(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221209BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 201C
H01G4/30 201G
H01G4/30 201F
H01G4/30 513
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2019034411
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐田 貴生
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 芳博
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-040403(JP,A)
【文献】特開2002-326868(JP,A)
【文献】特開平02-303109(JP,A)
【文献】特開平10-284338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層と電極層とが交互に積層された積層体と、
該積層体の端部に設けられた1対の外部電極と、
少なくとも1つの前記電極層と一方の前記外部電極とを電気的に接続している中間電極と、
を備え、
該中間電極が、導電性炭素材料を
20体積%以上含有している、
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記中間電極における前記導電性炭素材料の含有率が、50体積%以下である、請求項
1に積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記積層体は、隣り合う前記電極層同士が対向する容量領域を備え、
前記中間電極と、前記電極層との接合部が、前記容量領域よりも前記外部電極側に位置している、請求項1
または2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記中間電極が、前記積層体の表面上に存在する、請求項1乃至
3のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記導電性炭素材料は、導電性ポリマー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーまたはグラファイトである、請求項1乃至
4のいずれかに記載の積層
セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セラミック層と電極層とを交互に積み重ねた後、一体的に焼成して作製された積層型のセラミック電子部品が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本実施形態の一態様に係る積層セラミック電子部品は、セラミック層と電極層とが交互に積層された積層体と、該積層体の端部に設けられた1対の外部電極と少なくとも1つの前記電極層と一方の前記外部電極とを電気的に接続している中間電極とを備え、該中間電極が、導電性炭素材料を20体積%以上含有している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本実施形態に係る積層セラミック電子部品の部分断面斜視図である。
【
図3】積層セラミック電子部品の他の態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1は、本実施形態に係る積層セラミック電子部品100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、積層セラミック電子部品100の他の態様の断面図である。
【0007】
本実施形態に係る積層セラミック電子部品100は、積層セラミックコンデンサ、積層型圧電素子、積層サーミスタ素子、積層チップコイル、セラミック多層基板など様々な電子部品に適用可能である。
【0008】
図1等で例示するように、積層セラミック電子部品100は、セラミック層11と電極層12とが交互に積層された積層体10を備えている。
図1等では、直方体形状である積層体10が例示されているが、積層体10はこのような形状に制限されない。例えば、積層体10の各面は曲面であってもよく、積層体10は全体として丸みを帯びた形状であってもよい。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。また、セラミック層11および電極層12の積層数は特に制限されず、20層以上であってもよい。
【0009】
セラミック層11は、主成分としてBaTiO3(チタン酸バリウム)、CaZrO3(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)等のセラミック材料を含有する。ここで、主成分とは、セラミック層11において最も含有割合(mol%)の高い化合物である。なお、セラミック層11の主成分は上記したセラミック材料のみに制限されるものではない。
【0010】
セラミック層11の主成分としては、積層セラミック電子部品100の静電容量を高める観点から、高誘電率材料を使用してもよい。高誘電率材料の一例として、上記したセラ
ミック材料を含むペロブスカイト型酸化物を使用してもよい。
【0011】
セラミック層11は、上述した成分に加えてSiやMg、希土類元素等の種々の成分を含有してもよい。
【0012】
セラミック層11の組成は、積層セラミック電子部品100を粉砕し、粉末状にしたセラミック層11に対してXRD(X線回折法)を用いることで分析することができる。
【0013】
セラミック層11の厚みは特に制限されず、一層あたり0.5~100μm程度であってもよい。
【0014】
電極層12には、種々の金属材料が適用可能である。例えば、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属およびこれらを含む合金を使用してもよい。
【0015】
電極層12は、金属材料に加えて、セラミック材料を含有していてもよい。このような構成によれば、焼成時における、電極層12とセラミック層11との収縮挙動が近付くため、それらの界面で発生するクラックを低減することができる。
【0016】
電極層12の厚みは用途等に応じて適宜決定すればよく、0.1~100μm程度であってもよい。
【0017】
積層セラミック電子部品100は、積層体10の端部に、電極層12が交互に電気的に接続された1対の外部電極20を備えている。より具体的には、
図2に示すように、積層セラミック電子部品100は、外部電極20aに電気的に接続された電極層12aと、外部電極20bに電気的に接続された電極層12bとが、セラミック層11を介して交互に積層された構成である。また、積層セラミック電子部品100は、2対以上の外部電極20を備えていてもよい。
【0018】
外部電極20には、種々の金属材料を使用してもよい。例えば、金属材料としては、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属およびこれらを含む合金を使用してもよい。
【0019】
ところで、積層セラミック電子部品100を配線基板に実装して使用する場合、基板実装時の熱的応力や、基板実装後の基板のたわみによる機械的応力、高温負荷環境における熱暴走等により、電極層12間にショートが発生する場合がある。ショートが発生した積層セラミック電子部品100には過電流が流れ、発煙や発火の可能性が生じる。また、ショートが発生した積層セラミック電子部品100は、多くの場合その機能を失う。
【0020】
これに対して、
図1等に示すように、本実施形態においては、積層セラミック電子部品100が、少なくとも1つの電極層12と、一方の外部電極20とを電気的に接続している中間電極13を備えている。積層セラミック電子部品100は、複数の中間電極13を備えていてもよい。
【0021】
中間電極13は、導電性炭素材料を含有している。このような構成により、中間電極13にはヒューズ機能が付与される。すなわち、電極層12間がショートし、積層セラミック電子部品100に過電流が流れた場合、当該電極層12に接続された中間電極13は過電流により焼き切れる。これにより、当該中間電極13を介して電気的に接続されていた電極層12と外部電極20とが絶縁状態となり、過電流が遮断される。この結果、積層セラミック電子部品100が発煙および発火する可能性を低減することができる。さらに、
中間電極13が焼き切れた後においても、ショートの発生していない正常な回路は維持されるため、積層セラミック電子部品100の機能を維持することができる。
【0022】
導電性炭素材料は例えば大気中で300℃~600℃で分解するため、導電性炭素材料を含有する中間電極13は、比較的低温で焼き切れさせることができる。この結果、過電流による積層セラミック電子部品100の温度上昇が低減されるため、発煙および発火の可能性を低減することができる。さらに、温度上昇に伴う積層セラミック電子部品100へのダメージを低減することができるため、中間電極13が焼き切れた後においても、積層セラミック電子部品100の機能が維持されやすい。
【0023】
導電性炭素材料として、導電性ポリマー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーまたはグラファイト等を使用した場合、高い導電性を得ることができる。
【0024】
例えば
図1および2に示すように、中間電極13はセラミック層11同士に挟持されるように、積層体10の内部に配置されていてもよい。この場合、中間電極13は、エンドマージン領域14に少なくとも配置され、電極層12と一方の外部電極20とを電気的に接続する。
【0025】
ここで、エンドマージン領域14とは、
図2に示すように、隣り合う電極層12同士が対向する容量領域15よりも外部電極20側の領域をいう。換言すれば、一方の外部電極20aに電気的に接続された電極層12a同士が、他方の外部電極20bに電気的に接続された電極層12bを介さずに対向する領域をいう。または、他方の外部電極20bに電気的に接続された電極層12b同士が、一方の外部電極20aに電気的に接続された電極層12aを介さずに対向する領域をいう。エンドマージン領域14は、積層体10においてほとんど静電容量を発生しない領域である。また、容量領域15は、積層体10において静電容量を発生する領域である。なお
図2では、便宜的にエンドマージン領域14および容量領域15を、本来より若干大きな破線枠で示している。
【0026】
中間電極13が積層体10の内部に配置される場合、
図2に示すように、電極層12と中間電極13との接合部は、エンドマージン領域14に位置していてもよい。換言すれば、電極層12aと中間電極13との接合部は、容量領域15よりも外部電極20a側に位置していてもよい。または、電極層12bと中間電極13との接合部は、容量領域15よりも外部電極20b側に位置していてもよい。
【0027】
電極層12と中間電極13との接合部では電気抵抗が増加するため、電極層12と中間電極13との接合部で発生するジュール熱が増大し、周囲のセラミック層11にダメージを与える場合がある。
【0028】
エンドマージン領域15は上述したように、積層セラミック電子部品100において静電容量をほとんど発生しない領域である。このため、電極層12と中間電極13との接合部をエンドマージン領域15に配置することで、ジュール熱により周囲のセラミック層11にダメージが与えられた場合も、積層セラミック電子部品100の静電容量の低下を低減することができる。
【0029】
なお、中間電極13の配置は上述した内容に制限されるものではなく、電極層12と中間電極13との接合部が容量領域15に位置していてもよい。換言すれば、中間電極13がエンドマージン領域14のみならず、容量領域15にまで及んで配置されていてもよい。
【0030】
図2に示すように、積層セラミック電子部品100は、隣り合って積層された少なくとも1組の電極層12のそれぞれが、中間電極13を介して外部電極20と電気的に接続されていてもよい。より具体的には、一方の外部電極20aが、中間電極13を介して少なくとも1つの電極層12aと電気的に接続されており、当該電極層12aと隣り合って積層された少なくとも1つの電極層12bが、中間電極13を介して他方の外部電極20bと電気的に接続されている構成であってもよい。
【0031】
このような構成によれば、電極層12a-電極層12b間がショートした際に、電極層12aまたは電極層12bどちらか少なくとも一方と電気的に接続された中間電極13が、ヒューズとして正常に機能することで、過電流が遮断される。この結果、ヒューズの不良による積層セラミック電子部品100の故障の可能性を低減することができる。
【0032】
図2に示すように、積層セラミック電子部品100は、すべての電極層12が中間電極13を介して外部電極20と電気的に接続されていてもよい。このような構成によれば、ヒューズの不良による積層セラミック電子部品100の故障の可能性をさらに低減することができる。
【0033】
中間電極13は、導電性炭素材料を20体積%以上含有していてもよく、40体積%以上、さらには60体積%以上含有していてもよい。このような構成によれば、中間電極13において10S/cm以上の高い導電率が得られる。
【0034】
なお、中間電極13がヒューズとして機能するために必要となる導電性炭素材料の含有率は特に規定されないが、導電性炭素材料を20体積%以上含有する場合、ヒューズとしての機能が発揮されやすい。すなわち、中間電極13が導電性炭素材料を20体積%以上含有していると、過電流により中間電極13が焼き切れやすくなる。したがって、導電性炭素材料を20体積%以上含有する中間電極13は少なくとも、ヒューズ機能を有していると判断してよい。
【0035】
上述した内容に加えて、中間電極13がヒューズ機能を有することは、以下のように確認してもよい。まず、積層セラミック電子部品100を配線基板に実装し、直流電源にて積層セラミック電子部品100の定格電圧を超える電圧を印加する。このとき、印加電圧は定格電圧の5倍以上としてもよい。その後、積層体10に研磨処理を施し中間電極13を含む断面を露出させ、中間電極13周辺の状態を目視する。このとき、中間電極13が電極層12間のショートにより焼き切れており、中間電極13が焼き切れることで、ショートした回路が絶縁状態となっている場合、中間電極13がヒューズ機能を有すると判断してもよい。
【0036】
また、中間電極13は、導電性炭素材料の含有率が50体積%以下であってもよい。このような構成によれば、中間電極13における導電性炭素材料の有効面積が過度に増加しないため、中間電極13の電気抵抗が低下し難い。これにより、中間電極13が発生するジュール熱が維持されるため、ショート発生時に中間電極13がより短時間で焼き切れるようになる。この結果、この結果、過電流による積層セラミック電子部品100の温度上昇が低減されるため、発煙および発火の可能性を低減することができる。
【0037】
中間電極13は、導電性炭素材料に加えて、セラミック材料を含有していてもよい。典型的な中間電極13は、導電性炭素材料を20体積%以上含有し、必要に応じてセラミック材料を含有し、空隙率が30体積%以下であるが、これに制限されるものではない。
【0038】
中間電極13がセラミック材料を含有する場合、焼成時における、中間電極13とセラミック層11との収縮挙動が近付くため、それらの界面で発生するクラックを低減するこ
とができる。この結果、積層セラミック電子部品100の焼成工程におけるクラック発生を低減することができる。したがって、積層セラミック電子部品100の製造工程における不良の発生を低減することができる。
【0039】
中間電極13は、セラミック材料を30体積%以上含有していてもよく、50体積%以上、さらには70体積%以上含有していてもよい。このような構成によれば、電極層12間で発生するショートや、積層セラミック電子部品100の製造工程における不良の発生をさらに低減することができる。
【0040】
一方で、例えば中間電極13を容量領域15にまで及んで配置する場合には、中間電極13におけるセラミック材料の含有率を30体積%以下としてもよく、20体積%以下、さらには10体積%以下としてもよい。このような構成によれば、中間電極13における導電性炭素材料の有効面積が低下し難く、積層セラミック電子部品100の静電容量が低下し難い。したがって、静電容量の低下を低減しつつ、電極層12間で発生するショートや、積層セラミック電子部品100の製造工程における不良の発生を低減することができる。
【0041】
このように、中間電極13における導電性炭素材料およびセラミック材料の含有率は、目的に応じて適宜設定すればよい。なお、中間電極13は、上述した成分に加えて金属材料等その他の成分を含有していてもよい。
【0042】
中間電極13が含有するセラミック材料の主成分は、セラミック層11の主成分と同一組成であってもよい。このような構成によれば、焼成時における、中間電極13とセラミック層11との収縮挙動がより近付くため、それらの界面で発生するクラックをさらに低減することができる。したがって、積層セラミック電子部品100の製造工程における不良の発生をさらに低減することができる。
【0043】
中間電極13の組成は以下のようにして分析してもよい。
【0044】
まず、積層セラミック電子部品100に研磨処理を施し、中間電極13を含む断面を露出させる。次に、露出させた断面に対してSEM(走査型電子顕微鏡)にてBEI(反射電子像)を撮影し、画像解析装置を用いて中間電極13に占める導電性炭素材料またはセラミック材料の面積比率(面積%)を測定する。このとき撮影箇所は10箇所以上とし、その平均値を算出する。このようにして求めた面積割合(面積%)を、体積割合(体積%)として考慮してもよい。なお、目視にて中間電極13が判別し難い場合には、外部電極20付近の、積層体10の内部および表面について組成を分析し、中間電極13を特定してもよい。
【0045】
ところで、中間電極13を積層体10の内部に配置する場合、電極層12と中間電極13との接合部付近に段差が生じることがある。この段差は積層体10の加圧接着工程において積層体10の接着性を低下させ、積層セラミック電子部品100の信頼性低下につながる場合がある。これに対して、本実施形態では、
図3に示すように、中間電極13は積層体10の表面上に配置されていてもよい。このような構成によれば、積層体10の内部に上記した段差が生じないため、積層体10の接着性が向上する。この結果、信頼性の高い積層セラミック電子部品100を実現することができる。
【0046】
さらに、中間電極13を積層体10の表面上に配置する場合、中間電極13を、積層体10の製造後に後から付与することが可能となる。すなわち、積層体10を構成するセラミック層11と、中間電極13とを同時焼成で作製する必要がなくなる。この結果、中間電極13が含有する導電性炭素材料の分解温度に左右されることなく、セラミック層11
の焼成温度を設定することが可能となる。
【0047】
なお、本実施形態においては、
図2に示すように1つの電極層12に対して1つの中間電極13が接続されていてもよいし、
図3に示すように複数の電極層12に対して1つの中間電極13が接続されていてもよい。複数の電極層12に対して1つの中間電極13が接続される場合、中間電極13の一部のみが焼き切れることにより、ショートした電極層12のみが外部電極20と絶縁される。この結果、正常な回路は維持されるため、積層セラミック電子部品100の機能は維持される。
【0048】
次に、本実施形態に係る積層セラミック電子部品100の製造方法について、具体例を説明する。
【0049】
はじめに、セラミック層11用ペーストを作製する。なお、以下で説明するセラミック層11用ペーストは、後述するセラミック層11用ペーストと、中間電極13用ペーストとの同時焼成に適したものとなる。ただし、本実施形態に使用されるセラミック層11用ペーストは、以下で説明するものに制限されない。
【0050】
まず、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物の粉末を準備する。ペロブスカイト型酸化物としては、BaTiO3(チタン酸バリウム)、CaZrO3(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)系、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0051】
ペロブスカイト型酸化物の粉末としては、平均粒子径が50nm程度のナノ粉末を使用する。このような粉末としては、市販されているものを使用できる。なお、粉末の平均粒子径は、画像解析ソフトを使用して走査形電子顕微鏡(SEM)画像から測定することができる。
【0052】
次に、準備したペロブスカイト型酸化物の一般式ABO3について、Aサイト元素の水酸化物A(OH)2の粉末と、Bサイト元素の酸化物BO2の粉末をさらに準備する。ここで、Aサイト元素の水酸化物A(OH)2の粉末およびBサイト元素の酸化物BO2の粉末は、市販されているものを使用することができる。なお、Aサイト元素の水酸化物A(OH)2の粉末およびBサイト元素の酸化物BO2の粉末の平均粒子径は、先に準備したペロブスカイト型酸化物の粉末と同等(50nm程度)としてもよい。
【0053】
その後、0.1mol/LのAサイト元素の水酸化物A(OH)2水溶液と、Bサイト元素の酸化物BO2の粉末とを、1:1のモル比で混合することで、A(OH)2/BO2懸濁液を作製する。
【0054】
次に、A(OH)2/BO2懸濁液と、先に準備したペロブスカイト型酸化物の粉末とを、重量比で1:4の割合で混合することで、セラミックペレットを作製する。混合には高せん断ミキサーを使用してもよい。ここで、高せん断ミキサーとは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターとの間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。混合時間は特に制限されない。
【0055】
なお、セラミックペレットには上述した材料に加えて、SiやMg、希土類元素等その他の材料を添加してもよい。
【0056】
次に、作製したセラミックペレットに、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルを混練して塗料化し、セラミック層11用ペーストを得る。
【0057】
水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0058】
次に、電極層12用ペーストを作製する。電極層12用ペーストは、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属、あるいはPt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金と、有機ビヒクルとを混練して作製する。
【0059】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0060】
次に、中間電極13用ペーストを作製する。中間電極13用ペーストは、導電性ポリマー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーまたはグラファイト等の導電性炭素材料と、有機ビヒクルとを混練して作製する。
【0061】
電極層12用ペーストおよび中間電極13用ペーストには、必要に応じてセラミック材料を添加してもよい。
【0062】
次に、焼成後に積層体10となるグリーンチップを作製する。
【0063】
ドクターブレード法またはダイコータ法等のシート成形法をセラミック層11用ペーストに用いて、セラミックグリーンシートを作製する。このグリーンシート表面に電極層12用ペーストを所定パターンで、スクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで電極層12を有するグリーンシートを作製する。なお、積層体10の内部に中間電極13を配置する場合には、電極層12用ペーストまたは中間電極13用ペーストをセラミックグリーンシート表面に印刷した後、残りのペーストをインクジェット印刷等によりさらに印刷すればよい。次いで、作製したグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得る。
【0064】
次に、グリーンチップの焼成を行う。このとき、昇温速度は5℃/分~10℃/分、焼成温度は180℃~300℃、温度保持時間は0.5時間~4時間である。焼成雰囲気は大気中としてもよい。焼成後、大気中にて保持温度が150~250℃、保持時間が6~12時間の条件で、脱水処理を施す。
【0065】
なお、焼成においては100~500MPa程度の圧力下で焼成を行ってもよい。このような方法によれば、焼成後のセラミック層11の密度が向上する。加圧方法としては熱間等方圧プレス(HIP)等が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0066】
なお、グリーンチップの焼成後に、必要に応じてアニール処理を施してもよい。アニール処理の条件は、昇温速度を5℃/分~10℃/分、処理温度は700℃~900℃、温度保持時間は0.5時間~3時間としてもよい。雰囲気ガスとしてはたとえば、N2とH2との混合ガスを加湿して用いることができる。
【0067】
上述のようにして得られたセラミック層11は、理論密度に対して90%以上の密度を有し、積層セラミック電子部品100に適用可能なものとなる。
【0068】
次に、得られた積層体10に、例えばバレル研磨などにより端面研磨を施し、外部電極20用ペーストを塗布し、700~900℃で0.1~1時間程度加熱することで外部電極20を形成する。そして、必要に応じ、外部電極20表面に、めっき等により被覆層を形成する。外部電極20用ペーストは、上述した電極層12用ペーストと同様にして作製すればよい。
【0069】
なお、積層体10の表面上に中間電極13を配置する場合には、外部電極20の形成前に、中間電極13を積層体10の表面上に形成してもよい。この場合、端面研磨を施した積層体10の表面上に中間電極13用ペーストを塗布した後、200℃~300℃で数時間程度の熱乾燥を実施し、中間電極13を形成する。その後、形成した中間電極13上に、さらに外部電極20を形成してもよい。
【0070】
上述した方法で積層体10の表面上に中間電極13を形成し、積層体10の内部には中間電極13を配置しない場合には、中間電極13用ペーストが含有する導電性炭素材料の分解温度に左右されることなく、グリーンチップの焼成温度を設定することができる。すなわち、グリーンチップの焼成を、上述した焼成条件よりも高温で実施することができる。したがってこの場合には、上述したセラミックペレットをセラミック層11用ペーストに用いずとも、中間電極13を容易に作製することができる。
【0071】
一方、積層体10の内部に中間電極13を配置する場合、セラミック層11、電極層12および中間電極13を同時に焼成する必要が生じる。このとき、例えば焼成温度を1000℃以上とした場合、導電性炭素材料を含有する中間電極13は、焼成工程で焼失する場合がある。したがって、積層体10の内部に中間電極13を配置する場合には、グリーンチップの焼成温度を1000℃以下とする必要がある。また、上述したようにグリーンチップの焼成温度を250℃以下とすると、さらに信頼性の高い中間電極13を得ることができる。
【0072】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミック電子部品100は、ハンダ付等により配線基板等に実装され、各種電子機器等に使用される。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0075】
はじめに、試料No.1~5の積層セラミック電子部品を作製した。
【0076】
まず、平均粒子径が50nmであるBaTiO3(チタン酸バリウム)粉末を準備した。
【0077】
その後、0.1mol/LのBa(OH)2水溶液と、TiO2粉末とを、1:1のモル比で混合することで、Ba(OH)2/TiO2懸濁液を作製した。
【0078】
次に、Ba(OH)2/TiO2懸濁液と、先に準備したBaTiO3(チタン酸バリウム)粉末とを、重量比で1:4の割合で混合することで、セラミックペレットを作製した。混合には高せん断ミキサーを使用し、混合時間は5時間とした。
【0079】
次いで、得られたセラミックペレットに、水系ビヒクルを添加し、ボールミルで混合してペースト化してセラミック層用ペーストを得た。
【0080】
次に、Ni粒子に、BaTiO3(チタン酸バリウム)、テルピネオール、エチルセルロース、ベンゾトリアゾールを添加し、3本ロールにより混練してペースト化して電極層用ペーストを作製した。
【0081】
次に、カーボンナノチューブに、BaTiO3(チタン酸バリウム)、エチルセルロース、ベンゾトリアゾールを添加し、3本ロールにより混練してペースト化して中間電極用ペーストを作製した。
【0082】
そして、作製したセラミック層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが15μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に電極層用ペース
トおよび中間電極用ペーストを所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層および中間電極を有するグリーンシートを作製した。次いで、このグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0083】
その後、得られたグリーンチップについて、昇温速度が9℃/分、焼成温度が180℃、温度保持時間が3時間の条件で焼成を行った。焼成雰囲気は大気中とした。焼成後、大気中にて保持温度が200℃、保持時間が12時間の条件で、脱水処理および脱バインダ処理を施し、積層体となる焼結体を得た。なお、焼成については熱間等方圧プレス(HIP)にて300MPaの圧力下で実施した。
【0084】
次いで、得られた焼結体にバレル研磨処理を施し、積層体の端面に電極層を十分に露出させた。外部電極としてNi外部電極を形成し、試料No.1~5の積層セラミック電子部品を得た。得られた各試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、セラミック層の厚みを10μm、電極層の厚みを1.0μm、電極層に挟まれたセラミック層の数は50とした。
【0085】
試料No.1~5の積層セラミック電子部品では、中間電極の構成がそれぞれ異なっており、詳細を以下に示す。なお、試料No.1~5のすべての試料において、中間電極は積層体の内部に配置した。また、1種類の試料が有するすべての電極層と、外部電極との間には中間電極が介在し、1つの電極層に対して1つの中間電極が接続される構成とした。さらに、1種類の試料が有するすべての中間電極は、そのサイズや配置、組成を同一のものとした。
【0086】
また、試料No.1~5の積層セラミック電子部品において、電極層におけるNi(ニッケル)の含有率は約80体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約10体積%、空隙率は約10体積%とした。
【0087】
試料No.1では、電極層と中間電極との接合部は容量領域に位置する。なお、電極層と中間電極の平均長さ、平均幅および平均厚みは略同一である。中間電極において、カーボンナノチューブの含有率は約20体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約70体積%、空隙率は約10体積%である。
【0088】
試料No.2では、電極層と中間電極との接合部は容量領域に位置する。なお、電極層と中間電極の平均長さ、平均幅および平均厚みは略同一である。中間電極において、カーボンナノチューブの含有率は約40体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率
は約50体積%、空隙率は約10体積%である。
【0089】
試料No.3では、電極層と中間電極との接合部は容量領域に位置する。なお、電極層と中間電極の平均長さ、平均幅および平均厚みは略同一である。中間電極において、カーボンナノチューブの含有率は約60体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約30体積%、空隙率は約10体積%である。
【0090】
試料No.4では、電極層と中間電極との接合部は容量領域に位置する。なお、電極層と中間電極の平均長さ、平均幅および平均厚みは略同一である。中間電極において、カーボンナノチューブの含有率は約80体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約10体積%、空隙率は約10体積%である。
【0091】
試料No.5では、電極層と中間電極との接合部はエンドマージン領域に位置する。なお、電極層と中間電極の平均長さは約9:1の比率とし、平均幅および平均厚みは略同一とした。中間電極において、カーボンナノチューブの含有率は約40体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約50体積%、空隙率は約10体積%である。
【0092】
次に、中間電極が積層体の表面上のみに配置されている試料No.6の積層セラミック電子部品を作製した。
【0093】
まず、平均粒子径が50nmであるBaTiO3(チタン酸バリウム)粉末を準備した。加えて、Y2O3粉末、SiO2粉末、MgO粉末およびMnCO3粉末を準備した。これら粉末はいずれも、BaTiO3(チタン酸バリウム)100molに対して、2.0mol以下準備した。
【0094】
これらの粉末を、ボールミルで湿式混合撹拌を20時間行うことで混合した。混合後、有機ビヒクルを添加し、混合することでセラミック層用ペーストを作製した。
【0095】
次に、試料No.1~5と同様にして、電極層用ペーストおよび中間電極用ペーストを作製し、次いでセラミック層用ペーストおよび電極層用ペーストを用いてグリーンチップを作製した。
【0096】
その後、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理および焼成を下記条件にて行い、積層体となる焼結体を得た。
【0097】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0098】
焼成条件は、昇降温速度:100℃/時間、焼成温度:1200℃、温度保持時間:2時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN2+H2混合ガスを使用した。
【0099】
次いで、得られた焼結体にバレル研磨処理を施し、積層体の端面に電極層を十分に露出させた。その後、積層体の表面に中間電極用ペーストを塗布し、180℃で5時間の熱乾燥を行うことで中間電極を形成した。このとき、すべての電極層が中間電極に交互に接続されるように、1対の中間電極を形成した。
【0100】
次に、形成した中間電極上に、外部電極としてNi外部電極を形成し、試料No.6の積層セラミック電子部品を得た。得られた試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、セラミック層の厚みを10μm、電極層の厚みを1.0μm、電極層に挟まれたセラミック層の数は50とした。なお、電極層におけるNi(ニッケル)の含有
率は約80体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約10体積%、空隙率は約10体積%とした。また、中間電極におけるカーボンナノチューブの含有率は約40体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率は約50体積%、空隙率は約10体積%とした。
【0101】
次に、Ni(ニッケル)を電極層の主成分とし、中間電極を有していない試料No.7の積層セラミック電子部品を、試料No.6の積層セラミック電子部品と同様の製造方法で作製した。この試料No.7の積層セラミック電子部品と、試料No.6の積層セラミック電子部品との違いは、中間電極の有無のみである。なお、試料No.7が有する電極層では、Ni(ニッケル)の含有率を約80体積%、BaTiO3(チタン酸バリウム)の含有率を約10体積%、空隙率を約10体積%とした。
【0102】
作製した試料No.1~7の積層セラミック電子部品について以下の評価を行った。サンプル数は各試料について30個とした。
【0103】
まず、各試料に対し、恒温槽とLCRメータを用いて、室温(25℃)で静電容量を測定した。このとき、周波数1.0kHz、測定電圧を1Vrmsとして測定し、その平均値を求めた。このとき、試料No.7の積層セラミック電子部品の静電容量を基準値(1.00)とし、試料No.1~6の積層セラミック電子部品の静電容量をその基準値に対する値に変換算出した。
【0104】
次に、各試料をLFハンダにてガラスエポキシ基板に実装した後、一定のたわみ量(5mm)で配線基板を5秒間たわませた。その後、各試料に対して、125℃、相対湿度95%RH、1.2気圧の高温高湿槽内にて、定格電圧を印加し、1000時間の耐湿負荷加速試験を行った。試験終了後、各試料についてショート状態であるサンプル数をカウントした。ここで、絶縁抵抗値(IR値)が2桁以上低下したものをショート状態であると判断した。なお、中間電極がヒューズとして正常に機能した場合、電極層間が一旦ショートに至った後に、中間電極が焼き切れ過電流が遮断される。一方、中間電極がヒューズとして機能しなかった場合、電極層間がショートした後、絶縁復帰せずにショート状態が維持される。
【0105】
その後、試料No.1~6については、ヒューズ(中間電極)が焼き切れたサンプル数をさらにカウントした。カウントにあたっては、試料No.1~6に研磨処理を施し中間電極を含む断面を露出させ、ヒューズの状態を目視した。少なくとも1つのヒューズが焼き切れているサンプルを、ヒューズが焼き切れたサンプルとしてカウントした。
【0106】
以上の結果を表1にまとめる。
【0107】
【0108】
表1に示すように、中間電極を有する試料No.1~6では、ショート状態のサンプルが発生しなかった。なお、これらの試料No.1~6はすべて、中間電極がカーボンナノチューブを約20体積%以上含有していた。さらに、試料No.1~6はすべて、セラミック層の主成分と、中間電極が含有するセラミック材料の主成分とが同一組成(BaTiO3)であった。
【0109】
また、電極層と中間電極との接合部が、容量領域よりも外部電極側に位置している試料No.5では、電極層と中間電極との接合部が、容量領域に位置しているNo.1~4と比べて高い静電容量が得られた。
【0110】
また、中間電極が積層体の表面上のみに配置されている試料No.6では、中間電極が配置されていない試料No.7と比べても、静電容量が低下していなかった。これは、試料No.6ではセラミック層、電極層および中間電極を同時に焼成する必要がないため、セラミック層の高温での焼成が可能となり、試料No.1~5と比べて密度のより高いセラミック層が得られたことに起因していると考えられる。
【符号の説明】
【0111】
100・・・・・・積層セラミック電子部品
10・・・・・・・積層体
11・・・・・・・セラミック層
12・・・・・・・電極層
13・・・・・・・中間電極
14・・・・・・・エンドマージン領域
15・・・・・・・容量領域
20・・・・・・・外部電極