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特許7191137ナノ突起構造体検査装置およびナノ突起構造体検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】ナノ突起構造体検査装置およびナノ突起構造体検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20221209BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20221209BHJP
   G01B 11/22 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G01B11/24 K
G01B11/02 H
G01B11/22 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021021403
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022123932
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】土屋 詔一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 正孝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】内村 将大
(72)【発明者】
【氏名】立山 望美
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050609(WO,A1)
【文献】特開2002-014058(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118596(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/008643(WO,A1)
【文献】特開2014-026197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01N 21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面である被検査面に検査光を照射する検査光照射部と、
前記被検査面による前記検査光の正反射方向に対して撮影素子の撮影光軸を傾けて配置され、正反射光および拡散反射光を含む前記被検査面からの前記検査光の反射光のうち前記拡散反射光を撮影素子によって受光することで、前記被検査面におけるナノスケールの突起構造体を検査する色彩輝度計と、
を備えたことを特徴とする、ナノ突起構造体検査装置。
【請求項2】
前記金属の材質は銅であり、
前記検査光照射部が照射する前記検査光の波長域には、可視光の波長域が含まれており、
前記色彩輝度計は、少なくとも可視光の波長域の受光結果を出力することを特徴とする、請求項1に記載のナノ突起構造体検査装置。
【請求項3】
前記金属の材質はアルミニウムであり、
前記検査光照射部が照射する前記検査光の波長域には、近紫外光の波長域が含まれており、
前記色彩輝度計は、少なくとも近紫外光の波長域の受光結果を出力することを特徴とする、請求項1に記載のナノ突起構造体検査装置。
【請求項4】
前記被検査面による前記検査光の正反射方向に対する、前記撮影素子の前記撮影光軸の傾きが50度以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のナノ突起構造体検査装置。
【請求項5】
検査光照射部によって、金属の表面である被検査面に検査光を照射させる検査光照射ステップと、
前記被検査面による前記検査光の正反射方向に対して撮影素子の撮影光軸を傾けて配置された色彩輝度計によって、正反射光および拡散反射光を含む前記被検査面からの前記検査光の反射光のうち、前記拡散反射光を撮影させることで、前記被検査面におけるナノスケールの突起構造体を検査する検査ステップと、
を含むことを特徴とする、ナノ突起構造体検査方法。
【請求項6】
前記金属の材質は銅であり、
前記検査光照射ステップにおいて照射される前記検査光の波長域には、可視光の波長域が含まれており、
前記検査ステップでは、少なくとも可視光の波長域の受光結果に基づいて前記突起構造体が検査されることを特徴とする、請求項5に記載のナノ突起構造体検査方法。
【請求項7】
前記金属の材質はアルミニウムであり、
前記検査光照射ステップにおいて照射される前記検査光の波長域には、近紫外光の波長域が含まれており、
前記検査ステップでは、少なくとも近紫外光の波長域の受光結果に基づいて前記突起構造体が検査されることを特徴とする、請求項5に記載のナノ突起構造体検査方法。
【請求項8】
前記被検査面による前記検査光の正反射方向に対する、前記撮影素子の前記撮影光軸の傾きが50度以上であることを特徴とする、請求項5から7のいずれかに記載のナノ突起構造体検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属表面に形成されたナノ突起構造体の検査を行うためのナノ突起構造体検査装置およびナノ突起構造体検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検査材の表面を光学的に検査するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の表面凹凸検査装置は、照射部、撮像部、および検査部を備える。照射部は、被検査面に対して斜め上方からライン光を照射する。撮像部は、被検査面で反射するライン光のうち、正反射するライン光の反射光だけを撮影する。検出部は、反射光の輝度から、反射光が発せられた被検査面の表面角度を求め、求められた表面角度に基づいて、被検査面の凹凸状態を検出する。特許文献1には、凹凸のギャップが10μm程度の欠陥を検査するとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-52339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ナノスケールの突起構造体(以下、単に「ナノ突起構造体」という)を金属表面に形成する技術が徐々に注目されている。例えば、ナノ突起構造体が形成された金属表面に樹脂体を接合することで、金属と樹脂体の接合強度を向上させる試み等が行われている。しかしながら、特許文献1に例示される従来の光学的検査方法では、被検査面におけるマイクロスケールの欠陥の有無を検査することが限界であり、ナノ突起構造体を検査することは困難であった。また、微小な構造体が形成された金属表面の断面部を、走査型電子顕微鏡(SEM)等によって観察することで、ナノスケールの突起を検査することも可能ではある。しかし、走査型電子顕微鏡によって検査可能な範囲は微小であり、且つ、断面部を観察するために金属を破壊する必要もある。以上のように、金属表面に形成されたナノ突起構造体の検査を効率良く行うことは、従来の技術では困難であった。
【0005】
本発明の典型的な目的は、金属表面に形成されたナノ突起構造体の検査を効率良く行うことが可能なナノ突起構造体検査装置およびナノ突起構造体検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される一態様のナノ突起構造体検査装置は、金属の表面である被検査面に検査光を照射する検査光照射部と、上記被検査面による前記検査光の正反射方向に対して撮影素子の撮影光軸を傾けて配置され、正反射光および拡散反射光を含む上記被検査面からの上記検査光の反射光のうち上記拡散反射光を撮影素子によって受光することで、上記被検査面におけるナノスケールの突起構造体を検査する色彩輝度計と、を備える。
【0007】
また、ここに開示される一態様のナノ突起構造体検査方法は、検査光照射部によって、金属の表面である被検査面に検査光を照射させる検査光照射ステップと、上記被検査面による上記検査光の正反射方向に対して撮影素子の撮影光軸を傾けて配置された色彩輝度計によって、正反射光および拡散反射光を含む上記被検査面からの上記検査光の反射光のうち、上記拡散反射光を撮影させることで、上記被検査面におけるナノスケールの突起構造体を検査する検査ステップと、を含む。
【0008】
本願発明の発明者は、被検査面からの検査光の直接反射光が、撮影素子によって受光されると、金属の表面に残存している僅かな金属光沢が、色彩輝度計による撮影結果に影響を与えてしまい、ナノ突起構造体の検査精度が低下することを見出した。つまり、本願発明の発明者は、被検査面からの検査光の反射光のうち、直接反射光が撮影素子によって受光されることを抑制し、拡散反射光が受光されるように撮影が行われることで、被検査面に形成された複数のナノスケールの突起の形状(例えば、突起の根元から先端までの高さ等)と、色彩輝度計による撮影結果との間の相関が高くなることを見出した。
【0009】
本開示に係るナノ突起構造体検査装置およびナノ突起構造体検査方法では、色彩輝度計の撮影素子の撮影光軸が、被検査面による検査光の正反射方向に対して傾いている。その結果、被検査面からの検査光の反射光のうち、直接反射光が撮影素子によって受光されることが抑制され、拡散反射光のみが受光され易くなる。従って、色彩輝度計による撮影結果と、被検査面におけるナノ突起構造体の形状との間の相関が高くなるので、色彩輝度計による撮影結果に基づいて、ナノ突起構造体の検査が適切に行われる。また、色彩輝度計は、二次元撮影素子、または、一次元撮影素子(ラインセンサ)と一次元方向の走査の組み合わせによって、被検査面上の二次元の領域を容易に撮影することができる。従って、被検査面上の微小な領域でのみ検査が行われる場合(例えば、走査型電子顕微鏡が使用される場合等)に比べて、検査効率が良い。被検査面を破壊する必要もない。よって、金属表面に形成されたナノ突起構造体の検査が適切に行われる。
【0010】
ここに開示されるナノ突起構造体検査装置および方法の効果的な一態様では、金属の材質は銅であり、被検査面に照射される検査光の波長域には、可視光の波長域が含まれており、色彩輝度計は、少なくとも可視光の波長域の受光結果を出力する。
【0011】
本願発明の発明者は、金属の材質が銅である場合、被検査面のナノ突起構造体の形状が、色彩輝度計によって測定される可視光の波長域の強度に特に強く影響を与えることを発見した。従って、金属の材質が銅である場合に、可視光の波長域の受光結果が用いられることで、ナノ突起構造体の検査がより精度良く行われる。
【0012】
なお、可視光の波長域には、例えば、400nm~800nmのうちの少なくとも一部の波長域が含まれていてもよい。また、金属の材質が銅である場合、ナノ突起構造体の材質には、酸化銅および水酸化銅の少なくともいずれかが含まれていてもよい。この場合、可視光の波長域の受光結果によって、ナノ突起構造体の検査が適切に行われる。
【0013】
ここに開示されるナノ突起構造体検査装置および方法の効果的な一態様では、金属の材質はアルミニウムであり、被検査面に照射される検査光の波長域には、近紫外光の波長域が含まれており、色彩輝度計は、少なくとも近紫外光の波長域の受光結果を出力する。
【0014】
本願発明の発明者は、金属の材質がアルミニウムである場合、被検査面のナノ突起構造体の形状が、色彩輝度計によって測定される近紫外光の波長域の強度に特に強く影響を与えることを発見した。従って、金属の材質がアルミニウムである場合に、近紫外光の波長域の受光結果が用いられることで、ナノ突起構造体の検査がより精度良く行われる。
【0015】
なお、近紫外光の波長域には、例えば、200nm~380nmのうちの少なくとも一部の波長域が含まれていてもよい。また、金属の材質がアルミニウムである場合、ナノ突起構造体の材質には酸化アルミニウムが含まれていてもよい。この場合、近紫外光の波長域の受光結果によって、ナノ突起構造体の検査が適切に行われる。
【0016】
金属表面に対するナノ突起構造体の形成方法も、適宜選択できる。例えば、金属表面における複数の箇所の各々にレーザ光が照射されることで、多数のナノ突起構造体が金属表面に形成されてもよい。この場合、レーザ光が照射された被照射部位の金属が溶融することで、各々の被照射部位の周辺部にナノ突起構造体が形成される。被照射部位の径は、10μm~200μmであってもよく、レーザ光による被照射部位の陥没の深さは5μm~20μmであってもよい。また、ナノ突起構造体の幅は5nm~20nmであってもよく、ナノ突起構造体の高さは10nm~1000nmであってもよい。
【0017】
ここに開示されるナノ突起構造体検査装置および方法の効果的な一態様では、被検査面による検査光の正反射方向に対する、色彩輝度計の撮影素子の前記撮影光軸の傾きが、50度以上である。この場合、被検査面からの検査光の直接反射光が撮影素子によって受光されることが、より適切に抑制される。よって、色彩輝度計による撮影結果と、被検査面におけるナノ突起構造体の形状との間の相関が高くなり、検査精度がさらに向上する。
【0018】
検査光照射ステップにおいて、検査光照射部は、色彩輝度計の撮影素子の撮影光軸を中心として対称となる方向から、検査光を被検査面に照射してもよい。この場合、被検査面に照射される検査光の光量が均一となり易いので、検査精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ナノ突起構造体検査装置1の側面図である。
図2】角度θを83度、54度、45度、7度の各々に調整した状態で測定された、被検査面31の輝度のヒストグラムである。
図3】サンプルの材質が銅である場合に測定された、被検査面31からの戻り光の強度を、波長毎に示すグラフである。
図4】サンプルの材質がアルミニウムである場合に測定された、被検査面31からの戻り光の強度を、波長毎に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0021】
(装置構成)
図1を参照して、本実施形態のナノ突起構造体検査装置1の構成について説明する。図1は、ナノ突起構造体検査装置1の側面図である。本実施形態のナノ突起構造体検査装置1は、検査光照射部10と色彩輝度計20を備える。検査光照射部10は、金属製のサンプル30の表面である被検査面31に検査光を照射する。色彩輝度計20は、サンプル30の被検査面31を撮影し、被検査面31内の輝度(本実施形態では、輝度および色度)を測定する。
【0022】
なお、本実施形態では、平板状のサンプル30が、水平なステージ3上に載置される。検査光は、サンプル30の上面の被検査面31に対して斜め上方から照射される。色彩輝度計20は、サンプル30の被検査面31を鉛直上方から撮影する。ただし、各部材が設置される角度は変更されてもよい。例えば、サンプル30の被検査面31は、水平方向でなく斜め方向または鉛直方向に設置されてもよい。この場合、被検査面31の角度に応じて、検査光照射部10および色彩輝度計20の角度が調整されることが望ましい。被検査面31に対する検査光照射部10等の角度等の詳細については後述する。
【0023】
色彩輝度計20は、対物レンズ21、撮影素子23、制御部24、表示部25、および操作部26を備える。対物レンズ21は、被検査面31から撮影素子23へ至る撮影光路上に設けられており、被検査面31からの光を撮影素子23に導光する。つまり、撮影素子23の撮影光軸Oは、対物レンズ21の光軸を通過して被検査面31に至る。なお、詳細は後述するが、本実施形態では、サンプル30を形成する金属の材質がアルミニウムである場合には、検査光の波長域には近紫外光の波長域が含まれる。この場合、被検査面31から撮影素子23へ至る撮影光路上(本実施形態では、対物レンズ21の被検査面31側)には、近赤外光の波長域の光の大部分を透過し、且つその他の波長域の光の大部分を遮断するフィルタ22が設置される。その結果、近紫外光以外の波長域の光が撮影素子23によって受光され難くなるので、検査精度が向上する。
【0024】
撮影素子23は、被検査面31から導光された光を受光することで、被検査面31を撮影する。一例として、本実施形態の撮影素子23には、複数の受光素子が格子状に並べられた二次元CCDイメージセンサが採用されている。従って、本実施形態のナノ突起構造体検査装置1は、サンプル30を静止させた状態で、二次元の被検査面31を撮影することができる。ただし、二次元の被検査面31の撮影方法を変更することも可能である。例えば、撮影素子として、複数の受光素子が一次元方向に並べられたラインセンサが用いられてもよい。この場合、ナノ突起構造体検査装置は、ラインセンサに交差する方向にサンプル30を搬送する搬送部を備え、サンプル30を搬送しながらラインセンサによる撮影を行うことで、二次元の被検査面31を撮影してもよい。
【0025】
制御部24は、色彩輝度計20の制御を司る。詳細には、制御部24は、各種制御を司るコントローラ(例えばCPU)と、プログラムおよびデータ等を記憶可能な記憶装置を備える。なお、色彩輝度計20の制御部24は、ナノ突起構造体検査装置1全体の制御を司る制御部を兼ねていてもよい。
【0026】
表示部25は、各種画像を表示する。例えば、色彩輝度計20は、被検査面31内について測定された輝度の分布を示す画像等を、表示部25に表示させることができる。操作部26は、ユーザが各種指示を入力するために、ユーザによって操作される。一例として、本実施形態では、表示部25の表示面に設置されたタッチパネルが操作部26として用いられている。しかし、キーボード、マウス、操作ボタン等の少なくともいずれかが、操作部として用いられてもよい。なお、本実施形態の色彩輝度計20には、コニカミノルタ株式会社製の色彩輝度計であるProMetric(登録商標)I16が使用されている。
【0027】
検査光照射部10は、色彩輝度計20の撮影素子23の撮影光軸Oを中心として対称となる方向(本実施形態では複数の方向)から、検査光を被検査面31に対して照射する。従って、被検査面31に照射される検査光の光量が均一となり易いので、光量が不均一となる場合に比べて、ナノ突起構造体の検査精度が向上する。一例として、本実施形態では、2つの検査光照射部10A,10Bの各々が、撮影光軸Oを中心として対称となる方向(つまり、撮影光軸Oを挟んで互いに向かい合う方向)から、検査光を被検査面31に照射する。しかし、3つ以上の検査光照射部が、撮影光軸Oを中心として環状に(望ましくは点対称に)配置されてもよい。また、環状の発光部を有する検査光照射部によって、検査光が均一に被検査面31に照射されてもよい。
【0028】
なお、本実施形態におけるサンプル30の被検査面31には、ナノ突起構造体が予め形成されている。本実施形態では、金属製のサンプル30の表面(被検査面31)と樹脂体の接合強度を向上させるために、被検査面31にナノ突起構造体が形成される。ナノ突起構造体が被検査面31に適切に形成されているか否かを検査することで、被検査面と樹脂体が強固に接合されるか否かを予測することが可能である。
【0029】
一例として、本実施形態では、被検査面31における複数の箇所の各々にレーザ光が照射される。その結果、レーザ光が照射された被照射部位の金属が溶融することで、各々の被照射部位の周辺部にナノ突起構造体が形成される。被照射部位の径は10μm~200μmであり、レーザ光による被照射部位の陥没の深さは5μm~20μmである。また、ナノ突起構造体の幅は5nm~20nmであり、ナノ突起構造体の高さは10nm~1000nmである。なお、サンプル30を形成する金属の材質が銅である場合、ナノ突起構造体の材質には、酸化銅および水酸化銅の少なくともいずれかが含まれる。また、サンプル30を形成する金属の材質がアルミニウムである場合、ナノ突起構造体の材質には酸化アルミニウムが含まれる。
【0030】
図1および図2を参照して、被検査面31による測定光の正反射方向に対する、色彩輝度計20の撮影素子23の撮影光軸Oの角度の関係について説明する。図1では、検査光照射部10Aから出射された検査光の、被検査面31による正反射方向RAと、検査光照射部10Bから出射された検査光の、被検査面31による正反射方向RBが図示されている。また、正反射方向RAと、撮影素子23の撮影光軸Oが成す角度をθとする。なお、本実施形態では、正反射方向RBと撮影光軸Oが成す角度もθとなる。
【0031】
図1に示すように、被検査面31による検査光の正反射方向RA,RBに対して、色彩輝度計20の撮影素子23の撮影光軸Oが傾けて配置されている。その結果、被検査面31による検査光の反射光のうち、直接反射光が撮影素子23によって受光されることが抑制され、拡散反射光のみが受光され易くなる。従って、色彩輝度計20による撮影結果(例えば、撮影画像に表れる拡散反射光の輝度の二次元分布)と、被検査面31におけるナノ突起構造体の形状(本実施形態では、主に、複数のナノ突起構造体の高さの分布)との間の相関が高くなる。よって、被検査面31上の二次元の領域におけるナノ突起構造体の検査が、適切に実行される。
【0032】
本願発明の発明者は、被検査面31による検査光の正反射方向RA,RBと、撮影素子23の撮影光軸Oが成す角度θの適切な範囲を規定するための試験を行った。本試験では、まず、ナノ突起構造体の形成具合が互いに異なる4つのサンプル30を準備した。1つ目のサンプル30には、レーザ光の出力を規定値100%としてナノ突起構造体を形成した。2つ目のサンプル30には、レーザ光の出力を規定値の80%としてナノ突起構造体を形成した。3つ目のサンプル30には、レーザ光の出力を規定値の60%としてナノ突起構造体を形成した。4つ目のサンプル30には、ナノ突起構造体を形成しなかった。本試験で用いられた4つのサンプル30の材質は、アルミニウムである。次いで、検査光の正反射方向RA,RBと撮影光軸Oが成す角度θを、83度、54度、45度、7度の各々に調整した状態で、準備した4つのサンプル30の被検査面31を、色彩輝度計20によって撮影した。
【0033】
図2は、角度θを83度、54度、45度、7度の各々に調整した状態で測定された、被検査面31の輝度のヒストグラムである。通常であれば、レーザ光の出力を規定値から下げる程、サンプル30の被検査面31に形成されるナノ突起構造体の高さは低くなる。また、ナノ突起構造体の高さが高い程、測定される戻り光の強度は低くなる。従って、高い出力のレーザ光によってナノ突起構造体を形成した被検査面31の輝度(図2における「100%」「80%」の輝度)が、ナノ突起構造体を形成していない被検査面31の輝度(図2における「未形成」の輝度)に比べて低くなれば、被検査面31におけるナノ突起構造体の形状と、測定された被検査面31の輝度の間の相関が高いと言える。
【0034】
図2に示すように、角度θを83度に調整した場合には、「100%」「80%」の輝度のヒストグラムと、「未形成」の輝度のヒストグラムが明確に分かれている。また、角度θを54度に調整した場合も同様に、「100%」「80%」の輝度のヒストグラムと、「未形成」の輝度のヒストグラムは明確に分かれている。これらの場合には、被検査面31におけるナノ突起構造体の形状と、色彩輝度計20によって測定された被検査面31の輝度の間の相関が高いと言える。被検査面31におけるナノ突起構造体の形状と輝度の相関が高ければ、測定された輝度に基づいてナノ突起構造体の検査を適切に行うことが可能である。
【0035】
一方で、角度θを45度に調整した場合には、θを83度および54度に調整した場合に比べて、「100%」「80%」の輝度のヒストグラムと、「未形成」の輝度のヒストグラムの重なりが増加している。これは、角度θを小さくすることで、被検査面31による検査光の直接反射光のうち、色彩輝度計20の撮影素子23によって受光されてしまう直接反射光が増加してしまうことが原因であると考えられる。さらに、角度θを7度に調整した場合には、「80%」「60%」「未形成」のヒストグラムは大幅に重なってしまっている。
【0036】
以上の結果に基づいて、本実施形態では、被検査面31による検査光の正反射方向RA,RBに対する、撮影素子23の撮影光軸Oの傾きが、50度以上とされている。その結果、検査精度が十分に担保されている。
【0037】
図3および図4を参照して、検査対象となるサンプル30の材質と、検査光の波長域の関係について説明する。図3は、サンプル30の材質が銅である場合に測定された、被検査面31からの戻り光(拡散反射光)の強度を、波長毎に示したグラフである。図3において、実線のグラフは、レーザ光の出力を規定値100%としてナノ突起構造体が形成されたサンプル30の測定結果である。破線のグラフは、レーザ光の出力を規定値の70%としてナノ突起構造体が形成されたサンプル30の測定結果である。点線のグラフは、レーザ光の出力を規定値の50%としてナノ突起構造体が形成されたサンプル30の測定結果である。また、図4は、サンプル30の材質がアルミニウムである場合に測定された、被検査面31からの戻り光(拡散反射光)の強度を、波長毎に示したグラフである。図4において、実線のグラフは、レーザ光の出力を規定値100%としてナノ突起構造体が形成されたサンプル30の測定結果である。破線のグラフは、レーザ光の出力を規定値の80%としてナノ突起構造体が形成されたサンプル30の測定結果である。点線のグラフは、レーザ光の出力を規定値の60%としてナノ突起構造体が形成されたサンプル30の測定結果である。
【0038】
図3に示すように、サンプル30の材質が銅である場合には、可視光の波長域(特に約800nm近傍の波長域)において、3つのサンプル30に対する測定結果の差が大きくなっている。一方で、近紫外光の波長域である約380nm近傍の波長域)では、3つのサンプル30に対する測定結果の差はほぼ無い。以上の結果より、本実施形態では、サンプル30の材質が銅である場合には、被検査面31に照射される検査光の波長には、可視光の波長域を含める。色彩輝度計20は、少なくとも可視光の波長域の受光結果を出力する。その結果、ナノ突起構造体の検査がより精度良く行われる。
【0039】
また、図4に示すように、サンプル30の材質がアルミニウムである場合には、可視光の波長域(400nm~800nm)よりも、近紫外光の波長域(200nm~380nm)の方が、3つのサンプル30に対する測定結果の差が大きくなっている。以上の結果より、本実施形態では、サンプル30の材質がアルミニウムである場合には、被検査面31に照射される検査光の波長には、近紫外光の波長域を含める。色彩輝度計20は、少なくとも近紫外光の波長域の受光結果を出力する。その結果、ナノ突起構造体の検査がより精度良く行われる。
【0040】
本実施形態におけるナノ突起構造体検査方法について説明する。ナノ突起構造体検査方法は、前述したナノ突起構造体検査装置1を使用して実行することが可能である。ナノ突起構造体検査方法は、検査光照射ステップと検査ステップを含む。検査光照射ステップでは、検査光照射部10によって、サンプル30の表面である被検査面31に検査光が照射される。検査ステップでは、被検査面31による検査光の正反射方向RA,RBに対して撮影素子23の撮影光軸Oを傾けて配置された色彩輝度計20によって、拡散反射光が撮影されることで、被検査面31におけるナノスケールの突起構造体が検査される。その結果、前述したように、被検査面31のナノ突起構造体が適切に検査される。なお、サンプル30の材質の検査光の波長域の関係、および、検査光の正反射方向RA,RBと撮影素子23の撮影光軸Oの角度の関係等については、ナノ突起構造体検査装置1と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
以上、具体的な実施形態を挙げて詳細な説明を行ったが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1 ナノ突起構造体検査装置
10 検査光照射部
20 色彩輝度計
21 対物レンズ
23 撮影素子
30 サンプル
31 被検査面

図1
図2
図3
図4