(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/39 20060101AFI20221209BHJP
C22C 5/04 20060101ALI20221209BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221209BHJP
C22F 1/14 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
H01T13/39
C22C5/04
C22F1/00 623
C22F1/00 651B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/14
(21)【出願番号】P 2020140536
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和樹
(72)【発明者】
【氏名】井澤 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】服部 健吾
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-007422(JP,A)
【文献】特開平08-045643(JP,A)
【文献】特開2007-227188(JP,A)
【文献】特開2016-225053(JP,A)
【文献】特開2013-030388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/39
C22C 5/04
C22F 1/00
C22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に円柱状の貴金属チップを備える中心電極と、
前記貴金属チップの円形の放電面との間に火花ギャップを形成する接地電極と、
を備えるスパークプラグであって、
前記貴金属チップは、Ptの質量%が最も多く、Niの含有率が0質量%以上40質量%以下であり、
前記貴金属チップの前記放電面に平行な断面と前記放電面に垂直な断面との両方において、断面の外形線から前記放電面の直径の10%の距離までの領域では、アスペクト比1以上10以下の粒子が観測される粒子の70%以上を占めることを特徴とする、スパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
前記貴金属チップの前記放電面に平行な断面と前記放電面に垂直な断面との両方において、断面の全体では、アスペクト比1以上10以下の粒子が観測される粒子の70%以上を占めることを特徴とする、スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えば、ガソリンエンジンに用いる点火用のスパークプラグとして、中心電極と接地電極との間に電圧を印加することによって火花を発生させるスパークプラグが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、中心電極の先端に貴金属チップが設けられており、貴金属チップの材料として、イリジウム(Ir)やロジウム(Rh)が用いられているスパークプラグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、IrやRhは高価な材料であり、必ずしもあらゆる市場に受け入れられるものではない。このため、IrやRhの使用量を控えつつ、耐久性を有する貴金属チップの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現す
ることができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、スパークプラグが提供される。スパークプラグは、一端に円柱状の貴金属チップを備える中心電極と、前記貴金属チップの円形の放電面との間に火花ギャップを形成する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、前記貴金属チップは、Ptの質量%が最も多く、Niの含有率が0質量%以上40質量%以下であり、前記貴金属チップの前記放電面に平行な断面と前記放電面に垂直な断面との両方において、断面の外形線から前記放電面の直径の10%の距離までの領域では、アスペクト比1以上10以下の粒子が観測される粒子の70%以上を占めることを特徴とする。この形態のスパークプラグによれば、貴金属チップの放電面に平行な断面と放電面に垂直な断面との両方において、断面の外形線から放電面の直径の10%の距離までの領域では、アスペクト比1以上10以下の粒子が観測される粒子の70%以上を占めることにより、貴金属チップに偏った消耗が起きることを抑制でき、この結果として、中心電極から貴金属チップが剥離することを抑制できるため、貴金属チップの耐久性が向上する。
【0008】
(2)上記形態のスパークプラグにおいて、前記貴金属チップの前記放電面に平行な断面と前記放電面に垂直な断面との両方において、断面の全体では、アスペクト比1以上10以下の粒子が観測される粒子の70%以上を占めてもよい。この形態のスパークプラグによれば、貴金属チップに偏った消耗が起きることをより効果的に抑制できるため、貴金属チップの耐久性がより向上する。
【0009】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグの製造方法、スパークプラグが取り付けられたエンジンヘッド等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】貴金属チップの概略構成を模式的に示す斜視図。
【
図3】貴金属チップの放電面に垂直な断面を示す断面模式図。
【
図5】比較例の貴金属チップの概略構成を模式的に示す斜視図。
【
図7】本実施形態の貴金属チップと比較例の貴金属チップとの耐久性の違いを説明する図。
【
図8】第2実施形態の貴金属チップの概略構成を模式的に示す斜視図。
【
図9】第2実施形態の貴金属チップの放電面に垂直な断面を示す断面模式図。
【
図10】第2実施形態の貴金属チップと比較例の貴金属チップとの耐久性の違いを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1実施形態:
図1は、スパークプラグ100の部分断面を示す説明図である。
図1では、スパークプラグ100の軸心である軸線CAを境界として、紙面右側にスパークプラグ100の外観形状を図示し、紙面左側にスパークプラグ100の断面形状を図示している。本実施形態の説明では、
図1の下方側をスパークプラグ100の先端側と呼び、
図1の上方側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0012】
スパークプラグ100は、軸線CAに沿った軸孔12を有する絶縁体10と、軸孔12に設けられた中心電極20と、絶縁体10の外周に配置された筒状の主体金具50と、中心電極20との間に間隙を設けて配置された接地電極30と、を備える。なお、スパークプラグ100の軸線CAは、中心電極20の軸線と同じである。
【0013】
絶縁体10は、アルミナをはじめとするセラミック材料を焼成することにより形成された絶縁碍子である。絶縁体10は、主体金具50の内周に配置されている部材であり、先端側に中心電極20の一部を収容し、後端側に端子金具40の一部を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の部材である。絶縁体10の軸方向中央には外径の大きい中央胴部19が形成されている。中央胴部19の後端側には、中央胴部19よりも外径が小さい後端側胴部18が形成されている。中央胴部19の先端側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成されている。先端側胴部17の更に先端側には、中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。
【0014】
主体金具50は、絶縁体10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を包囲して保持する筒状の金具である。主体金具50は、例えば、低炭素鋼により形成され、全体にニッケルめっきや亜鉛めっき等のめっき処理が施されている。主体金具50は、後端側から順に、工具係合部51と、シール部54と、取付ネジ部52とを備える。工具係合部51には、スパークプラグ100をエンジンヘッド90に取り付けるための工具が係合する。取付ネジ部52は、主体金具50の外周において全周に雄ネジが形成された部分であり、エンジンヘッド90の取付ネジ孔93にねじ込まれる部分である。シール部54は、取付ネジ部52の根元に鍔状に形成されている。シール部54とエンジンヘッド90との間には、板体を折り曲げることにより形成した環状のガスケット65が嵌挿されている。主体金具50の先端側の端面57は、中空の円状であり、その中央からは、絶縁体10の脚長部13の先端と中心電極20の先端とが突出している。
【0015】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、厚みの薄い加締部53が設けられている。また、シール部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に厚みの薄い圧縮変形部58が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50の内周面と絶縁体10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材66,67が介在されており、更にこれらのリング部材66,67間にはタルク69の粉末が充填されている。スパークプラグ100の製造時には、加締部53を内側に折り曲げるようにして先端側に押圧することにより圧縮変形部58が圧縮変形する。この圧縮変形部58の圧縮変形により、リング部材66,67及びタルク69を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。そして、この押圧により、タルク69が軸線CA方向に圧縮されることにより、主体金具50内の気密性が高められる。
【0016】
主体金具50には、内周に張り出した金具内段部56が形成されている。また、絶縁体10には、脚長部13の後端に位置し、外周に張り出した絶縁体段部15が形成されている。主体金具50の内周において、金具内段部56は、環状のパッキン68を介して、絶縁体段部15と接している。このパッキン68は、主体金具50と絶縁体10との間の気密性を保持する部材であり、燃焼ガスの流出を防止する。本実施形態では、パッキンとしては、板パッキンを用いる。
【0017】
接地電極30は、主体金具50の端面57に基端32が固定されている。接地電極30は、基端32から先端側に延びる基端部36と、中心電極20の先端と対向する面が形成された対向部33と、基端部36と対向部33とを接続し、屈曲した形状の屈曲部38と、を備える。接地電極30は、ニッケルを主成分として形成されている。なお、接地電極30の内部に、接地電極30の表面部よりも熱伝導性に優れる芯材が埋設されていてもよい。芯材は、例えば銅又は銅を主成分とする合金から形成されていてもよい。対向部33のうち中心電極20の先端と対向する面には、貴金属チップが設けられていてもよい。貴金属チップは、貴金属を主成分として形成されていてもよい。貴金属としては、例えば、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウムあるいはこれらの合金等が挙げられる。
【0018】
中心電極20は、電極部材21の内部に、電極部材21よりも熱伝導性に優れる芯材22が埋設された棒状の部材である。電極部材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金から形成されており、芯材22は、銅又は銅を主成分とする合金から形成されている。なお、芯材22は省略されてもよい。
【0019】
中心電極20の後端側の端部近傍には、外周側に張り出した鍔部23が形成されている。鍔部23は、絶縁体10の軸孔12において内周側に張り出した軸孔内段部14に後端側から接しており、中心電極20を絶縁体10内で位置決めする。中心電極20は、中心電極20の後端側において、シール体64及びセラミック抵抗63を介して端子金具40と電気的に接続する。
【0020】
中心電極20は、一端に円柱状の貴金属チップ25を備える。具体的には、中心電極20の面であって、接地電極30と対向する面には、円柱状の貴金属チップ25が設けられている。貴金属チップ25の放電面は円形である。貴金属チップ25の円形の放電面と接地電極30との間には、火花ギャップが形成されている。
【0021】
貴金属チップ25は、白金(Pt)の質量%が最も多く、ニッケル(Ni)の含有率が0質量%以上40質量%以下である。耐久性に優れる観点から、貴金属チップ25は、Ptの含有率が75質量%以上92質量%以下であってNiの含有率が8質量%以上25質量%以下であることが好ましく、Ptの含有率が78質量%以上90質量%以下であってNiの含有率が10質量%以上22質量%以下であることがより好ましく、Ptの含有率が80質量%以上85質量%以下であってNiの含有率が15質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、貴金属チップ25は、Ptの含有率が80質量%であり、Niの含有率が20質量%である。
【0022】
図2は、貴金属チップ25の概略構成を模式的に示す斜視図である。
図2では、説明の便宜上、紙面右側に、貴金属チップ25を放電面に対して平行に切断した状態を示している。
図2に示す切断面は、貴金属チップ25の厚さ方向の中央を通っている。
図2では、図示の便宜上、貴金属チップ25を構成する金属結晶粒子のうち、後述するアスペクト比1以上10以下の粒子P1を、格子状に図示している。以下の説明では、貴金属チップ25の放電面の直径を、直径Rとする。なお、貴金属チップ25の放電面が真円ではない場合、「放電面の直径R」とは、放電面の短径を意味するものとする。
【0023】
図3は、貴金属チップ25の放電面に垂直な断面を示す断面模式図である。
図3に記載の断面は、
図2のIII-III線に沿った断面であり、貴金属チップ25の中心軸を通る断面である。
図3に示すとおり、本実施形態では、断面の外形線から放電面の直径Rの10%の距離までの領域を領域Tとすると、領域Tにおいて、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が、観測される粒子の70%以上を占めている。また、
図2に示す貴金属チップ25の放電面に平行な断面においても、断面の外形線から放電面の直径Rの10%の距離までの領域Tにおいて、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が、観測される粒子の70%以上を占めている。領域Tにおける粒子P1の割合は、貴金属チップ25の耐久性を向上させる観点から、放電面に平行な断面と放電面に垂直な断面との両方において、それぞれ80%以上であることが好ましく、それぞれ85%以上であることがより好ましく、それぞれ90%以上であることがさらに好ましい。なお、本実施形態の貴金属チップ25では、放電面に平行な断面と放電面に垂直な断面との両方において、領域Tより内側の領域においても、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が、観測される粒子の70%以上を占めている。領域Tより内側の領域における粒子P1の割合は、貴金属チップ25の耐久性を向上させる観点から、放電面に平行な断面と放電面に垂直な断面との両方において、それぞれ80%以上であることが好ましく、それぞれ85%以上であることがより好ましく、それぞれ90%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
ここで、アスペクト比は以下の方法により測定することができる。まず、イオンミリング法に基づいた断面加工装置(クロスセクションポリッシャ(CP))により表面を研磨した後に、SEM(走査電子顕微鏡)による画像若しくはEBSD(エレクトロンチャネリングパターン)法を用いたSEMによる画像を取得する。その後、その画像から各粒子をそれぞれ内包する長方形を後述する方法で描いた後、アスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)を算出する。
【0025】
図4は、粒子P1の長辺S1及び短辺S2の測定法を説明する図である。
図4に示すように、まず、粒子P1を包含する最小の長方形REを描く。つまり、長方形REの4辺は、それぞれ粒子P1の輪郭と接する。ここで、長方形REの向きは、放電面に垂直な断面の場合には、長方形REの長辺S1又は短辺S2が貴金属チップ25の外形線と平行となる向きとする。少なくとも、長方形REの1辺が貴金属チップ25の放電面を表す外形線と平行になっていればよい。なお、放電面と平行な断面の場合には、対称性の観点から、長方形REの向きは問わない。ただし、粒子P1ごとに描かれる長方形は全て同じ向きを向くものとする。すなわち、複数ある長方形のうち任意の2つの長方形を選択したとき、一方の長方形の1辺と、他方の長方形の1辺とが平行であればよい。
【0026】
アスペクト比1以上10以下の粒子P1は、結晶粒子が粒状であり、粒状組織を形成している。領域Tにおいて、粒子P1が観測される粒子の70%以上を占めることにより、貴金属チップ25の耐久性が向上する。このメカニズムについては、領域Tにおいてアスペクト比が1以上10以下の粒子P1が70%未満である構成を備える比較例を用いて推定する。
【0027】
図5は、比較例の貴金属チップ125の概略構成を模式的に示す斜視図である。
図5では、説明の便宜上、紙面右側に、貴金属チップ125を放電面に対して平行に切断した状態を示している。
図5に示す切断面は、貴金属チップ125の厚さ方向の中央を通っている。
図5では、図示の便宜上、貴金属チップ125を構成する金属結晶粒子のうち、アスペクト比が10よりも大きい粒子P2を、横縞状に図示している。
【0028】
図6は、比較例の貴金属チップ125の断面模式図である。
図6に記載の断面は、
図3に記載の断面と同様に、貴金属チップ125の放電面に垂直な断面である。比較例の貴金属チップ125の領域Tでは、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が観測される粒子の70%未満であり、アスペクト比が10よりも大きい粒子P2が観測される粒子の30%以上である。なお、比較例の貴金属チップ125では、領域Tにおいて、アスペクト比が10よりも大きい粒子P2が、観測される粒子の約100%を占めている。比較例の貴金属チップ125は、例えば、圧延した合金を円柱形状に打ち抜くことによって作成されたものが挙げられ、このようなチップ中の結晶粒子は圧延方向に引き伸ばされているため、平行な結晶粒界が形成されている。
【0029】
図7は、本実施形態の貴金属チップ25と比較例の貴金属チップ125との耐久性の違いを説明する図である。紙面左上には、本実施形態の貴金属チップ25の放電面に平行な断面を示すとともに、紙面左下には、長期間使用後の貴金属チップ25の形状を示す。また、紙面右上には、比較例の貴金属チップ125の放電面に平行な断面を示すとともに、紙面左下には、長期間使用後の比較例の貴金属チップ125の形状を示す。
図7では、貴金属チップ25,125の放電面に平行な断面において、貴金属チップ25,125を構成する粒子のうち、アスペクト比1以上10以下の粒子P1を格子状に図示しており、アスペクト比が10よりも大きい粒子P2を横縞状に図示している。また、
図7では、貴金属チップ25,125が消耗した状態の外形線を、破線で示している。
【0030】
一般に、
図1に示すように中心電極20の先端に設けられた貴金属チップ25、125は、接地電極30の先端よりも燃焼室の中心から離れているために、接地電極30の先端よりも使用中の温度が低くなり、この結果として、結晶粒の形状が比較的維持されたまま消耗する。そして、結晶粒界は、結晶粒に対して融点が局所的に低いので、結晶粒よりも優先的に消耗する。なお、火花放電による貴金属チップ25,125の先端における消耗よりも、燃焼室内の酸化が過酷な状況である貴金属チップ25,125の側面の消耗の方が、消耗の度合いが大きい。
【0031】
本実施形態の貴金属チップ25は、貴金属チップ25の放電面に平行な断面と放電面に垂直な断面との両方において、断面の外形線から直径Rの10%の距離までの領域Tでは、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が、観測される粒子の70%以上を占める。アスペクト比1以上10以下の粒子P1は、結晶組織の異方性が小さいため、貴金属チップ25の領域Tでは、結晶粒界の向きがランダムな状態となっている。このため、
図7に示すように、本実施形態の貴金属チップ25は、貴金属チップ25の周方向において均一に消耗する。換言すると、本実施形態の貴金属チップ25は、スパークプラグ100の使用に伴って略同心円状に径方向内側に向かって消耗が進行する。これに対して、比較例の貴金属チップ125は、結晶組織の異方性が大きいため、貴金属チップ125の周方向において均一に消耗せず、偏った消耗が起こる。より具体的には、結晶粒界が優先的に消耗するので、粒界の延びる方向に沿って消耗が進行する。すなわち、比較例の貴金属チップ125では、径方向内側に向かって進行する消耗の度合いが、周方向において均一ではない。この結果として、比較例の貴金属チップ125は、使用に伴って偏消耗してしまい、体積が十分に残っているのにも関わらず、中心電極20から早期に剥離することがある。一方、本実施形態の貴金属チップ25は、偏った消耗が起きることが抑制される結果として、中心電極20から剥離することが抑制されるため、貴金属チップ25の耐久性が向上する。したがって、スパークプラグ100の長寿命化を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態の貴金属チップ25は、Ptの質量%が最も多く、Niの含有率が0質量%以上40質量%以下であるため、イリジウム(Ir)やロジウム(Rh)の含有量が多い貴金属チップと比較して、材料コストを抑えることができる。この結果、スパークプラグ100の低コスト化を図ることができる。また、Ptの含有率が最も多いため、IrやRh、Niの含有量が多い貴金属チップと比較して、加工性に優れる。このため、ワイヤーカット加工に代えて打ち抜き加工を用いて製造することができ、加工コストを低減できる結果、スパークプラグ100の低コスト化を図ることができる。したがって、本実施形態のスパークプラグ100によれば、貴金属チップ25の耐久性の低下を抑制しつつ、スパークプラグ100の製造に要するコストの増大を抑制できる。
【0033】
本実施形態の貴金属チップ25の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。つまり、合金を圧延した薄板から、円柱の形状となるように打ち抜いた後に、熱処理を施す方法が挙げられる。ここで、熱処理としては、貴金属チップ25の厚みや組成により異なるが、例えば、Pt及びNiが酸化しない雰囲気(例えば、Ar雰囲気)において、800℃から1000℃で1時間から10時間程度熱する方法が挙げられる。このような熱処理を行うことにより、圧延によってアスペクト比が大きくなった結晶を再結晶化させ、結晶粒子の形状を制御できると考えられる。なお、上記の打ち抜き加工を施した場合、貴金属チップ25の外周面の近傍は、加工歪みが大きくなるので熱処理の際に優先的に再結晶する。
【0034】
B.第2実施形態
図8は、第2実施形態の貴金属チップ25aの概略構成を模式的に示す斜視図である。
図8では、説明の便宜上、紙面右側に、貴金属チップ25aを放電面に対して平行に切断した状態を示している。
図8に示す切断面は、貴金属チップ25aの厚さ方向の中央を通っている。
図8では、図示の便宜上、貴金属チップ25aを構成する金属結晶粒子のうち、後述するアスペクト比1以上10以下の粒子P1を、格子状に図示している。また、貴金属チップ25aを構成する金属結晶粒子のうち、アスペクト比が10よりも大きい粒子P2を、横縞状に図示している。
【0035】
図9は、第2実施形態の貴金属チップ25aの放電面に垂直な断面を示す断面模式図である。第2実施形態の貴金属チップ25aは、
図8および
図9に示すように、貴金属チップ25aの放電面に平行な断面と放電面に垂直な断面との両方において、断面の外形線から直径Rの10%の距離までの領域では、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が、観測される粒子の70%以上を占めている。一方、第2実施形態の貴金属チップ25aは、断面の外形線から直径Rの10%の距離までの領域Tよりも内側の領域において、観測される粒子のうち粒子P1が占める割合は70%未満である。
【0036】
図10は、第2実施形態の貴金属チップ25aと、上述の比較例の貴金属チップ125との耐久性の違いを説明する図である。紙面左上には、第2実施形態の貴金属チップ25aの放電面に平行な断面を示すとともに、紙面左下には、長期間使用後の貴金属チップ25aの形状を示す。
図10では、貴金属チップ25a,125の放電面に平行な断面において、貴金属チップ25a,125を構成する粒子のうち、アスペクト比1以上10以下の粒子P1を格子状に図示しており、アスペクト比が10よりも大きい粒子P2を横縞状に図示している。また、
図10では、貴金属チップ25a,125が消耗した状態の外形線を、破線で示している。
【0037】
第2実施形態の貴金属チップ25aにおいても、断面の外形線から直径Rの10%の距離までの領域では、アスペクト比1以上10以下の粒子P1が、観測される粒子の70%以上を占めている。このため、貴金属チップ25aは、結晶組織の方向性が小さい粒子P1が貴金属チップ25aの表面の大部分を占めている。ここで、貴金属チップ25aは、使用に伴って表面から内部へと向かって消耗が進行するため、第2実施形態の貴金属チップ25aにおいても、第1実施形態の貴金属チップ25と同様に、周方向において消耗が偏って進行することを抑制できる。したがって、第2実施形態の構成においても、貴金属チップ25aの耐久性を向上させることができる。
【0038】
第2実施形態の貴金属チップ25aの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、合金を圧延した薄板から、円柱の形状となるように打ち抜いた後に、上述の熱処理よりも短い時間もしくは低い温度で熱処理する方法が挙げられる。
【0039】
C.他の実施形態:
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…絶縁体、12…軸孔、13…脚長部、14…軸孔内段部、15…絶縁体段部、17…先端側胴部、18…後端側胴部、19…中央胴部、20…中心電極、21…電極部材、22…芯材、23…鍔部、25,25a…貴金属チップ、30…接地電極、32…基端、33…対向部、36…基端部、38…屈曲部、40…端子金具、50…主体金具、51…工具係合部、52…取付ネジ部、53…加締部、54…シール部、56…金具内段部、57…端面、58…圧縮変形部、63…セラミック抵抗、64…シール体、65…ガスケット、66,67…リング部材、68…パッキン、69…タルク、90…エンジンヘッド、93…取付ネジ孔、100…スパークプラグ、125…貴金属チップ、CA…軸線、P1…粒子、P2…粒子、R…直径、RE…長方形、S1…長辺、S2…短辺、T…領域