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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】味覚センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/31 20060101AFI20221212BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G01N27/31
G01N27/416 341G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018189103
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020056749
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳
(72)【発明者】
【氏名】古田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】今若 直人
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-251832(JP,A)
【文献】特開2007-217630(JP,A)
【文献】特開2003-004692(JP,A)
【文献】特開2005-003679(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121618(WO,A1)
【文献】特開2014-153243(JP,A)
【文献】特開2001-281203(JP,A)
【文献】特開2000-283956(JP,A)
【文献】宇木慎一郎 外2名,脂質膜によるうま味の定量化,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人 電子情報通信学会,2004年,Vol.103, No.637,pp.55-60
【文献】L.A. Dias 外5名,An electronic tongue taste evaluation: Identification of goat milk adulteration with bovine milk,Sensors and Actuators B: Chemical,2008年,136,pp.209-217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基質と、可塑剤と、脂肪酸と、オニウム塩と、を含む、旨味測定用の味覚センサ用脂質膜。
【請求項2】
前記脂肪酸が、前記脂質膜の1~40質量%で含まれる、請求項1に記載の脂質膜。
【請求項3】
前記脂肪酸と前記オニウム塩との重量比が2:1~50:1である、請求項1または2に記載の脂質膜。
【請求項4】
前記脂肪酸が、炭素数6~30の不飽和または飽和脂肪酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の脂質膜。
【請求項5】
前記不飽和脂肪酸が、オクテン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、バクセン酸、またはドコサヘキサエン酸から選択される、請求項4に記載の脂質膜。
【請求項6】
前記飽和脂肪酸が、カプリル酸またはカプリン酸から選択される、請求項4に記載の脂質膜。
【請求項7】
前記オニウム塩が、少なくとも1つの炭素数8以上の直鎖アルキル基を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の脂質膜。
【請求項8】
前記オニウム塩が、第四級オニウム塩である、請求項7に記載の脂質膜。
【請求項9】
前記第四級オニウム塩が、第四級アンモニウム塩または第四級ホスホニウム塩である、請求項8のいずれか一項に記載の脂質膜。
【請求項10】
前記高分子基質が前記脂質膜の質量を基準に25~65%の量で含まれ、前記可塑剤が前記脂質膜の質量を基準に、20~50%の量で含まれる請求項1~8のいずれか一項に記載の脂質膜。
【請求項11】
導電体と、
前記導電体と電荷移動可能に連結された前記請求項1~9のいずれか一項に記載の脂質膜と、
を有する電極。
【請求項12】
前記導電体が、容器内の内部電解質に浸漬され、
前記容器は前記脂質膜で覆われた開口部が設けられている請求項11に記載の電極。
【請求項13】
前記導電体が基板上に形成され、前記脂質膜が前記導電体の少なくとも一部を覆って形成されている、請求項11に記載の電極。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載の電極を作用極として含む味覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子基質と、可塑剤と、脂肪酸と、オニウム塩とを混合して形成した脂質膜、当該脂質膜を備えた電極、および当該脂質膜を備えた味覚センサに関する。詳細には、旨味用味覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や飲料等の味を、人の官能検査によらず、検知し数値化する技術として、高分子基質と可塑剤と脂質とを混合して形成した脂質膜を有し、被測定液中の物質に感応して膜電位が変化する味覚センサ(味認識装置とも呼ばれる)を用いることが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2ならびに非特許文献1等参照)。
【0003】
味は、人間の体に対する価値によって認知できる濃度が異なっており、例えば、その性質と疎水性・親水性の違いを利用して、塩味、酸味、旨味、苦味、渋味、甘味の味をそれぞれ感知する六種類の味覚センサにより、味を測定する方法が開発されてきた(例えば非特許文献1参照)。味覚センサにより味を数値化することで、例えば、農畜水産物の産地ごとの味の比較および差別化、測定データを用いた市場開拓、製品の品質管理、研究開発の効率化等を図ることができると考えられている。
【0004】
さらに、味をより正確に測定するための膜センサの開発が行われている。例えば、特許文献3は、苦み物質に対する選択的かつ高い感度を有する膜センサを開示している。
【0005】
一方、現在市販されている旨味用味覚センサは、旨味に対して応答量が飽和するという問題を有する。旨味の測定において、旨味成分が低濃度の場合は、応答量は濃度に比例するが、旨味成分が高濃度となると応答量が飽和し、さらに高濃度となると応答量は減少する。したがって、旨味成分を高濃度で含有するような食品(例えば、焼き肉のたれなど)は、直接旨味を測定することができず、希釈等の前処理が必要になり、特に多数の試料を測定する場合において、操作が煩雑になる。
【0006】
また、既存の味覚センサは、測定対象以外の味物質の影響でその応答量が変化する場合があり、例えば、旨味測定用味覚センサは、塩味の影響で旨味への応答量が変化する。したがって、旨味と塩味が混在するような食品では、旨味を正確に測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2578370号
【文献】特許第3355412号
【文献】特許第4934514号
【非特許文献】
【0008】
【文献】「味の数値化。」独立行政法人科学技術振興機構広報・ポータル部広報課 JSTNews vol.4、No.5、2007,August,第6頁~第9頁(平成19年8月)
【文献】(Kiyoshi Toko, “A Taste Sensor” Meas. Sci. Technol., 9 (1998) 1919-1936)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情を鑑み、本発明の課題は、旨味成分をより高濃度で含有する試料の旨味を正確に測定できる味覚センサを提供すること、より詳細には、旨味成分を高濃度で含む試料においても旨味の応答量が減少しない旨味測定用味覚センサを提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の課題は、旨味と塩味が混在する試料においても旨味を正確に測定できる味覚センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を鋭意研究し、本発明者は、脂肪酸とオニウム塩とを含む脂質膜を備えた電極を用いた味覚センサが、旨味についてより高濃度の測定を可能にすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、本発明の脂質膜は、旨味の測定において、塩味から受ける影響が少なくなり、旨味と塩味が混在するような食品においても、より正確に旨味を測定することができる。
【0013】
本発明は、高分子基質と、可塑剤と、脂肪酸と、オニウム塩とを含む脂質膜に関する。
【0014】
本発明の一実施態様において、脂肪酸は該脂質膜の1~40質量%で含まれ、好ましくは3~35質量%で含まれる。
【0015】
本発明の一実施態様において、脂肪酸は炭素数6~30の不飽和または飽和脂肪酸である。好ましくは、オクテン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、バクセン酸、またはドコサヘキサエン酸から選択される不飽和脂肪酸、若しくは、カプリル酸またはカプリン酸から選択される飽和脂肪酸から選択される。
【0016】
本発明の一実施態様において、オニウム塩は、少なくとも1つの炭素数8以上の直鎖アルキル基を有する。
【0017】
本発明の一実施態様において、オニウム塩は第四級オニウム塩である。
【0018】
本発明の一実施態様において、オニウム塩は、第四級アンモニウム塩または第四級ホスホニウム塩である。好ましくは、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラドデシルアンモニウムブロミド、またはトリブチルドデシルホスホニウムブロミドから選択される。
【0019】
本発明の一実施態様において、脂肪酸とオニウム塩との重量比は2:1~50:1であり、好ましくは2:1~30:1である。
【0020】
本発明の一実施態様において、高分子基質は脂質膜の質量を基準に25~65%の量で含まれ、可塑剤は脂質膜の質量を基準に20~50%の量で含まれる。好ましくは、高分子基質は脂質膜の質量を基準に30~60%の量で含まれ、可塑剤は脂質膜の質量を基準に、25~45%の量で含まれる。
【0021】
さらに、本発明は、このような脂質膜と、該脂質膜と電荷移動可能に連結された導電体とを含む電極に関する。加えて、本発明は、このような脂質膜を有する電極を作用極として含む味覚センサも提供する。
【発明の効果】
【0022】
上記のように、本発明の味覚センサは、脂肪酸とオニウム塩とを含む脂質膜を用いることで、旨味成分を高濃度で含む試料においても旨味の応答量が減少せず、従来の味覚センサよりも旨味成分をより高濃度で含む試料を測定することができる。
【0023】
また、本発明の味覚センサは、旨味と塩味が混在する試料において塩味物質の影響を抑え、従来の味覚センサよりも正確に旨味を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(a)本発明の味覚センサの一実施形態の構成を示す。(b)本発明の味覚センサの作用極の拡大図である。
図2】(a)本発明の味覚センサの一実施形態の構成を示す。(b)本発明の味覚センサの作用極の拡大図である。
図3】本発明の味覚センサの一実施形態の構成を示す。
図4】比較例1として市販の旨味用味覚センサ(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製味認識装置TS-5000Z AAEセンサヘッド)、および実施例1~2の旨味用味覚センサを用いて各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液を測定した結果である。(ヘッド構造と平板構造の比較)
図5】実施例2~9の旨味用味覚センサと、比較例1として市販の旨味用味覚センサと、比較例2~3の味覚センサとを用いて各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液を測定した結果である。
図6】実施例2、10および11の旨味用味覚センサと、比較例1として市販の旨味用味覚センサとを用いて各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液を測定した結果である。
図7】実施例2および12~14の旨味用味覚センサと、比較例1として市販の旨味用味覚センサとを用いて各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液を測定した結果である。
図8】実施例2の旨味用味覚センサと、比較例1として市販の旨味用味覚センサとを用いて高濃度KCl含有グルタミン酸ナトリウム溶液を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、高分子基質と、可塑剤と、脂肪酸と、オニウム塩とを混合して形成した脂質膜、当該脂質膜を備えた電極、および当該脂質膜を備えた味覚センサに関する。
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の単なる一例であって、当業者であれば、適宜設計変更可能である。
【0027】
味覚センサ
図1は本発明の味覚センサの一実施形態の構成を示す。本発明の味覚センサ100は、サンプル液あるいは洗浄液等を入れるための容器101、参照極102、作用極103、内部電解質溶液106、107、参照極102と作用極103との電位差を測定する電圧検出器、ならびに得られたデータを出力し、計算するデータ出力部および演算装置部(図示せず)を有する(図1(a)参照)。
【0028】
図2は、図1と異なる作用極203を含む本発明の味覚センサの他の実施形態200の構成を示す(図2(a)参照)。
【0029】
図3は、作用極304~309と参照極310が同一基板上に形成された、本発明の味覚センサの電極の他の構成300を示す。
【0030】
電極
本発明の味覚センサは、少なくとも1種類の作用極と参照極とを含む。
【0031】
(作用極)
作用極は、導電体と、該導電体と電荷移動可能に連結された脂質膜とを含む。
【0032】
一実施態様において、導電体105は容器内の内部電解質溶液107に浸漬され、該容器は脂質膜108で覆われた開口部を有する(図1(a)参照)。詳細には、サンプル液中の呈味物質の濃度に応じて脂質の解離状態が変化したり、サンプル液中の呈味物質151が脂質膜108に吸着したりすることで生じる、導電体105と外部参照極102との間の電位差を測定する(図1(b)参照)。導電体105は、好ましくはAg/AgCl電極であり、内部電解質溶液107は、好ましくは飽和KCl溶液である。
【0033】
また本発明の他の実施態様において、本発明の作用極は、導電体205が基板207上に形成され、脂質膜209が該導電体の少なくとも一部を覆って形成される(図2(a)および(b)参照)。
【0034】
基板207は、絶縁体で、かつサンプル液等に浸漬し、測定するのに十分な強度を提供できるものであればよい。例えば、これらに限定されないが、ガラス、プラスティック、合成ゴム、セラミックス、または耐水処理した紙や木材等を用いることができる。
【0035】
導電体205は、これらに限定されないが、アルミニウム、クロム、銅、銀、白金、金等の金属や炭素であってもよい。好ましくは、Ag/AgClである。基板207上への導電体の形成は、当分野で一般的に用いられている方法を用いることができる。例えば、Ag/AgClペーストをスクリーン印刷法等により、基板上に塗布し、乾燥および焼成し、Ag/AgCl層を基板上に形成することができる。また、スパッタリングまたは蒸着法により、導電体層を形成してもよい。
【0036】
さらに、導電体層上に樹脂保護層208を形成してもよい。樹脂保護層208は開口部を有し、導電体層の少なくとも一部が後述する脂質膜209と直接または間接的に電荷移動可能に連結される。樹脂保護層208は絶縁性であり、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリビニルアルコール等のプラスティックや、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、のような合成樹脂等を用いることができる。
【0037】
樹脂保護層208は紫外線等のエネルギー線によるエネルギー線硬化樹脂または熱硬化樹脂であってもよい。さらに、樹脂保護層208は、導電体層上にパターン形成してもよい。例えば、導電体層上にエネルギー線硬化型樹脂保護層材料を塗布し、パターンマスク露光を行い、未硬化樹脂を現像してパターンを形成することができる。また、他の実施態様では、導電体層上にエネルギー線硬化型樹脂保護層材料をスクリーン印刷し、露光して、樹脂保護層208を形成してもよい。
【0038】
脂質膜209(後述)は導電体205の少なくとも一部を覆うように形成される。導電体層上に樹脂保護層208が形成されている場合には、樹脂保護層208に形成された開口部等の、樹脂保護層208が導電体層を被覆していない部分上に脂質膜209が形成され、導電体205と脂質膜209が電荷移動可能に連結される。
【0039】
(参照極)
参照極102、202は、金属電極104、204と内部電解質溶液106、206と液絡部とこれらをまとめる外部容器とで構成され、基準となる電位を長時間安定に示すことができればどのような構成であってもよい。好ましくは、金属電極104、204としてAg/AgCl電極が、内部電解質溶液106、206として飽和KCl溶液が用いられる。
【0040】
また、本発明の他の実施態様において、参照極は本発明の作用極と同一基板上に形成される(図3参照)。本実施態様において、電極300は、基板301上に、導電体302および脂質膜から形成された作用極304~309と、参照極310とを有する。作用極304、305、306、307、308、309はそれぞれ、塩味、酸味、旨味、苦味、渋味および甘味測定用の作用極である。複数の作用極と参照極が同一基板上に形成されることで、複数の味を同時に測定することができる。
【0041】
脂質膜
本発明の脂質膜は、高分子基質と、可塑剤と、脂肪酸と、オニウム塩とを混合して形成される。
【0042】
本発明の脂質膜に用いられる高分子基質は、脂質膜に基準液またはサンプル液等に浸漬し、測定するのに十分な強度を提供できるものであればよい。これらに限定されないが、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチルスルフォン、ポリサルフォン・サルフォネート、アロマチックポリアミド、ポリグルタメート、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニールダイフロライド、ポリエチレン・ウレタン、ポリビニールブチラル、ポリビニールピリジン、ナイロン66、セルローズアセテート、セルローズアセテートブチレート、アガー、k-カラギーナン、ソジウムアルギネート、エポキシ樹脂、ポリp-キシレン、ポリテトラフルオロエチレン、うるし等を用いることができる。好ましくは、高分子基質は、脂質膜全体の質量を基準に25~65%の量で含まれる。
【0043】
本発明の脂質膜に用いられる可塑剤は、脂質膜に柔軟性を提供する。これらに限定されないが、可塑剤として、ジオクチルフェニルホスホネート(DOPP)のようなリン酸エステル、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル等を用いることができる。好ましくは、可塑剤は、脂質膜全体の質量を基準に、20~50%の量で含まれる。
【0044】
本発明の脂質膜は、脂肪酸を含む。脂肪酸とは脂質の一種であり、本明細書において、脂肪酸とは、不飽和または飽和のモノカルボン酸をいう。該脂肪酸は、好ましくは、炭素数6~30の不飽和または飽和脂肪酸である。
【0045】
本発明の一実施態様において、脂肪酸は不飽和脂肪酸である。該不飽和脂肪酸は、好ましくは、オクテン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、バクセン酸またはドコサヘキサエン酸である。
【0046】
本発明の別の実施態様において、脂肪酸は飽和脂肪酸である。該飽和脂肪酸は、好ましくは、カプリル酸またはカプリン酸である。
【0047】
本発明の脂質膜に用いられる脂肪酸は、脂質膜全体の1~40質量%で含まれ、好ましくは3~35質量%で含まれる。
【0048】
本発明の脂質膜は、さらにオニウム塩を含む。本明細書において、オニウム塩とは、周期表15~17族元素のカチオンと、対イオンとなる任意のアニオンとの塩をいう。好ましくは、該オニウム塩は、少なくとも1つの炭素数8以上の直鎖アルキル基を有する。
【0049】
本発明のオニウム塩は、好ましくは、4つのアルキル基を有する第四級オニウム塩である。好ましくは、該4つのアルキル基のうち少なくとも1つは、炭素数8以上の直鎖アルキル基であり、より好ましくは、炭素数8~12の直鎖アルキル基である。
【0050】
本発明のオニウム塩は、好ましくは、第四級アンモニウム塩または第四級ホスホニウム塩である。より好ましくは、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラドデシルアンモニウムブロミド、またはトリブチルドデシルホスホニウムブロミドから選択される。
【0051】
本発明の一実施態様において、脂肪酸とオニウム塩との重量比は2:1~50:1であり、好ましくは、2:1~30:1である。
【0052】
本発明の脂質膜は、一般的な膜の形成方法を用いて得ることができる。例えば、高分子基質、可塑剤、脂肪酸およびオニウム塩が溶解しうる有機溶媒に、これらを溶解し、ガラス等の基材表面に塗布した後、溶媒を留去して膜を形成することができる。有機溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、クロロホルム、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン、メチルエチルケトン、ニトロベンゼン、シクロヘキサノン等を用いることができる。また、溶液の塗布には、スピンコーティング法、ディップ法、ドクターブレード法、ディスペンサー、印刷法等を用いることができる。
【実施例
【0053】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の部数や百分率は、特にことわりのない場合、質量基準である。
【0054】
(基準液、グルタミン酸ナトリウム溶液、および高濃度KCl含有グルタミン酸ナトリウム溶液の作成)
測定電位の基準液、グルタミン酸ナトリウム溶液、および高濃度KCl含有グルタミン酸ナトリウム溶液を、以下のとおりに作成した。
(1)基準液:30mM KCl水溶液+0.3mM 酒石酸
(2)グルタミン酸ナトリウム溶液:30mM KCl水溶液+0.3mM 酒石酸+X mM グルタミン酸水素ナトリウム
(3)高濃度KCl含有グルタミン酸ナトリウム溶液:1000mM KCl水溶液+0.3mM 酒石酸+X mM グルタミン酸水素ナトリウム
(Xはそれぞれ、0.1、0.3、1.0、3.0、10、30、100、300、1000とした。)
【0055】
(実施例1の旨味用味覚センサの作成)
表1の材料を混合し、内径60mmのガラスシャーレ内で乾燥させ、脂質膜を作成した。得られた脂質膜を作用電極の開口部に貼付し、旨味用味覚センサの作用電極を作成した。
【0056】
【表1】
【0057】
(実施例2の旨味用味覚センサの作成)
ポリエチレンテレフタレート基板にAg/AgClペースト(Gwent Electronic Materials社製C2130809D5)をスクリーン印刷法により印刷し、120℃で60分焼成した。その後、Ag/AgCl電極部上に、紫外線硬化樹脂(互応化学工業株式会社製PSR-310)を、Ag/AgCl電極が露出するように開口部を設けてスクリーン印刷法により印刷し、さらに紫外線を照射して樹脂保護層を硬化させた。
【0058】
ついで、表1に記載の材料の混合物を上記開口部に滴下し、乾燥させ、脂質膜を形成し、作用極を作成した。
【0059】
(グルタミン酸ナトリウム溶液の測定)
上記のとおり作成した実施例1~2の旨味用味覚センサと、比較例1として市販の旨味用味覚センサ(株式会社インテリジェントテクノロジー製味認識装置TS-5000Z AAEセンサヘッド)とを用いた。まず、基準液での電位Vrを測定し、その後、各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液の電位Vsを測定し、電位の変化量dV=Vs-Vrを求めた。結果を図3に示す。
【0060】
比較例1と実施例1~2の結果を対比すると、比較例1では100mM グルタミン酸ナトリウム溶液において応答量が飽和し、さらに高濃度の領域では応答量が減少したのに対して、実施例1~2では、旨味の応答量の減少は認められなかった。
【0061】
また、実施例1と実施例2とでは作用極の構造が異なるが、本発明の脂質膜を用いた作用極はその構造に関わらず、同様の測定結果が得られた。
【0062】
(実施例3~9および比較例2~3の旨味用味覚センサの作成)
以下の材料および表2の脂肪酸またはリン酸エステルを使用した以外は、実施例2と同様に、実施例または比較例としての作用極を作成した。
ポリ塩化ビニル 400mg
ジオクチルフェニルホスホネート 300mg
脂肪酸またはリン酸エステル(表2参照) 300mg
トリオクチルメチルアンモニウムクロリド 30mg
テトラヒドロフラン 5mL
【0063】
【表2】
【0064】
(グルタミン酸ナトリウム溶液の測定)
実施例2と、上記のとおり作成された実施例3~9および比較例2~3の旨味用味覚センサと、比較例1の市販の旨味用味覚センサとを用いて、基準液から各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液に浸けかえた時の電位変化を測定した。結果を図5に示す。
【0065】
図5のとおり、比較例1~3と実施例2~9との結果を対比すると、グルタミン酸ナトリウムが100mM以上の濃度領域における、旨味の応答量の減少は、本発明の脂質膜では認められなかった。
【0066】
(実施例10~11の旨味用味覚センサの作成)
以下の材料および表3のオニウム塩を使用した以外は、実施例2と同様に作用極を作成した。
ポリ塩化ビニル 400mg
ジオクチルフェニルホスホネート 300mg
オレイン酸 300mg
オニウム塩(表3参照) 30mg
テトラヒドロフラン 5mL
【0067】
【表3】
【0068】
(グルタミン酸ナトリウム溶液の測定)
実施例2および上記のとおり作成された実施例10~11の旨味用味覚センサと、比較例1の市販の旨味用味覚センサとを用いて、基準液から各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液に浸けかえた時の電位変化を測定した。結果を図6に示す。
【0069】
図6のとおり、グルタミン酸ナトリウムが100mM以上の濃度領域における、旨味の応答量の減少は、本発明の脂質膜では認められなかった。
【0070】
(実施例12~14の旨味用味覚センサの作成)
以下の材料において、オレイン酸およびトリオクチルメチルアンモニウムクロリドを表4に記載の質量で使用した以外は、実施例2と同様に作用極を作成した。
ポリ塩化ビニル 400mg
ジオクチルフェニルホスホネート 300mg
オレイン酸 A mg(表4参照)
トリオクチルメチルアンモニウムクロリド B mg(表4参照)
テトラヒドロフラン 5mL
【0071】
【表4】
【0072】
(グルタミン酸ナトリウム溶液の測定)
実施例2および上記のとおり作成された実施例12~14の旨味用味覚センサと、比較例1の市販の旨味用味覚センサとを用いて、基準液から各濃度のグルタミン酸ナトリウム溶液に浸けかえた時の電位変化を測定した。結果を図7に示す。
【0073】
図7のとおり、グルタミン酸ナトリウムが100mM以上の濃度領域における、旨味の応答量の減少は、本発明の脂質膜では認められなかった。
【0074】
(高濃度KCl含有グルタミン酸ナトリウム溶液の測定)
実施例2の旨味用味覚センサと、比較例1の市販の旨味用味覚センサとを用いて、基準液から、塩味成分であるKClを、1000mMの濃度で含有したグルタミン酸ナトリウム溶液に浸けかえた時の電位変化を測定した。結果を図8に示す。
【0075】
図8のとおり、実施例2と比較例1を対比すると、高濃度KCl含有グルタミン酸ナトリウム溶液において、比較例1では旨味の応答量が著しく減少したのに対して、実施例2の脂質膜では、旨味の応答量はほとんど変化しなかった。
【符号の説明】
【0076】
100 味覚センサ
101 容器
102 参照極
103 作用極
104、105 導電体
106、107 内部電解質溶液
108 脂質膜
150 作用極
151 呈味物質
200 味覚センサ
201 容器
202 参照極
203 作用極
204、205 導電体
206 内部電解質溶液
207 基板
208 樹脂
209 脂質膜
250 作用極
300 電極
301 基板
302 導電体
303 樹脂
304 塩味測定用作用極
305 酸味測定用作用極
306 旨味測定用作用極
307 苦味測定用作用極
308 渋味測定用作用極
309 甘味測定用作用極
310 参照極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8