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  • 特許-ペリクルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】ペリクルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20221209BHJP
【FI】
G03F1/62
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019064882
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020166063
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
(72)【発明者】
【氏名】種市 大樹
(72)【発明者】
【氏名】大原 健児
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-077739(JP,A)
【文献】特開2004-085639(JP,A)
【文献】特開2003-057803(JP,A)
【文献】特開平07-068576(JP,A)
【文献】特開2011-118263(JP,A)
【文献】特開平09-160222(JP,A)
【文献】国際公開第2012/004950(WO,A1)
【文献】特開平10-171100(JP,A)
【文献】特開平06-266098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル膜と、前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、を有するペリクルの製造方法であって、
ペリクル枠に、前記ペリクル枠より外径が大きいペリクル膜を貼付する貼付工程と、
前記ペリクル枠の外周からはみ出した前記ペリクル膜をトリミングするトリミング工程と、
前記トリミング工程後の前記ペリクル枠の端部に、下記一般式(1)で表される化合物を含む非水系溶媒を塗布する溶媒塗布工程と、
【化1】
(一般式(1)において、X~Xは、フッ素原子、水素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基のいずれかを表し、
~Xのうち、4つ以上がフッ素原子である
を有し、
前記非水系溶媒が、前記非水系溶媒の総量100質量部に対し、前記一般式(1)で表される化合物を30質量部以上50質量部以下含む、ペリクルの製造方法。
【請求項2】
前記溶媒塗布工程で塗布する前記非水系溶媒が、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエンおよび2,3,4,5,6-ペンタフルオロ-ペンタフルオロエチルベンゼンからなる群より選ばれるいずれかの化合物を含む、
請求項に記載のペリクルの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒塗布工程で塗布する前記非水系溶媒が、ヘキサフルオロベンゼンを30~50質量%含む、
請求項1または2に記載のペリクルの製造方法。
【請求項4】
前記ペリクル枠が、前記ペリクル膜を貼付する面の外周端に面取り部を有し、
前記溶媒塗布工程で、前記面取り部に前記非水系溶媒を塗布する、
請求項1~のいずれか一項に記載のペリクルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(大規模集積回路)、超LSI等の半導体デバイス、あるいは液晶表示板等の製造工程では、マスク(露光原板)を介して光を照射し、各種パターンを形成する。このとき、マスクに異物が付着していると、異物に光が吸収されたり、光が屈折したりする。その結果、パターニング精度が低くなり、得られるデバイスの品質や外観が損なわれる。そこで、マスク表面にペリクルを装着し、マスクへの異物付着を抑制することが一般的である。
【0003】
ペリクルは、通常、パターニング用の光を透過可能なペリクル膜と、当該ペリクル膜の外周を支持するペリクル枠とから構成される。ペリクル枠は、アルミニウムやステンレス鋼、ポリエチレン等から構成される。一方、ペリクル膜は、一般的にニトロセルロース、酢酸セルロース、またはフッ素樹脂等からなる膜で構成される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/004950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、ペリクルは半導体リソグラフィー工程におけるマスクへの異物付着防止のため部材である。そのため、ペリクル自体に異物が付着しないよう、クリーンルームで製造する等の工夫がなされている。しかしながら、ペリクルを製造する過程で、塵が発生しやすく、これがペリクル枠に付着しやすい、という課題があった。一般的なペリクルの製造方法では、ペリクル枠に、外径が当該ペリクル枠より大きなペリクル膜を、接着剤等を介して貼り付ける。そして、ペリクル枠からはみ出た部分を、ナイフ等で切断除去(トリミング)する。このトリミングの際、ペリクル膜の切れ端が細かい塵となってペリクル枠に付着し、異物となりやすかった。また、ペリクル膜の貼付後に生じた塵を物理的に取り除こうとすると、非常に手間と時間がかかり、完全に除去することが難しかった。したがって、効率よくペリクルを作製できない、という課題があった。
【0006】
本発明は、ペリクル枠にペリクル膜を貼付した後に発生する異物を容易に除去可能なペリクルの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のペリクルの製造方法を提供する。
[1]ペリクル膜と、前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、を有するペリクルの製造方法であって、ペリクル枠に、前記ペリクル枠より外径が大きいペリクル膜を貼付する貼付工程と、前記ペリクル枠の外周からはみ出した前記ペリクル膜をトリミングするトリミング工程と、前記トリミング工程後の前記ペリクル枠の端部に、下記一般式(1)で表される化合物および/または下記一般式(2)で表される化合物を含む非水系溶媒を塗布する溶媒塗布工程と、
【化1】
(一般式(1)において、X~Xは、フッ素原子、水素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基のいずれかを表し、
~Xのうち、4つ以上がフッ素原子である)
【化2】
(一般式(2)において、Y~Yは、フッ素原子、水素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基のいずれかを表し、
~Yのうち、3つ以下がフッ素原子である(ただし、Y~Yのうち1つ以下がフッ素原子である場合、Y~Yのうち少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である))を有する、ペリクルの製造方法。
【0008】
[2]前記溶媒塗布工程で塗布する前記非水系溶媒が、一般式(1)で表される化合物を含む、[1]に記載のペリクルの製造方法。
[3]前記溶媒塗布工程で塗布する前記非水系溶媒が、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエンおよび2,3,4,5,6-ペンタフルオロ-ペンタフルオロエチルベンゼンからなる群より選ばれるいずれかの化合物を含む、[1]または[2]に記載のペリクルの製造方法。
【0009】
[4]前記溶媒塗布工程で塗布する前記非水系溶媒が、ヘキサフルオロベンゼンを30~50質量%含む、[1]~[3]のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
[5]前記ペリクル枠が、前記ペリクル膜を貼付する面の外周端に面取り部を有し、前記溶媒塗布工程で、前記面取り部に前記非水系溶媒を塗布する、[1]~[4]のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペリクルの製造方法によれば、ペリクル枠にペリクル膜を貼付した後に発生する異物を除去可能であり、異物付着のないペリクルを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のペリクルが含むペリクル枠の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のペリクルの製造方法について説明する。
本発明の製造方法で製造するペリクルは、ペリクル膜と、前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、を有する。
【0013】
上述のように、ペリクルには、異物の付着がないことが求められている。しかしながら、ペリクル枠より外径が大きなペリクル膜を貼付してからペリクル膜をトリミングし、ペリクルを作製すると、ペリクル膜の切れ端が異物の原因となりやすかった。
【0014】
これに対し、本発明のペリクルの製造方法では、(a)ペリクル枠に、ペリクル枠より外径が大きいペリクル膜を貼付する貼付工程と、(b)ペリクル枠の外周からはみ出したペリクル膜をトリミングするトリミング工程と、(c)トリミング工程後のペリクル枠の端部に、特定の構造を有する化合物を含む非水系溶媒を塗布する溶媒塗布工程と、を含む。本発明者らが鋭意検討したところ、特定の構造を有する化合物(非水系溶媒)によれば、ペリクル膜を非常に効率よく溶解させることが可能であり、異物の原因となるペリクル膜由来の異物を除去できることが明らかとなった。
【0015】
つまり、本発明のペリクルの製造方法によれば、ペリクル枠に付着したペリクル膜由来の異物を容易に除去可能である。以下、本発明のペリクル膜の製造方法の各工程について説明する。
【0016】
(a)貼付工程
本発明のペリクルの製造方法の(a)貼付工程では、ペリクル枠およびペリクル膜を準備し、ペリクル枠にペリクル膜を貼付する。
【0017】
本工程で使用するペリクル枠11の一例の平面図を図1Aに示し、当該ペリクル枠11の側面図を図1Bに示す。ペリクル枠11の形状は、ペリクルの用途、すなわちペリクルを貼り付けるマスクの形状に合わせて適宜選択される。例えば、マスク(図示せず)の光照射面を囲む、四角形状の枠等とすることができる。ペリクル枠11の幅は、貼付されるペリクル膜(図示せず)を十分に支持可能であれば特に制限されない。また、ペリクル枠11の高さは、マスクに配置されたパターンと干渉しない高さであればよく、特に制限されない。
【0018】
本発明では特に、ペリクル枠11のペリクル膜を貼付する側の面の外周端に面取り部11Aを有することが好ましい。ペリクル枠11が面取り部11Aを有すると、後述するが、溶媒塗布工程において、ペリクル膜(図示せず)とペリクル枠11との貼着面には非水系溶媒を塗布することなく、ペリクル枠11の面取り部11Aおよびペリクル枠11の側面11Bにのみ非水系溶媒を塗布できる。その結果、ペリクル膜(図示せず)を溶解させることなく、ペリクル枠11の面取り部11Aまたはペリクル枠11の側面に付着した異物のみを溶解(除去)できる。
【0019】
当該面取り部11Aの角度や幅は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において特に制限されないが、ペリクル枠11はC面取りされていることが特に好ましい。面取り部11AがC面取りされた領域であると、面取り部11Aに非水系溶媒を塗布した際、非水系溶媒がペリクル膜とペリクル枠11との貼着面に流れ込み難くなる。
【0020】
ここで、上記ペリクル枠の材質は、ペリクル膜を、接着剤等を介して貼付可能であれば特に制限されない。ペリクル枠の例には、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン、真鍮、鉄、ステンレス鋼等が含まれる。中でもアルミニウム合金が、重量、加工性、耐久性等の観点で好ましい。
【0021】
なお、ペリクル枠11のペリクル膜を貼付しない側の面には、ペリクルをマスクに貼着するためのマスク接着剤層が配置されていてもよい。当該マスク接着剤層は、公知のマスク接着剤層と同様であり、その例には両面粘着テープ、シリコーン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤等が含まれる。また、当該マスク接着剤層は、ペリクルをマスクに貼付する直前まで保護部材等によって保護されていてもよい。
【0022】
一方、本工程で準備するペリクル膜は、ペリクル枠より大きい外径を有する。つまり、ペリクル枠に貼付したとき、その少なくとも一部がはみ出す大きさである。ペリクル膜が、ペリクル枠と略同等の大きさ(外径)を有する場合、ペリクル膜とペリクル枠との位置合わせが難しくなる。これに対し、ペリクル膜の大きさ(外径)をペリクル枠より大きくすることで、ペリクル膜とペリクル枠との位置合わせが容易になり、効率よくペリクルを作製可能となる。なお、ペリクル膜は、ペリクル枠に貼付する際、全周がはみ出す大きさであってもよく、一部のみがはみ出す大きさであってもよい。
【0023】
また、ペリクル膜の厚みは、ペリクルの用途等に応じて適宜設定されるが、通常1μm以下が好ましい。ペリクル膜の厚みが十分に薄いほど、マスクに照射する光(露光光)の透過率が高まりやすい。
【0024】
ここで、ペリクル膜を構成する材料は、露光光の種類等に応じて適宜選択され、露光光を十分に透過可能であり、かつ当該露光光によって分解等し難い膜であれば特に制限されない。またペリクル膜の一方の面、もしくは両方の面には、必要に応じて酸化防止膜や放熱膜が積層されていてもよい。
【0025】
ペリクル膜を構成する材料の例には、非晶質フルオロポリマー等のフッ素樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース等が含まれ、特に非晶質フルオロポリマーが好ましい。非晶質フルオロポリマーは、後述の非水系溶媒に対する溶解性が高い。
【0026】
ここで、非晶質とは、X線回折法で明確な回折現象が示されないことを言う。非晶質フルオロポリマーからなるペリクル膜は、エキシマレーザー光(一般的な露光光)に対する透過性が高く、例えば波長193nmの光に対して透過率が99%以上である膜とすることができる。また、非晶質フルオロポリマーからなるペリクル膜は、厚さ1μm以下としたときに、自立膜となりやすく、非常に取扱やすい。自立膜とは、ペリクル枠に貼り付けたときに、皺や弛みが発生しない膜を意味する。
【0027】
非晶質フルオロポリマーの例には、主鎖に環状構造を有するパーフルオロ脂環式ポリマーや、主鎖に環状構造を有さない鎖状パーフルオロポリマーが含まれる。
【0028】
主鎖に環状構造を有するパーフルオロ脂環式ポリマーの例には、以下の化学式で示される環状パーフルオロエーテル基を繰り返し単位とする重合体が含まれる。パーフルオロ脂環式ポリマーの他の例には、特開2000-275817号公報等に示された重合体が含まれる。
【化3】
上記構造式において、mは0または1であり、nは10~1×10の範囲である。
【0029】
パーフルオロ脂環式ポリマーの例には、サイトップ(CYTOP、旭硝子(株)製)等が含まれる。
【0030】
一方、主鎖に環状構造を有さない鎖状パーフルオロポリマーの例には、以下の一般式で示される繰り返し単位を有する重合体が含まれる。鎖状パーフルオロポリマーの他の例には、特開2003-57803号公報等に示された重合体が含まれる。
【化4】
上記一般式において、XおよびXはそれぞれ独立に、HまたはFを表し、XはH、F、CH3、またはCFを表し、XおよびXはそれぞれ独立に、H、F、またはCFを表し、a、bおよびcはそれぞれ独立に、0または1を表す。
【0031】
aが0の場合、Rfは、炭素数4~100の直鎖または分岐鎖状で水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されているフルオロアルキル基、もしくは炭素数4~100の直鎖または分岐鎖状で水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されているエーテル結合を含むフルオロアルキル基を表す。一方で、aが1の場合、Rfは炭素数3~99の直鎖または分岐鎖状で水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されているフルオロアルキル基、もしくは炭素数3~99の直鎖または分岐鎖状で水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されているエーテル結合を含むフルオロアルキル基を表す。
【0032】
ペリクル膜の製造方法は特に制限されず、例えば各種基板上に、スピンコート法等により、ペリクル膜を成膜し、当該基板からペリクル膜を剥離することで、製造してもよい。このとき、基板の剥離方法は特に制限されず、物理的に剥離する方法であってもよく、エッチング等により基板を溶解して除去する方法であってもよい。
【0033】
ここで、上述のペリクル膜とペリクル枠とを貼付する方法は特に制限されず、ペリクル枠上に、各種接着剤をディスペンサ等により塗布し、必要に応じてプリベークした後、ペリクル膜を接着剤(膜接着剤層)上に載置する方法等であってもよい。ペリクル膜を載置した後、必要に応じて加熱や活性光線の照射等を行い、膜接着剤を硬化させてもよい。膜接着剤の例には、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、含フッ素シリコーン接着剤等が含まれる。
【0034】
(b)トリミング工程
本発明のペリクルの製造方法の(b)トリミング工程では、上述の(a)貼付工程によって貼付したペリクル膜のうち、ペリクル枠の外周からはみ出した部分を除去(本明細書では「トリミング」とも称する)する。
【0035】
トリミングの方法は特に制限されず、例えば、カッター、ナイフ、レーザー等によりペリクル膜の不要な部分を切断する方法とすることができる。また、有機溶剤を使用した方法であってもよい。
【0036】
(c)溶媒塗布工程
本発明のペリクルの製造方法の(c)溶媒塗布工程では、上記(b)トリミング工程後のペリクル枠の端部に、下記一般式(1)で表される化合物および/または下記一般式(2)で表される化合物を含む非水系溶媒を塗布する。非水系溶媒は、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物のうち、いずれか一方のみを含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。なお、下記一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。また、これらの構造以外の非水系溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0037】
本工程で塗布する非水系溶媒の総量100質量部に対する、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物の総量は、10~100質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましく、30~50質量部がさらに好ましい。下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物の総量が10質量部以上であると、ペリクル枠に付着したペリクル膜由来の異物を常温でも溶解しやすい。一方、特に70質量部以下であると、ペリクルに非水系溶媒が残存し難くなり、アウトガスが生じ難くなったり、ペリクル表面に非水系溶媒が残存したりし難くなる。
【0038】
【化5】
上記一般式(1)において、X~Xは、フッ素原子、水素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基のいずれかを表し、X~Xのうち、4つ以上がフッ素原子である。
【化6】
上記一般式(2)において、Y~Yは、フッ素原子、水素原子、フッ素原子を有するアルキル基、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基のいずれかを表し、Y~Yのうち、3つ以下がフッ素原子である(ただし、Y~Yのうち1つ以下がフッ素原子である場合、Y~Yのうち少なくとも1つがフッ素原子を有するアルキル基である。
【0039】
上記フッ素原子を有するアルキル基は、炭素数4以下が好ましく、その例にはフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、2,2,2,2’,2’,2’-ヘキサフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基等が含まれる。
【0040】
アルキル基は、炭素数6以下が好ましく、その例にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が含まれる。
【0041】
アルケニル基は、炭素数4以下が好ましく、その例には、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、1-メチルビニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチルー1-プロピニル基、1-エチルビニル基、1-メチルアリル基等が含まれる。
【0042】
アルキニル基は、炭素数4以下が好ましく、その例には、エチニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基等が含まれる。
【0043】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例には、ヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロエチルベンゼン、パーフルオロトルエン、1,2,3,4-テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5-テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5-テトラフルオロベンゼン、2,3,4,5-テトラフルオロトルエン、2,3,4,5-テトラフルオロエチルベンゼン、2,3,4,6-テトラフルオロトルエン、2,3,4,6-テトラフルオロエチルベンゼン、2,3,5,6-テトラフルオロトルエン、2,3,5,6-テトラフルオロエチルベンゼン、2,3,4,5-テトラフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、2,3,4,6-テトラフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、2,3,5,6-テトラフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロ-ペンタフルオロエチルベンゼン等が含まれる。非水系溶媒は、上記一般式(1)で表される化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0044】
これらの中でも、入手しやすく、さらにペリクル膜由来の異物を除去しやすい点で、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロトルエン、パーフルオロトルエンおよび2,3,4,5,6-ペンタフルオロ-ペンタフルオロエチルベンゼンが好ましい。
【0045】
一方、上記一般式(2)で表される化合物の具体例には、1,2-ジフルオロベンゼン、1,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジフルオロベンゼン、2,3-ジフルオロトルエン、2,4-ジフルオロトルエン、2,5-ジフルオロトルエン、2,6-ジフルオロトルエン、2,3-ジフルオロエチルベンゼン、2,4-ジフルオロエチルベンゼン、2,5-ジフルオロエチルベンゼン、2,6-ジフルオロエチルベンゼン、2,3-ジフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、2,4-ジフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、2,-ジフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、2,6-ジフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、1,2,3-トリフルオロベンゼン、1,2,4-トリフルオロベンゼン、1,3,5-トリフルオロベンゼン、2,4,6-トリフルオロトルエン、2,4,6-トリフルオロエチルベンゼン、2,4,6-トリフルオロ-1-トリフルオロメチルベンゼン、ベンゾトリフルオリド、2-フルオロベンゾトリフルオリド、3-フルオロベンゾトリフルオリド、4-フルオロベンゾトリフルオリド、2-メチルベンゾトリフルオリド、3-メチルベンゾトリフルオリド、4-メチルベンゾトリフルオリド、1,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が含まれる。非水系溶媒は、上記一般式(2)で表される化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0046】
上述の中でも特に、ヘキサフルオロベンゼンが、ペリクル膜由来の異物を除去しやすい点で特に好ましく、非水系溶媒の総量に対してヘキサフルオロベンゼンを30~50質量部含むことが好ましく、30~50質量部含むことがより好ましい。
【0047】
非水系溶媒が含む、他の溶媒としては、上述の一般式(1)で表される化合物や、一般式(2)で表される化合物と相溶可能な非水系溶媒であれば特に制限されない。その例には、各種フッ素系溶剤が含まれる。非水系溶媒は、他の溶媒を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0048】
その他の溶媒の例には、CHCClF、CFCFCHCl、CClFCFCHClF、パーフルオロヘキサン、パーフルオロトリブチルアミン等のパーフルオロアルキルアミン、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)、メトキシ-ノナフルオロブタン、フッ素系アルコール類、ClCFCFClCFCFCl、トリデカフルオロオクタン、デカフルオロ-3-メトキシ-4(トリフルオロメチル)ペンタン等が含まれる。
【0049】
ここで、本工程における非水系溶媒の塗布方法は特に制限されず、ペリクル膜由来の異物を除去可能であれば特に制限されない。所望の領域にのみ非水系溶媒を塗布する方法は、ディスペンサ等による塗布が一例としてあげられる。特にニードル式ディスペンサによれば、所望の領域にのみ、少量の非水系溶媒を塗布できるため好ましい。
【0050】
またこのとき、ペリクル膜とペリクル枠との貼付面を重力方向上にして、非水系溶媒を塗布することが好ましい。さらに、非水系溶媒は、ペリクル枠の端部(外周側)に塗布することが好ましく、ペリクル枠が上述の面取り部を有する場合には、当該面取り部および側面に塗布することが好ましい。ペリクル膜とペリクル枠との貼付面に非水系溶媒が付着すると、当該領域のペリクル膜が溶解し、ペリクル膜とペリクル枠との接着強度が低下したり、ペリクル膜に穴があいたりすることがある。
【0051】
なお、非水系溶媒は、ペリクル枠の外周に沿って全周塗布してもよく、必要な領域にのみ塗布してもよい。また非水系溶媒は1回のみ塗布してもよく、2回以上にわけて塗布してもよい。
【0052】
非水系溶媒の塗布後、非水系溶媒は常温で揮発させてもよく、加熱等により揮発させてもよい。非水系溶媒を十分に除去してから、ケース等に収容することが好ましい。これにより、ペリクルをマスクに貼付し、露光等を行う際に、アウトガスの発生が抑制されやすくなる。
【実施例
【0053】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0054】
[非水系溶媒]
各実施例および比較例では、溶媒塗布工程において、以下の非水系溶媒を単独で、または組み合わせて使用した。
・パーフルオロベンゼン(東京化成社製)
・AC6000(3M社製、トリデカフルオロオクタン)
・FC43(3M社製、トリス(パーフルオロブチル)アミン)
・FC75(3M社製、パーフルオロ(ブチルテトラヒドロフラン))
・パーフルオロノナン(東京化成社製)
・パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン)(東京化成社製)
【0055】
[実施例1]
・貼付工程(ペリクル膜の準備、およびペリクル膜のペリクル枠への貼付)
ガラス基板上にサイトップ溶液(商品名「CYTOP」、AGC社製、濃度9質量%)をスピンコートにてペリクル膜を成膜した。次に、後述のペリクルの外径より、その内径が大きい剥離用の仮枠(プラスチック製)に粘着剤を塗布し、ペリクル膜に貼り付けた。そして、ガラス基板からペリクル膜を剥離し、ペリクル膜を自立させた。
【0056】
一方、接着剤(商品名「CYAF」、AGC社製)を、陽極酸化したアルミニウム製(外寸:149mm×122mm、枠高さ:5.8mm、枠幅:2mm)のペリクル枠に塗布した。なお、ペリクル枠として、ペリクル膜の貼付面の外周に沿ってC面取りされているものを用いた。そして、自立させたペリクル膜に、しわができないように、ペリクル枠(接着剤)を均一に押しつけ、紫外光照射によって、接着剤を硬化させた。
【0057】
・トリミング工程(ペリクル膜のトリミング)
ペリクル枠からはみ出ている不要なペリクル膜を枠にそって刃で切り取った。
【0058】
・溶媒塗布工程(異物の除去)
ペリクル膜をトリミングした後のペリクルを目視で確認したところ、ペリクル枠の面取り部(C面)上に、刃で切り取った後のカス(ペリクル膜由来の異物)が付着していた。そこで、ペリクル枠の面取り部(C面)に、パーフルオロベンゼン(東京化成社製)をニードル式ディスペンサ(針の口径:0.312μm、滴下速度:0.12(mL/分))で塗布し、これを乾燥させた。
【0059】
[実施例2、3および比較例1~5]
表1に示すように、溶媒塗布工程における非水系溶媒の種類を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にペリクルを作製した。
【0060】
[評価]
実施例および比較例で作製したペリクルについて、以下の評価を行った。
【0061】
(室温における異物の溶解性)
実施例および比較例で用いた非水系溶媒の室温における異物の溶解性を、以下のように確認した。まず、実施例および比較例で使用したペリクル膜を準備し、当該ペリクル膜に1μL~2μLの非水系溶媒を滴下した。そして、5秒後に穴が開いたかどうかを目視で確認した。評価は以下の基準とした。
○:室温で溶解した
△:室温で少量溶解した
×:室温で全く溶解しない
【0062】
(アウトガスおよび液タレ)
各ペリクルをチャンバー(GFサイエンス社製)の中に設置した。設置後、50℃4時間加熱し、発生したガス成分をTENAX捕集管に吸着させTD-GCMS(島津製作所社製)にて分析した。また同時に、ペリクルのペリクル枠に付着した液(以下、「液タレ」とも称する)も目視にて確認した。以下の基準で評価した。
◎:TD-GCMSで非水系溶媒由来のピークが検出されず、液タレも無かった
〇:TD-GCMSで非水系溶媒由来のピークは検出されないが、液タレが有った
×:TD-GCMSで非水系溶媒由来のピークが検出された
【0063】
(異物残存)
上述の溶媒塗布工程で溶媒を塗布した後、ペリクルに対してセナライト(高照度ハロゲン証明装置、セナアンドバーンズ社製)にて光を照射し、異物の有無を目視で確認した。併せて、光学顕微鏡にて、100倍でも観察し、異物の溶解状況を確認した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1ならびに図2Aおよび図2Bに示すように、溶媒塗布工程において、上述の一般式(1)で表される化合物(パーフルオロベンゼン)を含む非水系溶媒を塗布した場合(実施例1~3)には、十分に異物を除去可能であった。また、これらの非水系溶媒を用いた場合、アウトガスが発生せず、液タレも生じなかった。
【0066】
これに対し、表1ならびに図2Cおよび図2Dに示すように、上述の一般式(1)で表される化合物、または一般式(2)で表される化合物(パーフルオロベンゼン)を含まない非水系溶媒を用いた場合、異物が残存しやすかった(比較例1~5)。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のペリクルの製造方法によれば、ペリクル枠にペリクル膜を貼付した後に発生した異物の除去が可能であり、ペリクルの製造、ひいては半導体装置の製造等に非常に有用である。
【符号の説明】
【0068】
11 ペリクル枠
11A 面取り部
11B 側面
図1