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特許7191092中性条件における電気化学的過酸化水素製造のための高選択性N及びOドープ炭素
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】中性条件における電気化学的過酸化水素製造のための高選択性N及びOドープ炭素
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20221209BHJP
   C01B 15/027 20060101ALI20221209BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20221209BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20221209BHJP
   C25B 1/30 20060101ALI20221209BHJP
   C25B 11/073 20210101ALI20221209BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
B01J27/24 M
C01B15/027
B01J37/08
B01J35/10
C25B1/30
C25B11/073
C02F1/461 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020511221
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018047739
(87)【国際公開番号】W WO2019040738
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】62/549,256
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516231051
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、グワァンシュー
(72)【発明者】
【氏名】ルー、チギ
(72)【発明者】
【氏名】クイ、イー
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0255822(US,A1)
【文献】特開2015-007291(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03047905(EP,A1)
【文献】特表2016-510367(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02512818(GB,A)
【文献】国際公開第2015/029076(WO,A1)
【文献】LIU, Zhenyu et al.,One-step scalable preparation of N-doped nanoporous carbon as high-performance electrocatalysts for oxygen reduction reaction,Nano Res.,ドイツ,Tsinghua University Press and Springer-Verlag Berlin Heidelberg,2013年03月25日,Vol. 6,pp. 293-301,DOI: 10.1007/s12274-013-0307-9
【文献】PERAZZOLO, V. et al.,Nitrogen and sulfur doped mesoporous carbon as metal-free electrocatalysts for the in situ production of hydrogen peroxide ,Carbon,英国,Elsevier Ltd.,2015年09月04日,Vol. 95,pp. 949-963,DOI: 10.1016/j.carbon.2015.09.002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C02F 1/46-1/48
C25B 1/00-15/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが6~8のpH中性溶液中で過酸化水素を製造する方法であって、
電気化学反応セルを用意するステップと、
前記電気化学反応セル内に、窒素ドーピング及び酸素ドーピングの両方を含むメソ多孔質炭素触媒を用意するステップと、
過酸化水素を製造する酸素還元反応を駆動するために前記電気化学反応セルに電流を供給するステップと、を含み、
前記酸素還元反応が前記メソ多孔質炭素触媒によって触媒されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
当該方法が、環境水の処理を提供するために実施されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記処理が、消毒、汚染物質の化学的分解、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
pHが6~8のpH中性溶液中で過酸化水素の電気化学的製造のための触媒を製造する方法であって、
窒素含有有機前駆体を用意するステップと、
前記窒素含有有機前駆体を塩基で炭化させて、窒素ドーピング及び酸素ドーピングの両方を含むメソ多孔質炭素触媒を製造するステップであって、前記メソ多孔質炭素触媒の窒素量の炭素量に対する比(N/C比)が、0.026~0.050の範囲である、該ステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記窒素含有有機前駆体が、下記の化学構造式で表されることを特徴とする方法。
【化1】
式中、
n≧1、m≧1、x≧1、y≧1、z≧1であり、
各Rは、H、炭化水素基、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンからなる群より、互いに独立して選択される。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、
前記塩基が、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化アンモニウム(NHOH)、水酸化ベリリウム(BeOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、及び水酸化カルシウム(Ca(OH))からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4に記載の方法であって、
前記窒素含有有機前駆体を塩基で炭化させる前記ステップが、600~900°Cの範囲の温度で行われることを特徴とする方法。
【請求項8】
メソ多孔質炭素触媒であって、
当該触媒が、窒素ドーピング及び酸素ドーピングの両方を含み、かつ、
当該触媒が、pHが6~8のpH中性溶液中で過酸化水素を製造するための電気化学的酸素還元反応を触媒するように構成されたことを特徴とするメソ多孔質炭素触媒。
【請求項9】
請求項8に記載のメソ多孔質炭素触媒であって、
当該触媒が、ナノスケールの黒鉛化領域を含む非晶質炭素の多孔質マイクロシートとして構成されたことを特徴とするメソ多孔質炭素触媒。
【請求項10】
請求項8に記載のメソ多孔質炭素触媒であって、
当該触媒の窒素含有量が1%以上であり、かつ、
当該触媒の酸素含有量が1%以上であることを特徴とするメソ多孔質炭素触媒。
【請求項11】
請求項8に記載のメソ多孔質炭素触媒であって、
当該触媒中に遷移金属触媒が含まれていないことを特徴とするメソ多孔質炭素触媒。
【請求項12】
過酸化水素を製造するための電気化学セルであって、
請求項8に記載の触媒を備えることを特徴とする電気化学セル。
【請求項13】
請求項8に記載のメソ多孔質炭素触媒であって、
前記窒素ドーピングが、ピロール構造、ピリジン構造、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される構造をとることを特徴とするメソ多孔質炭素触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性溶液中での過酸化水素の電気化学的製造に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素(H)は、化学工業、食品、エネルギー及び環境保護などの多くの分野において非常に有益な化学物質である。過酸化水素の従来の製造方法は、エネルギーを大量に消費するプロセスであるため、近年、H製造のための効率的な方法の開発に大きな努力が払われてきた。H製造のための1つの安全で魅力的で有望なストラテジーは、二電子経路による電気化学的酸素還元である。
【0003】
この電気化学的アプローチによるH製造のための高選択性触媒が、ある程度実現されている。Hを製造するための酸素還元反応における高選択性触媒の活性は、電解質のpH値に大きく依存する。そして、今日までの研究では、酸性または塩基性の電解質においてのみ良好な結果が示されていた。このため、中性条件下でのHの選択的製造が、効率的な触媒が存在しないことに起因して、依然として大きな課題である。大抵の廃水のpH値は7に近いので、pH中性条件下でのプロセスは、水の消毒(殺菌)のためのHのオンサイト製造(現場での製造)を提供することができ、これにより、Hの輸送と貯蔵に起因する潜在的な危険の排除が可能となる。したがって、中性条件下でのH製造のための触媒を開発することが強く望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明者は、中性媒質中で高い酸素還元活性(0.6V、6.6mA/mg:RHE(可逆水素電極))及び非常に高いH収率(96%)を示す、本発明のN及びOドープ炭素触媒の容易なワンポット合成を報告する。一例では、本発明のN及びOドープ炭素触媒は、低コストなかつ中程度の窒素含有量(9.6%)を有するエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の炭化によって作製される。電気化学的H製造における、本発明のN及びOドープ炭素触媒の上記のような前例のない触媒活性及び選択性は、触媒上の窒素種及び酸素種の相乗効果に起因する。本発明のN及びOドープ炭素触媒は、中性電解質中でのH製造において、非常に良好な活性及び選択性を示した。
【0005】
本発明のN及びOドープ炭素触媒の主な用途は、中性電解質中での酸素還元反応による電気化学的H製造である。製造されたHは、環境保護や、水または食品の消毒(殺菌)に使用することができる。
【0006】
顕著な利点が提供される。(1)本発明のN及びOドープ炭素触媒は、融解水酸化カリウム中でエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の炭化によって、非常に安価にかつ簡単に作製することができる。(2)本発明のN及びOドープ炭素触媒の活性及び選択性は、中性電解質中での電気化学的H製造において、非常に良好な活性及び選択性を示した。
【0007】
いくつかのバリエーションが可能である。(1)エチレンジアミン四酢酸またはその類似構造体(すなわち炭素前駆体)、及び、水酸化カリウムまたはその類似塩基(すなわち、塩基前駆体)を含む前駆体。別の炭素前駆体及び塩基前駆体については、後述の記載を参照されたい。(2)炭素前駆体及び塩基前駆体間の前駆体の質量比。(3)400~1000°Cの範囲の反応温度。(4)反応雰囲気、通常は、窒素またはアルゴン雰囲気。(5)触媒中の窒素及び酸素の含有量。
【0008】
顕著な特徴としては、N及びOドープ炭素触媒の構造が挙げられる。窒素及び酸素の両方が触媒に有用であり、電気化学的H製造における、N及びOドープ炭素触媒の上記のような前例のない触媒活性及び選択性は、触媒上の窒素種及び酸素種の相乗効果に起因する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】例示的な電気化学セルを示す。
図2A】過酸化水素の製造における触媒反応を模式的に示す。
図2B】本発明に係る触媒の画像及び特性化結果を示す。
図2C】本発明に係る触媒の画像及び特性化結果を示す。
図2D】本発明に係る触媒の画像及び特性化結果を示す。
図3A】例示的な実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図3B】例示的な実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図3C】例示的な実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図4A】本発明に係る触媒のXPS結果を示す。
図4B】本発明に係る触媒のXPS結果を示す。
図4C】さらなる実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図4D】さらなる実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図4E】さらなる実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図4F】さらなる実験における過酸化水素の製造結果を示す。
図5A】例示的な実験における消毒結果を示す。
図5B】例示的な実験における消毒結果を示す。
図6】N及びOドープ炭素マイクロシートの断面SEM画像を示す。
図7】N及びOドープ炭素触媒のXRD分析を示す。
図8】N及びOドープ炭素のXPSサーベイスペクトルを示す。
図9】ORRにおけるN及びOドープ炭素触媒の安定性試験の結果を示す。
図10A】N/C比が互いに異なるN及びOドープ炭素触媒におけるN1sのXPSの高分解能を示す。
図10B】N/C比が互いに異なるN及びOドープ炭素触媒におけるN1sのXPSの高分解能を示す。
図10C】N/C比が互いに異なるN及びOドープ炭素触媒におけるN1sのXPSの高分解能を示す。
図11A】メラミンを前駆体として有するN及びOドープ炭素触媒に関する結果を示す。
図11B】メラミンを前駆体として有するN及びOドープ炭素触媒に関する結果を示す。
図11C】メラミンを前駆体として有するN及びOドープ炭素触媒に関する結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
セクション(A)は、本発明の様々な実施形態に関する一般的原理を説明する。セクション(B)は、本発明の原理の実験的実証を詳細に説明する。
【0011】
(A)一般的原理
【0012】
図1は、本発明の実施形態を実施するのに適した電気化学セルを示す。より具体的には、電気化学セル102は、電解質110と、第1の電極104と、第2の電極106とを含む。電源108は、図示のように電流を駆動してHを触媒する。図1に示す反応は二電子酸素還元反応であるが、Hを触媒する他の電気化学反応も実施することができる。この構成の次の2つの特徴が特に重要である。第1の特徴は、電解質110が中性のpHを有することである。本明細書では、電解質110のpHの範囲は6~8と定義する。第2の特徴は、触媒112が、上記のような中性電解質を使用してHの製造を効率的に触媒するように構成されていることである。触媒に関するさらなる詳細は、以下に、及びセクションBにおいて説明する。
【0013】
したがって、本発明の一実施形態は、pH中性溶液中で過酸化水素を製造する方法である。本方法は、(a)電気化学反応セルを用意するステップと、(b)電気化学反応セル内に、窒素ドーピング及び酸素ドーピングの両方を含むメソ多孔質炭素触媒を用意するステップと、(c)過酸化水素を製造する酸素還元反応を駆動するために電気化学反応セルに電流を供給するステップと、を含む。上記の酸素還元反応は、メソ多孔質炭素触媒によって触媒される。メソ多孔質炭素触媒は、2nm~50nmの孔径を有する多孔質構造と定義される。
【0014】
本方法の用途には、環境水の処理を提供するためのHの製造が含まれる。このような処理は、消毒(殺菌)、汚染物質の化学的分解、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0015】
本発明の別の実施形態は、過酸化水素の電気化学的製造のための触媒を製造する方法である。本方法は、(a)窒素含有有機前駆体を用意するステップと、(b)窒素含有有機前駆体を塩基で炭化させて、窒素ドーピング及び酸素ドーピングの両方を含むメソ多孔質炭素触媒を製造するステップと、を含む。
【0016】
窒素含有有機前駆体は、下記の化学構造式で表すことができる。
【0017】
【化1】
【0018】
式中、
n≧1、m≧1、x≧1、y≧1、z≧1であり、
各Rは、H、炭化水素基、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)イオン、及びアルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)イオンからなる群より、互いに独立して選択される。
【0019】
本発明の実施は、前駆体を炭化させるために使用される塩基に決定的に依存しない。好適な塩基としては、これに限定しないが、酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化アンモニウム(NHOH)、水酸化ベリリウム(BeOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、及び水酸化カルシウム(Ca(OH))が挙げられる。
【0020】
窒素含有有機前駆体を塩基で炭化させる上記のステップは、600~900°Cの範囲の温度で行うことが好ましい。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態は、窒素ドーピング及び酸素ドーピングの両方を含むメソ多孔質炭素触媒である。本発明の触媒は、pH中性溶液中で過酸化水素を製造するための電気化学的酸素還元反応を触媒するように構成されている。さらなる実施形態は、このような触媒を含む電気化学セル(例えば、図1に示すような電気化学セル)である。
【0022】
本発明の触媒は、好ましくは、ナノスケールの黒鉛化領域を含む非晶質炭素の多孔質マイクロシートとして構成される。マイクロシートは、3つの寸法のうちの1つの寸法が1マイクロメートル(ミクロン)以下であり、他の2つの寸法が5マイクロメートル以上である構造と定義される。また、ナノスケールの領域は、1マイクロメートル以下の最大寸法を有する領域と定義される。
【0023】
触媒の窒素含有量及び酸素含有量は、両方とも1%以上であることが好ましい。メソ多孔質カーボン触媒は、遷移金属(原子番号21-29、39-47、57-79の元素)触媒を含まないことが好ましい。
【0024】
窒素ドーピングは、これに限定しないが、ピロール構造、ピリジン構造、及びそれらの組み合わせを含む様々な化学構造で、メソ多孔質炭素触媒に含めることができる。例えばピロール(CNH)のように、NH基が5員環の芳香族環の一部である場合、窒素原子はピロール構造をとる。また、例えばピリジン(CN)のように、6員環の芳香環のCH基がN原子で置換されている場合、窒素原子はピリジン配置をとる。N1sのXPS分光法では、ピリジン窒素は398.5eVでピークを有し、ピロール窒素は400.1eVでピークを有する。
【0025】
(B)実験例
【0026】
(B1)導入部
【0027】
過酸化水素(H)は、化学工業、食品、エネルギー及び環境保護などの多くの分野において非常に有益な化学物質である。加えて、Hは強力な酸化剤であり、その使用での唯一の分解物は水である。このため、Hは、水の消毒だけでなく、水環境における難分解性汚染物質の分解にも広く使用されている。産業界では、Hの需要は、置換アントラキノンの水素化と酸化の逐次的なプロセスによって満たされるが、これは、エネルギーを大量に消費するプロセスであり、環境に優しい方法だとはとても考えられない。近年、H製造のための効率的な方法の開発に大きな努力が払われてきた。Hの直接合成は、不均一反応において、様々な触媒上で、元素水素及び酸素をHに変換することによって実現されてきた。しかしながら、このようなプロセスは、爆発の潜在的な危険性を含む。H製造のための別の安全で魅力的で有望なストラテジーは、二電子経路による電気化学的酸素還元(酸素還元反応:ORR)である。理論的シミュレーションと洗練された合成技術とを用いて、H製造のための高い選択性を有する触媒が、文献では、ある程度達成された。
【0028】
実際、Hを製造するためのORRの触媒活性は、電解質のpH値に強く依存する。貴金属ベース触媒(例えば、Pd-Au、Pt-Hg)は、酸性条件下では、二電子経路ORRを90%以上の選択性で主として実施することが確認されているが、希少性及び高コストにより貴金属ベース触媒の大規模利用は妨げられる。触媒自体からの重金属汚染も考慮する必要がある。炭素ベース材料が、塩基性または酸性の電解質中での酸素還元のための低コストかつ高活性な触媒として最近出現した。加えて、酸素還元の反応経路(二電子経路または四電子経路)は、ヘテロ原子(例えば、Fe、N、S)による炭素の選択的ドーピングまたは構造調節によって微調節することができる。この進歩にも関わらず、中性条件下でのHの選択的製造は、効率的な触媒が存在しないことに起因して、依然として大きな課題である。大抵の廃水のpH値は7に近いので、pH中性条件下でのプロセスは、水の消毒のためのHのオンサイト製造を提供することができ、これにより、Hの輸送と貯蔵に起因する潜在的な危険性の排除が可能となる。したがって、中性条件下でのH製造のための、高い活性及び選択性を有する新規な炭素系材料を開発することが強く望まれている。
【0029】
(B2)技術的アプローチ
【0030】
本願発明者は、中性媒質中で高い酸素還元活性(0.6V、6.6mA/mg:RHE(可逆水素電極))及び非常に高いH収率(96%)を示す、本発明のN及びOドープ炭素触媒の容易なワンポット合成を報告する(図1及び図2)。本発明のN及びOドープ炭素触媒は、低コストなかつ中程度の窒素含有量(9.6%)を有するエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の炭化によって作製された。電気化学的H製造における、本発明のN及びOドープ炭素触媒のこのような前例のない触媒活性及び選択性は、触媒上の窒素種及び酸素種の相乗効果に起因する。さらに、本願発明者は、99.999%を超える優れた効率での水の消毒のためのHのオンサイト電気化学的製造のためのシステムを実証した。
【0031】
図2Aは、本発明のN及びOドープ炭素触媒を使用した、Hの電気化学的製造のスキームを示す。図2BはN及びOドープ炭素マイクロシートの代表的なSEM画像を示す。図2CはN及びOドープ炭素マイクロシートのTEM画像及びHRTEM画像を示す。図2Dは、タイプIVの窒素収着等温線を示す。挿入図は、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)モデルによるN及びOドープ炭素の孔径の特性化である。
【0032】
(B3)触媒の製造と特性化
【0033】
N及びOドープ炭素触媒の容易なワンポット合成は、アルゴン雰囲気下において、溶融水酸化カリウム(KOH)中でエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を炭化することにより実施した(詳細については後述する)。得られた産物を遠心分離によって収集し、希釈硝酸及び脱イオン水で数回洗浄した。作製直後のN及びOドープ炭素触媒を、まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で特性化した。図2BのSEM画像に示すように、産物は主に、炭素マイクロシートから形成されていた。高倍率でのSEM画像(図2Bの挿入図及び図6)は、炭素マイクロシートが高度に多孔質であることを示す。透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により、炭素マイクロシートの非晶質構造が明らかになった(図2C)。これは、X線回折(図7)(XRD)の分析と一致する。また一方、高分解能TEM(HRTEM)画像(図2Cの挿入図)は、N及びOドープ炭素がナノサイズの多くの黒鉛化炭素領域を含むことを示している。これは、N及びOドープ炭素が、高い表面積を有することを示している。
【0034】
N及びOドープ炭素のN吸着/脱着等温線分析は、Brunauer-Emmett-Teller法を用いて約494m-1図2D)の高い比表面積を実証した。高い相対圧力(p/p>0.5)でヒステリシスを有するIV型等温線が観測された。これは、メソ多孔質物質(図2D)を示している。Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法による孔径分布の分析により、N及びOドープ炭素の主要な孔径は約3.9nm(図2Dの挿入図)であることが分かった。これは、TEMによる観察結果と良好に一致する。窒素含有量はN及びOドープ炭素触媒の触媒性能に直接的に対応するので、X線光電子分光法(XPS)及び元素分析(EA)測定を行って、N及びOドープ炭素マイクロシートの窒素及び酸素の含有量を求めた。N及びOドープ炭素マイクロシートの窒素含有量は、XPS測定では約1.8%であり、EA(2.0%)分析とは若干異なる。数値の差異は、主として、XPS測定の表面特異性に起因する。酸素の含有量は、約14.8%である。注目するべきは、サーベイ測定の実施中に、N及びOドープ炭素材料中に金属が検出されなかったことである(図8)。
【0035】
(B4)H製造結果
【0036】
酸素還元反応の電気化学的測定を、パイン・インストルメント社(Pine Instrument)製の回転制御装置及びバイオロジック社(Biologic)製のVSPポテンショスタットに接続した交換可能な回転リングディスク電極を使用して、標準的な三区画電気化学セル内で行った。製造されたHの量を定量化するため、酸素還元電流を無視することができ、かつH酸化が拡散律速である1.2V(対RHE、以下と同様)で、Ptリング電極をポテンショスタットした。エタノール、2-プロパノール、及びナフィオン(Nafion)溶液により調製された触媒懸濁液のアリコートを、よく磨かれたガラス炭素電極上に堆積させ、O飽和PBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液(pH=7)中で測定した。0~1.0Vの電圧での分極曲線、及び脱気PBS溶液中の対応するサイクリックボルタモグラム(CV)を記録した。分極曲線のバックグラウンドは、脱気PBS溶液中で測定されたCVにより補正した。比較のため、市販のカーボンブラック(C65、非晶質炭素)も同じ条件下で測定した。
【0037】
図3A図3Cは、N及びOドープ炭素触媒の中性媒質中の酸素還元に対する電極触媒性能を示す。図3Aは、O飽和0.1MのPBS溶液(pH=7)中での、N及びOドープされた炭素及び市販のカーボンブラックC65を備え、1,600rpmで動作するRRDEのボルタモグラムを示し、このボルタモグラムは、ディスク電流密度、リング電流、及び、リング電流から得られる過酸化水素に対応する電流密度を含む。図3Bは、N及びOドープ炭素及びカーボンブラックC65での酸素還元反応で製造されたHの対応する選択性を示す。図3Cは、PBS溶液中での電解時間を関数とした、N及びOドープ炭素触媒との酸素還元反応により発生するHの濃度を示す。電位は、約0.6V(対RHE)であった。
【0038】
図3Aに示すように、市販のカーボンブラック(C65)は、PBS溶液中のORRに対して無視できる活性を示した。酸素還元反応は、電位が、0.35V以下の場合にのみ発生した(図3A)。際立って対照的に、N及びOドープ触媒は、約0.7V(約0mVの過電位)でORR電流を示し始める。これはN及びOドープ炭素触媒が、カーボンブラックよりもはるかに活性であることを示している。さらに、ディスク及びリングからの電流密度はN及びOドープ炭素触媒では0.5~0.7Vの電位で、一致することが観測された。これは、ORRが、この電位範囲内では二電子経路をより好み、Hの製造に好ましいことを意味する。この電位範囲内で、約10mA/mgの最大のH電流密度が達成された(図3A)。図3Bに示すように、Hの製造効率は、0.4~0.65Vの電位では90%を超えるが、ORR電流は市販のカーボンブラック上では観察されなかった。6.5mA/mgの電流密度では、0.6Vの電位で、約96%の最高効率が達成された。H製造の電流密度及び選択性の両方が、0.4V未満の電位で減少し始めることが分かった。これは、水の製造に好ましいことを示唆する。
【0039】
さらにN及びOドープ炭素触媒の安定性を、該触媒を炭素繊維紙上に担持させて試験した。0.4V、4mA/cmのカソード電流で、20時間以上にわたって、明らかな劣化が見られないという、優れたORR安定性が図9に示される。Hのオンサイト製造は、水の消毒に特に有用であるので、実際のH製造量を試験した。図3Cは、電解時間に対する蓄積H濃度のプロットを示し、これは、Hの量と電解時間との間の準線形関係を反映する。225mg/LのH濃度が3時間で達成され、平均製造速度は75mg/L/hであった。
【0040】
図4A図4Fは、窒素種及び酸素種がORRの触媒性能に与える影響を示す。図4A図4BはN及びOドープ炭素触媒上のN1s及びO1sの高分解能XPSである。図4Cは、窒素含有量が互いに異なるNドープ触媒のRRDEボルタモグラム測定を示す。図4Dは、窒素含有量が互いに異なるN及びOドープ炭素触媒上の酸素還元反応で製造されたHの対応する選択性を示す。図4Eは、700°Cでの1時間のH(アルゴン中の5%H)還元の前後における、Nドープ触媒のRRDEボルタモグラム測定値を示す。図4Fは、700°Cでの1時間のH(アルゴン中の5%H)還元の前後におけるN及びOドープ炭素触媒上の酸素還元反応で製造されたHの対応する選択性を示す。
【0041】
ドーパントが触媒の電気化学特性に与える影響を調べるために、高分解能XPS測定をNドープ触媒上で行った。図4A図4Bに示すように、窒素及び酸素の両方の信号が検出された。窒素は、ピリジン窒素(398.5eVで11.6%)及びピロール窒素の(400.1eVで88.4%)の構造中に存在する(図4A)。酸素の構造は、それぞれ、COOH(カルボキシル基の酸素原子、17%、534.4eV)、及び、-O-(エステル中のカルボニル酸素原子、無水物、及びヒドロキシル基中の酸素原子、83%、532.9eV)である(図4B)。酸素効果について考察した以前の研究は少数であるが、いくつかの研究により、窒素ドーピングが炭素触媒のORR活性を著しく高めることが示されている。いくつかの研究グループにより、ピリジンNがORR活性を高める活性部位であることが報告されており、別の研究グループにより、第4級窒素がN及びOドープ炭素触媒の高いORR活性に関与することが示唆されている。したがって、ドープ窒素及び活性部位の正確な触媒的役割については、依然として議論の余地がある。さらに、これらの報告のほとんどでは、触媒は、塩基性または酸性の電解質中で評価されており、四電子経路が好ましかった。文献中の理論計算は、グラファイト中の第4級窒素に隣接して形成された炭素ラジカル部位が、HへのO電解還元の活性部位であることを示している。しかしながら、本願発明では、ピリジン窒素及びピロール窒素以外には、明らかな第4級窒素(401.0eVで)及び酸化N(402.9eVで)は観察されなかった。したがって、ピリジン窒素及びピロール窒素が、優れた触媒性能に関与すると考えられる。
【0042】
窒素ドーピングは、触媒の触媒性能において重要な役割を果たすので、様々なN/C比(0.026、0.043、及び0.050)のN及びOドープカーボンを作製した。ドープ窒素種は全ての試料で同様であった。N/C比が0.026及び0.050(図10A図10C)のN及びOドープ炭素では、ごく少量の第4級窒素が検出されたが、この第4級窒素は触媒性能を向上させなかった。一方、N/C比0.043のN及びOドープ炭素は、最大で96%の最良のH選択性を示した(図3A図3B)。また、窒素含有量(N/C=0.026)の減少は、触媒の速度論的電流密度及び拡散律速電流密度の両方を増加させるが、H電流密度が減少し、最終的にH選択性(図4C図4D)が低下した。窒素含有量(N/C=0.050)の増加は、より低いORR活性と、より低いH電流密度をもたらし、また同様に、低いH選択性を示した。N及びOドープ炭素の作製時にメラミンを前駆体として導入することによって、同一のN構造を維持しながら窒素含有量(N/C=0.087)をさらに増加させると、より低い活性及びH選択性(図11A図11C)が得られた。したがって、本願発明では、本願発明者は、適切な量のNドーピングが、電気化学的H製造のための高い活性と選択性の両方を達成するための主な原因であるという結論に達した。
【0043】
さらなる研究により、Hの高選択性を達成するためには、酸素ドーピングも必要であることが実証された。酸素種が水素還元により還元されると、炭素触媒は、0.8V(対RHE)の開始電位でより活性になるが(図4E)、Hの対応する選択性は減少した(図4F)。還元炭素触媒の高分解能XPS分析は、窒素含有量がほぼ保持されると共に4.6%酸素が還元されることを示し、酸素種が、Hの高選択性を達成するために、触媒において重要な役割を果たすことを示唆した。酸素ドーピングの特殊な機能は、酸素官能基または上記の短所に由来する。したがって、電気化学的H製造における、N及びOドープ炭素触媒の上記の前例のない触媒活性及び選択性は、触媒上の窒素種及び酸素種の相乗効果に起因する。
【0044】
(B5)H消毒結果
【0045】
図5A図5Bは、N及びOドープ炭素触媒の使用による電気化学的水消毒を示す。図5Aは、様々な電流密度を有するN及びOドープ炭素触媒の消毒性能を示す。測定は、N及びOドープ炭素触媒によりH発生のためのORRが行われている電気化学セル中で細菌を培養することによって、直接的に実施した。図5Bは、N及びOドープ炭素触媒をよるORRで製造された様々な濃度のHを使用した水消毒を示す。N及びOドープ炭素触媒を、2mg/cmの量で、炭素繊維紙に担持させた。
【0046】
は、水消毒のための環境に優しい強力な酸化剤であるので、in situ及びex situでの電気化学的な水消毒実験を、PBS溶液(pH=7)中で本発明の高活性N及びOドープ炭素触媒を使用して行った。全ての実験で、グラム陰性菌である大腸菌がモデル細菌として使用された。実験の各時点の細菌濃度を開始濃度に対して正規化した。その結果を図5A図5Bに示す。in situでの水消毒では、ORRによりHが製造される負極において、大腸菌を培養した。負極と正極とを、プロトン交換膜(nafion)によって、互いに分離した。図5Aに示すように、電流を印加しないときは、明らかな消毒効率は得られなかった。1mAの電流を流すと、120分以内に99.86%の消毒効率が達成された。さらに大きい電流(2mA)では、120分で99.991%の高い消毒効率が得られた。ex situでの水消毒では、電気化学的ORRによって予め作製したH溶液中で、細菌E.coliを培養した。図5Bに示すように、H濃度が50ppmを超えると、120分で99.9995%の消毒効率が達成され、その後、細菌は検出されず、再増殖も観察されなかった。上記のin situ及びex situの両方での水消毒の結果に基づき、飲料水消毒のためのHのオンサイト製造は有望である。
【0047】
結論として、本願発明者らは、ORRに対して効率的な電極触媒活性を示し、かつ、中性条件下でのH製造に対して高い選択性(96%)を示す、新規な窒素ドープメソ多孔質炭素の合成を実証した。炭素触媒中のドーパント(N及びO)が触媒活性に与える影響を注意深く調べた。そして、炭素触媒中の窒素種と酸素種との相乗効果が、電気化学的ORRによるH製造に対する高い活性及び選択性の原因であることが分かった。加えて、電気化学的に製造したHを使用することにより、効率が99.999%を超える優れた水消毒性能が実証された。このような優れた水消毒性能は、飲料水消毒への適用における大きな可能性を示す。
【0048】
(B6)方法
【0049】
(B6a)試薬:
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、水酸化カリウム(KOH)、リン酸一ナトリウム(NaHPO)、及びリン酸二ナトリウム(NaHPO)は、シグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich)から購入した。塩酸(塩酸)及びエタノールは、フィッシャー・ケミカル社(Fisher Chemical)から購入した。高純度Ar(99.999%)、O(99.998%)、及びN(99.99%)は、エアガス社(Airgas)から購入した。超純水(18MΩcm以上)は、ミリポア社((Millipore)から購入した。全ての試薬は、さらに精製することなく、そのままの状態で使用した。
【0050】
(B6b)N及びOドープ炭素触媒の合成:
N及びOドープ炭素触媒の一般的な合成において、2gのEDTAと4gのKOHとを混合させ、モルタル中で10分間粉砕した。よく混合された混合物を燃焼ボートに移し、次いで、アルゴン雰囲気下で700°Cのチューブ炉内で2時間焼成した。試料を、10°C/分の加熱速度で、室温から700°Cまで加熱した。焼成後、産物を、脱イオン水及び0.5M塩酸溶液で洗浄してKOHを除去し、次いで、60°Cの真空オーブン中で一晩乾燥させた。
【0051】
(B6c)材料の特性化:
TEM研究を、200kVで動作するTECNAI F-20高分解能透過型電子顕微鏡で実施した。試料は、試料のエタノール分散液を300メッシュの炭素被覆銅グリッド上に滴下し、溶媒を直ちに蒸発させることによって作製した。炭素触媒の形態と微細構造を特性化するために、FEIXL30SirionでSEM研究を実施した。X線回折(XRD)測定値を、40kV、30mAで動作するCu-Kα放射線を使用して、パナリティカル社(PANalytical)製のX'pert PRO回折計で記録した。X線光電子分光(XPS)測定を、Al-Kα源(1486.6eV)を使用したSSIプローブXPS分光計で行った。ここで報告された結合エネルギーは、284.5eVでのC(1s)に関するものである。電気化学的研究を、バイオロジック社製のVMP3マルチチャネル電気化学ワークステーションに接続した標準的な三電極セルで行った。対電極は超純黒鉛棒(直径6mm)であり、基準電極はAg/AgCl電極であった。作用電極は、パイン・インストルメント社から購入したPtリング及びガラス炭素ディスク(GC、φ=5mm)を有する回転リングディスク電極(RRDE)であった。回転速度は、1600rpmに固定した。電気化学セルは、室温に設定した。
【0052】
(B6d)電気化学的測定:
電極上に炭素触媒を担持する前に、Hを検出するために使用されるPtリングを、まず、-0.5~1.1V(対RHE)の電位で、500mV/sの走査速度で、0.1MのPBS溶液(pH=7)中でサイクリックボルタンメトリー(CV制御)を実行することにより、Ptリングが清浄されCV曲線が安定するまで洗浄した。GCディスク電極上に触媒を堆積させるために、10.0mgの炭素触媒を0.5mLのイソプロパノール、0.5mLのエタノール、及び50μLの5重量%ナフィオン(Nafion)溶液中に分散させ、1時間超音波処理し、均一な触媒インクを作製した。次いで、3.0μLのインクをRRDEのGCディスク上に滴下し、153μg/cmの触媒担持を得た。電解質である0.1MのPBSを、超純酸素により、60mL/分で15分間バブリングした。GCディスク電極に対して、0.25~1.1V(対RHE)の電位サイクルが、1600rpmの回転速度で20mV/sの走査速度で行われた。溶液オーム降下(すなわち、IRドロップ)の85%が補償された。バックグラウンド容量電流を、同一の電位範囲及び走査速度で、ただし、N飽和電解質で記録した。O飽和溶液で記録した電流をNのバックグラウンド電流で補正し、試験した触媒のORR電流を得た。Hの収率を検出するために、リング電位を1.2V(対RHE)に設定して、GCディスク電極から移動したHを酸化した。H収率は、下記の方程式(式1)により計算した。
【0053】
【数1】
【0054】
式中、IDはディスク電流であり、IRはリング電流であり、Nはリング収集効率である。Nは、10mMのフェリシアン化カリウムKFe(CN)+1.0MのKNOの溶液中で、0.254と測定された。
【0055】
(B6e)H濃度測定:
濃度は、報告された文献に従った従来の硫酸セリウムCe(SO滴定法により測定した。黄色溶液のCe4+は、Hによって、無色のCe3+に還元される。この色変化に基づき、反応前後のCe4+濃度を、UV-visで測定した。測定に用いた波長は316nmである。反応は、下記のように行われた。
【0056】
【数2】
【0057】
の濃度(N)は、下記の式にしたがって求めた。
【0058】
【数3】
【0059】
【数4】
【0060】
は、還元されたCe4+のモル数である。
【0061】
手順は、下記の通りである:1mMのCe(SO溶液を調製する。33.2mgのCe(SOを100mLの0.5Mの硫酸溶液に溶解させて、黄色透明溶液を調製した。検量曲線を得るために、既知濃度のHをCe(SO溶液に添加し、UV-visにより測定した。信号強度とH濃度(0.2~1.2mM)との間の線形関係に基づき、試料のH濃度を求めることができる。市販の過酸化水素試験ストリップ(シグマ・アルドリッチ社から購入)を使用して、H濃度も測定した。
【0062】
(B6f)水の消毒:
細菌(大腸菌(プロメガ社(Promega)製のJM109株、及び、ATCCのK-12株))をlog期まで培養し、900gで遠心分離して回収し、脱イオン(DI)水で2回洗浄し、DI水中で約10CFU/ml(コロニー形成単位/ml)まで懸濁させた。細菌濃度は、標準的なスプレッドプレーティング技術を用いて、様々な照明回数で測定した。各試料を連続的に希釈し、各希釈物を、トリプチケースソイ寒天培地上に3連でプレートし、37°Cで18時間インキュベートした。
【0063】
(B7)補足的な図面説明
【0064】
図6は、N及びOドープ炭素マイクロシートの断面SEM画像であり、マイクロシートの多孔質構造を示す。
【0065】
図7は、N及びOドープ炭素触媒のXRD分析を示す。
【0066】
図8は、N及びOドープ炭素上のXPSサーベイスペクトルを示す。対応する組成はスペクトルに記載されており、これは、試料中に金属信号が検出されなかったことを示す。試料中に含まれるSi信号はN及びOドープ炭素を作製するために使用した石英管から発生した。
【0067】
図9は、ORRにおけるN及びOドープ炭素触媒の安定性試験の結果を示す。2.0mgのN及びOドープ炭素触媒が、1cmの炭素繊維紙上に担持された。電流密度は、4mAcm-2であった。
【0068】
図10A図10Cは、N/C比が互いに異なるN及びOドープ炭素触媒のN1sのXPSの高分解能を示す。
【0069】
図11Aは、メラミンを前駆体として導入することによるN及びOドープ炭素触媒からのN1sのXPSの高分解能を示す。図11Bは、窒素含有量が互いに異なるNドープ触媒のRRDEボルタモグラム測定値を示す。メラミンを窒素の前駆体として導入することにより、N/C=0.087のNドープ触媒を作製した。図11Cは、窒素含有量が互いに異なるN及びOドープ炭素触媒上の酸素還元反応により製造されたHの対応する選択性を示す。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C