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特許7191254触媒製造用組成物、触媒製造用組成物の製造方法、及び酸化物触媒を製造する製造方法
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  • 特許-触媒製造用組成物、触媒製造用組成物の製造方法、及び酸化物触媒を製造する製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】触媒製造用組成物、触媒製造用組成物の製造方法、及び酸化物触媒を製造する製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20221209BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20221209BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20221209BHJP
   C07C 255/08 20060101ALI20221209BHJP
   C07C 253/24 20060101ALI20221209BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20221209BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
B01J23/30 Z
B01J37/04 102
B01J37/08
C07C255/08
C07C253/24
B01J37/00
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021574575
(86)(22)【出願日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 JP2021000287
(87)【国際公開番号】W WO2021153174
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2020014597
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小池 夏萌
(72)【発明者】
【氏名】大山 剛輔
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051934(JP,A)
【文献】特表2011-529777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0103326(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 61/00
C07C 255/08
C07C 253/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物であって、
前記触媒製造用組成物は、ニオブ化合物及び過酸化水素を含み、且つ任意に有機酸を含む水溶液であり、
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記有機酸濃度のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下であり、
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上50以下である、
触媒製造用組成物。
【請求項2】
前記有機酸が、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸の水和物、及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸化合物である、
請求項1に記載の触媒製造用組成物。
【請求項3】
前記触媒製造用組成物のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、
500cm-1以上650cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Xの比に対する、890cm-1以上1000cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Yの比(Y/X)が、0以上1.0以下である、
請求項1又は2のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物。
【請求項4】
前記触媒製造用組成物のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、685cm-1以上785cm-1以下の範囲にピークを有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物。
【請求項5】
気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物であって、
前記触媒製造用組成物が、ニオブ化合物及び過酸化水素を含み、任意に有機酸を含む水溶液であり、
前記触媒製造用組成物のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、
500cm-1以上650cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Xの比に対する、890cm-1以上1000cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Yの比(Y/X)が、0以上1.0以下である、
触媒製造用組成物。
【請求項6】
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記有機酸濃度のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下であり、
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上50以下である、
請求項5に記載の触媒製造用組成物。
【請求項7】
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造方法であって、
Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、
請求項1~6のいずれかに一項に記載の触媒製造用組成物と前記水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、
前記前駆体スラリーを用いて乾燥し乾燥粒子を得る乾燥工程と、
前記乾燥粒子を焼成し焼成粒子を得る焼成工程と、を有する、
酸化物触媒の製造方法。
【請求項8】
気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物の製造方法であって、
固体ニオブ原料及び過酸化水素水を混合し固体ニオブ原料分散液を調製する混合工程と、
前記固体ニオブ原料分散液中の前記固体ニオブ原料を溶解させニオブ化合物含有水溶液を調製する溶解工程とを有し、
前記ニオブ化合物含有水溶液中のニオブ化合物のNb濃度に対する過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が、0.01以上50以下であり、
前記溶解工程の温度が40℃以上70℃以下である、
触媒製造用組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程おいて、有機酸をさらに混合し、
前記ニオブ化合物含有水溶液中の前記ニオブ化合物のNb濃度に対する前記有機酸濃度のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下である
請求項8に記載の触媒製造用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記固体ニオブ原料が、ニオブ酸を含む、
請求項8又は9に記載の触媒製造用組成物の製造方法。
【請求項11】
前記有機酸が、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸の水和物、及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸化合物を含む、
請求項に記載の触媒製造用組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物の製造方法により前記触媒製造用組成物を調製する工程と、
Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、
前記触媒製造用組成物と前記水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、
前記前駆体スラリーを用いて乾燥し乾燥粒子を得る乾燥工程と、
前記乾燥粒子を焼成し焼成粒子を得る焼成工程と、を有する、
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒製造用組成物、触媒製造用組成物の製造方法、及び酸化物触媒を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリロニトリルを製造する際に用いられる触媒として、モリブデン、バナジウム等の複数の金属を含む複合金属酸化物が利用されている。複合金属酸化物触媒の一般的な製造方法としては、例えば、触媒を構成する金属塩を含むスラリーを調製し、それを噴霧乾燥し、焼成する工程を含む方法が挙げられる。このとき、金属塩を含むスラリーが不均一であると、得られる触媒も不均一になるため、所望の組成を有する複合金属酸化物を得られない。したがって、金属塩が均一に溶解したスラリーを調製することが望まれる。
【0003】
金属塩は当該金属塩中の金属種によって難溶性を示し、スラリーから複合金属酸化物を得る際にこの難溶性の金属塩を十分に溶解させる必要がある。例えば、触媒原料として使用される金属の中でもニオブ(Nb)は、触媒中で活性点となる骨格を形成し、また、ニオブを含む触媒を反応に用いた場合、生成物の分解抑制等にも寄与することが知られている。触媒原料のNb源としては、安価かつ安定である、酸化ニオブ(Nb25)が汎用されている。しかしながら、Nb25は難水溶性であるため、触媒性能を十分高めることができる量のNb25を触媒原料スラリーに添加する場合、均一なスラリーが得られ難い。そこで、複合金属酸化物触媒の製造のため、ニオブを含む均一なスラリーを得るための方法が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、耐腐食性を有し、かつ攪拌手段、加熱手段及び冷却手段が設けられた混合槽と、溶け残ったNb化合物及び析出したジカルボン酸をろ過するためのろ過器を備え、加圧下でろ過を行う製造装置を用いることにより、ニオブ化合物含有水溶液を調製する方法が開示されている。特許文献1の方法では、Nb25を、シュウ酸等のカルボン酸をキレート剤として含む水溶液と共に加熱して、シュウ酸Nb錯体を形成させシュウ酸Nb錯体水溶液として得て、当該シュウ酸Nb錯体水溶液よりスラリーを得る手法が用いられる。特許文献1の方法によれば、得られるNb化合物とジカルボン酸との水性混合液において、Nb化合物の溶け残りや析出を低減でき、Nbの回収率及び混合液の生産性を高められるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/105543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、触媒製造に用いることができる、固体ニオブ原料とシュウ酸との水性混合液は、上述のとおり、シュウ酸等の酸物質をキレート剤として含む水溶液と共に固体ニオブ原料であるNb25を加熱してシュウ酸Nb錯体を形成させ、シュウ酸ニオブ錯体水溶液として得る。ここで、シュウ酸は還元剤として作用するため、上記水溶液から得られる複合金属酸化物触媒が過還元の状態となるおそれがあり、触媒の活性を低下させる懸念がある。したがって、シュウ酸の使用量を極力抑える必要があるが、ニオブ量に対するシュウ酸の使用量を抑えるとNb化合物の溶解性低下を招来する。
【0007】
特許文献1においては、具体的には、まず、加熱しながらシュウ酸を含む水溶液を調製し、そこにNb25を添加して加熱しながら攪拌することにより水性混合液を得る。次にこの水性混合液を自然放冷、静置、さらに冷却、及び静置の工程を経て、過剰に存在するシュウ酸を固体として析出させる。さらに析出した固体を濾過により除去することにより、シュウ酸ニオブ錯体水溶液を得る。
【0008】
上記の方法によれば、過剰に存在するシュウ酸を除去することができるが、依然としてシュウ酸Nb錯体水溶液はシュウ酸を冷却工程温度における飽和状態で含んでおり、不要なシュウ酸を十分に除きれないという問題がある。また、固体として除かれるシュウ酸は廃棄されるため、コスト軽減や、環境負荷軽減の観点から、また、劇物であることから、シュウ酸の使用量を抑えることが求められている。
【0009】
さらに、シュウ酸Nb錯体水溶液の製造工程には冷却、及び固体を除去する工程を含み、その製造プロセスが煩雑であることから、簡便にシュウ酸ニオブ錯体水溶液を得られる方法が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、ニオブ化合物を含みながらシュウ酸等の酸物質の使用量が抑えられた触媒製造用組成物、及びその触媒製造用組成物を効率的に得ることのできる製造方法、並びに、該触媒製造用組成物を用いた酸化物触媒を製造する製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、固体ニオブ原料と過酸化水素とを用いることにより、ニオブ化合物を含む水溶液を、シュウ酸等の酸物質の使用量を抑えながら、効率的に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
〔1〕
気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物であって、
前記触媒製造用組成物は、ニオブ化合物及び過酸化水素を含み、且つ任意に有機酸を含む水溶液であり、
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記有機酸濃度のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下であり、
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上50以下である、
触媒製造用組成物。
〔2〕
前記有機酸が、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸の水和物、及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸化合物である、
〔1〕に記載の触媒製造用組成物。
〔3〕
前記触媒製造用組成物のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、
500cm-1以上650cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Xの比に対する、890cm-1以上1000cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Yの比(Y/X)が、0以上1.0以下である、
〔1〕又は〔2〕のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物。
〔4〕
前記触媒製造用組成物のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、685cm-1以上785cm-1以下の範囲にピークを有する、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物。
〔5〕
気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物であって、
前記触媒製造用組成物が、ニオブ化合物及び過酸化水素を含み、任意に有機酸を含む水溶液であり、
前記触媒製造用組成物のラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、
500cm-1以上650cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Xの比に対する、890cm-1以上1000cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Yの比(Y/X)が、0以上1.0以下である、
触媒製造用組成物。
〔6〕
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記有機酸濃度のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下であり、
前記触媒製造用組成物中のNb濃度に対する前記過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上50以下である、
〔5〕に記載の触媒製造用組成物。
〔7〕
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造方法であって、
Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、
〔1〕~〔6〕のいずれかに一項に記載の触媒製造用組成物と前記水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、
前記前駆体スラリーを用いて乾燥し乾燥粒子を得る乾燥工程と、
前記乾燥粒子を焼成し焼成粒子を得る焼成工程と、を有する、
酸化物触媒の製造方法。
〔8〕
気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物の製造方法であって、
固体ニオブ原料及び過酸化水素水を混合し固体ニオブ原料分散液を調製する混合工程と、
前記固体ニオブ原料分散液中の前記固体ニオブ原料を溶解させニオブ化合物含有水溶液を調製する溶解工程とを有し、
前記ニオブ化合物含有水溶液中のニオブ化合物のNb濃度に対する過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が、0.01以上50以下であり、
前記溶解工程の温度が40℃以上70℃以下である、
触媒製造用組成物の製造方法。
〔9〕
前記混合工程おいて、有機酸をさらに混合し、
前記ニオブ化合物含有水溶液中の前記ニオブ化合物のNb濃度に対する前記有機酸濃度のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下である
〔8〕に記載の触媒製造用組成物の製造方法。
〔10〕
前記固体ニオブ原料が、ニオブ酸を含む、
〔8〕又は〔9〕に記載の触媒製造用組成物の製造方法。
〔11〕
前記有機酸が、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸の水和物、及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸化合物を含む、
〔8〕~〔10〕のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物の製造方法。
〔12〕
〔8〕~〔11〕のいずれか一項に記載の触媒製造用組成物の製造方法により前記触媒製造用組成物を調製する工程と、
Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、
前記触媒製造用組成物と前記水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、
前記前駆体スラリーを用いて乾燥し乾燥粒子を得る乾燥工程と、
前記乾燥粒子を焼成し焼成粒子を得る焼成工程と、を有する、
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニオブ化合物を含みながらシュウ酸等の酸物質の使用量が抑えられた触媒製造用組成物、及びその触媒製造用組成物を効率的に得ることのできる製造方法、並びに、該触媒製造用組成物を用いた酸化物触媒を製造する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】上段は、過酸化水素を使用せず、有機酸(シュウ酸)を用いたニオブ化合物を含有する水溶液(比較例2に係る触媒製造用組成物)のラマン分光法によるラマンスペクトルを示す図である。下段は、過酸化水素及び有機酸(シュウ酸)を用いたニオブ化合物を含有する水溶液(実施例4に係る触媒製造用組成物)のラマン分光法によるラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
[触媒製造用組成物の製造方法]
本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法は、気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物の製造方法であって、固体ニオブ原料及び過酸化水素を混合し固体ニオブ原料分散液を調製する混合工程と、固体ニオブ原料分散液中の固体ニオブ原料を溶解させニオブ化合物を含有する水溶液(以下、「ニオブ化合物含有水溶液」と称することがある)を調製する溶解工程を有し、ニオブ化合物含有水溶液中のNb濃度に対する過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が、0.01以上50以下であり、溶解工程の温度が40℃以上70℃以下である。
【0017】
本実施形態における触媒製造用組成物とは、気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒を作製するための材料としての組成物を指し、上記工程により得られるニオブ化合物を含有する水溶液である。
【0018】
ここで、本明細書においては、「固体ニオブ原料」とは、触媒製造用組成物を得る際に、過酸化水素水溶液と混合する前の粉末状ニオブ原料などのニオブ原料の固体物を意味する。「固体ニオブ原料分散液」とは、固体ニオブ原料及び過酸化水素を単に混合した状態の分散液であり、過酸化水素水が固体ニオブ原料を溶解する前の状態をいう。
【0019】
また、「ニオブ化合物」とは、ニオブ化合物含有水溶液又は触媒製造用組成物中において固体ニオブ原料が溶解した状態のニオブ原料を意味し、例えば、ニオブ-過酸化水素-シュウ酸錯体、ニオブ-過酸化水素錯体、ニオブ-シュウ酸錯体及びこれらのうち2以上を含む凝集体などが挙げられる。
【0020】
本実施形態の製造方法では、固体ニオブ原料と過酸化水素とからニオブ化合物を含有する水溶液を得る。過酸化水素水を用いてニオブ化合物含有水溶液を調製することにより、シュウ酸等の酸物質を過剰に使用せずに、ニオブ化合物を含有する水溶液を得ることができる。また、本実施形態の製造方法によって、従来ニオブ化合物含有水溶液の調製に行っていた、余剰の酸物質を析出させ除去するステップを省くことができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、酸物質を過剰に使用せずに、効率的にニオブ化合物含有水溶液を得ることが可能となる。
【0021】
固体ニオブ原料としては、ニオブ元素を含む化合物であれば特に限定されない。固体ニオブ原料としては、以下に限定されないが、例えば、シュウ酸水素ニオブ、シュウ酸ニオブアンモニウム、NbCl3、NbCl5、Nb2(C245、酸化ニオブ(Nb25とも記載する)、ニオブ酸、Nb(OC255、ニオブのハロゲン化物、ニオブのハロゲン化アンモニウム塩等を挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
これらの中でも、触媒製造用組成物に他の金属を添加する場合に、他の金属への影響を低減する観点から、Nb25、ニオブ酸及びシュウ酸水素ニオブが好ましい。なお、ニオブ酸は水酸化ニオブ及び酸化ニオブ(Nb25)を含んでいてもよい。固体ニオブ原料としては、固体ニオブ原料製造直後のものを用いてもよく、長期保存や脱水の進行によって変質した固体ニオブ原料を含むものを用いてもよい。
【0023】
触媒製造用組成物の調製に際して、固体ニオブ原料は、固体でもよく、懸濁液の形態であってもよい。例えば、ニオブ酸を使用する場合、溶解性をより向上させる観点から、粒径が小さいニオブ酸が好ましい。ニオブ酸は使用前にアンモニア水及び/又は水によって洗浄することもできる。
【0024】
本実施形態の製造方法において、固体ニオブ原料の粒径は、好ましくは0.2μm以上20μm以下である。粒子径が0.2μm以上であることにより、固体ニオブ原料の微粒子同士の粘着性が大きくなり、固体ニオブ原料の表面の乾燥が抑えられているため、溶解性が高まる傾向にある。粒子径が20μm以下であることにより、固体ニオブ原料の表面積が大きくなるため、溶解性を高められる傾向にある。固体ニオブ原料の粒径は、より好ましくは0.7μm以上15.0μm以下であり、さらに好ましくは2.0μm以上10.0μm以下である。
【0025】
本実施形態の製造方法において、ニオブ化合物含有水溶液中のNb濃度に対する、過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)は、0.01以上50以下であり、好ましくは0.5以上10以下である。モル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上であることにより、固体ニオブ原料の水に対する溶解性が高まる傾向にある。モル比(過酸化水素/Nb)が50以下であることにより、得られる触媒の機能性に影響を与えることなく溶解性を高められる傾向にある。
【0026】
モル比(過酸化水素/Nb)の下限は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.0以上であり、更に好ましくは2.0以上である。一方で、モル比(過酸化水素/Nb)の上限は、好ましくは45.0以下であり、より好ましくは30.0以下である。
【0027】
本実施形態の製造方法において、ニオブ化合物含有水溶液を得る際に、さらに有機酸を添加してもよい。したがって、本実施形態の一つは、ニオブ化合物含有水溶液を得る工程において、さらに有機酸を混合することを含む、製造方法である。ニオブ化合物含有水溶液に有機酸を混合することにより、固体ニオブ原料の水に対する溶解性をさらに高められる傾向にある。
【0028】
本実施形態における有機酸としては、特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸の水和物、及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸化合物等を挙げることができる。ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、触媒製造時における金属酸化物の過還元を抑制する観点から、シュウ酸が好ましい。シュウ酸は、シュウ酸無水物、シュウ酸二水和物であることが好ましい。
【0029】
上記オキシカルボン酸とは、1分子中にヒドロキシ基とカルボキシル基を有する化合物である。オキシカルボン酸としては、例えば、2-ヒドロキシマロン酸、DL-リンゴ酸、L-リンゴ酸、D-リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。
【0030】
本実施形態の製造方法において、有機酸を含む固体ニオブ原料分散液を調製する場合、ニオブ化合物含有水溶液のNb濃度に対する、有機酸の添加量のモル比(有機酸/Nb)の上限は、特に制限されないが、好ましくは2.50以下であり、より好ましくは2.30以下であり、さらに好ましくは2.00以下であり、よりさらに好ましくは1.80以下であり、さらにより好ましくは1.50以下であり、特に好ましくは1.00以下である。一方で、モル比(有機酸/Nb)の下限は、0.00以上である。モル比(有機酸/Nb)が0.00とは、すなわち、0は有機酸を添加しない場合を意味する。
【0031】
本実施形態の製造方法では、シュウ酸等の還元剤として作用する有機酸の使用量を抑えることができる。シュウ酸等の量が抑えられたニオブ化合物含有水溶液から得られる複合金属酸化物触媒は、過還元の状態になることが抑えられ、触媒の活性が高まり、反応生成物の収率の向上に寄与することが考えられる。したがって、例えば、特に有機酸としてシュウ酸等の還元剤として作用する有機酸を用いる場合、有機酸の含有量を低減させることで当該ニオブ化合物含有水溶液から得られる複合金属酸化物触媒の活性を高め、反応生成物の収率を向上できる傾向にある。
【0032】
本実施形態の製造方法は、固体ニオブ原料及び過酸化水素を混合し固体ニオブ原料分散液を調製する混合工程を含む。混合工程においては、必要に応じて有機酸を添加し、有機酸を含有する固体ニオブ原料分散液を調製してもよい。混合工程の温度は、特に限定されないが、通常、常温であり、また、後述する溶解工程の温度と同様に40℃以上70℃以下としてもよい。本明細書中、「常温」は15℃以上25℃以下の範囲程度の温度を意味する。
【0033】
本実施形態の製造方法は、ニオブ化合物含有水溶液を得るために、固体ニオブ原料と過酸化水素と水、及び必要に応じて有機酸を混合して、40℃以上70℃以下の条件下で溶解する溶解工程を含む。温度を40℃以上とすることにより、固体ニオブ原料の溶解を促進する傾向にある。また、温度を70℃以下とすることにより、過酸化水素の分解が抑制される傾向にあり、また、混合物が有機酸等の添加剤を含む場合、触媒製造用組成物中で形成される有機酸とNbとの錯体が安定化し、Nbが高濃度であっても十分な分散性がより確保される傾向にある。温度は60℃以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態における溶解工程においては、加熱方法は特に限定されない。加熱時に、加熱と共に攪拌を行うことが好ましい。
【0035】
本実施形態の製造方法において、固体ニオブ原料を十分に溶解させる観点から、混合してからの時間を十分にとることが望ましい。ニオブ化合物含有水溶液におけるNb濃度が高い場合であっても十分な分散性を確保する観点から、溶解工程を0.2時間以上20時間以下で実施することが好ましく、0.3時間以上15時間以下で実施することがより好ましく、0.5時間以上10時間以下で実施することがさらに好ましい。
【0036】
本実施形態における混合工程で用いる水の温度としては特に限定されないが、10℃以上50℃以下であることが好ましい。水の温度が10℃以上であることにより、溶解工程において固体ニオブ原料の溶解がより進みやすくなる傾向にある。水の温度が50℃以下であることにより、投入口の周囲が水蒸気で濡れることを防止でき、固体ニオブ原料を投入しやすくなる。
【0037】
固体ニオブ原料、過酸化水素、必要に応じて添加される有機酸を添加するときの温度も特に限定されず、上記と同様の理由により50℃以下で添加することが好ましい。
【0038】
本実施形態の製造方法は、ニオブ化合物含有水溶液を得られる限り特に限定されず、固体ニオブ原料と過酸化水素と水、及び必要に応じて有機酸を任意の順番で配合すればよい。
【0039】
固体ニオブ原料が溶け残ることを防ぐ観点から、水が存在する系に、攪拌しながら固体ニオブ原料及び過酸化水素、並びに任意で添加してもよい有機酸を添加することが好ましい。得られる混合物をその後40℃以上70℃以下の範囲まで昇温することが好ましい。昇温スピードは、特に限定されず、通常1℃/hr以上60℃/hr以下とすればよい。
【0040】
40℃超過に加熱を行った場合、加熱後の混合物を40℃以下まで降温することが好ましい、その際の降温速度は0.002℃/min以上3℃/min以下が好ましい。降温速度が0.002℃/min以上であることにより、ニオブの再析出を抑制できる傾向にある。降温速度が3℃/min以下であることにより、急な降温に起因するニオブの析出を防止でき、均質な液が得られる傾向にある。
【0041】
本実施形態の製造方法において、固体ニオブ原料と過酸化水素と水とを混合して得られたニオブ化合物含有水溶液を触媒製造用組成物としてもよく、固体ニオブ原料と過酸化水素と水とを混合して得られたNbを含む混合物を濾過機に供給して、濾過を行い、得られたニオブ化合物含有水溶液を触媒製造用組成物としてもよい。具体的には、上記Nbを含む混合物を濾過器に供給して、濾過する工程を有することが好ましい。これにより、混合物中のニオブの未溶解分、有機酸の未溶解分、析出分等の固形分を除去することができる。使用する濾紙は、5種A以上に目の細かいものであれば適宜使用可能であるが、例えば、安曇濾紙株式会社製A No3250を用いることができる。濾過工程においては、上記混合物を1kg/hr以上100kg/hr以下の速度で析出物を濾過によって濾別し、均一な溶液を得ることが好ましい。濾過している間は、濾液の温度を一定に保持するために、濾過器の外側に設けられたジャケットに冷却水を通水してもよい。
【0042】
本実施形態の製造方法において、ニオブ化合物含有水溶液におけるNb濃度が、0.10mol/kg以上になるように固体ニオブ原料を添加することが好ましい。Nb濃度が0.10mol/kg以上であることにより、触媒製造用組成物として十分なNb濃度が確保される傾向にある。ニオブ化合物含有水溶液中におけるニオブの析出を抑制し保存性を向上させる観点から、Nb濃度は、1.00mol/kg以下であることが好ましい。これらの観点から、Nb濃度は、0.20mol/kg以上1.00mol/kg以下であることがより好ましく、0.20mol/kg以上0.70mol/kg以下であることがさらに好ましい。
【0043】
また、本実施形態の製造方法において、ニオブ化合物含有水溶液における過酸化水素濃度(H濃度)は、上記モル比(過酸化水素/Nb)を満たす限り、特に限定されないが、通常、0.3mol/kg以上9.0mol/kg以下である。ニオブ化合物含有水溶液における過酸化水素濃度の上限は、好ましくは10.0mol/kg以下であり、より好ましくは9.0mol/kg以下である。一方で、過酸化水素濃度の下限は、好ましくは0.2mol/kg以上であり、より好ましくは0.3mol/kg以上である。
【0044】
[触媒製造用組成物]
上述のとおり、ニオブ化合物含有水溶液の製造において、本発明者らは過酸化水素水を用いることにより有機酸を用いずに固体ニオブ原料を溶解させニオブ化合物含有水溶液を得られることを見出し、有機酸等の酸物質の使用量が抑えられたニオブ化合物を含有する水溶液を得ることが初めてできた。
【0045】
ニオブ化合物含有水溶液を調製する際に過酸化水素を用いることにより、有機酸/Nbを2.00以下のように小さくしながら、水溶液中のNb濃度を大きくすることができる。
【0046】
したがって、本実施形態の触媒製造用組成物の一つは、気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物であって、触媒製造用組成物は、ニオブ化合物及び過酸化水素を含み、且つ任意に有機酸を含む水溶液であり、触媒製造用組成物中のNb濃度に対する有機酸量のモル比(有機酸/Nb)が0.00以上2.00以下であり、触媒製造用組成物中のNb濃度に対する過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上50以下である、触媒製造用組成物である。
【0047】
本実施形態の触媒製造用組成物におけるモル比(有機酸/Nb)は、好ましくは1.80以下であり、より好ましくは1.50以下であり、更に好ましくは1.00以下であり、特に好ましくは1.00未満である。また、モル比(有機酸/Nb)の下限は、0.00以上である。モル比(有機酸/Nb)が0.00とは、すなわち、有機酸の含有量が0である場合を含むことを意味する。モル比(有機酸/Nb)が2.00以下であることにより、有機酸の量を抑えながらNbを含む水溶液を得られる傾向にある。
【0048】
なお、本実施形態の触媒製造用組成物におけるモル比(有機酸/Nb)及びモル比(過酸化水素/Nb)は、それぞれ、触媒製造用組成物中のNb濃度、有機酸濃度(Ox濃度)及び過酸化水素濃度(H濃度)に基づいて算出することとする。それぞれの濃度の測定は、当該組成物の調製から任意時間経過したものを用いて行えばよいが、例えば1日静置後に測定する。なお、1日静置後であっても各モル比に有意な差はみられない。
【0049】
上記各濃度は、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、モル比(有機酸/Nb)を2.00以下とする方法としては、例えば、上述の本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法により調整する方法が挙げられる。
【0050】
本実施形態の触媒製造用組成物において、Nb濃度に対する、過酸化水素のモル比(過酸化水素/Nb)は、0.01以上50以下である。モル比(過酸化水素/Nb)の下限は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.0以上であり、更に好ましくは2.0以上である。一方で、モル比(過酸化水素/Nb)の上限は、好ましくは45.0以下であり、より好ましくは30.0以下である。モル比(過酸化水素/Nb)が0.01以上であることにより、有機酸の量を抑えながらNbを含む水溶液を得られる傾向にある。また、モル比(過酸化水素/Nb)が50以下であることにより、触媒製造によって得られる触媒の機能性に影響を与えることなく溶解性を高められる傾向にある。
【0051】
本実施形態の触媒製造用組成物において、Nb濃度は、上記モル比(有機酸/Nb)及びモル比(過酸化水素/Nb)を満たす限り、特に限定されないが、通常、0.2mol/kg以上1.0mol/kg以下である。触媒製造用組成物におけるNb濃度の上限は、好ましくは1.2mol/kg以下であり、より好ましくは1.0mol/kg以下である。一方で、Nb濃度の下限は、好ましくは0.1mol/kg以上であり、より好ましくは0.2mol/kg以上である。
【0052】
本実施形態の触媒製造用組成物において、過酸化水素濃度(H濃度)は、上記モル比(過酸化水素/Nb)を満たす限り、特に限定されないが、通常、0.3mol/kg以上9.0mol/kg以下である。触媒製造用組成物における過酸化水素濃度の上限は、好ましくは10.0mol/kg以下であり、より好ましくは9.0mol/kg以下である。一方で、過酸化水素濃度の下限は、好ましくは0.2mol/kg以上であり、より好ましくは0.3mol/kg以上である。
【0053】
本実施形態の触媒製造用組成物において、有機酸濃度(Ox濃度)は、上記モル比(有機酸/Nb)を満たす限り、特に限定されないが、通常、0mol/kg以上1.5mol/kg以下である。触媒製造用組成物における有機酸濃度の上限は、好ましくは1.6mol/kg以下であり、より好ましくは1.5mol/kg以下である。一方で、有機酸濃度の下限は、好ましくは0mol/kg以上であり、より好ましくは0.1mol/kg以上である。
【0054】
本実施形態の触媒製造用組成物及び本実施形態の製造方法により得られる触媒製造用組成物は、固体ニオブ原料の水溶液とする際に過酸化水素を用いることで、固体ニオブ原料の溶解性が高められる。この理由の一つとして、過酸化水素を用いることにより、有機酸のみを用いた場合とは異なる錯体が形成され、この錯体が溶解性の向上に寄与しているためであると考えられる。
【0055】
本実施形態において形成される錯体としては、例えば、以下の式(I)~(III)で表される錯体等が挙げられる(Inorg. Chem., Vol. 43(19), 5999, 2004、ACS Catal., vol.8, 4645, 2018等参照)。
【0056】
【化1】
(Oxは、有機酸による配位子を表す。)
上記式(I)~(III)の構造は次のように説明される。
式(I):シュウ酸1分子及び過酸化水素2分子が配位したニオブ錯体
式(II):シュウ酸1分子が配位したニオブ錯体
式(III)過酸化水素1分子が配位したニオブ錯体
【0057】
本実施形態の触媒製造用組成物は、有機酸を含まない場合は、上記式(III)で表される錯体又はその他の構造の錯体が含まれ得る。有機酸を含む場合は、本実施例形態の触媒製造用組成物は、上記式(I)~(III)のうち少なくとも1つ又はその他の構造の錯体が含まれ得る。
【0058】
実際、本実施形態の触媒製造用組成物及び本実施形態の製造方法により得られる触媒製造用組成物をラマン分光法により測定したとき、有機酸のみを用いた場合の錯体とは異なるラマンスペクトルが取得される(図1参照)。したがって、本実施形態における触媒製造用組成物のラマン分光法による測定は、本実施形態の触媒製造用組成物の同定方法の一つとすることができる。
【0059】
このような観点から、本実施形態の触媒製造用組成物の一つは、気相接触酸化反応用触媒又は気相接触アンモ酸化反応用触媒の製造に用いられる触媒製造用組成物であって、触媒製造用組成物が、ニオブ化合物及び過酸化水素を含み、任意に有機酸を含む水溶液であり、当該触媒製造用組成物をラマン分光法により測定したとき得られるラマンスペクトルにおいて、500cm-1以上650cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Xの比に対する、890cm-1以上1000cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Yの比(Y/X)が、0以上1.0以下であることが好ましい。
【0060】
比(Y/X)が1.0以下であることにより、Nbの水に対する溶解性を高められる傾向にある。比(Y/X)は、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.6以下であり、さらに好ましくは0.4以下であり、特に好ましくは0.3以下である。比(X/Y)の下限は、特に制限されないが、通常0.0以上である。比(X/Y)が0.0とは、すなわち、0.0は有機酸のみを用いた場合の錯体を含まない場合を意味する。
【0061】
また、本実施形態の触媒製造用組成物は、そのラマン分光法によるラマンスペクトルにおいて、685cm-1以上785cm-1以下の範囲にピークを有することが好ましい。685cm-1以上785cm-1以下の範囲にピークを有することは、Nb-O-Nbの構造が多く存在することを意味する。Nb濃度が高い水溶液においてはNb-O-Nbの構造が形成されやすいため、685cm-1以上785cm-1以下の範囲のピークによってこのことを確認できる。そして、このようにNb濃度が高い水溶液は、触媒の製造工程において適切な条件に整えやすくなるため望ましい。特に乾燥工程においてNb濃度が高い方が製造される触媒粒子の形状が球形に近づき、良好になる。
【0062】
なお、Yのピークについては、シュウ酸が配位したNbに生じるNb=O結合の振動に対応するものであり、Xのピークについては、シュウ酸が配位するかどうかに関わらずNb-O結合の振動に対応するものである(J. Raman. Spec., Vol. 22, 83-89, 1991等参照)。
【0063】
なお、本実施形態の触媒製造用組成物は、モル比(有機酸/Nb)とモル比(過酸化水素/Nb)による構成と、比(Y/X)による構成を共に有するものであってもよい。
【0064】
また、触媒製造用組成物におけるニオブ化合物及び有機酸については、上記触媒製造用組成物の製造方法において述べたものと同様のものを上げることができる。
【0065】
[触媒の製造方法]
本実施形態の一つは、不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる気相接触酸化反応用又は気相接触アンモ酸化反応用の酸化物触媒の製造方法である。本実施形態の酸化物触媒の製造方法は、本実施形態の触媒製造用組成物を使用するもの、あるいは、本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法の工程を含むものである限り特に限定されない。すなわち、本実施形態の酸化物触媒の製造方法は、不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる酸化物触媒の製造方法であって、本実施形態の触媒製造用組成物を使用して酸化物触媒を得る工程を含む。また、本実施形態の酸化物触媒の製造方法は、不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造に用いられる酸化物触媒の製造方法であって、本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法の工程を含む。
【0066】
本実施形態に係る触媒の製造方法としては、具体的には、Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、触媒製造用組成物と水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、前駆体スラリーを乾燥して乾燥粒子を得る乾燥工程と、乾燥粒子を焼成し焼成粒子を得る焼成工程と、を含むことが好ましい。
【0067】
また、本実施形態に係る触媒の製造方法としては、本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法により触媒製造用組成物を調製する工程と、Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、触媒製造用組成物と水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、前駆体スラリーを乾燥して乾燥粒子を得る乾燥工程と、乾燥粒子を焼成し焼成粒子を得る焼成工程と、を含むことが好ましい。
【0068】
これら方法により得られる触媒としては、Mo、V、Sb及びNbを含有するアクリロニトリル製造用の触媒であることが好ましい。以下各工程について説明するが、本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法に触媒製造用組成物を調製する工程については、前述のとおりであるため省略する。
【0069】
(前駆体スラリー調製工程)
本実施形態に係る触媒の製造方法としては、最初の工程として、本実施形態の触媒製造用組成物及び/又は本実施形態の触媒製造用組成物の製造方法により得られる触媒製造用組成物を含む前駆体スラリーを調製する前駆体スラリー調製工程を含んでいてもよい。
【0070】
前駆体スラリー調製工程は、Mo原料、V原料及びSb原料を含む水性混合液を調製する工程と、触媒製造用組成物と水性混合液とを混合し前駆体スラリーを調製する工程と、を含む。
【0071】
ここで、固体ニオブ原料及び任意で含んでいてもよい有機酸以外の前駆体スラリーを調製するための原料としては、特に限定されず、例えば、下記の化合物を用いることができる。Moの原料としては、例えば、酸化モリブデン、ジモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸が挙げられ、中でも、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを好適に用いることができる。Vの原料としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジルが挙げられ、中でも、メタバナジン酸アンモニウムを好適に用いることができる。Sbの原料としては、アンチモン酸化物を好適に用いることができる。
【0072】
以下、一例として、Mo、V、Nb、Sbを含む前駆体スラリーを調製する場合を挙げ、具体的に説明する。まず、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、三酸化二アンチモン粉末を水に添加し、80℃以上に加熱して水性混合液を調製する。このとき、例えば触媒がCeを含む場合は、Ceを含む化合物を同時に混合することができる。Ceを含む化合物としては、例えば、硝酸セリウム・6水和物が好適に用いられる。
【0073】
次に、目的とする組成に合わせて、先に調製した本実施形態の触媒製造用組成物と水性混合液を混合して、前駆体スラリーを得る。例えば触媒がWやCeを含む場合は、Wを含む化合物やCeを含む化合物を好適に混合して前駆体スラリーを得る。
【0074】
Wを含む化合物としては、例えば、メタタングステン酸アンモニウムが好適に用いられる。Ceを含む化合物としては、例えば、硝酸セリウム・6水和物が好適に用いられる。WやCeを含む化合物は、水性混合液の中に添加することもできるし、触媒製造用組成物と水性混合液を混合する際に同時に添加することもできる。
【0075】
触媒が複合金属酸化物をシリカ担体に担持した触媒である場合は、シリカ原料を含むように前駆体スラリーを調製することができ、この場合、シリカ原料は適宜添加することができる。シリカ原料としては、例えばシリカゾルが好適に用いられる。
【0076】
また、アンチモンを用いる場合は、水性混合液又は調合途中の水性混合液の成分を含む液に、過酸化水素を添加することが好ましい。このとき、H22/Sb(モル比)は、好ましくは0.01以上5以下であり、より好ましくは0.05以上4以下である。またこのとき、30℃以上70℃以下で、30分以上2時間以下撹拌を続けることが好ましい。このようにして得られる前駆体スラリーは均一な混合液の場合もあるが、通常はスラリーである。
【0077】
(乾燥工程)
乾燥工程においては、上述の工程で得られた前駆体スラリーを乾燥して、乾燥粒子を得る。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥又は蒸発乾固によって行うことができるが、噴霧乾燥により微小球状の乾燥粒子を得ることが好ましい。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式、又は高圧ノズル方式によって行うことができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。噴霧乾燥装置の乾燥機入口温度は150℃以上300℃以下が好ましく、乾燥機出口温度は100℃以上160℃以下が好ましい。
【0078】
(焼成工程)
焼成工程においては、乾燥工程で得られた乾燥粒子を焼成し、焼成粒子を得る。焼成装置としては、回転炉(ロータリーキルン)を使用することができる。焼成器の形状は特に限定されないが、管状であると、連続的な焼成を実施することができるため好ましい。焼成管の形状は特に限定されないが、円筒であるのが好ましい。加熱方式は外熱式が好ましく、電気炉を好適に使用できる。
【0079】
焼成管の大きさ、材質等は焼成条件や製造量に応じて適当なものを選択することができるが、その内径は、好ましくは70mm以上2000mm以下、より好ましくは100mm以上1200mm以下であり、その長さは、好ましくは200mm以上10000mm以下、より好ましくは800mm以上8000mm以下である。焼成器に衝撃を与える場合、焼成器の肉厚は衝撃により破損しない程度の十分な厚みを持つという観点から、好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上であり、また衝撃が焼成器内部まで十分に伝わるという観点から、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下である。焼成器の材質としては、耐熱性があり衝撃により破損しない強度を持つものであること以外は特に限定されず、SUSを好適に使用できる。
【0080】
焼成管の中には、粒子が通過するための穴を中心部に有する堰板を、粒子の流れと垂直に設けて焼成管を2つ以上の区域に仕切ることもできる。堰板を設置することにより焼成管内滞留時間を確保しやすくなる。堰板の数は1つでも複数でもよい。堰板の材質は金属が好ましく、焼成管と同じ材質のものを好適に使用できる。堰板の高さは確保すべき滞留時間に合わせて調整することができる。例えば内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉で250g/hrで粒子を供給する場合、堰板は好ましくは5mm以上50mm以下、より好ましくは10mm以上40mm以下、さらに好ましくは13mm以上35mm以下である。堰板の厚みは特に限定されず、焼成管の大きさに合わせて調整することが好ましい。例えば内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉の場合、焼成管の厚みは、好ましくは0.3mm以上30mm以下、より好ましくは0.5mm以上15mm以下である。
【0081】
乾燥粒子の割れ、ひび等を防ぐと共に、均一に焼成するために、焼成管を回転させるのが好ましい。焼成管の回転速度は、好ましくは0.1rpm以上30rpm以下、より好ましくは0.5rpm以上20rpm以下、さらに好ましくは1rpm以上10rpm以下である。
【0082】
乾燥粒子の焼成には、乾燥粒子の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550℃以上800℃以下の範囲内にある温度まで連続的に又は断続的に昇温することが好ましい。
【0083】
焼成雰囲気は、空気雰囲気下でも空気流通下でもよいが、焼成の少なくとも一部を、窒素等の実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施することが好ましい。不活性ガスの供給量は乾燥粒子1kg当たり、50NL以上であり、好ましくは50NL以上5000NL以下であり、より好ましくは50NL以上3000NL以下である(NLは、標準温度及び圧力条件、即ち0℃、1気圧で測定したLを意味する)。このとき、不活性ガスと乾燥粒子は向流でも並流でも問題ないが、乾燥粒子から発生するガス成分や、乾燥粒子とともに微量混入する空気を考慮すると、向流接触が好ましい。
【0084】
焼成工程は、1段でも実施可能であるが、焼成が前段焼成と本焼成からなり、前段焼成を250℃以上400℃以下の温度範囲で行い、本焼成を550℃以上800℃以下の温度範囲で行うことが好ましい。前段焼成と本焼成を連続して実施してもよいし、前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施してもよい。また、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれていてもよい。
【0085】
前段焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度250℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上400℃以下の範囲で行う。250℃以上400℃以下の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、250℃以上400℃以下の範囲内で温度が変動する、若しくは緩やかに昇温、降温してもよい。加熱温度の保持時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは3時間以上12時間以下である。
【0086】
前段焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
【0087】
前段焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度には特に限定はないが、通常0.1℃/min以上15℃/min以下程度であり、好ましくは0.5℃/min以上5℃/min以下、より好ましくは1℃/min以上2℃/minである。
【0088】
本焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、550℃以上800℃以下、好ましくは580℃以上750℃以下、より好ましくは600℃以上720℃以下、さらに好ましくは620℃以上700℃以下で実施する。620℃以上700℃以下の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、620℃以上700℃以下の範囲内で温度が変動する、若しくは緩やかに昇温、降温しても構わない。本焼成の時間は0.5時間以上20時間以下、好ましくは1時間以上15時間以下である。
【0089】
焼成管を堰板で区切る場合、乾燥粒子及び/又は複合酸化物触媒は少なくとも2つ、好ましくは2以上20以下、より好ましくは4以上15以下の区域を連続して通過する。温度の制御は1つ以上の制御器を用いて行うことができるが、所望の焼成パターンを得るために、これら堰で区切られた区域ごとにヒーターと制御器を設置し、制御することが好ましい。例えば、堰板を焼成管の加熱炉内に入る部分の長さを8等分するように7枚設置し、8つの区域に仕切った焼成管を用いる場合、乾燥粒子及び/又は複合酸化物触媒の温度が所望の焼成温度パターンとなるよう8つの区域を各々の区域について設置したヒーターと制御器により設定温度を制御することが好ましい。なお、不活性ガス流通下の焼成雰囲気には、所望により、酸化性成分(例えば酸素)又は還元性成分(例えばアンモニア)を添加してもかまわない。
【0090】
本焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
【0091】
本焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度には特に限定はないが、一般に0.1℃/min以上15℃/min以下、好ましくは0.5℃/min以上10℃/min以下、より好ましくは1℃/min以上8℃/min以下である。
【0092】
本焼成終了後の平均降温速度は、好ましくは0.05℃/min以上100℃/min以下、より好ましくは0.1℃/min以上50℃/min以下である。また、本焼成温度より低い温度で一旦保持することも好ましい。保持する温度は、本焼成温度より10℃、好ましくは50℃、より好ましくは100℃低い温度である。保持する時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは10時間以上である。
【0093】
前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施する場合は、本焼成で低温処理を行うことが好ましい。
【0094】
低温処理に要する時間、すなわち乾燥粒子及び/又は複合酸化物触媒の温度を低下させた後、昇温して焼成温度にするまでに要する時間は、焼成器の大きさ、肉厚、材質、触媒生産量、連続的に乾燥粒子及び/又は複合酸化物触媒を焼成する一連の期間、固着速度、固着量等により適宜調整することが可能である。例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製焼成管を使用する場合においては、連続的に触媒を焼成する一連の期間中に好ましくは30日以内、より好ましくは15日以内、さらに好ましくは3日以内、特に好ましくは2日以内である。
【0095】
例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製の焼成管を有する回転炉により6rpmで回転しながら35kg/hrの速度で乾燥粒子を供給し、本焼成温度を645℃に設定する場合、温度を400℃まで低下させた後、昇温して645℃にする工程を1日程度で行うことができる。1年間連続的に焼成する場合、このような低温処理を1ヶ月に1回の頻度で実施することで、安定して酸化物層温度を維持しながら焼成することができる。
【0096】
[触媒]
本実施形態に係る触媒の製造方法により得られる触媒は、例えば、式(1)で示される複合金属酸化物を含む触媒である。
Mo1aNbbSbcdn (1)
(式中、Yは、Mn、W、B、Ti、Al、Te、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、a、b、c、d及びnは、それぞれ、V、Nb、Sb、Yのモリブデン(Mo)1原子当たりの原子比を示し、0.1≦a≦1、0.01≦b≦1、0.01≦c≦1、0≦d≦1であり、nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定される酸素原子の数を示す。)
【0097】
Mo1原子当たりの原子比a、b、c、dは、それぞれ、0.1≦a≦1、0.01≦b≦1、0.01≦c≦1、0≦d≦1であることが好ましく、0.1≦a≦0.5、0.01≦b≦0.5、0.1≦c≦0.5、0.0001≦d≦0.5であることがより好ましく、0.15≦a≦0.3、0.05≦b≦0.2、0.15≦c≦0.3、0.0002≦d≦0.2であることがさらに好ましい。
【0098】
触媒を流動床で用いる場合には、充分な強度が要求されるので、触媒は、シリカ担体に金属複合酸化物が担持されている触媒が好ましい。本実施形態において、複合金属酸化物とシリカ担体との合計の全質量に対し、シリカ担体の質量は、SiO2換算で、好ましくは10質量%以上80質量%以下、より好ましくは20質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上55質量%以下である。担体であるシリカの質量は、強度と粉化防止、触媒を使用する際の安定運転の容易さ及びロスした触媒の補充を低減する観点から、複合金属酸化物とシリカの合計の全質量に対し、10質量%以上であることが好ましく、十分な触媒活性を達成する観点から、複合金属酸化物とシリカとの合計の全質量に対し80質量%以下であることが好ましい。特に触媒を流動床で用いる場合、シリカの量が80質量%以下であると、シリカ担持触媒(複合金属酸化物+シリカ担体)の比重が適切で、良好な流動状態をつくり易い。
【0099】
[アクリロニトリルの製造方法]
本実施形態の一つはアクリロニトリルの製造方法であって、当該製造方法は、本実施形態に係る触媒の製造方法により得られる触媒を用いる。本実施形態のアクリロニトリルの製造方法は、上述の方法により触媒を調製し、得られた触媒にプロパン、アンモニア及び酸素(分子状酸素)を気相で接触(気相接触アンモ酸化反応)させてアクリロニトリルを製造する方法であることが好ましい。
【0100】
プロパン及びアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用できる。供給酸素源としては、空気、純酸素又は純酸素で富化した空気を用いることができる。さらに、希釈ガスとしてヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素等を供給してもよい。
【0101】
アンモ酸化反応の場合は、反応系に供給するアンモニアのプロパンに対するモル比は0.3以上1.5以下、好ましくは0.8以上1.2以下である。酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、反応系に供給する分子状酸素のプロパンに対するモル比は0.1以上6以下、好ましくは0.1以上4以下である。
【0102】
また、酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、反応圧力は0.5atm以上5atm以下、好ましくは1atm以上3atm以下であり、反応温度は350℃以上500℃以下、好ましくは380℃以上470℃以下であり、接触時間は0.1sec・g/cc以上10sec・g/cc以下、好ましくは0.5sec・g/cc以上5sec・g/cc以下である。
【0103】
本実施形態において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)×P
ここで、
W=触媒の質量(g)、
F=標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、
T=反応温度(℃)、
P=反応圧力(atm)である。
プロパン転化率及びアクリロニトリル収率は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
【0104】
反応方式は、固定床、流動床、移動床等の従来の方式を採用できるが、反応熱の除熱が容易で触媒層の温度がほぼ均一に保持できること、触媒を反応器から運転中に抜き出すことが可能である、触媒を追加することができる等の理由から、流動床反応が好ましい。
【実施例
【0105】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0106】
[実施例1]
(触媒製造用組成物の調製)
水137.49kgを混合槽内に加え、その後、水を50℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕1.14kgを投入し、溶解させた。さらに過酸化水素水(35.5質量%水溶液)5.74kgを投入し、続いてニオブ酸(Nb25換算で75.0質量%)5.3kgを添加した。この液を50℃で6時間加熱撹拌することによって、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例1に係る触媒製造用組成物とした。
【0107】
(触媒製造用組成物におけるNb濃度、シュウ酸濃度、及び過酸化水素濃度)
まず、るつぼに、触媒製造用組成物10gを精秤し、120℃で2時間乾燥した後、600℃で2時間熱処理して得られた固体のNb25の重さから触媒製造用組成物のNb濃度を下記の様に算出した。
[焼成後に得られる固体の重量(単位:g) ]÷(265.8÷2)÷[精秤した触媒製造用組成物の重量(単位:kg)]=[触媒製造用組成物のNb濃度(単位:mol/kg) ]
なお、265.8はNbの分子量(単位:g/mol)である。
【0108】
また、300mLのガラスビーカーに触媒製造用組成物3gを精秤し、約80℃の熱水20mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。このようにして得られた混合液をウォーターバス中で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4を用いて滴定した。KMnO4によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸及び過酸化水素の合計濃度は、滴定量から次式に従って算出した。
2KMnO4+3H2SO4+5H224→K2SO4+2MnSO4+10CO2+8H2
2KMnO4+3H2SO4+5H22→K2SO4+2MnSO4+5O2+8H2
【0109】
なお、上記測定において、触媒製造用組成物に沈殿が見られた場合、デカンテーションにより沈殿物と上澄みに分離し、当該上澄み部分の濃度を測定することとした。
シュウ酸濃度は、イオンクロマトグラフィーによって定量した。
【0110】
イオンクロマトグラフィーは、東ソー社のイオンクロマトグラフィーシステムIC-2010を使用し、サプレッサー方式でカラム TSKgel SuperIC‐AZ(4.6 mmI.D.×15 cm)を用いて分析を行った。500倍に希釈した試料を30μL注入し、絶対検量線法で濃度を分析した。
過酸化水素の濃度は、滴定によって求めたシュウ酸と過酸化水素の合計濃度と、イオンクロマトグラフィーによって求めたシュウ酸濃度の差分から算出した。
【0111】
上記の要領にて、得られた触媒製造用組成物のNb濃度、過酸化水素濃度、及びシュウ酸濃度を測定し、モル比(シュウ酸/Nb;表中で「Ox/Nb」と表記、過酸化水素/Nb;表中で「H/Nb」と表記)を算出した。
【0112】
後述するように調製された実施例2~5及び比較例1~3に係る触媒製造用組成物についても、実施例1と同様に各成分の濃度を測定した。
【0113】
[実施例2]
水の量を57.95kg、過酸化水素水の添加量を86.03kg、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を0.38kgとすること以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例2に係る触媒製造用組成物とした。
【0114】
[実施例3]
水の量を15.32kg、過酸化水素水の添加量を129.05kgとし、シュウ酸二水和物を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例3に係る触媒製造用組成物とした。
【0115】
[実施例4]
ニオブ酸の添加量を12.20kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を13.09kg、水の量を98.00kg、過酸化水素水の量を26.38kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例4に係る触媒製造用組成物とした。
【0116】
[実施例5]
ニオブ酸の添加量を12.20kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を13.09kg、水の量を111.19kgとし、過酸化水素水の添加量を13.19kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例5に係る触媒製造用組成物とした。
【0117】
[実施例6]
ニオブ酸の添加量を12.20kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を0.87kg、水の量を4.68kgとし、過酸化水素水の添加量を131.92kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例6に係る触媒製造用組成物とした。
【0118】
[実施例7]
ニオブ酸の添加量を17.24kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を12.33kg、水の量を82.82kgとし、過酸化水素水の添加量を37.28kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例7に係る触媒製造用組成物とした。
【0119】
[実施例8]
ニオブ酸の添加量を18.61kg、水の量を10.68kg、過酸化水素水の添加量を120.71kgとし、シュウ酸二水和物を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例8に係る触媒製造用組成物とした。
【0120】
[実施例9]
ニオブ酸の添加量を18.61kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を6.65kg、水の量を24.15kgとし、過酸化水素水の添加量を100.59kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例9に係る触媒製造用組成物とした。
【0121】
[実施例10]
ニオブ酸の添加量を18.61kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を19.96kg、水の量を101.38kgとし、過酸化水素水の添加量を10.06kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例10に係る触媒製造用組成物とした。
【0122】
[実施例11]
ニオブ酸の添加量を18.61kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を21.29kg、水の量を9.51kgとし、過酸化水素水の添加量を100.59kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例11に係る触媒製造用組成物とした。
【0123】
[実施例12]
ニオブ酸の添加量を18.61kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を22.62kg、水の量を98.72kgとし、過酸化水素水の添加量を10.06kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例12に係る触媒製造用組成物とした。
【0124】
[実施例13]
ニオブ酸の添加量を18.61kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を23.95kg、水の量を97.39kgとし、過酸化水素水の添加量を10.06kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例13に係る触媒製造用組成物とした。
【0125】
[実施例14]
ニオブ酸の添加量を18.57kgとし、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕の添加量を26.55kg、水の量を99.56kgとし、過酸化水素水の添加量を5.02kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして、均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を実施例14に係る触媒製造用組成物とした。
【0126】
[比較例1]
(触媒製造用組成物の調製)
水83.12kgを混合槽内に加え、その後、水を40℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕52.27kgを投入し、続いてNb25として75.0質量%を含有するニオブ酸14.62kgを投入し、両者を水中で混合した。この液を95℃で4時間加熱撹拌することによって得られた水性混合液を攪拌しながら自然放冷することによって40℃まで冷却した。その後、-10℃/hrで2℃まで冷却し、1時間放置した。次いで、濾過機に析出した固体と混合液の混合体を注ぎ込み、析出した固体を濾過することにより均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を比較例1に係る触媒製造用組成物とした。
【0127】
[比較例2]
(触媒製造用組成物の調製)
水75.14kgを混合槽内に加え、その後、水を50℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕57.4kgを投入し、続いてNb25として76.3質量%を含有するニオブ酸17.49kgを投入し、両者を水中で混合した。この液を90℃で6時間加熱撹拌することによって得られた水性混合液を攪拌しながら自然放冷することによって40℃まで冷却した。その後、-10℃/hrで2℃まで冷却し、1時間放置した。次いで、濾過機に析出した固体と混合液の混合体を注ぎ込み、析出した固体を濾過することにより均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を比較例2に係る触媒製造用組成物とした。
【0128】
[比較例3]
(触媒製造用組成物の調製)
水76.38kgを混合槽内に加え、その後、水を50℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕54.74kgを投入し、続いてNb25として76.0質量%を含有するニオブ酸18.89kgを投入し、両者を水中で混合した。この液を95℃で3時間加熱撹拌することによって得られた水性混合液を攪拌しながら自然放冷することによって40℃まで冷却した。その後、-10℃/hrで2℃まで冷却し、1時間放置した。次いで、濾過機に析出した固体と混合液の混合体を注ぎ込み、析出した固体を濾過することにより均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を比較例3に係る触媒製造用組成物とした。
【0129】
[比較例4]
(触媒製造用組成物の調製)
水4.08kgおよび過酸化水素水(35.5質量%水溶液)79.04gを混合槽内に加え、その後、水を40℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕52.3kgを投入し、続いてNb25として75.0質量%を含有するニオブ酸14.62kgを投入し、両者を水中で混合した。この液を95℃で4時間加熱撹拌することによって得られた水性混合液を攪拌しながら自然放冷することによって40℃まで冷却した。その後、-10℃/hrで2℃まで冷却し、1時間放置した。次いで、濾過機に析出した固体と混合液の混合体を注ぎ込み、析出した固体を濾過することにより均一な混合液を得た。これによって得られた水溶性混合液を比較例4に係る触媒製造用組成物とした。
【0130】
(触媒の製造)
[触媒製造例1]
実施例1に係る触媒製造用組成物を用いて、次のように複合金属酸化物の組成がMo0.24Nb0.15Sb0.270.03Ce0.005On(nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定される)となるように触媒を製造した。
(前駆体スラリーの調製)
水24.27kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4HO〕を4.03kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を0.64kg、三酸化二アンチモン〔Sb〕を0.89kg、及び硝酸セリウムを0.05kg加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性混合液(B1)を調製した。
【0131】
得られた水性混合液(B1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(B1)に、34.0質量%のSiOを含有するシリカゾル7.04kgを添加し、さらに、35.5質量%のHを含有する過酸化水素水1.78kgを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。さらにその液に、実施例1で得た触媒製造用組成物を17.01kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.45kgの酸化ニオブを含有する)と、粉体シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」)2.4kgを水21.6kgに分散させた分散液と、酸化タングステンとして50.2重量%含むメタタングステン酸アンモニウム液0.319kgとを順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌し、前駆体スラリー(D1)を得た。
【0132】
(乾燥粒子(E1)の調製)
次に、上述のようにして得られた前駆体スラリー(D1)を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状で平均粒子径51μmの乾燥粒子(E1)を得た。乾燥器の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。
【0133】
(乾燥粒子(E1)の焼成)
上述のようにして得られた乾燥粒子(E1)500gを内径3インチ(76mm)、長さ300mm、肉厚3mmのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、焼成管をその長さ方向を軸として回転させながら前段焼成及び本焼成を行った。前段焼成では、室温から昇温速度0.75℃/分で340℃まで昇温し、340℃で1時間焼成した。続けて、本焼成では、340℃から昇温速度3℃/分で670℃まで昇温し、670℃で2時間保持した後、350℃まで降温速度1℃/分で降温することにより焼成し焼成体(F1)を得た。
【0134】
(突起体の除去)
下記の方法で触媒粒子表面に存在する突起体を除去した。底部に直径1/64インチの3つの穴のある穴あき円盤を備え、上部にペーパーフィルターを設けた垂直チューブ(内径41.6mm、長さ70cm)に焼成体(F1)を50g投入した。この時の気流が流れる方向における気流長さは52mm、気流の平均線速は310m/sであった。24時間後に得られた複合酸化物触媒(G1)中には突起体が存在しなかった。
【0135】
[触媒製造例2~3]
実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて実施例2~3に係る触媒製造用組成物17.01kgを用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、触媒製造例2~3に係る触媒をそれぞれ製造した。
【0136】
[触媒製造例4~6]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例4~6に係る触媒製造用組成物を7.40kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、触媒製造例4~6に係る触媒をそれぞれ製造した。
【0137】
[触媒製造例7]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例7に係る触媒製造用組成物を5.24kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、触媒製造例7に係る触媒をそれぞれ製造した。
【0138】
[触媒製造例8~14]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例8~14に係る触媒製造用組成物を4.86kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、触媒製造例8~14に係る触媒をそれぞれ製造した。
【0139】
[比較触媒製造例1]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する比較例1に係る触媒製造用組成物を4.54kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、比較触媒製造例1に係る触媒を製造した。
【0140】
[比較触媒製造例2]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する比較例2に係る触媒製造用組成物を3.78kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、比較触媒製造例2に係る触媒を製造した。
【0141】
[比較触媒製造例3]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する比較例3に係る触媒製造用組成物を4.73kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、比較触媒製造例3に係る触媒を製造した。
【0142】
[比較触媒製造例4]
ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する実施例1に係る触媒製造用組成物17.01kgに代えて、ニオブ酸化物の重量として0.45kgに相当する比較例4に係る触媒製造用組成物を4.48kg用いたことを除き、触媒製造例1と同様にして、比較触媒製造例4に係る触媒を製造した。
【0143】
[触媒製造例15]
触媒製造例10において、前駆体スラリーの調製を次のように変更したこと以外は、触媒製造例10と同様にして、複合金属酸化物の組成がMo10.17Nb0.14Sb0.270.03Ce0.005n(nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定される)となるように、触媒製造例15に係る触媒を製造した。
(前駆体スラリーの調製)
水22.13gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4HO〕を4.17kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を0.47kg、三酸化二アンチモン〔Sb〕を0.93kg、及び硝酸セリウムを0.05kg加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性混合液(B1)を調製した。
【0144】
得られた水性混合液(B1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(B1)に、34.0質量%のSiOを含有するシリカゾル7.04kgを添加し、さらに、35.5質量%のHを含有する過酸化水素水1.78kgを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。さらにその液に、実施例10で得た触媒製造用組成物を4.70kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.44kgの酸化ニオブを含有する)と、粉体シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」)2.4kgを水21.6kgに分散させた分散液と、酸化タングステンとして50.2重量%含むメタタングステン酸アンモニウム液0.325kgとを順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌し、前駆体スラリー(D1)を得た。
【0145】
[比較触媒製造例5]
実施例10に係る触媒製造用組成物に代えて、比較例2で得た触媒製造用組成物を4.90kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.44kgの酸化ニオブを含有する)用いたことを除き、触媒製造例15と同様にして、比較触媒製造例5に係る触媒を製造した。
【0146】
[触媒製造例16]
触媒製造例10において、前駆体スラリーの調製を次のように変更したこと以外は、触媒製造例10と同様にして、複合金属酸化物の組成がMo10.24Nb0.19Sb0.180.005Ce0.005n(nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定される)となるように、触媒製造例16に係る触媒を製造した。
【0147】
(前駆体スラリーの調製)
水20.91gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4HO〕を4.28kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を0.68kg、三酸化二アンチモン〔Sb〕を0.63kg、及び硝酸セリウムを0.05kg加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性混合液(B1)を調製した。
【0148】
得られた水性混合液(B1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(B1)に、34.0質量%のSiOを含有するシリカゾル7.04kgを添加し、さらに、35.5質量%のHを含有する過酸化水素水1.78kgを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。さらにその液に、実施例10で得た触媒製造用組成物を6.54kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.61kgの酸化ニオブを含有する)と、粉体シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」)2.4kgを水21.6kgに分散させた分散液と、酸化タングステンとして50.2重量%含むメタタングステン酸アンモニウム液0.056kgとを順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌し、前駆体スラリー(D1)を得た。
【0149】
[比較触媒製造例6]
実施例10に係る触媒製造用組成物に代えて、比較例2で得た触媒製造用組成物を6.83kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.61kgの酸化ニオブを含有する)用いたことを除き、触媒製造例16と同様にして、比較触媒製造例6に係る触媒を製造した。
【0150】
[触媒製造例17]
触媒製造例10において、前駆体スラリーの調製を次のように変更したこと以外は、触媒製造例10と同様にして、複合金属酸化物の組成がMo10.25Nb0.1Sb0.270.05Ce0.005n(nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定される)となるように、触媒製造例17に係る触媒を製造した。
【0151】
(前駆体スラリーの調製)
水23.99gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4HO〕を4.05kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を0.67kg、三酸化二アンチモン〔Sb〕を0.90kg、及び硝酸セリウムを0.05kg加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性混合液(B1)を調製した。
【0152】
得られた水性混合液(B1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(B1)に、34.0質量%のSiOを含有するシリカゾル7.04kgを添加し、さらに、35.5質量%のHを含有する過酸化水素水1.78kgを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。さらにその液に、実施例10で得た触媒製造用組成物を3.26kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.30kgの酸化ニオブを含有する)と、粉体シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」)2.4kgを水21.6kgに分散させた分散液と、酸化タングステンとして50.2重量%含むメタタングステン酸アンモニウム液0.526kgとを順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌し、前駆体スラリー(D1)を得た。
【0153】
[比較触媒製造例7]
実施例10に係る触媒製造用組成物に代えて、比較例2で得た触媒製造用組成物を3.40kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.30kgの酸化ニオブを含有する)用いたことを除き、触媒製造例17と同様にして、比較触媒製造例7に係る触媒を製造した。
【0154】
[触媒製造例18]
触媒製造例10において、前駆体スラリーの調製を次のように変更したこと以外は、触媒製造例10と同様にして、複合金属酸化物の組成がMo10.25Nb0.14Sb0.260.05Ti0.05Mn0.03Ce0.01n(nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定される)となるように、触媒製造例18に係る触媒を製造した。
【0155】
(前駆体スラリーの調製)
水25.45gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4HO〕を3.97kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を0.65kg、三酸化二アンチモン〔Sb〕を0.85kg、シュウ酸チタニルアンモニウム1水和物を0.328kg、硝酸マンガン6水和物を0.192kg及び硝酸セリウムを0.10kg加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性混合液(B1)を調製した。
【0156】
得られた水性混合液(B1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(B1)に、34.0質量%のSiOを含有するシリカゾル7.04kgを添加し、さらに、35.5質量%のHを含有する過酸化水素水1.78kgを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。さらにその液に、実施例10で得た触媒製造用組成物を4.47kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.42kgの酸化ニオブを含有する)と、粉体シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」)2.4kgを水21.6kgに分散させた分散液と、酸化タングステンとして50.2重量%含むメタタングステン酸アンモニウム液0.516kgとを順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌し、前駆体スラリー(D1)を得た。
【0157】
[比較触媒製造例8]
実施例10に係る触媒製造用組成物に代えて、比較例2で得た触媒製造用組成物を4.67kg(酸化ニオブ(Nb)に換算した重量として0.42kgの酸化ニオブを含有する)用いたことを除き、触媒製造例18と同様にして、比較触媒製造例7に係る触媒を製造した。
【0158】
(アクリロニトリル収率の測定)
各触媒製造例及び比較触媒製造例で得られた触媒を用いて、次のようにアクリロニトリルを製造した。結果を表-1乃至表-5に示す。
【0159】
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に酸化物触媒を35g充填し、反応温度を440℃、反応圧力を常圧に設定して、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
<ラマン分光法による解析>
上記各例により得られた触媒製造用組成物を用いてラマン分光法による測定を行った。ラマン分光装置は、RENISHAW in Via Qontorを用い、励起レーザ波長532nm、レーザ出力27.1mW、露光時間5sec、積算回数10回で測定を行った。測定により得られた実施例4及び比較例2のラマンスペクトルを図1に示す。
【0163】
500cm-1以上650cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度X、890cm-1以上1000cm-1以下の範囲に観察される最も大きなピークの強度Yから、Y/Xを算出した。また、685cm-1以上785cm-1以下の範囲におけるピークの有無を確認した。なお、上記励起レーザ波長において試料が蛍光を発する場合は、正確な測定が不可能であるため、異なる励起レーザ波長(例えば735nmや405nm)の中から、蛍光を発しない波長を選択して用いることとする。また、ピーク強度Y/Xの比とは該当ピークのラマン信号強度の比、すなわちピークの高さの比とする。ただし、該当範囲にバックグラウンドとして他の化合物に由来する信号が重なる場合、ピーク分離を行い、該当ピークを分離したのち、該当ピークの高さからバックグラウンド強度を差し引いたものを該当ピーク強度とする。
図1