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特許7191263免震システム及び積層ゴム装置の取り外し方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】免震システム及び積層ゴム装置の取り外し方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20221209BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20221209BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
F16F15/04 E
F16F15/04 P
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022089635
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】酒井 快典
(72)【発明者】
【氏名】山口 路夫
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-038418(JP,A)
【文献】特開2016-142344(JP,A)
【文献】特許第2522527(JP,B2)
【文献】特開2006-274753(JP,A)
【文献】特開2016-176576(JP,A)
【文献】特開2006-077503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02,15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記水平力伝達部には、側面に摩擦低減材が設けられている、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項2】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記ストッパー部の内側には、摩擦低減材が設けられている、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項3】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記水平力伝達部は、
前記積層ゴム装置本体の一部であるフランジ部と、
前記フランジ部から取り外し可能な水平力伝達部材と、
を備え、
前記水平力が発生していない時の前記ストッパー部の端部の位置は、前記水平力伝達部材の高さの範囲に存在する、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項4】
前記免震システムの平面視において、前記フランジ部が、前記水平力伝達部材の外縁以内に存在する、
ことを特徴とする請求項に記載の免震システム。
【請求項5】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記免震層に、前記積層ゴム装置と並列に配置される球面滑り装置を更に備え、
前記球面滑り装置は、
前記上部構造体に配置される上沓と、
前記下部構造体に配置される下沓と、
前記上沓と前記下沓の間で摺動するスライダーと、
を有し、
前記スライダーは、少なくとも上面に曲率を有する滑り面を備え、前記上沓の下面にある曲率を有する滑り面に対して、前記スライダーの前記滑り面が摺動するようになっており、
前記球面滑り装置の上沓と下沓とが、前記水平力によって所定量だけ相対移動した際に、前記ストッパー部と前記水平力伝達部とが接触し、
前記水平力が発生していない時の、前記水平力伝達部と前記ストッパー部との正面視における重なり代は、前記球面滑り装置の上下方向移動量より大きい、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項6】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能である、
ことを特徴とする免震システムにおける前記積層ゴム装置の取り外し方法であって、
前記積層ゴム装置を取り外す前に前記ストッパー部を取り外すストッパー部取り外し工程と、
前記積層ゴム装置を取り外す積層ゴム取り外し工程と、
を含む、
ことを特徴とする積層ゴム装置の取り外し方法。
【請求項7】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部である、
ことを特徴とする免震システムにおける前記積層ゴム装置の取り外し方法であって、
前記積層ゴム装置を取り外す前に前記水平力伝達部を取り外す水平力伝達部取り外し工程と、
前記積層ゴム装置を取り外す積層ゴム取り外し工程と、
を含む、
ことを特徴とする積層ゴム装置の取り外し方法。
【請求項8】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記水平力が発生していない時の前記ストッパー部の端部の位置は、前記水平力伝達部の高さの範囲に存在する、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項9】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記免震層に、前記積層ゴム装置と並列に配置される球面滑り装置を更に備え、
前記水平力が発生していない時の、前記水平力伝達部と前記ストッパー部との正面視における重なり代は、前記球面滑り装置の上下方向移動量より大きい、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項10】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、
前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であり、
前記積層ゴム装置は、
積層ゴム装置本体と、
前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、
を備え、
前記一部は、前記水平力伝達部であり、
前記ストッパー部は円筒状に形成され、
前記水平力伝達部は、前記ストッパー部と当接する部分が円柱状に形成されている、
ことを特徴とする免震システム。
【請求項11】
上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体に固定された積層ゴム装置と、
記下部構造体に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、
を備え、
前記ストッパー部は前記下部構造体から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能である、
ことを特徴とする免震システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震システム及び積層ゴム装置の取り外し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震動による地盤の水平変位が建物等の構造物に伝達することを防ぐために、免震システムが用いられることがある。
特許文献1においては、上部構造物と下部構造物との間に配置される、すべり支承と積層ゴム装置とを組み合わせた免震装置が開示されている。当該免震装置は、すべり支承が水平移動してストッパーに衝突した後に、積層ゴムが変形する。これにより、比較的小さい地震動に対してはすべり支承のみで対応する。比較的大きい地震動によって、すべり支承の免震性能を超えた時点で、積層ゴム装置が作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-96501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免震システムが施工された建物において、何らかの理由により積層ゴム装置を交換する必要が生じることがある。
しかしながら、前記従来の免震装置においては、積層ゴム装置を取り外す際、すべり支承のストッパーを避けて取り外す必要がある。例えば、ジャッキ等により上部構造物と下部構造物との距離を広げる必要がある。したがって、免震システムの積層ゴム装置を交換する際の作業性に課題がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、積層ゴム装置の交換作業性を向上した免震システム及び積層ゴム装置の取り外し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1>本発明の態様1に係る免震システムは、上部構造体と下部構造体との間の免震層に設置され、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方に固定された積層ゴム装置と、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方に設けられ、前記免震層に水平力が作用した際に、前記積層ゴム装置の一部と当接するストッパー部と、を備え、前記ストッパー部は前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、前記一部は前記積層ゴム装置の残部から取り外し可能であることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、ストッパー部は上部構造体及び下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である、又は、積層ゴム装置の一部は積層ゴム装置の残部から取り外し可能である。これにより、積層ゴム装置を交換する際、ストッパー部を避けるためにジャッキ等により上部構造物と下部構造物との距離を広げることを不要とすることができる。よって、積層ゴム装置の交換作業性を向上することができる。
【0008】
従来の免震システムのように、すべり支承が水平移動してストッパーに接触する構成においては、先に積層ゴム装置を取り外さなければ、ストッパー部を取り外すことができない構造を有するものがあった。これに対し、本態様のように、積層ゴム装置がストッパー部に接触する構成の場合、積層ゴム装置を取り外すことなく、ストッパー部のみを取り外すことが可能である。このような構造を有することで、上述の作用効果をもたらすことができる。
【0009】
<2>本発明の態様2に係る免震システムは、態様1に係る免震システムにおいて、また、前記ストッパー部は、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか一方から前記積層ゴム装置を取り外すことなく、前記上部構造体及び前記下部構造体のいずれか他方から取り外し可能であることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、ストッパー部は、上部構造体及び下部構造体のいずれか一方から積層ゴム装置を取り外すことなく、上部構造体及び下部構造体のいずれか他方から取り外し可能である。これにより、積層ゴム装置の交換作業の前にストッパー部を取り外すことができる。よって、積層ゴム装置の交換の際にストッパー部が障害となることを防ぐことができる。
【0011】
<3>本発明の態様3に係る免震システムは、態様1又は態様2に係る免震システムにおいて、前記積層ゴム装置は、積層ゴム装置本体と、前記積層ゴム装置本体に設置され、前記免震層に水平力が作用した際に、前記ストッパー部と当接する水平力伝達部と、を備え、前記一部は、前記水平力伝達部であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、積層ゴム装置の一部は、水平力伝達部である。言い換えれば、積層ゴム装置の残部は、積層ゴム装置本体である。したがって、水平力伝達部は、積層ゴム装置本体から取り外し可能である。これにより、水平力伝達部を取り外した後の積層ゴム装置本体は、ストッパー部に影響を受けることなく交換することができる。よって、積層ゴム装置の交換作業性を向上することができる。
【0013】
<4>本発明の態様4に係る免震システムは、態様1から態様3のいずれか1つに係る免震システムにおいて、前記水平力伝達部には、側面に摩擦低減材が設けられていることを特徴とする。
【0014】
ここで、水平力伝達部とストッパー部とが接触した時に、水平力伝達部とストッパー部との間で摩擦力が発生すると、例えば、水平力伝達部及びストッパー部の表面が互いに損傷する原因となる。また、意図しない摩擦力が免震システムの復元力特性に取り込まれる原因となる。これに対し、水平力伝達部には、側面に摩擦低減材が設けられている。これにより、上述の問題が発生することを防ぐことができる。
また、水平力伝達部を積層ゴム装置本体から取り外す際、ストッパー部と水平力伝達部とが接触することがある。水平力伝達部の側面に摩擦低減材が設けられていることで、ストッパー部と水平力伝達部が接した状態から、水平力伝達部を取外し易くすることができる。
【0015】
<5>本発明の態様5に係る免震システムは、態様1から態様4のいずれか1つに係る免震システムにおいて、前記ストッパー部の内側には、摩擦低減材が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、ストッパー部の内側には、摩擦低減材が設けられている。これにより、ストッパー部の内側で摩擦力が発生することによって、水平力伝達部及びストッパー部の表面が互いに損傷することを防ぐことができる。また、意図しない摩擦力が免震システムの復元力特性に取り込まれることを防ぐことができる。
【0017】
<6>本発明の態様6に係る免震システムは、態様1から態様5のいずれか1つに係る免震システムにおいて、前記水平力伝達部は、前記積層ゴム装置本体の一部であるフランジ部と、前記フランジ部から取り外し可能な水平力伝達部材と、を備え、前記水平力が発生していない時の前記ストッパー部の端部の位置は、前記水平力伝達部材の高さの範囲に存在することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、水平力が発生していない時のストッパー部の端部の位置は、水平力伝達部材の高さの範囲に存在する。これにより、水平力伝達部とストッパー部とが当接する時は、水平力伝達部材でのみ水平力を負担するようにすることができる。よって、水平力伝達部の設計を容易にすることができる。また、水平力に合わせてフランジ部を変更することを不要とすることができる。
【0019】
<7>本発明の態様7に係る免震システムは、態様6に係る免震システムにおいて、前記免震システムの平面視において、前記フランジ部が、前記水平力伝達部材の外縁以内に存在することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、免震システムの平面視において、フランジ部が、水平力伝達部材の外縁以内に存在する。つまり、免震システムの平面視において、フランジ部は、水平力伝達部材の外側に位置しない。これにより、水平力伝達部とストッパー部とが当接する時に、フランジ部がストッパー部に当接することを防ぐことができる。よって、水平力を、水平力伝達部材のみによって負担することを確実にすることができる。
【0021】
<8>本発明の態様8に係る免震システムは、態様1から態様7のいずれか1つに係る免震システムにおいて、前記積層ゴム装置本体の上面及び下面のいずれか一方は、前記上部構造体又は前記下部構造体に接触し、いずれか他方には、前記水平力伝達部が設置されており、前記ストッパー部は、前記水平力伝達部から水平方向に離れた位置に設置され、前記ストッパー部は、前記上部構造体と前記下部構造体とが、前記水平力によって所定量だけ相対移動した際に前記水平力伝達部に接触することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、ストッパー部は、水平力伝達部から水平方向に離れた位置に設置される。これにより、水平力が発生していない時に、ストッパー部と水平力伝達部とが接触することを防ぐことができる。ストッパー部は、上部構造体と下部構造体とが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に水平力伝達部に接触する。これにより、水平力が発生してから上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動するまでの間、積層ゴム装置が作動させないようにすることができる。よって、積層ゴム装置本体の設計をする際、水平力が上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動しない程度の大きさであった場合を考慮することを不要とすることができる。よって、積層ゴム装置本体を、水平力が上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動する程度の大きさである場合のみ考慮して設計することができる。よって、積層ゴム装置を、比較的大きな水平力に特化した性能とすることができる。
【0023】
<9>本発明の態様9に係る免震システムは、態様8に係る免震システムにおいて、前記積層ゴム装置本体の上面及び下面のいずれか他方は、前記上部構造体及び前記下部構造体に接触していないことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、積層ゴム装置本体の上面及び下面のいずれか他方は、上部構造体及び下部構造体に接触していない。これにより、積層ゴム装置本体には、水平力伝達部とストッパー部とが接触するまで、水平力が付加されないようにすることができる。よって、積層ゴム装置本体の設計をする際、水平力が上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動しない程度の大きさであった場合を考慮することを不要とすることができる。
【0025】
<10>本発明の態様10に係る免震システムは、態様1から態様9のいずれか1つに係る免震システムにおいて、前記免震層に、前記積層ゴム装置と並列に配置される球面滑り装置を更に備え、前記球面滑り装置は、前記上部構造体に配置される上沓と、前記下部構造体に配置される下沓と、前記上沓と前記下沓の間で摺動するスライダーと、を有し、前記スライダーは、少なくとも上面に曲率を有する滑り面を備え、前記上沓の下面にある曲率を有する滑り面に対して、前記スライダーの前記滑り面が摺動するようになっており、前記球面滑り装置の上沓と下沓とが、前記水平力によって所定量だけ相対移動した際に、前記ストッパー部と前記積層ゴム装置の一部とが接触することを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、球面滑り装置の上沓と下沓とが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に、ストッパー部と積層ゴム装置の一部とが接触する。つまり、上沓と下沓とが所定量だけ相対移動した際に、積層ゴム装置が作動する。これにより、水平力が発生してから上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動するまでの間は、球面滑り装置のみが作動する。そして、上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動した後から、積層ゴム装置を作動させることができる。よって、球面滑り装置を、水平力が上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動しない程度の大きさである場合のみ考慮して設計することができる。よって、球面滑り装置を、比較的小さな水平力に特化した性能とすることができる。
【0027】
<11>本発明の態様11に係る免震システムは、態様1から態様9のいずれか1つに係る免震システムにおいて、前記免震層に、前記積層ゴム装置と並列に配置される球面滑り装置を更に備え、前記球面滑り装置は、前記上部構造体に配置される上沓と、前記下部構造体に配置される下沓と、前記上沓と前記下沓の間で摺動するスライダーと、を有し、前記スライダーは、少なくとも上面に曲率を有する滑り面を備え、前記上沓の下面にある曲率を有する滑り面に対して、前記スライダーの前記滑り面が摺動するようになっており、前記球面滑り装置の上沓と下沓とが、前記水平力によって所定量だけ相対移動した際に、前記ストッパー部と前記水平力伝達部とが接触することを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、球面滑り装置の上沓と下沓とが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に、ストッパー部と水平力伝達部とが接触する。つまり、上沓と下沓とが所定量だけ相対移動した際に、積層ゴム装置が作動する。これにより、球面滑り装置を、水平力が上部構造体と下部構造体とが所定量だけ移動しない程度の大きさである場合のみ考慮して設計することができる。よって、球面滑り装置を、比較的小さな水平力に特化した性能とすることができる。更に、ストッパー部が水平力伝達部と接触することで、水平力伝達部材でのみ水平力を負担するようにすることができる。
【0029】
<12>本発明の態様12に係る免震システムは、態様11に係る免震システムにおいて、また、水平力が発生していない時の、前記水平力伝達部と前記ストッパー部との正面視における重なり代は、前記球面滑り装置の上下方向移動量より大きいことを特徴とする。
【0030】
ここで、球面滑り装置は、水平力によって上沓と下沓とが水平方向に相対移動すると、上沓と下沓との上下方向の距離が離れるように移動する。これにより、水平力が発生していない場合と、球面滑り装置の上沓と下沓とが所定量だけ相対移動した場合とで、上下方向におけるストッパー部と水平力伝達部との位置がずれる。これに対し、水平力が発生していない時の、水平力伝達部とストッパー部との正面視における重なり代は、球面滑り装置の上下方向移動量より大きい。これにより、上下方向においてストッパー部と水平力伝達部との位置がずれた場合であっても、確実にストッパー部と水平力伝達部とが接触することを担保することができる。
【0031】
<13>本発明の態様13に係る免震システムは、態様10から態様12のいずれか1つに係る免震システムにおいて、また、前記所定量は、レベル2地震より大きい地震の際の、前記上沓と前記下沓との水平方向における相対移動量であることを特徴とする。
【0032】
ここで、球面滑り装置を、レベル2地震より大きい地震を考慮したものとすると、非常に大きなサイズとする必要がある。更に、レベル1程度の地震に対して柔軟に対応することが難しくなる。これに対し、所定量は、レベル2地震より大きい地震の際の、上沓と下沓との水平方向における相対移動量である。つまり、積層ゴム装置が作動せず、球面滑り装置のみが作動する水平力の範囲を、レベル2地震に限定する。これにより、球面滑り装置を、レベル2地震に特化した性能とすることができる。積層ゴム装置を、レベル2地震より大きい地震に特化した性能とすることができる。このような態様とすることで、球面滑り装置の大きさを必要最小限とすることができる。したがって、球面滑り装置のコストを抑えることができる。更に、球面滑り装置の設計を容易とすることができる。また、免震システムを、比較的レベルの低い地震に対して柔軟に対応できるようにすることができる。
【0033】
<14>本発明の態様14に係る積層ゴム装置の取り外し方法は、態様1から態様13のいずれか1つに係る免震システムにおける積層ゴム装置の取り外し方法であって、前記積層ゴム装置を取り外す前に前記ストッパー部を取り外すストッパー部取り外し工程と、前記積層ゴム装置を取り外す積層ゴム取り外し工程と、を含むことを特徴とする。
【0034】
この発明によれば、積層ゴム装置を取り外す前にストッパー部を取り外すストッパー部取り外し工程と、積層ゴムを取り外す積層ゴム取り外し工程と、を含む。つまり、先にストッパー部を取り外してから、積層ゴム装置を取り外す。これにより、積層ゴム装置を取り外す際、ストッパー部が障害となることを防ぐことができる。したがって、積層ゴム装置を交換する際、ストッパー部を避けるためにジャッキ等により上部構造物と下部構造物との距離を広げることを不要とすることができる。よって、積層ゴム装置の交換作業性を向上することができる。
【0035】
<15>本発明の態様15に係る積層ゴム装置の取り外し方法は、態様3から態様9、態様11、態様12のいずれか1つに係る免震システムにおける積層ゴム装置の取り外し方法であって、前記積層ゴム装置を取り外す前に前記水平力伝達部を取り外す水平力伝達部取り外し工程と、前記積層ゴム装置を取り外す積層ゴム取り外し工程と、を含むことを特徴とする。
【0036】
この発明によれば、積層ゴム装置を取り外す前に水平力伝達部を取り外す水平力伝達部取り外し工程と、積層ゴム装置を取り外す積層ゴム取り外し工程と、を含む。つまり、先に積層ゴム装置から水平力伝達部を取り外してから、積層ゴム装置を取り外す。これにより、積層ゴム装置を取り外す際、水平力伝達部が障害となることを防ぐことができる。したがって、積層ゴム装置を交換する際、水平力伝達部を取り外した後の積層ゴム装置は、ストッパー部に影響を受けることなく交換することができる。よって、積層ゴム装置の交換作業性を向上することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、積層ゴム装置の交換作業性を向上した免震システム及び積層ゴム装置の取り外し方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係る免震システムである。
図2図1に示す免震システムにおいて、上部構造体が移動して、上部構造体又に設けられたストッパー部と積層ゴム装置本体の上に設けられた水平力伝達部とが接した状態を示す図である。
図3図2に示す免震システムにおいて、上部構造体が更に移動して、積層ゴム装置本体が変形した状態を示す図である。
図4】本発明に係る免震システムの変形例である。
図5】球面滑り装置における、水平力と変位との関係を示すグラフである。
図6】積層ゴム装置における、水平力と変位との関係を示すグラフである。
図7】本発明に係る免震システムにおける、水平力と変位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る免震システム100を説明する。本実施形態に係る免震システム100は、上部構造体Uと下部構造体Lとの間の免震層Iに設置される。上部構造体Uは、例えば、ビルや橋梁などをはじめとする建物である。下部構造体Lは、例えば、上部構造体Uの基礎構造である。下部構造体Lは、例えば、地盤と上部構造体Uとの間に設置される。これにより、地盤の上に上部構造体Uを支持する。
【0040】
免震層Iは、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に設けられる。本実施形態に係る免震システム100は、免震層Iに配置される。免震システム100は、上部構造体Uと下部構造体Lとを絶縁する。これにより、地震によって地盤から下部構造体Lに伝達された震動を、上部構造体Uに伝達させないようにする。このことで、上部構造体Uが地震の影響を受けないようにする役割を有する。
【0041】
免震システム100は、図1に示すように、積層ゴム装置10と、球面滑り装置20と、水平力伝達部30と、ストッパー部40と、を備える。
積層ゴム装置10は、建物において免震の為に用いられる公知の構成である。本実施形態において、積層ゴム装置10の一部は、積層ゴム装置10の残部から取り外し可能である。積層ゴム装置10は、積層ゴム装置本体10Mと、水平力伝達部30と、を備える。
【0042】
積層ゴム装置本体10Mは、上フランジ部11(フランジ部)と、下フランジ部12(フランジ部)と、積層部13と、を備える。上フランジ部11は、積層ゴム装置本体10Mの上面に位置する。下フランジ部12は、積層ゴム装置本体10Mの下面に位置する。積層部13は、上フランジ部11と下フランジ部12との間において、ゴム材と、鋼板と、が交互に積み重ねられて形成される。積層部13は、上フランジ部11と下フランジ部12とが水平方向に相対移動した時、バネ機能及び減衰機能を発揮する。
【0043】
本実施形態において、積層ゴム装置本体10Mの上面(上フランジ部11)及び下面(下フランジ部12)のいずれか一方は、上部構造体U又は下部構造体Lに接触している。後述する水平力伝達部30は、いずれか他方に設置される。積層ゴム装置本体10Mの上面及び下面のいずれか他方は、上部構造体U及び下部構造体Lに接触していない。具体的には、下記の通りとなる。
【0044】
積層ゴム装置10は、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか一方に固定される。本実施形態において、積層ゴム装置10は、例えば、下フランジ部12が下部構造体Lに固定される。言い換えれば、下フランジ部12が下部構造体Lに接触している。このとき、上フランジ部11は、上部構造体U及び下部構造体Lに接触していない。また、上フランジ部11には、水平力伝達部30が設置される。
【0045】
積層ゴム装置10は、上フランジ部11が上部構造体Uに固定されてもよい。言い換えれば、上フランジ部11が上部構造体Uに接触していてもよい。このとき、下フランジ部12は、上部構造体U及び下部構造体Lに接触していない。また、下フランジ部12には、水平力伝達部30が設置されてもよい。
以下においては、特別に記載した場合を除き、積層ゴム装置10が下部構造体Lに固定されているものとして説明する。
【0046】
球面滑り装置20は、建物において免震の為に用いられる公知の構成である。免震層Iに、積層ゴム装置10と並列に配置される。球面滑り装置20は、上沓21と、下沓22と、スライダー23と、を有する。上沓21は、上部構造体Uに配置される。上沓21は、スライダー23と面する面に曲率を有する滑り面を備える。下沓22は、下部構造体Lに配置される。下沓22は、スライダー23と面する面に曲率を有する滑り面を備える。スライダー23は、上沓21と下沓22の間で摺動する。スライダー23は、上沓21及び下沓22に面する面にそれぞれ曲率を有する滑り面を備える。
【0047】
このような構成を備えることで、例えば、上部構造体Uと下部構造体Lとが相対移動しようとすると、上沓21とスライダー23とが摺動する。また、スライダー23と下沓22とが摺動する。このようにして、図2及び図3に示すように、上部構造体Uと下部構造体Lとの相対移動を許容する。また、上沓21、下沓22及びスライダー23のそれぞれが曲率を有する滑り面を備えることで、上部構造体Uと下部構造体Lとを相対移動前の位置に戻すように作用する。
【0048】
上述した球面滑り装置20は、いわゆるダブルペンデュラムと呼ばれる方式である。これに限らず、球面滑り装置20には、例えば、いわゆるシングルペンデュラムと呼ばれる方式を採用してもよい。シングルペンデュラムとは、免震層Iにおいて、スライダー23と、上沓21のみが設けられ、スライダー23と上沓21のみとが摺動する方式である。この場合、スライダー23は、少なくとも上面に曲率を有する滑り面を備える。
【0049】
球面滑り装置20には、いわゆるトリプルペンデュラムと呼ばれる方式を採用してもよい。トリプルペンデュラムとは、免震層Iにおいて、上沓21、下沓22、スライダー23に加えて、上沓21とスライダー23との間に配置される第2上沓と、下沓22とスライダー23との間に配置される第2下沓と、を備える方式である。トリプルペンデュラムにおいては、上沓21と第2上沓とが摺動する。第2上沓とスライダー23とが摺動する。スライダー23と第2下沓とが摺動する。第2下沓と下沓22とが摺動する。
なお、球面滑り装置20には、その他任意の方式を採用してもよい。
【0050】
水平力伝達部30は、積層ゴム装置10の一部である。言い換えれば、積層ゴム装置10の残部は、積層ゴム装置本体10Mである。ここで、上述したように、積層ゴム装置10の一部は、積層ゴム装置10の残部から取り外し可能である。つまり、水平力伝達部30は、積層ゴム装置本体10Mから取り外し可能である。水平力伝達部30は、積層ゴム装置本体10Mに設置される。水平力伝達部30は、免震層Iに水平力が作用した際に、ストッパー部40と当接する。これにより、水平力伝達部30は、ストッパー部40から付与される水平力を、積層ゴム装置本体10Mに伝達する。ここで、免震層Iに付加される水平力とは、上部構造体Uと下部構造体Lとを相対移動させる力である。水平力は、例えば、地震によって発生する。
【0051】
ここで、ストッパー部40は、水平力伝達部30に対し、球面滑り装置20の動きに合わせて上下方向に相対移動する(詳細は後述する)。これにより、ストッパー部40が球面滑り装置20に直接当接すると、水平力が十分に積層ゴム装置本体10Mに伝達されないことがある。これに対し、水平力伝達部30を備えることで、ストッパー部40と水平力伝達部30が確実に当接し、水平力を積層ゴム装置本体10Mに伝達することに担保する。
水平力伝達部30は、例えば、フランジ部と、水平力伝達部材31と、を備える。フランジ部は、積層ゴム装置本体10Mの一部である。すなわち、フランジ部は、上フランジ部11又は下フランジ部12である。
【0052】
水平力伝達部材31は、水平力伝達部30のうち、ストッパー部40と当接する円柱状の部材である。水平力伝達部材31は、例えば、フランジ部にボルトによって固定される。水平力伝達部材31は、例えば、鋼製のものや、ステンレス製のものが好適に用いられる。水平力伝達部30には、側面に摩擦低減材が設けられている。摩擦低減材には、例えば、PTFE(Poly Tetra Tluoro Ethylene)やシリコーンオイル、コンクリート等が好適に用いられる。これにより、水平力伝達部材31とストッパー部40とが当接した際、摩擦力によってストッパー部40の表面が損傷することを防ぐ。
【0053】
免震システム100の平面視において、フランジ部は、水平力伝達部材31の外縁以内に存在する。つまり、水平力伝達部材31は、少なくともフランジ部と同じ大きさであるか、フランジ部よりも大きい。また、ストッパー部40の内径は、水平力伝達部材31の外径よりも大きい。これにより、フランジ部は、少なくとも水平力伝達部材31の外側に位置しない。水平力伝達部材31がこのような大きさであることで、ストッパー部40は、フランジ部に当接せず、水平力伝達部材31のみに当接する。
【0054】
また、水平力伝達部材31は、図4に示すように、上フランジ部11よりも小径であってもよい。この場合、ストッパー部40の内径は、上フランジ部11の外径よりも小さくしてもよい。また、ストッパー部40の下端の位置は、上フランジ部11に干渉しないようにすることが好ましい。また、水平力伝達部30の高さは、上部構造体U又は下部構造体Lに干渉しないようにすることが好ましい。
【0055】
本実施形態において、水平力伝達部材31は、例えば、上フランジ部11に固定されている。なお、積層ゴム装置本体10Mが上部構造体Uに固定されている場合、水平力伝達部材31は、下フランジ部12に固定されていてもよい。
水平力伝達部30は、少なくとも一部が積層ゴム装置本体10Mから取り外し可能である。具体的には、水平力伝達部材31は、フランジ部から取り外し可能である。これにより、例えば、免震システム100において積層ゴム装置10を交換する必要がある時、水平力伝達部30を取り外すことで、ストッパー部40と積層ゴム装置10とが干渉しないようにすることに寄与する。
【0056】
また、水平力伝達部材31は、積層ゴム装置本体10Mから取り外し不可であってもよい。例えば、水平力伝達部材31は、フランジ部に溶接によって固定されてもよい。この場合、ストッパー部40を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外すことで、積層ゴム装置本体10Mをストッパー部40に干渉することなく取り外し可能としてもよい。
【0057】
ストッパー部40は、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方に設けられる。本実施形態において、ストッパー部40は、図1に示すように、上部構造体Uから下方に延びるように形成されている。これにより、ストッパー部40は、積層ゴム装置10の上フランジ部11及び水平力伝達部材31の周囲に形成される。ストッパー部40は、例えば、円筒状に形成される。ストッパー部40は、角筒状であってもよい。ストッパー部40は、例えば、筒状であり、周方向において2以上の複数個に分割されていることが好ましい。これにより、ストッパー部40の着脱が容易となる(詳細は後述する)。ただしストッパー部40は、周方向において一体に形成されていてもよい。ストッパー部40は、例えば、上部構造体U又は下部構造体Lにボルトにより固定される。ストッパー部40は、上部構造体U又は下部構造体Lに溶接されていてもよい。ストッパー部40は、上部構造体U又は下部構造体LにRC(鉄筋コンクリート)によって一体に形成されてもよい。
【0058】
積層ゴム装置10が上フランジ部11を介して上部構造体Uに取り付けられている場合、ストッパー部40は、下部構造体Lから上方に延びるように形成されてもよい。これにより、ストッパー部40は、積層ゴム装置10の下フランジ部12の周囲に形成されてもよい。
また、ストッパー部40の内側には、摩擦低減材が設けられている。摩擦低減材には、例えば、PTFE(Poly Tetra Tluoro Ethylene)やシリコーンオイル等が好適に用いられる。これにより、水平力伝達部材31とストッパー部40とが当接した際、摩擦力によって水平力伝達部材31の表面が損傷することを防ぐ。
【0059】
ストッパー部40は、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方から取り外し可能である。ストッパー部40は、例えば、上部構造体U又は下部構造体Lから、ボルトを取り外すことによって取り外される。ここで、上述したように、ストッパー部40は、フランジ部及び水平力伝達部材31の周囲において、円筒状や角筒状に形成されている。このため、ストッパー部40は、積層ゴム装置10を取り外すことなく、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方から取り外し可能である。
【0060】
ストッパー部40は、積層ゴム装置10を中心とした周方向において、一部のみ取り外し可能であってもよい。この場合、ストッパー部40を取り外したことによって生じる、ストッパー部40の開口の幅は、正面視における各部材の幅以上の寸法となるようにすることが好ましい。
【0061】
ここで、上部構造体Uが橋梁である場合において、ストッパー部40は、以下のようにすることが好ましい。すなわち、例えば、ストッパー部40を積層ゴム装置10から見て、橋梁の橋軸方向に面する部位を取外し可能とする。ストッパー部40を積層ゴム装置10から見て、橋軸直角方向に面する部位を、上部構造体U又は下部構造体Lと一体成形する。このような態様とすることで、積層ゴム装置10を、橋軸方向に移動させて取り外すことができるようにすると同時に、橋梁を、橋軸直角方向の揺れに対して強くなるようにすることが好ましい。
【0062】
ストッパー部40が周方向において2以上の複数個に分割されている場合、複数に分割されたストッパー部40のうちの少なくとも一部を取り外せば、積層ゴム装置10を取り外す際にストッパー部40が障害となることを防ぐことができる。
ストッパー部40が周方向において一体形成されている場合、ストッパー部40を取り外せば(上部構造体Uや下部構造体Lと固定された状態を解除しておけば)、積層ゴム装置10を取り外す際、同時にストッパー部40を移動させる。このことで、例えば、ストッパー部40を避けるために上部構造体Uと下部構造体Lとの距離をジャッキなどによって拡げることを不要とすることができる。
このようにして、免震システム100において、積層ゴム装置10の交換作業を容易にすることに寄与する。
【0063】
水平力が発生していない時のストッパー部40の端部の位置は、図1に示すように、水平力伝達部材31の高さの範囲に存在する。水平力伝達部材31の高さの範囲とは、上下方向における、水平力伝達部材31の上端と下端との間の範囲をいう。具体的には、ストッパー部40が上部構造体Uに取り付けられている場合のストッパー部40の下端の位置、又は、ストッパー部40が下部構造体Lに取り付けられている場合のストッパー部40の上端の位置は、水平力伝達部材31の高さの範囲に存在する。
【0064】
ストッパー部40は、図1に示すように、水平力が発生していない状態において、水平力伝達部30から水平方向に離れた位置に設置される。ストッパー部40は、上部構造体Uと下部構造体Lとが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に水平力伝達部30に接触する。
【0065】
上述のように形成されたストッパー部40は、免震層Iに水平力が作用した際に、積層ゴム装置10と当接する。なお、本実施形態において、ストッパー部40と積層ゴム装置10とが当接することには、上フランジ部11又は下フランジ部12に固定された水平力伝達部材31がストッパー部40に当接することも含むものとして説明する。
【0066】
(免震システム100の作動形態)
次に、本実施形態に係る免震システム100の作動形態について説明する。免震システム100は、上部構造体Uと下部構造体Lとを相対移動させる力である水平力を吸収する、これにより、免震システム100は、上部構造体Uが水平力の影響を受けないようにする。
まず、図1は、水平力が免震層Iに付加されていない状態である。この状態から、地震によって発生した水平力が免震層Iに付加されると、上部構造体Uと下部構造体Lとが相対移動する。この時の相対移動量が所定量に達した時、図2に示すように、ストッパー部40と積層ゴム装置10の一部が当接する。
【0067】
その後、免震層Iにおいて更に水平力が作用すると、図3に示すように、ストッパー部40が水平力伝達部30を押すことによって、積層ゴム装置本体10Mの積層部13が変形する。この時、積層部13のバネ機能及び減衰機能が発揮される。これにより、積層ゴム装置10によって、上部構造体Uと下部構造体Lとの間の相対移動を抑制する。
【0068】
前記バネ機能及び減衰機能は、積層ゴム装置本体10Mの有する弾性力によってもたらされる。このため、ストッパー部40と積層ゴム装置10とが当接した際、衝撃力を発生させずに水平力を減衰する。これにより、上部構造体Uに衝撃力が伝播することを防ぐとともに、設計段階において衝撃力について検討することを不要とすることに寄与する。
地震による水平力が収まると、上述した球面滑り装置20の機能により、上部構造体Uと下部構造体Lとが元の位置に戻る。このようにして、免震システム100は、上部構造体Uが水平力の影響を受けないようにする。
【0069】
図5図6図7は、いずれも上部構造体Uと下部構造体Lとの相対変位(mm)を横軸に、地震によって球面滑り装置20又は積層ゴム装置10に付加される水平力(kN)を縦軸に取ったグラフである。ここで、上述のように、水平力は地震によって発生する。このため、水平力は、周期的に作用する向き及び大きさが変化することを前提に説明する。
【0070】
図5は、球面滑り装置20が単独で作動した場合のグラフである。球面滑り装置20は、水平力が発生した直後から変位を開始する。このとき、原点Oから第1点P1にかけては、球面滑り装置20が静止状態から変位を開始した際の変位を示す。この原点Oから第1点P1にかけての曲線の傾きが他の曲線と異なるのは、スライダー23の静止摩擦力によるものである。球面滑り装置20が変位を開始した後は、第1点P1から第2点P2にかけて示すように、他の曲線と同様の傾きで変位及び水平力が推移する。
【0071】
第2点P2において、第1の向きへの水平力の大きさが最大となると、第2点P2から第3点P3に示すように、水平力の向きが変化する。これに伴い、第3点P3から第4点P4に示すように、変位の向きが変化する。
第4点P4において、第2の向きへの水平力の大きさが最大となると、第4点P4から第5点P5に示すように、水平力の向きが変化する。これに伴い、第5点P5から第2点P2に示すように、変位の向きが変化する。球面滑り装置20は、地震が収まって水平力が発生しなくなるまで、上述の変化を継続する。
【0072】
図6は、積層ゴム装置10が単独で作動した場合のグラフである。上述したように、本実施形態において、積層ゴム装置10は、上部構造体Uと下部構造体Lとが水平力によって所定量だけ相対移動し、ストッパー部40が水平力伝達部30に接触してから作動する。このため、原点Oから第6点P6までは、変位に対して水平力が発生しない。
【0073】
ストッパー部40が水平力伝達部30に接触した後、第6点P6から第7点P7に示すように、水平力及び変位が一定の割合で第1の向きに増加する。その後、積層ゴム装置10の弾性力によって、変位及び水平力が一様に減少すると、第6点P6において、ストッパー部40が水平力伝達部30から離れる。その後、第6点P6から第8点P8までは、変位に対して水平力が発生しない。
【0074】
第8点P8において、再びストッパー部40が水平力伝達部30に接触すると、第8点P8から第9点P9に示すように、水平力及び変位が一定の割合で第2の向きに増加する。その後、積層ゴム装置本体10Mの弾性力によって、変位及び水平力が一様に減少すると、第8点P8において、ストッパー部40が水平力伝達部30から離れる。その後、第8点P8から第6点P6までは、変位に対して水平力が発生しない。積層ゴム装置本体10Mは、地震が収まって水平力が発生しなくなるまで、上述の変化を継続する。
【0075】
図7は、本実施形態に係る免震システム100において、球面滑り装置20及び積層ゴム装置10が同時に作動した場合のグラフである。原点Oから第1点P1までの推移は、図5に示すグラフと同様である。第1点P1から第10点P10までは、球面滑り装置20によって一定の傾きで水平力及び変位が変化する。第10点P10において、ストッパー部40が水平力伝達部30に接触すると、第10点P10から第11点P11にかけて、積層ゴム装置10が作動する。
【0076】
第11点P11において、第1の向きへの水平力の大きさが最大となると、第11点P11から第12点P12に示すように、水平力の向きが変化する。その後、第12点P12から第13点P13に示すように、積層ゴム装置10によって変位及び水平力が一様に減少する。第13点P13において、ストッパー部40が水平力伝達部30から離れると、球面滑り装置20によって、変位及び水平力が第13点P13から第14点P14にかけて推移する。
【0077】
第14点P14において、再びストッパー部40が水平力伝達部30に接触すると、第14点P14から第15点P15に示すように、水平力及び変位が一定の割合で第2の向きに増加する。
第15点P15において、第2の向きへの水平力の大きさが最大となると、第15点P15から第16点P16に示すように、水平力の向きが変化する。その後、第16点P16から第17点P17に示すように、積層ゴム装置10によって変位及び水平力が一様に減少する。第17点P17において、ストッパー部40が水平力伝達部30から離れると、球面滑り装置20によって、変位及び水平力が第17点P17から第10点P10にかけて推移する。球面滑り装置20及び積層ゴム装置10は、地震が収まって水平力が発生しなくなるまで、上述の変化を継続する。
上記のようにして、免震システム100が作動する。
【0078】
上述の機能を担保するために、例えば、球面滑り装置20の可動域は、少なくとも積層ゴム装置10の最大移動量に対応可能であることが好ましい。また、球面滑り装置20において、上沓21と下沓22との相対移動を止めるためのストッパーリングが設けられることがある。本実施形態においては、ストッパーリングにスライダー23が衝突することによる衝撃を発生させないために、ストッパーリングを設けないことが好ましい。
【0079】
また、水平力が発生していない時の、水平力伝達部30とストッパー部40との正面視における重なり代は、球面滑り装置20の上下方向移動量より大きい。ここで、重なり代とは、上下方向において、水平力伝達部30の上端から下端までの範囲内に位置するストッパー部40の寸法をいう。正面視とは、図1図4に示す視点をいう。
【0080】
上述のように、球面滑り装置20は、上沓21、下沓22及びスライダー23のそれぞれに曲率を有する滑り面を備える。これにより、水平力によって上沓21と下沓22とが水平方向に相対移動すると、上沓21と下沓22との上下方向の距離が離れるように移動する。これに伴い、上部構造体Uと下部構造体Lとが、上下方向に相対移動する。従って、ストッパー部40と、積層ゴム装置10に設けられた水平力伝達部30とが、上下方向に相対移動する。
これに対し、上述のように水平力伝達部30とストッパー部40との重なり代が球面滑り装置20の上下方向移動量より大きいことで、確実にストッパー部40と水平力伝達部30とが接触することを担保する。
【0081】
また、ストッパー部40が積層ゴム装置10に当接するまでに移動する所定量は、レベル2地震より大きい地震の際の、上沓21と下沓22との水平方向における相対移動量である。
ここで、地震のレベルについて、「2020年版 建築物の構造関係技術基準解説書」(編集 一般財団法人 建築行政情報センター、一般財団法人 日本建築防災協会;71頁)の記載に基づき、以下のように規定する。すなわち、稀に起きる(50年に一度程度)震度をレベル1とする。レベル1地震は、例えば、建物の耐用年数中に一度以上は発生する可能性が高い。極めて稀に起きる(500年に一度程度)震度をレベル2とする。また、レベル2地震動よりも規模の大きな極大地震動をレベル3とする。
【0082】
上述のように、レベル2地震より大きい地震が発生した時にのみ、ストッパー部40が所定量だけ移動するようにすることで、積層ゴム装置10は、レベル2地震より大きい地震が発生した場合にのみ作動する。これにより、積層ゴム装置10を、レベル2地震より大きい地震に特化して性能とする。また、このようにすることで、球面滑り装置20を、レベル2地震以下に特化した性能とする。
【0083】
(積層ゴム装置10の取り外し方法)
次に、上述した本実施形態に係る免震システム100における積層ゴム装置10の取り外し方法について説明する。積層ゴム装置10の取り外し方法は、以下の第1形態及び第2形態が例示される。
【0084】
積層ゴム装置10の取り外し方法の第1形態は、ストッパー部取り外し工程と、積層ゴム取り外し工程と、を含む。ストッパー部取り外し工程は、積層ゴム装置10を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す前に、ストッパー部40を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す工程である。具体的には、例えば、ストッパー部40と、上部構造体U又は下部構造体Lと、を固定しているボルトを取り外す。このとき、ストッパー部40が複数に分割されている場合、ストッパー部40の一部のみ取り外してもよい。
【0085】
積層ゴム取り外し工程は、積層ゴム装置10を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す工程である。ストッパー部取り外し工程において、分割されたストッパー部40の一部のみ取り外した場合は、積層ゴム装置10を、ストッパー部40が取り外された部位から搬出する。ストッパー部40が一体に成形されている場合、積層ゴム装置10とストッパー部40とを同時に移動させて搬出する。このような工程とすることで、積層ゴム装置10を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す際に、ストッパーを避けるために、上部構造体Uと下部構造体Lとの距離をジャッキなどによって拡げることを不要とする。
【0086】
積層ゴム装置10の取り外し方法の第2形態は、水平力伝達部30取り外し工程と、積層ゴム取り外し工程と、を含む。水平力伝達部30取り外し工程は、積層ゴム装置10を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す前に、水平力伝達部30を積層ゴム装置本体10Mから取り外す工程である。積層ゴム取り外し工程は、積層ゴム装置本体10Mを上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す工程である。このような工程とすることで、積層ゴム装置10を上部構造体U又は下部構造体Lから取り外す際に、水平力伝達部30が障害となることを防ぐ。
【0087】
以上説明したように、本実施形態に係る免震システム100によれば、ストッパー部40は上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方から取り外し可能である、又は、積層ゴム装置10の一部は積層ゴム装置10の残部から取り外し可能である。これにより、積層ゴム装置10を交換する際、ストッパー部40を避けるためにジャッキ等により上部構造物と下部構造物との距離を広げることを不要とすることができる。よって、積層ゴム装置10の交換作業性を向上することができる。
【0088】
従来の免震システム100のように、すべり支承が水平移動してストッパーに接触する構成においては、先に積層ゴム装置10を取り外さなければ、ストッパー部40を取り外すことができない構造を有するものがあった。これに対し、本態様のように、積層ゴム装置10がストッパー部40に接触する構成の場合、積層ゴム装置10を取り外すことなく、ストッパー部40のみを取り外すことが可能である。このような構造を有することで、上述の作用効果をもたらすことができる。
【0089】
また、ストッパー部40は、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか一方から積層ゴム装置10を取り外すことなく、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方から取り外し可能である。これにより、積層ゴム装置10の交換作業の前にストッパー部40を取り外すことができる。よって、積層ゴム装置10の交換の際にストッパー部40が障害となることを防ぐことができる。
【0090】
また、積層ゴム装置10の一部は、水平力伝達部30である。言い換えれば、積層ゴム装置10の残部は、積層ゴム装置本体10Mである。したがって、水平力伝達部30は、積層ゴム装置本体10Mから取り外し可能である。これにより、水平力伝達部30を取り外した後の積層ゴム装置本体10Mは、ストッパー部40に影響を受けることなく交換することができる。よって、積層ゴム装置10の交換作業性を向上することができる。
【0091】
ここで、水平力伝達部30とストッパー部40とが接触した時に、水平力伝達部30とストッパー部40との間で摩擦力が発生すると、例えば、水平力伝達部30及びストッパー部40の表面が互いに損傷する原因となる。また、意図しない摩擦力が免震システム100の復元力特性に取り込まれる原因となる。これに対し、水平力伝達部30には、側面に摩擦低減材が設けられている。これにより、上述の問題が発生することを防ぐことができる。
また、水平力伝達部30を積層ゴム装置本体10Mから取り外す際、ストッパー部40と水平力伝達部30とが接触することがある。水平力伝達部30の側面に摩擦低減材が設けられていることで、ストッパー部40と水平力伝達部30が接した状態から、水平力伝達部30を取外し易くすることができる。
【0092】
また、ストッパー部40の内側には、摩擦低減材が設けられている。これにより、ストッパー部40の内側で摩擦力が発生することによって、水平力伝達部30及びストッパー部40の表面が互いに損傷することを防ぐことができる。また、意図しない摩擦力が免震システム100の復元力特性に取り込まれることを防ぐことができる。
【0093】
また、水平力が発生していない時のストッパー部40の端部の位置は、水平力伝達部材31の高さの範囲に存在する。これにより、水平力伝達部30とストッパー部40とが当接する時は、水平力伝達部材31でのみ水平力を負担するようにすることができる。よって、水平力伝達部30の設計を容易にすることができる。また、水平力に合わせてフランジ部を変更することを不要とすることができる。
【0094】
また、免震システム100の平面視において、フランジ部が、水平力伝達部材31の外縁以内に存在する。つまり、免震システム100の平面視において、フランジ部は、水平力伝達部材31の外側に位置しない。これにより、水平力伝達部30とストッパー部40とが当接する時に、フランジ部がストッパー部40に当接することを防ぐことができる。よって、水平力を、水平力伝達部材31のみによって負担することを確実にすることができる。
【0095】
また、ストッパー部40は、水平力伝達部30から水平方向に離れた位置に設置される。これにより、水平力が発生していない時に、ストッパー部40と水平力伝達部30とが接触することを防ぐことができる。ストッパー部40は、上部構造体Uと下部構造体Lとが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に水平力伝達部30に接触する。これにより、水平力が発生してから上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動するまでの間、積層ゴム装置10が作動させないようにすることができる。よって、積層ゴム装置本体10Mの設計をする際、水平力が上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動しない程度の大きさであった場合を考慮することを不要とすることができる。よって、積層ゴム装置本体10Mを、水平力が上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動する程度の大きさである場合のみ考慮して設計することができる。よって、積層ゴム装置10を、比較的大きな水平力に特化した性能とすることができる。
【0096】
また、積層ゴム装置本体10Mの上面及び下面のいずれか他方は、上部構造体U及び下部構造体Lに接触していない。これにより、積層ゴム装置本体10Mには、水平力伝達部30とストッパー部40とが接触するまで、水平力が付加されないようにすることができる。よって、積層ゴム装置本体10Mの設計をする際、水平力が上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動しない程度の大きさであった場合を考慮することを不要とすることができる。
【0097】
また、球面滑り装置20の上沓21と下沓22とが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に、ストッパー部40と積層ゴム装置10の一部とが接触する。つまり、上沓21と下沓22とが所定量だけ相対移動した際に、積層ゴム装置10が作動する。これにより、水平力が発生してから上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動するまでの間は、球面滑り装置20のみが作動する。そして、上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動した後から、積層ゴム装置10を作動させることができる。よって、球面滑り装置20を、水平力が上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動しない程度の大きさである場合のみ考慮して設計することができる。よって、球面滑り装置20を、比較的小さな水平力に特化した性能とすることができる。
【0098】
また、球面滑り装置20の上沓21と下沓22とが、水平力によって所定量だけ相対移動した際に、ストッパー部40と水平力伝達部30とが接触する。つまり、上沓21と下沓22とが所定量だけ相対移動した際に、積層ゴム装置10が作動する。これにより、球面滑り装置20を、水平力が上部構造体Uと下部構造体Lとが所定量だけ移動しない程度の大きさである場合のみ考慮して設計することができる。よって、球面滑り装置20を、比較的小さな水平力に特化した性能とすることができる。更に、ストッパー部40が水平力伝達部30と接触することで、水平力伝達部材31でのみ水平力を負担するようにすることができる。
【0099】
ここで、球面滑り装置20は、水平力によって上沓21と下沓22とが水平方向に相対移動すると、上沓21と下沓22との上下方向の距離が離れるように移動する。これにより、水平力が発生していない場合と、球面滑り装置20の上沓21と下沓22とが所定量だけ相対移動した場合とで、上下方向におけるストッパー部40と水平力伝達部30との位置がずれる。これに対し、水平力が発生していない時の、水平力伝達部30とストッパー部40との正面視における重なり代は、球面滑り装置20の上下方向移動量より大きい。これにより、上下方向においてストッパー部40と水平力伝達部30との位置がずれた場合であっても、確実にストッパー部40と水平力伝達部30とが接触することを担保することができる。
【0100】
ここで、球面滑り装置20を、レベル2地震より大きい地震を考慮したものとすると、非常に大きなサイズとする必要がある。更に、レベル1程度の地震に対して柔軟に対応することが難しくなる。これに対し、所定量は、レベル2地震より大きい地震の際の、上沓21と下沓22との水平方向における相対移動量である。つまり、積層ゴム装置10が作動せず、球面滑り装置20のみが作動する水平力の範囲を、レベル2地震に限定する。これにより、球面滑り装置20を、レベル2地震に特化した性能とすることができる。積層ゴム装置10を、レベル2地震より大きい地震に特化した性能とすることができる。このような態様とすることで、球面滑り装置20の大きさを必要最小限とすることができる。したがって、球面滑り装置20のコストを抑えることができる。更に、球面滑り装置20の設計を容易とすることができる。また、免震システム100を、比較的レベルの低い地震に対して柔軟に対応できるようにすることができる。
【0101】
また、積層ゴム装置10を取り外す前にストッパー部40を取り外すストッパー部取り外し工程と、積層ゴムを取り外す積層ゴム取り外し工程と、を含む。つまり、先にストッパー部40を取り外してから、積層ゴム装置10を取り外す。これにより、積層ゴム装置10を取り外す際、ストッパー部40が障害となることを防ぐことができる。したがって、積層ゴム装置10を交換する際、ストッパー部40を避けるためにジャッキ等により上部構造物と下部構造物との距離を広げることを不要とすることができる。よって、積層ゴム装置10の交換作業性を向上することができる。
【0102】
また、積層ゴム装置10を取り外す前に水平力伝達部30を取り外す水平力伝達部取り外し工程と、積層ゴム装置10を取り外す積層ゴム取り外し工程と、を含む。つまり、先に積層ゴム装置10から水平力伝達部30を取り外してから、積層ゴム装置10を取り外す。これにより、積層ゴム装置10を取り外す際、水平力伝達部30が障害となることを防ぐことができる。したがって、積層ゴム装置10を交換する際、水平力伝達部30を取り外した後の積層ゴム装置10は、ストッパー部40に影響を受けることなく交換することができる。よって、積層ゴム装置10の交換作業性を向上することができる。
【0103】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、積層ゴム装置10及び球面滑り装置20は、上部構造体U及び下部構造体Lの大きさに合わせて、複数取り付けてもよい。また、積層ゴム装置10及び球面滑り装置20の個数は、等しくてもよいし、いずれかが多く設けられてもよい。
【0104】
また、積層ゴム装置本体10Mに水平力伝達部30を取り付けず、積層ゴム装置本体10Mのフランジ部が直接にストッパー部40に当接する構造としてもよい。この場合は、ストッパー部40の上下方向の位置を、ストッパー部40が積層ゴム装置本体10Mに対して上下方向に相対移動した場合であっても、ストッパー部40とフランジ部とが当接する位置関係に設定することが好ましい。
【0105】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10 積層ゴム装置
10M 積層ゴム装置本体
20 球面滑り装置
21 上沓
22 下沓
23 スライダー
30 水平力伝達部
31 水平力伝達部材
40 ストッパー部
100 免震システム
I 免震層
L 下部構造体
U 上部構造体
【要約】
【課題】積層ゴム装置の交換作業性を向上した免震システム及び積層ゴム装置の取り外し方法を提供する。
【解決手段】上部構造体Uと下部構造体Lとの間の免震層Iに設置され、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか一方に固定された積層ゴム装置10と、上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方に設けられ、免震層Iに水平力が作用した際に、積層ゴム装置10の一部と当接するストッパー部40と、を備え、ストッパー部40は上部構造体U及び下部構造体Lのいずれか他方から取り外し可能である、又は、一部は積層ゴム装置10の残部から取り外し可能である、ことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7