(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】四重極デバイス
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20221209BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
H01J49/42 150
H01J49/42 900
H01J49/02 200
(21)【出願番号】P 2021550038
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 GB2020050592
(87)【国際公開番号】W WO2020183160
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-26
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,マーティン レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】ラングリッジ,デイビッド ジェイ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/046905(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四重極デバイスを動作させる方法であって、
主AC四重極電圧を前記四重極デバイスに印加することと、
補助AC四重極電圧を前記四重極デバイスに印加することと、
AC双極子電圧を前記四重極デバイスに印加することと、
1つ以上のDC電圧を前記四重極デバイスに印加することと
を含み、
前記主四重極電圧、前記補助四重極電圧、および前記1つ以上のDC電圧が、2つ以上の安定領域での前記四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択され、
前記双極子電圧が、前記2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンを減衰させるように構成されている、
方法。
【請求項2】
前記双極子電圧が、単一の選択安定領域以外の前記2つ以上の安定領域のうちの1つの安定領域または複数の安定領域に対応するイオンを減衰させるように構成されている、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記単一の選択安定領域が、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域である、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記双極子電圧は、イオンが前記四重極デバイスを通過するときに前記イオンの少なくとも一部の半径方向振幅を増加させることによって、前記イオンを減衰させるように構成されている、請求項
1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記主四重極電圧、前記補助四重極電圧、および前記双極子電圧、のうちの1つ以上が、デジタル電圧を含む、請求項
1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記四重極デバイスが、4つの電極を備え、各電圧が、前記4つの電極のうちの少なくとも1つに印加される、請求項
1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
装置であって、
四重極デバイスと、
1つ以上の電圧源であって、
主AC四重極電圧を前記四重極デバイスに印加すること、
補助AC四重極電圧を前記四重極デバイスに印加すること、
AC双極子電圧を前記四重極デバイスに印加すること、
および
1つ以上のDC電圧を前記四重極デバイスに印加すること、を行うように構成された、1つ以上の電圧源と、を備え、
前記主四重極電圧、前記補助四重極電圧、および前記1つ以上のDC電圧が、2つ以上の安定領域での前記四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択され、
前記双極子電圧が、前記2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンが減衰されるように構成されている、
装置。
【請求項8】
前記双極子電圧が、単一の選択安定領域以外の前記2つ以上の安定領域のうちの1つの安定領域または複数の安定領域に対応するイオンを減衰させるように構成されている、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
前記単一の選択安定領域が、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域である、請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
前記双極子電圧は、イオンが前記四重極デバイスを通過するときに前記イオンの少なくとも一部の半径方向振幅を増加させることによって、前記イオンを減衰させるように構成されている、請求項
7~9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記1つ以上の電圧源のうちの少なくとも1つが、デジタル電圧源を備えている、請求項
7~10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記四重極デバイスが、4つの電極を備え、前記1つ以上の電圧源が、各電圧を前記4つの電極のうちの少なくとも1つに印加するように構成されている、請求項
7~11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
請求項
7~12のいずれか1項に記載の装置を備えている質量および/またはイオン移動度分光器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月11日に出願された英国特許出願第1903213.5号および2019年3月11日に出願された英国特許出願第1903214.3号からの優先権およびそれらの利益を主張する。これらの出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、一般に、四重極デバイスおよび四重極デバイスを備えている質量および/またはイオン移動度分光器などの分析機器に関し、より具体的には、四重極質量フィルタおよび四重極質量フィルタを備えている分析機器に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量フィルタは、よく知られており、4つの平行ロッド電極を備えている。
図1は、四重極質量フィルタの典型的な配設を示す。
【0003】
従来の動作では、RF電圧およびDC電圧は、四重極が質量または質量電荷比分解動作モードで動作するように、四重極のロッド電極に印加される。所望の質量電荷比範囲内の質量電荷比を有するイオンは、質量フィルタによって前方に透過されるが、質量電荷比範囲外の質量電荷比値を有する望ましくないイオンは、大幅に減衰される。
【0004】
駆動電圧は、四重極デバイスが1つ以上のいわゆる「安定領域」内で動作するように、すなわち、少なくとも一部のイオンが四重極デバイス内の安定した軌道をとるように選択される。例えば、四重極デバイスは、いわゆる「第1の」(すなわち、最下位の)安定領域内で動作させることが一般的である。
【0005】
US5227629(特許文献1)は、単一の追加的な四重極AC摂動電圧が(主RFおよびDC電圧に加えて)四重極の電極に印加される動作モードを記載している。これは、新しい安定領域または「安定の島」が生成されるように、安定線図を変化させる効果を有する。この動作モードでの動作は、高質量分解能を提供することができる。
【0006】
N.V.Konenkovらの論文International Journal of Mass Spectrometry 208(2001)17-27(Konenkov)(非特許文献1)は、これらの修正された安定線図をより詳細に記載している。
【0007】
M.Sudakovらの論文International Journal of Mass Spectrometry 408(2016)9-19(Sudakov)(非特許文献2)は、(主RFおよびDC電圧に加えて)2つの追加的な位相ロックAC励起が四重極のロッド電極に印加される動作モードを記載している。これは、第1の安定領域(「Xバンド」)の頂部の近くの高q境界に沿って、安定した狭く長い帯域を生じさせる効果を有する。Xバンドモードでの動作は、高質量分解能および高速質量分離を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】N.V.Konenkov等、International Journal of Mass Spectrometry 208(2001)17-27(Konenkov)
【文献】M.Sudakov等、International Journal of Mass Spectrometry 408(2016)9-19(Sudakov)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
改善された四重極デバイスを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様によれば、四重極デバイスを動作させる方法が提供され、本方法は、
主四重極電圧を四重極デバイスに印加することと、
補助四重極電圧を四重極デバイスに印加することと、
双極子電圧を四重極デバイスに印加することと、を含む。
【0012】
様々な実施形態は、主(ACまたはRF)四重極電圧および補助(ACまたはRF)四重極電圧が四重極デバイスに(同時に)印加される、四重極質量フィルタなどの四重極デバイスを動作させる方法を目的とする。
【0013】
したがって、例えば、様々な実施形態によれば、繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の第1の位相を四重極デバイスの一方の対向する電極対に印加することによって、および繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を他方の対向する電極対に印加することによって、主(ACまたはRF)および補助(ACまたはRF)四重極電圧を含む繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形が四重極デバイスに印加される。
【0014】
主四重極(ACまたはRF)および補助(ACまたはRF)四重極電圧に加えて、双極子(ACまたはRF)電圧もまた、(主および補助四重極電圧と同時に)四重極デバイスに印加される。
【0015】
したがって、例えば、様々な実施形態によれば、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の第1の位相を四重極デバイスの電極の1つに、および繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を四重極デバイスの対向する電極に印加することによって(または繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の第1の位相を四重極デバイスの一方の隣接する電極対に、および繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を他方の隣接する電極対に印加することによって)、(ACまたはRF)双極子電圧を含む繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形が四重極デバイスに印加される。
【0016】
下でより詳細に説明するように、補助(ACまたはRF)四重極電圧の四重極デバイスへの印加は、四重極デバイスが、改善された性能特性(高質量分解能および高速質量分離など)を有する、「Xバンド」、「Xバンド様」、「Yバンド」、または「Yバンド様」動作モードなどの動作モードで動作することを可能にすることができる。
【0017】
しかしながら、本明細書で説明する様々な実施形態にあるように、単一の補助四重極電圧だけが四重極デバイスに印加される場合、そのような動作モードで四重極デバイスを動作させることは、2つの別々の質量電荷比範囲内のイオンの四重極デバイスによる望ましくない同時透過をもたらし得る。これは、これらの動作モードでは、いわゆる「走査線」が複数の異なる安定領域と重なり得るからである。
【0018】
様々な実施形態によれば、この(「単一の補助励起Xバンド」または「単一の補助励起Yバンド」)動作モードで動作するときにそうしなければ四重極デバイスによって透過され得る望ましくないイオンの透過を防止するために、追加的な(ACまたはRF)双極子電圧が四重極デバイスに印加される。
【0019】
下でより詳細に説明するように、このような(ACまたはRF)双極子電圧の四重極デバイスへの印加は、これらの望ましくないイオンの透過を防止するための特に好都合な技術であり、デバイスの複雑さを大幅に増加させることなく、したがって、デバイスのコストを大幅に増加させることなく、比較的容易な様式で達成され得る。
【0020】
したがって、様々な実施形態は、例えば高質量分解能および高速質量分離に関する、Xバンド(様)(またはYバンド(様))動作の利点を達成することができ、一方で、特に容易かつ好都合な様式で、単一の(所望の)質量電荷比窓内のイオンだけを四重極デバイスによって透過することを確実にすることができる、動作モードを提供する。
【0021】
したがって、本発明が、改善された四重極デバイスを提供することが認識されるであろう。
【0022】
本方法は、1つ以上のDC電圧を(主四重極、補助四重極、および補助双極子電圧と同時に)四重極デバイスに印加することを含み得る。
【0023】
主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧は、2つ以上の安定領域での四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択され得る。すなわち、主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧は、(双極子電圧を印加することなく)主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧だけが四重極デバイスに(同時に)印加されたときに、少なくとも2つの異なる質量電荷比範囲(各範囲が、2つ以上の安定領域のそれぞれ1つに対応する)内の質量電荷比を有するイオンが、四重極デバイス内で同時に安定する(安定した軌道をとることができる)(したがって、四重極デバイスによって(同時に)透過することができる)ように選択され得る。換言すれば、主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧は、走査線が2つ以上の安定領域と交差するように選択され得る。
【0024】
(ACまたはRF)双極子電圧(または各々)は、(ACまたはRF)双極子電圧を四重極デバイスに印加することが、(イオンが四重極デバイスを通過するときに)2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つ(それぞれの安定領域)に対応するイオンを減衰させるように選択され得る。
【0025】
別の態様によれば、四重極デバイスを動作させる方法が提供され、本方法は、
主四重極電圧を四重極デバイスに印加することと、
補助四重極電圧を四重極デバイスに印加することと、
1つ以上のDC電圧を四重極デバイスに印加することと、を含み、
主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧が、2つ以上の安定領域での四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択され、本方法は、
イオンが四重極デバイスを通過するときに、2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンを減衰させることをさらに含む。
【0026】
イオンが四重極デバイスを通過するときに2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンを減衰させることは、(主(ACまたはRF)四重極電圧、補助(ACまたはRF)四重極電圧、および1つ以上のDC電圧と同時に)1つ以上の(ACまたはRF)電圧を四重極デバイスに印加することを含み得る。1つ以上の(ACまたはRF)電圧は、1つ以上の(ACまたはRF)双極子電圧を含み得る。
【0027】
イオン(2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応する)は、イオンが四重極デバイスを通過するときにイオンの少なくとも一部の(例えば、全ての)半径方向振幅を増加させること(双極子電圧の四重極デバイスへの印加)によって減衰され得る。
【0028】
イオン(2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応する)は、イオンの少なくとも一部(例えば、全て)を四重極デバイスの1つ以上の電極に衝突させること、および/または(四重極デバイスの電極間で)四重極デバイスから半径方向に通過させること(双極子電圧の四重極デバイスへの印加)によって減衰され得、および/または別様に(デバイスの下流の)四重極デバイスによって減衰され得る(透過され得ない)。
【0029】
(ACまたはRF)双極子電圧は、単一の選択安定領域以外の2つ以上の安定領域のうちの1つの安定領域または複数の安定領域に対応するイオンを減衰させるように構成され得る。
【0030】
2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つは、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様安定領域であり得る。したがって、2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つの安定境界での不安定性(放出)は、単一の(xまたはy)方向(だけ)にあり得る。
【0031】
単一の選択安定領域は、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域であり得る。すなわち、単一の選択安定領域は、安定領域の安定境界での不安定性(放出)が単一の(xまたはy)方向(だけ)にあり得る安定領域であり得る。
【0032】
本方法は、(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域以外の2つ以上の安定領域の各々に対応するイオンを減衰させることを含み得る。これは、(ACまたはRF)双極子電圧を四重極デバイスに印加することが(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域以外の2つ以上の安定領域の各々に対応するイオンを減衰させるように、(ACまたはRF)双極子電圧を選択することによって行われ得る。
【0033】
四重極デバイスは、(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域(だけ)に対応するイオン(だけ)を透過し得る。すなわち、四重極デバイスは、安定領域の安定境界での不安定性(放出)が単一の(xまたはy)方向(だけ)にある(単一の)安定領域(だけ)に対応するイオン(だけ)を透過し得る。
【0034】
単一の補助四重極電圧だけが、四重極デバイスに印加され得る。
【0035】
(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域は、「単一の励起Xバンド」(または「単一の励起Yバンド」)の安定領域であり得る。すなわち、(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域は、(主四重極電圧に加えて)単一の補助四重極電圧だけを四重極デバイスに印加することによって生成され得る。
【0036】
主四重極電圧、補助四重極電圧、および双極子電圧のうちの少なくとも1つ(例えば、各々)は、デジタル電圧を含み得る。
【0037】
主四重極電圧、補助四重極電圧、および双極子電圧のうちの少なくとも1つ(例えば、各々)は、高調波(RFまたはAC)電圧を含み得る。
【0038】
四重極デバイスは、4つの(平行)(ロッド)電極を備え得、各電圧は、4つの電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加され得る。
【0039】
主(ACまたはRF)四重極電圧波形を四重極デバイスに印加することは、主(ACまたはRF)四重極電圧波形を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することを含み得る。
【0040】
補助(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加することは、補助(ACまたはRF)四重極電圧を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することを含み得る。
【0041】
(ACまたはRF)(または各)双極子電圧を四重極デバイスに印加することは、(ACまたはRF)双極子電圧を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することを含み得る。
【0042】
1つ以上のDC電圧を四重極デバイスに印加することは、1つ以上のDC電圧(の各々)を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することを含み得る。
【0043】
四重極デバイスの4つの電極は、2つの対向する電極対として配設され得る。したがって、4つの電極は、2つの隣接した電極対にグループ化され得、各隣接する電極対は、各対向する電極対の1つの電極だけを備える。
【0044】
主(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加すること、および/または補助(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加することは、繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の第1の位相を四重極デバイスの一方の対向する電極対(の各電極)に印加することと、繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を、他方の対向する電極対(の各電極)に印加することと、を含み得る。
【0045】
追加的または代替的に、主(ACまたはRF)四重極電圧を、四重極デバイスに印加すること、および/または補助(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加することは、繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの対向する電極対の一方だけ(各電極)に印加すること(かつ繰り返し四重極電圧波形(の任意の位相)を、四重極デバイスの他方の対向する電極対(の各電極)に印加しないこと)を含み得る。
【0046】
(ACまたはRF)双極子電圧(または各々)を四重極デバイスに印加することは、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの一方の隣接する電極対(の各電極)に印加することと、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を、他方の隣接する電極対(の各電極)に印加することと、を含み得る。
【0047】
追加的または代替的に、(ACまたはRF)双極子電圧(または各々)を四重極デバイスに印加することは、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの1つの電極だけに印加することと、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を、四重極デバイスの対向する電極(だけ)に印加すること(かつ繰り返し双極子電圧波形(の任意の位相)を、四重極デバイスの他の(2つの)電極に印加すること)を含み得る。
【0048】
四重極デバイスは、四重極質量フィルタを備え得る。
【0049】
本方法は、イオンがそれらの質量電荷比に従って選択および/またはフィルタリングされるように、四重極質量フィルタを動作させることを含み得る。
【0050】
本方法は、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)を変化させること(走査することなど)を含み得る。すなわち、本方法は、四重極デバイスの設定質量を変化させることを含み得る。
【0051】
本方法は、四重極デバイスの分解能を変化させることを含み得る。これは、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)に依存して(すなわち、四重極デバイスの設定質量に依存して)行われ得る。
【0052】
本方法は、
四重極デバイスの分解能を高くし、一方で、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)を増大させること(すなわち、四重極デバイスの設定質量を増大させること)、または
四重極デバイスの分解能を低くし、一方で、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)を減少させること(すなわち、四重極デバイスの設定質量を減少させること)を含み得る。
【0053】
本明細書で使用するとき、四重極デバイスの設定質量は、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲の中央である。
【0054】
本方法は、異なる質量電荷比または質量電荷比範囲について(すなわち、異なる設定質量について)一定のピークの幅を維持するように、四重極デバイスの分解能を変化させることを含み得る。
【0055】
本方法は、主四重極電圧および/または補助四重極電圧および/または双極子電圧の振幅および/または周波数を変化させることによって、四重極デバイスの分解能を変化させることを含み得る。
【0056】
一態様によれば、上述の方法を含む、質量および/またはイオン移動度分光分析の方法が提供される。
【0057】
別の態様によれば、装置が提供され、本装置は、
四重極デバイスと、
1つ以上の電圧源であって、
主四重極電圧を四重極デバイスに印加すること、
補助四重極電圧を四重極デバイスに印加すること、および
双極子電圧を四重極デバイスに印加すること、を行うように構成された、1つ以上の電圧源と、を備える。
【0058】
1つ以上の電圧源は、2つ以上のDC電圧を、(主(ACまたはRF)四重極、補助(ACまたはRF)四重極、および補助(ACまたはRF)双極子電圧と同時に)四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0059】
主(ACまたはRF)四重極電圧、補助(ACまたはRF)四重極電圧、および1つ以上のDC電圧は、2つ以上の安定領域での四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択され得る。換言すれば、主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧は、走査線が2つ以上の安定領域と交差するように選択され得る。
【0060】
(ACまたはRF)双極子電圧(または各々)は、(ACまたはRF)双極子電圧を四重極デバイスに印加することが、(イオンが四重極デバイスを通過するときに)2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つ(それぞれの安定領域)に対応するイオンを減衰させるように選択され得る。
【0061】
別の態様によれば、装置が提供され、本装置は、
四重極デバイスと、
1つ以上の電圧源であって、
主四重極電圧を四重極デバイスに印加すること、
補助四重極電圧を四重極デバイスに印加すること、および
1つ以上のDC電圧を四重極デバイスに印加すること、を行うように構成された、1つ以上の電圧源と、を備え、
主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧が、2つ以上の安定領域での四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択され、
本装置は、イオンが四重極デバイスを通過するときに2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンを減衰させるように構成されている。
【0062】
1つ以上の電圧源は、イオンが四重極デバイスを通過するときに2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンを減衰させるように、1つ以上の(ACまたはRF)電圧を、(主(ACまたはRF)四重極電圧、補助(ACまたはRF)四重極電圧、および1つ以上のDC電圧と同時に)四重極デバイスに印加するように構成され得る。1つ以上の(ACまたはRF)電圧は、1つ以上の(ACまたはRF)双極子電圧を含み得る。
【0063】
本装置は、イオンが四重極デバイスを通過するときにイオンの少なくとも一部(例えば、全て)の半径方向振幅を増加させること((ACまたはRF)双極子電圧の四重極デバイスへの印加)によって、(2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応する)イオンを減衰させるように構成され得る。
【0064】
本装置は、イオンの少なくとも一部(例えば、全て)を四重極デバイスの1つ以上の電極に衝突させること、および/または(四重極デバイスの電極間で)四重極デバイスから半径方向に通過させること((ACまたはRF)双極子電圧の四重極デバイスへの印加)によってイオン(2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応する)を減衰するように構成され得、および/または別様に(デバイスの下流の)四重極デバイスによって減衰される(透過されない)ように構成され得る。
【0065】
(ACまたはRF)双極子電圧は、単一の選択安定領域以外の2つ以上の安定領域のうちの1つの安定領域または複数の安定領域に対応するイオンを減衰させるように構成され得る。
【0066】
2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つは、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様安定領域であり得る。したがって、2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つの安定境界での不安定性(放出)は、単一の(zまたはy)方向(だけ)にあり得る。
【0067】
単一の選択安定領域は、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域であり得る。すなわち、単一の選択安定領域は、安定領域の安定境界での不安定性(放出)が単一の(xまたはy)方向(だけ)にあり得る安定領域であり得る。
【0068】
本装置は、(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域以外の2つ以上の安定領域の各々に対応するイオンを減衰させるように構成され得る。(ACまたはRF)双極子電圧は、(ACまたはRF)双極子電圧を四重極デバイスに印加することが(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域以外の2つ以上の安定領域の各々に対応するイオンを減衰させるように選択され得る。
【0069】
本装置は、四重極デバイスが(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様安定領域に対応するイオン(だけ)を透過するように構成され得る。すなわち、本装置は、安定領域の安定境界での不安定性(放出)が単一の(xまたはy)方向(だけ)にある(単一の)安定領域(だけ)に対応するイオン(だけ)を四重極デバイスが透過するように構成され得る。
【0070】
1つ以上の電圧源は、単一の補助(ACまたはRF)四重極電圧だけを四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0071】
(単一の)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域は、「単一の励起Xバンド」(または「単一の励起Yバンド」)の安定領域であり得る。すなわち、単一のXバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域は、単一の補助(ACまたはRF)四重極電圧だけを四重極デバイスに印加することによって生成され得る。
【0072】
1つ以上の電圧源のうちの少なくとも1つ(例えば、各々)は、デジタル電圧源を備え得る。
【0073】
1つ以上の電圧源のうちの少なくとも1つ(例えば、各々)は、高調波(RFまたはAC)電圧源を備え得る。
【0074】
四重極デバイスは、4つの(平行)(ロッド)電極を備え得、1つ以上の電圧源は、各電圧を、4つの電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加するように構成され得る。
【0075】
1つ以上の電圧源は、主(ACまたはRF)四重極電圧を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することによって、主(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0076】
1つ以上の電圧源は、補助(ACまたはRF)四重極電圧を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することによって、補助(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0077】
1つ以上の電圧源は、(ACまたはRF)双極子電圧を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することによって、(ACまたはRF)(または各)双極子電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0078】
1つ以上の電圧源は、1つ以上のDC電圧(の各々)を、四重極デバイスの(4つの)電極のうちの、2つまたは全て(4つ)などの、少なくとも1つに印加することによって、1つ以上のDC電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0079】
四重極デバイスの4つの電極は、2つの対向する電極対として配設され得る。したがって、4つの電極は、2つの隣接した電極対にグループ化され得、各隣接する電極対は、各対向する電極対の1つの電極だけを備える。
【0080】
1つ以上の電圧源は、繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの一方の対向する電極対(の各電極)に印加することによって、および繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を、他方の対向する電極対(の各電極)に印加することによって、主(ACまたはRF)四重極電圧および/または補助(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0081】
追加的または代替的に、1つ以上の電圧源は、繰り返し(ACまたはRF)四重極電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの対向する電極対の一方だけ(各電極)に印加すること(かつ繰り返し四重極電圧波形(の任意の位相)を、四重極デバイスの他方の対向する電極対(の各電極)に印加しないこと)によって、主(ACまたはRF)四重極電圧および/または補助(ACまたはRF)四重極電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0082】
1つ以上の電圧源は、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの一方の隣接する電極対(の各電極)に印加することによって、および繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を、他方の隣接する電極対(の各電極)に印加することによって、(ACまたはRF)(または各)双極子電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0083】
追加的または代替的に、1つ以上の電圧源は、繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の第1の位相を、四重極デバイスの1つの電極だけに印加することによって、および繰り返し(ACまたはRF)双極子電圧波形の逆位相(180°位相が異なる)を、四重極デバイスの対向する電極(だけ)に印加すること(かつ繰り返し双極子電圧波形(の任意の位相)を、四重極デバイスの他の(2つの)電極に印加すること)によって、(ACまたはRF)(または各)双極子電圧を四重極デバイスに印加するように構成され得る。
【0084】
四重極デバイスは、四重極質量フィルタを備え得る。
【0085】
本装置は、イオンがそれらの質量電荷比に従って選択および/またはフィルタリングされるように、四重極質量フィルタが動作するように構成され得る。
【0086】
本装置は、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)を変化させる(走査するなど)ように構成され得る。すなわち、制御システムは、四重極デバイスの設定質量を変化させるように構成され得る。
【0087】
本装置は、四重極デバイスの分解能を変化させるように構成され得る。これは、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲に依存して(すなわち、四重極デバイスの設定質量に依存して)行われ得る。
【0088】
本装置は、
四重極デバイスの分解能を高くし、一方で、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)を増大させること(すなわち、四重極デバイスの設定質量を増大させること)、または
四重極デバイスの分解能を低くし、一方で、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲(の中央)を減少させること(すなわち、四重極デバイスの設定質量を減少させること)、を行うように構成され得る。
【0089】
四重極デバイスの設定質量は、イオンが四重極デバイスによって選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲の中央であり得る。
【0090】
本装置は、異なる質量電荷比または質量電荷比範囲について一定のピークの幅を維持するように、四重極デバイスの分解能を変化させるように構成され得る。
【0091】
本装置は、主四重極電圧および/または補助四重極電圧および/または双極子電圧の振幅および/または周波数を変化させることによって、四重極デバイスの分解能を変化させるように構成され得る。
【0092】
一態様によれば、上述の装置を備える、質量および/またはイオン移動度分光器が提供される。
【0093】
一態様によれば、方法が提供され、本方法は、
第1および第2の対向する電極対を備えている第1の四重極イオンガイドを提供することと、
振幅Vおよび周波数ωを有する第1の主または駆動AC電圧を第1および第2の対向する電極対の間に印加することと、
DC電圧Uを第1および第2の対向する電極対の間に印加することと、
第2の振幅Vexおよび周波数ωexを有するパラメータ励起AC電圧を第1および第2の対向する電極対の間に印加することと、を含み、ここで、V>Vexおよびω≠ωexであり、それにより、動作中に、1つを超える異なる質量電荷比領域が同時に透過され、
イオンが四重極イオンガイドを横断するときに、該同時に透過された質量電荷比範囲の一部内のイオンが透過されることを阻止する。
【0094】
イオンの透過を阻止する手段は、1つ以上の双極子励起波形の第1の四重極イオンガイドへの印加によって提供され得る。
【0095】
様々な実施形態によれば、RFおよび分解DC電圧を閉じ込めることに加えて、四重極デバイスの安定線図を変化させるために、単一の四重極の励起波形が印加される。
【0096】
動作中に、1つを超える質量電荷比領域または窓が四重極デバイスによって同時に透過されるように、DC/RF比が調整され得る。
【0097】
透過される質量電荷比領域の少なくとも1つは、改善されたピーク形状、イオン安定性、存在度感度、および分解能-透過特性をもたらすイオン安定性域から生じ得る。
【0098】
透過されることが望ましくない質量電荷比領域からのイオンは、四重極の励起の周波数と異なり得る1つ以上の周波数において、別々の1つまたは複数の双極子励起波形を印加することによって、四重極デバイスを出ることを阻止し得るか、または前方に透過されることを阻止し得る。
【0099】
イオンが電極に衝突するように、電極の間から放出されるもしくはそこを通過するように、またはイオンを下流のデバイスによって透過させるもしくは検出することができないように、出口で十分に摂動されるように、イオンが四重極デバイスを横断するときに不要なイオンの半径方向振幅を増加させるために、双極子励起波形が使用され得る。したがって、四重極デバイスは、単一の質量電荷比範囲だけを透過することを可能にし得る。
【図面の簡単な説明】
【0100】
以降に、様々な実施形態が、添付図面を参照しながら、例としてのみ説明される。
【0101】
【
図1】様々な実施形態による四重極質量フィルタを図式的に示す。
【
図2】単一の補助四重極励起波形が四重極質量フィルタに印加される動作モードで動作する四重極質量フィルタの安定線図を示す。
【
図3A】補助質量フィルタが分析四重極質量フィルタの上流に配設されている配設を図式的に示す。
【
図3B】補助質量フィルタが分析四重極質量フィルタの下流に配設されている配設を図式的に示す。
【
図4】
図2の安定線図に対する質量フィルタの効果を示す。
【
図5A】走査線が2つの安定領域と同時に交差した状態で動作している四重極質量フィルタを使用して得られた質量スペクトルを示す。
【
図5B】様々な実施形態に従って補助双極子励起波形が四重極質量フィルタに印加されたときの、走査線が2つの安定領域と同時に交差した状態で動作している四重極質量フィルタを使用して得られた質量スペクトルを示す。
【
図6】様々な実施形態による四重極デバイスを備えている様々な分析機器を図式的に示す。
【
図7】様々な実施形態による四重極デバイスを備えている様々な分析機器を図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0102】
様々な実施形態は、四重極質量フィルタなどの四重極デバイスを動作させる方法を目的とする。
【0103】
図1に図式的に示すように、四重極デバイス10は、互いに平行であるように配設され得る4つの電極、例えばロッド電極などの複数の電極を備え得る。四重極デバイスは、任意の好適な数の他の電極(図示せず)を備え得る。
【0104】
ロッド電極は、四重極(z軸)の中心(長手方向)(すなわち、軸(z)方向に延在する)軸を取り囲み、軸に平行(軸方向またはz方向に平行)になるように配設され得る。
【0105】
各ロッド電極は、軸(z)方向に相対的に延在し得る。複数のまたは全てのロッド電極は、(軸(z)方向に)同じ長さを有し得る。ロッド電極の1つ以上または各々は、例えば、(i)<100mm、(ii)100~120mm、(iii)120~140mm、(iv)140~160のmm、(v)160~180mm、(vi)180~200mm、または(vii)>200mm、などの、任意の好適な値を有し得る。
【0106】
複数のまたは全てのロッド電極は、軸(z)方向に整列され得る。
【0107】
複数の延在する電極の各々は、同じ半径方向距離(内接半径)r0だけ、イオンガイドの中心軸から半径(r)方向(半径方向(r)は、軸(z)方向に対して直角である)にオフセットされ得るが、(中心軸に対して)異なる角(方位角)変位を有し得る(角度方向(θ)は、軸(z)方向および半径方向(r)方向に対して直角である)。四重極の内接半径r0は、例えば、(i)<3mm、(ii)3~4mm、(iii)4~5mm、(iv)5~6mm、(v)6~7mm、(vi)7~8mm、(vii)8~9mm、(viii)9~10mm、または(ix)>10mm、などの、任意の好適な値を有し得る。
【0108】
複数の延在電極の各々は、角度(θ)方向に等しく離間され得る。このように、電極は、回転対称様式で中心軸の回りに配設され得る。各延在電極は、他方の延在電極に半径方向に対向するように配設され得る。すなわち、イオンガイドの中心軸に対して特定の角度変位θnで配設された各電極について、他方の電極は、角度変位θn±180°で配設されている。
【0109】
したがって、四重極デバイス10(例えば、四重極質量フィルタ)は、どちらも第1の(x)平面内の中心軸と平行に配置された第1の一対の対向するロッド電極と、中心軸で第1の(x)平面と垂直に交差する、どちらも第2の(y)平面内の中心軸に配置された第2の一対の対向するロッド電極と、を備え得る。
【0110】
四重極デバイス10は、(動作に際して)少なくとも一部のイオンが半径方向(r)(半径方向は、軸方向に対して直角であり、かつ外向きに延在している)にイオンガイド内に閉じ込められるように構成され得る。少なくとも一部のイオンは、半径方向に実質的に中心軸に沿って(近接して)閉じ込められ得る。使用に際して、少なくとも一部のイオンは、実質的に中心軸に沿って(近接して)イオンガイドを通って進行し得る。
【0111】
下でより詳細に説明するように、様々な実施形態では、(動作に際して)例えば1つ以上の電圧源12によって、複数の異なる電圧が四重極デバイス10の電極に印加される。1つ以上の電圧源12の1つ以上または各々は、アナログ電圧源および/またはデジタル電圧源を備え得る。
【0112】
図1に示すように、様々な実施形態によれば、制御システム14が提供され得る。1つ以上の電圧源12は、制御システム14によって制御され得、および/または制御システム12の一部を形成し得る。制御システムは、例えば本明細書で説明する様々な実施形態の様式で、四重極10および/または電圧源12の動作を制御するように構成され得る。制御システム14は、四重極10および/または電圧源12を、本明細書で説明する様々な実施形態の様式で動作させるように構成されている、好適な制御回路を備え得る。制御システムは、本明細書で説明する様々な実施形態に関して、必要な処理および/または後処理動作のうちの任意の1つ以上または全てを行うように構成された好適な処理回路も備え得る。
【0113】
四重極デバイス10の一方(または両方の)電極対の電極は、電気的に接続され得、および/または1つ以上の同じ電圧を含み得る(しかしながら、そのようにする必要はない)。例えば、四重極デバイス10の対向する電極の各対は、電気的に接続され得、および/または1つ以上の同じ電圧が提供され得る。1つ以上のまたは各(RFまたはAC)四重極電圧の第1の位相は、対向する電極対の1つに印加され得、その電圧の対向する位相(180°位相が異なる)は、他の電極対に印加され得る。追加的または代替的に、1つ以上のまたは各(RFまたはAC)四重極電圧は、対向する電極対の1つにだけ印加され得る。加えて、例えば1つ以上のDC電圧を電極対の一方または両方に印加することによって、DC電位差が2つの対向する電極対の間に印加され得る。
【0114】
したがって、1つ以上の電圧源12は、1つ以上の(RFまたはAC)駆動電圧を2つの対向するロッド電極対の間に提供するように各々が構成され得る、1つ以上の四重極(RFまたはAC)駆動電圧源を備え得る。加えて、1つ以上の電圧源12は、2つの対向するロッド電極対の間のDC電位差を供給するように構成され得る、1つ以上のDC電圧源を備え得る。
【0115】
加えて、下でより詳細に説明するように、1つ以上の電圧源12は、1つ以上の双極子駆動電圧を対向するロッド電極対の一方または両方に提供するように各々が構成され得る、1つ以上の駆動電圧源を備え得る。
【0116】
四重極デバイス10(の電極)に印加される複数の電圧は、所望の質量電荷比を有するまたは所望の質量電荷比範囲内の質量電荷比を有する四重極デバイス10内の(例えば、そこを通って進行している)イオンが、四重極デバイス10内で安定した起動をとる(すなわち、半径方向または別様に閉じ込められる)ように、したがって、デバイス内に保持されるように、および/またはデバイスによって前方に透過されるように、選択され得る。所望の質量電荷比以外の質量電荷比値を有する、または所望の質量電荷比範囲外のイオンは、四重極デバイス10内で不安定な軌道をとり得、したがって、失われ得る、および/または実質的に減衰され得る。したがって、四重極デバイス10に印加される複数の電圧は、四重極デバイス10内のイオンを、それらの質量電荷比に従って選択および/またはフィルタリングさせるように構成され得る。
【0117】
上で説明したように、従来の(「通常の」)動作、質量、または質量電荷比の選択および/またはフィルタリングは、単一の四重極RF電圧および分解DC電圧を四重極デバイス10の電極に印加することによって達成される。
【0118】
この場合、総印加電位V
n(t)は、次のように表すことができる。
【数1】
式中、Uは、印加分解DC電位の振幅であり、V
RFは、主四重極RF波形の振幅であり、Ωは、主四重極RF波形の周波数である。
【0119】
また、上で説明したように、閉じ込めRFおよび分解DC電圧に加えて、単一の四重極のAC励起電圧を四重極デバイス10に印加することで、新しい安定領域安定性または「安定の島」の新しい領域が生成されるように安定線図を変化させることができる。
【0120】
これを
図2によって示す。
図2は、形態V
excos(ω
ext)の単一の補助四重極の励起波形を、((方程式1による)主四重極のRFおよびDC電圧に加えて)四重極デバイス10に印加することで生じる(q次元での)安定線図の先端部を示す。
【0121】
このモードでの四重極デバイス10の動作の場合、総印加四重極電位V
xb(t)は、次のように表すことができる。
【数2】
式中、Uは、印加分解DC電位の振幅であり、V
RFは、主四重極のRF波形の振幅であり、Ωは、主四重極のRF波形の周波数であり、V
exは、補助四重極の波形の振幅であり、ω
exは、補助四重極の波形の周波数であり、α
exは、主四重極のRF電圧の位相に対する補助四重極の波形の初期位相である。
【0122】
補助波形の無次元パラメータq
ex、a、およびqは、次のように定義され得る。
【数3】
【数4】
および
【数5】
式中、Mは、イオン質量であり、eは、その電荷である。
【0123】
補助四重極励起の周波数ω
exは、無次元基本周波数νに関する主閉じ込めRF周波数Ωの分数として表され得る。
【数6】
【0124】
νの好適な値は、約1/6~1/40であり得、実施形態では、約1/10~1/20であり得る。q
exの好適な値は、約0.1以下(または以上)であり得る。q
exは、所望の分解能を与えるように選択され得る。
図2に表す実施例では、ν=0.95およびq
ex=0.01である。
【0125】
様々な実施形態によれば、分解DC電位の振幅Uおよび主四重極波形の振幅VRFは、分解DC電位の振幅と主四重極波形の振幅との比、2U/VRF(=a/q)が、一定であるように変化され得る。固定a/q比に対応する線は、いわゆる動作線または「走査線」として定義される。
【0126】
図2から分かるように、単一の補助励起RFの印加は、いくつかの異なる安定の島の形成をもたらす。四重極デバイス10は、これらの異なる安定の島のうちの任意の1つにおいて動作させることが望ましい場合がある。例えば、安定の島の1つ以上は、Xバンド、Xバンド様(またはyバンドもしくはYバンド様)の特性を示し得る。Xバンド様(またはYバンド様)安定領域は、安定領域の安定境界での不安定性(放出)がx(またはy)方向だけにあり得る安定領域を備え得る。
【0127】
図2では、領域「A」、「C」、および「E」は、この単一の補助励起動作モードの「Xバンド」の一部であるとみなされ得る。領域「B」および「D」は、「Yバンド」の一部であるとみなされ得る。しかしながら、他の領域はまた、Xバンド様(またはYバンド様)の特性も示し得る。例えば、領域「F」などのXバンド領域の左側の領域はまた、Xバンド様の特性も示し得る。そのような領域について、領域のどちらかの縁部での安定境界は、x方向(またはy方向)不安定性であり得、したがって、Xバンド様(またはYバンド様)の特性および相当する受容性を有し得る。これはまた、
図2に示す、および示さない他の安定領域にも当てはまり得る。
【0128】
図2から同じく分かるように、第1の走査線21は、「A」と記された単一の安定の島と交差する。しかしながら、走査線22は、2つの異なる安定の島「C」および「D」と交差する。これは、走査線21で四重極を動作させることは、質量電荷比(m/z)値の単一の範囲内だけのイオンが四重極によって透過されることになり得、一方で、走査線22で四重極を動作させることは、望ましくない、2つの別々の質量電荷比(m/z)範囲からのイオンの同時透過をもたらし得ることを意味する。さらに、他の走査線は、3つ以上の安定の島と交差し得る。
【0129】
したがって、US5227629(特許文献1)では、単一の質量電荷比(m/z)範囲だけを透過させることができるように、分解DC電圧が選択される。すなわち、走査線21などの、領域「A」だけと交差している走査線が選択される。そのような動作モードでの動作は、補助励起(「通常」動作)を伴わない動作と比較して、ピークの形状および存在度感度を改善することができる。しかしながら、a/q(DC/RF)比を誤って設定することは、不所望に、1つを超える質量電荷比(m/z)範囲内の質量電荷比を有するイオンが、四重極によって透過されることになり得る。
【0130】
領域「A」、「C」、または「E」のいずれか(またはバンド「A」-「C」-「E」(
図2に示さず)のより低いa値でのさらなる領域)で四重極デバイス10を動作させることは、従来の(「通常」)モードでの動作と比較して、イオンの高速な放出、および改善された質量フィルタ性能、例えば改善されたピーク形状を提供することができることを見出した。さらに、領域「C」または「E」(またはバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域)で四重極を動作させることは、領域「A」で四重極を動作させることに勝る、いくつかのさらなる利点を提供することができることを見出した。
【0131】
具体的には、領域「C」または「E」(またはバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域)で四重極を動作させることは、高および低の両方のq境界線における同じ方向への(同じ対向する電極対に向かう)イオンの放出をもたらし得る。対照的に、領域「A」では、放出は、安定境界においてだけ一方向に生じない。さらに、透過対分解能は、領域「C」または「E」(またはバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域)で動作する四重極デバイス10と比較して、領域「A」で動作する四重極デバイス10について大幅に劣る。
【0132】
したがって、これらの望ましい安定領域(「C」、「E」、およびバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域)は、安定境界での不安定性が単一の方向(だけ)であることを特徴とし得、「Xバンド」安定領域と称され得る。特に、これらの領域(「C」、「E」、およびバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域)は、単一の補助四重極の励起波形だけが四重極デバイスに印加されたときに生成され得るので、該領域は「単一の励起Xバンド安定領域」と称され得る。
【0133】
発明者らは、単一の励起Xバンド安定領域(安定境界での不安定性が単一の方向だけにある)で四重極デバイス10を動作させることが望ましくなり得ることを認識した。例えば、上で説明したように、そのような安定領域は、領域「C」、「E」、およびバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域を含む。そのような各Xバンド安定領域の動作は、改善されたピーク形状、存在度感度、および分解能-透過特性を提供し得る。
【0134】
しかしながら、上で論じたように、発明者らは、そのような(望ましい)Xバンド安定領域で動作させたときに、走査線22が、1つ以上の他の(あまり望ましくない)安定領域を通過し得ることを見出した。例えば、上で説明したように、走査線22はまた、領域「D」も通過し得る。
【0135】
したがって、走査線22は、2つ(以上)の安定領域を同時に通過し得る。すなわち、四重極デバイス10は、(VRFおよびUの適切な選択によって)2つ(以上)の安定領域で同時に動作し得る。2つ(以上)の安定領域で四重極デバイス10を同時に動作させることは、望ましくない2つの別々の質量電荷比(m/z)範囲内の質量電荷比を有するイオンの同時透過をもたらし得る。
【0136】
したがって、四重極デバイス10をXバンド安定領域で動作させ、一方で、領域「D」などの他の(あまり望ましくない)安定領域またはバンドに対応するイオンの同時透過を回避することが望ましい。
【0137】
他の実施形態では、
図2に示し、上述した安定領域のうちの任意の1つなどの、Xバンド様安定領域、Yバンド安定領域、またはYバンド様安定領域などの、他のタイプの安定領域で四重極デバイス10を動作させることが望ましくなり得る。
【0138】
例えば、補助質量フィルタを使用して(すなわち、主四重極デバイス10に加えて(およびそれとは別であり得る)質量フィルタを使用して)、例えば領域「D」に対応する、望ましくないイオンを取り除くことによってそのような動作を達成することが可能である。
【0139】
この実施例を
図3に示す。
図3Aは、補助質量フィルタ32が主分析四重極10の上流に配設されている配設を示す。
図3Bは、補助質量フィルタ32が主分析四重極10の下流に配設されている代替的な配設を示す。
【0140】
これらの実施例では、(主RFおよびDC電圧に加えて)単一の補助AC(RF)四重極の励起波形が主分析四重極10に印加され得、四重極10は、
図2の走査線22などの走査線が領域「C」および「D」と交差した状態で動作され得る。次いで、領域「D」に対応する不要なイオンを取り除くために、すなわち、不要なイオンが補助質量フィルタ32によって透過されないように、補助質量フィルタ32が使用され得る。
【0141】
図3に示すように、これらの配設はまた、随意に、RFのみのプレフィルタ31A、31Bも含み得、これらを使用して、非RF環境から、または異なるフィルタリング条件を有する別の質量フィルタに結合された一方の質量フィルタから、RF質量フィルタへのイオンの透過を維持するのを補助することができる。
【0142】
【0143】
この実施例では、補助質量フィルタ32は、バンドパスフィルタとして動作するように配設され、
図4の斜線領域は、補助質量フィルタ32のパスバンド(q)を表す。
【0144】
主分析四重極10の安定領域「C」に対応するイオンは、補助質量フィルタ32のパスバンド内にあり、したがって、補助質量フィルタ32によって透過される。しかしながら、主分析四重極10の安定領域「D」に対応するイオンは、補助質量フィルタ32のパスバンド内に存在せず、したがって、補助質量フィルタ32によって透過されない。
【0145】
したがって、
図3Aの配設では、安定領域「D」内のイオンは、主分析四重極10に到達せず、したがって、主分析四重極10に入らないか、またはそれによって透過されない。
図3Bの配設では、安定領域「D」内のイオンは、主分析四重極10によって透過されるが、次いで、補助質量フィルタ32によって透過されない。
【0146】
これらの配設では、補助質量フィルタ32は、主分析四重極10と同じ性能特性を有する必要がないことが認識されるであろう。すなわち、補助質量フィルタ32の性能は、主分析四重極10より劣り得る。したがって、補助質量フィルタ32は、(主分析四重極10と比較して)相対的に低い分解能のデバイスであり得る。同様に、補助質量フィルタ32は、(主分析四重極10と比較して)相対的に短い長さを有することができ、および/または相対的に緩和された機械的許容限度で構築され得る。また、補助質量フィルタ32デバイスは、バンドパスデバイスではなく、高質量カットオフ(ハイパス)デバイスとして動作することができることも認識されるであろう。
【0147】
しかしながら、主分析四重極10に加えて、補助質量フィルタ32の使用は、(補助質量フィルタ32を使用しないことと比較して)デバイスの複雑さを増加させ得、したがって、コストを増加させる。特に、ハードウェアの、電子部品の、および関連する制御要件がより大きくなる。さらに、大規模な(したがって、高価な)再設計を行わなければ、補助質量フィルタ32を既存の四重極または器具設計に組み込むことができない場合がある。
【0148】
Xバンド動作を達成し、一方で、他の(あまり望ましくない)安定領域に対応するイオンの同時の透過を回避する別の方法は、例えばSudakovに記載されているような、「2つの励起Xバンド」動作モードで四重極デバイス10を動作させることである。この動作モードでは、2つの追加的な位相ロック補助四重極AC励起が、(主RFおよびDC電圧に加えて)四重極デバイス10に印加される。
【0149】
これらの2つの補助四重極の励起波形の相対周波数および振幅を正確に調整し、それらの位相差を制御することによって、単一の質量電荷比(m/z)範囲だけが四重極デバイス10によって透過されるような方法で、安定線図を変化させることができる。
【0150】
特に、2つの追加的なAC励起波形の励起周波数および振幅の適切な選択によって、xまたはyいずれかの方向におけるイオン運動について2つの励起の影響を互いに打ち消すことができ、狭いおよび長い安定バンドを、第1の安定領域の頂部(いわゆる「Xバンド」またはYバンド」)の近くで境界線に沿って生じさせることができる。
【0151】
四重極デバイスは、XバンドモードまたはYバンドモードで動作させることができるが、Xバンドモードの動作は、主RF電圧に生じる不安定性をもたらすサイクルが非常に少なくなるので、質量フィルタリングの場合に有利であり得、それによって、いくつかの利点、すなわち、高速な質量分離、より高い質量電荷比(m/z)分解能、機械的不完全性に対する許容限度、混入による初期イオンエネルギーおよび表面電荷に対する許容限度、ならびに四重極デバイスのサイズを小型化するまたは低減させる可能性、を提供する。
【0152】
四重極デバイスの2つの励起Xバンドモードでの動作の場合、総印加電位V
xb(t)は、次のように表すことができる。
【数7】
式中、Uは、印加分解DC電位の振幅であり、V
RFは、主RF波形の振幅であり、Ωは、主RF波形の周波数であり、V
ex1およびV
ex2は、第1および第2の補助四重極波形の振幅であり、ω
ex1およびω
ex2は、第1および第2の補助四重極波形の周波数であり、α
ex1およびα
ex2は、主RF電圧の位相に対する2つの補助四重極波形の初期位相である。
【0153】
n番目の補助四重極の波形の無次元パラメータq
ex(n)、a、およびqは、次のように定義され得る。
【数8】
【数9】
および
【数10】
式中、Mは、イオン質量であり、eは、その電荷である。
補助四重極波形α
ex1およびα
ex2の位相オフセットは、次式によって互いに関連付けられ得る。
【数11】
【0154】
したがって、2つの補助四重極の波形は、位相同期(または位相ロック)であるが、主RF電圧に対して位相が自由に変化され得る。
【0155】
2つのパラメータの励起ω
ex1およびω
ex2の周波数は、無次元基本周波数νに関する主閉じ込めRF周波数Ωの分数として表され得る。
【数12】
【0156】
2つの励起Xバンド動作のための可能な励起周波数および関連する励起振幅(q
ex2/q
ex1)の例を表1に示す。基本周波数νは、典型的に0~0.1である。典型的に、表1に示すようにν
1=νおよびν
2=1-νであるが、他の組み合わせが可能である。比q
ex2/q
ex1の最適な値は、q
ex1およびq
ex2の大きさおよび基本周波数νの値に依存し、したがって、固定されない。
【表1】
【0157】
2つの追加的な励起電圧の振幅の最適な比((表1で)次元パラメータqex1およびqex2の比として表す)は、選択される励起周波数に依存する。最適な振幅比を維持しながら、励起の振幅を増加または減少させることは、安定性バンドの狭小化または拡大をもたらし、そのため、四重極デバイスの質量分解能を増加または減少させる。
【0158】
2つの励起Xバンドモードでの四重極デバイス10の動作は、(上で説明したような)様々な利点と関連付けられるが、発明者らは、互いにコヒーレントな位相である(または位相ロックされた)2つの補助波形を印加するための要件は、例えば必要な電子機器などに関して困難であり得ることを見出した。特に、広い質量電荷比(m/z)範囲にわたる2つの励起Xバンド動作に必要とされる精密な電子制御は、複雑さおよび出費を追加し得る。
【0159】
これは、特に、デジタル駆動システムが用いられる場合である。2つの補助励起Xバンド動作モードで動作するデジタル駆動四重極デバイス10(2つのデジタル生成された位相ロック補助四重極励起波形が四重極10に印加される場合)では、安定線図の先端部近くのy軸不安定性バンドの打ち消しは、四重極10が調和的に駆動される場合よりも効率が低くなり得る。これは、特に高分解能での、安定したXバンドのサイズの低減につながり得る。
【0160】
これらの効果は、位相および電圧振幅が不完全に制御されている場合に増加し得、典型的に、より単純なデジタル駆動システムを有する場合などであり得る。したがって、デジタル駆動システムを使用した2つの補助励起Xバンド動作モードでの四重極デバイス10の満足な動作は、相対的に複雑な、したがって、高価な制御システムを必要とし得る。
【0161】
したがって、様々な実施形態によれば、(閉じ込めRFおよび分解DC電圧に加えて)単一の補助AC四重極励起波形だけを四重極デバイス10に印加して、安定線図を変化させて、例えば
図2に示す実施例にあるような、例えば、領域「C」、「E」、およびバンド「A」-「C」-「E」のより低いa値のさらなる領域などの、1つ以上の「単一の励起Xバンド」安定領域を含む、複数の安定の島または安定領域を生成する。
【0162】
図2は、安定の島(すなわち、最低次の安定領域)が初めから生成されていることを示すが、様々な他の実施形態では、安定の島は、他のより高次の安定領域から生成され得ることが認識されるであろう。
【0163】
したがって、様々な実施形態によれば、(単一の)補助四重極電圧は、第1の(または他の(より高次)の)安定領域内に複数の安定の島を生成するように選択され得る。2つ以上の安定領域は、各々が、第1の(または他の(より高次の))安定領域内に複数の安定の島のうちの1つ(であり得る)を備え得る。
【0164】
次いで、閉じ込め四重極のRF電圧、分解DC電圧、および単一の補助AC四重極励起波形(だけ)が四重極デバイス10に印加される場合、1つを超える質量電荷比(m/z)範囲内の(各範囲が、複数の安定の島または安定領域のうちの1つに対応する)質量電荷比(m/z)を有するイオンを、四重極デバイス10によって同時に透過することができるように、a/q(DC/RF)比が選択され得る。すなわち、様々な実施形態によれば、印加電圧は、2つ以上の安定領域での四重極デバイス10の動作に同時に対応するように(すなわち、四重極デバイス10を動作させるのに好適であるように)選択される。
【0165】
さらに、様々な実施形態によれば、選択は、質量電荷比(m/z)範囲の1つが、「単一の励起Xバンド」または「単一の励起Yバンド」安定領域に対応するように行われ得る。例えば、様々な実施形態によれば、印加電圧は、
図2の走査線22などの走査線と交差する領域「C」に対応するように選択される。
【0166】
上で論じたように、そのような走査線によって四重極デバイス10を動作させることは、不所望に、他の安定領域に対応するイオンの同時透過をもたらし得る。例えば、走査線22の場合、領域「D」に対応するイオンが、領域「C」に対応するイオンと共に同時に透過され得る。
図2から分かるように、他の走査線は、3つ以上の安定領域または安定の島に対応するイオンの同時透過をもたらし得る。
【0167】
したがって、様々な実施形態によれば、次いで、他の望ましくない安定領域に対応する質量電荷比(m/z)範囲内の質量電荷比(m/z)値を有するイオン(領域「D」に対応するイオンなど)が、減衰されるか、四重極デバイス10を出ることが阻止されるか、または四重極デバイス10によって前方に透過されることが阻止される。様々な実施形態では、これは、1つ以上のAC(RF)双極子電圧波形を四重極デバイス10に印加することによって行われる。
【0168】
したがって、様々な実施形態では、2つ以上の安定領域のうち少なくとも1つに対応するイオンが減衰される(四重極デバイス10によって透過されることが阻止される)。様々な実施形態では、これは、1つ以上のAC(RF)双極子電圧波形を四重極デバイス10に印加することによって行われる。1つ以上のAC(RF)双極子励起波形は、主四重極の波形の周波数Ωと異なる、かつ単一の補助AC(RF)四重極励起波形の周波数ωexと異なる、1つ以上の周波数で印加され得る。
【0169】
様々な実施形態によれば、1つ以上のAC(RF)双極子励起波形は、イオンが四重極デバイス10を横断するときに、(領域「D」に対応するイオンなどの)不要なイオンの半径方向振幅を増加させる効果を有し、それにより、例えば、四重極デバイス10の電極に衝突するため、または電極の間から放出されるもしくはそこを通過するため、またはイオンを下流のデバイスによって透過させるもしくは検出することができないように四重極デバイス10を出ることが十分に摂動されるため、不要なイオンが減衰される。
【0170】
したがって、様々な実施形態では、AC(RF)双極子電圧波形を四重極デバイス10に印加することが、イオンが四重極デバイス10を通過するときに2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つの安定領域に対応するイオンを減衰させるように、1つ以上のAC(RF)双極子励起波形が選択される。これは、適宜、1つ以上のAC(RF)双極子励起波形の数および/または周波数および/または振幅および/または方向(xまたはy)を選択することによって行われ得る。
【0171】
さらに、様々な実施形態では、選択は、単一のXバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域を除く、2つ以上の安定領域の各々に対応するイオンが減衰されるように行われる。Xバンド様(またはYバンド様)安定領域は、安定領域の安定境界での不安定性(放出)がx(またはy)方向だけにあり得る安定領域を備え得る。
【0172】
したがって、様々な実施形態によれば、印加電圧は、四重極デバイス10が、(実質的に)単一の(所望の)質量電荷比(m/z)範囲内のイオンだけを透過させることができるように選択される。特定の実施形態では、(実質的に)単一の(単一の励起)Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域に対応するイオン(だけ)が、四重極デバイス10によって透過される。
【0173】
したがって、様々な実施形態は、四重極デバイス10が、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様動作モードで動作し、一方で、他の(あまり望ましくない)安定領域に対応するイオンの同時透過を回避することを可能にする。例えば、四重極デバイス10は、領域「D」に対応するイオンを減衰させながら、領域「C」において動作することができる。
【0174】
さらに、AC(RF)双極子波形は、例えばイオンが四重極デバイス10を通過する前またはその後に望ましくないイオンを取り除くための追加的なハードウェアを提供しなければならないのではなく、イオンが四重極デバイス10を通過するときに、望ましくないイオンの減衰を生じさせることができる。したがって、(例えば、上で説明したような)例えば補助質量フィルタ32の形態の追加的なハードウェアを提供する必要はなく、それによって、デバイスの複雑さおよびコストを低減させる。
【0175】
さらに、単一の補助AC(RF)四重極電圧波形だけが四重極デバイス10に印加される状態でも、望ましくないイオンの透過を回避することができる。したがって、望ましくないイオンの透過は、(例えば、上で説明したような)2つの励起Xバンド動作モードの場合に必要とされるなどの、複数の位相ロック励起波形を必要とすることなく回避することができる。したがって、位相整列および波形振幅比の制御の厳しい要件を回避することができる。これは、例えば、制御システム14を単純化することができ、それによって、デバイスの複雑さおよびコストをさらに低減させることができることを意味する。さらに、上で論じたように、様々な実施形態は、したがって、デジタル駆動四重極デバイス10の使用に特に適している。
【0176】
したがって、様々な実施形態は、デバイスの複雑さを大幅に増加させることなく、したがって、デバイスのコストを大幅に増加させることなく、四重極デバイス10が、Xバンド、Xバンド様、Yバンド、またはYバンド様の安定領域などの、改善された性能特性を有する単一の安定領域で動作することを可能にすることが認識されるであろう。
【0177】
図5Aは、不要なイオン信号(領域「D」から)を取り除こうとすることなく、すなわち、補助双極子波形を四重極デバイス10に印加することなく、単一の補助四重極励起、および
図2の走査線22と類似の走査線で四重極デバイス10を動作させることによって生成された質量スペクトルを示す。
【0178】
この実施例では、主RF周波数は、Ω=1.185MHzであった。補助四重極の波形は、主RF駆動の周波数の0.9の周波数ωex=0.9Ωを有した。四重極の内接半径は、r0=5.33mmであった。主RF振幅VRFは、一定のa/q(RF:DC振幅)比を維持しながら走査した。
【0179】
図5Aに示すように、この実施例では、各質量電荷比(m/z)種は、質量スペクトルに2つのピークを生じさせる。例えば、
図5Aは、安定線図の2つの領域において安定した同じ質量電荷比(m/z)値を有するイオンから生じた2つのピーク51および52を示す。特に、
図2に例示するように、ピーク51は、領域「D」などのYバンド様領域に対応し、ピーク52は、領域「C」などのXバンド様領域に対応する。ピーク51は、ピーク52よりも低い質量電荷比(m/z)値で現れ、ピーク52よりも低い分解能を有する。
【0180】
図5Bは、様々な実施形態による、
図5Aに関する上記の説明と同じ条件であるが、追加的な補助双極子波形が四重極デバイス10に印加される状態で四重極デバイス10を動作させることによって生成された質量スペクトルを示す。補助双極子励起波形は、V
d=5V(ゼロツーピーク)の振幅およびω
d=504kHzの周波数を有した。
【0181】
図5Bは、補助双極子励起の存在により、安定領域「D」に対応するイオンが透過される(減衰される)ことが阻止され、高品質な質量スペクトルをもたらすことを示す。
【0182】
したがって、様々な実施形態では、四重極デバイス10は、1つ以上の質量スペクトルを生成するように動作される。
【0183】
様々な実施形態では、主AC(RF)四重極電圧波形、補助AC(RF)四重極電圧波形、および1つ以上のDC電圧は、2つ以上の安定領域での四重極デバイスの動作に同時に対応するように選択される。換言すれば、主四重極電圧、補助四重極電圧、および1つ以上のDC電圧は、走査線が2つ以上の安定領域と交差するように選択され得る。しかしながら、様々な実施形態では、AC(RF)双極子電圧波形が2つ以上の安定領域のうちの少なくとも1つに対応するイオンを四重極デバイス10内で不安定にさせるので、四重極デバイス10は、実際には2つ以上の安定領域で同時に動作しないことが認識されるであろう。
【0184】
したがって、主AC(RF)四重極電圧波形、補助AC(RF)四重極電圧波形、および1つ以上のDC電圧が、四重極デバイス10を2つ以上の安定領域で同時に動作させるのに好適であり得ることが認識されるであろう。すなわち、主AC(RF)四重極電圧波形、補助AC(RF)四重極電圧波形、および1つ以上のDC電圧(だけ)が四重極デバイスに(同時に)印加される(および双極子電圧波形が印加されない)場合、少なくとも2つの異なる質量電荷比範囲(各範囲が、2つ以上の安定領域のそれぞれの1つに対応する)内の質量電荷比を有するイオンが、四重極デバイス10内の安定軌道を同時にとること(したがって、四重極デバイスによって(同時に)透過すること)ができるように、印加電圧が選択され得る。
【0185】
上の実施形態は、特に、四重極デバイス10(だけ)が単一の励起Xバンド安定領域に対応するイオンを透過するように(および補助AC(RF)双極子波形が1つ以上の他の安定領域に対応するイオンを減衰させるように)印加電圧が選択されることに関して説明してきたが、電圧は、四重極デバイス10(だけ)が任意の所望の安定領域に対応するイオンを透過する(および任意の他の安定領域に対応するイオンが減衰される)ように選択され得ることが認識されるであろう。
【0186】
例えば、印加電圧は、四重極デバイス10(だけ)が2つの励起Xバンド、またはYバンド安定領域、Xバンド様安定領域、またはYバンド様安定領域に対応するイオンを透過し、他の安定のバンドに対応するイオンが減衰されるように選択され得る。
【0187】
したがって、上の実施形態は、特に、単一の補助四重極波形だけが四重極デバイス10に印加されていることに関して説明してきたが、他の実施形態では、複数(例えば、2つ、3つ、またはそれ以上)の補助四重極の波形が、四重極デバイス10に印加され得ることも認識されるであろう。
【0188】
また、様々な実施形態では、四重極デバイス10が、走査動作モードで四重極質量フィルタとして動作することも認識されるであろう。これらの実施形態では、主および/または補助四重極波形の振幅および/または周波数、および/またはDC電圧の振幅は、例えば質量電荷比値の走査範囲にわたって一定のピークの幅または一定の分解能を維持するように、(各々が)質量電荷比によって変化、調整、または走査され得る。
【0189】
同様に、AC(RF)双極子波形の数および/または振幅および/または周波数もまた、例えば不要なイオンの効率的な除去(減衰)を確実にするように、例えば質量電荷比および/または質量分解能に依存して、変化、調整、または走査され得る。
【0190】
また、1つ以上のAC(RF)双極子励起波形が、四重極デバイス10の対向する電極対の一方または両方に印加され得ることも認識されるであろう。したがって、望ましくないイオンは、任意の半径方向に放出または摂動され得る。
【0191】
四重極デバイス10(例えば、四重極質量フィルタ)は、1つ以上の正弦波、例えばアナログ信号、RF信号、またはAC信号を使用して動作され得る。しかしながら、四重極デバイス10は、例えば印加電圧の1つ以上または全てについて、1つ以上のデジタル信号を使用して動作させることも可能である。デジタル信号は、方形波形もしくは矩形波形、パルスEC波形、三相矩形波形、三角波形、鋸歯波形、台形波形、などの、任意の好適な波形を有し得る。
【0192】
上で説明したように、様々な実施形態では、例えば主四重極の(RFまたはAC)電圧波形、補助四重極の(RFまたはAC)電圧波形、双極子(RFまたはAC)電圧波形および1つ以上のDC電圧を含む1つ以上の電圧源12によって、複数の異なる電圧が四重極デバイス10の電極に(同時に)印加される。複数の異なる電圧が、四重極電極のいくつかまたは全て(4つ)に印加され得る。
【0193】
主四重極電圧波形は、任意の好適な振幅VRFを有し得る。主四重極電圧波形は、例えば(i)<0.5MHz、(ii)0.5~1MHz、(iii)1~2MHz、(iv)2~5MHz、または(v)>5MHz、などの、任意の好適な周波数Ωを有し得る。主四重極電圧波形は、RFまたはAC電圧を含み得、例えば、VRFcos(Ωt)の形態をとり得る。
【0194】
同様に、1つ以上のDC電圧の各々は、任意の好適な振幅Uを有し得る。
【0195】
補助四重極電圧波形は、RFまたはAC電圧を含み得、例えば、Vexcos(ωext+αex)の形態をとり得、ここで、Vexは、補助四重極電圧波形の振幅であり、ωexは、補助四重極電圧波形の周波数であり、αexは、主四重極電圧波形の位相に対する補助四重極電圧波形の初期位相である。
【0196】
補助四重極電圧波形は、任意の好適な振幅Vexおよび任意の好適な周波数ωexを有し得る。
【0197】
同様に、双極子電圧波形(または各々)は、任意の好適な振幅Vdおよび任意の好適な周波数ωdを有し得る。
【0198】
1つまたは複数の双極子電圧が四重極デバイスに印加され得る。複数の双極子電圧が四重極デバイスに印加される場合、各双極子電圧は、互いの双極子電圧に対して異なる周波数および/または振幅を有し得る。
【0199】
主四重極電圧波形の振幅は、補助四重極電圧波形の振幅よりも大きくなり得る、VRF>Vex。主四重極電圧波形の振幅は、双極子電圧波形(または各々)の振幅よりも大きくなり得る、VRF>Vd。
【0200】
双極子電圧波形(または各々)の振幅は、補助四重極電圧波形の振幅と異なり得るか、または(ほぼ)等しくなり得る、Vd=Vex。各双極子電圧波形の振幅は、互いの双極子電圧波形の振幅と異なり得るか、または(ほぼ)等しくなり得る。
【0201】
主四重極電圧波形の周波数は、補助四重極電圧波形の周波数と異なり得る、Ω≠ωex。主四重極電圧波形の周波数は、補助四重極電圧波形の周波数よりも大きくなり得る、Ω>ωex。補助四重極電圧波形の周波数は、主四重極電圧波形の周波数の分数νに等しくなり得る、ωex=νΩ。分数νは、(i)<0.5、(ii)0.5~0.75、(iii)0.75~0.85、(iv)0.85~0.9、(v)0.9~0.95、および(vi)>0.95、からなる群から選択され得る。
【0202】
双極子電圧波形(または各々)の周波数は、主および/または補助四重極電圧波形の周波数と異なり得る、ωd≠Ω、ωd≠ωex。双極子電圧波形(または各々)の周波数は、主および/または補助四重極電圧波形の周波数よりも小さくなり得る、ωd<Ω、ωd<ωex。双極子電圧波形(または各々)の周波数は、主四重極電圧波形の周波数の分数νdに等しくなり得る、ωd=νdΩ。分数νdは、(i)<0.1、(ii)0.1~0.4、(iii)0.4~0.4.5、(iv)0.45~0.5、(v)0.5~0.8、および(vi)>0.8、からなる群から選択され得る。各双極子電圧波形の周波数は、互いの双極子電圧波形の周波数と異なり得るか、または等しくなり得る。
【0203】
双極子電圧の振幅は、望ましくない質量電荷比(m/z)を有する全てのイオンを不安定に駆動するのに十分であるように選択され得る。これは、特に、(例えば、主および補助四重極電圧振幅および周波数に依存するよりも)質量電荷比(m/z)、および四重極デバイス10を通る望ましくないイオンの経過時間に依存する。
【0204】
好適な双極子電圧振幅は、最大で約10V(以下)であり得る。様々な実施形態では、双極子電圧振幅は、例えば器具の設定/較正プロセス中に、経験的に決定され得る。大きすぎる双極子励起が四重極デバイス10に印加された場合、透過することが望ましい(Xバンドピーク)イオンが減衰され得る。
【0205】
補助四重極の励起電圧を伴わない「通常の」動作モードの場合、安定したイオンの永年周波数は、x/y軸のそのβ値に直接関連する(ここで、ω=Ω×β/2)。よって、安定線図の任意の点について、永年周波数を計算することができる。永続周波数で双極子励起を印加することは、対応する質量電荷比(m/z)値でのイオンの減衰につながる。
【0206】
(上で説明したように)補助四重極の励起が印加された場合、例えば
図2に示すように、不安定のバンドが広がり、島に分かれる安定線図につながる。不安定性のバンドは、補助周波数の分母に対応するβ値に位置付けられる。例えば、1/20または19/20の励起の場合、バンドは、0.95、0.9、0.85などのβ値で開かれる。
【0207】
したがって、
図2に示す実施例を考慮すると、走査線が交差させる領域のβ値を近似することができる。よって、例えば、領域「C」は、β
x=0.95~1にわたり、領域「D」は、β
x=0.85~0.9にわたる。同じことを、β
y値に行うことができる。
【0208】
β値がこれらの範囲の中央にあるように近似された場合、安定線図のこれらの領域の永続周波数値は、すなわち、領域「D」の場合はΩ×0.4375および領域「C」の場合はΩ×0.4875に到達し得る。したがって、Ω=1MHzの場合、双極子励起は、領域「D」を減衰させるために437.5kHzで印加され得、または領域「C」を減衰させるために487.5kHzで印加され得る。類似の値は、例えば領域「B」などの他の安定領域の場合に到達し得る。
【0209】
上記の値は、特に補助四重極波形の印加がイオンの永続運動を歪め得るので、単なる近似であることに留意されたい。しかしながら、安定線図内の所与の位置のイオン運動は、シミュレーションすることができ、例えば、高速フーリエ変換(FFT)をイオン運動の軌跡に適用して、イオン運動の周波数成分を直接計算する。これが
図2の領域について行われた場合、最大周波数成分が、領域「D」の場合は436.1kHzであり、領域「C」の場合は485.3kHzであり、上記の理論的な評価とかなり良好に一致することが見出される。
【0210】
上で概説した方法は、適切な双極子電圧周波数に対して良好な評価を与えることができるが、正確で最良の値は、実験的に決定され得る。したがって、様々な実施形態では、双極子電圧の周波数は、例えば(振幅と共に)器具の設定/較正プロセスにおいて、経験的に決定され得る。
【0211】
上で説明したように、単一または複数の双極子電圧が四重極デバイスに印加され得る。減衰させることが所望される領域の幅に応じて、比較的大きい振幅を有する単一の双極子電圧の代わりに、例えば各々が相対的に小さい振幅を有する、複数の双極子電圧を印加することが好ましくなり得る。これは、望ましくない領域の減衰の効率を最大にし、または高め、一方で、所望領域に対する任意の減衰または他の衝撃を最小にするか、または低減させるために選択され得る。
【0212】
上で説明したように、双極子電圧またはその各々は、任意の(xまたはy)方向に印加され得る。例えば、複数の双極子電圧が四重極デバイス10に印加された場合、複数の双極子電圧は、一方の(xまたはy)方向に、および/または両方の(xおよびy)方向に印加され得る。すなわち、双極子電圧の各々は、xロッド対およびyロッド対のいずれかにわたって印加され得、複数の双極子電圧は、xロッド対およびyロッド対の一方にわたって、および/またはxロッド対およびyロッド対の両方にわたって印加され得る。双極子電圧または各々の周波数は、どの方向(xまたはy)に双極子電圧が印加されるかに依存し得る。
【0213】
上記の様々な実施形態は、XバンドまたはXバンド様の安定条件での使用に関して説明してきたが、例えば対応する様式で、準用してYバンドまたはYバンド様の安定条件に使用することも可能である。YバンドまたはYバンド様安定条件は、好適な励起周波数の印加によって、(Xバンドではなく)質量電荷比(m/z)をフィルタリングするために、生成および使用され得る。
【0214】
四重極デバイス10は、質量分光分析(「MS」)動作モード、タンデム質量分析(「MS/MS」)動作モード、フラグメントイオンまたは生成イオンを生成するように、およびフラグメント化または反応しないように、またはより低い程度にフラグメント化または反応するように、親イオンまたは前駆イオンを代替的にフラグメント化または反応させる動作モード、多重反応モニタリング(「MRM」)動作モード、データに依存する分析(「DDA」)動作モード、データ独立した分析(「DIA」)動作モード、定量化動作モード、および/またはイオン移動度分光分析(「IMS」)動作モード、を含む、様々な動作モードで動作され得る。
【0215】
様々な実施形態では、四重極デバイス10は、一定の質量分解動作モードで動作し得る。すなわち、単一の質量電荷比または単一の質量電荷比範囲を有するイオンが選択され、四重極質量フィルタによって前方に透過され得る。この場合、(上で説明したように)四重極デバイス10に印加される複数の電圧の様々なパラメータは、適宜、(選択および)維持および/または固定され得る。
【0216】
あるいは、四重極デバイス10は、変化する質量分解動作モードで動作し得る。すなわち、1つを超える特定の質量電荷比または1つを超える質量電荷比範囲を有するイオンが選択され、質量フィルタによって前方に透過され得る。
【0217】
例えば、様々な実施形態によれば、四重極デバイス10の設定質量は、例えば異なる質量電荷比または質量電荷比範囲を有するイオンを連続的に選択および透過するように、例えば実質的に連続的に走査され得る。追加的または代替的に、四重極デバイスの設定質量は、例えば質量電荷比(m/z)の複数の異なる値の間で、不連続的におよび/または別々に変更され得る。
【0218】
(本明細書で使用するとき、四重極デバイスの設定質量は、四重極デバイスによってイオンが選択および/または透過される質量電荷比または質量電荷比範囲の中央である。)
【0219】
これらの実施形態では、(上で説明したように)四重極デバイス10に印加される複数の電圧の様々なパラメータの1つ以上または各々が、適宜、走査、変更、および/または変化され得る。
【0220】
特に、四重極デバイスの設定質量を走査、変更、および/または変化するために、主駆動電圧VRFの振幅およびDC電圧Uの振幅が、走査、変更、および/または変化され得る。主駆動電圧VRFの振幅およびDC電圧Uの振幅は、適宜、連続する、不連続な、別々の、直線的な、および/または非直線的な様式で増加または減少され得る。これは、主分解DC電圧振幅と主RF電圧振幅との比λ=2U/VRFを一定にまたは別様に維持しながら行われ得る。
【0221】
四重極デバイス10を通した透過がその分解能に関連付けられるので、しばしば、低い質量電荷比(m/z)ではより低い分解能を維持し、より高い質量電荷比(m/z)ではより高い分解能を維持することが望ましい。例えば、所望の質量電荷比(m/z)値の各々で、または所望の質量電荷比(m/z)範囲を通じて、(Daの)固定ピーク幅を有する四重極質量フィルタを動作させることが一般的である。
【0222】
したがって、様々な実施形態によれば、四重極デバイス10の分解能は、例えば経時的に、走査、変更、および/または変化される。四重極デバイス10の分解能は、(i)質量電荷比(m/z)(例えば、四重極デバイスの設定質量)、(ii)(例えば、四重極デバイスの上流のクロマトグラフィ装置から溶離する、イオンが導出される溶離液の)クロマトグラフィ保持時間(RT)、および/または(iii)(例えば、イオンが四重極デバイス10の上流または下流のイオン移動度分離器を通過するときの、イオンの)イオン移動度(IMS)ドリフト時間、に依存して、変化され得る。
【0223】
四重極デバイス10の分解能は、任意の好適な様態で変化され得る。例えば、(上で説明したように)四重極デバイス10に印加される複数の電圧の様々なパラメータの1つ以上または各々は、四重極デバイス10の分解能が走査、変更、および/または変化されるように、走査、変更、および/または変化され得る。
【0224】
様々な実施形態によれば、四重極デバイス10は、質量および/またはイオン移動度分光器などの分析機器の一部であり得る。分析機器は、任意の好適な様態で構成され得る。
【0225】
図6は、イオン源80と、イオン源80の下流の四重極デバイス10と、四重極デバイス10の下流の検出器90と、を備えている、一実施形態を示す。
【0226】
イオン源80によって生成されたイオンは、四重極デバイス10に注入され得る。四重極デバイス10に印加される複数の電圧は、例えばイオンが四重極デバイス10を通過するときに、イオンを、四重極デバイス10内で半径方向に閉じ込めさせ得、および/またはイオンの質量電荷比に従って選択またはフィルタリングさせ得る。
【0227】
四重極デバイス10から現れるイオンは、検出器90によって検出され得る。任意に、直交加速飛行時間型質量分析装置が、例えば検出器90に隣接して提供され得る。
【0228】
図7は、四重極デバイス10の下流の衝突、フラグメンテーション、または反応デバイス100と、衝突、フラグメンテーション、または反応デバイス100の下流の第2の四重極デバイス110と、を備えている、タンデム型四重極配設を示す。様々な実施形態では、一方または両方の四重極が、上で説明した様式で動作され得る。
【0229】
これらの実施形態では、イオン源80は、任意の好適なイオン源を備え得る。例えば、イオン源80は、(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザ脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコン上脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝突(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル-63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(「ASGDI」)イオン源、(xx)グロー放電(「GD」)イオン源、(xxi)インパクタイオン源、(xxii)リアルタイム直接分析(「DART」)イオン源、(xxiii)レーザスプレーイオン化(「LSI」)イオン源、(xxiv)ソニックスプレーイオン化(「SSI」)イオン源、(xxv)マトリックス支援入口イオン化(「MAII」)イオン源、(xxvi)溶媒支援入口イオン化(「SAII」)イオン源、(xxvii)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xxviii)レーザアブレーションエレクトロスプレーイオン化(「LAESI」)イオン源、(xxix)表面支援レーザ脱離イオン化(「SALDI」)イオン源、および(xxx)低温プラズマ(「LTP」)イオン源、からなる群から選択され得る。
【0230】
衝突、フラグメンテーション、または反応デバイス100は、任意の好適な衝突、フラグメンテーション、または反応デバイスを備え得る。例えば、衝突、フラグメンテーション、または反応デバイス100は、(i)衝突誘起解離(「CID」)フラグメンテーションデバイス、(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーションデバイス、(iii)電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーションデバイス、(iv)電子捕獲解離(「ECD」)フラグメンテーションデバイス、(v)電子衝突または衝突解離フラグメンテーションデバイス、(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーションデバイス、(vii)レーザ誘起解離フラグメンテーションデバイス、(viii)赤外放射誘起解離デバイス、(ix)紫外放射誘起解離デバイス、(x)ノズルスキマーインターフェースフラグメンテーションデバイス、(xi)インソースフラグメンテーションデバイス、(xii)インソース衝突誘起解離フラグメンテーションデバイス、(xiii)熱または温度源フラグメンテーションデバイス、(xiv)電界誘起フラグメンテーションデバイス、(xv)磁界誘起フラグメンテーションデバイス、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーションデバイス、(xvii)イオン-イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xviii)イオン-分子反応フラグメンテーションデバイス、(xix)イオン-原子反応フラグメンテーションデバイス、(xx)イオン-準安定イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xxi)イオン-準安定分子反応フラグメンテーションデバイス、(xxii)イオン-準安定原子反応フラグメンテーションデバイス、(xxiii)イオンと反応させて付加イオンまたは生成イオンを生成するためのイオン-イオン反応デバイス、(xxiv)イオンと反応させて付加イオンまたは生成イオンを生成するためのイオン-分子反応デバイス、(xxv)イオンと反応させて付加イオンまたは生成イオンを生成するためのイオン-原子反応デバイス、(xxvi)イオンと反応させて付加イオンまたは生成イオンを生成するためのイオン-準安定イオン反応デバイス、(xxvii)イオンと反応させて付加イオンまたは生成イオンを生成するためのイオン-準安定分子反応デバイス、(xxviii)イオンと反応させて付加イオンまたは生成イオンを生成するためのイオン-準安定原子反応デバイス、および(xxix)電子イオン化解離(「EID」)フラグメンテーションデバイス、からなる群から選択され得る。
【0231】
様々な他の実施形態が可能である。例えば、1つ以上の他のデバイスまたはステージは、イオン源80、四重極デバイス10、衝突、フラグメンテーション、または反応デバイス100、第2の四重極デバイス110、および検出器90のいずれかの上流、下流、および/または間に提供され得る。
【0232】
例えば、分析機器は、イオン源80の上流にクロマトグラフィまたは他の分離デバイスを備え得る。クロマトグラフィまたは他の分離デバイスは、液体クロマトグラフィまたはガスクロマトグラフィデバイスを備え得る。あるいは、分離デバイスは、(i)毛細管電気泳動(「CE」)分離デバイス、(ii)毛細管電気クロマトグラフィ(「CEC」)分離デバイス、(iii)実質的に剛性のセラミックベース多層マイクロ流体基板(「セラミックタイル」)分離デバイス、または(iv)超臨界流体クロマトグラフィ分離デバイスを備え得る。
【0233】
分析機器は、(i)1つ以上のイオンガイド、(ii)1つ以上のイオン移動度分離デバイスおよび/または1つ以上のフィールド非対称イオン移動度分光器デバイス、および/または(iii)1つ以上イオントラップまたは1つ以上のイオントラッピング領域、をさらに備える。
【0234】
本発明は、好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を逸脱することなく、形態および細部での様々な変更が行われ得ることは、当業者ならば理解されるであろう。