(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】弁
(51)【国際特許分類】
F16K 41/02 20060101AFI20221209BHJP
F16K 27/10 20060101ALI20221209BHJP
F16K 41/14 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
F16K41/02
F16K27/10
F16K41/14
(21)【出願番号】P 2019552342
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041309
(87)【国際公開番号】W WO2019093363
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2017214492
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】武藤 泰介
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第202580275(CN,U)
【文献】特開2009-293794(JP,A)
【文献】実公平03-034527(JP,Y2)
【文献】米国特許第04294427(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 41/00-41/18
F16K 27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
前記可動側シール面及び前記固定側シール面の軸方向に対する角度は、30°~45°の範囲である請求項1又は7に記載の弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁体を昇降動して弁箱内部の流路を開閉する弁に関し、特に、LNG(液化天然ガス)などの超低温流体を扱うロングネック構造の弁に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、LNGなどの超低温流体用の弁では、グランド部の凍結防止のために、いわゆる、エクステンションボンネットと呼ばれる、ふたが伸長されたボンネットを有するロングネック構造に設けられている。このような超低温用の弁としては、例えば、ゲートバルブ、グローブバルブ、ニードルバルブ、プラグバルブ等があり、これらの弁では、何れも弁体がステムで昇降動されて流路が開閉される。
【0003】
この種の超低温用の弁においては、弁体を上昇させて流路を開放したときに、その上昇側がボンネット側に設けられた被シール面に当接シールしてグランド漏れを防ぐバックシート機構が設けられる。このバックシート機構よりも上方に流体である液体が浸入すると、温度の上昇により液体が蒸発してガス化しやすくなる。このとき、例えばLNGは、ガス化により約600倍に膨張し、バックシート機構よりも二次側のパッキンの破損やガスの噴出を引き起こすおそれがある。これを回避するために、ISO規格(ISO28921-1)では、バックシート機構からパッキン装着部分までの空間での異常昇圧を防ぐ対策を施すことが求められている。その方法としては、例えば、バックシート機構よりも上部側で圧抜きできる圧抜き機構を設けたり、或は、液体が浸入しにくくなる高さ位置にバックシート機構を設けることが求められている。
【0004】
これらのうち、圧抜き機構を設けた開閉弁として、例えば、特許文献1の低温弁が開示されている。この低温弁では、ロングネック構造のボンネット内に弁軸案内用の嵌め輪が固定され、この嵌め輪には逃がし弁が設けられ、この逃がし弁により気化膨張した液化ガスによる圧力が弁筐蓋内に逃がされるようになっている。
【0005】
また、液体が浸入しにくくなる高さにバックシート機構を設けたバルブとしては、例えば、特許文献2のゲートバルブが開示されている。このバルブでは、ロングネック構造のボンネットが一体に形成され、このボンネット内のパッキン装着部の直下にテーパ状の着座面が形成され、一方、ステム側にテーパ状の環状シール部が形成される。そして、全開状態で環状シール部が着座面に当接シールすることでバックシート機能が発揮され、媒体流体の逃げを防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開昭53-17933号公報
【文献】米国特許第4294427号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前者の特許文献1のような構造の圧抜き機構を設けたバルブの場合、超低温弁の規格を満たすためには、内部構造が複雑化するという問題がある。圧抜き機構を設けるためには、バックシート機構がボンネット下部に配置され、その際、液体が、例えば-196℃の超低温の場合もあるため、バックシート機構の被シール面を構成する材料が限られることがある。
【0008】
一方、後者の特許文献2のゲートバルブのように、一体型のロングネック構造のボンネット内の高い位置にバックシート機構を設ける場合、このバックシート機構をボンネット内に構成するためには、ボンネット側にいわゆる裏座加工を施して被シール面を設ける必要が生じる。この場合、ボンネットの外部より刃物(工具)を内周面の奥側まで装入し、外方から視認しにくい状態で刃物を被加工面に当てて加工することになるため、加工精度が低くなる可能性がある。さらに、被加工面に刃物が届かなかったり、刃物を当てづらくなり、正確な位置に被シール面を加工できなくなるおそれも生じる。その上、被シール面にステライト盛り金などの硬化肉盛を施す場合にも、同様に加工が困難となる。
【0009】
しかも、同文献2のようにパッキン装着部の直下にバックシート機構を設ける場合、これらが近接することになるため、被シール面をボンネット内に一層加工しにくくなり、この被シール面に盛り金を設ける場合、その硬化処理が難しくなるという問題も生じる。
また、被シール面を有する部品をボンネットと別体に設け、この部品を組込みにより取付けようとしたとしても、部品点数が増加し、漏れの発生個所も増えて裏漏れが発生する可能性が生じる。
【0010】
これらに加えて、一体型のロングネック構造のボンネットを鋳造により成形する場合には、異なる長さのボンネットに応じて専用の鋳型が必要になり、ボンネットの長さの変更などへの対応も難しくなる。ボンネットが長くなるにつれて鋳造加工時に曲がりやすくなるため、鋳放しでの同芯度の確保も困難になるという問題もある。
【0011】
本発明は、従来の課題を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、弁体の昇降動により流路を開閉する超低温流体に適したロングネック構造の弁であり、バックシート構造をボンネットの外方より容易にかつ高精度に流体の浸入を防止する高さに形成し、内部の圧力上昇を確実に阻止する弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、ロングネック構造のボンネット内にシール用パッキンが装着された状態でステムが昇降動自在に軸装され、このステムの下端に設けられた弁体により弁箱内の流路が開閉自在に設けられた弁において、ボンネットが、弁箱内を流れる流体が液体の状態で上昇する位置よりも高い位置で上部ボンネットと下部ボンネットとに分割された状態で一体に設けられると共に、上部ボンネットの下端側に形成された固定側シール面と、ステムの外周面に形成された可動側シール面とを有し、弁体の開放時に可動側シール面と固定側シール面とで当接シールするバックシート機構とした弁である。
【0013】
請求項2に係る発明は、上部ボンネットの下部に形成された差込部が下部ボンネットの上部内周に形成された拡径凹溝に嵌合された状態でこれら上部ボンネットと下部ボンネットとが溶接され、差込部の下端面と拡径凹溝の底面との間に空間が設けられた弁である。
【0014】
請求項3に係る発明は、可動側シール面がステムに一体に形成され、固定側シール面が上部ボンネットの下端に一体に形成された弁である。
【0015】
請求項4に係る発明は、可動側シール面がステムに一体に形成され、固定側シール面が上部ボンネットの下方に装着されるシール部材の下端に形成された弁である。
【0016】
請求項5に係る発明は、シール部材が、金属材料又は樹脂材料、或はこれら双方の組合わせにより設けられた弁である。
【0017】
請求項6に係る発明は、シール部材は、上部ボンネットと下部ボンネットとの間に挟着状態、或は遊嵌状態で装着されている弁である。
【0018】
請求項7に係る発明は、ロングネック構造のボンネット内にシール用パッキンが装着された状態でステムが昇降動自在に軸装され、このステムの下端に設けられた弁体により弁箱内の流路が開閉自在に設けられた弁において、ボンネットが、弁箱内を流れる流体が液体の状態で上昇する位置よりも高い位置で上部ボンネットと下部ボンネットとに分割された状態で一体に設けられると共に、上部ボンネット側に形成された固定側シール面と、ステムの外周面に形成された可動側シール面とを有し、弁体の開放時に可動側シール面と固定側シール面とで当接シールするバックシート機構とした弁である。
【0019】
請求項8に係る発明は、可動側シール面及び固定側シール面の軸方向に対する角度は、30°~45°の範囲である弁である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によると、弁体の昇降動により流路を開閉する超低温流体に適したロングネック構造の弁であり、ボンネットを分割構造に設けることでボンネットの内周側に刃物等の工具を装入することなく、外方より上部ボンネットの下端面側を直接視認しつつ刃物等の工具を正確に当てて、所定の高さに固定側シール面を容易に且つ高精度に加工できる。また、上部ボンネットは、例えば管状の部材に加工を施すことで作製でき、長さの調整が容易であるため、ボンネット分割構造とすることで、好適な長さのロングネック構造を容易に得ることができる。この場合、上部ボンネットと下部ボンネットとを一体化する位置を、弁箱内を流れる流体が液体の状態で上昇する位置よりも高い位置、すなわち、超低温流体の臨界温度以上となる位置としていることで、弁体の開放状態でボンネット内に超低温流体の液体が入り込んだとしても、分割位置では気体状態となる。つまり、分割位置に設けたバックシートより高い位置に超低温流体が液体状のまま上昇することが無いため、バックシート機構によるシール位置よりも上側に液体の超低温流体が封じ込められた状態で、この流体がガス化により膨張することを確実に防止できる。これにより、内部の圧力上昇を阻止し、バックシート機構の二次側のパッキンの破損やガス漏れを防止できる。この場合、バックシート機構の位置を高くすることで接液部に比較して温度制限が少なくなり、例えば、-30℃程度の温度に耐え得る材料で固定側シール面を構成でき、各種の材料を使用可能となる。
しかも、可動側シール面と固定側シール面とを弁体の全開時に当接シールさせることで、全開状態の規制位置までステムを操作したときに、可動側シール面が自動的に固定側シール面に当接シールし、液体状態の流体のパッキン側への浸入を確実に防止する。
圧抜き機構等の圧抜き用の部品を組み込むことなく、部品点数の増加を抑えて容易に組立て可能であり、内部構造の複雑化を抑えて裏漏れの発生も防げる。固定側シール面の構成材料が限定されることがなく、金属製の上部ボンネットに直接固定側シール面を形成できる。
上部ボンネット、下部ボンネットに分割していることで、鋳造による成形が容易になり、上部ボンネットの長さを変更することでボンネット全体の長さを簡単に変更でき、鋳放しでの同芯度の確保も容易になる。
【0021】
請求項2に係る発明によると、上部ボンネットの差込部が下部ボンネットの拡径凹溝に嵌合した状態で溶接により簡便に固着して上部ボンネットと下部ボンネットとを位置決め状態で固定でき、差込部の下端面と拡径凹溝の底面との間に空間を設けたことで、この空間にシール部材を別途装着することも可能になる。
【0022】
請求項3に係る発明によると、可動側シール面をステムに一体に形成し、固定側シール面を上部ボンネットに一体に形成できる。そのため、部品点数を抑えつつ可動側シール面と固定側シール面とのメタルシールによる高いバックシート機能を発揮する。
【0023】
請求項4に係る発明によると、シール部材を上部ボンネットと別体に形成できることから、バックシート機構に要求される性能に応じて、シール部材を金属材料或は樹脂材料から選択して形成して所定のシール性能を発揮できる。シール部材をコンパクトな環状に形成できるため、固定側シール面の加工も容易となる。
【0024】
請求項5に係る発明によると、メタルタッチ又はソフトシール、或はこれら双方を組合わせたシール構造により、内部を流れる低温流体の特性に適した各種のバックシート機構を設け、弁開時の漏れを確実に防止できる。
【0025】
請求項6に係る発明によると、シール部材を挟着状態で装着したときには、シール部材を所定位置に配置してこのシール部材の固定側シール面とステムの可動側シール面とのシール時の位置ずれを防止して高シール性を発揮する。一方、遊嵌状態で装着したときには、仮に、上部ボンネットが下部ボンネットに対して傾いた状態で接合されていたとしても、この傾きを許容可能な状態でシール部材を装着でき、シール部材の固定側シール面とステムの可動側シール面とにより均等な面圧のバックシート機能を発揮する。
【0026】
請求項7に係る発明によると、弁体の昇降動により流路を開閉する超低温流体に適したロングネック構造の弁であり、ボンネットを分割構造に設け、上部ボンネット側(ボンネット内周側)に固定側シール面を設けたことで、分割位置から刃物等の工具による加工が可能となり、超低温流体に適したロングネック構造であるにもかかわらず、所定の高さに固定側シール面を容易に且つ高精度に加工できる。また、上部ボンネットは、例えば管状の部材に加工を施すことで作製でき、長さの調整が容易であるため、ボンネット分割構造とすることで、好適な長さのロングネック構造を容易に得ることができる。この場合、上部ボンネットと下部ボンネットとを一体化する位置を、弁箱内を流れる流体が液体の状態で上昇する位置よりも高い位置、すなわち、超低温流体の臨界温度以上となる位置としていることで、弁体の開放状態でボンネット内に超低温流体の液体が入り込んだとしても、分割位置では気体状態となる。つまり、この分割位置より高い位置に設けたバックシートより高い位置に超低温流体が液体状のまま上昇することが無いため、バックシート機構によるシール位置よりも上側に液体の超低温流体が封じ込められた状態で、この流体がガス化により膨張することを確実に防止できる。これにより、内部の圧力上昇を阻止し、バックシート機構の二次側のパッキンの破損やガス漏れを防止できる。この場合、バックシート機構の位置を高くすることで接液部に比較して温度制限が少なくなり、例えば、-30℃程度の温度に耐え得る材料で固定側シール面を構成でき、各種の材料を使用可能となる。
しかも、可動側シール面と固定側シール面とを弁体の全開時に当接シールさせることで、全開状態の規制位置までステムを操作したときに、可動側シール面が自動的に固定側シール面に当接シールし、液体状態の流体のパッキン側への浸入を確実に防止する。
圧抜き機構等の圧抜き用の部品を組み込むことなく、部品点数の増加を抑えて容易に組立て可能であり、内部構造の複雑化を抑えて裏漏れの発生も防げる。固定側シール面の構成材料が限定されることがなく、金属製の上部ボンネットに直接固定側シール面を形成できる。
上部ボンネット、下部ボンネットに分割していることで、鋳造による成形が容易になり、上部ボンネットの長さを変更することでボンネット全体の長さを簡単に変更でき、鋳放しでの同芯度の確保も容易になる。特に、例えば大口径のゲートバルブの場合、開動作において弁体を大きく上昇させる必要があり、そのぶんバックシート機構も上方に設ける必要があるが、本発明によれば、ボンネット分割構造の上部ボンネットの任意の位置に固定側シール面を形成できるため、大口径の弁体のサイズに合わせて好適な位置にバックシート機構を設けることができる。
【0027】
請求項8にかかる発明によると、可動側シール面と固定側シール面との接触面積を大きくし、バックシート機構によるシール性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の弁の第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図3】(a)は上部ボンネットを示す縦断面図である。(b)は(a)のA部拡大図である。
【
図5】本発明の弁の第2実施形態を示す部分拡大断面図である。
【
図6】本発明の弁の第3実施形態を示す部分拡大断面図である。
【
図7】本発明の弁の第4実施形態を示す部分拡大断面図である。
【
図8】本発明の弁の第5実施形態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明における弁を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1においては、本発明の弁の第1実施形態を示し、
図2においては、
図1の要部拡大断面図を示している。本発明の弁(以下、バルブ本体1という)は、ゲートバルブによる開閉弁からなり、弁箱2、ステム3、弁体4、パッキン5、ボンネット10を有し、ボンネット10は、後述の上部ボンネット11と下部ボンネット12とを有する伸長形状のロングネック構造に設けられる。このボンネット10により、LNGなどの超低温流体に対してグランド部分の凍結が防がれ、弁体4の開閉により超低温流体を流すことが可能になっている。
【0030】
図1に示すように、弁箱2は、例えばステンレス材料等の耐低温性を有する金属材料により形成され、この弁箱内にはストレート状の流路13が設けられ、この流路13との交差方向には弁座14が形成される。弁箱2の上部には、ボンネット10接続用のフランジ部15が形成され、このフランジ部15を介してボンネット10が弁箱2に固着される。
【0031】
ボンネット10内にはステム軸装穴16が設けられ、この軸装穴16にステム3が昇降動自在に軸装され、ステム3の下端には弁体4が装着される。ステム3を昇降操作したときには、弁体4が弁座14に接離することで流路13が開閉自在に設けられる。
【0032】
図2において、ボンネット10は、弁箱2と同様にステンレス材料等の耐低温性の金属材料で設けられ、上部ボンネット11と下部ボンネット12とに所定位置で分割され、これらが一体に固定されることで全体が構成されている。
この場合、上部ボンネット11と下部ボンネット12とは、弁箱2内を流れる流体、例えばLNG等の超低温流体が液体の状態で流れるときに、この流体がボンネット10内に入り込み、さらに液体の状態を維持したままで上昇する際に、この液体が最も高く到達するおそれのある高さ位置よりも、高い位置で分割される。この液体が最も高く到達する高さ位置とは、流路を流れる流体が沸点に達する高さ位置である。例えば流体がLNGである場合、流体の組成によって変化するものの平均的な沸点は-162℃であり、その沸点よりも高い温度となる高さ位置がこれに該当する。本実施形態の開閉弁の場合、上部ボンネット11と下部ボンネット12との分割位置における流体温度は、-20℃以上であった。
【0033】
上部ボンネット11は、略円筒状に形成され、その下部側には、下部ボンネット12に差し込み可能な縮径状の差込部20が設けられる。差込部20の長さは適宜設定され、本例では50mm程度の長さに設けられており、これによりその差し込み深さも50mmとなる。差し込み深さは、上部ボンネット11を下部ボンネット12に差し込んだときに、上部ボンネット11が傾くことがなく、これらの同芯度を確保できる深さにするとよい。
【0034】
図3(a)、
図3(b)に示すように、上部ボンネット11の下方側、本実施形態においては上部ボンネット11の差込部20の下端内周にはC面取りが施され、このC面取りにより、テーパ状の金属製の固定側シール面21が、上部ボンネット11に一体に形成される。本実施形態のバルブ本体1では、上部ボンネット11の下端側に固定側シール面21が形成されている。ここで、上部ボンネット11の下端側とは、上部ボンネット11の下端面も含めた上部ボンネット11の下方側の領域をあらわしている。
【0035】
上部ボンネット11の上部内周側には、ステム軸装穴16よりもやや拡径された装着部22が形成され、この装着部22にステム3のシール用パッキン5が装着される。
【0036】
一方、
図1、
図2に示す下部ボンネット12は、例えば鋳物により形成され、上部ボンネット11の下部に配置され、その下部側にはフランジ部30が形成され、このフランジ部30を介して弁箱2のフランジ部15にボルト31止めにより固着される。下部ボンネット12の上部内周側には、差込部20を嵌合状態で差し込み可能な拡径凹溝32が、差込部32よりもやや長い大きさにより形成される。
【0037】
前記上部ボンネット11と下部ボンネット12とは、差込部20が拡径凹溝32に嵌合された状態で溶接部33の固着により一体に設けられる。このとき、差込部20の下端面20aと拡径凹溝32の底面32aとの間には、空間Sが設けられる。溶接部33は、固定側シール面21が熱変形することの無いように、固定側シール面21から適度な距離を保った位置に設けられる。本例においては、上部ボンネット11の差込部20の深さが50mm程度の深さに設けられることで、溶接部33から固定側シール面21までの距離が50mm程度離されているため、熱変形を十分に回避することができる。この距離は30mm以上であることが好ましく、50mm以上であるとより好ましい。
【0038】
また、本例においては、上部ボンネット11の下部側が差込部20として下部ボンネット12に挿し込まれていて、この上部ボンネット11の下部側先端が固定側シール面21となっている。つまり、上部ボンネット11の固定側シール面21は、その周囲を下部ボンネット12の上部開口に包まれた形となっている。バックシート機構42が機能する際には、下側に開くテーパ状の固定側シール面21に、ステム3に設けた可動側シール面42が突き当たるため、固定側シール面21には外側に開くような力が加わることになる。しかし、本例によれば、固定側シール面21は、その周囲が下部ボンネット12に包まれているので、外側に開く力に十分に耐えることができ、バックシートとしての機能を安定して発揮することができる。なお、必ずしも固定側シール面21の周囲に下部ボンネット12が存在しなくても、上部ボンネット11の差込部が下部ボンネットに挿し込まれていると、上部ボンネットが拡径する方向の力に対向することができるので、例えば後述する第5実施形態のようにボンネット分割位置より上方に固定側シール面21を設ける場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0039】
ステム3は、例えばステンレス材料等の金属材料により設けられ、
図4において、このステム3の外周面には前述した固定側シール面21にシール可能なテーパ状の可動側シール面41が一体に形成される。可動側シール41面は、高いエッジ品質により形成され、加工によりバリが除去されている。ステム3は、このテーパ状の可動側シール面41よりも上部が縮径した形状となっているが、この縮径部との境界部分に、くびれ状に最も縮径する部分が設けられている。このくびれ状の縮径部を有することによって、テーパ状の可動側シール面41を加工する際、加工用の刃物等を動かすスペースに余裕が生じ、テーパ面を高いエッジ品質により形成することができ、バックシート機構としての機能を向上させることが可能となる。
【0040】
可動側シール面41と前記固定側シール面21とは、弁体4の開放時に互いに当接シールする位置に設けられ、可動側シール面41と固定側シール面21とで当接シールするバックシート機構42としている。
【0041】
ステム3には、操作用ハンドル43が取付けられ、このハンドル43の回転によりステム3が昇降動し、弁体4の全開位置がこのハンドル43の操作で変化することはなく、基準となる位置でメタルタッチするようになっている。このメタルタッチの基準位置は、温度変化による各部品の寸法の増減に影響を受けないように設定されている。
【0042】
可動側シール面41と、固定側シール面21には、図示しないが、これらが接触する際に生じるおそれのあるかじりや傷を予防するため、適宜の塗布剤が塗付されていてもよい。また、可動側シール面41、固定側シール面21には、ステライト盛り金等の表面硬化処理等を施すことも可能である。本例においては、バックシート機構42は、超低温流体に接する弁体4よりもかなり上方に設けているため、この位置では温度がかなり高くなっている。そのため、弁体4付近にバックシート機構を設ける従来構造に比べて、固定側シール面21と可動側シール面41との摺動によるかじりが生じにくくなっており、塗布剤の塗布や表面硬化処理等を施さなくても、バックシート機構42として十分に機能できる場合もある。
【0043】
図2において、パッキン5は、補強材入り膨張黒鉛を材料として円筒状に形成され、上部ボンネット11の装着部22において、バックシート機構42の固定側シール面21よりも上部において、ステム3周りに装着される。
【0044】
パッキン5の上部には、このパッキン5と略同じ外径の略円筒形状のグランド50がステム3外周に配置され、このグランド50の上部には、板状のグランド押え51が、ステム3がその中央を貫通した状態で取付けられる。上部ボンネット11の上部外径側には、2つのグランドボルト52、52がグランド押え51側に回転可能に軸着され、これらグランドボルト52との間にグランド押え51が介在された状態で、グラントボルト52に固定用のグランドナット53が螺着される。これにより、グランドボルト52、グランドナット53による締付け力が、グランド押え51、グランド50を介してパッキン5に伝達され、このパッキン5の締め込みによる軸シールがおこなわれる。
【0045】
なお、上記実施形態においては、弁をゲートバルブによる開閉弁としているが、弁体4を昇降動させて弁座14を開閉し、バックシート構造を有する構造であれば、開閉弁に限らず、グローブバルブ、ニードルバルブ、プラグバルブ等の各種構造の弁にも適用できる。
【0046】
上部ボンネット11と下部ボンネット12とを溶接部33の固着により一体化しているが、これらをねじ込み、或はその他の手段により一体に設けることもできる。
【0047】
また、バックシート機構42の可動側シール面41、固定側シール面21の角度を、軸方向に対して45°のC面取りにより形成しているが、全開時にこれらが相互に当接シール可能であれば、その角度を変えてもよく、例えばフラット面に設けることができる。可動側シール面41、固定側シール面21の軸方向に対する角度が小さいほど、両シール面の接触面積を大きくとることができ、また、くさび効果により高い接触面圧が得られやすくなり、バックシート機構42によるシール性を高めることができる。シール性及び加工性等を考慮した場合、この角度は30°~45°の範囲とすることが好ましく、シール性を重視する場合は30°とすることが好ましい。
【0048】
次いで、本発明における弁の上記実施形態における作用を説明する。
図1~
図4において、本発明におけるバルブ本体1は、上述したように、ロングネック構造のボンネット10内に昇降動自在に軸装されたステム3に接続された弁体4により流路13が開閉自在に設けられ、所定位置で分割されたボンネット10の上部ボンネット11に形成した固定側シール面21、ステム3に形成した可動側シール面41を有し、これら弁体の開放時に可動側シール面41と、固定側シール面21とでバックシート機構42としている。これにより、固定側シール面21側では、刃具等の工具により内部側から加工することなく、外方から被加工面付近を直視しつつ上部ボンネット11の内周端面側から加工でき、ボンネット10内の高い位置にバックシート機構42を設けることが可能となる。
【0049】
このように、固定側シール面21を容易にかつ高精度に形成できるため、ISO規格(ISO28921-1)に適応し、流体が液体の状態で浸入しにくい高さ位置にバックシート機構42を配置可能になる。これにより、固定側シール面21に盛り金を施すことなく開放時には十分なシール性を確保できるため、バックシート機構42の構造を簡素化して部品点数を少なくし、加工時の工数も削減できる。一方、固定側シール面21に盛り金を施すことも可能であり、この場合、固定側シール面21の加工と同様に、外方より容易に作業可能になっている。
【0050】
このバックシート機構42により、全開時のグランド10側への流路13からの流体漏れを阻止し、二次側に装着されたパッキン5の破損や、ガス化した流体の外部漏れを防ぐことが可能になる。この場合、上部ボンネット11と下部ボンネット12とを、弁箱2内を流れる液体状の流体が上昇する位置よりも高い位置で分割していることより、液体状の流体が、ボンネット10の分割位置に設けられたバックシート機構42まで到達するおそれがない。
【0051】
しかも、可動側シール面41と固定側シール面21とを、弁体4の全開時で当接シールするように形成すれば、全開状態までステム3を操作して全開になると同時に自動的に可動側シール面41と固定側シール面21とを当接シールさせてバックシート機構42とし、流体の浸入を阻止可能になる。
【0052】
この場合、全開時にパッキン5の交換やグランド50の増し締め、軸装部の内部のメンテナンスを実施可能となる。パッキン5の交換時には、グランドナット53を緩め、グランドボルト52をグランド押え51から外すことで、このグランド押え51並びにグランド50を取り外してパッキン5を着脱できる。
【0053】
また、バルブ本体1の全開状態からハンドル43を弁閉方向に数回転戻すようにすれば、長期の放置等などよってステム3が固着し、操作不能におちいることを回避できる。その際、ハンドル43にある程度の遊びを設けておくことで、このハンドル43の弁閉方向への回転時に可動側シール面41と固定側シール面21とのシール状態を維持できる。
【0054】
上部ボンネット11に固定側シール面21を直接形成していることにより、部品点数を少なく抑え、組立も容易になる。このように、別体のシール用部品を組み込むことがないため、裏漏れの発生も回避する。
ボンネット10を分割構造に設けていることで加工性が向上し、この分割構造により上部ボンネット11のみを交換可能になり、予め長さを変更した上部ボンネット11を設けておくことで、ボンネット10全体の長さを変更することも容易となる。ボンネット10をバルブ本体1に応じた最適な長さに設けることで軽量化も図られる。
【0055】
差込部20の下端面20aと拡径凹溝32の底面32aとの間に空間Sを設けていることにより、この空間S内に図示しないシール部材を別途設けたり、上部ボンネット11と下部ボンネット12との寸法誤差を吸収したり、或はこれらの熱収縮、熱膨張を吸収させることも可能になる。
【0056】
図5においては、本発明の弁の第2実施形態を示している。なお、この実施形態以降において、前記実施形態と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。
この弁(バルブ本体60)においては、ステム3に可動側シール面41が一体に形成され、一方、上部ボンネット11と別体のシール部材61が設けられている。シール部材61は、上部ボンネット11の下方に装着され、このシール部材61の下端の内周面側に固定側シール面62が形成される。
【0057】
シール部材61は、金属材料又は樹脂材料、或はこれら双方の組合わせにより設けられ、例えば、銅合金によるメタルシート、又は、PTFE或はPCTFEによるソフトシートによってシート変形の少ない形状によって環状に形成される。
【0058】
シール部材61は、上部ボンネット11の下端面11aと拡径凹溝32の底面32aとの間に挟着状態、或は遊嵌状態で装着される。本実施形態では遊嵌状態で装着され、ステム3の下降時には、上部ボンネット11の下面側から離間し、拡径凹溝32の底面位置まで降下した状態となる。一方、ステム3の上昇時におけるバルブ全開時には、可動側シール面41の固定側シール面21への当接に伴って押し上げられ、上部ボンネット11の下面側に当接する位置まで上昇することで、可動側シール面41と固定側シール面62とによるバックシート機構63が構成される。
【0059】
シール部材61を遊嵌状態で装着していることで、シール部材61の装着位置である下端面11aと底面32aとの間には空間Sが形成される。この空間Sにより、上部ボンネット11がやや傾いた状態で下部ボンネット12に溶接された場合であっても、この傾きを許容しつつシール部材61を装着可能になる。すなわち、ステム3の上昇による全開時には、固定側シール面62に対して可動側シール面41が均等にシール接触し、均等な面圧力によるバックシート機能を確保する。
【0060】
シール部材61を上部ボンネット11と別体に設けることで、このシール部材61を流体の性質に応じてボンネット10と異なる金属材料や樹脂材料などの各種材料で形成してバックシート機構63のシール性を向上できる。シール部材61の加工も容易になり、バックシート機能の低下等に応じて簡単にシール部材61を交換可能となる。
【0061】
図6においては、本発明の弁の第3実施形態を示している。
このバルブ本体70では、ボンネット71が、上部ボンネット72、下部ボンネット73を有する。下部ボンネット73の内周には環状突起74が形成され、この環状突起74の下面側に銅リングからなる別体のシール部材75が装着される。この場合、環状突起74の下部に楔状の装着凹部76が形成され、この装着凹部76にシール部材75が圧入固定されることで、その脱落が防がれている。
【0062】
このように、環状突起74を介在させた状態でシール部材75を装着することで、前述した場合と同様に、仮に、上部ボンネット72が下部ボンネット73に対して傾いた状態で溶接されたとしても、シール部材75に上部ボンネット72が接することがないため、シール部材75が上部ボンネット72の影響で傾くことがなく、このシール部材75の下端内周側に形成された固定側シール面77と、ステム3の可動側シール面41とのメタルタッチにより、十分なバックシート機構78が構成され、このバックシート機構78によるシール機能を発揮できる。なお、環状突起74を設ける場合、シール部材75は、圧入以外の手段で下部ボンネット73に固定されていてもよく、例えば、ねじ込み等の手段により固定することもできる。
【0063】
図7においては、本発明の弁の第4実施形態を示している。
このバルブ本体80では、別体のPTFE或はPCTFEによるシール部材81が設けられ、このシール部材81の外周側には、脱落防止用の環状部材82が一体に取付けられ、この環状部材82とともに環状突起74を介して下部ボンネット73側に装着される。この場合、シール部材81の下端内周に形成された固定側シール面83によるソフトシートと、環状部材82の下端内周にシール用として形成された内周鍔部83のメタルタッチとによるハイブリッド機能のシール性を発揮し、流体漏れを確実に阻止する。
【0064】
図8においては、本発明の弁の第5実施形態を示している。
この実施形態においては、上部ボンネット11側の固定側シール面21は、この上部ボンネット11内周の途中、すなわち上部ボンネット11の下端よりも上方且つ装着部22よりも下方に、下方向に広がる形状のテーパ状に設けられている。一方、ステム3の外周面には、固定側シール面21にシール可能な可動側シール面41が設けられている。弁体4の全開時には、固定側シール面21と可動側シール面41とが当接し、バックシート機構42が構成される。
【0065】
この場合、上部ボンネット11に対する全開時のステム3の上昇位置をより上方側に配置し、ステム3の上昇ストロークを大きく設定できることから、例えば、大口径のバルブ本体の場合にも、前記と同様の機能を有するバックシート機構42を設けることが可能となる。さらに、上部ボンネット11をより長尺状に設けるようにすれば、より大口径に対応させることもできる。
上部ボンネット11は略円筒形状であるため、刃具等の工具を開口側から挿入しつつ容易に固定側シール面を加工することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。
【符号の説明】
【0067】
1 バルブ本体
2 弁箱
3 ステム
4 弁体
10 ボンネット
11 上部ボンネット
12 下部ボンネット
13 流路
20 差込部
20a 下端面
21 固定側シール面
23 パッキン
32 拡径凹溝
32a 底面
33 溶接部
41 可動側シール面
42 バックシート機構
61 シール部材