(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】界面接触抵抗が低い材料、その使用、及び該材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20221209BHJP
C25D 9/08 20060101ALI20221209BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20221209BHJP
C23C 18/02 20060101ALI20221209BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20221209BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20221209BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20221209BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20221209BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D9/08
C25D5/48
C23C18/02
C25D7/00 H
C23C28/00 A
H01M50/119
H01M50/159
(21)【出願番号】P 2020501300
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2018068698
(87)【国際公開番号】W WO2019011932
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-07-09
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504448818
【氏名又は名称】ヒル・アンド・ミユラー・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】エルンスト、ビルヘルム、ホム、ベイ
(72)【発明者】
【氏名】マルセル、オニンク
(72)【発明者】
【氏名】ケン-ドミニク、フレヒトナー
(72)【発明者】
【氏名】マウリス、イェアン、ロベルト、ヤンセン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-051324(JP,A)
【文献】特開2006-294353(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0167087(US,A1)
【文献】米国特許第02512141(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-21/22
H01M 50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池又はコネクタに使用するための、界面接触抵抗が低い材料を製造する方法であって、
冷間圧延ストリップの形態で鋼基材を供給し、
前記鋼基材の片側又は両側にニッケル又はニッケル系層を設け、それにより、めっき基材を形成し、
前記めっき基材上に、水溶液由来の酸化モリブデン層を電着し、ここで、前記めっき基材は、カソードとして機能し、前記水溶液は、モリブデン塩及びアルカリ金属リン酸塩を含み、前記水溶液のpHは、4.0~6.5に調整されており、
前記酸化モリブデン層が設けられた前記めっき基材を、還元性雰囲気中でアニーリングステップに供し、それにより、還元アニーリングステップにおいて前記酸化モリブデン層中の酸化モリブデンを、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、モリブデン金属に還元するとともに、それと同時に、又は、その後、前記アニーリングステップにおいて、ニッケル及びモリブデンを含む拡散層を形成し、ここで、前記ニッケルは、前記ニッケル又はニッケル系層に由来し、前記モリブデンは、前記酸化モリブデン層に由来する、方法。
【請求項2】
前記モリブデン塩が、モリブデン酸アンモニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸塩が、リン酸二水素ナトリウムである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材上に設けられた前記ニッケル又はニッケル系層が、0.5~5μmの厚みを有し、かつ/あるいは、前記拡散層が、10~200nmの厚みを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ニッケルめっきされた鋼基材上に前記酸化モリブデン層を電着するための前記水溶液の温度が、40℃~75℃であり、かつ/あるいは
前記ニッケルめっきされた鋼基材上に前記酸化モリブデン層を電着するためのめっき時間が、5~30秒であり、かつ/あるいは
前記ニッケルめっきされた鋼基材上に前記酸化モリブデン層を電着するための電流密度が、2~25A/dm
2であり、かつ/あるいは
前記アニーリングステップの間の最高アニーリング温度が、500~1050℃であり、かつ/あるいは
アニーリング時間が、バッチアニーリングプロセスの場合は6~10時間であり、連続アニーリングプロセスの場合は10~120秒である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ニッケルめっきされた鋼基材上に前記酸化モリブデン層を電着するための前記水溶液が、
10~50g/Lの(NH
4)
6Mo
7O
24、及び/又は
20~80g/LのNaH
2PO
4
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電池を製造するプロセスが、
前記界面接触抵抗が低い材料から製造されたブランクから鋼缶を製造するための深絞り加工及び/又は壁しごき加工ステップであって、前記ブランクの、前記ニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられた側が、前記缶の内側となる深絞り加工及び/又は壁しごき加工ステップ、及び/又は、
前記界面接触抵抗が低い材料から鋼缶の開口端を覆うキャップを製造するための成形ステップであって、前記キャップの、前記ニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられた側が、前記キャップの内側となる成形ステップ
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記界面接触抵抗が低い材料が、コネクタ材料としての使用に適切な形態において提供され、前記コネクタ材料が、個々の電池を電池パックに接続するために使用され、前記コネクタ材料の、前記ニッケル-モリブデン合金層が設けられた側が、個々の電池のアノード又はカソードに接続される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電池又はコネクタに使用するための界面接触抵抗が低い材料であって、前記界面接触抵抗が低い材料は、片側にニッケル層(2b)が設けられているとともに、反対側にニッケル及びモリブデンを含む拡散層であるニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられている鋼ストリップ基材(1)を含み
、前記ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、本明細書に記載された方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pにおいて測定された場合、20mΩ・cm
-2以下である
、界面接触抵抗が低い材料。
【請求項10】
電池又はコネクタに使用するための界面接触抵抗が低い材料であって、前記界面接触抵抗が低い材料は、両側にニッケル及びモリブデンを含む拡散層であるニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられている鋼ストリップ基材(1)を含み
、前記ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、本明細書に記載された方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pにおいて測定された場合、20mΩ・cm
-2以下である
、界面接触抵抗が低い材料。
【請求項11】
前記片側又は両側のニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗が、15mΩ・cm
-2以下である、請求項9又は10に記載の界面接触抵抗が低い材料。
【請求項12】
前記片側又は両側のニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗が、10mΩ・cm
-2以下である、請求項9又は10に記載の界面接触抵抗が低い材料。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか一項に記載の界面接触抵抗が低い材料を使用して製造された電池又はコネクタ材料。
【請求項14】
缶及び/又はキャップが、請求項9~12のいずれか一項に記載の界面接触抵抗が低い材料から製造される、請求項13に記載の電池。
【請求項15】
請求項9~12のいずれか一項に記載の界面接触抵抗が低い材料から製造される、請求項13に記載のコネクタストリップ又はコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面接触抵抗が低い材料、該材料を製造する方法、及びそれから製造される電池及びコネクタ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電池及びコネクタ材料に使用される材料には、界面接触抵抗(interfacial contact resistance)(ICR)が低いことが有効である。ICRが低いほど、電池の内部損失又はコネクタにおけるオーム加熱が低くなる。
【0003】
現在、鋼ストリップは、電池又はコネクタ材料に使用される精選された材料である。鋼は比較的安価で、リサイクルが容易で、大きな変形が可能である。単三(AA)及び単四(AAA)電池等の電池の基礎は、深絞り加工され(deep-drawn)、壁しごき加工された(wall ironed)缶である。
図5は、典型的な単三電池(http://www.varta-consumer.nl/nl-nl/insights/did-you-know/2015/how-are-batteries-made)を示し、電池の構造的基礎を共同で形成する鋼缶及び(アノード)キャップを示す。
【0004】
これらの用途に一般的に使用される鋼ストリップは、Hilumin(登録商標)等の電気ニッケルめっきされた鋼ストリップである。これは、冷間圧延鋼をニッケルにより電気めっきし、拡散アニーリングすることによって製造される。HILUMINは、低い接触抵抗、及び高い耐食性を提供する。それは、アルカリ電池缶(単三、単四、単二(C)、単一(D)及び9Vを含む)並びに充電式及び空気亜鉛(ZincAir)を含むその他の全ての電池タイプで使用される。Hiluminコバルト製品は、貯蔵寿命の延長、及びICRの低減のために付加的なコバルトめっきを有する。
【0005】
これらの材料は、適切に機能し、電池の製造者及び消費者の満足のいくものであるが、さらなる改善には、Niめっきされた材料又はNi-Coめっきされた材料よりも低いICRを有する材料を必要とすることが見出された。さらに、コバルトめっき浴の使用は、プロセスのコストを増加させ、材料の製造プロセスを技術的及び物流的に、より複雑にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、現在の、Niめっきされた材料、又はNi-Coめっきされた材料よりも低い界面接触抵抗を有する材料を提供することである。
【0007】
本発明の目的はまた、現在の、Niめっきされた材料、又はNi-Coめっきされた材料よりも低い界面接触抵抗を有する、コバルトめっき層を必要としない材料を提供することである。
【0008】
1つ又は複数の目的は、鋼ストリップ基材(1)を有する電池又はコネクタに使用するための界面接触抵抗が低い材料であって、鋼ストリップ基材(1)は、両側にニッケル層(2a,2b)が設けられており、少なくとも片側にニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられており、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は20mΩ・cm-2以下である、界面接触抵抗が低い材料によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、電池又はコネクタに使用するための界面接触抵抗が低い材料は、鋼ストリップ基材(1)の片側にニッケル層(2b)が設けられているとともに、反対側にニッケル及びモリブデンを含む拡散層であるニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられていることにより製造され、ニッケルは、最初に鋼ストリップ基材上に析出されるニッケル又はニッケル系層に由来し、モリブデンは、ニッケル又はニッケル系層に析出された酸化モリブデン層の少なくとも部分的な、好ましくは完全な還元によって生じ、結果として得られるニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、本明細書に記載された方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pにおいて測定された場合、20mΩ・cm-2以下である。
【0010】
鋼ストリップ基材(1)を有する、電池又はコネクタに使用するための界面接触抵抗が低い材料は、両側にニッケル層(2a,2b)が設けられており、少なくとも片側にニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられており、その後、アニーリングステップに供される。酸化モリブデン層が設けられている片側又は両側のニッケル層は、酸化モリブデンのモリブデン金属への還元と、モリブデン金属の片側又は両側のニッケル層への拡散とにより、20mΩ・cm-2以下の界面接触抵抗を有するニッケル-モリブデン合金層に変換される。片側のニッケル層にのみ酸化モリブデン層が設けられている場合、もう片側のニッケル層は、ニッケル層のままである。両側のニッケル層に酸化モリブデン層が設けられている場合、アニーリング後に純粋なニッケル層は残らない。
【0011】
本明細書に上記の20mΩ・cm
-2の値は、以下に記載される方法を使用して測定され、200psi(=13.8bar又は1.37MPa)の圧力Pにおいて測定される。好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、この測定において10bar(=145psi又は1.0MPa)より大きいいかなる圧力P、又は5barを超えるいかなる圧力Pにおいてさえ、20mΩ・cm
-2以下である。これは、例えば、
図7における厚み0.25mmの基材に関して示されており、厚み0.25mmの基材は、P=13.8bar(200psi)において1.07の値を有し、5bar以上の全ての圧力Pにおいて5未満の値を有する。
【0012】
なお、本発明の文脈において、ニッケル-モリブデン合金層は、ニッケル-モリブデン拡散層と同一であり、NiMo層又はNiMo合金層と略される。
【0013】
好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、15mΩ・cm-2以下である。さらに好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、10mΩ・cm-2以下、又は5mΩ・cm-2以下でさえある。好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、この測定における10barより大きいいかなる圧力P、又は5barより大きいいかなる圧力Pにおいてさえ、15、10又は5mΩ・cm-2以下である。
【0014】
また、本発明は、本発明による界面接触抵抗が低い材料を使用して製造された電池又はコネクタ材料において具体化される。コネクタ材料は、より高い電圧を発生させるために、電池を電池パックに接続するために使用されてもよい。あるいは、コネクタ材料は、低い界面接触抵抗が重要である、スイッチ又はその他の電気コネクタに使用されてもよい。
【0015】
本発明は、缶及び/又はキャップが本発明による界面接触抵抗が低い材料から製造される電池においても具体化される。したがって、NiMo層が設けられた側が電池の内側にある缶及びキャップが製造される。
【0016】
第2の態様によれば、以下のステップを含む電池又はコネクタ材料の製造方法が提供される。この方法は、
冷間圧延ストリップの形態で鋼基材を供給し、
鋼基材の片側又は両側にニッケル層を設け、それにより、ニッケルめっきされた基材を形成し、
ニッケルめっきされた基材上に、水溶液由来の酸化モリブデン層を電着し、ここで、めっき基材は、カソードとして機能し、水溶液は、モリブデン塩及びアルカリ金属リン酸塩を含み、水溶液のpHは、4.0~6.5に調整されており、
酸化モリブデン層が設けられためっき基材を、還元性雰囲気中でアニーリングステップに供し、それにより、還元アニーリングステップにおいて酸化モリブデン層中の酸化モリブデンを、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、モリブデン金属に還元するとともに、それと同時に、又は、その後、アニーリングステップにおいて、ニッケル及びモリブデンを含む拡散層を形成し、ここで、ニッケルは、ニッケル又はニッケル系層に由来し、モリブデンは、酸化モリブデン層に由来することを含む。
【0017】
拡散層は、ニッケル及びモリブデンを含む。拡散層には、その他の成分(アルカリ金属リン酸塩から生じるリン酸塩又はリン)が、存在してもよい。本発明による電池又はコネクタに使用するための材料の界面接触抵抗は、本明細書に記載の方法により測定された場合、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗が、20mΩ・cm-2以下である場合に低いと見なされる。好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、15mΩ・cm-2以下である。さらに好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、10mΩ・cm-2以下、又は5mΩ・cm-2以下でさえある。好ましくは、ニッケル-モリブデン合金層の界面接触抵抗は、この測定において10barより大きいいかなる圧力P、又は5barより大きいいかなる圧力Pにおいてさえ、15、10又は5mΩ・cm-2以下である。
【0018】
金属基材は、最終製品の用途に適切な化学組成を有する鋼(例えば、(低)炭素鋼)のコイル状ストリップの形態で供給されてもよく、ニッケル層を設け、それにより、めっき基材を形成する。ニッケル層は、例えば、ワット(Watts)のニッケルめっき浴において基材上に析出させることができる。ニッケル層はいくらかの不純物を含んでもよいが、以下「ニッケル層」という用語は、析出金属が、主として、好ましくは排他的にニッケルであるめっき層を意味することを意図される。なお、通常、ニッケル層の厚みは、両側で同じではなく、これは、ほとんどの場合、異なるコーティングが使用されるためである。めっき層の厚みの選択は、材料のその後の用途に依存する。
【0019】
次いで、ニッケルめっきされた基材は、電気めっきデバイス中で上記水溶液に供され、そこでは、めっき基材がカソードとして機能し、酸化モリブデン層が設けられている。酸化モリブデン層中の酸化モリブデンは、次いで、還元アニーリングステップにおいて、モリブデン金属に還元される。還元アニーリングステップの間の高温の結果、モリブデンは、ニッケル層に拡散し、それにより、ニッケル及びモリブデンを含む拡散層が形成される。したがって、還元アニーリングステップは、拡散アニーリングステップでもある。これが、好ましい態様である。しかしながら、必要な場合には、アニーリングステップは、酸化モリブデンの還元が完了した後、拡散をさらに促進するために、延長されてもよい。好ましくは、還元性雰囲気は、水素含有雰囲気(例えば、実質的に純粋な水素又はHNX)である。
【0020】
本発明者らは、ニッケル及びモリブデンを含む拡散層が、無孔性(pore free)であり、基材の優れた保護を実現することを見出した。ニッケル層の細孔は、存在する場合には、本発明の方法を使用する結果、封止(closed)される。
【0021】
還元アニーリングステップの後、原理的には、全ての酸化モリブデンが、モリブデン金属に還元されることに留意すべきである。しかしながら、アニーリングされたストリップの周囲雰囲気への曝露の後、最も外側の表面が再酸化されてもよい。150nmの厚みの拡散層上には、20~30nmの厚みの酸化物層が存在してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明によるプロセスを実施する非限定的な例を示す図である。
【
図2】
図2は、ニッケル層上に酸化モリブデンを析出した後の表面のGDOES測定結果を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の層をアニーリングした後の表面のGDOES測定結果を示す図である。
【
図4】
図4は、拡散アニーリングの前(A)及び後(B)の層構造の概略図である。
【
図5】
図5は、電池の構造的基礎を共同で形成する鋼缶及び(アノード)キャップを含む電池の要素を示す典型的な単三電池を示す図である。
【
図6】
図6は、電池パックを製造するためのコネクタ材料の一般的な概略図である。
【
図7】
図7は、界面接触抵抗の測定のための配置を示す図である。
【
図8】
図8は、異なる基材厚を有するNiMo層のICRを示す図である。
【
図9】
図9は、Ni(i)の曲線をNiMo合金層と比較する図である。
【
図10】
図10は、Ni+Coの曲線をNiMo合金層と比較する図である。
【
図11】
図11は、Ni(破線)及びMo(実線)の濃度の拡散前の初期状態、並びに、ある程度の拡散が起こった後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
一実施形態において、モリブデン塩は、モリブデン酸アンモニウム((ΝΗ4)6Μo7O24)である。カチオンとしてアンモニウムを使用する利点は、それが熱処理の間に分解することである。その他のモリブデン塩は、表面に析出物をもたらす。例えば、モリブデン酸ナトリウムは、表面にナトリウムが存在する結果になり、望ましくないアルカリ腐食反応を引き起こす。
【0024】
一実施形態において、リン酸塩はリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)である。これは、電解液中の導電性塩及び緩衝塩の両方として機能する。緩衝液は、電解液の正しいpH値が維持されることを保証する。リン酸二水素カリウム(KH2PO4)は、技術的にも、単独で又はNaH2PO4との混合物として使用することができるが、KH2PO4は現在高価となっており、したがって、経済的には魅力的でない。
【0025】
本発明のさらなる実施形態において、基材上に設けられたニッケル層は、0.1~5μmの厚みを有する。この厚みの範囲は、還元アニーリング後の拡散層が効果的であるために十分な厚みを実現する。ニッケル層に由来するニッケルと、酸化モリブデン層の還元によって生じるモリブデンとを含む拡散層は、10~200nmの厚みを有することが好ましい。好ましい最小厚みは20nmであり、好ましい最大厚みは150nmである。好ましくは、拡散層の厚みは50~100nmである。
【0026】
一実施形態において、
ニッケルめっきされた基材上に酸化モリブデン層を電着するための水溶液の温度は、40℃~75℃であり、かつ/あるいは
ニッケルめっきされた基材上に酸化モリブデン層を電着するためのめっき時間は、5~30秒であり、かつ/あるいは
ニッケルめっきされた基材上に酸化モリブデン層を電着するための電流密度は、2~25A/dm2であり、かつ/あるいは
アニーリングステップの間の最高アニーリング温度は、500~1050℃であり、かつ/あるいは
アニーリング時間は、バッチアニーリングプロセスの場合は6~10時間であり、連続アニーリングプロセスの場合は10~120秒である。
【0027】
これらの特徴は、独立しており、別々に又は組み合わせて適用することができる。
【0028】
好ましくは、水溶液の温度は、51℃以上及び/又は69℃以下である。めっき時間は20秒以下であることが好ましい一方、酸化モリブデン層の電着ための電流密度は6A/dm2以上及び/又は22A/dm2以下であることが好ましい。さらに好ましくは、水溶液の温度は、55℃以上及び/又は65℃以下である。
【0029】
アニーリングステップの間の最高アニーリング温度に関しては、基材に応じて区別することができる。低炭素鋼基材の場合、最高アニーリング温度は、700℃、好ましくは650℃、さらに好ましくは600℃であり、それにより、鋼基材の特性に過度の影響が及ぶことを防止することが判明した。アニーリング温度の下限は、主として、アニーリング設備のレイアウトとプロセスの経済性とによってコントロールされる。温度が低いほど、所望の厚みのNi-Mo拡散層が形成するまでの時間が長くなる。
【0030】
バッチアニーリングプロセスにおけるアニーリング時間は、6~10時間、好ましくは8.5時間以下、さらに好ましくは7.5時間以下である。連続アニーリングプロセスの場合、アニーリング時間は120秒以下、好ましくは95秒以下、さらに好ましくは75秒以下、さらに一層好ましくは40秒以下である。好適な最小連続アニーリング温度は5秒、好ましくは10秒以上である。アニーリング時間とアニーリング温度との間には、ある程度の互換性が存在する。バッチアニーリング炉における8.5時間のアニーリング時間に言及する場合、これは、(コイル状の)材料の最冷点(coldest spot)が8.5時間で設定温度に達し、その後、冷却が開始されることを意味することが意図されることに留意すべきである。したがって、加熱及び冷却の全サイクルは、8.5時間よりかなり長く、その値の2倍を超えることがあり得る。
【0031】
一実施形態において、めっき基材上に酸化モリブデン層を電着するための水溶液は、
10~50g/Lの(NH4)6Mo7O24、及び/又は
20~80g/LのNaH2PO4
を含む。
【0032】
この組成は、酸化モリブデン層を効果的かつ再現可能に析出させることを可能にする。なお、30g/Lの(NH4)6Mo7O24は0.024mol/Lに相当し、50g/LのNaH2PO4は0.42mol/Lに相当する。
【0033】
好ましい実施形態において、析出された酸化モリブデン層の厚みは、100nm以下、好ましくは75nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに一層好ましくは40nm以下である。好ましくは、最小厚みは10nm以上である。
【0034】
一実施形態において、水溶液のpHは4.5以上及び/又は6以下である。好ましくは、そのpHは5.25以上及び/又は5.75以下である。
【0035】
一実施形態において、水溶液は50~70℃の温度に維持される。
【0036】
好ましい実施形態において、酸化モリブデン層を析出させるためのカソードの電流密度は、12.5A/dm2以上、好ましくは15A/dm2以上である。好ましくは、カソードの電流密度は22.5A/dm2以下である。
【0037】
好ましくは、鋼基材は炭素鋼、好ましくは低炭素鋼(low carbon steel)、極低炭素鋼(extra-low carbon steel)又はHSLA鋼である。これらの非合金(LC及びELC)鋼又はマイクロ合金(HSLA)鋼は、比較的安価な基材であり、良好な強度及び成形性を実現する。鋼は、鋳造、熱間圧延及び冷間圧延等の一般的に知られているプロセスによって製造される。低炭素鋼は、典型的には、0.05~0.15重量%のCを含み、極低炭素鋼は、典型的には、0.02~0.05重量%のCを含む。依然として非合金鋼と見なされるために、ある元素がどの程度存在してもよいかを規定するEN10020-2000に従って、炭素に加えて他の元素が存在してもよい。高強度低合金(high-strength low-alloy)(HSLA)鋼(別名マイクロ合金鋼)は、炭素鋼よりも優れた機械的特性及び/又は大気腐食に対する優れた耐性を提供するように設計されている。HSLA鋼は十分な成形性及び溶接性を実現するために、炭素含有量が低く(0.05~0.15%のC)、マンガン含有量が2.0%以下である。少量のクロム、ニッケル、モリブデン、銅、窒素、バナジウム、ニオブ、チタン及びジルコニウムが、所望の特性を達成するために、様々な組み合わせで使用される。鋼基材は、最終的な厚みが通常0.15~1.5mmとなるように冷間圧延されていることが好ましく、冷間圧延された鋼基材は、本発明に従ってニッケル層を析出させる前に、再結晶化アニーリング又は回復アニーリングされてもよいし、されなくてもよい。鋼基材は、好ましくは、コイル状ストリップの形態で供給される。
【0038】
一実施形態において、ニッケル層に由来するニッケルと、酸化モリブデン層に由来するモリブデンとを含む拡散層はまた、リン、好ましくは5~15重量%のリン、さらに好ましくは6~13重量%のリンを含む。好適な最大含有量は10重量%である。好適な最小含有量は7重量%である。リンの酸化状態は、正確には分かっていないが、リンは、電解液中のリン酸塩に由来すると考えられている。それは、依然として層中にリン酸塩として存在していてもよい。その存在は、層の腐食保護に寄与すると考えられる。
【0039】
本発明はまた、ニッケル及びモリブデンを含む拡散層が設けられている鋼ストリップ基材からなる、本発明に従って製造された界面接触抵抗が低い材料において具体化され、拡散層(すなわち、Ni-Mo拡散層)は、10~200nmの厚みを有する。好ましい最小厚みは20nmであり、好ましい最大厚みは150nmである。好ましくは、Ni-Mo拡散層の厚みは50~100nmである。この厚みは、例えば、GDOESによって決定可能である。層の厚みは、Mo曲線の半値を(表面効果を無視して)位置決定することによって決定される。
図2における厚み(アニーリング前)は、60nmのNi-Mo層の厚みであり、
図3では80nmのMo合金層である。なお、
図3は、ニッケル層へのMoの拡散の結果として、
図3のMoシグナルのテール(tail)が、
図2よりもはるかに顕著であることを示す。
【0040】
好ましい実施形態において、電池を製造するプロセスは、
界面接触抵抗が低い材料から製造されたブランクから鋼缶を製造するための深絞り加工及び/又は壁しごき加工ステップであって、ブランクの、ニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられた側が、缶の内側となる深絞り加工及び/又は壁しごき加工ステップ、及び/又は
界面接触抵抗が低い材料から鋼缶の開口端を覆うキャップを製造するための成形ステップであって、キャップの、ニッケル-モリブデン合金層(3)が設けられた側が、キャップの内側となる成形ステップ
を含む。
【0041】
一実施形態において、界面接触抵抗が低い材料は、コネクタ材料としての使用に適切な形態において提供され、コネクタ材料は、個々の電池を電池パックに接続するために使用され、コネクタ材料のニッケル-モリブデン合金層が設けられた側は、個々の電池のアノード又はカソードに接続される。
【実施例】
【0042】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【0043】
個々の(various)ニッケル層のために従来のワットのめっき浴を使用する。ワットの電解液は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を組み合わせる。pHは、3.5~4.2(目標3.7)に維持され、浴の温度は、60~65℃である。硫酸ニッケルは、ほとんどのニッケルイオンの供給源であり、一般に150~300g/Lの範囲に維持される。硫酸ニッケルは、最も安価なニッケル塩であり、硫酸アニオンは、析出物の特性にほとんど影響しない。塩化ニッケルは、めっき浴の導電性を改善する。典型的な使用範囲は30~150g/Lである。ホウ酸緩衝液は、カソードフィルム(cathode film)の水素イオン濃度(pH)を緩衝する。この緩衝作用がなければ、高電流密度領域(higher-current-density regions)におけるカソードフィルムのpHは、非常に急速に6.0を超え、水酸化ニッケルが、水素とともに沈殿、共析出し、緑色の小塊(nodulation)又は燃焼した(burned)析出物が生じる。
【0044】
30g/Lの(ΝΗ4)6ΜO7O24(0.024mol/L)及び50g/LのNaH2PO4(0.42mol/L)からなる、pH5.5の水溶液を調整し、60℃に維持した。酸化モリブデン層を、20A/dm2の電流密度並びに15秒及び10秒のめっき時間を使用して、個々の(different)ニッケルめっきされた低炭素鋼ストリップ上に析出させた。次いで、この材料をバッチアニーリング炉において、還元性水素雰囲気で7.3時間アニーリングした。得られたNi-Mo拡散層は、コーティングされた基材の表面に約150nmの厚みを有する。
【0045】
上記条件を使用した実験は、めっき時間に析出したMoの量に依存する以下の線形性を生じる(アニーリング後に、HCl(1:1)中で基材の層を溶解した後、原子吸光分光法を使用して測定した)。
【0046】
【0047】
図1は、本発明によるプロセスを実施する非限定的な例を示す。熱間圧延された出発製品を酸洗してストリップから酸化物を除去し、表面を洗浄する。酸洗後、ストリップを冷間圧延する。使用される鋼種はDC04(EN10139)である。めっきステップでは、様々な層が電着される。アニーリングステップでは、拡散アニーリングが実施される。冷間圧延されたコイルを、冷間圧延されたコイルのサプライヤから購入する場合、冷間圧延は、当然、他の場所で実施されてもよい。
【0048】
図2は、ニッケル層上に酸化モリブデンを析出させた後の表面のGDOES測定結果を示す。X軸は厚み(nm)を示し、Y軸は濃度(重量%)を示す。なお、炭素及び硫黄の値は、実際には、提示されている値の1/10である。ニッケル層の上に酸化モリブデンの層がはっきりと分かる。ニッケル層は2μm(すなわち2000nm)であるのに対し、酸化モリブデン層は約60nmである
【0049】
図3は、
図2の層をアニーリングした後の表面のGDOES測定結果を示す。なお、炭素及び硫黄の値は、実際には、提示されている値の1/10である。ニッケル層の上のはっきりと識別可能な酸化モリブデン層は消失しており、ニッケル及びモリブデンを含む拡散層が現れている。表面の層には、依然としてある程度の酸素が存在するが、これは、表面の再酸化とリン酸塩の存在とに関連すると考えられ、金属モリブデンに還元された酸化モリブデンには関連しないと考えられる。
【0050】
図4は、拡散アニーリングの前(A)及び後(B)の層構造の概略図を示す。この例では、鋼基材1は、両側にニッケル層2a及び2bが設けられている。両側のニッケル層の厚みは異なっていてもよい。通常、界面接触抵抗が低い材料を、電池において使用するために缶へと深絞り加工した後に、缶の外側になるニッケル層(2b)は、缶の内側になるニッケル層(2a)よりも厚い。その後、酸化モリブデン層3がニッケル層2a上に設けられる。
【0051】
拡散アニーリング後(B)、層2bは、おそらく、鋼基材及びニッケル層2bの間の界面において鉄及びニッケルのわずかな相互拡散を伴うものの、実質的には変化していないが、酸化モリブデン層は、金属モリブデンに還元され、ニッケル及びモリブデンの相互拡散が起こり、それにより、鋼基材上にNiMo合金層が形成される。酸化モリブデン層3が、ニッケル層2a及び2bの両方に設けられている場合、明らかに、メカニズムは、両側に関して同等であろう。その場合、得られる材料は、本質的に、基材の両側にNiMo合金層が設けられている鋼基材からなるであろう。最初は、全てのモリブデンがニッケル層(2a)の上に位置し、アニーリングの間にモリブデンはニッケル層に拡散する。したがって、
図2と
図3とを比較すると、はっきりと分かるように、拡散層を通じて鋼基材に移動すると、モリブデンの濃度は低下する。ニッケル層が、モリブデン層と比較して非常に厚い場合、及び/又はアニーリング時間が、それほど長くない場合、及び/又はアニーリング温度が、それほど高くない場合、鋼基材付近のモリブデン濃度は、実際には、非常に低くなる。その結果、
図4におけるアニーリング後(B)の状態の概略的な表示は、鋼基材の上にNiMo合金層(3’)が、存在することを示し、モリブデンが、ニッケル層に拡散したことを意味する。元のニッケル層及びモリブデン層の相対的な厚みと、アニーリング時間と、アニーリング温度とに依存して、鋼基材付近の元のニッケル層中のモリブデンの濃度は無視できる場合がある。その結果、事実上、アニーリング後の状態は、鋼基材に、ニッケル層が設けられており、そのニッケル層が、おそらく、鋼基材及びニッケル層の間の界面において鉄及びニッケルのわずかな相互拡散を伴うものの、実質的には変化せず、この実質的には変化していないニッケル層の上に、ニッケル-モリブデン拡散層が設けられており、ここで、
図3に示されるように、また、
図11に概略的に示されるように、NiMo合金層の表面から鋼基材に向かって移動すると、モリブデンの濃度が減少し、ニッケルの濃度が増加する、という状態である。
図11は、Ni(破線)及びMo(実線)の濃度の、拡散前の初期状態、及び、ある程度の拡散が起こった後の状態を示す。完全なMo層(左)及び完全なNi層(中央)が、鋼基材(Fe、右)上に析出している。一定の温度において一定の時間アニーリングすると、NiがMo層に拡散し、MoがNi層に拡散した拡散プロファイルが確立される(一方の元素の他方への拡散速度の差v.v.は無視されている)。初期のMo層は、初期のNi層よりも薄いため、Moは、Ni層の厚み全体には浸透せず、Fe基材に最も近いNi層には、実質的にMoが含まれないままであるが、それでも、これは、
図4Bの層3’の一部と見なされる。
図4A及びBに示されるように、層2及び層3に加えて層3’も
図11に示される。アニーリングが、十分に長い時間にわたって十分に高い温度である場合、Ni-Fe界面に到達するMoが、存在する場合がある。
【0052】
図5は、電池の構造的基礎を共同で形成する鋼缶及び(アノード)キャップを含む電池の要素を示す典型的な単三電池を示す。
【0053】
図6は、電池パックを製造するためのコネクタ材料の一般的な概略図である。
【0054】
界面接触抵抗(ICR)の決定方法
図7は、界面接触抵抗の測定のための配置を示す。この配置は、燃料電池スタックの界面接触抵抗を含む全ての電気の直流(DC)抵抗の測定にも使用される(Properties of Molded Graphite Bi-Polar Plates for PEM Fuel Cell Stacks,F.Barbir,J.Braun and J.Neutzler,Journal of New Materials for Electrochemical Systems 2,197-200(1999))。
【0055】
界面接触抵抗(ICR)試験は、オームの法則R=V/Iに基づく。ここで、Rは抵抗(オーム)、Vは電位差(ボルト)、Iは電流(アンペア)である。10アンペアの電流をサンプルに流し、電位を測定し、次いで、この電位を使用して、サンプルの表面領域にわたる抵抗を計算することができる。バッキングプレート(backing plate)として、ガス拡散層(GDL)をサンプル(A)の両側に使用する。以下に示す試験では、東レペーパーTGP-H-120をGDLとして使用した。これは、触媒のバッキング層(backing layer)としての使用に適切な炭素繊維複合紙である。総厚は370um(ミクロン)である。サンプルを最初に2つのGDLの間に配置し、次にGDL及びサンプルを2つの金めっきされた銅の圧力プレート(pressure plate)の間に配置することにより、特定の圧力において電位を測定することができる。サンプルに適用される圧力の大きさは、サンプルのサイズに依存し、新しい圧力値の度に30秒の間隔を空けた後に、電流を測定する。金めっきされた銅の圧力プレートの寸法は、圧力がサンプルにかかるために重要ではないが、本発明の試験では、4x4cm2又は2x2.5cm2の長方形のプレートである。圧力Pの基準値は、200psi(=13.8bar、又は1.37MPa)である。サンプルAの試験の前に、2つのGDLのみ、かつ、サンプルが存在しない状態において、数回の測定を実施し、これらの測定の平均値をサンプルで実施された測定結果から差し引くことにより、残った値はサンプルのみのICR値である。
【0056】
ICRの結果
0.25mmの低炭素の冷間圧延鋼ストリップ(DC04(EN10139)、76%CR、610℃においてアニーリング)の両側に1.8μmのニッケルをコーティングし、片側に77.5mg/m2のモリブデンをコーティングした(サンプル330)。0.61mmの低炭素の冷間圧延鋼ストリップ(DC04(EN10139)、2回圧延CR1=78%、再結晶化アニーリング、CR2=55%、610℃においてアニーリング)の両側に3.2μmのニッケルをコーティングし、50mg/m2のモリブデンをコーティングした(サンプル257)。Mo含有量はアニーリング後に決定されるが、Moは消失しないため、アニーリングの前後で量は同じである。全てのサンプルは調質圧延された。
【0057】
【0058】
図8は、異なる基材の厚みを有するNiMo層のICRを示す。基材の影響により、基材の厚みの増加とともに、ICRの測定結果が増加することが分かる。しかしながら、電池及びコネクタ材料に適用される基材の厚みでは、200psiにおける値は、Ni及びNi+Coコーティングに関して表に示されている最低値を大きく下回る。
【0059】
図9において、Ni(i)の曲線をNiMo合金層と比較する。破線の曲線(330)に関するICR値がはるかに低いことが容易に分かる。
【0060】
図10において、Ni+Coの曲線をNiMo合金層と比較する。「330」とラベルされた曲線の値は、Ni+Coに関する最も低い曲線よりもはるかに低いことが容易に分かる。したがって、Ni+Co層でさえも、本発明の材料は性能を凌駕する。
【0061】
深絞り加工される材料である電池缶の材料に関して実施された試験では、ICRがNi+Co層及びNi層よりも同様の一貫した改善を示したことが明らかとなった。