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<図1>
  • 特許-ニッケル含有原料の処理方法 図1
  • 特許-ニッケル含有原料の処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】ニッケル含有原料の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20221209BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20221209BHJP
   C22B 1/06 20060101ALI20221209BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
C22B23/00 101
C22B23/02
C22B1/06
C22B1/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021518276
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2019018554
(87)【国際公開番号】W WO2020225904
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519355493
【氏名又は名称】日揮グローバル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】左右田 賢三
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-505612(JP,A)
【文献】特開2018-197385(JP,A)
【文献】特表2014-505171(JP,A)
【文献】特開2012-172169(JP,A)
【文献】特開2004-227915(JP,A)
【文献】特開2011-230994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 23/02
C22B 1/06
C22B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム分を含有し、かつ、ニッケル鉱石を含むニッケル含有原料を酸化焙焼して、前記マグネシウム分を酸化マグネシウムとする酸化焙焼工程と、
前記酸化焙焼工程の後に前記ニッケル含有原料から前記マグネシウム分を除去するマグネシウム除去工程と、
を有することを特徴とするニッケル含有原料の処理方法。
【請求項2】
前記酸化焙焼工程の前に前記ニッケル含有原料を粉砕する工程を有することを特徴とする請求項に記載のニッケル含有原料の処理方法。
【請求項3】
前記マグネシウム除去工程において、前記ニッケル鉱石に含まれるシリカ分の少なくとも一部を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル含有原料の処理方法。
【請求項4】
前記マグネシウム除去工程の後に、前記マグネシウム分が除去された前記ニッケル含有原料を硫酸化焙焼して硫酸ニッケルを含有する焙焼生成物を得る硫酸化焙焼工程を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のニッケル含有原料の処理方法。
【請求項5】
前記ニッケル含有原料は鉄分を含有し、前記硫酸化焙焼工程は、Ni-S-O系において硫酸ニッケルが酸化ニッケルよりも熱力学的に安定となり、かつ、Fe-S-O系において酸化鉄が硫酸鉄よりも熱力学的に安定となる酸素分圧及び二酸化硫黄分圧の条件下で加熱焙焼することを特徴とする請求項に記載のニッケル含有原料の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有原料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫酸ニッケル化合物は、各種のニッケル化合物又は金属ニッケルの原料として、電解ニッケルメッキ、無電解ニッケルメッキ、触媒材料等の用途に利用されている。近年、電気自動車等の輸送機器、電子機器等の電源として、ニッケル化合物又は金属ニッケルを正極材料に用いた二次電池の需要拡大が見込まれる。高性能な二次電池を得るため、高純度の硫酸ニッケル化合物の安定供給が望まれている。
【0003】
低純度のニッケル化合物に含まれる可能性がある不純物としては、鉄、銅、コバルト、マンガン、マグネシウム等の、他の金属化合物が挙げられる。従来、高純度のニッケル化合物を得る方法として、電解採取法でニッケル純度を高めた金属ニッケルを硫酸溶液で溶解する方法と、溶媒抽出法が挙げられる。溶媒抽出法では、他の金属化合物を選択的に抽出して除去するか、ニッケル化合物を選択的に抽出して取り出す工程が実施される。いずれの場合も、特定の金属イオンを選択的に抽出するためには、特殊な薬剤が必要となり、高コストであった。
【0004】
硫酸ニッケルを製造する方法として、イオン交換法によりニッケル化合物の陰イオンを硫酸根に交換する方法や、硫酸溶液中でニッケル金属粉末を、水素ガスを発生させながら溶解する方法も知られている。また特許文献1には、比重が6.30を超える酸化ニッケル粉末を硫酸中で加熱処理した後、熱水で浸出(leach)することにより、水溶性の硫酸ニッケルを得る方法が記載されている。特許文献1では、加熱処理に用いる硫酸として、濃度30%~60%の硫酸溶液(クレーム1~5)、濃度95%の濃硫酸(クレーム6~7)が挙げられている。特許文献1で濃度95%の濃硫酸を用いる場合(実施例7~9)には、275℃以上の高温が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3002814号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、マグネシウム分を高濃度で含有するニッケル含有原料であっても、効率的に処理することが可能なニッケル含有原料の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、マグネシウム分を含有するニッケル含有原料を酸化焙焼して、前記マグネシウム分を酸化マグネシウムとする酸化焙焼工程を有することを特徴とするニッケル含有原料の処理方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、前記ニッケル含有原料がニッケル鉱石を含み、前記酸化焙焼工程の後に前記ニッケル含有原料から前記マグネシウム分を除去するマグネシウム除去工程を有することを特徴とする第1の態様のニッケル含有原料の処理方法である。
【0009】
本発明の第3の態様は、前記酸化焙焼工程の前に、前記マグネシウム分を含有する前記ニッケル含有原料を粉砕する工程を有することを特徴とする第1又は第2の態様のニッケル含有原料の処理方法である。
【0010】
本発明の第4の態様は、前記マグネシウム除去工程において、前記ニッケル鉱石に含まれるシリカ分の少なくとも一部を除去することを特徴とする第2の態様のニッケル含有原料の処理方法である。
【0011】
本発明の第5の態様は、前記マグネシウム除去工程の後に、前記マグネシウム分が除去された前記ニッケル含有原料を硫酸化焙焼して硫酸ニッケルを含有する焙焼生成物を得る硫酸化焙焼工程を有することを特徴とする第2又は第4の態様のニッケル含有原料の処理方法である。
【0012】
本発明の第6の態様は、前記ニッケル含有原料は鉄分を含有し、前記硫酸化焙焼工程は、Ni-S-O系において硫酸ニッケルが酸化ニッケルよりも熱力学的に安定となり、かつ、Fe-S-O系において酸化鉄が硫酸鉄よりも熱力学的に安定となる酸素分圧及び二酸化硫黄分圧の条件下で加熱焙焼することを特徴とする第5の態様のニッケル含有原料の処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
第1の態様によれば、酸化焙焼後のニッケル含有原料において、ニッケル分から変換される酸化ニッケルと、マグネシウム分から変換される酸化マグネシウムとの性質の違いを利用して、後工程におけるニッケル含有原料の処理を容易にすることができる。これにより、マグネシウム分を高濃度で含有するニッケル含有原料であっても、効率的に処理することが可能になる。
【0014】
第2の態様によれば、ニッケル含有原料に含まれるマグネシウム分を除去することにより、後工程におけるニッケル含有原料の処理を容易にすることができる。
【0015】
第3の態様によれば、ニッケル含有原料の粒子径を調整して、ニッケル含有原料に含まれるマグネシウム分の酸化焙焼を促進することができる。
【0016】
第4の態様によれば、ニッケル含有原料に含まれるシリカ分のうち過剰なもの等を除去することにより、後工程におけるニッケル含有原料の処理を容易にすることができる。
【0017】
第5の態様によれば、ニッケル含有原料を、乾式製錬法により処理するので、液状の硫酸を使用する必要がなく、処理が容易になる。
【0018】
第6の態様によれば、ニッケル分が硫酸ニッケル化合物に変換されると共に、鉄分から硫酸鉄への変換が抑制されるので、鉄分による硫黄分の消費を抑制して、硫酸ニッケル化合物の生成効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態によるニッケル含有原料の処理方法の概略を示す構成図である。
図2】Ni-S-O系及びFe-S-O系の概念的な状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の処理方法は、マグネシウム分を含有するニッケル含有原料を酸化焙焼して、マグネシウム分を酸化マグネシウムとする酸化焙焼工程を有する。
【0021】
ニッケル含有原料としては、ニッケル元素を含有するのであれば、ニッケル化合物でも、金属ニッケルでもよい。ニッケル化合物としては、特に限定されないが、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硫化ニッケル、塩化ニッケル等のニッケル塩類が挙げられる。ニッケル化合物は、水和物でもよい。金属ニッケルは、フェロニッケル等のニッケル合金でもよい。金属状のニッケル(単体又は合金)をニッケル含有原料として用いるときは、溶融金属を小片化したショット等としてもよい。ニッケル含有原料として、ニッケル鉱石を使用することもできる。ニッケル鉱石としては、ニッケル酸化鉱、ニッケル硫化鉱等の1種以上が挙げられる。硫化ニッケルを主成分とするニッケルマット等をニッケル含有原料として用いることもできる。
【0022】
ニッケル酸化鉱としては、リモナイト、サプロライト等のニッケル分を含むラテライト鉱石が挙げられる。リモナイトは、鉄分が少ないリモナイトでも、鉄分が多いリモナイトでもよく、サプロライトは、ニッケル含有量が高い(例えばNi含有量が1.8wt%以上)サプロライトでも、ニッケル含有量が低い(例えばNi含有量が1.8wt%未満)サプロライトでもよい。ニッケル硫化鉱としては、硫鉄ニッケル鉱(ペントランド鉱)、針ニッケル鉱、ニッケル分を含む黄銅鉱、ニッケル分を含む磁硫鉄鉱等が挙げられる。
【0023】
ニッケル含有原料は、鉄分を含んでもよく、あるいは鉄分を含まなくてもよい。ニッケル含有原料が鉄分を含有する場合の鉄分は後工程で硫酸ニッケル化合物から分離されるが、エネルギー消費の観点から、原料中の鉄分が少ないほど望ましい。ニッケル分より鉄分が多くても処理は可能だが、ニッケル分より鉄分が少ないことが好ましい。ニッケル含有原料は、1種に限らず、2種以上を用いてもよい。2種以上のニッケル含有原料を用いる場合は、これらの原料を混合した状態で供給されてもよく、別々に供給されてもよい。例えば、硫黄分を含有しないニッケル含有原料を用いてもよく、及び/又は、原料の少なくとも一部として、硫黄分を含有するニッケル含有原料、例えばニッケル硫化鉱、ニッケル硫化物、ニッケルマット等を用いてもよい。
【0024】
本実施形態に好適なニッケル含有原料は、少なくとも1種のニッケル含有原料がマグネシウム分を含有する。例えば、ヒーズルウッド鉱(heazlewoodite)、ペントランド鉱(pentlandite)等のニッケル硫化鉱が、マグネシウムを含有する蛇紋石(serpentine)等の母岩中に含まれる場合が挙げられる。一例として、ニッケル硫化鉱の割合が0.2~5wt%程度で、粒子径が2μm~1mm程度が挙げられる。また、鉱石中に、ドロマイト、タルク等のマグネシウム分を含有する鉱物が高濃度に含まれる場合にも、ニッケル含有原料にマグネシウム分が混入し得る。ニッケル分とマグネシウム分との比率は特に限定されないが、例えばMg/Niが5~15あるいは8~12.5程度、又はこれら以上であってもよい。ニッケル含有原料がマグネシウム分及び鉄分を含有する場合、これらの比率は特に限定されないが、例えばMg/Feが0.6~2程度が挙げられる。ニッケル含有原料は、マグネシウム分を高濃度で含有してもよい。例えば、蛇紋石(Serpentine)の化学式MgSi(OH)であれば、Mgの割合は約26重量%となる。ニッケル含有原料中のマグネシウム分の割合としては、例えば10重量%以上であり、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、あるいはこれらの前後又は中間の割合が挙げられる。
【0025】
図1に、本実施形態による処理方法を用いた硫酸化焙焼方法を行うシステムの概略構成を示す。本実施形態の処理システムは、酸化焙焼工程10を実施するための酸化焙焼炉12と、マグネシウム除去工程20を実施するための加水装置22及び分級装置24と、硫酸化焙焼工程30を実施するための硫酸化焙焼炉32と、抽出工程40を実施するための冷却部41及び溶解槽43を含む。
【0026】
酸化焙焼工程10に先立って、細断、粉砕、磨滅などの操作でニッケル含有原料11の粒子径を小さくすることが好ましい。酸化焙焼反応はニッケル含有原料11の表面から開始するので、ニッケル含有原料11の粒子径が小さいほど反応時間が短くなり、好ましい。ニッケル含有原料11の粉砕手段としては、特に限定されないが、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、流体エネルギーミル、振動ミル等の1種又は2種以上を用いることができる。粉砕後のニッケル含有原料11の粒子径は、特に限定されない。リモナイト鉱石のように、ニッケル含有原料を微粒子の状態で入手できる場合は、そのまま酸化焙焼工程10に供給してもよい。
【0027】
酸化焙焼炉12としては、例えば、撹拌型焙焼炉、回転炉型焙焼炉、流動層を有する流動焙焼炉等が挙げられる。鉱石等の焙焼については、従来、採鉱した鉱石を粗粉砕した後に撹拌型焙焼炉、回転炉型焙焼炉を使用した焙焼が行われている。この場合、焙焼対象物を前処理する負担が少なく、回転数も遅いが、反応速度が遅く、装置が大型化する。このため、焙焼対象物を燃焼空気で浮遊状態として流動させながら焙焼する方式の流動焙焼炉が普及した。流動焙焼炉を採用することで、装置を小型化することができる。酸化焙焼炉12は、処理の対象とする鉱石特性によって最適な方法を選ぶことができる。例えば、鉱石が微粉のリモナイト等を主体とする場合、回転炉型焙焼炉を用いることにより、微粉の飛散を抑制することができる。
【0028】
本実施形態の酸化焙焼工程における焙焼温度(酸化焙焼温度)は、例えば600℃以上が好ましい。酸化焙焼温度の上限は特に限定されないが、酸化焙焼炉12の耐火材のコスト等の観点から600~800℃程度の酸化焙焼温度が挙げられる。製錬炉で例えば1500~1550℃程度のスラグを排出する場合に比べると、比較的低い温度での処理が可能である。酸化焙焼温度の具体例としては、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、あるいはこれらの前後又は中間の温度範囲が挙げられる。酸化焙焼工程10の前に生鉱石等のニッケル含有原料11を粉砕する場合は、粒子径が30mm以下、例えば150μm程度まで破砕することが好ましい。酸化焙焼炉12の構造は特に限定されないが、ニッケル含有原料11の入口及び酸化焙焼生成物13の出口が炉体の側面に、例えば斜め方向に設けられてもよい。排ガス14の出口は、炉体の上部に設けられてもよい。
【0029】
生鉱石は浮遊選鉱で処理することなく、破砕等の簡易な前処理方法のみを用いて酸化焙焼工程10に供給することで、コストを低減することができる。蛇紋石(serpentine)等の鉱石は、粉砕してから浮遊選鉱で処理すると、微粒子化して金属質のニッケル分と同様に浮遊する側に移行し、母岩の成分からニッケル分を分離して濃縮することが困難となる。また、母岩成分が沈降する側に移行する場合も多くのニッケル分が母岩成分に伴いやすいため損失が多いという問題もある。このため、浮遊選鉱をせずに酸化焙焼で処理することにより、ニッケル分の回収率を向上することができる。
【0030】
酸化焙焼工程10においては、酸化剤としてOガス、空気等を供給してもよい。マグネシウム分を含有するニッケル含有原料11の酸化焙焼により得られる酸化焙焼生成物13では、マグネシウム分が酸化マグネシウムに変換される。さらにニッケル分は酸化ニッケルに変換されてもよい。ニッケル含有原料11に含まれる鉄分、硫黄分等が酸化されてもよい。蛇紋石(serpentine)等の鉱石は、分解してMgSiO等のケイ酸マグネシウムを形成させると共に、更に酸化して行くことで、MgO+SiOに分解することができる。
【0031】
マグネシウム除去工程20において、加水装置22により酸化焙焼生成物13に水21が添加される。これにより、酸化マグネシウムが水と反応して水酸化マグネシウムとなる。加水装置22を経た混合物23は、分級装置24により、ニッケル分を含む残渣25からマグネシウム分26が分離される。酸化焙焼生成物13からマグネシウム分26を除去する方法は、分級装置24のように粒子径の差で分離する方法でもよく、比重差、溶解度、その他任意の方法を採用してもよい。加水装置22において、酸化焙焼生成物13が熱いうちに水を噴霧すると、MgOがMg(OH)に変化すると共に、体積膨張の効果で粉砕されるので好ましい。この場合、酸化焙焼前のニッケル含有原料11の粒子径が比較的大きくても、小さな粒子径の残渣25を得ることができる。ニッケル含有原料11がニッケル鉱石などシリカ分(SiO)を含有する場合は、シリカ分の少なくとも一部をマグネシウム分26と共に残渣25から分離除去してもよい。
【0032】
本明細書において、マグネシウム分26の除去とは、少なくとも一部のマグネシウム分26が酸化焙焼生成物13から除去されればよいが、残渣25を硫酸化焙焼対象物31として用いる場合は、なるべく多くのマグネシウム分26を除去することが好ましい。硫酸化焙焼対象物31にマグネシウム分26が残留したまま硫酸化焙焼工程30を実施すると、硫黄分の過剰消費に加えて、硫酸化焙焼生成物33に硫酸マグネシウムが混在して、硫酸ニッケルと硫酸マグネシウムとの分離の課題が生じるおそれがある。
【0033】
酸化焙焼生成物13からマグネシウム分26が除去されて得られる分級装置24の残渣25は、硫酸化焙焼対象物31として、硫酸化焙焼炉32に供給される。硫酸化焙焼炉32としては、例えば、撹拌型焙焼炉、回転炉型焙焼炉、流動層を有する流動焙焼炉等が挙げられる。上述したように、流動焙焼炉を採用した場合、装置を小型化することができる。硫酸化焙焼炉32は、酸化焙焼炉12とは別の焙焼炉でもよいが、同じ焙焼炉で酸化焙焼工程10と硫酸化焙焼工程30とを実施してもよい。硫酸化焙焼炉32の構造は特に限定されないが、硫酸化焙焼対象物31の入口及び硫酸化焙焼生成物33の出口が炉体の側面に、例えば斜め方向に設けられてもよい。排ガス34の出口は、炉体の上部に設けられてもよい。残渣25の粒子径が小さいと、硫酸化焙焼反応は硫酸化焙焼対象物31の表面から開始するので、反応時間が短くなり、好ましい。
【0034】
硫酸化焙焼炉32は、硫酸化焙焼対象物31を硫酸化焙焼により処理して、ニッケル含有原料11に含まれるニッケル分を硫酸ニッケルに転換する。硫酸化焙焼炉32には、硫酸化焙焼対象物31に不足する硫黄分、この硫黄分を酸化するための酸素等を供給してもよい。図1では簡略化のため、硫酸化焙焼炉32に供給される各種材料の供給経路を区別していない。硫酸化焙焼対象物31と共に、硫酸化焙焼の転換効率を向上する等の目的で、補助的な物質又は材料を硫酸化焙焼炉32に供給してもよい。
【0035】
例えば、硫酸化焙焼対象物31に含まれるニッケル分より硬い材料をメディアとして硫酸化焙焼炉32に供給してもよい。これにより、ニッケル分の磨滅による反応性を向上することができる。硫酸化焙焼対象物31にシリカ分が含まれる場合は、シリカ分がメディアの機能を兼ねてもよい。メディアの材質は、硫酸化焙焼炉32の内壁材より柔らかいことが好ましい。これにより、内壁材の劣化、損傷等を低減することができる。メディアの具体例としては、合成アルミナ等の酸化アルミニウム、ジルコニア、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、ガラス等が挙げられる。メディアの粒子形状としては、特に限定されないが、球状、円柱状、多面体状等が挙げられる。メディアの平均粒子径としては、例えば、0.02~10mmが挙げられる。硫酸化焙焼生成物33が水溶性の場合には、水の溶解度に従ってメディアを分離できることから、メディアが水に不溶又は難溶であることが好ましい。
【0036】
硫酸化焙焼工程30により、硫酸ニッケル化合物を含む硫酸化焙焼生成物33が得られる。抽出工程40では、硫酸化焙焼生成物33に溶解槽43で水を供給し、硫酸ニッケル化合物を水に溶解させる水溶解工程により、硫酸ニッケル溶液44が得られる。詳しくは後述するが、硫酸化焙焼生成物33に水を加える前に、硫酸化焙焼生成物33を冷却部41で冷却することが好ましい。また、硫酸化焙焼生成物33に水を加える前に、硫酸化焙焼生成物33を粉砕してもよい。硫酸化焙焼生成物33に含まれる鉄分は、酸化鉄、硫化鉄等、水に難溶の状態となるので、溶解槽43には固相の残渣45が沈殿する。そこで、溶解槽43からは、液相として硫酸ニッケル溶液44が得られ、固相として酸化鉄を含む残渣45が分離される。さらに必要に応じて、例えば硫酸ニッケルと硫酸コバルト等とを分離するため、硫酸ニッケル溶液44の精製工程を行うことにより、コバルト等の不純物が除去された硫酸ニッケル化合物を得ることができる。なお、硫酸化焙焼生成物33に含まれる鉄分の分離は、溶解度の差による方法に限らず、磁性、比重、粒子径等の差による方法、又はこれらの2種以上の方法を採用してもよい。
【0037】
ニッケル含有原料の硫酸化焙焼においては、酸素分圧及び二酸化硫黄分圧を、Ni-S-O系において硫酸ニッケルが酸化ニッケルよりも熱力学的に安定となり、かつ、Fe-S-O系において酸化鉄が硫酸鉄よりも熱力学的に安定となる条件下とすることが好ましい。これにより、ニッケル含有原料が鉄分を含む場合であっても、ニッケル分が硫酸ニッケルに変換されると共に、鉄分から硫酸鉄への変換が抑制されるので、鉄分による硫黄分の消費を抑制して、硫酸ニッケルの生成効率を向上することができる。
【0038】
図2は、Ni-S-O系及びFe-S-O系の概念的な状態図の一例である。Ni-S-O系における各相の境界線は破線(‐‐‐‐‐)で表示し、Fe-S-O系における各相の境界線は一点鎖線(―・―・―)で表示した。矢印に添えた化学式は、それぞれの境界線から矢印に向かう側で熱力学的に安定な相を示す。図2に示す状態図の横軸はO分圧の対数を示し、右側ほどO分圧が高く、左側ほどO分圧が低い。図2に示す状態図の縦軸はSO分圧の対数を示し、上側ほどSO分圧が高く、下側ほどSO分圧が低い。分圧の単位は、例えば気圧(atm=101325Pa)である。
【0039】
Ni-S-O系に含まれる硫酸ニッケルとしては例えばNiSOが挙げられ、酸化ニッケルとしては例えばNiOが挙げられる。図2に示す状態図において、境界線LNiは、硫酸ニッケルが熱力学的に安定な領域と酸化ニッケルが熱力学的に安定な領域との境界線を示す。境界線LNiよりSO分圧及びO分圧が高い領域では、硫酸ニッケルが熱力学的に安定な相となる。また、境界線LNiよりSO分圧及びO分圧が低い領域では、酸化ニッケルが熱力学的に安定な相となる。
【0040】
Fe-S-O系に含まれる硫酸鉄としては例えばFeSO及びFe(SOが挙げられ、酸化鉄としては例えばFeが挙げられる。図2に示す状態図において、境界線LFeは、硫酸鉄が熱力学的に安定な領域と酸化鉄が熱力学的に安定な領域との境界線を示す。境界線LFeよりSO分圧及びO分圧が高い領域では、硫酸鉄が熱力学的に安定な相となる。また、境界線LFeよりSO分圧及びO分圧が低い領域では、酸化鉄が熱力学的に安定な相となる。
【0041】
図2に示す状態図によれば、境界線LFeよりSO分圧及びO分圧が低く、かつ、境界線LNiよりSO分圧及びO分圧が高い領域Aにおいて、Ni-S-O系では硫酸ニッケルが、Fe-S-O系では酸化鉄が、熱力学的に安定な相となる。そこで、この重なり領域Aの条件下で、ニッケル(Ni)、酸素(O)、硫黄(S)を含む系を焙焼することにより、系中に鉄分が共存していても硫酸鉄の生成を抑制しつつ、ニッケル分を硫酸ニッケルに変換することができる。
【0042】
本実施形態の硫酸化焙焼工程における焙焼温度(硫酸化焙焼温度)は、400~750℃の範囲が好ましく、550~750℃の範囲がより好ましい。硫酸化焙焼温度の具体例としては、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、あるいはこれらの前後又は中間の温度範囲が挙げられる。このような焙焼温度であれば、鉄分の還元が抑制されて、鉄分が酸化鉄、硫化鉄等の状態で硫酸ニッケル化合物と共存し得るので、焙焼生成物において粒子の凝結を抑制し、後工程の処理を容易にすることができる。また、これらの温度であれば、炭酸塩が分解するので、炭酸塩が混入している場合であっても、炭酸塩が水に溶解して不純物として残るのを防止することができ、後工程の処理を容易にすることができる。
さらに硫酸化焙焼温度は、600~700℃であることが好ましい。この温度であれば、焙焼対象物がニッケル含有原料に由来する不純物としてマンガン(Mn)を含む場合であっても、マンガンが鉄とのスピネル構造を形成することにより、マンガンを不溶物として除去しやすくなる。
【0043】
硫酸化焙焼工程におけるO分圧としては、気圧(atm)単位によるO分圧の常用対数log p(O)が-4~-6の範囲が好ましく、条件等に応じて、log p(O)が-4~-5、又はlog p(O)が-5~-6の範囲がより好ましい。O分圧を低くすることにより、図2の重なり領域AにおいてもSO分圧が高くなる傾向となるので、硫酸鉄の生成を抑制しつつ、硫酸ニッケルの生成を促進することができる。この最適領域は、硫酸化焙焼温度によって若干ずれ、温度が高くなる程、重なり領域Aにおけるlog p(O)が大きくなる方(零(0)に近づく方)に移動する。log p(SO)及び硫酸化焙焼温度との関係に応じて、log p(O)を、例えば-8以上0以下の範囲から選択してもよい。
【0044】
硫酸化焙焼工程におけるSO分圧としては、気圧(atm)単位によるSO分圧の常用対数log p(SO)が-1~+1の範囲が好ましく、log p(SO)が-1~0の範囲がより好ましい。図2の重なり領域Aの中でも、SO分圧をより高くすることで、硫酸塩の生成を促進することができる。さらに、SO分圧を常圧程度、又はそれ以下の範囲(分圧の常用対数が略0以下)とすることで、硫酸化焙焼工程における焙焼雰囲気の全圧も過大にならず、設備の取り扱いを容易にすることができる。log p(O)との関係及び硫酸化焙焼温度に応じて、log p(SO)を、例えば-4以上+1以下の範囲から選択してもよい。
【0045】
焙焼炉内でO分圧が低い条件を維持するには、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを焙焼炉に供給してもよい。これらの不活性ガスは、気体や蒸気等の揮発性成分を焙焼炉に供給する際の担体として用いることもできる。SO分圧の調整は、例えば、硫黄源の供給量の制御により行うことができる。ニッケル含有原料に硫黄分が少ない場合は、硫黄分を硫酸化焙焼工程に供給してもよい。硫黄分の供給源(硫黄源)としては、常温で固体状である固体硫黄(elementary sulfur, S)、硫黄酸化物(SO等)、硫酸(HSO)、硫酸塩、硫化物、黄鉄鉱(FeS)等の硫化鉱石などが挙げられる。硫黄源が硫黄(S)である場合は、酸素富化の状態でSOガスを生成させることが好ましい。酸素を含む雰囲気中で硫黄を燃焼させて硫黄酸化物を生成させてもよい。
【0046】
好ましい分圧の範囲は、硫酸化焙焼温度に応じて、上述した状態図を検討し、境界線LNi及び境界線LFeの位置から求めることができる。例えば硫酸化焙焼温度が650~750℃である場合、好ましい分圧の範囲としては、log p(O)が-8~-4程度でlog p(SO)が-2~+2程度、log p(O)が-3~-2程度でlog p(SO)が-3~+1程度、log p(O)が-1~0程度でlog p(SO)が-4~0程度が挙げられる。
【0047】
次に、硫酸化焙焼により得られた硫酸ニッケルの精製等について、より詳しく説明する。水溶解工程として溶解槽43で硫酸化焙焼生成物33,42に添加される水は、不純物を含まないように処理された純水が好ましい。水処理方法としては、特に限定されないが、濾過、膜分離、イオン交換、蒸留、消毒、薬剤処理、吸着などの1種以上が挙げられる。溶解用の水として、水源から得られる上水、工業用水等を用いてもよく、他のプロセスで生じた排水を処理した水を用いてもよい。2種類以上の水を用いてもよい。純水に限らずpH=4程度の硫酸酸性溶液で溶解することも可能である。例えば、溶液のpHが4~5程度、例えば3.8~5.5で、酸化還元電位測定で酸化域となる領域では、他の硫酸塩等の不純物の溶解を抑制しつつ、硫酸ニッケル化合物を選択的に水相に抽出するのに有利であるため、好ましい。
【0048】
硫酸ニッケルの水への溶解度は、150℃において最も高く、100gの溶液に55gのNiSOが溶解するが、0℃でも100gの溶液に22gのNiSOが溶解する。このため、溶解操作は水の沸点以下で実施することが望ましい。また、水溶解工程で得られる硫酸ニッケル溶液44は、NiSOが常温でも析出しない濃度とすることが好ましく、それよりNiSOが高濃度では硫酸ニッケル溶液44の加温状態を維持することが好ましい。硫酸ニッケル溶液44の温度を調整するには、溶解操作を行う前に、硫酸化焙焼生成物33,42の温度又は水の温度を調整することが好ましい。硫酸ニッケル溶液44の加温状態を維持する熱源の少なくとも一部として、硫酸化焙焼生成物33,42の余熱を利用してもよい。このため、水に溶解する前の硫酸化焙焼生成物33,42の温度は、適切な温度に設定することが好ましい。
【0049】
上述したように、図1に示すシステムでは、硫酸化焙焼炉32と溶解槽43との間に冷却部41が設けられている。冷却部41は、バッチ式でも連続式でもよい。バッチ式の場合、水分を加えずに硫酸化焙焼生成物33,42が所望の温度に低下するまで放置する構成でもよい。連続式の場合、例えば硫酸化焙焼炉32と溶解槽43との間を接続する配管に冷却部41を設けてもよい。冷却部41では、例えば熱交換器を設けて過剰な余熱を硫酸化焙焼生成物33,42から回収し、回収した余熱を各種の熱源として利用してもよい。
【0050】
硫酸化焙焼炉32から得られた硫酸化焙焼生成物33,42の状態、又は冷却部41で冷却している間の状態変化等により、硫酸化焙焼生成物33,42の粒子が固結したり、又は、粒子の表面に水に難溶性の被膜を生じたりする場合がある。このため、硫酸化焙焼生成物33,42に水を加える前に、硫酸化焙焼生成物33,42を粉砕する工程を加えてもよい。硫酸化焙焼生成物33,42の粉砕手段としては、特に限定されないが、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、流体エネルギーミル、振動ミル等の1種又は2種以上を用いることができる。硫酸化焙焼生成物33,42の粉砕は、硫酸化焙焼生成物33,42の冷却前に開始してもよく、又は硫酸化焙焼生成物33,42の冷却後に開始してもよい。
【0051】
水溶解工程の後、固液分離の方法は、特に限定されず、濾過法、遠心分離法、沈降分離法などが挙げられる。溶解槽43とは別に固液分離槽を設置する場合は、望ましくは、残渣45となる固相の微粒子の分離性能が高い固液分離槽を用いることが好ましく、例えば濾過槽、遠心分離槽、沈降槽、沈殿槽等の1種又は2種以上が挙げられる。例えば、濾過法において、濾過の方式は特に限定されず、重力濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、濾過助剤添加型濾過、圧搾絞り濾過等が挙げられる。差圧の調整が容易で、迅速な分離が可能となる加圧濾過が好ましい。
【0052】
硫酸ニッケル化合物と共存し得る不純物としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。これらの金属塩が焙焼工程において硫酸塩となっている場合、硫酸ニッケル化合物を水に溶解させたときに、硫酸鉄、硫酸コバルト等も溶解する。さらに、水中では例えば鉄がFeOOH、Fe、Fe等の酸化物等として沈殿し、硫酸ニッケル化合物から不純物の除去が容易になる。本実施形態の硫酸化焙焼工程は、鉄分が硫酸鉄となりにくい条件を設定しているため、水溶解及び固液分離を経ることで、鉄分の少ない硫酸ニッケル溶液44が得られる。硫酸ニッケル溶液44を分離した後の酸化鉄等を含む残渣45は、セメントの鉄分として再利用することもできる。また、残渣45から分離した酸化鉄は、溶融還元炉、電気炉等を用いた製鉄原料として銑鉄等の生産に、あるいは、顔料、フェライト、磁性材料、焼結材等に利用することもできる。特に、ニッケル含有原料を産出する地域が工業地域、都市等から離れた遠隔地である場合等には、ニッケル分と同様に、鉄分も現地で製品化することが輸送費等の観点から有利である。例えば、フェロニッケルの製錬工程に設けた電気炉を利用して銑鉄を生産し、減容すれば鉄地金として搬出することも容易になる。
【0053】
不純物のうち、例えば銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金族金属(PGM)等、水素(H)よりイオン化傾向が低い金属は、水溶解工程で固体として残るため、固液分離工程により除去することができる。固液分離工程により除去される固体には、上記の不純物のほか、As,Pb,Zn等の化合物が含まれ得る。これらの不純物が含まれる固体は、有価物としてリサイクル処理することもできる。
【0054】
水溶解及び固液分離を経て得られる硫酸ニッケル溶液44は、硫酸ニッケル化合物を主成分とするため、硫酸ニッケル化合物の溶液のまま、あるいは乾燥等により硫酸ニッケル化合物の固体として、輸送し、利用することができる。用途によっては、硫酸ニッケル溶液44中の不純物として、例えば硫酸コバルト等を低減することが望まれる場合には、溶媒抽出、電解透析(Electrodialysis)、電解採取(Electrowinning)、電解精製(Electro refining)、イオン交換、晶析等の技術を利用することができる。
【0055】
溶媒抽出の場合は、ニッケルよりもコバルトを優先的又は選択的に溶媒中に抽出できる抽出剤を用いることが好ましい。これにより、硫酸ニッケル化合物を水系の溶液中に残して、効率的な精製が可能になる。抽出剤としては、ホスフィン酸基、チオホスフィン酸基等の、金属イオンと結合し得る官能基を有する有機化合物が挙げられる。溶媒抽出においては、希釈剤として、抽出剤を水から分離させることが可能な有機溶媒を用いてもよい。コバルト等の金属イオンと結合した抽出剤を希釈剤に溶解させることにより、抽出剤を大量に使用しなくても、硫酸ニッケル化合物を含有する水溶液からの分離が容易になる。希釈剤は、水と混和しにくい有機溶媒が好ましい。
【0056】
晶析の場合は、温度の変化、溶媒の減少、他の物質の添加等の少なくとも1つの因子により、目的物である硫酸ニッケル化合物を溶液中から結晶化させればよい。この際、不純物の少なくとも一部を液相に残留させることにより、精製が可能になる。具体例としては、蒸発晶析法と貧溶媒晶析法がある。蒸発晶析法は、減圧下で沸騰又は蒸発により溶液を濃縮させ、硫酸ニッケル化合物を晶析させる。貧溶媒晶析法は、医薬品製造などで利用されている晶析方法で、例えば硫酸ニッケル化合物を含む溶液に有機溶媒を加えて硫酸ニッケル化合物を析出させる。晶析に用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、エチレングリコール、アセトンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。2種類以上の有機溶媒が用いられてもよい。有機溶媒が水と混和する濃度範囲については、硫酸ニッケル化合物が析出する程度に有機溶媒が添加された濃度で混和することが好ましく、任意の割合で自由に混和することがより好ましい。晶析工程で加える有機溶媒は、無水の有機溶媒に限らず、晶析に支障のない程度で含水の有機溶媒であってもよい。水と有機溶媒との比率は、特に限定されないが、例えば1:20~20:1の範囲で設定してもよいが、1:1程度、例えば1:2~2:1が好ましい。
【0057】
晶析等を経て固体の硫酸ニッケル化合物を得る場合、硫酸ニッケルの無水物、1水和物、2水和物、5水和物、6水和物、7水和物等の状態となっていてもよい。晶析により析出した硫酸ニッケル化合物は、固液分離により溶液から分離することができる。固液分離の方法は、特に限定されないが、濾過法、遠心分離法、沈降分離法などが挙げられる。溶液側に溶解した金属は、中和して沈殿等の方法により溶液から取り除くことが好ましい。浄化された溶液が、水と有機溶媒との混合物が主体とする場合、蒸留等の方法で水と有機溶媒とを分離することができる。
【0058】
本実施形態の硫酸化焙焼方法によれば、次の効果が得られる。
(1)ニッケル含有原料に含まれるマグネシウム分を除去して、硫酸ニッケル化合物の収率を向上することができる。
(2)ニッケル含有原料から硫酸ニッケルへの転換反応を早めることができ、反応性が向上する。
(3)硫酸化焙焼により、ニッケル含有原料から高純度の硫酸ニッケル化合物を生産することができる。
(4)硫酸化焙焼工程において硫酸鉄の生成を抑制することができる。また、水素(H)ガスの発生も抑制することができる。
(5)硫酸化焙焼生成物は、鉄分が水に溶解しにくい化学種になり、ニッケル分が硫酸ニッケル化合物として水に溶解しやすくなるので、鉄分の除去が容易になる。
(6)従来法に比べて設備コストを低減することができる。
(7)ニッケル含有原料の転換反応を促進することができるため、例えば、鉄が酸化鉄の状態で供給される場合に、酸化鉄が硫酸鉄を形成する機会及び鉄-ニッケルのフェライト合金を形成する機会を与えず転換反応が進む。そのため、高純度の硫酸ニッケルを含有する硫酸化焙焼生成物を得ることができる。
【0059】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0060】
焙焼対象物は、ニッケル含有原料に限らず、ニッケル以外の他の金属(Cu,Zn,Co,Fe等)を含有する原料も考えられる。他の金属を含有する原料からその金属の化合物を得るための焙焼に、上述の実施形態によるニッケル含有原料の焙焼を応用することも可能である。
【0061】
上述のニッケル含有原料の処理方法は、酸化焙焼生成物を硫酸化焙焼とは異なる工程にも利用することができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0063】
<実施例1>
マグネシウム分の含有割合が高い生鉱石をセラミック製の卓上ボールミルを使って、平均粒子径が150μmとなるように粉砕した。利用した生鉱石のミネラル組成(重量比)は、主な成分を挙げると、Mg分とシリカ分を含む蛇紋石(Serpentine)が82.89%を占め、Fe分を含む磁鉄鉱(Magnetite)が9.06%、Mg分を含むブルース石(Brucite)が4.65%、Ni分を含むヒーズルウッド鉱が2.92%、Ni分を含むペントランド鉱が0.19%、Mg分を含むコーリング石(Coalingite)が0.08%、Mg分等を含む緑泥石(Chlorite)が0.07%、Mg分又はFe分を含むカンラン石(Olivine)が0.04%であった。ここで主な成分として挙げた鉱物の割合を合計すると99.88%である。なお、蛇紋石(Serpentine)の割合は、82.25%のMg-Serpentineと0.64%のFe-Serpentineとの合計である。
【0064】
上記の生鉱石の粉砕物をTG/DTA(熱重量/示差熱)分析装置を利用して、蛇紋石(Serpentine)の熱分解曲線を採取した。この結果、サンプルにバラツキがあったものの600℃~650℃で熱分解することが判明した。また、X-Ray分析の結果、生鉱石には、蛇紋石(Serpentine)の化学式MgSi(OH)を示すピークが存在したが、酸化焙焼後にはこのピークが消失し、MgSiOとMgSiOの化学式を示す部分にX-Rayの検出ピークが出現した。この結果から酸化焙焼温度は650℃以上が望ましいことが判明した。
【0065】
<実施例2>
シリコニット社製のら管電気炉(炉心管:SUS316L、外形50mm×400mm長さ、最高温度1500℃)を、ら管が縦型になるように設置し、下部にガス分散板を設置した。この焙焼試験装置に、実施例1と同じ(Mg分及びNi分を含む)生鉱石を平均粒子径2mmに粉砕して1000g供給し、また流動用空気を下部から供給し流動状態を保持すると共に、排ガス側にはガス吸収管とバキュームポンプを設置した。酸素はガス分散板から生鉱石が流動するように供給した。生鉱石の酸化焙焼温度は650℃とした。0.5時間酸化焙焼した後、酸化焙焼生成物が高温の間に水を噴霧した結果、MgO+HO→Mg(OH)の式で表される反応が起こり、酸化焙焼生成物が粒子径150μm~0.8mmまで粉砕された。X-Rayでの分析で酸化焙焼生成物にMg(OH)を示すピークを確認した。この水噴霧により得られた粉砕物を振動篩と比重差分離によりニッケル分を濃縮したところ、Mg(OH)とSiOをほとんど分離することができた。
【0066】
<実施例3>
25℃の100mlの純水中に何グラムまで各種化合物が溶解して飽和するかを実験で確かめた。その結果は、酸化マグネシウム(MgO)が0.0086g、水酸化マグネシウム〔Mg(OH)〕が0.0012g、硫酸マグネシウム(MgSO)が25.5g、硫酸マンガン(MnSO)が39.3g、硫酸ニッケル(NiSO)が65gであった。この結果から、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムを溶解度により硫酸ニッケルから分離除去することは容易であるが、硫酸マグネシウム及び硫酸マンガンを溶解度により硫酸ニッケルから分離することは容易でないと推測された。
【0067】
<実施例4>
実施例2でMg分及びシリカ分が除去されたニッケル分の残渣に対し、ニッケル分が硫化ニッケル鉱(Ni)であると想定して、等モルの硫黄(S)を添加した。実施例2の酸化焙焼に用いたものと同じ焙焼試験装置を用いて、電気炉にて650℃で30分間、硫酸化焙焼を実施した。硫酸化焙焼生成物を純水に溶解し、硫酸ニッケル溶液を得た。酸化焙焼前の生鉱石中の全Ni量と、硫酸化焙焼及び水溶解後に硫酸ニッケル溶液として回収できた全Ni量で比較した結果、98%のNi分が回収できていた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、二次電池等の電気部品、化学製品などに利用される各種のニッケル化合物又は金属ニッケルの原料として有用な高純度の硫酸ニッケル化合物の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…酸化焙焼工程、11…ニッケル含有原料、12…酸化焙焼炉、13…酸化焙焼生成物、14…排ガス、20…マグネシウム除去工程、21…水、22…加水装置、23…混合物、24…分級装置、25…分級装置の残渣、26…マグネシウム分、30…硫酸化焙焼工程、31…硫酸化焙焼対象物、32…硫酸化焙焼炉、33…硫酸化焙焼生成物、34…硫酸化焙焼炉からの排ガス、40…抽出工程、41…冷却部、42…冷却された硫酸化焙焼生成物、43…溶解槽、44…硫酸ニッケル溶液、45…溶解装置の残渣。
図1
図2