部毎に記憶しておく記憶部と、印刷ジョブに基づいて、所定の駆動周波数を決定し、前記所定の駆動周波数で前記印刷ジョブの画像データを印刷する所定のインク吐出部を決定する決定部と、前記所定の駆動周波数及び前記所定のインク吐出部に対応するインク吐出量の変動量を前記記憶部から特定し、当該変動量が閾値以上の場合には当該変動量が生じるインク吐出部に対応する画像領域を前記画像データから特定し、前記画像領域の濃度を補正する補正部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動周波数に依存するインク吐出量のバラツキを解消し、印刷画像の品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】インクジェット印刷装置及び画像処理装置の構成例を示す図である。
【
図2】駆動周波数とインク吐出量の変動例を示す図である。
【
図3】インク吐出量の変動量の管理例を示す図である。
【
図6】画像データの印刷例及び補正例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態では、特許文献1,2のようなインクジェットヘッドの駆動電圧又は駆動電圧波形を補正するという手法ではなく、インクジェットヘッドにインク吐出量の周波数変動特性があることを前提に印刷対象の画像データを補正する手法を採る。
【0015】
具体的には、印刷対象の画像データと印刷時の駆動周波数より残留振動の影響度を解析し、この影響度に応じて当該画像データ内の画像濃度を予め補正しておくことで、インクジェットヘッドでインク吐出量の辻褄を合わせるようにする。これにより、インクジェットヘッドの駆動周波数、インクジェットヘッド(筐体)、インクジェットヘッドの駆動パターン(インクの吐出ドロップ数、インクの吐出パターン等)等の変化によるインク吐出量のバラツキを解消し、印刷画像の品質向上を図る。
【0016】
以下、本発明を実施する一実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態では、複数のインクジェットヘッドを印刷媒体の搬送方向と直交する印字幅方向に並べたライン方式のインクジェット印刷装置を用いる。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1の構成例を示す図である。本実施の形態では、インクジェット印刷装置1の内部で動作する画像処理装置100に本発明の特徴を有するが、本発明の特徴の理解を助けるため、画像処理装置100を除いた既存の構成部による印刷処理について先に説明する。
【0018】
インクジェット印刷装置1は、
図1に示したように、印刷ジョブ記憶部11等を備えて構成される。例えば、インクジェット印刷装置1は、通信ネットワークを介して端末装置3に接続されており、印刷要求元の端末装置3から出力された印刷ジョブを受信した後、当該印刷ジョブを印刷ジョブ記憶部11に記憶する。
【0019】
そして、印刷条件管理部12は、印刷ジョブ記憶部11から印刷ジョブに含まれる印刷条件データを取得し、取得した印刷条件データに基づき複数のインクジェットヘッド(インク吐出部)17を駆動するための駆動電圧や駆動周波数等を決定するとともに、各インクジェットヘッド17に付属の各温度センサ18から各色インクの温度データ等を取得して管理する。
【0020】
また、画像データ解析部13は、印刷ジョブ記憶部11から印刷ジョブに含まれる印刷対象の画像データを取得し、取得した画像データをラスタデータに変換するRIP(Raster Image Processor)処理や、画像データに含まれる色を再現するために画素毎の各色インクの使用率をそれぞれ決定する色変換処理等を行う。
【0021】
その後、印刷制御部14は、用紙トレイから印刷用紙Pを取り出して搬送ベルト15まで給紙し、駆動ローラ16を駆動して印刷用紙Pをインクジェットヘッド17の下側へ移動させつつ、決定した画素毎の各色インクの使用率に基づき、決定していた駆動周波数の駆動電圧で複数のインクジェットヘッド17をそれぞれ駆動し、各インクジェットヘッド17の底面にある複数のノズルからシアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色インクをそれぞれ吐出することにより、印刷対象の画像を印刷用紙Pに印刷する。
【0022】
本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、上述した既存の構成部に加え、
図1に示したように、画像処理装置100を更に備える。当該画像処理装置100は、印刷対象の画像データを補正するための装置である。このような画像処理装置100は、メモリ、CPU、入出力インタフェース等を備えたコンピュータで実現可能である。
【0023】
まず、画像処理装置100の機能について説明する。画像処理装置100は、主として、
図1に示したように、データ記憶部101と、印刷条件決定部102と、画像データ補正部103と、を備えて構成される。
【0024】
ここで、背景技術で説明したインク吐出量の周波数変動特性について説明する。
図2(a)は、あるインクジェットヘッド17で測定した駆動周波数とインク吐出量の変動例を示す図である。横軸は駆動周波数(右側が高周波)を示し、縦軸は変動吐出量[%]を示す。
図2(a)より、当該インクジェットヘッド17では、駆動周波数が異なることでインク吐出量が増減し、高周波領域でインク吐出量の変動が大きく、低周波領域でインク吐出量の変動が小さくなり収束する傾向にあることが分かる。
【0025】
図2(b)は、異なる2つのインクジェットヘッド17で測定したインクジェットヘッド毎の駆動周波数とインク吐出量の変動例を示す図である。ここでは、高周波領域の変動を拡大して示している。
図2(b)より、インクジェットヘッドにより、インク吐出量の変動が異なり、周波数変動の大きさや位相にズレがあることが分かる。
【0026】
図2(c)は、あるインクジェットヘッド17で測定した吐出ドロップ数毎の駆動周波数とインク吐出量の変動例を示す図である。所定の駆動期間内における吐出ドロップ数が6ドロップと3ドロップの場合を示した。
図2(c)より、当該インクジェットヘッド17では、吐出ドロップ数の大きい方が吐出ドロップ数の少ない場合よりもインク吐出量の変動が大きい傾向にあることが分かる。また、図示しないが、インクの吐出パターンについては、ベタ印刷を行うためのノズル連続駆動の方が、網点印刷を行うためのノズル単駆動/間引き駆動よりもインク吐出量の変動が大きい傾向にある。
【0027】
そこで、インクジェット印刷装置1の管理者は、インクジェット印刷装置1を構成する複数のインクジェットヘッド17について、インクジェットヘッド17がインクを吐出して次にインクを吐出する際に生じるインク吐出量の変動量を駆動周波数等を変えて予め測定しておく。
【0028】
そして、
図3に示すように、インク吐出量の変動量を、インクジェットヘッド17を駆動するための駆動周波数毎、インクジェットヘッド17毎、インクジェットヘッド17の駆動パターン毎に、データ記憶部101に記憶しておく。また、インク吐出量の変動量は色インクの粘度にも依存するので、色インクの温度を変えてインク吐出量の変動量を測定し、インク吐出量の変動量を色インクの温度毎にデータ記憶部101に記憶しておく。
【0029】
それゆえ、データ記憶部101は、インク吐出量の変動量を、インクジェットヘッド17を駆動するための駆動周波数毎、インクジェットヘッド17毎、インクジェットヘッド17の駆動パターン毎、インクジェットヘッド17内の色インクの温度毎に記憶しておく機能を備える。
【0030】
印刷条件決定部102は、印刷ジョブ記憶部11に格納された印刷ジョブに基づき、インクジェットヘッド17を駆動するための駆動周波数と、その駆動周波数で印刷対象の画像データを印刷するためのインクジェットヘッドと、印刷対象の画像データを印刷するための駆動パターンと、を決定する機能を備える。
【0031】
画像データ補正部103は、決定した駆動周波数、インクジェットヘッド、駆動パターンに対応し、かつ、当該インクジェットヘッド17内の色インクの温度にも対応するインク吐出量の変動量を全てデータ記憶部101から特定し、当該全ての変動量のうち閾値X[%]以上の変動量がある場合、当該閾値以上の変動量が生じるインクジェットヘッド17に対応する画像領域を印刷対象の画像データから特定し、当該画像領域の濃度を補正する機能を備える。
【0032】
また、画像データ補正部103は、当該画像領域にドットが集合した所定の大きさ以上のベタ画像があるか否かを判定し、当該ベタ画像がある場合、上記補正を行い、当該ベタ画像がない場合、上記補正を行わない機能を備える。つまり、画像データ補正部103は、閾値X以上の変動量が生じる画像領域を特定した場合であっても、その画像領域内にベタ画像が含まれ、かつ、ベタ画像が所定の大きさ以上である場合にのみ、上記補正を行う。
【0033】
また、画像データ補正部103は、印刷対象の画像データを印刷する印刷媒体が所定種類の印刷用紙であるか否かを判定し、所定種類の印刷用紙である場合、上記補正を行い、所定種類の印刷用紙でない場合、上記補正を行わない機能を備える。つまり、画像データ補正部103は、印刷対象の画像データを印刷する印刷媒体が所定種類の印刷用紙である場合にのみ、上記補正を行う。
【0034】
次に、画像処理装置100で行う画像データの補正方法について説明する。以下、
図4を用いて画像データの補正方法を説明する。
図4は、画像処理装置100の処理フローを示す図である。
【0035】
ステップS1;
まず、印刷条件決定部102は、印刷ジョブ記憶部11から印刷ジョブを取得する。印刷ジョブには、印刷対象の画像データ及び印刷条件データが含まれている。印刷条件データには、印刷ユーザにより指定された両面又は片面印刷、用紙サイズ、用紙種類等が含まれている。
【0036】
ステップS2;
次に、印刷条件決定部102は、印刷ユーザにより指定された用紙種類等に基づき、インクジェットヘッド17を駆動するための駆動周波数を決定する。また、印刷条件決定部102は、印刷対象の画像データに基づき、印刷対象の画像データを印刷するためのインクジェットヘッド及び駆動パターンを決定する。駆動周波数及び駆動パターンの決定方法は、既存の方法を用いる。インクジェットヘッドの決定方法については、例えば、印刷条件決定部102は、各インクジェットヘッド17の位置情報を参照し、画像データ内でドットのある位置に対応するインクジェットヘッド17を印刷に用いるインクジェットヘッド17として決定する。
【0037】
ステップS3;
次に、画像データ補正部103は、印刷条件管理部12から、ステップS2で決定したインクジェットヘッド17に係る色インクの温度を取得する。そして、画像データ補正部103は、ステップS2で決定したインクジェットヘッド及び駆動パターン、更に当該温度の全ての条件に合致する全てのインクジェットヘッド17について、ステップS2で決定した駆動周波数に対応するインク吐出量の変動量を全てデータ記憶部101から特定する。そして、画像データ補正部103は、当該全ての変動量のうち閾値X以上の変動量がある場合、当該閾値X以上の変動量が生じるインクジェットヘッド17に対応する画像領域を印刷対象の画像データから特定する。
【0038】
ステップS4;
次に、画像データ補正部103は、ステップS3で特定した画像領域からドットが集合したベタ画像を特定し、当該ベタ画像が所定面積以上のベタ画像であるか否かを判定する。例えば、画像データ補正部103は、印刷媒体の搬送方向において同じドロップ数のドットが印字幅方向で集まったベタ画像を特定し、M×Nピクセル以上であるか否かを判定する。
【0039】
具体的には、画像データ補正部103は、
図5に示すように、画像領域からベタ画像Aを特定し、当該ベタ画像Aがインクジェットヘッド17底部の5つのノズルからそれぞれ5回ずつドロップされる5×5ドットのベタ画像である場合、予め定義された4×4ドットの閾値画像Bよりも大きいと判定し、補正対象のベタ画像とする。
【0040】
なお、ベタ画像A及び閾値画像Bは、正方形に限らず、3×4ドットや2×4ドット等の矩形、その他、円形、楕円、扇形、菱形、星形等でもよい。また、ドットの集合とは複数のドットが所定画像領域内で例えば例均等配置、偏在配置等にある状態を含み、本実施の形態では、所定面積内の濃度(例えば、平均濃度)が所定値以上であれば所定面積内で濃度が偏っていてもベタ画像として扱う。
【0041】
そして、特定したベタ画像が所定面積以上のベタ画像である場合、ステップS5へ進む。一方、ベタ画像がない場合、特定したベタ画像が所定面積未満のベタ画像である場合、補正することなく処理を終了する。
【0042】
ステップS5;
次に、画像データ補正部103は、印刷ユーザにより指定された印刷媒体が所定種類の印刷用紙であるか否かを判定する。所定種類の印刷用紙とは、例えば、マット紙等の上質紙である。マット紙が指定されていた場合、ステップS6へ進む。一方、マット紙が指定されていない場合、補正することなく処理を終了する。
【0043】
ステップS6;
最後に、画像データ補正部103は、ステップS3で特定したインク吐出量の変動量に基づき画像領域の濃度を補正(濃度調整)し、補正後の画像データを印刷ジョブ11に格納する。なお、ステップS4及びステップS5については、その実行の有無を選択可能としてもよい。例えばステップS4及びステップS5を実行しない場合、画像データ補正部103は、ステップS3で特定した画像領域の全領域を補正対象とする。
【0044】
図6は、画像データの印刷例及び補正例を示す図である。印刷ジョブに含まれていた補正対象の画像データDをインク吐出量の変動の小さい低周波領域の駆動電圧でベタ印刷すると、画像データDと概ね同じ濃度で印刷されるが、高周波領域の駆動電圧でベタ印刷すると画像データDよりも濃い濃度で印刷される。
【0045】
そこで、高周波領域の駆動電圧でベタ画像を印刷する場合、つまり、インク吐出量の変動量が閾値X以上に大きくなる場合には、ステップS3で特定したインク吐出量の変動量を参照し、ステップS2で決定した駆動周波数においてインク吐出量が増加する変動傾向であれば、インクジェットヘッド17における吐出ドロップ数が例えば-1となるように(6ドロップを5ドロップとするように)、補正対象である画像領域の画像濃度を低下させる。例えば、
図6に示したように、画像データDの画像濃度よりも低濃度の画素(濃度ゼロも可)を5%程度混在させた誤差拡散パターンの画像データD’に補正する。一方、印刷対象の画像データにおいて例えば吐出ドロップ数が少ない場合には、インク吐出変動が小さいので補正を行わないようにしてもよい。
【0046】
本実施の形態によれば、画像処理装置100において、データ記憶部101が、インク吐出量の変動量を、インクジェットヘッド17を駆動するための駆動周波数毎、インクジェットヘッド17毎、インクジェットヘッド17の駆動パターン毎、インクジェットヘッド17内の色インクの温度毎に記憶しておく。そして、印刷条件決定部102が、印刷ジョブに基づいて、印刷処理を行うために用いる所定の駆動周波数、所定のインクジェットヘッド17、所定の駆動パターンを決定する。その後、画像データ補正部103が、当該所定の駆動周波数、当該所定のインクジェットヘッド17、当該所定の駆動パターン、色インクの現在の温度に対応するインク吐出量の変動量をデータ記憶部101から特定し、当該変動量が閾値以上の場合には当該変動量が生じるインクジェットヘッド17に対応する画像領域を印刷ジョブの画像データから特定し、画像領域の濃度を補正する。それゆえ、駆動周波数やインクジェットヘッド等によるインク吐出量のバラツキを軽減でき、駆動周波数やインクジェットヘッド等の違いで画像濃度が異なる現象を改善できる。その結果、印刷画像の品質を向上できる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、画像データ補正部103は、画像領域にドットが集合した所定面積以上のベタ画像があるか否かを判定し、当該ベタ画像がある場合、上記補正を行い、当該ベタ画像がない場合、上記補正を行わないので、見た目に影響の大きいサイズのベタ画像のみを補正することから、画像補正に係る時間を短縮できる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、画像データ補正部103は、画像データを印刷する印刷媒体がマット紙であるか否かを判定し、マット紙の場合、上記補正を行い、マット紙でない場合、上記補正を行わないので、インクの吐出不良が目立ちやすいマット紙の場合のみ補正することから、例えば普通紙の場合は補正が行われないので、画像補正に係る時間を大幅に軽減できる。
【0049】
(変形例1)
本実施の形態では、画像データ補正部103が、インクジェットヘッド17に対応する画像領域の全体又は一部を補正対象とする場合について説明した。一方、画像データ補正部103は、隣接するインクジェットヘッド17の繋ぎ目に対応する画像領域のみを補正してもよい。
【0050】
複数のインクジェットヘッド17は、一般に、
図7に示すように、印字幅方向に並べて、かつ、1つおきに搬送方向の位置をずらして配置される。この場合、各インクジェットヘッド17a,17b・・・にそれぞれ対応する各画像領域の境界において、印刷媒体の搬送方向であるライン単位でインクの濃度ムラが際立つ可能性がある。境界エリアの画像を補正しない場合、その境界エリアの画像は画像全体で濃度ムラが最も際立つ場所となる。
【0051】
そこで、
図7に示したように、隣接するインクジェットヘッド17の繋ぎ目に対応する画像領域のみを補正対象として画像データD’’のように補正し、繋ぎ目に対応する画像領域以外の画像領域は画像データDのままとする。これにより、ライン間のインクの濃度ムラをより確実に抑制でき、画像補正に係る時間を短縮できる。
【0052】
(変形例2)
本実施の形態では、シアン、ブラック、マゼンタ、イエローの色を補正対象として説明した。一方、画像データ補正部103は、印刷用紙の色に対して視認性の高い色やユーザの指定色のみを補正対象としてもよい。例えば、印刷用紙が白色の場合、その白色に対して明度差の最も大きいブラックの画像濃度のみを変更する。これにより、特定色のみの画像濃度を補正するので、画像補正に係る時間を短縮できる。
【0053】
(変形例3)
本実施の形態では、画像処理装置100がインクジェット印刷装置1の内部で動作する場合について説明した。一方、画像処理装置100は、印刷対象の画像データを補正することに特徴を有するので、
図1に示した端末装置3の内部で動作してもよい。この場合、画像処理装置100は、インクジェット印刷装置1から印刷ジョブを取得して印刷対象の画像データを補正し、画像補正後の画像データを含む印刷ジョブをインクジェット印刷装置1へ送信することとなる。
【0054】
なお、本実施の形態で説明したインクジェット印刷装置1は、印刷装置や画像形成装置の例であり、インクジェット印刷装置1に付随する封入封緘装置等についても対象装置に含めることができる。
【0055】
<付記>
本出願は、以下の発明を開示する。
【0056】
(付記1)
インク吐出部がインクを吐出して次にインクを吐出する際に生じるインク吐出量の変動量を、インク吐出部を駆動するための駆動周波数毎、インク吐出部毎に記憶しておく記憶部と、
印刷ジョブに基づいて、所定の駆動周波数を決定し、前記所定の駆動周波数で前記印刷ジョブの画像データを印刷する所定のインク吐出部を決定する決定部と、
前記所定の駆動周波数及び前記所定のインク吐出部に対応するインク吐出量の変動量を前記記憶部から特定し、当該変動量が閾値以上の場合には当該変動量が生じるインク吐出部に対応する画像領域を前記画像データから特定し、前記画像領域の濃度を補正する補正部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【0057】
(付記2)
前記補正部は、
前記画像領域に所定の大きさ以上のベタ画像があるか否かを判定し、前記ベタ画像がある場合、前記補正を行い、前記ベタ画像がない場合、前記補正を行わないことを特徴とする付記1に記載の画像処理装置。
【0058】
(付記3)
前記補正部は、
前記画像データを印刷する印刷媒体が所定種類の印刷用紙である場合、前記補正を行い、前記所定種類の印刷用紙でない場合、前記補正を行わないことを特徴とする付記1又は2に記載の画像処理装置。
【符号の説明】
【0059】
1…インクジェット印刷装置
11…印刷ジョブ記憶部
12…印刷条件管理部
13…画像データ解析部
14…印刷制御部
15…搬送ベルト
16…駆動ローラ
17…インクジェットヘッド
18…温度センサ
3…端末装置
100…画像処理装置
101…データ記憶部
102…印刷条件決定部
103…画像データ補正部