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特許7191089被膜拘縮の防止又は軽減のための処置に使用するための金粒子
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  • 特許-被膜拘縮の防止又は軽減のための処置に使用するための金粒子 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】被膜拘縮の防止又は軽減のための処置に使用するための金粒子
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/12 20060101AFI20221209BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20221209BHJP
   A61K 33/242 20190101ALI20221209BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221209BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20221209BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221209BHJP
   A61K 49/06 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
A61F2/12
A61F2/08
A61K33/242
A61P37/06
A61P43/00
A61K41/00
A61K9/14
A61K49/06
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020507743
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2018059527
(87)【国際公開番号】W WO2018192852
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】17167655.4
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519375871
【氏名又は名称】セーフ、インプラント、テクノロジー、アンパルトゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】SAFE IMPLANT TECHNOLOGY APS
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ゴーム、ダンシャー
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0194852(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0254179(US,A1)
【文献】特表2008-504885(JP,A)
【文献】特表2009-526625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0234945(US,A1)
【文献】特表2010-518980(JP,A)
【文献】特表2008-506470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/12
A61F 2/08
A61K 33/242
A61P 37/06
A61P 43/00
A61K 41/00
A61K 9/14
A61K 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜拘縮を防止又は軽減するための処置に使用するための金粒子であって、
前記金粒子が、20~100μmの範囲、好ましくは20~40μmの範囲の断面を有し、かつ、99.00%w/w、好ましくは99.99%w/wより高い純度を有し、
前記金粒子が、インプラントの外側の表面の一部であり、かつ、200ミクロンの平均距離で前記インプラント表面にわたって分布しており、かつ、前記金粒子のうち隣り合う金粒子間の距離が、500ミクロンを超えない、金粒子。
【請求項2】
被膜拘縮を防止又は軽減するための予防処置に使用するための、請求項1に記載の金粒子。
【請求項3】
前記金粒子が、中実又は中空であり、球状の粒子状、ビーズ状、薄片状、棒状、立方形状、多角形状、糸状、らせん状又は金糸のミクロンボール状の形状を有する、被膜拘縮を防止又は軽減するための処置に使用するための請求項1又は2に記載の金粒子。
【請求項4】
前記インプラントが移植されたヒトにおいて、被膜拘縮を防止又は軽減するための処置に使用するための請求項1~3のいずれか一項に記載の金粒子であって、前記インプラントが、乳房、腰部、臀部、三頭筋及び/若しくは二頭筋、胸筋、顎、ふくらはぎ、胸部、前腕部、肩部又は腹部のインプラントから選択される、金粒子
【請求項5】
前記インプラントがシリコーンインプラントである、被膜拘縮を防止又は軽減するための処置に使用するための請求項4に記載の金粒子。
【請求項6】
効果的な量の前記金粒子が、患者の免疫細胞と接触可能なインプラント周囲の組織に投与される、被膜拘縮を防止又は軽減するための処置に使用するための請求項1~5のいずれか一項に記載の金粒子。
【請求項7】
金でコーティングされたインプラントであって、
前記金のコーティングが、20~1000μmの範囲、好ましくは20~100μmの範囲、さらに好ましくは20~40μmの範囲の断面を有し、かつ、99.00%w/w、好ましくは99.99%w/wより高い純度を有する金粒子を含み、
前記金粒子が、前記インプラントの外側の表面の一部であり、かつ、200ミクロンの平均距離で前記インプラント表面にわたって分布しており、かつ、前記金粒子のうち隣り合う金粒子間の距離が、500ミクロンを超えない、インプラント。
【請求項8】
前記インプラントがシリコーンインプラントである、請求項7に記載の金でコーティングされたインプラント。
【請求項9】
請求項7に記載の金でコーティングされたインプラントを製造する方法であって、以下の工程:
a.ヒト又は動物の身体に使用するためのインプラントを準備する工程;
b.生理的に許容可能なコーティング溶液に前記インプラントを浸す工程であって、前記生理的に許容可能なコーティング溶液の組成が、ヒアルロン酸と、前記生理的に許容可能なコーティング溶液に対して1g/L以上の濃度の、20~100μmの範囲、好ましくは20~40μmの範囲の断面を有し、かつ、99.00%w/w、好ましくは99.99%w/wより高い純度を有する金粒子とを含む工程;
c.こうして金でコーティングされたインプラントを前記溶液から回収する工程;
d.前記金でコーティングされたインプラントを乾燥させる工程
を含む方法。
【請求項10】
被膜拘縮を防止又は軽減するための金製剤であって、
前記金製剤が、20~100μmの範囲の断面を有し、かつ、99.00%w/wより高い純度を有する金粒子を含み、
前記金製剤が、インプラントを有する対象に投与される、金製剤。
【請求項11】
前記金粒子が20~40μmの範囲の断面を有する、請求項10に記載の金製剤。
【請求項12】
前記金粒子が99.99%w/wより高い純度を有する、請求項10又は11に記載の金製剤。
【請求項13】
前記金製剤が被膜拘縮を防止又は軽減するための予防処置に使用される、請求項10~12のいずれか一項に記載の金製剤。
【請求項14】
前記金粒子が、中実又は中空であり、球状の粒子状、ビーズ状、薄片状、棒状、立方形状、多角形状、糸状、らせん状又は金糸のミクロンボール状の形状を有する、請求項10~13のいずれか一項に記載の金製剤。
【請求項15】
前記対象が、乳房、腰部、臀部、三頭筋及び/若しくは二頭筋、胸筋、顎、ふくらはぎ、胸部、前腕部、肩部又は腹部のインプラントを有するヒトである、請求項10~14のいずれか一項に記載の金製剤。
【請求項16】
前記インプラントがシリコーンインプラントである、請求項10~15のいずれか一項に記載の金製剤。
【請求項17】
効果的な量の前記金粒子が、前記対象の免疫細胞と接触可能な前記インプラントの周囲の組織へ投与される、請求項10~16のいずれか一項に記載の金製剤
【請求項18】
前記対象に前記金製剤を投与する前又は後に、37℃を超えて42℃未満の温度まで前記金粒子が加熱され、それによって、前記金粒子から放出される金イオンの量を増加させる、請求項10~17のいずれか一項に記載の金製剤。
【請求項19】
前記加熱が、3~300GHzの範囲の周波数を有する電磁波によって実施される、請求項18に記載の金製剤。
【請求項20】
前記金粒子が身体に移植された後に、前記加熱が磁気共鳴によって実施される、請求項18に記載の金製剤。
【請求項21】
前記金粒子が、前記インプラントの外側の表面の一部であり、かつ、200ミクロンの平均距離で前記インプラント表面にわたって分布している、請求項10に記載の金製剤。
【請求項22】
前記金粒子のうち隣り合う金粒子間の距離が、500ミクロンを超えない、請求項21に記載の金製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属金と、インプラントに埋め込まれた金又はインプラントの表面にコーティングされた金と、それらの使用とに関する。さらに、本発明は、金でコーティングされたインプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト又は動物の身体へのシリコーンインプラントの移植後、線維性被膜、すなわち、瘢痕組織が、インプラントシェルの周囲に生成する。被膜拘縮は、主に乳房インプラント等のシリコーンインプラントのある患者において知られる症状であるが、他の身体部位における同様のインプラントにおいても発症することがある。被膜拘縮の発症は、ヒトの身体に外科的に挿入された異物(例えば、乳房インプラント、人工ペースメーカー、整形外科用人工装具及び歯科インプラント等)に対する免疫系の応答に起因する、きつく編まれたコラーゲン線維(tightly-woven collagen fibers)の形成に続いて起こるようである。
【0003】
被膜拘縮自体は、コラーゲン線維の被膜が収縮し、堅く締まって、インプラントを圧迫することで発症すると考えられている。それは、痛み及び不快感を伴うこともあり、インプラント及び侵襲された身体部位の外観を歪めることもある医学的な合併症である。例えば、乳房は、硬くなり、触れると痛みを伴うこともあり、そして、不自然に見える。
【0004】
被膜拘縮は、複数現象の関係する(multi-factual)線維形成過程であり、その正確な原因は不明である。被膜拘縮の原因は不明であるが、その発生によく見られる因子としては、細菌汚染、乳房インプラントシェルの破損、シリコーンゲルの充填物の漏出及び血腫が挙げられる。
【0005】
さらに、被膜拘縮は、患者の身体的統合性及び健康を守る免疫系の結果である可能性もあるし、最初の発症に対する必要な修正手術(the requisite corrective surgery for the initial incidence)の後でさえも再発する可能性もある。
【0006】
被膜拘縮を軽減する外科的な移植法としては、筋下への乳房インプラントの配置、テクスチャードタイプのインプラント又はポリウレタンコーティングのインプラントの使用、インプラントの限定された操作、挿入前の胸壁の皮膚(chest wall skin)への最小限の接触、及び三種抗生物質溶液による手術部位の洗浄が挙げられる。被膜拘縮の修正は、被膜及び乳房インプラントの外科的な除去を必要とする可能性がある。硬化した被膜の処置にかつては一般的な手技であった、非外科的な被膜切開術(closed capsultomy)(外部操作による被膜の破壊)は、実施されておらず、それは、乳房インプラントを破壊する可能性があるためである。ごく最近は、自家脂肪移植が、試みられている。
【0007】
手術をしないで被膜を処置する方法としては、マッサージ、体外式超音波、ロイコトリエン経路阻害剤(例えば、アコレート、シングレア等)による処置、及びパルス電磁場療法(pulsed electromagnetic field therapy)が挙げられる。
【0008】
上記の被膜拘縮を防止又は軽減する方法は、大抵は、僅かな効果であり、痛みを伴い、高価であり、そして、被膜拘縮が除去手術の後に頻繁に再発する。このため、増大用インプラント(augmentation implants)の外科的な挿入の後に被膜拘縮形成を防止又は軽減する安全な解決策を見出す必要性が残されている。
【発明の概要】
【0009】
この背景において、被膜拘縮を防止又は軽減するために、適用しやすく、既知の方法よりも優れた、安全な選択肢を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
本発明の第1の態様において、この目的及びさらなる目的は、被膜拘縮の防止又は軽減における処置又は予防処置のために使用するための金粒子であって、20~100μmの範囲、好ましくは20~40μmの範囲の断面を有し、99.00%w/w、好ましくは99.99%w/wより高い純度を有する金粒子を提供することにより達成される。本発明によれば、金粒子が、ヒトに移植された際、弱い局所免疫応答を低減及び維持し、それによって、形成される肉芽組織の量を抑制し、金インプラント(gold implant)の近傍において宿主の被膜拘縮の発症リスクを低下させる手段として役立つことができる。例えば、シリコーンインプラント等のインプラントの近傍に金粒子が移植されると、局所のマクロファージは金属金に付着する。炎症細胞は、極薄層(ultra thin layer)であるデソルーション膜(dissolution membrane)を金属表面上に産生する。デソルーション膜の内部で、マクロファージは、金インプラントの表面の化学的環境を制御して、金イオンのデソルサイトーシス(dissolucytosis)を促進することができる。デソルーション膜は、金粒子の表面のデソルーション(dissolution)に必須の厚さ10~100nmのバイオレイヤーの膜(bio-layer membrane)である。デソルーション膜の内部におけるデソルサイトーシスは、シアン化物イオンを放出して、それらに近接する酸素圧及びpHを変化させるマクロファージの能力によってほぼ間違いなく引き起こされている(Larsen A,Stoltenberg M.& Danscher,G(2007)In vitro liberation of charged gold atoms.Autometallographic tracing of gold ions released by macrophages grown on metallic gold surfaces 128,1-6 Histochem Cell Biol.;Ferre N,Claria,J(2006)New insight into the regulation of liver inflammation and oxidative stress.Mini Rev.Med.Chem.6
,1321-1330.)。炎症細胞、すなわち、マクロファージは、デソルーション膜内部及びそのすぐ周囲にシアン化物を放出して、以下の化学工程:
4Au+8CN+2HO+O=4[Au(CN)+4OH
が起きる。
【0011】
錯イオンである第一金シアン化合物Au(CN) は、比較的安定なイオンであり、骨膜組織において炎症細胞のリソソームの酵素を阻害し、in situで炎症細胞の数を減少させる。驚くことに、本発明者によって、局所の免疫応答を抑制する作用を有する金インプラントが、肉芽組織を防止する又は減少させることにも寄与していることが見出された。
【0012】
以下に記載の図面は、詳細な説明を補助するものである。本発明を、以下の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、(a)インプラントに埋め込まれた金粒子を含むインプラント、(b)インプラントの表面に埋め込まれた金粒子を含むインプラント、あるいは、(c)インプラントの表面上にコーティングされた金粒子を含むインプラントの概要図である。
図2図2は、インプラント表面に埋め込まれた金粒子を含むインプラント(b)の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
金インプラントの断面は、20μmよりも大きい必要がある。そのような断面によって、インプラントが宿主の免疫系のマクロファージ又は他の免疫細胞によって貪食されないだけの必要な大きさを確保するためである。金インプラントが大きすぎる場合、金イオンの生体内放出に利用可能な表面積は大幅に減少する。また、より大きな金インプラントの使用は、費用効率が高くない。この態様において、薄片(flake)等の大きな表面積を伴う金インプラント、又は球状の外観を有する金インプラントを設計することが好ましい。金インプラントは、被膜拘縮を防止又は軽減するための処置に使用される際、例えば、球状の粒子状、ビーズ状、薄片状、棒状(rod)、立方形状、多角形状、糸状、金糸のミクロンボール状又はらせん状等のいずれの形状であってもよいし、インプラントは、中実又は中空であってもよい。20~100μmの範囲である断面は、断面が20μm以上及び100μm以下である限りは、いずれのサイズであってもよいと理解される。100μmを超える金粒子のサイズは、費用効率が高くなく、より大きなサイズの金粒子は、重すぎてコーティング溶液又は他の投与手段に容易に分散できない可能性があり、そのために、インプラントを正確に移送することができない可能性がある。20μmを超える断面のいずれのサイズの金粒子も、炎症を抑制する所望の作用を有するであろう。
【0015】
好ましい実施形態において、金インプラントの断面は、20~40ミクロンの範囲である。そのようなサイズのインプラントが場合によっては好ましい。小さいサイズはより大きな粒子と比較して、より容易な拡散、及び、重量基準でより大きな表面積を可能とするためである。また、インプラントを小さいサイズに維持することによって、金の量がより少なくなるため、インプラント1個あたりの価格は、低くなる。
【0016】
本発明の使用に適した金は、99.00%w/wより高い純度を有する純金であり、最も好ましい金は約99.99%w/wより高い純度を有する金である。金塩による処置に起因する金イオンへの多量の全身曝露によって引き起こされる副作用のために、数十年にわたって西欧諸国における金製剤の使用は大幅に減少している。
【0017】
マクロファージによって金属金から放出される金イオンは、金が移植された位置から約500ミクロンより遠くには広がらないことが、新しい研究によって今回示された。したがって、金が豊富なプロテーゼであるインプラントは、プロテーゼであるインプラントと直接接触している組織にのみ金イオンへの曝露を引き起こし、結果として、より安全に使用することができる。
【0018】
本発明の実施形態の、金インプラント又は金粒子は、いくつかの異なる方法によって宿主に移植又は配置されてもよい。例えば、手術中に、本発明の1つ以上の金インプラント又は金インプラントは、インプラントの近傍に移植又は配置されてもよい。
【0019】
本発明の実施形態において、金粒子は、インプラントの近傍に移植可能である。そのようなインプラントは、シリコーンインプラント、液体及び固体両方の生理食塩水インプラント又は複合インプラントであってもよく、使用されるインプラントは、好ましくは、乳房、腰部(hip)、臀部(buttock)、三頭筋及び/若しくは二頭筋、胸筋(pectoral)、顎、ふくらはぎ、胸部(chest)、前腕部、肩部又は腹部のインプラントから選択される。好ましい実施形態において、インプラントはシリコーンインプラントである。
【0020】
本発明の別の態様において、本発明の金粒子は、金粒子がインプラント表面の一部となるように、インプラントの壁に埋め込まれる。インプラント表面の金属金は、約200ミクロンの平均距離でインプラント表面にわたって分布していてもよい。すなわち、表面には、被膜(capsule)の最も外側の層に埋め込まれた金粒子が点在していてもよい。
【0021】
金粒子は、例えば、材料を含む金粒子の薄層(例えば、インプラントと同じ材料に分散された金等)の添加によってインプラントの表面に適用される。そのようにして、相当量の金粒子が、インプラントの外側の表面の一部となるであろう。例えば、ポリウレタンを原料とするインプラントの最も外側の層の形状構造は、インプラントのサイズに対する表面積の増加のために、宿主組織と直接接触する金粒子の量を増加させることができる。
【0022】
金粒子の薄層は、生理的に許容可能な溶液にインプラントを漬ける(dipping)、又は浸す(submerging)ことによって、インプラント表面に適用及び/又は付着される。例えば、その溶液は、ヒアルロン酸及び0.1g/L以上の本発明の金粒子(それは、約7,200,000個の金粒子に相当する)を含む。好ましくは、金粒子の濃度は、5g/Lである。金粒子は、99.00%w/w、好ましくは99.99%w/wより高い純度であり、20~100ミクロンのサイズである。金粒子の濃度が0.1g/Lであることにより、コーティング溶液1立方ミリメートルあたり約36個の金粒子が存在することになる。本発明の金粒子を含むコーティング溶液に漬けた後、金でコーティングされたインプラントは、溶液から回収されて、乾燥される。金でコーティングされたインプラントは、使用又はヒトの身体に直接移植されるまで、無菌包装で保存することができる。
【0023】
被膜拘縮を防止する方法において、移植の前又は後に、ラジオ波磁場の電磁誘導により、インプラントの金粒子の温度を上昇させることによって、in situで金粒子から放出される金イオンの量を増加させることが可能である。振動磁場における金の誘導加熱は、金粒子の温度上昇を達成する非侵襲的な方法である。結果として、本発明の金粒子又は金でコーティングされたインプラントを、ヒトの身体に金でコーティングされたインプラントを移植する直前又は直後に、37℃を超えて42℃未満、好ましくは39℃まで、3~300GHzの範囲の周波数を有する電磁波によって加熱することができる。
【0024】
金粒子の温度上昇によって、移植後のマクロファージ活性は増強され、それによって、金粒子からの金イオンの放出は増加する。
【0025】
一実施形態において、加熱は、磁気共鳴映像法(MRI:magnetic resonance imaging)を使用することによって実施することができる。MRIを使用する場合、非侵襲的な方法で生体組織における温度分布を視覚化可能である。温度感受性の化学シフトのマッピングによって、相対的な温度分布の画像を作成する方法は、当業者に知られている。このようにして、39℃まで又は37℃を超えて42℃未満のいずれかの希望温度までの温度変化を達成する適切な周波数を決定することができる。
【0026】
発明の詳細な説明
ここに使用される場合、金又は金粒子という語は、金属の純金、すなわち、99.00%w/w、好ましくは99.99%w/wより高い金含有率を有する金属の純金として理解されるものであり、媒体(medium)中の金イオン等の溶質でも金合金でもない。インプラント(例えば、シリコーンインプラント等)の近傍、表面上又は表面内に、本発明の金粒子を導入することによって、金のデソルサイトーシス、すなわち、局所組織への金イオンの放出によって、局所の免疫応答が抑制され、それにより、宿主のインプラント周囲の被膜拘縮が抑制される。被膜拘縮の阻害/防止は、肉芽組織の局所的な減少と、金イオンの生体内放出(biorelease)によって得られる免疫抑制作用とに起因し得る。金属金の抗被膜拘縮特性が効率的であるためのデソルサイトーシスの必要性のために、金粒子は、インプラントの近傍に/隣接して又は埋め込まれて配置されるか、表面上に直接導入されなければならない。例えば、インプラントは、身体にインプラントを設置する直前に無菌の金粒子を振り掛けることが可能である。マクロファージの近接容易性(accessibility)が、プロテーゼのすぐ周囲に、すなわち、インプラント組織域(implant tissue zone)にデソルサイトーシスによる金イオンの放出を可能にするように、インプラントは投与されなければならない。
【0027】
本発明の一実施形態において、金粒子は、インプラント表面に埋め込まれて、それによって、インプラント表面の一部を構成する。金粒子は、インプラント表面にランダム又はあるパターンで分布していてもよい。金粒子同士の距離は、500ミクロンを超えてはならない。
【0028】
金粒子は、インプラントの挿入前にインプラント周囲の組織に適用可能である。一度の処置で十分であり、それは、金が、生涯の間、配置された患者の組織に残存するからである。金粒子は、インプラントとともに提供することも可能であり、すなわち、インプラントの表面に埋め込まれるか、付着されるかである。
【0029】
一度、装置が身体に移植されると、金粒子は、水性環境への曝露によって緩やかに流出するが、インプラント周囲の狭い区域に留まり、それによって、インプラント周囲に金のオーラ(gold aura)を生み出す。
【0030】
大きな表面積を有する金属金が存在することで、金イオンは、より強力な方法でインプラント組織域に放出され、インプラント周囲の肉芽組織を抑制し、インプラント組織域に生じる可能性がある炎症を長期間、すなわち、大抵はその人が生きている限り阻害する。
【0031】
以下に、本発明の効果を裏付ける実験的な試験を記載する。
【実施例
【0032】
実験を、動物モデル「ラットにおける頸部血管への異所性心臓移植」を使用して10匹の動物に実施した。動物モデルは、Heron et al.によって1971年に最初に記載され[Heron I.,A technique for accessory cervical heart transplantation in rabbits and rats,Acta Pathol.Microbiol.Scand.,[A]1971;79(4):366-372]、後に多少の修正が、Lim et al.によって追加された[Lim S M,Li S Q.,Accessory heart graft as a surgical model in studies of transplantation immunology,Ann Acad.Med.,Singapore 1991;20(4):478-483]。それは、移植免疫の生体内研究における十分に確立された外科的モデルであり、この20年広範に使用されている。
【0033】
本発明に従って、ここに開示するように、金粒子と同等の重量を有する固体球よりも大きな表面積、及び40~250μmの1つ以上の断面を有する金粒子100mgを、手術毎に使用した。金粒子を、移植心臓に注いだ直後に、切り口を閉じた。動物は5~6日生存した後、移植心臓は停止した。肉芽組織に取り囲まれた移植心臓の断面を解析すると、心臓に近い部分の皮膚のほとんど全ての細胞は、放出された金イオンを有していた一方で、心臓の反対側では、肉芽組織は、細胞への金の集積を完全に欠いていた。金処理された肉芽組織は、明白に増殖阻害されていたことも観察された。このことは、移植を受けた10匹の動物全てに当てはまることが見出された。
図1a
図1b
図1c
図2