(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質およびその利用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20221209BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221209BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221209BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20221209BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2020174494
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】冨田 正考
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-340226(JP,A)
【文献】特開2019-021610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/36
H01G 11/30-11/50
C01G 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池に用いられる正極活物質であって、
スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物で構成されており、
前記リチウムマンガン複合酸化物は、多孔質粒子であり、
前記多孔質粒子は、一次粒子が複数集合した二次粒子を含み、
前記二次粒子のSEM像に基づく平均粒子径が8μm以上15μm以下であり、
前記二次粒子の断面SEM像において、前記活物質を構成する二次粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合の平均値が20%以上であり、
ここで、前記多孔質粒子の少なくとも一部の表面には、リチウムニッケルマンガン酸化物からなるコート層が形成されており、
前
記コート層の平均厚みが、前記多孔質粒子の表面から0.4μm以上1.0μm以下であり、
前
記コート層に含まれるマンガン原子に対するニッケル原子のモル比が、0.16以上0.33以下である、
正極活物質。
【請求項2】
前記二次粒子の断面SEM像において、前記活物質を構成する二次粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合の平均値が20%以上55%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
正極と、負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、請求項1または2に記載の正極活物質を備える、
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に用いる正極活物質および該活物質を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく用いられている。
【0003】
非水電解質二次電池は、さらなる高性能化が求められており、かかる高性能化の一環として、高エネルギー密度化が図られている。非水電解質二次電池の高エネルギー密度化のためには、例えば、作動電位の高い正極活物質を使用する方法が挙げられる。
【0004】
かかる作動電位の高い正極活物質の代表的なものとして、スピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン系複合酸化物が知られている。かかる正極活物質と電解液との反応面積を大きくすることで、正極の抵抗を低減させ、非水電解質二次電池のさらなる高出力化を図る技術がある。例えば、特許文献1において、所定の粒子径かつ中空構造を有するスピネル型結晶構造のリチウムマンガンニッケルチタン複合酸化物を用いて、内部抵抗を低減させ、非水電解質二次電池を高出力化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非水電解質二次電池においては、非水電解質の分解が起こり、これに起因して電池抵抗の増加が起こることが知られている。かかる非水電解質の分解は、正極活物質の作動電位が高いほど起こり易い傾向にある。即ち、作動電位の高いスピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として用いた場合、非水電解質二次電池の電池抵抗が増加しやすい傾向にある。
本発明者が鋭意検討した結果によれば、特許文献1に記載される所定の粒子径かつ中空構造を有するスピネル型結晶構造のリチウムマンガンニッケルチタン複合酸化物からなる正極活物質は、非水電解質二次電池の初期抵抗を低くすることはできているが、長期使用後における電池の内部抵抗の増加は、なお改善の余地があることを見出した。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、非水電解質二次電池の初期抵抗の低下、および長期使用時の内部抵抗の増加抑制が可能な、非水電解質二次電池用正極活物質を提供することにある。また、他の目的は、かかる正極活物質を備えた非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、以下の構成の非水電解質二次電池用正極活物質が提供される。即ち、ここに開示される非水電解質二次電池用正極活物質は、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物で構成されている。前記リチウムマンガン複合酸化物は、多孔質粒子である。前記多孔質粒子は、一次粒子が複数集合した二次粒子を含んでいる。前記二次粒子のSEM像に基づく平均粒子径が8μm以上15μm以下であり、前記二次粒子の断面SEM像において、前記活物質を構成する二次粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合の平均値が20%以上である。ここで、前記多孔質粒子の少なくとも一部の表面には、リチウムニッケルマンガン酸化物からなるコート層が形成されており、該コート層の平均厚みが、前記多孔質粒子の表面から0.4μm以上1.0μm以下であり、該コート層に含まれるマンガン原子に対するニッケル原子のモル比が、0.16以上0.33以下である。
かかる構成の正極活物質は、作動電位の高いスピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を含み、かつ、所定の空隙を有することで電解液との反応面積を大きくしているため、初期抵抗を小さくすることができる。また、所定の空隙を有する二次粒子の平均粒子径を比較的大きくし、さらに該表面を前記コート層で被覆することにより、二次粒子の機械的強度を向上させている。これにより、二次粒子の割れの抑制と破砕面からのマンガン溶出を防止することで、電池の内部抵抗の増加を抑制している。したがって、かかる構成によれば、非水電解質二次電池の初期抵抗が低く、充放電を繰り返した際の内部抵抗の増加が抑制可能となる正極活物質を実現することができる。
【0009】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様としては、前記二次粒子の断面SEM像において、前記活物質を構成する二次粒子が占有する面積に対する空隙の面積の割合の平均値が20%以上55%以下である。
かかる構成によれば、非水電解質二次電池の抵抗特性および内部抵抗の増加抑制効果が特に優れる。
【0010】
上記他の目的を実現するべく、非水電解質二次電池が提供される。即ち、ここに開示される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備え、前記正極の正極活物質層には、ここに開示されるいずれかの正極活物質が備えられている。
かかる構成によれば、初期抵抗が低く、充放電を繰り返した際の内部抵抗の増加が抑制可能となる非水電解質二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る非水電解質二次電池に用いられる多孔質粒子の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る非水電解質二次電池を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】一実施形態に係る非水電解質二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない非水電解質二次電池用正極活物質の一般的な構成)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0013】
なお、本明細書において「非水電解質二次電池」とは、電解質として非水系の電解液を用いた繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、いわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される非水電解質二次電池をいう。また、本明細書において、「活物質」とは、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出する材料をいう。
【0014】
以下の実施形態においては、捲回電極体を備えるリチウムイオン二次電池を例にして詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。例えば、正極シートと負極シートとがセパレータを介在させつつ相互に複数重なり合った積層構造を有する積層構造電極体も好ましく適用される。
【0015】
図2に示すリチウムイオン二次電池100は、密閉可能な箱型電池ケース30に、扁平形状の電極体20と、非水電解質(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁32とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質を注液するための注液口(図示せず)が設けられている。正極端子42と正極集電板42aは、電気的に接続されている。負極端子44と負極集電板44aは、電気的に接続されている。電池ケース30の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0016】
電極体20は、
図2および
図3に示されるように、長尺シート状の正極50と、長尺シート状の負極60とが、長尺シート状のセパレータ70を介在させつつ積層され、捲回軸を中心として捲回された捲回電極体である。正極50は、正極集電体52と、その片面もしくは両面に固着された正極活物質層54とを備えている。正極集電体52の幅方向(X方向)片側の縁部には、該縁部に沿って帯状に正極活物質層54が形成されずに正極集電体が露出した部分(即ち、正極集電体露出部56)が設けられている。また、負極60は、負極集電体62と、その片面もしくは両面に固着された負極活物質層64とを備えている。負極集電体62の幅方向(X方向)片側の縁部には、該縁部に沿って帯状に負極活物質層64が形成されずに負極集電体が露出した部分(即ち、負極集電体露出部66)が設けられている。正極集電体露出部56と負極集電体露出部66には、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが付設されている。
【0017】
正極50を構成する正極集電体52としては、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。正極活物質層54は、ここで開示される正極活物質を含む。また正極活物質層54は、導電材、バインダ等をさらに含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0018】
負極60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0019】
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70は、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0020】
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。或いは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定するものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0021】
ここで開示される正極活物質は、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物を含有する。スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物は、スピネル型結晶構造を有し、構成元素として、リチウム、マンガンおよび酸素を少なくとも含有する酸化物のことである。
典型的なスピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物としては、一般式:
Li1+ZMn2-X-ZMeXO4
(式中、Meは存在しないかもしくは少なくとも一種の金属元素を表し、X,Zはそれぞれ、0≦X≦0.25、0<Z≦0.15を具備する)で表される化合物が挙げられる。ここで、Meは、例えば、Ni、Co、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr,Si,Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等であり得る。また、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物の好適例として、LiMn2O4で表されるリチウムマンガン複合酸化物(即ち上記Meが存在しない)が挙げられる。
【0022】
ここで開示される正極活物質を構成する上記スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物は、多孔質粒子である。多孔質粒子を構成する空隙は、開口していても、開口していなくてもよい。該空隙が開口している場合は、1つの空隙が2以上の開口部を有していてもよい。
【0023】
上記多孔質粒子は、一次粒子が複数集合した二次粒子を含有している。該二次粒子のSEM像に基づく平均粒子径は、8μm以上15μm以下であることが好ましい。平均粒子径がかかる範囲内であるときは、多孔質粒子の機械的強度が向上し、多孔質粒子の割れを抑制することができる。これにより、電池の内部抵抗増加が抑制された正極活物質を実現できる。なお、本明細書において、「一次粒子」とは、正極活物質を構成する粒子の最小単位をいい、具体的には、外見上の幾何学的形態から判断した最小の単位をいう。また、かかる一次粒子の集合物を「二次粒子」という。
なお該二次粒子の平均粒子径は、以下のように測定することができる。該二次粒子の平均粒子径の基準とするために、まず、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、D50(メジアン径)を測定する。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、複数の二次粒子のSEM像を複数取得する。該複数のSEM像において、上記D50に相当する大きさの二次粒子を無作為に30個以上(例えば50個以上)選択する。そして各二次粒子の最大径を決定し、これを長径と規定する。次に、この長径に直交する径の中で最長となるものを決定し、これを短径と規定する。かかる長径と短径とからなる楕円を仮定して、楕円の面積から円相当径に換算して、各二次粒子の径(粒子径)とする。このように無作為に取得した複数のSEM像において30個以上(さらには50個以上)の二次粒子を選択し、それらの粒子径を上記のように測定し、その平均値をここでの平均粒子径とする。
【0024】
ここで開示される正極活物質は、その断面SEM像において、該活物質を構成する二次粒子の占有面積に対する空隙の面積の割合の平均値(平均空隙率)は、少なくとも20%以上である。多孔質粒子の機械的強度の観点から、多孔質粒子の平均空隙率は、55%以下であることが好ましい。平均空隙率がかかる範囲内であるときは、多孔質粒子と電解液との反応面積が増加し、初期抵抗を低減することができる。また、多孔質粒子の機械的強度も向上するため、多孔質粒子の割れを抑制することができる。これにより、初期抵抗の低下、および電池の内部抵抗増加が抑制された正極活物質を実現できる。
なお二次粒子の平均空隙率は、以下のように算出することができる。上記走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、断面SEM像を複数取得する。該複数の断面SEM像から、上記D50に相当する大きさの二次粒子を無作為に30個以上(例えば50個以上)選択する。各二次粒子断面において、オープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、一次粒子が存在する部分を白色、一次粒子が存在しない空隙部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、二次粒子の断面における一次粒子が存在する部分(白色部分)の面積をNW、一次粒子が存在しない空隙部分(黒色部分)の面積をNBとして、「NB/(NW+NB)×100」を算出することができる。これを各二次粒子の空隙率とし、当該30個以上(さらには50個以上)の二次粒子の空隙率の平均値をここでの平均空隙率とする。なお、空隙が開口部を有する場合は、空隙の輪郭が閉じていない。この場合には、開口部の両端を直線で結び、二次粒子の外側部分および二次粒子内に存在する空隙で外側とつながる部分を白色および黒色以外の色で塗りつぶして、二次粒子の輪郭を定めることができる。
【0025】
ここで開示される多孔質粒子は、典型的には、一次粒子が通常よりも緩く集合した二次粒子である。一次粒子が単に凝集した二次粒子である通常の多孔質粒子においては、二次粒子の占有面積に対する空隙の面積の割合の平均値が20%以上となることはない。したがって、ここで開示される多孔質粒子は、典型的には、一次粒子が緩く凝集し、その結果、空隙が通常よりも大きい二次粒子が用いられる。
【0026】
このような空隙を有する多孔質粒子は、公知方法に準じて作製することができる。特に、リチウム複合酸化物の前駆体となる金属水酸化物を晶析法により製造する際の条件を調整することにより、多孔質粒子の多孔質構造を制御することができる。
【0027】
ここで開示される多孔質粒子は、その表面にスピネル型結晶構造のリチウムニッケルマンガン酸化物がコートされている。該コートの形態については、特に制限はなく、多孔質粒子を部分的に被覆していてもよいし、全体を被覆していてもよい。該リチウムニッケルマンガン酸化物のコートは、多孔質粒子の外表面のみならず、多孔質粒子の内部に存在する空隙に面する一次粒子の表面にも存在することが好ましい。
【0028】
コート層を構成するスピネル型結晶構造のリチウムニッケルマンガン酸化物は、スピネル型結晶構造を有し、構成元素として、リチウム、ニッケル、マンガンおよび酸素を少なくとも含有する酸化物のことである。特に限定されるものではないが、典型的には、一般式:
Li1+zNiyMn2-x―y-zMexO4
(式中、Meは存在しないかもしくは少なくとも一種の金属元素を表し、x、y、zはそれぞれ、0≦x≦0.25、0<y≦0.15、0<z≦0.2を具備する)で表されるスピネル系複合酸化物であり得る。当該スピネル系複合酸化物において、NiおよびMnの一部が、Mg、Zn、Co、Fe、Cr、Al、Ti、Zr、Nb、Ta、Ru、およびWからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素で置換されていてもよい。スピネル系複合酸化物としての好適例として、Li1.05Ni0.10Mn1.85O4で表されるスピネル系複合酸化物が挙げられる。
【0029】
上記コート層の平均厚みは、0.4μm以上1.0μm以下であることが好ましい。かかる範囲内であれば、多孔質粒子の表面を適切に保護し、多孔質粒子の割れやマンガン溶出等を抑制する。これにより、抵抗増加が抑制された正極活物質を実現できる。
なおコート層の平均厚みは、以下のように測定することができる。上述した方法により、断面SEM像を複数取得し、それら画像から上記D50に相当する大きさの二次粒子を無作為に30個以上(例えば50個以上)選択する。各二次粒子において、コート層の正極活物質側とコート層の表面側の距離とが最短となる2点間の距離を測定し、各二次粒子について3か所の平均値を算出し、各二次粒子におけるコート層の厚みの平均を求める。そして、かかる無作為に選択した30個以上(例えば50個以上)の粒子についてのこの値の平均値を、ここではリチウムニッケルマンガン酸化物のコート層の平均厚みとする。
【0030】
リチウムニッケルマンガン酸化物における、マンガンのモル数(Mn)に対する、ニッケルのモル数(Ni)のモル比(Ni/Mn)は、電池の内部抵抗増加抑制の観点から、0.16以上0.33以下であることが好ましく、0.25以上0.33以下であることがさらに好ましい。
なお上記モル比(Ni/Mn)は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)-エネルギー分散型X線分析(EDX)装置を用いた分析により求めることができる。
具体的には、上記コート層の平均厚みを求めた箇所において、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いた線分析を行う。かかる線分析の結果から、ニッケルが最大濃度である点を決定し、その点において、上記モル比(Ni/Mn)を算出する。次いで、各二次粒子について3か所の平均値を算出し、モル比(Ni/Mn)の平均を求めることができる。そして、上記無作為に選択した30個以上(例えば50個以上)の粒子についてのこの値の平均値を、ここではリチウムニッケルマンガン酸化物コート層のモル比(Ni/Mn)と規定する。
【0031】
なお、リチウムニッケルマンガン酸化物およびリチウムニッケルマンガン酸化物のコート層は、公知方法に従って形成することができる。例えば、酢酸マンガンと、酢酸ニッケルと、酢酸リチウムとを水またはアルコール溶媒の存在下で混合し、乾燥させて水またはアルコール溶媒を除去することにより形成することができる。
【0032】
多孔質粒子の構造の具体例を、
図1に模式的に示す。
図1に示すように、多孔質粒子10は、一次粒子12が複数集合して構成される二次粒子である。本実施形態における多孔質粒子10は、一次粒子12が通常よりも緩く集合した二次粒子であるため、比較的大きな空隙14を有している。なお、
図1では、一部の一次粒子12が離れて存在しているが、これは、
図1を断面図として描画してあるためであり、実際は図面外の部分で他の一次粒子(図示せず)と接触している。
また多孔質粒子10は、外表面と多孔質粒子10の内部に存在する空隙14に面する一次粒子12の表面上に、リチウムニッケルマンガン酸化物を含有するコート層16を有している。
【0033】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
【0034】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0035】
<正極活物質の作製>
あらかじめ不活性ガスを通気させて溶存酸素を取り除いたイオン交換水に硫酸マンガンを溶解させ、所定の濃度の混合水溶液を調製した。30~60℃に調整された反応容器内に、同様にして溶存酸素を取り除いたイオン交換水を用意し、攪拌下、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを調整した。混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とをpHを制御しながら一定量ずつ所定の速度で添加し、共沈生成物(水酸化物)を得た。このとき、共沈生成物(水酸化物)の生成とともにpHを変化させることで、共沈生成物(水酸化物)の空隙率を調整した。具体的には、pHを11~13から10~12の範囲に変更させていくことで生成物の空隙率を上昇させることができ、そのときのpHの保持時間、pH変化の幅、変化速度、を調整することで空隙率を調整した。得られた共沈生成物(水酸化物)を水洗後、ろ過し、120℃のオーブン内で乾燥させて多孔質の水酸化物粉末である、前駆体粉末を得た。
【0036】
得られた前駆体粉末と、水酸化リチウム粉末とを、混合した。得られた混合物を、加圧成型して、大気雰囲気中550℃で6~12時間焼成し、冷却後粉砕した。さらに、粉砕した混合物を800~950℃で2~12時間焼成後、700℃で12~48時間アニール処理を行った。なお、焼成時の昇温速度は、5~40℃/分で調整した。冷却後、得られた混合物を解砕して、正極活物質であるスピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を得た。この正極活物質をそのまま(即ち、リチウムニッケルマンガン酸化物のコート層を有さない状態)、例1の正極活物質として用いた。なおこの正極活物質は、一次粒子が複数凝集した二次粒子を含む多孔質粒子の状態にある。
【0037】
このとき、混合水溶液の条件(溶液濃度、pH、滴下速度および滴下時間)と焼成の条件(温度および時間)を変化させることによって、前駆体粉末の多孔質構造を調整し、空隙率の異なる正極活物質を得た。
【0038】
〔例2~8〕
酢酸マンガン、酢酸ニッケル、および酢酸リチウムを、ニッケルのモル数(Ni)およびマンガンモル数(Mn)の合計モル数(Ni+Mn)に対する、リチウムのモル数(Li)のモル比(Li/Ni+Mn)が、0.54となるように水に溶解させ、50℃で混合した。攪拌下、キレート剤としてエチレングリコールを滴下し、140℃で約5時間混合し、ゲルを調製した。このゲルに上記得られた空隙率の異なる正極活物質を加えて、さらに混合した。混合物を遠心分離させたのちにろ過し、真空乾燥させた。その後、800~950℃にて6時間焼成後、700℃で12時間アニール処理を行い、リチウムニッケルマンガン酸化物がコートされた正極活物質(例2~8)を得た。
【0039】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した正極活物質(例1~8)と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:CB:PVDF=90:8:2の質量比でN-メチル-2-ピロリドン中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔集電体に塗布し、乾燥した後プレスすることにより、正極シートを作製した。
本実施例では、各サンプルで同様の負極を使用した。負極活物質として、天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを銅箔集電体に塗布し、乾燥した後プレスすることにより、負極シートを作製した。
また、セパレータとしてPP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
作製した正極シートと負極シートとをセパレータを介して対向させて、積層型電極体を作製した。作成した電極体に集電体を取り付け、非水電解液と共にアルミラミネートケースに収容し、封止することによって評価用リチウムイオン二次電池を得た。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0040】
<正極活物質の構造評価>
上記作製した例1~8の正極活物質のSEM像をそれぞれ複数取得した。得られた例1~8の正極活物質の複数のSEM像の中から、D50に相当する大きさの二次粒子径となる二次粒子を任意(無作為)に30個ずつ選択した。例1~8の正極活物質において、それぞれ30個の二次粒子の各粒子径を測定した。30個の二次粒子の各粒子径の平均値を平均粒子径とした。結果を表1に示す。
また、上記作製した例1~8の正極活物質の断面SEM像をそれぞれ複数取得した。得られた例1~8の正極活物質の複数の断面SEM像の中から、D50に相当する大きさの二次粒子径となる二次粒子を任意(無作為)に30個ずつ選択した。
例1~8の正極活物質において、それぞれ30個の二次粒子の空隙率を算出した。30個の二次粒子の空隙率の平均値を平均空隙率とした。結果を表1に示す。
例2~8の正極活物質において、それぞれ30個の二次粒子のコート層の厚みを測定した。各二次粒子について3か所の平均値を算出し、各二次粒子におけるコート層の平均厚みを求めた。30個の二次粒子のこの値の平均値をリチウムニッケルマンガン酸化物コート層の平均厚みとした。結果を表1に示す。
例2~8の正極活物質において、それぞれ30個の二次粒子のマンガンのモル数(Mn)に対する、ニッケルのモル数(Ni)のモル比(Ni/Mn)を測定した。各二次粒子について3か所の平均値を算出し、各二次粒子におけるコート層の平均モル比(Ni/Mn)を求めた。30個の二次粒子のこの値の平均値をリチウムニッケルマンガン酸化物コート層のモル比(Ni/Mn)とした。結果を表1に示す。
【0041】
<活性化処理>
上記作製した各評価非水電解質二次電池を、25℃の環境下に置いた。活性化(初期充電)は、定電流-定電圧方式とし、各評価用非水電解質二次電池を0.1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、定電圧充電時の電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用非水電解質二次電池を0.1Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。
【0042】
<初期抵抗測定>
各評価用非水電解質二次電池を、電池容量の50%(SOC=50%)の状態に調整した。次に、-10℃の環境下で種々の電流値で電流を流し、電池電圧を測定した。流した電流と電圧を直線補間し、傾きから電池抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。例1の初期抵抗を1とした場合の、例2~8の初期抵抗の比を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
<電池抵抗増加率の評価>
初期抵抗を測定した各評価用非水電解質二次電池を、60℃の環境下に置き、1Cで4.2Vまで定電流充電および1Cで3.0Vまで定電流放電を1サイクルとする充放電を50サイクル繰り返した。50サイクル目の電池抵抗を、上記と同じ方法で測定した。抵抗増加の指標として、式:(充放電50サイクル目の電池抵抗/初期抵抗×100)より、抵抗増加率を求めた。例1の抵抗増加率を1とした場合の、例2~8の初期抵抗の比を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1の結果より、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物は、一次粒子が複数集合した二次粒子を含む多孔質粒子であり、該二次粒子の平均粒子径が8μm以上15μm以下であり、該二次粒子の平均空隙率が20%以上であり、該多孔質粒子の表面にはリチウムニッケルマンガン酸化物からなるコート層が形成されており、該コート層の平均厚みが、0.4μm以上1.0μm以下であり、該コート層に含まれるマンガン原子に対するニッケル原子のモル比が、0.16以上0.33以下である場合に、初期抵抗および電池の内部抵抗増加率比が顕著に小さいことがわかる。
したがって、ここに開示される正極活物質によれば、初期抵抗が低く、かつ充放電を繰り返した際の電池抵抗の増加が抑制された、非水電解質二次電池を提供できることがわかる。
【0046】
また、表1の例5~7の結果により、リチウムニッケルマンガン酸化物のコート層に含まれるマンガン原子に対するニッケル原子のモル比が、0.25以上0.33以下である場合に、初期抵抗および内部抵抗増加率が特に小さいことがわかる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10 多孔質粒子
12 一次粒子
14 空隙
16 コート層
20 電極体
30 電池ケース
32 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極
52 正極集電体
54 正極活物質層
56 正極集電体露出部
60 負極
62 負極集電体
64 負極活物質層
66 負極集電体露出部
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池