(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20221209BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 364A
F02D45/00 362
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02D43/00 301N
F02D43/00 301Z
(21)【出願番号】P 2021199867
(22)【出願日】2021-12-09
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 建彦
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-165540(JP,A)
【文献】特開2017-72086(JP,A)
【文献】特開2010-190174(JP,A)
【文献】特開2009-275618(JP,A)
【文献】特開平7-332151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度及びクランク角加速度を検出する角度情報検出部と、
各クランク角度において、未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時の軸トルクを算出する未燃焼軸トルク算出部と、
燃焼行程の上死点近傍のクランク角度の前記未燃焼時の軸トルクと、前記上死点近傍のクランク角度の前記クランク角加速度にクランク軸系の慣性モーメントを乗算した実軸トルクとに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかるトルクである外部負荷トルクを算出する外部負荷トルク算出部と、
燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度の前記未燃焼時の軸トルクから前記外部負荷トルクを減算した値を前記慣性モーメントで除算した値を、各クランク角度の前記クランク角加速度から減算した値を、積算して燃焼状態指標を算出する燃焼指標算出部と、
を備えた内燃機関の制御装置。
【請求項2】
クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度及びクランク角加速度を検出する角度情報検出部と、
各クランク角度において、未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時のクランク角加速度を算出する未燃焼加速度算出部と、
燃焼行程の上死点近傍のクランク角度の前記未燃焼時のクランク角加速度と、前記上死点近傍のクランク角度の前記クランク角加速度とに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかる外部負荷トルクによるクランク角加速度成分である外部負荷加速度成分を算出する外部負荷加速度算出部と、
燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度の前記クランク角加速度から、各クランク角度の前記未燃焼時のクランク角加速度を減算し、前記外部負荷加速度成分を加算した値を積算して燃焼状態指標を算出する燃焼指標算出部と、
を備えた内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃焼指標算出部は、前記積算クランク角度区間の開始クランク角度を、燃焼開始角度に基づいて設定する請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃焼指標算出部は、前記積算クランク角度区間の終了クランク角度を、燃焼終了角度に基づいて設定する請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃焼状態指標に基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させる燃焼制御部を備えた請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
複数の燃焼サイクルの前記積算クランク角度区間において算出された複数の前記燃焼状態指標のばらつき度合いを算出し、前記ばらつき度合いに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させる燃焼制御部と、を備えた請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記未燃焼軸トルク算出部は、クランク角度と前記未燃焼時の軸トルクとの関係が設定された未燃焼時軸トルクデータを参照し、各クランク角度に対応する前記未燃焼時の軸トルクを算出する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記未燃焼加速度算出部は、クランク角度と前記未燃焼時のクランク角加速度との関係が設定された未燃焼時加速度データを参照し、各クランク角度に対応する前記未燃焼時のクランク角加速度を算出する請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の技術では、圧縮行程のクランク角速度を下死点から上死点の範囲で積分し、膨張行程のクランク角速度を上死点から下死点の範囲で積分し、膨張行程のクランク角速度の積分値から圧縮行程のクランク角速度の積分値を減算して平均有効圧を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、クランク角速度には、路面からの反力等の外部負荷トルクの影響が含まれ、また、複数気筒を有する内燃機関の場合は、他気筒の影響が含まれる。そのため、特許文献1の技術のように、単にクランク角速度を積算するだけでは、外部負荷トルク及び他気筒等の外乱成分の影響により、燃焼気筒の平均有効圧の検出精度が低下する。
【0005】
そこで、本願は、クランク角センサによる角度検出情報に基づいて燃焼状態を検出する際に、角度検出情報に含まれる外部負荷トルク等の外乱成分の影響により燃焼状態の検出精度が低下することを抑制できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る内燃機関の制御装置は、
クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度及びクランク角加速度を検出する角度情報検出部と、
各クランク角度において、未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時の軸トルクを算出する未燃焼軸トルク算出部と、
燃焼行程の上死点近傍のクランク角度の前記未燃焼時の軸トルクと、前記上死点近傍のクランク角度の前記クランク角加速度にクランク軸系の慣性モーメントを乗算した実軸トルクとに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかるトルクである外部負荷トルクを算出する外部負荷トルク算出部と、
燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度の前記未燃焼時の軸トルクから前記外部負荷トルクを減算した値を前記慣性モーメントで除算した値を、各クランク角度の前記クランク角加速度から減算した値を、積算して燃焼状態指標を算出する燃焼指標算出部と、
を備えたものである。
【0007】
本願に係る内燃機関の制御装置は、
クランク角センサの出力信号に基づいて、クランク角度及びクランク角加速度を検出する角度情報検出部と、
各クランク角度において、未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時のクランク角加速度を算出する未燃焼加速度算出部と、
燃焼行程の上死点近傍のクランク角度の前記未燃焼時のクランク角加速度と、前記上死点近傍のクランク角度の前記クランク角加速度とに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかる外部負荷トルクによるクランク角加速度成分である外部負荷加速度成分を算出する外部負荷加速度算出部と、
燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度の前記クランク角加速度から、各クランク角度の前記未燃焼時のクランク角加速度を減算し、前記外部負荷加速度成分を加算した値を積算して燃焼状態指標を算出する燃焼指標算出部と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に係る内燃機関の制御装置によれば、積算対象の値に慣性モーメントを乗算した値は、燃焼によるガス圧トルクの増加分に相当する。燃焼によるガス圧トルクの増加分は、燃焼によるガス圧(筒内圧)の増加により生じたトルクであり、基本的に、燃焼期間以外は0になる。よって、燃焼期間に対応する積算クランク角度区間の積算値である燃焼状態指標は、1燃焼サイクルの燃焼による仕事量に相当する。一方、図示平均有効圧は、筒内容積について筒内圧を積算した1燃焼サイクルの仕事量に相当し、主に、燃焼による筒内圧の増加分の積算値に応じた値になる。従って、燃焼状態指標は、図示平均有効圧に相当する。よって、燃焼状態指標により、図示平均有効圧の相当値を算出することができ、燃焼状態を評価できる。なお、外部負荷トルク又は外部負荷加速度成分が算出され、燃焼状態指標の算出に反映されているので、燃焼状態指標の算出精度が悪化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る内燃機関および制御装置の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る内燃機関および制御装置の概略構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る制御装置のブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係る制御装置のハードウェア構成図である。
【
図5】実施の形態1に係る角度情報検出処理を説明するためのタイムチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る角度情報算出処理を説明するためのタイムチャートである。
【
図7】実施の形態1に係る未燃焼時の筒内圧と燃焼時の筒内圧とを説明する図である。
【
図8】実施の形態1に係る未燃焼時軸トルクデータを説明する図である。
【
図9】実施の形態1に係る制御装置の概略的な処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態2に係る制御装置のブロック図である。
【
図11】実施の形態2に係る制御装置の概略的な処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る内燃機関の制御装置50(以下、単に制御装置50と称す)について図面を参照して説明する。
図1および
図2は、本実施の形態に係る内燃機関1および制御装置50の概略構成図であり、
図3は、本実施の形態に係る制御装置50のブロック図である。内燃機関1および制御装置50は、車両に搭載され、内燃機関1は、車両(車輪)の駆動力源となる。
【0011】
1-1.内燃機関1の構成
まず、内燃機関1の構成について説明する。
図1に示すように、内燃機関1は、空気と燃料の混合気を燃焼する気筒7を備えている。内燃機関1は、気筒7に空気を供給する吸気路23と、気筒7で燃焼した排気ガスを排出する排気路17とを備えている。内燃機関1は、ガソリンエンジンとされている。内燃機関1は、吸気路23を開閉するスロットルバルブ4を備えている。スロットルバルブ4は、制御装置50により制御される電気モータにより開閉駆動される電子制御式スロットルバルブとされている。スロットルバルブ4には、スロットルバルブ4の開度に応じた電気信号を出力するスロットル開度センサ19が設けられている。
【0012】
スロットルバルブ4の上流側の吸気路23には、吸気路23に吸入される吸入空気量に応じた電気信号を出力するエアフローセンサ3が設けられている。内燃機関1は、排気ガス還流装置20を備えている。排気ガス還流装置20は、排気路17から吸気マニホールド12に排気ガスを還流するEGR流路21と、EGR流路21を開閉するEGRバルブ22と、を有している。吸気マニホールド12は、スロットルバルブ4の下流側の吸気路23の部分である。EGRバルブ22は、制御装置50により制御される電気モータにより開閉駆動される電子制御式EGRバルブとされている。排気路17には、排気路17内の排気ガスの空燃比に応じた電気信号を出力する空燃比センサ18を備えている。
【0013】
吸気マニホールド12には、吸気マニホールド12内の圧力に応じた電気信号を出力するマニホールド圧センサ8が設けられている。吸気マニホールド12の下流側の部分には、燃料を噴射するインジェクタ13が設けられている。なお、インジェクタ13は、気筒7内に直接燃料を噴射するように設けられてもよい。内燃機関1には、大気圧に応じた電気信号を出力する大気圧センサ33が設けられている。
【0014】
気筒7の頂部には、空気と燃料の混合気に点火する点火プラグと、点火プラグに点火エネルギーを供給する点火コイル16と、が設けられている。また、気筒7の頂部には、吸気路23から気筒7内に吸入される吸入空気量を調節する吸気バルブ14と、シリンダ内から排気路17に排出される排気ガス量を調節する排気バルブ15と、が設けられている。吸気バルブ14には、そのバルブ開閉タイミングを可変にする吸気可変バルブタイミング機構が設けられている。排気バルブ15には、そのバルブ開閉タイミングを可変にする排気可変バルブタイミング機構が設けられている。可変バルブタイミング機構14、15は、電動アクチュエータを有している。
【0015】
図2に示すように、内燃機関1は、複数の気筒7(本例では3つ)を備えている。各気筒7内には、ピストン5が備えられている。各気筒7のピストン5は、コンロッド9およびクランク32を介してクランク軸2に接続されている。クランク軸2は、ピストン5の往復運動によって回転駆動される。各気筒7で発生した燃焼ガス圧は、ピストン5の頂面を押圧し、コンロッド9およびクランク32を介してクランク軸2を回転駆動する。クランク軸2は、車輪に駆動力を伝達する動力伝達機構に連結されている。動力伝達機構は、変速装置、ディファレンシャルギヤ等から構成される。なお、内燃機関1を備えた車両は、動力伝達機構内にモータージェネレータを備えたハイブリッド車であってもよい。
【0016】
内燃機関1は、クランク軸2と一体回転する信号板10を備えている。信号板10は、予め定められた複数のクランク角度に複数の歯を設けている。本実施の形態では、信号板10は、10度間隔で歯が並べられている。信号板10の歯には、一部の歯が欠けた欠け歯部分が設けられている。内燃機関1は、エンジンブロック24に固定され、信号板10の歯を検出する第1クランク角センサ11を備えている。
【0017】
内燃機関1は、クランク軸2とチェーン28で連結されたカム軸29を備えている。カム軸29は、吸気バルブ14および排気バルブ15を開閉駆動する。クランク軸2が2回転する間に、カム軸29は1回転する。内燃機関1は、カム軸29と一体回転するカム用の信号板31を備えている。カム用の信号板31は、予め定められた複数のカム軸角度に複数の歯を設けている。内燃機関1は、エンジンブロック24に固定され、カム用の信号板31の歯を検出するカム角センサ30を備えている。
【0018】
制御装置50は、第1クランク角センサ11およびカム角センサ30の2種類の出力信号に基づいて、各ピストン5の上死点を基準としたクランク角度を検出すると共に、各気筒7の行程を判別する。なお、内燃機関1は、吸入行程、圧縮行程、燃焼行程、および排気行程の4行程機関とされている。
【0019】
内燃機関1は、クランク軸2と一体回転するフライホイール27を備えている。フライホイール27の外周部は、リングギア25とされており、リングギア25は、予め定められた複数のクランク角度に複数の歯を設けている。リングギア25の歯は、周方向に等角度間隔で設けられている。本例では4度間隔で、90個の歯が設けられている。リングギア25の歯には欠け歯部分は設けられていない。内燃機関1は、エンジンブロック24に固定され、リングギア25の歯を検出する第2クランク角センサ6を備えている。第2クランク角センサ6は、リングギア25の径方向外側に、リングギア25と間隔を空けて対向配置されている。フライホイール27のクランク軸2とは反対側は、動力伝達機構に連結されている。よって、内燃機関1の出力トルクは、フライホイール27の部分を通って、車輪側に伝達される。
【0020】
第1クランク角センサ11、カム角センサ30、および第2クランク角センサ6は、クランク軸2の回転による、各センサと歯の距離の変化に応じた電気信号を出力する。各角センサ11、30、6の出力信号は、センサと歯の距離が近い場合と、遠い場合とで信号がオンオフする矩形波となる。各角センサ11、30、6には、例えば、電磁ピックアップ式のセンサが用いられる。
【0021】
フライホイール27(リングギア25)は、信号板10の歯数よりも多い歯数を有しており、また、欠け歯部分もないため、高分解能の角度検出を期待できる。また、フライホイール27は、信号板10の質量よりも大きい質量を有しており、高周波振動が抑制されるため、高精度の角度検出を期待できる。
【0022】
1-2.制御装置50の構成
次に、制御装置50について説明する。
制御装置50は、内燃機関1を制御対象とする制御装置である。
図3に示すように、制御装置50は、角度情報検出部51、実軸トルク演算部52、未燃焼軸トルク算出部53、外部負荷トルク算出部54、燃焼指標算出部55、及び燃焼制御部56等の制御部を備えている。制御装置50の各制御部51から56等は、制御装置50が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置50は、
図4に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90にバス等の信号線を介して接続された記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、および演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
【0023】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、および各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。
【0024】
記憶装置91として、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の揮発性及び不揮発性の記憶装置が備えられている。入力回路92は、各種のセンサ及びスイッチが接続され、これらセンサ及びスイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。
【0025】
そして、制御装置50が備える各制御部51から56等の各機能は、演算処理装置90が、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、および出力回路93等の制御装置50の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部51から56等が用いる未燃焼時軸トルクデータ、慣性モーメントIcrk、判定値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されている。また、各制御部51から56等が算出したクランク角度θd、クランク角加速度αd、外部負荷トルクTload、燃焼状態指標αindex等の各演算値および各検出値のデータは、RAM等の記憶装置91に記憶される。
【0026】
本実施の形態では、入力回路92には、第1クランク角センサ11、カム角センサ30、第2クランク角センサ6、エアフローセンサ3、スロットル開度センサ19、マニホールド圧センサ8、大気圧センサ33、空燃比センサ18、およびアクセルポジションセンサ26等が接続されている。出力回路93には、スロットルバルブ4(電気モータ)、EGRバルブ22(電気モータ)、インジェクタ13、点火コイル16、吸気可変バルブタイミング機構14、及び排気可変バルブタイミング機構15等が接続されている。なお、制御装置50には、図示していない各種のセンサ、スイッチ、およびアクチュエータ等が接続されている。制御装置50は、各種センサの出力信号に基づいて、吸入空気量、吸気マニホールド内の圧力、大気圧、空燃比、およびアクセル開度等の内燃機関1の運転状態を検出する。
【0027】
制御装置50は、基本的な制御として、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、燃料噴射量、点火時期等を算出し、インジェクタ13および点火コイル16等を駆動制御する。制御装置50は、アクセルポジションセンサ26の出力信号等に基づいて、運転者が要求している内燃機関1の出力トルクを算出し、当該要求出力トルクを実現する吸入空気量となるように、スロットルバルブ4等を制御する。具体的には、制御装置50は、目標スロットル開度を算出し、スロットル開度センサ19の出力信号に基づき検出したスロットル開度が、目標スロットル開度に近づくように、スロットルバルブ4の電気モータを駆動制御する。また、制御装置50は、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、EGRバルブ22の目標開度を算出し、EGRバルブ22の電気モータを駆動制御する。制御装置50は、入力された各種センサの出力信号等に基づいて、吸気バルブの目標開閉タイミング及び排気バルブの目標開閉タイミングを算出し、各目標開閉タイミングに基づいて、吸気及び排気可変バルブタイミング機構14、15を駆動制御する。
【0028】
1-2-1.角度情報検出部51
角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角度θdの時間変化率であるクランク角速度ωd、及びクランク角速度ωdの時間変化率であるクランク角加速度αdを検出する。
【0029】
本実施の形態では、
図5に示すように、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいてクランク角度θdを検出すると共にクランク角度θdを検出した検出時刻Tdを検出する。そして、角度情報検出部51は、検出したクランク角度θdである検出角度θdおよび検出時刻Tdに基づいて、検出角度θdの間の角度区間Sdに対応する角度間隔Δθdおよび時間間隔ΔTdを算出する。
【0030】
本実施の形態では、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号(矩形波)の立下りエッジ(又は立上りエッジ)を検出した時のクランク角度θdを判定するように構成されている。角度情報検出部51は、基点角度(例えば、第1気筒♯1のピストン5の上死点である0度)に対応する立下りエッジである基点立下りエッジを判定し、基点立下りエッジを基点にカウントアップした立下りエッジの番号n(以下、角度識別番号nと称す)に対応するクランク角度θdを判定する。例えば、角度情報検出部51は、基点立下りエッジを検出した時に、クランク角度θdを基点角度(例えば、0度)に設定すると共に角度識別番号nを1に設定する。そして、角度情報検出部51は、立下りエッジを検出する毎に、クランク角度θdを、予め設定された角度間隔Δθd(本例では4度)ずつ増加させると共に角度識別番号nを1つずつ増加させる。或いは、角度情報検出部51は、角度識別番号nとクランク角度θdとの関係が予め設定された角度テーブルを用い、今回の角度識別番号nに対応するクランク角度θdを読み出すように構成されてもよい。角度情報検出部51は、クランク角度θd(検出角度θd)を角度識別番号nに対応付ける。角度識別番号nは、最大番号(本例では90)の後、1に戻る。角度識別番号n=1の前回の角度識別番号nは90になり、角度識別番号n=90の次回の角度識別番号nは1になる。
【0031】
本実施の形態では、角度情報検出部51は、後述する第1クランク角センサ11およびカム角センサ30に基づいて検出した参照クランク角度を参照して、第2クランク角センサ6の基点立下りエッジを判定する。例えば、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の立下りエッジを検出した時の参照クランク角度が、基点角度に最も近い立下りエッジを、基点立下りエッジと判定する。
【0032】
また、角度情報検出部51は、第1クランク角センサ11およびカム角センサ30に基づいて判別した各気筒7の行程を参照して、クランク角度θdに対応する各気筒7の行程を判定する。
【0033】
角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号(矩形波)の立下りエッジを検出した時の検出時刻Tdを検出し、検出時刻Tdを角度識別番号nに対応付ける。具体的には、角度情報検出部51は、演算処理装置90が備えたタイマー機能を用いて、検出時刻Tdを検出する。
【0034】
角度情報検出部51は、
図5に示すように、立下りエッジを検出した時に、今回の角度識別番号(n)に対応する検出角度θd(n)と、前回の角度識別番号(n-1)に対応する検出角度θd(n-1)との間の角度区間を、今回の角度識別番号(n)に対応する角度区間Sd(n)に設定する。
【0035】
また、角度情報検出部51は、式(1)に示すように、立下りエッジを検出した時に、今回の角度識別番号(n)に対応する検出角度θd(n)と、前回の角度識別番号(n-1)に対応する検出角度θd(n-1)との偏差を算出して、今回の角度識別番号(n)(今回の角度区間Sd(n))に対応する角度間隔Δθd(n)に設定する。
【数1】
本実施の形態では、リングギア25の歯の角度間隔は、全て等しくされているので、角度情報検出部51は、全ての角度識別番号nの角度間隔Δθdを、予め設定された角度(本例では4度)に設定する。
【0036】
また、角度情報検出部51は、式(2)に示すように、立下りエッジを検出した時に、今回の角度識別番号(n)に対応する検出時刻Td(n)と、前回の角度識別番号(n-1)に対応する検出時刻Td(n-1)との偏差を算出して、今回の角度識別番号(n)(今回の角度区間Sd(n))に対応する時間間隔ΔTd(n)に設定する。
【数2】
【0037】
角度情報検出部51は、第1クランク角センサ11およびカム角センサ30の2種類の出力信号に基づいて、第1気筒♯1のピストン5の上死点を基準とした参照クランク角度を検出すると共に、各気筒7の行程を判別する。例えば、角度情報検出部51は、第1クランク角センサ11の出力信号(矩形波)の立下りエッジの時間間隔から、信号板10の欠け歯部分の直後の立下りエッジを判定する。そして、角度情報検出部51は、欠け歯部分の直後の立下りエッジを基準にした各立下りエッジと、上死点を基準にした参照クランク角度と対応関係を判定し、各立下りエッジを検出した時の、上死点を基準とした参照クランク角度を算出する。また、角度情報検出部51は、第1クランク角センサ11の出力信号(矩形波)における欠け歯部分の位置と、カム角センサ30の出力信号(矩形波)との関係から、各気筒7の行程を判別する。
【0038】
<フィルタ処理>
角度情報検出部51は、クランク角加速度αdを算出する際に、高周波の誤差成分を除去するフィルタ処理を行う。角度情報検出部51は、時間間隔ΔTdに対してフィルタ処理を行う。時間間隔ΔTdは、単位角度(本例では、4度)の周期であるクランク角周期ΔTdである。フィルタ処理には、例えば、有限インパルス応答(FIR:Finite Impulse Response)フィルタが用いられる。フィルタ処理により、歯の製造ばらつき等により生じた高周波数の成分が低減される。
【0039】
例えば、FIRフィルタとして、式(3)に示す処理が行われる。
【数3】
ここで、ΔTdf(n)は、フィルタ後の時間間隔(クランク角周期)であり、Nは、フィルタ次数であり、bjは、フィルタ係数である。
【0040】
角度情報検出部51は、未燃焼状態と燃焼状態との間で、同じフィルタ特性のフィルタ処理を行う。本例では、未燃焼状態と燃焼状態との間で、フィルタ次数N及び各フィルタ係数が同じ値に設定されている。
【0041】
なお、時間間隔ΔTdに代えて、後述するクランク角速度ωd(n)に対して、高周波の誤差成分を除去するフィルタ処理が行われてもよい。或いは、クランク角加速度αdを算出する際に、フィルタ処理が行われなくてもよい。
【0042】
なお、角度情報検出部51は、フィルタ処理に代えて、又はフィルタ処理と共に、各角度識別番号nに対応して設定された補正係数Kc(n)により、各角度識別番号nの時間間隔ΔTd(n)を補正するように構成されてもよい。補正係数Kc(n)は、特許第6169214号に開示されている方法等により、時間間隔ΔTd(n)に基づいて学習されたり、製造時に適合により予め設定されたりする。
【0043】
<クランク角速度ωd、クランク角加速度αdの算出>
角度情報検出部51は、角度間隔Δθdおよびフィルタ後の時間間隔ΔTdfに基づいて、検出角度θd又は角度区間Sdのそれぞれに対応する、クランク角度θdの時間変化率であるクランク角速度ωd、およびクランク角速度ωdの時間変化率であるクランク角加速度αdを算出する。
【0044】
本実施の形態では、
図6に示すように、角度情報検出部51は、処理対象とする角度区間Sd(n)に対応する角度間隔Δθd(n)及び時間間隔ΔTdf(n)に基づいて、処理対象の角度区間Sd(n)に対応するクランク角速度ωd(n)を算出する。具体的には、角度情報検出部51は、式(4)に示すように、処理対象の角度区間Sd(n)に対応する補正後の角度間隔Δθdc(n)をフィルタ後の時間間隔ΔTdf(n)で除算して、クランク角速度ωd(n)を算出する。
【数4】
【0045】
角度情報検出部51は、処理対象とする検出角度θd(n)の直前1つの角度区間Sd(n)に対応するクランク角速度ωd(n)およびフィルタ後の時間間隔ΔTdf(n)、並びに処理対象の検出角度θd(n)の直後1つの角度区間Sd(n+1)に対応するクランク角速度ωd(n+1)およびフィルタ後の時間間隔ΔTdf(n+1)に基づいて、処理対象の検出角度θd(n)に対応するクランク角加速度αd(n)を算出する。具体的には、角度情報検出部51は、式(5)に示すように、直後のクランク角速度ωd(n+1)から直前のクランク角速度ωd(n)を減算した減算値を、直後のフィルタ後の時間間隔ΔTdf(n+1)と直前のフィルタ後の時間間隔ΔTdf(n)の平均値で除算して、クランク角加速度αd(n)を算出する。
【数5】
【0046】
角度情報検出部51は、角度識別番号n、クランク角度θd(n)、フィルタ前後の時間間隔ΔTd(n)、ΔTdf(n)、クランク角速度ωd(n)、クランク角加速度αd(n)等の角度情報を、少なくとも燃焼行程以上の期間分、RAM等の記憶装置91に記憶する。
【0047】
1-2-2.実軸トルク演算部52
実軸トルク演算部52は、上死点近傍のクランク角度θd_tdcを含む各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度αdの検出値、及びクランク軸系の慣性モーメントIcrkに基づいて、クランク軸にかかる実軸トルクTcrkdを算出する。
【0048】
実軸トルクTcrkdが算出される各クランク角度θdは、算出された実軸トルクTcrkdが用いられる各クランク角度θdに限定されてもよい。
【0049】
本実施の形態では、実軸トルク演算部52は、次式に示すように、各クランク角度θd(n)において、クランク角加速度αd(n)の検出値に、クランク軸系の慣性モーメントIcrkを乗算して、実軸トルクTcrkd(n)を算出する。
【数6】
【0050】
クランク軸系の慣性モーメントIcrkは、クランク軸2と一体回転する部材全体(例えば、クランク軸2、クランク32、及びフライホイール27等)の慣性モーメントであり、予め設定されている。
【0051】
実軸トルク演算部52は、対応する角度識別番号n及びクランク角度θd(n)等の角度情報と共に、算出した実軸トルクTcrkd(n)を、少なくとも後述する積算クランク角度区間以上の期間分、RAM等の記憶装置91に記憶する。
【0052】
1-2-3.未燃焼軸トルク算出部53
図7に示すように、燃焼時の筒内圧は、未燃焼時の筒内圧よりも、燃焼による圧力上昇分だけ上昇する。次式に示すように、燃焼時の実軸トルクTcrkd_brnは、この燃焼の圧力上昇による軸トルクの増加分ΔTgas_brnだけ、未燃焼時の軸トルクTcrk_motから増加する。この軸トルクの増加分ΔTgas_brnは、未燃焼時の筒内圧(ガス圧)から燃焼時の筒内圧(ガス圧)まで上昇したガス圧上昇により生じた、ガス圧トルクの増加分であるため、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnと称す。
【0053】
未燃焼時の軸トルクTcrk_motには、未燃焼時の各気筒内のガス圧がピストンを押す力によりクランク軸にかかるトルクであるガス圧トルク、及び各気筒のピストンの往復慣性によりクランク軸にかかるトルクである往復慣性トルクが含まれる。また、後述するように、未燃焼時の軸トルクTcrk_motには、外部負荷トルクTloadが含まれていないため、次式に示すように、外部負荷トルクTloadを減算する必要がある。外部負荷トルクTloadは、内燃機関の外部からクランク軸にかかるトルクである。外部負荷トルクTloadには、車輪に連結される動力伝達機構から内燃機関に伝達される車両の走行抵抗及び摩擦抵抗、並びにクランク軸に連結されるオルタネータ等の補機負荷等が含まれる。
【数7】
【0054】
上死点近傍では、コンロッド及びクランクが一直線になり、筒内圧がピストンを押す力により、軸トルクTcrkが生じない。よって、圧縮行程の上死点近傍では、燃焼による軸トルクの増加分ΔTgas_brnが0になる。よって、式(7)を変形した次式に示すように、上死点近傍の未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcから、今回の燃焼時の上死点近傍の実軸トルクTcrkd_brn_tdcを減算することで、今回の外部負荷トルクTloadを算出できる。
【数8】
【0055】
外部負荷トルクTloadは、行程周期では大きく変動しないため、上死点近傍で算出した外部負荷トルクTloadを、各クランク角度θdで用いることができる。
【0056】
なお、本願において、燃焼状態及び燃焼時は、制御装置50が、燃焼行程で燃料を燃焼させるように制御している状態及び時であり、未燃焼状態及び未燃焼時は、制御装置50が、燃焼行程で燃料を燃焼させないように制御している状態及び時である。
【0057】
<未燃焼時の軸トルクの算出>
未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度において、現在の運転状態において未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。
【0058】
本実施の形態では、未燃焼軸トルク算出部53は、クランク角度θdと未燃焼時の軸トルクTcrk_motとの関係が設定された未燃焼時軸トルクデータを参照し、各クランク角度に対応する未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。
【0059】
未燃焼時軸トルクデータは、実験データに基づいて、予め設定され、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されている。未燃焼時軸トルクデータには、後述するように、未燃焼時の実軸トルクTcrkdに基づいて更新されたものが用いられてもよい。
【0060】
未燃焼時軸トルクデータは、少なくとも筒内圧及びピストンの往復慣性トルクに影響する運転状態ごとに設定されている。未燃焼軸トルク算出部53は、現在の運転状態に対応する未燃焼時軸トルクデータを参照し、各クランク角度θdに対応する未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。
【0061】
本実施の形態では、未燃焼時軸トルクデータの設定に係る運転状態は、内燃機関の回転速度、気筒内の吸入気体量、温度、並びに吸気バルブ及び排気バルブの一方又は双方の開閉タイミングのいずれか1つ以上に設定されている。内燃機関の回転速度は、クランク角速度ωdに対応する。気筒内の吸入気体量として、気筒内に吸入された空気及びEGRガスの気体量、充填効率、又は吸気管内のガス圧(本例では、吸気マニホールド内の圧力)等が用いられる。温度として、気筒内に吸入されるガス温度、又は内燃機関の冷却水温又は油温等が用いられる。吸気バルブの開閉タイミングとして、吸気可変バルブタイミング機構14による吸気バルブの開閉タイミングが用いられる。吸気バルブの開閉タイミングとして、排気可変バルブタイミング機構15による排気バルブの開閉タイミングが用いられる。
【0062】
例えば、未燃焼時軸トルクデータとして、運転状態ごとに、
図8に示すような、クランク角度θdと未燃焼時の軸トルクTcrk_motとの関係が設定されたマップデータが、記憶装置91に記憶されている。マップデータの代わりに多項式等の近似式が用いられてもよい。或いは、未燃焼時軸トルクデータとして、複数の運転状態及びクランク角度θdを入力とし、未燃焼時の軸トルクTcrk_motを出力するニューラルネットワーク等の高次の関数が用いられてもよい。
【0063】
未燃焼軸トルク算出部53は、内燃機関の未燃焼状態において、各クランク角度θdにおいて演算された未燃焼時の実軸トルクTcrkdにより、未燃焼時軸トルクデータを更新する。例えば、未燃焼軸トルク算出部53は、記憶装置91に記憶されている未燃焼時軸トルクデータを参照し、更新対象のクランク角度θdに対応する未燃焼時の軸トルクTcrkを読み出し、読み出した未燃焼時の軸トルクTcrkが、更新対象のクランク角度θdで演算された未燃焼時の実軸トルクTcrkdに近づくように、記憶装置91に記憶されている未燃焼時軸トルクデータに設定されている更新対象のクランク角度θdの未燃焼時の軸トルクTcrkを変化させる。
【0064】
<筒内吸入気体量の状態のずれの補償>
参照した未燃焼時軸トルクデータに対応する特定の筒内吸入気体量の状態と、現在の筒内吸入気体量の状態とがずれている場合がある。この場合は、未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、クランク機構の物理モデル式を用い、参照する未燃焼時軸トルクデータに対応する特定の筒内吸入気体量の状態であり、且つ、未燃焼状態であると仮定した場合における、気筒内のガス圧及びピストンの往復運動により生じるトルクである未燃焼仮定の発生トルクを算出する。ここで、特定の筒内吸入気体量の状態には、参照された未燃焼時軸トルクデータの測定時の運転状態が用いられる。
【0065】
未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する物理モデル式を用い、特定の筒内吸入気体量の状態に基づいて、未燃焼状態であると仮定した場合の気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する。
【0066】
そして、未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、ガス圧トルクと慣性トルクとを合計して、特定の筒内吸入気体量の状態における未燃焼仮定の発生トルクを算出する。
【0067】
一方、未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、クランク機構の物理モデル式を用い、現在の筒内吸入気体量の状態において未燃焼であると仮定した場合における、気筒内のガス圧及びピストンの往復運動により生じるトルクである、現在の筒内吸入気体量の状態における未燃焼仮定の発生トルクを算出する。
【0068】
未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する物理モデル式を用い、現在の筒内吸入気体量の状態に基づいて、内燃機関が未燃焼状態であると仮定した場合の気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する。
【0069】
そして、未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、ガス圧トルクと慣性トルクとを合計して、現在の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定の発生トルクを算出する。
【0070】
未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、未燃焼時軸トルクデータを参照して算出した未燃焼時の軸トルクTcrk_motから特定の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定の発生トルクを減算したトルク差を、現在の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定の発生トルクに加算して、最終的な未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する。
【0071】
1-2-4.外部負荷トルク算出部54
外部負荷トルク算出部54は、燃焼行程の上死点近傍のクランク角度θd_tdcの未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcと、上死点近傍のクランク角度θd_tdcのクランク角速度αd_tdcにクランク軸系の慣性モーメントIcrkを乗算した実軸トルクTcrkd_brn_tdcとに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかるトルクである外部負荷トルクTloadを算出する。
【0072】
本実施の形態では、式(8)を用いて説明したように、外部負荷トルク算出部54は、次式に示すように、上死点近傍の未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcから、上死点近傍の燃焼時の実軸トルクTcrkd_brn_tdcを減算して、外部負荷トルクTloadを算出する。
【数9】
【0073】
上死点近傍のクランク角度θd_tdcは、圧縮行程と燃焼行程との間の上死点近傍のクランク角度に予め設定されている。ここで、上死点近傍は、例えば、上死点前10度から上死点後10度までの角度区間内である。例えば、上死点近傍のクランク角度θd_tdcは、上死点のクランク角度に予め設定されている。
【0074】
1-2-5.燃焼指標算出部55
燃焼指標算出部55は、次式に示すように、燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度θd(n)の未燃焼時の軸トルクTcrk_mot(n)から外部負荷トルクTloadを減算した値を慣性モーメントIcrkで除算した値を、各クランク角度θd(n)のクランク角加速度αd(n)から減算した値を、積算して燃焼状態指標αindexを算出する。ここで、nstは、積算クランク角度区間の開始クランク角度θstに対応する角度識別番号nであり、nendは、積算クランク角度区間の終了クランク角度θendに対応する角度識別番号nである。
【数10】
【0075】
式(6)及び式(7)を用いて式(10)を変形すると、次式のようになる。すなわち、式(10)により算出される燃焼状態指標αindexは、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnを慣性モーメントIcrkで除算した値を、燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において積算した積算値に相当する。
【数11】
【0076】
なお、式(10)の代わりに、式(11)が用いられてもよい。或いは、燃焼状態指標として、式(10)又は式(11)の右辺に慣性モーメントIcrkを乗算した式を用い、燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnの積算値が算出されてもよい。いずれも数学的に等価であり、同等の物理的な意味を有する。
【0077】
燃焼によるガス圧トルクの増加分ΔTgas_brnは、
図7に示したように、燃焼によるガス圧(筒内圧)の増加により生じたトルクであり、基本的に、燃焼期間以外は0になる。よって、燃焼期間に対応する積算クランク角度区間のΔTgas_brnの積算値は、1燃焼サイクルの燃焼による仕事量に相当する。一方、図示平均有効圧IMEPは、筒内容積について筒内圧を積算した1燃焼サイクルの仕事量に相当し、主に、燃焼による筒内圧の増加分の積算値に応じた値になる。従って、ΔTgas_brnの積算値は、図示平均有効圧IMEPに相当する。よって、次式に示すように、燃焼状態指標αindexに所定のゲインAを乗算し、所定のオフセットBを加算した値は、図示平均有効圧IMEPに相当する。よって、燃焼状態指標αindexにより、図示平均有効圧IMEPの相当値を算出することができ、燃焼状態を評価できる。
【0078】
【0079】
図示平均有効圧IMEPの相当値の算出精度を高めるためには、積算クランク角度区間は、燃焼によりガス圧が増加する燃焼期間を含む必要がある。燃焼指標算出部55は、積算クランク角度区間の開始クランク角度θstを、燃焼開始角度θcnvstに基づいて設定する。燃焼開始角度θcnvstは、基本的に、点火時期の直後になる。よって、燃焼指標算出部55は、少なくとも点火時期に基づいて、燃焼開始角度θcnvstを算出し、燃焼開始角度θcnvstよりも所定角度だけ進角側の角度を、開始クランク角度θstとして算出する。なお、燃焼開始角度θcnvstの算出に、回転速度、筒内吸入気体量、及びEGR量等の他の内燃機関の運転状態が用いられてもよい。プレイグニッションの発生時は、点火時期よりも前に、燃焼が開始する。よって、プレイグニッションが発生した場合は、燃焼指標算出部55は、プレイグニッションの発生角度(燃焼開始角度θcnvst)よりも所定角度だけ進角側の角度を、開始クランク角度θstとして算出する。
【0080】
ΔTgas_brnに対応するαd-(Tcrk_mot-Tload)/Icrkが、0よりも大きくなり始めた角度が、燃焼開始角度であると判定できる。よって、燃焼指標算出部55は、αd-(Tcrk_mot-Tload)/Icrkが判定値よりも大きくなった角度を、燃焼開始角度θcnvstと判定してもよい。
【0081】
燃焼指標算出部55は、積算クランク角度区間の終了クランク角度θendを、燃焼終了角度θcnvendに基づいて設定する。例えば、燃焼により気筒内のガス圧が上昇する角度区間は、排気弁の開弁時期までであるので、終了クランク角度θendは、開弁角度に設定されるとよい。排気弁の可変バルブタイミング機構が設けられる場合は、終了クランク角度θendは、可変バルブタイミング機構により設定された排気弁の開弁角度に対応して設定されてもよい。或いは、燃焼状態を判定する上で、燃焼が進行している燃焼期間の前半が重要であるので、終了クランク角度θendは、排気弁の開弁時期よりも前に設定されてもよい。
【0082】
このように、積算クランク角度区間を、燃焼期間に対応して設定することにより、演算負荷を最小限に抑制しつつ、図示平均有効圧IMEPの相当値を精度よく算出することができる。
【0083】
1-2-6.燃焼制御部56
<燃焼状態指標を用いる場合>
燃焼制御部56は、燃焼状態指標αindexに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させる。
【0084】
可変バルブタイミング機構の制御量は、排気弁の可変バルブタイミング機構を制御する場合は排気バルブの開閉タイミングになり、吸気弁の可変バルブタイミング機構を制御する場合は吸気バルブの開閉タイミングになる。燃焼状態指標αindexは、図示平均有効圧IMEPの相当値であるので、図示平均有効圧IMEPを用いた公知の各種の燃焼制御を用いることができる。
【0085】
例えば、燃焼制御部56は、燃焼状態指標αindexが増加するように、1燃焼サイクル毎に、燃焼状態指標αindexに基づいて制御パラメータを変化させる。前回の燃焼サイクルで算出された燃焼状態指標αindexよりも今回の燃焼サイクルで算出された燃焼状態指標αindexが増加した場合は、燃焼制御部56は、前回の燃焼サイクルの燃焼状態指標αindexに基づいて変化された制御パラメータの変化方向と同じ方向に、制御パラメータを変化させる。一方、前回の燃焼サイクルで算出された燃焼状態指標αindexよりも今回の燃焼サイクルで算出された燃焼状態指標αindexが減少した場合は、燃焼制御部56は、前回の燃焼サイクルの燃焼状態指標αindexに基づいて変化された制御パラメータの変化方向と反対方向に、制御パラメータを変化させる。このように制御することで、燃焼状態指標αindexが最大値に近づき、図示平均有効圧IMEPが最大値に近づくように、制御パラメータを変化させ、燃費、出力を向上させることができる。なお、燃焼状態指標αindexの増減は、同じ気筒については評価されてもよいし、全ての気筒についてまとめて評価されてもよい。
【0086】
<燃焼状態指標のばらつき度合いを用いる場合>
或いは、燃焼制御部56は、複数の燃焼サイクルの積算クランク角度区間において算出された複数の燃焼状態指標αindexのばらつき度合いを算出し、ばらつき度合いに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させてもよい。
【0087】
例えば、燃焼制御部56は、複数の燃焼サイクル毎に、ばらつき度合いが判定値以下になるように、制御パラメータを変化させる。燃焼制御部56は、今回算出されたばらつき度合いが判定値よりも大きくなった場合は、ばらつき度合いが減少する方向に、制御パラメータを変化させる。ばらつき度合いが減少する方向は、各制御パラメータについて予め設定されている。このように制御することで、燃焼状態指標αindexのばらつき度合いが判定値以下になり、図示平均有効圧IMEPのばらつき度合いが低下するように、制御パラメータを変化させ、燃焼状態を安定化させることができる。なお、燃焼状態指標αindexのばらつき度合いは、同じ気筒については評価されてもよいし、全ての気筒についてまとめて評価されてもよい。
【0088】
例えば、燃焼制御部56は、複数の燃焼状態指標αindexのばらつき度合いとして、複数の燃焼サイクルの燃焼状態指標αindexの標準偏差σを、複数の燃焼状態指標αindexの平均値で除算して燃焼変動率を算出する。燃焼変動率は、図示平均有効圧の燃焼変動率COVに相当する。よって、図示平均有効圧の燃焼変動率COVを用いた公知の各種の燃焼制御を用いることができる。
【0089】
なお、燃焼制御部56は、燃焼状態指標αindexに基づく制御パラメータの変化と、燃焼状態指標αindexのばらつき度合いに基づく制御パラメータの変化とを、平行して実行してもよい。この場合は、燃焼制御部56は、ばらつき度合いが判定値よりも大きい場合は、ばらつき度合いに基づく制御パラメータの変化を実行し、ばらつき度合いが判定値以下である場合は、燃焼状態指標αindexに基づく制御パラメータの変化を実行する。
【0090】
<処理全体の概略フローチャート>
本実施の形態に係る制御装置50の概略的な処理の手順(内燃機関の制御方法)について、
図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
図9のフローチャートの処理は、演算処理装置90が記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行することにより、例えば、クランク角度θdを検出する毎、又は所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0091】
ステップS01で、上述したように、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdを検出する角度情報検出処理(角度情報検出ステップ)を実行する。
【0092】
ステップS02で、上述したように、実軸トルク演算部52は、上死点近傍のクランク角度θd_tdcを含む各クランク角度θdにおいて、クランク角加速度αdの検出値、及びクランク軸系の慣性モーメントIcrkに基づいて、クランク軸にかかる実軸トルクTcrkdを算出する実軸トルク演算処理(実軸トルク演算ステップ)を実行する。
【0093】
ステップS03で、制御装置50は、内燃機関の燃焼状態であるか、内燃機関の未燃焼状態であるかを判定し、燃焼状態である場合は、ステップS04に進み、未燃焼状態である場合は、ステップS08に進む。ここで、燃焼状態及び燃焼時は、制御装置50が、燃焼行程で燃料を燃焼させるように制御している状態及び時であり、未燃焼状態及び未燃焼時は、制御装置50が、燃焼行程で燃料を燃焼させないように制御している状態及び時である。
【0094】
ステップS04で、上述したように、未燃焼軸トルク算出部53は、各クランク角度θdにおいて、現在の運転状態において未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時の軸トルクTcrk_motを算出する未燃焼軸トルク算出処理(未燃焼軸トルク算出ステップ)を実行する。
【0095】
ステップS05で、上述したように、外部負荷トルク算出部54は、燃焼行程の上死点近傍のクランク角度θd_tdcの未燃焼時の軸トルクTcrk_mot_tdcと、上死点近傍のクランク角度θd_tdcの実軸トルクTcrkd_brn_tdcとに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかるトルクである外部負荷トルクTloadを算出する外部負荷トルク算出処理(外部負荷トルク算出ステップ)を実行する。
【0096】
ステップS06で、上述したように、燃焼指標算出部55は、燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度θd(n)の未燃焼時の軸トルクTcrk_mot(n)から外部負荷トルクTloadを減算した値を慣性モーメントIcrkで除算した値を、各クランク角度θd(n)のクランク角加速度αd(n)から減算した値を、積算して燃焼状態指標αindexを算出する燃焼指標算出処理(燃焼指標算出ステップ)を実行する。
【0097】
ステップS07で、上述したように、燃焼制御部56は、燃焼状態指標αindexに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させる燃焼制御処理(燃焼制御ステップ)を実行する。なお、燃焼制御部56は、複数の燃焼サイクルの積算クランク角度区間において算出された複数の燃焼状態指標αindexのばらつき度合いを算出し、ばらつき度合いに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させてもよい。
【0098】
一方、内燃機関の未燃焼状態である場合は、ステップS08で、上述したように、未燃焼軸トルク算出部53は、内燃機関の未燃焼状態であり、各クランク角度θdにおいて演算された未燃焼時の実軸トルクTcrkdにより、未燃焼時軸トルクデータを更新する未燃焼時軸トルク学習処理(未燃焼時軸トルク学習ステップ)を実行する。
【0099】
2.実施の形態2
実施の形態2に係る制御装置50について図面を参照して説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る制御装置50の基本的な構成は実施の形態1と同様である。
【0100】
本実施の形態では、
図10に示すように、制御装置50は、未燃焼軸トルク算出部53及び外部負荷トルク算出部54の代わりに未燃焼加速度算出部57及び外部負荷加速度算出部58を備えており、実軸トルク演算部52を備えていない。
【0101】
2-1.未燃焼加速度算出部57
未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度において、現在の運転状態において未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時のクランク角加速度α_motを算出する。
【0102】
本実施の形態では、未燃焼加速度算出部57は、クランク角度θdと未燃焼時のクランク角加速度α_motとの関係が設定された未燃焼時加速度データを参照し、各クランク角度に対応する未燃焼時のクランク角加速度α_motを算出する。
【0103】
未燃焼時加速度データは、実験データに基づいて、予め設定され、ROM、EEPROM等の記憶装置91に記憶されている。未燃焼時加速度データには、後述するように、未燃焼時に検出されたクランク角加速度αdに基づいて更新されたものが用いられてもよい。
【0104】
未燃焼時加速度データは、少なくとも筒内圧及びピストンの往復慣性トルクに影響する運転状態ごとに設定されている。未燃焼加速度算出部57は、現在の運転状態に対応する未燃焼時加速度データを参照し、各クランク角度θdに対応する未燃焼時のクランク角加速度α_motを算出する。
【0105】
本実施の形態では、未燃焼時加速度データの設定に係る運転状態は、内燃機関の回転速度、気筒内の吸入気体量、温度、並びに吸気バルブ及び排気バルブの一方又は双方の開閉タイミングのいずれか1つ以上に設定されている。未燃焼時加速度データの設定は、未燃焼時軸トルクデータの設定と同様であるので説明を省略する。
【0106】
未燃焼加速度算出部57は、内燃機関の未燃焼状態において、各クランク角度θdにおいて演算された未燃焼時のクランク角加速度αdにより、未燃焼時加速度データを更新する。例えば、未燃焼加速度算出部57は、記憶装置91に記憶されている未燃焼時加速度データを参照し、更新対象のクランク角度θdに対応する未燃焼時のクランク角加速度α_motを読み出し、読み出した未燃焼時のクランク角加速度α_motが、更新対象のクランク角度θdで演算された未燃焼時のクランク角加速度αdに近づくように、記憶装置91に記憶されている未燃焼時加速度データに設定されている更新対象のクランク角度θdの未燃焼時のクランク角加速度α_motを変化させる。
【0107】
<筒内吸入気体量の状態のずれの補償>
未燃焼軸トルク算出部53と同様に、未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、クランク機構の物理モデル式を用い、参照する未燃焼時加速度データに対応する特定の筒内吸入気体量の状態であり、且つ、未燃焼状態であると仮定した場合における、気筒内のガス圧及びピストンの往復運動により生じるトルクである未燃焼仮定の発生トルクを算出する。ここで、特定の筒内吸入気体量の状態には、参照された未燃焼時加速度データの測定時の運転状態が用いられる。
【0108】
未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する物理モデル式を用い、特定の筒内吸入気体量の状態に基づいて、未燃焼状態であると仮定した場合の気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する。
【0109】
そして、未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、ガス圧トルクと慣性トルクとを合計して、特定の筒内吸入気体量の状態における未燃焼仮定の発生トルクを算出し、未燃焼仮定の発生トルクをクランク軸系の慣性モーメントIcrkで除算して、特定の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定のクランク角加速度を算出する。
【0110】
一方、未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、クランク機構の物理モデル式を用い、現在の筒内吸入気体量の状態において未燃焼であると仮定した場合における、気筒内のガス圧及びピストンの往復運動により生じるトルクである、現在の筒内吸入気体量の状態における未燃焼仮定の発生トルクを算出する。
【0111】
未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する物理モデル式を用い、現在の筒内吸入気体量の状態に基づいて、内燃機関が未燃焼状態であると仮定した場合の気筒内のガス圧により生じるガス圧トルクを算出する。
【0112】
そして、未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、ガス圧トルクと慣性トルクとを合計して、現在の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定の発生トルクを算出し、未燃焼仮定の発生トルクをクランク軸系の慣性モーメントIcrkで除算して、現在の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定のクランク角加速度を算出する。
【0113】
未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度θdにおいて、未燃焼時加速度データを参照して算出した未燃焼時のクランク角加速度α_motから特定の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定のクランク角加速度を減算したクランク角加速度差を、現在の筒内吸入気体量の状態の未燃焼仮定のクランク角加速度に加算して、最終的な未燃焼時のクランク角加速度α_motを算出する。
【0114】
2-2.外部負荷加速度算出部58
外部負荷加速度算出部58は、燃焼行程の上死点近傍のクランク角度θd_tdcの未燃焼時のクランク角加速度α_mot_tdcと、上死点近傍のクランク角度θd_tdcのクランク角加速度αd_tdcとに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかる外部負荷トルクTloadによるクランク角加速度成分である外部負荷加速度成分Δαloadを算出する。
【0115】
次式は、式(9)をクランク軸系の慣性モーメントIcrkで除算した式に相当する。外部負荷加速度算出部58は、次式に示すように、上死点近傍の未燃焼時のクランク角加速度α_mot_tdcから、上死点近傍のクランク角加速度αd_tdcを減算して、外部負荷加速度成分Δαloadを算出する。
【数13】
【0116】
2-3.燃焼指標算出部55
次式は、式(10)と数学的に等価である。燃焼指標算出部55は、次式に示すように、燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度θd(n)のクランク角加速度αd(n)から、各クランク角度θd(n)の未燃焼時のクランク角加速度α_mot(n)を減算し、外部負荷加速度成分Δαloadを加算した値を、積算して燃焼状態指標αindexを算出する。ここで、nstは、積算クランク角度区間の開始クランク角度θstに対応する角度識別番号nであり、nendは、積算クランク角度区間の終了クランク角度θendに対応する角度識別番号nである。
【数14】
【0117】
実施の形態1で説明したように、式(14)は、式(11)と数学的に等価であるので、式(14)の代わりに式(11)が用いられてもよい。
【0118】
実施の形態1で説明したように、燃焼状態指標αindexにより、図示平均有効圧IMEPの相当値を算出することができ、燃焼状態を評価できる。
【0119】
実施の形態1と同様に、燃焼指標算出部55は、積算クランク角度区間の開始クランク角度θstを、燃焼開始角度θcnvstに基づいて設定する。燃焼開始角度θcnvstは、基本的に、点火時期の直後になる。よって、燃焼指標算出部55は、少なくとも点火時期に基づいて、燃焼開始角度θcnvstを算出し、燃焼開始角度θcnvstよりも所定角度だけ進角側の角度を、開始クランク角度θstとして算出する。なお、燃焼開始角度θcnvstの算出に、回転速度、筒内吸入気体量、及びEGR量等の他の内燃機関の運転状態が用いられてもよい。プレイグニッションの発生時は、点火時期よりも前に、燃焼が開始する。よって、プレイグニッションが発生した場合は、燃焼指標算出部55は、プレイグニッションの発生角度(燃焼開始角度θcnvst)よりも所定角度だけ進角側の角度を、開始クランク角度θstとして算出する。
【0120】
ΔTgas_brnに対応する(αd-α_mot+Δαload)が、0よりも大きくなり始めた角度が、燃焼開始角度であると判定できる。よって、燃焼指標算出部55は、(αd-α_mot+Δαload)が判定値よりも大きくなった角度を、燃焼開始角度θcnvstと判定してもよい。
【0121】
燃焼指標算出部55は、積算クランク角度区間の終了クランク角度θendを、燃焼終了角度θcnvendに基づいて設定する。例えば、燃焼により気筒内のガス圧が上昇する角度区間は、排気弁の開弁時期までであるので、終了クランク角度θendは、開弁角度に設定されるとよい。排気弁の可変バルブタイミング機構が設けられる場合は、終了クランク角度θendは、可変バルブタイミング機構により設定された排気弁の開弁角度に対応して設定されてもよい。或いは、燃焼状態を判定する上で、燃焼が進行している燃焼期間の前半が重要であるので、終了クランク角度θendは、排気弁の開弁時期よりも前に設定されてもよい。
【0122】
このように、積算クランク角度区間を、燃焼期間に対応して設定することにより、演算負荷を最小限に抑制しつつ、図示平均有効圧IMEPの相当値を精度よく算出することができる。
【0123】
<処理全体の概略フローチャート>
本実施の形態に係る制御装置50の概略的な処理の手順(内燃機関の制御方法)について、
図11に示すフローチャートに基づいて説明する。
図11のフローチャートの処理は、演算処理装置90が記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行することにより、例えば、クランク角度θdを検出する毎、又は所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0124】
ステップS11で、上述したように、角度情報検出部51は、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdを検出する角度情報検出処理(角度情報検出ステップ)を実行する。
【0125】
ステップS12で、制御装置50は、内燃機関の燃焼状態であるか、内燃機関の未燃焼状態であるかを判定し、燃焼状態である場合は、ステップS13に進み、未燃焼状態である場合は、ステップS17に進む。
【0126】
ステップS13、上述したように、未燃焼加速度算出部57は、各クランク角度において、現在の運転状態において未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時のクランク角加速度α_motを算出する未燃焼加速度算出処理(未燃焼加速度算出ステップ)を実行する。
【0127】
ステップS14で、上述したように、外部負荷加速度算出部58は、燃焼行程の上死点近傍のクランク角度θd_tdcの未燃焼時のクランク角加速度α_mot_tdcと、上死点近傍のクランク角度θd_tdcのクランク角加速度αd_tdcとに基づいて、内燃機関の外部からクランク軸にかかる外部負荷トルクTloadによるクランク角加速度成分である外部負荷加速度成分Δαloadを算出する外部負荷加速度算出処理(外部負荷加速度算出ステップ)を実行する。
【0128】
ステップS15で、上述したように、燃焼指標算出部55は、燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、各クランク角度θd(n)のクランク角加速度αd(n)から、各クランク角度θd(n)の未燃焼時のクランク角加速度α_mot(n)を減算し、外部負荷加速度成分Δαloadを加算した値を、積算して燃焼状態指標αindexを算出する燃焼指標算出処理(燃焼指標算出ステップ)を実行する。
【0129】
ステップS16で、上述したように、燃焼制御部56は、燃焼状態指標αindexに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させる燃焼制御処理(燃焼制御ステップ)を実行する。なお、燃焼制御部56は、複数の燃焼サイクルの積算クランク角度区間において算出された複数の燃焼状態指標αindexのばらつき度合いを算出し、ばらつき度合いに基づいて、点火時期、EGR量、燃料噴射量、及び可変バルブタイミング機構の制御量の1つ以上の制御パラメータを変化させてもよい。
【0130】
一方、内燃機関の未燃焼状態である場合は、ステップS17で、上述したように、未燃焼加速度算出部57は、内燃機関の未燃焼状態であり、各クランク角度θdにおいて演算されたクランク角加速度αdにより、未燃焼時加速度データを更新する未燃焼時角加速度学習処理(未燃焼時角加速度学習ステップ)を実行する。
【0131】
<転用例>
(1)上記の各実施の形態においては、第2クランク角センサ6の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdが検出される場合を例に説明した。しかし、第1クランク角センサ11の出力信号に基づいて、クランク角度θd、クランク角速度ωd、及びクランク角加速度αdが検出されてもよい。
【0132】
(2)上記の各実施の形態においては、気筒数が3つの3気筒エンジンが用いられる場合を例に説明した。しかし、任意の気筒数(例えば、1気筒、2気筒、4気筒、6気筒)のエンジンが用いられてもよい。
【0133】
(3)上記の各実施の形態においては、内燃機関1は、ガソリンエンジンとされている場合を例として説明した。しかし、本願の実施の形態はこれに限定されない。すなわち、内燃機関1は、ディーゼルエンジン、HCCI燃焼(Homogeneous-Charge Compression Ignition Combustion)を行うエンジン等の各種の内燃機関とされてもよい。
【0134】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0135】
1 内燃機関、2 クランク軸、6 第2クランク角センサ、50 内燃機関の制御装置、51 角度情報検出部、52 実軸トルク演算部、53 未燃焼軸トルク算出部、54 外部負荷トルク算出部、55 燃焼指標算出部、56 燃焼制御部、57 未燃焼加速度算出部、58 外部負荷加速度算出部、Icrk 慣性モーメント、Tcrk_mot 未燃焼時の軸トルク、Tcrkd 実軸トルク、Tload 外部負荷トルク、αd クランク角加速度、α_mot 未燃焼時のクランク角加速度、Δαload 外部負荷加速度成分、αindex 燃焼状態指標、θcnvend 燃焼終了角度、θcnvst 燃焼開始角度、θd クランク角度、θend 終了クランク角度、θst 開始クランク角度
【要約】
【課題】クランク角センサによる角度検出情報に基づいて燃焼状態を検出する際に、角度検出情報に含まれる外部負荷トルク等の外乱成分の影響により燃焼状態の検出精度が低下することを抑制できる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】未燃焼状態であると仮定した場合の未燃焼時の軸トルクを算出し、上死点近傍のクランク角度の未燃焼時の軸トルクと、上死点近傍のクランク角度の実軸トルクとに基づいて外部負荷トルクを算出し、燃焼期間に対応して設定された積算クランク角度区間において、未燃焼時の軸トルクから外部負荷トルクを減算した値を慣性モーメントで除算した値を、クランク角加速度から減算した値を、積算して燃焼状態指標を算出する内燃機関の制御装置。
【選択図】
図3