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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】有価物の回収装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20221209BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20221209BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B1/00 601
C22B1/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021553828
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2021032511
(87)【国際公開番号】W WO2022054723
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2021-09-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020151516
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 洋次
(72)【発明者】
【氏名】永原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】吉原 実
(72)【発明者】
【氏名】西川 千尋
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】本間 善弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 正峻
【合議体】
【審判長】土居 仁士
【審判官】角田 慎治
【審判官】寺谷 大亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-22395(JP,A)
【文献】特開2010-3512(JP,A)
【文献】特開2020-64855(JP,A)
【文献】特開平8-217401(JP,A)
【文献】特開2011-117270(JP,A)
【文献】特開2016-207648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 1/00
C22B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体が位置する気体加熱部と、
前記気体加熱部に設けられ、略水平方向に火炎を放射する火炎放射手段と、
前記気体加熱部の上方に設けられた突起と、
前記突起上に載置され、有価物を含むリチウムイオン二次電池が収容された対象物収容手段を支持可能であり、気体が流通可能な格子状の支持手段と、
熱処理物から前記有価物を回収する有価物回収手段と、
を含むことを特徴とする有価物の回収装置。
【請求項2】
前記火炎放射手段が、
前記火炎を放射するための、少なくとも一端が開口した筒状部材を有する、請求項1に記載の有価物の回収装置。
【請求項3】
前記火炎放射手段を複数有する、請求項1から2のいずれかに記載の有価物の回収装置。
【請求項4】
前記対象物収容手段が、前記支持手段に載置される、請求項1から3のいずれかに記載の有価物の回収装置。
【請求項5】
前記対象物収容手段が、鉄又はステンレス鋼により形成される、請求項1から4のいずれかに記載の有価物の回収装置。
【請求項6】
前記リチウムイオン二次電池が、アルミニウムを含む筐体を有する、請求項1から5のいずれかに記載の有価物の回収装置。
【請求項7】
前記有価物が銅を含む、請求項1から6のいずれかに記載の有価物の回収装置。
【請求項8】
前記有価物回収手段が、
前記熱処理物を破砕して破砕物を得る破砕手段と、
前記破砕物を0.6mm以上2.4mm以下の分級点で分級して、粗粒産物と細粒産物とを得る分級手段と、
前記粗粒産物を、0.03テスラ以上の磁束密度の磁石を用いて選別する磁力選別手段と、
を含む、請求項1から7のいずれかに記載の有価物の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価物の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池などに比較して軽量、高容量、高起電力の二次電池であり、パソコン、電気自動車、携帯機器などの二次電池として使用されている。例えば、リチウムイオン二次電池の正極には、コバルトやニッケルなどの有価物が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、三元系正極材(LiNiCoMn(x+y+z=1))などとして使用されている。
【0003】
また、リチウムイオン二次電池は、今後も使用の拡大が予想されていることから、製造過程で発生した不良品や使用機器および電池の寿命などに伴い廃棄されるリチウムイオン二次電池から、リチウムや銅などの有価物を回収することが資源リサイクルの観点から望まれている。ここで、リチウムイオン二次電池を処理して有価物を回収する際には、リチウムイオン二次電池を失活及び無害化するために熱処理が行われることがあり、リチウムイオン二次電池を熱処理することで得た熱処理後物に含まれる種々の金属を酸化(脆化)させずに回収することが、回収した有価物の価値を高める点から重要である。
【0004】
リチウムイオン二次電池に含まれる種々の金属の脆化を防ぎつつ熱処理する手法としては、例えば、リチウムイオン電池を加熱して処理する方法であって、火炎により焼却対象物を焼却処理する焼却炉を用いて、当該リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながらリチウムイオン電池を加熱するに当り、焼却炉内で、リチウムイオン電池を当該リチウムイオン電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぐ電池保護コンテナ内に配置し、電池保護コンテナの外面に火炎を当てることで、当該リチウムイオン電池を加熱する処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、このような従来技術においては、例えば、電池保護コンテナが変形してしまう場合や破壊されてしまう場合があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-207648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来技術では、リチウムイオン二次電池を保護する電池保護コンテナの外面に火炎を当ててリチウムイオン二次電池を加熱するため、電池保護コンテナに火炎が直接当たることにより、電池保護コンテナが劣化して変形する場合や破壊される場合がある。このため、従来技術では、電池保護コンテナの製作・交換や補修にコストがかかる場合がある。
また、上述した従来技術では、電池保護コンテナが劣化して変形・破壊した場合などには、電池保護コンテナ内部のリチウムイオン二次電池に過剰な熱が加わり、当該リチウムイオン二次電池から回収する銅などの有価物が酸化乃至脆化してしまい、回収した有価物の回収率や品位が低下してしまう場合がある。
さらに、上述した従来技術では、リチウムイオン二次電池を保護する電池保護コンテナの外面に火炎を当ててリチウムイオン二次電池を加熱するため、電池保護コンテナにおける火炎が当たる領域の近傍の温度が特に高くなる一方、火炎が当たる領域の反対側の領域は、火炎が当たる領域と比べると温度が高くなりにくく、熱処理の温度が場所によって異なり、リチウムイオン二次電池を均一に熱処理できない場合があった。
【0007】
本発明は、従来における上記の諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物を回収できる有価物の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段としては、以下の通りである。すなわち、
<1> 有価物を含む対象物が収容された対象物収容手段を支持可能な支持手段により、前記対象物収容手段を支持し、前記対象物を熱処理するための火炎が前記対象物収容手段に当たらないように、前記支持手段が位置する領域に存在する気体を前記火炎により加熱することにより、前記対象物を熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程により得た前記対象物の熱処理物から、前記有価物を回収する有価物回収工程と、
を含むことを特徴とする有価物の回収方法である。
<2> 前記熱処理工程において、前記支持手段に設けられた、前記火炎を放射する火炎放射手段により前記対象物を熱処理する、前記<1>に記載の有価物の回収方法である。
<3> 前記熱処理工程において、前記火炎放射手段を用いて、前記火炎を略水平方向に放射することにより前記対象物を熱処理する、前記<2>に記載の有価物の回収方法である。
<4> 前記火炎放射手段が、
前記火炎を放射するための、少なくとも一端が開口した筒状部材を有し、
前記筒状部材の外部に前記火炎が出ないように、前記火炎を放射する、前記<2>から<3>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<5> 前記熱処理工程において、前記火炎放射手段を複数用いて、前記気体を加熱することにより、前記対象物を熱処理する、前記<2>から<4>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<6> 前記支持手段が、前記対象物収容手段を載置可能であり、
前記対象物収容手段を前記支持手段に載置して熱処理を行う、前記<1>から<5>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<7> 前記対象物収容手段が、鉄又はステンレス鋼により形成される、前記<1>から<6>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<8> 前記熱処理工程において、前記対象物を750℃以上1,085℃未満で熱処理する、前記<1>から<7>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<9> 前記対象物がリチウムイオン二次電池である、前記<1>から<8>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<10> 前記リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含む筐体を有し、
前記熱処理工程において、前記リチウムイオン二次電池における前記筐体のアルミニウムを溶融させて溶融物を分離する、前記<9>に記載の有価物の回収方法である。
<11> 前記有価物が銅を含む、前記<9>から<10>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<12> 前記熱処理工程において、
前記リチウムイオン二次電池の燃焼状態を観測して、前記リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したか否かを判定し、
前記リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したと判定したときに熱処理を終了する、前記<9>から<11>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
<13> 前記有価物回収工程が、
前記熱処理物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物を0.6mm以上2.4mm以下の分級点で分級して、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程と、
前記粗粒産物を、0.03テスラ以上の磁束密度の磁石を用いて選別する磁力選別工程と、
を含む、前記<1>から<12>のいずれかに記載の有価物の回収方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物を回収できる有価物の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、本発明の有価物の回収方法で用いることができる固定床炉の一例を示す概念図である。
図1B図1Bは、図1Aに示した固定床炉における気体加熱部を上面から見たときの一例を示す概念図である。
図1C図1Cは、図1A及び図1Bに示したような固定床炉における、支持部(受座)と気体加熱部の一例を撮影した写真である。
図1D図1Dは、図1A及び図1Bに示したような固定床炉における、支持部(受座)、気体加熱部、及びバーナーの一例を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(有価物の回収方法)
本発明の有価物の回収方法は、熱処理工程と有価物回収工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。また、本発明の有価物の回収方法における有価物回収工程は、破砕工程と、分級工程と、磁力選別工程とを含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0012】
また、本発明の有価物の回収方法は、従来技術では、リチウムイオン二次電池(Lithium ion battery;LIB)などの対象物を熱処理して、銅などの有価物を回収する際に、対象物を収容するコンテナなどの対象物収容手段が劣化してしまう場合があると共に、対象物を均一に熱処理することができず、回収した有価物の品位や回収率が十分でない場合があるという、本発明者らの知見に基づくものである。
【0013】
より具体的には、上述したように、従来技術では、リチウムイオン二次電池を保護する電池保護コンテナに火炎を直接当てて熱処理を行うため、電池保護コンテナが劣化して変形する場合や破壊される場合がある。このため、従来技術では、電池保護コンテナの製作・交換や補修にコストがかかる場合がある。さらに、電池保護コンテナが劣化して変形・破壊した場合などには、リチウムイオン二次電池から回収する銅などの有価物が酸化乃至脆化してしまい、回収した有価物の回収率や品位が低下してしまう場合がある。
さらに、上述した従来技術では、リチウムイオン二次電池を保護する電池保護コンテナの外面に火炎を当ててリチウムイオン二次電池を加熱するため、電池保護コンテナにおける火炎が当たる領域の近傍の温度が特に高くなる一方、火炎が当たる領域の反対側の領域は、火炎が当たる領域と比べると温度が高くなりにくく、リチウムイオン二次電池を均一に熱処理できない場合(焼きムラが生じる場合)がある。
このように、従来技術では、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段が劣化してしまうと共に、対象物を均一に熱処理することができず、回収した有価物の品位や回収率が十分でない場合があるという問題を、本発明者は知見した。
【0014】
そこで、本発明者は、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物を回収できる有価物の回収方法について鋭意検討を重ね、本発明を想到した。
すなわち、本発明者は、有価物を含む対象物が収容された対象物収容手段を支持可能な支持手段により、対象物収容手段を支持し、対象物を熱処理するための火炎が対象物収容手段に当たらないように、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱することにより、対象物を熱処理する熱処理工程と、熱処理工程により得た対象物の熱処理物から、有価物を回収する有価物回収工程と、を含む有価物の回収方法により、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物を回収できることを見出した。
【0015】
ここで、本発明の有価物の回収方法においては、有価物を含む対象物が収容された対象物収容手段を支持可能な支持手段により、対象物収容手段を支持し、対象物を熱処理するための火炎が対象物収容手段に当たらないように、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱することにより、対象物を熱処理する(熱処理工程)。
このように、本発明においては、支持手段を用いることにより、熱処理のための火炎が、対象物収容手段に当たらないように対象物収容手段を支持し、火炎により支持手段が位置する領域に存在する気体を加熱して熱処理を行う。言い換えると、本発明においては、支持手段により対象物収容手段を支持することで、対象物収容手段に火炎が当たらないようにした上で、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱し、加熱された気体によって対象物を熱処理する。
このため、本発明では、対象物を熱処理するための火炎が対象物収容手段に当たらないため、対象物収容手段が過剰に加熱されることを防止でき、対象物収容手段の劣化を抑制することができる。また、本発明では、対象物収容手段の劣化を抑制することができるため、対象物収容手段の交換・補修等の維持コストを抑制することができる。
また、本発明の有価物の回収方法においては、熱処理のための火炎が対象物収容手段に当たらないようにするため、対象物収容手段の劣化を抑制することができるので、例えば、対象物収容手段が破損して、熱処理の火炎が対象物に直接当たることなどによる、対象物に含まれる有価物(例えば、銅など)の酸化及び脆化を抑制することができ、有価物回収工程において、高い回収率で高品位に有価物を回収することができる。
さらに、本発明の有価物の回収方法においては、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱することにより対象物を熱処理するため、局所的に火炎が当たる箇所がなく、加熱された気体により対象物を均一に熱処理することできる。このため、本発明の有価物の回収方法では、対象物を均一に焼きムラなく熱処理可能であり、対象物に含まれる有価物(例えば、銅など)の酸化及び脆化を抑制することができ、有価物回収工程において、より高い回収率で高品位に有価物を回収することができる。
【0016】
このように、本発明の有価物の回収方法は、上述した熱処理工程と有価物回収工程を含むことにより、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物を回収できる。
【0017】
以下では、本発明の有価物の回収方法における各工程等の詳細について説明する。
【0018】
<熱処理工程>
熱処理工程は、有価物を含む対象物が収容された対象物収容手段を支持可能な支持手段により、対象物収容手段を支持し、対象物を熱処理するための火炎が対象物収容手段に当たらないように、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱することにより、対象物を熱処理する工程である。言い換えると、熱処理工程は、例えば、支持手段により対象物収容手段を支持することで、対象物収容手段に火炎が当たらないようにした上で、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱し、加熱された気体によって対象物を熱処理することで、熱処理物を得る工程である。なお、熱処理物とは、対象物を熱処理して得られたものを意味する。
【0019】
<<対象物・有価物>>
対象物としては、有価物を含むものであり、対象物収容手段に収容して連続炉により熱処理可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電等の二次電池などが挙げられる。これらのなかでも、リチウムイオン二次電池を用いることが好ましい。
ここで、有価物は、廃棄せずに取引対象たりうるものを意味し、例えば、各種金属などが挙げられる。対象物をリチウムイオン二次電池とする場合、有価物としては、例えば、高品位の炭素(C)濃縮物、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。なお、高品位(例えば、品位80%以上)の炭素(C)濃縮物は、例えば、金属の製錬における還元剤等に好適に用いることができる。
【0020】
-リチウムイオン二次電池-
リチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0021】
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
また、リチウムイオン二次電池の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックなどが挙げられる。ここで、バッテリーモジュールは、単位電池であるバッテリーセルを複数個接続して一つの筐体にまとめたものを意味し、バッテリーパックとは、複数のバッテリーモジュールを一つの筐体にまとめたものを意味する。また、バッテリーパックは、制御コントローラーや冷却装置を備えたものであってもよい。
【0022】
リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質および有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレーター、および電解液を収容する電池ケースである外装容器と、を備えたものなどが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極や負極などが脱落した状態であってもよい。
【0023】
--正極--
正極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、正極集電体を備え、コバルトおよびニッケルの少なくともいずれかを含む正極材を有していることが好ましい。正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0024】
---正極集電体---
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
【0025】
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムを含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
正極活物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、コバルト及びニッケルの少なくともいずれかを含むものが好ましい。
正極活物質としては、例えば、LMO系と称されるマンガン酸リチウム(LiMn)、LCO系と称されるコバルト酸リチウム(LiCoO)、3元系やNCM系と称されるLiNiCoMn(x+y+z=1)、NCA系と称されるLiNiCoAl(x+y+z=1)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo1/2Ni1/2)、チタン酸リチウム(LiTiO)などが挙げられる。また、正極活物質としては、これらの材料を組合せて用いてもよい。
導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体または共重合体、スチレン-ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0026】
--負極--
負極としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、負極集電体を備え、カーボン(C)を含有する負極活物質を有していることが好ましい。
負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0027】
---負極集電体---
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
【0028】
負極活物質としては、カーボン(C)を含有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、チタネイト、シリコンなどが挙げられる。また、負極活物質としては、これらの材料を組合せて用いてもよい。
【0029】
また、リチウムイオン二次電池の外装容器(筐体)の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレススチール、樹脂(プラスチック)などが挙げられる。
本発明においては、例えば、アルミニウムの筐体を有するリチウムイオン二次電池のように、多量のアルミニウムを含むリチウムイオン二次電池を対象物とする場合にも、有価物の一例であるアルミニウムを、熱処理工程で溶融させて溶融物として分離することができる。言い換えると、本発明の有価物の回収方法は、リチウムイオン二次電池がアルミニウムを含む筐体を有し、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池における前記筐体のアルミニウムを溶融させて溶融物を分離することが好ましい。
【0030】
<<対象物収容手段>>
対象物収容手段としては、対象物を収容可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コンテナ、ドラム缶などが挙げられる。
対象物収容手段の材質としては、例えば、熱処理時の温度(熱処理温度)よりも融点が高いものが好ましい。より具体的には、対象物収容手段の材質としては、例えば、鉄、ステンレス鋼などが好ましい。言い換えると、本発明の有価物の回収方法においては、対象物収容手段が、鉄又はステンレス鋼により形成されることが好ましい。こうすることにより、熱処理における対象物収容手段の劣化、変形、破損などをより抑制することができる。
対象物収容手段の大きさとしては、対象物を収容可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理を行う熱処理炉(焙焼炉)の加熱部(炉内)に入れることができる大きさとすることができる。
対象物収容手段の形状及び構造としては、対象物を収容可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
ここで、対象物収容手段は、気体を流通可能な開口部を有することが好ましい。この場合、対象物収容手段は、開口部以外の部分では気体が流通しないように、リチウムイオン二次電池を収容することが好ましい。収容容器が開口部を有することにより、収容容器の内部の圧力や雰囲気を制御できる。
開口部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、対象物収容手段における開口部の位置としては、熱処理時に気体を流通可能な位置であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、開口部は、対象物収容手段に複数設けられていてもよい。
また、開口部として、リチウムイオン二次電池のパック又はモジュールの外装容器に設けられた孔を用いてもよい。リチウムイオン二次電池のパックには、通常、充放電を行うケーブルやプラグを、パック又はモジュール内部の通電部に接続するための孔が設けられており、これを開口部として活用することが可能である。
【0032】
開口部の大きさ(面積)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、対象物収容手段の表面積に対して、12.5%以下であることが好ましく、6.3%以下であることがより好ましい。開口部の大きさが、対象物収容手段の表面積に対して12.5%以下であることにより、熱処理時において集電体に含まれる有価物の酸化をより抑制することができる。以下では、対象物収容手段の表面積に対する開口部の面積を「開口率」と称することがある。なお、開口率は、対象物収容手段に開口部が複数設けられる場合、対象物収容手段の表面積に対する、それぞれの開口部の面積の合計とすることができる。
【0033】
対象物収容手段における開口率が、上記の好ましい範囲内であると、例えば、対象物収容手段の外部の雰囲気が大気雰囲気である場合などに、熱処理を行う際の対象物収容手段の内部の雰囲気を低酸素雰囲気とすることができる。
【0034】
ここで、対象物収容手段としては、リチウムイオン二次電池を収容するための開閉可能な蓋部を有するものが好ましい。こうすることにより、対象物収容手段にリチウムイオン二次電池を容易に収容でき、更に、熱処理工程の後に、熱処理されたリチウムイオン二次電池(熱処理物)を容易に取り出すことができる。
蓋部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、蓋部としては、例えば、ヒンジなどにより開閉可能に固定された形態であってもよいし、蓋部を取り外しすることにより開閉する形態であってもよい。
【0035】
<<支持手段>>
熱処理工程において用いる支持手段としては、対象物収容手段を支持可能であり、加熱された気体が対象物収容手段に接触可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
熱処理工程において用いる支持手段は、対象物収容手段を複数支持可能なものであってもよい。
【0036】
支持手段が対象物収容手段を支持する手法としては、対象物を熱処理するための火炎が当該対象物収容手段に当たらないように支持可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
支持手段が対象物収容手段を支持する手法としては、例えば、支持手段の上に対象物収容手段を載せて支持する(対象物収容手段の底面を支持する)手法、対象物収容手段をアームなど挟み込むことで支持する(対象物収容手段の側面を支持する)手法、対象物収容手段を吊るすことにより支持する手法、支持手段に対象物収容手段を立て掛けて支持する手法などが挙げられる。これらの中でも、支持手段が対象物収容手段を支持する手法としては、支持手段の上に対象物収容手段を載せて支持する手法が好ましい。言い換えると、本発明においては、支持手段が、対象物収容手段を載置可能であり、対象物収容手段を支持手段に載置して熱処理を行うことが好ましい。
こうすることにより、本発明では、対象物収容手段の下側において、火炎により加熱された気体が上昇して、熱処理に用いる焙焼炉の炉内で混合されるため、対象物をより均一に熱処理することができ、より高い回収率で高品位に有価物を回収することができる。
【0037】
また、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱する手法としては、例えば、支持手段に設けられた、火炎を放射する火炎放射手段を用いることができる。言い換えると、本発明では、熱処理工程において、支持手段に設けられた、火炎を放射する火炎放射手段により対象物を熱処理することが好ましい。
また、熱処理のための火炎を放射する火炎放射手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バーナーなどが挙げられる。
【0038】
ここで、支持手段に設けられた火炎放射手段が火炎を放射する方向としては、火炎が対象物収容手段に当たらない方向であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、上述したように、対象物収容手段を支持手段に載置して熱処理を行う場合は、火炎放射手段により火炎を略水平方向に放射することが好ましい。言い換えると、本発明では、熱処理工程において、火炎放射手段を用いて、火炎を略水平方向に放射することにより対象物を熱処理することが好ましい。
こうすることにより、支持手段の上に載置された対象物収容手段に、火炎が当たることを確実に防止して、対象物収容手段の劣化をより抑制することができる。
【0039】
また、支持手段に設ける火炎放射手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであっても、複数であってもよいが、複数であることが好ましい。言い換えると、本発明においては、熱処理工程において、火炎放射手段を複数用いて、気体を加熱することにより、対象物を熱処理することが好ましい。
こうすることにより、1つの火炎放射手段あたりの火炎長(出力)を抑制することができ、気体の局所的な過熱を防止して、火炎放射手段を設置した場所(火炎を放射する向き)による対象物の焼きムラをより低減することができるので、回収する有価物の品位をより向上させることができる。
複数の火炎放射手段を設ける場合、火炎放射手段は、対象物収容手段に対して対称な位置に配置することが好ましい。こうすることにより、支持手段が位置する領域に存在する気体をより均一に加熱することができ、対象物をより均一に熱処理することができる。
【0040】
支持手段の材質としては、熱処理時の温度(熱処理温度)よりも融点が高いものが好ましい。より具体的には、火炎遮断手段の材質としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、煉瓦などが挙げられる。
支持手段の大きさとしては、対象物収容手段を支持することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。支持手段の大きさは、例えば、熱処理に用いる焼却炉の仕様、火炎を放射する向きや位置、対象物収容手段の大きさなどに応じて選択することが好ましい。
支持手段の形状及び構造としては、対象物収容手段を支持可能であり、加熱された気体が対象物収容手段に接触可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。支持手段としては、例えば、対象物収容手段を支持する支持部と、火炎放射手段が設けられ、気体が位置可能な気体加熱部とを有するものを用いることができる。
対象物収容手段を支持する支持部としては、例えば、気体が流通しやすいものが好ましく、格子形状のものを好適に用いることができる。
【0041】
ここで、熱処理工程においては、例えば、公知の焙焼炉(焼却炉)を利用することができる。焙焼炉(焼却炉)としては、火炎により対象物を熱処理する(加熱する)ことができるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このような焙焼炉としては、例えば、固定床炉を好適に用いることができる。
本発明においては、上述した支持手段を有する固定床炉を用いて、対象物を熱処理するための火炎が対象物収容手段に当たらないように、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱することにより、対象物を熱処理することが好ましい。
【0042】
熱処理工程において加熱する気体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理に用いる雰囲気に合わせて選択することができる。
熱処理に用いる雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、酸化雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
大気雰囲気(空気雰囲気)とは、酸素が21体積%、窒素が78体積%の空気(大気)を用いた雰囲気を意味する。
酸化雰囲気とは、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中に酸素を1質量%以上21質量%以下含む雰囲気を意味し、酸素を1質量%以上5質量%以下含む雰囲気が好ましい。
不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を意味する。
還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H、HS、SOなどを含む雰囲気を意味する。
低酸素雰囲気とは、酸素分圧が5%以下である雰囲気を意味する。
このように、本発明においては、各種の雰囲気を形成する気体を用いることができるが、例えば、空気を用いることが好ましい。
【0043】
図1Aは、本発明の有価物の回収方法で用いることができる固定床炉の一例を示す概念図である。
図1Aに示すように、固定床炉100は、気体加熱部10と、バーナー11と、支持部12と、突起13、円筒状の火炎放射口14とを有する。図1Aに示す例においては、気体加熱部10の左右に設けられたバーナー11により火炎15を放射することで、気体加熱部10の内部に位置する気体を加熱することができる。また、図1Aに示す例では、バーナー11により、円筒状の火炎放射口14の内部で火炎15が略水平方向に放射される。図1Aに示す例では、支持部12は、気体加熱部10に設けられた突起13の上に載置され支持されている。なお、図1Aは、固定床炉100におけるバーナー11の様子がわかりやすくなるように、固定床炉100を水平方向からの視点で表した概念図である。
【0044】
そして、本発明においては、図1Aに示すように、例えば、気体加熱部10の上部に、支持部(受座)12を設け、支持部12の上に、対象物を収容した対象物収容手段20、及び溶融したアルミニウムを回収するための受け皿21を配置する。このように、図1Aに示す例では、支持部12の上に、対象物収容手段20を載置する。
本発明においては、例えば、図1Aに示すように、支持部12の上に、対象物収容手段20を載置して、対象物を熱処理するための火炎15が対象物収容手段20に当たらないようにして、気体加熱部10に存在する気体を、バーナー11から放射した火炎15により加熱することで、対象物収容手段20に収容された対象物を熱処理する。このため、本発明では、例えば、対象物収容手段20が過剰に加熱されることを防止でき、対象物収容手段20の劣化を抑制することができる。また、加熱した気体により熱処理を行うため、対象物を均一に焼きムラなく熱処理することができる。
【0045】
図1Bは、図1Aに示した固定床炉における気体加熱部を上面から見たときの一例を示す概念図である。
図1Bに示すように、固定床炉100における気体加熱部10は、突起13(不図示)とバーナー11との間に水平な断面を考え、上面から見たときには、一方のバーナー11が図1Bの左上側に配置され、もう一方のバーナー11が図1Bの右下側に配置される。なお、図1Bに示した例では、左上側に配置されたバーナー11と、右下側に配置されたバーナー11の間に、仕切り16が設けられている。
【0046】
図1Cは、図1A及び図1Bに示したような固定床炉における、支持部(受座)と気体加熱部の一例を撮影した写真である。
図1Cに示した写真の例では、格子状の支持部(受座)12が映っており、支持部(受座)12の下には、気体加熱部10が映っている。
【0047】
図1Dは、図1A及び図1Bに示したような固定床炉における、支持部(受座)、気体加熱部、及びバーナーの一例を撮影した写真である。
図1Dにおいて、バーナー11は、円筒状の火炎放射口を有する。また、バーナー11により、火炎を放射する際には、円筒状の火炎放射口よりも、火炎の長さ(火炎長)を短くすることが好ましい。
つまり、本発明においては、火炎放射手段が、火炎を放射するための、少なくとも一端が開口した筒状部材を有し、筒状部材の外部に火炎が出ないように、火炎を放射することが好ましい。こうすることにより火炎を放射する向きを正確に制御することができると共に、火炎が対象物収容手段に当たることをより確実に防止することができ、円筒部材に支持部を載せることができる。
【0048】
また、本発明では、対象物をリチウムイオン二次電池とする場合、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池の燃焼状態を観測して、リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したか否かを判定し、当該リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したと判定したときに熱処理を終了することが好ましい。こうすることにより、リチウムイオン二次電池を過不足なく熱処理することができ、対象物収容手段の劣化をより抑制することができると共に、熱処理をより効率的に短時間で行うことができる。
リチウムイオン二次電池の燃焼状態を観測する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、目視、カメラにより取得した画像の解析、サーモグラフィや熱電対や放射温度計により取得した温度情報の解析、ガス(CO、CO、Oなど)濃度の変動の解析などが挙げられる。また、これらの手法を組み合わせて用いてもよい。
より具体的には、例えば、炉内に設けられたカメラの画像から対象物収容手段からの発火がなくなった状態を確認することや、炉の入口を炉内ガスが系外へ漏洩しない程度に開き、炉外から目視で対象物収容手段からの発火がなくなった状態を確認することにより、リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したか否かを判定することができる。
また、リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したと判定したときに熱処理を終了する際には、例えば、火炎を完全に止めてもよいし、焙焼炉の炉内の温度を保持するのに必要な火炎を放射していてもよい。
【0049】
<<熱処理の条件>>
対象物を熱処理(加熱)する条件(熱処理条件)としては、対象物の各構成部品を、後述する有価物回収工程において、有価物を回収可能な状態とすることができる条件であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、熱処理条件としては、例えば、熱処理温度、熱処理時間などが挙げられる。
【0050】
熱処理温度とは、熱処理時の対象物(例えば、リチウムイオン二次電池)の温度のことを意味する。熱処理温度は、熱処理温度中の対象物に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより、測定することができる。
熱処理温度は、対象物に応じて、適宜選択することができる。
【0051】
ここで、熱処理温度は、対象物がリチウムイオン二次電池である場合、リチウムイオン二次電池の筐体(外装容器)の融点以上であることが好ましい。こうすることにより、リチウムイオン二次電池の筐体が金属で形成される場合、熱処理工程において、当該筐体を溶融させることでき、例えば、リチウムイオン二次電池の下に当該筐体の溶融金属を回収する受け皿を配置することで、筐体由来の金属とリチウムイオン二次電池の電極等を、容易に分離して回収することができる。
【0052】
より具体的には、例えば、リチウムイオン二次電池の筐体がアルミニウムを含むときは、熱処理温度をアルミニウムの融点である660℃以上とすることが好ましい。こうすることにより、熱処理工程において、リチウムイオン二次電池の筐体に含まれるアルミニウムを溶融させて回収することができる。すなわち、本発明の有価物の回収方法では、アルミニウムを含む筐体を有するリチウムイオン二次電池を対象物とする場合に、熱処理工程においてリチウムイオン二次電池を660℃以上で熱処理することにより、当該筐体に含まれるアルミニウムと、リチウムイオン二次電池における他の部分(例えば、電極など)とを、容易に選別(分離)して、筐体由来のアルミニウムを簡便に回収することができる。
リチウムイオン二次電池の筐体のアルミニウムを回収する際には、例えば、熱処理工程において、対象物収容手段の下にアルミ受け皿を配置することにより、アルミニウムを回収できる。
【0053】
また、本発明の有価物の回収方法では、対象物がリチウムイオン二次電池である場合、熱処理温度としては、750℃以上が好ましく、750℃以上1,080℃以下がより好ましく、750℃以上900℃以下が特に好ましい。
熱処理温度を750℃以上とすることにより、リチウムイオン二次電池の正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)Oや電解質中のLiPFにおけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(LiCO3)や酸化リチウム(LiO)などの、水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、リチウムを浸出時にフッ素以外の不純物と分離することができる。また、熱処理温度を750℃以上とすることで、正極活物質に含まれるコバルト酸化物及びニッケル酸化物がメタル(金属)に還元され、これらのメタルを後述の磁選工程において磁着し易い粒径まで成長させることができる。また、メタルの粒径の成長は、より高温度で熱処理するほど生じやすい。
加えて、熱処理温度を、750℃(アルミニウムの融点である660℃より高い温度)以上1,085℃(銅の融点)未満とすることにより、例えば、アルミニウムを含む筐体を有するリチウムイオン二次電池を対象物とする場合に、筐体由来のアルミニウムを分離して回収できるとともに、負極集電体に含まれる銅の酸化乃至脆化をより抑制することができ、銅の回収率と品位をより向上させることができる。
【0054】
熱処理時間(対象物に熱処理を行う時間)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上2時間以下がより好ましく、1分間以上1時間以下が特に好ましい。熱処理時間は、例えば、対象物が上記の熱処理温度に到達するまでの時間であってもよく、保持時間は短くてもよい。熱処理時間が、1分間以上5時間以下であることにより、熱処理にかかるコストを抑制できるとともに、熱処理の効率を向上させることができる点で有利である。
【0055】
熱処理に用いる雰囲気(対象物近傍の雰囲気)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
大気雰囲気とは、空気を用いた雰囲気を意味する。
不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を例示できる。
還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H、HS、SOなどを含む雰囲気を意味する。
低酸素雰囲気とは、酸素分圧が11%以下である雰囲気を意味する。
これらの中でも、酸素による対象物収容手段や銅などの有価物の酸化を低減することができることから、低酸素雰囲気が好ましい。
【0056】
<有価物回収工程>
有価物回収工程は、熱処理工程により得た対象物の熱処理物から、有価物を回収する工程である。
有価物回収工程としては、熱処理物から有価物を回収することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、上述したように、破砕工程と、分級工程と、磁力選別工程とを含むことが好ましい。
【0057】
<<破砕工程>>
破砕工程は、熱処理物を破砕して破砕物を得る工程である。
破砕工程としては、熱処理物(焙焼物)を破砕して、破砕物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、破砕物とは、熱処理物を破砕したものを意味する。
破砕工程としては、例えば、熱処理物を衝撃により破砕して破砕物を得る工程であることが好ましい。例えば、対象物としてリチウムイオン二次電池を選択する場合に、リチウムイオン二次電池の筐体を熱処理工程において溶融させないときは、熱処理物に衝撃を与える前に、切断機により熱処理物を切断する予備破砕しておくことがより好ましい。
【0058】
衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転する打撃板により熱処理物を投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法や、回転する打撃子(ビーター)により熱処理物を叩く方法などが挙げられ、例えば、ハンマークラッシャーなどにより行うことができる。また、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、セラミックなどのボールにより熱処理物を叩く方法でもよく、この方法は、ボールミルなどにより行うことができる。また、衝撃による破砕は、例えば、圧縮による破砕を行う刃幅、刃渡りの短い二軸破砕機等を用いて行うこともできる。
さらに、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転させた2本のチェーンにより、熱処理物を叩いて衝撃を与える方法も挙げられ、例えば、チェーンミルなどにより行うことができる。
【0059】
ここで、衝撃によりリチウムイオン二次電池の熱処理物を破砕することで、正極集電体(例えば、アルミニウム(Al)の破砕が促進されるが、形態が著しく変化していない負極集電体(例えば、銅(Cu))は、箔状などの形態で存在する。そのため、破砕工程において、負極集電体は切断されるにとどまるため、後述する分級工程において、正極集電体由来の有価物(例えば、アルミニウム)と負極集電体由来の有価物(例えば、銅(Cu))とを、効率的に分離できる状態の破砕物を得ることができる。
【0060】
破砕工程における破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、対象物がリチウムイオン二次電池である場合、リチウムイオン二次電池1kgあたりの破砕時間は、1秒間以上30分間以下が好ましく、2秒間以上10分間以下がより好ましく、3秒間以上5分間以下が特に好ましい。
【0061】
また、破砕工程における破砕条件としては、例えば、チェーンミルやハンマーミル等の衝撃式・打撃式破砕機で破砕する場合、チェーンやハンマーの先端速度を10m/sec以上300m/sec以下とし、破砕機中の対象物の滞留時間を1秒以上10分以下とすることが好ましい。こうすることにより、本発明の有価物の回収方法では、正極材である銅やアルミニウム、筐体に由来するFeなどの部材を過剰に粉砕させずに破砕することができる。
【0062】
<<分級工程>>
分級工程は、破砕物を0.6mm以上2.4mm以下の分級点で分級して、粗粒産物と細粒産物とを得る工程である。
分級工程としては、破砕物を0.6mm以上2.4mm以下の分級点で分級して、粗粒産物と細粒産物とを得ることが可能な工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。対象物がリチウムイオン二次電池である場合は、分級工程を行うことにより、例えば、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等を粗粒産物中に分離でき、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、炭素(C)等を細粒産物中に分離できる。
【0063】
分級工程は、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩などを用いて行うことができる。
分級の粒度(分級点、篩の目開き)としては、0.6mm以上2.4mm以下が好ましく、0.85mm以上1.7mm以下がより好ましく、1.2mm程度が特に好ましい。
分級の粒度を、2.4mm以下とすることより、細粒産物中への銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等の混入を抑制でき、分級の粒度を0.6mm以上とすることにより、粗粒産物中への炭素(C)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)等の混入を抑制できる。
【0064】
また、篩上物(粗粒産物)と篩下物(細粒産物)との篩分け(分級)を複数回繰り返してもよい。この再度の篩分けにより、各産物の不純物品位をさらに低減することができる。
【0065】
なお、破砕工程及び分級工程は、同時進行で行うこともできる。例えば、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕・分級工程(破砕・分級)として、破砕工程及び分級工程を行ってもよい。
【0066】
<<磁力選別工程>>
磁力選別工程は、粗粒産物を、0.03テスラ以上の磁束密度の磁石を用いて選別する工程である。言い換えると、磁力選別工程においては、破砕物に対し、磁力による選別を行うことにより、対象物(対象物を熱処理し粉砕した粉砕物)から有価物を回収する。なお、以下では、磁力による選別を「磁力選別」又は「磁選」と称することがある。
【0067】
磁力選別工程は、公知の磁力選別機(磁選機)などを用いて行うことができる。
本発明で用いることができる磁力選別機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、棒磁石、格子型マグネット、ロータリーマグネット、マグネットストレーナー、高磁力プーリ(マグネットプーリ)磁選機、ドラム型磁選機、吊下げ型磁選機などが挙げられる。これらの中でも、本発明においては、ドラム型磁選機、吊下げ型磁選機を用いることが好ましい。
【0068】
磁力選別工程においては、例えば、対象物の種類(対象物に含まれる有価物の種類)に応じて、対象物に含まれる磁着物と非磁着物とを選別可能な磁力により選別を行う。
ここで、磁着物とは、磁力(磁界)を発生させる磁力源(例えば、磁石、電磁石など)が発生させた磁力により、当該磁力源との間で引力を生じて、当該磁力源側に吸着可能なものを意味する。磁着物としては、例えば、強磁性体の金属などが挙げられる。強磁性体の金属としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどが挙げられる。
非磁着物とは、上記の磁力源が発生させた磁力では、当該磁力源側に吸着されないものを意味する。非磁着物としては、特に制限はなく、目的に応じて選択できる。また、金属の非磁着物としては、例えば、常磁性体又は反磁性体の金属が挙げられる。常磁性体又は反磁性体の金属としては、例えば、アルミニウム、マンガン、金、銀、銅などが挙げられる。
例えば、対象物としてリチウムイオン二次電池を選択する場合、磁力選別工程においては、破砕物に含まれる、鉄などの磁着物と、有価物である銅などを含む非磁着物とを分離することができる。
【0069】
なお、上記のリチウムイオン二次電池を対象物とした例では、非磁着物に選別する有価物が含まれる場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、対象物の種類に応じて、例えば、磁着物に選別する有価物が含まれる形態であってもよい。
【0070】
また、磁力選別工程における磁力は、0.03T(テスラ)以上であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄を選別する場合は、0.01T(テスラ)以上0.3T以下とすることが好ましい。また、ステンレスを選別する場合は、上記の範囲よりも高磁力を用いてもよい。なお、異なる磁力を組み合わせて多段階で使用することも可能である。
このようにすることにより、本発明の有価物の回収方法では、鉄やステンレスなどの磁着物を選択的に分離することができる。
【0071】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0072】
<実施形態の一例>
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池の回収方法における実施形態の一例について説明する。また、本実施形態は、対象物としてリチウムイオン二次電池を選択した例を示す。
【0073】
本実施形態では、まず、対象物としてのリチウムイオン二次電池を、対象物収容手段としてのドラム缶に入れる。なお、ドラム缶には、リチウムイオン二次電池が落下しない大きさの孔を複数設け、ドラム缶の下部にアルミニウムを回収するための受け皿を配置しておく。
そして、図1に示したような固定床炉において、支持手段における気体加熱部に、ドラム缶に対して左右対称となるように、火炎放射手段としてのバーナーを1つずつ配置したものを用いて、バーナーから放射される火炎が、ドラム缶に当たらないように、火炎を略水平方向に放射する。こうすることにより、気体加熱部に位置する気体を加熱し、火炎により加熱された気体が上昇して炉内で混合され、リチウムイオン二次電池を均一に熱処理して、リチウムイオン二次電池の熱処理物を得る。
さらに、熱処理を行う際には、リチウムイオン二次電池の燃焼状態を観測して、リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したか否かを判定し、当該リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したと判定したときに熱処理を終了する。
また、熱処理を行う際には、リチウムイオン二次電池に対して、750℃以上1,085℃未満で熱処理を行い、リチウムイオン二次電池に含まれるアルミニウムを溶融させて溶融物として回収する。
【0074】
次に、リチウムイオン二次電池の熱処理物を破砕して破砕物を得た後、破砕物を分級して粗粒産物(篩上物)と細粒産物(篩下物)に分級する。ここで、粗粒産物(篩上物)には、銅(Cu)が選別されて濃縮される。
【0075】
続いて、粗粒産物(篩上物)に対し磁力による選別(磁選)を行い、粗粒産物(篩上物)を、磁着物と非磁着物とに選別する。ここで、磁着物には、鉄(Fe)が選別されて濃縮され、非磁着物には、有価物である銅(Cu)が選別されて濃縮される。
このようにして、本実施形態においては、コンテナの劣化を抑制しつつ、高い回収率で高品位に有価物としての銅を回収できる。
【実施例
【0076】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
<熱処理>
対象物として、正極材(正極活物質)がLiNiCoMn(x+y+z=1)であり、負極材が炭素(黒鉛)であり、外装ケースがアルミニウム製である角型のリチウムイオン二次電池セル(約100kg)を用いた。
続いて、対象物収容手段としてのドラム缶に、上記のリチウムイオン二次電池セルを詰めた。なお、ドラム缶には、リチウムイオン二次電池が落下しない大きさの孔を複数設け、ドラム缶の下部にアルミニウムを回収するための受け皿を配置した。
【0078】
焙焼炉として、図1A図1Dに示したような固定床炉(外径2800mm×3000mm、高さ5300mm)を用いた。
固定床炉においては、図1A図1Dに示すように、支持手段における支持部としての、格子状の焙焼炉受座の上に、ドラム缶及び受け皿を載置し、支持手段における気体加熱部に、ドラム缶に対して左右対称となるように、火炎放射手段としてのバーナーを1つずつ配置したものを用いて、バーナーから放射される火炎がドラム缶に当たらないように、図1Aの左側のバーナーに対応するバーナーから、火炎を略水平方向に放射して熱処理を行った。つまり、実施例1では、1つのバーナーにより熱処理を行った。なお、実施例1においては、バーナーが、一端が開口した筒状部材を有し、筒状部材の外部に火炎が出ないように、火炎を放射した。
また、固定床炉における炉内温度は、約800℃に設定し、約800℃への昇温は30分間で行い、約800℃で3時間保持することで、リチウムイオン二次電池を熱処理した。
【0079】
<破砕及び分級>
次いで、破砕装置として、ハンマークラッシャー(マキノ式スイングハンマークラッシャーHC-20-3.7、槇野産業株式会社製)を用い、50Hz(ハンマー周速38m/s)、出口部分のパンチングメタルの孔径10mmの条件で、熱処理を行ったリチウムイオン二次電池(リチウムイオン二次電池の熱処理物)を破砕し、リチウムイオン二次電池の破砕物を得た。
続いて、篩目の目開き(分級点)が1.2mmの篩(直径200mm、東京スクリーン株式会社製)を用いて、リチウムイオン二次電池の破砕物を篩分け(分級)した。そして、篩分け後の1.2mmの篩上(粗粒産物)と篩下(細粒産物)をそれぞれ採取した。
【0080】
<磁力選別>
次に、得られた粗粒産物を、磁束密度が1500G(0.15T)の乾式ドラム型磁選機(CC 15“φ×20”W、日本エリーズマグネチックス株式会社製)を用いて、フィード速度0.5kg/分の条件で、磁力選別を行い、磁着物と非磁着物を分離して回収した。
【0081】
(実施例2)
実施例1において、図1A及び図1Bの左右の2つバーナーに対応するバーナーから、火炎を略水平方向に放射して熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、磁着物と非磁着物を分離して回収した。つまり、実施例2では、ドラム缶に対して左右対称となるように、火炎放射手段としてのバーナーを1つずつ配置したものを用いて、左右の両方のバーナーから、火炎を略水平方向に放射して熱処理を行った。
【0082】
(実施例3)
実施例2において、円筒型固定床炉の炉内を映すカメラにより、ドラム缶内のリチウムイオン二次電池の発火が終了したか否かを判定し、当該リチウムイオン二次電池の発火が終了したと判定したときに、バーナーの燃焼(火炎の放射)を停止した以外は、実施例2と同様にして、磁着物と非磁着物を分離して回収した。
実施例3においては、炉内を映すカメラの画像からリチウムイオン二次電池からの発火がなくなった状態を確認することにより、リチウムイオン二次電池の燃焼が完了したか否かを判定した。
実施例3においては、円筒型固定床炉における炉内温度(熱処理温度)が、約800℃に達してから約1時間で、ドラム缶内のリチウムイオン二次電池の発火が終了したため、その時点でバーナーの燃焼を停止した。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、支持手段を用いずに、固定床炉の炉内でバーナーから放射された火炎が、直接当たる位置にドラム缶を配置して、熱処理を1時間(約800℃で1時間保持)行った以外は、実施例3と同様にして、磁着物と非磁着物とを分離して回収した。
【0084】
<評価>
<<ドラム缶の熱処理後の状態>>
熱処理後のドラム缶(対象物収容手段の一例)について、ドラム缶において、φ(直径)5mm以上の開口(破損)が生じたものを「×」、5mm以上の変形が確認されたものを「△」、開口(破損)がなくかつ変形が5mm未満であったものを「〇」として評価した。
【0085】
<<回収率・品位>>
得られた細粒産物、磁着物及び非磁着物の質量を、電磁式はかり(商品名:GX-8K、A&D株式会社製)を用いて測定した。その後、磁着物及び非磁着物をそれぞれ浸出させた浸出液の残渣を王水(富士フイルム和光純薬株式会社製)に加熱溶解させ、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(iCaP6300、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)により分析を行い、細粒産物、磁着物及び非磁着物中の銅の含有割合(品位)を求めた。また、これら全ての産物に含まれる銅の重量を100としたときの、非磁着物に回収された銅の重量比(%)を銅の回収率として評価した。
【0086】
実施例1、実施例2、実施例3、及び比較例1における、熱処理後のドラム缶の状態(ドラム缶状態)、並びに粗粒産物の非磁着物に含まれる銅(Cu)の回収率及び銅(Cu)の品位を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、実施例1~3では、ドラム缶の劣化が抑制されて破損が生じず、更には、粗粒産物の非磁着物の銅の回収率は80%以上であり、品位は75%以上であった。このように、実施例1~3では、ドラム缶の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物の一例である銅を回収できた。
ドラム缶に対して左右対称となるように、火炎放射手段としてのバーナーを1つずつ配置したものを用いて、左右の両方のバーナーから、火炎を略水平方向に放射して熱処理を行った実施例2では、回収した銅の品位を特に向上させることができた。また、ドラム缶内のリチウムイオン二次電池の発火が終了したか否かを判定し、当該リチウムイオン二次電池の発火が終了したと判定したときに、バーナーの燃焼(火炎の放射)を停止した実施例3では、ドラム缶の劣化をより抑制できた。
一方、比較例1では、ドラム缶が劣化して破損が生じ、リチウムイオン二次電池における銅(Cu)集電体が酸化・脆化したため、粗粒産物への回収率が低下し、結果として非磁着物における銅の回収率は15%未満となった。
【0089】
以上、説明したように、本発明の有価物の回収方法は、有価物を含む対象物が収容された対象物収容手段を支持可能な支持手段により、対象物収容手段を支持し、対象物を熱処理するための火炎が対象物収容手段に当たらないように、支持手段が位置する領域に存在する気体を火炎により加熱することにより、対象物を熱処理する熱処理工程と、熱処理工程により得た対象物の熱処理物から、有価物を回収する有価物回収工程と、を含む。
これにより、本発明の有価物の回収方法では、有価物を含む対象物を収容する対象物収容手段の劣化を抑制できると共に、対象物を均一に熱処理して、高い回収率で高品位に有価物を回収できる。
【符号の説明】
【0090】
10 気体加熱部
11 バーナー
12 支持部(受座)
13 突起
14 火炎放射口
15 火炎
16 仕切り
20 対象物収容手段
21 受け皿
100 固定床炉
図1A
図1B
図1C
図1D