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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】電池評価方法及び電池評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20200101AFI20221209BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20221209BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G01R31/36
H01M10/04 Z
H01M10/48 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021513696
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2020015927
(87)【国際公開番号】W WO2020209325
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019074896
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】影井 佑多
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-158266(JP,A)
【文献】特開2010-212183(JP,A)
【文献】特開2014-029823(JP,A)
【文献】特開2015-158442(JP,A)
【文献】特表2018-523273(JP,A)
【文献】国際公開第2018/158955(WO,A1)
【文献】特開2018-170302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/04
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験電池に金属製突起物を刺し、強制的に内部短絡を発生させ、それに伴う電池状態の変化を検出することによって電池の安全性を評価する電池評価方法において、
前記試験電池は、前記金属製突起物を刺す側から、順次ケース、外装フィルム、セパレータ、負極、セパレータ及び正極が積層されて構成されるリチウムイオン二次電池であり、
予め定めた速度で前記金属製突起物を移動させて、前記試験電池に刺し込み始める刺し込み開始ステップと、
記正端子と前記金属製突起物との間の電圧及び電気抵抗の計測を始める計測開始ステップと、
前記電圧が第一閾電圧値V1より高くなり、且つ、前記電気抵抗が第一閾抵抗値R1より低くなったとき、前記金属製突起物が前記負極に接触したと判断する第1判断ステップと、を有する、電池評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池評価方法において、
前記正極は、正極箔及び正極合材を有し、
前記第1判断ステップの後に、
前記電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高いとき、前記金属製突起物が前記正極合材に接触したと判断する第2判断ステップと、
前記電圧が前記第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が前記第三閾抵抗値R3より低くなったとき、前記金属製突起物が前記正極箔に接触したと判断する第3判断ステップと、を有する、電池評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電池評価方法において、
前記正極は、正極箔及び正極合材を有し、
前記第1判断ステップの後に、
前記電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が第三閾抵抗値R3より低くなったとき、前記金属製突起物が前記正極箔に接触したと判断する第3判断ステップ、を有する、電池評価方法。
【請求項4】
請求項2に記載の電池評価方法において、
前記第2判断ステップ又は前記第3判断ステップの後に、前記金属製突起物の刺し込みを停止する刺し込み停止ステップ、を有する、電池評価方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電池評価方法において、
前記刺し込み停止ステップの後に、前記計測を停止する計測停止ステップ、を有する、電池評価方法。
【請求項6】
請求項2から5の何れかに記載の電池評価方法において、
前記第二閾電圧値V2が前記第一閾電圧値V1と同一である、電池評価方法。
【請求項7】
試験電池に金属製突起物を刺し、強制的に内部短絡を発生させ、それに伴う電池状態の変化を検出することによって電池の安全性を評価する電池評価装置において、
前記試験電池は、前記金属製突起物を刺す側から、順次ケース、外装フィルム、セパレータ、負極、セパレータ及び正極が積層されて構成されるリチウムイオン二次電池であり、
予め定めた速度で前記金属製突起物を移動させて、前記試験電池に刺し込む駆動装置と、
記正端子と前記金属製突起物との間の電圧及び電気抵抗を計測する計測装置と、
前記電圧が第一閾電圧値V1より高くなり、且つ、前記電気抵抗が第一閾抵抗値R1より低くなったとき、前記金属製突起物が前記負極に接触したと判断する短絡判断部と、を有する、電池評価装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電池評価装置において、
前記正極は、正極箔及び正極合材を有し、
前記金属製突起物が前記負極に接触したと判断した後に、
前記電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高いとき、前記短絡判断部は前記金属製突起物が前記正極合材に接触したと判断し、
前記電圧が前記第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が前記第三閾抵抗値R3より低くなったとき、前記短絡判断部は前記金属製突起物が前記正極箔に接触したと判断する、電池評価装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電池評価装置において、
前記短絡判断部は前記金属製突起物が前記正極合材に接触したと判断した場合、又は、前記短絡判断部は前記金属製突起物が前記正極箔に接触したと判断した場合、前記駆動装置は前記金属製突起物の刺し込みを停止する、電池評価装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の電池評価装置において、
前記第二閾電圧値V2が前記第一閾電圧値V1と同一である、電池評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池評価方法及び電池評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの発火事故を受け、電池の安全性を確保するために、電池の安全性試験法及び安全基準への取り込みが進んでいる。特許文献1には「加圧部2からの加圧により釘刺し又は圧壊された試験電池1の内部短絡を短絡検出部4により検出し、短絡検出に応じて加圧制御部3により加圧部2の動作を停止させ、電池情報検出部6により電池温度等の電池情報を収集記録する」電池評価装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-327616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電池評価装置は、短絡検出部4を通じて、釘刺しされた試験電池1の電池電圧の変化によって内部短絡の発生を判断する。しかし、容量の大きいリチウムイオン電池のような場合には、釘の進入位置による電池電圧(セル電圧)の変化が緩やかで、特に内部短絡による電池電圧の降下が緩やかなので、高精度に釘の進入位置を制御することが難しい。そのため、内部短絡が発生する層の数を精度よく制御することができず、試験結果に大きなばらつきが生じる。
【0005】
本発明は、より高い精度で内部短絡の状態を推測できる電池評価方法及び電池評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、試験電池に金属製突起物を刺し、強制的に内部短絡を発生させ、それに伴う電池状態の変化を検出することによって電池の安全性を評価する電池評価方法において、予め定めた速度で前記金属製突起物を移動させて、前記試験電池に刺し込み始める刺し込み開始ステップと、前記試験電池の正極端子と前記金属製突起物との間の電圧及び電気抵抗の計測を始める計測開始ステップと、前記電圧が第一閾電圧値V1より高くなり、且つ、前記電気抵抗が第一閾抵抗値R1より低くなったとき、前記金属製突起物が前記試験電池の負極に接触したと判断する第1判断ステップと、を有する電池評価方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の他の実施形態では、前記第1判断ステップの後に、前記電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高いとき、前記金属製突起物が前記試験電池の正極合材に接触したと判断する第2判断ステップと、前記電圧が前記第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が前記第三閾抵抗値R3より低くなったとき、前記金属製突起物が前記試験電池の正極箔に接触したと判断する第3判断ステップと、を有する。
【0008】
なお、本発明の他の実施形態では、前記第1判断ステップの後に、前記電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、前記電気抵抗が第三閾抵抗値R3より低くなったとき、前記金属製突起物が前記試験電池の正極箔に接触したと判断する第3判断ステップ、を有する。
【0009】
更に、本発明の他の実施形態として、試験電池に金属製突起物を刺し、強制的に内部短絡を発生させ、それに伴う電池状態の変化を検出することによって電池の安全性を評価する電池評価装置において、予め定めた速度で前記金属製突起物を移動させて、前記試験電池に刺し込む駆動装置と、前記試験電池の正極端子と前記金属製突起物との間の電圧及び電気抵抗を計測する計測装置と、前記電圧が第一閾電圧値V1より高くなり、且つ、前記電気抵抗が第一閾抵抗値R1より低くなったとき、前記金属製突起物が前記試験電池の負極に接触したと判断する短絡判断部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属製突起物の刺し込みに伴って、試験電池の正極端子と金属製突起物との間の電圧及び電気抵抗を計測することによって、金属製突起物の進入位置を判断する。金属製突起物の進入位置による正極端子と金属製突起物との間の電圧及び電気抵抗の変化が電池電圧の変化より顕著なので、金属製突起物の進入位置を高精度に判断し制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態において用いた装置を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態において釘を電池に刺し込む各段階を概略的に示す図である。
図3】本発明に係る実験結果のグラフである。
図4図3のグラフの一部を拡大したグラフである。
図5】判断用閾値を説明する図である。
図6図4の一部を拡大したグラフに釘温度の計測結果を加えたグラフである。
図7】判断用閾値を説明する図である。
図8】本発明の一実施形態のフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態にかかる電池評価装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。本発明は、試験電池に釘を刺し、強制的に内部短絡を発生させ、それに伴う電池状態の変化を検出することによって電池の安全性を評価する電池評価方法に係る発明である。
【0013】
図1は本発明の一実施形態において用いた装置を概略的に示す図である。図1において、試験電池100は本発明に係る電池評価方法の評価対象である。試験電池100は、正極端子102と負極端子104を有する。釘200は、試験電池100に刺し込まれ、強制的に内部短絡を発生させるためのものである。釘200は、金属製突起物の一例である。釘200は、加圧装置に取り付けられ、当該加圧装置に駆動されて、試験電池100に向けて予め定めた速度で移動して、試験電池に刺し込むことができる。計測装置300は、試験電池100の正極端子102と釘200との間の電圧(以下、「正極-釘電圧」とも称し、符号「Vcn」で表す)及び正極端子102と釘200との間の交流電気抵抗(以下、「正極-釘抵抗」とも称し、符号「Rcn」で表す)を計測する。
【0014】
図2は本発明の一実施形態において釘を電池に刺し込む各段階を概略的に示す図である。図2において、試験電池100は、リチウムイオン二次電池を例として、その一部が断面で表されている。試験電池100は、外側(図2の上方側)から順次ケース110、外装フィルム112、セパレータ114、負極合材122、負極箔124、負極合材126、セパレータ128、正極合材132、正極箔134及び正極合材136が積層されて構成される。なお、試験電池100の内側(図2の下方側)に向かって、更に、セパレータ114から正極合材136までの積層構造が繰り返す。負極合材122、負極箔124及び負極合材126によって負極120が構成される。正極合材132、正極箔134及び正極合材136によって正極130が構成される。
【0015】
なお、図2において、左から右に向かって、釘200がケース110に接触する前、ケース110に接触した状態、負極箔124に接触した状態、正極合材132に接触した状態及び正極箔134に接触した状態を順次に表している。しかし、実際に釘を電池に刺し込む場合、釘の圧迫によって電池の各層が変形して凹むので、単純に釘の進行距離によって釘がどの層に接触したかを判断することはできない。
【0016】
図3は本発明に係る実験結果のグラフである。この実験は、図2に示したように、釘200を徐々に試験電池100に刺し込みながら、正極-釘電圧Vcn、正極-釘抵抗Rcn、電池電圧(符号「Vc」で表す)及び釘200の温度を計測したものである。計測は1msの間隔でサンプリングした。図3の横軸は、釘200が進行した時間を示す。縦軸の方向には、二つのグラフを上下並んで示している。上のグラフには正極-釘電圧Vcn及び電池電圧Vcの計測値をプロットしており、下のグラフには正極-釘抵抗Rcnの計測値をプロットしている。
【0017】
図3にかかる実験において用いた釘200は、直径が3mm、先端角が60°の金属釘である。釘200の移動速度は0.01mm/sである。試験電池100としては、角形リチウムイオン二次電池を用いた。計測装置300としては、日置電機製のバッテリテスタBT3463を用いた。
【0018】
図4図3のグラフの一部を拡大したグラフである。正極-釘電圧、正極-釘抵抗及び電池電圧の細かい変動が分かるように、図4では、縦軸のスケールだけを拡大しており、横軸のスケールは図3と同じである。
【0019】
図3において、破線aより左側では、釘200が試験電池100に向けて接近しているが、まだ試験電池100に接触していない状態である。この状態では、試験電池100が3.14Vの電池電圧を示し、正極-釘電圧がゼロに近い値を示し、正極-釘抵抗が計測装置300のレンジをオーバーするほど高い値を示した。破線aの時点では、釘200が試験電池100のケース110に接触し、正極-釘電圧が急激な上昇し、グラフに段差が形成された。
【0020】
続いて、釘200が試験電池100の内部に進入し、破線bの時点では、釘200が負極120に接触し、正極-釘電圧が急上昇し、正極-釘抵抗が急落した。しかし、破線bから破線cの間では、正極-釘電圧と正極-釘抵抗が不安定であり、上下に大きく振れて変動した。これは、尖った釘200の先端が負極120に接触したが、釘200と負極120との間にまだ良好な接触状態(良好な導通状態)になっていないことによるものと考えられる。
【0021】
図3及び図4に示したように、破線cから破線dの間では、正極-釘電圧が安定しており、電池電圧とほぼ同じ電圧になっている。一方、正極-釘抵抗は、破線cの近傍で再度急落して、オーバーレンジの310Ωから一気に20Ω以下に落下して、その後低い値を維持している。これは釘200と負極120の間に良好な接触状態(良好な導通状態)が形成されたことによるものと考えられる。これらの現象に基づくと、破線cの時点は釘200が負極120と確実に接触して良好な導通状態が確立した時点であることが分かる。
【0022】
この破線cの時点を釘200が負極120に接触した時点とするのは理想的であるが、それを検出するために、電池電圧に近い電圧値を第一閾電圧値V1として設定して、正極-釘電圧がその第一閾電圧値V1を超えたとき、釘200が負極120と接触したと判断する方法が考えられる。例えば、電池電圧が3.14Vの場合、それに近い電圧値3.13Vを第一閾電圧値V1として設定して、釘の刺し込みに伴って正極-釘電圧が3.13Vを超えたら、超えた時点で釘200が負極120と接触したと判断する。
【0023】
しかし、破線bから破線cの間では、正極-釘電圧が大きく変動するので、その変動の中でもし正極-釘電圧が3.13Vを超えたら、釘200と負極120の接触がまだ良好ではない状態を両者の接触状態として判断されるおそれがある。
【0024】
それに対して、本発明の発明者は、正極-釘抵抗についても閾値を設定して、正極-釘抵抗の変化も判断に用いることによって、釘と試験電池内の電極層との接触状態をより高い精度で検出できる方法を見出した。
【0025】
図5は判断用閾値を説明する図である。図5において、図3と同じの実測値(1msサンプリング間隔)を表示するほかに、100ms移動平均及び1000ms移動平均のグラフも表示している。実測値にはノイズ、スパイクなども載ることがあるので、その影響を軽減するために、移動平均値を利用することも検討した。「V1」と表示した破線は第一閾電圧値V1を示す。第一閾電圧値V1は、実験初期の電池電圧より低いが、その電池電圧に近い電圧値に設定する。この実験では、初期の電池電圧が3.14Vであるのに対して、第一閾電圧値V1を3.13Vに設定した。「R1」と表示した破線は第一閾抵抗値R1を示し、その値は100Ωに設定した。
【0026】
上述したように、図3の破線cの時点では、正極-釘電圧が3.14Vの電池電圧とほぼ同じ電圧まで上昇し、正極-釘抵抗が大きく急落して且つその後低い値を維持する。したがって、図5に示すように、正極-釘電圧について第一閾電圧値V1を設定すると共に、正極-釘抵抗についても第一閾抵抗値R1を設定して、正極-釘電圧が第一閾電圧値V1より高く(Vcn>V1)なり、且つ、正極-釘抵抗が第一閾抵抗値R1より低く(Rcn<R1)なることを第1判断条件とすることによって、図3の破線cに極めて近い図5の破線(1)の時点で、釘200が負極120に接触したと判断して、それを検出することができた。
【0027】
第一閾抵抗値R1は、破線bから破線cの間で正極-釘抵抗Rcnが上下に振れても到達できないほど低く設定し、なお、Rcnが破線cの時点で急落して到達した抵抗値より高く設定することが好ましい。図5においては、第一閾抵抗値R1が100Ωに設定されたが、50Ωに設定してもよい。また、図5の結果から分かるように、この検出(判断)方法には、正極-釘電圧と正極-釘抵抗の実測値(1msサンプリング間隔)を用いてもよく、100ms移動平均及び1000ms移動平均を用いてもよい。但し、1000ms移動平均を用いると、釘200と負極120の接触を検出する時点が少し遅くなる。
【0028】
この研究結果に基づいて、本発明の第1実施形態は、予め定めた速度で釘200を移動させて、試験電池100に刺し込み始める刺し込み開始ステップと、試験電池100の正極端子102と釘200との間の正極-釘電圧及び正極-釘抵抗の計測を始める計測開始ステップと、正極-釘電圧が第一閾電圧値V1より高くなり、且つ、正極-釘抵抗が第一閾抵抗値R1より低くなったとき、釘200が試験電池100の負極120に接触したと判断する第1判断ステップと、を有する。
【0029】
この実施形態によれば、釘が試験電池の負極と確実に接触して良好な導通状態が確立するタイミングを高い精度で検出することができる。図3の破線bから破線cの時間帯のように、釘200と負極120の接触がまだ良好ではない状態を両者の接触状態として判断されることを防ぐことができる。
【0030】
図6図4の一部を拡大したグラフに釘温度の計測結果を加えたグラフである。図6は、縦軸方向に三つのグラフが上下に並んでいる。上の二つのグラフは図4の右側の部分を拡大したものであり、一番下のグラフは釘200の温度の計測値をプロットしたものである。破線dの時点では、正極-釘電圧Vcnが低下し始める。これは、釘200が正極合材132に接触して、釘200を通じて負極120と正極130の短絡が始まることによるものと考えられる。一方、正極-釘抵抗Rcnは、破線dから破線eの間では、ほぼ一定の低い値を維持しているが、破線eの時点では、更に低下し始める。これは、破線eの時点で釘200が正極箔134に接触して、負極120と正極130の短絡が更に進むことによるものと考えられる。
【0031】
更に時間が経つと、破線fの時点で、正極-釘抵抗Rcnが発振し始める。これは、正極箔134が溶断し始めることによるものと考えられる。破線gの時点では、電池電圧Vcが低下し始め、釘200の温度が上昇し始める。負極120と正極130の短絡が確実になったことを示す。本発明の発明者は、これらの実験結果を分析、研究した結果、正極-釘抵抗についても閾値を設定して、正極-釘抵抗の変化も判断に用いることによって、釘と試験電池の正極との接触状態をより高い精度で検出できる方法を見出した。
【0032】
図7は判断用閾値を説明する図である。図7において、図6と同じの実測値(1msサンプリング間隔)を表示するほかに、100ms移動平均及び1000ms移動平均のグラフも表示している。「V2」と表示した破線は第二閾電圧値V2を示す。第二閾電圧値V2は、実験初期の電池電圧より低いが、その電池電圧に近い電圧値に設定する。この実験では、初期の電池電圧が3.14Vであるのに対して、第二閾電圧値V2を第一閾電圧値V1と同じ3.13Vに設定した。
【0033】
「R2」と表示した破線は第二閾抵抗値R2を示す。第二閾抵抗値R2は、釘200が正極合材132に接触する状態を検出するために設定したものであり、図6における破線dから破線eの間の正極-釘抵抗Rcnの値より少し高く設定することが好ましい。この実験では、第二閾抵抗値R2を6Ωに設定した。「R3」と表示した破線は第三閾抵抗値R3を示す。第三閾抵抗値R3は、釘200が正極箔134に接触する状態を検出するために設定したものであり、図6における破線dから破線eの間の正極-釘抵抗Rcnの値より少し低く設定することが好ましい。この実験では、第三閾抵抗値R3を3Ωに設定した。
【0034】
正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低くなり(Vcn<V2)、且つ、正極-釘抵抗が第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高い(R3<Rcn<R2)ことを第2判断条件にすることによって、図7の破線(2)の位置で、釘200が正極合材132に接触したと判断して、それを検出することができた。
【0035】
なお、正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低くなり(Vcn<V2)、且つ、正極-釘抵抗が第三閾抵抗値R3より低い(Rcn<R3)ことを第3判断条件にすることによって、図7の点線(3)の位置で、釘200が正極箔134に接触したと判断して、それを検出することができた。図7の結果から分かるように、この検出(判断)方法には、正極-釘電圧と正極-釘抵抗の実測値(1msサンプリング間隔)を用いてもよく、100ms移動平均及び1000ms移動平均を用いてもよい。
【0036】
この研究結果に基づいて、本発明の第2実施形態は、第1実施形態の変形であり、前記第1判断ステップの後に、正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、正極-釘抵抗が第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高いとき、釘200が試験電池100の正極合材132に接触したと判断する第2判断ステップと、正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、正極-釘抵抗が第三閾抵抗値R3より低くなったとき、釘200が試験電池100の正極箔134に接触したと判断する第3判断ステップと、を有する。
【0037】
この実施形態によれば、釘が試験電池の正極に接触した状態を検出できるだけでなく、更に細かく、正極合材に接触しているか、若しくは正極箔に接触しているかを判断することもできるので、釘の停止位置を高い精度で制御することができる。
【0038】
なお、上述の研究結果に基づいて、本発明の第3実施形態は、第1実施形態の変形であり、前記第1判断ステップの後に、正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低くなり、且つ、正極-釘抵抗が第三閾抵抗値R3より低くなったとき、釘200が試験電池100の正極箔134に接触したと判断する第3判断ステップと、を有する。
【0039】
この実施形態によれば、釘が正極箔に接触したタイミングを高い精度で検出することができる。
【0040】
前記第2判断ステップ又は前記第3判断ステップの後、更に釘200の刺し込みを停止する停止ステップを有してもよい。それによって、釘200の進入位置を固定して、試験電池100の温度、電池電圧などの計測、発煙有無の観測などを通じて、試験電池100の安全性を評価することができる。その後、計測停止ステップによって関連計測を停止してよい。また、上述した実験のように、第二閾電圧値V2を第一閾電圧値V1と同じ値に設定してもよい。
【0041】
図8は本発明の一実施形態のフローチャートである。このフローチャートは第2実施形態の一例である。刺し込み開始ステップS602では、予め定めた速度で釘200を移動させて、試験電池100に刺し込み始める。なお、このステップに伴って、試験電池100の正極端子102と釘200との間の正極-釘電圧Vcn及び正極-釘抵抗Rcnの計測を始めてもよい。当該計測は、刺し込み開始ステップS602と同時に始める必要はないが、釘200が試験電池100に当たる前に開始することが好ましい。
【0042】
第1判断ステップS604では、正極-釘電圧が第一閾電圧値V1より高く(Vcn>V1)なり、且つ、正極-釘抵抗が第一閾抵抗値R1より低く(Rcn<R1)なったかを判断する。この条件を満たさなかった場合、第1判断ステップS604の判断を繰り返す。Vcn>V1且つRcn<R1の条件を満たしたとき、釘200が試験電池100の負極120に接触したと判断して、フローが次の第2判断ステップに進む。
【0043】
第2判断ステップS606では、正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低く(Vcn<V2)なり、且つ、正極-釘抵抗が第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高い(R3<Rcn<R2)か否かを判断する。この条件を満たさなかった場合、第2判断ステップS606の判断を繰り返す。Vcn<V2且つR3<Rcn<R2の条件を満たしたとき、釘200が試験電池100の正極合材132に接触したと判断して、フローが次のステップに進む。
【0044】
刺し込み停止判断ステップS608では、負極120と正極合材132との短絡状態で電池の安全性を評価したい場合には、刺し込み停止ステップS614に進んで、釘200の刺し込みを停止する。そうでなければ第3判断ステップS610に進む。
【0045】
第3判断ステップS610では、正極-釘電圧が第二閾電圧値V2より低く(Vcn<V2)なり、且つ、正極-釘抵抗が第三閾抵抗値R3より低く(Rcn<R3)なったかを判断する。この条件を満たさなかった場合、第3判断ステップS610の判断を繰り返す。Vcn<V2且つRcn<R3の条件を満たしたとき、釘200が試験電池100の正極箔134に接触したと判断して、フローが次のステップに進む。
【0046】
刺し込み停止判断ステップS611では、負極120と正極箔134との短絡状態で電池の安全性を評価したい場合には、刺し込み停止ステップS614に進んで、釘200の刺し込みを停止する。そうでなければ刺し込み継続ステップS612に進み、釘刺しを継続する。
【0047】
この実施形態によれば、釘が負極に接触した状態、釘が正極合材に接触した状態及び釘が正極箔に接触した状態をそれぞれ精度よく判断し検出することができるので、必要に合わせて各状態で釘を止めて電池の評価を行うことができる。
【0048】
図9は本発明の一実施形態にかかる電池評価装置のブロック図である。この電池評価装置は、上述した本発明の電池評価方法の実施に直接使用することができる。この電池評価装置は、釘200、計測装置300、短絡判断部400、駆動装置500及び電池状態検出部600を有する。
【0049】
駆動装置500は、予め定めた速度で釘200を移動させて、試験電池100に刺し込む。駆動装置500は、例えば加圧装置であってよい。例えば、釘200を加圧装置に取り付けて、当該加圧装置によって駆動して、試験電池100に向けて予め定めた速度で移動させて、試験電池100に刺し込むことができる。
【0050】
計測装置300は、釘200が試験電池100に刺し込まれた状態における、試験電池100の正極端子102と釘200との間の電圧Vcn及び正極端子102と釘200との間の交流電気抵抗Rcnを計測して、計測結果を短絡判断部400に出力する。
【0051】
短絡判断部400は、計測装置300の計測結果に基づいて試験電池100の短絡状況を判断する。短絡判断部400には、第一閾電圧値V1、第二閾電圧値V2、第一閾抵抗値R1、第二閾抵抗値R2及び第三閾抵抗値R3が事前に入力されている。正極-釘電圧Vcnが第一閾電圧値V1より高く(Vcn>V1)なり、且つ、正極-釘抵抗Rcnが第一閾抵抗値R1より低く(Rcn<R1)なったとき、短絡判断部400は、釘200が試験電池100の負極120に接触したと判断する。
【0052】
なお、短絡判断部400は、釘200が試験電池100の負極120に接触したと判断した後、正極-釘電圧Vcnが第二閾電圧値V2より低くなり(Vcn<V2)、且つ、正極-釘抵抗Rcnが第二閾抵抗値R2より低く第三閾抵抗値R3より高くなった(R3<Rcn<R2)とき、釘200が試験電池100の正極合材132に接触したと判断する。また、短絡判断部400は、正極-釘電圧Vcnが第二閾電圧値V2より低くなり(Vcn<V2)、且つ、正極-釘抵抗Rcnが第三閾抵抗値R3より低くなった(Rcn<R3)とき、釘200が試験電池100の正極箔134に接触したと判断する。短絡判断部400は、判断結果を駆動装置500の制御部510に出力する。第二閾電圧値V2は第一閾電圧値V1と同一であってもよく、異なってもよい。
【0053】
駆動装置500の制御部510は、短絡判断部400の判断結果及び事前に設定された制御条件に基づいて、駆動装置500を制御する。例えば、制御条件として、釘200が試験電池100の正極合材132に接触したら、釘200の刺し込みを停止して電池を評価することになっているなら、制御部510は、短絡判断部400から釘200が正極合材132に接触したとの判断結果を受信すると、駆動装置500を制御して釘200の刺し込みを停止する。なお、制御条件として、釘200が試験電池100の正極箔134に接触したとき、釘200の刺し込みを停止して電池を評価することになっているなら、制御部510は、短絡判断部400から釘200が正極合材132に接触したとの判断結果を受信しても、釘200の刺し込みを停止せず、短絡判断部400から釘200が正極箔134に接触したとの判断結果を受信した場合だけ、駆動装置500を制御して釘200の刺し込みを停止する。
【0054】
電池状態検出部600は、熱電対等の各種センサーにより試験電池100の電池温度、電池内圧、電池電圧などを測定し記録できる計測装置であってよい、発煙、発火などを観測し記録できるカメラ等であってもよい。なお、電池状態検出部600として、異なる機能を有する計測装置、カメラ等を複数設けてもよい。電池状態検出部600は、釘刺しによって内部短絡させた試験電池100状態変化を検出することができる。その検出結果に基づいて電池の安全性を評価することができる。
【0055】
本発明の電池評価装置は、釘が負極に接触した状態、釘が正極合材に接触した状態及び釘が正極箔に接触した状態をそれぞれ精度よく判断し検出することができるので、必要に合わせて各状態で釘を止めて電池の評価を行うことができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。なお、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0057】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0058】
100 試験電池
102 正極端子
104 負極端子
110 ケース
112 外装フィルム
114 セパレータ
120 負極
122 負極合材
124 負極箔
126 負極合材
128 セパレータ
132 正極合材
134 正極箔
136 正極合材
200 釘
300 計測装置
400 短絡判断部
500 駆動装置
510 制御部
600 電池状態検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9