IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7191179車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム
<>
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図1
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図2
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図3
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図4
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図5
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図6
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図7
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図8
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図9
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図10
  • 特許-車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221209BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20221209BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/08
B60W40/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021175141
(22)【出願日】2021-10-27
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 優一
(72)【発明者】
【氏名】大曲 祐子
(72)【発明者】
【氏名】鵜生 知輝
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185673(JP,A)
【文献】特開2019-202621(JP,A)
【文献】特開2008-030678(JP,A)
【文献】特開2018-184042(JP,A)
【文献】特開2019-125174(JP,A)
【文献】特開2015-063245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180637(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60W 30/00 - 60/00
B60R 21/00 - 21/017
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
B60K 31/00 - 31/18
B62D 6/00 - 6/10
F02D 29/00 - 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺に存在する周辺車両が属する車線を判定する周辺車両車線判定部と、
前記周辺車両に対して現在より後の時刻において前記自車両が走行する自車両走行車線に割り込みを行うか否かを予測する周辺車両行動予測部と、
前記周辺車両の中から前記自車両が追従すべき先行車を判定する先行車判定部と、
前記先行車判定部で判定された前記先行車との車間距離を維持するための目標加速度を演算する目標加速度演算部と、
前記目標加速度演算部で演算された前記目標加速度に基づいて前記自車両の駆動力を演算する駆動力演算部とを備えた車両制御装置であって、
前記先行車判定部は、
前記自車両走行車線の前方を走行する前記周辺車両および前記周辺車両行動予測部において前記自車両走行車線に割り込みを行うと予想された前記周辺車両を先行車候補に選定する先行車候補選定部と、
前記先行車候補選定部で前記先行車候補に選定された前記周辺車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定部と、
前記衝突危険度判定部で判定された前記衝突危険度が最も大きい前記周辺車両を前記先行車として選択する先行車選択部とを備え
前記衝突危険度判定部は、前記自車両の進行方向における前記自車両に対する前記先行車候補に選定された前記周辺車両の相対速度が負の場合は前記自車両の進行方向における前記自車両と前記周辺車両との相対距離および前記相対速度に基づいて衝突余裕時間を算出すると共に前記衝突余裕時間が短いほど衝突危険度が大きいと判定し、前記相対速度が零以上の場合は前記相対距離が小さいほど衝突危険度が大きいと判定すると共に、
前記衝突危険度判定部は、前記相対速度が零以上の場合に設定する前記衝突危険度を前記相対速度が負の場合に設定する前記衝突危険度よりも小さく設定することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記衝突危険度判定部は、前記相対速度の絶対値が予め定められた閾値よりも小さい場合は、前記相対速度を予め定めた負の設定値に置き換えて前記衝突危険度を判定することを特徴とする請求項に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記自車両が車線変更を意図しているか否かを判定する自車両車線変更判定部をさらに備え、前記周辺車両車線判定部は、前記自車両車線変更判定部で前記自車両が車線変更を意図していると判定された場合は、車線変更先の隣接車線を前記自車両走行車線として判定を行い、前記周辺車両行動予測部は、前記周辺車両車線判定部で判定された前記自車両走行車線に割り込みを行うか否かを予測することを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記周辺車両行動予測部は、前記周辺車両が現在より後の時刻において隣接車線から自車両走行車線に割り込みを行う確率である割り込み予測確率を演算し、前記衝突危険度判定部は、前記割り込み予測確率が小さい前記先行車候補ほど前記衝突危険度を小さくする補正を行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記先行車候補選定部は、前記自車両走行車線の前方に存在する前記周辺車両のうち最も前記自車両に近い前記周辺車両以外の前記周辺車両を前記先行車候補から除外することを特徴とする請求項1からいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記目標加速度演算部は、前記先行車判定部で前記先行車が存在しないと判定された場合には前記自車両の車速を予め設定された目標車速にするための前記目標加速度を演算することを特徴とする請求項1からいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記自車両および前記周辺車両の情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得されて前記自車両および前記周辺車両の情報に基づいて前記自車両の前記駆動力を演算する請求項1からのいずれか1項に記載の車両制御装置と、
前記車両制御装置で演算された前記自車両の前記駆動力に基づいて前記自車両の駆動制御を行う駆動制御部とを備えたことを特徴とする車両制御システム。
【請求項8】
車両制御装置が行う車両制御方法であって、
自車両の周辺に存在する周辺車両が属する車線を判定する周辺車両車線判定ステップと、
前記周辺車両に対して現在より後の時刻において前記自車両が走行する自車両走行車線に割り込みを行うか否かを予測する周辺車両行動予測ステップと、
前記周辺車両の中から前記自車両が追従すべき先行車を判定する先行車判定ステップと、
前記先行車判定ステップで判定された前記先行車との車間距離を維持するための目標加速度を演算する目標加速度演算ステップと、
前記目標加速度演算ステップで演算された前記目標加速度に基づいて前記自車両の駆動力を演算する駆動力演算ステップとを備えた車両制御方法であって、
前記先行車判定ステップは、
前記自車両走行車線の前方を走行する前記周辺車両および前記周辺車両行動予測ステップにおいて前記自車両走行車線に割り込みを行うと予想された前記周辺車両を先行車候補に選定する先行車候補選定ステップと、
前記先行車候補選定ステップで前記先行車候補に選定された前記周辺車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定ステップと、
前記衝突危険度判定ステップで判定された前記衝突危険度が最も大きい前記周辺車両を前記先行車として選択する先行車選択ステップとを備え
前記衝突危険度判定ステップは、前記自車両の進行方向における前記自車両に対する前記先行車候補に選定された前記周辺車両の相対速度が負の場合は前記自車両の進行方向における前記自車両と前記周辺車両との相対距離および前記相対速度に基づいて衝突余裕時間を算出すると共に前記衝突余裕時間が短いほど衝突危険度が大きいと判定し、前記相対速度が零以上の場合は前記相対距離が小さいほど衝突危険度が大きいと判定すると共に、
前記衝突危険度判定ステップは、前記相対速度が零以上の場合に設定する前記衝突危険度を前記相対速度が負の場合に設定する前記衝突危険度よりも小さく設定することを特徴とする車両制御方法。
【請求項9】
前記衝突危険度判定ステップは、前記相対速度の絶対値が予め定められた閾値よりも小さい場合は、前記相対速度を予め定めた負の設定値に置き換えて前記衝突危険度を判定することを特徴とする請求項に記載の車両制御方法。
【請求項10】
前記自車両が車線変更を意図しているか否かを判定する自車両車線変更判定ステップをさらに備え、前記周辺車両車線判定ステップは、前記自車両車線変更判定ステップで前記自車両が車線変更を意図していると判定された場合は、車線変更先の隣接車線を前記自車両走行車線として判定を行い、前記周辺車両行動予測ステップは、前記周辺車両車線判定ステップで判定された前記自車両走行車線に割り込みを行うか否かを予測することを特徴とする請求項8または9に記載の車両制御方法。
【請求項11】
前記周辺車両行動予測ステップは、前記周辺車両が現在より後の時刻において隣接車線から自車両走行車線に割り込みを行う確率である割り込み予測確率を演算し、前記衝突危険度判定ステップは、前記割り込み予測確率が小さい前記先行車候補ほど前記衝突危険度を小さくする補正を行うことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の車両制御方法。
【請求項12】
前記先行車候補選定ステップは、前記自車両走行車線の前方に存在する前記周辺車両のうち最も前記自車両に近い前記周辺車両以外の前記周辺車両を前記先行車候補から除外することを特徴とする請求項8から11いずれか1項に記載の車両制御方法。
【請求項13】
前記目標加速度演算ステップは、前記先行車判定ステップで前記先行車が存在しないと判定された場合には前記自車両の車速を予め設定された目標車速にするための前記目標加速度を演算することを特徴とする請求項8から12いずれか1項に記載の車両制御方法。
【請求項14】
コンピュータに請求項8から13のいずれか1項に記載の車両制御方法を実行させることを特徴とする車両制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、車両制御装置、車両制御システム、車両制御方法および車両制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を自動運転させる技術として、周辺車両の現在より後の時刻の行動を予測して衝突を回避する技術が種々提案されている。例えば、自車両の走行方向に対して周辺車両の垂直方向の運動を予測し、自車両の前方に割り込んでくる可能性がある周辺車両を自車両が追従すべき先行車の候補に挙げる車両制御技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-123795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両制御技術においては、先行車の候補に挙げられた車両が複数存在する場合に、先行車を適切に選択できずに先行車以外の周辺車両と接近するおそれがあった。さらに、従来の車両制御技術においては、周辺車両が自車両に接近してから先行車に選択される場合には先行車との車間距離を保つために大きな減速度が必要となり、乗員の快適性が損なわれるという問題があった。
【0005】
本願は、上述の課題を解決するためになされたもので、周辺車両が自車両走行車線の前方へ割り込むことが予測される際に、複数の周辺車両の中から適切な車両を先行車に選択して加速および減速を制御することで乗員の快適性を向上させることが可能な車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の車両制御装置は、自車両の周辺に存在する周辺車両が属する車線を判定する周辺車両車線判定部と、周辺車両に対して現在より後の時刻において自車両が走行する自車両走行車線に割り込みを行うか否かを予測する周辺車両行動予測部と、周辺車両の中から自車両が追従すべき先行車を判定する先行車判定部と、先行車判定部で判定された先行車との車間距離を維持するための目標加速度を演算する目標加速度演算部と、目標加速度演算部で演算された目標加速度に基づいて自車両の駆動力を演算する駆動力演算部とを備えている。そして、先行車判定部は、自車両走行車線の前方を走行する周辺車両および周辺車両行動予測部において自車両走行車線に割り込みを行うと予想された周辺車両を先行車候補に選定する先行車候補選定部と、先行車候補選定部で先行車候補に選定された周辺車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定部と、衝突危険度判定部で判定された衝突危険度が最も大きい周辺車両を先行車として選択する先行車選択部とを備え、衝突危険度判定部は、自車両の進行方向における自車両に対する先行車候補に選定された周辺車両の相対速度が負の場合は自車両の進行方向における自車両と周辺車両との相対距離および相対速度に基づいて衝突余裕時間を算出すると共に衝突余裕時間が短いほど衝突危険度が大きいと判定し、相対速度が零以上の場合は相対距離が小さいほど衝突危険度が大きいと判定すると共に、衝突危険度判定部は、相対速度が零以上の場合に設定する衝突危険度を相対速度が負の場合に設定する衝突危険度よりも小さく設定している。
【発明の効果】
【0007】
本願の車両制御装置においては、先行車判定部が自車両走行車線の前方を走行する周辺車両および周辺車両行動予測部において自車両走行車線に割り込みを行うと予想された周辺車両を先行車候補に選定する先行車候補選定部と、先行車候補選定部で先行車候補に選定された周辺車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定部と、衝突危険度判定部で判定された衝突危険度が最も大きい周辺車両を先行車として選択する先行車選択部とを備え、衝突危険度判定部は、自車両の進行方向における自車両に対する先行車候補に選定された周辺車両の相対速度が負の場合は自車両の進行方向における自車両と周辺車両との相対距離および相対速度に基づいて衝突余裕時間を算出すると共に衝突余裕時間が短いほど衝突危険度が大きいと判定し、相対速度が零以上の場合は相対距離が小さいほど衝突危険度が大きいと判定すると共に、衝突危険度判定部は、相対速度が零以上の場合に設定する衝突危険度を相対速度が負の場合に設定する衝突危険度よりも小さく設定しているので、乗員の快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る車両制御システムの構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施の形態1に係る車両制御システムを搭載した車両のハードウェアの構成例を示す模式図である。
図3】実施の形態1に係る車両制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4】実施の形態1に係る車両制御装置の衝突危険度判定部の動作を示すフローチャートである。
図5】実施の形態1に係る車両制御装置の動作を示すフローチャートである。
図6】実施の形態2に係る車両制御装置の衝突危険度判定部の動作を示すフローチャートである。
図7】実施の形態3に係る車両制御装置の衝突危険度判定部の動作を示すフローチャートである。
図8】実施の形態4に係る車両制御システムの構成を示す機能ブロック図である。
図9】実施の形態4に係る車両制御装置の動作を説明する説明図である。
図10】実施の形態1から4に係る車両制御装置および駆動制御部を実現するハードウェア構成を示す図である。
図11】実施の形態1から4に係る車両制御装置および駆動制御部を実現するハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願を実施するための実施の形態に係る車両制御装置および車両制御システムについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一符号は同一もしくは相当部分を示している。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る車両制御装置および車両制御システムの構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態の車両制御システム500は、車両制御装置100、情報取得部200および駆動制御部300を備える。
【0011】
車両制御装置100は、周辺車両車線判定部110、周辺車両行動予測部120、先行車判定部130、目標加速度演算部140および駆動力演算部150を備える。
情報取得部200は、自車両情報取得部210、周辺車両情報取得部220および道路情報取得部230を備える。
駆動制御部300は、自車両を駆動制御するためのパワートレイン制御部310およびブレーキ制御部320を備える。
【0012】
周辺車両車線判定部110は、周辺車両情報取得部220において取得された周辺車両情報と道路情報取得部230において取得された道路情報とを用いて、周辺車両毎にそれぞれの周辺車両が属する車線を判定し出力する。ここで、周辺車両とは、車両制御システム500を搭載する車両(これ以降、自車両と記す)の周辺に存在する他車両を指す。なお、これ以降、周辺車両を自動車として説明するが、自動車以外に二輪車、歩行者などを含んでもよい。この場合は、周辺車両という用語の代りに周辺物体という用語を用いればよい。
【0013】
周辺車両行動予測部120は、周辺車両情報取得部220において取得された周辺車両情報、および周辺車両車線判定部110で判定された周辺車両が属する車線の情報を用いて、周辺車両が現在より後の時刻において隣接車線から自車両の走行車線(これ以降、自車両走行車線と記す)への割り込みを行うか否かを予測する。なお、本実施の形態において、現在より後の時刻とは、現在より0.1秒から60秒程度の後の時刻であり、車両同士の衝突を回避するために必要な時間である。なお、現在より後の時刻は、近い将来の時刻と言い換えることもできる。
【0014】
先行車判定部130は、先行車候補選定部131、衝突危険度判定部132および先行車選択部133を備える。
先行車候補選定部131は、周辺車両車線判定部110および周辺車両行動予測部120の演算結果に基づいて、自車両が追従すべき先行車の候補となる周辺車両(これ以降、先行車候補と記す)の選定を行う。処理の詳細については後述する。
衝突危険度判定部132は、先行車候補選定部131において先行車候補と選定された周辺車両のそれぞれに対して自車両と衝突する可能性の指標である衝突危険度を演算する。処理の詳細については後述する。
先行車選択部133は、先行車候補の中から衝突危険度判定部132において算出された衝突危険度の中で最も大きい衝突危険度を有する周辺車両を自車両が追従するべき先行車として選択する。なお、先行車選択部133は、自車両が追従するべき先行車が存在しないと判定する場合もある。処理の詳細については後述する。
【0015】
目標加速度演算部140は、先行車判定部130において先行車が存在しないと判定された場合には自車両の車速が予め設定された目標車速になるための目標加速度を演算する。また、目標加速度演算部140は、先行車判定部130において先行車が存在すると判定された場合には、自車両が先行車と衝突せずに車間距離を保つための目標加速度を演算する。なお、ここで言う目標加速度には、加速度および減速度が含まれる。
【0016】
目標加速度演算部140が行う演算の手法には、ACC(Adaptive Cruise Control)として従来提案されている手法を使用することができる。ACCでは、まず先行車の位置と車速とを用いて、現在より後の時刻における自車両と先行車との相対距離および相対速度を算出する。さらに、現在より後の時刻における自車両と先行車との相対距離および相対速度を用いて自車両と先行車との接近度合いを評価する。
【0017】
自車両と先行車との接近度合いの評価は、現在より後の時刻において、自車両と先行車との相対距離が一定距離以内に接近しないように維持することと、自車両の速度が上限速度を超えない範囲で相対速度が小さくなることを評価する指標である。目標加速度演算部140は、接近度合いの評価がよくなるように自車両の目標加速度を演算し、その目標加速度を出力する。
【0018】
駆動力演算部150は、目標加速度演算部140において演算された目標加速度、および情報取得部200の自車両情報取得部210から得られる自車両の車両情報を用いて、駆動制御部300のパワートレイン制御部310を制御するための目標駆動力、およびブレーキ制御部320を制御するための目標制動力を演算し、それらを出力する。
【0019】
図2は、本実施の形態の車両制御装置100を含む車両制御システム500を搭載した自車両のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示すように、自車両1は、駆動システムとして、ステアリングホイール2、ステアリング軸3、操舵ユニット4、EPS(Electric Power Steering)モータ5、パワートレインユニット6およびブレーキユニット7を備える。パワートレインユニット6は、例えばガソリンを燃料とするエンジンである。
【0020】
また、自車両1は、センサシステムとして前方カメラ11、レーダセンサ12、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサ13、ヨーレートセンサ16、速度センサ17、加速度センサ18、操舵角センサ20および操舵トルクセンサ21を備える。
【0021】
さらに、自車両1は、ナビゲーション装置14、V2X(Vehicle to Everything)受信機15、車両制御装置100、EPSコントローラ22、パワートレイン制御部310およびブレーキ制御部320を備える。
【0022】
ドライバが自車両を運転するために設置されているステアリングホイール2は、ステアリング軸3に結合されている。ステアリング軸3には操舵ユニット4が接続されている。操舵ユニット4は、操舵輪としての前輪の2つのタイヤを回動自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。したがって、ドライバのステアリングホイール2の操作によって発生したトルクは、ステアリング軸3を回転させ、操舵ユニット4によって前輪を左右方向へ転舵する。ドライバがステアリングホイール2を操作することで、前進および後進する際の自車両の横移動を操作することができる。
【0023】
なお、ステアリング軸3は、EPSモータ5によって回転させることも可能である。EPSコントローラ22はEPSモータ5に流れる電流を制御することで、ドライバのステアリングホイール2の操作と独立して前輪を転舵させることができる。
【0024】
車両制御装置100は、一例としてADAS-ECU(Advanced Driving Assistance Systems-Electronic Control Unit)とも呼称されるマイクロプロセッサなどの集積回路であり、A/D(Analog/Digital)変換回路、D/A(Digital/Analog)変換回路、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。
【0025】
車両制御装置100には、前方カメラ11、レーダセンサ12、GNSSセンサ13、ナビゲーション装置14、V2X受信機15、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ16、自車両の速度を検出する速度センサ17、自車両の加速度を検出する加速度センサ18、操舵角を検出する操舵角センサ20、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ21、EPSコントローラ22、パワートレイン制御部310およびブレーキ制御部320が接続されている。
【0026】
車両制御装置100は、接続されている各種センサから入力された情報を、ROMに格納されたプログラムにしたがって処理し、パワートレイン制御部310に目標駆動力を送信し、ブレーキ制御部320に目標制動力を送信する。
【0027】
前方カメラ11は、車両の前方の区画線が画像として検出できる位置に設置され、画像情報に基づき車線情報および障害物の位置などの自車両の前方環境を検出する。なお、本実施の形態に係る車両制御システム500では、自車両の前方環境を検出するカメラのみを一例に挙げたが、自車両の後方環境および側方環境を検出する別のカメラを設置してもよい。また、前方カメラ11は、自車両が走行する路面の状態を推定するために使用することもできる。
【0028】
レーダセンサ12は対象物体にレーダを照射しその反射波を検出することで、自車両と周辺車両との相対距離および相対速度を出力する。レーダセンサ12としては、ミリ波レーダ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、レーザーレンジファインダ、超音波レーダなどの周知の測距センサを用いることができる。
【0029】
GNSSセンサ13は、測位衛星からの電波を自車両に搭載されたアンテナ(図示せず)で受信し、測位演算することによって自車両の絶対位置および絶対方位を出力する。
【0030】
ナビゲーション装置14は、ドライバが設定した行き先に対する最適な走行ルートを演算する機能を有し、走行ルート上の道路情報を記憶している。道路情報は道路線形を表現する地図ノードデータである。各地図ノードデータには、各ノードでの絶対位置を示す緯度、経度、標高、車線幅、カント角、傾斜角などの情報が組み込まれている。
【0031】
V2X受信機15は、周辺車両を含む他車両および路側機と自車両との間の無線通信によって情報を取得し、出力する機能を有する。取得する情報は、自車両に対する周辺車両の位置および速度などの周辺車両情報並びに路面の摩擦係数などの道路情報を含んでいる。
【0032】
EPSコントローラ22は、車両制御装置100から送信された目標操舵角を実現するようにEPSモータ5を制御することで自車両の走行方向を制御する。
【0033】
パワートレイン制御部310は、車両制御装置100から送信された目標加速力を実現するように、パワートレインユニット6を制御することで、自車両の加速を制御する。
【0034】
ブレーキ制御部320は、車両制御装置100から送信された目標制動力を実現するようにブレーキユニット7を制御することで、自車両の減速を制御する。
【0035】
自車両情報取得部210は、自車両の情報である車両情報を取得する。車両情報には自車両の状態を表す自車両の状態量が含まれる。自車両情報取得部210は、例えばGNSSセンサ13、ヨーレートセンサ16、速度センサ17、加速度センサ18、操舵角センサ20および操舵トルクセンサ21などである。
【0036】
周辺車両情報取得部220は、自車両の周辺に存在する周辺車両の位置情報を含む周辺車両情報を取得する。周辺車両情報取得部220は、例えば前方カメラ11、レーダセンサ12およびV2X受信機15などである。
【0037】
道路情報取得部230は、自車両が走行する道路の情報である道路情報を取得する。道路情報取得部230は、例えば前方カメラ11、ナビゲーション装置14およびV2X受信機15などである。
【0038】
なお、本実施の形態に係る車両制御システム500を搭載した自車両として、エンジンのみを駆動力源とする車両を例に挙げたが、電動モータのみを駆動力源とする車両、エンジンと電動モータとの両方を駆動力源とする車両であってもよい。
【0039】
次に、本実施の形態に係る車両制御装置100の動作について説明する。
図3は、本実施の形態における車両制御装置100の処理フローを示したフローチャートである。なお、ステップST110、ステップST120およびステップST130は周辺車両車線判定部110によって、ステップST140およびステップST150は周辺車両行動予測部120によって、ステップST160およびステップST170は先行車候補選定部131によって、ステップST180は衝突危険度判定部132によって、ステップST190は先行車選択部133によってそれぞれ実行される。
【0040】
ステップST110において、周辺車両車線判定部110は、周辺車両情報取得部220で取得された周辺車両の位置情報と道路情報取得部230で取得された走行車線の位置情報とを基にして、周辺車両が属する車線を判定する。
【0041】
ステップST120において、周辺車両車線判定部110は、ステップST110で判定された周辺車両の車線情報に基づいて次に進むステップの選択を行う。周辺車両車線判定部110は、周辺車両が自車両走行車線内に存在している場合(YES)はステップST160へと進み、周辺車両が自車両走行車線以外に存在している場合(NO)はステップST130へと進む。
【0042】
ステップST130において、周辺車両車線判定部110は、ステップST120で自車両走行車線以外に存在すると判定された周辺車両の車線情報に基づいて次に進むステップの選択を行う。周辺車両車線判定部110は、周辺車両が自車両走行車線の隣の車線である隣接車線内に存在している場合(YES)はステップST140へと進み、それ以外の場合(NO)はステップST170へと進む。
【0043】
ステップST140において、周辺車両行動予測部120は、ステップST130において隣接車線内に存在すると判定された周辺車両が現在より後の時刻において自車両の前方への割り込みを行うか否かを予測する。ステップST140において周辺車両行動予測部120が実施する予測は、例えば次のような方法がある。
【0044】
ステップST140における演算には、例えば、国際公開第2017/002441号に開示された技術を適用することが可能である。周辺車両行動予測部120は、割り込みを行うか否かの予測の対象となる対象車両とその周辺に存在する周辺車両との相対距離および相対速度との関係から、対象車両が周辺車両との衝突を回避するための行動を予測する。衝突回避の行動として、制動回避行動、左操舵回避行動、右操舵回避行動などがある。周辺車両行動予測部120は、衝突回避行動を評価して対象車両が自車両走行車線への割り込みを行うか否かを予測する。例えば周辺車両が自車両走行車線の左隣接車線を走行している場合を想定する。周辺車両が衝突回避行動として制動回避行動または左操舵回避行動を行うと予想される場合は、自車両走行車線への割り込みは行わないと予測する。周辺車両が衝突回避行動として右操舵回避行動を行うと予想される場合は、自車両走行車線への割り込みを行うと予測する。なお、ステップST140における割り込み予測の方法は、例えば周辺車両の方向指示器の操作を検知して割り込みを予測する方法など、他の方法でもよい。
【0045】
ステップST150において、周辺車両行動予測部120は、ステップST140の予測結果に基づいて次に進むステップの選択を行う。周辺車両行動予測部120は、ステップST140において周辺車両が隣接車線から自車両走行車線への割り込みを行うことを予測した場合(YES)はステップST160へと進み、それ以外の場合(NO)はステップST170へと進む。
【0046】
ステップST160において、先行車候補選定部131は、ステップST120において自車両走行車線に存在すると判定された周辺車両、およびステップST150において隣接車線から自車両走行車線への割り込みを行うと予測された周辺車両を先行車候補として選定する。また、ステップST170において、先行車候補選定部131は、ステップST130において隣接車線に存在しないと判定された周辺車両、およびステップST150において隣接車線から自車両走行車線への割り込みを行うと予測されなかった周辺車両を先行車候補から除外する。
【0047】
ステップST180において、衝突危険度判定部132は、ステップST160において先行車候補に選定された周辺車両と自車両との衝突危険度を算出する。衝突危険度の算出方法は、例えば衝突余裕時間(TTC:Time to Collision)を用いて算出することができる。ステップST180において衝突危険度判定部132が行う衝突危険度の算出方法については後述する。
【0048】
ステップST190において、先行車選択部133は、ステップST180において算出された先行車候補の衝突危険度の中から、最も大きい衝突危険度を有する先行車候補を先行車として選択して出力する。なお、先行車選択部133は、先行車候補が1台も存在しない場合は自車両が追従するべき先行車は存在しないと判定してもよい。また、先行車選択部133は衝突危険度に閾値を設け、その閾値を上回る衝突危険度を有する先行車候補が存在しない場合は自車両が追従するべき先行車は存在しないと判定してもよい。
【0049】
図4は、ステップST180において衝突危険度判定部132が行う衝突危険度の算出方法のフローチャートである。
自車両の位置を原点として自車両の進行方向を基準とした相対座標において、周辺車両の相対縦距離をXrel、相対縦速度をVrelと表す。相対縦速度は、自車両の速度を基準として表す。相対縦速度は、対象となる周辺車両の速度が自車両の速度より速い場合は正となり、対象となる周辺車両の速度が自車両の速度より遅い場合は負となる。
【0050】
ステップST210において、衝突危険度判定部132は、先行車候補の相対縦速度に基づいて次に進むステップの選択を行う。衝突危険度判定部132は、先行車候補が自車両よりも高速または自車両と等速である、すなわち相対縦速度が零以上である場合(YES)はステップST240へ進み、先行車候補が自車両よりも低速である、すなわち相対縦速度が負の場合(NO)はステップST220へ進む。
【0051】
ステップST220において、衝突危険度判定部132は、先行車候補の相対縦距離Xrelと相対縦速度Vrelとを用いて衝突余裕時間TTCを算出する。衝突余裕時間TTCは下記の(1)式で算出できる。
【0052】
【数1】
【0053】
ステップST230において、衝突危険度判定部132は、衝突余裕時間TTCを用いて衝突危険度を算出する。衝突余裕時間TTCが短いほど先行車候補との衝突までにかかる時間が短いため衝突危険度を大きく設定する。このようにして、衝突危険度判定部132は、衝突までにかかる時間が短い先行車候補ほど衝突危険度が大きいと判定する。
【0054】
ステップST240において、衝突危険度判定部132は、先行車候補の相対縦速度が零以上である場合の衝突危険度を算出する。相対縦速度が零以上の場合は自車両の速度と先行車候補の速度とが同じかまたは自車両の速度が先行車候補の速度より遅い場合である。このとき、自車両は先行車候補に衝突することはないため、衝突余裕時間を定義することはできない。そこで、衝突危険度判定部132は、衝突余裕時間を用いずに相対縦距離Xrelに基づいて衝突危険度を算出する。衝突危険度判定部132は、相対縦距離Xrelが小さいすなわち自車両に近い位置に存在する先行車候補ほど衝突危険度を大きく設定する。なお、ステップST240において設定される衝突危険度は、ステップST230において設定される衝突危険度よりも小さく設定される。
【0055】
このように構成された車両制御装置においては、隣接車線から自車両走行車線への割り込み予測に基づいて先行車候補の選定を行い、先行車候補に対して衝突危険度を算出し、衝突危険度の最も大きい周辺車両を先行車に選択している。そのため、隣接車線から自車両走行車線の前方へ割り込むことが予測される周辺車両を事前に先行車候補に加え、先行車候補の中から適切な車両を先行車に選択して追従制御を行うことができるので、滑らかな加速および減速が可能となり乗員の快適性が向上するという効果を奏する。
【0056】
なお、本実施の形態の車両制御装置において、先行車候補を選定するときに周辺車両の位置に基づいた情報を加えてもよい。
図5は、本実施の形態における車両制御装置100の別の処理フローを示したフローチャートである。先行車候補の選定条件において、自車両走行車線内の遠方に存在する周辺車両を先行車候補から除外する場合の処理を示したフローチャートである。
【0057】
図5において、ステップST110における周辺車両車線判定部110の動作は、図3で説明した周辺車両車線判定部110の動作と同じである。ステップST120において、周辺車両車線判定部110は、周辺車両が自車両走行車線内に存在している場合(YES)はステップST121へと進み、自車両走行車線以外に存在している場合(NO)はステップST130へと進む。
【0058】
ステップST121において、周辺車両車線判定部110は、自車両走行車線内に存在すると判定されたそれぞれの周辺車両の位置関係に基づいて次に進むステップの選択を行う。自車両走行車線内に複数台の車両が存在する場合、周辺車両車線判定部110は、自車両に最も近接する周辺車両を選択してステップST160へと進む。一方、周辺車両車線判定部110は、最も近接した車両以外の車両についてはステップST170へと進む。
【0059】
このように構成された車両制御装置においては、自車両走行車線内の最も近接する周辺車両を先行車候補に選択することで、誤って自車両走行車線内の遠方の周辺車両を先行車候補に選択することを防ぐことができる。その結果、この車両制御装置は自車両走行車線内の最近接の周辺車両との衝突を防止することができる。
【0060】
実施の形態2.
実施の形態1に係る車両制御装置において、衝突危険度判定部は周辺車両との衝突余裕時間を用いて衝突危険度を算出していた。実施の形態2に係る車両制御装置においては、衝突危険度判定部は割り込み予測車両が割り込みを行う確率を用いて衝突危険度を補正する。なお、本実施の形態の車両制御装置の構成は、実施の形態1の車両制御装置の構成と同様である。また、本実施の形態の車両制御装置の動作も、実施の形態1の図3に示したフローチャートと同様である。本実施の形態の車両制御装置の動作は、図3のステップST180における衝突危険度判定部の衝突危険度の算出方法が異なっている。
【0061】
本実施の形態の車両制御装置において、周辺車両行動予測部は、ステップST140において、衝突回避行動を評価して対象車両が自車両走行車線への割り込みを行うか否かを予測することに加えて、対象車両が割り込みを行う確率(これ以降、割り込み予測確率と記す)を演算する。また、割り込み予測確率が予め定められた閾値より大きい車両を割り込み予測車両と呼ぶ。割り込み予測確率の算出方法として、例えば対象車両とその周辺に存在する周辺車両との相対距離および相対速度との関係から、対象車両が制動回避行動、左操舵回避行動および右操舵回避行動のいずれの行動を選択するかの比率から算出することができる。周辺車両行動予測部は、ステップST140において算出した割り込み予測確率と割り込み予測車両とを衝突危険度判定部に送る。
【0062】
図6は、本実施の形態の車両制御装置における衝突危険度判定部が行う衝突危険度の算出方法のフローチャートである。本実施の形態の衝突危険度判定部が行う衝突危険度の算出方法のフローチャートは、実施の形態1の図4に示したフローチャートにステップST310とステップST320とが追加されている。
【0063】
ステップST310において、衝突危険度判定部は、先行車候補が割り込み予測車両であるか否かに基づいて次に進むステップの選択を行う。衝突危険度判定部は、先行車候補が割り込み予測車両ではない場合(NO)は補正処理を行わずに処理を終了する。衝突危険度判定部は、先行車候補が割り込み予測車両である場合(YES)は、ステップST320へ進む。
【0064】
ステップST320において、衝突危険度判定部は、周辺車両行動予測部において算出された割り込み予測確率に基づいて衝突危険度に補正を行う。割り込み予測確率が小さいほど衝突危険度を小さく補正する。なお、割り込み予測確率が予め定めた閾値よりも小さい場合は衝突危険度を0としてもよく、割り込み予測確率が予め定めた閾値よりも大きい場合は衝突危険度に補正を行わなくてもよい。
【0065】
このように構成された車両制御装置においては、隣接車線から自車両走行車線への割り込みが予測される割り込み予測車両に対する衝突危険度を割り込み予測確率に基づいて補正している。そのため、割り込みを行う可能性の低い割り込み予測車両を先行車に選択して追従制御を行うことを防止することができるので乗員の快適性がさらに向上する。
【0066】
実施の形態3.
実施の形態3に係る車両制御装置においては、衝突危険度判定部が衝突余裕時間を算出するときに相対縦速度に補正処理を行う。なお、本実施の形態の車両制御装置の構成は、実施の形態1の車両制御装置の構成と同様である。また、本実施の形態の車両制御装置の動作も、実施の形態1の図3に示したフローチャートと同様である。本実施の形態の車両制御装置の動作は、図3のステップST180における衝突危険度判定部の衝突危険度の算出方法が異なっている。
【0067】
図7は、本実施の形態の車両制御装置における衝突危険度判定部が行う衝突危険度の算出方法のフローチャートである。ステップST410において、衝突危険度判定部は、先行車候補の相対縦速度に基づいて次に進むステップの選択を行う。衝突危険度判定部は、先行車候補の相対縦速度Vrelの絶対値が予め定めた閾値Vthよりも小さい場合(YES)はステップST420へと進み、それ以外の場合(NO)はステップST430へと進む。閾値Vthは正の値とする。なお、これ以降、ステップST420およびステップST430で補正された相対縦速度をVfiltと記す。
【0068】
ステップST420に進んだ場合、衝突危険度判定部は、先行車候補の相対縦速度Vfiltを閾値Vthの-1倍した値に置き換える。ステップST430に進んだ場合、衝突危険度判定部は、先行車候補の相対縦速度VfiltはVrelを維持する。ステップST420とステップST430との処理を合わせた先行車候補の補正された相対縦速度Vfiltは、下記の(2)式で表すことができる。
【0069】
【数2】
【0070】
ステップST440において、衝突危険度判定部は、補正された相対縦速度Vfiltに基づいて次に進むステップの選択を行う。衝突危険度判定部は、相対縦速度Vfiltが零以上である場合(YES)はステップST470へ進み、相対縦速度Vfiltが負の場合(NO)はステップST450へ進む。
【0071】
ステップST450において、衝突危険度判定部は、先行車候補の相対縦距離Xrelと相対縦速度Vfiltとを用いて衝突余裕時間TTCを算出する
【0072】
ステップST460において、衝突危険度判定部は、衝突余裕時間TTCを用いて衝突危険度を算出する。衝突余裕時間TTCが短いほど先行車候補との衝突までにかかる時間が短いため、衝突危険度を大きく設定する。このようにして、衝突危険度判定部は、衝突までにかかる時間が短い先行車候補ほど衝突危険度が大きいと判定する。
【0073】
ステップST470において、衝突危険度判定部は、相対縦速度Vfiltが零以上である場合の衝突危険度を算出する。相対縦速度Vfiltが零以上の場合は自車両の速度と先行車候補の速度とが同じかまたは自車両の速度が先行車候補の速度より遅い場合である。このとき、自車両は先行車候補に衝突することはないため、衝突余裕時間を定義することはできない。そこで、衝突危険度判定部は、衝突余裕時間を用いずに相対縦距離Xrelに基づいて衝突危険度を算出する。衝突危険度判定部は、相対縦距離Xrelが小さいすなわち自車両に近い位置に存在する先行車候補ほど衝突危険度を大きく設定する。
【0074】
相対縦速度の絶対値が0に近い周辺車両に対してその相対縦速度を用いて衝突余裕時間を算出するとその衝突余裕時間が非常に長くなり、衝突危険度は非常に小さくなる。本実施の形態の車両制御装置においては、相対縦速度の絶対値が0に近い、すなわち相対縦速度が閾値Vthより小さい周辺車両の相対縦速度を負の閾値に補正している。そのため、ステップST450において算出される衝突余裕時間が非常に長くなることを防いでいる。また、相対縦速度が閾値Vthより小さい周辺車両の相対縦速度を負の閾値に補正しているので、その周辺車両の衝突危険度は衝突余裕時間ではなく相対縦距離に基づいて算出される。その結果、本実施の形態の車両制御装置は、適切な先行車を選択して追従制御を行うことで乗員の快適性がさらに向上する。
【0075】
実施の形態4.
実施の形態1から3に係る車両制御装置においては、自車両は同一の車線を走行していることを前提にして先行車を選択する方法を説明した。実施の形態4に係るに車両制御装置においては、自車両が車線変更を意図する場合に先行車を選択する方法について説明する。
【0076】
図8は、本実施の形態に係る車両制御装置および車両制御システムの構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態の車両制御システム500の構成は、実施の形態1の車両制御システムの構成と同様である。本実施の形態に係る車両制御装置100には、自車両車線変更判定部160が追加されている。
【0077】
自車両車線変更判定部160は、情報取得部200で得られた情報を基に自車両が車線変更を行う意図があるか否かを判定する。例えば、自車両車線変更判定部160は、自車両情報取得部210においてドライバが方向指示器を操作したこと検出した場合に自車両に車線変更の意図があると判定してもよい。また、自車両車線変更判定部160は、道路情報取得部230から得られる自車両の走行するルート情報を基に自車両に車線変更の意図があると判定してもよい。例えば、道路情報取得部230に含まれるナビゲーション装置14において前方の交差点で右折するルート情報が設定されている場合、自車両車線変更判定部160は、自車両が右側車線へ車線変更の意図があると判定することができる。
【0078】
本実施の形態の周辺車両車線判定部110は、自車両車線変更判定部160で判定された自車両の車線変更の意図の有無に基づいて自車両走行車線を決定する。そして、周辺車両車線判定部110は、その自車両走行車線に基づいて周辺車両が属する車線を判定する。さらに、周辺車両行動予測部120は、周辺車両車線判定部110で判定された周辺車両が属する車線に基づいて、隣接車線内に存在すると判定された周辺車両が現在より後の時刻において自車両走行車線の前方への割り込みを行うか否かを予測する。
【0079】
図9は、本実施の形態に係る車両制御装置の動作を説明する説明図である。図9の左側の図は、自車両車線変更判定部160が自車両は車線変更を意図していないと判定したときの図である。このとき、周辺車両車線判定部110は、自車両が現在走行している車線を自車両走行車線、自車両走行車線の左隣の車線を左隣接車線、自車両走行車線の右隣の車線を右隣接車線と判定する。図9の右側の図は、自車両車線変更判定部160が自車両は右側の車線に車線変更を意図していると判定したときの図である。このとき、周辺車両車線判定部110は、自車両が現在走行している車線の右側を仮想自車両走行車線、仮想自車両走行車線の左隣の車線を仮想左隣接車線、仮想自車両走行車線の右隣の車線を仮想右隣接車線と判定する。そして、周辺車両行動予測部120は、周辺車両車線判定部110で判定された仮想の車線に基づいて、隣接車線内に存在すると判定された周辺車両が現在より後の時刻において自車両走行車線の前方への割り込みを行うか否かを予測する。
【0080】
このように構成された車両制御装置においては、自車両車線変更判定部160が自車両の車線変更の意図を判定し、自車両に車線変更の意図があると判定された場合は、自車両の走行する車線を仮想的に変更して周辺車両の車線判定を行うことができる。そのため、自車両が車線変更を行う際にも適切に先行車を選択して追従制御を行うことが可能になり、乗員の快適性がさらに向上する。
【0081】
なお、実施の形態1から4に係る車両制御装置100および駆動制御部300のハードウェアの一例を図10に示す。車両制御装置100および駆動制御部300は、図10に示す処理回路50により実現される。処理回路50にはCPU、DSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサが適用され、記憶装置に格納されるプログラムを実行することで各部の機能が実現される。
【0082】
なお、処理回路50には、専用のハードウェアが適用されてもよい。処理回路50が専用のハードウェアである場合、処理回路50は、例えば単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはこれらを組み合わせたものなどが該当する。
車両制御装置100および駆動制御部300は、構成要素の各々の機能が個別の処理回路で実現されてもよいし、それらの機能がまとめて1個の処理回路で実現されてもよい。
【0083】
図11は、車両制御装置100および駆動制御部300がプロセッサ51と記憶装置52とから構成されるハードウェアを示している。この場合、車両制御装置100および駆動制御部300の機能は、ソフトウェアなど(ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせ)により実現される。ソフトウェアなどはプログラムとして記述され、記憶装置52に格納される。処理回路として機能するプロセッサ51は、記憶装置52に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより各部の機能を実現する。記憶装置52に記憶されるプログラムは、例えば記録媒体53に記憶されたプログラム54であってもよい。すなわち、このプログラムは、車両制御装置100および駆動制御部300の構成要素の動作の手順および車両制御方法をコンピュータに実行させるものであると言える。
【0084】
ここで、記憶装置52は、例えばRAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリであってもよく、HDD(Hard Disk Drive)、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)およびそのドライブ装置などであってもよく、さらに今後実用化されるあらゆる記憶装置であってもよい。
【0085】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つまたは複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0086】
1 自車両、2 ステアリングホイール、3 ステアリング軸、4 操舵ユニット、5 EPSモータ、6 パワートレインユニット、7 ブレーキユニット、11 前方カメラ、12 レーダセンサ、13 GNSSセンサ、14 ナビゲーション装置、15 V2X受信機、16 ヨーレートセンサ、17 速度センサ、18 加速度センサ、20 操舵角センサ、21 操舵トルクセンサ、22 EPSコントローラ、50 処理回路、51 プロセッサ、52 記憶装置、53 記録媒体、54 プログラム、100 車両制御装置、110 周辺車両車線判定部、120 周辺車両行動予測部、130 先行車判定部、131 先行車候補選定部、132 衝突危険度判定部、133 先行車選択部、140 目標加速度演算部、150 駆動力演算部、160 自車両車線変更判定部、200 情報取得部、210 自車両情報取得部、220 周辺車両情報取得部、230 道路情報取得部、300 駆動制御部、310 パワートレイン制御部、320 ブレーキ制御部、500 車両制御システム。
【要約】
【課題】割り込みが予想される複数の周辺車両の中から適切な車両を先行車に選択することで乗員の快適性を向上させる。
【解決手段】車両制御装置100は、周辺車両車線判定部110と、周辺車両に対して現在より後の時刻において割り込みを行うか否かを予測する周辺車両行動予測部120と、周辺車両の中から自車両が追従すべき先行車を判定する先行車判定部130と、目標加速度を演算する目標加速度演算部140と、自車両の駆動力を演算する駆動力演算部150とを備えている。先行車判定部は、自車両走行車線の前方を走行する周辺車両および自車両走行車線に割り込みを行うと予想された周辺車両を先行車候補に選定する先行車候補選定部131と、先行車候補に選定された周辺車両の衝突危険度を判定する衝突危険度判定部132と、衝突危険度が最も大きい周辺車両を先行車として選択する先行車選択部133とを備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11