(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】改善された接合耐久性を示す、および/またはリン含有表面を有するアルミニウム合金製品、ならびにその作製方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20221209BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20221209BHJP
C22C 21/12 20060101ALI20221209BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20221209BHJP
C22F 1/057 20060101ALI20221209BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20221209BHJP
C23F 1/20 20060101ALI20221209BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20221209BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221209BHJP
C22F 1/05 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/10
C22C21/12
C22F1/047
C22F1/057
C22F1/053
C23F1/20
C22C21/02
C22F1/00 623
C22F1/00 630M
C22F1/00 631Z
C22F1/00 640A
C22F1/00 671
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 684B
C22F1/00 683
C22F1/00 694B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694Z
C22F1/05
(21)【出願番号】P 2020533082
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 US2018057046
(87)【国際公開番号】W WO2019125594
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-16
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506110243
【氏名又は名称】ノベリス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】リャンリャン・リィ
(72)【発明者】
【氏名】テリーサ・エリザベス・マクファーレン
(72)【発明者】
【氏名】サゾル・クマール・ダス
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ロイド・レッドモンド
(72)【発明者】
【氏名】ソン・チャンウク
(72)【発明者】
【氏名】デウェイ・ジュー
(72)【発明者】
【氏名】ユディー・ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス・ファノル・ベガ
(72)【発明者】
【氏名】ミラン・フェルバーバウム
(72)【発明者】
【氏名】フリオ・マルピカ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・パラディス
(72)【発明者】
【氏名】アルプ・マナヴバシ
(72)【発明者】
【氏名】デチャオ・リン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131889(JP,A)
【文献】特開2010-222659(JP,A)
【文献】特開2008-179843(JP,A)
【文献】特開平09-263868(JP,A)
【文献】特開平06-220564(JP,A)
【文献】特公昭49-018697(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/187308(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1743507(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
C22C 21/10
C22C 21/12
C22F 1/047
C22F 1/057
C22F 1/053
C23F 1/20
C22C 21/02
C22F 1/00
C22F 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製品であって、
移動元素と、
ある濃度の前記移動元素を有する表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分と、
を含み、1.5以下の濃縮比を含み、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比であり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいて
おり、
前記移動元素は、合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素である、アルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記移動元素が、Zn又はCuのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項3】
前記表面下部分が、前記アルミニウム合金製品の表面から5μmの深さまでの領域であり、請求項1または2に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項4】
前記表面下部分が、前記アルミニウム合金製品の表面から2μmの深さまでの領域であり、請求項3に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項5】
前記濃縮比が、1.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項6】
前記アルミニウム合金製品が、7xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、5xxx系アルミニウム合金、または2xxx系アルミニウム合金を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項7】
アルミニウム合金製品を製造する方法であって、
移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、
前記鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、
前記圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、
を含み、1.5以下の濃縮比をもたらすように、前記移動元素が、前記アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、前記濃縮比が、前記バルク部分の前記移動元素の濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の濃度の比であり、
前記移動元素がMgおよびSiを含み、
前記濃縮比が原子%に基づいている、方法。
【請求項8】
前記圧延ステップが、200℃~550℃の温度で実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理ステップが、400℃~580℃の温度で実施される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理ステップが、120秒以下にわたり実施される、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋳造アルミニウム合金製品を前処理することをさらに含み、前記前処理が、前記鋳造アルミニウム合金製品の表面を洗浄することと、前記鋳造アルミニウム合金製品の前記表面をエッチングすることと、前記鋳造アルミニウム合金製品の前記表面に前処理
剤を適用することと、を含
み、前記前処理剤は、接着促進剤、腐食抑制剤、カップリング剤、抗菌剤、またはそれらの混合物から選択された少なくとも1つである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理が、前記熱処理ステップの後に実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記鋳造が、直接チル鋳造を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記鋳造が、連続鋳造を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
アルミニウム合金製品であって、
ある濃度の移動元素を有する表面下部分と、
ある濃度の前記移動元素を有するバルク部分と、
を含み、前記バルク部分の前記移動元素の前記濃度に対する前記表面下部分の前記移動元素の前記濃度の比が4.1以上であり、
前記移動元素が、Mn、Cr、
およびFe
から選択された少なくとも1つであり、
前記比が原子%に基づいている、
アルミニウム合金製品。
【請求項16】
前記アルミニウム合金製品が、6xxx系アルミニウム合金または5xxx系アルミニウム合金を含む、請求項15に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項17】
表面下部分およびバルク部分を含み、前記表面下部分がPを含み、前記Pが、元素P、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、又は四酸化二リンのうちの少なくとも1つとして前記表面下部分内に存在する、
請求項1~6および15~16のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項18】
前記表面下部分が、Pを、2at%~10at%の量で含む、請求項17に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項19】
前記表面下部分が、前記アルミニウム合金製品の表面から150μmの深さまでの領域であり、請求項17又は18に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項20】
前記表面下部分が、前記アルミニウム合金製品の前記表面から83μmの深さまでの領域であり、請求項19に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項21】
前記アルミニウム合金製品が、15を上回る黄色度指数を含む、請求項17~20のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項22】
前記黄色度指数が、20を上回る、請求項21に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項23】
請求項17~22のいずれか1項に記載のアルミニウム合金製品の表面を処理する方法であって、
表面下部分およびバルク部分を有するアルミニウム合金製品を用意することと、
前記アルミニウム合金製品の表面をP含有化合物を含むエッチング溶液でエッチングすることと、を含み、
エッチング後において、前記表面下部分がPを含み、
前記Pが、元素P、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、又は四酸化二リンのうちの少なくとも1つとして前記表面下部分内に存在する、方法。
【請求項24】
前記用意ステップが、少なくとも0.001重量%のMgを含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記用意ステップが、0.001重量%~10重量%のMgを含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記用意ステップが、5xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、または7xxx系アルミニウム合金を含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記P含有化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびそれらの組み合わせを含む、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記エッチング溶液が、1つ以上のさらなる酸をさらに含む、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記1つ以上のさらなる酸が、硫酸、フッ化水素酸、酢酸、
および塩酸
から選択された少なくとも1つである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記エッチング溶液が、リン酸および硫酸を含む、請求項23~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
硫酸に対するリン酸の比が、3~5である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アルミニウム合金製品の前記表面をエッチングすることにより、前記アルミニウム合金製品の前記表面にMgが曝露される、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
Mgの曝露が、リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせの形成を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせの形成が、前記表面下部分において0.001~10のMgに対するPの原子濃度比をもたらすことを含む、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年12月21日に出願された米国仮特許出願第62/608,614号および2018年10月5日に出願された同第62/741,688号の利益を主張し、それらは、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、アルミニウム合金製品およびその表面特徴を対象とする。本開示はさらに、アルミニウム合金製品を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム合金製品は、アルミニウム合金および他の金属ベースの製品の製作中に、他の金属または他のアルミニウム合金を含む合金に接合または結合されることが多い。アルミニウム合金製品の要件としては、例えば、良好な接合耐久性および高い耐腐食性が挙げられる。アルミニウム合金製品は、接合耐久性および耐食性を増加させるように加工可能である。
【0004】
さらに、アルミニウム合金製品は、抵抗スポット溶接や他の接合法に対する従順性を示すべきである。さらに、方法は、結合法で使用される消耗品の交換が最小限に抑えられるように、保護手段を含むべきである。
【発明の概要】
【0005】
本発明の包含される実施形態は、この概要ではなく、特許請求の範囲によって定義される。この発明の概要は、本発明のさまざまな態様の高レベルの概説であり、以下の発明を実施するための形態の項でさらに説明される概念のいくつかを紹介する。この発明の概要は、特許請求される主題の重要なまたは本質的な特徴を特定することを意図するものでも、特許請求される主題の範囲を決定するために単独で使用されることも意図していない。主題は、明細書全体、任意のまたは全ての図面、および各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0006】
本明細書には、アルミニウム合金製品、ならびにこれを製造および加工する方法が記載されている。本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、移動元素と、ある濃度の移動元素を有する表面下部分と、ある濃度の移動元素を有するバルク部分と、を含み、4.0以下の濃縮比を含み、濃縮比は、バルク部分の移動元素の濃度に対する表面下部分の移動元素の濃度の比である。任意で、移動元素は、Zn、Cu、Mg、および/またはSiを含む。この製品の表面下部分は、アルミニウム合金製品の表面からアルミニウム合金製品内部の約5μmまでの深さ(例えば、約2μmの深さ)の領域を含んでいてもよく、バルク部分は、アルミニウム合金製品の残部を含んでいてもよい。いくつかの場合において、この製品における濃縮比は、2.0以下、1.5以下、または1.0であり得る。アルミニウム合金製品は、7xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、5xxx系アルミニウム合金、または2xxx系アルミニウム合金を含み得る。
【0007】
本明細書には、ある濃度の移動元素を有する表面下部分と、ある濃度の移動元素を有するバルク部分と、を含むアルミニウム合金製品も記載されている。これらの製品では、表面下部分の移動元素の濃度は、バルク部分の移動元素の濃度よりも高くなることがある。任意で、移動元素は、Cu、Mn、Cr、および/またはFeを含む。アルミニウム合金製品は、任意で6xxx系アルミニウム合金または5xxx系アルミニウム合金を含み得る。
【0008】
本明細書には、本明細書に記載のアルミニウム合金製品を製造する方法も記載されている。この方法は、移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、を含んでいてもよく、4.0低い濃縮比をもたらすように、移動元素は、アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、濃縮比は、バルク部分の移動元素の濃度に対する表面下部分の移動元素の濃度の比である。圧延ステップは、約200℃~約550℃の温度で実施され得る。熱処理ステップは、約400℃~約580℃の温度で、約120秒以下の時間にわたり実施され得る。
【0009】
この方法は、鋳造アルミニウム合金製品を前処理することをさらに含み得る。前処理ステップは、合金製品の表面を洗浄することと、合金製品の表面をエッチングすることと、合金製品の表面に前処理を適応することと、を含み得る。任意で、前処理は、熱処理ステップの後に実施される。鋳造は、直接チル鋳造または連続鋳造を含み得る。
【0010】
さらに本明細書には、表面下部分およびバルク部分を含み、表面下部分がリン(P)を含む、アルミニウム合金製品が記載されている。Pは、元素P、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、または四酸化二リンのうちの少なくとも1つとして表面下部分内に存在し得る。任意で、表面下部分は、Pを、約2原子パーセント(at%)~約10at%の量で含む。表面下部分は、アルミニウム合金製品の表面から約150μmまでの深さ(例えば、約83μmの深さ)の領域を含んでいてもよい。アルミニウム合金製品は、約15を上回る(例えば、約20を上回る)黄色度指数を含み得る。
【0011】
本明細書には、アルミニウム合金製品の表面を処理する方法も記載されている。アルミニウム合金製品の表面を処理する方法は、表面下部分およびバルク部分を有するアルミニウム合金製品を用意することと、アルミニウム合金製品の表面を、P含有化合物を含むエッチング溶液でエッチングすることと、を含み得る。任意で、用意ステップは、少なくとも約0.001重量%のマグネシウム(Mg)(例えば、約0.001重量%~約10重量%のMg)を含むアルミニウム合金製品を用意することを含む。任意で、用意ステップは、5xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、または7xxx系アルミニウム合金を含むアルミニウム合金製品を用意することを含む。
【0012】
P含有化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、他の任意のP含有酸、およびそれらの組み合わせを含み得る。任意で、エッチング溶液は、1つ以上のさらなる酸(例えば、硫酸、酢酸、および/または塩酸)をさらに含む。いくつかの例では、エッチング溶液は、リン酸および硫酸を含む。任意で、硫酸に対するリン酸の比は、約3~約5である。特定の態様では、アルミニウム合金製品の表面をエッチングすることにより、アルミニウム合金製品の表面にMgが曝露され、リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせが形成され、表面下部分において0.001~10のMgに対するPの原子濃度比がもたらされる。
【0013】
本明細書には、本明細書に記載の方法により製造されたアルミニウム合金製品も記載されている。アルミニウム合金製品は、特に自動車の本体部品を含み得る。
【0014】
さらなる態様、目的、および利点は、以下の発明を実施するための形態および図の詳細な説明を考慮することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分における移動元素の概略図である。
【
図2】X線光電子分光法による5xxxおよび6xxx系アルミニウム合金製品のMg含量を示すグラフである。
【
図3】X線光電子分光法による5xxxおよび6xxx系アルミニウム合金製品のSi含量を示すグラフである。
【
図4】X線光電子分光法による例示的なアルミニウム合金製品表面のMg含量を示すグラフである。
【
図5】X線光電子分光法による例示的なアルミニウム合金製品表面のSi含量を示すグラフである。
【
図6】本明細書に記載の方法により製造および加工された例示的な合金の接合耐久性を示すグラフである。
【
図7】本明細書に記載の例示的な方法により用意された例示的なアルミニウム合金製品表面のMg含量を示すグラフである。
【
図8】本明細書に記載の例示的な方法により用意された例示的なアルミニウム合金製品表面のMg含量を示すグラフである。
【
図9A】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるMgのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図9B】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるMgのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図10A】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるSiのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図10B】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるSiのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図11A】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるCuのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図11B】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるCuのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図12A】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるMnのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図12B】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるMnのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図13A】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるCrのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図13B】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるCrのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図14A】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるFeのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図14B】本明細書に記載の例示的な方法により製造されたアルミニウム合金の表面下部分およびバルク部分におけるFeのグロー放電発光分光分析を示すグラフである。
【
図15】本開示の特定の態様によるさまざまなアルミニウム合金サンプルについての溶接後の抵抗スポット溶接用電極先端部の寿命を比較するグラフである。
【
図16】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金のエッチング中に除去された材料の量(「エッチング重量」と称される)を示すグラフである。
【
図17】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金中のMgのグロー放電発光分光分析(GDOES)を示すグラフである。
【
図18】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金中のMgのグロー放電発光分光分析(GDOES)を示すグラフである。
【
図19】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金中のMgのグロー放電発光分光分析(GDOES)を示すグラフである。
【
図20】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金中のMgのグロー放電発光分光分析(GDOES)を示すグラフである。
【
図21A】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図21B】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図21C】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図21D】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図22A】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図22B】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図22C】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図22D】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図23A】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図23B】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図23C】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図23D】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図24A】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図24B】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図24C】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図24D】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【
図25】パネルAは、抵抗スポット溶接用銅電極先端部の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図25のパネルBは、本開示の特定の態様による溶接域を示す。
図25のパネルCは、パネルBの高倍率画像を示す。
【
図26】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の黄色度指数(YI)を示すグラフである。
【
図27】本開示の特定の態様によるアルミニウム合金の表面粗さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書には、本開示の第1の実施形態において、所望の表面特性を有する、アルミニウム合金製品を含む金属合金製品が記載されている。本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、マグネシウムおよびケイ素を含む移動元素の制御可能な濃度を有する。いくつかの場合において、合金製品の厚さ全体にわたる移動元素の濃度を制御して、望ましい特性を得ることができる。本明細書に記載のアルミニウム合金製品により示される例示的な望ましい特性としては、例えば、高い接合耐久性および高い耐食性が挙げられる。合金の特性は、合金を加工して記載のプレート、シェート、およびシートを製造する方法に基づいて達成される。本明細書でさらに記載されるように、望ましい特性は、特別に設計された圧延、熱処理、および/またはエッチング、ならびに前処理技術により達成され得る。
【0017】
本明細書には、本開示の第2の実施形態において、リン(P)含有表面を有するアルミニウム合金製品が記載されている。Pは、元素Pとして、または酸化リンとして存在し得る。Pは、表面エッチングプロセス中に堆積可能であり、アルミニウム合金製品表面が望ましい特性を示すことにつながる。本明細書に記載のアルミニウム合金製品により示されるそのような望ましい特性としては、例えば、低い接触抵抗が挙げられ、それにより、抵抗スポット溶接装置の電極先端部への電子応力の低減、および電極先端部の使用寿命(例えば、破損までの溶接サイクル)の延長がもたらされる。
【0018】
定義および説明
本明細書で使用される「発明」、「その発明」、「この発明」、および「本発明」という用語は、本特許出願および以下の特許請求の範囲の主題のすべてを広く参照することが意図されている。これらの用語を含有する記述は、本明細書に記載の主題を限定するものではなく、または以下の「特許請求の範囲」の意味もしくは範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0019】
この説明において、アルミニウム工業記号によって識別された合金、例えば「系」、または「6xxx」が参照される。アルミニウムおよびその合金の命名および識別に最も一般的に使用されている番号記号システムを理解するために、「International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys」または「Registration Record of Aluminum Association Alloy Designations and Chemical Compositions Limits for Aluminum Alloys in the Form of Castings and Ingot」を参照されたい(いずれもアルミニウム工業会によって発行されている)。
【0020】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、または「the」の意味は、文脈上他に明確に指示されない限り、単数および複数の参照物を含む。
【0021】
本明細書で使用される場合、プレートは、一般に、約15mmを超える厚さを有する。例えば、プレートは、15mmを超えるか、20mmを超えるか、25mmを超えるか、30mmを超えるか、35mmを超えるか、40mmを超えるか、45mmを超えるか、50mmを超えるか、または100mmを超える厚さを有するアルミニウム製品を指してもよい。
【0022】
本明細書で使用される場合、シェート(シートプレートとも称される)は、概して、約4mm~約15mmの厚さを有する。例えば、シェートは、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、または15mmの厚さを有し得る。
【0023】
本明細書で使用される場合、シートは、概して、約4mm未満の厚さを有するアルミニウム製品を指す。例えば、シートは、4mm未満、3mm未満、2mm未満、1mm未満、0.5mm未満、0.3mm未満、または0.1mmの厚さを有し得る。
【0024】
本出願では、合金の調質度または状態について言及する。最も一般的に使用される合金調質度の説明の理解に関しては、「American National Standards(ANSI)H35 on Alloy and Temper Designation Systems」を参照されたい。F状態または調質度は、製作されたままのアルミニウム合金を指す。W状態または調質度は、アルミニウム合金のソルバス温度よりも高い温度で溶体化熱処理され、焼入れされたアルミニウム合金を指す。O状態または調質度は、焼鈍し後のアルミニウム合金を指す。本明細書においてH調質度とも称されるHxx状態または調質度は、熱処理(例えば、焼鈍し)を伴うまたは伴わない冷間圧延後の非熱処理可能なアルミニウム合金を指す。適切なH調質度としては、HX1、HX2、HX3、HX4、HX5、HX6、HX7、HX8、またはHX9調質度が挙げられる。T1状態または調質度は、熱間加工から冷却され、自然に(例えば、室温で)エイジングさせたアルミニウム合金を指す。T2状態または調質度は、熱間加工から冷却され、冷間加工され、自然にエイジングさせたアルミニウム合金を指す。T3状態または調質度は、溶体化熱処理され、冷間加工され、自然にエイジングさせたアルミニウム合金を指す。T4状態または調質度は、溶体化熱処理され、自然にエイジングさせたアルミニウム合金を指す。T5状態または調質度は、熱間加工から冷却され、人工的に(昇温で)エイジングさせたアルミニウム合金を指す。T6状態または調質度は、溶体化熱処理され、人工的にエイジングさせたアルミニウム合金を指す。T7状態または調質度は、溶体化熱処理され、人工的に過剰にエイジングさせたアルミニウム合金を指す。T8x状態または調質度は、溶体化熱処理され、冷間加工され、人工的にエイジングさせたアルミニウム合金を指す。T9状態または調質度は、溶体化熱処理され、人工的にエイジングさせ、冷間加工されたアルミニウム合金を指す。W状態または調質度は、溶体化熱処理後のアルミニウム合金を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「鋳造金属物品」、「鋳造製品」などの用語は、互換性があり、直接チル鋳造(直接チル共鋳造を含む)または半連続鋳造、連続鋳造(例えば、双ベルト式鋳造機、双ロール式鋳造機、ブロック鋳造機、もしくは任意の他の連続鋳造機の使用によるものを含む)、電磁鋳造、ホットトップ鋳造、または任意の他の鋳造方法によって製造された製品を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「接合耐久性」は、接合剤の破損を開始する環境条件への曝露後の繰り返しの機械的応力に耐えるための2つの製品を一緒に接合する、接合剤の能力を指す。接合耐久性は、接合が破損するまで、接合された製品が環境条件に曝露される間に、接合された製品に加えられる機械的応力のサイクル数に関して特徴付けられる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「室温」は、約15℃~約30℃、例えば、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃、約26℃、約27℃、約28℃、約29℃、または約30℃の温度を含み得る。
【0028】
本明細書で開示されるすべての範囲は、任意のエンドポイント、ならびにそれらに包括される任意およびすべての部分範囲を包含すると理解される。例えば、「1~10」と記載された範囲は、最小値1と最大値10との間の(およびそれらを含む)任意およびすべての部分範囲、すなわち、1の最小値またはそれ以上、例えば、1~6.1で始まり、10の最大値またはそれ以下、例えば、5.5~10で終わるすべての部分範囲を含むと考慮されるべきである。
【0029】
改善された接合耐久性を示すアルミニウム合金製品
アルミニウム合金製品
本明細書には、所望の表面特性を有するアルミニウム合金製品が記載されている。他の特性のなかでも、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、合金製品の表面下を含む合金製品の厚さ全体にわたり、制御された濃度の移動元素を含有する。いくつかの非限定的な例において、開示された合金製品は、接合、結合、摩擦、耐食性、および光学特性について、改善された表面品質を有する。特定の場合において、合金製品は、非常に優れたアノード化品質も示す。いくつかの態様では、改善された接合特性および結合特性を含む望ましい表面特性を有する合金は、マグネシウム(Mg)およびケイ素(Si)の濃縮比が低い。合金の表面下領域と残部(すなわち、合金製品のバルク)との間の移動元素の原子濃度の違いにより、電気化学活性に勾配が生じることがある。電気化学活性の勾配により、よりアノード的に活性であり、かつ合金製品の表面下部分とバルク部分との間のガルバニックカップリングに基づいて腐食しやすい表面が生じ得る。
【0030】
図1は、Mg120およびSi130が濃縮されたアルミニウムマトリックス110を含むアルミニウム合金製品100を例示的に図示したものである。
図1に示されるように、Mg120およびSi130は、熱処理中に合金表面に移動することがあり、したがって、不所望な表面特性がもたらされる。
図1の開回路電位(OCP)プロファイル150にみられるように、合金の表面下と合金のバルク(残部)との間の移動元素の原子濃度の違いにより、電気化学活性に勾配が生じることがある。
図2および3は、5xxx系(合金AおよびB)および6xxx系(合金C、D、およびE)の合金製品におけるMgおよびSiの元素分布をそれぞれ示す。合金製品の残りの部分における量と比較して、5xxx系の合金(合金AおよびB)は、合金製品の表面付近のMgおよびSiの濃縮がより少ないことを示し、6xxx系の合金(合金C、D、およびE)は、表面付近のMgおよびSiの濃縮がより多いことを示す。驚くべきことに、表面下の移動元素の分布を制御すると、アルミニウム合金製品の製造に使用される元素の濃度を変更または調整する必要なく、
図1~3に示される効果を反転させ、望ましい表面特性をもたらすことができる。表面下に元素が適切に分布していることに基づく望ましい表面特性を含むそのようなアルミニウム合金製品は、以下に記載される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「表面下」という用語は、合金製品の外部表面から合金製品の内部に約5μmまでの深さで延在する、アルミニウム合金製品の部分を指す。任意で、表面下は、合金製品の内部に、約0.01μm、約0.05μm、約0.1μm、約0.15μm、約0.2μm、約0.25μm、約0.3μm、約0.35μm、約0.4μm、約0.45μm、約0.5μm、約0.55μm、約0.6μm、約0.65μm、約0.7μm、約0.75μm、約0.8μm、約0.85μm、約0.9μm、約0.95μm、約1.0μm、約1.5μm、約2.0μm、約2.5μm、約3.0μm、約3.5μm、約4.0μm、約4.5μm、もしくは約5.0μm、またはそれらの間のどこかの深さまで延在する、合金製品の部分を指す。いくつかの例では、表面下は、表面から合金製品の内部の約2.0μmの深さまで延在する。表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分(例えば、合金製品の残部)は、本明細書において、合金製品のバルクと称される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「移動元素」という用語は、例えば、以下でさらに記載される合金製品の1回以上の製造および加工ステップの結果として合金製品の第1の位置から合金製品の第2の位置に拡散することが可能な元素を指す。例示的な移動元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、および鉄(Fe)が挙げられる。任意で、移動元素は、化合物または相の形態にある。例えば、Mgは、Mg2SiまたはMgOとして存在し得る。MnおよびFeは、例えば、Al(FeMn)またはAl(Fe、Mn)Siとして存在し得る。
【0033】
いくつかの例では、本明細書に記載の移動元素は、元素の濃縮が合金製品のすべての厚さ全体(すなわち、表面下部分およびバルク部分内)にわたり分布するように、合金製品全体にわたり拡散してもよい。例えば、合金製品は、合金製品全体にわたり分布されており、かつ表面下で濃縮されていないMgおよびSiの濃度を含み得る。そのような合金製品は、並外れた接合耐久性および耐食性を示す。
【0034】
いくつかの例では、本明細書に記載の移動元素は、移動元素の濃縮が合金製品の表面付近でもたらされるように、合金製品の表面下部分に向かって拡散することができる。例えば、合金製品は、合金製品の表面下部分に局在したZn、Cu、Mn、Cr、および/またはFeの濃度を含み得る。そのような合金製品は、並外れた接着性能を示し、前処理として機能することができる。さらに、表面下にCr濃縮を含む合金製品は、Fe-Si粒子の分布を制御し、したがって耐食性を向上させることができる。
【0035】
合金製品のすべての厚さ全体にわたり分布している移動元素、または合金製品の表面下部分に局在している移動元素のいずれの場合でも、移動元素は、合金製品の厚さ全体または表面下に、均一に存在または可変的に存在していてもよい。本明細書で使用される場合、移動元素に関連する「均一に存在」とは、特定の移動元素が合金製品の厚さ全体または表面下に均等に分布していることを意味する。これらの場合、領域ごとの(すなわち、表面下部分の領域内または合金製品の厚さ全体の領域内の)特定の移動元素の濃度は、概して、領域にわたり比較的一定である。本明細書で使用される場合、移動元素の分布に関連する「比較的一定」は、合金製品の表面下または厚さ全体の第1の領域中の元素の濃度が、合金製品の表面下または厚さ全体の第2の領域中の元素の濃度から、約20%まで(例えば、約15%まで、約10%まで、約5%まで、または約1%まで)異なり得ることを意味する。
【0036】
他の場合において、領域内の特定の移動元素の濃度は、合金製品の厚さ全体または表面下に可変的に存在する。本明細書で使用される場合、移動元素の分布に関連する「可変的に存在」は、特定の移動元素が合金製品の厚さ全体または表面下に均等に分布していないことを意味する。例えば、表面下の第2の部分(または合金製品の厚さ全体の第2の部分)における同じ移動元素の濃度に比べて、表面下の第1の部分(または合金製品の厚さ全体の第1の部分)に、より高い濃度の移動元素が局所していてもよい。
【0037】
いくつかの例では、合金製品内の移動元素の分布は、濃縮比により特徴付けることが可能である。濃縮比は、表面下の移動元素濃度と合金製品のバルクの移動元素濃度との比較である。いくつかの例では、濃縮比は、表面下における深さで、また合金の厚さにおけるかつ表面下の外部の(すなわち、合金のバルクにおける)深さで、移動元素のピーク原子濃度を測定することにより計算可能である。濃縮比は、以下の等式により定量化され得る:
【数1】
例えば、原子濃度は、ピーク原子濃度がみられる特定の合金製品の表面下における深さを表す2nm、および特定の合金製品のバルク部分における深さを表す40nmで測定可能である。濃縮比は、例えば以下の等式を使用して求めることができる:
【数2】
式中、(原子濃度)
2nmは、2nmにおける移動元素の濃度を表し、(原子濃度)
40nmは、40nmにおける移動元素の濃度を表す。原子濃度は、X線光電子分光法(XPS)を含む当業者に公知の技術を使用して測定され得る。
【0038】
特定の元素についての濃縮比が低いことは、移動元素の濃度が合金製品全体にわたり分布しており、主に表面下に局在していないことを示す。低い濃縮比と考えられる適切な濃縮比は、例えば、約4.0以下(例えば、約1.0~約4.0)を含む。例えば、濃縮比は、およそ4.0以下、3.9以下、3.8以下、3.7以下、3.6以下、3.5以下、3.4以下、3.3以下、3.2以下、3.1以下、3.0以下、2.9以下、2.8以下、2.7以下、2.6以下、2.5以下、2.4以下、2.3以下、2.2以下、2.1以下、2.0以下、1.9以下、1.8以下、1.7以下、1.6以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、または1.0であり得る。
【0039】
特定の元素についての濃縮比が高いことは、高濃度の移動元素が合金製品の表面下に局在していることを示す。高い濃縮比と考えられる適切な濃縮比は、例えば、約4.1以上を含む。例えば、濃縮比は、およそ4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上、4.5以上、4.6以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、5.0以上、5.1以上、5.2以上、5.3以上、5.4以上、5.5以上、5.6以上、5.7以上、5.8以上、5.9以上、6.0以上、6.1以上、6.2以上、6.3以上、6.4以上、6.5以上、6.6以上、6.7以上、6.8以上、6.9以上、7.0以上、7.1以上、7.2以上、7.3以上、7.4以上、7.5以上、7.6以上、7.7以上、7.8以上、7.9以上、または8.0以上であり得る。
【0040】
いくつかの場合において、1つ以上の移動元素については濃縮比が高く、他の移動元素については濃縮比が低い(例えば、除去)アルミニウム合金製品が望ましい。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、Mg、Si、および/またはCuについて低い濃縮比を有していてもよい。いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、Cr、Mn、および/またはFeについて高い濃縮比を有していてもよい。
【0041】
いくつかの場合において、特定の領域における元素の濃縮には、アルミニウム合金製品の別の領域における元素の除去が伴うことがある。いくつかの非限定的な例では、Mg、Si、および/またはCuの濃縮が、アルミニウム合金製品の表面下の領域で起こり得、ここでFeおよびMnが除去され得る。他のいくつかの例では、アルミニウム合金製品は、Cuの濃縮に伴って、Si、Mn、および/またはFeが除去されることを特徴とする表面下を有していてもよい。
【0042】
いくつかの態様では、移動元素の粒径および形態が、アルミニウム合金製品の表面特性に影響を与え得る。例えば、アルミニウム合金製品の表面下における小さなCu分散質および/または粒子(例えば、直径約10nm未満)は、腐食感受性に著しい影響を与えることなく、良好な接合耐久性をもたらすことができる。任意で、Cu分散質および/または粒子は、直径約9nm以下、直径約8nm以下、直径約7nm以下、直径約6nm以下、直径約5nm以下、直径約4nm以下、直径約3nm以下、直径約2nm以下、または直径約1nm以下である。
【0043】
アルミニウム合金製品は、任意の適切な組成を有し得る。非限定的な例では、アルミニウム合金製品は、2xxx系アルミニウム合金、5xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、または7xxx系アルミニウム合金を含み得る。
【0044】
アルミニウム合金製品としての使用のための非限定的な例示的AA2xxx系合金としては、AA2001、A2002、AA2004、AA2005、AA2006、AA2007、AA2007A、AA2007B、AA2008、AA2009、AA2010、AA2011、AA2011A、AA2111、AA2111A、AA2111B、AA2012、AA2013、AA2014、AA2014A、AA2214、AA2015、AA2016、AA2017、AA2017A、AA2117、AA2018、AA2218、AA2618、AA2618A、AA2219、AA2319、AA2419、AA2519、AA2021、AA2022、AA2023、AA2024、AA2024A、AA2124、AA2224、AA2224A、AA2324、AA2424、AA2524、AA2624、AA2724、AA2824、AA2025、AA2026、AA2027、AA2028、AA2028A、AA2028B、AA2028C、AA2029、AA2030、AA2031、AA2032、AA2034、AA2036、AA2037、AA2038、AA2039、AA2139、AA2040、AA2041、AA2044、AA2045、AA2050、AA2055、AA2056、AA2060、AA2065、AA2070、AA2076、AA2090、AA2091、AA2094、AA2095、AA2195、AA2295、AA2196、AA2296、AA2097、AA2197、AA2297、AA2397、AA2098、AA2198、AA2099、またはAA2199を挙げることができる。
【0045】
アルミニウム合金製品として使用するための非限定的な例示的AA5xxx系アルミニウム合金としては、AA5182、AA5183、AA5005、AA5005A、AA5205、AA5305、AA5505、AA5605、AA5006、AA5106、AA5010、AA5110、AA5110A、AA5210、AA5310、AA5016、AA5017、AA5018、AA5018A、AA5019、AA5019A、AA5119、AA5119A、AA5021、AA5022、AA5023、AA5024、AA5026、AA5027、AA5028、AA5040、AA5140、AA5041、AA5042、AA5043、AA5049、AA5149、AA5249、AA5349、AA5449、AA5449A、AA5050、AA5050A、AA5050C、AA5150、AA5051、AA5051A、AA5151、AA5251、AA5251A、AA5351、AA5451、AA5052、AA5252、AA5352、AA5154、AA5154A、AA5154B、AA5154C、AA5254、AA5354、AA5454、AA5554、AA5654、AA5654A、AA5754、AA5854、AA5954、AA5056、AA5356、AA5356A、AA5456、AA5456A、AA5456B、AA5556、AA5556A、AA5556B、AA5556C、AA5257、AA5457、AA5557、AA5657、AA5058、AA5059、AA5070、AA5180、AA5180A、AA5082、AA5182、AA5083、AA5183、AA5183A、AA5283、AA5283A、AA5283B、AA5383、AA5483、AA5086、AA5186、AA5087、AA5187、およびAA5088を挙げることができる。
【0046】
アルミニウム合金製品として使用するための非限定的な例示的AA6xxx系合金としては、AA6101、AA6101A、AA6101B、AA6201、AA6201A、AA6401、AA6501、AA6002、AA6003、AA6103、AA6005、AA6005A、AA6005B、AA6005C、AA6105、AA6205、AA6305、AA6006、AA6106、AA6206、AA6306、AA6008、AA6009、AA6010、AA6110、AA6110A、AA6011、AA6111、AA6012、AA6012A、AA6013、AA6113、AA6014、AA6015、AA6016、AA6016A、AA6116、AA6018、AA6019、AA6020、AA6021、AA6022、AA6023、AA6024、AA6025、AA6026、AA6027、AA6028、AA6031、AA6032、AA6033、AA6040、AA6041、AA6042、AA6043、AA6151、AA6351、AA6351A、AA6451、AA6951、AA6053、AA6055、AA6056、AA6156、AA6060、AA6160、AA6260、AA6360、AA6460、AA6460B、AA6560、AA6660、AA6061、AA6061A、AA6261、AA6361、AA6162、AA6262、AA6262A、AA6063、AA6063A、AA6463、AA6463A、AA6763、A6963、AA6064、AA6064A、AA6065、AA6066、AA6068、AA6069、AA6070、AA6081、AA6181、AA6181A、AA6082、AA6082A、AA6182、AA6091、およびAA6092を挙げることができる。
【0047】
アルミニウム合金製品として使用するための非限定的な例示的AA7xxx系合金の例としては、AA7003、AA7004、AA7204、AA7005、AA7108、AA7108A、AA7009、AA7010、AA7012、AA7014、AA7015、AA7016、AA7116、AA7017、AA7018、AA7019、AA7019A、AA7020、AA7021、AA7022、AA7122、AA7023、AA7024、AA7025、AA7026、AA7028、AA7029、AA7129、AA7229、AA7030、AA7031、AA7032、AA7033、AA7034、AA7035、AA7035A、AA7036、AA7136、AA7037、AA7039、AA7040、AA7140、AA7041、AA7042、AA7046、AA7046A、AA7047、AA7049、AA7049A、AA7149、AA7249、AA7349、AA7449、AA7050、AA7050A、AA7150、AA7055、AA7155、AA7255、AA7056、AA7060、AA7064、AA7065、AA7068、AA7168、AA7072、AA7075、AA7175、AA7475、AA7076、AA7178、AA7278、AA7278A、AA7081、AA7181、AA7085、AA7185、AA7090、AA7093、AA7095、AA7099、およびAA7199を挙げることができる。
【0048】
アルミニウム合金製品は、任意の適切なゲージを有し得る。例えば、アルミニウム合金製品は、約0.5mm~約50mm(例えば、約0.5mm、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm、約15mm、約20mm、約25mm、約30mm、約35mm、約40mm、約45mm、約50mm、またはそれらの間のどこか)のゲージを有する、アルミニウム合金プレート、アルミニウム合金シェート、またはアルミニウム合金シートであり得る。
【0049】
合金製品を製造する方法
特定の態様では、開示される合金製品は、本明細書に記載の方法を使用して製造され得る。本発明を限定することを意図するものではないが、アルミニウム合金の特性は、合金の製造中の微細構造体の形成により部分的に決定される。特定の態様では、合金組成物を製造する方法により、合金が所望の用途に適した特性を有するか否かが決定される。下記のように、圧延(例えば、熱間圧延および/または冷間圧延)、熱処理(例えば、均質化、溶体化、および/または焼鈍し)、および前処理ステップおよび条件を含む特定の加工ステップおよび条件により、所望の接合耐久性および耐食性の特性を有する上記の合金製品がもたらされる。本明細書に記載のアルミニウム合金製品を製造する方法は、溶融アルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を形成するステップと、アルミニウム合金物品を、例えば、焼入れ、圧延、熱処理、および/または前処理を含む1回以上のステップにより加工してアルミニウム合金製品を形成することと、を含み得る。
【0050】
直接チル鋳造および加工
いくつかの場合において、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、インゴットなどの鋳造製品を形成するための直接チル(DC)鋳造プロセスを使用して鋳造され得る。次いで、得られたインゴットをスキャルピングすることができる。次いで、鋳造製品をさらなる加工ステップにかけてもよい。1つの非限定的な例では、加工方法は、アルミニウム合金インゴットを均質化させることと、アルミニウム合金インゴットを熱間圧延してアルミニウム合金ホットバンドを形成することとを含む。次いで、アルミニウム合金ホットバンドを、冷間圧延、溶体化熱処理、および任意で前処理ステップにかけてもよい。
【0051】
均質化
均質化ステップは、約または少なくとも約450℃(例えば、少なくとも約460℃、少なくとも約470℃、少なくとも約480℃、少なくとも約490℃、少なくとも約500℃、少なくとも約510℃、少なくとも約520℃、少なくとも約530℃、少なくとも約540℃、少なくとも約550℃、少なくとも約560℃、少なくとも約570℃、または少なくとも約580℃)のピーク金属温度(PMT)に達するように、本明細書に記載の合金組成物から製造された鋳造製品を加熱することを含み得る。例えば、インゴットは、約450℃~約580℃、約460℃~約575℃、約470℃~約570℃、約480℃~約565℃、約490℃~約555℃、または約500℃~約550℃の温度に加熱され得る。いくつかの場合において、PMTまでの加熱速度は、約100℃/時間以下、75℃/時間以下、50℃/時間以下、40℃/時間以下、30℃/時間以下、25℃/時間以下、20℃/時間以下、または15℃/時間以下であり得る。他の場合には、PMTまでの加熱速度は、約10℃/分~約100℃/分(例えば、約10℃/分~約90℃/分、約10℃/分~約70℃/分、約10℃/分~約60℃/分、約20℃/分~約90℃/分、約30℃/分~約80℃/分、約40℃/分~約70℃/分、または約50℃/分~約60℃/分)であり得る。
【0052】
次いで、インゴットを一定時間にわたり均熱処理する(すなわち、示した温度で保持する)。1つの非限定的な例によると、インゴットを、約6時間まで(例えば、約30分以上~約6時間以下)均熱処理してもよい。例えば、インゴットを、少なくとも約500℃の温度で、約30分、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、もしくは約6時間、またはそれらの間のどこかにわたり均熱処理してもよい。
【0053】
熱間圧延
均質化ステップの後、熱間圧延ステップを行ってホットバンドを形成することができる。特定の場合では、インゴットを横たわらせ、熱間圧延する。熱間圧延温度は、約200℃~約550℃(例えば、約250℃~約500℃、約300℃~約400℃)であり得る。例えば、熱間圧延温度は、約200℃、約205℃、約210℃、約215℃、約220℃、約225℃、約230℃、約235℃、約240℃、約245℃、約250℃、約255℃、約260℃、約265℃、約270℃、約275℃、約280℃、約285℃、約290℃、約295℃、約300℃、約305℃、約310℃、約315℃、約320℃、約325℃、約330℃、約335℃、約340℃、約345℃、約350℃、約355℃、約360℃、約365℃、約370℃、約375℃、約380℃、約385℃、約390℃、約395℃、約400℃、約405℃、約410℃、約415℃、約420℃、約425℃、約430℃、約435℃、約440℃、約445℃、約450℃、約455℃、約460℃、約465℃、約470℃、約475℃、約480℃、約485℃、約490℃、約495℃、約500℃、約505℃、約510℃、約515℃、約520℃、約525℃、約530℃、約535℃、約540℃、約545℃、または約550℃であり得る。
【0054】
いくつかの非限定的な例では、熱間ロールの出口温度は、約200℃~約450℃であり得る。いくつかの例では、熱間ロールの出口温度は、約360℃を上回るべきではない。例えば、熱間ロールの出口温度は、約250℃~約360℃(例えば、約300℃~約350℃)の範囲であり得る。これらの例において、熱間ロールの出口温度は、約250℃、約255℃、約260℃、約265℃、約270℃、約275℃、約280℃、約285℃、約290℃、約295℃、約300℃、約305℃、約310℃、約315℃、約320℃、約325℃、約330℃、約335℃、約340℃、約345℃、約350℃、約355℃、または約360℃であり得る。
【0055】
特定の場合では、鋳造物品を、約4mm~約15mmの厚さのゲージ(例えば、約5mm~約12mmの厚さのゲージ)に熱間圧延することができ、これはシェートと称される。例えば、インゴットは、約4mmの厚さのゲージ、約5mmの厚さのゲージ、約6mmの厚さのゲージ、約7mmの厚さのゲージ、約8mmの厚さのゲージ、約9mmの厚さのゲージ、約10mmの厚さのゲージ、約11mmの厚さのゲージ、約12mmの厚さのゲージ、約13mmの厚さのゲージ、約14mmの厚さのゲージ、または約15mmの厚さのゲージに熱間圧延することができる。特定の場合では、インゴットを、15mmの厚さを上回るゲージ(例えば、プレート)に熱間圧延することができる。他の場合では、インゴットを、4mm未満のゲージ(すなわち、シート)に熱間圧延することができる。
【0056】
冷間圧延
熱間圧延ステップの後に、冷間圧延ステップを実施してもよい。特定の態様では、熱間圧延ステップからのホットバンドをシートに冷間圧延することができる。ホットバンド温度を、約20℃~約200℃(例えば、約120℃~約200℃)の範囲の温度に下げてもよい。冷間圧延ステップを一定期間にわたり実施して、所望の最終ゲージ厚さを得ることができる。任意で、冷間圧延ステップを、約1時間まで(例えば、約10分~約30分)の期間にわたり実施してもよい。例えば、冷間圧延ステップを、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、または約1時間の期間にわたり実施してもよい。
【0057】
任意で、所望の最終ゲージ厚さは、およそ4.0mm未満である。特定の態様では、圧延される製品は、約0.4mm~約1.0mm、約1.0mm~約3.0mm、または約3.0mm~約4.0mm未満の厚さに冷間圧延される。特定の態様では、合金は、約3.5mm以下、約3mm以下、約2.5mm以下、約2mm以下、約1.5mm以下、約1mm以下、約0.5mm以下、約0.4mm以下、約0.3mm以下、約0.2mm以下、もしくは約0.1mm以下、またはその間のどこかに冷間圧延される。
【0058】
溶体化
次いで、冷間圧延されたコイルを溶体化熱処理ステップで溶体化させてもよい。溶体化は、最終ゲージのアルミニウム合金を、室温から、約400℃~約580℃(例えば、約450℃~約575℃、約520℃~約580℃、約530℃~約570℃、約545℃~約575℃、約550℃~約570℃、約555℃~約565℃、約540℃~約560℃、約560℃~約580℃、または約550℃~約575℃)の温度に加熱することを含み得る。例えば、溶体化ステップは、最終ゲージのアルミニウム合金を、約400℃、約405℃、約410℃、約415℃、約420℃、約425℃、約430℃、約435℃、約440℃、約445℃、約450℃、約455℃、約460℃、約465℃、約470℃、約475℃、約480℃、約485℃、約490℃、約495℃、約500℃、約505℃、約510℃、約515℃、約520℃、約525℃、約530℃、約535℃、約540℃、約545℃、約550℃、約555℃、約560℃、約565℃、約570℃、約575℃、または約580℃に加熱することにより実施され得る。
【0059】
いくつかの例では、溶体化は、560℃以下(例えば、約520℃~約560℃)の温度で実施される。例えば、溶体化は、約520℃、約525℃、約530℃、約535℃、約540℃、約545℃、約550℃、約555℃、または約560℃の温度で実施され得る。560℃以下の温度で溶体化させると、合金製品の表面下および合金製品のバルクにおいて所望の粒径および粒径分布の移動元素粒子を有し、かつ特定の移動元素(例えば、MgおよびSi)について低い濃縮比を有する、合金製品を得ることができる。
【0060】
冷間圧延されたコイルを、一定の時間にわたり溶体化温度で均熱処理してもよい。特定の態様では、冷間圧延されたコイルを、およそ2時間まで(例えば、約1秒以上~約120分以下)均熱処理してもよい。例えば、冷間圧延されたコイルを、約525℃~約590℃の溶体化温度で、1秒、5秒、10秒、15秒、20秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、55秒、60秒、65秒、70秒、75秒、80秒、85秒、90秒、95秒、100秒、105秒、110秒、115秒、120秒、125秒、130秒、135秒、140秒、145秒、150秒、5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、65分、70分、75分、80分、85分、90分、95分、100分、105分、110分、115分、もしくは120分、またはそれらの間のどこかにわたり均熱処理してもよい。
【0061】
いくつかの例では、均熱時間がより短いことが望ましい。例えば、冷間圧延されたコイルを、約120秒以下(例えば、115秒以下、110秒以下、105秒以下、100秒以下、95秒以下、90秒以下、85秒以下、80秒以下、75秒以下、70秒以下、65秒以下、60秒以下、55秒以下、50秒以下、45秒以下、40秒以下、35秒以下、30秒以下、25秒以下、20秒以下、15秒以下、10秒以下、5秒以下、または1秒)にわたり均熱処理してもよい。
【0062】
焼入れ
特定の態様では、アルミニウム合金製品を、次いで、選択されたゲージに基づく焼入れステップにおいて、約50℃/秒~400℃/秒の間で変化し得る焼入れ速度で、約35℃の温度に冷却してもよい。例えば、焼入れ速度は、約50℃/秒~約375℃/秒、約60℃/秒~約375℃/秒、約70℃/秒~約350℃/秒、約80℃/秒~約325℃/秒、約90℃/秒~約300℃/秒、約100℃/秒~約275℃/秒、約125℃/秒~約250℃/秒、約150℃/秒~約225℃/秒、または約175℃/秒~約200℃/秒であり得る。
【0063】
焼入れステップでは、アルミニウム合金製品を、液体(例えば水)および/または気体、あるいは別の選択された焼入れ媒体で焼入れする。特定の態様では、アルミニウム合金製品を空気焼入れしてもよい。アルミニウム合金製品を、以下でさらに記載されるように、任意で前処理プロセスにかけてもよい。
【0064】
連続鋳造および加工
本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、アルミニウム合金物品を形成するための連続鋳造(CC)プロセスを使用して鋳造されてもよい。CCプロセスは、ツインベルト鋳造機、ツインロール鋳造機、またはブロック鋳造機の使用を含み得るが、それらに限定されることはない。いくつかの例では、鋳造プロセスは、CCプロセスにより実施され、ビレット、スラブ、シェート、ストリップなどのような鋳造製品を形成する。本明細書に記載のCC法は、以下でさらに記載されるように、溶融合金を水で冷却することにより溶融合金から熱を除去すること、溶融合金の供給速度を制御すること、または溶融合金の鋳造速度を制御することを含み得る。溶融合金から熱を除去することにより、溶融合金中の移動元素の拡散を制御することができる。
【0065】
いくつかの非限定的な例では、連続鋳造法は、制御された手法で熱を除去して、金属物品中の移動元素の拡散を制御することを含み得る。いくつかの態様では、熱の除去の制御なしで溶融合金を凝固させると、溶融合金中の移動元素の不所望な拡散が起こる可能性がある。いくつかの場合において、移動元素が凝固中に溶融合金の表面に拡散し、不所望な表面特性を有する鋳造金属物品がもたらされることがある。いくつかの非限定的な例では、凝固の速度を制御する(例えば、制御された手法で熱を除去する)ことにより、移動元素の拡散を制御することができ、したがって、所望の表面特性を有する鋳造金属物品がもたらされる。いくつかの態様では、移動元素の拡散を制御することにより、鋳造金属物品表面の選択的な濃縮をもたらすことができ、したがって、調整された表面特性を有する鋳造金属物品がもたらされる。
【0066】
溶融合金からの熱の除去は、水による冷却、空気による冷却、鋳造キャビティへの溶融合金の供給速度の制御、または一対の移動性の対向した鋳造表面の速度の制御を含む、任意の適切な方法により実施され得る。水による冷却は、1個または複数個のノズルのいずれかを用いて水を溶融合金に直接供給することにより実施され得る。同様に、空気による冷却も、1個または複数個のノズルを用いて強制空気を溶融合金に直接供給することにより実施され得る。いくつかの例では、鋳造キャビティへの溶融合金の供給速度を制御することにより、移動元素の拡散を制御することができる。供給速度が遅くなるほど、溶融合金が溶融金属射出機のより近くで凝固し得るため、移動元素の不所望な拡散が抑制される。同様に、供給速度が速くなるほど、溶融合金が溶融金属射出機からより遠くで凝固し得るため、移動元素の不所望な拡散が起こり得る。いくつかの例では、一対の移動性の対向した鋳造表面の速度を制御することにより、移動元素の拡散を制御することができる。一対の移動性の対向した鋳造表面の速度が遅くなるほど、溶融合金が溶融金属射出機のより近くで凝固し得るため、移動元素の不所望な拡散が抑制される。同様に、一対の移動性の対向した鋳造表面の速度が速くなるほど、溶融合金が溶融金属射出機からより遠くで凝固し得るため、移動元素の不所望な拡散が起こり得る。
【0067】
いくつかの非限定的な例では、移動元素の拡散速度を制御することにより、移動元素を選択的に拡散させることができる。例えば、第1の移動元素の拡散を促進し、かつ同時に第2の移動元素の拡散を抑制することができる速度で、溶融金属から熱を除去することができる。したがって、金属物品をもたらすための溶融合金の凝固中に、選択された移動元素により、金属物品表面を選択的に濃縮することができる。
【0068】
次いで、鋳造アルミニウム合金物品を、アルミニウム合金製品を形成するためのさらなる加工ステップにかけてもよい。加工ステップは、例えば、焼入れ、熱間圧延、冷間圧延、および/または焼鈍しのステップを含み得る。
【0069】
焼入れ
鋳造ステップの後に、鋳造アルミニウム合金物品を焼入れしてもよい。焼入れステップでは、鋳造アルミニウム合金物品を、約300℃以下の温度に冷却してもよい。例えば、鋳造アルミニウム合金物品を、約290℃以下、約280℃以下、約270℃以下、約260℃以下、約250℃以下、約240℃以下、約230℃以下、約220℃以下、約210℃以下、約200℃以下、約190℃以下、約180℃以下、約170℃以下、約160℃以下、約150℃以下、約140℃以下、約130℃以下、約120℃以下、約110℃以下、約100℃以下、約90℃以下、約80℃以下、約70℃以下、約60℃以下、約50℃以下、または約40℃以下(例えば、約25℃)の温度に冷却してもよい。焼入れステップは、液体(例えば、水)、気体(例えば、空気)、または別の選択された焼入れ媒体を使用して実施され得る。
【0070】
熱間圧延およびホットバンドの形成
この方法はまた、鋳造アルミニウム合金物品を熱間圧延して、圧延アルミニウム合金物品(例えば、ホットバンド)を製造するステップを含む。鋳造アルミニウム合金物品を熱間圧延するステップは、鋳造アルミニウム合金物品の厚さを、少なくとも約30%~約80%まで(例えば、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、または約75%)減少させることを含み得る。熱間圧延は、約400℃~約600℃(例えば、約425℃~約575℃または約450℃~約550℃)の温度で実施され得る。例えば、熱間圧延ステップは、約400℃、約410℃、約420℃、約430℃、約440℃、約450℃、約460℃、約470℃、約480℃、約490℃、約500℃、約510℃、約520℃、約530℃、約540℃、約550℃、約560℃、約570℃、約580℃、約590℃、約600℃、またはそれらの間のどこかの温度で実施され得る。
【0071】
冷間圧延および焼鈍し
次いで、例えば、シングルスタンドミルまたはマルチスタンドミルを使用して冷間圧延ステップを実施してもよい。いくつかの場合において、冷間圧延ステップは、1段階冷間圧延プロセスである。いくつかの場合において、冷間圧延ステップは、2段階冷間圧延プロセスである。
【0072】
1段階冷間圧延プロセスでは、コイルまたはシートの温度を、約20℃~約150℃(例えば、約120℃~約200℃)の範囲の温度に下げることができる。いくつかの場合において、コイルまたはシートは、約20℃~約150℃の入口温度範囲で冷間圧延される。入口温度は、例えば、約20℃、約30℃、約40℃、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃であり得る。いくつかの場合において、冷間ロールの出口温度は、約80℃~約200℃の範囲にあり得る。冷間ロールの出口温度は、例えば、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃、約160℃、約170℃、約180℃、約190℃、または約200℃であり得る。
【0073】
冷間圧延ステップを一定時間にわたり実施して、約0.2mm~約6mmのゲージを得ることができる。例えば、得られるゲージは、約0.5mm~約5.5mmまたは約0.8mm~約5.0mmであり得る。任意で、冷間圧延ステップは、約1時間まで(例えば、約10分~約30分)の期間にわたり実施され得る。例えば、冷間圧延ステップは、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、または約1時間の期間にわたり実施され得る。
【0074】
上述したように、冷間圧延ステップは、冷間圧延中に中間焼鈍しステップが実施される2段階冷間圧延プロセスであり得る。2段階冷間圧延プロセスでは、コイルまたはシートの温度を、約20℃~約150℃(例えば、約120℃~約200℃)の範囲の温度に下げることができる。いくつかの場合において、コイルまたはシートは、約20℃~約150℃の入口温度範囲で冷間圧延される。入口温度は、例えば、約20℃、約30℃、約40℃、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、または約150℃であり得る。いくつかの場合において、冷間ロールの出口温度は、約80℃~約200℃の範囲であり得る。出口温度は、例えば、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃、約160℃、約170℃、約180℃、約190℃、または約200℃であり得る。
【0075】
冷間圧延ステップの第1の段階を一定時間にわたり実施して、約1.2mm~約6mmのゲージを得ることができる。例えば、得られるゲージは、約1.25mm~約5.5mm、約1.3mm~約4mm、約1.4mm~約3.5mm、または約1.5mm~約3mmであり得る。任意で、冷間圧延ステップは、約1時間まで(例えば、約10分~約30分)の期間にわたり実施され得る。例えば、冷間圧延ステップは、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、または約1時間の期間にわたり実施され得る。
【0076】
2段階冷間圧延プロセスの次のステップとして、本明細書で中間焼鈍しステップと称される焼鈍しプロセスを行うことができる。中間焼鈍しステップでは、冷間圧延ゲージが、約4時間までの均熱時間で、約250℃~約450℃(例えば、約275℃~約400℃または約300℃~約375℃)の範囲の温度で保持され得る。例えば、均熱時間は、約10分~約4時間(例えば、約10分、約30分、約1時間、約2時間、約3時間、または約4時間)の範囲であり得る。任意で、中間焼鈍しステップにより、丸い粒子を有する合金を得ることができる。
【0077】
中間焼鈍しステップに続いて、冷間圧延プロセスの第2段階を行うことができる。いくつかの場合において、冷間圧延プロセスの第2段階は、入口温度が約20℃~約150℃の範囲にあるシングルスタンドミルまたはマルチスタンドミルを使用した冷間圧延を含む。入口温度は、例えば、約20℃、約30℃、約40℃、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、または約150℃であり得る。いくつかの場合において、冷間ロールの出口温度は、約80℃~約200℃の範囲であり得る。約3mm以下(例えば、約0.2mm~約2mmまたは約0.2mm~約1.4mm)のゲージを得るためには、出口温度が、例えば、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃、約160℃、約170℃、約180℃、約190℃、または約200℃であり得る。例えば、得られるゲージは、約0.2mm、約0.3mm、約0.4mm、約0.5mm、約0.6mm、約0.7mm、約0.8mm、約0.9mm、約1mm、約1.1mm、約1.2mm、約1.3mm、約1.4mm、約1.5mm、約1.6mm、約1.7mm、約1.8mm、約1.9mm、約2mm、約2.1mm、約2.2mm、約2.3mm、約2.4mm、約2.5mm、約2.6mm、約2.7mm、約2.8mm、約2.9mm、または約3mmであり得る。
【0078】
溶体化
次いで、冷間圧延されたコイルを溶体化熱処理ステップで溶体化させてもよい。溶体化は、最終ゲージのアルミニウム合金を、室温から、約520℃~約590℃(例えば、約520℃~約580℃、約530℃~約570℃、約545℃~約575℃、約550℃~約570℃、約555℃~約565℃、約540℃~約560℃、約560℃~約580℃、または約550℃~約575℃)の温度に加熱することを含み得る。
【0079】
冷間圧延されたコイルを、一定の時間にわたり溶体化温度で均熱処理してもよい。特定の態様では、冷間圧延されたコイルを、およそ2時間まで(例えば、約1秒以上~約120分以下)均熱処理してもよい。例えば、冷間圧延されたコイルを、約525℃~約590℃の溶体化温度で、1秒、5秒、10秒、15秒、20秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、50秒、55秒、60秒、65秒、70秒、75秒、80秒、85秒、90秒、95秒、100秒、105秒、110秒、115秒、120秒、125秒、130秒、135秒、140秒、145秒、150秒、5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、65分、70分、75分、80分、85分、90分、95分、100分、105分、110分、115分、もしくは120分、またはそれらの間のどこかにわたり均熱処理してもよい。
【0080】
焼入れ
特定の態様では、アルミニウム合金製品を、次いで、選択されたゲージに基づく焼入れステップにおいて、約50℃/秒~400℃/秒の間で変化し得る焼入れ速度で、約35℃の温度に冷却してもよい。例えば、焼入れ速度は、約50℃/秒~約375℃/秒、約60℃/秒~約375℃/秒、約70℃/秒~約350℃/秒、約80℃/秒~約325℃/秒、約90℃/秒~約300℃/秒、約100℃/秒~約275℃/秒、約125℃/秒~約250℃/秒、約150℃/秒~約225℃/秒、または約175℃/秒~約200℃/秒であり得る。焼入れステップは、液体(例えば、水)、気体(例えば、空気)、または別の選択された焼入れ媒体を使用して実施され得る。
【0081】
前処理
任意で、本明細書に記載される、DC鋳造またはCCにより鋳造され、続いて加工されるアルミニウム合金製品を前処理してもよい。
【0082】
アルカリ洗浄
本明細書に記載の前処理プロセスは、クリーナー(本明細書ではエントリークリーナーまたはプレクリーナーとも称される)を、アルミニウム合金製品の1つ以上の表面に塗布するステップを含む。エントリークリーナーは、アルミニウム合金製品表面から、残留油または緩く付着している酸化物を除去する。任意で、エントリー洗浄を、7.5以上のpHを有するアルカリ性溶液を使用して実施することができる。場合によって、アルカリ性溶液のpHは、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約10.5、約11、約11.5、約12、約12.5、または約13であり得る。アルカリ性溶液中のアルカリ性剤の濃度は、約1%~約5%(例えば、アルカリ性溶液の体積に基づいて、約1%、約2%、約3%、約4%、または約5%)であり得る。適切なアルカリ性剤としては、例えば、ケイ酸塩および水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム)が挙げられる。アルカリ性溶液は、例えば、アニオン性および非イオン性の界面活性剤を含む、1つ以上の界面活性剤をさらに含み得る。
【0083】
酸エッチングおよび濯ぎ
本明細書に記載の前処理プロセスは、アルミニウム合金製品の表面をエッチングするステップを含むこともできる。アルミニウム合金製品の表面を、酸エッチング(すなわち、7未満のpHを有する酸性溶液を含むエッチング手順)、アルカリエッチング(すなわち、7超のpHを有する塩基性溶液を含むエッチング手順)、または中性条件下でのエッチング(すなわち、7のpHを有する中性溶液を含むエッチング手順)などの化学エッチングを使用してエッチングすることができる。化学エッチングは、前処理の後続の適用を受け入れるように、表面を製造する。このステップの間に、Al酸化物およびMgリッチ酸化物(Mg rich oxide)など、任意の緩く付着している酸化物、封入された油、または破片を適切に除去することができる。酸エッチングを実施するための例示的な化学物質としては、硫酸、フッ化水素酸、硝酸、リン酸、およびこれらの組み合わせが挙げられる。アルカリエッチングを実施するための例示的な化学物質としては、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。酸エッチングステップの後、アルミニウム合金製品の表面を水性または有機溶媒で濯ぐことができる。
【0084】
前処理剤、濯ぎ、乾燥の適用
次いで、アルミニウム合金製品の表面に前処理剤を適用してもよい。任意で、前処理剤は、接着促進剤、腐食抑制剤、カップリング剤、抗菌剤、またはそれらの混合物を含み得る。前処理剤の適用後、アルミニウム合金製品の表面を、任意で、溶媒(例えば、水性または有機溶媒)で濯いでもよい。濯ぎステップの後、アルミニウム合金製品の表面を乾燥させてもよい。
【0085】
使用方法
本明細書に記載のアルミニウム合金製品および方法は、商用車、航空機または鉄道用途などの、自動車、電子機器および輸送機の用途で使用され得る。例えば、アルミニウム合金製品は、強度を得るために、シャシー、クロスメンバー、およびシャシー内構成要素(これらに限定するものではないが、商用車シャシー内の2つのCチャンネル間のすべての構成要素を包含する)に使用でき、高強度鋼の完全なまたは部分的な代替品として機能する。特定の例では、アルミニウム合金製品は、F、T4、T6、またはT8x調質度で使用され得る。
【0086】
特定の態様では、アルミニウム合金製品および方法は、自動車の本体部品製品を製造するために使用され得る。例えば、開示されるアルミニウム合金製品および方法は、バンパー、サイドビーム、ルーフビーム、クロスビーム、ピラー補強材(例えば、Aピラー、Bピラー、およびCピラー)、内部パネル、サイドパネル、フロアパネル、トンネル、構造パネル、補強パネル、インナーフード、またはトランクリッドパネルなど、自動車の本体部品を製造するために使用され得る。開示されるアルミニウム合金製品および方法はまた、航空機または鉄道車両用途において、例えば、外部および内部パネルを製造するためにも使用され得る。
【0087】
本明細書に記載のアルミニウム合金製品および方法はまた、電子機器用途において、例えば、外部および内部エンケースメントを製造するためにも使用され得る。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製品および方法はまた、携帯電話およびタブレットコンピュータを含む電子デバイス用の筐体を製造するためにも使用され得る。いくつかの例では、アルミニウム合金製品は、携帯電話(例えば、スマートフォン)の外部ケーシングおよびタブレット底部シャシー用の筐体を製造するために使用され得る。
【0088】
特定の態様では、アルミニウム合金製品および方法は、航空宇宙機の本体部品製品を製造するために使用され得る。例えば、開示されるアルミニウム合金製品および方法は、スキン合金のような航空機の本体部品を製造するために使用され得る。
【0089】
リン含有表面を有するアルミニウム合金製品
アルミニウム合金製品
本明細書には、例えば抵抗スポット溶接(「RSW」と称される)を含む特定の接合および結合の用途のための最適な接触抵抗特性を含む所望の表面特性を有するアルミニウム合金製品が記載されている。他の組成上の特徴のなかでも、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、アルミニウム合金製品の表面下部分において、ある濃度の残留元素を含む。
【0090】
本明細書で使用される場合、「表面下」という用語は、アルミニウム合金製品の外部表面から合金製品の内部に約150μmまでの深さで延在する、アルミニウム合金製品の部分を指す。任意で、表面下は、合金製品の内部に、約0.01μm、約0.05μm、約0.1μm、約0.15μm、約0.2μm、約0.25μm、約0.3μm、約0.35μm、約0.4μm、約0.45μm、約0.5μm、約0.55μm、約0.6μm、約0.65μm、約0.7μm、約0.75μm、約0.8μm、約0.85μm、約0.9μm、約0.95μm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μm、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm、約10μm、約10.5μm、約11μm、約11.5μm、約12μm、約12.5μm、約13μm、約13.5μm、約14μm、約14.5μm、約15μm、約15.5μm、約16μm、約16.5μm、約17μm、約17.5μm、約18μm、約18.5μm、約19μm、約19.5μm、約20μm、約20.5μm、約21μm、約21.5μm、約22μm、約22.5μm、約23μm、約23.5μm、約24μm、約24.5μm、約25μm、約25.5μm、約26μm、約26.5μm、約27μm、約27.5μm、約28μm、約28.5μm、約29μm、約29.5μm、約30μm、約30.5μm、約31μm、約31.5μm、約32μm、約32.5μm、約33μm、約33.5μm、約34μm、約34.5μm、約35μm、約35.5μm、約36μm、約36.5μm、約37μm、約37.5μm、約38μm、約38.5μm、約39μm、約39.5μm、約40μm、約40.5μm、約41μm、約41.5μm、約42μm、約42.5μm、約43μm、約43.5μm、約44μm、約44.5μm、約45μm、約45.5μm、約46μm、約46.5μm、約47μm、約47.5μm、約48μm、約48.5μm、約49μm、約49.5μm、約50μm、約50.5μm、約51μm、約51.5μm、約52μm、約52.5μm、約53μm、約53.5μm、約54μm、約54.5μm、約55μm、約55.5μm、約56μm、約56.5μm、約57μm、約57.5μm、約58μm、約58.5μm、約59μm、約59.5μm、約60μm、約60.5μm、約61μm、約61.5μm、約62μm、約62.5μm、約63μm、約63.5μm、約64μm、約64.5μm、約65μm、約65.5μm、約66μm、約66.5μm、約67μm、約67.5μm、約68μm、約68.5μm、約69μm、約69.5μm、約70μm、約70.5μm、約71μm、約71.5μm、約72μm、約72.5μm、約73μm、約73.5μm、約74μm、約74.5μm、約75μm、約75.5μm、約76μm、約76.5μm、約77μm、約77.5μm、約78μm、約78.5μm、約79μm、約79.5μm、約80μm、約80.5μm、約81μm、約81.5μm、約82μm、約82.5μm、約83μm、約83.5μm、約84μm、約84.5μm、約85μm、約85.5μm、約86μm、約86.5μm、約87μm、約87.5μm、約88μm、約88.5μm、約89μm、約89.5μm、約90μm、約90.5μm、約91μm、約91.5μm、約92μm、約92.5μm、約93μm、約93.5μm、約94μm、約94.5μm、約95μm、約95.5μm、約96μm、約96.5μm、約97μm、約97.5μm、約98μm、約98.5μm、約99μm、約99.5μm、約100μm、約100.5μm、約101μm、約101.5μm、約102μm、約102.5μm、約103μm、約103.5μm、約104μm、約104.5μm、約105μm、約105.5μm、約106μm、約106.5μm、約107μm、約107.5μm、約108μm、約108.5μm、約109μm、約109.5μm、約110μm、約110.5μm、約111μm、約111.5μm、約112μm、約112.5μm、約113μm、約113.5μm、約114μm、約114.5μm、約115μm、約115.5μm、約116μm、約116.5μm、約117μm、約117.5μm、約118μm、約118.5μm、約119μm、約119.5μm、約120μm、約120.5μm、約121μm、約121.5μm、約122μm、約122.5μm、約123μm、約123.5μm、約124μm、約124.5μm、約125μm、約125.5μm、約126μm、約126.5μm、約127μm、約127.5μm、約128μm、約128.5μm、約129μm、約129.5μm、約130μm、約130.5μm、約131μm、約131.5μm、約132μm、約132.5μm、約133μm、約133.5μm、約134μm、約134.5μm、約135μm、約135.5μm、約136μm、約136.5μm、約137μm、約137.5μm、約138μm、約138.5μm、約139μm、約139.5μm、約140μm、約140.5μm、約141μm、約141.5μm、約142μm、約142.5μm、約143μm、約143.5μm、約144μm、約144.5μm、約145μm、約145.5μm、約146μm、約146.5μm、約147μm、約147.5μm、約148μm、約148.5μm、約149μm、約149.5μm、約150μm、またはその間のどこかの深さで延在する、合金製品の部分を指す。いくつかの例では、表面下は、表面からアルミニウム合金製品の内部の約83μmの深さまで延在する。いくつかの例では、表面下は、表面からアルミニウム合金製品の内部の約5μmの深さまで延在する。いくつかの例では、表面下は、表面からアルミニウム合金製品の内部の約2μmの深さまで延在する。表面下部分を除くアルミニウム合金製品の部分(例えば、合金製品の残部)は、本明細書において、合金製品のバルクと称される。
【0091】
いくつかの態様では、表面下は、アルミニウム合金製品の任意の外部表面から延在し得る。例えば、表面下は、アルミニウム合金製品の第1の側面(例えば、合金シートの上面)、アルミニウム合金製品の第2の側面(例えば、合金シートの底面)、アルミニウム合金製品の第3の側面(例えば、合金シートの第1の縁部)、またはアルミニウム合金製品の第4の側面(例えば、合金シートの第2の縁部)から延在し得る。
【0092】
本明細書で使用される場合、「残留元素」という用語は、以下でさらに記載される特定の製造および加工ステップにかけた後でもアルミニウム合金製品の表面下部分に残る元素を指す。本明細書に記載の残留元素は、例えば、Pを含む。いくつかの態様において、Pは、元素Pとして、または酸化したP(例えば、-3、-2、-1、+1、+2、+3、+4、または+5を含むPの任意の酸化状態)として存在し得る。酸化したPは、例えば、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、または四酸化二リンとして、表面下部分内に存在し得る。いくつかの非限定的な例では、元素Pは、約2at%~約10at%の量で、表面下に残留元素として存在し得る。例えば、元素Pは、約2at%、3at%、4at%、5at%、6at%、7at%、8at%、9at%、10at%、またはそれらの間のどこかの量で存在し得る。
【0093】
アルミニウム合金製品は、任意の適切な組成を有し得る。いくつかの例では、アルミニウム合金製品は、少なくとも約0.001重量%のマグネシウム(Mg)を含む任意のアルミニウム合金から製造され得る。例えば、アルミニウム合金製品は、約0.001重量%~約10重量%(例えば、約0.01重量%~約9重量%、約0.05重量%~約8重量%、または約0.1重量%~約8重量%)のMgを含むアルミニウム合金から製造され得る。任意で、本明細書に記載のアルミニウム合金製品に使用するためのアルミニウム合金は、約0.001重量%、0.002重量%、0.003重量%、0.004重量%、0.005重量%、0.006重量%、0.007重量%、0.008重量%、0.009重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、0.08重量%、0.09重量%、0.1重量%、0.11重量%、0.12重量%、0.13重量%、0.14重量%、0.15重量%、0.16重量%、0.17重量%、0.18重量%、0.19重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、0.9重量%、1.0重量%、1.1重量%、1.2重量%、1.3重量%、1.4重量%、1.5重量%、1.6重量%、1.7重量%、1.8重量%、1.9重量%、2.0重量%、2.1重量%、2.2重量%、2.3重量%、2.4重量%、2.5重量%、2.6重量%、2.7重量%、2.8重量%、2.9重量%、3.0重量%、3.1重量%、3.2重量%、3.3重量%、3.4重量%、3.5重量%、3.6重量%、3.7重量%、3.8重量%、3.9重量%、4.0重量%、4.1重量%、4.2重量%、4.3重量%、4.4重量%、4.5重量%、4.6重量%、4.7重量%、4.8重量%、4.9重量%、5.0重量%、5.1重量%、5.2重量%、5.3重量%、5.4重量%、5.5重量%、5.6重量%、5.7重量%、5.8重量%、5.9重量%、6.0重量%、6.1重量%、6.2重量%、6.3重量%、6.4重量%、6.5重量%、6.6重量%、6.7重量%、6.8重量%、6.9重量%、7.0重量%、7.1重量%、7.2重量%、7.3重量%、7.4重量%、7.5重量%、7.6重量%、7.7重量%、7.8重量%、7.9重量%、8.0重量%、8.1重量%、8.2重量%、8.3重量%、8.4重量%、8.5重量%、8.6重量%、8.7重量%、8.8重量%、8.9重量%、9.0重量%、9.1重量%、9.2重量%、9.3重量%、9.4重量%、9.5重量%、9.6重量%、9.7重量%、9.8重量%、9.9重量%、または10.0重量%の量でMgを含む。
【0094】
非限定的な例では、アルミニウム合金製品は、5xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、または7xxx系アルミニウム合金を含み得る。
【0095】
アルミニウム合金製品としての使用に適した5xxx系アルミニウム合金としては、例えば、AA5005、AA5005A、AA5205、AA5305、AA5505、AA5605、AA5006、AA5106、AA5010、AA5110、AA5110A、AA5210、AA5310、AA5016、AA5017、AA5018、AA5018A、AA5019、AA5019A、AA5119、AA5119A、AA5021、AA5022、AA5023、AA5024、AA5026、AA5027、AA5028、AA5040、AA5140、AA5041、AA5042、AA5043、AA5049、AA5149、AA5249、AA5349、AA5449、AA5449A、AA5050、AA5050A、AA5050C、AA5150、AA5051、AA5051A、AA5151、AA5251、AA5251A、AA5351、AA5451、AA5052、AA5252、AA5352、AA5154、AA5154A、AA5154B、AA5154C、AA5254、AA5354、AA5454、AA5554、AA5654、AA5654A、AA5754、AA5854、AA5954、AA5056、AA5356、AA5356A、AA5456、AA5456A、AA5456B、AA5556、AA5556A、AA5556B、AA5556C、AA5257、AA5457、AA5557、AA5657、AA5058、AA5059、AA5070、AA5180、AA5180A、AA5082、AA5182、AA5083、AA5183、AA5183A、AA5283、AA5283A、AA5283B、AA5383、AA5483、AA5086、AA5186、AA5087、AA5187、またはAA5088が挙げられる。
【0096】
アルミニウム合金製品としての使用に適した6xxx系アルミニウム合金としては、例えば、AA6101、AA6101A、AA6101B、AA6201、AA6201A、AA6401、AA6501、AA6002、AA6003、AA6103、AA6005、AA6005A、AA6005B、AA6005C、AA6105、AA6205、AA6305、AA6006、AA6106、AA6206、AA6306、AA6008、AA6009、AA6010、AA6110、AA6110A、AA6011、AA6111、AA6012、AA6012A、AA6013、AA6113、AA6014、AA6015、AA6016、AA6016A、AA6116、AA6018、AA6019、AA6020、AA6021、AA6022、AA6023、AA6024、AA6025、AA6026、AA6027、AA6028、AA6031、AA6032、AA6033、AA6040、AA6041、AA6042、AA6043、AA6151、AA6351、AA6351A、AA6451、AA6951、AA6053、AA6055、AA6056、AA6156、AA6060、AA6160、AA6260、AA6360、AA6460、AA6460B、AA6560、AA6660、AA6061、AA6061A、AA6261、AA6361、AA6162、AA6262、AA6262A、AA6063、AA6063A、AA6463、AA6463A、AA6763、A6963、AA6064、AA6064A、AA6065、AA6066、AA6068、AA6069、AA6070、AA6081、AA6181、AA6181A、AA6082、AA6082A、AA6182、AA6091、およびAA6092が挙げられる。
【0097】
アルミニウム合金製品としての使用に適した7xxx系アルミニウム合金としては、例えば、AA7003、AA7004、AA7204、AA7005、AA7108、AA7108A、AA7009、AA7010、AA7012、AA7014、AA7015、AA7016、AA7116、AA7017、AA7018、AA7019、AA7019A、AA7020、AA7021、AA7022、AA7122、AA7023、AA7024、AA7025、AA7026、AA7028、AA7029、AA7129、AA7229、AA7030、AA7031、AA7032、AA7033、AA7034、AA7035、AA7035A、AA7036、AA7136、AA7037、AA7039、AA7040、AA7140、AA7041、AA7042、AA7046、AA7046A、AA7047、AA7049、AA7049A、AA7149、AA7249、AA7349、AA7449、AA7050、AA7050A、AA7150、AA7055、AA7155、AA7255、AA7056、AA7060、AA7064、AA7065、AA7068、AA7168、AA7072、AA7075、AA7175、AA7475、AA7076、AA7178、AA7278、AA7278A、AA7081、AA7181、AA7085、AA7185、AA7090、AA7093、AA7095、AA7099、およびAA7199が挙げられる。
【0098】
本文全体にわたりアルミニウム合金製品について記載されているが、方法および製品は、任意の金属に適用される。いくつかの例では、金属製品は、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウムベースの材料、チタン、チタンベースの材料、銅、銅ベースの材料、鋼、鋼ベースの材料、青銅、青銅ベースの材料、真鍮、真鍮ベースの材料、複合材料、複合材料に使用されるシート、または他の任意の適切な金属、もしくは材料の組み合わせである。製品は、モノリシック材料や、ロール接合材料、クラッド材料、複合材料など(限定されることはないが、炭素繊維含有材料など)の非モノリシック材料、または他のさまざまな材料を含み得る。いくつかの例では、金属製品は、金属コイル、金属ストリップ、金属プレート、金属シート、金属ビレット、金属インゴットなどである。いくつかの例では、本明細書に記載の合金元素および/またはその酸化物は、合金元素および/またはその酸化物の濃度が、アルミニウム合金製品のすべての厚さ(例えば、アルミニウム合金のバルク)全体にわたり(すなわち、少なくとも表面下部分およびバルク部分において)分布するように、合金製品全体にわたり拡散することができる。例えば、アルミニウム合金製品は、アルミニウム合金製品全体にわたり分布しており、かつ均質化、熱間圧延、冷間圧延、溶体化を含むさまざまな加工ステップ中に表面下部分に移動し得るMgおよび/またはMgOの濃度を含み得る。
【0099】
他の場合では、P、ならびにMgおよび/またはMgOの濃度により、RSWに従順な少なくとも一部の表面下をもたらすことができる。いくつかの場合において、表面下の接触抵抗をRSWのために最適化させることができる。いくつかの非限定的な例において、接触抵抗が最適化されることにより、少なくともRSW電極先端部および/または電極全体における電子応力(例えば、ジュール加熱)を低減させることができる。いくつかの例では、接触抵抗が増加することにより、電極および/または先端部のジュール加熱が増加し、腐食、疲労、破損、またはそれらの任意の組み合わせを含む熱的に強まった破損メカニズムによる電極および/または先端部の破損が加速することがある。したがって、接触抵抗を最適化させることにより、電極および/または先端部の破損を減速させ、RSW電極の使用寿命を、現在の業界の需要よりも、例えば少なくとも80回の溶接サイクルよりも長くすることができる。例えば、RSW電極および/または先端部は、少なくとも約85回の溶接サイクル、少なくとも約90回の溶接サイクル、少なくとも約95回の溶接サイクル、または少なくとも約100回の溶接サイクルに耐えることができる。
【0100】
いくつかの場合において、アルミニウム合金製品の表面下により高い濃度のMgOが存在すると、RSW電極の使用寿命が短くなることがある。しかしながら、アルミニウム合金をP含有化合物(例えば、リン酸)でエッチングおよび/または洗浄すると、RSW電極の使用寿命を増加させることができる。したがって、いくつかの非限定的な例では、ある濃度の残留Pをアルミニウム合金製品の表面下部分にもたらすことにより、RSW電極の使用寿命を改善することができる。
【0101】
さらに、アルミニウム合金製品の表面にPが存在することにより、表面を安定化させることができる。いくつかの場合において、表面および/または表面下に存在するPおよびMgにより、リン酸マグネシウム(MgPO4)、リン酸二マグネシウム(MgHPO4)、リン酸三マグネシウム(Mg3(PO4)2)、リン化マグネシウム(Mg3P2)、亜リン酸マグネシウム(Mg3(PO3)2)、リン酸二水素マグネシウム(Mg(H2PO4)2)、任意の適切なMg-P化合物、またはそれらの任意の組み合わせを形成することができる。表面および/または表面下にMg-P化合物を形成することにより、MgOの濃度が低下し、表面が安定化されるため、RSW電極の使用寿命が延びる(以下に詳述される式(I)~式(IV)を参照)。
【0102】
いくつかの例では、アルミニウム合金製品の表面をP含有エッチング液(例えば、リン酸と硫酸との混合物(H3PO4/H2SO4))でエッチングすると、(i)MgOの除去および/または(ii)Mg-P化合物形成の促進により、表面および表面下のMgOの濃度を低減させることができる。したがって、P含有エッチング液でのエッチングは、MgO濃度を、P含有エッチング液なしでのエッチングの濃度を上回ってさらに低減させる。いくつかの態様では、本明細書に記載されているようにMgO濃度を低減させることにより、上述のようにRSW電極の使用寿命を延ばすことができる(例えば、少なくとも約100回の溶接サイクルに耐える)。
【0103】
いくつかの非限定的な例では、H
3PO
4/H
2SO
4混合物中の硫酸は、表面または表面下のMgO、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、アルミナ(Al
2O
3)、および/または水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)を溶解させることができる。さらに、H
3PO
4/H
2SO
4混合物中のリン酸は、MgOおよびMg(OH)
2とともに錯体化し、以下の式に記載のさまざまなMg-P化合物を形成することができる:
【表1】
【0104】
アルミニウム合金製品におけるPおよびMgの原子濃度は、アルミニウム合金製品における特定の位置(例えば、深さ)と、アルミニウム合金製品を製造、加工および処理する方法と、に基づいて変わる。さらに、アルミニウム合金製品中のアルミニウム合金材料は、上記のエッチングからのPを含有する。PおよびMgの原子濃度(例えば、P/Mg)は、X線光電子分光法(XPS)を含む当業者に公知の技術を使用して測定され得る。
【0105】
PおよびMgは、例えば、アルミニウム合金製品の表面に、および/または表面下内に存在し得る。アルミニウム合金製品の表面および/または表面下におけるMgに対するPの原子濃度比は、一般的に、約0.001~約10(例えば、約0.005~約9、約0.01~約8、約0.05~約7、約0.1~約6、約0.1~約5、約0.15~約5.5、約0.2~約5、約0.25~約4.5、約0.5~約4、約0.75~約3.5、約1~約3、約1.25~約2.5、または約1.5~約2)の範囲の適切な値を有し得る。例えば、アルミニウム合金製品の表面および/または表面下におけるMgに対するPの原子濃度比は、約0.001、約0.002、約0.003、約0.004、約0.005、約0.006、約0.007、約0.008、約0.009、約0.01、約0.02、約0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、約9、約9.1、約9.2、約9.3、約9.4、約9.5、約9.6、約9.7、約9.8、約9.9、または約10であり得る。表面または表面下におけるMgに対するPの原子濃度比は、表面または表面下におけるMgの原子濃度に対するPの原子濃度の単純な比(例えば、P/Mg)を考慮することにより計算することができ、それぞれ濃度は、例えば、上記のXPSを使用して測定される。いくつかの例において、先の式(I)では、約2のP/Mg比を得ることができ、式(II)では、約1のP/Mg比を得ることができ、式(III)および/または式(IV)では、約0.75のP/Mg比を得ることができる。いくつかの非限定的な例では、P/Mgの原子濃度比は、表面から約83μmまで延在する表面下において、約0.6~約0.7である。
【0106】
黄色度指数(「YI」と称される)により、抵抗スポット溶接用アルミニウム合金について、最適な表面化学を示すことができる。YIとは、アルミニウム合金の表面の少なくとも一部に存在する酸化マグネシウム(MgO)の濃度の結果であり、アルミニウム合金に黄色の外観をもたらす。任意で、YIは、少なくとも15(例えば、少なくとも約18、少なくとも約20、または少なくとも約22)である。YIは、ASTM規格E313に準拠して測定された。
【0107】
本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、任意の適切なゲージを有し得る。例えば、アルミニウム合金製品は、約0.5mm~約50mm(例えば、約0.5mm、約1mm、約2mm、約3mm、約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm、約15mm、約20mm、約25mm、約30mm、約35mm、約40mm、約50mm、またはそれらの間のどこか)のゲージを有する、アルミニウム合金プレート、アルミニウム合金シェート、またはアルミニウム合金シートであり得る。
【0108】
本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、例えば抵抗スポット溶接を含む任意の適切な接合技術による接合の成功に適した表面粗さを有し得る。本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、約25ナノメートル(nm)~約50nmの平均表面粗さを有し得る。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、約25nm、約26nm、約27nm、約28nm、約29nm、約30nm、約31nm、約32nm、約33nm、約34nm、約35nm、約36nm、約37nm、約38nm、約39nm、約40nm、約41nm、約42nm、約43nm、約44nm、約45nm、約46nm、約47nm、約48nm、約49nm、約50nm、またはそれらの間のどこかの表面粗さを有し得る。
【0109】
合金製品を製造する方法
特定の態様では、本明細書に記載のアルミニウム合金製品は、本明細書に記載の方法を使用して製造され得る。範囲を限定することを意図するものではないが、アルミニウム合金製品の特性は、製品の製造中に特定の組成上の特徴が形成されることにより部分的に決定される。以下に記載のように、エッチングステップおよび条件を含む特定の加工ステップおよび条件によって、望ましい接合耐久性の特性、特に、抵抗スポット溶接(RSW)装置の電極先端部における電子応力を低減し、それによりRSW電極の使用寿命を延ばすために必要な最適な表面化学および/または接触抵抗を有する上記のアルミニウム合金製品がもたらされる。
【0110】
本明細書に記載の任意の適切な(すなわち、少なくともいくらかの量のCuを含有する)アルミニウム合金を、任意の適切な方法により鋳造して、鋳造製品を得ることができる。いくつかの例では、合金を、直接チル(DC)鋳造加工を使用して鋳造して、アルミニウム合金インゴットを形成することができる。いくつかの例では、合金を、ツインベルト鋳造機、ツインロール鋳造機、またはブロック鋳造機の使用を挙げることができるが、これらに限定されることはない、連続鋳造(CC)プロセスを使用して鋳造して、ビレット、スラップ、シェート、ストリップなどの形態で鋳造製品を形成することができる。次いで、鋳造製品を、製品を製造するために使用される特定のアルミニウム合金シリーズに基づいて、均質化、熱間圧延、冷間圧延、溶体化熱処理、焼入れ、および/またはエジングを含むが、これらに限定されることはない、加工ステップにかけてもよい。加工に続いて、アルミニウム合金製品を、以下でさらに記載されるように、表面処理ステップにかけてもよい。
【0111】
表面処理
本明細書に記載される、DC鋳造もしくはCCまたは他の方法で鋳造され、続いて加工されるアルミニウム合金製品を、以下に記載の表面処理プロセスにかけてもよい。
【0112】
洗浄
任意で、本明細書に記載の表面処理プロセスは、クリーナー(本明細書ではエントリークリーナーまたはプレクリーナーとも称される)を、アルミニウム合金製品の1つ以上の表面に塗布するステップを含む。エントリークリーナーは、アルミニウム合金製品表面から、残留油または緩く付着している酸化物を除去する。任意で、エントリー洗浄を、7.5以上のpHを有するアルカリ性溶液を使用して実施することができる。場合によって、アルカリ性溶液のpHは、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約10.5、約11、約11.5、約12、約12.5、または約13であり得る。アルカリ性溶液中のアルカリ性剤の濃度は、約1%~約5%(例えば、アルカリ性溶液の体積に基づいて、約1%、約2%、約3%、約4%、または約5%)であり得る。適切なアルカリ性剤としては、例えば、ケイ酸塩および水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム)が挙げられる。アルカリ性溶液は、例えば、アニオン性および非イオン性の界面活性剤を含む、1つ以上の界面活性剤をさらに含み得る。
【0113】
エッチング
本明細書に記載の前処理プロセスは、アルミニウム合金製品の表面をエッチングするステップを含む。アルミニウム合金製品の表面を、酸エッチング(すなわち、酸性溶液を含むエッチング手順)を使用してエッチングすることができる。エッチングステップにより、アルミニウム合金製品の表面下部分にPが堆積する。さらに、エッチングステップは、前処理の後続の適用を受け入れるように、表面を処理する。このステップの間に、Al酸化物およびMgリッチ酸化物など、任意の緩く付着している酸化物、封入された油、または破片を適切に除去すべきである。
【0114】
エッチングステップは、少なくとも1つのP含有化合物を含むエッチング溶液を使用して実施される。いくつかの例では、エッチング溶液での使用に適したP含有化合物として、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、他の任意のP含有酸、およびそれらの組み合わせが挙げられる。例えば、P含有化合物は、リン酸(H3PO4)を含み得る。任意で、エッチング溶液は、硫酸、フッ化水素酸、酢酸、および/または塩酸を含む、1つ以上のさらなる酸を含み得る。いくつかの例では、エッチング溶液は、リン酸と硫酸との混合物を含む。いくつかの場合において、混合物は、硫酸に対するリン酸の比が、約3~約5である。例えば、硫酸に対するリン酸の比は、約3、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、または約5であり得る。
【0115】
上述のように、エッチングステップにより、アルミニウム合金製品の表面下部分に残留元素濃度(例えば、P)が堆積する。いくつかの例では、エッチングステップにより、少なくとも約2at%~約10at%のPが、アルミニウム合金製品の表面下に堆積する。Pのそのような堆積およびその後の酸化により、RSWについて、表面下部分の接触抵抗が最適化され得る。いくつかのさらなる例では、接触抵抗を最適化させることにより、RSW電極への電子応力を低減させ、それにより、RSW電極の使用寿命を、現在の業界の需要よりも延長することができる。
【0116】
エッチング後の濯ぎ
エッチングステップの後、アルミニウム合金製品の表面を溶媒で濯いでもよい。任意で、溶媒は、脱イオン(DI)水、または逆浸透(RO)水などの水溶液であり得る。
【0117】
前処理の適用
任意で、次いで、アルミニウム合金製品の表面に前処理を適用してもよい。適切な前処理としては、例えば、接着促進剤および腐食抑制剤が挙げられる。前処理は、当技術分野で公知の任意の適切な温度で適用することができる。
【0118】
前処理の適用により、アルミニウム合金製品の表面に前処理の薄層が製造される。前処理の適用後、当技術分野で公知のように、アルミニウム合金製品の表面を濯ぐおよび/または乾燥させることができる。
【0119】
使用方法
本明細書に記載のアルミニウム合金製品および方法は、商用車、航空機もしくは鉄道用途、または他の任意の適切な用途などの、自動車、電子機器および輸送機の用途で使用され得る。例えば、アルミニウム合金製品は、強度を得るために、シャシー、クロスメンバー、およびシャシー内構成要素(商用車シャシー内の2つのCチャンネル間のすべての構成要素を包含するが、これらに限定されない)に使用でき、高強度鋼の完全または部分的な代替品として機能する。特定の例では、アルミニウム合金製品は、F、O、T4、T6、またはT8x調質度で使用され得る。
【0120】
特定の態様では、アルミニウム合金製品および方法は、自動車の本体部品製品を製造するために使用され得る。例えば、開示されるアルミニウム合金製品および方法は、バンパー、サイドビーム、ルーフビーム、クロスビーム、ピラー補強材(例えば、Aピラー、Bピラー、およびCピラー)、内部パネル、サイドパネル、フロアパネル、トンネル、構造パネル、補強パネル、インナーフード、またはトランクリッドパネルなど、自動車の本体部品を製造するために使用され得る。開示されるアルミニウム合金製品および方法はまた、航空機または鉄道車両用途において、例えば、外部および内部パネルを製造するためにも使用され得る。
【0121】
本明細書に記載のアルミニウム合金製品および方法はまた、電子機器用途において、例えば、外部および内部エンケースメントを製造するためにも使用され得る。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製品および方法はまた、携帯電話およびタブレットコンピュータを含む電子デバイス用の筐体を製造するためにも使用され得る。いくつかの例では、アルミニウム合金製品は、携帯電話(例えば、スマートフォン)の外部ケーシングおよびタブレット底部シャシー用の筐体を製造するために使用され得る。
【0122】
特定の態様では、アルミニウム合金製品および方法は、航空宇宙機の本体部品製品を製造するために使用され得る。例えば、開示されるアルミニウム合金製品および方法は、スキン合金のような航空機の本体部品を製造するために使用され得る。
【0123】
例示
例示1は、アルミニウム合金製品であって、移動元素と、ある濃度の移動元素を有する表面下部分と、ある濃度の移動元素を有するバルク部分と、を含み、4.0以下の濃縮比を含み、濃縮比が、バルク部分の移動元素の濃度に対する表面下部分の移動元素の濃度の比である、アルミニウム合金製品である。
【0124】
例示2は、移動元素が、Zn、Cu、Mg、またはSiのうちの少なくとも1つを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0125】
例示3は、表面下部分が、アルミニウム合金製品の表面から約5μmの深さまでの領域を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0126】
例示4は、表面下部分が、アルミニウム合金製品の表面から約2μmの深さまでの領域を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0127】
例示5は、濃縮比が、2.0以下である、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0128】
例示6は、濃縮比が、1.5以下である、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0129】
例示7は、濃縮比が、1.0である、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0130】
例示8は、アルミニウム合金製品が、7xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、5xxx系アルミニウム合金、または2xxx系アルミニウム合金を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0131】
例示9は、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品を製造する方法であって、移動元素を含むアルミニウム合金を鋳造して鋳造アルミニウム合金物品を製造することと、鋳造アルミニウム合金物品を圧延して圧延アルミニウム合金物品を用意することと、圧延アルミニウム合金物品を熱処理してアルミニウム合金製品を形成することと、を含み、4.0低い濃縮比をもたらすように、移動元素が、アルミニウム合金製品の表面下部分およびバルク部分内に分布しており、濃縮比が、バルク部分の移動元素の濃度に対する表面下部分の移動元素の濃度の比である、方法である。
【0132】
例示10は、圧延ステップが、約200℃~約550℃の温度で実施される、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0133】
例示11は、熱処理ステップが、約400℃~約580℃の温度で実施される、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0134】
例示12は、熱処理ステップが、約120秒以下にわたり実施される、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0135】
例示13は、鋳造アルミニウム合金製品を前処理することをさらに含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0136】
例示14は、前処理が、鋳造アルミニウム合金製品の表面を洗浄することと、鋳造アルミニウム合金製品の表面をエッチングすることと、鋳造アルミニウム合金製品の表面に前処理を適用することと、を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0137】
例示15は、前処理が、熱処理ステップの後に実施される、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0138】
例示16は、鋳造が、直接チル鋳造を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0139】
例示17は、鋳造が、連続鋳造を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0140】
例示18は、アルミニウム合金製品であって、ある濃度の移動元素を有する表面下部分と、ある濃度の移動元素を有するバルク部分と、を含み、表面下部分における移動元素の濃度が、バルク部分の移動元素の濃度よりも高い、アルミニウム合金製品である。
【0141】
例示19は、移動元素が、Cu、Mn、Cr、および/またはFeを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0142】
例示20は、アルミニウム合金製品が、6xxx系アルミニウム合金または5xxx系アルミニウム合金を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0143】
例示21は、表面下部分およびバルク部分を含み、表面下部分がPを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0144】
例示22は、Pが、元素P、五酸化リン、三酸化リン、一酸化リン、または四酸化二リンのうちの少なくとも1つとして表面下部分内に存在する、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0145】
例示23は、表面下部分が、Pを、約2at%~約10at%の量で含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0146】
例示24は、表面下部分が、アルミニウム合金製品の表面から約150μmの深さまでの領域を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0147】
例示25は、表面下部分が、アルミニウム合金製品の表面から約83μmの深さまでの領域を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0148】
例示26は、アルミニウム合金製品が、約15を上回る黄色度指数を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0149】
例示27は、黄色度指数が、約20を上回る、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品である。
【0150】
例示28は、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載のアルミニウム合金製品の表面を処理する方法であって、表面下部分およびバルク部分を有するアルミニウム合金製品を用意することと、アルミニウム合金製品の表面をP含有化合物を含むエッチング溶液でエッチングすることと、を含む、方法である。
【0151】
例示29は、用意ステップが、少なくとも約0.001重量%のMgを含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0152】
例示30は、用意ステップが、約0.001重量%~約10重量%のMgを含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0153】
例示31は、用意ステップが、5xxx系アルミニウム合金、6xxx系アルミニウム合金、または7xxx系アルミニウム合金を含むアルミニウム合金製品を用意することを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0154】
例示32は、P含有化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびそれらの組み合わせを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0155】
例示33は、エッチング溶液が、1つ以上のさらなる酸をさらに含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0156】
例示34は、1つ以上のさらなる酸が、硫酸、フッ化水素酸、酢酸、および/または塩酸を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0157】
例示35は、エッチング溶液が、リン酸および硫酸を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0158】
例示36は、硫酸に対するリン酸の比が、約3~約5である、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0159】
例示37は、アルミニウム合金製品の表面をエッチングすることにより、アルミニウム合金製品の表面にMgが曝露される、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0160】
例示38は、Mgの曝露が、リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせの形成を含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0161】
例示39は、リン酸マグネシウム、リン化マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、またはそれらの任意の組み合わせの形成が、表面下部分において0.001~10のMgに対するPの原子濃度比をもたらすことを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法である。
【0162】
例示40は、アルミニウム合金製品が、自動車の本体部品、航空宇宙機の本体部品、輸送機の本体部品、船舶の本体部品、自動車パネル、航空宇宙スキンパネル、船舶パネル、電子機器用の筐体、建築構造部品、または建築美学パネルを含む、先または後の例示のうちのいずれか1つに記載の方法により製造されたアルミニウム合金製品である。
【0163】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立つが、それを限定するものではない。それどころか、本明細書の説明を読んだ後に、本発明の趣旨から逸脱することなくそれら自体を当業者に示唆し得るさまざまな実施形態、変更および均等物に頼ることができることを明確に理解されたい。以下の実施例に記載されている研究の間、特記しない限り、従来の手順に従った。説明の目的ために、手順のいくつかを以下に説明する。
【実施例】
【0164】
例1:溶体化による移動元素濃度の制御
6xxx系アルミニウム合金の2つのサンプルを、直接チル鋳造により製造し、均質化、熱間圧延、冷間圧延、溶体化熱処理、空気焼入れ、7%のR243を使用したエッチング、および接着促進剤による前処理により加工した。加工法は、溶体化熱処理ステップのみが異なっていた。第1の合金サンプルを540℃で1秒にわたり溶体化熱処理し(方法1)、第2の合金サンプルを578℃で35秒にわたり溶体化熱処理した(方法2)。
図4は、方法1により製造したサンプル中のMg含量(四角の記号で示される)、方法2により製造されたサンプル中のMg含量(三角の記号で示される)、および溶体化熱処理されなかった比較用6xxx系アルミニウム合金中のMg含量(「AA6xxx;」は丸の記号で示される)について、X線光電子分光法(XPS)深度プロファイルのデータを示す。
図4で明らかなのは、表面下における移動Mgの濃度を制御し、アルミニウム合金製品全体にわたり均一なMgの濃度をもたらす能力である。方法1では、比較用6xxx系アルミニウム合金と比較してMg含量がより多く、アルミニウム合金の表面からバルクまでのMg濃度がより均一になった。方法2では、アルミニウム合金の表面に近いほど、Mg含量がより多くなり、アルミニウム合金のバルクにおけるMg含量はより少なくなり、また、方法1により製造した例示的なアルミニウム合金および比較用6xxx系アルミニウム合金と比較して、Mg含量がより多くなった。比較用6xxx系アルミニウム合金は、アルミニウム合金の表面からバルクまで非常に均一なMg濃度を示し、アルミニウム合金の表面付近では、より少ない総Mg含量を示した。
【0165】
図5は、方法1により製造したアルミニウム合金製品中のSi含量(四角の記号で示される)、方法2により製造したアルミニウム合金製品中のSi含量(三角の記号で示される)、および溶体化熱処理されなかった比較用6xxx系アルミニウム合金中のSi含量(丸の記号で示される)について、XPS深度プロファイルのデータを示す。
図5で明らかなのは、バルクアルミニウム合金における移動ケイ素(Si)の濃度を制御し、アルミニウム合金のバルクに均一なSiの濃度をもたらす能力である。方法1では、アルミニウム合金の表面に近いほど、Si含量がより多くなり、アルミニウム合金のバルクにおけるSi含量がより少なくなった。方法2では、アルミニウム合金の表面付近のSi含量がより多くなり、アルミニウム合金のバルクへのSiの濃度がさらにより均一になった。方法2の合金製品のSi含量は、比較用6xxx系アルミニウム合金製品のSi含量よりも多かった。比較用6xxx系アルミニウム合金は、アルミニウム合金の表面からバルクまで非常に均一かつ非常に低いSi濃度を示し、アルミニウム合金の表面付近では、より少ない総Si含量を示した。
【0166】
図6は、本明細書に記載の方法により製造したアルミニウム合金の接着耐久性についての試験結果を示す。方法1および方法2により製造した例示的なアルミニウム合金サンプルを、一緒に接合し、応力耐久性試験にかけた。応力耐久性試験では、6つの重ね結合部/接合のセットをボルトで順番に接続し、90%の相対湿度(RH)の湿度キャビネット内に垂直に位置決めした。温度は50℃で維持した。2.4kNの力荷重を接合順に加えた。応力耐久性試験は、最大45回のサイクルで行われる周期的な曝露試験である。各サイクルは24時間続く。各サイクルにおいて、接合を22時間、湿度キャビネット内に曝露し、次いで、5%のNaCl中に15分間、均熱処理して、最後に105分間、空気乾燥した。3つの結合部が破損した際は、結合部の特定のセットの試験を中止して、最初の失敗として指摘する。
【0167】
方法2により製造した例示的なアルミニウム合金(左側の組のヒストグラム)は、破損までのサイクル数がより少なく、方法1により製造した例示的なアルミニウム合金(右側の組のヒストグラム)よりも接合耐久性が低いことを示した。破損までの平均サイクルは、各セットの左側のヒストグラム(斜線のヒストグラム)で示され、最初に観測された破損は、各セットの右側のヒストグラム(交差した斜線)で示される。
【0168】
例2:熱間圧延による移動元素濃度の制御
6xxx系アルミニウム合金の2つのサンプルを、直接チル鋳造により製造し、均質化、熱間圧延、冷間圧延、溶体化熱処理、空気焼入れ、7%のR243を使用したエッチング、および接着促進剤による前処理により加工した。加工法は、熱間圧延温度のみが異なっていた。第1の合金サンプルを、390℃のホットミル出口温度で熱間圧延し(方法1)、第2の合金サンプルを、330℃のホットミル出口温度で熱間圧延した(方法2)。
図7は、高温(方法1)および低温(方法2)で圧延された表面により製造したアルミニウム合金製品におけるMg含量のXPS深度プロファイルを示す。方法1により製造したアルミニウム合金サンプルは、アルミニウム合金の表面下において、2の濃縮比および10%のMg濃度を示した。方法2により製造したアルミニウム合金は、アルミニウム合金の表面下において、1.6の濃縮比および5%のMg濃度を示した。
【0169】
例3:洗浄の順番による移動元素濃度の制御
6xxx系アルミニウム合金の2つのサンプルを、直接チル鋳造により製造し、均質化、熱間圧延、冷間圧延、溶体化熱処理、空気焼入れ、7%のR243を使用したエッチング、および接着促進剤による前処理により加工した。加工法は、洗浄ステップのみが異なっていた。第1の合金サンプルを溶体化熱処理の前に前洗浄し(「前洗浄→SHT」と称される)、第2の合金サンプルを溶体化熱処理してから前洗浄した(「SHT→前洗浄」と称される)。双方の後に、酸エッチングおよび前処理の適用が続いた。
【0170】
図8は、アルミニウム合金サンプルにおけるMg含量についてのXPS深度プロファイルのデータを示す。溶体化前に洗浄した例示的なアルミニウム合金(「前洗浄→SHT」と称される)は、6%のMg濃度および2.4の濃縮比を示した。溶体化後に洗浄した例示的なアルミニウム合金(「SHT→前洗浄」と称される)は、1.5%のMg濃度および0.7の濃縮比を示した。
【0171】
例4:連続鋳造アルミニウム合金における移動元素濃度の制御
アルミニウム合金製品を、上記の連続鋳造法により製造した。これらの製品を、幅1450mmで鋳造し、1300mmにトリミングした。その後、これらの製品を熱間圧延し、冷間圧延して5.1mmにし、400℃で2時間にわたり焼鈍しし、冷間圧延して2mmにした。その後、表1に示されるように、これらの製品をさまざまな条件下で溶体化および焼入れした。
【表2】
【0172】
アルミニウム合金シートの表面を、グロー放電発光分光分析(GDOES)により分析した。マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、および鉄(Fe)の量を分析した。表面から2.0μmの深さまで測定を実施した。例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートは、「C1」、「C2」、「C3」、および「C4」と称される。
【0173】
すべてのサンプルを、接着促進剤(「PT」と示される)で前処理した。アルミニウム合金シートの第1の表面(例えば、鋳造機のベルトに接触している表面)は、「LABEL」と示される。分析した第2の表面(例えば、鋳造機のベルトに接触していない表面)は、「UNLABEL」と示される。連続鋳造アルミニウム合金の比較および有効性のために、比較用DC鋳造アルミニウム合金(「D1」と称される)をアルミニウム合金シートの表面濃縮の制御について分析した。
【0174】
図9Aおよび9Bは、アルミニウム合金シートの表面付近(例えば、表面から2.0μmの深さまで)のMg含量のGDOESデータを示す。
図9Aは、アルミニウム合金シートのバルク内に延在するMg含量のデータを示す。
図9Bは、アルミニウム合金シートの表面(例えば、表面から0.5μmの深さまで)にあると考えられるMg含量のデータを示す。
図9Aおよび9Bは、直接チル鋳造により製造されたアルミニウム合金シートの表面へのMgの拡散が多いことを示す(サンプルD1およびD1-lab)。
図9Aおよび9Bは、アルミニウム合金シートの表面へのMgの拡散が減少していること、および上記の例示的な連続鋳造法により製造されたアルミニウム合金シートの表面からバルクへのMgの分布が均一であることを示す。接合および結合の用途には、アルミニウム合金シートの表面付近のMg濃度がより低いことが望ましい。
【0175】
図10Aおよび10Bは、アルミニウム合金シートの表面付近(例えば、表面から2.0μmの深さまで)のSi含量のGDOESデータを示す。
図10Aは、アルミニウム合金シートのバルク内に延在するSi含量のデータを示す。
図10Bは、アルミニウム合金シートの表面(例えば、表面から0.5μmの深さまで)にあると考えられるSi含量のデータを示す。
図10Aおよび10Bは、直接チル鋳造により製造されたアルミニウム合金シートの表面へのSiの拡散が多いことを示す(サンプルD1およびD1-lab)。
図10Aおよび10Bは、アルミニウム合金シートの表面へのSiの拡散が減少していること、および上記の例示的な連続鋳造法により製造されたアルミニウム合金シート表面からバルクへのSiの分布が均一であることを示す。
【0176】
図11Aおよび11Bは、アルミニウム合金シートの表面付近(例えば、表面から2.0μmの深さまで)のCu含量のGDOESデータを示す。
図11Aは、アルミニウム合金シートのバルク内に延在するCu含量のデータを示す。
図11Bは、アルミニウム合金シートの表面(例えば、表面から0.5μmの深さまで)にあると考えられるCu含量のデータを示す。
図11Aおよび11Bは、直接チル鋳造により製造されたアルミニウム合金シートの表面へのCuの拡散が少ないことを示す(サンプルD1およびD1-lab)。
図11Aおよび11Bは、上記の例示的な連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートの表面へのCuの拡散が増加していることを示す。接合および結合の用途には、アルミニウム合金シートの表面へのCuの拡散を制御することが望ましいであろう。
【0177】
図12Aおよび12Bは、アルミニウム合金シートの表面付近(例えば、表面から2.0μmの深さまで)のMn含量のGDOESデータを示す。
図12Aは、アルミニウム合金シートのバルク内に延在するMn含量のデータを示す。
図12Bは、アルミニウム合金シートの表面(例えば、表面から0.5μmの深さまで)にあると考えられるMn含量のデータを示す。
図12Aおよび12Bは、直接チル鋳造により製造されたアルミニウム合金シートの表面へのMnの拡散がないことを示す(サンプルD1およびD1-lab)。
図12Aおよび12Bは、上記の例示的な連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートの表面へのMnの拡散が増加していることを示す。
【0178】
図13Aおよび13Bは、アルミニウム合金シートの表面付近(例えば、表面から2.0μmの深さまで)のCr含量のGDOESデータを示す。
図13Aは、アルミニウム合金シートのバルク内に延在するCr含量のデータを示す。
図13Bは、アルミニウム合金シートの表面(例えば、表面から0.5μmの深さまで)にあると考えられるCr含量のデータを示す。
図13Aおよび13Bは、直接チル鋳造により製造されたアルミニウム合金シートの表面へのCrの拡散がないことを示す(サンプルD1およびD1-lab)。
図13Aおよび13Bは、上記の例示的な連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートの表面へのCrの拡散が増加していることを示す。接合および結合の用途には、アルミニウム合金シートの表面へのCrの拡散を制御することが望ましいであろう。耐食性には、アルミニウム合金シートの表面へのCrの拡散を制御することが望ましいであろう。
【0179】
図14Aおよび14Bは、アルミニウム合金シートの表面付近(例えば、表面から2.0μmの深さまで)のFe含量のGDOESデータを示す。
図14Aは、アルミニウム合金シートのバルク内に延在するFe含量のデータを示す。
図14Bは、アルミニウム合金シートの表面(例えば、表面から0.5μmの深さまで)にあると考えられるFe含量のデータを示す。
図14Aおよび14Bは、直接チル鋳造により製造されたアルミニウム合金シートの表面へのFeの拡散がないことを示す(サンプルD1およびD1-lab)。
図14Aおよび14Bは、上記の例示的な連続鋳造法により製造したアルミニウム合金シートの表面へのFeの拡散が増加していることを示す。
【0180】
例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートおよび比較用直接チル鋳造アルミニウム合金シートについての接合耐久性試験の結果を、例2に記載の手順により行った。この実験について、サイクルを45回完了とは、結合部のセットが接合耐久性試験に合格したことを指摘している。試験結果を以下の表2に示す。表2では、結合部のそれぞれを1~6で番号付け、結合部1は頂部結合部であり、結合部6は、垂直に向けられたときの底部結合部である。「45」以外のセル内の数字は、破損前の成功したサイクルの数を指摘している。セル内の数字「45」は、45回のサイクルにわたり結合部が破損しないままであったことを指摘している。結果を以下の表2にまとめる:
【表3】
【0181】
試験1、2、および3については、例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートから試験クーポンを切り取った。試験クーポンをアルカリおよび酸エッチングにかけ、接合用の表面を洗浄および用意した。アルミニウム合金シートを接着促進剤で前処理し、試験クーポンを接着剤で接合することにより接合を行った。接合した試験クーポンを、45回までの負荷サイクルにわたり湿潤環境に曝露した。
【0182】
試験4については、例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートから試験クーポンを切り取った。試験クーポンを強アルカリ洗浄および酸エッチングにかけ、接合用の表面を洗浄および用意した。アルミニウム合金シートを接着促進剤で前処理し、試験クーポンを接着剤で接合することにより接合を行った。接合した試験クーポンを、45回までの負荷サイクルにわたり湿潤環境に曝露した。
【0183】
試験5については、例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートから試験クーポンを切り取った。試験クーポンを酸エッチングにかけ、接合用の表面を洗浄および用意した。アルミニウム合金シートを接着促進剤で前処理し、試験クーポンを接着剤で接合することにより接合を行った。接合した試験クーポンを、45回までの負荷サイクルにわたり湿潤環境に曝露した。
【0184】
試験6については、例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートから試験クーポンを切り取った。試験クーポンを、実験室炉内で溶体化熱処理し、その後、アルカリおよび酸エッチングにかけ、接合用の表面を洗浄および用意した。アルミニウム合金シートを接着促進剤で前処理し、試験クーポンを接着剤で接合することにより接合を実施した。接合した試験クーポンを、45回までの負荷サイクルにわたり湿潤環境に曝露した。
【0185】
試験7については、比較用直接チル鋳造アルミニウム合金シートから試験クーポンを切り取った。試験クーポンを酸エッチングにかけ、接合用の表面を用意した。アルミニウム合金シートを接着促進剤で前処理し、試験クーポンを接着剤で接合することにより接合を実施した。接合した試験クーポンを、45回までの負荷サイクルにわたり湿潤環境に曝露した。
【0186】
アルミニウム合金シートの表面へのMnおよびCrの拡散が制御された例示的な連続鋳造アルミニウム合金シートは、優れた接合耐久性を示し、破損することなく45回の試験サイクルに耐えた。Mgが表面に拡散した比較用の直接チル鋳造アルミニウム合金シートは、不十分な接合耐久性を示した。
【0187】
例5:さまざまなエッチング液でのエッチング後の抵抗スポット溶接(RSW)電極の寿命
AA5xxx系アルミニウム合金の4つのサンプルを、直接チル鋳造により製造し、均質化、熱間圧延、1.5mmのゲージまでの冷間圧延、溶体化熱処理、空気焼入れ、および4種の異なるエッチング液を使用したエッチングにより製造した。用いたエッチング液は、(i)リン酸と硫酸との混合物(以下の表3では溶液「A」と称される)、(ii)硫酸とフッ化アンモニウムとの混合物(以下の表3では溶液「B」と称される)、(iii)硫酸と硫酸鉄(III)水和物との混合物(以下の表3では溶液「C」と称される)、および(iv)水酸化ナトリウム(以下の表3では溶液「D」と称される)であった。水酸化ナトリウム(NaOH)は、表面下から酸化物層を除去する能力があるため、比較用対照エッチング液として使用した。
【表4】
【0188】
図15は、上記のさまざまなエッチング液でエッチングした後の、アルミニウム合金サンプルを溶接するために用いられるRSW電極のRSW電極使用寿命を示すグラフである。特に滞留時間が少なくとも20秒の場合(例えば、表3のエッチング15および16)、圧延アルミニウム合金製品上に存在する変形した酸化物層を完全に除去することが当技術分野で知られているため、溶液D(NaOH)を比較用対照エッチング液として使用した。
図15のグラフで明らかであるように、溶液A(リン酸と硫酸との混合物(H
3PO
4/H
2SO
4))により、現在の業界の需要である溶接80回よりも多い溶接100回のRSW電極寿命がもたらされた。さらに、
図15の例では、H
3PO
4/H
2SO
4の混合物により、アルミニウムの表面から約83μmの深さまで延在する表面下において、約0.65のP/Mgの原子濃度比がもたらされた。溶液B(硫酸とフッ化アンモニウムとの混合物(H
2SO
4/NH
4F))により、2秒間のエッチングでRSW電極寿命が溶接80回になったものの、エッチング滞留時間がより長くなると、電極寿命の損失が生じた。溶液C(硫酸と硫酸鉄(III)水和物との混合物(H
2SO
4/Fe
2(SO
4)
3))は、低い性能を示し、RSW電極寿命を著しく減少させた。したがって、PをMg含有表面下に組み込むことにより、RSW電極寿命が著しく増加した。
【0189】
図16は、実施した各エッチング(表3のエッチング1~16)についてのエッチング重量(すなわち、エッチング中にアルミニウム合金の表面から除去された材料の量)を示すグラフである。
図16のグラフで明らかであるように、また上記のように、溶液Dは最大のエッチング重量をもたらすことができるため、比較用溶液として使用した。エッチング溶液A、B、Cのうち、溶液Bは最大のエッチング重量をもたらし、溶液AおよびCは類似したエッチング重量をもたらし、どちらも溶液Bによりもたらされたエッチング重量よりも少なかった。
図15を参照すると、溶液Bは最大のエッチング重量をもたらす(
図16を参照)ものの、RSW電極寿命の改善は示さなかった。驚くべきことに、溶液AおよびCは、類似したエッチング重量をもたらしたものの、同時に著しく異なるRSW電極寿命をもたらした。特に、溶液A(P含有)は、著しく改善されたRSW電極寿命をもたらし、溶液Cは、RSW電極寿命にとって不利益であった。したがって、変形した酸化物層の除去だけでは、RSW電極寿命を改善するには不十分である。
図15および16で明らかであるように、変形した酸化物層の一部の除去と、残留P濃度の存在とは、RSW電極寿命を改善するために調和的に機能し得る。
【0190】
図17~20は、上記のアルミニウム合金サンプルの表面付近(例えば、表面から5.0μmの深さまで)のMg含量のグロー放電発光分光分析(GDOES)のデータを示すグラフである。
図17は、溶液Aでエッチングしたアルミニウム合金サンプルのバルクに延在するMg含量のデータを示す。
図18は、溶液Bでエッチングしたアルミニウム合金サンプルのバルクに延在するMg含量のデータを示す。
図19は、溶液Cでエッチングしたアルミニウム合金サンプルのバルクに延在するMg含量のデータを示す。
【0191】
図20は、溶液Dでエッチングしたアルミニウム合金サンプルのバルクに延在するMg含量のデータを示す。理論に拘束されるものではないが、アルミニウム合金サンプルの表面下部分にみられるMg濃度は、RSW電極寿命に悪影響を与える可能性がある。驚くべきことに、アルミニウム合金のサンプルを溶液A(P含有)でエッチングすると、サンプルがアルミニウム合金の表面下にMg濃度を含んでいても、RSW電極寿命が著しく改善された。比較溶液Dでエッチングしたアルミニウム合金サンプル(
図20)は、アルミニウム合金の表面付近のMgがほぼ完全に除去されていることを示し、さらに、P含有化合物でのエッチング後にMgおよび/またはMg含有化合物(例えば、MgO)が存在することにより、著しく改善されたRSW電極寿命がもたらされることを示した。
【0192】
さらに、
図19は、溶液Cでエッチングされたアルミニウム合金サンプルのGDOESデータを示す。
図19のグラフで明らかであるように、Mgおよび/またはMg含有化合物は、アルミニウム合金サンプルの表面付近に存在するが、溶液CはPを含有しておらず、RSW電極寿命にとって不利益であった(
図15を参照)。したがって、エッチング溶液中にPが存在せずに、アルミニウム合金の表面付近にMgおよび/またはMg含有化合物が存在すると、RSW電極寿命にとって不利益となり得る。
【0193】
例6:さまざまなエッチング液でのエッチング後のアルミニウム合金表面の特性
いくつかの態様では、合金元素および/または合金元素酸化物の粒径および形態が、アルミニウム合金製品の表面特性に影響を与え得る。例えば、
図21、22、23、および24は、上記のアルミニウム合金サンプルの走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真を示す。
図21A~Dは、溶液Aを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルのSEM顕微鏡写真を示す。
図21Aおよび21Bは、エッチング1からのSEM顕微鏡写真を示す(表3を参照)。
図21Cおよび21Dは、エッチング4からのSEM顕微鏡写真を示す。
図21Aおよび21Cは、走査型電子モードからの顕微鏡写真である。
図21Bおよび21Dは、後方散乱電子モードからの顕微鏡写真である。
図22A~Dは、溶液Bを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルのSEM顕微鏡写真を示す。
図22Aおよび22Bは、エッチング5からのSEM顕微鏡写真を示す。
図22Cおよび22Dは、エッチング7からのSEM顕微鏡写真を示す。
図22Aおよび22Cは、走査型電子モードからの顕微鏡写真である。
図22Bおよび22Dは、後方散乱電子モードからの顕微鏡写真である。
図23A~Dは、溶液Cを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルのSEM顕微鏡写真を示す。
図23Aおよび23Bは、エッチング9からのSEM顕微鏡写真を示す。
図23Cおよび23Dは、エッチング12からのSEM顕微鏡写真を示す。
図23Aおよび23Cは、走査型電子モードからの顕微鏡写真である。
図23Bおよび23Dは、後方散乱電子モードからの顕微鏡写真である。
図24A~Dは、溶液Dを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルのSEM顕微鏡写真を示す。
図24Aおよび24Bは、エッチング13からのSEM顕微鏡写真を示す。
図24Cおよび24Dは、エッチング16からのSEM顕微鏡写真を示す。
図24Aおよび24Cは、走査型電子モードからの顕微鏡写真である。
図24Bおよび24Dは、後方散乱電子モードからの顕微鏡写真である。
図21~24で明らかであるように、溶液B(
図22)は、エッチング溶液A、B、およびCのうち最大のエッチング重量をもたらし(
図16を参照)、したがって、Mgおよび/またはMg含有化合物の粒子(
図21、23、および24では明るい点で示される)の量が減少し、かつ変形した酸化物層(
図21、23、および24ではより暗い灰色の領域として示される)が減少した表面をもたらした。
【0194】
厚さ1.1mmの市販のAA5182アルミニウム合金シートを製造時の状態で使用した(すなわち、アルミニウム合金シートを本明細書に記載の方法によりエッチングしなかった)。アルミニウム合金シートをRSW試験にかけた。
図25のパネルAは、銅のRSW電極先端部を示す。
図25のパネルAの例では、MgO粒子1105がRSW電極先端部に付着した。
図25のパネルBは溶接部の顕微鏡写真を示し、
図25のパネルCは
図25のパネルBの高倍率画像である。
図25のパネルCに示されるように、暗い領域1110は、アルミニウム合金シートの表面に、または表面下内に存在するMgOを示す。
図25のパネルCの例では、Mg含量は6.9%であった。製造時のAA5182アルミニウム合金は、4%~5%のMg(例えば、約4.5%のMg)を含有する。表面または表面下における6.9%のMg含量は、加工中にアルミニウム合金のバルクから表面へとMgが移動したことを示し、アルミニウム合金の表面または表面下に不所望な量のMgOをもたらした。したがって、RSW試験中に、MgO粒子がRSW電極先端部に付着した。このようにMgO粒子が取り出されると、RSW電極寿命が著しく減少し得る。したがって、本明細書に記載の方法によりアルミニウム合金シートの表面をエッチングおよび/または洗浄すると、アルミニウム合金の表面または表面下からMgOを除去し、上記のMg-P化合物を形成し、RSW電極によるMgOの取り出しをなくし、RSW電極寿命を延ばすことができる。
【0195】
図26は、上記のように製造したアルミニウム合金サンプルの黄色度指数(YI)を示すグラフである。上記のように、YIは、アルミニウム合金の表面におけるMgおよび/またはMg含有化合物(例えば、MgO)の存在を示すことができる。有意なYIが欠落していることは、破線で示される(例えば、YIが約1未満)。比較用溶液Dを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプル(例えば、最大のエッチング重量をもたらすもの)は、特にエッチング滞留時間が20秒を超えると、非常に低いYIを示した(例えば、エッチング14、15および16、表3を参照)。YIが非常に低いことは、アルミニウム合金の表面のMgまたはMg含有化合物の濃度が無視できる程度であることを示す。さらに、溶液Bを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプル(例えば、例示的なエッチング溶液(溶液A、B、およびC)のうち最大のエッチング重量をもたらすもの)は、低いYIを示し、アルミニウム合金サンプルの表面からMgおよび/またはMg含有化合物が著しく除去されることを示した。溶液AおよびCを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプル(例えば、低いエッチング重量をもたらすもの)は、各サンプルについて大きなYIを示し、溶液BおよびDを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルよりも大きなMgおよび/またはMg含有化合物の濃度を示した。驚くべきことに、溶液Aを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルは、アルミニウム合金サンプルの表面に著しいMgおよび/またはMg含有化合物濃度を有する場合でも、RSW電極寿命の著しい改善をもたらした。また、YIの増加がエッチング参照番号1からエッチング参照番号2で観察され(例えば、「逆効果」が観察された)、このことは、エッチング手順によりさらなるMgが合金表面に曝露され、一度曝露されたさらなるMgが酸化されたことを示す。さらなるMgは、Mgが濃縮された表面下に起因する可能性がある。驚くべきことに、溶液Cを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルは、溶液Aを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルと類似したYIを示す場合、RSW電極寿命に対して不利益な効果を示した。したがって、エッチング重量がより少ないことで、残留Pが残っている可能性のあるP含有化合物でのエッチングにより生成されたアルミニウム合金表面下に、Mgおよび/またはMg含有化合物の濃度が残ることが可能になる最適化された表面化学により、RSW電極寿命の著しい改善がもたらされた。すべてのサンプルについてのYIの標準偏差は、平均YIの1.5%未満であった。
【0196】
図27は、上記のように製造したアルミニウム合金サンプルの表面粗さを示すグラフである。溶液AおよびCを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプル(例えば、低いエッチング重量をもたらすもの)は、各サンプルのエッチング時間の増加に伴う表面粗さについて無視できる程度の変化を示し、溶液BおよびDを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルと比較して、エッチング時間にかかわらず、より均一なエッチング(すなわち、表面材料のより均一な除去)を示した。驚くべきことに、溶液Aを使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルは、溶液BおよびD、特にエッチング参照番号8、14、15、および16を使用してエッチングしたアルミニウム合金サンプルと比較して、表面粗さがより低い場合でも、RSW電極寿命の大幅な改善をもたらした。
【0197】
上に引用された全ての特許、刊行物、および要約は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明のさまざまな実施形態は、本発明のさまざまな目的を達成するために記載されている。これらの実施形態は、本発明の原理の単なる例示であることが認識されるべきである。多くの変更およびその適合は、以下の特許請求の範囲で定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者には容易に明らかであろう。