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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】シートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/195 20060101AFI20221209BHJP
   B60R 22/26 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
B60R22/195 104
B60R22/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020156117
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049857
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】野口 敦史
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131979(JP,A)
【文献】特開2005-193846(JP,A)
【文献】特開平05-254395(JP,A)
【文献】特開2019-127106(JP,A)
【文献】特開2010-052534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトと、
前記シートベルトに挿通されたタングが装着可能なバックルのバックルステーであって、車両用シートの幅方向の第1の側に取付点を有するバックルステーと、
前記シートベルトの端部に連結されたラップアンカステーであって、前記車両用シートの幅方向の第2の側に取付点を有するラップアンカステーと、
緊急時に、前記両方の取付点を車両前方かつ車両下方へ移動させる移動装置と、
を備え
前記移動装置は、
前記バックルステー及び前記ラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、前記各取付点の車両前方かつ車両下方への移動を案内するガイドと、
前記各取付点に設けられ、前記各ガイドに沿って移動可能に構成されたスライダと、
緊急時に作動する単一の動力源と、
前記スライダの一方に連結され、前記動力源の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材と、
前記スライダ同士を連結する連結部材と、を有し、
前記各ガイドは、前記各スライダを介して、前記各取付点の車両前方かつ車両下方への移動を案内し、
前記スライダの一方は、前記ワイヤ部材が引き込まれることにより、当該スライダの一方に対応する前記ガイドの一方に沿って移動し、
前記スライダの他方は、前記スライダの一方が移動することにより、前記連結部材を介して引き込まれ、前記スライダの一方の移動と同期するように、当該スライダの他方に対応する前記ガイドの他方に沿って移動する、シートベルト装置。
【請求項2】
前記各ガイドは、前記車両用シートの前記第1の側及び前記第2の側に取り付けられている、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記バックルステー及び前記ラップアンカステーは、それぞれ、前記取付点において前記スライダに回動可能に取り付けられている、請求項1又は2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
前記移動装置は、
前記バックルステー及び前記ラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、通常時において前記各スライダの移動を阻止する一方、緊急時において当該移動の阻止を解除するロック機構をさらに有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
前記各ロック機構は、所定値以下の力では前記各ガイドに対する前記各スライダの移動を阻止し、緊急時に前記所定値を超える力を受けて前記各スライダの移動の阻止を解除する、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項6】
前記各ロック機構は、シェアピンにより構成されている、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
記動力源は、ガスジェネレータであり、
前記移動装置は、
記ガスジェネレータに対応して設けられたシリンダと、
記ワイヤ部材に連結され、前記ガスジェネレータからのガス圧により前記ワイヤ部材を引き込む方向に移動するように構成されたピストンと、をさらに有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【請求項8】
シートベルトと、
前記シートベルトに挿通されたタングが装着可能なバックルのバックルステーであって、車両用シートの幅方向の第1の側に取付点を有するバックルステーと、
前記シートベルトの端部に連結されたラップアンカステーであって、前記車両用シートの幅方向の第2の側に取付点を有するラップアンカステーと、
緊急時に、前記両方の取付点を車両前方かつ車両下方へ移動させる移動装置と、
を備え、
前記移動装置は、
前記バックルステー及び前記ラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、前記各取付点の車両前方かつ車両下方への移動を案内するガイドと、
前記各取付点に設けられ、前記各ガイドに沿って移動可能に構成されたスライダと、
前記バックルステー及び前記ラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、緊急時に作動する動力源と、
前記各スライダに連結され、前記各動力源の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材と、を有し、
前記各ガイドは、前記各スライダを介して、前記各取付点の車両前方かつ車両下方への移動を案内し、
前記各動力源は、前記各ワイヤ部材に連結された付勢部材であって、前記各ワイヤ部材を介して前記スライダを引き込む方向に復元する付勢力を蓄勢しており、
前記移動装置は、
前記各ガイドに設けられ、緊急時に駆動される駆動源と、
前記各駆動源の駆動により第1の位置から第2の位置に移動する一つ以上のロック部材と、をさらに有し、
通常時において、前記各スライダは、前記第1の位置にある前記各ロック部材に係合し、当該係合により前記各付勢部材の付勢力に抗して移動を阻止される一方、
緊急時において、前記各スライダは、前記第2の位置に移動した前記各ロック部材に対して係合を解除され、前記各付勢部材の付勢力により前記各ガイドに沿って移動する、シートベルト装置。
【請求項9】
前記移動装置は、衝突発生後50msec迄に、前記各取付点を車両前方かつ車両下方へ少なくとも40mm移動させる、請求項1からのいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、三点式のシートベルト装置では、乗員を拘束するシートベルトが、上部ガイドループ又は上部アンカからタングまで延在するショルダーベルトと、タングから下部アンカまで延在するラップベルトと、を有し、タングが、車体に固定されたバックルに挿入可能に構成されている。タングをバックルに挿入して締結させることで、シートベルト装置は、上部アンカと、バックル(タング)と、下部アンカとの間に三点拘束を構成する。この状態では、ショルダーベルトが乗員の左右一方の上部から左右他方の下部へと乗員の胸の前で斜めに架け渡され、また、ラップベルトが乗員の左右一方から左右他方へと乗員の腰の前で架け渡される。このような三点式のシートベルト装置によって、車両衝突時などの緊急時に乗員が前方へ投げ出されることを防止している。
【0003】
この種のシートベルト装置として、車両の衝突時等に、バックル等の移動を許容したものも知られている。例えば、特許文献1には、バックルに車両前方への所定以上の外力が加わったときに抵抗力を伴いながらバックルの前方への移動を許容するエネルギー吸収機構が設けられたシートベルト装置が開示されている。特許文献2には、車両衝突時、シートベルトに所定以上の大きさのシート前方側への荷重が作用するとヒューズ部が塑性変形し、バックルやラップアンカが規制位置を超えて前方側へ変位することを許容する車両用シートベルト装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-161037号公報
【文献】特開2019-182017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の衝突時には、ラップベルトが乗員の骨盤にかかった状態を維持する必要があるが、骨盤の腸骨前縁から上側にベルトが外れて腹部側へ移動してしまうサブマリン現象が発生し得る。サブマリン現象は、シートを倒したリクライニング姿勢(安楽姿勢)ほど起こりやすい。サブマリン現象が起きると、ラップベルトの位置が骨盤の腸骨前縁より上側に移動するため、ラップベルトが本来の乗員拘束機能を発揮できなかったり、乗員の腹部を圧迫したりするおそれがある。
【0006】
サブマリン現象を抑制するには、シートベルトの弛みや骨盤の車両下方への移動を考慮する必要がある。この点、特許文献1及び2に記載のシートベルト装置では、車両の衝突時におけるバックル等の移動が車両前方に限られており、サブマリン現象対策という点では、改善の余地がある。また、バックル等の移動が、車両の衝突時における人体や車両用シートの慣性力を用いた受動的なものであるため、応答性の点で改善の余地がある。
【0007】
本発明は、迅速にサブマリン現象の発生を抑制することができるとともに、乗員の腹部への負担を軽減した乗員拘束性能を向上することができるシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るシートベルト装置は、シートベルトと、シートベルトに挿通されたタングが装着可能なバックルのバックルステーであって、車両用シートの幅方向の第1の側に取付点を有するバックルステーと、シートベルトの端部に連結されたラップアンカステーであって、車両用シートの幅方向の第2の側に取付点を有するラップアンカステーと、緊急時に、両方の取付点を車両前方かつ車両下方へ移動させる移動装置と、を備えている。
【0009】
この態様によれば、緊急時に、バックルステー及びラップアンカステーの各取付点が車両前方かつ車両下方へ移動するため、シートベルトが車両前方かつ車両下方へ引っ張られるようになる。こうすることで、緊急時の乗員の骨盤の動きに従うように、例えば、シートベルトのラップベルト部分が斜め前下方に移動して、腸骨にかかって乗員を拘束することができる。したがって、緊急時に、サブマリン現象の発生を抑制することができるとともに、乗員の腹部への負担を軽減した乗員拘束性能を向上することができる。また、移動装置によりバックルステー及びラップアンカステーの各取付点を積極的に移動させるため、緊急時に応答性よく迅速に各取付点を移動させることができる。
【0010】
上記態様において、移動装置は、バックルステー及びラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、各取付点の車両前方かつ車両下方への移動を案内するガイドを有していてもよい。
【0011】
この態様によれば、各取付点の移動が各ガイドに案内されるので、各取付点を意図する方向に安定して又は滑らかに移動させることができる。
【0012】
上記態様において、各ガイドは、車両用シートの第1の側及び第2の側に取り付けられていてもよい。
【0013】
この態様によれば、車両用シートを有効に利用して各ガイドを設けることができる。
【0014】
上記態様において、移動装置は、各取付点に設けられ、各ガイドに沿って移動可能に構成されたスライダをさらに有し、各ガイドは、各スライダを介して、各取付点の車両前方かつ車両下方への移動を案内してもよい。
【0015】
この態様によれば、各取付点の移動が各スライダを介して各ガイドに案内される。これにより、各取付点の移動を各ガイドに直接案内させる場合に比べて、各取付点を有するバックルステー及びラップアンカステーの既存の構成を有効に利用することができる。すなわち、既存のバックルステー及びラップアンカステーを各ガイドで案内するにあたり、バックルステー及びラップアンカステーとして既存の構成を採用しつつ、各ガイドに対応した各スライダを設ければ足りる。
【0016】
上記態様において、バックルステー及びラップアンカステーは、それぞれ、取付点においてスライダに回動可能に取り付けられていてもよい。
【0017】
この態様によれば、例えばシートベルトの装着の際のシートベルトの動きや、シートベルト装着中における乗員の動きに追従してバックルステー及びラップアンカステーを自身の取付点を中心として回動させることができる。これにより、緊急時に各取付点を移動させる構造においても、シートベルトの装着性を担保することができる。
【0018】
上記態様において、移動装置は、バックルステー及びラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、通常時において各スライダの移動を阻止する一方、緊急時において当該移動の阻止を解除するロック機構をさらに有していてもよい。
【0019】
この態様によれば、ロック機構により通常時に各スライダを介した各取付点の不所望の移動を阻止できると共に、緊急時には各スライダを介した各取付点の意図する方向(車両前方かつ車両下方)への移動を可能とすることができる。
【0020】
上記態様において、各ロック機構は、所定値以下の力では各ガイドに対する各スライダの移動を阻止し、緊急時に前記所定値を超える力を受けて各スライダの移動の阻止を解除してもよい。
【0021】
この態様によれば、力の作用を利用してスライダの移動の阻止・解除を行えるロック機構を構成することができる。
【0022】
上記態様において、各ロック機構は、シェアピンにより構成されていてもよい。
【0023】
この態様によれば、入手しやすく廉価な部品を用いることにより、また、駆動源を必要としない簡単な構造によりロック機構を構成することができる。
【0024】
上記態様において、移動装置は、バックルステー及びラップアンカステーにそれぞれ対応して設けられ、緊急時に作動する動力源と、各スライダに連結され、各動力源の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材と、をさらに有し、各スライダは、各ワイヤ部材が引き込まれることにより、各ガイドに沿って移動してもよい。
【0025】
この態様によれば、緊急時に動力源を用いてスライダを能動的に移動させることができる。これにより、例えば車両の衝突時における人体やシートフレームの慣性力を用いてスライダを受動的に移動させる場合と比べて、早く確実にスライダを移動させることができる。
【0026】
上記態様において、各動力源は、ガスジェネレータであり、移動装置は、各ガスジェネレータに対応して設けられたシリンダと、各ワイヤ部材に連結され、各ガスジェネレータからのガス圧により各ワイヤ部材を引き込む方向に移動するように構成されたピストンと、をさらに有していてもよい。
【0027】
この態様によれば、ガスジェネレータのガス圧を用いてスライダを高速で移動させることができる。また、ガスジェネレータ、ワイヤ部材、ピストン及びシリンダを含むデバイスとして、既存のプリテンショナを利用することも可能となる。
【0028】
上記態様において、各動力源は、各ワイヤ部材に連結された付勢部材であって、各ワイヤ部材を介して各スライダを引き込む方向に復元する付勢力を蓄勢しており、移動装置は、各ガイドに設けられ、緊急時に駆動される駆動源と、各駆動源の駆動により第1の位置から第2の位置に移動する一つ以上のロック部材と、をさらに有し、通常時において、各スライダは、第1の位置にある各ロック部材に係合し、当該係合により各付勢部材の付勢力に抗して移動を阻止される一方、緊急時において、各スライダは、第2の位置に移動した各ロック部材に対して係合を解除され、各付勢部材の付勢力により各ガイドに沿って移動してもよい。
【0029】
この態様によれば、ガスジェネレータではない動力源を用いて移動装置を構成できる。移動装置を設計する際に選択の幅を広げることができる。
【0030】
上記態様において、移動装置は、緊急時に作動する単一の動力源と、スライダの一方に連結され、動力源の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材と、スライダ同士を連結する連結部材と、をさらに有し、スライダの一方は、ワイヤ部材が引き込まれることにより、当該スライダの一方に対応するガイドの一方に沿って移動し、スライダの他方は、スライダの一方が移動することにより、連結部材を介して引き込まれ、スライダの一方の移動と同期するように、当該スライダの他方に対応するガイドの他方に沿って移動してもよい。
【0031】
この態様によれば、一つ又は共通の動力源で車両用シートの両側のスライダをまとめて移動させることができ、かつ、その移動を同期させることができる。これにより、部品点数を削減できる上、バックルステー及びラップアンカステーを同時に移動させることができるので、乗員拘束性能をより高めることができる。
【0032】
上記態様において、移動装置は、衝突発生後50msec迄に、各取付点を車両前方かつ車両下方へ少なくとも40mm移動させてもよい。
【0033】
この態様によれば、実験又はシミュレーションから導き出される必要又は好適な時間内に必要又は好適な移動量を確保することができ、サブマリン現象を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態に係るシートベルト装置を車両に搭載した状態を模式的に示す斜視図である。
図2】ラップアンカステー側の移動ユニットの一例を示す斜視図である。
図3】ラップアンカステー側の移動ユニットに適用された既存のプリテンショナの内部構造の一例を示す断面図である。
図4】ラップアンカステー側の移動ユニットを一部分解して示す斜視図である。
図5】バックルステー側の移動ユニットの一例を示す斜視図である。
図6】実施形態に係るシートベルト装置の緊急時における動作を、通常時と比較して模式的に示す図である。
図7】実施形態における車両衝突後のアンカの動きを従来例と対比して示す図であって、(A)0msec時、(B)車突から50msec後、(C)車突から70msec後の各時点を示している。
図8】実施形態の第1の変形例に係るシートベルト装置の移動装置を一部分解して示す斜視図である。
図9図9の移動装置の要部を示す図であって、(a)はロック部材が第1位置に配置された状態、(b)はロック部材が第1位置から第2位置へ移動している状態、(c)はロック部材が第2位置に配置された状態を示している。
図10】実施形態の第2の変形例に係るシートベルト装置の移動装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るシートベルト装置について説明する。本書において、上下、左右及び前後を以下のとおり定義する。乗員が正規の姿勢で座席(車両用シート)に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し座標の軸を示すときは前後方向とする。また、乗員が正規の姿勢で車両用シートに着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し座標の軸を示すときは左右方向とする。同様に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0036】
図1に示すように、車両用シート100は、乗員の背中を支えるシートバック110と、乗員が着座するシートクッション112と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト114と、を備えている。車両用シート100は、前席(すなわち運転席又は助手席)であってもよいし、後席であってもよい。シートバック110及びシートクッション112の内部には、それぞれ、シートの骨格を形成するシートフレーム及び着座フレームが設けられており、これらは互いにリクライニング機構を介して連結されている。シートクッション112は、例えば、着座フレームの表面及び周囲を覆うウレタン発泡材等からなるシートパッドの表面を、皮革やファブリック等からなるシートカバーで覆っている。
【0037】
シートベルト装置1は、車両用シート100に関連付けて設けられており、乗員を拘束するウェビングであるシートベルト10を有している。シートベルト10は、上部ガイドループ又は上部アンカ20からタング22まで延在するショルダーベルト12と、タング22からラップアンカステー24まで延在するラップベルト14と、を有している。ショルダーベルト12は、車両用シート100に着座した乗員の左右一方の上部から左右他方の下部へと乗員の胸の前で斜めに架け渡される。ラップベルト14は、乗員の左右一方から左右他方へと乗員の腰の前で架け渡される。ショルダーベルト12とラップベルト14とは、連続した一本で帯状に形成されている。
【0038】
上部アンカ20は、車室内の上壁部又はシートバック110の上部に設けられる。図示を省略したが、上部アンカ20の下方に、シートベルト10の一端側を巻き取るリトラクタを設け、リトラクタを車体又はシート骨格に固定してもよい。
タング22は、シートベルト10に挿通されていると共に、バックル28に装着可能に構成されている。具体的には、タング22は、シートベルト10が摺動可能に挿通するループ部分26を有している。タング22がバックル28に装着されて締結されることで、シートベルト10が、ループ部分26を境界として折り返され、ショルダーベルト12とラップベルト14とに分けられる。
ラップアンカステー24は、シートベルト10の他端部を車両構造の部分(例えば車両フレーム、シートフレーム、又は着座フレームなど)に固定するためのものである。したがって、タング22がバックル28に装着された際、シートベルト装置1は、上部アンカ20と、タング22(バックル28)と、ラップアンカステー24との間に三点拘束を画定する。
【0039】
また、シートベルト装置1は、緊急時に、ラップアンカステー24及びバックル28を車両前方かつ車両下方へ移動させる移動装置300を有している。緊急時とは、例えば、車両の衝突時、車両への衝撃事象の発生時、車両の転覆時などを指す。ただし、必ずしもこれらに限定されない。
【0040】
移動装置300は、ラップアンカのラップアンカステー24を移動させる移動ユニット30と、バックル28のバックルステー29を移動させる移動ユニット30´と、を有している。移動ユニット30´は、車両用シートの幅方向の第1の側(ここではアウター側)に位置し、移動ユニット30は、車両用シートの幅方向の第2の側(ここではインナー側)に位置する。また、移動ユニット30,30´は、その全部又は大部分が、例えば、車体の床面とシートクッション112との間、又は、シートクッション112内に設けられる。移動ユニット30、30´は、緊急時に、ラップアンカステー24及びバックルアンカステー29の各取付点を車両前方かつ車両下方へ積極的に移動させることにより、サブマリン現象を抑制し、シートベルト10による拘束力を高める。移動ユニット30,30´は、互いに同様の構造を有している。以下では、最初に、移動ユニット30について、その一部に既存のプリテンショナを適用した例を説明する。
【0041】
図2に示すように、移動ユニット30は、動力源31と、ピストンシリンダユニット33と、ワイヤ部材35と、を有している。これらは、既存のプリテンショナの構造を用いることができる。また、これらに加えて、移動ユニット30は、車両前方かつ車両下方へ向かって延在するガイド41と、ガイド41に沿って移動可能に構成されたスライダ42と、緊急時ではない通常時にスライダ42の移動を阻止するロック機構43(図4参照)と、をさらに有している。
【0042】
図3に示すように、プリテンショナの動力源31は、ガスジェネレータであり、例えばマイクロガスジェネレータ(MGG)で構成することができる。動力源31は、例えば車両側ECUと電気的に接続されており、緊急時の状況を検知した信号を車両側ECUから受信して作動し、ガスを発生する。動力源31は、ピストンシリンダユニット33に直接又は他の部材を介して取り付けられている。
【0043】
ピストンシリンダユニット33は、動力源31からのガス圧を受けて第1の向きD1へ移動するピストン37と、ピストン37を摺動可能に収容するシリンダ39と、ピストン37が第1の向きD1とは逆向きに移動することを阻止する逆止機構38と、を有している。逆止機構38は、例えば、ピストン37のテーパー部とシリンダ39の内面との間に介在するボールからなる。
【0044】
ワイヤ部材35は、ケーブル又は張力伝達部材などとも称される引き込み部材であり、一方の端部35aがピストン37と連結されている。ワイヤ部材35は、一部がシリンダ39内に配置され、残りの部分がシリンダ39外に配置されている。ワイヤ部材35の中間部は、固定部40(図2参照)によって向きを変えられている。ワイヤ部材35は、緊急時に、動力源31の作動により引き込まれる。具体的には、緊急時、動力源31が作動すると、発生したガスによりピストン37がシリンダ39内を第1の向きD1へ移動する。これにより、ピストン37に連結されたワイヤ部材35が引き込まれる。
【0045】
図4は、図2の移動ユニット30を一部分解して示す斜視図である。両図に示すように、スライダ42は、ボルトやワッシャーなどを含む留め具51により、ワイヤ部材35の他方の端部35bに連結されている。また、スライダ42は、ねじやワッシャーなどを含む留め具52により、ラップアンカステー24の下端部に連結されている。つまり、ラップアンカステー24は、スライダ42を介してワイヤ部材35に連結されている。
【0046】
ラップアンカのラップアンカステー24は、該ラップアンカステー24を車両用シート100に取り付けるための取付点(アンカポイント)24aを有している。取付点24aは、例えば、留め具52のねじ部が挿通されるピン孔として形成されている。留め具52が取付点24aを介してラップアンカステー24をスライダ42に取り付けており、ラップアンカステー24は、取付点24aを中心として前後方向にスライダ42に対して回動可能となっている。ラップアンカステー24は、例えば金属製のプレート部材からなり、その長手方向の下端部に取付点24aを有し、長手方向の上端部でシートベルト10の端部を保持している。
【0047】
ガイド41は、車両前方に向かうに従い車両下方へ向かうように傾斜し、かつ、直線的に延在している。図示した例では、ガイド41は、水平方向に対して45度の斜め下方へ延在している。ただし、この傾斜の度合いは、車両用シート100の性状、車両の性能など様々な要因によって変更可能である。また、ガイド41は、直線状に限定されず、湾曲していてもよい。例えば、ガイド41は、円弧状に延在していてもよい。ガイド41が案内するスライダ42の移動の軌跡が車両前方かつ車両下方となる限り、ガイド41を適宜の形状で延在させることができる。
【0048】
ガイド41は、例えば断面C字状のレール状に形成され、スライダ42を摺動可能に収容している。ガイド41の両端部41a,41bには、ガイド41を固定するためのボルト孔が形成されている。ガイド41の一方の端部41aは、ピストンシリンダユニット33の固定部40と共締めされている。ガイド41は、例えば、シートサイドストラクチャ115に固定される。シートサイドストラクチャ115は、シートクッション112内の着座フレームの一部であって車両用シート100の幅方向における第2側の側面を構成している。なお、ガイド41の構成は図示した例に限定されない。例えば、ガイド41は、シートサイドストラクチャ115に形成されたスリットなどであってもよい。
【0049】
ロック機構43は、通常時においてスライダ42の移動を阻止してスライダ42をその初期位置にロックする一方、緊急時において当該移動の阻止を解除してスライダ42の移動を許容する。ロック機構43は、所定値以下の力ではガイド41に対するスライダ42の移動を阻止し、緊急時に所定値を超える力を受けてスライダ42の移動の阻止を解除する。例えば、ロック機構43は、ガイド41とスライダ42とを連結し、所定値以下のせん断力ではガイド41に対するスライダ42の移動を阻止するシェアピン43a、43aを有するものとして構成することができる。シェアピン43a、43bは、一つでもよいが、ここでは二つからなる。シェアピン43a、43bは、ガイド41の取付け孔41c、41d及びスライダ42の貫通孔42c、42dに圧入され、それによりガイド41とスライダ42とを連結する。シェアピン43a、43bは、所定値を超えるせん断力を受けると、破断するように構成されている。ここで、緊急時に、ワイヤ部材35を介してスライダ42に入力される加重は、所定値を超えるせん断力となる。したがって、緊急時に、シェアピン43a、43bは破断し、それによりガイド41に対するスライダ42の移動の阻止が解除され、スライダ42がその初期位置から移動を開始し、ガイド41に沿って移動する。このとき、スライダ42に連結されたラップアンカステー24の取付点24aも、同様に移動することになる。
【0050】
次に、図5を参照して、バックル28側の移動ユニット30´について説明する。移動ユニット30´は、移動ユニット30と同様に構成することができる。すなわち、移動ユニット30´は、移動ユニット30と同様に、動力源31、ピストンシリンダユニット33、ワイヤ部材35、ガイド41、スライダ42及びロック機構43を有することができる。移動ユニット30´は、移動ユニット30と左右対称とすることができ、実質的に同一の形状及び機能を有することができる。例えば、移動ユニット30´におけるガイド41は、両端部41a,41bを、アウター側のシートサイドストラクチャ115とは反対側であるインナー側のシートサイドストラクチャ116に固定される。そして、スライダ42をガイド41に沿って車両前方かつ車両下方に移動させることができるようになっている。移動ユニット30´の各構成については、上述した移動ユニット30の各構成についての説明を参照することとし、ここでは重複する説明を省略する。
【0051】
移動ユニット30´は、ラップアンカステー24ではなくバックル28のバックルステー29をスライダ42に連結している点において、移動ユニット30とは異なる。バックルステー29は、バックル28を車両用シート100に取り付けるための取付点29aを有している。取付点29aは、取付点24aと同様に例えばピン孔として形成されている。そして、留め具53が取付点29aを介してバックルステー29をスライダ42に取り付けており、バックルステー29は、取付点29aを中心として前後方向にスライダ42に対して回動可能となっている。バックルステー29は、例えば金属製のプレート部材からなり、その長手方向の下端部に取付点29aを有し、長手方向の上端部がバックル本体部27(タング装着部)に連結されている。別の見方をすると、バックル28は、バックル本体部27と、これとは別体でバックル本体部27から延在するバックルステー29とを有し、バックルステー29の端部に取付点29aを有していると言える。他の実施態様では、バックルステー29とバックル本体部27とを同じ部材で構成してもよい。以上の構成により、取付点29aは、スライダ42の移動に伴い、車両前方かつ車両下方へ移動できるようになっている。
【0052】
図6は、シートベルト装置1の緊急時における動作を、通常時と比較して模式的に示す図である。移動装置300は、緊急時に、ラップアンカステー24及びバックルステー29の各取付点24a,29aを車両前方かつ車両下方へ移動させる。具体的には、まず、移動ユニット30、30´の各動力源31、31が、緊急時に同タイミングで作動する。すると、移動ユニット30、30´のそれぞれにおいて、各スライダ42が各ワイヤ部材35により引き込まれる。これにより、各スライダ42のロックが解除され、各スライダ42とともに取付点24a,29aが車両前方かつ車両下方へ移動する。取付点24a,29aの移動の軌跡は、互いに同じとなっている。
【0053】
ここで、取付点24a,29aは、衝突発生後50msec迄に、車両前方かつ車両下方へ少なくとも40mm移動することが好ましい。車両の衝突発生から50msec迄の移動量が40mm以下であると、実験又はシミュレーションから導き出されるサブマリン現象を効果的に防止するために必要な移動量を確保できないことがあるからである。なお、必要な移動量はシートクッション112の硬さやシートベルト装置1が設置される車両の重量などにより変化する。シートクッション112が柔らかいほど、必要な移動量が大きくなる。
【0054】
図7は、実施形態における車両衝突後のアンカの動きを従来例と対比して示す図であり、(A)0msec時、(B)車突から50msec後、(C)車突から70msec後の各時点を示している。図7を参照して、緊急時におけるシートベルト装置1の乗員200に対する作用について、ラップアンカステー24及びラップベルト14の動きを中心に説明する。
【0055】
従来例のシートベルト装置は、ラップアンカステー及びバックルステーにプリテンショナを接続し、緊急時において、プリテンショナによりラップアンカステー及びバックルステーを後斜め下方に引き込んでシートベルトの弛みを小さくするというものである。従来例のシートベルト装置では、このようなプリテンショナを備えていたとしても、骨盤の腸骨前縁から上側にラップベルトが外れて腹部側へ移動してしまうサブマリン現象が発生し得る(参照:図7(B))。サブマリン現象が起きると、ラップベルト14の位置が骨盤の腸骨前縁より上側に移動するため、ラップベルト14が本来の乗員拘束機能を発揮できなかったり、乗員200の腹部を圧迫したりするおそれがある。
【0056】
これに対し、本実施形態では、緊急時においてラップアンカステー24及びバックルステー29が、車両前方かつ車両下方へ移動する。この移動は、緊急時における乗員200の骨盤の動きに近い。すなわち、骨盤の動きに従うように、ラップアンカステー24及びバックルステー29の各取付点24a,29aが移動する(参照:図7(B))。かかる移動により、ラップベルト14が車幅方向の両側において斜め前下方に引っ張られる。その結果、ラップベルト14が、乗員200の腹部の下側に、すなわち腸骨210の位置に下がる。
【0057】
そして、乗員200が慣性力により前方へ移動すると、ラップベルト14が、腸骨210にかかり、乗員200のさらなる前方移動を拘束する。腸骨210は、人体の変形しにくい部位(骨格)であるため、腸骨210にかかるラップベルト14は、本来の乗員拘束機能を発揮することができる。また、ラップベルト14が乗員200の腹部に食い込むことを防止することができる。加えて、骨盤の動きに従うように、ラップアンカステー24及びバックルステー29の各取付点24a,29aを移動させているため、サブマリン現象を抑制することができる。
【0058】
以上説明したとおり、実施形態に係るシートベルト装置1によれば、緊急時に、乗員の腹部への負担を軽減し、乗員拘束性能を向上することができる。とりわけ、緊急時に、ラップアンカステー24及びバックルステー29の各取付点24a,29aを車両前方かつ車両下方へ移動させるため、サブマリン現象を抑制することができる。しかも、移動装置300を用いて取付点24a,29aを積極的に移動させるため、移動装置300を用いない場合と比較して、より迅速に取付点24a,29aを移動させることができる。
【0059】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0060】
例えば、ガイド41やスライダ42を省略することも可能である。一例をあげると、スライダ42を省略して、ワイヤ部材35にラップアンカステー24又はバックルステー29を直接連結し、ガイド41でラップアンカステー24又はバックルステー29の移動を直接案内することも可能ではある。ただし、スライダ42を利用した方が、ラップアンカステー24又はバックルステー29の既存の構成を有効に利用することができる。また、ガイド41を設けておいた方が、取付点24a,29aを意図した方向に安定して又は滑らかに移動させる点で有利となる。
【0061】
移動装置300の動力源31として、ガスジェネレータに限らず、機械的なもの、電気や磁気を用いたものを利用してもよい。また、移動装置300のロック機構43として、シェアピンに限らず、他の機械的構成を用いてもよい。例えば、ロック機構43として、シェアピンのようなせん断する部材ではなくて、変形する部材を用いて、所定値以下の力ではガイド41に対するスライダ42の移動を阻止し、緊急時に所定値を超える力を受けてスライダ42の移動の阻止を解除するようにしてもよい。また、他の実施態様では、ロック機構43として、電気や磁気を用いたもの(例えば電磁ソレノイドやマイクロガスジェネレータ)を利用してもよい。
【0062】
次に、図8を参照して、動力源31及びロック機構43として他の構造を採用した第1の変形例に係る移動装置300について、ラップアンカステー24側の移動ユニット30を例に説明する。なお、バックルステー29側の移動ユニット30´も同様であり、その説明は省略する。
【0063】
図8に示すように、移動ユニット30の動力源として、付勢部材331を用いている。付勢部材331は、ワイヤ部材335の端部に連結されている。付勢部材331は、ワイヤ部材335を介してスライダ342を引き込む第1の向きD1に復元する付勢力を蓄勢している。付勢部材331は、例えば、第1の向きD1とは逆向きに圧縮されたコイルばねで構成することができる。他の実施態様では、付勢部材331は、第1の向きD1とは逆向きに伸長されたコイルばねとすることもできるし、ばね以外の付勢部材とすることもできる。
【0064】
移動ユニット30は、緊急時に駆動される駆動源345と、駆動源345の駆動により第1の位置(図9(a)参照)から第2の位置(図9(c)参照)に移動するロック部材343、344と、を有している。駆動源345は、ガイド341に取り付けられ、例えば、ソレノイドバルブ、マイクロガスジェネレータ、モータである。ここでは、ソレノイドとなっている。
【0065】
図9に示すように、ロック部材343(第1プレート)は、半円状に形成されており、その円中心で回転可能となっている。ロック部材344(第2プレート)は、駆動源345の可動部とロック部材343との間に配置され、フック状に形成されている。ロック部材344は、フックの基端部を中心として回動可能となっている。ロック部材343、344は、各回転中心でガイド341に取り付けられる。
【0066】
図9(a)に示すように、通常時において、スライダ342は、第1の位置にあるロック部材343、344に係合し、当該係合により付勢部材331の付勢力に抗して移動を阻止される。具体的には、ロック部材343の弦の下半分がスライダ342に当接し、ロック部材343の弦の上半部がロック部材344の先端下部に当接し、ロック部材344の先端上部に駆動源345の可動部が当接しており、駆動源345によって、ロック部材344にかかる荷重が支持されている。これにより、ロック部材343、344の回転が阻止され、スライダ342の移動が阻止されている。
【0067】
図9(b)に示すように、緊急時に駆動源345が作動すると、駆動源345の可動部が後退し、ロック部材344が回転し、ロック部材344とロック部材343との係合が解除される。すると、ロック部材343が回転するようにする。ロック部材343の回転は、付勢部材331が復元されることにより、すなわち付勢部材331がワイヤ部材335を介してスライダ342を引き込み、スライダ342がロック部材343を押圧することによりなされる。
【0068】
図9(c)に示すように、スライダ342に押圧されたロック部材343が回転して第2位置に移動すると、スライダ342は、ロック部材343、344に対して係合を解除される。すると、スライダ342は、付勢部材331の付勢力によりガイド341に沿って第1の向きD1に移動する。
【0069】
このように、既存のプリテンショナとは異なる構造を用いた第1の変形例に係る移動装置300によっても、ラップアンカステー24及びバックルステー29の各取付点24a,29aを車両前方かつ車両下方へ移動させることができる。なお、ロック部材343、344は一つの部材で構成することも可能である。
【0070】
また、別の実施態様では、移動装置300は、ラップアンカステー24用の動力源31とバックルステー29用の動力源31とをそれぞれ備えるのでなく、両者に共通の動力源を備え、ラップアンカステー24用のスライダ42及びバックルステー29用のスライダ42をまとめて移動させるようにしてもよい。この例を図10に示す。
【0071】
図10は、実施形態の第2の変形例に係るシートベルト装置1の移動装置300を示す斜視図である。移動装置300は、緊急時に作動する単一の動力源431と、動力源431の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材435と、を備えている。動力源431は、上記の動力源31と同様にガスジェネレータで構成することができる。ワイヤ部材435は、スライダ442L,442Rのいずれか一方(ここではスライダ442L)に連結されている。スライダ442L,442Rは、連結部材436で互いに連結されている。
【0072】
連結部材436は、プーリなどのワイヤガイド440と組み合わされて、主動側のスライダ442Lと従動側のスライダ442Rとの移動量が等しくなる滑車装置を構成している。図示した例では、滑車装置に三つのワイヤガイド440が用いられている。プーリに代えて、円盤部分が回転しないことを除いてプーリと同様の形状のワイヤガイド440を用いてもよい。ワイヤガイド440は、車両用シート100の一部を構成するシートサイドストラクチャ115,116などに固定されている。ただし、他の実施態様では、ワイヤガイド440を車体の床面とシートクッション112との間の車体部に固定してもよいし、シートクッション112内を横断するパイプなどに固定してもよい。
【0073】
一方のスライダ442Lは、ワイヤ部材435が引き込まれることにより、スライダ442Lに対応するガイド441Lに沿って移動する。ワイヤ部材435に連結されていない他方のスライダ442Rは、一方のスライダ442Lが移動することにより、連結部材436を介して引き込まれ、スライダ442Lの移動と同期するように、スライダ442Rに対応するガイド441Rに沿って移動する。
【0074】
この態様によれば、共通の動力源431で車両用シート100の両側のスライダ442L,442Rをまとめて移動させることができ、かつ、その移動を同期させることができる。これにより、部品点数を削減できる上、バックルステー29及びラップアンカステー24を同時に移動させることができるので、乗員拘束性能をより高めることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…シートベルト装置、10…シートベルト、12…ショルダーベルト、14…ラップベルト、20…上部アンカ、22…タング、24…ラップアンカステー、24a…ラップアンカステー側の取付点、26…ループ部分、27…バックル本体、28…バックル、29…バックルステー、29a…バックルステー側の取付点、30,30´…移動ユニット、31,331,431…動力源、33…ピストンシリンダユニット、35,335,435…ワイヤ部材、35a,35b…端部、37…ピストン、38…逆止機構、39…シリンダ、40…固定部、41,341,441L,441R…ガイド、41a,41b…端部、42,342,442L,442R…スライダ、43…ロック機構、43a,43b…シェアピン、42c、42d…貫通孔、51,52,53…留め具、100…車両用シート、110…シートバック、112…シートクッション、114…ヘッドレスト、115,116…シートサイドストラクチャ、200…乗員、210…腸骨、300…移動装置、343…ロック部材、344…第2プレート、345…駆動源、436…連結部材、440…ワイヤガイド、D1…第1の向き。
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9
図10