(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】電力変換装置および劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221209BHJP
【FI】
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2021532587
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027869
(87)【国際公開番号】W WO2021009831
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トボン メンデス マウリシオ デ ジーサス
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-025927(JP,A)
【文献】特開2008-172910(JP,A)
【文献】特開2018-102082(JP,A)
【文献】特開2018-046609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42~ 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を直流電圧に変換する直流変換部と、
前記直流電圧を平滑にする平滑コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換する交流変換部と、
前記交流変換部を制御する制御部と、
前記直流電圧を検出する電圧検出器と、
負荷電流を検出する電流検出器とを有し、
前記制御部は、運転中に、
前記電圧検出器で検出した前記直流電圧に基づいて
リップル電圧の最大電圧v
h
と最小電圧v
l
、および最大電圧v
h
を検出した時間と最小電圧v
l
を検出した時間を取得し、最大電圧v
h
と最小電圧v
l
との差であるΔvと、最大電圧v
h
を検出した時間と最小電圧v
l
を検出した時間の時間差Δtから、リップル
変換量を計算し、
前記リップル
変換量と前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記平滑コンデンサが放電中における前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記リップル変換量と、
前記負荷電流に基づいて推定した前記平滑コンデンサの電流に基づいて、前記平滑コンデンサの静電容量を算出し
、算出した前記静電容量から前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記負荷電流が、閾値より小さい場合には、前記負荷電流を前記平滑コンデンサの電流とみなして、
前記リップル変換量と前記負荷電流に基づいて、前記
平滑コンデンサの静電容量を算出し
、算出した前記静電容量から前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記負荷電流が、閾値以上の場合には、前記負荷電流とパラメータに基づいて前記平滑コンデンサの電流を算出
し、前記リップル変換量と前記平滑コンデンサの電流から、前記平滑コンデンサの静電容量を算出し、算出した前記静電容量から前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記リップル変換量と前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの静電容量を算出し、
前記平滑コンデンサが初期状態である場合には、算出した前記静電容量を閾値として
保存し、
初期状態でない場合に算出した前記平滑コンデンサの静電容量と前記閾値を比較して、前記平滑コンデンサの劣化状態の判定に用いることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記リップル変換量と前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの静電容量を算出し、算出した前記静電容量と
定めておいた前記静電容量の閾値と
を比較して、前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記直流変換部の出力電流を検出する直流変換部出力電流検出部を有し、
前記制御部は、運転中に、
前記リップル
変換量と前記直流変換部出力電流検出部で検出した電流と前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
交流電圧を直流電圧に変換する直流変換部と、
前記直流電圧を平滑にする平滑コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換する交流変換部と、
前記交流変換部を制御する制御部と、
前記直流電圧を検出する電圧検出器と、
負荷電流を検出する電流検出器と、
外部通信部と、
を有する電力変換装置と、
上位装置と、
を有する劣化診断システムであって、
前記制御部は、
前記電圧検出器で検出した前記直流電圧に基づいて
リップル電圧の最大電圧v
h
と最小電圧v
l
、および最大電圧v
h
を検出した時間と最小電圧v
l
を検出した時間を取得し、最大電圧v
h
と最小電圧v
l
との差であるΔvと、最大電圧v
h
を検出した時間と最小電圧v
l
を検出した時間の時間差Δtから、リップル
変換量を
計算し、
前記外部通信部は、
前記リップル
変換量と前記負荷電流を前記上位装置に送信し、
前記上位装置は、
前記リップル
変換量と前記負荷電流に基づいて、
前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする劣化診断システム。
【請求項10】
交流電圧を直流電圧に変換する直流変換部と、
前記直流電圧を平滑にする平滑コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換する交流変換部と、
前記交流変換部を制御する制御部と、
前記直流電圧を検出する電圧検出器と、
負荷電流を検出する電流検出器と、
外部通信部と、
を有する電力変換装置と、
上位装置と、
を有する劣化診断システムであって、
前記電力変換装置は、
前記直流変換部の出力電流を検出する直流変換部出力電流検出部を有し、
前記外部通信部は、前記
直流電圧と前記直流変換部の出力電流と前記負荷電流を前記上位装置に送信し、
前記上位装置は、
前記電圧検出器で検出した前記直流電圧に基づいてリップル電圧の最大電圧v
h
と最小電圧v
l
、および最大電圧v
h
を検出した時間と最小電圧v
l
を検出した時間を取得し、最大電圧v
h
と最小電圧v
l
との差であるΔvと、最大電圧v
h
を検出した時間と最小電圧v
l
を検出した時間の時間差Δtから、リップル変換量を計算し、
前記リップル
変換量と前記直流変換部の出力電流と前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの劣化状態を判定することを特徴とする劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、およびそれを用いた劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常の電力変換装置には交流電圧を整流するダイオードブリッジ、平滑コンデンサと複数のスイッチング素子が含まれる。平滑コンデンサが整流された電圧を滑らかにする役割を果たしているが、コンデンサや負荷などのため、リップルが発生する。平滑コンデンサが劣化すると容量が減少するため、リップルが大きくなる。リップルが大きくなると、インバータ部におけるスイッチタイミングが不安定になるため、変換装置が所望の交流信号を生成できなくなる。
【0003】
平滑コンデンサの劣化の診断をするために、以下の特許文献が提案されている。
【0004】
特許文献1の要約には「交流電源1遮断時に電動機13に直流電流を流すように逆変換回路5を制御し、出力電流検出回路14で検出した直流電流および直流電圧検出回路6で検出した直流電圧の値に基づいてCPU10で平滑コンデンサ4の静電容量を演算し、演算して得られた平滑コンデンサ4の静電容量があらかじめ不揮発性の記憶回路8に記憶している寿命容量以下になった時点をもって平滑コンデンサ4は寿命であると診断する寿命診断回路100を備えた。」と記載されている。
【0005】
また、特許文献2の要約には「平滑コンデンサの劣化検出回路を、脈流を含む直流電圧が印加された平滑コンデンサ3に接続された負荷(変換部6とモータ7)の負荷電流を測定する負荷電流検出部5と、平滑コンデンサ3の直流電圧を測定する直流電圧検出部4と、これらが接続される制御部9と、負荷電流と対応して予め定められた比較平均電圧値を記憶する記憶部9aとを備えた構成にし、制御部9は平滑コンデンサ3の直流電圧から平均電圧値を算出すると共に、同平均電圧値と、負荷電流検出部5で測定した負荷電流の値に対応する比較平均電圧値とを比較して平滑コンデンサ3の異常を判定する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-295655
【文献】特開2009-168587
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では平滑コンデンサの劣化状態の判定は遮断時しかできない。しかし、電力変換装置の用途によっては常時運転を行っているため、電力変換装置の運転中に、平滑コンデンサの劣化状態の判定をすることが望まれる。
【0008】
また、特許文献2は平滑コンデンサの異常を検出するために、定めている期間で平滑コンデンサの直流電圧から平均電圧を算出し、負荷電流により決まっている比較平均電圧値と比較する。
【0009】
このため、電力変換装置を運転しながら平滑コンデンサの異常検出ができる。しかし、負荷電流が瞬間的に変化するとリップルも変化し、定めている期間の平均電圧だけで平滑コンデンサの劣化の診断は困難である。
【0010】
さらに、回生電流が流れる場合には、直流電圧が大きく変動するため平均電圧を利用すると劣化診断が困難である。
【0011】
本発明の目的は、瞬間的な負荷変動や回生電流が発生する運転中に、平滑コンデンサの劣化状態の判定ができる電力変換装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の好ましい一例は、交流電圧を直流電圧に変換する直流変換部と、前記直流電圧を平滑にする平滑コンデンサと、直流電圧を交流電圧に変換する交流変換部と、前記交流変換部を制御する制御部と、前記直流電圧を検出する電圧検出器と、負荷電流を検出する電流検出器とを有し、
前記制御部は、運転中に、前記電圧検出器で検出した直流電圧に基づいてリップル電圧の時間変化を取得し、前記リップル電圧の時間変化と前記負荷電流に基づいて、前記平滑コンデンサの劣化状態を判定する電力変換装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、瞬間的な負荷変動や回生電流が発生する運転中に、平滑コンデンサの劣化状態の判定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における電力変換装置を用いたモータ駆動システムの概略構成図である。
【
図2】直流変換部からの出力電流、平滑コンデンサの電流、負荷電流、直流電圧の波形を示す図である。
【
図3】実施例1における直流電圧のデータを取得する処理フローを示す図である。
【
図4】実施例1における平滑コンデンサの劣化状態を判定する処理フローを示す図である。
【
図5】実施例2における電力変換装置を用いたモータ駆動システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本実施例の電力変換装置100を用いたモータ駆動システムの概略構成図である。本モータ駆動システムは、制御対象に電力を供給する電力変換装置100と、電力変換装置100に電力を供給する三相交流電源102と、制御対象である交流電動機105とを備えている。
【0017】
三相交流電源102は、電力変換装置100に対して電力を供給する電源である。具体的には、電力会社から供給される三相交流電圧または発電機から供給される交流電圧を供給する。
【0018】
電力変換装置100は、平滑コンデンサ101、直流変換部103、交流変換部104、電流検出器106、直流電圧検出器107、制御部108を備えている。
【0019】
直流変換部103は、三相交流電源102から入力された交流電圧を、直流電圧に変換し、平滑コンデンサ101に出力する。例えばダイオードで構成された直流変換回路やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とフライホイールダイオードを用いた直流変換回路で構成される。
図1では、一例としてダイオードで構成された直流変換回路を示している。
【0020】
平滑コンデンサ101は、直流変換部103から入力された直流電圧を平滑にし、交流変換部104に直流電圧を出力する。
【0021】
交流変換部104は、平滑コンデンサ101の直流電圧と制御部の出力指令とを入力とし、直流電圧を制御部の出力指令に基づいた交流電圧に変換する。本実施例の場合、交流電動機105に出力している。また、本実施例の交流変換部104は、例えばIGBTとフライホイールダイオードを用いた交流変換回路で構成される。
【0022】
電流検出器106は、交流電動機105に出力される電流を検出し、電流検出部111に出力する。また、本実施例の電流検出器106は、ホールCTやシャント抵抗で構成される。また、電流検出器106の位置は、
図1の位置に限定されることはなく、交流電動機105への出力電流の測定が可能な場所、例えば交流変換部104の内部、あるいは、直流変換部103と交流変換部104の間であってもよい。
【0023】
直流電圧検出器107は直流電圧を検出し、直流電圧検出部109に出力する。直流電圧検出器107は抵抗のアレンジで構成される。なお、直流電圧検出器107の位置は、
図1の位置に限定されることはなく、平滑コンデンサ101の電圧を検出できる場所であればいずれもよい。
【0024】
次に、制御部108について説明する。
【0025】
制御部108は、電流検出部111、直流電圧検出部109、CPU(Central Processing Unit)112、情報蓄積部114、PWM(Pulse Width Modulation)出力部110、外部通信部113を備えている。
【0026】
CPU112は、MCU(Micro Controller Unit)やFPGA(field-programmable gate array)などの演算器であって、ソフトウェアあるいはハードウェアの演算回路で後述する機能が実現される。
【0027】
電流検出部111は、電流検出器106が出力した信号を入力とし、演算用データに変換して、CPU112に出力する。電流検出部111は、AD変換器などで構成される。
【0028】
直流電圧検出部109は、直流電圧検出器107が出力した信号を入力とし、演算用データに変換して、CPU112に出力する。本実施例では、例えばAD変換器などで構成される。
【0029】
CPU112では、検出された電流や電圧を処理し、交流電動機105のための制御処理を行う。具体的には、PWM出力部110への出力信号の作成、送信である。なお、本実施例では平滑コンデンサ101の劣化状態の判定処理をCPU112で行う場合について説明するが、外部通信部113を経由して外部の上位装置などの機器で処理を行ってもよい。
【0030】
図2は、電力変換装置100の直流変換部からの出力電流203、平滑コンデンサの電流i
C202、負荷電流i
L201、直流電圧Vdc200の波形を示す図である。まず、本実施例の原理について説明する。
【0031】
図2に示すように直流電圧Vdcにはリップル電圧206があって、その最大電圧204はv
hとし、最小電圧205はv
lとして扱う。さらに、
図2示すように、リップル電圧が減少する際におけるリップル電圧の時間における傾きをリップル変換量207 Δv/Δtと定義する。また、平滑コンデンサ101に流れている電流はi
Cと定義し、交流電動機105に供給する負荷電流をi
Lと定義する。
【0032】
直流変換部103は電源からの電圧を直流にし、コンデンサを平滑する。直流変換部103の入力が3相の交流電圧なので、
図2に示すように、直流変換部103の出力電流203は周期的である。
【0033】
直流変換部103の出力電流203の周期の中で、負荷電流iLは直流変換部103から一部しか供給されない。平滑コンデンサ101も負荷電流iLを供給するように動作する。場合によって、平滑コンデンサ101はすべての負荷電流iLを供給する。この時、平滑コンデンサ101を放電し、直流電圧Vdcが減少する。
【0034】
図2に示したように、負荷電流i
Lが小さい場合、平滑コンデンサ101からの電流i
Cに近似することができる。そして、式(1)からコンデンサの容量Cを求めることができる。
【0035】
C=iC*(dv/dt)-1 (1)
このように、平滑コンデンサが電流を供給するタイミング(放電時)で負荷電流iL、直流電圧Vdcと時間のデータを取得すれば、平滑コンデンサの容量Cを推定することができる。
【0036】
しかし、負荷が増加するほど、平滑コンデンサ101が電流を供給するタイミングでも、直流変換部103からの供給電流も増加する(電流波形の図は省略)。このため、平滑コンデンサ101の電流iCを負荷電流iLから近似する必要がある。平滑コンデンサ101の電流がiC≒iL(1-k*iL)で近似する。kは電力変換装置のパラメータや実験測定で決定する。
【0037】
図3は、直流電圧検出部109で検出された直流電圧Vdcについてのデータを取得する処理フローを示す図である。
図3と後に説明する
図4は、実施例1において制御部108におけるCPU112が実行する処理を示す。
【0038】
直流電圧Vdcを監視するため、直流電圧検出部109から直流電圧Vdcを取り込む(S301)。
【0039】
取り込んだ時系列の直流電圧Vdcを比較し、最大電圧vhを検出したかどうかを判断する(S302)。
最大電圧vhを検出していない場合(S302のNo)には、S301に戻り、直流電圧Vdcを監視する。
最大電圧vhを検出したら(S302のYes)、負荷電流iLのサンプリングとその保存を開始する。そして、サンプリングしている、負荷電流iL、直流電圧Vdc及び、それらのデータを取得した時間tを情報蓄積部114に保存する(S303)。
【0040】
次に、直流電圧Vdcを監視するため、直流電圧検出部109から直流電圧Vdcを取り込む(S304)。
【0041】
取り込んだ時系列の直流電圧Vdcを比較し、最小電圧vlを検出したかどうかを判断する(S305)。
【0042】
最小電圧vlを検出していない場合(S305のNo)には、S303に戻り、負荷電流iLのサンプリングと負荷電流iL、直流電圧Vdc及び時間tの保存をし、最小電圧vlを検出していない間は、S303の処理は繰り返される。
【0043】
S305でvlを検出した場合(S305のYes)には、サンプリングしている負荷電流iL、直流電圧Vdc、及び時間tの保存を停止する(S306)。そして、S301に戻る。
【0044】
図4は、平滑コンデンサ101の劣化状態を判定する処理フローを示す図である。
【0045】
制御部108におけるCPU112は、データ取得を行う(S400)。具体的には、
図3で説明したように、情報蓄積部114に保存した負荷電流i
L、直流電圧Vdc、時間tのデータの取得を行う。
【0046】
取得した直流電圧Vdcのリップル電圧と時間tに基づいて、リップル電圧の時間変化であるリップル変換量Δv/Δtを計算する(S401)。ここで、Δvは、リップル電圧の最大電圧vhとリップル電圧の最小電圧vlとの電圧差である。Δtは、最大電圧vhを検出した時間と最小電圧vlを検出した時間との間の時間差である。
【0047】
次に、負荷電流iLと負荷電流の閾値を比較する(S402)。負荷電流の閾値は電力変換装置100の仕様(定格電流、容量など)に基づいて、予め決定して設定しておく。
【0048】
負荷電流iLが負荷電流の閾値より小さい場合(S402のYes)には、平滑コンデンサの電流iCを負荷電流iLとみなす近似をする(S403)。
【0049】
負荷電流iLが負荷電流の閾値以上の場合(S402のNo)には、平滑コンデンサの電流iCは、負荷電流iLや予め設定しておいたパラメータkを使い、iL(1-k*iL)という式に基づいて近似をして平滑コンデンサの電流iCを算出する(S404)。
【0050】
近似した平滑コンデンサの電流iCと、リップル変換量Δv/Δtを利用し、C=iC*(Δv/Δt)-1の式により、平滑コンデンサ101の推定コンデンサ容量Cを算出する(S405)。
【0051】
平滑コンデンサ101が初期状態であるかどうかを判定する(S406)。初期状態とは、平滑コンデンサ101を最初に使う場合もしくは新品に交換した場合をいう。
【0052】
一般的にコンデンサの容量は、ばらつきが大きい。そこで、電力変換装置100が初期状況で平滑コンデンサ101が初期状態であれば(S406のYes)、S405で求めたコンデンサ容量を保存する(S407)。保存した初期状態のコンデンサ容量の値をS409のステップで使う。ただし、初期状態のコンデンサ容量自体ではなく、許容範囲を考慮しコンデンサ容量の閾値を設定するようにしてもよい。
【0053】
平滑コンデンサ101が初期状態でなければ(S406のNo)、S405で算出したコンデンサ容量CとS407で保存したコンデンサ容量の閾値と比較する(S409)。
【0054】
S409での比較結果に基づいて、平滑コンデンサ101の劣化状態を判定する(S410)。具体的には、S405で算出した平滑コンデンサ101の容量Cがコンデンサ容量の閾値より小さい場合には、平滑コンデンサ101は劣化状態であると判定する(S410のYes)。
【0055】
S405で算出した平滑コンデンサ101の容量Cがコンデンサ容量の閾値以上の場合には、平滑コンデンサ101は劣化状態ではないと判定する(S410のNo)し、S400のステップに戻る。
【0056】
平滑コンデンサ101は劣化状態であると判定した場合には、劣化状態であるということをワーニング(警告)する(S411)。ワーニングとしてはエラー信号を出力するようにする。必ずしも、ワーニングをしなくてもよい。例えば、S411の代わりに、メモリなどの情報蓄積部114に判定結果を記録するようにしてもかまわない。
【0057】
実施例1によれば、直流電圧検出部109と電流検出部111を備えることで電力変換装置100が新たな部品を追加することなく、平滑コンデンサ101の劣化状況を判定することができる。
【0058】
直流電圧検出部109と電流検出部111は、通常の電力変換装置100に設置されているので、通常の電力変換装置100に部品を追加する必要がない。さらに、電力変換装置100が動作中でも診断できることにより継続的な運転が必要な時でもコンデンサの劣化状況を調べることができる。
【0059】
さらに、本実施例によれば、リップル電圧の時間変化に基づいて平滑コンデンサの静電容量を求めることにより、瞬間的な負荷変動や回生電流が発生する運転中に、平滑コンデンサの劣化状態の判定ができる。
【実施例2】
【0060】
図5は、実施例2における電力変換装置100を用いたモータ駆動システムの概略構成図である。実施例2では、
図5に示すように、直流変換部出力電流検出器501と直流変換部出力電流検出部502が、実施例1の構成に追加される。直流変換部出力電流検出器501と直流変換部出力電流検出部502以外の構成は
図1と同一であるので、重複した説明は省略する。
【0061】
実施例1と同じく、実施例2でも平滑コンデンサ101が電流を供給するタイミング、つまり放電時に、直流変換部出力電流検出器501で検出した直流変換部の出力電流i
dcを、
図4のS400において同様に取得する。
【0062】
図4のうち、S402、S403、S404は、実施例2では、平滑コンデンサの電流i
Cを近似する必要は無いので不要である。その代わりに、実施例2では、平滑コンデンサの電流i
Cを近似するではなく直流変換部出力電流i
dcと負荷電流i
Lから、(i
C=i
dc-i
L)の演算式により平滑コンデンサの電流i
Cを算出する。
図4の他のステップは、実施例2においても実行される。
【0063】
算出した平滑コンデンサの電流i
Cと
図4のS405に示す式に基づいて平滑コンデンサ101の容量を計算する。実施例2では、直流変換部出力電流検出部502が追加されるため、平滑コンデンサの電流i
Cを近似することなく、実際に流れている電流を算出できる。
【0064】
このため、コンデンサ容量の計算誤差が減少でき、実施例1より実施例2では平滑コンデンサの劣化状態の判定の正確さを向上できる。また、実施例2は、瞬間的な負荷変動や回生電流が発生する運転中に、平滑コンデンサの劣化状態の判定ができるという、実施例1と同様な効果を有する。
【0065】
なお、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、電力変換装置100で、
図3に示した直流電圧についてのデータを取得し、外部通信部113からクラウドなどの上位計算機に、直流変換部出力電流i
dc、負荷電流i
L、直流電圧などのデータを送信し、上位装置でリップル変換量、静電容量の計算をし、平滑コンデンサの劣化状態の判断をする劣化診断システムにすることもできる。
【0066】
さらに、直流変換部103や交流変換部104に対してノイズなどの障害により、計算の誤差がある可能性あるので、平滑コンデンサの劣化の判定に対して閾値レベルだけではなく、算出した平滑コンデンサの静電容量の統計的な解析で、劣化状態を判断することも可能である。
【0067】
上記の実施例における電力変換装置100は、汎用インバータ、サーボアンプ、DCBLコントローラなどの電力変換装置として適用できる。
【符号の説明】
【0068】
100:電力変換装置、101:平滑コンデンサ、103:直流変換部、104:交流変換部、108:制御部、109:直流電圧検出部、111:電流検出部、112:CPU、113:外部通信部、114:情報蓄積部