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特許7191185磁気ディスク用非磁性基板及び磁気ディスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】磁気ディスク用非磁性基板及び磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/73 20060101AFI20221209BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20221209BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G11B5/73
G11B5/738
G11B5/84 Z
G11B5/84 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021189876
(22)【出願日】2021-11-24
(62)【分割の表示】P 2019149512の分割
【原出願日】2018-04-02
(65)【公開番号】P2022028852
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017070232
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】越阪部 基延
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/108286(WO,A1)
【文献】特開2017-199442(JP,A)
【文献】特開平09-198640(JP,A)
【文献】特開2016-126808(JP,A)
【文献】特開2010-118111(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0351224(US,A1)
【文献】特許第6983842(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/73
G11B 5/738
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用基板であって、
前記磁気ディスク用基板は、
対向する2つの主表面と、外周端面とを有し、前記外周端面は、前記主表面に対して直交する側壁面と、前記主表面と前記側壁面との間に形成された面取面とを備えた、アルミニウム合金基板である円盤形状の基板本体と、
前記基板本体の表面上に形成され、前記主表面、前記面取面および前記側壁面に亘って連続して形成されたNiとPとを含む合金の膜と、を備え、
前記円盤形状の基板本体の外径は90mm以上であり、
前記基板本体の厚さTと、前記2つの主表面に形成された前記膜の厚さDの合計である前記磁気ディスク用基板の厚さ(T+D)は、0.520mm以下であって、
前記の厚さDの、前記基板本体の厚さTに対する比D/Tが0.025以上であり、
前記外周端面に形成された前記膜との界面を形成する前記外周端面における前記基板本体の表面粗さの最大高さRzは0.5μm以上である、
ことを特徴とする磁気ディスク用基板
【請求項2】
前記比D/Tは0.03以上である、請求項1に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項3】
前記比D/Tは0.04以上である、請求項1に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項4】
前記外周端面に形成された前記膜の表面粗さの最大高さRzは、前記外周端面における前記基板本体の表面粗さの最大高さRzより小さい、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項5】
前記のビッカース硬度Hvは100[kgf/mm]以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性膜を有する、磁気ディスク。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気ディスクと、磁気ヘッドとを有する、ハードディスクドライブ装置。
【請求項8】
前記ハードディスクドライブ装置は、前記磁気ヘッドが前記磁気ディスク上から退避するためのランプ部材を有し、前記ランプ部材と前記主表面との間隙が0.2mm以下となるように前記磁気ディスクが設けられる、請求項7に記載のハードディスクドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用非磁性基板及び磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気ディスク用基板として、ガラス基板やアルミニウム合金基板が用いられている。これらの基板には、磁性膜が基板主表面に形成されて磁気ディスク基板が形成される。磁気ディスクは、表面欠陥が少なく、情報の読み取り書き込みに支障が無く、大量の情報の読み取り書き込みが可能なことが望まれている。
【0003】
例えば、磁気ディスク用非磁性基板としてアルミニウム合金基板を用いる場合、アルミニウム合金基板の表面にNiPめっきを行うが、このとき、めっき後の表面欠陥を抑制するために、基板表面に物理蒸着により金属皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム合金基板(以下、「Al合金基板」又は「Al-Mg合金基板」と略す場合がある)が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-302358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記磁気記録媒体用Al合金基板では、この基板に形成するNiPめっき後の表面欠陥を低減することができる、とされている。これにより、情報の読み取り書き込みに支障が無く、大量の情報の読み取り書き込みが可能な磁気ディスク基板が提供され得る。
【0006】
ところで、近年、ハードディスクドライブ業界では、磁気ディスクにおける磁性粒子の微細化が限界に近づいており、従来のような記録密度の向上スピードに陰りが見られている。他方、ビックデータ解析などのため、ハードディスクドライブ装置(以下、HDDと略す場合がある)に対する記憶容量の増大化の要求はますます激しくなっている。そのため、ハードディスクドライブ装置1台に搭載される磁気ディスクの枚数を増やすことが検討されている。
【0007】
ハードディスクドライブ装置に組み込む磁気ディスクの枚数を増大することで記憶容量の増大化を図る場合、磁気ディスクドライブ装置内の限られた空間内で磁気ディスクの厚さのうち大部分を占める磁気ディスク用基板の厚さを薄くする必要がある。
ここで、磁気ディスク用基板の厚さを薄くすると、基板の剛性が低下して、大きな振動が発生しやすくなるとともに、その振動が収まり難い場合があることがわかってきた。例えば、クラウド向けのデータセンターでは極めて大量のハードディスクドライブ装置が用いられているため、故障にともなうハードディスクドライブ装置の交換が頻繁に行われている。このとき、新しいハードディスクドライブ装置がラックに装着される際の衝撃で故障したり、あるいは故障までの時間が短くなったりすることが判明した。さらに詳細に調査したところ、ハードディスクドライブ装置が外部から衝撃を受ける際、ハードディスクドライブ装置にはまだ電源が供給されていないため磁気ディスクは回転していないにもかかわらずダメージを受けることがわかった。
【0008】
このように外部からの衝撃によって生じる振動は、回転する磁気ディスクとその周りの空気の流れによって生じる定常回転状態で生じる定常状態のフラッタ振動とは異なり、時間とともに減衰する。しかし、この振動の振幅が大きいと、磁気ヘッドが磁気ディスク上から退避するために磁気ディスクの主表面上に張り出すように設けられているランプに接触してランプ部材が削れるなどしてパーティクルが発生し、さらに場合によっては磁気ディスクの表面に傷や欠陥が生じる。さらに、振動が収束しない場合、上記接触回数が多くなり、磁気ディスク表面の傷や欠陥、パーティクルがさらに生じ易くなる。現状では、磁気ディスク用基板の厚さは厚いため外部からの衝撃によって生じる振動が問題になるような振幅を有しにくい。またハードディスクドライブ装置の磁気ディスクの搭載枚数は少ないため磁気ディスクとランプとの距離(間隙)は比較的大きい。このため、磁気ディスクとランプが接触することは少ない。しかし、今後、ハードディスクドライブ装置の記憶容量の増大化等のために、磁気ディスク用基板の厚さを0.700mm以下にまで薄くすると、従来問題が生じなかった外部からの衝撃による振動及びこれに伴って生じる他の部材との接触、さらには接触に伴って生じるパーティクルや磁気ディスクの傷や凹みなどが無視できなくなってきた。
【0009】
そこで、本発明は、外部から受ける衝撃により生じる、フラッタ振動とは異なる磁気ディスクの振動を、基板の厚さが薄くなっても効果的に低減することができる磁気ディスク用非磁性基板及び磁気ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、磁気ディスク用非磁性基板である。当該非磁性基板は、
対向する2つの主表面を有する基板本体と、
前記主表面に設けられた、損失係数の値が0.01以上の材料の金属膜と、を備える。
前記基板本体の厚さTと前記金属膜の厚さDの合計である前記非磁性基板の厚さ(T+D)は、0.700mm以下であって、
前記金属膜の厚さDの、前記基板本体の厚さTに対する比D/Tが0.025以上である。
【0011】
前記金属膜は、前記主表面のそれぞれに設けられ、さらに、前記基板本体の端面にも設けられ、
前記主表面のそれぞれにおける前記金属膜の厚さは、前記端面における前記金属膜の厚さの80%以上である、ことが好ましい。
【0012】
前記非磁性基板の厚さは、0.640mm以下である、ことが好ましい。
【0013】
前記磁気ディスク用非磁性基板は円盤形状であって、
前記円盤形状の外径は90mm以上である、ことが好ましい。
【0014】
前記金属膜のビッカース硬度Hvは100[kgf/mm]以上である、ことが好ましい。
【0015】
前記金属膜は、前記基板本体の主表面及び外周端面に形成され、
前記基板本体の、前記金属膜との界面を形成する外周端面の表面粗さの最大高さRzは0.5μm以上である、ことが好ましい。
【0016】
前記金属膜は、前記基板本体の主表面及び外周端面に形成され、
前記磁気ディスク用非磁性基板の外周端面における前記膜の表面粗さの最大高さRzは、前記基板本体の外周端面における前記基板本体の表面粗さの最大高さRzより小さい、ことが好ましい。
【0017】
本発明の他の一態様は、前記磁気ディスク用非磁性基板の表面に少なくとも磁性膜を有する、磁気ディスクである。
【発明の効果】
【0018】
上述の磁気ディスク用非磁性基板及び磁気ディスクによれば、フラッタ振動とは異なる外部からの衝撃により生じる磁気ディスクの振動を、磁気ディスク用基板の厚さが薄くなっても効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の磁気ディスク用非磁性基板の外観形状の一例を示す図である。
図2】本実施形態の磁気ディスク用非磁性基板の端部と膜の一例を説明する図である。
図3】本実施形態の磁気ディスク用非磁性基板の振動の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の磁気ディスク用非磁性基板について詳細に説明する。なお、以降の説明では、磁気ディスク用ガラス基板を用いて説明するが、磁気ディスク用非磁性基板の基板本体は、ガラス基板の他に、非磁性の金属製基板であってもよい。
ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、必要に応じて化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アモルファスのアルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
金属製基板の材料として、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、及びSi単結晶等を用いることができる。アルミニウム合金の場合、マグネシウムを成分として含むAl-Mg(アルミニウムマグネシウム系)合金を用いることができる。これらの中でも特に、アルミニウム合金を好適に用いることができる。
【0021】
図1は、本実施形態の磁気ディスク用非磁性基板の外観形状を示す図である。図1に示すように、本実施形態における磁気ディスク用非磁性基板1(以降、単に非磁性基板1という)は、内孔2が形成された、円盤状の薄板の基板である。非磁性基板1のサイズは問わないが、非磁性基板1は、例えば、公称で直径2.5インチや3.5インチの磁気ディスク用基板に好適に適用できる。公称で直径3.5インチの磁気ディスク用基板の場合、円盤形状の外径(直径)は90mm以上であることが好ましい。具体的に、円盤形状の外径の公称値は、95mmや97mmとすることができる。このような大きな円盤形状であっても、後述する膜を主表面に形成することにより、磁気ディスクの振動に起因するパーティクルや傷や凹みの発生を低減することができる。なお、フラッタ振動とは異なる外部からの衝撃により生じる磁気ディスクの振動は、非磁性基板1の外径が大きいほど大きくなるとともに、減衰はしにくくなる。したがって、本実施形態の非磁性基板1は、公称3.5インチ規格以上の磁気ディスクに用いる場合に特に好ましい。
【0022】
図2は、非磁性基板1の端部と膜の一例を説明する図である。図2に示すように、非磁性基板1は、基板本体3と膜4とを有する。
基板本体3は、一対の主表面3aと、一対の主表面3aに対して直交する方向に沿って配置された側壁面3bと、一対の主表面3aと側壁面3bとの間に配置された一対の面取面3cとを有する。側壁面3b及び面取面3cは、非磁性基板1の外周側の端部及び内周側の端部に形成されている。
【0023】
基板本体3にガラスを用いる場合、基板本体3のガラス組成は例えば、モル%表示で、SiOを、55~78%、LiOを、0.1~1%、NaOを、2~15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOを、合計で10~25%、含み、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOの含有量のモル比(CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.20以下とすることができる(以下、ガラス1とする)。
また、基板本体3のガラスは例えば、モル%表示にて、SiOの含有量が45~68%、Alの含有量が5~20%、SiOとAlの合計含有量(SiO+Al)が60~80%、Bの含有量が0~5%、MgOの含有量が3~28%、CaOの含有量が0~18%、BaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0~2%、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が12~30%、アルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)が3.5~15%、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05~2.00%である、アモルファスの酸化物ガラスとすることもできる(以下、このガラスをガラス2とする)。
【0024】
図2に示すように、基板本体3の主表面3a、側壁面3b、及び面取面3cには、膜4が設けられている。膜4は、非磁性基板1の防振特性を高くする。
膜4は、損失係数の値が0.01以上の金属材料の金属膜である。膜4の金属材料は、基板本体3の材料よりも損失係数の高い材料である。損失係数の値は、室温、例えば、25℃における値である。以降、損失係数は、室温における値である。
ここで、膜4の損失係数は、基板本体3、及び基板本体3に膜4を形成した非磁性基板1のそれぞれを試験試料として、試験試料の共振周波数及び共振周波数における半値幅を振動試験によって求める。振動試験では、例えば日本テクノプラス社製の「自由共振式ヤング率、剛性率及び内部摩擦測定装置(JEシリース゛)」を用いることができる。振動試験で得られた試験試料の共振周波数と半値幅から試験試料の損失係数を求める。さらに、非磁性基板1の共振周波数及び損失係数と、基板本体3の共振周波数と、基板本体3の厚さと膜4の厚さの比と、基板本体3の材料の密度と膜4の金属材料の密度の比とから、膜4の損失係数を例えば下記に示す既知の式にしたがって算出することができる。
非磁性基板1の共振周波数及び損失係数をそれぞれf、ηとし、基板本体3の共振周波数をfとし、基板本体3の厚さに対する膜4の合計厚さの比をaとし、基板本体3の材料の密度に対する膜4の金属材料の密度の比をbとしたとき、膜4の損失係数ηは、α=(f/f・(1+a・b)として、η=α/(α-1)・ηと表すことができる。
【0025】
このような膜4の特性(損失係数)を有する材料として、NiとPを含むNi-P合金を用いることができる。Ni-P合金の場合、非磁性となるようにPを含有させればよい。例えば、Pの含有量を5~15質量%とすることができる。また、Mg合金、Al-Zn合金、Mg-Zr合金等を用いることができる。なお、成膜方法としては、例えばスパッタ法や、無電解メッキ法、電解メッキ法等を用いることができる。これらの中から適宜選択すればよい。
【0026】
基板本体3の厚さを厚さTとし、膜4の厚さを厚さDとしたとき、基板本体3と膜4を含めた非磁性基板1の厚さ(T+D)は、0.700mm以下である。主表面3aに設けられた膜4の厚さD(=D1+D2)の、基板本体3の厚さTに対する比D/Tが0.05以上である。なお、膜4の厚さは、主表面の場所によって変化せず、主表面において一定であることが好ましい。
このような非磁性基板1は、0.700mm以下の厚さを有するので、外部からの衝撃等により非磁性基板1に振動が生じ易いが、上記振動が生じても、基板本体3の主表面3a上には、膜4が形成されているので、上記振動を早期に減衰させることができる。さらに、膜4が端面を含む金属本体1の周り全体を切れ目なく覆うことは、これにより上記振動の抑制の程度が特に高くなるので好ましい。また、この場合、膜4が基板本体3よりも硬質であることがより好ましい。また、D1とD2が同等であることがさらに好ましい。このような場合、局部的に変形するような振動モードが形成されにくく、振動の抑制の程度はより高くなる。そのため、例えばランプや隣接位置のディスクとの接触回数や接触可能性、接触した際の衝撃を減らすことができる。
なお、本実施形態では、両側の主表面3aそれぞれに膜4が形成されるが、本実施形態には、一方の主表面3aにのみ膜4を形成する構成も含まれる。この場合、膜4の厚さDは、一方の主表面3aに形成された膜4の厚さである。
【0027】
非磁性基板1に磁性膜を形成して作られる磁気ディスクは、ハードディスクドライブ装置内で、内孔2において、ハードディスクドライブ装置のスピンドルと固定されている。例えば、交換のために新たなハードディスクドライブ装置をラックに装着するときや、ラック内のハードディスクドライブ装置を別の場所に移動させるために取り外すときなどに、それらの動作に伴って外部からの衝撃をハードディスクドライブ装置は受ける場合がある。このような衝撃によって、スピンドルによって内孔2が固定された非磁性基板1では、内孔2周りの主表面3aが主表面3aの法線方向(非磁性基板1の厚さ方向)に変位する振動が生じる。この振動は、図3に示すように、回転する磁気ディスクとその周りの空気の流れによって生じる定常回転状態で生じる定常状態のフラッタ振動とは異なり、時間とともに減衰する振動である。図3は、非磁性基板1の振動の一例を示す図である。
このような振動は、磁気ディスクが回転している場合でも、静止している場合でも生じる。このため、この振動が長時間続き、非磁性基板1から形成された磁気ディスクがハードディスクドライブ装置内でランプに繰り返し接触して磁気ディスクの表面に傷や欠陥を生じさせること、さらに、この接触によりランプ部材が削れるなどしてパーディクルを発生させることは好ましくない。
【0028】
しかし、非磁性基板1は、損失係数の値が0.01以上である材料で構成した膜であって、膜4の厚さD(=D1+D2)の、基板本体3の厚さTに対する比D/Tが0.025以上であるので、上記振動を早期に減衰させることができる。膜4における損失係数の値は、0.02以上であることがより好ましい。他方、膜4における損失係数の値の上限については特に限定されないが、損失係数の値が大きすぎる材料は、材料中の結晶が壊れやすい軟らかい材料である場合がある。このため、実用的な金属材料を用いることができる点から例えば0.3以下であることが好ましい。
【0029】
比D/Tは、0.025未満であると、膜4の厚さDが基板本体3の厚さTに対して十分に厚くないので、非磁性基板1における振動を早期に減衰させることは難しい他、膜4が主表面3aの振動の初期の振幅を小さくすることもできない。比D/Tを0.025以上とすることにより、主表面3aを覆う膜4の厚さが十分になるので、非磁性基板1における振動を早期に減衰させるとともに、振動の初期の振幅を小さく抑えることができる。比D/Tは、0.03以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましい。他方、比D/Tの上限については上述した課題の観点からは限定されないが、比D/Tが過度に大きいと、膜4の材料コストが増す他、非磁性基板1の重量が増えて磁気ディスクを回転させるハードディスクドライブ装置における電力消費量が増大する場合もあるため、比D/Tは例えば0.15以下とすることが好ましい。
【0030】
膜4は、主表面3aのみに設けられ、側壁面3b及び面取面3cに設けられなくても、上記効果を奏するが、図2に示すように、主表面3aの他に、基板本体3の端面、すなわち、側壁面3b及び面取面3cにも設けられることが好ましい。この場合、側壁面3b及び面取面3cにおける膜4の厚さは、主表面3aのそれぞれにおける膜の厚さD1,D2に比べて厚いことが好ましい。非磁性基板1で生じる振動は、主表面3aの法線方向に変位する振動であり、この振動における主表面3aの法線方向への変位に連動して基板本体3の端面でも、主表面3aの法線方向に変位する。このような変位を抑制することで、主表面3aの法線方向への変位量、すなわち振動の振幅を抑制することができることから、主表面3aの他に、基板本体3の端面、すなわち、側壁面3b及び面取面3cにも膜4が形成されることが好ましい。特に、側壁面3b及び面取面3cにおける膜4の厚さは、主表面3aのそれぞれにおける膜の厚さD1、D2に比べて厚いことが、主表面3aにおける振動の振幅を抑制することができることから好ましい。この場合、主表面3aのそれぞれにおける膜4の厚さD1,D2は、側壁面3b及び面取面3c(端面)における膜4の厚さの80%以上であることが好ましく、85%以上であるとより好ましく、90%以上であると振動の振幅を効率よく抑制することができる点からより一層好ましい。厚さD1,D2は、側壁面3b及び面取面3c(端面)における膜4の厚さに近づくことほど好ましい。上記割合が大きくなり、膜4の厚さが非磁性基板1の全表面において均一に近づくほど、局部的に変形するような振動モードが形成されにくく、振動が抑制されやすくなる。
【0031】
磁気ディスクの厚さは薄くなればなるほど振動の振幅が大きくなるので、磁気ディスクが、ハードディスクドライブ装置内で他の部材との接触回数が増え、さらには接触に伴って生じるパーティクルや磁気ディスクの傷や凹みの欠陥が多くなる問題が生じるが、非磁性体基板1の場合、厚さを0.640mm以下にしても、上記問題は生じ難い。非磁性体基板1の厚さは、0.570mm以下、さらには、0.52mm以下にしてもよく、0.400mm以下にしてもよい。また、非磁性体基板1の厚さとして、例えば、0.635mm、0.550mm、0.500mm、0.380mmとすることができる。非磁性基板1の厚さの下限は機械的耐久性の観点から0.2mm以上であることが好ましい。非磁性基板1が薄くなるほど、原則としてパーティクル発生の問題、さらに場合によっては傷や凹みの欠陥の発生の問題が大きくなるが、本実施形態では、パーティクルや傷や凹みの欠陥を低減する効果は顕著になる。
【0032】
一実施形態によれば、膜4のビッカース硬度Hvは100[kgf/mm]以上であることが好ましい。ビッカース硬度Hvを高くすることにより、ハードディスクドライブ装置内のランプと接触したときに傷や凹みの欠陥が生じにくくなる。ビッカース硬度Hvは100[kgf/mm]未満の場合、ハードディスクドライブ装置内のランプと接触したときに傷や凹みの欠陥が生じ、ハードディスクドライブ装置の故障が生じやすくなる。
【0033】
一実施形態によれば、円盤形状の基板本体3の、膜4との界面を形成する外周端面の表面粗さの最大高さRz(JIS B 0601:2001)は0.5μm以上である、ことが好ましい。基板本体3には、外周端面を含めて、膜4が形成されているが、基板本体3の外周端面の断面画像を取得することができ、最大高さRzを求めることができる。具体的には、まず、膜4が設けられている非磁性基板1の外周端面を、イオンポリッシング法を用いて、非磁性基板1の中心を通り主表面に垂直な面で切出して、外周端面の断面が露出した試料を作成する。この断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて例えば5000倍の倍率の外周端面の断面画像を得る。当該画像から、基板本体3の、膜4と接する界面を形成する基板本体3の表面の凹凸曲線を、例えば断面画像の二値化処理あるいは目視によるトレース処理を行って取得し、当該凹凸曲線上の任意の場所にある幅20μmの領域を抽出して最大高さRzを求める。
【0034】
膜4と接する基板本体3の界面に、ある程度の表面凹凸があることによって、膜4による振動の抑制は高まる。この振動の抑制は、基板本体3と膜4の界面においてお互いの凹部に侵入し食い込むことによって両者の密着性が高まり、膜4による振動の抑制の効果が基板本体3に影響を与えるためである、と推察される。また、膜4を厚くすることで膜剥がれを引き起こす要因となる膜応力が大きくなるが、上記最大高さRzを0.5μm以上とすることにより、膜応力による膜剥がれを防止することもできる。外周端面は主表面と比べて面積が小さい上に複雑な形状であるので膜剥がれが発生しやすい。
なお、基板本体3の外周端面の表面粗さの最大高さRzは、上述の振動の抑制をより高めるために、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。他方、最大高さRzが過度に大きくなると、膜4の成膜後の表面粗さ(非磁性基板1の外周端面における表面粗さ)が、基板本体3の表面粗さに倣って大きくなり、主表面研磨等の加工時に外周端面に異物が付着し易くなり、さらには、磁性膜の成膜後の磁気ディスクにおいても外周端面に異物が付着し易くなるため、非磁性基板1や、ハードディスクドライブ装置の製造時の歩留りが低下する虞れが生じる。なお、上記最大高さRzを0.5μm以上とする外周端面の場所は、少なくとも外周端面の一部であればよいが、上記振動の抑制を高め、及び膜剥がれ防止を高めるためには、側壁面3b及び面取面3cの両方であることが好ましい。
他方、基板本体3の主表面において最大高さRzを大きくしすぎると、膜4の形成初期に欠陥が形成されてそれが伝搬し、膜4の表面に凹部やクラック等の欠陥が発生するおそれがある。これらの欠陥はコロージョンの原因となるので取り除く方がよいが、根が深く、取り除くことが困難であるため、磁性膜を成膜して磁気ディスクとした後にも影響が残る。よって、基板本体3の主表面においては最大高さRzを例えば1μm以下とすることが好ましい。
【0035】
また、一実施形態によれば、非磁性基板1の外周端面における膜4の表面粗さの最大高さRzは、基板本体3の外周端面(膜4と接する境界面)における基板本体3の表面粗さの最大高さRzより小さい、ことが好ましい。
非磁性基板1の外周端面における膜4の表面粗さの最大高さRzについては、例えば、触針式の表面粗さ・輪郭形状測定機を用いて、以下の条件で外周端面の複数箇所(例えば3箇所)の最大高さRzを求め、この複数箇所の平均値を、上記膜4の表面粗さの最大高さRzとする。なお、このとき触針の移動(走査)方向は非磁性基板1の厚さ方向とする。
・触針の形状:先端半径が2μm、円錐のテーパ角度が60°
・触針荷重:0.75mN
・触針移動速度:0.02mm/秒
・サンプリング長さ:0.08mm
・フィルタλc:0.08mm
・フィルタλs:0.0008mm。
【0036】
非磁性基板1の外周端面における膜4の表面粗さの最大高さRzが過度に大きいと、非磁性基板1への異物付着の要因となり易いことから、上記最大高さRzは小さい方が好ましい。最大高さRzは1.0μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがより一層好ましい。なお、上記最大高さRzを制限する非磁性基板1の外周端面の場所は、少なくとも非磁性基板1の外周端面の一部であればよいが、上記振動の抑制効果を高め、及び膜剥がれ防止効果を高めるためには、側壁面3b及び面取面3cに対応する非磁性基板1の表面の対応部分であることが好ましい。なお、外周端面における膜4の表面粗さは、下地である基板本体3の表面粗さに倣い易い。したがって、基板本体3の表面粗さを大きくしすぎた場合は、膜4の形成後に端面研磨処理等の追加工が必要となる場合がある。
【0037】
このような非磁性基板1は、例えば以下のように作製される。ここでは一例として、非磁性基板1としてガラス基板を用いる場合について述べる。
まず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクの成形処理が行われる。次に、このガラスブランクの粗研削が行われる。この後、ガラスブランクに形状加工及び端面研磨が施される。この後、ガラスブランクから得られたガラス基板に固定砥粒を用いた精研削が行われる。この後、第1研磨、化学強化、及び、第2研磨がガラス基板に施される。この後、膜形成、及び膜研磨が行われる。なお、本実施形態では、ガラス基板の作製を上記流れで行うが、上記処理が常にある必要はなく、これらの処理は適宜行われなくてもよい。例えば上記のうち、端面研磨、精研削、第1研磨、化学強化、第2研磨については実施されなくてもよい。以下、各処理について、説明する。
【0038】
(a)ガラスブランクの成形
ガラスブランクの成形では、例えばプレス成形法を用いることができる。プレス成形法により、円形状のガラスブランクを得ることができる。さらに、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。これらの公知の製造方法で作られた板状ガラスブランクに対し、適宜形状加工を行うことによって磁気ディスク用ガラス基板の元となる円板状のガラス基板が得られる。
【0039】
(b)粗研削
粗研削では、ガラスブランクの両側の主表面の研削が行われる。研削材として、例えば遊離砥粒が用いられる。粗研削では、ガラスブランクが目標とする板厚寸法及び主表面の平坦度に略近づくように研削される。なお、粗研削は、成形されたガラスブランクの寸法精度あるいは表面粗さに応じて行われるものであり、場合によっては行われなくてもよい。
【0040】
(c)形状加工
次に、形状加工が行われる。形状加工では、ガラスブランクの成形後、公知の加工方法を用いて円孔を形成することにより、円孔があいた円盤形状のガラス基板を得る。その後、ガラス基板の端面の面取りと外径及び内径の寸法合わせを研削加工により実施する。これにより、ガラス基板の端面には、主表面と直交している側壁面3bと、側壁面3bと両側の主表面3aとの間に、主表面3aに対して傾斜した面取面3cが形成される。
【0041】
(d)端面研磨
次にガラス基板の端面研磨が行われる。端面研磨は、例えば研磨ブラシとガラス基板の端面(側壁面3bと面取面3c)との間に遊離砥粒を含む研磨液を供給して研磨ブラシとガラス基板とを相対的に移動させることにより研磨を行う処理である。端面研磨では、ガラス基板の内周側端面及び外周側端面を研磨対象とし、内周側端面及び外周側端面を鏡面状態にする。なお、端面研磨は、場合によっては行なわれなくてもよい。
【0042】
(e)精研削
次に、ガラス基板の主表面に精研削が施される。例えば、遊星歯車機構の両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面3aに対して研削を行う。この場合、例えば固定砥粒を定盤に設けて研削する。あるいは遊離砥粒を用いた研削を行うこともできる。なお、精研削は、場合によっては行なわれなくてもよい。
【0043】
(f)第1研磨
次に、ガラス基板の主表面3aに第1研磨が施される。第1研磨は、遊離砥粒を用いて、定盤に貼り付けられた研磨パッドを用いる。第1研磨は、例えば固定砥粒による研削を行った場合に主表面3aに残留したクラックや歪みの除去をする。第1研磨では、主表面3aの端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面3aの表面粗さ、例えば算術平均粗さRaを低減することができる。
第1研磨に用いる遊離砥粒は特に制限されないが、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒などが用いられる。なお、第1研磨は、場合によっては行なわれなくてもよい。
【0044】
(g)化学強化
ガラス基板は適宜化学強化することができる。化学強化液として、例えば硝酸カリウム,硝酸ナトリウム、またはそれらの混合物を加熱して得られる溶融液を用いることができる。そして、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層にあるガラス組成中のリチウムイオンやナトリウムイオンが、それぞれ化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオンやカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス基板が強化される。
化学強化を行うタイミングは、適宜決定することができるが、化学強化の後に研磨を行うようにすると、表面の平滑化とともに化学強化によってガラス基板の表面に固着した異物を取り除くことができるので特に好ましい。また、化学強化は、場合によっては、行われなくてもよい。
【0045】
(h)第2研磨(鏡面研磨)
次に、化学強化後のガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面3aの鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨と同様の構成の研磨装置を用いて研磨する。第2研磨では、第1研磨に対して遊離砥粒の種類及び粒子サイズを変え、樹脂ポリッシャの硬度が軟らかいものを研磨パッドとして用いて鏡面研磨を行う。こうすることで主表面3aの端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面3aの粗さを低減することができる。主表面3aの粗さは、算術平均粗さRa(JIS B 0601 2001)は、0.2nm以下であることが好ましい。なお、第2研磨後の基板の主表面3aは、膜4を有する非磁性基板1における最表面にはならないので、第2研磨は、場合によっては行なわれなくてもよい。
【0046】
(i)膜形成
作製されたガラス基板の主表面3a、側壁面3b、及び面取面3cに膜4が形成される。膜4の形成は、電解メッキ、無電解メッキ等により行われる。膜4の形成前に、膜4の密着性を向上させるための前処理を必要に応じて行ってもよい。膜4は、主表面3a、側壁面3b、及び面取面3cに形成され、いずれの面においても同等の膜厚とすることができる。形成された膜4の内部応力を緩和するために膜4の形成後、膜4のアニール処理(熱処理)が必要に応じて行われる。なお膜4は、最終的に磁気ディスクとしたときにノイズの原因とならないよう、非磁性とすることが好ましい。
【0047】
(j)膜研磨
膜4の形成後、膜4の表面粗さを小さくするために、基板本体3の主表面3a上の膜4の研磨が行われる。膜研磨は、鏡面研磨を目的とする。膜研磨後の主表面の粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した算術平均粗さRaで0.2nm以下とすることが好ましい。膜研磨においても、第1研磨と同様の構成の研磨装置を用いて研磨することができる。膜研磨では、第1研磨に対して遊離砥粒の種類及び粒子サイズを変え、樹脂ポリッシャの硬度が軟らかいものを研磨パッドとして用いて研磨を行う。膜研磨では、必要に応じて、複数の研磨が行われてもよい。この場合、後工程の研磨ほど、遊離吐粒の粒子サイズを細かくして精密な研磨を行う。このように主表面3aに形成される膜4を研磨し、側壁面3b及び面取面3cの膜4は研磨しないことによって、側壁面3b及び面取面3cにおける膜4の厚さを、主表面3aにおける膜4の厚さに比べて厚くすることができる。
側壁面3b及び面取面3cに形成された膜4は、上述したように、非磁性基板1の主表面3aの振動の振幅を抑制する効果を奏するので、側壁面3b及び面取面3cにおける膜4の厚さは、主表面3aの振動の振幅を抑制することができる程度の厚さになるように、形成する膜4の厚さは設定されることが好ましい。
膜研磨後、膜4が形成されたガラス基板の洗浄が行われて、磁気ディスク用非磁性基板1が作製される。
【0048】
なお、基板本体3がAl合金基板である場合、例えば以下の方法で基板本体3は作製される。
まず、基板本体3となるAl合金基板を切削加工によって所要の寸法形状に機械加工する。この後、基板本体3の形状精度及び平坦度を向上させるために、加圧加熱焼鈍する。さらに、基板本体3の端面(内周端面及び外周端面)を研削及び研磨する。端面の研削では、ガラス基板の場合と同様に切削加工した基板本体3の端面に砥粒を固着させた回転工具を押しつけて両者を回転させつつ、研削液をノズルから供給して基板本体3の端面を研削する。さらに、端面の表面粗さを低減する場合は、回転工具の表面に不織布から成るポリシャを接着し、遊離砥粒を分散させた研磨液を供給しながら基板本体3の端面を研磨する。また、基板本体3の面取面は、回転工具の端部の形状を予め面取形状に成形した総型砥石を用いて研削を行なうことで形成される。次に、両面研削装置を用いて基板本体3の主表面を研削加工し、さらに両面研磨装置により、発泡ポリウレタン製の樹脂ポリシャと、アルミナ砥粒あるいはコロイダルシリカ砥粒を含む研磨液とを用いて複数回研磨し、最後に洗浄する。
なお、膜4の形成の前処理として、基板本体3にジンケート処理を行ってもよい。膜4の形成後、膜4の内部応力の緩和のために適宜アニール処理が行われる。膜4のアニール処理後、さらに主表面3aの研磨が行われる。研磨は、基板の必要に応じて複数回行われる。この後、洗浄が行われて、磁気ディスク用非磁性基板1が作製される。
【0049】
膜4は、上述したNi-P合金の他に、Mg合金、Al-Zn合金、Mg-Zr合金等を用いることができる。ここで、膜4の材料は、非磁性基板1の振動を抑制する点から、基板本体3に比べて損失係数が高く、損失係数は0.01以上であるが、一実施形態によれば、膜4の材料の損失係数は、0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましい。また、基板本体3の損失係数は、0.002以下であることが好ましく、0.001以下であることがより好ましい。基板本体3の損失係数が小さいほど、膜4による振動の抑制効果が高くなるので、基板本体3の損失係数が小さいものほど好ましい。磁気ディスク用に用いられるアモルファスのアルミノシリケートガラス基板では例えば0.001以下である。また、磁気ディスク用のAl-Mg合金基板では例えば0.002以下である。このように基板本体3の損失係数に対して膜4の損失係数の値の方が十分に大きいため、膜4を成膜することで振動の抑制効果が効果的に得られる。
また、一実施形態によれば、パーティクルや傷や凹みが生じ難い点から、膜4の材料のビッカース硬度Hvは、100[kgf/mm]以上であることが好ましいが、200[kgf/mm]以上であることがより好ましく、400[kgf/mm]以上であることがより一層好ましい。
【0050】
下記表1には、基板本体3の材料及び膜4として好適に用いることができる材料の特性を示す。下記表1に示す損失係数は、上述した損失係数の算出法を用いて算出したものである。損失係数の値は室温における値である。ビッカース硬度Hvは、マイクロビッカース硬度計を用いて、膜4については薄膜のため圧子荷重10gf、基板本体3については圧子荷重300gfの条件で測定したものである。
【0051】
【表1】
上記表1において、アルミノシリケートガラスの損失係数は、上述のガラス1やガラス2の組成を含むいくつかのガラスから求めたものである。なお、ガラス2の場合の典型的な損失係数の値は0.0006である。
Al-Mg合金の組成は例えば、質量%で、Mg:3.5~5%、Si:0~0.05%、Fe:0~0.1%、Cu:0~0.12%、Mn:0~0.3%、Cr:0~0.1%、Zn:0~0.5%、Ti:0~0.1%、残部はAl、である。
Mg合金の組成は、質量%で、Mg:91.57%,Al:7.6%,Zn:0.7%,Mn:0.13%である。
Al-Zn合金の組成は、質量%で、Al:60%,Zn:40%、である。
Mg-Zr合金の組成は、質量%で、Mg:99.4%,Zn:0.6%である。
Ni-P合金の組成は、質量%で、Ni:90%,P:10%である。
【0052】
表1からわかるように、基板本体3の材料として、アルミノシリケートガラスあるいはAl-Mg合金を用い、膜4の材料として、Ni-P合金、Mg合金、Al-Zn合金、及びMg-Zr合金を用いることが、振動の抑制の点から好ましいことがわかる。また、Ni-P合金、Al-Zn合金、及びMg-Zr合金は、ビッカース硬度Hvが100[kgf/mm]以上であって高く、膜4の材料としてより好適であり、パーティクルや傷や凹みが生じ難くなる。また、Ni-P合金はビッカース硬度Hvがとりわけ高く、膜4の材料としてより一層好適であることがわかる。
【0053】
(実験例1)
非磁性基板1の効果を調べるために種々の基板を作製した。
非磁性基板1の基板本体の材料に、上述したガラス組成を満足するアモルファスのアルミノシリケートガラス及びアルミニウム合金(Al-Mg合金)を用いた。膜4を形成する場合、膜4は、Ni-P合金(P:10質量%、残部Ni)を無電解メッキにより基板本体3の全表面を均一の膜厚で覆うように形成した。その後、両面研磨装置を用いて両側の主表面を研磨し、それぞれの主表面において膜4の厚さの20%を研磨除去した。最終的な膜4の厚さは、両側の主表面において同じであり、それぞれの膜4の厚さは、端面における膜4の厚さの80%とした。Ni-P合金の損失係数の値は0.01以上を満足する。
また、作製した非磁性基板1のサイズは、外径95mm、内径(円孔直径)25mmであり、外周端面及び内周端面のそれぞれにおいて両主表面との接続部に面取面が形成されている。この面取面の仕様については、主表面に対する角度が45°、半径方向の長さが150μm、板厚方向の長さが150μmである。このとき外周端面の粗さは、基板本体3の表面及び非磁性基板1の表面ともに最大高さRzが0.1μmとなるように調整した。
【0054】
作製した非磁性基板1に磁性膜を形成して得られる磁気ディスクを、ハードディスクドライブ装置を改造した評価装置内に組み込んだ。評価装置は、内部に磁気ディスクの振動を観察する高速度カメラを備え、高速度カメラで磁気ディスクの振動を監察しながら、任意の大きさの振動を磁気ディスクに与えることが可能である。なお、評価装置では、磁気ディスクは回転しておらず静止状態で評価する。この評価装置には、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)材で作成したランプ部材を模した部材が組み込まれており、各磁気ディスクを装着した際に、両主表面から0.2mmの隙間が空くようになっている。すなわち、ランプ間の磁気ディスクが入る隙間は磁気ディスクの厚み+0.4mmである。基板の厚みが変化しても隙間が一定となるように、異なる仕様の評価装置を複数準備した。なお、メディア工程で成膜される磁性膜の厚さは、下地膜や軟磁性層を含めても100nm以下程度なので実質的に無視できる。評価装置に磁気ディスクを5枚搭載し、全ての磁気ディスクに対してランプ部材で主表面の一部を挟むようにした。
【0055】
この評価装置を用いて、一定の衝撃を磁気ディスクに与える衝撃試験を行った。衝撃の大きさは、表2~5それぞれにおいて欠陥・異物比率の基準(100%)となる比較例の磁気ディスクがランプに数回程度ぶつかる値となるように最適化した。具体的には、表2の場合の衝撃は2m秒で140Gとした。以下、作用時間の2m秒は一定として、表2では120G、表3では90G、表4では70Gとした。衝撃試験の後、組み込んだ磁気ディスクの主表面上のパーティクル及び傷や凹みの欠陥の数を暗室において集光ランプで目視検査し、5枚両面についてその数をカウントした。このパーティクルや傷や凹みは、衝撃試験により、磁気ディスクが装置内で、ランプ部材や他のディスクと接触して発生したものである。下記表2~5では、比較例1,4,7,10におけるパーティクルや傷や凹みの数を基準(100%)として、実施例及び比較例におけるパーティクルや傷や凹みの数を相対的な「欠陥・異物比率」として示した。欠陥・異物比率が小さいほど、パーティクルや傷や凹みの数が少ないことを表す。欠陥・異物比率が小さいほど、実質的にパーティクル等の抑制効果によりハードディスクドライブ装置の寿命が延びると推察される。
以下の表2~5の比較例及び実施例では、基板本体3の厚さを一定にして、膜4の厚さを変化させて比D/Tを種々変化させた。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
表2,3より、非磁性基板1の厚さが0.700mmより厚い従来例1,2では、全くパーティクルや傷や凹みの問題は生じないが、厚さが0.700mmより薄い比較例1,3では、パーティクルや傷や凹みの問題が生じる。しかし、比較例2,3と実施例1~4の比較、及び、比較例5,6と実施例5~8の比較より、比D/Tを0.025以上とすることによりパーティクルや傷や凹みの数を効果的に低下させることがわかる。
表4,5に示すように、非磁性基板1の厚さが0.520mmであっても、比較例8,9と実施例9~13の比較、及び比較例11,12と実施例14~18の比較より、比D/Tを0.025以上とすることによりパーティクルや傷や凹みの数を効果的に低下させることができることがわかる。さらに、パーティクルや傷や凹みの数の低減効果が0.640mmの時と比較して大きいこともわかる。
また、表2~5において、基板本体3の材料以外同じ仕様の実施例同士(例えば、実施例10と実施例15)を比較した場合、基板本体3の材料は、ガラスよりもAl合金を用いる方が、欠陥・異物比率が低い。これより、Al合金基板を基板本体3として用いた場合、振動の抑制は、ガラスの場合に比べて大きいといえる。なお、上記振動の抑制の効果は、磁気ディスクがランプと接触する可能性が高い場合ほど有効であるから、非磁性基板1は、ランプ間の磁気ディスクが入る隙間が「磁気ディスクの厚み+0.4mm以下」の仕様のHDDにおいて特に好ましいといえる。
【0061】
(実験例2)
さらに、基板本体3の、膜4と接する界面における表面粗さと振動の抑制の効果を調べるために種々の基板を作製した。
実験例2で作製する非磁性基板1は、基板本体3の外周端面における表面粗さを、端面研削及び端面研磨の条件を適宜変更することによって調整した以外、基板本体3、膜4の仕様は実験例1の仕様と同じである。この非磁性基板1に磁性膜を形成して得られる磁気ディスクを、実験例1と同じ評価装置内に組み込み、実験例1と同じ衝撃試験を行って欠陥・異物比率を求めることにより、振動の抑制の効果を評価した。
【0062】
下記表6~8における実施例1,5,13は、表2,3,5における実施例1,5,13と同じである。この実施例における基板本体3の、膜4と接する界面における表面粗さである最大高さRzは0.1μmである。
実施例1,5,13を基準にして、基板本体3の種類、膜4の有無、非磁性基板1の厚さ、及び比D/Tを変えずに、外周端面の最大高さRzを調整した。基板本体3の作製時、外周端面の形状加工時の研削砥石の番手と、外周端面の研磨時間を変更することで、最大高さRzを変更した。したがって、下記表6では、実施例1を基準に外周端面の表面粗さを調整した実施例を、実施例1A,1B,1Cとし、同様に表7と表8では、実施例5,13を基準に表面粗さを調整した実施例について、実施例5A,5B,5C、実施例13A,13B,13Cとした。
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
表6~8のいずれの場合も、基板本体3の、膜4と接する界面の外周端面における最大高さRzを、0.5μm以上とすることにより、パーティクルや傷や凹みの数を効果的に低下させることができ、振動の抑制の効果は大きいことがわかる。また、最大高さRzを1.0μm以上、さらには1.5μm以上とすることにより、さらに大きな振動の抑制の効果が得られることがわかる。
以上の評価結果より、磁気ディスク用非磁性基板1の効果は明らかである。
【0067】
以上、本発明の磁気ディスク用非磁性基板及び磁気ディスクについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例等に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0068】
1 磁気ディスク用非磁性基板
2 内孔
3 基板本体
3a 主表面
3b 側壁面
3c 面取面
4 膜
図1
図2
図3