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特許7191072正極活物質および該正極活物質を備えた二次電池
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  • 特許-正極活物質および該正極活物質を備えた二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】正極活物質および該正極活物質を備えた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20221209BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221209BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221209BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20221209BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01G11/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020174496
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022065793
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】冨田 正考
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/175313(WO,A1)
【文献】特開2000-340226(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/36
H01G 11/30-11/50
C01G 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池に用いられる正極活物質であって、
スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物で構成されており、
前記リチウムマンガン複合酸化物は、一次粒子が複数集合した二次粒子を含み、
前記二次粒子のSEM像に基づく平均粒子径は10μm~20μmであり、
前記一次粒子のSEM像に基づく平均粒子径は4μm~8μmであり、
ここで、前記二次粒子の表層部にニッケル原子が備えられており
前記ニッケル原子は、前記二次粒子の表層部に偏在しており、
前記ニッケル原子が偏在する前記二次粒子の表層部の平均厚みは0.3μm以上2.5μm以下であり、
前記二次粒子の断面SEM像において、該二次粒子の最長の径に沿ってエネルギー分散型X線分光法(EDX)により測定されたニッケル原子の最大濃度を示す位置におけるニッケル原子のマンガン原子に対するモル比(Ni/Mn)の平均値が0.14~0.31である、
正極活物質。
【請求項2】
アルミニウム原子およびマグネシウム原子のうち少なくとも一方を含有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
正極と、負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、請求項1または2に記載の正極活物質を備える、
非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質と、該正極活物質を備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極には、一般的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質が備えられている。正極活物質としては、一般的に、リチウム遷移金属酸化物(リチウム遷移金属複合酸化物)が用いられており、代表的な構造の一つとしてスピネル型結晶構造が知られている。例えば、特許文献1には、微細一次粒子を有する水酸化物粒子を焼成し、スピネル型結晶構造を有する正極活物質(リチウム含有複合酸化物)の平均粒径を2μm~8μmの範囲とすることで良好な電池出力を実現させ、かつ、粒度分布の広がりを抑えることで良好なサイクル容量維持率を実現することが開示されている。また、特許文献2には、コア-シェル構造を有するスピネル型リチウムマンガン複合酸化物であって、該シェル部分には所定の金属元素(3d遷移金属または亜鉛)が置換されている正極活物質が開示されている。かかる構成のシェル部分は高い熱安定性と電解液との低反応性を示すため、サイクル寿命が改善されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-246199号公報
【文献】特表2010-511990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者が鋭意検討を行った結果、上述した特許文献1では、微細一次粒子により正極活物質の比表面積が増大しているため、電解液との接触面積が大きくなり、良好な電池出力を実現する一方で、マンガン原子が溶出しやすい傾向があることが見出された。即ち、マンガン原子が溶出することで正極活物質の劣化が早まる恐れがある。また、上述した特許文献2では、正極活物質の粒径の最適化が行われていないため、電極作製時のプレス工程や充放電時に活物質粒子が割れやすい傾向にあることが見出された。これにより、破砕面からマンガン原子が溶出し、サイクル寿命が低下する恐れがあるため、改善の余地があることが見出された。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、非水電解質二次電池の充放電の繰り返しによる抵抗増加および容量維持率の低下を低減し得る、スピネル型結晶構造を有する正極活物質を提供することを主な目的とする。また、かかる正極活物質を備えた非水電解質二次電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、従来よりも大きな平均粒子径を有する一次粒子により構成される二次粒子を備えた正極活物質(リチウムマンガン複合酸化物)に対し、該二次粒子の表層部に所定量のニッケル原子を置換することにより、該正極活物質を備えた非水電解質二次電池は、充放電を繰り返した際の容量劣化耐性の向上および抵抗増加率の抑制が見られ、さらに初期抵抗を低減させ得ることを見出した。
即ち、非水電解質二次電池に用いられるここに開示される正極活物質は、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物で構成されており、上記リチウムマンガン複合酸化物は、一次粒子が複数集合した二次粒子を含み、上記二次粒子のSEM像に基づく平均粒子径は10μm~20μmであり、上記一次粒子のSEM像に基づく平均粒子径は4μm~8μmであり、上記二次粒子の表層部にニッケル原子が備えられている。
かかる構成によれば、非水電解質二次電池に対し、充放電の繰り返しに対する優れた容量劣化耐性を付与することができ、かつ、初期抵抗および充放電に伴う抵抗増加率を低減させることができる正極活物質を提供することができる。
【0008】
ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、上記ニッケル原子は、上記二次粒子の表層部に偏在している。
かかる構成によれば、非水電解質二次電池にさらに優れた容量劣化耐性を付与し、かつ、初期抵抗および充放電に伴う抵抗増加率をより一層低減することができ得る。
【0009】
また、ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、上記二次粒子の断面SEM像において、該二次粒子の最長の径に沿ってエネルギー分散型X線分光法(EDX)により測定されたニッケル原子の最大濃度を示す位置におけるニッケル原子のマンガン原子に対するモル比(Ni/Mn)の平均値が0.14~0.31である。
かかる構成によれば、容量劣化耐性効果と、初期抵抗および充放電に伴う抵抗増加率の低減効果とを高いレベルで実現し得る。
【0010】
また、ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、上記ニッケル原子が偏在する上記二次粒子の表層部の平均厚みは0.3μm以上2.5μm以下である。
かかる構成によれば、容量劣化耐性効果と、初期抵抗および充放電に伴う抵抗増加率の低減効果とをより一層高いレベルで実現し得る。
【0011】
また、ここに開示される正極活物質の好ましい一態様では、アルミニウム原子およびマグネシウム原子のうち少なくとも一方を含有する。
かかる構成によれば、特に優れた容量劣化耐性効果と、初期抵抗および充放電に伴う抵抗増加率の低減効果を実現し得る。
【0012】
また、上記課題を解決するべく、ここで開示される正極活物質を備えた非水電解質二次電池が提供される。即ち、ここに開示される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備えており、上記正極は、正極活物質層を備え、該正極活物質層は、ここで開示される正極活物質を備えている。
かかる構成によれば、充放電を繰り返した際の容量劣化耐性に優れ、初期抵抗および抵抗増加率の低減効果に優れた非水電解質二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図2】一実施形態に係る非水電解質二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
図3】一実施形態に係る正極活物質を構成する二次粒子の構造を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、一般的な解釈と同様であり、A以上B以下を意味するものである。
【0015】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な電池一般をいい、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」は、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正極と負極との間をリチウムイオンに伴う電荷の移動によって充放電を行う二次電池である。また、本明細書において「活物質」とは、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出する材料をいう。
【0016】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、電池ケース30の内部に、扁平形状の電極体20と、非水電解質(図示せず)とが収容されることで構築される角型の密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44が備えられている。また、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36が設けられている。さらに、電池ケース30には、非水電解質を注液するための注液口(図示せず)が設けられている。電池ケース30の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0017】
電極体20は、図1および図2に示されるように、長尺シート状の正極50と、長尺シート状の負極60とが、2枚の長尺シート状のセパレータ70を介して積層され、捲回軸を中心として捲回された捲回電極体である。正極50は、正極集電体52と、該正極集電体52の片面または両面の長手側方向に形成された正極活物質層54とを備えている。正極集電体52の捲回軸方向(即ち、上記長手側方向に直交するシート幅方向)の片側の縁部には、該縁部に沿って帯状に正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分(即ち、正極集電体露出部52a)が設けられている。また、負極60は、負極集電体62と、該負極集電体62の片面または両面の長手側方向に形成された負極活物質層64とを備えている。負極集電体62の上記捲回軸方向の片側の反対側の縁部には、該縁部に沿って帯状に負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分(即ち、負極集電体露出部62a)が設けられている。正極集電体露出部52aと負極集電体露出部62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。正極集電板42aは、外部接続用の正極端子42と電気的に接続されており、電池ケース30の内部と外部との導通を実現している。同様に、負極集電板44aは、外部接続用の負極端子44と電気的に接続されており、電池ケース30の内部と外部との導通を実現している。
【0018】
正極50を構成する正極集電体52としては、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。正極活物質層54は、ここで開示される正極活物質を備える。また、正極活物質層54は、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0019】
負極60を構成する負極集電体62としては、例えば、銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。また、負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0020】
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0021】
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。あるいは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分を含んでいてもよく、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0022】
ここで開示される正極活物質は、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物で構成されている。スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物とは、スピネル型結晶構造を有しており、構成元素として、少なくともLi、Mn、Oを含有する酸化物のことである。図3は、一実施形態に係る正極活物質の二次粒子の構造を模式的に示す概略図である。図3に示すように、正極活物質を構成する二次粒子10は、一次粒子12が複数集合することで構成されている。一次粒子12は、スピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物で構成されている。
なお、本明細書において、「一次粒子」とは、正極活物質を構成する粒子の最小単位をいい、具体的には、外見上の幾何学的形態から判断した最小の単位をいう。また、かかる一次粒子の集合物を「二次粒子」という。
【0023】
ここで開示される正極活物質のSEM像に基づく平均一次粒子径は、4μm以上であることが好ましく、さらに5μm以上であることがより好ましい。平均一次粒子径が小さい場合、比表面積が大きくなりすぎるため、電解質との接触面積が大きくなりすぎ、正極活物質を構成するマンガン原子が溶出しやすくなる。これにより、リチウムイオン二次電池の長期使用に伴い容量維持率が低下し易くなり、電気抵抗も増加し易くなる。また、平均一次粒子径は8μm以下であることが好ましく、例えば、7μm以下、6μm以下であってもよい。平均粒子径が大きすぎる一次粒子(例えば10μm以上の粒子径を有する一次粒子)では、リチウムイオンの固相内拡散が低下し、抵抗が増加し得る。また、充放電を繰り返すことにより、粒子の割れが起こり易くなる。そのため、平均一次粒子径は4μm~8μmであることが好ましく、さらに5μm~8μmであることがさらに好ましい。かかる範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の充放電の繰り返しによる容量維持率の低下および抵抗増加率を抑制することができ得る。
【0024】
ここで開示される正極活物質のSEM像に基づく平均二次粒子径は、10μm~20μmであることが好ましく、より好ましくは11μm~20μm、さらに好ましくは12μm~15μmである。かかる範囲よりも二次粒子径が大きくなると、リチウムイオンの固相内拡散が低下し、抵抗が増加し得る。そのため、平均一次粒子径を上述した好適な範囲内とし、かつ、平均二次粒子径を上記範囲内とすることにより、リチウムイオン拡散性を良好に保つことができ、初期抵抗および充放電の繰り返しによる抵抗の増加率を好適に抑制することができ得る。また、かかる範囲内であれば、正極活物質からのマンガン原子の溶出を好適に抑制し得るため、リチウムイオン二次電池の容量維持率をより一層向上させ得る。
【0025】
ここで開示される正極活物質の平均二次粒子径および平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察された画像に基づいて測定することができる。具体的には、まず、一般的なレーザー解析・光散乱法に基づく粒度分布測定装置を用いて体積基準の粒度分布を測定し、小さな粒子側からの累積50体積%に相当する粒子径(メジアン径:D50)を測定する。次に、正極活物質をSEMで複数箇所観察し、複数のSEM画像を取得した後、D50に相当する大きさの二次粒子を無作為に複数(例えば30個以上)選択する。次に、上記選択した複数の二次粒子それぞれの最長の径の長さを長径とし、該長径と直角に交わる線のうち最長の径の長さを短径とする。該長径と該短径とからなる楕円の面積を用いて円相当径を換算することによって二次粒子の粒子径を算出する。そして、上記選択した複数の二次粒子の粒子径の平均値を平均二次粒子径として算出することができる。本明細書において「平均二次粒子径」とは、このように算出された平均値のことをいう。
【0026】
また、本明細書において「平均一次粒子径」とは、上記選択した複数の二次粒子において、それぞれの二次粒子を構成する一次粒子のうち、SEM画像で粒子径全長が視認できる(即ち、他の一次粒子により隠れている部分のない)一次粒子の粒子径の平均値のことをいう。なお、上記選択した複数の二次粒子それぞれから粒子径を算出する一次粒子を1つ以上選択する。一次粒子の粒子径の算出方法は上述した二次粒子の粒子径の算出方法と同様であり、長径および短径を決定し、該長径と該短径とからなる楕円の面積を用いて円相当径を換算することによって算出することができる。
【0027】
ここで開示される正極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物の構成元素として、Li、Mn、Oに加え、1種または2種以上の添加的な元素を含み得る。典型的には、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物は一般式(1):
Li1+zMn2-x-zMe
(式中、Meは存在しない、もしくは少なくとも一種の金属元素を表し、x,zはそれぞれ、0≦x≦0.25、0<z≦0.15を具備する)で表される化合物が挙げられる。かかる添加的な元素(Me)の例としては、Ni、Co、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。このなかでも、ニッケル(Ni)原子を含有することが好ましい。ニッケル原子が含有されることにより、リチウムマンガン複合酸化物を構成するマンガン原子の価数を4価付近まで上昇させ得り、マンガン原子が溶出することを抑制し得る。これにより、リチウムイオン二次電池の容量維持率を向上させることができる。
なお、正極活物質の平均化学組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定することができる。
【0028】
リチウムマンガン複合酸化物に含まれ得るニッケル原子の平均含有割合は、ニッケルを含むリチウムマンガン複合酸化物(リチウムニッケルマンガン複合酸化物)を一般式(2):
Li1+zNiMn2-x―y―zMe
(式中、Meは存在しない、もしくは少なくとも一種の金属元素を表し、x、y、zはそれぞれ0≦x≦0.25、0<z≦0.15、x+y≦0.25を具備する。)と表したときのyの値で示される。上記一般式(2)中のyは、0.04≦y≦0.2の範囲内であることが好ましく、また、0.05≦y≦0.15であることがより好ましく、0.05≦y≦0.1であることがさらに好ましい。ニッケル原子の平均含有割合をかかる範囲内とすることにより、リチウムイオン拡散性が向上し得り、また、マンガン原子の溶出をより抑制することができ得る。
なお、上記一般式(2)の添加的な元素(Me)は、例えばCo、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等であり得る。
【0029】
また、リチウムマンガン複合酸化物に含まれ得るニッケル原子は、二次粒子の表層部に偏在していることが好ましい。これにより、二次粒子の表層部に存在するマンガン原子の価数を4価付近まで上昇させることができ得るため、マンガン原子の溶出をより一層抑制することができ得る。また、二次粒子内におけるリチウムイオンの固相内拡散を向上させ、電気抵抗を低減させることができる。さらに、ニッケル原子が表層部に偏在することによって、充放電時の粒子の膨張収縮が局所的に抑制されるため、充放電による粒子の割れを抑制し得る。
【0030】
また、リチウムマンガン複合酸化物に含まれ得るニッケル原子は、二次粒子の表層部の所定の厚みに偏在していることが好ましい。該表層部の平均厚みは、例えば3μm未満であり、好ましくは2.5μm以下であり、より好ましくは2μm以下(例えば、1.4μm以下)であり、さらに好ましくは1μm以下である。かかる範囲の厚みにニッケル原子が偏在することにより、電解質と接触し易い二次粒子表面付近のマンガン原子の価数をより好適に4価付近まで上昇させ得り、マンガン原子の溶出の抑制をよりよく実現することができる。
また、上記二次粒子の表層部の平均厚みの下限値を限定するものではないが、二次粒子の表層部の平均厚みは0.3μm以上であることが好ましく、さらに0.5μm以上であることがより好ましい。これにより、二次粒子表層部にニッケル原子を一定量配置することができるため、上述した表層部に偏在するニッケル原子の効果を十分に発揮することができる。したがって、上記二次粒子の表層部の平均厚みは、例えば、0.3μm以上2.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上1μm以下である。
【0031】
なお、上述したニッケル原子が偏在する二次粒子の表層部の平均厚みは、以下のように測定することができる。
まず、正極活物質を樹脂埋めし、粗断面を作製後、クロスセクションポリッシャー(CP)法により断面加工を行う。次に、断面加工後の断面をSEMで観察し、D50に相当する大きさの二次粒子を無作為に複数(例えば、30個以上)選択する。そして、選択した複数の二次粒子それぞれにおいて、二次粒子の最長の径の長さに沿ってエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて線分析を行う。これにより得られたニッケル原子の強度分布を基に、二次粒子の端部から、該二次粒子中のニッケル原子の強度の最大値に対して30%となるまでの長さをニッケル原子が偏在する厚みとする。かかる算出を、上記選択した複数の二次粒子それぞれの最長の径の両端部で行い、該選択した複数の二次粒子で算出された長さ(厚み)における平均値を求める。本明細書においては、このように算出された長さ(厚み)の平均値を、ニッケル原子が偏在する「二次粒子の表層部の平均厚み」という。なお、ここで開示される正極活物質においては、ニッケル原子が二次粒子の表層部に偏在しているため、ニッケル原子の強度の最大値は二次粒子の表層部に存在する。
【0032】
二次粒子の表層部において、上述した方法(EDXによる線分析)で測定したニッケル原子の最大値(最大濃度)を示す位置におけるニッケル原子のマンガン原子に対するモル比(Ni/Mn)の平均値は、0.14~0.31であることが好ましく、0.18~0.28であることがより好ましく、0.18~0.25であることがさらに好ましい。上記モル比の平均値が小さすぎると、二次粒子表層部のマンガン原子の価数を十分に高められず、マンガン原子の溶出の抑制が不十分となり得る。また、上記モル比の平均値が大きすぎると、リチウムイオンの固相内拡散が低下し得る。そのため、上記モル比の平均値を上述した範囲内とすることにより、二次粒子を構成するマンガン原子の溶出をより好適に抑制し得り、かつ、リチウムイオンの拡散性の低下も抑制し得る。
【0033】
さらに、リチウムマンガン複合酸化物はニッケル原子に加え、アルミニウム原子およびマグネシウム原子のうち少なくとも一方をさらに含有させることがより好ましい。アルミニウム原子およびマグネシウム原子は、正極活物質の充放電時に価数変化を起こさない性質を有しているため、充放電の繰り返しに伴うマンガン原子の溶出をより一層抑制することができ得る。また、リチウムイオンの固相内拡散がより向上し、電気抵抗をより一層低減させることができ得る。
アルミニウム原子及び/又はマグネシウム原子を含むリチウムニッケルマンガン複合化合物は、典型的には、一般式(3):
Li1+zNiMn2-x―y―zMe
(式中、Meは少なくともAlおよびMgのうち少なくとも一種を示し、x、y、zはそれぞれ0<x≦0.1、0<y≦0.2、0<z≦0.15、x+y≦0.25を具備する)で表される化合物が挙げられる。なお、添加的な元素(Me)はAlおよびMgの他にも、例えばCo、Ca、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等がさらに含まれ得る。
【0034】
次に、ここで開示される正極活物質の好適な製造方法について説明する。なお、ここで開示される正極活物質の製造方法は下記に限られない。
【0035】
ここで開示される正極活物質粒子の好適な製造方法は、少なくともマンガンを含む水酸化物粒子を前駆体粒子として析出する工程(以下、「前駆体析出工程」ともいう)と、当該前駆体粒子を、ニッケルと該前駆体粒子を構成する遷移金属とを含む溶液中(即ち、少なくともニッケルとマンガンとを含む溶液中)で粒子成長させる工程と(以下、「前駆体粒子成長工程」ともいう)、該前駆体粒子成長工程で得られた前駆体粒子と、リチウム化合物との混合物を得る工程(以下、「混合工程」ともいう)と、当該混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る工程(以下、「焼成工程」ともいう)と、を包含する。
【0036】
まず、前駆体析出工程について説明する。前駆体析出工程は、通常の正極活物質の製造における公知方法と同様であってよい。まず、少なくともマンガン化合物が溶解した水溶液を準備する。マンガン化合物としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、ハロゲン化マンガン等の水溶性化合物を用いることができる。また、アルカリ化合物の水溶液を準備する。アルカリ化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、アンモニア水を準備する。
【0037】
次に、30℃~60℃の反応容器中に水(好ましくはイオン交換水)を加え、撹拌する。雰囲気を不活性ガス(例えばNガス、Arガスなど)で置換しながら撹拌を続け、アルカリ化合物の水溶液を加えpHを調整する(例えばpH10~13)。
撹拌を続けながら、マンガン化合物の水溶液とアンモニア水とを反応容器に添加する。このとき、これらの添加により反応容器中のpHが低下するため、アルカリ化合物の水溶液により反応容器中のpHを10~13の範囲に調整する。その後、反応容器を所定時間(例えば1~3時間)静置して、前駆体粒子(水酸化物粒子)を十分に沈殿させる。
【0038】
次に、前駆体粒子成長工程について説明する。まず、ニッケル化合物とマンガン化合物とが溶解した水溶液を準備する。ニッケル化合物は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ハロゲン化ニッケルなどの水溶性化合物を用いることができる。ここで、ニッケル化合物とマンガン化合物との混合比率を変化させることによって、正極活物質に含まれるニッケル原子の濃度に調整することができる。
【0039】
前駆体析出工程で得られた前駆体粒子が沈殿した反応容器中を撹拌しながら、ニッケル化合物とマンガン化合物との水溶液と、アルカリ化合物の水溶液と、アンモニア水とを添加し、反応容器中を前駆体析出工程のときとは異なるpH(例えば、pH10~13の範囲内でも異なるpH)に調整する。その後、反応容器を所定時間(例えば1~3時間)静置して、前駆体粒子(複合水酸化物粒子)を十分に沈殿させる。これにより、水酸化物粒子の表面にニッケル含有複合水酸化物層が形成された前駆体粒子を得ることができる。その後、吸引濾過等によって前駆体粒子を回収し、水洗後、乾燥(例えば、120℃で一晩乾燥)を行う。これにより、ニッケル原子が表層部に偏在した複合水酸化物の粉末を得ることができる。
【0040】
なお、前駆体粒子成長工程において、各種溶液の添加速度、反応容器中のpHを調整することにより、ニッケル含有複合水酸化物層の厚み(焼成後、二次粒子表層部に相当する部分)、および複合水酸化物粒子の粒子径を調整することができる。
【0041】
次に、混合工程について説明する。ここで用いるリチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の焼成により酸化物に変換される化合物を用いることができる。
得られた複合水酸化物の粉末と、リチウム化合物の粉末とに加え、所定濃度の融剤(典型的には、該粉末の混合物に対して、0.1質量%以上50質量%以下)を添加し混合する。融剤を添加して混合することにより、後述する焼成工程において一次粒子の粒子成長を促進することができるため、一次粒子の粒子径を大きくすることができる。融剤の種類は特に限定されるものではなく、公知の融剤(例えばB粉末)を用いることができる。なお、混合する融剤の量(濃度)を調整することにより、一次粒子の粒子径を調整することができる。
【0042】
混合には、公知の混合装置(例えば、シェーカミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサ等)を用いて、公知方法に従って混合することにより、混合物を得ることができる。
なお、複合水酸化物の粉末と、リチウム化合物との混合比を調整することにより、所望する正極活物質の元素比とすることができる。
【0043】
次に、焼成工程について説明する。得られた混合物の焼成は、例えば、バッチ式の電気炉、連続式の電気炉等を用いて行うことができる。得られた混合物を加圧成型した後、大気雰囲気中で500℃~600℃で6時間~12時間加熱する。その後冷却し、加圧成型された混合物を粉砕し、再度成型する。再度成型した混合物を900℃~1000℃で6時間~24時間焼成する。その後、例えば700℃で12時間~48時間のアニール処理を行う。アニール処理後、冷却し、再度混合物を粉砕することで正極活物質(リチウムニッケルマンガン複合酸化物)を得ることができる。なお、焼成時の昇温速度は例えば5℃/分~40℃/分(典型的には10℃/分)で実施することができる。また、特に限定する意図はないが、冷却方法は焼成に用いた電気炉の電源を切り、自然放冷させることで実施することができる。
なお、融剤の濃度、焼成温度、焼成時間を調整することにより、一次粒子の粒子径を調整することができる。
【0044】
ここまでここで開示される正極活物質の製造方法について説明したが、例えば、正極活物質にアルミニウム原子及び/又はマグネシウム原子を含有させる場合には、混合工程において、複合水酸化物の粉末と、リチウム化合物の粉末と、融剤とに加えて、さらに化合物の粉末(例えば、水酸化アルミニウム等)及び/又はマグネシウム化合物(例えば、水酸化マグネシウム等)を混合することによって製造することができる。アルミニウム化合物およびマグネシウム化合物は焼成により酸化物に変換される化合物を好ましく用いることができる。また、かかる化合物の混合量を調整することにより、所望の元素比の正極活物質を得ることができる。
【0045】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
【0046】
以上、一例として扁平形状の捲回電極体を備えた角型の非水電解液リチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、これは一例に過ぎず限定されるものではない。例えば、捲回電極体の代わりに、シート状の正極とシート状の負極とがセパレータを介して交互に積層された積層電極体を備えた非水電解質二次電池であってもよい。また、電解質としてポリマー電解質を使用するポリマー電池であっても良い。また、角型電池ケースの代わりに、円筒型、コイン型等の形状の電池ケースを用いても良く、電池ケースの代わりにラミネートフィルムを用いたラミネート型二次電池であってもよい。
【0047】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0048】
(実験1)
スピネル型結晶構造を有する正極活物質の平均一次粒子径および平均二次粒子径の違いによって、リチウムイオン二次電池の初期抵抗、および、サイクル試験後の抵抗増加率および容量維持率に与える影響について調べた。
【0049】
<正極活物質の準備>
〔例1~2〕
イオン交換水に硫酸マンガンを溶解させ、所定の濃度となるように硫酸マンガン水溶液を調製した。また、イオン交換水を用いて水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液をそれぞれ調製した。
イオン交換水を30℃~60℃の範囲内に保ちながら撹拌し、上記水酸化ナトリウム水溶液により所定のpH(pH10~13)に調整した。そして、該所定のpHに制御しながら、上記硫酸マンガン水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液を加えることにより、共沈生成物(水酸化物)を得た。得られた水酸化物をろ過し、水洗した後、120℃のオーブン内で乾燥させて水酸化物粉末(正極活物質前駆体粉末)を得た。なお、ここで用いたイオン交換水は、あらかじめ不活性ガスを通気させて溶存酸素を取り除いてから使用した。
得られた水酸化物粉末と水酸化リチウム粉末を、リチウム(Li)のマンガン(Mn)に対するモル比(Li/Mn)が0.58となるように準備し、ここに融剤として所定濃度のBを添加し、混合した。この混合物を、加圧成型して大気雰囲気中550℃で12時間加熱し、冷却後、粉砕した。粉砕した混合物を再成型し、900℃~1000℃で6時間から24時間焼成後、700℃で12時間から48時間アニール処理を行った。なお、上記焼成時の昇温速度は10℃/分とした。冷却後、得られた混合物を粉砕することで、例1~2の正極活物質を得た。
なお、Bの濃度、焼成温度、焼成時間を変化させることにより、一次粒子の平均粒子径を調整した。
【0050】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
評価用リチウム二次電池として、上記作製した正極活物質と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:CB:PVDF=90:8:2の質量比となるようにN-メチル-2-ピロリドン中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔集電体に塗布し、乾燥した後プレスすることにより、シート状の正極を作製した。
負極活物質として、天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比となるようにイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを銅箔集電体に塗布し、乾燥した後プレスすることにより、シート状の負極を作製した。
また、セパレータとしてPP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
作製したシート状の正極と負極とをセパレータを介して対向させて積層し、積層型電極体を作製した。該積層型電極体に集電端子を取り付け、アルミラミネート型袋に収容した。そして、積層電極体に非水電解液を含浸させ、アルミラミネート袋の開口部を封止し密閉することによって評価用リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0051】
<平均一次粒子径および平均二次粒子径の算出>
上記作製した正極活物質それぞれに対してレーザー回折式粒度分布測定装置を用いてメジアン径(D50)を測定した。
次に、上記作製した正極活物質のSEM像を取得した。得られたSEM像の中から、それぞれD50に相当する大きさの二次粒子を任意(無作為)に30個選択した。そして、該30個の二次粒子の粒子径を算出し、それらの平均値を平均二次粒子径とした。
また、上記選択した30個の二次粒子それぞれにおいて、該二次粒子を構成する一次粒子の中から1つ以上の粒子径を算出し、それらの平均値を平均一次粒子径とした。
【0052】
<正極活物質の組成分析>
上記作製した正極活物質に対して、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析を行い、各元素の含有量を測定した。
【0053】
<活性化処理および初期放電容量の測定>
上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、定電圧充電時の電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、定電流方式により、各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの電流値で3.0Vまで放電し、このときの放電容量を初期放電容量とした。なお、上記充放電の操作は25℃で行った。
【0054】
<初期電池抵抗の測定>
各評価用リチウムイオン二次電池を、電池容量の50%(SOC=50%)の状態に調整した。次に、-10℃の環境下で種々の電流値で電流を流し、2秒後の電池電圧を測定した。上記流した電流と電圧変化を直線補間し、その傾きから電池抵抗(初期電池抵抗)を算出した。そして、例1の初期抵抗を1.0としたとき初期抵抗の相対値を算出した。その結果を表1に示す。
【0055】
<耐久後抵抗増加率および容量維持率の測定>
初期抵抗を測定した各評価用リチウムイオン二次電池に対し、60℃の環境下でサイクル試験を実施した。具体的には、1Cで4.2Vまで定電流充電を行った後、1Cで3.0Vまで定電流放電を行うことを1サイクルとして、50サイクル繰り返した。そして、50サイクル後の放電容量および電池抵抗を上記と同じ方法で測定した。そして、耐久後容量維持率を以下の式1:
(50サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)×100・・・式1
により算出した。また、耐久後抵抗増加率を以下の式2:
(50サイクル後の電池抵抗)/(初期電池抵抗)×100・・・式2
により算出した。これら算出した耐久後容量維持率および耐久後抵抗増加率それぞれにおいて、例1を1.0としたときの相対値を算出した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、例1の正極活物質よりも平均一次粒子径および平均二次粒子径が大きい例2の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の方が、初期抵抗および耐久後抵抗増加率が低下し、耐久後容量維持率が向上した。したがって、スピネル型結晶構造の正極活物質において、特に一次粒子径を従来(例1)よりも大きくなるように制御することによって、初期抵抗およびサイクル試験後の抵抗増加率が低減され、容量維持率が向上することが確かめられた。
【0058】
(実験2)
例1よりも一次粒子径の大きい正極活物質において、二次粒子の表面にニッケル原子が偏在した表層部を備えた正極活物質(例3~11)を作製し、解析を行った。また、ニッケル原子に加え、アルミニウム原子を含有した正極活物質(例12)、およびマグネシウム原子を含有した正極活物質(例13)を作製し、実験1と同様の試験を行った。
【0059】
〔例3~11〕
上述した例1~2の正極活物質の製造方法において、共沈生成物(水酸化物)を得られた後、該水酸化物の表面に複合水酸化物層を形成する工程を追加した。
即ち、イオン交換水に硫酸マンガンおよび硫酸ニッケルを溶解させ、所定の濃度となるように硫酸マンガンと硫酸ニッケルとの混合水溶液を調製した。このとき、ニッケル原子とマンガン原子とのモル比を調整することにより、複合酸化物層に含まれるニッケル原子量を変化させた。
共沈生成物(水酸化物)が得られた後、該水酸化物を得る工程における所定のpHとは異なるpH(pH10~13の範囲内)に制御しながら、上記水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液および混合溶液を加えることで、上記共沈生成物(水酸化物)の表面に複合水酸化物層を形成した複合水酸化物を得た。このとき、上記添加する水溶液の添加速度およびpHを調整することにより、上記複合水酸化物層の厚み、粒子径を変化させた。
次の混合工程では、上記複合水酸化物粉末と水酸化リチウム粉末を、リチウム(Li)のモル数と遷移金属元素(Ni、Mn)の総モル数との比が所定の値(表2の各例の平均化学組成参照)となるように準備した。
また、Bの濃度、焼成温度、焼成時間を変化させたこと以外は例1~2と同様に行った。
【0060】
〔例12〕
上記複合水酸化物粉末と水酸化リチウム粉末を混合するとき、水酸化アルミニウム粉末をさらに加え、Li、Ni、Al、Mnのモル比が所定の値(表2の例12の平均化学組成参照)となるようにしたこと以外は例3~11と同様に行った。
〔例13〕
水酸化アルミニウム粉末を水酸化マグネシウム粉末に変更した以外は、例12と同様に行った。
【0061】
<ニッケル含有表層部の解析>
上記作製した正極活物質それぞれを樹脂埋めし、粗断面を作製後、クロスセクションポリッシャー(CP)法により断面加工を行った。次に該断面のSEM画像を取得し、D50に相当する大きさの二次粒子を無作為に30個に選択した。そして、該選択した二次粒子の最長の径の長さに沿ってエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて線分析を行った。該二次粒子の両端部において、該二次粒子中のニッケルの強度の最大値に対して30%となるまでの長さを測定し、その平均値を表2に平均表層厚みとして示した。
また、上記線分析を行った際のニッケル原子の強度の最大値を示す点におけるニッケル原子のマンガン原子に対するモル比(Ni/Mn)の平均値を算出し、表2に表層Ni含有割合として示した。
【0062】
例3~13の評価用リチウムイオン二次電池の作製は例1~2と同様に行った。また、一次粒子および二次粒子の平均粒子径の測定、組成分析、評価用リチウムイオン二次電池の評価試験に関わる各種操作は全て例1~2と同様に行った。その結果を表2に示す。なお、表2の初期抵抗、耐久後抵抗増加率、耐久後容量維持率においては、例2を1.0とした場合の相対値で示した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示されるように、平均一次粒子径が4μm~8μmであり、平均二次粒子径が10μm~20μmであって、二次粒子の表層部にニッケル原子を有する正極活物質を用いた例3~10の評価用リチウムイオン二次電池は、ニッケル原子を含有しない正極活物質を用いた例2よりも、初期抵抗および耐久後抵抗増加率が低下し、耐久後容量維持率が向上した。特に、例2と例4を比較すると、平均一次粒子径および平均二次粒子径が同じであるため、二次粒子の表層部にニッケル原子が備えられることによって、初期抵抗が低減し、かつ、サイクル試験後の抵抗増加率の抑制および容量維持率の向上を実現させることが確かめられた。
【0065】
また、例4~6に示されるように、平均表層厚みが0.5μm~1μmであり、表層Ni含有割合が0.18~0.25であるとき、より一層初期抵抗および耐久後抵抗増加率が低下し、さらに耐久後容量維持率が向上することが確かめられた。
さらに、例12および例13では、ニッケル原子に加え、アルミニウム原子またはマグネシウム原子を含有した正極活物質を用いることにより、初期抵抗および耐久後抵抗増加率がさらに低下し、耐久後容量維持率がさらに向上することが確かめられた。
これらのことから、ここで開示される正極活物質によれば、初期抵抗が低く、かつ、充放電の繰り返しによる抵抗増加および容量維持率の低下を低減し得る非水電解質二次電池を提供することができることがわかる。
【0066】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10 二次粒子
12 一次粒子
20 電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極
52 正極集電体
52a 正極集電体露出部
54 正極活物質層
60 負極
62 負極集電体
62a 負極集電体露出部
64 負極活物質層
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3