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特許7191298フラザノベンズイミダゾール類及びその結晶形の調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】フラザノベンズイミダゾール類及びその結晶形の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/04 20060101AFI20221212BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALI20221212BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221212BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221212BHJP
   C07C 271/66 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C07D413/04 CSP
A61K31/4245
A61P35/00
A61P35/02
C07C271/66
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2019556655
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2018060454
(87)【国際公開番号】W WO2018197475
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】17168283.4
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17172753.0
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517279920
【氏名又は名称】バジリア・ファルマスーチカ・インターナショナル・アーゲー,アルシュヴィル
【氏名又は名称原語表記】Basilea Pharmaceutica International AG, Allschwil
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルチ,グレーゴール
(72)【発明者】
【氏名】ホイベス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】タリアフェッリ,ダーヴィト
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500304(JP,A)
【文献】特表昭62-501502(JP,A)
【文献】国際公開第2004/014973(WO,A2)
【文献】特表2014-512001(JP,A)
【文献】国際公開第2015/173341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩の調製方法であって、
【化1】

式IIの化合物
【化2】

(式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)を脱保護することを含む、方法。
【請求項2】
各Rが第三級ブチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式IIIの化合物
【化3】

(式中、Rは脱離基を表し;及び
式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)を;
式IVの化合物
【化4】

と反応させることにより式IIの化合物を調製するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
が、クロロ、ブロモ、ヨード又はスルホン酸エステルを表す、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
がクロロを表す、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
各Rが第三級ブチルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式Vの化合物
【化5】

(式中、RはOHを表し;及び
式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)を
式VIの化合物
【化6】

(式中、R1aはクロロを表す)と反応させることにより式IIIの化合物(式中、Rはクロロを表す)を調製するステップを更に含む、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか一項に定義されるとおりの式IIIの化合物を式IVの化合物と反応させることを含む式IIの化合物の調製方法。
【請求項9】
がクロロである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項7に定義されるとおりの式Vの化合物を式VIの化合物と反応させることを含む式IIIの化合物(式中、Rはクロロを表す)の調製方法。
【請求項11】
前記式Vの化合物が、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で式VIの化合物と反応する、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記式Vの化合物が、2,4,6-トリプロピル-1,3,5,2,4,6-トリオキサトリホスホリナン-2,4,6-トリオキシドの存在下で式VIの化合物と反応する、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記式Vの化合物がワンポット反応によって2,4,6-トリプロピル-1,3,5,2,4,6-トリオキサトリホスホリナン-2,4,6-トリオキシドの存在下で式VIの化合物と反応して式IIIの化合物を生成する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式IIの化合物における各Rは第三級ブチルを表し、
式IIIの化合物
【化9】

(式中、Rはクロロ、ブロモ、ヨード、スルホン酸エステル類を表し;及び
式中、各Rは独立に第三級ブチルを表す);
を式IVの化合物
【化10】

と反応させて、式IIの化合物を調製する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
はクロロを表す請求項14に記載の方法。
【請求項16】
式Iの化合物を、式Iの化合物の二塩化物塩に変換する工程を含む請求項1~7及び11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
溶媒から前記式Iの化合物の二塩化物塩を結晶化させる工程を含み、
前記溶媒が、アセトニトリル、メタノール、エタノール、酢酸エチル、イソプロパノール又はこれらの混合物、又はアセトニトリル、メタノール、エタノール、酢酸エチル及び/又はイソプロパノールを含む溶媒混合物であり、
前記式Iの化合物の結晶性二塩化物塩が、6.0、9.4及び9.9°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
溶媒から前記式Iの化合物の二塩化物塩を結晶化させる工程を含み、
前記溶媒が、アセトニトリル、メタノール、エタノール又はこれらの混合物、又はアセトニトリル、メタノール及び/又はエタノールを含む溶媒混合物であり、
前記式Iの化合物の結晶性二塩化物塩が、6.0、9.4及び9.9°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
HCl及びメタノールを溶媒として用いて、前記式IIの化合物を脱保護すること、及び式Iの化合物を結晶性二塩化物塩として得ることを含む、請求項1~7及び11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記式IIの化合物の脱保護が酸性条件下で行われる、請求項1~7及び11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
酸が塩酸である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記式IIの化合物の脱保護が、アセトン及びテトラヒドロフランから選択される溶媒中で行われる、請求項1~7及び11~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~7及び11~22のいずれか1項に記載の式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を調製すること及び式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を凍結乾燥することを含む医薬組成物の調製方法。
【請求項24】
請求項1~7及び11~22のいずれか1項に記載の式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を調製すること及び式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩を1以上の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせることを含む医薬組成物の調製方法。
【請求項25】
前記式Vの化合物が、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で式VIの化合物と反応する、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記式Vの化合物が、2,4,6-トリプロピル-1,3,5,2,4,6-トリオキサトリホスホリナン-2,4,6-トリオキシドの存在下で式VIの化合物と反応する、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記式Vの化合物がワンポット反応によって2,4,6-トリプロピル-1,3,5,2,4,6-トリオキサトリホスホリナン-2,4,6-トリオキシドの存在下で式VIの化合物と反応して式IIIの化合物を生成する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
式IIの化合物
【化7】

(式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)。
【請求項29】
式IIIの化合物
【化8】

(式中、Rは、クロロ、ブロモ、ヨード又はスルホン酸エステルを表し、及び
各Rは独立に第三級アルキル基を表す)。
【請求項30】
がクロロを表す、請求項29に記載の式IIIの化合物。
【請求項31】
各Rが第三級ブチルを表す、請求項28に記載の式IIの化合物又は請求項29又は30に記載の式IIIの化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増殖性障害の治療に用途がある特定の化合物の調製に有用な方法、並びにこうした方法において有用な中間体に関する。本発明は又、本明細書に記載されるとおりの式Iの化合物の結晶塩、その調製方法、その医薬組成物、並びに増殖性障害及び疾患の治療におけるその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2011/012577号パンフレット、国際公開第2012/098207号パンフレット、国際公開第2012/098203号パンフレット、国際公開第2012/113802号パンフレット、国際公開第2012/130887号パンフレット、国際公開第2015/173341号パンフレット及び国際公開第2017/068182号パンフレットが、以下の構造を有する化合物(本明細書では式Iと称する)及び癌などの増殖性障害の治療におけるその使用、並びにその調製方法について記載している。
【化1】
【0003】
この化合物は、以下に式Bの化合物として示される活性部分のプロドラッグである。
【化2】
【0004】
国際公開第2011/012577号パンフレットは、ベンジルオキシカルバメート基を使用してリジン部分上のアミノ基が保護されている式Iの化合物の作製方法について記載している。現在では、ベンジルオキシカルバメート保護基の代わりに他のカルバメート保護基、詳細にはtert-ブチルカルバメート(BOC)を使用すると、商業生産上の意外な利点につながることが分かっている。
【0005】
加えて、国際公開第2011/012577号パンフレットに記載される一般的手順に従い合成したとき、二塩化物塩としての式Iの化合物がアモルファス固体として単離される。現在では、式Iの化合物の二塩化物塩を結晶形で単離することができ、それにより製剤加工上の利点がもたらされ得ることが分かっている。
【発明を実施するための形態】
【0006】
第1の態様において、本発明は、式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な塩の調製方法であって、
【化3】

式IIの化合物
【化4】

(式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)
を脱保護することを含む方法を提供する。
【0007】
式IIの化合物は、式IIIの化合物
【化5】

(式中、Rは脱離基を表し;及び
式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)を;
式IVの化合物
【化6】

と反応させることにより調製し得る。
【0008】
式IIIの化合物(式中、Rはクロロを表す)は、式Vの化合物
【化7】

(式中、RはOHを表し;及び
式中、各Rは独立に第三級アルキル基を表す)を;
式VIの化合物
【化8】

(式中、R1aはクロロを表す)
と反応させることにより調製し得る。
【0009】
更なる態様において、本発明は、式IIIの化合物を式IVの化合物と反応させることを含む、式IIの化合物の調製方法を提供する。
【0010】
更なる態様において、本発明は、式Vの化合物を式VIの化合物と反応させることを含む、式IIIの化合物(式中、Rはクロロを表す)の調製方法を提供する。
【0011】
更なる態様において、本発明は、式IIの化合物を提供する。
【0012】
更なる態様において、本発明は、式IIIの化合物を提供する。
【0013】
は、式IVの化合物のベンズイミダゾール窒素原子によって選択的に置換可能な脱離基を表す。かかる脱離基としては、クロロ、ブロモ、ヨード、スルホン酸エステル類などの活性OH基(例えば、メシレート、トリフレート、トシレート、エシレート、ベシレート)、カルボニル類、例えばトリフルオロ酢酸塩、硝酸エステル類及び過塩素酸エステル類などの他の反応性エステル類、ニトロフェニルエーテル、アルキル亜リン酸塩類及びアルキルリン酸塩類が挙げられる。好ましくはRは、クロロ、ブロモ又はスルホン酸エステル、より好ましくはブロモ又はクロロ、最も好ましくはクロロである。
【0014】
各Rは独立に第三級アルキル基、例えば-C(R(式中、各Rは独立にC~Cアルキルを表す)を表す。好ましくは各Rは独立に、メチル、エチル又はプロピル、より好ましくはメチルを表す。最も好ましくは各Rは第三級ブチルを表す。
【0015】
一実施形態において、各Rは第三級ブチルを表し、及びRは、クロロ、ブロモ又はスルホン酸エステルを表す。
【0016】
更なる実施形態において、各Rは第三級ブチルを表し、及びRはクロロを表す。
【0017】
ステップ1:アルキルカルバメート保護化合物Vによるアミノ化合物VIのアシル化
【化9】

アミド類を形成するための第一級アミンのアシル化に好適な反応条件は当業者に周知である。この反応には通常、好適な活性化試薬によるカルボン酸の「活性化」が関わり、例えば、Montalbetti et al.,Tetrahedron 61(2005),10827-10852を参照のこと。概してカルボン酸からのアミドの形成は、ハロゲン化アシル、アシルアジド、アシルイミダゾール、無水物又は芳香族エステル若しくはリン酸エステルなどの活性エステルを経由して進行し得る。この反応は、カルボン酸の活性化と続くアミドへのカップリングを含む二段階を経るか、又は試薬によってはワンポット工程を経て進行し得る。
【0018】
好適なハロゲン化アシル類としては、塩化アシル類、フッ化アシル類及び臭化アシル類が挙げられ、塩化アシル類が概して好ましい。塩化アシルの形成に好適な試薬としては、塩化チオニル、塩化オキサリル、三塩化リン、オキシ塩化リン、五塩化リン、塩化シアヌル、塩化ピバロイル及びクロロギ酸イソプロピルが挙げられる。フッ化アシルの形成に好適な試薬としては、ピリジンの存在下における塩化シアヌル及びヒューニッヒ塩基の存在下におけるN,N-テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスフェート(TFFH)が挙げられ、臭化アシルの形成に好適な試薬としては、1-ブロモ-N,N-トリメチル-1-プロペニルアミンが挙げられる。
【0019】
無水物類の形成に好適な試薬としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)及び1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノ)カルボジイミド(EDC)が挙げられる。
【0020】
活性エステル類の形成に好適な試薬としては、ホスホニウム試薬、例えば、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)又はベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBop(登録商標))、ウロニウム塩、例えばO-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、そのテトラフルオロボレート等価体(TBTU)又はピリジニウム類似体(HATU)、及び2,4,6-トリプロピル-1,3,5,2,4,6-トリオキサトリホスホリナン-2,4,6-トリオキシド(T3P(登録商標))が挙げられる。
【0021】
ヒドラジンは概してアシルアジド類の形成に使用され、カルボニルジイミダゾール(CDI)は概してアシルイミダゾール類の形成に使用される。
【0022】
好ましい活性化剤は、DIC、DCC及びT3P(登録商標)である。
【0023】
反応は、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)又はヒドロキシベンゾトリアゾールなどの補助剤を含み得る。例えば無水物類又はT3P(登録商標)が活性化剤として使用されるとき、反応にDMAPも又含まれてよく、これは特に混合無水物類が使用される場合に変換を改善し得る。概して当業者は補助剤が有用か否かを判断し、好適な代替物を選択することができる。
【0024】
反応は好適な溶媒中、通常、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)又はシクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)又は2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド(DMF)などのホルムアミド類、ジクロロメタン(DCM)などのハロアルカン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジイソプロピルエーテル(DIPE)などのエーテル類を含む有機溶媒、p-キシレン及びトルエンなどの芳香族溶媒、又はこれらの混合物中で行われ得る。本発明との関連において、溶媒は酢酸エチル/DIPE、DMF、トルエン又はDCMであることが好ましい。概して当業者は好適な溶媒を選択することができる。
【0025】
好ましい一実施形態において、活性化剤はDCCであり、好ましくはここで溶媒はDCMであり、任意選択でDMAPを補助剤として含む。別の好ましい実施形態において、活性化剤はT3P(登録商標)であり、好ましくはここで溶媒はトルエンであり、任意選択でDMAPを補助剤として含む。
【0026】
反応は、2,4,6-トリメチルピリジン(TMP)、又はジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)若しくはトリエチルアミン(TEA)などの第三級アミンなど、好適な塩基の存在下又は非存在下で行われ得る。活性化剤がDCCなどの無水物である場合、塩基は任意選択であってよく、他方で活性化剤がT3P(登録商標)などのホスホニウム試薬である場合、塩基の存在が有益となることもあり、このとき塩基は好ましくはTEAである。
【0027】
活性化剤がDCCなどの無水物である場合、反応は概して二段階(活性化及びカップリング)を経て進行する。通常、第1のステップからの反応生成物は、結果として生じる尿素を除去するため、例えばろ過によって処理される。第1のステップでは、反応は通常周囲温度で行われるが、例えば-20℃から溶媒の沸点に至るまでであり得る。好ましくは温度は-10℃~50℃、より好ましくは15℃~25℃である。換言すれば、温度は通常、少なくとも-20℃、好ましくは少なくとも-10℃、より好ましくは少なくとも15℃である。温度が溶媒の沸点より高くなることはなく、好ましくは最高50℃、より好ましくは最高25℃である。所望の変換レベルを実現するのに必要な時間は使用温度に応じて、例えば15分~最長数時間まで異なることになる。第2のステップでは、可能な温度及び反応時間の範囲は第1のステップと同じである。概して圧力は周囲圧力である。
【0028】
活性化剤がT3P(登録商標)などのホスホニウム(phosponium)試薬である場合、反応はワンポット反応で行うことができる。これは加工費の削減につながり、従って商業生産の観点から有利である。概して反応は、例えば-20℃~20℃、例えば少なくとも-20℃、例えば最高20℃の温度で行われる。補助剤を使用しない場合、反応は好ましくはこの範囲の下端、例えば-20℃~0℃、好ましくは-15℃~-5℃、より好ましくは約-10℃で行われ、これにより反応選択性を向上させることができる。換言すれば、温度は通常、少なくとも-20℃、好ましくは少なくとも-15℃である。同様に、温度は通常、最高0℃、好ましくは最高-5℃である。DMAPなどの補助剤を使用する場合、反応は好ましくは範囲の上端、例えば0℃~20℃、好ましくは5℃~15℃、より好ましくは約10℃で行われる。換言すれば、温度は通常、少なくとも0℃、好ましくは少なくとも5℃である。同様に、温度は通常、最高20℃、より好ましくは最高15℃である。所望の変換レベルを実現するのに必要な時間は使用温度に応じて、例えば1時間~24時間まで異なることになる。補助剤が使用される場合、反応時間は通常短くなり、補助剤が使用されない場合、反応時間は通常長くなる。概して圧力は周囲圧力である。
【0029】
式V及びVIの化合物は市販されている。式Vの化合物はCAS登録番号2483-69-8(RはOHであり、Rはtert-ブチルである)を有する。式VIの化合物はCAS登録番号2631-71-2(R1aはクロロである)、及び23442-14-0(R1aはブロモである)を有する。
【0030】
ステップ2:化合物IVのベンズイミダゾール部分による化合物III上の脱離基Rの求核置換
【化10】

がクロロ以外である式IIIの化合物をスキーム1に従い化合物VIと化合物Vとのカップリングによって調製することは、分子内カップリングに起因して困難であることに留意されたい。しかしながら、Rがブロモである式IIIの化合物は、国際公開第2011/012577号パンフレットの例えば実施例1に記載される方法論に従う臭素化によって調製することができる。同様に、当業者は、Rが、ヨード、活性OH基、カルボニル反応性エステル類、ニトロフェニルエーテル、アルキル亜リン酸塩類及びアルキルリン酸塩類などの脱離基である式IIIの化合物を標準的技法を用いて調製することができる。
【0031】
式IVの化合物による脱離基Rの求核置換に好適な反応条件は当業者に周知である。
【0032】
この反応は通常、好適な塩基の存在下で行われるが、中性条件も又、及び場合によっては酸性条件も用いることができる。塩基性条件が好ましく、ここで塩基は通常、炭酸塩などの無機塩基、好ましくは炭酸カリウムである。求核塩基を使用すると、条件を慎重に制御しない限りニトリル基の望ましくない加水分解につながることもあり、従って非求核塩基が好ましいことに留意されたい。概して当業者は塩基が有用であるか否かを判断し、好適な塩基を選択し、及び好適な弱塩基性条件を見つけ出して、ニトリル基の加水分解を最小限に抑え、好ましくは回避することができる。
【0033】
反応は好適な溶媒中、通常は有機溶媒、好ましくは、アセトン、DMSO又はDMFなどの非プロトン性溶媒、好ましくはDMF中で行われ得る。
【0034】
反応パラメータは当業者によって最適化されてよいが、概して温度は例えば25℃~45℃、好ましくは35℃~42℃、例えば概して少なくとも25℃、好ましくは少なくとも35℃、例えば概して最高45℃、好ましくは最高42℃である。所望の変換レベルを実現するのに必要な時間は使用温度に応じて異なることになり、これは例えば1時間~24時間であり得る。変換は通常、高い温度を用いるほど速くなる。概して圧力は周囲圧力である。
【0035】
式IVの化合物は、国際公開第2011/012577号パンフレット及び国際公開第2004/103994号パンフレットに記載される方法を用いて得ることができる。
【0036】
ステップ3:化合物Iを得るための化合物IIのカルバメート保護基の切断
【化11】

式IIの化合物の脱保護には、分子の他のいかなる部分も変化させることなく-C(=O)OR保護基を除去して第一級アミン基を残すことが関わる。第一級アミノ基からのカルバメート保護基の除去に好適な条件及び試薬は、tert-ブチルカルバメートを含め、保護基のマニュアルGreene’s Protective Groups in Organic Synthesis,5th Ed.by Peter G.M.Wuts(John Wiley & Sons,Inc.,Hoboken,New Jersey,USA,2014)に詳細に記載されている。当該技術分野における幅広い知識を踏まえて、当業者はこの脱保護ステップの実施に好適な条件、溶媒及び試薬を選択することができる。
【0037】
通常、反応は、カルボニル-窒素結合を切断することが可能な求核試薬を含む。
【0038】
脱保護は、一般的には酸性条件下で行われるが、好適な非酸性条件も又上述のマニュアルに記載されている。好適な酸としては、塩酸、トリフルオロ酢酸、トリメチルシリルヨージド、臭化亜鉛、好ましくは塩酸が挙げられる。脱保護はカルバメートの加水分解によって起こり得るが、無水条件下での脱保護も又上述のマニュアルに記載されている。
【0039】
反応は好適な溶媒中、通常は非プロトン性溶媒などの有機溶媒、好ましくはアセトン又はテトラヒドロフラン中で行われ得る。
【0040】
温度は-20℃~溶媒の沸点、例えば0℃~50℃であり得る。通常、温度は例えば20℃~30℃、例えば少なくとも20℃、例えば最高30℃である。所望の変換レベルを実現するのに必要な時間は使用温度に応じて異なることになり、例えば最長25時間であり得る。概して圧力は周囲圧力である。
【0041】
式Iの化合物は、国際公開第2011/012577号パンフレットに記載される方法論に従い式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩に変換されてもよい。かかる塩は、例えば酸付加塩として、好ましくは有機酸又は無機酸と共に形成される。好適な無機酸は、例えば、塩酸、硫酸、又はリン酸などのハロゲン酸である。好適な有機酸は、例えば、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸又はスルファミン酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、グリコール酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸又はアスパラギン酸などのアミノ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、メチルマレイン酸、シクロヘキサンカルボン酸、アダマンタンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、フタル酸、フェニル酢酸、マンデル酸、ケイ皮酸、メタンスルホン酸又はエタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレン-ジスルホン酸、2-、3-又は4-メチルベンゼンスルホン酸、メチル硫酸、エチル硫酸、ドデシル硫酸、N-シクロヘキシルスルファミン酸、N-メチル-、N-エチル-又はN-プロピル-スルファミン酸、又はその他の、アスコルビン酸などの有機プロトン酸である。
【0042】
好ましい薬学的に許容可能な塩は式Iの化合物の塩化物塩、詳細には二塩化物塩である。
【0043】
本発明の方法は又、適用可能な場合には、式II、III、IV、V及びVIの化合物の塩を使用することを含んでもよく、式II、III、IV、V及びVIの化合物への言及には、それらの塩が含まれる。
【0044】
国際公開第2011/012577号パンフレットに式Iの化合物の作製方法が記載され、ここではベンジルエステル基を使用してリジン部分上のアミン基が保護される。開示されるこの方法は、比較実施例1に示されるとおり、約90%(面積)の純度、約81%eeの鏡像体過剰率及び約50%の収率の式Iの化合物を提供する。意外にも、現在では、tert-ブチルオキシカルボニルエステル類を使用してアミノ基を保護することにより高純度且つ有意に高い収率で式Iの化合物を得ることができることが分かっている。
【0045】
【表1】
【0046】
又、式IIの化合物をワンポット反応で脱保護し、二塩化物塩として有利な結晶形(本明細書では「E形」と称する)に結晶化させることができることも分かっている。これは、HCl及びメタノールを溶媒として使用して脱保護ステップを行い、続いて0~10℃、好ましくは3~8oC、より好ましくは約5℃の温度で撹拌することにより実現し得る。換言すれば、温度は概して少なくとも0℃、好ましくは少なくとも3℃である。同様に温度は概して最高10℃、好ましくは最高8℃である。
【0047】
更なる態様において、本発明は、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩を提供する。式Iの化合物の結晶形は、CuKα線を使用した粉末X線回折法(XRPD)を含め、様々な技法によって特徴付けることができる。
【0048】
E形
二塩化物塩を患者への投与用の固形製剤に製剤化するのに有利な物理的特性を有する一つの多形結晶形は、本明細書で「E形」と称される多形結晶形である。E形は、常温で高い多形安定性を示すことが分かっており(実施例5aを参照)、最高85%RHまで化合物について1%の吸水率(実施例5fを参照)及び良好な溶解度(実施例5gを参照)を示す。他の多くの多形結晶形(実施例に記載するF形及びG形を含む)は多形安定性を示さず、概して製剤加工に容易に使用可能なものではない。
【0049】
従って、一実施形態において式Iの化合物の結晶塩(E形)は、CuKα線を使用して計測すると6.0°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)は、6.0、9.4及び9.9°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。より好ましくは式Iの化合物の結晶塩(E形)は、6.0、9.4、9.9、10.7、17.4、21.4、25.8及び28.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。更により好ましくは式Iの化合物の結晶塩(E形)は、6.0、9.4、9.9、10.7、11.6、11.9、17.4、21.4、22.4、23.0、24.2、24.6、25.8及び28.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。
【0050】
好ましくは、斜方晶単純格子パラメータは、a=4.813±0.001Å、b=20.02±0.01Å、c=59.40±0.02Å、V=5724±5Åと定義される。
【0051】
式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)は又、1つ以上のXRPDピークと組み合わせてIR及び/又は固体NMRデータを用いて確認してもよい。この場合、結晶性二塩化物塩(E形)は好ましくは、1701、1665、1335、1241、1170、942、924、864、699及び628cm-1(±2cm-1)にピークを含むIRスペクトルを有し、これらのピークは、E形と他の多形結晶形を識別するピークとして同定されている。同様に、結晶性二塩化物塩は好ましくは、以下の表(表5)に示されるとおりの外部テトラメチルシラン(tretramethylsilane)(TMS)標準測定値を基準とした13C CP MAS(14kHz)NMRスペクトル及び/又は([D6]DMSO、内部標準)を基準とした[D6]-DMSO中における13C NMRスペクトルを有する。
【0052】
更なる実施形態において、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)は、6.0°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターン及び上記のIRスペクトルピークによって特徴付けられる。更なる実施形態において、E形は、6.0°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターン及び上記のIRスペクトルピーク及び/又は以下の表(表5)にある2つのNMRスペクトルピークセットのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。更なる実施形態において、E形は、6.0、9.4及び9.9°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターン及び上記のIRスペクトルピーク及び/又は以下の表(表5)にある2つのNMRスペクトルピークセットのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。更なる実施形態において、E形は、6.0、9.4、9.9、10.7、17.4、21.4、25.8及び28.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターン及び上記のIRスペクトルピーク及び/又は以下の表(表5)にある2つのNMRスペクトルピークセットのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。更なる実施形態において、E形は、6.0、9.4、9.9、10.7、11.6、11.9、17.4、21.4、22.4、23.0、24.2、24.6、25.8及び28.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターン及び上記のIRスペクトルピーク及び/又は以下の表(表5)にある2つのNMRスペクトルピークセットのうちの少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0053】
同様に、E形を特徴付ける種々の方法に関する上述の実施形態の任意のものを任意の組み合わせで互いに組み合わせてもよい。
【0054】
E形は、例えば撹拌下に、2-ブタノン/メタノール、1,4-ジオキサン/メタノール又は酢酸エチル/メタノールの混合物からの冷却結晶化によって調製することができる。E形は又、メタノール、エタノール又は2-プロパノールなどのアルコール類、酢酸エチル又はアセトニトリル、又はこれらの溶媒の混合物に式Iの化合物をスラリー化することによって得ることもできる。E形は又、前述の溶媒のうちの1つと、エーテル類(例えばtert-ブチルメチルエーテル、1,4-ジオキサン)、ケトン類(例えば2-ブタノン)、又はハロカーボン類(例えば1,2-ジクロロエタン)などの別の溶媒とで構成される溶媒混合物から得ることもできる。E形は又、式Iの化合物(遊離塩基)から好適な溶媒中での塩化水素処理によって得ることもできる。変換時間は温度に依存し、概して温度が高いほど速く結晶化する。例えば室温では数日、時に最長2週間かかることもあるが、還流下では数時間以内に結晶化が実現し得る。
【0055】
更なる態様において、本発明は、式Iの化合物の結晶塩(E形)の調製方法を提供し、この方法は、溶媒から式Iの化合物の二塩化物塩を結晶化させるステップを含み、ここで前記溶媒は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、酢酸エチル、イソプロパノール又はこれらの混合物、又はアセトニトリル、メタノール、エタノール、酢酸エチル及び/又はイソプロパノールを含む溶媒混合物である。好ましくは溶媒は、アセトニトリル、メタノール、又はエタノール又はこれらの混合物、又はアセトニトリル、メタノール及び/又はエタノールを含む溶媒混合物である。好ましい溶媒混合物は、アセトニトリル、メタノール及びエタノールのうちの2つ又は3つの混合物、並びにメタノールとメチルtert-ブチルエーテル、メタノールとトルエン、メタノールとアセトニトリル、メタノールと2-ブタノン、メタノールとジオキサン、及びメタノールと酢酸エチルである。より好ましい溶媒混合物は、アセトニトリル、メタノール及びエタノールのうちの2つ又は3つの混合物、並びにメタノールとメチルtert-ブチルエーテル、メタノールとトルエン、及びメタノールとアセトニトリルである。一実施形態において溶媒はアセトニトリル又はアセトニトリルを含む溶媒混合物である。別の実施形態において溶媒はメタノール又はメタノールを含む溶媒混合物である。別の実施形態において溶媒はエタノール又はエタノールを含む溶媒混合物である。別の実施形態において溶媒はアセトニトリル、メタノール又はエタノール又はこれらの混合物である。
【0056】
本方法は、溶媒と二塩化物塩としての式Iの化合物とを組み合わせて、例えば混合物を放置しておくことにより式Iの化合物の二塩化物塩を結晶化させるステップを含み得る。或いは本方法は、溶媒と遊離塩基としての式Iの化合物とを塩酸と共に組み合わせて、例えば混合物を放置しておくことにより式Iの化合物の二塩化物塩を結晶化させるステップを含み得る。
【0057】
更なる態様において、本発明は、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)の薬学的に有効な量を薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0058】
更なる態様において、本発明は、増殖性障害又は疾患の治療における使用のための式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)を提供する。
【0059】
更なる態様において、本発明は、増殖性障害又は疾患の治療に使用するための医薬品の製造における式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)の使用を提供する。
【0060】
更なる態様において、本発明は、増殖性障害又は疾患を治療する方法を提供し、この方法は、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)をそれを必要としている患者に投与することを含む。
【0061】
A+M系
二塩化物塩を患者への投与用の固形製剤に製剤化するために使用し得るものの更なる結晶形は、本明細書で「A+M系」と称される結晶形である。
【0062】
式Iの化合物の二塩化物塩のこの結晶形(A+M系)は、それが水を取り込んでその多形結晶形を可逆的且つ予測可能な形で変化させる能力を有する点で異例である。この意味で、この結晶形は多形系であり、その多形系が曝されている湿度の程度に応じて特定の多形結晶形を呈するものである。詳細には、多形系は0及び100パーセント相対湿度(RH)で特定の多形結晶形を呈し(相対湿度への言及は全て、特に指定されない限り1atm/25℃での相対湿度を指す)、この2つの極限の間に一連の再現可能な多形結晶形がある。A+X系は種々の多形結晶形(水和物)を呈するが、この系それ自体は、多形変化が可逆的且つ予測可能な点で多形的に安定していることが分かっている。加えてこれは良好な溶解度を示す(実施例8dを参照)。他の多くの多形結晶形(実施例に記載するF形及びG形を含む)は多形安定性を示さず、概して製剤加工に容易に使用可能なものではない。
【0063】
多形系は、結晶形が本質的に水分を含まなくなるまで結晶形をゼロ湿度に供することにより認識できる。次に結晶形は、本明細書ではA0形と称される多形を呈することになる。或いは多形系は、多形結晶形がそれ以上水分を取り込まなくなるまで結晶形を高湿度(≧95%RH)に供することにより認識できる。次に結晶形は、本明細書ではA2+M11混合物と称される多形を呈することになり、これは2つの多形結晶形A2及びM11の混合物である。これらの2つの極限形態の間に、結晶形内の水分パーセント量に応じて他の多形結晶形及び結晶形の混合物が存在する。
【0064】
従って、一実施形態において本発明は、結晶塩が本質的に水分を含まないとき、CuKα線を使用して計測すると3.9°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A0形)を提供する。好ましくは、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A0形)は、3.9、7.9及び9.7°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。より好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A0形)は、3.9、7.9、9.7、11.2及び23.9°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。更により好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A0形)は、3.9、7.9、9.7、11.2、23.9、25.0及び25.5°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。
【0065】
「本質的に水分がない」は、例えばゼロ水分又は無視できるほどの水分、例えば0.1%水分(w/w)以下、好ましくはゼロ水分を意味する。これは、結晶形を例えば約195℃で少なくとも2.5時間、又はそれ以上、例えば少なくとも4時間加熱することにより実現し得る。
【0066】
更なる実施形態において、本発明は、結晶塩を更なる水分を一切取り込まなくなるようにある期間にわたって100パーセント湿度に曝露しておいたとき、CuKα線を使用して計測すると2.7°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A2+M11混合物)を提供する。好ましくは、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A2+M11混合物)は、2.7、8.3及び9.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。より好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A2+M11混合物)は、2.7、8.3、9.4、14.8及び19.7°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。更により好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A2+M11混合物)は、2.7、8.3、9.4、14.8、19.7及び24.1°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。
【0067】
多形結晶形がそれ以上水分を取り込まなくなるまで結晶形を高湿度(≧95%RH)に供するには、結晶形を25℃で少なくとも1週間又は更に長く、例えば2週間以上にわたって≧95%RHに供する必要があり得る。
【0068】
中間的な湿度レベルにおけるこの系内の3つの一般的な多形結晶形は、本明細書でA1+M1混合物(通常約1~約20%RHに存在する)、A1+M4混合物(通常約10~約50%RH)及びM3+M5形(通常約50~約90%RH)と称される結晶形である。
【0069】
従って更なる実施形態において、本発明は、CuKα線を使用して計測すると3.6°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A1+M1混合物)を提供する。好ましくは、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A1+M1混合物)は、3.6、4.0、及び8.1°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。より好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A1+M1混合物)は、3.6、4.0、8.1、9.4、11.0、21.1及び24.5°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。
【0070】
同様に、更なる実施形態において、本発明は、CuKα線を使用して計測すると3.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A1+M4混合物)を提供する。好ましくは、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A1+M4混合物)は、3.4、4.0及び8.1°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。より好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A1+M4混合物)は、3.4、4.0、8.1、11.1、16.5及び24.0°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。
【0071】
同様に、更なる実施形態において、本発明は、CuKα線を使用して計測すると3.0°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(M3+M5形)を提供する。好ましくは、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(M3+M5形)は、3.0、3.6及び9.4°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。より好ましくは式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(M3+M5形)は、3.0、3.6、9.4、11.1、12.7、15.3、23.6及び24.5°2θ(±0.2°2θ)にピークを含むXRPDパターンを有する。
【0072】
中間的な湿度レベルにおけるこの系内の他の多形結晶形については、この系の単離された成分の特徴付けと共に実施例において記載し、特徴付けている。F形及びG形はA+M系の一部ではないが、個々の成分の単離時に存在し得ることに留意されたい。
【0073】
A+M系を特徴付ける種々の方法に関する上述の実施形態の任意のものを任意の組み合わせで互いに組み合わせてもよい。
【0074】
更なる態様において、本発明は、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A+M系)の薬学的に有効な量を薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0075】
更なる態様において、本発明は、増殖性障害又は疾患の治療における使用のための式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A+M系)を提供する。
【0076】
更なる態様において、本発明は、増殖性障害又は疾患の治療に使用するための医薬品の製造における式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A+M系)の使用を提供する。
【0077】
更なる態様において、本発明は、増殖性障害又は疾患を治療する方法を提供し、この方法は、式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A+M系)をそれを必要としている患者に投与することを含む。
【0078】
用語「治療」は、疾患又は障害を治療する文脈で本明細書で使用されるとき、概して、ヒトであれ動物であれ(例えば獣医学的適用)、何らかの所望の治療効果、例えば疾患又は障害の進行の阻止が実現するその治療及び療法に関し、進行速度の低減、進行速度の停止、疾患又は障害の症状の軽減、疾患又は障害の改善、及び疾患又は障害の治癒が含まれる。防御的手段としての治療(即ち予防)も又含まれる。例えば、まだ疾患又は障害を発症していないが、疾患又は障害の発症リスクがある患者での使用は、用語「治療」に包含される。例えば、治療には、癌の予防、癌の発生率の低減、癌の症状の緩和等が含まれる。
【0079】
用語「治療有効量」は、本明細書で使用されるとき、所望の治療レジメンに従い投与されたときに、妥当なリスク対効果比に見合った、何らかの所望の治療効果を生み出すのに有効な化合物、又は化合物を含む材料、組成物若しくは剤形の量に関する。
【0080】
式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な誘導体は、当業者に周知のとおり、医薬組成物として投与されてもよい。好適な組成物及び投薬量は、例えば、国際公開第2004/103994 A1号パンフレットの35~39頁(本明細書に参照によって具体的に援用される)に開示されている。組成物は、鼻腔に、頬側に、経直腸的に、経口的に又は非経口的に投与されてもよい。非経口投与には、例えば、温血動物、特にヒトへの静脈内、筋肉内及び皮下投与が含まれる。より詳細には、静脈内又は経口投与用の組成物が好ましい。組成物は、活性成分と、該当する場合には1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含む。薬学的に許容可能な賦形剤としては、当業者に公知のとおりの希釈剤、担体及び滑剤等が挙げられる。経口投与用の組成物の例としては、限定はされないが、1mg活性成分、98mg希釈剤、例えばマンニトール及び1mg滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、又は5mg活性成分、94mg希釈剤、例えばマンニトール及び1mg滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムを含有する硬カプセルが挙げられる。静脈内適用には、例えば、活性成分は凍結乾燥し、投与直前に好適な希釈剤、例えば生理食塩水で再構成することができる。
【0081】
式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な誘導体は、単独で、又は1つ以上の他の治療剤と併用して投与することができる。可能な併用療法は、固定的配合剤、又は本発明の化合物と1つ以上の他の治療剤との時間をずらした、又は互いに独立に与えられる投与、又は固定的配合剤と1つ以上の他の治療剤との併用投与の形態をとってもよい。
【0082】
式Iの化合物又はその薬学的に許容可能な誘導体は、更に、又は加えて、特に腫瘍治療のために、化学療法(細胞傷害性療法)、ターゲット療法、内分泌療法、生物学的製剤、放射線療法、免疫療法、外科的介入、又はこれらの組み合わせと併用して投与することができる。上記に記載したとおり、他の治療戦略との関連においてはアジュバント療法と同じく長期療法が等しく可能である。他の可能な治療は、例えばリスクのある患者における、腫瘍退縮後の患者の状態を維持するための療法、又は更には化学防御療法である。
【0083】
式(I)に係る化合物は、ヒト又は動物の体の予防的又は特に療法的治療に、詳細には新生物疾患などの増殖性疾患又は障害を治療するために用いられ得る。かかる新生物疾患の例としては、限定はされないが、上皮性新生物、扁平上皮性新生物、基底細胞性新生物、移行上皮乳頭腫及び移行上皮癌、腺腫及び腺癌、皮膚付属器新生物、粘膜表皮新生物、嚢胞性新生物、粘液性・漿液性新生物、乳管(ducal)-小葉及び髄様新生物、腺房細胞新生物、複合上皮性新生物、特殊性腺新生物、傍神経節腫及びグロムス腫瘍、母斑性黒色腫、軟部組織腫瘍及び肉腫、線維腫性新生物、粘液腫性新生物、脂肪腫性新生物、筋腫性新生物、複合混合型・間質性新生物、線維上皮性新生物、滑膜様新生物、中皮性新生物、胚細胞新生物、栄養膜新生物、中腎腫、血管腫瘍、リンパ管腫瘍、骨軟骨腫性新生物、巨細胞腫、混合型骨腫瘍、歯原性腫瘍、神経膠腫、神経上皮腫性新生物、髄膜腫、神経鞘腫瘍、顆粒細胞腫及び胞巣状軟部肉腫、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、他のリンパ網内系新生物、形質細胞腫、肥満細胞腫、免疫増殖性疾患、白血病、混合型骨髄増殖性疾患、リンパ増殖性障害及び骨髄異形成症候群が挙げられる。
【0084】
特に好ましい実施形態において、疾患は癌である。発症する器官及び身体部位の点で見た癌の例としては、限定はされないが、脳、乳房、子宮頸部、卵巣、結腸、直腸(結腸及び直腸を含む、即ち結腸直腸癌)、肺(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、大細胞肺癌及び中皮腫を含む)、内分泌系、骨、副腎、胸腺、肝臓、胃、腸(胃癌を含む)、膵臓、骨髄、血液学的悪性腫瘍(リンパ腫、白血病、骨髄腫又はリンパ性悪性腫瘍など)、膀胱、尿路、腎臓、皮膚、甲状腺、脳、頭部、頸部、前立腺及び精巣が挙げられる。
【0085】
好ましくは癌は、脳癌(例えば膠芽腫) 乳癌、前立腺癌、子宮頸癌、卵巣癌、胃癌、結腸直腸癌、膵癌、肝癌、脳癌、神経内分泌癌、肺癌、腎癌、血液学的悪性腫瘍、黒色腫及び肉腫からなる群から選択される。
【0086】
一実施形態において、治療される癌は、腫瘍、好ましくは固形腫瘍である。
【0087】
更なる実施形態において、新生物疾患は、限定はされないが、グリア性及び非グリア性腫瘍、星状細胞腫(多形性膠芽腫及び不特定の神経膠腫を含む)、乏突起膠腫、上衣腫(ependydoma)、髄膜腫(menigioma)、血管芽細胞腫、聴神経腫、頭蓋咽頭腫、原発性中枢神経系リンパ腫、胚細胞腫瘍、下垂体腫瘍、松果体部腫瘍、未分化神経外胚葉性腫瘍(PNET)、髄芽腫(medullablastoma)、血管周囲細胞腫、髄膜腫を含む脊髄腫瘍、脊索腫並びに神経線維腫症、末梢神経鞘腫瘍及び結節性硬化症を含む遺伝子ドライブ型脳新生物を含む脳新生物、例えば脳腫瘍である。好ましくは、脳新生物は膠芽腫(多形性膠芽腫とも称される)を指す。
【0088】
投薬量は幅広い範囲内で異なり得るとともに、当然ながら、詳細なそれぞれのケースにおける個別の要件に適合されることになる。一般に、経口投与の場合、1人当たり約10~1000mgの一般式Iの化合物の1日投薬量が適切なはずであり、しかしながら上記の上限は又必要に応じて超過しても、又は低減されてもよい。
【0089】
用語「式Iの化合物の二塩化物塩」及び「式Iの化合物の二塩酸塩」は同義的に使用され、両方とも、式Iの化合物の2×HCl塩を指す。
【0090】
本発明及び本発明が関係する技術の現状をより詳しく説明及び開示するため、幾つもの刊行物が本明細書に引用される。これらの参考文献の各々は、各個別の参考文献が参照によって援用されることが具体的且つ個別的に指示されたものとするのと同程度に、本明細書において全体として参照により本開示に援用される。
【0091】
ここで非限定的な例を用いて本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
図1図1はNMRアサインメントの原子番号付けを示す。
図2図2は室温における式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eの粉末X線回折(XRPD)ディフラクトグラムを示す。
図3図3は式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関するポウリー(Pawley)(WPPD)計算のグラフ表示を示す。全粉末パターン分解計算のグラフ表示を示し、ここでは上の線が高分解能XRPDによる観察データを示す。黒色の中央の線が粉末パターン計算値を示し、図中の一番下にある黒色の棒がピークの位置をそのh、k、l指数と共に指示している。灰色の下の線は計算点と(ベースライン補正済みの)観察点との差を表す。
図4図4は約130℃(±2℃)及び276℃(±2℃)に吸熱ピークがある式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eの熱重量分析(TGA)を示す。
図5図5は約130℃(±2℃)及び276℃(±2℃)に吸熱ピーク並びにこの温度を上回る分解がある式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eの示差走査熱量測定(DSC)を示す。
図6図6は温度プロファイル25→200→25℃;10℃/分の加熱速度及び急冷を使用した式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関するサイクルDSCを示す。吸熱(130℃±2℃)は固体-固体転移を示し、これは可逆的である(冷却時に97℃±2℃で発熱)。
図7図7は180℃における式Iの化合物の二塩化物塩の結晶性高温E1形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図8図8は式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関する式Iの化合物のFTIRスペクトルを示す。
図9図9は式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関するFTIRスペクトルの1830~400cm-1の拡大表示を示す。
図10図10は式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関するマジック角回転固体炭素13{プロトンデカップリング型}核磁気共鳴(13C{H}MAS-NMR)スペクトルを示す。
図11図11は式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関する等温(24.1℃)動的蒸気収着分析を示す。
図12図12はA0形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図13図13はA1形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図14図14はA1+M1混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図15図15はA1+M4混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図16図16はM3+M5混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図17図17はA2+M4混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図18図18はA2+M11混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図19図19は(下から上に)F:A1+M4形、E:40℃75%RHで1週間後(M3+M5)、D:40℃/75%RHで2.5週間後(M3+M5)、C:40℃/75%RHで4週間後(M5)、B:40℃/75%RHで4週間後及び25℃/95%RHで2日後(A2+M4)、A:40℃/75%RHで4週間後及び25℃/95%RHで1週間後(A2+M11)のXRPDディフラクトグラムのオーバーレイを示す。
図20図20はA2形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図21図21はA2+A3混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図22図22はM1形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図23図23はM2形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図24図24はM3+M5形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図25図25はM4形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図26図26はM5形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図27図27はM8形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図28図28はM9形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図29図29はM10+M4混合物のXRPDディフラクトグラムを示す。
図30図30はM11形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図31図31はM12形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図32図32はM13形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図33図33はF形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図34図34はG形のXRPDディフラクトグラムを示す。
図35図35は相対湿度に対する相対試料重量(%)を示す式Iの化合物の等温(24.9℃)動的蒸気収着測定を示す。出発形態はA1+M4混合物であり、湿度プロファイルは1刻み毎に質量平衡に達するまでとして10%RH刻みで0→95→0%RHであった。最大質量変化率は95%RHにおける34%であった。ヒステリシスは観察されなかった。
図36図36はE形の熱力学的pH依存性溶解度を示す。
図37A図37AはA1+M4形の熱力学的pH依存性溶解度を示す。
図37B図37BはA2+M11形の熱力学的pH依存性溶解度を示す。
図38図38は国際公開第2011/012577号パンフレットの方法論に従い生成された、且つ国際公開第2011/012577号パンフレットの36頁の最終段落に記載される式Iの化合物の二塩化物塩のXRPDディフラクトグラムを示す。上のXRPDプロットは、5℃で貯蔵した試料からのものであり、下のXRPDプロットは、-60℃で貯蔵した試料からのものである。
【実施例
【0093】
実施例1-式IIIの化合物の合成
実施例1a:DCCを用いた活性化による式IIIの化合物(R=Cl、R=tert-ブチル)の合成
水(280mL)中のリン酸(85%、57mL)の溶液を室温でジイソプロピルエーテル(DIPE、1L)中のN2,N6-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-L-リジンジシクロヘキシルアミン塩(438g、0.831mol、2.5eq.)の懸濁液に加え、固形分が溶解するまで撹拌した。有機相をリン酸(85%、20mL)と水(160mL)との混合物、次に水(4×160mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ビス(tert-ブトキシカルボニル)-L-リジン(遊離酸)の溶液を濃縮した。この濃縮物をジクロロメタン(DCM、421mL)で希釈した。DCM(100mL)中のジシクロヘキシルカルボジイミド(88.5g、0.429mol、1.25eq.)の溶液を室温で加え、この反応混合物を15分間撹拌した。得られた懸濁液をろ過し、ケーキをDCM(3×50mL)で洗浄した。合わせたろ液に4-アミノフェナシルクロリド(56.2g、0.331mol、1.0eq.)を加え、この混合物を4時間撹拌した。不溶物をろ去し、ろ液を減圧濃縮した。濃縮物を4-メチル-2-ペンタノン(MIBK、279mL)で希釈し、約45℃に加熱した。冷却しながらヘプタン(836mL)を加えた。この懸濁液を10℃に冷却し、撹拌し、ろ過した。固体をMIBK/ヘプタン及びヘプタンで洗浄し、乾燥させた。MIBK/ヘプタンから粗生成物が結晶化し、乾燥させると、119.4gの表題化合物(72%)が≧99.5%及び≧99%eeの純度で得られた。
【0094】
実施例1b:T3P(登録商標)を用いた活性化による式IIIの化合物(R=Cl、R=tert-ブチル)の合成
N2,N6-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-L-リジン(85%w/w、216g、531mmol、1.5eq.)をトルエン(1500g)中に溶解した。トルエン(600g)中の4-アミノフェナシルクロリド(60g、354mmol、1.0eq.)及び4-(ジメチルアミノ)-ピリジン(DMAP、4.32g、35.4mmol、0.1eq.)の溶液を加えた。この混合物を-15~-10℃に冷却した。トリエチルアミン(143g、1.42mol、4.0eq.)を加え、続いてトルエン(360g)中の2,4,6-トリプロピル-1,3,5,2,4,6-トリオキサトリホスホリナン-2,4,6-トリオキシド(T3P(登録商標)、495gのトルエン中50%溶液、778mmol、2.2eq.)の溶液を-15~-10℃で2時間かけて注入した。この混合物17時間を撹拌し、約-5℃に加温した。水(1524g)を加え、室温で相分離させた。有機相を塩酸(pH1.0)、次に塩酸(pH=0.5、5%w/wエタノール)及び飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。この溶液をろ過し、静置しておいた。懸濁液を30~35℃、50mbarで濃縮し、約20℃に冷却して撹拌した。固体をろ過し、トルエンで洗浄して乾燥させると、99.3%及び≧99%eeの純度で138.5gの表題化合物(79%)が得られた。
【0095】
実施例2-式IIの化合物(Rはtert-ブチルである)の合成
3-{[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル]アミノ}プロパンニトリル(47g、185mmol、1.00eq)をDMF(1.6L)中に溶解させた。N-[4-(2-クロロアセチル)フェニル]-N2,N6-ジ-Boc-L-リシンアミド(98g、197mmol、1.06eq.)及び炭酸カリウム(49.5g、358mmol、1.94eq.)を加えた。この混合物を40℃に5時間加熱した。懸濁液をろ過し、ろ液を0~5℃の塩化アンモニウム水溶液(2.5%w/w、7L)に注入した。この懸濁液をろ過し、固体を乾燥させた。粗生成物をTHF(188mL)及び水(100mL)中に懸濁した。還流させながらメタノール(3.4L)を加えた(約65℃)。この懸濁液を1時間撹拌し、室温に冷却した。生成物をろ過し、固体をメタノールで洗浄し、乾燥させた。固体をTHF(188mL)及びメタノール(3.4L)中で加熱還流し、2時間で約10℃に冷却した。この懸濁液をろ過し、メタノールで洗浄して乾燥させると、99.8%の純度で121gの表題化合物(91%)が得られた。
【0096】
実施例3-式Iの化合物(二塩酸塩)の合成
式IIの化合物(Rはtert-ブチルである)(119g、166.4mmol、1.00eq.)をテトラヒドロフラン(785mL)中に懸濁し、30℃に加熱した。3時間で塩酸水溶液(30%w/w、170g)を加えた。この混合物を48時間撹拌し、10℃に冷却し、テトラヒドロフラン(785mL)を加えた。得られた懸濁液をろ過した。ケーキをテトラヒドロフランで洗浄し、最高55℃で乾燥させると、95.8g(97.8%)の粗生成物が得られる。この粗生成物(75g)を約43℃で水(75mL)及びテトラヒドロフラン(112mL)中に溶解させた。テトラヒドロフラン(2.85L)を約40℃で加え、懸濁液を約50℃で1時間撹拌した。10℃に冷却した後、この生成物をろ過し、テトラヒドロフランで洗浄して約50℃で乾燥させると、68gの精製生成物が得られた。この精製生成物(67g)を水(201mL)中に溶解させて、得られた溶液をろ過した。水を蒸発させた。この生成物を最高50℃で更に乾燥させると、62.9gの表題化合物(83%)が99.6%の純度で得られた。
【0097】
比較実施例1(国際公開第2011/012577号パンフレットによる)
S-{5-ベンジルオキシカルボニルアミノ-5-[4-(2-{2-[4-(2-シアノエチルアミノ)フラザン-3-イル]-ベンゾイミダゾ-1-1-イル}-アセチル)-フェニルカルバモイル]-ペンチル}-カルバミン酸ベンジルエステルをPd/C10%の存在下に水素を含むTHF/MeOH/HClの混合物中で約5時間水素化した。ワークアップ、クロマトグラフィー及び塩形成後、これにより式Iの化合物の二塩酸塩が90~91%、81%eeの純度で生じた(収率:50%)。
【0098】
実施例4-式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)の調製
以下の実施例の一部は、種晶を使用したE形の調製について記載する。種晶を添加する主な目的は、多形の形成を速めることであった。種晶がなくても、これらの実施例はなおもE形を生じたであろうと考えられる。実施例4d、4f、4g、4h、4i及び4kは、並びに4l、4m、4n、4o及び4pも、種晶を使用しなかったことに留意されたい。
【0099】
スラリーによる結晶化
実施例4a:メタノール/メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)から
0.20gの式Iの化合物を65℃で8mLメタノール中に溶解させて、この溶液をろ過した。E形の10mg種晶を加え、この混合物を30分間撹拌した。12mL MTBEを2~3時間かけて滴下して加え、得られた混合物を5~15℃に冷却し、5~15℃で約40時間撹拌した。この混合物をろ過し、ケーキを減圧下で乾燥させると、0.18gのE形の固体が得られた。
【0100】
実施例4b:メタノール/アセトニトリルから
4gの式Iの化合物(A1+M1混合物)を40mLメタノール中に30~45℃で溶解させる。この溶液をろ過し、E形の200mg種晶を溶液に入れた。撹拌後、懸濁液が形成され、これを約15時間にわたって加熱還流し、12mLに濃縮した。20mLアセトニトリルを加え、懸濁液を0~10℃に徐冷し、ろ過した。ケーキを減圧下約50℃で乾燥させると、3.4gのE形の固体が得られた。
【0101】
実施例4c:メタノール/トルエンから
2gの式Iの化合物(A1+M1混合物)を30~45℃で20mLメタノール及び最終バッチからの母液中に溶解させた。この溶液をろ過し、100mg E形の種晶を添加し、50mL熱トルエン(80~90℃)に滴下して加えた。得られた懸濁液を濃縮し(約20mL溶媒を留去)、沸点に更に加熱し、次に0~10℃に徐冷した。この懸濁液をろ過し、ケーキを減圧下50℃で乾燥させると、1.5gのE形が得られた。
【0102】
実施例4d:メタノールから(室温スラリー)
65gの式Iの化合物(A1+M1混合物)を485mLメタノール中に溶解させて、15~25℃で撹拌した。この溶液を約14日間撹拌した。撹拌するうちに懸濁液が形成された。この懸濁液をろ過し、ケーキをメタノールで洗浄し、減圧下約50℃で乾燥させると、46gのE形が得られた。
【0103】
実施例4e:メタノールから(還流下スラリー)
2gの式Iの化合物(A1+M4混合物)を30~45℃で20mLメタノール中に溶解させた。この溶液をろ過し、E形の種晶を添加し、約15時間還流させた。この懸濁液を約10mLの容積に濃縮し、0~10℃に冷却してろ過した。ケーキを減圧下50℃で乾燥させると、1.37gのE形が得られた。
【0104】
実施例4f:エタノールから
5gの式Iの化合物(A1+M1混合物)を100mLエタノール中で合計11時間還流させた。この混合物を室温に冷却し、ろ過し、ケーキを減圧下45℃で乾燥させると、4.45gのE形が得られた。
【0105】
実施例4g:アセトニトリルから、還流
15gの式Iの化合物(A1+M1混合物)を300mLアセトニトリル中で合計11時間還流させた。この懸濁液を室温に冷却してろ過し、ろ過し、ケーキを減圧下65℃で乾燥させると、13gのE形が得られた。
【0106】
実施例4h:酢酸エチルから、室温(RT)及び50℃でスラリー
20.4mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を室温で1mLの酢酸エチル中において2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と微量多形としてのF形との混合物と分析された。この湿潤固体を減圧下(5mbar)室温で約18時間乾燥させて、E形と分析された。
【0107】
28.4mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を約50℃で1mLの酢酸エチル中において2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と微量多形としてのFとの混合物と分析された。この湿潤固体を減圧下(5mbar)室温で約18時間乾燥させて、E形と分析された。
【0108】
実施例4i:2-プロパノールから
27.5mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を50℃で0.9mLの2-プロパノール中において約2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と分析された。この湿潤固体を減圧下(5mbar)室温で約18時間乾燥させて、E形と分析された。
【0109】
実施例4j:酢酸エチルから
19.8mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を20℃で0.6mLの酢酸エチル中において約2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と分析された。この湿潤固体を更に40℃/75%RHで2日間処理し、E形と分析された。
【0110】
実施例4k:アセトニトリルから、20℃
18.0mgの式Iの化合物(A1形+M1)を20℃で0.6mLのアセトニトリル中において約2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と分析された。この湿潤固体を更に40℃/75%RHで2日間処理し、E形と分析された。
【0111】
2回目の試験では、湿潤固体は18.0mgの式Iの化合物であり、これを20℃で0.6mLのアセトニトリル中において約2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と分析された。この湿潤固体を減圧下(5mbar)室温で約18時間乾燥させて、E形と分析された。
【0112】
実施例4l アセトニトリルから、50℃
18.0mgの式Iの化合物(A1形+M1)を50℃で0.6mLのアセトニトリル中において約2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、固体と母液とを分離した。この湿潤固体はE形と分析された。この湿潤固体を更に40℃/75%RHで2日間処理し、E形と分析された。
【0113】
冷却による結晶化
実施例4m:2-ブタノール/メタノールから
35.5mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を1.2mLの2-ブタノール/メタノール混合物に加えるとスラリーが得られ、これを約60℃で1時間撹拌した。その後、試料を60℃で1時間保持し、約1℃/hの冷却速度で約5℃に放冷した。試料を約5℃に約24時間保った。この湿潤固体をろ過し、E形と分析された。
【0114】
実施例4n:4-ジオキサン/メタノールから
32.5mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を0.5mLのメタノール/1,4-ジオキサン混合物に加えるとスラリーが得られ、これを約60℃で1時間撹拌した。その後、試料を60℃で1時間保持し、約1℃/hの冷却速度で約5℃に放冷した。試料を約5℃に約24時間保った。この湿潤固体をろ過し、E形と分析された。
【0115】
実施例4o:酢酸エチル/メタノールから
32.5mgの式Iの化合物(A1+M1混合物)を0.75mLの酢酸エチル/メタノール混合物に加えるとスラリーが得られ、これを約60℃で1時間撹拌した。その後、試料を約60℃で1時間保持し、約1℃/hの冷却速度で約5℃に放冷した。試料を約5℃に約24時間保った。この湿潤固体をろ過し、E形と分析された。
【0116】
式IIの化合物のワンポット脱保護及び結晶化
実施例4p
0.5gの式IIの化合物(Rはtert-ブチルである)を5mLメタノール中に懸濁した。2.4モル当量のMeOH中HClを20~25℃で加え、この懸濁液を約5℃で約9日間撹拌した。この懸濁液をろ過し、得られたケーキを減圧下で乾燥させると、0.3gのE形が得られた。
【0117】
遊離塩基からの結晶化
実施例4q
76gの式Iの化合物の二塩化物塩(A1+M4混合物)を280mL水と280mLメタノールとの混合物中に溶解させた。この溶液を10~15℃で24.2g炭酸カリウム、140mL水及び140mLメタノールの溶液に加えた。この反応混合物を室温で約2時間撹拌した。この懸濁液をろ過し、ケーキをメタノールで洗浄し、350mLの水及び350mLのメタノールにスラリー化した。この懸濁液をろ過し、ケーキを70mLの水で洗浄して減圧下45℃で乾燥させると、65gの式Iの化合物(遊離塩基)が得られた。
【0118】
1gの式Iの化合物(遊離塩基)を65℃でメタノール溶液中の塩酸と反応させた。10mgのE形の種晶を加え、この混合物を8~10℃に徐冷し、約16時間撹拌してろ過し、得られたケーキを減圧下で乾燥させると、0.44gのE形が得られた。
【0119】
実施例5-式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(E形)の特徴付け
実施例5a:XRPDによる特徴付け
ハイスループットXRPDセットアップを使用してXRPDパターンを得た。Hi-Starエリア検出器を備えたBruker GADDS回折計にプレートをマウントした。XRPDプラットフォームは、長いd-間隔についてはベヘン酸銀を使用し、短いd-間隔についてはコランダムを使用して校正した。データ収集は、XRPDパターンの最も特徴的な部分である1.5°~41.5°の2θ領域で単色CuKα線を使用して室温で行った。各ウェルの回折パターンは2つの2θ範囲で(第1のフレームについて1.5°≦2θ≦21.5°、第2のフレームについて19.5°≦2θ≦41.5°)各フレームにつき90秒の露光時間として収集した。XRPDパターンにバックグラウンド減算又は曲線の平滑化は適用しなかった。XRPD分析時に使用した担体材料は透過~X線で、バックグラウンドへの寄与はごく僅かであった。
【0120】
室温における式Iの化合物の二塩化物塩(E形)の結晶形のXRPDを図2に示し、そのディフラクトグラムピークを表2に示す。高分解能XRPDパターンの評価はP222空間群を用いて指数付けした。純粋形態の反射強度を指数付けすると斜方晶系となり、格子パラメータの抽出が可能になった。
【0121】
結晶学的パラメータは、式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形に関するポウリー(Pawley)の計算(全粉末パターン分解、WPPD)に基づく。粉末回折パターンからのピークに関する全ての強度及び2θ値を斜方晶単純格子(P)に、格子パラメータ:a=4.8Å、b=20.02Å、c=59.40Å;V=5724Å(a=4.813±0.001Å、b=20.02±0.01Å、c=59.40±0.02Å、V=5724±5Å)でアサインすることができた。この形態の粉末パターンは又、単斜晶(a=10.08Å;b=59.42Å;c=5.16Å;β=97.28Å;V=3065Å)及び幾つかの三斜晶などの低い対称性で指数付けすることもできた。しかしながら、一般原則として最も高い対称性が適用される。この場合、最も高い対称性は斜方晶である。ディフラクトグラムの計算値と実測値との比較は、図3に示されるとおり優れた一致を示す。
【0122】
【表2】
【0123】
高温多形E1形のXRPDをE形と同様に決定した。ディフラクトグラムピーク(図10)を表3に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
実施例5b:示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)、及び可変温度XRPDによる特徴付け
熱重量分析(TGA、図4)は大きい吸熱を示しており、分解を伴う約276℃(±2℃)における融解イベントが指摘された。約130℃(±2℃)における小さい吸熱は、融解前に、高温で可逆的に構築された、異形結晶形への固体-固体転移が起こったことを示唆した。この挙動は示差走査熱量測定(DSC、図5)並びに可変温度XRPD研究によって裏付けられた。
【0126】
サイクルDSC(図6)を実施して、約130℃(±2℃)における吸熱の性質を調べた。200℃まで加熱し、続いて室温(RT)に急冷した(25℃->200℃->25℃)。冷却時のDSCサーモグラムは約97℃(±2℃)における小さい発熱を示し、E1形への逆の固体結晶形転移が示唆された(XRPDパターン、図7)。これらの固体のXRPDデータは、25℃における固体結晶形に変化がないことを示し、冷却時の発熱が逆の固体転移であったことが裏付けられた。可変温度(VT)XRPDデータ(VT XRPD実験の詳細については実施例8aを参照のこと)から上記の特性が裏付けられた。
【0127】
実施例5c:実験的熱分析(DSC、TGA、TGA SDTA、TGA MSを含む)
熱流束DSC822e計測器(Mettler-Toledo GmbH、Switzerland)で記録したDSCサーモグラムから融解特性を得た。DSC822eは、インジウム(m.p.=156.6℃;ΔHf=28.45J.g-1)の小片で温度及びエンタルピーに関して校正した。標準的な40μLアルミニウムパンに試料を密封し、ピンホールを開け、DSCにおいて10℃/分の加熱速度で25℃から300℃に加熱した。計測中は流速50mL/分の乾燥Nガスを使用してDSC機器をパージした。
【0128】
熱重量分析/同時示差温度/熱分析(TGA/SDTA)によって結晶からの溶媒又は水分損失に起因する質量損失を決定した。TGA/SDTA851e計測器(Mettler-Toledo GmbH、Switzerland)において加熱する間に試料重量をモニタすることにより、重量対温度曲線を得た。TGA/SDTA851eは温度に関してインジウム及びアルミニウムで校正した。試料を100μLアルミニウムるつぼに秤量し、密封した。この密封にピンホールを開け、るつぼをTGAにおいて10℃/分の加熱速度で25から300℃に加熱した。乾燥N2ガスを使用してパージした。
【0129】
TGA試料から発生するガスを質量分析計Omnistar GSD 301 T2(Pfeiffer Vacuum GmbH、Germany)によって分析した。後者は四重極質量分析計であり、0~200amuの範囲の質量を分析する。
【0130】
実施例5d:FTIRによる特徴付け
ATRプローブを備えたThermo Fischer Scientific FT-IR Nicolet 6700分光計を使用してFT-IRスペクトルを記録した。
【0131】
FTIR分析により、表4に詳述し、且つ図8及び図9のとおりの約1800cm-1~400cm-1の拡大表示に図示されるとおりの式Iの化合物の構造が裏付けられた。式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形の特徴的な赤外振動は、1701、1665、1335、1241、1171、942、924、864、699、628cm-1(±2cm-1)と同定されている。
【0132】
【表4】
【0133】
実施例5e:固体13C{H}MAS-NMRによる特徴付け:
ワイドボア(89mm室温ボア)9.4テスラ磁石を備えたBruker Avance III 400MHz固体NMR計測器でマジック角回転固体炭素13核磁気共鳴(13C{H}MAS-NMR)(図10を参照のこと)を実施した。4.0mm外径のローターサイズに二重共鳴マジック角試料回転(MAS)プローブを使用した。プローブは観測核周波数-この研究では13Cの100.61MHz-及びHの400.13MHzに二重同調させた。4mm ZrOスピナーにおけるアダマンタン試料でのシミングにより磁場の均一性を設定し、13C線幅(半値全幅高さ)は2Hz未満とした。化学シフト参照は、テトラメチルシラン(CDCl中<1%v/v)のHシグナル(この化学シフトを0ppmとした)を用いた置換法によって行った。これはIUPACが推奨する手順である。計測は全て、温度制御のため更なる窒素ガス流(5℃で1200L/h)がMASスピナーに側方から吹き込む中で実施した。MASエアベアリングの摩擦熱に起因して、真の試料温度はこれを約15℃上回った。マジック角試料回転について、回転周波数は14kHzに設定した。スキャン回数は1024回であり、繰り返し時間は5sであり、接触時間は2msであり、取り込み時間は33msであり、処理パラメータはtdeff=0及びlb=5Hzであった。
【0134】
式Iの化合物の二塩化物塩の調べた結晶形の炭素13化学シフトを表5に掲載する。炭素13化学シフトのNMRアサインメントの原子番号は図1に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
実施例5f:DVSによる特徴付け
固体材料の様々な結晶形の吸湿性の差が、漸増相対湿度におけるその相対的安定性の尺度を提供した。Surface Measurement Systems(London,UK)からのDVS-1システムを使用して水分収着等温線を得た。約25℃の一定温度で収着-脱着の間に相対湿度を変化させた(具体的な実験を参照のこと)。このDVS実験の終了時、試料をXRPDによって計測した。
【0137】
式Iの化合物の二塩化物塩の結晶形Eに関する動的蒸気収着(DVS)分析を図11に示す。これは、この化合物について最高85%RHまで1%の水分吸収率であり、最高95%RHまで約4%の水分吸収率であることを示している。
【0138】
実施例5g:溶解度
非緩衝水中で、並びに標準的なMerck Titriplex(登録商標)緩衝液(クエン酸塩及びHCl含有Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH3;クエン酸塩及びHCl含有Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH4;クエン酸塩及びNaOH含有Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH5;クエン酸塩及びNaOH含有Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH6;リン酸塩含有Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH7;pH4.5での緩衝にはpH4及び5の50/50緩衝液混合物を使用した;pH5.5での緩衝にはpH5及び6の50/50緩衝液混合物を使用した)を使用して、熱力学的pH依存性溶解度を実施した。
【0139】
実験毎に、8mLスクリューキャップバイアルに多形材料、目標pHに従う緩衝溶媒及び磁気撹拌子を調製した。目標pHを3、4、4.5、5、5.5及び7として、各pHデータ点をトリプリケートで決定した。pHを計測し(Fisherbrand pHメーターHydrus 400、計測前に3ポイント校正を実施した)、1M NaOH溶液で調整した。この混合物を撹拌しながら室温で24時間放置して平衡化させた。24時間後、pHをモニタし、スラリーを3000rpmで10分間遠心して固体と液体とを分離し、ろ過した(0.45ミクロン円板フィルタ)。必要に応じて、単離されたろ液をHPLC試験の検量線の範囲内に含まれるように試料溶媒で希釈した。式Iの化合物の濃度をダイオードアレイ検出分析を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC-DAD)によって決定した。検量線は、水/THF/TFA(50/50/0.05v/v/v)の試料溶液中における式Iの化合物の2つの独立に調製したストック溶液から得た。
【0140】
DAD検出器を備えたAgilent 1100において280nm波長でHPLC試験を実施した。11μg/mLのLOQを決定した。直線性は約0.7mg/mLまで与えられる。各試料を約0.5mg/mLに希釈し、又は濃度が約0.5mg/mL以下であった場合には非希釈(neat)として計測した。
【0141】
実施例6-式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A+M)の調製
実施例6a:式Iの化合物の粗二塩化物塩
実施例2に提供される手順に従い調製した111.6g(156mmol)の式IIの化合物(Rはtert-ブチルである)を738mLのTHF中に懸濁し、約33℃に加熱した。160gの30%HCl水溶液を加え、この混合物を約18時間撹拌した。この混合物を約10℃に冷却し、738mLのTHFを加えた。この懸濁液をろ過し、ケーキを120mLのTHFで洗浄し、減圧下約40℃で乾燥させると、90gの式Iの化合物が得られた。
【0142】
実施例6b:精製及び結晶化
式Iの粗化合物(2.6kg)を約40~50℃で水(2.7L)及びテトラヒドロフラン(5.5L)中に溶解させた。テトラヒドロフラン(90L)を約40~50℃で徐々に加えた。得られた懸濁液を撹拌し、次に約10℃に冷却し、更に撹拌した。この懸濁液をろ過し、ケーキをTHFで洗浄し、乾燥させた。得られた固体(2.4kg)を7.3L水中に溶解させ、この溶液をろ過し、フィルタを2.3Lの水で洗浄した。ろ過した溶液及び洗浄液を減圧下約30℃で蒸発乾固させた。残渣を減圧下50℃で更に乾燥させると、2.2kgの式Iの化合物がA1+M1混合物として得られた。
【0143】
典型的には、A+M結晶系内の他の結晶形を生成するための出発点はA1+M1混合物(図14)及びA1+M4混合物(図15)であった。図19は、A1+M4混合物を人工気候室条件に曝露したときに観察されたXRPDパターンのオーバーレイを提供する。40℃/75%RHで1週間後に、又2.5週間後にもM3+M5混合物(図24)が観察された。A1+M4混合物を40℃/75%RHで4週間処理した後にM5形が観察された(図26)。40℃/75%RHで4週間後及び25℃/95%RHで2日後にA2+M4混合物が得られた(図17)。40℃/75%RHで4週間後及び25℃/95%RHで1週間後にA2+M11混合物が得られた(図18)。
【0144】
実施例7-式Iの化合物のA+M系内における結晶性二塩化物塩の特定の結晶形の調製
A0形の調製
実施例7a
A1+M1混合物を195℃に2.5時間加熱することによりA0形(図12、表6)が得られた。
【0145】
実施例7b
M1形を195℃に4時間加熱することによりA0形が得られた。
【0146】
A1形の調製
実施例7c
A0形を周囲条件で約11日間静置しておくことによりA1形(図13、表7)が得られた。
【0147】
実施例7d
以下の溶媒系:水及びメタノール/水(50:50)中におけるA1+M1混合物の冷却結晶化によりA1形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。20℃/分の冷却速度で20℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間20℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりF形が得られた。F形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、A1形が生じた。
【0148】
実施例7e
メタノール中におけるA1+M1混合物の冷却結晶化によりA1形が得られた。
【0149】
80μLのメタノールを約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。20℃/分の冷却速度で2℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間2℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりF形が得られた。F形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、A1形が生じた。
【0150】
A1+M1混合物の調製
XRPDディフラクトグラムは図14及び表19に示す。
【0151】
実施例7f
23.2mgの式Iの化合物A1+M4混合物を0.60mLのジエチルエーテルに加えるとスラリーが生じ、これを20℃で2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、ろ過によって液体を分離し、固体部分を減圧下(5mbar)で乾燥させた。この固体を分析し、A1+M1混合物であることが分かった。
【0152】
実施例7g
22.7mgの式Iの化合物A1+M4混合物を0.60mLのtert-ブチルメチルエーテルに加えるとスラリーが生じ、これを20℃で2週間撹拌した。その後、試料を遠心し、ろ過によって液体を分離し、固体部分を減圧下(5mbar)で乾燥させた。この固体を分析し、A1+M1混合物であることが分かった。
【0153】
A1+M4混合物の調製
XRPDディフラクトグラム(diffractorgam)を図15及び表20に示す。
【0154】
実施例7h
20mg A1+M1混合物を40%RHに少なくとも3分間曝露することによりA1+M4混合物が形成された。
【0155】
実施例7i
23.2mgのA1+M1混合物を0.60mLのジエチルエーテル中に20℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0156】
実施例7j
22.7mgのA1+M1混合物を0.60mLのtert-ブチルメチルエーテル中に20℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0157】
実施例7k
24.2mgのA1+M1混合物を0.60mLのn-ヘプタン中に20℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0158】
実施例7l
18.9mgのA1+M1混合物を0.60mLのトルエン中に20℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0159】
実施例7m
18.9mgのA1+M1混合物を0.40mLのジイソプロピルエーテル中に50℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0160】
実施例7n
22.8mgのA1+M1混合物を0.40mLのnヘプタン中に50℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0161】
実施例7o
24.9mgのA1+M1混合物を0.40mLのトルエン中に50℃で2週間スラリー化した。得られた湿潤固体を遠心及びろ過によって分離し、分析して、A1+M4混合物であることが分かった。
【0162】
A1+M4+M5混合物の調製
実施例7p
A1+M4混合物を60%~80%RHに約3分間曝露することによりA1+M4+M5混合物が形成された。
【0163】
A2+M4混合物の調製
XRPDディフラクトグラムは図17及び表21に示す。
【0164】
実施例7q
A1+M4混合物を40℃/75%RHに4週間及び25℃/95%RHに2日間貯蔵した後、A2+M4混合物が得られた。
【0165】
M3+M5混合物の調製
XRPDディフラクトグラムは図16及び表11に示す。
【0166】
実施例7r
A1+M4混合物を40℃/75%RHに1週間~2.5週間貯蔵した後、M3+M5混合物が観察される。
【0167】
A2+M11混合物の調製
XRPDディフラクトグラムは図18及び表22に示す。
【0168】
実施例7s
A1+M4混合物を40℃75%RHに4週間及び25℃/95%RHに1週間貯蔵した後、A2+M11混合物が得られた(図19)。
【0169】
A2形の調製
XRPDディフラクトグラムは図20及び表20に示す。
【0170】
実施例7t
以下の異なる溶媒系:1,4-ジオキサン/水(50:50)、イソプロパノール/水(50:50)、アセトニトリル/水(50:50)、エタノール/水(50:50)、イソプロパノール、及びアセトン/水(50:50)のいずれにおいても、A1+M1混合物の冷却結晶化によりA2形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。20℃/分の冷却速度で20℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間20℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりF形が得られた。F形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、A2形が生じた。
【0171】
実施例7u
以下の溶媒系:メタノール及びエタノール中におけるA1+M1混合物の冷却結晶化によりA2形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。20℃/分の冷却速度で20℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間20℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりG形が得られた。G形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、A2形が生じた。
【0172】
M1形の調製
XRPDディフラクトグラムは図22及び表9に示す。
【0173】
実施例7v
以下の異なる溶媒系:水、1,4-ジオキサン/水(50:50)、酢酸エチル/ジメチルスルホキシド(50:50)、イソプロパノール/水(50:50)、アセトニトリル/水(50:50)、エタノール/水(50:50)、及びテトラヒドロフラン/水(50:50)のいずれにおいても、A1+M1混合物の冷却結晶化によりM1形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。2℃/分の冷却速度で2℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間2℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりF形が得られた。F形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、M1形が生じた。
【0174】
実施例7w
以下の異なる溶媒系:p-キシレン/メタノール(50:50)及び2-ブタノン/メタノール(50:50)におけるA1+M1混合物の冷却結晶化によりM1形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。2℃/分の冷却速度で2℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間2℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりG形が得られた。G形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、M1形が生じた。
【0175】
実施例7x
以下の異なる溶媒系:テトラヒドロフラン/メタノール(50:50)及び2テトラヒドロフラン/酢酸エチル(50:50)におけるA1+M1混合物の冷却結晶化によりM1形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。20℃/分の冷却速度で20℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間20℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりG形が得られた。G形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、M1形が生じた。
【0176】
実施例7y
以下の異なる溶媒系:アセトニトリル/水(50:50)、テトラヒドロフラン/水(50:50)、メタノール/水(50:50)、アセトン/水(50:50)、2ブタノン/水(50:50)、酢酸エチル/メタノール(50:50)、及びテトラヒドロフラン/メタノール(50:50)のいずれにおいても、A1+M1混合物の冷却結晶化によりM1形が得られた。80μLのそれぞれの溶媒を約4mgのA1+M1混合物に加えた。温度を60℃に上昇させて、60℃に60分間保った。20℃/分の冷却速度で2℃に冷却した後、混合物を撹拌下で24時間2℃のまま置いた。減圧下(5mbar)での溶媒蒸発によりF形が得られた。F形を40℃/75%RHの人工気候室条件に67時間曝露すると、M1形が生じた。
【0177】
M2形の調製
A1+M4混合物からの抗溶媒添加を用いたクラッシュ結晶化によりM2形(図23、表10)が得られた。
【0178】
実施例7z
以下の異なる溶媒系:溶媒:1-ブタノール/水(9.6:90.4v/v)と各抗溶媒:アセトニトリル、2-ブタノン、テトラヒドロフラン又は酢酸エチルのいずれにおいても、A1+M1混合物の抗溶媒添加でのクラッシュ結晶化によりM2形が得られた。200μL溶媒中にストック溶液を調製し、式Iの化合物の濃度は、ろ過前に周囲温度で24時間平衡化させた後に飽和に到達させたものか、又は170mg/mLのカットオフ濃度とした。
【0179】
実験毎に各溶媒バイアルに抗溶媒を加え、溶媒と抗溶媒との比は1:0.25であった。沈殿が起こらなかった場合、この比を1:1に増やし、それでもやはり沈殿が起こらなかった場合、この比を1:4に上げ(全てのM2形調製について)、添加の間の待ち時間を60分間とした(3回目の添加まで)。分離に十分な固体が沈殿しなかったため、試料を3日間5℃に保った。沈殿は起こらなかった。溶媒を200mbarで蒸発乾固させた。
【0180】
異なる溶媒系を使用して、異なる中間多形結晶形、即ちアモルファス(抗溶媒アセトニトリル、2-ブタノンから)、M1形(テトラヒドロフラン)及びF+M1混合物(酢酸エチル)を得た。計測プレートを促進老化条件(40℃/75%RH)に65時間貯蔵した後、これらの試料は全て、多形結晶形M2に転移した。
【0181】
M4形の調製
A1+M4混合物からの4のpHでのスラリー実験により、主としてM4形(図25、表12)が得られた。
【0182】
実施例7aa
151.4mgの式Iの化合物(A1+M4混合物)を600μLのpH4緩衝液(Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH4、クエン酸塩及びHCl含有)に懸濁した。初期pHは約3.2であった。15分後、pHを25μL 0.1M NaOHで約4.1に調整した。2~4時間後、pHを3.8に調整した。10μL 0.1M NaOH及び200μLのpH4緩衝液を加えた。スラリーを室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。得られたスラリーは約pH4.0を示した。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M4形がろ過ケーキとして得られた。
【0183】
実施例7bb
198.3mgのA1+M4混合物を1000μLのpH4緩衝液(Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH4、クエン酸塩及びHCl含有)に懸濁した。初期pHは約2.9であった。15分後、pHを50μL 0.1M NaOHで約3.8に調整した。スラリーを室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。約pH3.8で濁った溶液が得られる。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M4形がろ過ケーキとして得られた。
【0184】
実施例7cc
245.4mgのA1+M4混合物を1000μLのpH4緩衝液(Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH4、クエン酸塩及びHCl含有)に懸濁した。初期pHは約3.1であった。15分後、pHを50μL 0.1M NaOHで約3.9に調整した。スラリーを30~45分間撹拌し、pHを約3.9に調整した。10μLの0.1M NaOHを加えると約pH4.1になった。このスラリーを室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。得られたスラリーは約pH4.0を示した。0.2μm遠心フィルタを使用してろ過を実施した。M4形がろ過ケーキとして得られた。
【0185】
M5形の調製
XRPDディフラクトグラムは図26及び表13に示す。
【0186】
実施例7dd
式Iの化合物A1+M1又はA1+M4混合物を40℃/75%RHで4週間貯蔵することにより、M5形が得られた。
【0187】
M8形の調製
A1+M4混合物からの7.5のpHでのスラリー実験により、主としてM8形(図27、表14)が得られた。これらの実験では、代替的な対イオンを含有する緩衝液を使用したことに留意されたい。多形に対イオンの痕跡が存在したことを完全には無視できないが、これらの無機物質に起因する可能性のある回折ピークはXRPDディフラクトグラムに見えなかった(無機物質は通常は大きい2θ角度で明確に見え、通常は極めて鋭いピークである)。
【0188】
実施例7ee
Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH7、リン酸塩含有とMerck Titrisol(登録商標)緩衝液pH8、ホウ酸塩及びHCl含有とを1:1(v/v)の比で混合して、7.5のpHを有する緩衝液を得た。26.9mgのA1+M4混合物を5.0mLの上述のpH7.5緩衝液に加えることにより懸濁液を調製した。得られたpHは約7.3であった。15分後、pHを10μL 0.1M NaOHで約pH7.4に調整した。この混合物を室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。約7.5のpHでスラリーが得られた。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M8形がろ過ケーキとして得られた。
【0189】
実施例7ff
5.0mLの上述のpH7.5緩衝液中に16.4mgのA1+M4混合物の懸濁液を調製した。初期pHは約7.5であった。得られた混合物を室温で24時間撹拌した。約pH7.4でスラリーが得られた。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M8形がろ過ケーキとして得られた。
【0190】
M9形の調製
A1+M4混合物からのpH範囲4.5~5.5でのスラリー実験により、主としてM9形(図28、表15)が得られた。これらの実験では、代替的な対イオンを含有する緩衝液を使用したことに留意されたい。多形に対イオンの痕跡が存在したことを完全には無視できないが、これらの無機物質に起因する可能性のある回折ピークはXRPDディフラクトグラムに見えなかった(無機物質は通常は大きい2θ角度で明確に見え、通常は極めて鋭いピークである)。
【0191】
実施例7gg
150.5mgのA1+M4混合物を5.0mLのMerck Titrisol(登録商標)緩衝液(pH5、クエン酸塩及びNaOH含有)中に懸濁した。初期pHは約4.2であった。15分後、pHを70μL 0.1M NaOHで約pH4.9に調整した。この混合物を室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。約pH5.1でスラリーが得られた。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M9形がろ過ケーキとして得られた。
【0192】
実施例7hh
32mgのA1+M4混合物を5.0mLのMerck Titrisol(登録商標)緩衝液(pH5、クエン酸塩及びNaOH含有)中に懸濁した。初期pHは約5.0であった。この混合物を室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。約pH5.0でスラリーが得られた。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M9形がろ過ケーキとして得られた。
【0193】
実施例7ii
Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH5(クエン酸塩及びNaOH含有)をMerck Titrisol(登録商標)緩衝液pH6(クエン酸塩及びNaOH含有)と1:1(v/v)の比で混合して、pH5.5の緩衝液を生じさせた。34mgの式Iの化合物(A1+M4混合物)を5.0mLの上述のpH5.5緩衝液に懸濁した。初期pHは約5.6であった。この混合物を室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。約pH5.5でスラリーが得られた。1ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M9形がろ過ケーキとして得られた。
【0194】
M11形の調製
A1+M4混合物及びE形から過飽和実験でpHを3から7に変化させることによりM11形(図30、表16)が得られた。これらの実験では、代替的な対イオンを含有する緩衝液を使用したことに留意されたい。多形に対イオンの痕跡が存在したことを完全には無視できないが、これらの無機物質に起因する可能性のある回折ピークはXRPDディフラクトグラムに見えなかった(無機物質は通常は大きい2θ角度で明確に見え、通常は極めて鋭いピークである)。
【0195】
実施例7kk
約210mgのE形を1.00mL Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH3(クエン酸塩及びHCl含有)に懸濁し、20μL 0.1M NaOHを加えた。この飽和溶液をろ過した(0.2μm遠心フィルタ)。この溶液を室温で24時間保った後、270μLの0.1M NaOHを加えることによりpH7に調整した。固体の沈殿が起こった。この懸濁液を0.2μm遠心フィルタでろ過し、M11形がろ過ケーキとして得られた。pH7へのpH調整に350μLの0.1M NaOHを使用したとき、ろ過していない溶液を使用しても同じ結果が得られた。
【0196】
実施例7ll
約420mgのA1+M4混合物を1.00mL pH3緩衝液に懸濁し、40μLの0.1M NaOHを加えた。この飽和溶液をろ過し(0.2μm遠心フィルタ)、室温で24時間保った後、300μLの0.1M NaOHを加えることによりpH7に調整した。固体の沈殿が起こった。この懸濁液を0.2μm遠心フィルタでろ過し、M11形がろ過ケーキとして得られた。pH7へのpH調整に350μLの0.1M NaOHを使用したとき、ろ過していない溶液を使用しても同じ結果が得られた。
【0197】
M12形の調製
A1+M4混合物及びE形から約pH7での異なるスラリー実験においてM12形(図31、表17)が得られた。これらの実験では、代替的な対イオンを含有する緩衝液を使用したことに留意されたい。多形に対イオンの痕跡が存在したことを完全には無視できないが、これらの無機物質に起因する可能性のある回折ピークはXRPDディフラクトグラムに見えなかった(無機物質は通常は大きい2θ角度で明確に見え、通常は極めて鋭いピークである)。
【0198】
実施例7mm
約30mgのA1+M4混合物又はE形を5.0mLのMerck Titrisol(登録商標)緩衝液pH7(リン酸塩含有)に懸濁した。初期pHは約6.9であった。15分間撹拌した後、pHを10μL 0.1M NaOHで約7.0に調整した。この混合物を室温で24時間(添加時間を含む)撹拌した。約pH7.0でスラリーが得られた。0.45ミクロン円板フィルタを使用してろ過を実施した。M12形がろ過ケーキとして得られた。
【0199】
M13形の調製
A1+M4混合物及びE形から過飽和実験でpHを3から5に変化させることによりM13形(図32、表18)が得られた。これらの実験では、代替的な対イオンを含有する緩衝液を使用したことに留意されたい。多形に対イオンの痕跡が存在したことを完全には無視できないが、これらの無機物質に起因する可能性のある回折ピークはXRPDディフラクトグラムに見えなかった(無機物質は通常は大きい2θ角度で明確に見え、通常は極めて鋭いピークである)。
【0200】
実施例7nn
約210mgのE形を1.0mL Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH3(クエン酸塩及びHCl含有)に懸濁し、20μL 0.1M NaOHを加えた。この飽和溶液をろ過し(0.2μm遠心フィルタ)、室温で24時間保った後、約50μL 0.1M NaOHを加えることによりpH5に調整した。固体の沈殿が起こった。懸濁液を0.2μm遠心フィルタでろ過し、M13形がろ過ケーキとして得られた。pH5へのpH調整に70μLの0.1M NaOHを使用したとき、ろ過していない溶液を使用しても同じ結果が得られた。
【0201】
実施例7oo
約410mgのA1+M4混合物を1.00mL Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH3(クエン酸塩及びHCl含有)に懸濁し、40μL 0.1M NaOHを加えた。この飽和溶液をろ過し(0.2μm遠心フィルタ)、室温で24時間保った後、60μLの0.1M NaOHを加えることによりpH5に調整した。固体の沈殿が起こった。懸濁液を0.2μm遠心フィルタでろ過し、M13形がろ過ケーキとして得られた。pH5へのpH調整に80μLの0.1M NaOHを使用したとき、ろ過していない溶液を使用しても同じ結果が得られた。
【0202】
注記:上記の実施例ではA+M系内の幾つかの多形結晶形の調製においてF形及びG形は中間形として上記に記載されるが、その物理的安定性においては溶媒が重要な役割を果たすように見える。F形及びG形は溶媒和形態又は無水形態であってよく、これは使用する溶媒に応じて起こる。
【0203】
実施例8-式Iの化合物の結晶性二塩化物塩(A+M)の特徴付け
実施例8a:XRPDによる特徴付け
実施例5aに記載するとおりXRPD分析を実施した。これらには、A+M系で自然に生じる混合物、並びに記載されるとおり単離された特定のA又はM多形に関するXRPDピークが含まれる。多形A0、A1、A2、M1、M2、M3+M5、M4、M5、M8、M9、M10+M4、M11、M12、M13並びに一般的に観察されるA1+M4、A2+M4及びA2+M11の混合物に関するデータが含まれる。M6形及びM7形も又観察されたが、A+M系の一部でない他の多形結晶形との混合物としてのみ観察された。
【0204】
【表6】
【0205】
【表7】
【0206】
【表8】
【0207】
【表9】
【0208】
【表10】
【0209】
【表11】
【0210】
【表12】
【0211】
【表13】
【0212】
【表14】
【0213】
【表15】
【0214】
【表16】
【0215】
【表17】
【0216】
【表18】
【0217】
【表19】
【0218】
【表20】
【0219】
【表21】
【0220】
【表22】
【0221】
【表23】
【0222】
【表24】
【0223】
実施例8b:実験的高分解能粉末X線回折(可変湿度及び可変温度XRPD実験を含む)
可変湿度(VH)及び可変温度(VT)実験のため、ブラッグ-ブレンターノ型幾何学的配置で設計され且つLynxEye固体検出器を備えたD8 Advanceシステム回折計(Bruker)内に設置されたANSYCO HTチャンバを使用した。データの収集に使用した放射線は、ゲルマニウム結晶によって単色化したCuKα1(λ=1.54056Å)であった。チャンバ内にマウントされた固定試料ホルダに材料を置いた。
【0224】
VH-XRPD:湿度を局所的に加え、10から70%(露点)に変化させた。パターンは範囲4~30°(2θ)においてVH-XRPDについて0.0145°(2θ)刻み及び1刻み当たり1.2秒の計測時間で収集した。データ収集は各刻みで湿度が安定してから60秒後に開始した(RH値当たりのデータ収集時間約40分)。パターンは全て、室温、約295Kで取った。
【0225】
VT-XRPD:温度変動速度は10℃/分であり、各温度におけるデータ収集の開始前の平衡時間は8分であった。パターンは範囲4~34.5°(2θ)において0.0107°(2θ)刻み及び1刻み当たり1秒(T=25、50、80、100及び110℃について)又は1.5秒(T=40、60、115~180℃について)の計測時間で収集した。温度当たりのデータ収集時間は、1刻み当たりの計測時間に応じて48又は70分であった。
【0226】
A1+M4形を40℃/75%RHで4週間の人工気候室実験、続いて25℃/95%RHで2週間の貯蔵にかけた。この研究中、初期A1+M4形は1週間後にM3+M5、4週間後にM5形、並びに4週間後及び2日後にA2+M4形に変化し、その後最終的にA2+M11形に転移した(図19)。
【0227】
実施例8c:DVSによる特徴付け
実験の詳細については実施例5fを参照のこと。式Iの化合物の二塩化物塩のA+M結晶系に関するDVS分析を図35に示す。これは、最高85%RHまでこの化合物が約22%の吸水率であり、最高95%RHまで約34%を下回る吸水率であることを示している。
【0228】
実施例8d:溶解度
A1+M4形の熱力学的pH依存性溶解度を実施例5gにE形について記載するとおり決定し、但し、目標pHは1、2、3(2つの異なる緩衝液)、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7.5、8、9.5、10.5、11.5及び12.5であった。追加的に使用した緩衝液は、Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH1、グリシン及びHCl含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH2、クエン酸塩及びHCl含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH8、ホウ酸塩及びHCl含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH9、ホウ酸、KCl及びNaOH含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH10、ホウ酸、KCl及びNaOH含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH11、ホウ酸、KCl及びNaOH含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH12、リン酸塩及びNaOH含有;Merck Titrisol(登録商標)緩衝液pH13、KCl及びNaOH含有であり;HCl不含のpH3の第2の緩衝液については80.3mLのクエン酸(1L脱イオン水中21.01gクエン酸一水和物)を19.7mLの0.2Mリン酸水素二ナトリウム(1L脱イオン水中35.6g)と混合した。pH6.5での緩衝にはpH6及び7用の緩衝液の50/50混合物を使用した;pH7.5での緩衝にはpH7及び8用の緩衝液の50/50混合物を使用した;pH9.5での緩衝にはpH9及び10用の緩衝液の50/50混合物を使用した;pH10.5での緩衝にはpH10及び11用の緩衝液の50/50混合物を使用した;pH11.5での緩衝にはpH11及び12用の緩衝液の50/50混合物を使用した;pH12.5での緩衝にはpH12及び13用の緩衝液の50/50混合物を使用した)。約8ug/mLのLOQを決定した。
【0229】
A2+M11形の熱力学的pH依存性溶解度を実施例5gにE形について記載するとおり決定し、但し、18μg/mLのLOQを決定した。
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