(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】誘導電動機の起動制御装置及び制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 1/26 20060101AFI20221212BHJP
H02P 25/18 20060101ALI20221212BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H02P1/26
H02P25/18
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2019149206
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-04-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003922
【氏名又は名称】嶋田 隆一
(73)【特許権者】
【識別番号】520032099
【氏名又は名称】株式会社シグマエナジー
(74)【代理人】
【識別番号】100114269
【氏名又は名称】五十嵐 貞喜
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 隆一
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-201933(JP,A)
【文献】特開平06-054585(JP,A)
【文献】特開2017-022877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/26
H02P 25/18
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源と誘導電動機との間に接続される
誘導電動機の起動制御装置
(以下「起動制御装置」という。)であって、該
起動制御装置は、
逆導通
型半導体スイッチ4つをブリッジ構成にし、直流端子にコンデンサを接続した磁気エネルギー回生双方向電流スイッチとなし
て、これを各相に接続
し、
前記コンデンサのプラス側を各相相互に接続する二つの
直流開閉器(Sp1,Sp2)と、
前記コンデンサのマイナス側を相互に接続する
二つの直流開閉器(Sn1、Sn2)と、
前記逆導通型半導体スイッチのゲート、及び前記各直流開閉器のオン/オフを制御するコントローラを備えるとともに、
前記コントローラは、
前記逆導通型半導体スイッチのゲート制御によって電流位相を進ませるが、
前記誘導電動機の起動時は
前記直流開閉器を同時にオンすることで、三相可逆インバータの構成になって、前記誘導電動機を起動する
ことを特徴とする起動制御装置。
【請求項2】
さらに、前記三相交流電源の各相と前記誘導電動機を接続する交流
開閉器(Sa,Sb,Sc
)を備え、
前記コントローラがこれらを
同時にオンすることで、前記三相交流電源と前記誘導電動機を直結接続する請求項1に記載の
起動制御装置。
【請求項3】
前記
起動制御装置が起動時三相可逆インバータ構成になって、前記誘導電動機
に必要な起動トルクを発生
させ、定格回転速度付近まで加速して、
前記コントローラが、そこでインバータの全ての
前記逆導通型半導体スイッチのゲート遮断した後に前記交流
開閉器(Sa,Sb,Sc
)を閉極して、三相交流での運転を継続する請求項2に記載の
起動制御装置。
【請求項4】
前記コントローラが、前記交流開閉器(Sa,Sb,Sc)を閉極又は開極する際に、前記各相の磁気エネルギー回生双方向電流スイッチのプラス側若しくはマイナスのどちらか一方の2つの前記逆導通半導体スイッチをゲートオン状態にして、双方向の電流をバイパス状態にしてから閉極又は開極するように制御することを特徴とする
請求項2に記載の起動制御装置。
【請求項5】
前記コントローラが、前記インバータの運転、前記磁気エネルギー回生スイッチの運転、三相交流の周波数での直運転を選択したり移行したりする制御を行い、起動、運転、停止を、外部からの通信回線を介して行なうことを特徴とする請求項1
又は2に記載の
起動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の
起動制御装置を複数台備え、起動、運転、進相運転、運転停止を通信回線を介して行なう前記コントローラの上位にさらに統括制御装置を備え、該統括制御装置が、電力系統の電圧低下を検知して、その電圧低下を進相運転の機能で電圧上昇させるように前記コントローラに指令することを特徴とする
誘導電動機の起動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の起動制御装置及び制御システムに関し、特に、起動時に電力系統に擾乱を与えずに起動するための誘導電動機の起動制御装置及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機は固定子の作る回転磁界により、回転子がかご型の導体に誘導電流を発生させて、その磁界と電流の間の電磁力によって回転トルクを発生させるが、そこには磁界と回転子との回転スピードの差、即ち、すべりに対応した回転トルクを発生させる電動機である。
【0003】
この誘導電動機を交流電源で開閉器を介して直入れ起動すると、固定子のコイルに定格電圧が印加されるが、回転子が回転していないため、誘導電動機の固定子コイルに流れる起動電流は漏れリアクタンスで決まり、定格電流の5~8倍の電流が固定子コイルに流れる。
しかも、この電流は誘導性の電流すなわち力率の悪い電流で、上流の電力系統に電圧低下による電力環境への悪影響や、保護ヒューズに過電流が流れるなど好ましくない。また、電動機巻き線の絶縁性能の面から誘導電動機の寿命にとって悪い影響を及ぼす。
【0004】
そこで、誘導電動機に大電流が流れることを防ぐ起動方法として、従来からインバータ起動、リアクトル起動、スターデルタ(Y-Δ)起動、サイリスタ起動等種々の方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-33942号公報
【文献】特開2017-126544号公報
【文献】特開2006-353079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、インバータ起動は好ましいが、起動終了後に可変速運転が不要な電動機の場合、挿入損失になる。起動後、定格スピードに達した後はインバータを金属接点スイッチ(以下単に「金属接点」という。)で短絡するとインバータの運転損失は無い。揚水ポンプの場合、揚程が変わらない場合、ポンプの回転スピードをインバータで調整しても水圧が足りないと水が上がらないので、回転スピードを下げられず、省エネは電動機の起動、停止の時分割運転によって可能だが、その多頻度の起動停止する起動制御装置が必要である。
【0007】
上記特許文献1に記載の方法は、磁気エネルギー回生スイッチを用いて、起動時に各相の電流位相を進めて電動機にかかる電圧を下げて、起動時のラッシュ電流を制限している。進相電流で起動することで、上流配電系統はインダクタンス分電圧が上昇して、電圧が下がらずに起動するので好ましい。しかし、起動トルクを得るのは回転子とのすべり周波数が大きいためにやはり、大きな電流が必要で、これは起動電流のラッシュ電流が無くなるわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、誘導電動機の起動時の上記の課題を解決するために、起動時はインバータとしてソフトな制御であるV/f制御(出力電圧Vと出力周波数fの比率を一定にする制御)によって、起動電流ラッシュの無い起動が可能で、起動が完了すると切り替え金属接点によって、インバータが運転停止した後に、各相の短絡接点をオンして、すみやかに電源直結運転に移行することで、インバータの挿入損失を除去する。さらに、運転時力率を改善する運転を行なえるように、インバータを各相に分離して磁気エネルギー回生スイッチとして運転をするが、磁気エネルギー回生スイッチは短絡接点を開極する際に無アークで開極するように半導体スイッチで電流バイパスした後に開極する。無アークで開極した後に、半導体スイッチによる電流バイパスをゲート制御で停止すれば、遮断する。
【0009】
本発明は、さらに、半導体スイッチのゲート制御で遮断完了しても、安全のため、長時間の停止の場合には、最終的に電源上流の事故遮断器を開極して高い絶縁抵抗を確保する。これはゲート回路の誤動作を防ぐためでもある。事故遮断器は半導体スイッチの耐圧より大きなサージ電圧の侵入を阻止することができる。
【0010】
ここで、本発明に係る起動制御装置が備える金属接点は、無アークでオン/オフするので電極は消耗せず、多頻度のオン/オフが可能である。これによって誘導電動機の起動はインバータで行い、定格回転になったところで、金属接点のオンで直通運転になり、定格運転の後に、金属接点を無アークにて遮断(オフ)するには、上記特許文献2に記載された方法を採用してアーク無しに金属接点を開閉可能なので多頻度のオン/オフが可能である。
【発明の効果】
【0011】
スターデルタ起動や上記特許文献1に記載の方法でも、起動電流が定格の数倍と大きく、また、すべりが大きいためにトルクも小さく、かつ力率が悪いのが欠点であったが、本発明では半導体スイッチのインバータではV/f制御でトルクを制御して起動完了までの短時間のみ動作して、通常運転時、電流は、金属接点を通過するのでインバータは短時間定格の運転であるから、冷却機器が小型軽量になる。
【0012】
従来の金属接点では、起動と停止を繰り返す運転で接点の消耗が問題だが、本発明では、並列する半導体スイッチを使っての無アーク開閉によりこれを回避することが出来る。
金属接点が閉極する前に半導体スイッチが導通し、金属接点は無電圧で閉極することができ、金属接点を開極する前に半導体スイッチで電流をバイパスして無電流になってから開極すると金属接点は無アークで開極する。
【0013】
金属接点がアーク無しに開閉できれば、金属接点の機械寿命の数十万回の開閉が可能になって誘導機の起動/停止を頻繁に行える。誘導機を時分割運転する方法が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の起動制御装置の構成を示す回路ブロック図、ゲート制御回路は省略した主回路構成図である。
【
図2】誘導電動機を
図1の回路のSa,Sb,Sc,はオフ、Sp1,Sp2,Sn1,Sn2を閉極した状態でインバータ運転の回路状態になることを説明する図である。
【
図3】Sp1,Sp2がオフ、Sn1,Sn2がオフ、Sa、Sb、Scもオフでは、
上記特許
文献1の力率改善のための単相MERS回路が3相分各相にある図である。
【
図4】半導体スイッチはすべてゲート遮断状態でSa,Sb,Scが閉状態で、三相電源によって直通運転の形の図である。
【
図5】
金属接点Sa,Sb,Scを開閉する場合、先立って半導体スイッチのゲートをオンして、その後、半導体スイッチで遮断・導通するハイブリッドスイッチにする説明図である。
【
図6】複数の起動
制御装置
が統括制御装置で制御される構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の起動制御装置の構成を示す回路ブロック図であり、実施例1を示す図である。
図1の回路は、配電線からの事故遮断器、事故時に過電流や地絡電流により開極する事故遮断器があって、その下流に本発明の起動制御装置がある。本起動制御装置は、単相の磁気エネルギー回生双方向電流スイッチ(Magnetic Energy Recovery Switch、以下「MERS」という。)が3相の各相にそれぞれ接続されており、かつ、MERSコンデンサのプラス側の相互に結ぶ金属接点Sp1,Sp2が、MERSコンデンサのマイナス側の相互に結ぶ金属接点Sn1,Sn2があって、これらの4つの金属接点は一括して同時にオン/オフされる直流開閉器である。
さらに、3相交流1の入力A,B,C相と誘導電動機2の入力a,b,cの三相とを直接接続する金属接点Sa,Sb,Scがある。この3つの金属接点は一括して、オン/オフされる交流開閉器である。
【0016】
図2は、本発明の起動制御装置がインバータ駆動
を行う時の
金属接点の
開閉状態を示す。
金属接点Sa,Sb,Scは開極状態で、Sp1,Sp2とSn1,Sn2は閉極状態である。この構成を書き換えると、
図2の下
段の回路図のように書き換えることが出来る。これは、従来の三相入力のインバータ・コンバータ構成であることがわかる。
図2に構成を変えて示した回路図も併せて示す。この制御は誘導電動機が起動に必要なトルクを発生する電流を供給して、低い回転スピードから、定格回転スピード近くまで加速する。起動時のみのインバータ運転とすれば、半導体スイッチの冷却装置が簡便になるし、SiC(シリコンカーバイド) 半導体スイッチであれば、高温特性がよいので冷却装置がさらに軽便になって、小型化が可能である。
【0017】
図3は、Sa,Sb,Scは開極状態、Sp1,Sp2とSn1,Sn2も開極状態である
場合の図である。これは、単相MERSが各相にある状態である。この回路では、
上記特許文献1の構成になるが、ここではさらに
、インバータ構成から
金属接点Sa,Sb,Scによる短絡に至る動作を説明する。
1:
図2のインバータ起動で定格回転数近くになると
、インバータの全てのゲートをオフにしてインバータ運転が停止される。
2:すると、コンデンサの充放電電流が停止するので、Sp1,Sp2とSn1,Sn2は無電流状態で開極される。
3:Sp1,Sp2とSn1,Sn2がオフされると
図3の状態になって、コンデンサ
5には交流のピーク電圧が充電されている状態
になる。ここで半導体スイッチのプラス側又はマイナス側のどちらか一方をゲートオンすると交流電流を半導体スイッチがバイパスする状態になるので、
金属接点Sa,Sb,Scを無アークにて開極、閉極することが出来る。
【0018】
図4は、三相交流電源
と誘導電動機が
金属接点Sa、Sb及びScで直接接続された状態
を示す図である。
図4のように
金属接点Sa,Sb,Scが閉極していれば、インバータの
コントローラはゲート停止状態にして、
コントローラは消費電力をゼロにすることができ、半導体損失はまったくない状態である。
【0019】
誘導電動機の運転を停止するには、接点Sa,Sb,Scを開極すればよいが、遮断時のアーク電流で接点の損耗があるので、これを防ぐために、いったん、半導体スイッチを、上アーム又は下アームのどちらかの2つのゲートをオンした状態で接点Sa,Sb,Scを開極すればアーク無しで無電流にて開極する。これは上記特許文献2に記載のハイブリッド開閉器で開示されている。
本発明の起動制御装置によって誘導電動機の起動停止を、金属接点の損耗を考えることなく多頻度な起動・停止運用が可能になる。
【0020】
図5に示すように、プラス側のアームにあるペアの半導体スイッチにゲートオンで電流双方にバイパス回路を用意しておいて、その後、開極又は閉極すれば、接点は
上記特許文献2に開示されている
ように、無アークで開閉する。接点が開極、閉極が終わった後、半導体スイッチのゲートをオフする。
【0021】
負荷が過負荷になった場合に
は、この回路に移行して対処可能である。MERSの回路にするには、
金属接点Sa,Sb,Scを開極するが、
上記特許文献2の方法を使って無アークで開極してその後、MERSの構成になる。
図7のMERS構成になれば、各相の電圧位相に同期してゲート制御して、誘導電動機に進相電流で駆動すれば、電圧が上昇、誘導機の電流が増加してトルクが増す。例えば、石炭を粉砕するプラントでは石炭に岩石が混入する可能性がある。岩石を噛んで過負荷になって停止する。この時、過負荷時の過渡的トルク発生を誘導機の入力電圧をMERS機能で増やすことでできる。
【0022】
図6は
、統括制御システム構成の例を示すが、同一系統で複数の誘導電動機の運転中に、近接する他需要家の起動突入電流などで系統電圧が低下した場合、系統に送電線のリアクタンスが大きくて電圧が低下した場合、誘導機の電圧が低下して必要なトルクを負荷に供給できなくなるが、その電圧低下を進相運転の機能で電圧上昇させることが統括制御装置によって可能にすることができる。
【0023】
また、
図6で本発明の応用を示すが、多数の誘導機群がある産業プラント、工事プラントにおいて、電力契約量を越える状況が予想される場合、
上記特許文献3
に記載されているように、通信系統を使ってプラント内の電力安定化、電圧安定化を、本発明の起動
制御装置の
統括制御装置を機動的にオンオフして、契約量の範囲内、電圧変動内で運転継続する。
フライホイール付の誘導機、またはフライホイール効果の大きな負荷を持つ誘導電動機は、電力系統の送電線の落雷事故回避のために「高速度再閉路方式」により瞬低が発生した場合、誘導機が短時間発電して電圧低下を防ぐことができる。
【0024】
小規模プラントでも本発明により排水ポンプ、揚水ポンプの誘導電動機を容易に起動・停止することができるので、起動順を考慮したり、時分割運転したりすることによって電圧安定化、省エネ運転になる。
このように誘導電動機を多数持つプラント、分散電源では本発明の起動制御装置と統括制御装置によって電力のさらなる有効利用が可能になる。
【符号の説明】
【0025】
1 三相交流電源
2 誘導電動機
3 半導体スイッチ(MOSFET)
4 直流開閉器(金属接点)
5 コンデンサ
6 交流開閉器(金属接点)
7 コントローラ